(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
第1周波数帯の高周波信号および第1周波数帯より周波数帯域が低い第2周波数帯の高周波信号が入力または出力される給電側共通ポート、第1周波数帯の高周波信号が入力または出力される第1ポート、および第2周波数帯の高周波信号が入力または出力される第2ポートを有し、第1周波数帯の高周波信号と第2周波数帯の高周波信号との分波または合波を行う給電側周波数選択性回路を有するフロントエンド回路と、
アンテナポートに接続され、前記第1周波数帯の高周波信号および前記第2周波数帯の高周波信号に対して共通のアンテナ素子と、
前記第2ポートと前記アンテナポートとの間に、一端が前記第2ポートに接続され、他端がグランドに接続された一次側コイルと、一端が前記第1ポートに接続され、他端がグランドに接続された二次側コイルとが電磁界結合したトランスを含むインピーダンス変換回路と、
を備えたことを特徴とする通信端末装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以降に示す幾つかの実施形態のうち、特に
図6Bに示す通信端末装置を除く通信端末装置が本発明に含まれる通信端末装置の例である。
【0016】
《第1の実施形態》
図2は第1の実施形態のフロントエンド回路およびそれを備えた通信端末装置の主要部の回路図である。第1の実施形態のフロントエンド回路301は給電側共通ポートPinとアンテナポートPoutを有し、給電側共通ポートPinに高周波回路30が接続され、アンテナポートPoutにアンテナ(放射素子)11が接続されている。フロントエンド回路301は給電側周波数選択性回路(以下、「ダイプレクサ」)101とインピーダンス変換回路201を備えている。
【0017】
ダイプレクサ101は、第1周波数帯である2GHz帯(以下、「ハイバンド」)の高周波信号および第1周波数帯より周波数帯域が低い第2周波数帯である800MHz帯(以下、「ローバンド」)の高周波信号が入力または出力される給電側共通ポートPin、ハイバンドの高周波信号が入力または出力される第1ポートP1、およびローバンドの高周波信号が入力または出力される第2ポートP2を備え、ローバンドの高周波信号とハイバンドの高周波信号について分波または合波を行う。
【0018】
インピーダンス変換回路201はダイプレクサ101の第2ポートP2とアンテナポートPoutとの間に接続されている。また、ダイプレクサ101の第1ポートP1はアンテナポートPoutに伝送線路TLを介して直接的に接続されている。
【0019】
インピーダンス変換回路201は第1コイル素子L1を含む第1回路(1次側回路)と、第2コイル素子L2およびこの第2コイル素子L2に直列接続された第3コイル素子L3を含む第2回路(2次側回路)とを有する。前記第1コイル素子L1は特許請求の範囲に記載の一次側コイルに相当し、前記第2コイル素子L2および第3コイル素子L3は特許請求の範囲に記載の二次側コイルに相当する。そして、第1コイル素子L1と第2コイル素子L2とは逆相で電磁界結合していて、第1コイル素子L1と第3コイル素子L3とは逆相で電磁界結合している。また、第1コイル素子L1、第2コイル素子L2および第3コイル素子L3は、それぞれの巻回軸がほぼ同一直線になるように、且つ第2コイル素子L2および第3コイル素子L3の間に第1コイル素子L1が位置するように配置されている。さらに、第1コイル素子L1、第2コイル素子L2および第3コイル素子L3は、複数の誘電体層または磁性体層の積層体である多層基板に一体的に構成されていて、少なくとも第1コイル素子L1と第2コイル素子L2の結合領域、および第1コイル素子L1と第3コイル素子L3の結合領域は前記多層基板内に位置している。
【0020】
第1コイル素子L1に生じる磁束の閉磁路と第2コイル素子L2に生じる磁束の閉磁路とは互いに反発する方向であるので、第1コイル素子L1と第2コイル素子L2との間には等価的な磁気障壁が生じることになる。同様に、第1コイル素子L1に生じる磁束の閉磁路と第3コイル素子L3に生じる磁束の閉磁路とは互いに反発する方向であるので、第1コイル素子L1と第3コイル素子L3との間には等価的な磁気障壁が生じることになる。このようにして、インピーダンス変換回路201はトランス型のインピーダンス変換回路を構成している。
【0021】
ダイプレクサ101はハイバンドの高周波信号とローバンドの高周波信号を分波/合波する。ローバンドの高周波信号はインピーダンス変換回路201を介して伝搬し、ハイバンドの高周波信号は伝送線路TLを伝搬する。
【0022】
携帯端末のような携帯型の通信端末装置において、ローバンド(800MHz帯)では筐体の長さが1/4波長に満たないので、低インピーダンスになる傾向がある。ハイバンド(2GHz帯)ではモノポールアンテナと同程度のインピーダンスが得られる。例えばハイバンドで25Ω、ローバンドで約8Ωである。この場合、高周波回路30のインピーダンスが50Ωであれば、インピーダンス変換回路201のインピーダンス変換比は約50:8とする。したがって、ローバンドの高周波信号はインピーダンス変換回路201で正常にインピーダンス整合する。ハイバンドの高周波信号はインピーダンス変換回路201を通らないので、インピーダンスが高くなりすぎることがなく、使用上の問題が生じない程度に整合することになる。
【0023】
ここで、第1の実施形態に係るフロントエンド回路301の周波数特性の例を
図3に示す。
図3(A)は800MHzから2.2GHzまでの周波数範囲について、フロントエンド回路301の給電側共通ポートPinからアンテナ側をみた通過損失および反射損失の特性図である。
図3(A)において、S11は反射損失、S21は通過損失をそれぞれ表している。
図3(B)は反射損失のスミスチャート上のインピーダンス軌跡である。
【0024】
アンテナ11の820MHzにおけるインピーダンスの実部は、通常使用されるもので7.7Ωであるので、ローバンド(例えば820MHz帯)の特性はフロントエンド回路301のインピーダンス変換回路201を通した特性である。そして、このインピーダンス変換回路201の出力インピーダンスはダイプレクサの101入力インピーダンスに整合させている。一方、ハイバンド(例えば1.9GHz帯)において、ダイプレクサ101のハイパスフィルタ部のアンテナ側インピーダンスはアンテナの特性インピーダンスに整合させている。
【0025】
このようにして、ローバンド(820MHz帯)およびハイバンド(1.9GHz帯)の両方について低反射、低挿入損失特性が得られる。
【0026】
《第2の実施形態》
図4は第2の実施形態のフロントエンド回路およびそれを備えた通信端末装置の主要部の回路図である。また、
図5は第2の実施形態の別のフロントエンド回路およびそれを備えた通信端末装置の主要部の回路図である。
【0027】
図4の例では、フロントエンド回路はダイプレクサ102Aとインピーダンス変換回路202とで構成されている。ダイプレクサ102Aは、キャパシタDC11およびインダクタDL11によるハイパスフィルタと、インダクタDL21およびキャパシタDC21によるローパスフィルタとで構成されている。このダイプレクサ102Aは、ハイバンドの高周波信号およびローバンドの高周波信号を入出力する給電側共通ポートPin、ハイバンドの高周波信号を入出力する第1ポートP1、およびローバンドの高周波信号を入出力する第2ポートP2を備え、ローバンドの高周波信号およびハイバンドの高周波信号の合分波を行う。
【0028】
インピーダンス変換回路202のトランス部分の構成は第1の実施形態で示したものと同じであるが、
図4の例では伝送線路TLも含めて一体化されている。このインピーダンス変換回路202の第1コイル素子L1、第2コイル素子L2および第3コイル素子L3は、複数の誘電体層または磁性体層の積層体である多層基板に一体的に構成されている。少なくとも第1コイル素子L1と第2コイル素子L2の結合領域、および第1コイル素子L1と第3コイル素子L3の結合領域は前記多層基板内に位置している。また、ダイプレクサ102AのキャパシタDC11,DC21、インダクタDL11,DL21はそれぞれチップ部品を前記多層基板の表面に搭載してもよいし、多層基板の内部に導体パターンにより一体的に構成してもよい。いずれの場合もモジュール化されたフロントエンド回路が構成できる。
【0029】
図5の例では、フロントエンド回路はダイプレクサ102Bとインピーダンス変換回路202とで構成されている。ダイプレクサ102Bは、キャパシタDC11およびインダクタDL11によるハイパスフィルタと、インダクタDL21およびキャパシタDC21によるローパスフィルタとで構成されている。
図4のダイプレクサ102Aとの違いはキャパシタとインダクタの接続関係である。
図4はハイバンドにおいて第1ポートP1のインピーダンスが給電側共通ポートPinより高く、且つローバンドにおいて第2ポートP2のインピーダンスが給電側共通ポートPinより低い場合の回路である。また、
図5はハイバンドにおいて第1ポートP1のインピーダンスが給電側共通ポートPinより低く、且つローバンドにおいて第2ポートP2のインピーダンスが給電側共通ポートPinより高い場合の回路である。
【0030】
《第3の実施形態》
図6Aは第3の実施形態のフロントエンド回路およびそれを備えた通信端末装置の主要部の回路図、
図6Bは第3の実施形態の別のフロントエンド回路およびそれを備えた通信端末装置の主要部の回路図である。また、
図7は第3の実施形態のさらに別のフロントエンド回路およびそれを備えた通信端末装置の主要部の回路図である。
【0031】
図6Aにおいて、フロントエンド回路303Aはダイプレクサ102A、第1インピーダンス変換回路203Aおよび第2インピーダンス変換回路203Bで構成されている。ダイプレクサ102Aの第1ポートP1には第1のインピーダンス変換回路203Aが接続され、ダイプレクサ102Aの第2ポートP2には第2のインピーダンス変換回路203Bが接続されている。
【0032】
ハイバンドの高周波信号はダイプレクサ102AのポートP1を入出力するので、第1のインピーダンス変換回路203Aを通過する。ローバンドの高周波信号はダイプレクサ102AのポートP2を入出力するので、第2のインピーダンス変換回路203Bを通過する。
【0033】
第1のインピーダンス変換回路203Aはハイバンドでのアンテナ11のインピーダンスに整合するようにインピーダンス変換比が定められている。同様に、第2のインピーダンス変換回路203Bはローバンドでのアンテナ11のインピーダンスに整合するようにインピーダンス変換比が定められている。例えばアンテナ11のインピーダンスはハイバンドで25Ω、ローバンドで約8Ωであり、高周波回路30のインピーダンスが50Ωであれば、インピーダンス変換回路203Aのインピーダンス変換比は約50:25、インピーダンス変換回路203Bのインピーダンス変換比は約50:8とする。
【0034】
前述のとおり、携帯端末のような携帯型の通信端末装置において、ローバンド(800MHz帯)で筐体の長さが1/4波長に満たないような場合、ローバンド用のインピーダンス変換回路のインピーダンス変換比はハイバンド用のインピーダンス変換回路のインピーダンス変換比よりも大きい。
【0035】
図6Bにおいて、フロントエンド回路303Bはダイプレクサ102Aおよびインピーダンス変換回路203Bで構成されている。
図6Aのフロントエンド回路およびそれを備えた通信端末装置と異なり、ハイバンド用のインピーダンス変換回路203Aは無くて、ローバンド用のインピーダンス変換回路203Bを備え、ハイバンド用のアンテナポートPout_Hとローバンド用のアンテナポートPout_Lとを個別に備えている。
【0036】
一般に、ハイバンドの高周波信号は、波長が短いのでアンテナ素子として十分な長さを確保しやすく、整合もとりやすいが、小型化の要請にともない、ローバンド用のアンテナ素子には十分な長さを確保することが難しく、整合もとり難い。そこで、
図6Bに示すように、ローバンド用の高周波回路のみにインピーダンス変換回路203Bを設けてもよい。また、ハイバンド用のアンテナポートPout_Hおよびローバンド用のアンテナポートPout_Lを個別に備えて、ハイバンド用のアンテナ11Hおよびローバンド用のアンテナ11Lをそれぞれ接続するようにしてもよい。
【0037】
図7のフロントエンド回路303Cはダイプレクサ102Bとインピーダンス変換回路203A,203Bとで構成されている。ダイプレクサの構成が異なるだけであり、基本的な作用効果は
図6Aに示したものと同じである。
【0038】
《第4の実施形態》
図8は第4の実施形態のフロントエンド回路およびそれを備えた通信端末装置の主要部の回路図である。また、
図9は第4の実施形態の別のフロントエンド回路およびそれを備えた通信端末装置の主要部の回路図である。
【0039】
図8の例では、ダイプレクサ102A、インピーダンス変換回路203A,203Bおよびアンテナ側周波数選択性回路(以下、「ダイプレクサ」)104Aによってフロントエンド回路が構成されている。給電側のダイプレクサ102Aの第1ポートPf1には第1のインピーダンス変換回路203Aが接続され、ダイプレクサ102Aの第2ポートPf2には第2のインピーダンス変換回路203Bが接続されている。アンテナ側のダイプレクサ104AはキャパシタDC12およびインダクタDL12によるハイパスフィルタと、インダクタDL22およびキャパシタDC22によるローパスフィルタとで構成されている。このアンテナ側のダイプレクサ104Aはアンテナ側共通ポートPout、ハイバンドの高周波信号が入出力される第1ポートPa1、およびローバンドの高周波信号が入出力される第2ポートPa2を備え、ハイバンドの高周波信号およびローバンドの高周波信号の分波または合波を行う。
【0040】
図9の例では、アンテナ側のダイプレクサ104BがキャパシタDC12とインダクタDL22とで構成されている。基本的な作用効果は
図9に示したものと同じである。
【0041】
このようにしてアンテナ側にもダイプレクサを設けてもよい。
【0042】
《第5の実施形態》
図10は第5の実施形態のフロントエンド回路およびそれを備えた通信端末装置の主要部の回路図である。この例ではインピーダンス変換回路203A,203Bおよびアンテナ側のダイプレクサ104Aによってフロントエンド回路が構成されている。アンテナ側のダイプレクサ104Aはアンテナ側共通ポートPout、ハイバンドの高周波信号が入出力される第1ポートPa1、およびローバンドの高周波信号が入出力される第2ポートPa2を備え、ハイバンドの高周波信号およびローバンドの高周波信号の分波または合波を行う。
【0043】
第1ポートPa1と第1給電ポートPin1との間にはハイバンド用の第1のインピーダンス変換回路203Aが接続されている。また、第2ポートPa2と第2給電ポートPin2との間にはローバンド用の第2のインピーダンス変換回路203Bが接続されている。
【0044】
第1給電ポートPin1にはハイバンド用の高周波回路30Aが接続されている。また、第2給電ポートPin2にはローバンド用の高周波回路30Bが接続されている。そしてアンテナ側共通ポートPoutにはアンテナ11が接続されている。
【0045】
第1のインピーダンス変換回路203Aは、一次側コイルと二次側コイルとが電磁界結合した第1トランスを含む。また、第2のインピーダンス変換回路203Bは一次側コイルと二次側コイルとが電磁界結合した第2トランスを含む。第1のインピーダンス変換回路203Aはハイバンドでのアンテナ11のインピーダンスに整合するようにインピーダンス変換比が定められている。同様に、第2のインピーダンス変換回路203Bはローバンドでのアンテナ11のインピーダンスに整合するようにインピーダンス変換比が定められている。
【0046】
このようにしてアンテナ側にのみダイプレクサを設けてもよい。
【0047】
なお、第1インピーダンス変換回路203Aまたは第2インピーダンス変換回路203Bの少なくとも一方を備えるようにしてもよい。例えば、ハイバンドで、アンテナ11と高周波回路30Aとがリターンロスの使用上の問題が無い程度に整合する場合には、ハイバンド用の第1のインピーダンス変換回路203Aは設けず、ローバンド用の第2のインピーダンス変換回路203Bだけを設けてもよい。
【0048】
《第6の実施形態》
図11は第6の実施形態のフロントエンド回路およびそれを備えた通信端末装置の主要部の回路図である。この例ではインピーダンス変換回路206A,206Bおよび給電側のダイプレクサ102Aによってフロントエンド回路が構成されている。
【0049】
インピーダンス変換回路206A,206Bはそれぞれ第1コイル素子L1と第2コイル素子L2とを有する。この第1コイル素子L1は特許請求の範囲に記載の一次側コイルに相当し、第2コイル素子L2は特許請求の範囲に記載の二次側コイルに相当する。第1コイル素子L1と第2コイル素子L2は閉磁路を構成するように配置されている。そして、第1コイル素子L1および第2コイル素子L2は、第1コイル素子L1と第2コイル素子L2とが逆相で電磁界結合するように接続されている。さらに、第1コイル素子L1および第2コイル素子L2は、複数の誘電体層または磁性体層の積層体である多層基板に一体的に構成されていて、第1コイル素子L1と第2コイル素子L2の結合領域は前記多層基板内に位置されている。
【0050】
図12(A)は
図11におけるインピーダンス変換回路206A,206Bの等価回路図、
図12(B)はアンテナ11の等価回路図である。インピーダンス変換回路206A,206Bのそれぞれは、
図12(A)に示すように、三つのインダクタンス素子La,Lb,LcによるT型回路に等価変換できる。すなわち、このT型回路は、給電側のポートと分岐点Aとの間に接続された第1インダクタンス素子La、アンテナ側のポートと分岐点Aとの間に接続された第2インダクタンス素子Lb、およびグランドポートと分岐点Aとの間に接続された第3インダクタンス素子Lcで構成される。
【0051】
一方、アンテナ11は
図12(B)に表れているように、等価的にインダクタンス成分LANT、放射抵抗成分Rr、および放射素子と大地との間に生じるキャパシタンス成分CANTで構成される。
【0052】
第1コイル素子L1と第2コイル素子L2とは互いに結合し、相互インダクタンスMを生じている。第1コイル素子L1と第2コイル素子L2により実現される機能は、まず給電回路側(高周波回路側)のインピーダンスの実部をアンテナ側のインピーダンスの実部に整合するようインピーダンス変換を行うことである。多くの場合、給電回路側のインピーダンスは50Ωに設定されるが、アンテナ11のインピーダンスは50Ωより低いことが多い。
【0053】
インピーダンス変換回路のインピーダンス変換比は(L1+L2+2M):L2である。このインピーダンス変換回路のインピーダンス変換で、アンテナ11の放射抵抗Rrを給電側の高周波回路のインピーダンス(50Ω)に整合させる。すなわち、
図11に示したインピーダンス変換回路206Aはハイバンドでのアンテナ11のインピーダンスの実部に整合するようにインピーダンス変換比が定められている。また、インピーダンス変換回路206Bはローバンドでのアンテナ11のインピーダンスの実部に整合するようにインピーダンス変換比が定められている。
【0054】
また、アンテナ11単体のインダクタンス成分LANTは、インピーダンス変換回路206A,206Bにおける負のインダクタンス成分(−M)によって打ち消されるように作用する。すなわち、
図12(A)のA点からアンテナ11側を見た(第2インダクタンス素子Lbを含めたアンテナ11の)インダクタンス成分は小さく(理想的にはゼロにすることが)なり、その結果、このアンテナのインピーダンス周波数特性が小さくなる。
図11に示したインピーダンス変換回路206Aはハイバンドでのアンテナ11のインダクタンス成分が打ち消されるように相互インダクタンスMが定められている。また、インピーダンス変換回路206Bはローバンドでのアンテナ11のインダクタンス成分が打ち消されるように相互インダクタンスMが定められている。
【0055】
《第7の実施形態》
図13は第7の実施形態のフロントエンド回路およびそれを備えた通信端末装置の主要部の回路図である。
図11に示したフロントエンド回路に対し、インピーダンス変換回路の構成が異なる。
【0056】
インピーダンス変換回路207Aは、
図13に示すとおり、第1コイルL1および第2コイルL2を備えている。第1コイルL1は直列接続された二つのコイル素子L11,L12で構成されている。第2コイルL2は直列接続された二つのコイル素子L21,L22で構成されている。インピーダンス変換回路207Bはインピーダンス変換回路207Aと同様に、第1コイルL1および第2コイルL2を備えている。そして、第1コイルL1は直列接続された二つのコイル素子L11,L12で構成されていて、第2コイルL2は直列接続された二つのコイル素子L21,L22で構成されている。
【0057】
図14は前記インピーダンス変換回路207A,207Bに流れる電流と磁束の向きとの関係を示す図である。
図14において電流を実線の矢印、磁束を破線の矢印で表している。
【0058】
直列接続されたコイル素子L11,L12は閉磁路を構成し、同じく直列接続されたコイル素子L21,L22は閉磁路を構成する。また、コイル素子L11とL21は閉磁路を構成し、コイル素子L12とL22も閉磁路を構成する。さらに、コイル素子L11,L21,L22,L12の全体でも閉磁路を構成する。このような構造により、各コイル素子が密結合することによって漏れ磁束が少なくなり、トランスの1次−2次間の結合度が極めて高く(k=0.5以上、さらには0.7以上)、挿入損失を最小限に抑制できる。また、インピーダンス変換回路のインピーダンス変換特性は、この回路の周囲環境にはほとんど影響されない。
【0059】
《第8の実施形態》
図15は、多層基板に構成した第8の実施形態に係るインピーダンス変換回路の各層の導体パターンの例を示す図である。各層は磁性体シートで構成されている。このインピーダンス変換回路は、ハイバンド用またはローバンド用のインピーダンス変換回路である。
【0060】
図15に示した範囲で第1層51aに導体パターン73、第2層51bに導体パターン72,74、第3層51cに導体パターン71,75がそれぞれ形成されている。また、第4層51dに導体パターン63、第5層51eに導体パターン62,64、第6層51fに導体パターン61,65がそれぞれ形成されている。第7層51gには導体パターン66が形成されている。第8層51hには給電端子41、グランド端子42、アンテナ端子43が形成されている。
図15中の縦方向に延びる破線はビア導体であり、導体パターン同士を層間で接続する。
【0061】
図15において、導体パターン63の右半分と導体パターン61,62とによって第1のコイル素子L11を構成している。また、導体パターン63の左半分と導体パターン64,65とによって第2のコイル素子L12を構成している。また、導体パターン73の右半分と導体パターン71,72とによって第3のコイル素子L21を構成している。また、導体パターン73の左半分と導体パターン74,75とによって第4のコイル素子L22を構成している。各コイル素子L11〜L22の巻回軸は多層基板の積層方向に向いている。そして、第1のコイル素子L11と第2のコイル素子L12の巻回軸は異なる関係で並置されている。同様に、第3のコイル素子L21と第4のコイル素子L22は、それぞれの巻回軸が異なる関係で並置されている。そして、第1のコイル素子L11と第3のコイル素子L21のそれぞれの巻回範囲が平面視で少なくとも一部で重なり、第2のコイル素子L12と第4のコイル素子L22のそれぞれの巻回範囲が平面視で少なくとも一部で重なる。この例ではほぼ完全に重なる。このようにして8の字構造の導体パターンで4つのコイル素子を構成している。
【0062】
なお、各層は誘電体シートで構成されていてもよい。但し、比透磁率の高い磁性体シートを用いれば、コイル素子間の結合係数をより高めることができる。
【0063】
図16は、
図15に示した多層基板の各層に形成された導体パターンによるコイル素子を通る主な磁束を示している。磁束FP12は導体パターン61〜63による第1のコイル素子L11及び導体パターン63〜65による第2のコイル素子L12を通る。また、磁束FP34は導体パターン71〜73による第3のコイル素子L21及び導体パターン73〜75による第4のコイル素子L22を通る。
【0064】
このようにして各コイル素子を密結合させることができる。
【0065】
《第9の実施形態》
図17は第9の実施形態に係るインピーダンス変換回路の回路図である。このインピーダンス変換回路はハイバンド用またはローバンド用のインピーダンス変換回路である。このインピーダンス変換回路は、給電側のポートPfとアンテナ側のポートPaとの間に接続された第1の直列回路26、給電側のポートPfとアンテナ側のポートPaとの間に接続された第3の直列回路28、およびアンテナ側のポートPaとグランドとの間に接続された第2の直列回路27とで構成されている。
【0066】
第1の直列回路26は第1のコイル素子L11aと第2のコイル素子L12aとが直列に接続された回路である。第2の直列回路27は第3のコイル素子L21と第4のコイル素子L22とが直列に接続された回路である。第3の直列回路28は第5のコイル素子L11bと第6のコイル素子L12bとが直列に接続された回路である。
【0067】
図17において、楕円の破線M12はコイル素子L11aとL12aとの結合、楕円の破線M34はコイル素子L21とL22との結合、楕円の破線M56はコイル素子L11bとL12bとの結合をそれぞれ表している。また、楕円の破線M135はコイル素子L11aとL21とL11bとの結合を表している。同様に、楕円の破線M246はコイル素子L12aとL22とL12bとの結合を表している。
【0068】
図18は第9の実施形態に係るインピーダンス変換回路を多層基板に構成した場合の各層の導体パターンの例を示す図である。各層は磁性体シートで構成されている。
【0069】
図18に示した範囲で、第1層51aに導体パターン82、第2層51bに導体パターン81,83、第3層51cに導体パターン72がそれぞれ形成されている。また、第4層51dに導体パターン71,73、第5層51eに導体パターン61,63、第6層51fに導体パターン62がそれぞれ形成されている。第7層51gには給電端子41、グランド端子42、アンテナ端子43が形成されている。
図18中の縦方向に延びる破線はビア導体であり、導体パターン同士を層間で接続する。
【0070】
図18において、導体パターン62の右半分と導体パターン61とによって第1のコイル素子L11aを構成している。また、導体パターン62の左半分と導体パターン63とによって第2のコイル素子L12aを構成している。また、導体パターン71と導体パターン72の右半分とによって第3のコイル素子L21を構成している。また、導体パターン72の左半分と導体パターン73とによって第4のコイル素子L22を構成している。また、導体パターン81と導体パターン82の右半分とによって第5のコイル素子L11bを構成している。また、導体パターン82の左半分と導体パターン83とによって第6のコイル素子L12bを構成している。
【0071】
図18において破線の楕円形は閉磁路を表している。閉磁路CM12はコイル素子L11aとL12aとに鎖交する。また、閉磁路CM34はコイル素子L21とL22とに鎖交する。さらに、閉磁路CM56はコイル素子L11bとL12bとに鎖交する。このように、第1のコイル素子L11aと第2のコイル素子L12aとによって第1の閉磁路CM12が構成され、第3のコイル素子L21と第4のコイル素子L22とによって第2の閉磁路CM34が構成され、第5のコイル素子L11bと第6のコイル素子L12bとによって第3の閉磁路CM56が構成される。
図18において二点鎖線の平面は、前記三つの閉磁路の間にコイル素子L11aとL21、L21とL11b、L12aとL22、L22とL12bが各々逆向きに磁束が発生するように結合しているために等価的に生じる二つの磁気壁MWである。換言すると、この二つの磁気壁MWでコイル素子L11a,L12aによる閉磁路の磁束、コイル素子L21,L22による閉磁路の磁束、およびコイル素子L11b,L12bによる閉磁路の磁束をそれぞれ閉じ込める。
【0072】
このように、第2の閉磁路CM34が第1の閉磁路CM12および第3の閉磁路CM56で層方向に挟み込まれた構造とする。この構造により、第2の閉磁路CM34は二つの磁気壁で挟まれて充分に閉じ込められる(閉じ込められる効果が高まる)。すなわち、結合係数の非常に大きなトランスとして作用させることができる。
【0073】
そのため、前記閉磁路CM12とCM34との間、およびCM34とCM56との間をある程度広くすることができる。ここで、コイル素子L11a,L12aによる直列回路と、コイル素子L11b,L12bによる直列回路とが並列接続された回路を一次側回路と称し、コイル素子L21,L22による直列回路を二次側回路と称すると、前記閉磁路CM12とCM34との間、およびCM34とCM56との間を広くすることによって、第1の直列回路26と第2の直列回路27との間、第2の直列回路27と第3の直列回路28との間のそれぞれに生じるキャパシタンスを小さくできる。すなわち、自己共振点の周波数を定めるLC共振回路のキャパシタンス成分を小さくできる。
【0074】
また、第9の実施形態によれば、コイル素子L11a,L12aによる第1の直列回路26と、コイル素子L11b,L12bによる第3の直列回路28とが並列接続された構造であるので、自己共振点の周波数を定めるLC共振回路のインダクタンス成分が小さくなる。
【0075】
このようにして、自己共振点の周波数を定めるLC共振回路のキャパシタンス成分もインダクタンス成分も小さくなって、自己共振点の周波数を使用周波数帯域から充分に離れた高い周波数に定めることができ、広帯域に亘ってトランスとして作用する。
【0076】
《第10の実施形態》
図19は第10の実施形態に係るインピーダンス変換回路の回路図である。このインピーダンス変換回路はハイバンド用またはローバンド用のインピーダンス変換回路である。このインピーダンス変換回路は、給電側のポートPfとアンテナ側のポートPaとの間に接続された第1の直列回路26、給電側のポートPfとアンテナ側のポートPaとの間に接続された第3の直列回路28、およびアンテナ側のポートPaとグランドとの間に接続された第2の直列回路27とで構成されている。
【0077】
第1の直列回路26は第1のコイル素子L11aと第2のコイル素子L12aとが直列に接続された回路である。第2の直列回路27は第3のコイル素子L21と第4のコイル素子L22とが直列に接続された回路である。第3の直列回路28は第5のコイル素子L11bと第6のコイル素子L12bとが直列に接続された回路である。
【0078】
図19において、楕円の破線M12はコイル素子L11aとL12aとの結合、楕円の破線M34はコイル素子L21とL22との結合、楕円の破線M56はコイル素子L11bとL12bとの結合をそれぞれ表している。また、楕円の破線M135はコイル素子L11aとL21とL11bとの結合を表している。同様に、楕円の破線M246はコイル素子L12aとL22とL12bとの結合を表している。
【0079】
図20は第10の実施形態に係るインピーダンス変換回路を多層基板に構成した場合の各層の導体パターンの例を示す図である。各層は磁性体シートで構成され、各層の導体パターンは
図20に示す向きでは磁性体シートに形成されているが、各導体パターンは実線で表している。また、線状の導体パターンは所定の線幅を備えているが、ここでは単純な実線で表している。
【0080】
図18に示したインピーダンス変換回路と異なるのは、導体パターン81,82,83によるコイル素子L11b,L12bの極性である。
図20の例では、閉磁路CM36はコイル素子L21,L11b,L12b,L22に鎖交する。したがって、コイル素子L21,L22とL11b,L12bとの間には等価的な磁気壁が生じない。その他の構成は第5の実施形態で示したとおりである。
【0081】
第10の実施形態によれば、
図20に示した閉磁路CM12,CM34,CM56が生じるとともに閉磁路CM36が生じることにより、コイル素子L21,L22による磁束がコイル素子L11b,L12bによる磁束で吸い込まれる。そのため、第6の実施形態の構造でも磁束が漏れ難く、その結果、結合係数の非常に大きなトランスとして作用する。
【0082】
この第10の実施形態でも、自己共振点の周波数を定めるLC共振回路のキャパシタンス成分もインダクタンス成分も小さくなって、自己共振点の周波数を使用周波数帯域から充分に離れた高い周波数に定めることができる。
【0083】
《第11の実施形態》
第11の実施形態では、第9の実施形態および第10の実施形態とは異なる構成で、トランス部の自己共振点の周波数を高めるための別の構成例を示す。
【0084】
図21は第11の実施形態に係るインピーダンス変換回路の回路図である。このインピーダンス変換回路はハイバンド用またはローバンド用のインピーダンス変換回路である。このインピーダンス変換回路は、給電側のポートPfとアンテナ側のポートPaとの間に接続された第1の直列回路26、給電側のポートPfとアンテナ側のポートPaとの間に接続された第3の直列回路28、およびアンテナ側のポートPaとグランドとの間に接続された第2の直列回路27とで構成されている。
【0085】
図22は第11の実施形態に係るインピーダンス変換回路を多層基板に構成した場合の各層の導体パターンの例を示す図である。各層は磁性体シートで構成されている。
【0086】
図18に示したインピーダンス変換回路と異なるのは、導体パターン61,62,63によるコイル素子L11a,L12aの極性、および導体パターン81,82,83によるコイル素子L11b,L12bの極性である。
図22の例では、閉磁路CM16はすべてのコイル素子L11a〜L12bに鎖交する。したがって、この場合は等価的な磁気壁は生じない。その他の構成は第9の実施形態および第10の実施形態で示したとおりである。
【0087】
第11の実施形態によれば、
図22に示した閉磁路CM12,CM34,CM56が生じるとともに閉磁路CM16が生じることにより、コイル素子L11a〜L12bによる磁束が漏れ難く、その結果、結合係数の大きなトランスとして作用させることができる。
【0088】
第11の実施形態でも、自己共振点の周波数を定めるLC共振回路のキャパシタンス成分もインダクタンス成分も小さくなって、自己共振点の周波数を使用周波数帯域から充分に離れた高い周波数に定めることができる。
【0089】
なお、第8〜第11の各実施形態ではハイバンド用またはローバンド用のインピーダンス変換回路について示したが、ハイバンド用とローバンド用のそれぞれのインピーダンス変換回路を一つの積層体に構成してモジュール化してもよい。
【0090】
また、以上に示した各実施形態では、
図6Bに示した例を除いて、ハイバンドとローバンドとで共用するアンテナを備えた例を示したが、これらの実施形態についてもハイバンド用のアンテナとローバンド用のアンテナを個別に備えてもよい。
【0091】
また、以上に示した各実施形態では、ハイバンド用の高周波回路およびローバンド用の高周波回路にインピーダンス変換回路を設けたものや、ローバンド用の高周波回路のみにインピーダンス変換回路を設けたものを例示したが、本発明は、例えばハイバンド用の高周波回路にインピーダンス変換回路を設け、ローバンド用の高周波回路にはインピーダンス変換回路を設けない、という形態も含まれる。