特許第6195013号(P6195013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195013
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】熱可塑性エラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20060101AFI20170904BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20170904BHJP
   C08L 23/28 20060101ALI20170904BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20170904BHJP
   B60C 5/14 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   C08L23/26
   C08L29/04 S
   C08L23/28
   C08K5/098
   B60C5/14 A
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-510475(P2016-510475)
(86)(22)【出願日】2015年3月26日
(86)【国際出願番号】JP2015059334
(87)【国際公開番号】WO2015147148
(87)【国際公開日】20151001
【審査請求日】2016年7月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-63714(P2014-63714)
(32)【優先日】2014年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100164563
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 貴英
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 峻
【審査官】 藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−189526(JP,A)
【文献】 特開2003−089702(JP,A)
【文献】 特開2012−076679(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/035828(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
C08L 23/26
B60C 5/14
C08K 5/098
C08L 23/28
C08L 29/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体;
(b)エチレン−α−オレフィン共重合体の酸無水物変性物;及び
(c)エチレン−ビニルアルコール共重合体
を含むポリマー成分、
並びに、
(d)高級脂肪酸アルカリ土類金属塩からなる加工助剤;及び
(e)架橋剤
を含む熱可塑性エラストマー組成物であって、
エラストマー成分((a)+(b))中におけるハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)の重量比率(Wa)が5〜60wt%であり、
エラストマー成分((a)+(b))中におけるエチレン−α−オレフィン共重合体の酸無水物変性物(b)の重量比率(Wb)が95〜40wt%であり、
高級脂肪酸アルカリ土類金属塩からなる加工助剤(d)の含有量(W)が、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)100質量部に対して0.3〜30質量部であることを特徴とする、前記熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項2】
ポリマー成分として(f)ポリアミド樹脂をさらに含み、ここで、熱可塑性樹脂成分((c)+(f))中のポリアミド樹脂(f)の重量比率が5〜50wt%であることを特徴とする、請求項1に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項3】
ポリマー成分中のエラストマー成分((a)+(b))の重量比率が40wt%以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項4】
加工助剤(d)が炭素数C5〜30である脂肪酸のアルカリ土類金属塩であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項5】
エチレン−ビニルアルコール共重合体(c)のケン化度が90%以上であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルム。
【請求項7】
請求項6に記載のフィルムを用いたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性エラストマー組成物、当該組成物からなるフィルム、及び当該フィルムを使用したタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂成分としてエチレン−ビニルアルコール共重合体及びポリアミド樹脂を含み、エラストマー成分として酸無水物基を有する変性ゴムである無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体を含み、さらに高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩を含む、熱可塑性エラストマー組成物が知られている(特許文献1)。
【0003】
熱可塑性樹脂成分としてエチレン−ビニルアルコール共重合体及びポリアミド樹脂を含み、エラストマー成分としてハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体を含み、当該エラストマー成分が架橋されている、熱可塑性エラストマー組成物も知られている(特許文献2)。
【0004】
熱可塑性樹脂成分として、例えばポリアミド樹脂などを含み、エラストマー成分として、架橋されたハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体を含み、さらに、例えば無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体及び無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体などの酸無水物基を有する変性ゴムを含む、熱可塑性エラストマー組成物も知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−231166号公報
【特許文献2】特開2012−46614号公報
【特許文献3】特開2013−189526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
空気遮断性及び低温耐久性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を得るために、熱可塑性樹脂としてエチレン−ビニルアルコール共重合体を使用し、エラストマー成分として酸無水物基を有する変性ゴムを使用し得る。ここで、低温耐久性をさらに向上させるために当該組成物中に酸無水物基を有する変性ゴムを多量に配合すると、熱可塑性エラストマー組成物の粘度が増大してフィルム製膜性が悪化する。
【0007】
したがって本発明は、酸無水物基を有する変性ゴムを高充填してもフィルム製膜性が悪化せず、低温耐久性に優れた熱可塑性エラストマー組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題に鑑み、鋭意検討した結果、エチレン−ビニルアルコール共重合体及び酸無水物基を有する変性ゴムを含む熱可塑性エラストマー組成物中に、エラストマー成分としてハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体をさらに配合し、且つ高級脂肪酸のアルカリ土類金属塩からなる加工助剤を配合することによって、優れたフィルム製膜性及び低温耐久性を有する熱可塑性エラストマー組成物が得られることを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち本発明は、以下の態様を有する。
[1]
(a)ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体;
(b)酸無水物基を有する変性ゴム;及び
(c)エチレン−ビニルアルコール共重合体
を含むポリマー成分、
並びに、
(d)高級脂肪酸アルカリ土類金属塩からなる加工助剤;及び
(e)架橋剤
を含む熱可塑性エラストマー組成物であって、
エラストマー成分((a)+(b))中におけるハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)の重量比率(Wa)が5〜60wt%であり、
エラストマー成分((a)+(b))中における酸無水物基を有する変性ゴム(b)の重量比率(Wb)が95〜40wt%であり、
高級脂肪酸アルカリ土類金属塩からなる加工助剤(d)の含有量(W)が、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)100質量部に対して0.3〜30質量部であることを特徴とする、前記熱可塑性エラストマー組成物。
[2]
ポリマー成分として(f)ポリアミド樹脂をさらに含み、ここで、熱可塑性樹脂成分((c)+(f))中のポリアミド樹脂(f)の重量比率が5〜50wt%であることを特徴とする、[1]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[3]
ポリマー成分中のエラストマー成分((a)+(b))の重量比率が40wt%以上であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[4]
加工助剤(d)が炭素数C5〜30である脂肪酸のアルカリ土類金属塩であることを特徴とする、[1]〜[3]のいずれか1つに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[5]
エチレン−ビニルアルコール共重合体(c)のケン化度が90%以上であることを特徴とする、[1]〜[4]のいずれか1つに記載の熱可塑性エラストマー組成物。
[6]
[1]〜[5]のいずれか1つに記載の熱可塑性エラストマー組成物からなるフィルム。
[7]
[6]に記載のフィルムを用いたタイヤ。
【発明の効果】
【0010】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、優れたフィルム製膜性及び低温耐久性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書中、「熱可塑性エラストマー組成物」とは、熱可塑性樹脂成分にエラストマー成分を分散させた組成物であり、熱可塑性樹脂成分がマトリックス相を構成し、エラストマー成分が分散相を構成しているものである。
【0012】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、(a)ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体、(b)酸無水物基を有する変性ゴム、及び(c)エチレン−ビニルアルコール共重合体を含むポリマー成分、並びに、(d)高級脂肪酸アルカリ土類金属塩からなる加工助剤、及び(e)架橋剤を含む。
【0013】
本発明において使用されるハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)は、例えばイソオレフィンとパラアルキルスチレンの共重合体をハロゲン化することにより得ることができる。ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体におけるイソオレフィンとパラアルキルスチレンの混合比、重合度、平均分子量、重合形態(ブロック共重合体、ランダム共重合体等)、粘度、ハロゲン原子等は、特に限定されず、熱可塑性エラストマー組成物に要求される物性等に応じて当業者が選択することができる。ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体を構成するイソオレフィンの例としては、イソブチレン、イソペンテン、イソヘキセンなどが挙げられ、イソオレフィンとしてはイソブチレンが好ましい。ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体を構成するパラアルキルスチレンの例としては、パラメチルスチレン、パラエチルスチレン、パラプロピルスチレン、パラブチルスチレンなどが挙げられ、パラアルキルスチレンとしてはパラメチルスチレンが好ましい。ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体を構成するハロゲン原子の例としては、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられ、ハロゲン原子としては臭素が好ましい。特に好ましいハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体は臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体である。臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体ゴムは市販品を使用することができ、例えばエクソンモービル・ケミカル社(ExxonMobil Chemical Company)から、Exxpro(登録商標)の商品名で入手することができる。
【0014】
本明細書中、「酸無水物基を有する変性ゴム」とは、酸無水物基を導入されたエラストマーのことである。酸無水物基を有する変性ゴムは、例えば、酸無水物とペルオキシドをエラストマーに反応させることにより製造することができる。本発明において使用される酸無水物基を有する変性ゴム(b)の酸無水物基の含有量は、酸無水物基を有する変性ゴムの分散性及び加工性の観点から、好ましくは0.01〜1モル/kg、より好ましくは0.05〜0.5モル/kgである。酸無水物基を有する変性ゴムの例としては、エチレン−α−オレフィン共重合体の酸無水物変性物(例えば、エチレン−プロピレン共重合体の酸無水物変性物、エチレン−ブテン共重合体の酸無水物変性物)、及びエチレン−不飽和カルボン酸共重合体の酸無水物(例えば、エチレン−アクリル酸共重合体の酸無水物変性物、エチレン−メタクリル酸共重合体の酸無水物変性物、エチレン−アクリル酸メチル共重合体の酸無水物変性物、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体の酸無水物変性物)などが挙げられる。なかでも、エチレン−α−オレフィン共重合体の酸無水物変性物が好ましく、無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体及び無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体がより好ましい。また、酸無水物基を有する変性ゴムは市販品を用いることができ、例えば三井化学株式会社製の無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(タフマー(登録商標)MP0620)、無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体(タフマー(登録商標)MH7020)などがある。
【0015】
本発明において使用されるエチレン−ビニルアルコール共重合体(以下「EVOH」ともいう)(c)は、エチレン単位(−CHCH−)とビニルアルコール単位(−CH−CH(OH)−)とからなる共重合体であるが、エチレン単位およびビニルアルコール単位に加えて、本発明の効果を阻害しない範囲で、他の構成単位を含有していてもよい。
【0016】
本発明において使用するエチレン−ビニルアルコール共重合体(c)は特に限定されないが、ガスバリア性の観点から、好ましくはエチレン単位の含量が20〜60モル%、より好ましくは20〜50モル%のものを使用する。エチレン−ビニルアルコール共重合体はエチレン-酢酸ビニル共重合体のケン化物であり、そのケン化度は特に限定されないが、ガスバリア性の観点から、好ましくは90%以上、より好ましくは99%以上である。
【0017】
本発明において使用されるエチレン−ビニルアルコール共重合体(c)は、JIS K7210に準拠して、温度210℃、荷重2160gで測定した場合に、好ましくは2〜25g/10分、より好ましくは4〜20g/10分のメルトフローレート(MFR)値を示す。
【0018】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、エラストマー成分(すなわち、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)と酸無水物基を有する変性ゴム(b)との合計:(a)+(b))中におけるハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)の重量比率(Wa)は5〜60wt%であり、好ましくは10〜45wt%である。重量比率(Wa)が5wt%未満だと、熱可塑性エラストマー組成物の製造において良好な混練加工性を得ることができない。また、重量比率(Wa)が60wt%超だと熱可塑性エラストマー組成物の低温耐久性が悪化する。
【0019】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、エラストマー成分((a)+(b))中における酸無水物基を有する変性ゴム(b)の重量比率(Wb)は95〜40wt%であり、好ましくは90〜55wt%である。重量比率(Wb)が40wt%未満だと熱可塑性エラストマー組成物の低温耐久性が悪化する。また、重量比率(Wb)が95wt%超だと良好な混練加工性を得ることができない。
【0020】
本発明において使用される加工助剤(d)は、高級脂肪酸アルカリ土類金属塩からなる。当該加工助剤は、熱可塑性樹脂成分とエラストマー成分との溶融混練時の連続混練性、及びフィルム製膜時の押出負荷の軽減を図るための滑剤としての機能を果たすのみならず、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)の架橋反応を遅延させることができる。これにより、熱可塑性エラストマー組成物の製造における、混練の初期段階での架橋による粘性の増大が抑制され、混練加工性を向上させることが可能である。
【0021】
加工助剤(d)としては、炭素数C5〜30である脂肪酸のアルカリ土類金属塩が好ましく、ラウリン酸バリウム、ステアリン酸マグネシウム及びステアリン酸カルシウムから選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0022】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物中の加工助剤(d)の含有量(W)は、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)100質量部に対して0.3〜30質量部であり、好ましくは1〜20質量部である。Wが0.3質量部未満だと熱可塑性エラストマー組成物の製造において良好な混練加工性を得ることができない。Wが30質量部超だと可塑性エラストマー組成物の低温耐久性が悪化する。
【0023】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ポリマー成分として、熱可塑性樹脂成分であるポリアミド樹脂(f)をさらに含んでもよい。当該ポリアミド樹脂としては、限定するものではないが、例えば、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン666、ナイロン612、ナイロン610、ナイロン46、ナイロン66612、および芳香族ナイロンが単独でまたは混合物として使用できる。なかでも、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン612、およびナイロン666が耐疲労性とガスバリア性の両立という点で好ましい。
【0024】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、ポリマー成分としてポリアミド樹脂をさらに含む場合、熱可塑性樹脂成分(すなわち、エチレン−ビニルアルコール共重合体(c)とポリアミド樹脂(f)との合計:(c)+(f))中のポリアミド樹脂(f)の重量比率は、耐疲労性及びガスバリア性の観点から5〜50wt%であることが好ましく、10〜45wt%であることがより好ましい。
【0025】
また、本発明の熱可塑性エラストマー組成物には、低温耐久性向上の観点からエラストマー成分が高充填されていることが好ましい。具体的には、ポリマー成分中のエラストマー成分((a)+(b))の重量比率が40wt%以上であることが好ましく、50wt%以上であることがより好ましい。
【0026】
本発明において使用される架橋剤(加硫剤)(e)の種類及び配合量は、架橋条件に応じて、当業者が適宜選択することができる。本発明において、少なくともハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)は架橋されるが、酸無水物基を有する変性ゴム(b)は必ずしも架橋されなくてもよい。架橋剤の例としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、m−フェニレンビスマレイミド、アルキルフェノール樹脂およびそのハロゲン化物、第二級アミン、例えばN−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(慣用名6PPD)、トリス−(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどが挙げられる。なかでも、酸化亜鉛、6PPDおよびトリス−(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートから選択される少なくとも1種の架橋剤が好ましい。ここで、酸化亜鉛及び6PPDは、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)を架橋するための架橋剤として使用される。トリス−(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートは、酸無水物基を有する変性ゴム(b)の架橋剤として使用される。架橋剤(e)の量は、エラストマー成分((a)+(b))100質量部に対して0.5〜10質量部が好ましく、より好ましくは1〜6質量部である。
【0027】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物において、ポリマー成分、加工助剤及び架橋剤を配合する際に、必要に応じて、補強性、加工性、分散性、耐熱性、酸化防止性などの特性を改善するために、充填剤、補強剤(フィラー)、架橋促進剤(加硫促進剤)、相溶化剤、安定剤、酸化防止剤、老化防止剤などの、熱可塑性樹脂組成物及びエラストマー組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で添加してもよい。あるいは、ポリマー成分、加工助剤及び架橋剤を配合して本発明の熱可塑性エラストマー組成物を製造する前に、ポリマー成分中の1種又は2種以上に、必要に応じて、補強性、加工性、分散性、耐熱性、酸化防止性などの特性を改善するために、充填剤、補強剤(フィラー)、架橋促進剤(加硫促進剤)、相溶化剤、安定剤、酸化防止剤、老化防止剤などの、熱可塑性樹脂組成物及びエラストマー組成物用に一般的に配合されている各種添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲で予め添加してもよい。
【0028】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、上記必須成分および任意の添加剤を、例えばニーダー、バンバリーミキサー、一軸混練押出機、二軸混練押出機等の熱可塑性エラストマー組成物の製造に一般的に使用されている混練押出機を使用して溶融混練することによって製造できる。溶融混練することによって、エラストマー成分を動的架橋させることができる。動的架橋により、熱可塑性エラストマー組成物において、分散相を連続相中に安定化(又は固定化)することができる。溶融混練は、その生産性の高さから二軸混練押出機を使用して行うことが好ましい。混練条件は、使用される必須成分および任意の添加剤のタイプおよび配合量などに応じるが、溶融混練温度の下限は、少なくとも熱可塑性樹脂成分の融点以上であればよく、融点より約20℃以上高い温度であることが好ましい。例えば、190〜240℃である。溶融混練時間は、好ましくは約2〜約8分である。
【0029】
上記のように溶融混練した熱可塑性エラストマー組成物をその後、溶融状態で混練押出機の吐出口に取り付けられたダイからフィルム状またはチューブ状等の形状に押し出すか、あるいは、ストランド状に押し出し、樹脂用ペレタイザーで一旦ペレット化した後、得られたペレットを、インフレーション成形、カレンダー成形、押出成形などの通常の樹脂成形法により、用途に応じてフィルム状、シート状またはチューブ状の所望の形状に成形することができる。
【0030】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物から形成された層を有する製品の製造方法を、空気入りタイヤの製造方法を一例として説明することができる。本発明の熱可塑性エラストマー組成物から形成された層を有する空気入りタイヤの製造方法としては、慣用の方法を用いることができる。例えば、本発明の熱可塑性エラストマー組成物を所定の幅と厚さを有するフィルムに成形し、それをタイヤ成型用ドラム上に円筒状に貼り着け、その上にカーカス層、ベルト層、トレッド層等のタイヤ部材を順次貼り重ね、タイヤ成型用ドラムからグリーンタイヤを取り外す。次いで、このグリーンタイヤを常法に従って加硫することにより、本発明の熱可塑性エラストマー組成物から形成されたフィルムを、例えば空気透過防止層として(例えばインナーライナーとして)有する空気入りタイヤを製造することができる。
【実施例】
【0031】
以下に示す実施例及び比較例を参照して本発明をさらに詳しく説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって限定されるものでないことは言うまでもない。
【0032】
(1)原材料
臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合体(以下、「Br−IPMS」と略す)Exxpro MDX89−4(Exxon Mobil Chemica)
酸無水物基を有する変性ゴム1:無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体(タフマーMH7020(三井化学))
酸無水物基を有する変性ゴム2:無水マレイン酸変性エチレン−ブテン共重合体(タフマーMH7010(三井化学))
酸無水物基を有する変性ゴム3:無水マレイン酸変性エチレン−プロピレン共重合体(タフマーMP0620(三井化学))
EVOH 1:ソアノールV2504(日本合成化学工業)(MFR:4.0g/10分、エチレン単位含量:25mol%)
EVOH 2:ソアノールD2908(日本合成化学工業)(MFR:8.0g/10分、エチレン単位含量:29mol%)
EVOH 3:ソアノールDC3212B(日本合成化学工業)(MFR:12.0g/10分、エチレン単位含量:32mol%)
EVOH 4:ソアノールE3808(日本合成化学工業)(MFR:8.0g/10分、エチレン単位含量:38mol%)
EVOH 5:ソアノールA4412(日本合成化学工業)(MFR:12.0g/10分、エチレン単位含量:44mol%)
EVOH 6:ソアノールH4815B(日本合成化学工業)(MFR:15.0g/10分、エチレン単位含量:48mol%)
加工助剤1:ステアリン酸亜鉛 SZ−2000(堺化学)
加工助剤2:ステアリン酸カルシウム SC−100(堺化学)
加工助剤3:ステアリン酸マグネシウム SM−PG(堺化学)
加工助剤4:ラウリン酸バリウム B12(堺化学)
ポリアミド樹脂1:ナイロン6−12:UBEナイロン7024B(宇部興産)
ポリアミド樹脂2:ナイロン6(UBEナイロン1013B(宇部興産))
ポリアミド樹脂3:ナイロン6−10(アミラン CM6001(東レ))
架橋剤1:酸化亜鉛3種(正同化学工業)
架橋剤2:6PPD(サントフレックス:フレキシス(Flexsys))
架橋剤3:トリス−(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(セイクA:四国化成工業)
【0033】
また、架橋剤1及び2は、Br−IPMSを架橋するために使用された。架橋剤3は酸無水物基を有する変性ゴムを架橋するために使用された。架橋剤2は老化防止剤としても使用された。
【0034】
(2)熱可塑性エラストマー組成物の調製
臭素化イソブチレンパラメチルスチレン共重合ゴム(a)、酸無水物基を有する変性ゴム(b)、EVOH(c)、加工助剤(d)、架橋剤(e)、ポリアミド樹脂(f)及びその他の成分を表1及び2に示す配合にて、二軸混練押出機(株式会社日本製鋼所製)のシリンダー内に導入し、温度230℃および滞留時間約2〜8分間に設定された混練ゾーンに搬送して溶融混練し、溶融混練物を吐出口に取り付けられたダイからストランド状に押出した。得られたストランド状押出物を樹脂用ペレタイザーでペレット化し、ペレット状の熱可塑性エラストマー組成物を得た。
【0035】
(3)可塑性樹脂組成物の評価方法
得られた熱可塑性エラストマー組成物について、二軸混練性及び低温耐久性を以下の方法により評価した。
【0036】
[二軸混練性]
上記の熱可塑性エラストマー組成物の調製の際、ダイから押し出されたストランドの状態を評価した。ストランドが一度も切れることなく1時間連続的にサンプリングできたものを「優」、1時間の間にゲル粒により1〜10回ストランドが切れたものを「良」、1時間に11回以上ストランドが切れたものを「不良」と判定した。
【0037】
[低温耐久性]
調製したペレット上の熱可塑性エラストマー組成物を、200mm幅T型ダイス付40mmφ単軸押出機(株式会社プラ技研)を用いて、押出温度Cl/C2/C3/C4/ダイ=220/225/230/235/235℃、冷却ロール温度50℃、引き取り速度1.0m/分の押出条件で、平均厚み1.0mmのシートに成形し、シートからダンベル(JIS3号)を打ち抜き疲労試験機にセットして、−40℃雰囲気下40%定歪を繰り返し与え、破断回数を測定した。比較例1の熱可塑性エラストマー組成物の破断回数を100として、80未満を不可、80以上〜90未満を「可」、90以上〜110未満を「良」、110以上を「優」として評価した。
【0038】
熱可塑性エラストマー組成物の評価結果を表1及び2に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
比較例1では、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)を含めずに、酸無水物基を有する変性ゴム(b)を高充填して熱可塑性エラストマー組成物を製造した。熱可塑性エラストマー組成物の粘度上昇により、十分な二軸混練性を得ることができなかった。
【0042】
比較例2では、加工助剤(d)を含めずに、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)及び酸無水物基を有する変性ゴム(b)を高充填して熱可塑性エラストマー組成物を製造した。この場合においても、良好な二軸混練性を得ることができなかった。
【0043】
比較例3では、加工助剤(d)の含有量(W)を、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)100質量部に対して0.3質量部未満とし、且つハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)及び酸無水物基を有する変性ゴム(b)を高充填して熱可塑性エラストマー組成物を製造した。この場合においても、良好な二軸混練性を得ることができなかった。
【0044】
比較例4では、加工助剤(d)としてアルカリ土類金属塩ではないステアリン酸亜鉛を使用し、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)及び酸無水物基を有する変性ゴム(b)を高充填して熱可塑性エラストマー組成物を製造した。この場合においても、良好な二軸混練性を得ることができなかった。
【0045】
比較例5では、エラストマー成分((a)+(b))中におけるハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)の重量比率(Wa)を60wt%超として熱可塑性エラストマー組成物を製造した。この場合において、二軸混練性は優れていたものの、低温耐久性が悪化した。
【0046】
比較例6では、加工助剤(d)の含有量(W)を、ハロゲン化イソオレフィンパラアルキルスチレン共重合体(a)100質量部に対して30質量部超として熱可塑性エラストマー組成物を製造した。この場合において、二軸混練性は優れていたものの、低温耐久性が悪化した。
【0047】
実施例1〜11では、本発明の配合成分及び配合量に従って熱可塑性エラストマー組成物を製造した。いずれも良好な二軸混練性、及び優れた低温耐久性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の熱可塑性エラストマー組成物は、タイヤ、特に空気入りタイヤの空気透過防止層(例えばインナーライナー)の作製に好適に利用することができる。