【文献】
Y.-B. Cho, et al.,"Silicon Photonic Wire Filter Using AsymmetricSidewall Long-Period Waveguide Gratingin a Two-Mode Wa,IEEE PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS,2008年 4月 1日,Vol.20, No.7,p.520-522
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
i次モード(iは0以上の整数)の、TE偏波及びTM偏波のいずれか一方の偏波、並びにl次モード(lはiとは異なる0以上の整数)のTE偏波及びTM偏波を伝播させる多モード導波路部、及び該多モード導波路部と接続されたブラッグ反射部を有する第1光導波路コアと、
結合部を有する第2光導波路コアと
を備え、
前記ブラッグ反射部には、前記一方の偏波のl次モードとi次モードとを変換してブラッグ反射し、他方の偏波を透過させるグレーティングが形成されており、
前記多モード導波路部と前記結合部とが、互いに離間しかつ並んで配置された双方向結合領域が設定されており、
前記双方向結合領域では、前記多モード導波路部を伝播するi次モードの前記一方の偏波と、前記結合部を伝播するm次モード(mはiとは異なる0以上の整数)の前記一方の偏波とが結合される
ことを特徴とする光導波路素子。
前記グレーティングは、一定の幅で、光の伝播方向に沿って延在して形成される基部と、該基部の両側面にそれぞれ周期的に複数形成されている突出部とを含んで構成され、
前記基部の一方の側面に形成された突出部と、前記基部の他方の側面に形成された突出部とは、半周期ずれて配置されており、
前記突出部は、周期毎に突出幅が一定の変化量で変化する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光導波路素子。
前記グレーティングは、一定の幅で、光の伝播方向に沿って延在して形成される基部と、該基部の両側面にそれぞれ周期的に複数形成されている突出部とを含んで構成され、
前記基部の一方の側面に形成された突出部と、前記基部の他方の側面に形成された突出部とは、半周期ずれて配置されており、
前記突出部の周期は、周期毎に一定の変化量で変化する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の光導波路素子。
【背景技術】
【0002】
情報伝達量の増大に伴い、光配線技術が注目されている。光配線技術では、光ファイバや光導波路を伝送媒体とした光デバイスを用いて、情報処理機器内の装置間、ボード間又はチップ間等の情報伝達を光信号で行う。その結果、高速信号処理を要する情報処理機器においてボトルネックとなっている、電気配線の帯域制限を改善することができる。
【0003】
光デバイスは、光送信器や光受信器等の光学素子を備えて構成される。これらの光学素子は、各光学素子の中心位置(受光位置あるいは発光位置)を設計位置に合せるための複雑な光軸合わせを行った上で、例えばレンズを用いて互いに空間結合することができる。
【0004】
ここで、各光学素子を結合するための手段として、レンズの代わりに光導波路素子を利用する技術がある(例えば、特許文献1参照)。光導波路素子を利用する場合には、光が光導波路内に閉じ込められて伝搬するため、レンズを利用する場合と異なり、複雑な光軸合わせを必要としない。従って、光デバイスの組立工程が簡易となるため、量産に適する形態として有利である。光導波路素子は、例えばシリコン(Si)を導波路材料として、極めて小型に形成される。しかも、製造にはCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)の製造過程が流用され低コスト化が実現されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
ところで、受動型光加入者ネットワーク(PON:Passive Optical Network)等の波長多重技術を利用する通信システムにおいて光デバイスを用いる場合には、波長毎に光信号の経路を切り換える素子が必要となる。これを実現するために、波長フィルタとしての機能が付与された光導波路素子を使用した構造がある(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
光導波路素子の構造として、リブ型導波路やSi細線導波路がある。Si細線導波路では、実質的に光の伝送路となる光導波路コアを、Siを材料として形成する。そして、Siよりも屈折率の低い例えばシリカ等を材料としたクラッドで、光導波路コアの周囲を覆う。このような構成により、光導波路コアとクラッドとの屈折率差が極めて大きくなるため、光導波路コア内に光を強く閉じ込めることができる。その結果、曲げ半径を例えば数μm程度まで小さくした、小型の曲線導波路を実現することができる。そのため、電子回路と同程度の大きさの光回路を作成することが可能であり、光デバイス全体の小型化に有利である。
【0007】
ここで、Si細線導波路は、偏波によって特性が異なる。そのため、Si細線導波路を用いた波長フィルタには、偏波依存性があるという欠点がある。そこで、偏波依存性を解消するために、波長フィルタとして機能する領域の前段に、偏波分離素子及び偏波回転素子を設ける構造がある(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
この構造では、まず、偏波分離素子によって、入力された光信号を、互いに直交するTE偏波とTM偏波とを分離する。次に、偏波回転素子によって、一方の偏波を90°回転させる。その結果、波長フィルタに入力される光信号の偏波状態が、TE偏波又はTM偏波のいずれかに統一される。従って、波長フィルタの設計を、TE偏波又はTM偏波のいずれかに対してのみ行えばよく、偏波依存性が解消される。
【0009】
偏波分離素子は、例えば、並んで配置された2つのSi細線導波路を有する方向性結合器を利用して構成することができる(例えば、特許文献2参照)。方向性結合器を利用した偏波分離素子では、扁平な断面形状でSi細線導波路のコアを形成する。これによって、TE偏波とTM偏波とに対する、方向性結合器の結合作用長に差を生じさせる。その結果、TE偏波とTM偏波とを異なる経路で出力することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図を参照して、この発明の実施の形態について説明するが、各構成要素の形状、大きさ及び配置関係については、この発明が理解できる程度に概略的に示したものに過ぎない。また、以下、この発明の好適な構成例につき説明するが、各構成要素の材質及び数値的条件などは、単なる好適例にすぎない。従って、この発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、この発明の構成の範囲を逸脱せずにこの発明の効果を達成できる多くの変更又は変形を行うことができる。
【0022】
(構成)
図1(A)及び(B)を参照して、この実施の形態による光導波路素子について説明する。
図1(A)は、光導波路素子を示す概略的平面図である。なお、
図1では、後述するクラッド層を省略して示してある。
図1(B)は、
図1(A)に示す光導波路素子をI−I線で切り取った概略的端面図である。
【0023】
光導波路素子100は、支持基板10と、クラッド層20と、第1ポート35、多モード導波路部31、第1テーパ部39a、ブラッグ反射部33、第2テーパ部39b及び第2ポート37を有する第1光導波路コア30と、結合部51及び第3ポート57を有する第2光導波路コア50とを備えて構成されている。また、ブラッグ反射部33には、特定の波長の光を反射するグレーティング40が形成されている。また、多モード導波路部31と、結合部51とが互いに離間しかつ並んで配置された双方向結合領域60が設定されている。
【0024】
なお、以下の説明において、支持基板10の厚さに沿った方向を厚さ方向とする。また、第1光導波路コア30及び第2光導波路コア50について、これらを伝播する光の伝播方向に沿った方向を長さ方向とする。また、長さ方向及び厚さ方向に直交する方向を幅方向とする。
【0025】
支持基板10は、例えば単結晶Siを材料とした平板状体として構成されている。
【0026】
クラッド層20は、支持基板10上に、支持基板10の上面10aを被覆し、かつ第1光導波路コア30及び第2光導波路コア50を包含して形成されている。そして、クラッド層20は、例えばSiO
2を材料として形成されている。
【0027】
第1光導波路コア30は、クラッド層20よりも高い屈折率を有する例えばSiを材料として形成されている。その結果、第1光導波路コア30は、光の伝送路として機能し、第1光導波路コア30に入射された光が第1光導波路コア30の平面形状に応じた伝播方向に伝播する。また、第2光導波路コア50は、第1光導波路コア30と同様に、クラッド層20よりも高い屈折率を有する例えばSiを材料として形成されている。その結果、第2光導波路コア50は、光の伝送路として機能し、第2光導波路コア50に入射された光が第2光導波路コア50の平面形状に応じた伝播方向に伝播する。
【0028】
光導波路素子100は、例えば、入力される光信号のTE偏波とTM偏波との経路を切り換える偏波分離素子として使用される。ここでは、一例として、第1ポート35から基本モード(0次モード)の光信号を入力し、基本モードのTM偏波を第2ポート37から出力し、かつ基本モードのTE偏波を第3ポート57から出力する構成例について説明する。
【0029】
この例では、基本モードの光信号は、第1光導波路コア30の第1ポート35に入力され、多モード導波路部31を経てブラック反射部33に送られる。光信号に含まれる基本モードのTE偏波は、ブラッグ反射部33に形成されたグレーティング40において、1次モードに変換されてブラッグ反射され、再び多モード導波路部31に送られる。基本モードのTM偏波は、モード変換されずに、グレーティング40を透過して第2ポート37から出力される。グレーティング40で反射され、多モード導波路部31を伝播する1次モードのTE偏波は、双方向結合領域60において、基本モードに変換されて、第2光導波路コア50の結合部51へ送られる。基本モードのTE偏波は、結合部51を経て、第3ポート57から出力される。
【0030】
第1ポート35は、シングルモード条件を達成する厚さ及び幅に設定されている。従って、基本モードの光を伝播させる。第1ポート35の一端35aは、多モード導波路部31の他端31bと接続されている。
【0031】
多モード導波路部31は、基本モードのTE偏波及びTM偏波、並びに1次モードのTE偏波を伝播させる。なお、多モード導波路部31の幾何学的な設計については後述する。多モード導波路部31は、第1テーパ部39aを介してブラッグ反射部33と接続されている。第1テーパ部39aの幅は、光の伝播方向に沿って、多モード導波路部31の一端31aの幅からブラッグ反射部33の一端33aの幅へ、連続的に変化するように設定されている。第1テーパ部39aを設けることによって、多モード導波路部31及びブラッグ反射部33間を伝播する光の反射を緩和することができる。
【0032】
ブラッグ反射部33には、グレーティング40が形成されている。
図2を参照して、グレーティング40について説明する。
図2は、ブラッグ反射部に形成されたグレーティングを説明するための概略的平面図である。なお、
図2では、支持基板及びクラッド層を省略して示してある。
【0033】
この実施の形態では、グレーティング40は、特定の波長のTE偏波を、基本モードと1次モードとを変換してブラッグ反射する。また、基本モードのTM偏波を透過させる。
【0034】
グレーティングにおけるブラッグ反射条件は、下式(1)で表される。なお、N
a及びN
bは、グレーティングにおいて結合される、入射光及び反射光の等価屈折率を示す。N
a及びN
bにおけるa及びbは、0以上の整数であり、それぞれ入射光及び反射光の次数を示す。また、Λはグレーティングの周期を示す。そして、グレーティングでは、下式(1)が成立する波長λ、すなわちブラッグ波長の光がブラッグ反射される。
【0036】
等価屈折率N
a及びN
bには波長依存性があるため、特定の波長λに対してのみ上式(1)が成立する。また、等価屈折率N
a及びN
bには偏波依存性があるため、等価屈折率N
a及びN
bは、TE偏波とTM偏波とで異なる値となる。
【0037】
上式(1)に基づき、波長λ
TEのTE偏波を、基本モードと1次モードとを変換してブラッグ反射する条件は、下式(2)で表される。なお、N
TE0はTE偏波の基本モードの等価屈折率を、N
TE1はTE偏波の1次モードの等価屈折率を、それぞれ示す。
【0038】
(N
TE0+N
TE1)Λ=λ
TE ・・・(2)
【0039】
波長λ
TEで、基本モードのTM偏波が、基本モード及び他の次数モードのTM偏波と結合されない条件において、基本モードのTM偏波はグレーティングを透過する。従って、基本モードのTM偏波がグレーティングを透過する条件は、下式(3)で表される。なお、N
TM0はTM偏波の基本モードの等価屈折率を、N
TMjはTM偏波のj次モード(jは0以上の整数)の等価屈折率を、それぞれ示す。
【0040】
(N
TM0+N
TMj)Λ≠λ
TE ・・・(3)
【0041】
グレーティング40は、基部41と突出部43a及び43bとを一体的に含んで構成されている。基部41は、一定の幅W1で、光の伝播方向に沿って延在して形成されている。突出部43a及び43bは、基部41の両側面に、それぞれ周期的に複数形成されている。基部41の幅W1、突出部3a及び43bの突出幅D、及び突出部43a及び43bの周期Λは、上式(2)及び(3)がともに成立するように設計される。また、基部41の一方の側面に形成された突出部43aと、他方の側面に形成された突出部43bとは、半周期(すなわちΛ/2)ずれて配置されている。
【0042】
その結果、多モード導波路部31から送られる、波長λ
TEの基本モードのTE偏波は、グレーティング40において、1次モードに変換されて反射される。ブラッグ反射された1次モードのTE偏波は、再び多モード導波路部31へ送られる。一方、基本モードのTM偏波は、モード変換及びブラッグ反射されずに、グレーティング40を透過する。グレーティング40を透過した基本モードのTM偏波は、第2テーパ部39bを経て第2ポート37へ送られる。
【0043】
ここで、グレーティング40の変形例として、周期Λを一定に設定し、突出部43a及び43bの突出幅Dが周期毎に変化する構成とすることができる。
図3を参照して、グレーティング40の変形例について説明する。
図3は、グレーティングの変形例を説明するための概略的平面図である。なお、
図3では、支持基板及びクラッド層を省略して示してある。
【0044】
図3に示す構成例では、第1周期目の突出部43a及び43bの突出幅D=D
0に対して、周期毎に突出幅Dが一定の変化量でΔDずつ増加する。従って、第k周期では、突出部43a及び43bの突出幅DがD
0+ΔD(k−1)となる。
【0045】
突出部43a及び43bの突出幅Dが変化することによって、上式(2)及び(3)を満足するブラッグ波長λ
TEが変化し、それに伴い等価屈折率が変化する。従って、突出幅Dを変化させることによって、グレーティング40においてブラッグ反射される波長帯域(ブラッグ反射帯域)を拡大することができる。
【0046】
図4を参照して、ブラッグ反射帯域の拡大について説明する。
図4では、横軸に波長を、また、縦軸に反射強度をそれぞれ取って示している。なお、グレーティング40の第
k−1周期におけるブラッグ波長をλ
k−1、第k周期におけるブラッグ波長をλ
k、及び第k+1周期におけるブラッグ波長をλ
k+1とする。
【0047】
図4に示すように、周期毎に突出幅DがΔD増加すると、隣り合う周期のブラッグ波長の中心波長が長波長側にΔλシフトする。
【0048】
周期毎のブラッグ波長のシフト量Δλは、突出幅Dの変化量ΔDを用いて、近似的に下式(4)で表すことができる。なお、N
0は基本モードの等価屈折率を、N
1は1次モードの等価屈折率を、それぞれ示す。この実施の形態では、グレーティング40がTE偏波をブラッグ反射する構成例であるため、N
0はTE偏波の基本モードの等価屈折率に、N
1はTE偏波の1次モードの等価屈折率に、それぞれ対応する。
【0050】
従って、ΔDを調整し、各周期のブラッグ波長がオーバーラップするようにΔλを設定することによって、ブラッグ反射帯域を拡大することができる。例えばk周期のグレーティング40を形成する場合には、突出幅Dが一定である場合と比して、ブラッグ反射帯域をΔλ×k程度拡大することができる。その結果、ブラッグ反射の波長依存性を緩和することができる。
【0051】
また、グレーティング40におけるブラッグ反射帯域を拡大する、他の変形例として、突出部43a及び43bの突出幅D及びデューティ比を一定として、周期Λが周期毎に変化する構成とすることもできる。この変形例を
図5に示す。
図5に示す構成例では、第1周期目の周期Λ=Λ
0に対して、周期毎に周期Λが一定の変化量でΔΛずつ増加する。従って、第k周期では、周期ΛがΛ
0+ΔΛ(k−1)となる。
【0052】
周期Λが変化することによって、上式(2)及び(3)を満足するブラッグ波長λ
TEが変化し、それに伴い等価屈折率が変化する。従って、周期Λを変化させることでも、グレーティング40においてブラッグ反射帯域を拡大することができる。周期毎のブラッグ波長のシフト量Δλは、周期Λの変化量ΔΛを用いて、近似的に下式(5)で表すことができる。
【0054】
従って、ΔΛを調整し、各周期のブラッグ波長がオーバーラップするようにΔλを設定することによって、ブラッグ反射帯域を拡大することができる。突出幅Dを変化させる場合と同様に、例えばk周期のグレーティング40を形成する場合には、周期Λが一定である場合と比して、ブラッグ反射帯域をΔλ×k程度拡大することができる。その結果、ブラッグ反射の波長依存性を緩和することができる。
【0055】
第2ポート37は、シングルモード条件を達成する厚さ及び幅に設定されている。従って、基本モードの光を伝播させる。第2ポート37は、第2テーパ部39bを介してブラッグ反射部33と接続されている。第2テーパ部39bは、ブラッグ反射部33の他端33bの幅から第2ポート37の一端37aの幅へ、連続的に変化するように設定されている。第2テーパ部39bを設けることによって、ブラッグ反射部33及び第2ポート37間を伝播する光の反射を緩和することができる。
【0056】
結合部51は、第1光導波路コア30の多モード導波路部31と、互いに離間し、かつ並んで配置されている。結合部51は、シングルモード条件を達成する厚さ及び幅に設定されている。従って、結合部51は、基本モードの光を伝播させる。さらに、結合部51の他端51bは、第3ポート57と接続されている。
【0057】
第3ポート57は、シングルモード条件を達成する厚さ及び幅に設定されている。従って、第3ポート57は、基本モードの光を伝播させる。
【0058】
また、光導波路素子100では、第1光導波路コア30の多モード導波路部31と、第2光導波路コア50の結合部51とが、互いに離間しかつ並んで配置された双方向結合領域60が設定されている。
図6を参照して、双方向結合領域60について説明する。
図6は、双方向結合領域60を説明するための概略的平面図である。なお、
図6では、支持基板及びクラッド層を省略して示してある。
【0059】
双方向結合領域60では、多モード導波路部31を伝播する1次モードのTE偏波と、結合部51を伝播する基本モードのTE偏波とが結合される。
【0060】
多モード導波路部31及び結合部51は、それぞれの中心軸が平行とされている。さらに、多モード導波路部31及び結合部51は、多モード導波路部31の一端31aと結合部51の一端51aとが揃って配置されている。また、多モード導波路部31の他端31bと結合部51の他端51bとが揃って配置されている。
【0061】
多モード導波路部31は、一端31aから他端31bへ、幅が連続的に縮小するテーパ形状とされている。多モード導波路部31の一端31aの幅W2は、基本モード及び1次モードのTE偏波、並びに基本モードのTM偏波を伝播可能な伝播定数に対応して設定されている。また、多モード導波路部31の他端31bの幅W3は、基本モードのTE偏波及びTM偏波を伝播可能な伝播定数に対応して設定されている。
【0062】
また、結合部51は、一端51aから他端51bへ、幅が連続的に拡大するテーパ形状とされている。結合部51の一端51aの幅W4及び他端51bの幅W5は、それぞれ基本モードのTE偏波を伝播可能な伝播定数に対応して設定されている。
【0063】
多モード導波路部31の一端31aにおける1次モードのTE偏波の伝播定数は、結合部51の一端51aにおける基本モードのTE偏波の伝播定数よりも大きく設定されている。また、多モード導波路部31の他端31bにおける基本モードのTE偏波の伝播定数は、結合部51の他端51bにおける基本モードのTE偏波の伝播定数よりも大きく設定されている。
【0064】
このように設計した双方向結合領域60では、多モード導波路部31の1次モードのTE偏波の伝播定数と、結合部51の基本モードのTE偏波の伝播定数とが一致する点が存在する。その結果、多モード導波路部31を伝播する1次モードのTE偏波と、結合部51を伝播する基本モードのTE偏波とを結合することができる。従って、ブラッグ反射部33から送られ、一端31a側から多モード導波路部31に入力される1次モードのTE偏波は、基本モードに変換されて結合部51に移行する。なお、上述したように、多モード導波路部31の他端31bにおける基本モードのTE偏波の伝播定数は、結合部51の他端51bにおける基本モードのTE偏波の伝播定数よりも大きく設定されている。そのため、他端31b側から多モード導波路部31に入力される基本モードのTE偏波が、結合部51に移行する恐れはない。
【0065】
以上説明したように、この実施の形態による光導波路素子100では、ブラッグ反射部33のグレーティング40によって、TE偏波とTM偏波を分離することができる。さらに、グレーティング40において反射されたTE偏波を、双方向結合領域60において、第1光導波路コア30から第2光導波路コア50へ移行することができる。従って、TE偏波を入力ポートとは別の出力ポートから出力することができる。そのため、光導波路素子100は、TE偏波とTM偏波との経路を切り換える偏波分離素子として使用することができる。
【0066】
また、実質的に偏波の分離を行うグレーティング40を含む、光導波路素子100の各構成要素は、簡易な導波路作成プロセスで作成可能である。そのため、方向性結合器を利用した偏波分離素子と比して、製造トレランスを改善することができる。
【0067】
なお、ここでは、グレーティング40が、TE偏波の基本モードと1次モードとを変換してブラッグ反射する構成について説明した。しかしながら、この発明による光導波路素子100は、この構成に限定されない。
【0068】
下式(6)及び(7)がともに成立するように設計することによって、波長λ
TEのTE偏波のl次モード(lは0以上の整数)とi次モード(iはlとは異なる0以上の整数)とを変換してブラッグ反射し、かつTM偏波を透過させるグレーティング40を形成することができる。なお、N
TElはTE偏波のl次モードの等価屈折率を、N
TEiはTE偏波のi次モードの等価屈折率を、N
TMlはTM偏波のl次モードの等価屈折率を、N
TMjはTM偏波のj次モード(jは0以上の整数)の等価屈折率を、それぞれ示す。
【0069】
(N
TEl+N
TEi)Λ=λ
TE ・・・(6)
【0070】
(N
TMl+N
TMj)Λ≠λ
TE ・・・(7)
【0071】
あるいは、下式(8)及び(9)がともに成立するように設計することによって、波長λ
TMのTM偏波のl次モードとi次モードとを変換してブラッグ反射し、かつTE偏波を透過させるグレーティング40を形成することもできる。
【0072】
(N
TMl+N
TMi)Λ=λ
TM ・・・(8)
【0073】
(N
TEl+N
TEj)Λ≠λ
TM ・・・(9)
【0074】
また、双方向結合領域60において結合される光についても、基本モードのTE偏波と1次モードのTE偏波とに限定されない。多モード導波路部31の一端31aの幅W2及び他端31bの幅W3、並びに結合部51の一端51aの幅W4及び他端51bの幅W5を、適宜設定することによって、多モード導波路部31を伝播するi次モードの一方の偏波と、結合部51を伝播するm次モード(mはiとは異なる0以上の整数)の一方の偏波とを結合することができる。
【0075】
(製造方法)
この実施の形態による光導波路素子100は、例えばSOI(Silicon On Insulator)基板を利用することによって、簡易に製造することができる。
【0076】
すなわち、まず、支持基板層、SiO
2層、及びSi層が順次積層されて構成されたSOI基板を用意する。
【0077】
次に、例えばエッチング技術を用い、Si層をパターニングすることによって、第1光導波路コア30及び第2光導波路コア50を形成する。その結果、支持基板10としての支持基板層上にSiO
2層が積層され、さらにSiO
2層上に第1光導波路コア30及び第2光導波路コア50が形成された構造体を得ることができる。
【0078】
次に、例えばCVD法を用いて、SiO
2層上に、SiO
2を材料とした材料層を、第1光導波路コア30及び第2光導波路コア50を被覆して形成する。その結果、SiO
2層及び材料層から、第1光導波路コア30及び第2光導波路コア50を包含するクラッド層20が形成される。
【0079】
(利用形態)
発明者は、光導波路素子100の利用形態として、好適な設計例を決定するためにいくつかのシミュレーションを行った。なお、以下の各シミュレーションでは、光導波路素子100に入力される光信号の波長が1.5μmである場合を想定している。そして、グレーティング40は、TE偏波の基本モードと1次モードとを変換してブラッグ反射する構成例を想定している。また、双方向結合領域60は、基本モードのTE偏波と1次モードのTE偏波とを結合する構成例を想定している。また、第1光導波路コア30及び第2光導波路コア50を厚さ0.22μmのSi製とし、クラッド層20をSiO
2製とした。
【0080】
まず、FEM(Finite Element Method)を用い、上式(2)及び(3)がともに成立するグレーティング40の設計の好適例について検討した。
【0081】
このシミュレーションでは、グレーティング40の基部41の幅W1と、基本モード及び1次モードのTE偏波、並びに基本モード及び1次モードのTM偏波のそれぞれの等価屈折率との関係を確認した。なお、このシミュレーションでは、グレーティング40の突出部43a及び43bの突出幅Dを0.1μmの一定とした。
【0082】
シミュレーションの結果を
図7に示す。
図7は、グレーティング40の基部41の幅W1と、各等価屈折率との関係を示す図である。
図7では、縦軸に等価屈折率を任意の目盛で、また、横軸に基部41の幅W1をμm単位で取って示してある。また、
図7において、◆は基本モードのTE偏波の結果を、▲は1次モードのTE偏波の結果を、■は基本モードのTM偏波の結果を、及び×は1次モードのTM偏波の結果を、それぞれ示している。
【0083】
図7に示すように、基部41の幅W1を0.52μmよりも小さく設定する構成では、1次モードのTM偏波の等価屈折率がカットオフとなる。また、基部41の幅W1を0.3μmよりも小さく設定する構成では、1次モードのTE偏波の等価屈折率がカットオフとなる。従って、基部41の幅W1を0.3<W1<〜0.52の範囲内とすることによって、グレーティング40において、1次モードのTE偏波を伝播可能とし、かつ1次モードのTM偏波を伝播不可能とすることができる。
【0084】
この結果に基づき、発明者は、基部41の幅W1を0.4μmに決定した。
図7に示すように、基部41の幅W1が0.4μmであるとき、基本モードのTE偏波の等価屈折率は2.487となり、また、1次モードのTE偏波の等価屈折率は1.602となる。このとき、ブラッグ波長をλ
TE=1.5μmとして、上式(2)から、グレーティング40の周期がΛ=0.367μmに決定される。従って、基部41の幅W1を0.4μm、突出部43a及び43bの突出幅Dを0.1μm、及び周期Λを0.367μmにそれぞれ設計することによって、グレーティング40において、波長1.5μmの基本モードのTE偏波を、1次モードに変換してブラッグ反射させることができる。
【0085】
また、
図7に示すように、基部41の幅W1が0.4μmであるとき、基本モードのTM偏波の等価屈折率は1.839となる。このとき、ブラッグ波長をλ
TE=1.5μmとすると、上式(3)の右辺と左辺とが一致しない。この結果から、上述した設計において、波長1.5μmの基本モードのTM偏波が、グレーティング40を透過することが確認された。
【0086】
次に、発明者は、グレーティング40において、ブラッグ反射帯域を拡大する設計について検討した。ここでは、周期Λを一定として、突出部43a及び43bの突出幅Dが周期毎に変化する構成(
図3参照)について、突出幅Dの変化量ΔDを決定した。
【0087】
上式(4)を変形することによって、下式(10)が導かれる。
【0089】
このシミュレーションでは、上式(10)に基づき、基本モードのTE偏波の等価屈折率及び1次モードのTE偏波の等価屈折率の和(N
TE0+N
TE1)の、波長分散及びΔDに係る構造分散を確認した。
【0090】
シミュレーションの結果を
図8(A)及び(B)に示す。
図8(A)は、波長と等価屈折率の和(N
TE0+N
TE1)の関係を示す図である。
図8(A)では、縦軸に等価屈折率の和(N
TE0+N
TE1)を任意の目盛で、また、横軸に波長をμm単位で取って示してある。また、
図8(B)は、突出幅Dの変化量ΔDと等価屈折率の和(N
TE0+N
TE1)の関係を示す図である。
図8(B)では、縦軸に等価屈折率の和(N
TE0+N
TE1)を任意の目盛で、また、横軸に突出幅Dの変化量ΔDをμm単位で取って示してある。
【0091】
図8(A)における、波長と等価屈折率の和(N
TE0+N
TE1)の関係を線形近似と仮定すると、傾き−1.83が得られる。これを、等価屈折率の和(N
TE0+N
TE1)の波長分散として、上式(10)の{∂(N
0+N
1)}/(∂λ)に代入する。また、
図8(B)における、突出幅Dの変化量ΔDと等価屈折率の和(N
TE0+N
TE1)の関係を線形近似と仮定すると、傾き2.63が得られる。これを、等価屈折率の和(N
TE0+N
TE1)の構造分散として、上式(10)の{∂(N
0+N
1)}/(∂D
0)に代入する。さらに、
図7に係るシミュレーションにおいて決定した周期Λ=0.367μmを代入して、上式(10)からΔλ/ΔD=0.576が得られる。
【0092】
ここで、例えば、100周期のグレーティング40を形成し、ブラッグ波長を0.1μm拡大することを想定する(すなわちΔλ×100=0.1)。その場合には、シミュレーションによって得られたΔλ/ΔD=0.576を用いて、ΔDを0.0018μmと決定できる。
【0093】
次に、発明者は、3次元FDTD(Finite Difference Time Domain)法を用いて、
図7及び
図8に係るシミュレーションから決定した設計のグレーティング40について特性を評価した。このシミュレーションでは、基本モードのTE偏波及びTM偏波を含む光をグレーティング40に入力した。そして、グレーティング40からの反射光に含まれる各偏波、及びグレーティング40からの透過光に含まれる各偏波の強度を観測した。なお、グレーティング40からの反射光については、1次モードを観測した。また、グレーティング40からの透過光については、基本モードを観測した。
【0094】
シミュレーションの結果を
図9に示す。
図9は、特性評価の結果を示す図である。
図9では、縦軸に光の強度をdB目盛で、また、横軸に波長をμm単位で取って示してある。
【0095】
図9に示すように、グレーティング40からの反射光では、1次モードのTE偏波が、1次モードのTM偏波に比して大きく含まれている。
図9から、反射光に含まれる1次モードのTE偏波及びTM偏波の偏波間消光比を、少なくとも35dB程度確保できることが確認された。また、
図9に示すように、グレーティング40からの透過光では、基本モードのTM偏波が、基本モードのTE偏波に比して大きく含まれている。
図9から、透過光に含まれる基本モードのTE偏波及びTM偏波の偏波間消光比を、少なくとも50dB程度確保できることが確認された。
図9の結果から、グレーティング40を用いることによって、十分な偏波間消光比でTE偏波とTM偏波とを分離できることが確認された。
【0096】
次に、発明者は、双方向結合領域60の好適な設計例について検討した。
【0097】
既に説明したように、双方向結合領域60に含まれる多モード導波路部31については、一端31aの幅W2を、基本モード及び1次モードのTE偏波、並びに基本モードのTM偏波を伝播可能な伝播定数に対応して設定する。また、他端31bの幅W3を、基本モードのTE偏波及びTM偏波を伝播可能な伝播定数に対応して設定する。一方、双方向結合領域60に含まれる結合部51については、結合部51の一端51aの幅W4及び他端51bの幅W5を、それぞれ基本モードのTE偏波を伝播可能な伝播定数に対応して設定する。そして、多モード導波路部31の一端31aにおける1次モードのTE偏波の伝播定数を、結合部51の一端51aにおける基本モードのTE偏波の伝播定数よりも大きく設定する。また、多モード導波路部31の他端31bにおける基本モードのTE偏波の伝播定数は、結合部51の他端51bにおける基本モードのTE偏波の伝播定数よりも大きく設定する。発明者は、これらの条件を満たす多モード導波路部31及び結合部51を、FEMを用いて決定した。
【0098】
図10は、FEMを用いて算出した、光導波路コアの幅と等価屈折率との関係を示す図である。
図10では、縦軸に等価屈折率を任意の目盛で、また、横軸に光導波路コアの幅をμm単位で取って示してある。なお、
図10において、◆は基本モードのTE偏波の結果を、▲は1次モードのTE偏波の結果を、及び■は基本モードのTM偏波の結果を、それぞれ示している。
【0099】
まず、多モード導波路部31の一端31aの幅W2を、基本モード及び1次モードのTE偏波、並びに基本モードのTM偏波を伝播可能な幅として、W2=0.6μmに決定した。なお、W2=0.6μmでは、TM偏波は、基本モードのみが伝播可能である。
【0100】
次に、多モード導波路部31の他端31bの幅W3として、TE偏波及びTM偏波が、基本モードのみ伝播可能となる条件を見出す。
図10に示すように、光導波路コアの幅が0.4μmよりも小さくなる条件において、1次モードのTE偏波の等価屈折率がカットオフとなる。従って、多モード導波路部31の他端31bの幅W3を、W3<0.4μmとする。ここでは、W3=0.35μmに決定した。
【0101】
次に、多モード導波路部31の一端31aにおける1次モードのTE偏波の伝播定数が、結合部51の一端51aにおける基本モードのTE偏波の伝播定数よりも大きくなる条件で、結合部51の一端51aの幅W4を決定する。多モード導波路部31の一端31aの幅W2をW2=0.6μmとする。
図10に示すように、光導波路コアの幅が0.6μmのときの1次モードのTE偏波の等価屈折率は、光導波路コアの幅が0.28よりも小さい条件における、基本モードのTE偏波の等価屈折率よりも大きくなる。従って、結合部51の一端51aの幅W4をW4<0.28μmとする。ここでは、W4=0.1μmに決定した。
【0102】
次に、多モード導波路部31の他端31bにおける基本モードのTE偏波の伝播定数が、結合部51の他端51bにおける基本モードのTE偏波の伝播定数よりも大きくなる条件で、結合部51の他端51bの幅W5を決定する。この条件は、W3>W5>W4を満たすことで達成される。ここでは、W5=0.25μmに決定した。
【0103】
また、多モード導波路部31と結合部51との中心間距離W6、及び双方向結合領域60の長さ(結合長)L1は、多モード導波路部31を伝播する1次モードのTE偏波と結合部51を伝播する1次モードのTE偏波とで結合が生じる寸法で設計する。ここでは、中心間距離W6=0.78μm、及び結合長L1=100μmに決定した(
図6参照)。
【0104】
以上に説明した設計の双方向結合領域60について、発明者は、BPM(Beam Propagation Method)を用いて特性を評価した。その結果、多モード導波路部31を伝播する1次モードのTE偏波と結合部51を伝播する基本モードのTE偏波との結合効率は、−0.15dB程度であった。また、多モード導波路部31を伝播する基本モードのTE偏波及びTM偏波が、結合部51に移行しないことが確認された。この結果から、双方向結合領域60が、一方の偏波の特定のモードに対する変換及び分離機能を有することが確認された。