特許第6195007号(P6195007)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6195007-ガスバリアフィルムの製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195007
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】ガスバリアフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/12 20060101AFI20170904BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20170904BHJP
   C08J 7/06 20060101ALI20170904BHJP
   C23C 14/24 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   C23C14/12
   B32B9/00 Z
   C08J7/06CER
   C08J7/06CEZ
   C23C14/24 E
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-232616(P2016-232616)
(22)【出願日】2016年11月30日
(62)【分割の表示】特願2013-21809(P2013-21809)の分割
【原出願日】2013年2月6日
(65)【公開番号】特開2017-75402(P2017-75402A)
(43)【公開日】2017年4月20日
【審査請求日】2016年12月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】江畑 崇
(72)【発明者】
【氏名】伊関 清司
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−002334(JP,A)
【文献】 特開2010−111819(JP,A)
【文献】 特表2010−533608(JP,A)
【文献】 特開平2−233666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B32B 1/00−43/00
C08J 7/04−7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に、1,3,5−トリアジン誘導体を含む有機ガスバリア層を備えたガスバリアフィルムの製造方法であって、
1,3,5−トリアジン誘導体は、下記式で表され、蒸着法により前記有機ガスバリア層を前記プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に形成することを特徴とするガスバリアフィルムの製造方法。
【化1】

(上記式中のR1、R2、R3は、H,CH3,C25,C49,C613,C817,C1021,C1225,C1837,C2041,C2245,C2449,CF364,C4954,C61354,C81764,C102164,C61164,C917CH2,C1021CH2,C49CH2,C613CH2CH2,C817CH2CH2,C1021CH2CH2,CH2=CHCH2,CH2=CH(CH28,CH2=CH(CH29,C817CH2=C816,C611,C65CH2,C65CH2CH2,CH2=CH(CH24COOCH2CH2,CH2=CH(CH28COOCH2CH2,CH2=CH(CH29COOCH2CH2,C49CH2=CHCH2,C613CH2=CHCH2,C817CH2=CHCH2,C1021CH2=CHCH2,C49CH2CH(OH)CH2,C613CH2CH(OH)CH2,C817CH2CH(OH)CH2,C1021CH2CH(OH)CH2,CH2=CH(CH24COO(CH2CH22,CH2=CH(CH28COO(CH2CH22,CH2=CH(CH29COO(CH2CH22,C49COOCH2CH2,C613COOCH2CH2,C817COOCH2CH,及びC1021COOCH2CH2からなる群のいずれか一つである)
【請求項2】
1,3,5−トリアジン誘導体は、トリアジントリチオールである請求項1に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項3】
有機ガスバリア層の膜厚は、100nm以上である請求項1または2に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記蒸着法は、真空蒸着法である請求項1〜3のいずれか1項に記載のガスバリアフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気や酸素などに対するガスバリア性に優れ、食品、医薬品などの包装フィルムとして好適なガスバリアフィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ガスバリアフィルムとして、プラスチックフィルムの表面に酸化ケイ素、酸化アルミニウムなどの無機酸化物の薄膜(以下、無機薄膜層という)を積層させたガスバリア性積層フィルムが知られていた。
【0003】
一方、無機薄膜層に代わり、有機物を含有する薄膜(以下、有機薄膜層という)をプラスチックフィルムに積層することによって、ガスバリア性を発現させる方法も知られている。無機薄膜層よりも有機薄膜層の方が、可撓性や耐屈曲性に優れているため、より優れたガスバリア性を発現させることができる。
【0004】
例えば、特許文献1には、オルガノポリシロキサンを含む有機薄膜層(ガスバリア層)を備えたガスバリア性積層体が提案されている。ガスバリア性発現に有効なトリアジン骨格を有し、かつ樹脂との接着に有効なチオール基を該骨格中に導入したトリアジンジチオール基を有するオルガノポリシロキサンを用いることで、ガスバリア性、密着性、可撓性に優れたガスバリア層を形成できる。
【0005】
ところで、有機薄膜層をプラスチックフィルムの上に形成する方法は、ディップ法やスピンコート法といった方法で形成することがほとんどである。特許文献1においても、有機薄膜層形成用組成物には、オルガノポリシロキサン以外にも、もう1つの主要原料として極性官能基を有する有機高分子化合物が含まれており、この有機高分子化合物は分子量が大きいため、真空蒸着法で製造することが難しく、生産効率を向上させることや有機薄膜層の表面において、有機高分子化合物に含まれた環部分が平面になるように積層することは困難であった。
【0006】
また、上述のとおり、有機薄膜層形成用組成物には、オルガノポリシロキサン以外にも有機高分子化合物が含まれており、トリアジンジチオール単独でガスバリア性を発現させることは困難であった。
【0007】
このように、特徴的な構造を有する有機薄膜層を備えたガスバリアフィルムを効率的に形成するのは困難であると考えられていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第4863024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、効率的に製造することができ、かつガスバリア性に優れた有機薄膜層(以下、有機ガスバリア層という)を備えたガスバリアフィルムの製造方法を提供することを課題として掲げた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、2,4,6位に硫黄を含む基を置換基として有する1,3,5−トリアジン誘導体を有機薄膜層に含有させた結果、ガスバリア性を発現させることができ、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明に係るガスバリアフィルムの製造方法は、プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に、1,3,5−トリアジン誘導体を含む有機ガスバリア層を備えたガスバリアフィルムの製造方法であって、蒸着法により前記有機ガスバリア層を前記プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に形成することを特徴とし、1,3,5−トリアジン誘導体は、2,4,6位に硫黄を含む基を置換基として有することを特徴とする。
【0012】
1,3,5−トリアジン誘導体は、トリアジントリチオールであることが好ましい。
【0013】
有機ガスバリア層の膜厚は、100nm以上であることが好ましい。
【0014】
有機ガスバリア層は、真空蒸着によってプラスチックフィルムの上に形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るガスバリアフィルムは、有機物のみからなる有機ガスバリア層をプラスチックフィルムの表面に設けたものであって、優れたガスバリア性を発現させることができた。本発明に係るガスバリアフィルムは、食品、医薬品、工業製品等の包装分野に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のガスバリアフィルムを作製するための蒸着装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明のガスバリアフィルムには、プラスチックフィルムの少なくとも一方の表面に有機ガスバリア層が設けられている。以下、本発明に係るガスバリアフィルムの物性や製造方法について説明する。
【0018】
[プラスチックフィルム]
本発明におけるプラスチックフィルムとは、有機高分子樹脂からなり、溶融押出し後、長手方向および/または幅方向に延伸され、さらに熱固定、冷却を施されたフィルムであり、有機高分子樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどのポリエステル;ナイロン6、ナイロン4、ナイロン66、ナイロン12、全芳香族ポリアミドなどのポリアミド類;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンオキサイドなどが挙げられる。これらの有機高分子樹脂は、他の有機単量体を少量共重合したり、他の有機重合体をブレンドしたりしてもよい。
【0019】
好ましいポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどが挙げられるが、これらを主成分とする共重合体であってもよい。
【0020】
ポリエステル共重合体を用いる場合、そのジカルボン酸成分の主成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸が好ましく、他のカルボン酸成分としては、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多官能カルボン酸;アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸などが用いられる。また、グリコール成分の主成分としては、エチレングリコールまたは1,4−ブタンジオールが好ましく、他のグリコール成分としては、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族グリコール;p−キシリレングリコールなどの芳香族グリコール;1,4−シクロヘキサンジメタノールなどの脂環族グリコール;重量平均分子量が150〜20000のポリエチレングリコールなどが用いられる。
【0021】
ポリエステル共重合体中の共重合成分の好ましい比率は20質量%以下である。共重合成分が20質量%を超えるときは、フィルム強度、透明性、耐熱性などが劣る場合がある。これらのポリエステル共重合体には、他の有機単量体を少量共重合したり、他の有機重合体をブレンドしたりしてもよい。
【0022】
また、好ましいポリアミドとしては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリ−ε−アミノへプタン酸(ナイロン7)、ポリ−ε−アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリンラクタム(ナイロン12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン2・6)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン4・6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン6・6)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン6・10)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン6・12)、ポリオクタメチレンドデカミド(ナイロン8・12)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン8・6)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン10・6)、ポリデカメチレンセバカミド(ナイロン10・10)、ポリドデカメチレンドデカミド(ナイロン12・12)、メタキシリレンジアミン−6ナイロン(MXD6)などが挙げられ、これらを主成分とする共重合体であってもよい。
【0023】
ポリアミド共重合体としては、カプロラクタム/ラウリンラクタム共重合体、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体、ラウリンラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体、ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体などが挙げられる。
【0024】
これらのポリアミドには、フィルムの柔軟性改質成分として、芳香族スルホンアミド類、p−ヒドロキシ安息香酸、エステル類などの可塑剤や低弾性率のエラストマー成分やラクタム類を配合することも有効である。
【0025】
さらに、前記有機高分子樹脂には、公知の添加物、例えば、紫外線吸収剤、帯電防止剤、可塑剤、滑剤、着色剤などが添加されてもよく、フィルムとしての透明度は特に限定するものではないが、透明性を要求される場合には、50%以上の光線透過率をもつものが好ましい。
【0026】
本発明では、本発明の目的を損なわないかぎりにおいて、薄膜層を積層する前のプラスチックフィルムに、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、火炎処理、表面粗面化処理などの表面処理、公知のアンカーコート処理、印刷、装飾などを施してもよい。
【0027】
本発明におけるプラスチックフィルムの厚みは、3〜500μmの範囲が好ましく、6〜300μmの範囲がより好ましい。
【0028】
[有機ガスバリア層]
有機ガスバリア層は、プラスチックフィルムの片面または両面に積層されている。
【0029】
有機ガスバリア層は、1,3,5−トリアジン誘導体を含んでいる。1,3,5−トリアジン誘導体は、2,4,6位に硫黄を含む基を置換基として有する。2,4,6位の炭素原子に硫黄原子が直接結合しているのが好ましい。1,3,5−トリアジン誘導体は、例えば、以下の化学式のような1,3,5−トリアジン誘導体であり、単独で若しくは併用して用いることができる。このような1,3,5−トリアジン誘導体は、平面構造に近い構造を有することから、1,3,5−トリアジン誘導体を有機ガスバリア層に含めることによって、ガスバリア性が発現すると考えられる。
【0030】
【化1】
【0031】
上記式中のR1、R2、R3は、例えば、H,CH3,C25,C49,C613,C817,C1021,C1225,C1837,C2041,C2245,C2449,CF364,C4954,C61354,C81764,C102164,C61164,C917
2,C1021CH2,C49CH2,C613CH2CH2,C817CH2CH2,C1021
CH2CH2,CH2=CHCH2,CH2=CH(CH28,CH2=CH(CH29,C817CH2=C816,C611,C65CH2,C65CH2CH2,CH2=CH(CH24COOCH2CH2,CH2=CH(CH28COOCH2CH2,CH2=CH(CH29COOCH2CH2,C49CH2=CHCH2,C613CH2=CHCH2,C817CH2=CHCH2,C1021CH2=CHCH2,C49CH2CH(OH)CH2,C613CH2CH(OH)CH2,C817CH2CH(OH)CH2,C1021CH2CH(OH)CH2,CH2=CH(CH24COO(CH2CH22,CH2=CH(CH28COO(CH2CH22,CH2=CH(CH29COO(CH2CH22,C49COOCH2CH2,C613COOCH2CH2,C817COOCH2CH,C1021COOCH2CH2であり、R1〜R3は同じであっても異なっていても構わない。
【0032】
1,3,5−トリアジン誘導体は、R1、R2、R3のいずれもがHであるトリアジントリチオール(チオシアヌル酸)であることが好ましい。
【0033】
有機ガスバリア層は、主に1,3,5−トリアジン誘導体からなることが好ましく、具体的には1,3,5−トリアジン誘導体が50質量%以上含まれているのが好ましい。より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは100質量%であり、すなわち、有機ガスバリア層は1,3,5−トリアジン誘導体からなる。有機ガスバリア層において、ガスバリア性を阻害するおそれのある平面構造からほど遠い構造を有する有機高分子化合物を低減すればするほど、平面構造に近い構造を有する1,3,5−トリアジン誘導体をより多く含むことになるので、有機薄膜層の表面において、有機高分子化合物に含まれた環部分がより平面になるように積層することができ、1,3,5−トリアジン誘導体の優れたガスバリア性を十分に発現させることができると考えられる。
【0034】
また、有機ガスバリア層の膜厚は、100nm以上であるのが好ましく、150nm以上であるのがより好ましい。
【0035】
〔ガスバリアフィルムの物性〕
酸素透過度は、200ml/mdMPa以下であることが好ましく、より好ましくは150ml/mdMPa以下であり、さらに好ましくは100ml/mdMPa以下である。
【0036】
〔製造方法〕
有機ガスバリア層のプラスチックフィルムへの積層方法としては、有機高分子樹脂をバインダー樹脂とするのではなく、蒸着方法を用いることが好ましい。蒸着方法を用いると、有機ガスバリア層において、ガスバリア性を阻害するおそれのある有機高分子化合物を低減できるため、1,3,5−トリアジン誘導体の優れたガスバリア性を十分に発現させることができる。
【0037】
蒸着方法としては、公知の方法、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法や、PECVD(プラズマCVD)等の化学蒸着法等が採用される。有機ガスバリア層は、真空蒸着法によってプラスチックフィルムの上に形成されているのが好ましい。
【0038】
真空蒸着法は、真空中で有機物を加熱し、るつぼに入った材料を加熱、蒸発させてプラスチックフィルム上に付着させる方法である。真空にするためには、蒸着装置の内部を真空引きし、3.0×10-2Paまで低下させるのが好ましく、1.0×10-2Paまで低下させるのがより好ましく、1.0×10-4Pa以下の高真空で行うのが最も好ましい。
【0039】
有機物の加熱には、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱などを採用することができる。ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に1,3,5−トリアジン誘導体を蒸着する際には、200〜250℃で行うのが好ましく、230〜250℃で行うのがより好ましい。また、反応ガスとして、酸素、窒素、水素、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気などを導入したり、オゾン添加、イオンアシストなどの段を用いた反応性蒸着を採用したりすることも可能である。さらに、プラスチックフィルムにバイアスを印加したり、プラスチックフィルムを加熱したり冷却するなど、薄膜形成条件も任意に変更することができる。
【0040】
〔その他の層〕
本発明のガスバリアフィルムには、プラスチックフィルムおよび有機ガスバリア層のほかに、必要に応じて、公知のガスバリアフィルムが備えている種々の層を設けることができる。
【0041】
例えば、有機ガスバリア層を備えたガスバリアフィルムを包装材料として用いる場合には、シーラントと呼ばれるヒートシール性樹脂層を形成することが好ましい。ヒートシール性樹脂層の形成は、通常押出しラミネート法あるいはドライラミネート法によりなされる。ヒートシール性樹脂層を形成する熱可塑性重合体としては、シーラント接着性が十分に発現できるものであればよく、HDPE、LDPE、LLDPEなどのポリエチレン樹脂類、ポリプロピレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−α−オレフィンランダム共重合体、アイオノマー樹脂等を使用できる。
【0042】
さらに、本発明の積層フィルムには、プラスチックフィルムと有機ガスバリア層との間または有機ガスバリア層の外側に、印刷層や他のプラスチック基材および/または紙基材を少なくとも1層以上積層していてもよい。
【0043】
印刷層を形成する印刷インキとしては、水性の樹脂含有印刷インキであっても溶剤系の樹脂含有印刷インキであってもよい。ここで印刷インキに使用される樹脂としては、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、酢酸ビニル共重合樹脂およびこれらの混合物が例示される。印刷インキには、帯電防止剤、光線遮断剤、紫外線吸収剤、可塑剤、滑剤、フィラー、着色剤、安定剤、潤滑剤、消泡剤、架橋剤、耐ブロッキング剤、酸化防止剤などの公知の添加剤を含有させてもよい。印刷層を設けるための印刷方法としては、特に限定されず、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの公知の印刷方法が使用できる。印刷後の溶媒の乾燥には、熱風乾燥、熱ロール乾燥、赤外線乾燥など公知の乾燥方法が使用できる。
【0044】
他方、他のプラスチック基材や紙基材としては、充分な積層体の剛性および強度を得る観点から、紙、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂および生分解性樹脂等が好ましく用いられる。また、機械的強度の優れたフィルムとする上では、二軸延伸ポリエステルフィルム、二軸延伸ナイロンフィルムなどの延伸フィルムが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合しうる範囲で適宜変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0046】
(1)酸素透過度の評価方法
供試材について、JIS−K7126−2の電解センサー法(B法:等圧法)に準じて、酸素透過度測定装置(MOCON社製「OX−TRAN 2/21」)を用い、温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下で、常態での酸素透過度を測定した。なお、酸素透過度の測定は、有機ガスバリア層側からプラスチックフィルム側に酸素が透過する方向で行った。
【0047】
図1は本発明のガスバリアフィルムを作製するための蒸着装置の概略図であるが、この装置に限定されるものではない。
【0048】
図1において、1は基板(フィルム)、具体的には巻き取りロールから繰り出されるフィルムである。2はフィルム1を支持するロールであり、フィルム1はロール3および3’に沿って走行する。あるいは、特定の大きさのシートフィルムを金具に固定してもよい。るつぼ4は、1,3,5−トリアジン誘導体5を保持するためのもので、加熱することにより気化された1,3,5−トリアジン誘導体はフィルム1の上に蒸着される。図1の装置は、1.0×10-5Paの真空にまですることのできる真空チャンバ(図示せず)の中に収納した。
【0049】
(実施例1)
最初に、ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製「コスモシャイン(登録商標)A4100」、膜厚50μm)を蒸着装置内のるつぼ4と対向する位置に設け、るつぼ4の内部にトリアジントリチオール(東京化学工業社製)を5g充填した。次に、蒸着装置の内部を真空引きし、5.0×10-5Paまで低下させた後、るつぼ4の内部のトリアジントリチオールを80℃で60分間加熱し、水分や不純物などを取り除く処理を行った。その後、トリアジントリチオールを250℃まで加熱し、トリアジントリチオールをポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に蒸着し、ポリエチレンテレフタレートフィルムの上に膜厚200nmの有機ガスバリア層を備えたガスバリアフィルムを得た。
【0050】
(実施例2)
実施例1において、トリアジントリチオールの量を調整し、有機ガスバリア層の膜厚を150nmと変更した以外は、実施例1と同様にしてガスバリアフィルムを得た。得られたガスバリアフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0051】
(実施例3)
実施例1において、トリアジントリチオールの量を調整し、有機ガスバリア層の膜厚を100nmと変更した以外は、実施例1と同様にしてガスバリアフィルムを得た。得られたガスバリアフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0052】
(比較例1)
実施例1において、蒸着原料を2−アミノ−1,3,5−トリアジン−4,6ジチオール(Alfa Aesar社製)(以下、トリアジンジチオールという)と変更した以外は、実施例1と同様にしてガスバリアフィルムを得た。得られたガスバリアフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0053】
(比較例2)
実施例1において、蒸着原料をトリアジンジチオールとし、トリアジンジチオールの量を調整し、有機ガスバリア層の膜厚を150nmと変更した以外は、実施例1と同様にしてガスバリアフィルムを得た。得られたガスバリアフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0054】
(比較例3)
実施例1において、蒸着原料をトリアジンジチオールとし、トリアジンジチオールの量を調整し、有機ガスバリア層の膜厚を100nmと変更した以外は、実施例1と同様にしてガスバリアフィルムを得た。得られたガスバリアフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0055】
(比較例4)
実施例1において、蒸着原料をトリアジンジチオールとし、トリアジンジチオールの量を調整し、有機ガスバリア層の膜厚を50nmと変更した以外は、実施例1と同様にしてガスバリアフィルムを得た。得られたガスバリアフィルムの物性、評価結果を表1に示す。
【0056】
(比較例5)
実施例1で用いたポリエチレンテレフタレートフィルムに有機ガスバリア層を設けない状態で評価を行った。物性、評価結果を表1に示す。
【0057】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明に係るガスバリアフィルムは、有機ガスバリア層をプラスチックフィルムの表面に設けた場合であっても、ガスバリア性を発現させることができた。よって、本発明に係るガスバリアフィルムは、食品、医薬品、工業製品等の包装分野に用いることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 フィルム
2 ロール
3、3’ ロール
4 るつぼ
5 1,3,5−トリアジン誘導体
図1