(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。なお、以下の実施の形態において、同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰返さない。
【0017】
図1は、ピストン10が下死点の位置にあるときの内燃機関1の模式図である。本実施の形態における内燃機関は、たとえばディーゼルエンジンであって、クランクケース2およびシリンダ3を一体化したシリンダブロックを備えている。シリンダ3は、円筒状の内周面4を有している。シリンダ3は、その内部に形成されたシリンダボア内に、ピストン10を収容している。内周面4は、シリンダボアの内壁面の一部を形成している。
【0018】
ピストン10は、シリンダ3の内部を、円筒状のシリンダ3の軸方向(
図1中の上下方向)に往復移動可能に設けられている。ピストン10は、アルミニウムまたは鉄系材料などの、金属材料により形成されている。
【0019】
ピストン10の上側には、3つのピストンリングが設けられている。ピストンリングは、トップリング11、セカンドリング12、およびオイルリング13を含んで構成されている。ピストンリングは、ピストン10とシリンダ3の内周面4との隙間をシールしてガスの漏れを防止するとともに、シリンダ3の内周面に付着しているオイルの余剰分をクランクケース2側へ掻き落とす機能を有している。トップリング11は、主にガスの漏れを防止するためのものであり、オイルリング13は、主にオイルを掻き落とすためのものである。セカンドリング12は、トップリング11のガスシール機能を補助するとともに、オイルリング13のオイル掻き落とし機能を補助するために、設けられている。
【0020】
クランクケース2内には、ピストン10の往復運動を回転運動に変換する、クランクシャフト20が収容されている。クランクシャフト20とピストン10とは、コネクティングロッド22を介して、接続されている。クランクシャフト20とコネクティングロッド22とは、クランクピン23により連結されている。ピストン10とコネクティングロッド22とは、ピストンピン24により連結されている。クランクシャフト20には、カウンタウェイト21が取り付けられている。カウンタウェイト21は、ピストン10およびコネクティングロッド22の運動により生じる慣性力を軽減するために、設けられている。
【0021】
図2は、ピストン10が上死点の位置にあるときの内燃機関1の模式図である。シリンダブロックの内部空間のうち、ピストン10よりもクランクケース2側の空間の容積は、ピストン10の往復運動に伴って変化する。
図1に示す、ピストン10が下死点の位置にあるとき、ピストン10よりもクランクケース2側の空間の容積は最も小さくなっている。ピストン10が下死点から上死点へ向けて上昇するに従って当該空間の容積が増加し、
図2に示すピストン10が上死点の位置にあるとき最大になっている。
【0022】
ピストン10の往復運動に伴って、ピストン10よりもクランクケース2側の空間の内部の気圧が変化している。
図1に示すピストン10が下死点の位置にあるとき、クランクケース2の内圧は最大になっている。
図2に示すピストン10が上死点の位置にあるとき、クランクケース2の内圧は最小になっている。ピストン10がシリンダ3内で往復運動を繰り返すことにより、クランクケース2内の圧力も変化を繰り返す。クランクケース2の内圧は、ピストン10の往復運動に従って、脈動している。
【0023】
図3は、ピストン10およびピストンリングの断面図である。
図1および
図2に示すピストン10は、ピストン10の頂面を構成するピストンクラウン31と、円筒状の外周面32とを有している。
図3ではピストンクラウン31は平坦な形状に図示されているが、ピストンクラウン31の中心部が一部窪んで燃焼室が形成されていてもよい。
【0024】
ピストン10の外周面32には、ピストンクラウン31に近い側から順に、3つのリング溝33,34,35が形成されている。リング溝33,34,35は、それぞれ、円筒状の外周面32の周方向に延びている。リング溝33内には、トップリング11が装着されている。リング溝34内には、セカンドリング12が装着されている。リング溝35内には、オイルリング13が装着されている。
【0025】
ピストン10の内部には、中空空間36が形成されている。ピストン10の内部に形成された中空空間36は、
図1,2に示すクランクケース2の内部空間と連通している。上述した通り、クランクケース2の内部空間の気圧は、ピストン10の往復運動に伴って変動する。そのため、ピストン10の内部の中空空間36内の気圧もまた、ピストン10の往復運動に伴って、周期的に増減を繰り返すことになる。
【0026】
中空空間36の一部に、筒状空間37が形成されている。筒状空間37は、セカンドリング12が装着されているリング溝34に対して径方向内側に、配置されている。ピストン10はさらに、可動部材50を備えている。可動部材50は、リング溝34と、中空空間36の一部を構成する筒状空間37とに亘って、配置されている。
【0027】
図4は、ピストンリングの一例の、セカンドリング12の斜視図である。セカンドリング12には、
図4に示すように、円形の一部が切れた合口隙間12aが形成されている。セカンドリング12は、C字形状の外形を有している。セカンドリング12には、径方向外側へ向かう張力が作用している。セカンドリング12には、
図1,2に示すシリンダ3の内周面4に押し付けられる向きの張力が作用している。この張力の作用によって、セカンドリング12は、シリンダ3の内周面4に密着している。セカンドリング12は、最適な張力で径方向外側へ広がる特性を有するように、その形状が規定されている。
【0028】
図5は、ピストン10の内部に配置された可動部材50の断面図である。
図5には、
図1,2を参照して説明したセカンドリング12の装着されたリング溝34、および、
図3を参照して説明した筒状空間37が図示されている。可動部材50は、リング溝34と筒状空間37とに亘って配置されている。可動部材50は、リング溝34側に設けられた押圧部51と、筒状空間37内に配置された受圧部61と、押圧部51および受圧部61を連結するシャフト部56とを有している。
【0029】
押圧部51は、リング溝34内に配置された溝側端部53を有している。溝側端部53は、可動部材50の、径方向外側(
図5中の左側)の端面を形成している。溝側端部53は、セカンドリング12の内周面12sに対向している。溝側端部53は、セカンドリング12を径方向外側へ向けて押圧する、押圧面としての機能を有している。受圧部61は、筒状空間37内に配置された空間側端部63を含んでいる。空間側端部63は、可動部材50の、径方向内側(
図5中の右側)の端面を形成している。空間側端部63は、可動部材50の、セカンドリング12から離れる側の端部である。空間側端部63は、中空空間36内の気圧を受ける受圧面としての機能を有している。
【0030】
押圧部51は、溝側端部53に近づくにつれて外形が増大している。押圧部51は、溝側端部53に向けて広がる形状の、テーパ面54を有している。テーパ面54は、錐体の錐面形状に形成されている。溝側端部53は、当該錐体の底面の一部を形成している。テーパ面54は、たとえば円錐面形状を有している。また押圧部51には、溝側端部53の一部が窪んだ凹部52が形成されている。
【0031】
ピストン10には、リング溝34の内周面が径方向内側(
図5中の右側)に窪んだ形状の凹部が形成されている。この凹部の内壁面は、リング溝34から離れるにつれて窄まる形状の、テーパ面38として形成されている。テーパ面38は、可動部材50のテーパ面54に対応する形状に形成されている。テーパ面38は、テーパ面54と同様の錐体の水面形状に形成されている。
図5に示す状態では、可動部材50のテーパ面54は、ピストン10のテーパ面38に面接触している。これにより、可動部材50とピストン10とは隙間なく密着しており、可動部材50はピストン10に気密に接触している。このとき、リング溝34と筒状空間37とは非連通の状態である。
【0032】
ピストン10には、テーパ面38の頂部からさらに径方向内側に延びる空間が形成されており、可動部材50のシャフト部56は、当該空間内に収容されている。シャフト部56は、ピストン10の径方向に延在する棒状の形状を有している。シャフト部56の、径方向外側(
図5中の左側)の端部に、押圧部51が接続されている。シャフト部56の、径方向内側(
図5中の右側)の端部に、受圧部61が接続されている。
【0033】
受圧部61は、平板状の形状を有している。当該平板の一方の主表面が、空間側端部63を形成している。当該平板の他方の主表面は、対向面62を形成している。受圧部61は、円板状の外形を有していてもよい。ピストン10の内部には、
図5中に示す端面37aおよび内周面37bが設けられており、端面37aおよび内周面37bは筒状空間37を規定している。端面37aおよび内周面37bは、ピストン10の内部の中空空間36の内壁面の一部を構成している。
【0034】
端面37aは、筒状空間37の端面を構成している。受圧部61の対向面62は、端面37aに対向している。対向面62と端面37aとが平行になるように、受圧部61は筒状空間37内に配置されている。内周面37bは、筒状空間37の内周面を構成している。
【0035】
受圧部61には、ネジ穴65が形成されている。ネジ穴65の内周面には、めねじ形状が形成されている。ネジ穴65は、対向面62から空間側端部63に向かって、平板の厚み方向に沿って形成されている。ネジ穴65は、受圧部61を厚み方向に貫通していてもよい。シャフト部56の受圧部61側の端部には、ネジ形状部55が形成されている。ネジ形状部55の外周面には、おねじ形状が形成されている。ネジ形状部55がネジ穴65内にねじ込まれることで、シャフト部56と受圧部61とが結合されている。
【0036】
平板状の受圧部61の周縁には、弾性部66が設けられている。弾性部66は、Oリング形状などの、受圧部61の周縁の全体を取り囲む形状を有している。弾性部66は、ゴム材料などの、弾性変形可能な材料により形成されている。弾性部66は、筒状空間37の内周面37bと接触している。弾性部66は、筒状空間37の内周面37bから応力を受けて、僅かに弾性変形した状態で、筒状空間37内に配置されている。これにより弾性部66は、筒状空間37の内周面37bに対し、気密に接触している。
【0037】
受圧部61は、筒状空間37を径方向内側(
図5中の右側)の空間と径方向外側(
図5中の左側)の空間とに仕切っている。弾性部66は、当該2つの空間を非連通の状態にしており、当該2つの空間の相互間の空気の流れを妨げている。
【0038】
筒状空間37の端面37aと、受圧部61の対向面62との間には、バネ68が配置されている。バネ68は、シャフト部56の外周に配置されており、シャフト部56によって支持されている。バネ68は、コイルばねであってもよい。バネ68の一端は筒状空間37の端面37aに接触しており、バネ68の他端は受圧部61の対向面62に接触している。可動部材50の、ピストン10の径方向(
図5中の左右方向)への移動に従って、バネ68は、その長さを変化させる。
【0039】
図5に示す、押圧部51のテーパ面54がピストン10側のテーパ面38に面接触している状態で、バネ68は、自然長に対して縮んだ状態である。そのため、バネ68は、自然長に戻ろうとする弾性力を、受圧部61に対して作用している。受圧部61に作用するバネ68の弾性力の向きは、ピストン10の径方向の内向きである。バネ68の弾性力を受けて、可動部材50には、リング溝34から筒状空間37へ向かう方向の力が作用する。バネ68は、可動部材50を中空空間36へ向かう方向に付勢する付勢部材としての機能を有している。
【0040】
図5に示す可動部材50は、受圧部61を構成している板状の部材と、押圧部51およびシャフト部56が一体化された部材と、を含んでいる。リング溝34と中空空間36とを連通する経路内に、押圧部51およびシャフト部56が一体化された部材をリング溝34側から挿通し、シャフト部56の端部を中空空間36内に露出させる。その後、このシャフト部56の端部にバネ68を取り付け、さらに受圧部61を固定する。このようにして、ピストン10の内部に、可動部材50が取り付けられる。
【0041】
図6は、可動部材50がリング溝34側へ移動した状態を示す断面図である。上述した可動部材50の受圧部61の空間側端部63には、中空空間36内の気圧が作用する。受圧部61は、中空空間36内の気圧の変動を受けて、筒状空間37の内周面37bに対して摺動する。
【0042】
中空空間36内の気圧が増加するとき、筒状空間37内の気圧もまた増加する。この増加した気圧により、
図6中の白抜き矢印Pで示す圧力が、受圧部61の空間側端部63に作用する。この圧力を受けて、可動部材50は、リング溝34へ向かう方向に移動する。可動部材50が移動すると、押圧部51の溝側端部53が、セカンドリング12の内周面12sに接触する。可動部材50にさらに圧力が作用すると、可動部材50からセカンドリング12に対して、セカンドリング12を径方向外側(
図6中の左側)へ押圧する、
図6中に矢印Fで示す力が作用する。可動部材50は、セカンドリング12の内周面12sを、径方向外側へ向けて押圧する。
【0043】
中空空間36内の気圧が減少するとき、筒状空間37内の気圧もまた減少する。この気圧の減少により、
図6中の白抜き矢印Pで示す圧力が受圧部61に作用しなくなる。このとき、上述したバネ68の弾性力によって、可動部材50は、筒状空間37へ向かう方向に移動する。可動部材50が移動すると、押圧部51の溝側端部53がセカンドリング12の内周面12sから離れ、可動部材50とセカンドリング12とは非接触となる。これにより、可動部材50がセカンドリング12に作用する力が除かれる。
【0044】
さらに、可動部材50の筒状空間37へ向かう移動によって、押圧部51のテーパ面54がピストン10のテーパ面38に面接触した、
図5に示す状態になる。テーパ面54とテーパ面38とが気密に接触することにより、リング溝34と中空空間36とが非連通となる。可動部材50は、中空空間36へ向かう方向に移動して、リング溝34と中空空間36との連通を遮断する。
【0045】
可動部材50は、
図4に示す略円形状のセカンドリング12の内周面12sの複数個所を押圧できるように、複数個設けられる。複数個の可動部材50は、各々の間隔が互いに等しくなるように、均等に配置されるのが望ましい。たとえば、可動部材50を4つ設ける構成とする場合には、隣接する可動部材50のシャフト部56の延びる方向が90°の角度を形成するように、可動部材50を配置してもよい。
【0046】
図7は、
図1,2に示すクランクケース2内の、気圧の脈動を示すグラフである。
図7の横軸は、ピストン10の行程を示しており、TDCは上死点の位置、BDCは下死点の位置をそれぞれ示している。
図7の縦軸は、クランクケース2内の内圧(単位:kPa)を示している。
図7には、異なる2機種の内燃機関1について、ピストン10の上死点から下死点までの往復運動によって発生するクランクケース2の内圧の脈動が、実線および点線を用いて図示されている。
【0047】
図7を参照して、ピストン10が上死点付近にあるとき、クランクケース2の内圧は相対的に小さい。ピストン10が下死点付近にあるとき、クランクケース2の内圧は相対的に大きい。ピストン10が往復運動を繰り返すことにより、クランクケース2の内圧も、増加と減少とを繰り返している。
【0048】
ピストン10が上死点付近にあるとき、クランクケース2内の気圧が相対的に小さいため、可動部材50の受圧部61を径方向外側に押圧する圧力よりも、バネ68が受圧部61を径方向内側に押圧する弾性力の方が大きい。そのため、可動部材50は中空空間36(筒状空間37)に向かう方向に移動して、
図5に示す、セカンドリング12と可動部材50とは非接触であり、かつ、テーパ面54がテーパ面38と気密に接触する状態になる。
【0049】
ピストン10が下死点付近にあるとき、クランクケース2内の気圧が相対的に大きいため、バネ68が可動部材50の受圧部61を径方向内側に押圧する弾性力よりも、受圧部61を径方向外側に押圧する圧力の方が大きい。そのため、可動部材50はリング溝34に向かう方向に移動して、
図6に示す、セカンドリング12の内周面12sを可動部材50が径方向外側へ向けて押圧する力が発生し、かつ、テーパ面54とテーパ面38とは非接触である状態になる。
【0050】
図8は、ピストン10が上死点付近の位置にあるときの、シリンダとピストンリングとの相対位置を示す断面図である。上述した通り、ピストン10が上死点付近にあるときには、可動部材50がセカンドリング12に作用する力は発生しない。そのため、セカンドリング12には、セカンドリング12自身の形状によって規定される、径方向外向きの張力が作用する。
【0051】
このとき、セカンドリング12の張力が過大となることが防止されるので、上死点付近でのピストン10の移動に対する摩擦抵抗が増大することを回避できる。したがって、ピストン10の往復運動のために必要な動力を低減できるので、内燃機関1の効率を向上することができる。また、ピストン10が上死点へ向かって上昇するときに、シリンダ3の内周面4に付着したオイル90がセカンドリング12で掻き上げられて燃焼室に到達することを抑制できる。したがって、燃焼室に到達したオイルが無駄に排気されることを回避でき、オイル90の消費量を低減することができる。
【0052】
図9は、ピストンが下死点付近で下方へ移動するときの、シリンダとピストンリングとの相対位置を示す断面図である。上述した通り、ピストン10が下死点付近にあるときには、セカンドリング12に対し、可動部材50がセカンドリング12を径方向外側へ押圧する力が作用する。そのため、セカンドリング12に対して作用する径方向外向きの力が増大し、セカンドリング12は、シリンダ3の内周面4に対して、より大きな力で押し付けられる。
【0053】
これにより、
図9中の矢印Dで示すように、ピストン10が下死点へ向かって下降するとき、シリンダ3の内周面4に付着したオイル90がセカンドリング12によって掻き落とされる。オイル90を掻き落とすときのセカンドリング12の張力を上げ、シリンダ3の内周面4に残存するオイル90の量を少なくすることで、オイル90が燃焼室へ到達することをより確実に防止でき、オイル90の消費量を効果的に低減することができる。セカンドリング12に作用する張力は、クランクケース2内の気圧の増減に従って可変とされる構成であるので、従来のような油圧システムは必要なく、簡単な構造でセカンドリング12の張力を調整することができる。
【0054】
本実施の形態のピストン10は、可動部材50を用いたピストンリングの張力増加の有無が、ピストン10が上死点と下死点との中間の特定の位置に到達したときに切り換わるように、最適に設計される。たとえば、上死点と下死点との距離を二等分した中心位置にピストンが到達したときに、可動部材50のピストンリングへの接触と非接触とが切り換わるように、設定されてもよい。下死点の近傍でピストンリングの張力を大きくし、下死点へ向かって下降するときに十分にオイルを掻き落とし、掻き残す油膜を少なくできれば、その後上昇に転じたときのオイルの掻き上げを抑制できると考えられる。上死点の近傍ではピストンリングの張力が小さくなるので、オイルの掻き上げ作用も小さくなり、燃焼室へのオイルの到達をより確実に抑制することができる。
【0055】
上述した説明と一部重複する部分もあるが、本実施の形態の特徴的な構成を以下、列挙する。本実施の形態のピストン10は、
図3に示すように、円筒状の外周面32を備えており、外周面32には、周方向に延びるリング溝34が形成されている。ピストン10の内部には、中空空間36が形成されている。
図7に示すように、中空空間36内の気圧は、ピストン10の往復運動に従って、周期的に増減を繰り返す。
図3,5に示すように、ピストン10は、リング溝34と中空空間36の一部の筒状空間37とに亘って配置された、可動部材50をさらに備えている。
【0056】
中空空間36内の気圧が増加するとき、
図6に示すように、可動部材50はリング溝34へ向かう方向に移動する。可動部材50がセカンドリング12に接触して応力を作用することにより、セカンドリング12に作用する張力が増大している。中空空間36内の気圧が減少するとき、
図5に示すように、可動部材50は中空空間36へ向かう方向に移動する。可動部材50がセカンドリング12に対し非接触となることにより、セカンドリング12に作用する張力が減少している。ピストン10の内部の中空空間36の内圧の脈動を利用してセカンドリング12に作用する張力を変化させる構成であるので、従来のような複雑な油圧経路は不要であり、簡単な構造でセカンドリング12の張力を調整することができる。
【0057】
セカンドリング12は、その形状を調整することで、セカンドリング12自身が径方向外側へ広がろうとする張力を任意に設定できる。本実施の形態によれば、可動部材50を用いてセカンドリング12に作用する張力を増大できるので、セカンドリング12自身の形状調整によってセカンドリング12に作用する張力を、小さく設定できる。これにより、上死点の近傍において可動部材50から力を受けない状態での、シリンダ3の内周面4に対するセカンドリング12の摩擦抵抗をより低減できるので、ピストン10の往復運動に必要な動力を効果的に低減することができる。
【0058】
リング溝34内には、燃料に含まれていたカーボンの未燃分などの不純物が流入する場合がある。不純物がリング溝34内に堆積して固着すると、セカンドリング12がリング溝34に対して固定されてしまい、所望のガスリーク性能およびオイル掻き落とし性能を発揮できない場合がある。本実施の形態の構成によると、セカンドリング12が可動部材50によって押圧される状態と、押圧されない状態とが、交互に繰り返し形成される。これにより、セカンドリング12が径方向に微小に振動する。この振動によって、リング溝34内に不純物が堆積することを抑制でき、リング溝34内への不純物の固着を抑制することができる。
【0059】
また
図5,6に示すように、ピストン10は、可動部材50を中空空間36へ向かう方向に付勢する、付勢部材としてのバネ68を備えている。中空空間36内の気圧が減少して、可動部材50に作用する気圧がバネ68の弾性力を下回ると、バネ68による弾性力のために、可動部材50は中空空間36へ向かう方向に移動する。したがって、中空空間36内の気圧の変化に従って、可動部材50を確実に移動させることができ、セカンドリング12と可動部材50との接触と非接触とを確実に切り換えて、セカンドリング12に作用する張力を調整することができる。
【0060】
また
図5に示すように、可動部材50は、中空空間36へ向かう方向に移動して、リング溝34と中空空間36との連通を遮断する。可動部材50がセカンドリング12に接触しない状態で、リング溝34と中空空間36とを非連通にすることで、リング溝34および中空空間36を経由してブローバイガスがクランクケース2側へ漏れ出すことを抑制できる。ガスリーク防止性能を確保することにより、ブローバイガスがオイル性能を低下させるなどの不具合を、確実に抑制することができる。
【0061】
なお、
図6に示す、可動部材50がリング溝34へ向かう方向に移動した状態で、リング溝34と中空空間36とは、互いに連通されている。しかしながら、この状態においては、ピストン10の内部の中空空間36の圧力が高いので、リング溝34から中空空間36へ向かうガスの流れを抑制できる。したがって、ガスリーク防止性能を確保することができる。
【0062】
また
図5に示すように、可動部材50は、リング溝34内に配置された溝側端部53と、溝側端部53に向けて広がるテーパ面54とを有している。このようにすれば、可動部材50が中空空間36へ向かう方向に移動すると、ピストン10の表面の一部にテーパ面54が面接触する構成にでき、リング溝34と中空空間36との連通をより確実に遮断することができる。
【0063】
また
図6に示すように、可動部材50は、受圧部61を有している。受圧部61は、中空空間36内の気圧の変動を受けて、中空空間36の内壁面である内周面37bを摺動する。受圧部61が中空空間36内の気圧の変動を受けて移動することにより、中空空間36内の気圧の増減を利用して、簡単な構造でセカンドリング12に作用する張力を調整することができる。
【0064】
また
図6に示すように、受圧部61は、その周縁に、弾性変形可能な弾性部66を有している。このようにすれば、受圧部61と内周面37bとの間の気密性を向上できるので、リング溝34および中空空間36を経由してブローバイガスがクランクケース2側へ漏れ出すことを、より確実に抑制することができる。
【0065】
また
図3,6に示すように、リング溝34内には、セカンドリング12が装着されている。可動部材50は、中空空間36内の気圧が増加するとき、セカンドリング12の内周面12sを径方向外側へ向けて押圧する。このようにすれば、中空空間36内の気圧の増加時に、可動部材50がセカンドリング12を押圧してセカンドリング12の張力を増加することができる。複数のピストンリングのうち、張力を調整する対象をセカンドリング12にすることで、中空空間36内の気圧の増減を用いたピストンリングの張力の調整がより容易になる。
【0066】
本実施の形態の内燃機関1は、
図1,2に示すように、シリンダ3と、シリンダ3内を往復運動する上記のいずれかの局面のピストン10と、ピストン10の往復運動を回転運動に変換するクランクシャフト20と、クランクシャフト20を収容するクランクケース2とを備えている。ピストン10の内部に形成された中空空間36は、クランクケース2の内部空間と連通している。
図7に示すように、クランクケース2の内圧は、ピストン10の往復運動に従って、周期的に増減を繰り返す。中空空間36の内圧は、クランクケース2の内圧に従って、周期的に変動する。したがって、クランクケース2の内圧の脈動を利用してセカンドリング12に作用する張力を変化させることができ、簡単な構造でセカンドリング12の張力を調整することができる。
【0067】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。