【実施例】
【0031】
先ず、本発明に使用する研磨用樹脂積層成形板(研磨材)1の製造方法を以下に示す。原料を準備した後、
1.ワニスの配合作製
2.基材の含浸
3.溶剤除去
4.予備乾燥/硬化
5.加熱成形
6.素材完成
を経て、研磨砥粒が均一分散した樹脂積層成形板を得る。成形物は機械加工して最終的な部品形状になるように形状を整える。
【0032】
更に、各製造工程を詳細に説明する。
【0033】
ここで、使用する原料は、基材、ワニス、溶剤である。
・基材: ポリアミド樹脂繊維の不織布;重量7000g/m
2±700g
研磨砥粒(充填材)を40重量%含む
・ワニス:レゾール型、若しくはノボラック型のフェノール樹脂
・溶剤: メタノール(一級)
【0034】
1.ワニスの配合作製
メタノールにフェノール樹脂の所定量溶解させたワニスを調製する。調製方法は、以下の通りである。容器に必要量のメタノールを入れて、撹拌機をセットする。次に、速度を100rpm程度で攪拌を開始し、メタノールと同量のノボラック型フェノール樹脂を1kg/minのペースで静かに投入する。そして、速度を200rpmにして30分間撹拌し、樹脂の凝集が無くなった事を確認する。
【0035】
2.研磨基材への含浸
基材(砥粒付き不織布)にフェノール樹脂ワニスを含浸して研磨用樹脂積層成形板の原料であるプリプレグを作製する。プリプレグの配合量は基材が60〜90重量%、フェノール樹脂ワニスが10〜40重量%であり、基材に対してフェノール樹脂ワニスを均一に含浸させる。砥粒付き不織布として、不織布に予め均一に砥粒を付着させたものを用いる。ここで、フェノール樹脂ワニスの塗布量が、10重量%未満で樹脂不足による接着不良が発生し、40重量%を超えると加熱成形時の溶融樹脂の流出が多くなり、基材変形による不良が発生する。好ましくは、プリプレグに対してフェノール樹脂ワニスの塗布量は20〜30重量%である。
【0036】
3.溶剤除去
プリプレグを100℃設定の熱風循環炉におよそ1時間投入して溶剤を除去する。
【0037】
4.予備乾燥/硬化
成形直前にプリプレグを100℃設定の熱風循環炉へ2時間投入して、吸湿した水分を除去するとともに、樹脂の予備硬化処理を行う。
【0038】
5.加熱成形
予備乾燥/硬化処理を行ったプリプレグを複数枚重ね、熱間プレスで成形する。研磨用樹脂積層成形板1の厚さの調整は、プリプレグの積層枚数によって大まかに調整し、微調整は切削加工によって行い、所定の厚さのものを得る。
【0039】
また、フェノール樹脂に代えてエポキシ樹脂を用いる場合には、以下の材料を混合してエポキシ樹脂ワニスを調製する。
エポキシ樹脂・・ビスフェノールA型エポキシ樹脂
硬化剤・・・・・アミン系硬化剤(樹脂に対して当量添加)
溶剤・・・・・・MEK(ワニス調製用)
このエポキシ樹脂ワニスを用いて研磨用樹脂積層成形板を製造する工程は、前述のフェノール樹脂ベースと同様である。
【0040】
次の表1に熱間プレスの成形条件を示す。
【表1】
【0041】
次に、前記水切りパッド材2の製造方法を説明する。前記水切りパッド材2は、不織布にフェノール樹脂ワニスを含浸させてプリプレグを作製し、それを積層して加圧加熱成形して、シート状のものを作製した。前記水切りパッド材2は、本実施例では不織布70重量%、フェノール樹脂30重量%の組成である。
【0042】
最後に、前記布ベースの熱硬化性樹脂積層板3の製造方法を説明する。布ベースの熱硬化性樹脂積層板(フェノール樹脂積層板)3は、綿布を基材とし、バインダーとしてフェノール樹脂を用いたものであり、綿布55重量%、フェノール樹脂45重量%であり、綿布にフェノール樹脂ワニスを塗布してプリプレグを作製し、それを積層して加圧加熱成形して作製した。
【0043】
実施例1の試験片は、
図1(a)に示した積層構造であり、研磨用樹脂積層成形板1の片面に水切りパッド材2を接着したものである。実施例2の試験片は、
図1(b)に示すように、ベース材としての布ベースの熱硬化性樹脂積層板3に、研磨用樹脂積層成形板1と水切りパッド材2を接着したものである。比較例2の試験片は、
図2(a)に示すように、ベース材としての布ベースの熱硬化性樹脂積層板3に水切りパッド材2を接着したものである。比較例1、3、4の試験片は、
図2(b)に示すように、研磨用樹脂積層成形板1のみ(比較例1)、布ベースの熱硬化性樹脂積層板3のみ(比較例3)、あるいはレジノイド砥石のみ(比較例4)からなる単一素材構造のものである。
【0044】
実施例1,2及び比較例2の試験片は、各材料を加圧加熱成形して作製したものに接着剤を所定量塗布して貼り合わせて作製した。接着剤は、耐衝撃性、耐水性及び80℃程度の耐熱温度を有するものであれば良い。本実施例では試料片の作製にフェノール樹脂系接着剤を用いた。
【0045】
実施例1,2及び比較例2の研磨用樹脂積層成形板1は、何れもポリアミド樹脂繊維不織布を基材とし、バインダーとしてフェノール樹脂を用い、研磨砥粒(充填材)として炭化珪素砥粒♯320を用いて、ポリアミド樹脂繊維不織布と研磨充填材を重量比で60:40に配合し、フェノール樹脂は成形物全体に対して30重量%を配合したものを用いた(スターライト工業株式会社製 ♯19901)。尚、JISR6001にて規定された砥粒♯320の平均粒径は、40±2.5μmであり、27μm以上となっている。尚、研磨用樹脂積層成形板1の機械的強度は、布ベースの熱硬化性樹脂積層板(フェノール樹脂積層材)3の約60%であるが、十分な厚さを確保し、適当な保持部材に装着すれば、実用に耐え得る機械的強度を備えたものと言える。
【0046】
<研磨性能評価試験>
このように得られた各試験片の研磨性能評価試験を行った。試験方法は、前述の
図1及び
図2に示す形状に加工した試験片(長さ75mm、幅20mm、厚さ10mm)を、
図3の摩耗試験機を用いて表2の試験条件にて試験を行い、摺動後の試験片と相手材ロールの摩耗量を測定する方法である。ここで、摩耗試験機は、
図3に示すように、円柱状の相手材ロール4の回転軸を水平にして所定の回転速度で回転させ、該相手材ロール4の周面に対抗する位置に固定した支持台5に一端を上下回動可能に枢支したアーム6の先端に前記試験片7を取付けて、該試験片7の先端部を前記相手材ロール4の周面に上方から接触させ、その接触圧力を前記アーム6の中間に吊り下げた重り8で調節するものである。
【0047】
【表2】
【0048】
前記相手材ロール4は、直径100mm、材質がFC20であり、周面は表面粗さRa=3μmに仕上げられたものである。回転速度は、周速で1000m/minであり、摺動距離が480kmになるまで連続して運転した。試験片と相手側ロールの接触圧力(線圧)は280gf/cmであり、無潤滑である。
(1)ロール摩耗高さ(研磨深さ)
ロール研磨を想定した前述の摩耗試験機で試験を実施し、試験前後のロール表面の研磨量を表面粗さ測定機にて測定し、粗さ分布より摩耗高さを算出したデータを取得した(半径ベース、単位:μm)。このロール摩耗高さにより研磨効果を評価する。
(2)研磨材摩耗量
研磨材摩耗量は、前述の摩耗試験機で試験を実施し、
図4に示すように試験前後の試験片(実施例1〜2、比較例1〜4)の摩耗による変化量を体積で示したデータである(単位:mm
3)。
図4の斜線は摩耗部位9を示し、体積が摩耗量である。つまり、摩耗量=A×B×1/2×試験片の幅である。この研磨材摩耗量により耐摩耗性を評価する。
【0049】
<水透過量試験>
図5に示すような水透過量試験機を用いて水切り性能を評価した。水透過量試験機は、前述の摩耗試験機において、試験片7の先端部両側に相手材ロール4の外周面との間を止水するための水漏れ防止シール10,10を取付け、前記試験片7の先端と両水漏れ防止シール10,10及び相手材ロール4の外周面とで形成された窪みに水を1g/minの速度で滴下し、滴下水11が前記試験片7の先端と相手材ロール4の外周面との接触面を通過し、該相手材ロール4の外周面を下方へ伝って落ちる透過水12を容器13で受けて、害容器13に溜まった水量で評価するものである。
【0050】
次の表3に、各試験片についての研磨性能評価試験結果と水透過量試験結果を示す。評価基準は、○:良好、△:やや劣る、×:劣る、の3段階である。尚、比較例4は水切り性能が全くないので、研磨効果や耐摩耗性に優れていると予想できるが、相手材ロール4のダメージが大き過ぎるので摩耗実験は行っていない。
【0051】
【表3】
【0052】
表3の結果が示すように、実施例1,2は研磨効果、耐摩耗性、水切り性能とも「良好」である。一方、比較例1は、研磨用樹脂積層成形板のみからなるので当然に研磨効果、耐摩耗性は「良好」であるが、水切り性能が「やや劣る」という結果になった。また、比較例2は従来の水切りワイパーの構造そのものであるので、水切り性能は「良好」であるが、研磨効果は全くないという結果になった。尚、比較例2の耐摩耗性については、比較的摩耗量が多いが実用に耐えているということで「良好」と判定した。そして、実施例1,2の摩耗量についても、比較例2と同程度であるので、耐摩耗性は「良好」と判定した。また、比較例3は、フェノール樹脂積層材そのものであるので、耐摩耗性は「良好」であるが、研磨効果は全くなく、水切り性能も「やや劣る」という結果になった。総合的に本発明の製鋼用メンテナンスワイパーは、従来の水切りワイパーと同程度の水切り性能を備えるとともに、圧延機ロールを研磨する機能も備え、しかも使用に耐え得る耐久性も備えていることが分かった。
【0053】
本発明の製鋼用メンテナンスワイパーは、水切りワイパーに研磨機能を備えたものであるので、圧延機ロールに対する面圧は、研磨用樹脂積層成形板1と水切りパッド材2で同じになり、水切りワイパーで実施している接触条件で研磨効果が得られることは重要である。そこで、炭化珪素砥粒を用いたものとアルミナ砥粒を用いた研磨用樹脂積層成形板1のみからなる試験片をそれぞれ作製し、先ず炭化珪素砥粒を分散充填させた試験片を用い、表4の試験条件(負荷280gf/cm)で研磨試験を行い、ロール表面の研磨量を表面粗さ測定機にて測定し、粗さ分布より研磨深さを算出したデータを取得した。その結果は
図6に示し、(a)は試験前の表面粗さ曲線、(b)は試験後の表面粗さ曲線であり、研磨深さは約5μmであった。次に、負荷のみを2倍の560gf/cmに設定した試験条件で同様の研磨試験を行い、その結果を
図7に示す。
図7(a)は試験前の表面粗さ曲線、(b)は試験後の表面粗さ曲線であり、研磨深さは約6μmであった。以上より、本発明で使用した研磨用樹脂積層成形板1の研磨性能は、負荷が2倍に変化しても研磨深さは殆ど変化しないこと、つまり接触面圧に依存しないことが分かり、水切り性能を発揮するのに適した接触条件でも十分に研磨効果を発揮できることが確認できた。
【0054】
【表4】
【0055】
図8には、アルミナ砥粒を分散充填させた研磨用樹脂積層成形板1のみからなる試験片を用い、負荷を560gf/cmに設定した試験条件で同様の研磨試験を行った結果を参考として示す。
図8は、ロール表面の研磨量を表面粗さ測定機にて測定し、粗さ分布より研磨深さを算出したデータであり、(a)は試験前の表面粗さ曲線、(b)は試験後の表面粗さ曲線である。この場合の研磨深さは約7μmであった。
【0056】
最後に、研磨用樹脂積層成形板1の幾つかの作製例を表5に示し、それぞれの研磨材を用いた研磨試験結果も併せて示している。ここでの試験条件は、表2に記載されたものである。
【0057】
研磨材1〜10は、何れもポリアミド樹脂繊維不織布を基材とし、バインダーとして研磨材1〜6,9,10はフェノール樹脂を用い、研磨材7,8はエポキシ樹脂を用いたものであり、そして研磨砥粒(充填材)として研磨材1〜4,7,9,10は炭化珪素砥粒♯320、研磨材5は炭化珪素砥粒♯220、研磨材6,8はアルミナ砥粒♯320を用いたものである。また、研磨材1〜10は、全てポリアミド樹脂繊維不織布と砥粒充填材を重量比で60:40に配合し、また研磨材1〜8ではフェノール樹脂及びエポキシ樹脂は成形物全体に対してそれぞれ30重量%を配合し、研磨材9ではフェノール樹脂を成形物全体に対して10重量%を配合し、研磨材10ではフェノール樹脂を成形物全体に対して40重量%を配合した。ここで、研磨砥粒の番手は、JISR6001にて規定され、#220(平均粒径75〜45μm)、#320(平均粒径40±2.5μm、最低粒径27μm以上)の2種類を使用している。
【0058】
つまり、研磨材1〜5では、ポリアミド樹脂繊維不織布42重量%、炭化珪素砥粒28重量%、フェノール樹脂30重量%である。実施例6では、ポリアミド樹脂繊維不織布42重量%、アルミナ砥粒28重量%、フェノール樹脂30重量%である。研磨材7では、ポリアミド樹脂繊維不織布42重量%、炭化珪素砥粒28重量%、エポキシ樹脂30重量%である。実施例8では、ポリアミド樹脂繊維不織布42重量%、アルミナ砥粒28重量%、エポキシ樹脂30重量%である。研磨材9では、ポリアミド樹脂繊維不織布54重量%、炭化珪素砥粒36重量%、フェノール樹脂10重量%である。研磨材10では、ポリアミド樹脂繊維不織布36重量%、炭化珪素砥粒24重量%、フェノール樹脂40重量%である。また、研磨材1〜4は、成形圧力を変えて密度に変化を持たせた。
【0059】
表5における評価基準は、効果知見のある組成(研磨材3)の研磨量及び摩耗量の値であり、この良好な研磨材3と比べて、相手側ロールの研磨量及び試験片の摩耗量を比較する。評価は、◎は非常に優れている、○は優れている、△は普通、×は劣っている、である。
【0060】
【表5】
【0061】
この表5の結果から、研磨材1〜10は研磨効果と耐摩耗性を総合的に評価して十分に実用に供することができ、特に研磨材2,3,5は総合的に優れ、次いで研磨材7,8が優れている。研磨材1は研磨効果が少なく、また摩耗量も比較的多い。また、研磨材4,6は、研磨効果に特に優れているが、摩耗量が多くなっている。これらの研磨材は、圧延機ロールとオンライン操作中に長時間接触することを前提として設計されたものであり、十分に実用に耐え得るものである。