(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194908
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】油脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/64 20060101AFI20170904BHJP
C11C 3/10 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
C12P7/64
C11C3/10
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-36168(P2015-36168)
(22)【出願日】2015年2月26日
(65)【公開番号】特開2016-154509(P2016-154509A)
(43)【公開日】2016年9月1日
【審査請求日】2017年4月3日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 慎平
【審査官】
鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】
特表平08−509620(JP,A)
【文献】
特開2014−233240(JP,A)
【文献】
特開2010−098992(JP,A)
【文献】
特開2008−178370(JP,A)
【文献】
特開2007−176973(JP,A)
【文献】
特開2007−254305(JP,A)
【文献】
特表2009−507479(JP,A)
【文献】
特開2008−142019(JP,A)
【文献】
廃油脂から脂肪酸の抽出及び利用に関する研究,鹿児島県工業技術センター研究報告No 6,1992年,pp. 13-19
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/64
C11C 3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)構成脂肪酸中C18〜C24の飽和脂肪酸(S)を80重量%以上含みかつC20〜24の飽和脂肪酸を30〜70重量%以上含む原料油脂(a)と、オレイン酸を70重量%以上含む原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル(b)を混合する工程、(2)工程(1)で得られた原料混合物を1,3位置特異性を有するリパーゼを用いてエステル交換反応させる工程、(3)工程(2)で得られた反応生成物からトリグリセリド画分としてUSUを30重量%以上含有する油脂組成物と、脂肪酸又はその低級アルコールエステル画分を蒸留により分離する工程、及び(4)工程(3)で分離された脂肪酸又はその低級アルコールエステル画分から未反応の原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル(b)を蒸留により分離し、その一部又は全部を工程(1)の(b)に循環再使用する工程を含むことを特徴とする、USUを含有する油脂組成物の製造方法。但し、SはC18〜C24の飽和脂肪酸、UはC16〜18の不飽和脂肪酸、USUは1位及び3位の脂肪酸がUであり、2位の脂肪酸がSであるトリグリセリドを示す。
【請求項2】
工程(3)において分離されたトリグリセリド画分を分別し、得られた高融点部の一部又は全部を工程(1)の(a)に循環再使用する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
工程(3)において分離されたトリグリセリド画分を分別し、低融点部又は中融点部としてUSUを40重量%以上含有する油脂組成物を得る請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
工程(1)における原料油脂(a)の一部又は全部にハイエルシン菜種油の極度硬化油を使用する請求項1乃至3の何れか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3位エステル交換反応を用いたUSUに富む油脂の製造法に関する。但し、SはC18〜C24の飽和脂肪酸、UはC16〜18の不飽和脂肪酸、USUは1位及び3位の脂肪酸がUであり、2位の脂肪酸がSであるトリグリセリドを示す。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には構成脂肪酸として炭素数16〜22の飽和脂肪酸をグリセリンの2位に、炭素数16〜18で1つの不飽和結合を有する不飽和脂肪酸をグリセリンの1,3位に結合した混酸基型トリグリセリドを40〜100重量%含有するカカオ代用脂が開示されている。
【0003】
GOとコンパウンド
前記該混酸基型トリグリセリドはカカオバターと特異な結晶構造を形成し、かつこれをチョコレートの原料として配合することで、テンパリング作業を実施せずとも、ブルームが一切観察されず、また通常のチョコレートと比較して融点がほぼ同じであるにも関わらず、圧力に対しての結晶の抵抗性が著しく小さいという特異な物理的性質を示すことが開示されている。
【0004】
前記該混酸基型トリグリセリドの一種であるOStO(ただしStはステアリン酸、Oはオレイン酸)の製造法としては特許文献2の実施例1に大豆極度硬化油とオレイン酸エチルを1,3位選択的酵素を用いてエステル交換反応、分子蒸留、分別、精製することにより得られた例が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−135453号公報
【特許文献2】特開2002−65162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らはS主体の油脂とU主体の脂肪酸又はその低級アルコールエステルを原料とし1,3位エステル交換反応を用いてUSUを含む油脂を製造するには、高価な原料である高濃度のUを大量に使用しなければならないが、エステル交換反応後に副生する濃度が低下してしまったUを元の原料レベルまで濃縮する簡便で有効な手段がないため、Uを循環再使用することができずに、他の低付加価値用途に使用するか又は廃棄することになってしまう。これにより製造コストが極めて高くなるとの問題点を見出した。つまり本発明の課題は、USUを含む油脂の製造法において、商業的に使用できるレベルのUSU含有油脂を提供するために、簡便な方法でUSU含有油脂の製造コストを低減する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはエステル交換反応の原料油脂にC20〜24の飽和脂肪酸を含む油脂を使えば、エステル交換反応後に原料油脂に由来して遊離するC20〜24の飽和脂肪酸と未反応のUがそれぞれの沸点の差を利用して蒸留によって簡単に分離できること及び分離によって濃縮されたUはエステル交換反応の原料脂肪酸として有効に循環再使用できることを見出した。そしてこれらの知見により簡便に商業的に使用できるレベルの低製造コストのUSU含有油脂の製造法を完成した。さらに原料油脂にハイエルシン菜種油の極度硬化油を、原料脂肪酸にオレイン酸エチルを使用したときに、OBO(Bはベヘン酸、Oはオレイン酸)を少量しか含まない純粋なOStOが得られることを見出し、商業的に使用できるレベルの低製造コストの高純度のOStO脂の製造法を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると比較的安価にUSUに富む油脂特にOStOに富む油脂が製造できるため、これまで高コストのため用途開発が進まなかったOStOに富む油脂脂の食品への幅広い応用が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
すなわち本発明の第1は、
(1)構成脂肪酸中C18〜C24の飽和脂肪酸(S)を80重量%以上含みかつC20〜24の飽和脂肪酸を10〜70重量%以上含む原料油脂(a)と、C16〜18の不飽和脂肪酸(U)を主成分とする原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル(b)を混合する工程、
(2)工程(1)で得られた原料混合物を1,3位置特異性を有するリパーゼを用いてエステル交換反応させる工程、
(3)工程(2)で得られた反応生成物からトリグリセリド画分としてUSUを30重量%以上含有する油脂組成物と、脂肪酸又はその低級アルコールエステル画分を分離する工程、及び
(4)工程(3)で分離された脂肪酸又はその低級アルコールエステル画分から未反応の原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル(b)を分離し、その一部又は全部を工程(1)の(b)に循環再使用する工程を含むことを特徴とする、USUを含有する油脂組成物の製造方法。
但し、SはC18〜C24の飽和脂肪酸、UはC16〜18の不飽和脂肪酸、USUは1位及び3位の脂肪酸がUであり、2位の脂肪酸がSであるトリグリセリドを示す。
本発明の第2は、工程(3)において分離されたトリグリセリド画分を分別し、得られた高融点部の一部又は全部を工程(1)の(a)に循環再使用する本発明の第1の製造方法。
本発明の第3は、工程(3)において分離されたトリグリセリド画分を分別し、低融点部又は中融点部としてUSUを40重量%以上含有する油脂組成物を得る本発明の第1又は第2の製造方法。
本発明の第4は、工程(1)における原料油脂(a)の一部又は全部にハイエルシン菜種油の極度硬化油を使用する本発明第1乃至3の何れかの製造方法。
本発明の第5は、工程(1)における原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル(b)がオレイン酸を70重量%以上含む本発明の第1乃至4の何れかの製造方法。
【0011】
本発明の原料油脂(a)は、構成脂肪酸中C18〜C24の飽和脂肪酸(S)を80重量%以上含みかつC20〜24の飽和脂肪酸を10〜70重量%含む必要がある。さらにSを90重量%以上含むことが好ましく、より好ましくは95重量%以上さらに好ましくは98重量%以上である。またC20〜24の飽和脂肪酸の下限は20重量%以上であれば好ましく、さらに好ましくは30重量%以上最も好ましくは40重量%以上である。そしてC20〜24の飽和脂肪酸の上限は60重量%以下であれば好ましく、さらに好ましくは55重量%以下である。本発明の原料油脂(a)の構成脂肪酸中Sが80重量%未満の場合はUSUを含有する油脂組成物中の当該トリグリセリド含量が低くなり好ましくない。また本発明の原料油脂(a)の構成脂肪酸中C20〜24の飽和脂肪酸が10重量%未満の場合は系外に排出するC20〜24の飽和脂肪酸の量が少なく十分なレベルのUSU油脂生産効率が得られない。一方OStO脂の生産を目的とした場合はC20〜24の飽和脂肪酸が70重量%を超えると相対的にStの含量が低下するので十分なレベルのOStO油脂生産効率が得られない。
目的とするUSU油脂が高純度のOStO油脂である場合、原料油脂(a)は1,3位にC20〜24の飽和脂肪酸を多く含み2位にC20〜24の飽和脂肪酸をほとんど含まない油脂であるのが好ましい。
この観点では原料油脂(a)構成脂肪酸中の全C20〜24の飽和脂肪酸の内、80重量%以上が1,3位に存在していることが好ましく、より好ましくは90重量%以上であり、更に好ましくは95重量%以上であり、最も好ましくは98重量%以上である。かかる原料油脂を使用すれば、エステル交換反応後に原料油脂に由来して遊離するC20〜24の飽和脂肪酸と未反応のUのそれぞれの沸点の差を利用して、蒸留によって簡単に分離できる。分離によって濃縮されたUはエステル交換反応の原料脂肪酸として有効に循環再使用することができる。
【0012】
本発明の原料油脂(a)の構成脂肪酸において、S含量に対するC20〜24の飽和脂肪酸含量比は好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上、更に好ましくは0.4以上であり、好ましくは0.85以下、より好ましくは0.75以下、更に好ましくは0.85以下である。当該含量比が下限未満であると排出するC20〜24の飽和脂肪酸の量が少なく十分なレベルのUSU油脂生産効率が得られないことがある。また上限を超えると相対的にStの含量が低下するので、OStO脂の生産を目的とした場合は十分なレベルのOStO油脂生産効率が得られないことがある。
【0013】
本発明の原料油脂(a)としては前記脂肪酸組成の要件を満たしていれば特に限定されないが、ハイエルシン菜種極度硬化油、魚油極度硬化油、ホホバ油極度硬化油等の極度硬化油及びそれらから選ばれる1つ以上の油脂を原料の一部に用いたエステル交換油や分別油などが例示できる。目的とするUSU油脂が高純度のOStO油脂である場合は、原料油脂(a)はハイエルシン菜種極度硬化油であるのが最も好ましい。
【0014】
本発明の原料脂肪酸(b)は炭素数16〜18の不飽和脂肪酸を主成分とする原料脂肪酸又はその低級アルコールエステルであれば特に制限はないが、天然に多く存在し容易に入手できる観点からオレイン酸又はその低級アルコールエステルが好ましく、オレイン酸エチルがさらに好ましい。そしてそのオレイン酸含量は70重量%以上であることが望ましく、75重量%以上であるとさらに望ましい。
【0015】
本発明の工程(1)においては本発明の効果を損ねない範囲で原料油脂(a) 及び原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル(b)以外の原料を原料混合物に加えることもできる。原料混合物中に占める原料油脂(a) と原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル(b)の合計は好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは98重量%以上である。
【0016】
本発明の工程(2)における1,3位特異性リパーゼを用いた選択的なエステル交換にはリゾプス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属の微生物が生産するリパーゼを使用することができ、また、少なくともこれらと同様な性質をもつリパーゼであれば上記以外のものでもよく、何ら差支えない。このようなリパーゼは市販されており、例えばアマノA(天野製薬)、リポザイム(NOVO社製)などが用いられる。上記リパーゼの使用形態は、特に制限されないが、効率の観点から公知の方法で担体に固定化して用いることが好ましく、また、有機溶媒下で用いる場合は化学修飾酵素を用いるのが好ましい。またこの反応は、撹拌タンクを用いた回分法や、充填反応機を用いた連続法で実施できる。
【0017】
本発明の工程(2)における1,3位特異性リパーゼを用いた選択的なエステル交換反応において酵素反応に供する原料混合物は、酵素失活をできるだけ抑制する目的でその反応前に既知の方法で脱色・脱臭することが望ましい。また原料混合物の水分含量は、加水分解反応をできる限り抑制し、ジグリセリドの生成を抑制する目的では低く調整することが望ましく、反応速度を高める目的では高く調整することが望ましいが10〜300ppm、好ましくは20〜200ppm、さらに好ましくは30〜100ppmに調整することが望ましい。また酵素反応の時間は十分なエステル交換反応率が達成できれば特に限定されないが2時間から4日間が好適である。また酵素反応の温度は、十分な酵素反応速度を確保しつつ酵素活性を長く維持する観点及び異性体トリグリセリドの生成をできるだけ抑制する観点から、30〜80℃であることが望ましく、35〜65℃であることがより好ましく、40〜55℃であることがさらに好ましい。一方充填反応機を用いた連続法を本発明の工程(2)に採用する場合には反応機内の閉塞を避けるために、反応中に結晶析出が生じないような反応温度であることが好ましいが、比較的融点が高い飽和脂肪酸主体の原料油脂(a)と逆に融点の低い不飽和脂肪酸主体の原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル(b)の混合比率によりこの結晶析出温度は変動する。その意味で工程(1)における混合比率は原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル(b)が多い方が有利であり、原料混合物中の原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル(b)の比率は、好ましくは35重量%以上、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上である。また逆に原料油脂(a)が少ないと工程(3)で得られるトリグリセリド画分としての油脂組成物の製造量が少なくなり生産効率が劣る。この意味では原料混合物中の原料油脂(a)の比率は、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは20重量%以上である。
【0018】
本発明の工程(3)におけるトリグリセリド画分と脂肪酸又はその低級アルコールエステル画分の分離には分別や蒸留を用いることができ、好ましくは蒸留である。この場合の蒸留の条件は、トリグリセリド画分と脂肪酸又はその低級アルコールエステル画分を分離できるような条件であれば特に限定されないが、蒸留温度は好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは210℃以上、最も好ましくは220℃以上である。また好ましくは280℃以下、より好ましくは270℃以下、さらに好ましくは260℃以下、最も好ましくは250℃以下である。真空度は好ましくは0.2トール以上、より好ましくは0.5トール以上、さらに好ましくは1トール以上である。また好ましくは10トール以下、より好ましくは7トール以下、さらに好ましくは5トール以下、最も好ましくは3トール以下である。
【0019】
本発明の工程(3)にて得られるトリグリセリド画分はUSUを30重量%以上含有する油脂組成物である。工程(1)における原料脂肪酸(b)の混合比率を上げること及び工程(2)におけるエステル交換反応率を高くすることでこのUSU含量は高めることができ、好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上、最も好ましくは60重量%以上である。
【0020】
本発明の工程(3)にて得られる脂肪酸又はその低級アルコールエステル画分は、未反応の原料脂肪酸又はその低級アルコールエステルと原料油脂(a)の1,3位由来の脂肪酸又はその低級アルコールエステルが混在した混合物となるが、続く工程(4)にて未反応の原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル(b)を分離する。分離の方法としては沸点の差を利用した分離である蒸留を用いるか又は蒸留に先立ち、分別にて融点の差を利用した粗い分離を予め行う等蒸留と他の分離法を併用することもできる。蒸留温度は好ましくは180℃以上、より好ましくは200℃以上、さらに好ましくは210℃以上、最も好ましくは220℃以上である。また好ましくは280℃以下、より好ましくは270℃以下、さらに好ましくは260℃以下、最も好ましくは250℃以下である。真空度は好ましくは0.2トール以上、より好ましくは0.5トール以上、さらに好ましくは1トール以上である。また好ましくは10トール以下、より好ましくは7トール以下、さらに好ましくは5トール以下、最も好ましくは3トール以下である。当該蒸留により、未反応の原料脂肪酸又はその低級アルコールエステルであるC16〜C18の不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステル及び前記原料油脂(a)由来の脂肪酸のうちC20未満の脂肪酸(飽和脂肪酸が主体)又はその低級アルコールエステルは低沸点画分に分離回収される。当該低沸点画分のC16〜C18の不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステル含量が原料脂肪酸又はその低級アルコールエステル(b)に比べ著しく低くなければその一部又は全部を工程(1)の原料混合物に循環再使用するが、著しく低ければこの循環再使用に先立ち混在するC20未満の脂肪酸(飽和脂肪酸が主体)又はその低級アルコールエステルを分別、吸着といった既知の方法で除去しC16〜C18の不飽和脂肪酸又はその低級アルコールエステルの純度を高めてから工程(1)の原料混合物に循環再使用することもできる。一方前記原料油脂(a)由来の脂肪酸のうちC20〜24の脂肪酸又はその低級アルコールエステルは高沸点画分に回収され、反応系から排出されるが他の反応系のエステル交換反応の原料として利用することもできる。
また工程(3)と(4)の蒸留は同一工程での連続操作であってもよいし、それぞれ独立した工程であってもよい。工程(3)と(4)の蒸留としては単蒸留、水蒸気蒸留、薄膜蒸留、分子蒸留及び精留が例示される。
【0021】
本発明の工程(3)において分離したトリグリセリド画分を溶剤分別等の既知の方法で分別して、低融点部又は中融点部とすることでUSU含量を40重量%以上に高めることができ、好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上に高めることができる。
【0022】
さらに前記分別の際に副生する分別高融点部は、その一部又は全部を工程(1)の原料混合物に循環再使用することが出来る。この場合さらに生産効率が高まり低コストなUSU脂が得られる。
【0023】
本発明の原料油脂(a)としてハイエルシン菜種極度硬化油を使用し、原料脂肪酸(b)としてオレイン酸を70重量%以上含む脂肪酸又はその低級アルコールエステルを使用すると、OBOを少量しか含まない高純度のOStO脂が得られるため、商業的に使用できるレベルの生産効率を有する高純度のOStO脂の製造法という観点では特に有利である。
【実施例】
【0024】
以下に本発明の実施例を示し、本発明をより詳細に説明する。なお、例中、%および部はいずれも重量基準を意味する。
【0025】
(実施例1)
原料油脂(a)としてハイエルシン酸菜種極度硬化油(構成脂肪酸中C18〜C24の飽和脂肪酸が95重量%、C20〜24の飽和脂肪酸が56重量%)30部と、原料脂肪酸(b)としてオレイン酸エチルエステル(オレイン酸エチルエステル含量81重量%)70部を混合した原料混合物を既知の方法にて脱色・脱水を実施したのちに、1,3位特異的リパーゼを用いてエステル交換反応を実施した。エステル交換反応は原料混合物の水分含量90ppm、反応時間24時間、反応温度53℃、固定化リパーゼ量を対原料混合物1%とした回分反応にて実施した。
反応後、得られた反応生成物をトリグリセリド画分と脂肪酸エチルエステル画分に蒸留により分離した。蒸留条件は温度245〜250℃、真空度0.5〜1.0torrであった。得られたトリグリセリド画分のUSU含量は45重量%であったが、さらにN−ヘキサンを用いて溶剤分別を実施することにより収率45重量%の低融点部としてUSUを87重量%、OStOを58重量%、OBOを0重量%含有する油脂組成物(OStO脂)を得た。また副生成物として収率55重量%で高融点部を得た。この高融点部はSSS19重量%、SSOを79重量%含んでおり、前記原料混合物の一部として循環再使用した。一方前記蒸留にて得られた脂肪酸エチルエステル画分は、オレイン酸エチルを68重量%含んでいたが、続く精留工程で、低沸点画分と高沸点画分に分離した。精留の条件は温度238〜241℃ 真空度1.1〜1.3torrであった。得られた低沸点画分はオレイン酸エチルエステル含量が83重量%であり、オレイン酸エチル含量が81重量%の前記原料脂肪酸(b)とほぼ同等な品質として次回のエステル交換反応の原料脂肪酸エチルエステル(b)の一部に置換して再使用できた。すなわち未反応のオレイン酸エチルを循環再使用することにより、OStO脂の製造コスト低減が可能であった。一方得られた高沸点画分はベヘン酸エチルエステルを83重量%含有していた。
【0026】
(実施例2)
原料油脂(a)としてハイエルシン酸菜種極度硬化油をナトリウムメチラートを触媒とし通常の方法で反応させたエステル交換油(構成脂肪酸中Sが95重量%、C20〜24の飽和脂肪酸が56重量%)30部と、原料脂肪酸(b)としてオレイン酸エチルエステル画分(オレイン酸エチルエステル含量81重量%)70部を混合し、既知の方法にて脱色・脱水を実施したのちに、1,3位特異的リパーゼを用い、実施例1と同様の条件でエステル交換反応を実施した。反応後、得られた反応生成物をトリグリセリド画分と脂肪酸エチルエステル画分に蒸留により分離した。蒸留条件は実施例1と同様とした。得られたトリグリセリド画分のUSU含量は42重量%であったが、さらにN−ヘキサンを用いて溶剤分別を実施することにより収率45重量%の低融点部としてUSUを87重量%、OStOを29重量%、OBOを37重量%含有する油脂組成物(OStO/OBO脂)を得た。また副生成物として収率55重量%で高融点部を得た。この高融点部はSSS13重量%、SSOを86重量%含んでおり、前記原料混合物の一部として循環再使用した。一方前記蒸留にて得られた脂肪酸エチルエステル画分は、オレイン酸エチルを66重量%含んでいたが、続く精留工程で、低沸点画分と高沸点画分に分離した。精留の条件は実施例1と同様とした。得られた低沸点画分はオレイン酸エチルエステル含量が83重量%であり、オレイン酸エチル含量が81重量%の前記原料脂肪酸(b)とほぼ同等な品質として次回のエステル交換反応の原料脂肪酸(b)の一部に置換して再使用できた。すなわち未反応のオレイン酸エチルを循環再使用することにより、OStO脂/OBO脂の製造コスト低減が可能であった。一方得られた高沸点画分はベヘン酸エチルエステルを75重量%含有していた。
【0027】
(比較例1)
原料油脂(a)として菜種極度硬化油(全脂肪酸中炭素数18以上の飽和脂肪酸含量95重量%、C20〜24の飽和脂肪酸が2.2重量%)30部と、オレイン酸エチルエステル(オレイン酸エチルエステル含量81重量%)70部を混合した原料混合物を既知の方法にて脱色・脱水を実施したのちに、1,3位特異的リパーゼを用い、実施例1と同様の条件でエステル交換反応を実施した。反応後、得られた反応生成物をトリグリセリド画分と脂肪酸エチルエステル画分に蒸留により分離した。蒸留条件は実施例1と同様とした。得られたトリグリセリド画分のUSU含量は43重量%であったが、さらにN−ヘキサンを用いて溶剤分別を実施することにより収率48重量%の低融点部としてUSUを87重量%、OStOを58重量%、OBOを0重量%含有する油脂組成物(OStO脂)を得た。一方前記蒸留にて得られた脂肪酸エチルエステル画分は、オレイン酸エチルを65重量%含んでいたが、C20〜24の飽和脂肪酸を実質的に含んでいないので、続く精留工程で、低沸点画分と高沸点画分に分離できず、オレイン酸エチルエステル含量は65重量%のままであった。すなわち前記原料脂肪酸(b)とは品質的に違いがあるため、次回のエステル交換反応の原料脂肪酸(b)には置換して再使用できず、OStO脂の製造コスト低減ができなかった。