特許第6194858号(P6194858)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194858
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】イオン化室
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20170904BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20170904BHJP
   H01J 49/06 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   G01N27/62 X
   G01N27/62 E
   G01N30/72 G
   H01J49/06
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-132302(P2014-132302)
(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公開番号】特開2016-11847(P2016-11847A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2016年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】福井 航
(72)【発明者】
【氏名】向畑 和男
【審査官】 吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0250608(US,A1)
【文献】 国際公開第2013/111485(WO,A1)
【文献】 特開平10−185876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60−70、92
G01N 30/72
H01J 49/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフ部と質量分析部との間に配置されたイオン化室であって、
前記液体クロマトグラフ部から送られてきた液体試料をイオン化しつつ、前記イオン化室内でZ方向に噴霧する噴霧手段と、
前記イオン化室内で前記Z方向に対して垂直となる水平方向に入口部が形成されるとともに、前記質量分析部内にイオンを導入するための出口部が形成されたイオン導入管とを備え、
前記イオン導入管の入口部の開口、Z方向に噴霧された液体試料における噴霧流のXY面での広がりの周端の内側にくるように配置されることを特徴とするイオン化室。
【請求項2】
前記入口部の開口の大きさは、Z方向より水平方向に長くなっていることを特徴とする請求項1に記載のイオン化室。
【請求項3】
前記入口部は、複数個の入口を有し、
複数個の入口は、同一のXY面に配置されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のイオン化室。
【請求項4】
前記複数個の入口は、同じX方向となるように配置されていることを特徴とする請求項3に記載のイオン化室。
【請求項5】
前記複数個の入口は、それぞれ異なる方向となるように配置されていることを特徴とする請求項3に記載のイオン化室。
【請求項6】
前記入口部は、Z方向より水平方向に長くなる入口を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のイオン化室。
【請求項7】
前記イオン化室内は大気圧であり、
前記質量分析部内は真空であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のイオン化室。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン化室に関し、さらに詳しくは、液体クロマトグラフ部から送られてきた液体試料をイオン化するイオン化室と、イオン化室からイオンが導入される質量分析部とを備える液体クロマトグラフ質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ質量分析装置(LC/MS)は、液体試料を成分毎に分離して溶出する液体クロマトグラフ部(LC部)と、LC部から溶出してきた試料成分をイオン化するイオン化室(インタフェース部)と、イオン化室から導入されたイオンを検出する質量分析部(MS部)とから構成される。このようなイオン化室では、液体試料をイオン化するために様々なイオン化手法が用いられているが、大気圧化学イオン化法(APCI)やエレクトロスプレーイオン化法(ESI)等の大気圧イオン化法が広く用いられている。
【0003】
具体的には、APCIでは、LC部のカラムの末端に接続されたノズルの先端をイオン化室の内部に向けて配設するとともに、ノズルの先端の前方に針電極を配置している。そして、ノズルにおいて加熱により霧化した試料の液滴に、針電極からのコロナ放電により生成したキャリアガスイオン(バッファイオン)を化学反応させてイオン化している。また、ESIでは、LC部のカラムの末端に接続されたノズルの先端をイオン化室の内部に向けて配設するとともに、ノズルの先端部に5kV程度の高電圧を印加して強い不平等電界を発生させる。これにより、液体試料は電界により電荷分離し、クーロン引力により引きちぎられて霧化する。その結果、周囲の空気に触れて試料の液滴中の溶媒は蒸発し、気体イオンが発生する。
【0004】
このようなAPCIやESIでは、大気圧に近い状態で液体試料をイオン化するため、高い圧力状態(つまり大気圧に近い状態)にあるイオン化室と、ごく低い圧力状態(つまり高真空度の状態)にあるMS部との間での圧力差を確保するため、イオン化室とMS部との間に中間室等を設け、段階的にその真空度を高めるようにする構成が採用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図7は、ESI法を用いた液体クロマトグラフ質量分析装置の一例を示す概略構成図である。なお、地面に水平な一方向をX方向とし、地面に水平でX方向と垂直な方向をY方向とし、X方向とY方向とに垂直な方向をZ方向とする。
液体クロマトグラフ質量分析装置101は、液体クロマトグラフ部(LC部)60とイオン化室200と質量分析部50とを備える。また、質量分析部50には、イオン化室200に隣接する第1中間室12と、第1中間室12に隣接する第2中間室13と、第2中間室13に隣接する質量分析室(MS部)14とがそれぞれ隔壁を介して連続的に設けられている。
【0006】
LC部60にて成分分離された液体試料は、流路155を介して供給される。また、ネブライズガス(窒素ガス)が、流路156を介して供給される。その結果、液体試料とネブライズガスとは、スプレー15に導かれて噴霧されることになる。
【0007】
ここで、図8は、スプレーの側面図であり、図8(b)は、図8(a)に示すAの拡大断面図である。スプレー(噴霧手段)15は、プローブ本体部151と、液体試料を噴霧するノズル152とを有する。
ノズル152は、プローブ本体部151の下方に突出するよう形成された二重管構造になっている。流路155を介して供給される液体試料は内部円管(例えば、直径外径0.27mm)152bの内側から噴出される。一方、流路156から供給される窒素ガスは内部円管152bと外部円管(例えば直径内径0.37mm)152aとの間から噴射される。このようにすることにより、噴出された液体試料は、内部円管152bの周囲に噴射されるネブライズガスとの衝突作用により霧状態となって噴霧される。また、外部円管152aの先端に電圧源(図示せず)から5kV程度の高電圧が印加されるように配線(図示せず)が接続されており、イオン化が行われるようになっている。
【0008】
そして、ノズル152は、プローブ本体部151に対して位置調節ツマミ(図示せず)によりZ方向に直交するXY面内の所定範囲で略平行に移動可能となっており、適宜に位置を調整した後に位置固定ツマミ等により位置を固定することができるようになっている。さらに、ノズル152は、プローブ本体部151に対してZ方向に抜き差し(突出量の調整)ができるようになっており、適宜に位置を調整した後にナット等により位置を固定することができるようになっている。
なお、図8において、スプレー15はESI用のものであるが、一般的にスプレー15はイオン化室200に対し着脱自在になっており、APCI法を用いる場合には、スプレー15を取り外し、その代わりに放電用の針電極がユニット化されたAPCI用のものをイオン化室200に取り付けることになる。
【0009】
イオン化室200は、13cm×13cm×12cmの直方体形状のチャンバ210を備える。チャンバ210は、上面と前面と右側面と後面(隔壁26)と左側面と下面とを有する。このように上下左右および前後の6面が囲まれることで、イオン化室200の内部空間が形成されている。
そして、上面には、上下方向(Z方向)に連通する円形状の開口部(図示せず)が形成されており、開口部にスプレー15が上方向から取り付けられるようになっている。また、下面には、ドレイン211が形成されており、不要な液体試料はドレイン211から外部へ排出されるようになっている。
【0010】
さらに、隔壁26は、チャンバ210の内部と第1中間室12の内部とを仕切るように配置され、隔壁26の中央部には、温調機構(図示せず)が内蔵された直方体形状のヒータブロック20が固定してある。図9は、図7に示すイオン化室200の隔壁26に設けられるヒータブロック20の構造図である。
ヒータブロック20には、チャンバ210の内部に入口が配置されるとともに、第1中間室12の内部に出口が配置される1本の脱溶媒管(イオン導入管)119が形成されている。脱溶媒管119は、中心軸がX方向となる円管形状(例えば、直径外径1.6mm、内径0.5mm)となっている。これにより、脱溶媒管119の入口は、ノズル152からの試料噴霧方向(Z方向)に対して略直角方向(X方向)に向けてあり、噴霧された巨大な試料の液滴がそのまま脱溶媒管119内に飛び込むことを防ぐようにしてある。
【0011】
そして、ヒータブロック20には、チャンバ210の内部に出口が配置される6本のドライガス管218が形成されている。各ドライガス管218は、中心軸がX方向となる円管形状(例えば、直径0.5mm)となっており、6本のドライガス管218は、脱溶媒管119を中心とした円形状に等間隔に並ぶように配置されている。
このようなチャンバ210の隔壁26によって、ノズル152により噴霧されたイオンや微細な試料の液滴が脱溶媒管119の内部を通過するときに、加熱作用や衝突作用により脱溶媒化、イオン化が促進されるようになっている。
【0012】
第1中間室12の内部には、第1イオンレンズ21が設けられ、第1中間室12の下面には、油回転ポンプ(RP)で約10Paに真空排気するための排気口31が設けられている。第1中間室12と第2中間室13との間の隔壁には、細孔(オリフィス)を有するスキマー22が形成され、この細孔を介して第1中間室12の内部と第2中間室13の内部とが連通する。
第2中間室13の内部には、オクタポール23とフォーカスレンズ24とが設けられ、第2中間室13の下面には、ターボ分子ポンプ(TMP)で約10−1Pa〜10−2Paに真空排気するための排気口32が設けられている。第2中間室13と質量分析室14との間の隔壁には、細孔を有する入口レンズ25が設けられ、この細孔を介して第2中間室13の内部と質量分析室14の内部とが連通する。
【0013】
質量分析室14の内部には、第1四重極16と第2四重極17と検出器18とが設けられ、質量分析室14の下面には、ターボ分子ポンプ(TMP)で約10−3Pa〜10−4Paに真空排気するための排気口33が設けられている。
このような液体クロマトグラフ質量分析装置101において、イオン化室200で生成されたイオンは、脱溶媒管119、第1中間室12内の第1イオンレンズ21、スキマー22、第2中間室13内のオクタポール23およびフォーカスレンズ24、入口レンズ25を順に経て質量分析室14に送られ、四重極16、17により不要イオンが排出され、検出器18に到達した特定イオンのみが検出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2001−343363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上述したような液体クロマトグラフ質量分析装置101では、脱溶媒管119は1本のパイプで構成されており、脱溶媒管119の内部を通過するものは、ノズル152から噴霧された全液体試料のうちの一部の液体試料だけであり、ほとんどの液体試料はそのままドレイン211から排出されていた。そのため、液体試料は有効利用されず、また、一部の液体試料のみしか分析に寄与させることができないことから検出感度を向上させることができない原因となっていた。
なお、液体クロマトグラフ質量分析装置101では、液体試料を噴霧するノズル152と脱溶媒管119の入口との適切な位置関係は、測定する液体試料の種類やネブライズガスの流量等の測定条件によって異なるため、分析を行う前にノズル152と脱溶媒管119の入口との位置関係等を適切に調整しているが、ほとんどの液体試料はそのままドレイン211から排出されていた。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するために、本件発明者らは、ノズル152から噴霧された液体試料を脱溶媒化しつつ質量分析部に送り込んで有効に分析に寄与させる方法について検討を行った。
内径0.5mmのノズル152から噴霧された液体試料の噴霧流は、Z方向へ進行するにつれて広がっていき最終的には±2mm〜4mm程度の直径の円形状になる。図10(a)は、ノズル152から噴霧された液体試料の噴霧流の側面図であり、図10(b)は、図10(a)に示すXY平面の断面図である。図11は、ノズル152から噴霧された液体試料の噴霧流の広がりを説明するための図である。
【0017】
イオン化された液体試料(荷電液滴)は、大気圧下のチャンバ210の内部に噴出され、約10Paに保たれた第1中間室12の内部との圧力差によって脱溶媒管119内へと引き込まれることになるが、脱溶媒管119とは直交方向(Z方向)に勢いよく噴射されるので、脱溶媒管119から遠い部分を流通することになる荷電液滴については脱溶媒管119内に取り込まれずに、ドレイン211から排出されていることがわかった。
【0018】
そこで、脱溶媒管119内に取り込むイオン(荷電液滴)の総量を上げるために、脱溶媒管119の内径dを拡大することが考えられる。ここで、一般的な管内の流れの状態は、下記式(1)のように定義されるレイノルズ数Reの数値で判断できる。
Re=ρUd/μ ・・・(1)
なお、μは流体の粘性係数(Pa・s)であり、ρは流体の密度(kg/m)であり、Uは流速(m/s)であり、dは管の内径(m)である。
【0019】
また、図12に示すレイノルズ数Reのグラフのように、レイノルズ数Reが2000を超えると管内の気体の流れは乱流となる。乱流となるとイオンの導入効率は低下する。つまり、脱溶媒管119の内径dを拡大すると、脱溶媒管119内の流れ場が乱れ、イオンの導入効率が落ちることになる。
よって、脱溶媒管(イオン導入管)の内径の大きさは、レイノルズ数Reを考慮した上で、イオン導入管を噴霧流の形状に沿うように配置することで、ノズルから噴霧された液体試料を無駄なくイオン導入管内に取り込むことを見出した。
【0020】
すなわち、本発明のイオン化室は、液体クロマトグラフ部と質量分析部との間に配置されたイオン化室であって、前記液体クロマトグラフ部から送られてきた液体試料をイオン化しつつ、前記イオン化室内でZ方向に噴霧する噴霧手段と、前記イオン化室内で前記Z方向に対して垂直となる水平方向に入口部が形成されるとともに、前記質量分析部内にイオンを導入するための出口部が形成されたイオン導入管とを備え、前記イオン導入管の入口部の開口、Z方向に噴霧された液体試料における噴霧流のXY面での広がりの周端の内側にくるように配置されるようにしている。
【0021】
ここで、「Z方向」とは、噴霧手段によって液体試料が噴霧される方向であり、装置の設計者等によって予め決められた任意の一方向、例えば、下方等となる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明のイオン化室によれば、噴霧流の形状に沿うようにイオン導入管を配置することで、従来はイオン導入管の入口から遠いため質量分析部内に導入されることなく排出されていた荷電液滴もイオン導入管内に取り込むことができ、その結果、検出感度が向上する。
【0023】
(その他の課題を解決するための手段および効果)
また、本発明のイオン化室は、前記入口部の開口の大きさは、Z方向より水平方向に長くなっているようにしてもよい。
ここで、「入口部の開口の大きさ」における水平方向の長さとは、入口部が1個の開口からなるときには、その入口(開口)の水平方向の長さとなり、また、入口部が複数個の開口からなるときには、その複数個の入口(開口)をZ方向から見た際の水平方向の合計長さとなる。そして、同様に「入口部の入口の大きさ」におけるZ方向の長さとは、入口部が1個の開口からなるときには、その入口(開口)のZ方向の長さとなり、また、入口部が複数個の開口からなるときには、その複数個の入口(開口)を水平方向から見た際のZ方向の合計長さとなる。
また、本発明のイオン化室は、前記入口部は、複数個の入口を有し、複数個の入口は、同一のXY面に配置されているようにしてもよい。
本発明のイオン化室によれば、複数本のイオン導入管を並列に配置することで、イオン導入管の内径の総断面積を大きくすることにより、質量分析部内に導入されるイオンの総量を増やしながら、なおかつ、1本1本の管内の流れは乱さずに効率よくイオンを導入することができ、その結果、検出感度が向上する。
【0024】
また、本発明のイオン化室は、複数個の入口は、同じX方向となるように配置されているようにしてもよい。
また、本発明のイオン化室は、複数個の入口は、それぞれ異なる方向となるように配置されているようにしてもよい。
【0025】
そして、本発明のイオン化室は、前記入口部は、Z方向より水平方向に長くなる入口を有するようにしてもよい。
さらに、本発明のイオン化室は、前記イオン化室内は大気圧であり、前記質量分析部内は真空であるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第一実施形態に係るESI法を用いた液体クロマトグラフ質量分析装置の一例を示す概略構成図。
図2図1のイオン化室の隔壁に設けられるヒータブロックの構造を示す図。
図3】ノズルから噴霧された液体試料の噴霧流を示す図。
図4】第二実施形態に係るESI法を用いた液体クロマトグラフ質量分析装置のイオン化室を示す図。
図5】第三実施形態のイオン化室を示す図4同様の図。
図6】第四実施形態のイオン化室を示す図4同様の図。
図7】ESI法による液体クロマトグラフ質量分析装置の一例を示す概略構成図。
図8】スプレーを示す図。
図9図7のイオン化室の隔壁に設けられるヒータブロックの構造を示す図。
図10】ノズルから噴霧された液体試料の噴霧流を示す図。
図11】ノズルから噴霧された液体試料の噴霧流の広がりを説明する図。
図12】レイノルズ数を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0028】
<第一の実施形態>
図1は、第一の実施形態に係るESI法を用いた液体クロマトグラフ質量分析装置の一例を示す概略構成図である。また、図2は、図1に示すイオン化室100の隔壁26に設けられるヒータブロック20の構造図である。さらに、図3(a)は、ノズル152から噴霧された液体試料の噴霧流の側面図であり、図3(b)は、図3(a)に示すXY平面の断面図である。なお、上述した従来の液体クロマトグラフ質量分析装置101と同様のものについては、同じ符号を付している。
液体クロマトグラフ質量分析装置1は、液体クロマトグラフ部(LC部)60とイオン化室100と質量分析部50とを備える。また、質量分析部50には、イオン化室100に隣接する第1中間室12と、第1中間室12に隣接する第2中間室13と、第2中間室13に隣接する質量分析室(MS部)14とがそれぞれ隔壁を介して連続的に設けられている。
【0029】
イオン化室100は、13cm×13cm×12cmの直方体形状のチャンバ110を備える。チャンバ110は、上面と前面と右側面と後面(隔壁26)と左側面と下面とを有する。このように上下左右および前後の6面が囲まれることで、イオン化室100の内部空間が形成されている。
そして、上面には、上下方向(Z方向)に連通する円形状の開口部(図示せず)が形成されており、この開口部にスプレー15が上方向から取り付けられるようになっている。また、下面には、ドレイン111が形成されており、不要な液体試料はドレイン111から外部へ排出されるようになっている。
【0030】
さらに、隔壁26は、チャンバ110の内部と第1中間室12の内部とを仕切るように配置され、隔壁26の中央部には、温調機構(図示せず)が内蔵された直方体形状のヒータブロック20が固定してある。
ヒータブロック20には、チャンバ110の内部に入口が配置されるとともに、第1中間室12の内部に出口が配置されたイオン導入管である、第1脱溶媒管19aと第2脱溶媒管19bと第3脱溶媒管19cとが形成されている。各脱溶媒管19a〜19cは、中心軸がX方向となる円管形状(例えば、直径外径1.6mm、内径0.5mm)となっており、図2に示すように、第1脱溶媒管19aと第2脱溶媒管19bと第3脱溶媒管19cとが、同一のXY平面でこの順にY方向に並ぶように配置されている。
【0031】
そして、図3では、第1脱溶媒管19aの入口と第2脱溶媒管19bの入口と第3脱溶媒管19cの入口とは、同一のZY平面上に配置されているが、ノズル152から噴霧された液体試料の噴霧流は、XY面では円形状になるため、第1脱溶媒管19aの入口と第3脱溶媒管19cの入口とが、第2脱溶媒管19bの入口より−X方向に突出するように配置してもよい。
【0032】
また、ヒータブロック20には、チャンバ110の内部に出口が配置される4本のドライガス管118が形成されている。各ドライガス管118は、中心軸がX方向となる円管形状(例えば、直径0.5mm)となっており、2本のドライガス管118が、脱溶媒管19a〜19cの上方でY方向に並ぶように配置されるとともに、脱溶媒管19a〜19cの下方にも2本のドライガス管118がY方向に並ぶように配置されている。
【0033】
このようなチャンバ110の隔壁26によれば、内径0.5mmのノズル152から噴霧された液体試料の噴霧流は、Z方向へ進行するにつれて広がっていき、最終的には±2mm〜4mm程度の直径の円形状になるが、噴霧流の左端部(−Y側)を流通するイオンは、内径0.5mmの第1脱溶媒管19a内へと引き込まれ、噴霧流の中央部を流通するイオンは、内径0.5mmの第2脱溶媒管19b内へと引き込まれ、噴霧流の右端部(Y側)を流通するイオンは、内径0.5mmの第3脱溶媒管19c内へと引き込まれることになる。
【0034】
以上のように、本発明の液体クロマトグラフ質量分析装置1によれば、噴霧流の形状に沿うように3本の脱溶媒管(イオン導入管)19a〜19cを配置することで、ほとんどの荷電液滴を3本の脱溶媒管19a〜19c内に取り込むことができ、その結果、検出感度が向上する。また、3本の脱溶媒管(イオン導入管)19a〜19cを並列に配置することで、脱溶媒管19a〜19cの内径の総断面積を大きくすることにより、第1中間室12の内部に導入されるイオンの総量を増やしながら、なおかつ、1本1本の脱溶媒管19a〜19c内の流れは乱さずに効率よくイオンを導入することができ、その結果、検出感度が向上する。
【0035】
<第二の実施形態>
図4は、第二の実施形態に係るESI法を用いた液体クロマトグラフ質量分析装置のイオン化室の図である。また、図4(a)は、ノズル152から噴霧された液体試料の噴霧流の側面図であり、図4(b)は、図4(a)に示すXY平面の断面図である。なお、上述した従来の液体クロマトグラフ質量分析装置1と同様のものについては、同じ符号を付している。
イオン化室100は、13cm×13cm×12cmの直方体形状のチャンバ110を備える。チャンバ110は、上面と前面と右側面と後面(隔壁26)と左側面と下面とを有する。
【0036】
隔壁26は、チャンバ110の内部と第1中間室12の内部とを仕切るように配置され、隔壁26の中央部には、温調機構(図示せず)が内蔵された直方体形状のヒータブロック20が固定してある。
ヒータブロック20には、チャンバ110の内部に入口が配置されるとともに、第1中間室12の内部に出口が配置された1本の脱溶媒管(イオン導入管)219が形成されている。脱溶媒管219は、中心軸がX方向となる四角管形状(例えば、長辺1.6mm短辺0.5mm)となっており、長辺がY方向となるように配置されている。
【0037】
このようなチャンバ110の隔壁26によれば、内径0.5mmのノズル152から噴霧された液体試料の噴霧流は、Z方向へ進行するにつれて広がっていき最終的には±2mm〜4mm程度の直径の円形状になるが、噴霧流の左端部を流通するイオンは、脱溶媒管219の左端部内へと引き込まれ、噴霧流の中央部を流通するイオンは、脱溶媒管219の中央部内へと引き込まれ、噴霧流の右端部を流通するイオンは、脱溶媒管219の右端部内へと引き込まれることになる。
【0038】
<第三の実施形態>
図5は、第三の実施形態に係るESI法を用いた液体クロマトグラフ質量分析装置のイオン化室の図である。また、図5(a)は、ノズル152から噴霧された液体試料の噴霧流の側面図であり、図5(b)は、図5(a)に示すXY平面の断面図である。なお、上述した従来の液体クロマトグラフ質量分析装置1と同様のものについては、同じ符号を付している。
イオン化室100は、13cm×13cm×12cmの直方体形状のチャンバ110を備える。チャンバ110は、上面と前面と右側面と後面(隔壁26)と左側面と下面とを有する。
【0039】
隔壁26は、チャンバ110の内部と第1中間室12の内部とを仕切るように配置され、隔壁26の中央部には、温調機構(図示せず)が内蔵された直方体形状のヒータブロック20が固定してある。
ヒータブロック20には、チャンバ110の内部に入口が配置されるとともに、第1中間室12の内部に出口が配置されたイオン導入管である、第1脱溶媒管319a〜第6脱溶媒管319fが形成されている。各脱溶媒管319a〜319fは、中心軸がX方向となる円管形状(例えば、直径外径1.6mm、内径0.5mm)となっており、第1脱溶媒管319a〜第3脱溶媒管319cとが、第1のXY平面でこの順にY方向に並ぶように配置され、第4脱溶媒管319d〜第6脱溶媒管319fとが、第1のXY平面の下方となる第2のXY平面でこの順にY方向に並ぶように配置されている。
【0040】
そして、ノズル152から噴霧された液体試料の噴霧流は、ノズル152を頂点とした円錐形状になるため、第1脱溶媒管319a〜第3脱溶媒管319cの入口とが、第4脱溶媒管319d〜第6脱溶媒管319fの入口より−X方向に突出するように配置されている。
【0041】
このようなチャンバ110の隔壁26によれば、内径0.5mmのノズル152から噴霧された液体試料の噴霧流は、Z方向へ進行するにつれて広がっていき最終的には±2mm〜4mm程度の直径の円形状になるが、まず第1のXY平面では、噴霧流の左端部を流通するイオンは、内径0.5mmの第1脱溶媒管319a内へと引き込まれ、噴霧流の中央部を流通するイオンは、内径0.5mmの第2脱溶媒管319b内へと引き込まれ、噴霧流の右端部を流通するイオンは、内径0.5mmの第3脱溶媒管319c内へと引き込まれることになる。次に第2のXY平面では、噴霧流の左端部を流通するイオンは、内径0.5mmの第4脱溶媒管319d内へと引き込まれ、噴霧流の中央部を流通するイオンは、内径0.5mmの第5脱溶媒管319e内へと引き込まれ、噴霧流の右端部を流通するイオンは、内径0.5mmの第6脱溶媒管319f内へと引き込まれることになる。
【0042】
<第四の実施形態>
図6は、第四の実施形態に係るESI法を用いた液体クロマトグラフ質量分析装置のイオン化室の図である。また、図6(a)は、ノズル152から噴霧された液体試料の噴霧流の側面図であり、図6(b)は、図6(a)に示すXY平面の断面図である。なお、上述した従来の液体クロマトグラフ質量分析装置1と同様のものについては、同じ符号を付している。
イオン化室100は、13cm×13cm×12cmの直方体形状のチャンバ110を備える。チャンバ110は、上面と前面と右側面と後面(隔壁26)と左側面と下面とを有する。
【0043】
隔壁26は、チャンバ110の内部と第1中間室12の内部とを仕切るように配置され、隔壁26の中央部には、温調機構(図示せず)が内蔵された直方体形状のヒータブロック20が固定してある。
ヒータブロック20には、チャンバ110の内部に入口が配置されるとともに、第1中間室12の内部に出口が配置されたイオン導入管である、第1脱溶媒管419a〜第7脱溶媒管419gが形成されている。各脱溶媒管419a〜419gは、円管形状(例えば、直径外径1.6mm、内径0.5mm)となっており、第1脱溶媒管419a〜第3脱溶媒管419cとが、第1のXY平面に配置され、第4脱溶媒管419dと第5脱溶媒管419eとが、第1のXY平面の下方となる第2のXY平面に配置され、第6脱溶媒管419fと第7脱溶媒管419gとが、第2のXY平面の下方となる第3のXY平面に配置されている。
【0044】
そして、第1のXY平面では、第1脱溶媒管419aと第2脱溶媒管419bと第3脱溶媒管419cとが、中心軸がX方向となる円管形状(例えば、直径外径1.6mm、内径0.5mm)となっており、第1脱溶媒管419aと第2脱溶媒管419bと第3脱溶媒管419cとが、この順にY方向に並ぶように配置されている。つまり、第1のXY平面では、第1脱溶媒管419aの入口と第2脱溶媒管419bの入口と第3脱溶媒管419cの入口とがX方向を向くように配置されている。また、第2のXY平面では、第4脱溶媒管419dの入口がY方向を向くように配置されるとともに、第5脱溶媒管419eの入口が−Y方向を向くように配置されている。さらに、第3のXY平面では、第6脱溶媒管419fの入口が−X方向を向くように配置されるとともに、第7脱溶媒管419gの入口が−X方向を向くように配置されている。
【0045】
このようなチャンバ110の隔壁26によれば、内径0.5mmのノズル152から噴霧された液体試料の噴霧流は、Z方向へ進行するにつれて広がっていき最終的には±2mm〜4mm程度の直径の円形状になるが、まず第1のXY平面では、噴霧流の左端部を流通するイオンは、内径0.5mmの第1脱溶媒管419a内へと引き込まれ、噴霧流の中央部を流通するイオンは、内径0.5mmの第2脱溶媒管419b内へと引き込まれ、噴霧流の右端部を流通するイオンは、内径0.5mmの第3脱溶媒管419c内へと引き込まれるようになっている。次に第2のXY平面では、噴霧流の左端中部を流通するイオンは、内径0.5mmの第4脱溶媒管419d内へと引き込まれ、噴霧流の右端中部を流通するイオンは、内径0.5mmの第5脱溶媒管419e内へと引き込まれるようになっている。最後に第3のXY平面では、噴霧流の左端後部を流通するイオンは、内径0.5mmの第6脱溶媒管419f内へと引き込まれ、噴霧流の右端後部を流通するイオンは、内径0.5mmの第7脱溶媒管419g内へと引き込まれることになる。
【0046】
<他の実施形態>
上述した液体クロマトグラフ質量分析装置1において、ESI法を用いる構成としたが、APCI法や、他のイオン化手法を用いるような構成としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、イオン化室を備える質量分析装置等に利用することができる。
【符号の説明】
【0048】
15: スプレー(噴霧手段)
19: 脱溶媒管(イオン導入管)
50: 質量分析部
60: 液体クロマトグラフ部(LC部)
100: イオン化室
図1
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図5
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図12