【実施例1】
【0013】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。なお、以下の図において、同一の部分には同一の符号を付し、繰り返しの説明は省略する。また、本明細書においては、前後左右、上下、内周側及び外周側は図中に示す方向であるとして説明する。また、当該数値と略同一である場合も含むものとする。また、位置関係等に言及した場合、例えば、平行、直交、平面、反対等のように言及した場合、完全に平行、直交、平面、反対等である場合だけでなく、略平行、略直交、略反対等である場合を含むものとする。
【0014】
図1は本発明の遠心機1の縦断面図である。遠心機1は、箱型の筐体11を備え、筐体11の内部の上下中央付近には仕切り板12によって上下2段の空間に仕切られている。仕切り板12の上段の空間には、上面が開口する略円筒状のチャンバ4が収容され、チャンバ4の外周側には防護壁6が配置される。チャンバ4の上面には開閉可能なドア14によって密閉され、これらによってロータ室3が形成される。チャンバ4の周囲には冷凍配管16が巻回され、図示しない冷却装置によってロータ室3内が所望の温度に保たれる。ロータ室3内には、ロータ組立体2が設置される。ロータ組立体2は、スイングロータと、スイングロータを収容した収容カバー30の組であって、本実施例では収容カバー30に収容された状態でスイングロータが回転する。スイングロータは、駆動軸7aに装着されるロータ本体20と、ロータ本体20に対してスイング可能に保持される複数のバケット40により構成される。従来のスイングロータ式の遠心機では、収容カバー30を用いない状態でスイングロータを回転させるが、本発明においても収容カバー30を用いずに遠心運転しても良く、収容カバー30の使用は本発明にとって必須では無い。
【0015】
筐体11内の仕切り板12によって仕切られた下段には、駆動源たるモータ7がハウジング8の内部に収容され、ハウジング8はダンパーゴム9を介して仕切り板12への取付部材13に固定される。モータ7はその駆動軸7aが鉛直方向に伸びるように配置される。駆動軸7aは、チャンバ4の底部に形成される貫通穴からロータ室3の内部空間に達するように延びて、その上端部に駆動軸7aの回転トルクを伝達するためのクラウン7bが設けられ、ロータ組立体2がクラウン7bによって保持される。ロータ組立体2が高速で回転することにより、遠心力によってバケット40がスイング軸を中心にして揺動する。ロータ組立体2は、このように組立体の状態でロータ室3から外部に取り外しが可能であるし、ロータ組立体2を遠心機1にセットした状態で、収容カバー30の蓋33を取り外して、バケット40を取り外すことも可能である。
【0016】
筐体11の上部後方側の傾斜パネル15には操作表示部10が設けられる。操作表示部10は、ユーザからの入力を受け付けるための入力部と、ユーザに対して情報を表示する表示部の機能を果たすものであり複数のボタンとLED表示装置で形成できるし、タッチ式の液晶ディスプレイを用いて構成しても良い。
図1では図示していないが、操作表示部10への情報の表示とユーザからの操作入力の受付けの制御、モータ7の回転制御、冷凍配管16に冷媒を流すための図示しない冷却装置の制御等の遠心機1の全体の制御を行う制御部(図示せず)が設けられる。制御部は、マイクロコンピュータ、揮発性および不揮発性の記憶メモリ等を含んで構成される電子回路である。
【0017】
図2は、本発明の実施例に係る遠心機1のロータ組立体2の断面斜視図である。ロータ組立体2は、シェル31、ベース32、蓋33からなる収容カバー30の内部に、複数のバケット40がセットされたロータ本体20(ロータ本体20はネジで取り付けられるカップリング36も含む)を収容した組品である。
図2ではバケット40の内部に試料55を入れた試料用容器50が装着された状態を示している。バケット40は試料用容器50の外形に合わせた内壁形状を有するものであって、アルミニウム合金の一体成形によって製造される。収容カバー30は、遠心分離運転におけるロータ組立体2の回転中に、ロータ組立体2の凹凸による空気との摩擦熱による温度上昇を防止し、かつ風切音などの騒音を低減させるために用いられるものであり、熱伝導性が良くて強度的に優れ、かつ軽量であることが重要である。ここでは、アルミニウム合金等の金属によって製造される。シェル31は、下側の開口部円環状のベース32が設けられ、シェル31とベース32によってお椀型の容器が形成される。ベース32は中央に円形の貫通穴が設けられ、貫通穴の上部にはロータ本体20を固定するためのカップリング36が取り付けられる。
【0018】
シェル31の上側には、ロータ本体20の外径よりも大きい円形の開口部31aが形成される。シェル31の開口部31aには円盤状の蓋33が装着される。蓋33の中心にはノブ34が取り付けられ、ノブ34の中心には貫通穴が設けられる。この貫通穴にはロックスクリュー35の上部先端部が挿入することができ、シェル31の開口部31aを塞ぐことができる。よって、蓋33はシェル31の上部に乗っかっているたけである。シェル31のベース32とカップリング36はネジによって固定され、収容カバー30とロータ本体20は一体に移動することができ、カップリング36に設けられる嵌合穴36aを遠心機1のクラウン7bにセットした後、ロータ本体20に回転可能に取付けられる、ロックスクリュー35のネジ部35aをクラウン7bに設けられるネジ部36bにねじ込むことで、遠心機1にロータ組立体2を固定する。
【0019】
次に
図3を用いてスイングロータ(ロータ本体20、バケット40)の詳細構造を説明する。
図3は本発明の実施例に係る遠心機1のロータ本体20とバケット40の底面図である(ここではカップリング36は図示していない)。ロータ本体20から凸状に突出する保持ピン26が、バケット40に形成された凹状の窪み(凹部)に掛止している。ロータ本体20は、貫通穴22が形成された外径が略直方体のハブ21と、ハブ21の径方向外側であって上から見て十字状に四方に延びるアーム部23と、アーム部23のそれぞれの先端付近からV字状に広がるように接続される分岐アーム部24と、隣接する分岐アーム部24を面状の部材にて接続することにより強度を向上させるためのリブ25によって構成される。ロータ本体20は、主にステンレス鋳鋼製やアルミ合金製の精密鋳造によって製作され、組合せ精度の必要な個所のみ機械加工により切削する。ハブ21はカップリング36に設置される箇所となり、取り付けられるバケット40の数が4個の場合は、ハブ21の回転軸(回転中心)回りに回転角90°間隔で4本のアーム部23が均等に配置される。尚、バケット40の取り付け数に応じて、アーム部23の本数と、各アーム部23の間隔(回転角)は任意に設定できるが、貫通穴22(回転軸と同心)に対して回転対象となるように設定すると好ましい。
【0020】
アーム部23の外側部分には、略90度の角度を隔てるように2つに分岐する分岐アーム部24と、それらの分岐アーム部24の間を板状の部材で接合するリブ25が形成される。分岐アーム部24は、回転軸に垂直な方向に延び、バケット40を挟んで対向する分岐アーム部24と互いに平行な位置関係となる。これら平行な分岐アーム部24によって1つのバケット40を保持する。各分岐アーム部24には、バケット40を支承するために略円柱状の形状を有し、バケット40側に対して凸部となるように突出する保持ピン26が形成される。保持ピン26の伸びる方向(保持ピン26の軸線方向)は、ロータ本体20の回転軌跡の接線方向と同じ方向となる。
【0021】
ここで本実施例のバケット40を説明する前に、従来の技術を用いて製造したスイングロータの保持ピンの形状とバケットの形状を
図11及び
図12を用いて説明する。
図11は従来の技術、特に従来のピン受け構造で形成したバケット140を示す斜視図である。バケット140は、例えばアルミ合金等の金属の一体成形により製造されるものであり、上から見た際に略長方形の開口部141を有するカップ状の形状である。開口部141近傍である上端付近は、部分的に厚みを増した肉厚部142が形成され、肉厚部142から下方向には2本の案内リブ143により挟まれた窪み145が形成される。窪み145の上端であって肉厚部142の下側には、バケット140がスイングする際の接触面となるものであって、その外周面が円弧状のピン受け部144が形成される。円弧状のピン受け部144の内壁は保持ピン26(
図2)の外径よりも僅かに大きな半円柱状とすると良い。
図11では一方の肉厚部142に接続された案内リブ143とピン受け部144しか見えないが、反対側に位置する肉厚部142にも同様の案内リブ143とピン受け部144が形成される。
【0022】
案内リブ143は、バケット140をロータ本体部に装着及び取り外す際の保持ピンを案内するガイドとしての役目を果たすものである。案内リブ143の窪み145側に形成される壁面たる案内面143aは、保持ピンの外周側摺動面(円筒形状)と対向するように形成されるものであって、スイング軸の軸方向に対して平行に形成される面領域(平面領域)となる。
図11では肉厚部142の片側に接続された案内リブ143と、これらに囲まれる部分に形成され、側面視で凹状に形成される凹部(窪み145、ピン受け部144、案内面143a)しか見えないが、反対側に位置する肉厚部142にも同様の凹部が形成され、バケット140の長辺側の側面の2カ所にて窪み145とピン受け部144が形成される。
【0023】
図12は従来の遠心機におけるロータの高速回転中の側面図であって、外周側から内側方向を見た図である。本図により、バケット140がスイングロータの分岐アーム部124に形成された保持ピン126に軸支されることによって遠心荷重が保持されることが理解できるであろう。バケット140の凹部となる窪み145の隅部において窪み145と案内リブ143の案内面143aとの境界部分は直角で無くて、隅部145cが若干の丸みとなるように形成される。同様の丸みは、鉛直な平面である窪み145とピン受け部144との境界部分にも形成される。この隅部145cの丸みは、保持ピン126の先端部の隅部126cの丸み(面取り)より小さく設けなければならないため。凹状の窪み145の隅部の丸みを大きくして応力集中を低減しようとすると、保持ピン126の隅部126cの丸みをさらに大きく形成しなくてはならないため、円柱面126bとピン受け部144との接触面積が減少する上に、窪み145と保持ピン126の先端面126aとの隙間が大きくなってしまう。接触面積が減少すると、接触面圧すなわち接触応力が増大してしまうので、接触面への亀裂の発生や接触面の面荒れを引き起こし、摺動性が悪くなりバケット140の揺動不良の発生要因となってしまう。また、保持ピン126の先端面126aの隙間が大きいと、バケット40が保持ピンの軸方向に移動する量が増大してしまうので、回転時にアンバランスを生ずる恐れが高くなる。これらの問題を解消するためになされたのが本発明である。
【0024】
図4は本実施例に係る遠心機1に用いられるバケット40の斜視図である。バケット40はロータ本体20に対して着脱可能であり、バケット40を上から下方向(装着方向:軸方向と平行な下方向)に移動させることによってロータ本体20に装着することができる。バケット40は、上部に開口部41を有し、開口部41から下方には複数の試料用容器50を収容するための内部空間48が形成される。本実施例では開口部41がオープン状態のバケット40を図示しているが、開口部41に開閉式の蓋を形成するようにしても良い。バケット40は、例えばアルミ合金等の金属の一体成形により製造されるものであり、上から見た際に略長方形の開口部41を有するカップ状であって、開口部41の周囲は部分的に肉厚を増した肉厚部42が形成される。本実施例のバケット40は、内部空間48が2つに分離された形状である。
【0025】
バケット40の長辺側の側面には、肉厚部42と、肉厚部42から下方向に延びる2本の案内リブ43により挟まれた凹部が形成される。この凹部はバケットのスイング軸の軸方向外側から見た際に凹状となるものであって、その凹部の幅は、保持ピン26を案内できるように、保持ピン26の直径よりも僅かに大きい程度である。案内リブ43は、保持ピン26を案内する案内面43aの形成のためが主目的であるが、案内リブ43を形成したことによりバケット40の剛性を大幅に上げることができる。本実施例では、ピン受け部44の円柱面の先端側と対面して、スイング軸と直交する領域(凹部でいうと底の部分)において、側面視で逆U字状となる連続した溝部46を形成した。逆U字状の溝部46の内側部分は、スイング軸と直交する平面部となる直交面45が形成される。
【0026】
図5は本発明の実施例に係る遠心機1のロータの高速回転中の側面図であって、
図3のA−A部から内周側を見た側面図である。従来の遠心機と、本実施例に係る遠心機1との違いは主にバケット40の形状であって、そのバケット40に合わせて保持ピン26の隅部の形状を最適化した。保持ピン26は略円柱形状であって、その軸線(スイング軸)がバケット40の揺動中心となる。保持ピン26のバケット40と接触する部分は円柱面26bであり、保持ピン26の軸方向先端にはスイング軸と直交する方向に先端面26aが形成される。一方、バケット40側においては、内壁形状が円筒形のピン受け部44が形成され、ピン受け部44が円柱面26bと当接する。バケット40側には先端面26aと対向する垂直領域に直交面45が形成されるが、本実施例ではこの直交面の径方向外側において溝部46が形成され、バケット40の局部的に集中する応力を分散させるように構成した。溝部46は切削先端形状が半球状となるエンドミルを用いて切削加工にて形成できる。溝部46の溝の輪郭は、
図5のような底面図(又は
図6の断面図)で見て半円状であるが、溝を設ける理由は角部等に局所的に集中する応力を分散させることであるので、完全な半円形状だけでなく断面形状が曲線状となるようにすればその他の断面形状であっても良い。先端面26aと直交面45は、僅かな隙間を隔てて対面するように構成する。この隙間はバケット40をロータ本体20に対してスムースに装着でき、ロータ本体20の回転時にスムースにバケット40がスイングできる程度であって、なるべく小さく形成すると良い。
【0027】
次に
図6を用いて
図5のB−B部の断面形状を説明する。この断面はロータ本体20が高速回転中であって、バケット40が水平状態にスイングしているため、B−B部の断面が、保持ピン26の中心軸線(スイング軸)とバケット40の中心軸線を通る面となる。バケット40は保持ピン26のピン受け部44に沿い摺動しながら揺動支持され、保持ピン26の円柱面26bにピン受け部44が当接することによりバケット40の遠心荷重が支えられる。これらの接触面と隣接するバケット40の部分においては、接触面(円筒形状の半面)のスイング軸の軸方向中心側に溝部46が形成される。ここで保持ピン26に対するバケット40の直交面45は、保持ピン26のスイング軸線上において必ず対面することを特徴としている。これは、保持ピン26の先端面26aとバケット40の直交面45の隙間を設けるために必要となる。溝部46の幅は断面形状が半球状の半径の大きさにより決定されるが、保持ピン26の先端面26aとバケット40の直交面45が平行な稜線で残る程度まで減らしても問題はない。ここでは溝部46の幅を保持ピン26の半径よりも2/3程度にまで小さくして、保持ピン26の中心軸線(スイング軸線)上においては、溝部46が位置しないようにした。この結果、保持ピン26のスイング軸線でみると、先端面26aと直交面45が十分近接して小さな隙間で対面するので、バケット40がスイングしたさいのぶれが少なく、ロータ本体20の回転中心に対するアンバランス量が減少し、回転中の振動を低く抑えることが可能となる。尚、バケット40には、内部空間を2分割するためのバケット仕切り板41bが設けられている。
【0028】
図7は、本発明の実施例に係る遠心機1のバケット40単体の側面図である。点線で描かれているのは遠心分離運転時における保持ピン26の位置である。バケット40の側面には補強部となる案内リブ43が設けられ、肉厚部42と案内リブ43を用いて凹部が形成される。凹部は、溝の底部分となる領域であって保持ピン26の先端面と対向する側である垂直領域と、垂直領域と直交して形成される平行領域が形成される。垂直領域はスイング軸の軸方向から見て、保持ピン26の先端側において垂直方向に延びる領域である。一方、平行領域はスイング軸線と平行な面にて形成される領域であって、
図7の側面図では見えない面である。垂直領域に形成される溝部46と直交面45は側面視で視認できる。
【0029】
バケット40の凹部の製造方法は、最初に2本の平行する案内リブ43の間の部分が埋められて連続した同一面となるように肉厚で製造し、その後に切削加工により凹部を形成する。凹部の形成は、まず溝部46の幅Gと同じ直径のエンドミル(図示せず)をスイング軸と平行に位置づけてバケット40の46c付近に近づけ、矢印49aの方向に移動して、上端付近で反転させて逆U字状に動かしながら矢印49bまで移動させる。そうすると溝部46の部分だけ深い溝が形成されると共に、案内面43aと円筒状のピン受け部44が形成される。次に、溝部46の形成によって形成された島部分の下端に、直径がW以上の大きさであって先端切削面が平面になるエンドミル(図示せず)を位置づけ、矢印49cのように下から上方向に切削ながらスイング軸中心付近まで移動させることにより直交面45を形成する。このような切削加工の結果、案内リブ43に挟まれる部分に凹部が形成されることになる。ここで、案内リブ43の案内面43aとピン受け部44は、それらの面が連続するように隣接する上に、案内面43aと溝部46の境界部分も連続して形成されることが理解できるであろう。
【0030】
ロータ本体20の回転時の保持ピン26の位置は
図7の点線で示す範囲であり、上からDの範囲が保持ピン26に相対する相対部分である。相対部分よりも下の部分がバケット40を保持ピン26に装着する際に案内するために形成される延長部分となる。本実施例では、基本的に上下方向の長さDの相対部分にだけ溝部46を形成すれば、遠心分離運転時にバケット40の局部的に集中する応力を分散させることができる。しかしながら、相対部分だけで溝部46を切ってしまうと、溝部46から延長部分への移行部分付近に溝部の端部が位置して少なからず応力が集中する恐れがあるので、本実施例では溝部46を延長部分にまで十分入り込むようにして、上から下まで延びる十分な長さとした。このように形成すると、凹部の各部位を切削加工にて効率よく形成できることにもなり、切削加工費の上昇を大幅に押さえることができる。
【0031】
以上のようにして平行して形成される案内リブ43の内側には、保持ピン26を案内するための凹部が形成される。本実施例で延長領域における案内リブ43の、バケット40の装着方向と直交方向に見た案内面43aの間隔W1は、上から下まで一定、つまり案内面43aは平行に形成されるが、バケット40をロータ本体部に装着及び取り外す際の保持ピン26を案内するガイドとしての役目を考えると、上側で幅がW1(=W+2G)として、下側でそれよりもやや広くなるように案内リブ43を僅かに斜めに形成しても良い。
【0032】
次に
図8を用いて、バケット40の凹部の形状を更に説明する。
図8はバケット40の側面に形成される凹部の形状を説明するための部分斜視図である。凹部は主に壁面となる平行領域と、底面部分となる垂直領域に分かれる。
図8(1)で黒く塗りつぶした部分は平行領域となる壁面を示しており、この壁面の上側はバケット40のスイング時に保持ピン26と接触するピン受け部44であり、ピン受け部44の円柱状の面から下方には延長部分にまで延びる平面である案内面43aとなる。
【0033】
図8(2)の黒く塗りつぶした部分は溝部46の側面視の形状である。溝部46の反転外周部46aはピン受け部44の上面に接する位置にあり、溝部46の反転内周部46bは、スイング軸の軸心(中心点)よりも上側にある。つまりスイング軸心が平面たる直交面45の中に位置するように構成される。このためスイング軸線上では直交面45と保持ピン26の先端面26aがほぼ並行の状態に良好に対面することができるので、がたつきが少ないスイング機構を実現できる。また、対面する面の周囲は溝部46になっているので、直交面45と先端面26aを接近させることが容易な上に、スイング動作がスムースでバケット40の片寄りが発生する恐れを大幅に減らすことができる。
【0034】
図8(3)の黒く塗りつぶした部分は直交面45の側面視である。直交面45がバケット40を装着する際に、保持ピン26の軸方向先端と接触することにより、バケット40の軸方向位置を決定することになるが、本実施例では直交面45はバケット40の上下方向距離の半分以上という十分な長さを有するため、バケットの保持ピン20の軸方向の位置決めがきちんとできるバケット40の装着機構を実現できた。
【0035】
次に
図9及び
図10を用いて保持ピン26の断面形状と溝部46の断面形状を説明する。それぞれ(1)が本実施例のバケット40の凹部の形状であり、(2)が従来の技術を用いたバケット140の凹部の形状である。
図9は保持ピン26の軸線を通る横断面図(水平方向の断面図)である。(1)ではバケット40垂直領域は、幅51の範囲内かつ矢印52で示す部分に全て配置される部分であって、この部分内に直交面45と溝部46が形成される。ピン受け部44は平行領域に形成される半円柱面であって、保持ピン26の円柱面26bと良好に接する。ここでは、溝部46が形成される関係から、保持ピン26の円柱面26bと先端面26aとの隅部26cの曲率半径を十分小さくすることができるようになった。このように改良されたバケット40に合わせて保持ピン26の形状を最適化すれば、円柱面26bとピン受け部44との接触部分の軸方向幅L1を大きく確保できる。また、溝部46は、範囲51かつ矢印52の範囲内に収まるように形成し、ピン受け部44のある平行領域側にはみ出すことが無いように形成される。この結果、ピン受け部44と円柱面26bの接触部分に溝部46による曲面部分が何ら干渉することが無いので、バケット40のスイング特性を良好に保つことができる。この利点は(2)に示す従来技術によるバケット140の構造を比較すると明確であり、バケット140では隅部145cの曲率半径との関係から、保持ピン126の隅部126cの曲率半径を大きくせざるを得ないため、円柱面126bとピン受け部144の接触部分の軸方向幅L2が小さくなってしまう。このことは、保持ピン126の円柱面126bに負荷される遠心荷重による応力が大きくなる上に、バケット140側もピン受け部144が受ける局所的な応力が大きくなる。
【0036】
さらに、
図8で説明したように直交面45は溝部46の加工が終わったあとに切削するために、任意の高さ(凹部としてみたら任意の深さ)に形成可能であるので、隙間S1の距離を微小間隔で対面するように適切に設定することができ、がたつきの無いバケット40を実現できる。ここで、溝部46における溝の最深部と保持ピン26の先端面26aとの隙間S2は、直交面45との隙間S1よりも十分大きくなるよう構成される。(2)に示す従来の技術によれば、隅部145cと隅部126cとの干渉の恐れから隙間S3をある程度確保する必要がある。また、バケット140が保持ピンの軸方向に片寄りして、直交面145aと先端面126aが接触すると、接触面積が大きいためバケット40のスムースなスイングを妨げる恐れがある。しかしながら、(1)の本実施例の構成では、仮に直交面45と先端面26aが接触しても接触面積が小さいので、スムースなスイングを実現できる。尚、本実施例ではスイング軸線上において直交面45と先端面26aが非接触にまたは接触して対面することが重要であり、スイング軸線上に溝部46がかかるように構成するのは好ましくない。
【0037】
図10は保持ピン26の軸線を通る縦断面図(鉛直方向の断面図)である。(1)ではバケット40の凹部は、保持ピン線から上側の幅53の範囲内に溝部46が形成されるようにし、溝部46の下側では直交面45となるようにした。ここで、溝部46は、上下方向に見て範囲53を越えないように形成される。範囲53の下側はスイング軸線の位置であり、上側はピン受け部44の内壁の上端位置である。以上のように、溝部46はバケット140の凹部のうちの底部分に形成され、かつ、底部分と壁部分の境界に沿って形成されるので、ピン受け部44側の面には影響しないように形成される。
【0038】
以上説明したように、本実施例によればバケットを揺動可能に支持する対向する一対の凸状の保持ピン26が対面に配置され、バケットには保持ピン26の円柱面26bに係合する凹部を側面に備え、その凹部はロータの保持ピン26の先端稜線に設けられた隅部26cより大きい丸みまたは略円弧状形状の溝部46と、溝部46の内側の直交面45にて形成したので、バケット40の凹部の隅部への部分的な応力集中によるバケット40の短寿命化を防止できる。また、保持ピン26の円柱面26bとバケット40の接触幅L1を大きく取ることができるので、接触面圧すなわち接触応力増大による接触面の亀裂発生や接触面の面荒れを防止できる。さらに、保持ピン26の先端面26aとバケット40の凹部の相対する直交面45には適度な隙間が設けられるため、隙間の大きさにより生じる不釣合い量を低減することができ、バケット40がスムースにスイング可能となって試料に不要な振動を与えない遠心機を実現できた。
【0039】
以上、本発明を実施例に基づいて説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、本実施例ではバケット140の形状として開口部41が略長方形となるような形状のものを説明したが、必ずしもこの形状に限らずに、開口の形状が略円形の円筒状のバケットであっても良いし、その他の任意の形状のバケットであっても良い。