【実施例】
【0073】
本技術の実施例に係る樹脂組成物(樹脂組成物α)と、比較例に係る樹脂組成物を準備し、各樹脂組成物について評価を実施した。
図4乃至
図8は、実施例に係る樹脂組成物の組成と評価結果を示す表であり、
図9乃至
図14は、比較例に係る樹脂組成物の組成と評価結果を示す表である。
【0074】
[実施例及び比較例に係る樹脂組成物の構成]
実施例及び比較例に係る樹脂組成物に含有される各成分について説明する。なお、各成分(A成分、B成分、C成分、D成分及びE成分)は、上記実施形態において説明した各成分と対応する。
【0075】
(A成分:ポリカーボネート樹脂)
A−1:市販の中分子量ポリカーボネート樹脂(ポリスチレン換算の重量平均分子量(以下、PS換算のMw)43000)
A−2:市販の低分子量ポリカーボネート樹脂(PS換算のMw36000)
A−3:市販の超低分子量ポリカーボネート樹脂(PS換算のMw32000)
A−4:市販の高分子量ポリカーボネート樹脂(PS換算のMw61000)
A−5:使用済みの廃透明ポリカーボネートシートを粗粉砕し、二軸押し出し機にて溶融・混練の後、ペレット化したポリカーボネート樹脂(PS換算のMw:46000)
A−6:淡緑色の使用済み水ボトル容器から回収されたPC樹脂(PS換算のMw:58000)
A-7:使用済み光ディスクを粉砕処理したものをアルカリ性の熱水溶液で処理することにより塗装膜(記録材料層、レーベル、接着剤層、硬化層、金属反射層等)を除去した後、
二軸押し出し機にて溶融・混練の後ペレット化したポリカーボネート樹脂(PS換算のMw:31000)
【0076】
(B成分:スルホン酸化合物)
B−1:重量平均分子量が220000のポリスチレンにスルホン酸カリウム塩を導入したもので、硫黄分を1.2重量%含有するもの(元素分析にて定量)
B−2:重量平均分子量が220000のポリスチレンにスルホン酸カリウム塩を導入したもので、硫黄分を2.5重量%含有し、水酸化カリウム(KOH)で中和した塩
B−3:重量平均分子量が220000のポリスチレンにスルホン酸カリウム塩を導入したもので、硫黄分を0.5重量%含有し、水酸化ナトリウム(NaOH)で中和した塩
B−4:試薬のポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩であって硫黄分を15重量%含有するもの
B−5:市販のパーフルオロブタンスルホン酸カリウム塩
B−6:市販のジフェニルスルホンスルホン酸カリウム塩
【0077】
(C成分:ドリップ抑制剤)
C−1:市販のポリテトラフルオロエチレン(フィブリル形成能を有する)
【0078】
(D成分:シリコーン化合物、
図1参照)
D-1:フェニル/メチル/メトキシ/水素系 液状シリコーンオリゴマー
(Ph基水素:51.2%、H基水素:3.1%、Me基水素:42.2%)
D-2:フェニル/メチル系 固形シリコーンオリゴマー
(Ph基水素:70.2%、H基水素:<1%、Me由来水素:29.8%)
D-3:メチル/水素系 液状シリコーンオリゴマー
(Ph基水素:<1%、H基水素:22.1%、Me基水素:77.9)
D-4:メチル/水素系 液状シリコーンオリゴマー
(Ph基水素:<1%、H基水素:8.8%、Me基水素:91.2%)
D-5: フェニル/メチル/メトキシ/ビニル系 液状シリコーンオリゴマー
(Ph基水素:46.2%、H基水素:<1%、Me基水素:27.4%)
D−6:フェニル/メチル/メトキシ系 液状シリコーンオリゴマー
(Ph基水素:45.9%、H基水素:<1%、Me基水素:23.0%)
D−7:ジメチル/ジフェニル系 液状シリコーンオリゴマー
(Ph基水素:38.7%、H基水素:<1%、Me基水素:61.3%)
D-8:エポキシ変性/ジメチル系 液状シリコーンオリゴマー
(Ph基水素:<1%、H基水素:<1%、Me基水素:94.0%)
なお、「Ph基水素」は「フェニル基に含まれた水素原子」、「H基水素」は「水素基の水素原子」、「Me基水素」は「メチル基に含まれた水素原子」をそれぞれ意味する。
【0079】
(E成分:タルク)
E−1:超微粒子タルク(平均メディアン径:4.2μm、比表面積:45000cm
2/g以上)
E−2:微粒子タルク(平均メディアン径:4.6μm、比表面積:45000cm
2/g以上)
E−3:微粒子タルク(平均メディアン径:5.0μm、比表面積:40000〜45000cm
2/g)
E−4:微粒子タルク(平均メディアン径:6.0μm、比表面積:33000〜38000cm
2/g)
E-5:中粒子タルク(平均メディアン径:13μm、比表面積:18000〜21000cm
2/g)
【0080】
(汎用リン系難燃ポリカーボネート樹脂(比較例))
市販のリン系難燃ポリカーボネート樹脂(FRP4500:三菱エンジニアリング製)
【0081】
[樹脂組成物の成型及び各種測定]
各成分を
図4乃至
図14記載の配合比にて配合し、タンブラーにてブレンドした後、二軸同方向回転混練押出機(東洋精機製作所製:ラボプラストミル、二軸押し出しユニット使用)を用いて溶融混練し、ペレットを得た。押出条件は吐出量4kg/h、スクリュー回転数48rpmであり、押出温度は第1供給口からダイス部分まで270℃とした。得られたペレットを120℃で8時間、熱風循環式乾燥機にて乾燥した後、射出成型機を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度70℃で成型し、難燃性測定用試験片を作成した。また、同様にして、薄肉成型の成型性を確認するため、箱型薄肉金型(肉厚:1.0mm)を用いて試験成型を行った。同時に成型時のガス発生の有無についても確認した。なお、比較例に係る汎用リン系難燃ポリカーボネート樹脂も、シリンダー温度260℃、金型温度60℃で成型した。
【0082】
D成分(シリコーン化合物)の水素原子含有率は、以下に示す条件で1H NMRにより測定した。
分析装置:日本電子製 ECA500
分析モード:1H NMR(single pulse)、Quantitative NMR(Q NMR)
溶媒:重クロロホルム(CDCl
3)
定量精度に優れたQ NMRにより、それぞれの官能基に含有される水素原子の含有率を決定した。上述のようにD−1及びD−2のNMRチャートを
図2及び
図3に示す。また、D−1からD−5の各シリコーン化合物について、NMRチャートから求められた各官能基に含有される水素原子の含有率を
図1に示す。
【0083】
各評価は次のようにして実施した。
【0084】
(難燃性)
UL規格94の垂直燃焼試験を、厚み0.6〜1.2mm試験片で行い、その等級を評価した。この規格ではV−2、V−1、V−0等の等級(レベル)があり、V−2よりV−1、V−1よりV−0が難燃性が高い。また、V−2に到達しない場合にはV不適合とされる。本測定ではV−1及びV−0を良好として判定した。
【0085】
(成型性)
箱型薄肉(肉厚:1.0mm)の金型を用いて成型を行い、成型ができるか否か、外観(ヒケ、ウエルドラインの状態)を確認した。また、ウエルド部分の強度、10回繰り返しビス締めによるボス部の強度について評価を行い、実用レベルであるかどうかの判定を行った。
【0086】
(折り曲げ試験)
ASTM D790に基づいて試験片について測定を行い、試験片を180度折り曲げた際の形状を確認した。
【0087】
(耐久性)
得られた成型体を85℃、80%RHの高温高湿条件下に4週間おくことで劣化を促進させ、外観を観察すると共に、ポリカーボネート成分の重量平均分子量を測定した。成型前のペレットの重量平均分子量に対する重量平均分子量の保持率(分子量保持率)にて評価を行った。90%以上の分子量保持率を良好と判定した。
【0088】
(総合判定)
上述のようにして評価した、難燃性、成型性、成型時のガス発生の有無、折り曲げ試験、高温高湿環境暴露後の分子量保持率、高温高湿環境暴露後の外観について、いずれも良好であれば総合判定を「可」とした。いずれかに不良があった場合、総合判定を「不可」とした。
【0089】
[実施例及び比較例の評価結果]
図4乃至
図8に示すように、実施例に係る樹脂組成物は、いずれの評価結果も良好であった。一方、
図9乃至
図14に示すように、比較例に係る樹脂組成物は下記のような結果となった。
【0090】
比較例1:A成分に替えて汎用リン系難燃PC(FRP4500)を使用。重量平均分子量の保持率が63%と低かった。かつ、外観も表面白化が発生した。
比較例2:A成分の分子量(ポリスチレン換算の重量平均分子量またはその相加平均、以下同じ)が低すぎるため、難燃性試験においてドリップが生じてV−2となった。
比較例3:A成分の分子量が高すぎるため、ショートショット(充填不足)となり、薄肉成型体が得られなかった。
比較例4:A分子の分子量が低すぎるため、難燃性試験においてドリップが生じてV−2となった。
比較例5:B成分の添加量が少なすぎるため、難燃レベルが低下した。
比較例6:B成分の添加量が多すぎるため、難燃レベルが低下し、V不適合となった。
比較例7:C成分の添加量が少なすぎるため、難燃性試験においてドリップを生じた。
比較例8:C成分の添加量が多すぎるため、難燃レベルが低下し、V不適合となった。
比較例9:D成分が条件(水素原子の各官能基への含有率、以下同じ)を満たさないため、所望の難燃レベルが得られなかった。また、折り曲げ試験において折れが発生した。
比較例10:D成分が条件を満たさないため、所望の難燃レベルが得られなかった。また、折り曲げ試験においてヒビが発生した。
比較例11:D成分が条件を満たさないため、所望の難燃レベルが得られなかった。
比較例12:D成分が条件を満たさないため、所望の難燃レベルが得られなかった。
比較例13:D成分が条件を満たさないため、所望の難燃レベルが得られなかった。
比較例14:D成分の添加量が少なすぎるため、難燃レベルが低下した。
比較例15:D成分の添加量が多すぎるため、難燃レベルが低下し、V不適合となった。
比較例16:E成分の平均メディアン径が小さすぎるため、流動性が上がり、難燃レベルが低下し、V不適合となった。
比較例17:E成分の平均メディアン径が大きすぎるため、流動性が上がり、難燃試験中にドリップを生じた。
比較例18:E成分の添加量が多すぎるため、流動性が上がり、難燃試験中にドリップを生じた。
【0091】
[実施例及び比較例の検討]
(A成分について)
A成分となるポリカーボネート樹脂のポリスチレン換算重量平均分子量は、32000(比較例2)では少なすぎてドリップを生じ、61000(比較例3)では多すぎて成型性が低下した。したがって、A成分のポリスチレン換算重量平均分子量は、36000(実施例2及び7)以上58000(実施例4)以下が好適である。
【0092】
(B成分について)
B成分となるスルホン酸化合物は、含有率が0.01重量%では少なすぎて十分な難燃性が得られず(比較例5)、3.00重量%では多すぎて十分な難燃性が得られなかった(比較例6)。したがって、B成分の含有率は、0.05重量%(実施例4)以上2.00重量%(実施例7)以下が好適である。
【0093】
(C成分について)
C成分となるドリップ抑制剤は、含有率が0.01重量%では少なすぎてドリップを商事(比較例7)、1.50重量%では多すぎて十分な難燃性が得られなかった(比較例8)。したがって、C成分の含有率は、0.05重量%(実施例4)以上1.00重量%(実施例11)以下が好適である。
【0094】
(D成分について)
D成分となるシリコーン化合物は、フェニル基に含まれる水素原子の比率が51%未満であり、かつ水素基に含まれる水素原子の比率が22%未満であるD−4(比較例9)、D−5(比較例10)、D−6(比較例11)、D−7(比較例12)及びD−8(比較例13)では、十分な難燃性が得られなかった。したがって、D成分となるシリコーン化合物は、フェニル基に含まれる水素原子の比率が51%以上または、水素基に含まれる水素原子の比率が22%以上のシリコーン化合物が好適である。実施例においてもこの条件を満たすシリコーン化合部(D−1、D−2及びD−3)は十分な難燃性が得られた(実施例1−15)。なお、比較例7ではD成分としてD−3が含有されているが、C成分が少なすぎるために難燃性が不十分となっている。
【0095】
D成分の含有率は、0.05重量%は少なすぎて十分な難燃性が得られず(比較例14)、3.00重量%では多すぎて十分な難燃性が得られなかった(比較例15)。したがって、D成分の含有率は、0.10重量%(実施例4、7、11、15)以上2.0重量%(実施例9、13、14)以下が好適である。
【0096】
(E成分について)
E成分となるタルクは、実施例1−11に示すように、必ずしも含有されなくてもよい。含有される場合には、実施例12−15に示すように、平均メディアン径が4.6μm以上6.0μm以下(E−2、E−3及びE−4)が好適である。平均メディアン径が4.2μm(E−1)以下であると十分な難燃性が得られず(比較例16)、13μm(E−5)以上であるとドリップを生じる(比較例17)ためである。
【0097】
(樹脂組成物について)
以上から、ポリカーボネート樹脂(A成分)、0.05重量%以上2.0重量%以下のスルホン酸化合物(B成分)、0.05重量%以上1.0重量%以下のドリップ抑制剤(C成分)、0.1重量%以上2.0重量%以下の特定条件を満たすシリコーン化合物(D成分)を含有する樹脂組成物は、高い難燃性を有し、実用性に優れるものである。D成分の特定条件は、フェニル基に含まれる水素原子の比率が51%以上または、水素基に含まれる水素原子の比率が22%以上である。加えて上記樹脂組成物は、平均メディアン径が4.6μm以上6.0μm以下のタルクを含有するものであってもよい。
【0098】
なお、本技術は以下のような構成も採ることができる。
【0099】
(1)
ポリカーボネート樹脂であるA成分と、
有機スルホン酸または有機スルホン酸金属塩であり、0.05重量%以上2.0重量%以下であるB成分と、
ドリップ抑制剤であり、0.05重量%以上1.0重量%以下のC成分と、
シリコーン化合物であって、上記シリコーン化合物に含まれる水素原子のうち、フェニル基に含まれる水素原子の比率が51%以上または水素基に含まれる水素原子の比率が22%以上であるシリコーン化合物であり、0.1重量%以上2.0重量%以下であるD成分と
を含有する樹脂組成物。
【0100】
(2)
上記(1)に記載の樹脂組成物であって、
上記D成分は、上記シリコーン化合物に含まれる水素原子のうち、フェニル基に含まれる水素原子の比率が51%以上かつメチル基に含まれる水素原子の比率が29%以上であるシリコーン化合物である
樹脂組成物。
【0101】
(3)
上記(1)又は(2)に記載の樹脂組成物であって、
上記D成分は、上記シリコーン化合物に含まれる水素原子のうち、水素基に含まれる水素原子の比率が22%以上かつメチル基に含まれる水素原子の比率が50%以上であるシリコーン化合物である
樹脂組成物。
【0102】
(4)
上記(1)から(3)のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
上記D成分は、ポリオルガノシロキサンである
樹脂組成物。
【0103】
(5)
上記(1)から(4)のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
平均メディアン径が4.6μm以上6.0μm以下のタルクであるE成分
をさらに含有する樹脂組成物
【0104】
(6)
上記(1)から(5)のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
上記A成分は、ポリスチレン換算の重量平均分子量が36000以上58000以下のポリカーボネート樹脂である
樹脂組成物。
【0105】
(7)
上記(1)から(6)のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
上記B成分は、芳香族環を有する高分子重合体のスルホン酸または芳香族環を有する高分子重合体のスルホン酸の金属塩である
樹脂組成物。
【0106】
(8)
上記(1)から(7)のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
上記C成分は、フィブリル形成能を有するポリテトラフルオロエチレンである
樹脂組成物。
【0107】
(9)
ポリカーボネート樹脂であるA成分と、
有機スルホン酸または有機スルホン酸金属塩であるB成分と、
ドリップ抑制剤であるC成分と、
シリコーン化合物であって、上記シリコーン化合物に含まれる水素原子のうち、フェニル基に含まれる水素原子の比率が51%以上または水素基に含まれる水素原子の比率が22%以上であるシリコーン化合物であるD成分と
を含有する樹脂組成物。
【0108】
(10)
ポリカーボネート樹脂であるA成分と、
有機スルホン酸または有機スルホン酸金属塩であり、0.05重量%以上2.0重量%以下であるB成分と、
ドリップ抑制剤であり、0.05重量%以上1.0重量%以下C成分と、
シリコーン化合物であって、上記シリコーン化合物に含まれる水素原子のうち、フェニル基に含まれる水素原子の比率が51%以上または水素基に含まれる水素原子の比率が22%以上であるシリコーン化合物であり、0.1重量%以上2.0重量%以下であるD成分と
を含有する樹脂組成物からなる樹脂成型体。