特許第6194773号(P6194773)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194773
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】気体分離膜
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/64 20060101AFI20170904BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   B01D71/64
   C08G73/10
【請求項の数】9
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2013-236335(P2013-236335)
(22)【出願日】2013年11月14日
(65)【公開番号】特開2014-128787(P2014-128787A)
(43)【公開日】2014年7月10日
【審査請求日】2016年8月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-260190(P2012-260190)
(32)【優先日】2012年11月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152593
【弁理士】
【氏名又は名称】楊井 清志
(72)【発明者】
【氏名】山中 一広
(72)【発明者】
【氏名】須田 健資
(72)【発明者】
【氏名】魚山 大樹
【審査官】 富永 正史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−132216(JP,A)
【文献】 特表平08−501978(JP,A)
【文献】 特開平08−173778(JP,A)
【文献】 特開2011−161396(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/165455(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 61/00−71/82
B01D 53/22
C08G 73/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)
【化1】
(式中、Rは2価の有機基を表し、Rは4価の有機基を表す。)
で表される繰り返し単位を含み、Rが一般式(2)
【化2】
(式中、Raaは単結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−基、−CH−基、−C(=O)−基、−C(CH)−基、−C(CH)(CHCH)−基もしくは−C(CF)−基であり、または、炭素数3〜12の脂環式炭化水素化合物、炭素数6〜25の芳香族炭化水素化合物の任意の水素原子2個が離脱してなる2価の有機基である。Rabは炭素数1〜6のアルキル基である。acとadはそれぞれ独立に0〜2の整数であり、1≦ac+ad≦4である。HFIPは−C(CF)OH基を表す。波線と交差する線分は結合部位を表す。)
で表される2価の有機基である、ポリイミド構造を有する、気体分離膜。
【請求項2】
一般式(2)で表される2価の有機基が、一般式(3)
【化3】
(式(3)中、Rbaは単結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−基、−CH−基、−C(=O)−基、−C(CH)−基、−C(CH)(CHCH)−基もしくは−C(CF)−基であり、または、炭素数3〜12の脂環式炭化水素化合物、炭素数6〜25の芳香族炭化水素化合物の任意の水素原子2個が離脱してなる2価の有機基であり、Rbbは炭素数1〜6のアルキル基であり、bcとbdはそれぞれ独立に0〜2の整数であり、1≦bc+bd≦4であり、HFIPは−C(CF)OH基を表し、波線と交差する線分は結合部位を表す。)
で表される2価の有機基である、請求項1に記載の気体分離膜。
【請求項3】
一般式(2)で表される2価の有機基が、一般式(4)または(5)
【化4】
(式(4)中、Rcaは単結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−基、−CH−基、−C(=O)−基、−C(CH)−基、−C(CH)(CHCH)−基もしくは−C(CF)−基であり、または、炭素数3〜12の脂環式炭化水素化合物、炭素数6〜25の芳香族炭化水素化合物の任意の水素原子2個が離脱してなる2価の有機基であり、Rcbは炭素数1〜6のアルキル基であり、HFIPは−C(CF)OH基を表し、波線と交差する線分は結合部位を表す。
式(5)中、Rdaは単結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−基、−CH−基、−C(=O)−基、−C(CH)−基、−C(CH)(CHCH)−基もしくは−C(CF)−基であり、または、炭素数3〜12の脂環式炭化水素化合物、炭素数6〜25の芳香族炭化水素化合物の任意の水素原子2個が離脱してなる2価の有機基であり、Rdbは炭素数1〜6のアルキル基であり、HFIPは−C(CF)OH基を表し、波線と交差する線分は結合部位を表す。)
で表される2価の有機基のいずれかである、請求項1に記載の気体分離膜。
【請求項4】
一般式(2)で表される2価の有機基が、式(6)〜(8)
【化5】
(式中、HFIPは−C(CF)OH基を表し、波線と交差する線分は結合部位を表す。)
で表される2価の有機基のいずれかである、請求項1に記載の気体分離膜。
【請求項5】
が式(9)〜(14)
【化6】
(式中、波線と交差する線分は結合部位を表す。)
で表される4価の有機基のいずれかである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリイミド構造を含有する気体分離膜。
【請求項6】
に含まれるHFIP基が有する−OH基の水素原子がグリシジル基で置換されてなる、請求項1〜5のいずれかに記載のポリイミド構造を含有する気体分離膜。
【請求項7】
グリシジル基の環状エーテル部位が開環し架橋してなる請求項6に記載の気体分離膜。
【請求項8】
一般式(1)で表される繰り返し単位を含む高分子化合物と、
エポキシ化合物を混合し、加熱して得られる硬化膜からなる気体分離膜の製造方法
一般式(1)
【化7】
(式中、Rが一般式(2)
【化8】
(式中、Raaは単結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−基、−CH−基、−C(=O)−基、−C(CH)−基、−C(CH)(CHCH)−基もしくは−C(CF)−基であり、または、炭素数3〜12の脂環式炭化水素化合物、炭素数6〜25の芳香族炭化水素化合物の任意の水素原子2個が離脱してなる2価の有機基である。Rabは炭素数1〜6のアルキル基である。acとadはそれぞれ独立に0〜2の整数であり、1≦ac+ad≦4である。HFIPは−C(CF)OH基を表す。波線と交差する線分は結合部位を表す。)
で表される2価の有機基であり、Rは4価の有機基である。
【請求項9】
エポキシ化合物が一般式(15)
【化9】
(式中、Rはアルカン、芳香環または脂環から任意の水素原子がf個離脱したf価の有機基であり、構造中に酸素原子、硫黄原子または窒素原子を含んでいてもよく、水素原子の一部がフッ素原子、塩素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基で置換されていてもよく、fは1〜4の整数である。)
で表される、請求項8に記載の気体分離膜の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
気体分離膜による気体の分離は、連続的に混合気体を気体状態のままで分離でき、相変化を伴わない簡便な技術として、古くから注目されている。気体の分離は、気体分離膜を透過させる気体(以下、「ガス」と表すことがある。)の種類による透過の有無、透過速度の差異を利用し選択的にガスを分離する技術である。
【0003】
このような気体分離膜用の材料として、酢酸セルロース、ポリスルホンまたはポリイミド等のポリマーが知られている。中でも、ポリイミドは、気体分離膜として使用するに適した強度があり破損し難く、耐熱性に優れ高温での使用が可能な材料として知られている。
【0004】
ポリイミドを用いた気体分離膜に関する報告は多く、目的とするガスを分離するための膜に対する透過性、および目的とするガスの高い選択性等の気体の分離性能に対するモノマーの構造の影響について、詳細に研究されている。
【0005】
例えば、繰り返し構造中にヘキサフルオロイソプロピリデン基(以下、「−C(CF)−基」と表すことがある。)を有するポリイミド系気体分離膜は、ヘリウム(以下、「He」と表すことがある。)、二酸化炭素(以下、「CO」と表すことがある。)に対する高い透過性を有し、これらガスの酸素(以下、「O」と表すことがある。)、メタン(以下、「CH」と表すことがある。)との高い選択性を有することが知られている。
【0006】
また、気体分離膜において、−C(CF)−基をポリイミド中の繰り返し単位に導入することで、分子鎖の剛直性を高めながら、分子間相互作用を弱め、ガスの種類による気体分離膜透過の差異を生じさせ、高い膜透過性および高い選択性を両立できるとされる。(非特許文献1および非特許文献2参照)。
【0007】
しかしながら、−C(CF)−基を有するポリイミドの合成原料の内、容易に入手可能なものとしては、下記のジアミンおよびテトラカルボン酸二無水物しかなく、ポリイミド膜とする際に化学構造に制約があるために、気体分離膜とした際に、強度および分離性能を考慮した化学構造を設計することが難しいという問題があった。
【化1】
【0008】
さらに、溶解する有機溶剤が限られるという問題があった。
【0009】
特許文献1〜3には、含フッ素ポリイミドを重合するための、2−ヒドロキシ−1,1,1,3,3,3−フルオロイソプロピル基(以下、「−C(CF)OH基」または「HFIP基」と表すことがある。)を有するジアミンである含フッ素重合性単量体およびその製造方法が開示されている。
【0010】
また、ポリイミド等から得られる気体分離膜の製造方法には、ポリイミドの溶液を湿式塗布した後、溶剤を単に蒸発させ均質な膜を得る方法、緻密層と多孔質層からなる不均質な非対称膜を得る方法がある。非対称膜を得る方法は、ポリマー溶液を吐出口から吐出し、表面近傍に存在する溶媒を空気中に蒸発させ緻密層を形成した後、ポリマー溶液の溶媒と相溶するがポリマーは溶解しない溶媒である凝固液を満たした凝固浴に浸漬し、凝固層内で微細な多孔質層を形成させる方法がある。特許文献4には、当該方法による複合逆浸透膜の製造方法が開示されている。
【0011】
前述したように、−C(CF)−基を有するポリイミドを得るためのジアミン化合物およびテトラカルボン酸二無水物は限られており、ポリイミド膜とする際に化学構造に制約があるために、気体分離膜とした際に、加工性、強度および分離性能を考慮した化学構造を設計することが難しいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−119503号公報
【特許文献2】特開2007−119504号公報
【特許文献3】特開2008−150534号公報
【特許文献4】米国特許3133132号
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】岡本健一ら、高分子加工、41巻、1号、pp16、1992
【非特許文献2】S.A.Stern,Journal of Membrane Science,vol.94,pp1,1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は係る問題を解決し、有機溶剤に溶解し、成形性に優れ、気体分離膜として用いた際に気体の分離性能に優れた気体分離膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、−OH基を有する極性基であるHFIP基を置換基として有し、かつ、アルキル基を置換基として有するポリイミド化合物を用いることで、有機溶剤、特に極性溶剤に可溶とし、当該ポリイミド化合物を気体分離膜とすることで気体分離性能を向上させて、本発明を完成させた。
【0016】
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0017】
[発明1]
一般式(1)
【化2】
【0018】
(式中、Rは2価の有機基を表し、Rは4価の有機基を表す。)
で表される繰り返し単位を含み、Rが一般式(2)
【化3】
【0019】
(式中、Raaは単結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−基、−CH−基、−C(=O)−基、−C(CH)−基、−C(CH)(CHCH)−基もしくは−C(CF)−基であり、または、炭素数3〜12の脂環式炭化水素化合物、炭素数6〜25の芳香族炭化水素化合物の任意の水素原子2個が離脱してなる2価の有機基である。Rabは炭素数1〜6のアルキル基である。acとadはそれぞれ独立に0〜2の整数であり、1≦ac+ad≦4である。HFIPは−C(CF)OH基を表す。波線と交差する線分は結合部位を表す。)
で表される2価の有機基である、ポリイミド構造を有する、気体分離膜。
【0020】
[発明2]
一般式(2)で表される2価の有機基が、一般式(3)
【化4】
【0021】
(式(3)中、Rbaは単結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−基、−CH−基、−C(=O)−基、−C(CH)−基、−C(CH)(CHCH)−基もしくは−C(CF)−基であり、または、炭素数3〜12の脂環式炭化水素化合物、炭素数6〜25の芳香族炭化水素化合物の任意の水素原子2個が離脱してなる2価の有機基であり、Rbbは炭素数1〜6のアルキル基であり、bcとbdはそれぞれ独立に0〜2の整数であり、1≦bc+bd≦4であり、HFIPは−C(CF)OH基を表し、波線と交差する線分は結合部位を表す。)
で表される2価の有機基である、発明1に記載の気体分離膜。
【0022】
[発明3]
一般式(2)で表される2価の有機基が、一般式(4)または(5)
【化5】
【0023】
(式(4)中、Rcaは単結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−基、−CH−基、−C(=O)−基、−C(CH)−基、−C(CH)(CHCH)−基もしくは−C(CF)−基であり、または、炭素数3〜12の脂環式炭化水素化合物、炭素数6〜25の芳香族炭化水素化合物の任意の水素原子2個が離脱してなる2価の有機基であり、Rcbは炭素数1〜6のアルキル基であり、HFIPは−C(CF)OH基を表し、波線と交差する線分は結合部位を表す。
【0024】
式(5)中、Rdaは単結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−基、−CH−基、−C(=O)−基、−C(CH)−基、−C(CH)(CHCH)−基もしくは−C(CF)−基であり、または、炭素数3〜12の脂環式炭化水素化合物、炭素数6〜25の芳香族炭化水素化合物の任意の水素原子2個が離脱してなる2価の有機基であり、Rdbは炭素数1〜6のアルキル基であり、HFIPは−C(CF)OH基を表し、波線と交差する線分は結合部位を表す。)
で表される2価の有機基のいずれかである、発明1に記載の気体分離膜。
【0025】
[発明4]
一般式(2)で表される2価の有機基が、式(6)〜(8)
【化6】
【0026】
(式中、HFIPは−C(CF)OH基を表し、波線と交差する線分は結合部位を表す。)
で表される2価の有機基のいずれかである、発明1に記載の気体分離膜。
【0027】
[発明5]
が式(9)〜(14)
【化7】
【0028】
(式中、波線と交差する線分は結合部位を表す。)
で表される4価の有機基のいずれかである、発明1〜4のいずれかに記載のポリイミド構造を含有する気体分離膜。
【0029】
[発明6]
に含まれるHFIP基が有する−OH基の水素原子がグリシジル基で置換されてなる、発明1〜5のいずれかに記載のポリイミド構造を含有する気体分離膜。
【0030】
[発明7]
グリシジル基の環状エーテル部位が開環し架橋してなる発明6に記載の気体分離膜。
【0031】
[発明8]
さらに、エポキシ化合物と混合し、加熱して得られる、発明1〜7のいずれかに記載の気体分離膜。
【0032】
[発明9]
エポキシ化合物が一般式(15)
【化8】
【0033】
(式中、Rはアルカン、芳香環または脂環から任意の水素原子がf個離脱したf価の有機基であり、構造中に酸素原子、硫黄原子または窒素原子を含んでいてもよく、水素原子の一部がフッ素原子、塩素原子、アルキル基、またはフルオロアルキル基で置換されていてもよく、fは1〜4の整数である。)
で表される、発明8に記載の気体分離膜。
【発明の効果】
【0034】
本発明のHFIP基とアルキル基を有するポリイミド系気体分離膜は、HFIP基とアルキル基による良好な分離性能を有する。また、HFIP基は−OH基を有するため、特定の有機溶剤、特に極性溶剤に可溶であり、ポリイミド溶液を調製することも容易であり、所望の膜形状に成形可能である。
【0035】
さらに、本発明のHFIP基とアルキル基を有するポリイミド系気体分離膜において、原料としてのアルキル基含有芳香族ジアミンにHFIP基を導入することが容易であることから、従来の含フッ素ポリイミド系気体分離膜に比較して、気体分離性能に加え、膜強度または溶剤への耐膨潤性等の膜物性を優れたものとするための構造設計が可能となる。
【0036】
また、HFIP基とアルキル基に加え、−C(CF)−基を有する気体分離膜は、さらに良好な気体分離性能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明について説明するが、本発明は以下の実施態様に限定されるものではない。
【0038】
本発明の気体分離膜を作製するためのHFIP基とアルキル基を有するポリイミドの原料となる単量体化合物には、HFIP基を有するジアミンと、テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。気体分離膜とした強度のために芳香族ジアミンを採用することが好ましく、HFIP基とアルキル基を有する芳香族ジアミンに加えて、膜とした際の強度、分離性能の調整のために、その他のジアミンを加えてもよい。また、同様に、膜とした際の強度、分離性能の調整のために、テトラカルボン酸二無水物に加え、その他のジカルボン酸およびその誘導体を加えてもよい。
【0039】
1.HFIP基とアルキル基を有する芳香族ジアミン
本発明の気体分離膜を作製するためのHFIP基とアルキル基を有するポリイミドを合成するための単量体化合物としての、HFIP基とアルキル基を有する芳香族ジアミンは、一般式(2−A)
【化9】
【0040】
(式中、Raaは単結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−基、−CH−基、−C(=O)−基、−C(CH)−基、−C(CH)(CHCH)−基もしくは−C(CF)−基であり、または、炭素数3〜12の脂環式炭化水素化合物、炭素数6〜25の芳香族炭化水素化合物の任意の水素原子2個が離脱してなる2価の有機基である。Rabは炭素数1〜6のアルキル基である。acとadはそれぞれ独立に0〜2の整数であり、1≦ac+ad≦4である。HFIPは−C(CF)OH基を表す。)
で表される。
【0041】
HFIP基とアルキル基を有する芳香族ジアミン(2−A)において、炭素数3〜12の脂環式炭化水素化合物の水素原子が2個離脱してなる2価の有機基としては、シクロヘキサン、ビシクロヘキサン、アダマンタンまたはノルボルナンの水素原子が2個離脱してなる2価の有機基が好ましい。炭素数6〜25の芳香族炭化水素化合物の水素原子が2個離脱してなる2価の有機基としては、ベンゼン、ビフェニル、ナフタレンまたはフルオレンの水素原子が2個離脱してなる2価の有機基が挙げられる。炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基が挙げられる。
【0042】
HFIP基とアルキル基を有する芳香族ジアミン(2−A)は、式(3−A)
【化10】
【0043】
(式中、Rbaは単結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−基、−CH−基、−C(=O)−基、−C(CH)−基、−C(CH)(CHCH)−基もしくは−C(CF)−基であり、または、炭素数3〜12の脂環式炭化水素化合物、炭素数6〜25の芳香族炭化水素化合物の任意の水素原子2個が離脱してなる2価の有機基である。Rbbは炭素数1〜6のアルキル基である。bcとbdはそれぞれ独立に0〜2の整数であり、1≦bc+bd≦4である。HFIPは−C(CF)OH基を表す。)
で表される化合物が好ましく、式(4−A)、(5−A)
【化11】
【0044】
(式(4−A)中、Rcaは単結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−基、−CH−基、−C(=O)−基、−C(CH)−基、−C(CH)(CHCH)−基もしくは−C(CF)−基であり、または、炭素数3〜12の脂環式炭化水素化合物、炭素数6〜25の芳香族炭化水素化合物の任意の水素原子2個が離脱してなる2価の有機基である。Rcbは炭素数1〜6のアルキル基である。HFIPは−C(CF)OH基を表す。
【0045】
式(5−A)中、Rdaは単結合、酸素原子、硫黄原子、−SO−基、−CH−基、−C(=O)−基、−C(CH)−基、−C(CH)(CHCH)−基もしくは−C(CF)−基であり、または、炭素数3〜12の脂環式炭化水素化合物、炭素数6〜25の芳香族炭化水素化合物の任意の水素原子2個が離脱してなる2価の有機基である。Rdbは炭素数1〜6のアルキル基である。HFIPは−C(CF)OH基を表す。)
で表される化合物が特に好ましい。
【0046】
式(4−A)において、Rcbの炭素数1〜6のアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
【0047】
式(4−A)で表される化合物は、具体的には、式(4−1−A)〜(4−22−A)
【化12】
【0048】
【0049】
(式中、Rcbは炭素数1〜6のアルキル基である。HFIPは−C(CF)OH基を表す。)
が挙げられ、中でも、原料ジアミンの入手の容易性から式(4−1−A)、(4−10−A)、(4−13−A)、(4−17−A)、(4−21−A)が好ましい。
【0050】
式(5−A)において、Rdbの炭素数1〜6のアルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基などが挙げられる。
【0051】
式(5−A)で表される化合物は、具体的には、式(5−1−A)〜(5−22−A)
【化13】
【0052】
【0053】
【0054】
(式中、Rdbは炭素数1〜6のアルキル基である。HFIPは−C(CF)OH基を表す。)
が挙げられ、中でも、原料ジアミンの入手の容易性から式(5−10−A)、(5−21−A)が好ましい。
【0055】
これらのHFIP基とアルキル基を有する芳香族ジアミンは2種以上併用しても良い。
【0056】
当該ジアミンは、アルキル基含有芳香族ジアミンと、ヘキサフルオロアセトンもしくはヘキサフルオロアセトン三水和物との反応により得られる。その製造方法については、特許文献1〜3に記載のアルキル基を有さない芳香族ジアミンと、ヘキサフルオロアセトンもしくはヘキサフルオロアセトン三水和物との反応を適用可能である。
【0057】
2.その他のジアミン
気体分離膜における気体分離性能、極性溶剤への溶解性、膜強度などの膜物性の調整のために、HFIP基とアルキル基を有するポリイミドの合成において、HFIP基とアルキル基を有する芳香族ジアミンに加え、他のジアミン、ジヒドロキシアミンを用いてもよい。使用量は、前記テトラカルボン酸二無水物に対し10モル%以上、80モル%以下であり、好ましくは30モル%以上、60モル%以下である。
【0058】
ジアミンとしては、3,5−ジアミノベンゾトリフルオリド、2,5−ジアミノベンゾトリフルオリド、3,3’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ビストリフルオロメチル−5,5’−ジアミノビフェニル、ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビフェニル、ビス(フッ素化アルキル)−4,4’−ジアミノビフェニル、ジクロロ−4,4’−ジアミノビフェニル、ジブロモ−4,4’−ジアミノビフェニル、ビス(フッ素化アルコキシ)−4,4’−ジアミノビフェニル、ジフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノテトラフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノテトラフルオロフェノキシ)オクタフルオロビフェニル、4,4’−ビナフチルアミン、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,5−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノキシレン、2,4−ジアミノジュレン、1,4−キシリレンジアミン、ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、ジアルキル−4,4’−ジアミノビフェニル、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、ジエトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチルージアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチルージアミノジフェニルメタン、9、9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)スルホン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(4−アミノ−2−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(3−アミノ−5−トリフルオロメチルフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)オクタフルオロビフェニルまたは4,4’−ジアミノベンズアニリドが挙げられ、これらを2種以上併用することもできる。中でも、得られる気体分離膜に高透過性を与える、−C(CF)−基を有する下記構造式で表されるジアミンを用いる事が好ましい。
【化14】
【0059】
また、ジヒドロキシアミンを例示するならば、3,3’−ジヒドロキシベンジジン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス−(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、1,4−ジアミノ−2,5−ジヒドロキシベンゼン、1,3−ジアミノ−2,4−ジヒドロキシベンゼン、及び1,3−ジアミノ−4,6−ジヒドロキシベンゼンが挙げられ、これらを2種以上併用することもできる。中でも、得られる気体分離膜に高透過性を与える、−C(CF)−基を有する下記構造式で表されるジヒドロキシアミンを用いる事が好ましい。
【化15】
【0060】
3.テトラカルボン酸二無水物
本発明に係るHFIP基とアルキル基を有するポリイミドを合成するために用いるテトラカルボン酸二無水物は、一般式(16)
【化16】
【0061】
(式中、Rは4価の有機基を表す。)
で表される。
【0062】
一般式(16)において、Rは、好ましくは、アルカン、脂環または芳香環から水素原子が4個離脱した4価の有機基であり、構造中にフッ素原子、塩素原子、酸素原子、硫黄原子または窒素原子を含んでもよく、水素原子の一部がアルキル基、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基またはシアノ基で置換されていてもよい。
【0063】
このようなテトラカルボン酸二無水物としては、具体的には、ピロメリット酸二無水物(以下、「PMDA」と表すことがある。)、トリフルオロメチルベンゼンテトラカルボン酸二無水物、ビストリフルオロメチルベンゼンテトラカルボン酸二無水物、ジフルオロベンゼンテトラカルボン酸二無水物、ナフタレンテトラカルボン酸二無水化物、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、「BPDA」と表すことがある。)、ターフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(以下、「BTDA」と表すことがある。)、オキシジフタル酸二無水物(以下、「ODPA」と表すことがある。)、ビシクロ(2,2,2)オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン酸二無水物(以下、「6FDA」と表すことがある。)、2,3,4,5−チオフェンテトラカルボン酸二無水化物、2,5,6,2',5',6'- ヘキサフルオロ−3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水化物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水化物(以下、「DSDA」と表すことがある。)または3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水化物が挙げられ、これらのテトラカルボン酸二無水物は単独で用いても良いし、2種以上併用しても良い。
【0064】
中でも、入手の容易性からPMDA、BPDA、BTDA、DSDA、ODPAおよび6FDAが特に好ましく、良好なガス分離性能(透過性と選択性)から、6FDAがさらに好ましい。
【0065】
4.ジカルボン酸とジカルボン酸誘導体
気体分離膜とした際の分離性能および強度等の膜物性の調整のために、前記テトラカルボン酸二無水物に加え、一般式(17)、(18)で表されるジカルボン酸またはジカルボン酸誘導体を使用してもよい。使用量は、前記テトラカルボン酸二無水物に対し10モル%以上、80モル%以下であり、好ましくは30モル%以上、60モル%である。本モル比の範囲内で、ガス分離性能、極性溶剤への溶解性、膜強度の調整を行うことができる。
【0066】
一般式(17):
【化17】
【0067】
(式(17)中、Aは有機基、好ましくは、アルカン、脂環、または芳香環から水素原子が2個離脱した2価の有機基であり、構造中に酸素原子または硫黄原子を含有してもよく、水素原子の一部がアルキル基、フッ素、塩素、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基またはシアノ基で置換されていてもよい。Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、またはベンジル基である。
【0068】
一般式(18):
【化18】
【0069】
(式(18)中、Aは有機基、好ましくは、アルカン、または脂環もしくは芳香環から水素原子が1個離脱した2価の有機基であり、構造中に酸素原子、硫黄原子または窒素原子を含有してもよく、水素原子の一部がアルキル基、フッ素、塩素、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基またはシアノ基で置換されていてもよい。Xはそれぞれ独立に、塩素原子、フッ素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。
【0070】
尚、縮合反応後は一般式(19)
【化19】
【0071】
(式中、Aは有機基、好ましくは、アルカン、または脂環もしくは芳香環から水素原子が1個離脱した2価の有機基であり、構造中に酸素原子、硫黄原子または窒素原子を含有してもよく、水素原子の一部がアルキル基、フッ素、塩素、フルオロアルキル基、カルボキシル基、ヒドロキシ基またはシアノ基で置換されていてもよい。)で表されるヘテロ環構造を共重合成分として含有した構造単位となる。
【0072】
本発明の気体分離膜に使用する含フッ素ポリイミドを合成するための、一般式(17)、(18)で表されるジカルボン酸またはジカルボン酸誘導体を、原料のジカルボン酸の形で例示すると、脂肪族ジカルボン酸である、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸またはセバシン酸、芳香族カルボン酸であるフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル、3,3’−ジカルボキシビフェニル、3,3’−ジカルボキシルジフェニルエーテル、3,4’−ジカルボキシルジフェニルエーテル、4,4’−ジカルボキシルジフェニルエーテル、3,3’−ジカルボキシルジフェニルメタン、3,4’−ジカルボキシルジフェニルメタン、4,4’−ジカルボキシルジフェニルメタン、3,3’−ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、3,4’−ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、4,4’−ジカルボキシルジフェニルジフルオロメタン、3,3’−ジカルボキシルジフェニルスルホン、3,4’−ジカルボキシルジフェニルスルホン、4,4’−ジカルボキシルジフェニルスルホン、3,3’−ジカルボキシルジフェニルスルフィド、3,4’−ジカルボキシルジフェニルスルフィド、4,4’−ジカルボキシルジフェニルスルフィド、3,3’−ジカルボキシルジフェニルケトン、3,4’−ジカルボキシルジフェニルケトン、4,4’−ジカルボキシルジフェニルケトン、2,2−ビス(3−カルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,4’−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3,4’−ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−カルボキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−カルボキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−カルボキシフェノキシ)ベンゼン、3,3’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビス安息香酸、3,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビス安息香酸、4,4’−(1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン))ビス安息香酸、2,2−ビス(4−(3−カルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(4−カルボキシフェノキシ)フェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−カルボキシフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−(4−カルボキシフェノキシ)フェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−(3−カルボキシフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4−(4−カルボキシフェノキシ)フェニル)スルフィド、ビス(4−(3−カルボキシフェノキシ)フェニル)スルホンまたはビス(4−(4−カルボキシフェノキシ)フェニル)スルホン、パーフルオロノネニルオキシ基含有のジカルボン酸である5−(パーフルオロノネニルオキシ)イソフタル酸、4−(パーフルオロノネニルオキシ)フタル酸、2−(パーフルオロノネニルオキシ)テレフタル酸または4−メトキシ−5−(パーフルオロノネニルオキシ)イソフタル酸、パーフルオロヘキセニルオキシ基含有のジカルボン酸である、5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)イソフタル酸、4−(パーフルオロヘキセニルオキシ)フタル酸、2−(パーフルオロヘキセニルオキシ)テレフタル酸または4−メトキシ−5−(パーフルオロヘキセニルオキシ)イソフタル酸、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジカルボキシビフェニルが挙げられる。また、これらを2種以上併用してもよい。
【0073】
中でも入手の容易さ、縮重合反応のし易さに優れることから、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4’−ジカルボキシビフェニル、2,2’−ジトリフルオロメチル−4,4’−ジカルボキシビフェニル、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパンが好ましい。
【0074】

5.HFIP基とアルキル基を有するポリイミドの合成
本発明の気体分離膜に使用するHFIP基とアルキル基を有するポリイミドを合成方法について説明する。
【0075】
ここで、「ジカルボン酸(誘導体)」と表す場合、「ジカルボン酸またはジカルボン酸誘導体」を意味する。明細書において、以下同じ。
【0076】
本発明の気体分離膜に使用するHFIP基とアルキル基を有するポリイミドを合成するには、前述のHFIP基とアルキル基を有する芳香族ジアミンとテトラカルボン酸二無水物を必須とし、必要であれば、その他のジアミンおよびジカルボン酸(誘導体)を加えた後、150℃以上で相互に溶融させて無溶媒で反応させる方法、反応温度−20〜80℃下にて、有機溶媒中で重合反応させる方法を挙げることができる。重合反応においては、ジアミンと、無水カルボン酸二無水物またはジカルボン酸(誘導体)とが、モル比で表して1対1で反応することから、HFIP基とアルキル基を有する芳香族ジアミンおよびその他のジアミン、テトラカルボン酸二無水物およびジカルボン酸(誘導体)の存在比は、モル比で表して、芳香族ジアミンおよびその他ジアミン:テトラカルボン酸二無水物およびジカルボン酸(誘導体)=1:1であることが好ましい。
【0077】
前記重合反応に使用できる有機溶媒は、反応基質が溶解すればよく、アミド系溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミドまたはN−メチル−2−ピロリドン、芳香族系溶媒であるベンゼン、アニソール、ジフェニルエーテル、ニトロベンゼンまたはベンゾニトリル、ハロゲン系溶媒であるクロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタンまたは1,1,2,2−テトラクロロエタン、ラクトン類であるγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトンまたはα−メチル−γ−ブチロラクトン、アルコール類およびグリコールエーテル類である2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールまたはn−ブチルアルコールが挙げられる。また、これらの有機溶媒と、酸受容体、例えば、ピリジン、トリエチルアミンを共存させて重合反応を行ってもよい。
【0078】
前記重合反応で得られたHFIP基とアルキル基を有するポリアミド酸を、さらに脱水閉環反応させ環化することでイミド化して、目的物であるHFIP基とアルキル基を有するポリイミドに転化することができる。
【0079】
脱水閉環反応は、加熱、酸触媒の使用等の反応条件を環化が促進する条件により行う。一般的には、重合反応直後のHFIP基とアルキル基を有するポリアミド酸溶液を150℃以上、250℃以下の高温でイミド化し、HFIP基とアルキル基を有するポリイミド溶液に調製することができる。その際、ピリジン、トリエチルアミン、無水酢酸などを加えてもよい。溶液中のHFIP基とアルキル基を有するポリイミドの濃度は、5質量%以上、50質量%以下が好ましい。5質量%より少ないと、薄すぎて工業的に実用的ではない。50質量%を超えると溶解し難い。さらに、好ましくは10質量%以上、40質量%以下である。
【0080】
本発明に係るHFIP基とアルキル基を有するポリイミドの重量平均分子量(以下、「Mw」と表すことがある。)は、好ましくは10,000以上であり、より好ましくは20,000以上である。当該重量平均分子量の上限は、500,000以下が好ましく、300,000以下がさらに好ましい。重量平均分子量が10,000未満だと、得られる高分子膜の強度が乏しい。重量平均分子量が500,000超だと、得られる高分子溶液の粘度が高くなりすぎて取り扱いが難しくなる。ここでいう重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、「GPC」と表すことがある。)分析により、標準ポリスチレン基準の換算値として求められるものである(本願において以下同じ。)。当該分析の詳細な分析条件は、本願の実施例で記述する。
【0081】
6.HFIP基とアルキル基を有するポリイミド溶液の調製
このようにして得られたHFIP基とアルキル基を有するポリイミドの溶液は、気体分離膜製造にそのまま用いることもできる。また、HFIP基とアルキル基を有するポリイミドの溶液中に含まれる残存モノマー、低分子量体を除去する目的で、水またはアルコール等の貧溶媒中に、HFIP基とアルキル基を有するポリイミドの溶液を加え、HFIP基とアルキル基を有するポリイミドを沈殿させて単離精製した後、改めて有機溶媒に前記濃度になるように溶解させて調整してもよい。
【0082】
使用できる有機溶媒は、HFIP基とアルキル基を有するポリイミドが溶解すればよく、アミド系溶媒であるN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチル−2−ピロリドン、芳香族系溶媒であるベンゼン、アニソール、ジフェニルエーテル、ニトロベンゼン、ベンゾニトリル等の、ハロゲン系溶媒クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、ラクトン類であるγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−カプロラクトン、ε−カプロラクトンまたはα−メチル−γ−ブチロラクトン、フェノール類であるフェノール、クレゾール、キシレノール、カテコールまたはクロルフェノール、アルコール類およびグリコールエーテル類である2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−ブトキシエタノールまたはn−ブチルアルコール、あるいはそれらの混合溶媒から選んで使用すればよい。
【0083】
7.気体分離膜の作製
本発明のHFIP基とアルキル基を有するポリイミドを含む気体分離膜は、HFIP基とアルキル基を有するポリイミド溶液から溶媒が蒸発することを利用して薄膜を作製する湿式成膜法で得られる均質膜、または他の方法で得られる緻密層と多孔質層とを有する非対称膜のいずれであってもよい。
【0084】
[均質膜]
均質膜は、例えば、前述のHFIP基とアルキル基を有するポリイミドの溶液を、ガラス基板などの基体にスピンコーター、アプリケーター等を用いて湿式被覆した後、空気、窒素またはアルゴン等の乾燥気体中で加熱し、溶剤を蒸発させた後、ガラス基材から剥離させることで得られる。また、HFIP基とアルキル基を有するポリイミド溶液の代わりに、HFIP基とアルキル基を有するポリアミド酸溶液を用いて、上記手順で基体に被覆させた後、加熱してイミド化させることでも均質な膜を得ることもできる。
【0085】
気体分離膜に使用するためには、均質膜の厚さとしては5μm以上、1mm以下が好ましい。5μmより薄い膜は、作製が困難な上に破れ易い。1mmより厚い膜は、ガスが透過しにくい。さらに好ましくは、10μmから200μmである。
【0086】
[非対称膜]
緻密層と多孔質層とを有する非対称な膜は、前述の方法で成膜することができる。また、ポリイミド溶液の代わりに、ポリアミド酸溶液を用いて非対称膜を形成した後、熱イミド化させることでも、非対称膜を得ることができる。
【0087】
非対称膜において、緻密層はガス種によって透過速度が異なり、混合ガスに対しての選択する気体分離機能を有する。一方で、多孔質層は、膜形状を保持するための支持体としての役割を有する。
【0088】
本発明の気体分離膜に使用する、HFIP基とアルキル基を有するポリイミドを含む非対称膜は、平らな膜状、中空糸状のいずれの形状であってもよい。
【0089】
緻密層の厚さは10nm以上、10μm以下が好ましい。10nmより薄いと成膜し難く実用的でない。10μmより厚いと、ガスが透過しにくい。好ましくは30nm以上、1μm以下である。
【0090】
多孔質層の厚さは、平らな膜状では、5μm以上、2mm以下が好ましい。5μmより薄いと成膜し難く実用的でない。2mmより厚いと、ガスが透過し難い。さらに好ましくは10μm以上、500μm以下である。中空糸状では、内径が10μm以上、4mm以下、好ましくは20μm以上、1mm以下であり、外径は30μm以上、8mm以下、好ましくは50μm以上、1.5mm以下である。中空糸状とする場合は、外側に緻密層を有することが好ましい。
【0091】
非対称膜を作製する際の凝固液としては、水、または水と有機溶剤の混合溶媒が好適に使用される。混合溶媒は、40質量%以上、好ましくは50質量%以上の水を含有し、有機溶媒としては、アルコールであるメタノール、エタノールまたはイソプロパノール、ケトンであるアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンが挙げられる。凝固液に水またはその混合溶媒を用いると、膜作製設備を防爆仕様とすることの必要性がなく、コスト削減になる。
【0092】
[凝固液]
本発明の気体分離膜に使用する、HFIP基とアルキル基を有するポリイミドは、極性基であるHFIP基の含有効果により、アミド系溶媒であるN,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドまたはN−メチル−2−ピロリドン、ラクトンであるγ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトンに特に溶解し易く、所望の膜厚を有する均質膜を作製することも容易であるし、水系凝固液を使用した非対称膜を作製することも容易である。
【0093】
特に、非対称膜作製にあたっては、吐出口から凝固浴までの距離を変更することで、また、中空糸状に吐出する場合は、吐出口の内側に乾燥空気、水系凝固液などを共に吐出することで、所望の緻密層を形成できる。凝固浴の有機溶媒種を変更することで、所望の孔径、孔径分布、厚さを有する多孔質層を形成できる。
【0094】
凝固液で処理した膜は、加熱処理で乾燥させた後に用いることが好ましい。加熱処理温度は、溶融させないためにポリイミドのガラス転移温度以下が好ましい。
【0095】
[シリコーン樹脂コーティング]
作製した気体分離膜の表面欠陥を修復することを目的として、シリコーン樹脂を分離膜表面にコーティングしてもよい。コーティング方法としては、スピンコーティング、アプリケーターによるコーティング、浸漬コーティングなど、公知のコーティング法を使用することができる。
【0096】
シリコーン樹脂としては、一般的なジメチルシリコーン、フェニル基含有シリコーン、ビニル基含有シリコーン、Si−H基含有シリコーン、トリフルオロプロピル基含有シリコーン、シラノール基含有シリコーン、アミノ基含有シリコーン、エポキシ基含有シリコーン、メタクリル基含有シリコーン、アクリル基含有シリコーンなどが挙げられる。これらは市販されており、Gelest社製のDMSシリーズ、PDVシリーズ、VDTシリーズ、FMVシリーズ、HMSシリーズ、DMSシリーズ、HPMシリーズ、FMSシリーズ、SQOシリーズ、AMSシリーズ、MCRシリーズ、ECMSシリーズ、RMSシリーズなどが挙げられる。
【0097】
8.エポキシ化合物の併用
前記一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物は、機械強度または耐可塑性を向上させる目的で、発明6〜9の気体分離膜のように、エポキシ化合物と混合し、加熱または光照射などにより硬化させて硬化膜とすることができる。当該硬化膜は、前記の均質膜、および非対称膜にも適用可能である。
【0098】
エポキシ化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、ビフェニル変性フェノールアラルキル樹脂、フェノールトリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂またはアミノトリアジン変性フェノール樹脂化合物を、エピクロロヒドリンと接触させることによりエポキシ変性させたエポキシ化合物が挙げられる。
【0099】
これらは、市販されており、ビスフェノールA型(大日本インキ工業株式会社製、商品名、エピクロン840)、ビスフェノールF型(旭電化工業株式会社製、商品名、アデカレジンEP−4901)、クレゾールノボラック型(大日本インキ工業株式会社製、商品名、エピクロンN−600シリーズ)、ジシクロペンタジエン型(大日本インキ工業株式会社製、商品名、エピクロンHP−7200シリーズ)、トリアジン型(日産化学工業株式会社製、商品名、TEPICシリーズ)などが挙げられる。
【0100】
一般式(15)
【化20】
【0101】
(式中、Rはアルキル基、芳香環または脂環から水素原子がf個離脱したf価の有機基であり、構造中に酸素原子、硫黄原子または窒素原子を含んでいてもよく、水素原子の一部がフッ素原子、塩素原子、アルキル基またはフルオロアルキル基で置換されていてもよい。fは1〜4の整数である。)
で表されるエポキシ化合物は、これに対応するアルコールとエピクロロヒドリンから合成される。
【0102】
当該アルコールとしては、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−アダマンタンジオール、カテコール、1,3−ベンゼンジオール、2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、2,2’−メチレンジフェノール、4,4’−メチレンジフェノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−ブタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−ヘキサン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(3−ブロモ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン、1,5−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシピリジン、2,4−ジヒドロキシピリジン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノン、1,4−ジヒドロキシヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)−プロパン、1,1´−メチレンジ−2−ナフトール、4,4´、4´−トリヒドロキシトリフェニルメタン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンまたはα,α,α´−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼンが挙げられる。
【0103】
当該アルコールとして、式(1)で表される繰り返し単位に含まれるHFIP基中のアルコールを用いる事も可能である。
【0104】
発明6〜9の気体分離膜を得る際、これらエポキシ化合物と、エポキシ樹脂用硬化剤を併用してもよい。当該硬化剤を例示するならば、アミン系化合物、酸無水物系化合物、アミド系化合物、フェノ−ル系化合物、メルカプタン系化合物、イミダゾール系化合物、ポリスルフィド樹脂系化合物またはリン系化合物が挙げられる。具体的には、熱硬化剤であるジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリアルキレングリコールポリアミン、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、2−メチルイミダゾ−ル、トリフェニルホスフィン、2−エチル−4−メチルイミダゾール、BF−アミン錯体またはグアニジン誘導体、紫外線硬化剤であるジフェニルヨードニウムヘキサフロロホスフェート、トリフェニルスルホニウムヘキサフロロホスフェートが挙げられる。
【0105】
一般式(1)で表される繰り返し単位を有する高分子化合物とエポキシ化合物の混合割合は、質量比で表して高分子化合物:エポキシ化合物=10:90〜98:2であり、好ましくは50:50〜95:5である。
【0106】
エポキシ化合物と、エポキシ樹脂用硬化剤との混合比は、質量比で表して、70:30〜99.5:0.5であり、好ましくは90:10〜99:1である。
【0107】
前記気体分離膜を製造する途中工程にて、例えば、ガラスまたはシリコン基板に塗布し、その後、加熱または、紫外線(UV)ランプなどによる紫外線照射により硬化させて、架橋硬化した気体分離膜とすることができる。使用できる有機溶媒としては、一般式(1)で表される繰り返し単位を有するHFIP基とアルキル基を有するポリイミド、および前記エポキシ化合物を主成分とする組成物が溶解するものであれば特に限定すること無く使用することができる。具体的に例示するならば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルホルムアミド、ヘキサメチルリン酸トリアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどのアミド系溶媒、シクロヘキサノン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、γ―ブチロラクトンなどが挙げられる。
【実施例】
【0108】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0109】
[ポリイミド膜の調整]
気体分離膜用のHFIP基とアルキル基を有するポリイミド膜の調製について説明する。
【0110】
窒素導入管と還流冷却器を備えた200mL三口フラスコに、下記HFA−2DMeBD(2.06g、3.78 mmol)、6FDA(1.68g、3.78mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド(14g)を加え、窒素雰囲気下、室温で18時間攪拌した後、ピリジン(0.66g、8.32 mmol)と無水酢酸(0.77g、7.56 mmol)を加え、さらに室温下で3時間撹拌した。得られた反応液を200℃に昇温し、さらに6時間攪拌後、室温に冷却した。ポリイミド1が溶解した均一なN,N−ジメチルアセトアミド溶液を得た。当該溶液のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定(装置は東ソー株式会社製HLC−8320、溶媒はテトラヒドロフラン、ポリスチレン換算。以下同じ。)にて求めたポリイミド1のMwは42,000であった。
【化21】
【0111】
(式中、Meはメチル基を表す。明細書中において、以下同じ。)
前記のN,N−ジメチルアセトアミド溶液をガラス基板上に塗布し、スピンコーターを用いて、回転速度:1000rpm、保持時間:30sec.の塗布条件でスピンコートした。得られたガラス基板を、窒素雰囲気下、200℃、1時間加熱処理した後、ガラス基板から剥がすことで、ポリイミド1から得られる膜、即ち、HFIP基とアルキル基を有するポリイミド1膜(以下、「ポリイミド膜1」と表すことがある。)を得た。膜厚を測定したところ、25μmであった。
【0112】
次に、下記に示した、HFIP基とアルキル基を有する一連のジアミン化合物(HFA−2DMeBD、HFA−MeFL、HFA−3DMeBD、mHFA−3DMeBD)、
【化22】
【0113】
および、下記のテトラカルボン酸二無水物(PMDA,BPDA,BTDA、DSDA、ODPA,6FDA)、
【化23】
【0114】
を反応させて、前記と同様の手法にて、ポリイミド2〜17から得られるポリイミド膜(ポリイミド膜2〜17)を得た。ポリイミド膜2〜17の原料化合物および膜厚を表1に、ポリイミド2〜17のMwを表2に示す。
【表1】
【表2】
【0115】
次に、HFIP基とアルキル基を有する一連のジアミン化合物(HFA−2DMeBD、HFA−MeFL、HFA−3DMeBD)と一連のテトラカルボン酸二無水物(6FDA、BPDA、BTDA、DSDA)を組み合わせて重合し、反応後得られたDMAc溶液に、所定量の下記エポキシ樹脂1またはエポキシ樹脂2、硬化剤としてトリフェニルホスフィン(エポキシ樹脂に対して1質量%)を加えてそれぞれポリイミドを得た。当該ポリイミドをそれぞれ製膜してポリイミド膜18〜23を得た。得られたポリイミド膜18〜23の原料化合物を、それぞれの膜厚とともに、表3に示す。
【0116】
エポキシ樹脂1:ビスフェノールA型エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製JER828)
エポキシ樹脂2:クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(アルドリッチ社製、カタログNo.408042)
【表3】
【0117】
[ポリイミド5の評価]
ポリイミド5に対し、ガス透過係数の測定および分離性能の評価を行った。以下に気体分離膜のガス透過性能の測定方法を示す。
【0118】
気体透過係数は、ステンレス製のセルに膜面積7cmの気体分離膜を配置し、JIS K7126−1:2006「プラスチック―フィルム及びシート―ガス透過度試験方法」の第1部に記載の差圧法に準拠して測定した。
【0119】
具体的には、温度23℃の条件で、試験気体として、ヘリウム(He)、炭酸ガス(CO)、酸素ガス(O)およびメタンガス(CH)を用い、JIS K7126−1:2006に準拠し、各ガスの透過係数および分離性能(各ガスの透過係数の比)を測定した。
【0120】
前述のJIS K7126−1:2006に準拠し、ポリイミド5から作成膜のガス透過係数の測定結果を表4に示し、分離性能の評価結果を表5に示す。
【0121】
同様に、ポリイミド6を有する膜、ポリイミド8を有する膜のガス透過係数の測定結果を表4に示し、分離性能の評価結果を表5に示す。
【表4】
【表5】
【0122】
次いで、前記のHFIP基とアルキル基を有するポリイミド膜(ポリイミド膜5、6および8)のガス分離性能と、従来の本発明の範疇にない以下構造式のHFIP基を有さないポリイミド膜(比較例1および2)のガス分離性能を比較した。
【0123】
[比較例1]
【化24】
【0124】
比較例1のHFIP基を有さないポリイミド膜のCOの透過係数は、5 Barrerであった。表4に記載の通り、本発明のHFIP基とアルキル基を有するポリイミド5から得られるポリイミド膜のCOの透過係数は、347 Barrerであった。これらの結果より、HFIP基を導入することでCOの透過係数が高くなり、より優れた性能を示す事が明らかとなった。
【0125】
[比較例2]
【化25】
【0126】
比較例2のHFIP基を有さないポリイミド膜のCOの透過係数は、12 Barrerであった。表5に記載の通り、本発明のHFIP基とアルキル基を有するポリイミド8から得られるポリイミド膜のCOの透過係数は、310 Barrerであった。これらの結果より、HFIP基を導入することでCOの透過係数が高くなり、より優れた性能を示す事が明らかとなった。
【0127】
更に、本発明のポリイミド膜1〜4、ポリイミド膜7、ポリイミド膜9〜23のCOの透過係数はいずれも50 Barrer以上で高い透過係数を示し、比較例1および2のポリイミド膜と比較しても、より優れた性能を示す事が明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明のHFIP基とアルキル基を有するポリイミド膜からなる気体分離膜は、ガスの種類による透過速度(気体透過係数)の違いが大きく、気体分離性能に優れる。従って、液化天然ガスなどからの二酸化炭素の分離・固定化技術への応用、燃料用エタノール回収を目的とした水―エタノール分離膜などに好適に使用され得る。