(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵を補助するアシストトルクを車両のステアリングシステムに付与するモータを制御するモータ制御装置とを有する電動パワーステアリング装置において、
自動操舵実行判定部の判定結果である診断後自動操舵指令のON/OFFに従って、前記モータの制御方式を、モータ出力トルクを制御するトルク系のトルク制御方式と、前記操舵の舵角を制御する舵角系の位置/速度制御方式との間で切替える機能を具備し、
前記操舵トルクに応じて、前記トルク系のフェード特性1を付与するフェードゲイン信号F1と、前記舵角系のフェード特性2を付与するフェードゲイン信号F2と、前記舵角速度のフェード特性3を付与するフェードゲイン信号F3とを演算する特性演算部が設けられており、
前記診断後自動操舵指令がONしたとき、前記特性演算部により、前記フェードゲイン信号F2によって、前記位置/速度制御の徐変後舵角指令値をコラム入力側の絶対舵角若しくはコラム出力側の絶対舵角である実舵角から徐々に舵角指令値へ変化させ、前記フェードゲイン信号F1によって、前記アシストトルクレベルを100%から0%に徐々に変化させ、前記フェードゲイン信号F3によって、前記舵角速度を0%から100%に徐々に変化させ、前記位置/速度制御方式で動作するようになっていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵を補助するアシストトルクを車両の操舵機構に付与するモータを制御するモータ制御装置とを有する電動パワーステアリング装置において、
自動操舵実行判定部の判定結果である診断後自動操舵指令のON/OFFに従って、前記モータの制御方式を、モータ出力トルクを制御するトルク系のトルク制御方式と、前記操舵の舵角を制御する舵角系の位置/速度制御方式との間で切替える機能を具備し、
前記操舵トルクに応じて、前記トルク系のフェード特性1を付与するフェードゲイン信号F1と、前記舵角系のフェード特性2を付与するフェードゲイン信号F2と、前記舵角速度のフェード特性3を付与するフェードゲイン信号F3とを演算する特性演算部が設けられており、
前記診断後自動操舵指令がOFFされたとき、前記特性演算部により、前記フェードゲイン信号F2によって、前記位置/速度制御の徐変後舵角指令値を舵角指令値から徐々にコラム入力側の絶対舵角若しくはコラム出力側の絶対舵角である実舵角へ変化させ、前記フェードゲイン信号F1によって、前記アシストトルクレベルを0%から100%に徐々に変化させ、前記フェードゲイン信号F3によって、前記舵角速度を100%から0%に徐々に変化させ、前記トルク制御方式で動作するようになっていることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
前記実舵角が、トーションバーを備えるコラム軸のコラム入力側角度及びコラム出力側角度に基づいて舵角演算部で演算されるようになっている請求項1乃至5のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
ハンドルの慣性、摩擦を補償する外乱オブザーバが更に設けられていると共に、前記外乱オブザーバが、前記ステアリングシステムの逆モデルと帯域制限を行うLPFの出力差から外乱推定トルクを推定するようになっている請求項1乃至6のいずれかに記載の電動パワーステアリング装置。
【背景技術】
【0002】
モータ制御装置を具備し、車両のステアリングシステムにモータの回転力で操舵補助力(アシスト力)を付与する電動パワーステアリング装置(EPS)は、モータの駆動力を減速機を介してギア又はベルト等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与するようになっている。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、操舵補助力のトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、操舵補助指令値(電流指令値)とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデューティの調整で行っている。
【0003】
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を
図1に示して説明すると、ハンドル(ステアリングホイール)1のコラム軸(ステアリングシャフト)2は減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10が設けられており、ハンドル(ステアリングホイール)1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)30には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTsと車速センサ12で検出された車速Vsとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の操舵補助指令値の演算を行い、操舵補助指令値に補償等を施した電圧制御値Vrefによってモータ20に供給する電流を制御する。なお、舵角センサ14は必須のものではなく、配設されていなくても良く、モータ20に連結された回転センサから得ることもできる。
【0004】
コントロールユニット30には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)40が接続されており、車速VsはCAN40から受信することも可能である。また、コントロールユニット30には、CAN40以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN41も接続可能である。
【0005】
このような電動パワーステアリング装置において、コントロールユニット30は主としてCPU(MPUやMCU等を含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと、例えば
図2に示されるような構成となっている。
【0006】
図2を参照してコントロールユニット30の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10からの操舵トルクTs及び車速センサ12からの車速Vsは電流指令値演算部31に入力され、電流指令値演算部31は操舵トルクTs及び車速Vsに基づいてアシストマップ等を用いて電流指令値Iref1を演算する。演算された電流指令値Iref1は加算部32Aで、特性を改善するための補償部34からの補償信号CMと加算され、加算された電流指令値Iref2が電流制限部33で最大値を制限され、最大値を制限された電流指令値Irefmが減算部32Bに入力され、モータ電流検出値Imと減算される。
【0007】
減算部32Bでの減算結果I(=Irefm−Im)はPI制御部35でPI(比例積分)制御され、PI制御された電圧制御値VrefがPWM制御部36に入力されてデューティを演算され、デューティを演算されたPWM信号でインバータ37を介してモータ20をPWM駆動する。モータ20のモータ電流値Imはモータ電流検出手段38で検出され、減算部32Bに入力されてフィードバックされる。
【0008】
補償部34は、検出若しくは推定されたセルフアライニングトルク(SAT)34−3を加算部34−4で慣性補償値34−2と加算し、その加算結果に更に加算部34−5で収れん性制御値34−1を加算し、その加算結果を補償信号CMとして加算部32Aに入力し、制御特性を改善する。
【0009】
このような電動パワーステアリング装置において、近年自動操舵支援機能(自動運転、パーキングアシスト等)を搭載し、自動操舵制御と手動操舵制御とを切替える車両が出現して来ており、自動操舵支援機能を搭載した車両にあってはカメラ(画像)や距離センサなどのデータを基に目標操舵角を設定し、目標操舵角に実操舵角を追従させる自動操舵制御が行われる。
【0010】
自動運転の場合は、レーダ、カメラ、超音波センサ等の情報を基に車両周辺の環境を認識し、車両を安全に誘導できる舵角指令値を出力する。電動パワーステアリング装置は舵角指令値に追従するように実舵角を位置制御することによって自動運転が可能となる。
【0011】
従来周知の自動操舵制御と手動操舵制御の機能を有する電動パワーステアリング装置では、予め記憶した車両の移動距離と転舵角との関係に基づいてアクチュエータ(モータ)を制御することにより、例えばバック駐車や縦列駐車を自動で行うようになっている。即ち、自動操舵制御装置は、アラウンドビューモニタや超音波センサ等の測位センサから駐車スペースを認識し、EPS側に舵角指令値を出力する。EPSは舵角指令値に追従するように実舵角及び舵角速度を位置/速度制御することによって、車両は駐車スペースへと誘導されていく。
【0012】
図3は、自動操舵制御機能を有する電動パワーステアリング装置の制御系を示しており、自動操舵指令装置50にはカメラ、測位センサ(超音波センサ等)から各種データが入力され、自動操舵用舵角指令値θtcはCAN等を経てEPSアクチュエータ機能内の位置/速度制御部51に入力され、自動操舵指令はCAN等を経てEPSアクチュエータ機能内の自動操舵実行判定部52に入力される。自動操舵実行判定部52には操舵トルクTsも入力されている。EPSセンサからの実舵角θr及び舵角速度ωrは位置/速度制御部51に入力され、自動操舵実行判定部52の判定結果はトルク指令値徐変切替え部54に入力される。また、EPSセンサの操舵トルクTsは、EPSパワーアシスト機能内のトルク制御部53に入力され、トルク制御部53からの操舵アシストトルク指令値Tcがトルク指令値徐変切替部54に入力される。位置/速度制御部51からの位置/速度制御トルク指令値Tpもトルク指令値徐変切替部54に入力され、自動操舵実行判定部52の判定結果(自動操舵指令のON/OFF)に従って操舵アシストトルク指令値Tcと位置/速度制御トルク指令値Tpとが切替えられ、モータトルク指令値として出力され、電流制御系を介してモータが駆動制御される。
【0013】
このように通常のパワーアシストはトルク制御系であるのに対し、駐車支援などの自動運転の場合は舵角等の位置/速度制御系となる。トルク制御と位置/速度制御を互いに切替える際、制御トルクの変動が生じ、スムーズに切替わらない問題や切替え時のトルク変動がトリガとなって、意図しないセルフステアが生じる問題がある。
【0014】
このような問題に対し、従来はトルク変動を低減するために、互いの制御トルクを除々に変化させる(徐変)手法が用いられてきた。例えば特開2004−17881号公報(特許文献1)では、
図4に示すように時点t0において自動操舵モードが解除された場合、Sθ=OFFと再設定し、それ以降の所定時間ΔT内では、角度制御比μを単調に減少することにより、モータに通電すべき電流の指令値は、制御方式の切り換え時にも急変しなくなるようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、トルク制御と位置/速度制御の切替えにおいては、効果が十分に発揮できない。その原因は、電動パワーステアリングのようなハンドルから外乱を入力できるシステムの場合、位置/速度制御は外乱を抑えるようにトルクアシストするため、通常のパワーアシスト制御に切替わった際、逆方向へアシストされるケースがある。
【0017】
このように、従来はトルク変動を低減するために、互いの制御トルクを徐々に変化させる(徐変)手法が用いられてきたが、トルク制御と位置/速度制御の切替えにおいては効果が十分に発揮できなかった。
【0018】
本発明は上述のような事情よりなされたものであり、本発明の目的は、制御方式を切替えるフェード処理(徐変処理)に際して、操舵トルクに感応して、トルク制御の制御トルクと位置/速度制御の指令値を徐変することにより、スムーズかつセルフステアレスで、制御方式を切替えることが可能な電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵を補助するアシストトルクを車両のステアリングシステムに付与するモータを制御するモータ制御装置とを有する電動パワーステアリング装置に関し、本発明の上記目的は、自動操舵実行判定部の判定結果である
診断後自動操舵指令のON/OFFに従って、前記モータの制御方式を、モータ出力トルクを制御するトルク系のトルク制御方式と、前記操舵の舵角を制御する舵角系の位置/速度制御方式との間で切替える機能を具備し、前記操舵トルクに応じて、前記トルク系のフェード特性1を付与するフェードゲイン信号F1と、前記舵角系のフェード特性2を付与するフェードゲイン信号F2と、前記舵角速度のフェード特性3を付与するフェードゲイン信号F3とを演算する特性演算部が設けられており、前記
診断後自動操舵指令がONしたとき、前記特性演算部により、前記フェードゲイン信号F2によって、前記位置/速度制御の徐変後舵角指令値をコラム入力側の絶対舵角若しくはコラム出力側の絶対舵角である実舵角から徐々に舵角指令値へ変化させ、前記フェードゲイン信号F1によって、前記アシストトルクレベルを100%から0%に徐々に変化させ、前記フェードゲイン信号F3によって、前記舵角速度を0%から100%に徐々に変化させ、前記位置/速度制御方式で動作するようになっていることによって達成される。
【0020】
また、本発明は、操舵トルクを検出するトルクセンサと、操舵を補助するアシストトルクを車両の操舵機構に付与するモータを制御するモータ制御装置とを有する電動パワーステアリング装置に関し、自動操舵実行判定部の判定結果である
診断後自動操舵指令のON/OFFに従って、前記モータの制御方式を、モータ出力トルクを制御するトルク系のトルク制御方式と、前記操舵の舵角を制御する舵角系の位置/速度制御方式との間で切替える機能を具備し、前記操舵トルクに応じて、前記トルク系のフェード特性1を付与するフェードゲイン信号F1と、前記舵角系のフェード特性2を付与するフェードゲイン信号F2と、前記舵角速度のフェード特性3を付与するフェードゲイン信号F3とを演算する特性演算部が設けられており、前記
診断後自動操舵指令がOFFされたとき、前記特性演算部により、前記フェードゲイン信号F2によって、前記位置/速度制御の徐変後舵角指令値を舵角指令値から徐々にコラム入力側の絶対舵角若しくはコラム出力側の絶対舵角である実舵角へ変化させ、前記フェードゲイン信号F1によって、前記アシストトルクレベルを0%から100%に徐々に変化させ、前記フェードゲイン信号F3によって、前記舵角速度を100%から0%に徐々に変化させ、前記トルク制御方式で動作するようになっていることにより達成される。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る電動パワーステアリング装置によれば、徐変後舵角指令値は、実舵角から舵角指令値へ徐変され、実舵角は、徐変後の舵角指令値及び舵角速度に追従するように位置制御及び速度制御されるため、位置/速度制御のトルク指令値を自動的に滑らかに変化させることができ、運転者にとって優しい手感となる。
また、自動操舵からトルク制御に切替わるフェード処理の際、過大なトルク変動が生じても、操舵トルクに感応して、舵角指令値と舵角速度を徐々に変化させるため、トルク制御による過大なパワーアシストを自動的に位置/速度制御が補償する。これにより、運転者がハンドルを取られるような不具合を抑制することができる。
【0022】
更に、本発明に係る電動パワーステアリング装置によれば、運転者の意思を尊重した自動操舵運転(位置/速度制御)とトルク制御による通常操舵の切替えをスムーズな動作で行うことができ、自動運転中に運転者が危険を感じてハンドルを強く操舵した場合、素早く自動運転を中断して、通常のトルク制御に切替えることができる。外乱オブザーバの設置により、一層効果を上げることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
電動パワーステアリング装置における従来のトルク徐変制御では、トルク制御と位置/速度制御を互いに切替える際、スムーズに制御が切替わらない問題や意図しないセルフステアが生じる問題がある。このため、本発明では、トルク制御の制御トルク(アシストトルクレベル)と位置/速度制御の指令値(舵角指令値、舵角速度)を、操舵トルクに応じて徐変(フェード処理)することにより、スムーズかつセルフステアレスで、制御を切替える処理を実現している。
【0025】
本発明では、所定の切替え契機(例えば自動操舵指令)に従って、モータの制御方式を、モータ出力トルクを制御するトルク制御方式と、操舵の舵角を制御する位置/速度制御方式との間で切替える機能を具備し、更にフェード処理(徐変時間、ゲイン)を操舵トルクに応じて可変し、スムーズかつセルフステアレスなフェード処理を実現している。
【0026】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して詳細に説明する。
【0027】
本発明は
図1に示すコラム方式の他に、
図5に概略構成を示すシングルピニオン方式、
図6に概略を示すデュアルピニオン方式、
図7に概略構成を示すデュアルピニオン方式(変形例)、
図8に概略を示すラック同軸方式、
図9に概略を示すラックオフセット方式にも適用することができるが、以下ではコラム方式について説明する。
【0028】
図10は本発明の構成例を示しており、操舵トルクTsはトルク制御部102に入力されると共に、自動操舵実行判定部120及び特性演算部140に可変パラメータとして入力され、トルク制御部102からの操舵アシストトルク指令値Tcはトルク系のトルク徐変部103に入力される。また、CAN等からの舵角指令値θtcは自動操舵実行判定部120に入力され、自動操舵実行判定部120での演算処理後の舵角指令値θtは、舵角系の舵角指令値徐変部100に実舵角θrと共に入力される。自動操舵実行判定部120からは、更に判定結果である自動操舵指令のON/OFFが出力され、自動操舵指令のON/OFFはトルク徐変部103、舵角指令値徐変部100、舵角速度徐変部105及び特性演算部140に入力される。
【0029】
実舵角θrは舵角指令値徐変部100及び位置/速度制御部101に入力され、舵角速度ωrは舵角速度徐変部105に入力される。舵角指令値徐変部100からの徐変後舵角指令値θm及び舵角速度徐変部105からの徐変後舵角速度ωmは、位置/速度制御部101に入力される。また、操舵トルクTsに基づいて、特性演算部140で演算されたトルク系のフェードゲイン信号F1はトルク徐変部103に入力され、舵角系のフェードゲイン信号F2は舵角指令値徐変部100に入力され、舵角速度系のフェードゲイン信号F3は舵角速度徐変部105に入力される。
【0030】
トルク徐変部103におけるトルク徐変後の操舵アシストトルク指令値Tgは加算部104に入力され、位置/速度制御部101からの位置/速度制御トルク指令値Tpも加算部104に入力され、加算部104の加算結果がモータトルク指令値として出力される。モータトルク指令値は電流制御系130に入力され、電流制御系130を経てモータ131が駆動制御される。
【0031】
特性演算部140は、自動操舵実行判定部120により自動操舵指令がONになったとき、或いは自動操舵指令がOFFになったときに、それぞれトルク徐変のためのフェードゲイン信号F1、舵角指令値徐変のためのフェードゲイン信号F2、舵角速度徐変のためのフェードゲイン信号F3を演算し、各要素について操舵トルクTsに応じた徐変(時間、ゲイン)を行うようになっている。
【0032】
また、自動操舵実行判定部120は
図11に示すような構成であり、舵角指令値θtcは演算部121に入力され、演算部121は舵角指令値θtcに基づいて角速度ωtc及び角加速度αtcを演算する。角速度ωtc及び角加速度αtcは判定マップを用いて判定するマップ判定部122に入力され、マップ判定部122には舵角指令値θtc及び車速Vsも入力されている。マップ判定部122は、
図12(A)のような特性A1又はB1を有する舵角指令値θtc用の判定マップ#1と、
図12(B)のような特性A2又はB2を有する角速度ωtc用の判定マップ#2と、
図12(C)のような特性A3又はB3を有する角加速度αtc用の判定マップ#3とを備えている。
【0033】
舵角指令値θtcに対する判定マップ#1の特性は、低速の車速Vs1まで一定値θtc
0であり、車速Vs1以上の範囲において特性A1又は特性B1のように減少する。角速度ωtcに対する判定マップ#2の特性は、低速の車速Vs2まで一定値ω
0であり、車速Vs2以上の範囲において特性A2又は特性B2のように減少する。また、角加速度αtcに対する判定マップ#3の特性は、低速の車速Vs3まで一定値αc
0であり、車速Vs3以上の範囲において特性A3又は特性B3のように減少する。判定マップ#1〜#3の特性はいずれもチュ−ニング可能であり、線形に減少する特性であっても良い。
【0034】
マップ判定部122は舵角指令値θtcが判定マップ#1の特性値範囲を超えているか否かを判定し、角速度ωtcが判定マップ#2の特性値範囲を超えているか否かを判定し、更に角加速度αtcが判定マップ#3の特性値範囲を超えているか否かを判定する。判定結果MDは診断部123に入力され、時間や回数による診断の結果に基づき、診断部123は自動操舵指令のON/OFFを出力すると共に、自動操舵指令のON/OFFは出力部124に入力される。出力部124は、自動操舵指令がONの時にのみ舵角指令値θtを出力する。
【0035】
舵角指令値θtは実舵角θrと共に、舵角指令値徐変部100に入力されるが、本発明では実舵角θrを以下のように算出している。
【0036】
トーションバー23を具備する機構については、例えば
図13に示すようなセンサがコラム軸2(2A(入力側),2B(出力側))に装着され、操舵角度が検出される。即ち、コラム軸2のハンドル1側の入力シャフト2Aには、角度センサとしてのホールICセンサ21及びトルクセンサ入力側ロータの20°ロータセンサ22が装着されている。ホールICセンサ21は296°周期のAS_IS角度θhを出力する。トーションバー23よりもハンドル1側に装着された20°ロータセンサ22は、20°周期のコラム入力側角度θsを出力し、コラム入力側角度θsは舵角演算部132に入力される。また、コラム軸2の出力シャフト2Bには、トルクセンサ出力側ロータの40°ロータセンサ24が装着されており、40°ロータセンサ24からコラム出力側角度θoが出力され、コラム出力側角度θoは舵角演算部132に入力される。コラム入力側角度θs及びコラム出力側角度信号θoは共に舵角演算部132で絶対角度に演算され、舵角演算部132から絶対角度のコラム入力側の舵角θr及びコラム出力側の舵角θr1が出力される。
【0037】
本発明ではコラム入力側の舵角θrを実舵角として説明しているが、コラム出力側の舵角θr1を実舵角として用いることも可能である。
【0038】
このような構成において、その動作例を
図14及び
図15のフローチャート並びに
図16のタイミングチャートを参照して説明する。
【0039】
自動操舵指令がONされない場合(ステップS1)には、アシストトルクレベルが100%の通常操舵、つまりトルク制御が実施される(ステップS17)。そして、自動操舵実行判定部120により、時点t2において自動操舵指令がONされると(ステップS1)、この時点t2よりEPSのフェード処理1が開始される(ステップS2)。このとき、特性演算部140で、操舵トルクTsに基づいてフェードゲイン信号F1〜F3が演算され、フェードゲイン信号F1はトルク徐変部103に入力され、フェードゲイン信号F2は舵角指令値徐変部100に入力され、フェードゲイン信号F3は舵角速度徐変部105に入力される(ステップS3)。フェードゲイン信号F1〜F3によってそれぞれ、フェード処理時間及びフェードゲイン特性が設定される。特性演算部140は、下記数1に従ってフェードゲイン信号F1を算出し、下記数2に従ってフェードゲイン信号F2を算出し、下記数3に従ってフェードゲイン信号F3を算出する。
(数1)
F1=A1×FG(z
−1)+FR1
ただし、FR1は制御周期に変化するフェードの割合を決めるフェードレート、A1は指数の傾きを決める指数ゲインであり、FG(z
−1)はフェードゲインの過去値である。
(数2)
F2=A2×FG(z
−1)+FR2
ただし、FR2は制御周期に変化するフェードの割合を決めるフェードレート、A2は指数の傾きを決める指数ゲインであり、FG(z
−1)はフェードゲインの過去値である。
(数3)
F3=A3×FG(z
−1)+FR3
ただし、FR3は制御周期に変化するフェードの割合を決めるフェードレート、A3は指数の傾きを決める指数ゲインであり、FG(z
−1)はフェードゲインの過去値である。
数1〜数3において、指数ゲインA1〜A3を“1.0”とした時、フェード特性はいずれも直線となる。また、操舵トルクTsに応じて指数ゲインA1、A2、A3を可変させることにより、フェード処理の時間、ゲインを制御する。時点t2〜t4のフェード処理においては、指数ゲインA1はトルク徐変に関連し、例えば
図17に示すように、操舵トルクTsの所定値T11まで一定値A12であり、所定値T11以上でかつ所定値T12(>T11)以下において徐々に値A11(<A12)まで減少し、所定値T12より大きい領域で一定値A11となっている。また、指数ゲインA2は舵角指令値徐変に関連し、例えば
図18に示すように、操舵トルクの所定値T21まで一定値A21であり、所定値T21以上でかつ所定値T22(>T21)以下において徐々に値A22(<a2)まで増加し、所定値T22より大きい領域で一定値A22となっている。
【0040】
また、舵角速度については上記数3が適用されるが、
図16の例では、時点t2から時点t3まで直線的に徐変(A3=0)し、時点t3以降時点t4まで一定値としている。
【0041】
なお、
図17及び
図18における操舵トルクT11及びT21、操舵トルクT12及びT22は同一値であっても良く、また、減少特性及び増加特性は非線形や関数であっても良い。更に、手感に応じて自由にチューニングできるようにしても良い。
【0042】
舵角指令値徐変部100は、フェードゲイン信号F2に従って、位置/速度制御の徐変後舵角指令値θmを実舵角θrから徐々に舵角指令値θtへ変化させる(ステップS4)。また、トルク徐変部103は、フェードゲイン信号F1に従って、トルクレベルを100%から0%へ徐々に変化させる(ステップS5)。舵角速度徐変部105は、フェードゲイン信号F3に従って、徐変後舵角速度ωmを0%から100%へ、時点t3までに徐々に変化させる(ステップS6)。以後、フェード処理1の終了(時点t4)となるまで上記動作が繰り返される(ステップS7)。
【0043】
なお、フェード区間(徐変時間)における位置/速度制御の指令値徐変、トルク制御のレベル徐変、舵角速度の徐変の順番は、任意である。また、
図16のタイミングチャートでは、操舵トルクTsに応じてフェード処理時間(時点t2〜t4)が可変することは示していない。
【0044】
このようなフェード処理1の終了となる時点t4以降、トルク制御から自動操舵(位置/速度制御)へ切替わっていき、自動操舵が継続される(ステップS8)。
【0045】
その後、自動操舵実行判定部120により自動操舵指令がOFFされると(時点t5)、或いは自動操舵中に運転者がハンドルを操舵し、操舵トルクTsがある閾値を超え、自動操舵指令がOFFされると(時点t5)、自動操舵終了となり(ステップS10)、フェード処理2が開始される(ステップS11)。
【0046】
この場合にも、特性演算部140で上記数1〜数3に従って、操舵トルクTsに基づいたフェードゲイン信号F1〜F3が演算され、フェードゲイン信号F2は舵角指令値徐変部100に入力され、フェードゲイン信号F1はトルク徐変部103に入力され、フェードゲイン信号F3は舵角速度徐変部105に入力される(ステップS12)。
【0047】
これにより、舵角指令値徐変部100は、位置/速度制御の徐変後舵角指令値θmを舵角指令値θtから徐々に実舵角θrへ変化させ(ステップS13)、トルク徐変部103はトルクレベルを0%から100%へ徐々に変化させ(ステップS14)、舵角速度徐変部105は徐変後舵角速度ωmを100%から0%へ徐々に変化させる(ステップS15)。このフェード処理2は時点t63まで継続され(ステップS16)、フェード処理終了となる時点t63以降、自動操舵から通常操舵のトルク制御へ切替わる(ステップS17)。
【0048】
この場合のフェード処理2においても、上記数1〜数3によってフェードゲイン信号F1〜F3がそれぞれ演算される。つまり、今回のフェード処理2では、下記数4〜数6の演算が行われる。
(数4)
F1=A2×FG(z
−1)+FR2
(数5)
F2=A1×FG(z
−1)+FR1
(数6)
F3=A3×FG(z
−1)+FR3
この場合のフェードゲイン信号F1及びF3の指数ゲインA2及びA3はそれぞれ
図18に示す特性となっており、フェードゲイン信号F2の指数ゲインA1は
図17に示す特性となっている。
【0049】
なお、
図16では、位置/速度制御の舵角指令値フェード特性を指数曲線、トルク制御のトルク徐変を直線(線形)としているが、非線形特性、関数特性であっても良く、更には手感に応じて自由にチューニングできるようにすることもできる。舵角速度の徐変についても同様である。また、
図16の時点t3〜時点t4の間は自動操舵区間であり、偏差0となっていることを示している。
【0050】
自動操舵実行判定部120の動作例は
図15のフローチャートのようになっており、自動操舵実行判定部120内の演算部121はCAN等から舵角指令値θtcを入力し(ステップS20)、舵角指令値θtcに基づいて角速度ωtc及び角加速度αtcを演算する(ステップS21)。角速度ωtc及び角加速度αtcはマップ判定部122に入力され、車速Vsもマップ判定部122に入力され(ステップS22)、マップ判定部122は先ず車速Vsに対応して、舵角指令値θtcが
図12(A)に示す判定マップ#1の特性値範囲内、つまり
図12(A)の特性線の下側になっているか否かを判定し(ステップS23)、判定マップ#1の特性値範囲内であれば、次に車速Vsに対応して、角速度ωtcが
図12(B)に示す判定マップ#2の特性値範囲内、つまり
図12(B)の特性線の下側になっているか否かを判定する(ステップS24)。そして、判定マップ#2の特性値範囲内であれば、次に車速Vsに対応して、角加速度αtcが
図12(C)に示す判定マップ#3の特性値範囲内、つまり
図12(C)の特性線の下側になっているか否かを判定する(ステップS25)。全ての判定対象が特性範囲内であれば、自動操舵実行判定部120は自動操舵指令をONとし(ステップS31)、舵角指令値θtcを舵角指令値θtとして出力し、舵角指令値徐変部100に入力する(ステップS32)。
【0051】
また、上記ステップS23において、車速Vsに対応して、舵角指令値θtcが
図12(A)に示す判定マップ#1の特性値範囲内にないとき、上記ステップS24において、車速Vsに対応して、角速度ωtcが
図12(B)に示す判定マップ#2の特性値範囲内にないとき、上記ステップS25において、車速Vsに対応して、角加速度αtcが
図12(C)に示す判定マップ#3の特性値範囲内にないときは、診断部123はその範囲外となった回数を所定の回数閾値と比較し、或いはその範囲外となった時間を所定の時間閾値と比較する(ステップS30)。そして、閾値以下の場合には上記ステップS31に移行して自動操舵指令をONとする。また、回数や時間が閾値を超えた場合には、自動操舵指令をOFFとし(ステップS33)、舵角指令値θtを遮断して出力しない(ステップS34)。
【0052】
なお、上記ステップS23〜25の順番は適宜変更可能である。
【0053】
図19に示すように自動操舵指令がONしたとき(時点t10)、フェード処理が開始される。徐変後舵角指令値θmは、実舵角θrから舵角指令値θtへ徐変される。実舵角θrは、徐変後舵角指令値θmに追従するように位置/速度制御されるため、位置/速度制御のトルク指令値を自動的に滑らかに変化させることができ、運転者にとって優しい手感となる。なお、
図19(B)は、位置の偏差分がトルクに現れていることを示している。
【0054】
一方、
図20に示すように、自動操舵からトルク制御に切替わるフェード処理の際(時点t20)、時点t21以降において過大な操舵トルク変動が生じても、徐変後舵角指令値θmを舵角指令値θtから実舵角θrへ徐々に変化させるため、過大な操舵トルク変動を自動的に位置/速度制御が補償する。これによって、運転者がハンドルを取られるようなこともなくなる。即ち、本発明では、
図20(A)に示すように、実舵角θrが徐変後舵角指令値θmに追従するように位置/速度制御されるためピークの発生が遅れ、徐変後舵角指令値θmと実舵角θrの差分に応じて位置/速度制御トルク指令値Tpが発生され、滑らかに収束している。しかしながら、従来の制御では、
図20(A)の破線に示すように、トルクのピークから徐変が始まっているので滑らかに収束していない。また、トルク(加速度)を2回積分した位置θrは、
図20(A)に示す破線のような軌跡となり、ハンドルがより大きく動いてしまう。
【0055】
なお、上述では、トルク制御から位置/速度制御へのフェード処理及び位置/速度制御からトルク制御へのフェード処理の両方で、操舵トルクに基づいてフェードゲイン特性を演算し、フェード処理(時間、ゲイン)を可変しているが、少なくとも位置/速度制御からトルク制御へのフェード処理において実行すれば良い。
【0056】
本発明では更に
図21に示すように、位置/速度制御部101内において、運転者のハンドル手入力が妨げられないように、ハンドルの慣性や摩擦を補償する外乱オブザーバ150を設けている。また、外乱オブザーバ150は、運転者のトルク入力をモータの電流で推定し、手入力を高速度に検出するトルクセンサとしても機能する。
【0057】
図10の位置/速度制御部101は、
図21に示す位置/速度フィードバック制御部170及び外乱オブザーバ150で構成される。つまり、位置/速度制御部101の入力は徐変後舵角指令値θmであり、出力は位置/速度制御トルク指令値Tpであり、状態フィードバック変数は舵角θr及び舵角速度ωrとなる。位置/速度フィードバック制御部170は、徐変後舵角指令値θmと舵角θrの舵角偏差を求める減算部171と、舵角偏差を位置制御する位置制御器172と、位置制御器172からの角速度と舵角速度ωrの速度偏差を求める減算部173と、速度偏差を速度制御する速度制御器174とで構成されており、速度制御器174の出力は外乱オブザーバ150内の減算部154に加算入力されている。また、外乱オブザーバ150は、伝達関数“(J
2・s+B
2)/(τ・s+1)”で表わされる制御対象のステアリングの逆モデル151と、位置/速度制御トルク指令値Tpを入力して帯域制限する伝達関数“1/(τ・s+1)”のローパスフィルタ(LPF)152と、外乱推定トルクTd*を求める減算部153と、減算により位置/速度制御トルク指令値Tpを出力する減算部154とで構成されている。
【0058】
制御対象となるステアリングシステム160は、位置/速度制御トルク指令値Tpに未知の外乱トルクTdを加算する加算部161と、伝達関数“1/(J
1・s+B
1)”で表わされるステアリングシステム162と、ステアリングシステム162からの角速度ωrを積分(1/s)して舵角θrを出力する積分部163とで構成されている。舵角速度ωrは位置/速度フィードバック制御部170にフィードバックされると共に、積分部163に入力され、舵角θrは位置/速度フィードバック制御部170にフィードバックされる。
【0059】
伝達関数のJ
1はステアリングシステム162の慣性、B
1はテアリングシステム162の摩擦、J
2は逆モデル151の慣性、B
2は逆モデル151の摩擦、τは所定の時定数であり、下記数7及び数8の関係を有している。
(数7)
J
1≧J
2
(数8)
B
1≧B
2
外乱オブザーバ150は、ステアリングの逆モデル151とLPF152の出力差から、未知である外乱トルクTdを推定し、推定値として外乱推定トルクTd*を求める。外乱推定トルクTd*は減算部154に減算入力され、減算部154で速度制御器174の出力から減算されることにより、ロバストな位置/速度制御が可能としている。しかしながら、ロバストな位置/速度制御は運転者の介入に対して、ハンドルが止められない等の背反が生じる。これを改善するため、実際のステアリングシステム162が持つ慣性J
1、摩擦B
1以下の小さな慣性J
2と摩擦B
2をステアリングの逆モデル151として入力することにより、運転者が感じるハンドルの慣性や摩擦が見かけ上、小さくなる。これにより、運転者は自動操舵に対して容易に操舵介入が可能となる。
【0060】
また、外乱オブザーバ150の外乱推定トルクTd*をモニタすることにより、トルクセンサの代わりに運転者の操舵トルクを検出することが可能となる。特にトルクセンサがディジタル信号である場合は、通信遅れ等の影響により、運転者の操舵介入の検出が遅れる場合がある。トルクセンサと同様に外乱推定トルクTd*が一定時間、閾値より大きな値を示した場合、操舵介入が行われたと判断して、フェード処理を行うことが可能である。
【0061】
図22(A)及び(B)は外乱オブザーバ150を設けた場合の特性を、位置/速度制御からトルク制御へのフェード処理における角度及びトルクについて示している。運転者は、自動運転による舵角指令値θtの向きに対して反対方向へハンドルを切って、自動操舵OFF(フェード処理開始)となったら手を放す。
図22ではそのときの外乱オブザーバ150の特性について、慣性及び摩擦をJ
1>J
2かつB
1>B
2の場合と、J
1=J
2かつB
1=B
2の場合とを示している。
図22(A)は、外乱オブザーバ150を設けた場合の実舵角θrの変化例を示し、
図22(B)は外乱オブザーバ150を設けた場合の操舵トルクTs及び位置/速度制御トルク指令値Tpの変化例を示している。
【0062】
外乱オブザーバ150を設けることにより、より滑らかな操舵感が得られ、高速度な制御切替が可能となる。また、慣性と摩擦を小さくした方が、操舵介入を容易にできる。