(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を用いて、本開示に係る3次元熱間曲げ焼入れ装置(以下、3DQ装置と略記する。)の実施形態について説明する。
【0026】
<3DQ装置>
図1には、3DQ装置10の全体構成が示されている。この図に示されるように、第1実施形態の3DQ装置10は、送り装置12と、誘導加熱コイル30と、冷却装置14と、加工力付与装置15としての可動ローラーダイス16及び支持ローラー18と、を備えている。
【0027】
(送り装置)
送り装置12は、鋼管60の後端(送り方向の上流側の端部)を把持するチャック13を備えており、このチャック13が押し出されることで鋼管60(管体)が軸方向に送られる。チャック13は、鋼管60の断面形状に応じた構造とされており、第1実施形態のチャック13は、後に説明する断面矩形の角形鋼管(鋼管60)の端部を把持可能な構造とされている。
【0028】
(誘導加熱コイル)
送り装置12によって送られる鋼管60が挿通するように、誘導加熱コイル30が設けられている。すなわち、誘導加熱コイル30は、送り装置12の送り方向の延長線を囲むように配置されている。鋼管60が誘導加熱コイル30に挿通されると、鋼管60における誘導加熱コイル30に挿通された部分が誘導加熱コイル30によって急速に加熱される。第1実施形態の誘導加熱コイル30の構造については、後に詳述する。
【0029】
(冷却装置)
誘導加熱コイル30の送り方向下流には、誘導加熱コイル30と近接して、冷却装置14が設けられている。冷却装置14は、誘導加熱コイル30で急速加熱された鋼管60を急速に冷却する。これにより、鋼管60を焼入れして強度を向上させる。冷却装置14の具体的な構造としては、例えば、すでに説明した
図2及び
図3に示される冷却装置を用いることができる。
【0030】
(加工力付与装置)
加工力付与装置15は、可動ローラーダイス16と支持ローラー18とで構成されている。支持ローラー18は、誘導加熱コイル30の送り方向上流に誘導加熱コイル30に近接して設けられており、鋼管60を軸方向の移動可能に支持する。他方、可動ローラーダイス16は、冷却装置14の送り方向下流に設けられており、鋼管60を保持しつつ、自らが移動可能に構成されている。可動ローラーダイス16が移動して鋼管60に加工力を与え、支持ローラー18が鋼管60から加工反力を受けることで、鋼管60に生じている軟化した高温部が変形する。
【0031】
(素材となる鋼管)
図5には、3DQ装置10を用いて加工される素材の一例としての鋼管60の横断面形状が示されている。この図に示されるように、鋼管60は、断面形状が矩形の角形鋼管であり、4つの平板部分62と、平板部分62同士を接続する4つの角部64と、から成っている。隣り合った平板部分62の成す角度は90度とされている。鋼管60は、例えば、電縫鋼管(電気抵抗溶接鋼管)が用いられる。
【0032】
―誘導加熱コイル―
次に、第1実施形態の誘導加熱コイル30について説明する。
【0033】
図6には、第1実施形態の誘導加熱コイル30が、送り方向下流から上流に向かってみた状態で示されている。この図に示されるように、誘導加熱コイル30は、コイル本体32と、一対の端子34と、磁性体部材40と、を含んで構成されている。
【0034】
コイル本体32は例えば1回巻のコイルとされており、コイル本体32の巻き始め部分と巻き終わり部分に対応して一対の端子34が設けられている。なお、コイル本体32は、1回巻のコイルに限定されず、複数回巻のコイルであってもよい。
【0035】
―コイル本体―
コイル本体32は、鋼管60の断面形状にあわせて、矩形環状に形成されている。そして、コイル本体32の内側面50(以下、誘導加熱コイル30の内側面50ということもある)も矩形状とされており、4か所においてコイル外側に凸となるように折れ曲がっている。換言すると、誘導加熱コイル30は、内側面50が折れ曲がっている屈曲部32Cを4つ備えている。
【0036】
なお、この内側面50の矩形の形状は、誘導加熱コイル30に挿通される鋼管60の横断面形状(鋼管の外面の形状)と略相似している。このため、上述した送り装置12と誘導加熱コイル30を適切に配置・制御することによって、鋼管60と誘導加熱コイル30の内側面50とのクリアランスを鋼管60周方向に沿って略一定に保つように、鋼管60を誘導加熱コイル30に挿通させることができる。鋼管60の横断面形状が四角形以外の多角形の場合、コイル本体32の形状も鋼管60の断面形状にあわせて多角形となる。
【0037】
―磁性体部材―
誘導加熱コイル30の屈曲部32Cには、その内側面50(屈曲部32Cにおける内側面50C)を覆うように磁性体部材40が配置されている。
【0038】
磁性体部材40の材料としては、透磁率が高いことが磁力線の遮蔽のために好ましい。また、磁性体部材40自体が発熱して変形や溶損することや、磁性体部材40自体が発熱してその輻射熱によって鋼管への悪影響を及ぼすことを避けるために、磁性体部材の材料の電気伝導度が低い(電気抵抗率が高い)ことが好ましい。具体的な磁性体部材40の材料としては、例えば、フェライトと呼ばれる酸化物を主成分とする磁性セラミックスや、金属イオンを含む亜鉄酸塩などが好適に用いられる。また、磁性体部材40は、誘導加熱コイル30に対して着脱可能であることが好ましい。着脱可能であることにより、配置する磁性体部材40の厚みDを調整することができるので、後述するように、鋼管60の角部64とそれ以外の部分との温度差を調節することができる。
【0039】
磁性体部材40は、4つ設けられており、誘導加熱コイル30の4つの屈曲部32Cに対してそれぞれ設けられている。それぞれの磁性体部材40は、屈曲部32Cにおける内側面50Cの折れ曲がった部分に沿うように略L字状に屈曲した形状とされている。これにより、
図12(A)にも示されるように、磁性体部材40は、屈曲部32Cにおける内側面50Cを覆っている。
【0040】
なお、
図6に示されるように、コイル本体32の内側面50の形状と略相似する断面形状の鋼管60を誘導加熱コイル30に挿通した場合、鋼管60の角部64には、コイル本体32(誘導加熱コイル30)の屈曲部32Cにおける内側面50Cが対向することとなる。上述したとおり、屈曲部32Cにはその内側面50Cを覆うように磁性体部材40が配置されているので、結果的に、挿通される鋼管60の角部64と、誘導加熱コイル30の屈曲部32Cとの間に磁性体部材40が配置されることとなる。
【0041】
<作用・効果>
次に、第1実施形態の作用及び効果について説明する。
【0042】
第1実施形態の3DQ装置10は、管体を軸方向に送る送り装置12と、送り装置12の管体送り方向の延長線を囲むように配置される誘導加熱コイル30と、誘導加熱コイル30の送り装置12の管体送り方向下流側に隣接して配置される冷却装置14と、管体に加工力を付与する加工力付与装置15と、を備えている。
このため、この3DQ装置10を用いることで、断面に角部を有する鋼管60を軸方向に送るステップと、鋼管60を誘導加熱コイル30に通して加熱するステップと、加熱された鋼管60を冷却し鋼管60に局所的に高温部を作るステップと、高温部に加工力を付与するステップと、を同時に行うことができる(3次元熱間曲げ焼入れ方法)。
【0043】
また、第1実施形態の3DQ装置10では、誘導加熱コイル30が、内側面50が折れ曲がっている屈曲部32Cを備えている。そして、誘導加熱コイル30の屈曲部32Cには、誘導加熱コイル30の内側面50を覆うように磁性体部材40が配置されている。
このため、コイル本体32(誘導加熱コイル30)の内側面50の形状と略相似する断面形状の鋼管60を送り装置12により誘導加熱コイル30に挿通した場合、鋼管60の角部64に対向する誘導加熱コイル30の内側面50(すなわち、屈曲部32Cにおける内側面50C)に磁性体部材40が配置されることとなる。つまり、挿通される鋼管60の角部64と、誘導加熱コイル30の屈曲部32Cとの間に磁性体部材40が配置される。したがって、磁性体部材40により、鋼管60の角部64を通過する磁束密度を低減することができる。その結果、鋼管60の角部64に生じる渦電流を低減することができ、角部64における過加熱を抑制することができる。
【0044】
次に、比較例を用いることにより、第1実施形態の3DQ装置10及び3DQ方法の作用効果について、詳しく説明する。
【0045】
素材は、比較例及び第1実施形態共に、幅Wが50mm、高さHが40mm、肉厚tが1.4mmの鋼管60とする(
図5参照)。
【0046】
図7には、比較例に係る3DQ装置510(誘導加熱コイル530)が示されている。この図に示されるように、比較例に係る誘導加熱コイル530は、磁性体部材40が配置されていない点以外、第1実施形態の誘導加熱コイル30と同一である。
【0047】
図7に示されるように、鋼管60の平板部分62と対向する誘導加熱コイル300(の内側面50)とクリアランスは3mmである。加熱温度は、平板部分62の温度が1100℃となるように設定する。
【0048】
図8に、角R(角部外側曲率半径)と、角部64と平板部分62との温度差と、の関係を示す。この図に示されるように、鋼管60の角Rが小さいほど角部64の温度差が高くなる(エッジ効果が大きくなる)。具体的には、角Rが5mmのとき温度差が約150℃であり、加熱目標温度(1100℃)に対して15%程度の過加熱となる。
【0049】
次に、角Rが5mmである鋼管を素材として、第1実施形態の3DQ装置10(誘導加熱コイル30)で加熱した場合を説明する。
【0050】
図9に、磁性体部材40の厚みDと、角部64と平板部分62との温度差と、の関係を示す。この図に示されるように、磁性体部材40の厚みDを増加させるほど温度差が小さくなる。具体的には、厚みDを1mmにすると温度差が約110℃まで減少し、厚みDを2.5mmにすると温度差が約60℃まで減少する。
【0051】
以上の説明からも判るように、誘導加熱コイル30の屈曲部32Cに、その内側面50Cを覆うように磁性体部材40を配置することで、鋼管60の角部64における過加熱を抑制することができる。さらに、配置する磁性体部材40の厚みDを調整することで、鋼管60の角部64とそれ以外の部分との温度差を制御することができる。
【0052】
さらに言うと、Ac3変態点は鋼材の組成にもよるがおおよそ800〜900℃であるため、誘導加熱コイル30による鋼管60の加熱温度を、平板部分62及び角部64について共にAc3変態点以上950℃以下の温度に制御することもできる。このような加熱温度に制御することで、鋼管60表面に付着したCuが融解することが抑制されるので、疲労破壊が起こり難い3DQ加工部材を製造することができる。
【0053】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態に係る3DQ装置110及び3DQ方法について説明する。
【0054】
第2実施形態に係る3DQ装置110は、誘導加熱コイル130のコイル本体132の形状が、第1実施形態の3DQ装置10と異なっている。
【0055】
図10には、第2実施形態に係る誘導加熱コイル130が示されている。この図に示されるように、コイル本体132は、矩形環状に形成されている。他方、コイル本体132の内側面50は、概略的には略矩形状に形成されているが、詳細には、略矩形状の四隅付近において、段差が設けられてコイル外側に広がった形状とされている。すなわち、コイル本体132の屈曲部132Cにおける内側面50には、コイル外側へ向かう段差部50Bが形成されている。以上より、第2実施形態のコイル本体132(誘導加熱コイル130)の内側面50は、誘導加熱コイル130の屈曲部132C以外の部分における内側面である一般部50Aと、コイル本体132の屈曲部132Cにおける内側面50に形成されたコイル外側へ向かう段差部50Bと、を含んで構成されている。
【0056】
具体的には、第2実施形態の段差部50Bは、内側面50の一般部50Aの端部からコイル外側へ直角に延びる2つの直角部50B1と、直角部50B1のコイル外側端から一般部50Aと平行に延びる2つの平行部50B2と、から成っている。これにより、隣り合う平行部50B2の境界において内側面50がコイル外側に凸となるように折れ曲がっている構成となっている。したがって、第2実施形態では、屈曲部132Cにおける内側面50Cは、段差部50Bと一致する。
【0057】
誘導加熱コイル130の屈曲部132Cには、その内側面50C(すなわち、段差部50B)を覆うように磁性体部材40が配置されている。磁性体部材40の厚みDは、段差部50Bの直角部50B1の長さと一致する寸法とされている。これにより、内側面50の一般部50Aと、磁性体部材40とが所謂面一の関係となっている。
【0058】
なお、内側面50の一般部50Aと磁性体部材40との関係は、必ずしも面一の関係となっている必要はない。例えば、段差部50Bの直角部50B1の長さよりも、磁性体部材40の厚みDが大きく設定されており、磁性体部材40が内側面50の一般部50Aに対してコイル内側に突出していてもよい。また例えば、段差部50Bの直角部50B1の長さよりも、磁性体部材40の厚みDが小さく設定されており、磁性体部材40が内側面50の一般部50Aに対してコイル外側に窪んでいてもよい。また、段差部50Bの端部が直角部50B1のような直角ではなく、傾斜していてもよい。更に、磁性体部材40の厚みは一定ではなく、角部に近づくに従い肉厚になっていてもよい。
【0059】
次に、第2実施形態の3DQ装置110及び3DQ方法の作用効果について説明する。
【0060】
第2実施形態の3DQ装置110では、第1実施形態と同様に、誘導加熱コイル130は、内側面50が折れ曲がっている屈曲部32Cを備えており、この屈曲部32Cにおける内側面50Cを覆うように磁性体部材40が配置されている。さらに、第2実施形態では、磁性体部材40が配置されている屈曲部32Cにおける内側面50Cには、コイル外側へ向かう段差部50Bが形成されている。
このため、挿通される鋼管60とコイル本体32とのクリアランスが、鋼管60の角部64において(例えば第1実施形態と比較して)広がっている。よって、誘導加熱コイル130に流れる電流は、鋼管60の角部64を離れるように迂回する。したがって、同じ厚みDの磁性体部材40を配置した第1実施形態と比較して角部64の過加熱を抑制する効果が大きくなる。その結果、第1実施形態と比較して、磁性体部材40の厚みDを小さく(薄く)することができる。
【0061】
ところで、仮に内側面50の一般部50Aに対する磁性体部材40のコイル内側への突出量が大きいと、曲げ加工やねじり加工を伴う3DQ方法では鋼管60と磁性体部材40とが接触する懸念がある。しかし、第2実施形態では、屈曲部32Cにおける内側面50Cには、コイル外側へ向かう段差部50Bが形成されており、この段差部50Bに磁性体部材40が配置されている。このため、磁性体部材40の厚みDを大きくしたとしても、内側面50の一般部50Aに対して磁性体部材40がコイル内側に突出する構成となりづらい。したがって、第2実施形態では、磁性体部材40の厚みDを選択する自由度が大きい。また、磁性体部材40の厚みDを変更することで、ほぼ同じ断面形状で角部の曲率半径の異なる鋼管に対応することができる。
【0062】
なお、第2実施形態では、
図10に示されるように、内側面50の一般部50Aの端部(直角部50B1との境界部分)がコイル外側へ向けて直角に曲がった形状となっている例を説明した。つまり、段差部50Bが形成されていることにより略矩形状の内側面50の四隅付近に段差が設けられている例を説明した。しかし、第2実施形態において段差が設けられていることは必ずしも必要なく、コイル外側へ向かって凹んだ形状の凹み部が形成されていればよい。例えば、内側面50の一般部50Aと段差部50Bとの境界部分の形状は、緩やかに曲がった形状にしてもよい。緩やかに曲がった形状であっても、凹み部が形成された部分で鋼管60とコイル本体132とのクリアランスが広がり、上述した第2実施形態の段差部50Bに関する作用効果と同様の作用効果を奏する。
【0063】
次に、角Rが5mmである鋼管を素材として、第2実施形態の3DQ装置110(誘導加熱コイル130)で加熱した場合の具体的な効果を説明する。
【0064】
ここでは、コイル本体32の内側面50の一般部50Aと段差部50Bとの段差(角部コイル間隙差、換言すると直角部50B1の寸法)を変化させると共に、これと併せて磁性体部材40の厚みDを変化させた場合について考える。つまり、内側面50の一般部50Aと磁性体部材40が面一となる関係を保ったまま、磁性体部材40の厚みDを変えた場合について考える。
【0065】
図11に、磁性体部材40の厚みD(角部コイル間隙差)と、角部64と平板部分62との温度差と、の関係を示す。この図に示されるように、磁性体部材40の厚みDを増加させるほど温度差が小さくなる。しかも、厚みDの増加量に対して減少する温度差が、第1実施形態よりも大きい。具体的には、厚みDを1mmにすると温度差が約70℃まで減少し、厚みDを2.0mmにすると温度差が約0℃まで減少する。
【0066】
以上の説明からも判るように、誘導加熱コイル30の内側面50の段差部50B(屈曲部32Cにおける内側面50C)を覆うように磁性体部材40を配置することで、第1実施形態と比較して厚みDの小さい磁性体部材40であっても、角部64の過加熱を効果的に抑制することができる。
【0068】
なお、第1実施形態及び第2実施形態の誘導加熱コイル30、130では、コイル本体32、132が全体として矩形状とされており、4つの屈曲部32C、132Cを備えているが、本開示はこれに限定されない。誘導加熱コイルは、コイル本体の内側面がコイル外側に凸となるように折れ曲がった屈曲部を少なくとも一つ備えていればよい。
【0069】
また、第1実施形態及び第2実施形態の誘導加熱コイル30、130では、
図12(A)に示されるように、屈曲部32C、132Cにおける内側面50Cのみを覆うように磁性体部材40が設けられているが、本開示はこれに限定されない。
図12(B)に示されるように、屈曲部32Cにおける内側面50C及び当該内側面50Cに隣接する一対の隣接面52Cを併せて覆うように磁性体部材40が設けられていてもよい。換言すると、磁性体部材40は、屈曲部32Cにおける内側面50Cを覆う本体部40Aと、屈曲部32Cにおける内側面50Cに隣接する一対の隣接面52Cを覆う延長部40Bと、を含んで構成されていてもよい。
【0070】
上記実施形態の送り装置12は、チャック13により鋼管60の後端を押し出し、位置が固定された誘導加熱コイル30に鋼管60を挿通させるものであったが、本開示の「送り装置」はこれに限定されない。送り装置は、誘導加熱コイル30に対して鋼管60を軸方向に移動(相対移動)させる装置であればよく、例えば、鋼管60の後端を把持するチャック13が移動せずに誘導加熱コイル30が移動することにより、誘導加熱コイル30に対して鋼管60を軸方向に送るものであってもよい。
【0071】
また、鋼管に加工力を与えるための加工力付与装置は、特に限定されない。加工力付与装置は、鋼管送り方向下流側の鋼管端部に取り付けられたチャックとマニピュレーターであってもよいし、鋼管送り方向上流側の鋼管後端に取り付けられたチャックとマニピュレーターであってもよい。
【0072】
また、本開示の送り装置及び加工力付与装置は、各々が協調して制御される3台のマニピュレーターで構成されているものであってもよい。具体的には、鋼管の後端を把持するマニピュレーターが1台、誘導加熱コイルと冷却装置を保持するマニピュレーターが1台、鋼管の先端を把持するマニピュレーターが1台で、送り装置及び加工力付与装置が構成されていてもよい。
【0073】
また、本開示の3DQ装置を用いれば、様々な自動車用構造部材を製造することができる。自動車用構造部材としては、例えば、車両前端部及び後端部に車幅方向に沿って設けられるバンパー補強部材や、フロントピラー、ドア内に配置されるドアビーム、シート補強材が挙げられる。特に、本開示に係る3DQ装置によれば、疲労破壊の発生が低減された3DQ加工部材を製造することができるので、サスペンションのロアアームなど足回り部品となる自動車用構造部材の製造に好適に用いることができる。
【0074】
以上、主に、本開示の3次元熱間曲げ焼入れ方法に用いることができる3DQ装置の形態について説明したが、以下では、熱間変形焼入れを行う前の素材について説明する。
【0075】
熱間変形焼入れ用の鋼管の焼入れ性を高めて、熱間変形焼入れ時の加熱温度を低温化するために、熱間変形焼入れ前に少なくとも1回以上、下記各元素の成分量(質量%)に対して下記実験式(1)で示されるAc3変態点以上に加熱して熱間変形焼入れ前の鋼材の組織をマルテンサイト組織またはベイナイト組織に制御することが好ましい。
Ac3=910−203×√C−15.2×Ni+44.7×Si+104×V+31.5×Mo−30×Mn−11×Cr −20×Cu+700×P+400×Al+50×
Ti ・・・・(1)
【0076】
上述のように、熱間変形焼入れ前(つまり、3次元熱間曲げ焼入れにおいて誘導加熱コイルで加熱する前)の鋼材の組織は、マルテンサイト組織またはベイナイト組織であることが好ましい。熱間変形焼入れ前の鋼材の組織をマルテンサイト組織またはベイナイト組織にする熱処理においては、鋼材をAc3+10℃以上1100℃以下に加熱し、その後冷却して、マルテンサイト組織またはベイナイト組織の鋼材にすることが好ましい。720℃以上Ac3点以下の加熱温度においても冷却速度を制御して第2相をベイナイトまたはマルテンサイト組織を混在させた組織とすると、熱間変形焼入れ前の熱処理を行わないものに比べ焼入れ性が高まるが,熱間変形焼入れの加熱温度の低温化が十分ではないため、実施の形態では、Ac3+10℃以上での加熱を行うことが好ましい。また、熱間変形焼入れの加熱温度が1100℃を超えると、オーステナイト粒径が粗大化し、マルテンサイト変態時の焼入れ安定性を劣化させ、靱性を低下させるため、熱間変形焼入れの加熱温度は1100℃以下にすることが好ましい。
【0077】
加熱温度と加熱時間は加熱様式によって異なり、急速加熱(例えば誘導加熱)の場合は、短時間で変態を完了させるべく、より高温まで加熱して完全なオーステナイト化を図ることが好ましい。一方低速加熱(例えば炉加熱)の場合は、急速加熱の場合よりも低温での加熱が可能となる。加熱時間は,安定したオーステナイト化を図るためにAc3+10℃以上1100℃以下の温度領域での存在時間が少なくとも0.3秒以上であることが好ましい。上限の規定はないが、過度に長時間の加熱はスケール生成や生産性の低下を招くために好ましくは10分未満である。
【0078】
加熱後の冷却および温度条件は、狙いとする組織に応じて制御すればよい。ベイナイト組織を得るためには、例えば加熱後、約450℃まで冷却してその温度で80秒以上保持することが好ましい。またマルテンサイト組織を得るためには、加熱後室温まで冷却すればよく、その材料のCCT(連続冷却変態線図)を見ながら設定すればよい。
【0079】
なお、マルテンサイト組織またはベイナイト組織の鋼材は、好ましくは、マルテンサイト組織またはベイナイト組織:80体積%以上、残部:残留オーステナイト、フェライトおよび炭化物である。この組成であると、オーステナイト化する際に炭化物が溶けやすく、そのためAc3変態点を低下させることが可能となる。その結果熱間変形焼入れ時の加熱温度の低温化が可能となるからである。
【0080】
マルテンサイト組織またはベイナイト組織の鋼材を製造する素材としては、好ましくはフェライト−パーライト組織の鋼材が用いられる。
【0081】
3次元熱間曲げ焼入れ技術は、熱間で曲げ、捩り、せん断等の変形を行いその後焼入れを行う技術であるので、金型等を必要としない。従って、熱間変形焼入れの素材となるマルテンサイト組織またはベイナイト組織の鋼材は、鋼管形状のものを使用することができる。その中でも、溶接鋼管のマルテンサイト組織またはベイナイト組織の鋼材が、熱間変形焼入れ用素材として好適に用いられる。
【0082】
マルテンサイト組織またはベイナイト組織の鋼板を溶接して溶接鋼管を製造するのは、困難である。マルテンサイト組織またはベイナイト組織の鋼材は強度が高く延性が低いため、造管加工性に劣り、溶接の際に割れてしまうからである。そこで、予め溶接鋼管を製造しておき、その溶接鋼管の鋼材を、Ac3変態点+10℃以上1100℃以下に加熱しその後冷却して、マルテンサイト組織あるいはベイナイト組織の鋼材を製造することが好ましい。予め製造しておく溶接鋼管は、フェライト−パーライト組織の鋼板を溶接して製造したフェライト−パーライト組織の溶接鋼管であることが好ましい。フェライト−パーライト組織の鋼材は、強度が高く延性が低いため、造管加工性に優れるからである。そのため、マルテンサイト組織またはベイナイト組織の鋼板を溶接して溶接鋼管を製造するのではなく、フェライト−パーライト組織の鋼板を予め溶接して溶接鋼管を製造しておき、その溶接鋼管を熱処理してマルテンサイト組織またはベイナイト組織の溶接鋼管を製造する方が容易である。熱間圧延後の組織は、一般にフェライト−パーライトであり、割れにくいが、熱間圧延の条件によっては、組織の一部がベイナイトになることもある。ベイナイト組織が30体積%以下であれば、割れないので、フェライト−パーライト組織の鋼材は、30体積%以下のベイナイト組織を含んでいてもよい。
【0083】
実施の形態のマルテンサイト組織あるいはベイナイト組織の鋼材を製造する素材である鋼材は、好ましくは、
化学組成が、質量%で、
C:0.12%以上0.60%以下、
Si:0.001%以上2.0%以下、
Mn:0.5%以上3.0%以下、
P:0.05%以下、
S:0.01%以下、
sol.Al:0.001%以上1.0%以下、
N:0.01%以下、
B:0.01%以下、
残部:Feおよび不純物である。
【0084】
また,前記化学組成が、Feの一部に代えて、質量%で、
Ti:0.001%以上0.05%以下、
Nb:0.001%以上0.05%以下、
V :0.02%以上0.5%以下、
Cr:0.02%以上0.5%以下、
Mo:0.02以上0.5%以下、
Cu:0.02%以上1.0%以下および
Ni:0.02%以上1.0%以下、
からなる群から選ばれた1種または2種以上の元素を含有してもよい。
【0085】
(1)Cは質量%で、0.12〜0.60%の範囲であることが好ましい。
実施の形態における加工方法は、熱処理と加工履歴を制御して、オーステナイト相からマルテンサイト等の硬質相へ組織変態した高強度化・加工品を得る、いわゆる焼入れを利用した製造方法である。鋼板の焼入れ後の強度は、主にマルテンサイト相の硬さを支配するC含有量によって決まるため、求める強度に応じてC含有量を決定する。実施の形態での狙いの強度1200MPa以上を確保するために、C含有量を0.12%以上とすることが好ましい。より高強度を安定して得るためには0.20%超とすることがより好ましい。0.60%超のC含有量の場合、焼入れ後の組織靭性が劣化し、脆性破壊を発生する危険性が高まる。従ってC含有量の上限を0.60%とすることが好ましく、より好ましくは、0.50%以下である。
【0086】
(2)Siは質量%で、0.001%〜2.0%の範囲であることが好ましい。
Siは、オーステナイト相から低温変態相へ変態するまでの冷却過程において炭化物の生成を抑制するため延性を劣化させることなく、あるいは、延性を向上させて、焼入れ後の強度を高める作用を有する元素である。Si含有量が0.001%未満では上記作用を得ることが困難である。したがって、Si含有量は0.001%以上とすることが好ましい。なお、Si含有量を0.05%以上にすると、延性がさらに向上する。したがって、Si含有量は0.05%以上とすることがより好ましい。一方、Si含有量が2.0%超では、上記作用による効果は飽和して経済的に不利となる上、表面性状の劣化が著しくなる。したがって、Si含有量は2.0%以下であることが好ましい。より好ましくは1.5%以下である。
【0087】
(3)Mnは質量%で、0.5%〜3.0%以下の範囲であることが好ましい。
Mnは、鋼の焼入れ性を高め、焼入れ後の強度を安定して確保するために、非常に効果のある元素である。しかし、Mn含有量が0.5%未満では、実施の形態のような急速冷却条件下でもその効果が十分に得られず、焼入れ後の強度で1200MPa以上の引張強度を確保することが非常に困難となる。したがって、Mn含有量は0.5%以上とすることが好ましい。なお、Mn含有量を1.0%以上にすると、焼入れ後の強度で1350MPa以上の引張強度を確保することが可能となる。このため、Mn含有量は1.0%以上とすることがより好ましい。一方、Mn含有量が3.0%超では、バンド状の組織の不均一組織となり、衝撃特性の劣化が顕著となる。したがって、Mn含有量は3.0%以下とすることが好ましい。合金コスト等の観点からMn含有量を2.5%以下とすることがより好ましい。
【0088】
(4)Pは質量%で0.05%以下であることが好ましい。Pは、一般には鋼に不可避的に含有される不純物であるが、固溶強化により、強度を高める作用を有するので積極的に含有させてもよい。しかし、P含有量が0.05%超では本発明部材と他部材との抵抗溶接性の劣化が著しくなる。また2500MPa以上の高強度化を狙った場合に脆性破壊の危険性が高まる。したがって、P含有量は0.05%%以下とすることが好ましい。P含有量はより好ましくは0.02%以下である。上記作用をより確実に得るには、P含有量を0.003%以上とすることが好ましい。
【0089】
(5)Sは質量%で0.01%以下であることが好ましい。
Sは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、MnやTiと結合して硫化物を生成して析出する。この析出物量が過度に増加するとその析出物と主相の界面が破壊の起点となることがあるため低いほど好ましい。S含有量が0.01%超ではその悪影響が著しくなる。したがって、S含有量は0.01%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.003%以下、さらに好ましくは0.0015%以下である。
【0090】
(6)sol.Alは0.001%〜1.0%以下の範囲であることが好ましい。
Alは、鋼を脱酸して鋼材を健全化する作用を有する元素であり、また、Ti等の炭窒化物形成元素の歩留まりを向上させる作用を有する元素でもある。sol.Al含有量が0.001%未満では上記作用を得ることが困難となる。したがって、sol.Al含有量は0.001%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.015%以上である。一方、sol.Al含有量が1.0%超では、溶接性の低下が著しくなるとともに、酸化物系介在物が増加して表面性状の劣化が著しくなる。したがって、sol.Al含有量は1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.080%以下である。
【0091】
(7)Nは質量%で0.01%以下であることが好ましい。
Nは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、溶接性の観点からは低いほど好ましい。N含有量が0.01%%超では溶接性の低下が著しくなる。したがって、N含有量は0.01%以下とすることが好ましい。より好ましくは0.006%以下である。
【0092】
(8)Bは質量%で0.01%以下であることが好ましい。
Bは、低温靭性を高める作用を有する元素である。したがって、Bを含有させてもよい。しかし、0.01%を超えて含有させると、熱間加工性が劣化して、熱間圧延が困難になる。したがって、B含有量は0.01%以下とすることが好ましい。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、B含有量を0.0003%以上とすることが好ましい。
【0093】
(9)その他添加元素
質量%で、Ti:0.001%以上0.05%以下、Nb:0.001%以上0.05%以下、V:0.02%以上0.5%以下、Cr:0.02%以上0.5%以下、Mo:0.02以上0.5%以下、Cu:0.02%以上1.0%以下およびNi:0.02%以上1.0%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上の元素を鋼の焼入れ性を向上させ、かつ焼入れ後の強度を安定して確保するために必要応じて添加してもよい。
【実施例】
【0094】
本発明者達は、表1に示す化学組成を有する3DQ用の素管を用いて3DQ前の組織制御が3DQ後の表面割れおよび焼入れ性に及ぼす影響を調査した。3DQ前の組織制御をするさらに前の素管の組織は、鋼板から造管する際の加工性を確保するためにフェライト−パーライトであった。3DQ前の組織をマルテンサイトとした素管は、高周波誘導加熱によって1000℃まで、高周波誘導加熱によって昇温速度800℃/secで加熱した後、保持時間0secで、室温まで気水にて急冷(降温速度1000℃/sec)する熱処理により製造した。また、3DQ前の組織をベイナイト組織として素管は、同様に高周波誘導加熱によって1000℃まで昇温速度800℃/secで加熱した後、Arガスにて450℃まで冷却(降温速度50℃/sec)し、その温度で240sec保持した後、Arガスにて室温まで冷却(降温速度50℃/sec)する熱処理により製造した。3DQ前の熱処理を行わなかったフェライト−パーライト組織の素管、3DQ前の熱処理を行なって製造したマルテンサイト組織の素管および、3DQ前の熱処理を行なって製造したベイナイト組織の素管のSEM写真を
図13、
図14、
図15にそれぞれ示す。倍率は2000倍である。
【0095】
【表1】
【0096】
マルテンサイト組織の素管、ベイナイト組織の素管とフェライト−パーライト組織の素管を用いて、高周波誘導加熱により800℃〜1050℃の条件でそれぞれの素管を加熱した後、曲げ半径95mmの条件で3次元熱間曲げ焼入れ加工(3DQ)を行った。その後、それぞれの加工品の曲げ外側表面を対象に、マイクロスコープを用いて観察して表面割れを分析した。さらに曲げ中央部断面を切り出し、断面の長軸側断面方向に荷重1kgfでビッカース硬度を測定して焼入れの有無を評価した。
【0097】
図16に、3DQ加熱温度850℃の場合の硬度の比較を示す。3DQ前の熱処理がなく3DQ前の組織がフェライト−パーライトの場合には、850℃で狙いの硬度(ビッカース硬度470)が得られていないことがわかる。3DQ前の素管の組織をベイナイトまたはマルテンサイトとした場合は、850℃でも狙いの硬度(ビッカース硬度470)が得られることがわかる。また3DQ前の素管の組織がマルテンサイトよりはベイナイトの方がより高い硬度が得られることがわかる。
【0098】
図17A、
図17Bに、3DQ加熱温度900℃の場合の3DQ前の熱処理有無によるマイクロスコープによる表面割れ観察写真の比較を示す。倍率は175倍である。
図17Aは、3DQ前の熱処理がなく3DQ前の組織がフェライト−パーライトの素管を使用した場合であり、
図17Bは、3DQ前の熱処理を行い、3DQ前の組織をマルテンサイトとした素管を用いた場合である。3DQ前の熱処理がなく3DQ前の組織がフェライト−パーライトの素管を使用した場合には、表面割れが発生したが、3DQ前の熱処理を行い、3DQ前の組織をマルテンサイトとした素管を用いた場合は、900℃の3DQ加熱温度でも表面割れが発生しないことがわかる。
【0099】
表2に評価結果をまとめて示す。割れの有無はマイクロスコープ(倍率175倍)により確認した。ビッカース硬度470以上の場合に焼入れ有と判定した。
【0100】
【表2】
【0101】
3DQ前の熱処理を行い、3DQ前の組織をベイナイトまたはマルテンサイトとした素管を用いた場合は、800℃〜950℃の条件で表面割れがなく、また850℃以上の条件で狙いの焼入れ性が確保できることがわかる。これに対して、3DQ前の熱処理がなく3DQ前の組織がフェライト−パーライトの鋼材を3DQの素管として用いた場合には、800〜850℃の3DQ加熱温度では表面割れがないが、900℃〜1050℃で表面割れが存在した。ベイナイトまたはマルテンサイトとした素管に比べ、低い温度で表面割れが発生するのは、ベイナイトまたはマルテンサイトとする過程の熱処理でCu合金(黄銅)に含有されるZnが蒸発し、Cu合金の融点が上昇したためと推察される。950℃以上で狙いの焼入れ性が確保できていたが、800℃〜900℃では、狙いの焼入れ性が確保できていなかった。すなわち、3DQ前の熱処理による3DQ前の組織制御を行なわない素管を用いた場合には、表面割れなく狙いの硬さを得ることは不可能であるのに対し、3DQ前の熱処理を行い、3DQ前の組織をベイナイトまたはマルテンサイトとした素管を用いて3DQを行う場合は、850℃〜950℃の条件で表面割れもなく、安定した狙い硬さの加工品が得られた。表面割れは、疲労破壊の起点であるので、表面割れを回避すれば疲労破壊を防止または抑制できる。
【0102】
以上まとめると、3DQ前にベイナイトまたはマルテンサイト組織とする熱処理を施した素管を用いることにより、制御された素管の組織によって3DQ工程の加熱時に短時間でオーステナイト化変態が可能となって安定した焼入れ性が実現できる。すなわち、厳しい曲げ加工条件においても表面割れがなく、安定した焼入れ性を確保することができる。
【0103】
さらに、以下のことが言える。すなわち、素管としてベイナイトまたはマルテンサイト組織の鋼管を用いると共に、3DQにおける加熱手段として本開示の誘導加熱コイルを用いることで鋼管の高温部の最高温度を鋼管の角部及びそれ以外の部分において共にAc3変態点以上950℃以下にすることが可能になり、鋼管の角部及びそれ以外の部分、つまり角部を有する鋼管全体において表面割れがなく安定した焼入れ性を確保することができる。
【0104】
10 3DQ装置(3次元熱間曲げ焼入れ装置)
12 送り装置
14 冷却装置
15 加工力付与装置
30 誘導加熱コイル
32C 屈曲部
50 内側面
50C 屈曲部における内側面
52C 屈曲部における隣接面
60 鋼管(管体)
64 角部
【0105】
≪付記≫
本明細書からは、少なくとも以下の[1]〜[13]までの態様が概念化される。
<1>
管体を軸方向に送る送り装置と、
前記送り装置の管体送り方向の延長線を囲むように配置される誘導加熱コイルと、
前記誘導加熱コイルの前記送り装置の管体送り方向下流側に隣接して配置される冷却装置と、
前記管体に加工力を付与する加工力付与装置と、
を備える3次元熱間曲げ焼入れ装置であって、
前記誘導加熱コイルは、内側面が折れ曲がっている屈曲部を備えており、
前記誘導加熱コイルの前記屈曲部には、前記誘導加熱コイルの前記内側面を覆うように磁性体部材が配置されている、
3次元熱間曲げ焼入れ装置。
<2>
前記誘導加熱コイルの前記屈曲部には、前記誘導加熱コイルの前記内側面及び一対の隣接面を覆うように磁性体部材が配置されている、
<1>に記載の3次元熱間曲げ焼入れ装置。
<3>
前記誘導加熱コイルの前記屈曲部における前記内側面には、コイル外側に向かって凹んだ凹み部が形成されている、
<1>又は<2>に記載の3次元熱間曲げ焼入れ装置。
<4>
前記磁性体部材は、前記誘導加熱コイルに対して着脱可能である、
<1>〜<3>の何れか1項に記載の3次元熱間曲げ焼入れ装置。
<5>
軸方向の断面に角部を有する鋼管を軸方向に送るステップと、
前記鋼管を誘導加熱コイルに通して加熱するステップと、
加熱された前記鋼管を冷却し前記鋼管に局所的に高温部を作るステップと、
前記高温部に加工力を付与するステップと、
を同時に行う鋼管の3次元熱間曲げ焼入れ方法であって、
前記鋼管の前記角部に対向する前記誘導加熱コイルの内側面に磁性体部材を配置する、
鋼管の3次元熱間曲げ焼入れ方法。
<6>
前記磁性体部材は、前記誘導加熱コイルに対して着脱可能である、
<5>に記載の鋼管の3次元熱間曲げ焼入れ方法。
<7>
前記高温部の最高温度は、鋼管の角部及びそれ以外の部分において共に前記鋼管のAc3変態点以上950℃以下である、
<5>又は<6>に記載の鋼管の3次元熱間曲げ焼入れ方法。
<8>
前記加熱するステップで加熱する前の前記鋼管の組織は、マルテンサイト組織あるいはベイナイト組織である、
<7>に記載の鋼管の3次元熱間曲げ焼入れ方法。
<9>
自動車用構造部材を製造する、
<5>〜<8>の何れか1項に記載の鋼管の3次元熱間曲げ焼入れ方法。
【0106】
2016年3月24日に出願された日本国特許出願2016−060183号の開示は、その全体が参照により本開示に取り込まれる。
本開示に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本開示に参照により取り込まれる。
【0107】
以上、種々の典型的な実施の形態および実施例を説明してきたが、本発明はそれらの実施の形態および実施例に限定されない。本発明の範囲は、次の請求の範囲によってのみ限定されるものである。
本開示の3次元熱間曲げ焼入れ装置は、管体を軸方向に送る送り装置と、前記送り装置の管体送り方向の延長線を囲むように配置される誘導加熱コイルと、前記誘導加熱コイルの前記送り装置の管体送り方向下流側に隣接して配置される冷却装置と、前記管体に加工力を付与する加工力付与装置と、を備える3次元熱間曲げ焼入れ装置であって、前記誘導加熱コイルは、内側面が折れ曲がっている屈曲部を備えており、前記誘導加熱コイルの前記屈曲部には、前記誘導加熱コイルの前記内側面を覆うように磁性体部材が配置されている、3次元熱間曲げ焼入れ装置である。