(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
AT内やCVT内は、絶縁電線を配策するためのスペースが狭い。そのため、AT内やCVT内に配策される絶縁電線は、細径化が望まれている。しかしながら、実際に使用されている絶縁電線の導体断面積は0.5mm
2以上である。今後、ワイヤーハーネスにおける回路数の増加に伴い、さらなる絶縁電線の細径化が要求されると考えられる。
【0005】
ところで、AT内やCVT内では、走行中の車両の揺れや振動により、ATフルードやCVTフルードが揺らされ、フルード液面が上下する。また、ATフルードやCVTフルードは、AT内やCVT内にて循環されており、これによってもフルード液面が上下する。AT内やCVT内に配策される絶縁電線の細径化が進むと、絶縁電線の剛性が低下する。そのため、ATフルードやCVTフルードに浸かった絶縁電線は、フルード液面が上下することによってさらに揺らされやすくなる。その結果、AT内やCVT内にて絶縁電線が屈曲され、電線疲労が進みやすくなる。
【0006】
上記問題を防ぐため、AT内やCVT内に絶縁電線を配策する際に、ATフルードやCVTフルードによって絶縁電線が揺らされないように配策することが考えられる。上記配策方法としては、例えば、絶縁電線をATフルードやCVTフルードと接触しないように配置したり、絶縁電線の固定箇所を増やしたりすることなどが挙げられる。しかしながら、このような手法は、絶縁電線の配策経路や配策形態の自由度を制限することになるため、望ましくない。
【0007】
本発明は、上記背景に鑑みてなされたものであり、AT内やCVT内に配策されてATフルードやCVTフルードによって揺らされた場合でも、電線疲労を抑制可能な絶縁電線を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、導体と、該導体の外周を覆う絶縁体と、を有する絶縁電線であって、
上記導体の断面積が0.4mm
2以下であり、
上記絶縁体は、SまたはFを主鎖に有するポリマーを含み、厚みが0.05mm以上であり、
電線密度が3.1g/cm
3以上である、絶縁電線にある。
【発明の効果】
【0009】
上記絶縁電線は、上記特定の構成を有している。そのため、上記絶縁電線は、細径化され、AT内やCVT内に配策されてATフルードやCVTフルードによって揺らされた場合でも、電線疲労を抑制することができる。また、上記絶縁電線は、AT内やCVT内で高温のATフルードやCVTフルードによって絶縁体が侵され難く、高温耐フルード性に優れる。また、上記絶縁電線は、スパーク試験での絶縁破壊も生じ難い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
上記絶縁電線において、導体の断面積は、0.4mm
2以下である。導体の断面積が0.4mm
2を超えると、ワイヤーハーネスにおける回路数の増加に伴う絶縁電線の細径化の要請に対応することができない。導体の断面積は、絶縁電線の細径化を確実なものとする観点から、好ましくは、0.3mm
2以下、より好ましくは、0.25mm
2以下、さらに好ましくは、0.2mm
2以下、さらにより好ましくは、0.18mm
2以下とすることができる。なお、導体の断面積は、自動車用途に好適な許容電流の確保、ハーネス加工時の取扱い性などの観点から、好ましくは、0.01mm
2以上、より好ましくは、0.03mm
2以上、さらに好ましくは、0.05mm
2以上とすることができる。
【0012】
導体は、単線の金属素線、あるいは、複数本の金属素線より構成することができる。後者の場合、導体は、撚り合わされた複数本の金属素線を有する構成とすることができる。また、導体は、導体断面で見て、外形が円形状の形状を呈することもできる。このような円形状の形状は、導体を、導体径方向で円形圧縮することにより形成することができる。他にも、導体は、金属素線の外形に沿った表面凹凸を有することもできる。導体は、絶縁電線の細径化、外観などの観点から、導体断面で見て、外形が円形状の形状を呈しているとよい。
【0013】
導体の材料としては、例えば、Cu、Cu合金、Al、Al合金などを例示することができる。導体は、高温耐フルード性の向上などの観点から、Niめっき、Ni合金めっき等より構成されるめっき層を表面に有することができる。
【0014】
上記絶縁電線において、絶縁体は、SまたはFを主鎖に有するポリマーを含んでいる。これにより、AT内やCVT内で高温のATフルードやCVTフルードによって絶縁体が侵され難くなり、高温耐フルード性に優れた絶縁電線が得られる。
【0015】
絶縁体は、Sを主鎖に有するポリマーを含んでいてもよいし、Fを主鎖に有するポリマーを含んでいてもよい。絶縁体は、高温耐フルード性を発揮させやすく、電線密度を確保しやすいなどの観点から、好ましくは、Fを主鎖に有するポリマーを含んでいるとよい。
【0016】
Sを主鎖に有するポリマーとしては、具体的には、例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)やポリスルホン系樹脂などを例示することができる。ポリスルホン系樹脂としては、具体的には、ポリスルホン(PSU)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニルスルホン(PPSU)などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。また、Fを主鎖に有するポリマーとしては、具体的には、例えば、フッ素樹脂、フッ素ゴム(エラストマー含む)などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。フッ素樹脂としては、具体的には、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン樹脂(PVDF)などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。フッ素ゴムとしては、具体的には、例えば、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、テトラフルオロエチレン−プロピレンゴム(FEPM)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロメチルビニルエーテルゴム(FFKM)などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。
【0017】
絶縁体は、融点が200℃以上の樹脂を含む構成とすることができる。この場合には、融点が200℃以上の樹脂により、絶縁体の耐摩耗性が向上する。そのため、耐摩耗性に優れた絶縁電線が得られる。上記融点は、耐摩耗性向上などの観点から、好ましくは、250℃以上、より好ましくは、275℃以上、さらに好ましくは、300℃以上とすることができる。融点が200℃以上の樹脂としては、具体的には、融点が200℃以上である、Fを主鎖に有する樹脂などを例示することができる。融点が200℃以上である、Fを主鎖に有する樹脂としては、より具体的には、ETFE(融点:270℃)、PTFE(融点:327℃)、PFA(融点:310℃)、FEP(融点:260℃)などのフッ素樹脂を例示することができる。これらは1種または2種以上併用することができる。また、融点が200℃以上である、Sを主鎖に有する樹脂としては、より具体的には、PPS(融点:278℃)などを例示することができる。これは1種または分子量等が異なるグレード違いの2種以上を併用することができる。
【0018】
絶縁体は、SまたはFを主鎖に有する樹脂以外にも、絶縁電線の絶縁体に通常用いられる各種の添加剤を1種または2種以上含むことができる。添加剤としては、例えば、充填剤、難燃剤、酸化防止剤、老化防止剤、滑剤、可塑剤、銅害防止剤、顔料などを例示することができる。
【0019】
上記絶縁電線において、絶縁体の厚みは、0.05mm以上である。絶縁体の厚みが0.05mm未満になると、JASO D618:2008に準拠してスパーク試験(印加電圧:3kV(rms))を実施した際に、絶縁破壊が発生する。そのため、絶縁電線としての使用が困難になる。絶縁体の厚みは、絶縁破壊の抑制などの観点から、好ましくは、0.07mm以上、より好ましくは、0.1mm以上、さらに好ましくは、0.15mm以上とすることができる。なお、絶縁体の厚みは、絶縁電線の細径化促進、電線密度の確保などの観点から、好ましくは、0.35mm以下、より好ましくは、0.33mm以下、さらに好ましくは、0.3mm以下とすることができる。
【0020】
上記絶縁電線において、絶縁体の密度は、1.5g/cm
3以上とすることができる。この場合には、電線密度を3.1g/cm
3以上としやすくなる。なお、絶縁体の密度は、絶縁体の質量(g)/絶縁体の体積(cm
3)より算出される値である。絶縁体の密度は、電線密度を確保しやすくなるなどの観点から、好ましくは、1.55g/cm
3以上、より好ましくは、1.6g/cm
3以上、さらに好ましくは、1.65g/cm
3以上、さらにより好ましくは、1.7g/cm
3以上とすることができる。なお、絶縁体の密度は、入手容易性などの観点から、例えば、2.5g/cm
3以下とすることができる。
【0021】
上記絶縁電線において、電線密度は、3.1g/cm
3以上である。電線密度は、細径化された絶縁電線がAT内やCVT内に配策されてATフルードやCVTフルードによって揺らされた場合における電線疲労と関係のある指標である。
【0022】
すなわち、絶縁電線がATフルードまたはCVTフルード(以下、単にフルードということがある。)に浸かった場合、絶縁電線は、フルードから浮力を受ける。フルードの密度をρf、フルードに浸かった部分の絶縁電線の体積をV、重力加速度をgとすると、浮力Fbは、以下の式1で表される。
Fb=ρf×V×g・・・式1
絶縁電線が受ける浮力が大きいほど、フルードの液面の動きによって絶縁電線が揺らされ、電線疲労が進むことになる。絶縁電線は、電線密度に比例した重力を受ける。この重力が大きいほど、浮力の影響が打ち消され、絶縁電線がフルードによって揺らされる度合が小さくなり、電線疲労が生じ難くなる。絶縁電線の電線密度をρs、フルードに浸かった部分の絶縁電線の体積をV、重力加速度をgとすると、絶縁電線が受ける重力Fは、以下の式2で表される。
F=ρs×V×g・・・式2
上記式1、式2より、絶縁電線が受ける重力Fとフルードに浸かった絶縁電線が受ける浮力Fbとの比率F/Fbは、以下の式3で表される。
F/Fb=ρs/ρf・・・式3
この比率が大きいほど、フルードの液面の動きによる電線疲労への影響が小さくなる。ATフルードおよびCVTフルードの密度は、同等であり一定値であるとみなせる。したがって、電線密度ρsを選ぶことで、絶縁電線がフルードによって揺らされた場合でも、電線疲労を抑制することが可能となるのである。後述する実験例に示されるように、電線密度ρsが3.1g/cm
3以上であると、電線疲労の抑制効果を得ることができる。一方、電線密度ρsが3.1g/cm
3未満になると、フルードによって絶縁電線が揺らされやすく、電線疲労を抑制することが困難になる。電線密度ρsは、フルードによる揺れを少なくする観点から大きいほど好ましい。しかし、電線密度ρsが過度に大きくなると、ワイヤーハーネスの軽量化の妨げになる。そのため、電線密度ρsは、好ましくは、8g/cm
3以下、より好ましくは、7.5g/cm
3以下、さらに好ましくは、7g/cm
3以下とすることができる。なお、電線密度ρsは、絶縁電線1m当たりの質量(g)/絶縁電線1m当たりの体積(cm
3)より算出される値である。
【0023】
なお、上述した各構成は、上述した各作用効果等を得るなどのために必要に応じて任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例の絶縁電線について、図面を用いて説明する。
【0025】
(実施例1)
実施例1の絶縁電線について、
図1を用いて説明する。
図1に示されるように、本例の絶縁電線1は、導体2と、導体2の外周を覆う絶縁体3とを有している。導体2の断面積は、0.4mm
2以下である。絶縁体3は、SまたはFを主鎖に有するポリマーを含み、厚みが0.05mm以上である。電線密度は、3.1g/cm
3以上である。
【0026】
本例では、絶縁体3の密度は、1.5g/cm
3以上である。絶縁体3は、Sを主鎖に有するポリマーとしてのポリスルホン系樹脂、または、Fを主鎖に有するポリマーとしてのフッ素樹脂またはフッ素ゴムより構成されている。絶縁電線1は、ATフルードまたはCVTフルードに浸漬した状態で使用されるものである。
【0027】
なお、導体2は、撚り合わされた複数本の金属素線20より構成されている。
図1では、導体2は、複数本の金属素線20が撚り合わされて円形圧縮されることにより、外形が円形状の形状を呈している例が示されている。なお、導体2は、
図2に例示されるように、円形圧縮されていなくてもよい。
【0028】
<実験例>
以下、実験例を用いてより具体的に説明する。
<絶縁電線の作製>
直径0.15mmの軟銅線を9本撚り合わせた後、円形圧縮することにより、断面積0.16mm
2の導体を準備した。同様に、直径0.13mmの軟銅線を19本撚り合わせることにより、断面積0.24mm
2の導体を準備した。直径0.16mmの軟銅線を19本撚り合わせることにより、断面積0.38mm
2の導体を準備した。
【0029】
後述の表1に示される所定の断面積を有する導体の外周に、所定の絶縁体材料を所定の厚み(中心値)にて押し出し被覆することにより、各試料の絶縁電線を作製した。各絶縁電線について、電線重量(g/m)、電線外径(mm)、電線密度(g/cm
3)、絶縁体の密度(g/cm
3)、電線が受ける重力(N/m)、フルード中での浮力(N/m)、重量/浮力の比率を求めた。なお、本実験例では、密度0.85(g/cm
3)のATフルード(ATF)を用いた。
【0030】
(フルード中での耐電線疲労性)
本実験例では、各絶縁電線が受ける重力と上記フルード中での浮力との比率である重量/浮力の値を、各絶縁電線がAT内やCVT内に配策された状態における電線疲労の指標として用いた。この重量/浮力の比率が、3.65以上であった場合を、フルードによって揺らされた場合でも、電線疲労を抑制することができるとして合格とした。重量/浮力の比率が、3.65未満であった場合を、フルードによって揺らされた場合に、電線疲労を抑制することができないとして不合格とした。
【0031】
(高温耐フルード性)
JASO D618:(2008)に準拠し、各絶縁電線について、上記ATフルードによる耐液性試験を実施した。但し、ATフルードの試験温度は、160℃とした。上記耐液性試験に合格したものを高温耐フルード性に優れるとした。上記耐液性試験に不合格であったものを高温耐フルード性がないとした。
【0032】
(スパーク試験)
JASO D618:(2008)に準拠し、各絶縁電線について、スパーク試験(印加電圧:3kV(rms))を実施した。絶縁破壊が発生しなかった場合を合格、絶縁破壊が発生した場合を不合格とした。
【0033】
各絶縁電線の構成、評価結果をまとめて表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
表1によれば、以下のことがわかる。試料1Cおよび試料2Cの絶縁電線は、電線密度が3.1g/cm
3未満である。そのため、試料1Cおよび試料2Cの絶縁電線は、重量/浮力の比率が規定値を下回り、フルード中での耐電線疲労性が悪かった。
【0036】
試料3Cの絶縁電線は、絶縁体がポリプロピレンより構成されており、SまたはFを主鎖に有するポリマーより構成されていない。そのため、試料3Cの絶縁電線は、高温のATフルードによって絶縁体が侵され、高温耐フルード性が悪かった。
【0037】
試料4Cの絶縁電線は、絶縁体の厚みが0.05mm未満である。そのため、試料4Cの絶縁電線は、スパーク試験で絶縁破壊が発生した。
【0038】
これらに対し、試料1〜4の絶縁電線は、上述した特定の構成を有している。そのため、試料1〜4の絶縁電線は、細径化され、AT内やCVT内に配策されてATフルードやCVTフルードによって揺らされた場合でも、電線疲労を抑制することができるといえる。また、試料1〜4の絶縁電線は、AT内やCVT内で高温のATフルードやCVTフルードによって絶縁体が侵され難く、高温耐フルード性に優れるといえる。また、試料1〜4の絶縁電線は、スパーク試験での絶縁破壊も生じ難いといえる。
【0039】
以上、本発明の実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲内で種々の変更が可能である。