(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得るもので、誘電正接の低い、フィルムコンデンサを提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、誘電体樹脂フィルムと、誘電体樹脂フィルムを挟んで互いに対向する第1および第2の対向電極とを備える、フィルムコンデンサに向けられるものであって、上述した技術的課題を解決するため、次のような構成を備えることを特徴としている。
【0009】
すなわち、上記誘電体樹脂フィルムは、第1および第2の有機材料を含む少なくとも2種類の有機材料が反応して得られた硬化物であって、
第1の有機材料がフェノキシ樹脂であり、第2の有機材料が、分子内に複数の官能基を持つ、イソシアネート化合物、またはエポキシ樹脂もしくはメラミン樹脂であり、メチレン基(CH
2基)、芳香環およびエーテル基(−O−基)から選ばれる、モル分極率の比較的小さい少なくとも1種の官能基を含む、第1の原子団と、水酸基(OH基)、アミノ基(NH基)およびカルボニル基(C=O基)から選ばれる、モル分極率の比較的大きい少なくとも1種の官能基を含む、第2の原子団とを備える、誘電体樹脂組成物からなる。そして、この誘電体樹脂組成物は、上記官能基の吸収帯強度として、
・メチレン基に起因する吸収帯強度については、波数:3000〜2900cm
-1の範囲で検出される4つのピークのうち、最も低波数側のメチレン基のピーク強度を採用し、
・芳香環に起因する吸収帯強度については、波数:1650〜1550cm
-1の範囲で検出されるピーク強度を採用し、
・エーテル基に起因する吸収帯強度については、波数:1150〜1050cm
-1の範囲および900〜800cm
-1の範囲で検出される2つのピーク強度を採用し、
・水酸基に起因する吸収帯強度については、波数:3700〜3400cm
-1の範囲で検出されるピーク強度を採用し、
・アミノ基に起因する吸収帯強度については、波数:3400〜3200cm
-1の範囲で検出されるピーク強度を採用し、
・カルボニル基に起因する吸収帯強度については、波数:1750〜1650cm
-1の範囲で検出されるピーク強度を採用したとき、
式:(第1の原子団の吸収帯強度の総和)/(第2の原子団の吸収帯強度の総和)で表わされる値が1.3以上かつ9.6以下であることを特徴としている。
【0010】
上記式:(第1の原子団の吸収帯強度の総和)/(第2の原子団の吸収帯強度の総和)で表わされる値に関して、後述する実験例では、下限を1.3かつ上限を9.6とする範囲で、125℃での誘電正接が0.6%以下となることが確認された
。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、誘電体樹脂フィルムを構成する誘電体樹脂組成物において、分極率の比較的小さい第1の原子団が分極率の比較的大きい第2の原子団より多く含むので、たとえば125℃での誘電正接を0.6%以下というように、誘電正接を低くすることができる。
【0012】
したがって、この発明に係るフィルムコンデンサによれば、誘電体材料固有の誘電損失による発熱を小さくすることができ、高周波で問題なく使用することが可能となる。
【0013】
また、この発明によれば、誘電体樹脂フィルムを構成する誘電体樹脂組成物が、少なくとも2種類の有機材料が反応して得られた硬化物であるので、ガラス転移点を130℃以上とすることができる。したがって、誘電体樹脂フィルムの耐熱性が高くなり、フィルムコンデンサの保証温度をたとえば125℃以上と高くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1を参照して、この発明の一実施形態によるフィルムコンデンサについて説明する。
【0016】
図1に示したフィルムコンデンサ1は、巻回型のものであり、簡単に言えば、巻回状態の第1および第2の誘電体樹脂フィルム3および4と、第1または第2の誘電体樹脂フィルム3または4を挟んで互いに対向する第1および第2の対向電極5および6とを備えるとともに、第1および第2の対向電極5および6にそれぞれ電気的に接続される第1および第2の外部端子電極7および8を備えている。
【0017】
より詳細には、第1の誘電体樹脂フィルム3上に第1の対向電極5が形成され、第2の誘電体樹脂フィルム4上に第2の対向電極6が形成される。このとき、第1の対向電極5は、第1の誘電体樹脂フィルム3の一方側縁にまで届くが、他方側縁にまで届かないように形成される。他方、第2の対向電極6は、第2の誘電体樹脂フィルム4の一方側縁にまで届かないように形成されるが、他方側縁にまで届くように形成される。対向電極5および6は、たとえばアルミニウム膜から構成される。
【0018】
上述の第1および第2の誘電体樹脂フィルム3および4は、巻回するにあたって、積み重ねた状態とされる。このとき、
図1からわかるように、第1の対向電極5における第1の誘電体樹脂フィルム3の側縁にまで届いている側の端部および第2の対向電極6における第2の誘電体樹脂フィルム4の側縁にまで届いている側の端部がともに露出するように、第1の誘電体樹脂フィルム3と第2の誘電体樹脂フィルム4とが互いに幅方向にずらされる。そして、上述のようにして、第1および第2の樹脂フィルム3および4が巻回されることによって、実質的に円柱状のコンデンサ本体9が得られる。
【0019】
なお、
図1に示したフィルムコンデンサ1では、第2の誘電体樹脂フィルム4が第1の誘電体樹脂フィルム3の外側になるように、かつ第1および第2の誘電体樹脂フィルム3および4の各々について、第1および第2の対向電極5および6の各々が内方に向くように巻回されている。
【0020】
第1および第2の外部端子電極7および8は、上述のようにして得られた実質的に円柱状のコンデンサ本体9の各端面上にたとえば亜鉛を溶射することによって形成される。第1の外部端子電極7は、第1の対向電極5の露出端部と接触し、それによって第1の対向電極5と電気的に接続される。他方、第2の外部端子電極8は、第2の対向電極6の露出端部と接触し、それによって第2の対向電極6と電気的に接続される。
【0021】
図1では図示されないが、フィルムコンデンサは、円柱状の巻回軸を備えていてもよい。すなわち、巻回軸は、巻回状態の第1および第2の誘電体樹脂フィルムの中心軸線上に配置されるもので、第1および第2の誘電体樹脂フィルムを巻回する際の巻軸となるものである。なお、図示したフィルムコンデンサ1のように、巻回軸を備えない場合には、第1および第2の誘電体樹脂フィルム3および4の巻回体は、楕円または長円のような断面形状となるように押しつぶされ、よりコンパクトな形状とされることがある。
【0022】
このようなフィルムコンデンサ1に備える誘電体樹脂フィルム3および4が、以下に説明するような誘電体樹脂組成物から構成される。
【0023】
高分子誘電体の誘電正接に影響する主な支配因子として、高分子に含まれる官能基がある。誘電正接を低減するためには、極性の大きい原子団を減らすことが必要となる。一方で、たとえば、少なくとも2種類の有機材料が反応することによって硬化する硬化性樹脂の場合には、出発材料に、反応点として極性の大きい原子団を含むことから、硬化物中に分極率の大きい原子団を含み、結果として誘電正接が増大してしまう傾向がある。
【0024】
前述の特許文献1には、ポリビニルアセトアセタールとイソシアネートとの架橋樹脂が開示されているが、その誘電正接は0.75%を超える。その理由としては、硬化物には分極率の大きいウレタン基を含む分子骨格が寄与していることが考えられる。
【0025】
そこで、この発明では、誘電正接を低減するため、樹脂組成物中のモル体積あたりのモル分極率が比較的大きい原子団を低減し、樹脂組成物中のモル体積あたりのモル分極率が比較的小さい原子団の比率を高めるといった方法が採用される。ここで、一般的に、モル体積あたりのモル分極率が大きい原子団とは極性の大きい官能基を意味し、モル分極率が小さい原子団とは極性の小さい官能基を意味する。
【0026】
この実施形態によるフィルムコンデンサ1に備える誘電体樹脂フィルム3および4を構成する誘電体樹脂組成物は、メチレン基(CH
2基)、芳香環およびエーテル基(−O−基)から選ばれる、モル分極率の比較的小さい少なくとも1種の官能基を含む、第1の原子団と、水酸基(OH基)、アミノ基(NH基)およびカルボニル基(C=O基)から選ばれる、モル分極率の比較的大きい少なくとも1種の官能基を含む、第2の原子団とを備え、式:(第1の原子団の吸収帯強度の総和)/(第2の原子団の吸収帯強度の総和)で表わされる値が1.0以上であるという条件を満たすことを特徴としている。
【0027】
なお、上記官能基の吸収帯強度として、
・メチレン基に起因する吸収帯強度については、波数:3000〜2900cm
-1の範囲で検出される4つのピークのうち、最も低波数側のメチレン基のピーク強度が採用され、
・芳香環に起因する吸収帯強度については、波数:1650〜1550cm
-1の範囲で検出されるピーク強度が採用され、
・エーテル基に起因する吸収帯強度については、波数:1150〜1050cm
-1の範囲および900〜800cm
-1の範囲で検出される2つのピーク強度が採用され、
・水酸基に起因する吸収帯強度については、波数:3700〜3400cm
-1の範囲で検出されるピーク強度が採用され、
・アミノ基に起因する吸収帯強度については、波数:3400〜3200cm
-1の範囲で検出されるピーク強度が採用され、
・カルボニル基に起因する吸収帯強度については、波数:1750〜1650cm
-1の範囲で検出されるピーク強度が採用される。
【0028】
上述したメチレン基、芳香環、エーテル基、水酸基、アミノ基およびカルボニル基は、誘電正接に対する影響が特に支配的な官能基であることがわかっている。誘電体樹脂フィルム3および4を構成する誘電体樹脂組成物は、これらすべての官能基を含む必要がなく、第1および第2の原子団の各々において、官能基のいずれかについての吸収帯強度がたとえば0であってもよい。また、上述した官能基以外の官能基を含んでいてもよい。
【0029】
また、誘電体樹脂フィルム3および4を構成する誘電体樹脂組成物は、第1および第2の有機材料を含む少なくとも2種類の有機材料が反応して得られた硬化物である。これにより、ガラス転移点を130℃以上とすることができるので、誘電体樹脂フィルム3および4の耐熱性を高くすることができ、フィルムコンデンサ1の保証温度をたとえば125℃以上と高くすることができる。
【0030】
なお、第1の有機材料として、フェノキシ樹脂が有利に用いられ、第2の有機材料として、イソシアネート化合物、またはエポキシ樹脂もしくはメラミン樹脂が用いられるとき、特に、誘電正接の低減効果が高められる。
【0031】
[実験例]
次に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。
【0032】
(1)試料の作製
後掲の表2の「有機材料1」および「有機材料2」の各欄に示すように、有機材料1として、フェノキシ樹脂、およびPVAA(ポリビニルアセトアセタール)を用意し、有機材料2として、TDI(トリレンジイソシアネート)、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、およびMDI(ジフェニルメタンジイソシアネート)を用意した。
【0033】
なお、上記フェノキシ樹脂としては、末端にエポキシ基を持つ高分子量のビスフェノールA型エポキシ樹脂であるフェノキシ樹脂を用いた。
【0034】
上記TDIとしては、トリメチルプロパノール変性トリレンジイソシアネートを用いた。これは、分子内に複数の官能基を持つものである。
【0035】
上記エポキシ樹脂としては、ノボラック型エポキシ樹脂を用いた。これも、分子内に複数の官能基を持つものである。
【0036】
上記メラミン樹脂としては、アルキル化メラミン樹脂を用いた。
【0037】
上記MDIとしては、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネートとそのカルボジイミド変性体の混合物(重量比70対30)を用いた。これも、分子内に複数の官能基を持つものである。
【0038】
次に、上記有機材料1と上記有機材料2とを、表2の「重量比率」の欄に示す比率で混合して得られた樹脂溶液を、ドクターブレードコーターにより、PETフィルム上で成形し、厚みが5μmの未硬化フィルムを得た。次いで、このフィルムを、180℃に設定された熱風式オーブンにて、2時間、熱処理して熱硬化させ、試料となる誘電体樹脂フィルムを得た。
【0039】
なお、表2に示した試料1〜20は、組み合わされた「有機材料1」および「有機材料2」の種類に応じて、試料1〜4の第1グループ、試料5〜8の第2グループ、試料9〜12の第3グループ、試料13〜16の第4グループ、および試料17〜20の第5グループといった5つのグループに分類される。これら5つのグループの中で、第1ないし第4グループについては、「有機材料1」が共通して「フェノキシ」であり、各グループ内で最小の試料番号が付された試料については、「有機材料2」の重量比率が共通して「0」である。したがって、各グループ内で最小の試料番号が付された試料、すなわち、試料1、試料5、試料9および試料13は、互いに同じ試料である。
【0040】
上記樹脂溶液を得るにあたって、試料1〜4については、フェノキシ樹脂をメチルエチルケトンおよびトルエンの混合溶剤に溶解し、特に試料2〜3では、酢酸エチルに溶解したTDIを上記フェノキシ樹脂溶液に混合した。
【0041】
試料5〜8については、フェノキシ樹脂をメチルエチルケトンおよびトルエンの混合溶剤に溶解し、特に試料6〜8では、メチルエチルケトン溶剤に溶解したエポキシ樹脂を上記フェノキシ樹脂溶液に混合した。なお、試料5〜8では、熱硬化工程において、硬化反応を進めるため触媒として0.1%のイミダゾール触媒を添加した。
【0042】
試料9〜12については、フェノキシ樹脂をメチルエチルケトン溶剤に溶解し、特に試料10〜12では、ブタノールに溶解したメラミン樹脂を上記フェノキシ樹脂溶液に混合した。
【0043】
試料13〜16については、フェノキシ樹脂をメチルエチルケトン溶剤に溶解し、特に試料14〜16では、酢酸エチルに溶解したMDIを上記フェノキシ樹脂溶液に混合した。
【0044】
(2)吸収帯強度の測定
表2の「(原子団1の和)/(原子団2の和)」は、前述の式:(第1の原子団の吸収帯強度の総和)/(第2の原子団の吸収帯強度の総和)で表わされる値である。この式中の官能基の吸収帯強度は以下のようにして測定した。
【0045】
まず、表2の「FT−IRスペクトルにおける吸収帯のピーク強度」の欄に示した種々の官能基について、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)を用いて、赤外線吸収スペクトルを減衰全反射法(ATR:attenuated total reflection)にて測定した。波数域は、4000cm
-1〜500cm
-1とした。測定には、日本分光(JASCO)社製の「FT/IR−4100ST」を使用した。積算回数は64回、分解能は4cm
-1とした。測定に用いた誘電体樹脂フィルムの厚みは、前述のとおり、5μmであった。
【0047】
吸収帯強度を求めるにあたっては、各官能基について、上の表1に示した「FT−IRスペクトルでの吸収帯の位置」でのピーク強度を採用した。すなわち、FT−IRスペクトルから表1の「FT−IRスペクトルでの吸収帯の位置」の欄に示した波数領域に見られた吸収帯を各官能基によるものとし、それぞれの領域において確認されたピーク強度を読み取った。ピーク強度の読み取りの際には、各ピークの両側でベースラインを引き、そのベースラインからの頂点強度までの値をピーク強度とした。
【0048】
なお、試料となる誘電体樹脂フィルム中には、表1に示した官能基以外の官能基も含まれていた。
【0049】
上記のようにして測定された各官能基の吸収帯強度、すなわちピーク強度が、表2の「FT−IRスペクトルにおける吸収帯のピーク強度」の欄に示されている。この欄および表1からわかるように、エーテル基については、FT−IRスペクトル中に2つのピークが現れる。
【0050】
表2の「FT−IRスペクトルにおける吸収帯のピーク強度」における「原子団1」(モル分極率の比較的小さい原子団)に帰属する「CH
2基」、「芳香環」、「エーテル基1」および「エーテル基2」の各ピーク強度の和(原子団1の和)と、「原子団2(モル分極率の比較的大きい原子団)に帰属する「OH基」、「NH基」および「C=O基」の各ピーク強度の和(原子団2の和)とから、表2の「(原子団1の和)/(原子団2の和)」が算出される。
【0051】
(3)誘電正接の測定
誘電正接(tanδ)は、試料となる誘電体樹脂フィルムの両面にAl電極を形成し、LCRメーター(4284A:アジレント社製)を用いて、波数:1kHz、測定電圧:1V、測定温度:125℃の条件下で求めた。その結果が表2の「誘電正接」の欄に示されている。
【0052】
(4)ガラス転移点の測定
ガラス転移点は、試料となる熱硬化後の誘電体樹脂フィルムについて、DMA(動的粘弾性測定装置、TA INSTRUMENTS社製「RSA−III」)により測定した。測定条件は、昇温速度10℃/分で室温から250℃まで昇温し、波数を10rad/秒、Strainを0.1%とし、損失正接(tanδ)が最大ピーク値を示す温度を求めた。その結果が表2の「Tg」の欄に示されている。
【0055】
表2において、試料番号に*を付したものはこの発明の範囲外の比較例である。また、表2の「総合判定」の欄では、「誘電正接」が0.6%を超えるものを「×」で示した。他方、「誘電正接」が0.6%以下のものを「○」または「◎」で示し、そのうち、「Tg」が130℃以上のものを「◎」で示した。「総合判定」が「〇」であった試料についても、この発明の範囲外のものであり、表2において、試料番号に△を付している。これら試料番号に△を付した試料は、後の説明からわかるように、「有機材料1」と「有機材料2」とが反応して得られた硬化物ではない。
【0056】
表2を参照して、各試料の評価結果を考察するとともに、必要に応じて、各試料の変形例についても開示する。
【0057】
(5−1)試料1〜4について
試料1〜3のように、「(原子団1の和)/(原子団2の和)」が1.0以上と大きくなることにより、すなわち、試料となるフィルムを構成する誘電体樹脂組成物中の、モル分極率の比較的小さい官能基の比率が高まることにより、誘電正接を0.6%以下と低くすることができた。
【0058】
これらに対して、試料4のように、「(原子団1の和)/(原子団2の和)」が1.0未満と小さくなると、すなわち、試料となるフィルムを構成する誘電体樹脂組成物中の、モル分極率の比較的大きい官能基の比率が高まると、誘電正接が0.6%を超えた。
【0059】
また、試料2〜4のように、「有機材料1」と「有機材料2」とが反応して得られた硬化物の場合には、130℃以上のガラス転移点が得られた。
【0060】
以上を総合すれば、誘電正接と耐熱性との双方について優れた結果が得られた点で、試料2および3がより優れていると言える。
【0061】
(5−2)試料1〜4の変形例について
試料1〜4において、「有機材料1」として、フェノキシ樹脂を使用したが、フェノキシ樹脂以外であっても同様の効果を期待できる。また、フェノキシ樹脂はポリエーテルポリオールに属するが、フェノキシ樹脂以外のポリエーテルポリオールであってもよい。さらに、ポリエーテルポリオール以外であっても、ポリエステルポリオール等のポリオールであっても同様の効果を期待できる。また、「有機材料1」として、2種類の有機材料を併用しても同様の効果を期待できる。
【0062】
また、試料2〜4において、「有機材料2」として、TDI(トリメチルプロパノール変性トリレンジイソシアネート)を使用したが、TDI系イソシアネート化合物であれば、TDIモノマーやその変性体であっても同様の効果を期待できる。
【0063】
(5−3)試料5〜8について
試料5〜8では、「(原子団1の和)/(原子団2の和)」が1.0以上と大きく、誘電正接を0.6%以下と低くすることができた。
【0064】
また、試料6〜8のように、「有機材料1」と「有機材料2」とが反応して得られた硬化物の場合には、130℃以上のガラス転移点が得られた。
【0065】
以上を総合すれば、誘電正接と耐熱性との双方について優れた結果が得られた点で、試料6〜8がより優れていると言える。
【0066】
(5−4)試料5〜8の変形例について
試料5〜8では、「有機材料1」として、フェノキシ樹脂(末端にエポキシ基を持つ高分子量のビスフェノールA型エポキシ樹脂)を使用した。特に試料6〜8では、「有機材料1」のフェノキシ樹脂は主剤となるもので、「有機材料2」のエポキシ樹脂は硬化成分となるものである。この場合、主剤としての「有機材料1」はフェノキシ樹脂に特に限定されず、「(原子団1の和)/(原子団2の和)」が1以上となる組合せであれば、同様の効果が得られると考える。
【0067】
フェノキシ樹脂以外の材料としては、「有機材料2」のエポキシ樹脂と反応できる材料であれば、特に限定せず、エポキシ基を末端に持つポリマー、あるいはエポキシ基を側鎖に持つポリマーであれば、同様の効果を期待できる。また、2種類の主剤を併用しても同様の効果を期待できる。
【0068】
「有機材料2」としては、「有機材料1」と反応できるエポキシ樹脂が使用される。ここで言うエポキシ樹脂とは、エポキシ環を有した有機材料であれば、特に限定することはなく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格エポキシ樹脂、シクロペンタジエン骨格エポキシ樹脂、ナフタレン骨格エポキシ樹脂等が使用され得る。
【0069】
エポキシ樹脂の硬化剤としては、イミダゾール硬化剤、酸無水物硬化剤、またはフェノール硬化剤が好ましく、特にイミダゾール硬化剤が好ましい。
【0070】
(5−5)試料9〜12について
試料9〜12では、「(原子団1の和)/(原子団2の和)」が1.0以上と大きく、誘電正接を0.6%以下と低くすることができた。
【0071】
また、試料10〜12のように、「有機材料1」と「有機材料2」とが反応して得られた硬化物の場合には、130℃以上のガラス転移点が得られた。
【0072】
以上を総合すれば、誘電正接と耐熱性との双方について優れた結果が得られた点で、試料10〜12がより優れていると言える。
【0073】
(5−6)試料9〜12の変形例について
試料9〜12では、「有機材料1」として、フェノキシ樹脂を使用したが、フェノキシ樹脂以外であっても同様の効果を期待できる。フェノキシ樹脂はポリエーテルポリオールに属するが、試料1〜4の場合と同様、フェノキシ樹脂以外のポリエーテルポリオールであってもよい。さらに、ポリエーテルポリオール以外であっても、ポリエステルポリオール等のポリオールであっても同様の効果を期待できる。また、「有機材料1」として、2種類の有機材料を併用しても同様の効果を期待できる。
【0074】
また、試料10〜12において、「有機材料2」として、「有機材料1」と反応できるアルキル化メラミン樹脂を使用したが、メラミン樹脂であれば、特に限定されることなく、同様の効果を期待できる。ここで言うメラミン樹脂とは、構造の中心にトリアジン環、その周辺にアミノ基3個を持つ有機窒素化合物である。メラミン樹脂であれば、アルキル化メラミン樹脂に限定することなく、同様の効果を期待でき、その他のメラミンの変性体であってもよい。
【0075】
(5−7)試料13〜16について
試料13〜16では、「(原子団1の和)/(原子団2の和)」が1.0以上と大きく、誘電正接を0.6%以下と低くすることができた。
【0076】
また、試料14〜16のように、「有機材料1」と「有機材料2」とが反応して得られた硬化物の場合には、130℃以上のガラス転移点が得られた。
【0077】
以上を総合すれば、誘電正接と耐熱性との双方について優れた結果が得られた点で、試料14〜16がより優れていると言える。
【0078】
(5−8)試料13〜16の変形例について
試料13〜16では、「有機材料1」として、フェノキシ樹脂を使用したが、フェノキシ樹脂以外であっても同様の効果を期待できる。フェノキシ樹脂はポリエーテルポリオールに属するが、試料1〜4および試料9〜12の場合と同様、フェノキシ樹脂以外のポリエーテルポリオールであってもよい。さらに、ポリエーテルポリオール以外であっても、ポリエステルポリオール等のポリオールであっても同様の効果を期待できる。また、「有機材料1」として、2種類の有機材料を併用しても同様の効果を期待できる。
【0079】
また、試料14〜16では、「有機材料2」として、イソシアネート化合物であるジフェニルメタンジイソシアネートを使用したが、MDI系イソシアネート化合物であれば、MDIモノマーやその変性体であっても同様の効果を期待できる。
【0080】
(5−9)試料17〜20
試料17〜20では、「有機材料1」としてのPVAA(ポリビニルアセトアセタール)と「有機材料2」としてのTDI(トリレンジイソシアネート)との組合せが示されている。
【0081】
この場合、「有機材料1」単独の試料17では、「(原子団1の和)/(原子団2の和)」が1.0以上と大きく、誘電正接を0.6%以下と低くすることができた。
【0082】
他方、「有機材料1」と「有機材料2」とが反応して得られた硬化物である試料18〜20では、130℃以上のガラス転移点が得られたものの、いずれの配合比率であっても、「(原子団1の和)/(原子団2の和)」が1.0未満となり、誘電正接を0.6%以下と低くすることができなかった。