(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記バイアス電圧が伝播する部分と、該部分に直接に対向する接地電位に設定される部分との空間距離が、前記バイアス電圧をV(kV)として、|V|×3(mm)以上であり、
前記バイアス電圧が伝播する部分を覆う絶縁材の端部から該絶縁材の表面に沿って接地電位に設定される部分に達するまでの沿面距離が、前記バイアス電圧をV(kV)として、|V|×6(mm)以上であることを特徴とする請求項1に記載の成膜装置。
前記絶縁パイプの他方の端部に配置され、前記バイアス導入シャフトに前記バイアス電圧を伝播するロータリーコネクタを更に備えることを特徴とする請求項5に記載の成膜装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。又、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0014】
本発明の実施形態に係る成膜装置1を
図1に示す。
図1は、アーク放電によって生成したプラズマ300を利用して、処理対象のワーク100上に所望の薄膜を形成するFAD法を採用したアークプラズマ成膜装置である。先ず、このアークプラズマ成膜装置について説明する。
【0015】
図1に示したアークプラズマ成膜装置は、成膜用のターゲット200を陰極(カソード)として放電室420内に発生させたアーク放電によって、ターゲット200に含まれる原料の正イオンを含むプラズマ300を生成する。ターゲット200は格納室410に格納され、一部が放電室420内に露出している。このプラズマ300に含まれるターゲット200の正イオンをプラズマ輸送路430を介して放電室420からプロセスチャンバー10内のワーク100表面に輸送して、ワーク100上に薄膜が形成される。
【0016】
プラズマ300は、プラズマ輸送路430に沿って配置した多段の誘導コイル441〜誘導コイル446によって形成される磁場により、プラズマ輸送路430に沿って誘導される。以下に、誘導コイル441〜誘導コイル446を総称して「誘導コイル440」という。誘導コイル440は、例えば供給される電流によって励磁される環状の電磁誘導コイルである。図示を省略する励磁電流源により供給される電流の大きさに応じて、誘導コイル440により形成される磁場の強さがそれぞれ制御される。誘導コイル440に流れる電流を制御することにより中心磁場が制御され、プラズマ300がプラズマ輸送路430内を誘導される。なお、
図1に示したように、放電室420とプラズマ輸送路430、及び誘導コイル440を併せて、以下において「ガンソース部400」という。
【0017】
図1に示したアークプラズマ成膜装置では、ワーク100にバイアス電圧を印加することによって、ガンソース部400からプロセスチャンバー10内のワーク100上に輸送されたプラズマ300を、矢印A1で示したようにワーク100表面に引き込む。以下に、
図2を参照して、プロセスチャンバー10について説明する。
【0018】
プロセスチャンバー10内には、ワーク100を搭載したワークホルダ21が表面に配置されたステージホルダ20が格納されている。ステージホルダ20は、内部が空洞の筐体である。成膜装置1によるワーク100の処理中は、プロセスチャンバー10内は真空状態であるが、ステージホルダ20の内部は大気圧に保たれる。なお、プロセスチャンバー10内は真空ポンプ11によって排気され、真空状態が維持される。
【0019】
ワーク100はワークホルダ21に固定され、ワーク100はワークホルダ21ごとステージホルダ20に保持される。また、ステージホルダ20のワークホルダ取付け面には、絶縁材からなる絶縁ステージ22が配置され、ワークホルダ21は絶縁ステージ22を挟んでステージホルダ20に保持される。
【0020】
ステージホルダ20内には、ステージホルダ20のワークホルダ21が配置された壁面を貫通して、絶縁材からなる管形の絶縁パイプ30が配置されている。つまり、ステージホルダ20の外側に絶縁パイプ30の一方の端部31が露出している。このとき、端部31の開口端がワークホルダ21に面するように、貫通孔がステージホルダ20及び絶縁ステージ22に形成される。絶縁パイプ30と絶縁ステージ22には、例えばアルミナ材などが使用される。
【0021】
更に、絶縁パイプ30の内部にバイアス導入シャフト40が配置されている。バイアス導入シャフト40は絶縁パイプ30の端部31の開口端でワークホルダ21に電気的に接続し、ワークホルダ21に固定されたワーク100にバイアス電圧を印加する。バイアス導入シャフト40やワークホルダ21には、ステンレス鋼(SUS)や銅(Cu)、アルミニウム(Al)などの導体が使用される。
【0022】
ワークホルダ21は、例えばピンやフックなどによってバイアス導入シャフト40の端部に固定される。
【0023】
絶縁パイプ30とバイアス導入シャフト40とは密着させてもよいし、絶縁パイプ30とバイアス導入シャフト40間に隙間があってもよい。絶縁パイプ30とバイアス導入シャフト40間に隙間がある場合には、例えば
図3(a)、
図3(b)に示すように、Oリングシール35を配置して絶縁パイプ30とバイアス導入シャフト40間の真空シールを行う。
【0024】
図4(a)、
図4(b)に示すように、成膜装置1はステージホルダ20に設けた絶縁ステージ22にワークホルダ21を脱着するワーク脱着機構70を備える。即ち、絶縁パイプ30のパイプ支持部75を介して絶縁パイプ30及びその内部に構成するバイアス導入シャフト40に接続するワーク脱着機構70によって、絶縁パイプ30及びその内部のバイアス導入シャフト40が矢印A3で示したように移動する。これにより、ワークホルダ21が絶縁ステージ22から離れたり、密着したりする。ワークホルダ21を絶縁ステージ22から離すことによって、処理の前後において絶縁ステージ22にワークホルダ21を取り付けたり取り外したりできる。
【0025】
ワーク脱着機構70には、例えばエアシリンダなどを採用可能である。
図4では絶縁パイプ30の両側にそれぞれワーク脱着機構70を配置する例を示したが、絶縁パイプ30及びバイアス導入シャフト40が安定して移動できるなら、ワーク脱着機構70が1台であってもよい。
【0026】
また、成膜装置1は、
図5に示すように、絶縁パイプ30及びバイアス導入シャフト40を回転軸としてワークホルダ21に固定されたワーク100をプロセスチャンバー10内で回転させるワーク回転機構80を備える。例えば
図5に矢印A4で示すワーク回転機構80の回転によって、絶縁パイプ30に接続するギア85を介して絶縁パイプ30及びバイアス導入シャフト40の延伸方向を回転軸方向として矢印A5の方向に回転させる。ワーク回転機構80には、例えばモータなどを採用する。
【0027】
なお、ステージホルダ20内に配置された絶縁パイプ30及びバイアス導入シャフト40の回転によってステージホルダ20の外側に配置されるワーク100及びワークホルダ21を回転させるために、回転導入器50がステージホルダ20内に配置されている。回転導入器50は、例えば磁性流体シールなどであり、回転導入器50を介して絶縁パイプ30とバイアス導入シャフト40の端部がステージホルダ20の外側(真空中)に露出している。ステージホルダ20の外側でバイアス導入シャフト40をワークホルダ21に連結することによって、真空中でワーク100を回転させることができる。
【0028】
ガンソース部400からのプラズマ供給方向に面するワーク100の主面を、上記のように主面の面法線方向を回転軸方向として回転させることによって、ワーク100の主面に均一に成膜処理することができる。
【0029】
図2に示す成膜装置1では、バイアス電圧がバイアス供給装置12からプロセスチャンバー10内に供給される。バイアス供給装置12は、例えば直流電圧や直流パルス電圧を出力する。バイアス供給装置12から出力されたバイアス電圧は、プロセスチャンバー10内でステージホルダ20を支持する支持部13の内部を通過し、ステージホルダ20内に配置されたバイアス用ケーブル16を伝播する。バイアス用ケーブル16は絶縁材によって被覆され、更に、プロセスチャンバー10の壁面やステージホルダ20の壁面から離間して空中配線されている。
【0030】
なお、
図2に示したように、中空である支持部13の内部ではバイアス用ケーブル16が絶縁支持部14によって支持され、バイアス用ケーブル16が支持部13の内壁から離間するように配置される。バイアス用ケーブル16は導体を絶縁材で被覆した構造であり、その外側に絶縁支持部14が構成される。
【0031】
前述のようにワークホルダ21を絶縁パイプ30及びバイアス導入シャフト40ごと回転させるため、バイアス導入シャフト40とバイアス用ケーブル16とは、例えばロータリーコネクタ60などを用いて電気的に接続することが好ましい。即ち、ワーク100側の端部31とは反対側の絶縁パイプ30の端部32にロータリーコネクタ60が配置される。そして、バイアス導入シャフト40と電気的に接続されたロータリーコネクタ60とバイアス用ケーブル16とが電気的に接続される。ロータリーコネクタ60は絶縁材65で覆われている。
【0032】
また、成膜装置1は、ステージホルダ20をプロセスチャンバー10内で傾ける傾斜機構15を更に備える。傾斜機構15は、ステージホルダ20を支持する支持部13を、
図2に矢印A2で示すように支持部13の延伸方向を回転軸方向として回転させる。これにより、
図6に矢印A6で示すようにステージホルダ20が傾き、ステージホルダ20に搭載されたワーク100の主面の方向が変化する。
図6は、支持部13の延伸する方向から見た図である。
【0033】
傾斜機構15は、例えばワーク100の処理対象である主面101が
図7(a)に示すように凸状の曲面を有する場合や、
図7(b)に示すように凹状の曲面を有する場合などに有効である。即ち、ワーク100の主面101が曲面である場合などに、主面101の特定の領域のみがガンソース部400からのプラズマ供給方向に向くことを防止できる。これにより、ワーク100の主面101が曲面であっても、主面全体を均一に処理できる。
【0034】
ワーク脱着機構70やワーク回転機構80は、例えば
図8に示すように、ステージホルダ20内で回転導入器50の周囲に配置される。
図8は、絶縁パイプ30及びバイアス導入シャフト40の延伸方向からみた平面図である。
図8では、絶縁パイプ30やバイアス導入シャフト40、ステージホルダ20の断面が円形状である例を示したが、断面が多角形などの他の形状であってもよい。
【0035】
ステージホルダ20内は大気圧であるため、ワーク脱着機構70やワーク回転機構80などを真空仕様にする必要がない。このため、成膜装置1の製造コストを抑制することができる。
【0036】
次に、成膜装置1内部での絶縁性の確保について説明する。以下において、ワーク100に印加されるバイアス電圧が伝播する経路に含まれる部分を、「バイアス印加部」という。つまり、バイアス導入シャフト40、ロータリーコネクタ60、ワークホルダ21、ワーク100などはバイアス印加部である。また、ワーク100の処理工程中に接地電位に設定される部分を、以下において「接地電位部」という。例えば、プロセスチャンバー10の壁面やステージホルダ20、支持部13などは接地電位部である。
【0037】
バイアス印加部と接地電位部との間で絶縁性が保たれないと、バイアス印加部と接地電位部間にリーク電流が流れるなどして、所望の大きさのバイアス電圧をワーク100に印加できないという問題が生じる。また、バイアス印加部と接地電位部間で異常放電が発生して、ワーク100やプロセスチャンバー10内の部品などが破損する場合がある。
【0038】
このため、絶縁パイプ30によって、バイアス印加部であるバイアス導入シャフト40はシールドされている。高いバイアス電圧の場合にもバイアス導入シャフト40をシールドできるように、バイアス電圧の大きさや材料の絶縁破壊電圧などを考慮して、絶縁パイプ30の材料と厚みを選択する。例えば、絶縁パイプ30を厚み10cm程度のアルミナ材で構成する。
【0039】
また、ワークホルダ21とステージホルダ20の間は絶縁ステージ22によってシールドされている。絶縁ステージ22についても、バイアス電圧の大きさや材料の絶縁破壊電圧などを考慮して、絶縁ステージ22の材料と厚みを選択する。例えば、絶縁ステージ22を厚み20cm程度のアルミナ材で構成する。また、ロータリーコネクタ60を十分な厚みの絶縁材65でシールドする。
【0040】
上記の絶縁パイプ30、絶縁ステージ22、絶縁材65を、例えば絶縁破壊電圧が13.0kV/mmのアルミナで構成する場合、バイアス電圧V(kV)として、以下の式(1)が成立するようにアルミナの膜厚d(mm)を設定する:
d≧V/13.0×k ・・・(1)
式(1)で、kは安全係数である。ロータリーコネクタ60を覆う絶縁材65を十分な厚みにするためには、例えばk=10とする。
【0041】
また、バイアス印加部の絶縁材に覆われずに露出した箇所と接地電位部との間で絶縁性を保つ必要がある。
【0042】
本発明の実施形態に係るプロセスチャンバー10によれば、従来技術よりも高いバイアス電圧をワークに印加できること、及び装置サイズの増大を抑制できることを、プロセスチャンバー10と以下の比較例1〜比較例3との比較によって説明する。
【0043】
図9〜
図11に示したそれぞれ示した比較例1〜比較例3について以下に検討する。比較例1〜比較例3は、FAD法を用いた真空アーク蒸着装置などに使用可能なプラズマチャンバーの例である。
【0044】
図9に示した比較例1では、ワーク100を固定したワークホルダ21aに接続する回転軸501を真空に維持したプロセスチャンバー10a内に導入するために、回転導入器502を使用する。そして、バイアス供給装置503から回転導入器502にバイアス電圧を供給して、回転導入器502の内側に配置された回転軸501を介してワークホルダ21a及びワーク100にバイアス電圧を印加する。
【0045】
図10に示した比較例2では、ステージホルダ20a内の回転軸501の端部に設置したカーボンブラシなどのスリップリング504を介することで、ワーク100にバイアス電圧が印加される。
【0046】
比較例1及び比較例2においては、プロセスチャンバー10a及びステージホルダ20aは接地電位部であり、ワークホルダ21aや回転導入器502はバイアス印加部である。なお、
図9〜
図11では、バイアス印加部を太線で図示している。バイアス印加部とプロセスチャンバー10aやステージホルダ20aとの絶縁性を確保するために、回転導入器502とプロセスチャンバー10aの間に絶縁材505が配置されている。
【0047】
比較例1のように磁性流体シールの回転導入器502を介してワーク100に−10kV〜−50kV程度のバイアス電圧を印加すると、回転部のベアリングや真空シール部の磁性流の発熱、劣化が生じ、部品が破損する。このため、比較例1の構成では、高いバイアス電圧をワーク100に印加できない。
【0048】
また、比較例2のようにスリップリング504を介してワーク100に高いバイアス電圧を印加する場合、高電圧用のサイズの大きいスリップリング504を使用する必要がある。
【0049】
更に、比較例1や比較例2では、バイアス印加部と接地電位部間の絶縁性を確保するために、回転導入器502やワークホルダ21aなどのバイアス印加部と接地電位部との間に十分な空間距離及び沿面距離を確保する必要がある。例えば、回転導入器502とステージホルダ20a間の距離や、スリップリング504とステージホルダ20aの壁面間の距離を長くする必要がある。このため、プロセスチャンバー10aやステージホルダ20aのサイズが大きくなるなどの問題が生じる。
【0050】
図11に示した比較例3では、ワーク100を回転させるために回転軸601をプロセスチャンバー10b内部に貫通させる。回転軸601は、外部のモータ605によって回転される。バイアス供給装置604から回転軸601にバイアス電圧を供給することによって、軸受け602及びギア603を介して、ワークホルダ21b上のワーク100にバイアス電圧が印加される。
【0051】
比較例3の構成で高いバイアス電圧をワーク100に印加する場合、真空中に配置される回転軸601、軸受け602、ギア603、ワークホルダ21bに高いバイアス電圧が印加されることになる。このため、回転軸601のプロセスチャンバー10bへの導入部に絶縁材606が配置され、軸受け602がプロセスチャンバー10bに支持される部分に絶縁材607が配置されている。また、モータ605と回転軸601間にインシュレータ608が配置されている。そして、バイアス印加部と接地電位部であるプロセスチャンバー10bの内壁面との間に十分な空間距離及び沿面距離を確保する必要がある。その結果、プロセスチャンバー10bのサイズが大きくなるという問題が生じる。
【0052】
上記の比較例の問題点に対して、本発明の実施形態に係るプロセスチャンバー10では、バイアス印加部と接地電位部間の空間距離及び沿面距離について以下のような対策が取られる。以下の対策は、本発明者らが実験を重ねるなどして得られた新たな知見に基づいて、設定し得たものである。
【0053】
まず、バイアス電圧をVとして、バイアス印加部と接地電位部間の空間距離Y1について、式(2)の条件が設定される:
Y1(mm)≧|V(kV)|×3 ・・・(2)
空間距離Y1は、バイアス印加部と、そのバイアス印加部に直接に対向する接地電位部との間の距離である。
【0054】
例えば、
図12に示すワーク100とプロセスチャンバー10の内壁面間の距離D1が、空間距離Y1の一例である。ワーク100に−25kVのバイアス電圧を印加する場合には、距離D1は75mm以上とする。
【0055】
バイアス印加部と接地電位部間の沿面距離Y2について、式(3)の条件が設定される:
Y2(mm)≧|V(kV)|×6 ・・・(3)
沿面距離とは、例えばバイアス印加部を覆う絶縁材の端部から絶縁材表面に沿って接地電位部に達するまでの距離である。沿面距離の例を、
図13に示す。
【0056】
図13に示すように、絶縁パイプ30の端部32におけるバイアス導入シャフト40からパイプ支持部75までの、絶縁パイプ30の表面に沿った距離D2が沿面距離の一例である。また、絶縁パイプ30の端部31におけるバイアス導入シャフト40から回転導入器50までの、絶縁パイプ30の表面に沿った距離D3も沿面距離である。
【0057】
更に、
図14に示すように、ワークホルダ21からステージホルダ20までの絶縁ステージ22の表面及び絶縁パイプ30の表面に沿った距離D4も、沿面距離である。
【0058】
距離D2〜距離D4は式(3)を満足するように設定される。例えばバイアス電圧が−25kVの場合は150mm以上、バイアス電圧が−50kVの場合は300mm以上に、距離D2〜距離D4が設定される。
【0059】
プロセスチャンバー10やステージホルダ20のサイズの増大を抑制しつつ距離D2を長くするためには、例えば
図15に示すように、絶縁パイプ30の外側表面に凹凸を形成してもよい。即ち、絶縁パイプ30の外側をフィン形状にする。
【0060】
また、距離D4を長くするためには、絶縁ステージ22を厚くすることが有効である。或いは、絶縁ステージ22の表面に凹凸を形成してもよい。
【0061】
絶縁パイプ30の外側表面に形成する凹凸の高低差が大きいほど、バイアス導入シャフト40の長さを短くできる。また、絶縁ステージ22の表面に形成する凹凸の高低差が大きいほど、ワークホルダ21からステージホルダ20までの距離を短縮できる。例えば、絶縁パイプ30の端部32からパイプ支持部75までの距離は、絶縁パイプ30の外側表面に凹凸を形成すると100mm程度である場合に、凹凸がない場合は200mm以上に設定される。凹凸の高低差が大きいほど、成膜装置1を小型化できる。
【0062】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る成膜装置1では、ワーク100に印加するバイアス電圧を伝播するバイアス導入シャフト40が、絶縁パイプ30によってシールドされている。このため、成膜装置1のサイズ増大を抑制しつつバイアス印加部と接地電位部間の絶縁性を確保して、ワーク100に高いバイアス電圧を安定して印加できる。更に、空間距離Y1と沿面距離Y2を式(2)、式(3)のように規定することにより、バイアス印加部と接地電位部間の絶縁性を確実に維持できる。装置サイズが同様である場合に、従来構造ではワーク100に安定して印加できるバイアス電圧は−500V程度であるのに対し、成膜装置1によればワーク100に−30kV程度のバイアス電圧を安定して印加できる。
【0063】
例えば、
図1に示したアークプラズマ成膜装置によれば、−30kV程度の高いバイアス電圧をワーク100に印加することによって、ワーク100上に密着性の高い膜を形成することができる。ターゲット200にカーボンターゲットを用いることにより、ワーク100にダイヤモンドライクカーボン(DLC)膜などを良好に形成できる。
【0064】
ワーク100は、例えばレンズの金型や基板などである。−30kV程度の高いバイアス電圧をワーク100に印加可能であり、更にワーク100を回転させるワーク回転機構80やワーク100を傾斜させる傾斜機構15を有する成膜装置1によれば、表面が曲面の金型にも所望の膜を良好に成膜できる。例えば、耐熱性保護膜としてレンズ金型の表面にカーボン膜を成膜する。
【0065】
また、プロセスチャンバー10内での異常放電が抑制されるために、処理対象のワーク100の破損や製品の短寿命化が防止される。表面粗さが低減され、工具や機械部品を処理対象とした場合などに摩擦係数の低減や耐摩擦性の向上を実現できる。
【0066】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0067】
例えば、アークプラズマ成膜装置以外のプラズマ化学気相成長(CVD)装置や、プラズマスパッタ装置、プラズマアッシング装置、プラズマエッチング装置などに、本発明の実施形態に係るプロセスチャンバー10の構成は適用可能である。これらの装置においても、プラズマをワーク100表面に効果的に引き込むことができる。
【0068】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。