(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
2系統モータ巻線を有するモータに対して系統単位で電流指令値を演算し、前記電流指令値に基づいて前記モータを駆動することにより、操舵系をアシスト制御する電動パワーステアリング装置において、
操舵補助指令値及び補償電流指令値を用いて前記電流指令値を演算する電流指令値調整部を備え、
前記電流指令値調整部は、
系統毎に設定される正常時に使用する正常時係数及び異常時に使用する異常時係数を有し、
2系統が正常な場合、前記操舵補助指令値及び前記補償電流指令値を加算した値に前記正常時係数を乗算した値を前記電流指令値とし、
いずれかの系統に異常が発生した場合、前記操舵補助指令値に前記異常時係数を乗算した値に前記補償電流指令値を加算した値を正常である系統の前記電流指令値とすることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
2系統モータ巻線を有するモータに対して系統単位で電流指令値を演算し、前記電流指令値に基づいて前記モータを駆動することにより、操舵系をアシスト制御する電動パワーステアリング装置において、
操舵補助指令値及び補償電流指令値を用いて前記電流指令値を演算する電流指令値調整部を備え、
前記電流指令値調整部は、
系統毎に設定される正常時に使用する正常時係数並びに異常時に使用する異常時係数1及び異常時係数2を有し、
2系統が正常な場合、前記操舵補助指令値及び前記補償電流指令値を加算した値に前記正常時係数を乗算した値を前記電流指令値とし、
いずれかの系統に異常が発生した場合、前記操舵補助指令値に前記異常時係数1を乗算した値と前記補償電流指令値に前記異常時係数2を乗算した値とを加算した値を正常である系統の前記電流指令値とすることを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【背景技術】
【0002】
車両の操舵系にモータの回転力で操舵補助力(アシスト力)を付与する電動パワーステアリング装置(EPS)は、インバータから供給される電力で制御されるモータの駆動力で、ギア等の伝達機構により、ステアリングシャフト或いはラック軸に操舵補助力を付与する。かかる従来の電動パワーステアリング装置は、操舵補助力のトルクを正確に発生させるため、モータ電流のフィードバック制御を行っている。フィードバック制御は、操舵補助指令値(電流指令値)とモータ電流検出値との差が小さくなるようにモータ印加電圧を調整するものであり、モータ印加電圧の調整は、一般的にPWM(パルス幅変調)制御のデューティの調整で行っており、モータとしては耐久性や保守性に優れ、騒音やノイズも少ないブラシレスモータが一般的に使用されている。
【0003】
電動パワーステアリング装置の一般的な構成を
図1に示して説明すると、ハンドル1のコラム軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は減速部内の減速ギア3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a,6bを経て、更にハブユニット7a,7bを介して操向車輪8L,8Rに連結されている。また、コラム軸2には、ハンドル1の操舵トルクを検出するトルクセンサ10及び操舵角θを検出する舵角センサ14が設けられており、ハンドル1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介してコラム軸2に連結されている。電動パワーステアリング装置を制御するコントロールユニット(ECU)30には、バッテリ13から電力が供給されると共に、イグニションキー11を経てイグニションキー信号が入力される。コントロールユニット30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTsと車速センサ12で検出された車速Vsとに基づいてアシスト(操舵補助)指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧指令値Vrefによって、EPS用モータ20に供給する電流を制御する。
【0004】
なお、舵角センサ14は必須のものではなく、配設されていなくても良く、また、モータ20に連結されたレゾルバ等の回転位置センサから操舵角を取得することも可能である。
【0005】
コントロールユニット30には、車両の各種情報を授受するCAN(Controller Area Network)40が接続されており、車速VsはCAN40から受信することも可能である。また、コントロールユニット30には、CAN40以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN41も接続可能である。
【0006】
コントロールユニット30は主としてCPU(MCU、MPU等も含む)で構成されるが、そのCPU内部においてプログラムで実行される一般的な機能を示すと
図2のようになる。
【0007】
図2を参照してコントロールユニット30の機能及び動作を説明すると、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTs及び車速センサ12で検出された(若しくはCAN40からの)車速Vsは、電流指令値Iref1を演算する電流指令値演算部31に入力される。電流指令値演算部31は、入力された操舵トルクTs及び車速Vsに基づいてアシストマップ等を用いて、モータ20に供給する電流の制御目標値である電流指令値Iref1を演算する。電流指令値Iref1は加算部32Aを経て電流制限部33に入力され、最大電流を制限された電流指令値Irefmが減算部32Bに入力され、フィードバックされているモータ電流値Imとの偏差I(Irefm−Im)が演算され、その偏差Iが操舵動作の特性改善のためのPI制御部35に入力される。PI制御部35で特性改善された電圧指令値VrefがPWM制御部36に入力され、更に駆動部としてのインバータ37を介してモータ20がPWM駆動される。モータ20の電流値Imはモータ電流検出器38で検出され、減算部32Bにフィードバックされる。インバータ37は駆動素子としてFET(電界効果トランジスタ)が用いられ、FETのブリッジ回路で構成されている。
【0008】
モータ20にはレゾルバ等の回転位置センサ21が連結されており、回転位置センサ21からモータ回転角θeが出力される。
【0009】
加算部32Aには補償信号生成部34からの補償信号CMが加算されており、補償信号CMの加算によって操舵システム系の特性補償を行い、収れん性や慣性特性等を改善するようになっている。補償信号生成部34は、セルフアライニングトルク(SAT)343と慣性342を加算部344で加算し、その加算結果に更に収れん性341を加算部345で加算し、加算部345の加算結果を補償信号CMとしている。
【0010】
このような電動パワーステアリング装置において、モータ故障(異常を含む)が発生しても、モータ動作を継続できる構成の多系統モータ巻線を有するモータが使用されるケースが増加している。例えば2系統のモータ巻線を有するモータは、ステータのコイルが2系統(U1〜W1相とU2〜W2相)に分けられ、1系統が失陥しても残りの1系統でロータを回転させることができ、アシスト制御の継続が可能となる。
【0011】
かかるモータを搭載した電動パワーステアリング装置では、通常、正常動作時は2系統が共同してロータを回転させており、それぞれのモータ巻線に対する電流指令値は分散されている(2系統のモータ巻線の特性が同等の場合は1/2ずつ)。よって、一方の系統に異常が発生した場合、特に何の変更も行わなければ、もう一方の正常な系統のモータ巻線に対する電流指令値は分散された値のままであるため、操舵補助力が低下する可能性がある。電流指令値に補償信号が加算されている場合、補償信号も異常発生時には小さくなるので、収れん性や慣性特性等の改善のための特性補償が十分に行われず、安定性が劣化することで振動が増加し、操舵感の劣化を招くおそれがある。
【0012】
このような多系統でのモータ制御における異常発生時の操舵感劣化に対して、劣化を抑制するための方法が提案されている。例えば、特開2015−39256号公報(特許文献1)では、モータ駆動回路とモータ巻線との間に介挿されるモータ電流遮断部やモータ駆動電流又は電圧の異常を検出する異常検出部等を備えることにより、モータ駆動回路にオープン故障やショート故障が生じた場合でもモータの駆動制御を継続できるモータ制御装置が提案されている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明では、2系統モータ巻線を有するモータを使用し、モータに供給する電流の制御目標値である電流指令値には操舵システム系の特性補償を行うための補償信号(補償電流指令値)が重畳されている電動パワーステアリング装置において、モータ巻線やモータ駆動回路(モータ駆動部)に異常(故障を含む)が発生した場合、異常発生前後で補償電流指令値の大きさが変わらないようにしている。2系統が正常に動作しているときは各系統が分担してモータを駆動するので、電流指令値は各系統に分散される。具体的には、系統毎に係数(正常時係数)を設定しておき、操舵トルク等に基づいて演算される操舵補助指令値に補償電流指令値を加算した値に正常時係数を乗算した値を、その系統の電流指令値とする。いずれかの系統に異常が発生したときは正常な系統のみでモータを駆動するために、電流指令値の算出方法を変える。具体的には、系統毎に正常時係数とは別の係数(異常時係数)を設定しておき、操舵補助指令値に異常時係数を乗算した値に補償電流指令値を加算した値を電流指令値とする。異常が発生したときに電流指令値の算出方法を変えないと、正常な系統での補償電流指令値は正常時係数が乗算された値のままであるが、算出方法を変えることにより、異常発生前後で全体の補償電流指令値の大きさは変わらず、同程度の特性補償が継続して行われるので、安定性劣化による振動を抑制し、操舵感の劣化を抑えることができる。
【0022】
また、本発明では、異常が発生した場合、補償電流指令値を調整できるようにすることも可能である。具体的には、系統毎に正常時係数とは別の係数を操舵補助指令値向け(異常時係数1)と補償電流指令値向け(異常時係数2)とで別々に設定しておき、いずれかの系統に異常が発生したとき、操舵補助指令値に異常時係数1を乗算した値と補償電流指令値に異常時係数2を乗算した値とを加算した値を電流指令値とする。これにより、異常発生前後での全体の補償電流指令値の変動を調整することができるので、特性補償を不足させることなく、安定性劣化による振動を抑制し、操舵感の劣化を抑えることができる。
【0023】
以下に、本発明の実施の形態を、図面を参照して説明する。
【0024】
先ず本発明を適用できる2系統巻線モータの例を、
図3及び
図4に示して説明する。本発明は電動モータであるが、以下では単に「モータ」として説明する。
【0025】
3相モータ200は
図3に示すように、内周面に内方に突出形成されてスロットSLを形成する磁極となるティースTを有するステータ12Sと、このステータ12Sの内周側にティースTと対向して回転自在に配置された永久磁石PMを表面に配置した8極の表面磁石型のロータ12Rとを有するSPM(Surface Permanent Magnet)モータの構成を有する。ここで、ステータ12SのティースTの数を相数×2n(nは2以上の整数)で、例えばn=2に設定して、8極、12スロットの構成としている。なお、極数及びスロット数は8極及び12スロットに限定されない。
【0026】
そして、ステータ12SのスロットSLに、
図4に示す2系統で、その各々の同相の磁極がロータ磁石に対し同位相となる多相モータ巻線となる第1の3相モータ巻線L1と第2の3相モータ巻線L2とが巻装されている。第1の3相モータ巻線L1は、U相コイルU1、V相コイルV1及びW相コイルW1の一端が互いに接続されてスター結線とされ、各相コイルU1、V1及びW1の他端が電動パワーステアリング装置の制御部に接続され、個別にモータ駆動電流I1u、I1v及びI1wが供給されている。
【0027】
各相コイルU1、V1及びW1には、それぞれ2つのコイル部U1a,U1b、V1a,V1b及びW1a,W1bが形成されている。これらコイル部U1a,V1a及びW1aは、位置が正三角形を形作るティースT10、T2及びT6に集中巻きで巻装されている。また、コイル部U1b,V1b及びW1bはティースT10、T2及びT6とは時計方向にそれぞれ90°移動した位置にあるティースT1、T5及びT9に集中巻きで巻装されている。
【0028】
また、第2の3相モータ巻線L2は、U相コイルU2、V相コイルV2及びW相コイルW2の一端が互いに接続されてスター結線とされ、各相コイルU2、V2及びW2の他端が電動パワーステアリング装置の制御部に接続され、個別にモータ駆動電流I2u、I2v及びI2wが供給されている。
【0029】
各相コイルU2、V2及びW2には、それぞれ2つのコイル部U2a,U2b、V2a,V2b及びW2a,W2bが形成されている。これらコイル部U2a,V2a及びW2aは、位置が正三角形を形作るティースT4、T8及びT12に集中巻きで巻装されている。また、コイル部U2b,V2b及びW2bはティースT4、T8及びT12とは、時計方向にそれぞれ90°移動した位置にあるティースT7、T11及びT3に集中巻きで巻装されている。
【0030】
そして、各相コイルU1〜W1のコイル部U1a,U1b、V1a,V1b及びW1a,W1b並びに各相コイルU2〜W2のコイル部U2a,U2b、V2a,V2b及びW2a,W2bは、各ティースTを挟むスロットSLに通電電流の方向が同一方向となるように巻装されている。
【0031】
このように第1の3相モータ巻線L1の各相コイルU1〜W1のコイル部U1a,U1b、V1a,V1b及びW1a,W1bと、第2の3相モータ巻線L2の各相コイルU2〜W2のコイル部U2a,U2b、V2a,V2b及びW2a,W2bとが、互いに異なる12本のティースに巻装されている。
【0032】
このような2系統巻線を有する3相モータに対して、個別のインバータから電流を供給し、一方のインバータのスイッチング手段に導通不可となるOFF故障(オープン故障)又はON故障(ショート故障)が生じた場合に、故障が生じたスイッチング手段を特定し、故障スイッチング手段を除くスイッチング手段を制御すると共に、故障スイッチング手段を含む故障インバータ以外の正常インバータを制御する本発明に係る電動パワーステアリング装置の構成例(第1実施形態)を
図5に示して説明する。なお、以下では、3相モータ巻線L1の系統を「系統1」とし、3相モータ巻線L2の系統を「系統2」とする。
【0033】
第1実施形態は、系統別の電流指令値I1
*及びI2
*を算出するために、操舵補助指令値Ir
*を演算する操舵補助指令値演算部110と、補償電流指令値Ic
*を演算する補償電流指令値演算部120と、操舵補助指令値Ir
*及び補償電流指令値Ic
*から電流指令値I1
*及びI2
*を算出する電流指令値調整部130とを備えている。そして、電流指令値I1
*及びI2
*に基づいて3相モータ200を駆動制御するために、系統毎に、電圧指令値を算出する電流制御部160A及び160Bと、電圧指令値を入力するモータ駆動部170A及び170Bと、モータ駆動部170A及び170Bの出力側と3相モータ200の第1のモータ巻線L1及び第2のモータ巻線L2との間に介挿されたモータ電流遮断回路180A及び180Bとを備えている。さらに、モータ電流遮断回路180A及び180Bに連結した異常検出回路181A及び181Bを備え、異常検出回路181A及び181Bからの出力と電流制御部160A及び160Bからの出力に基づいて異常を検出する異常検出部140を備えている。
【0034】
3相モータ200は、ロータの回転位置を検出するホール素子などの回転位置センサ101を備えており、回転位置センサ101からの検出値がモータ回転角検出回路102に入力され、モータ回転角検出回路102でモータ回転角(電気角)θeが検出され、モータ回転角θeはモータ角速度演算部103に入力され、モータ角速度演算部103でモータ角速度ωeが算出される。また、モータ駆動部170A及び170Bには、直流電源としてのバッテリ104からノイズフィルタ105を経て直流電流が供給されている。
【0035】
操舵補助指令値演算部110は、操舵トルクTs及び車速Vsに基づいてアシストマップを用いて操舵補助指令値Ir
*を演算する。操舵補助指令値演算部110で使用されるアシストマップは、
図2に示される電流指令値演算部31で使用されるアシストマップと同様な特性を有し、例えば
図6に示されるように、操舵トルクTsが増加するに従って操舵補助指令値Ir
*も増加するが、操舵トルクTsが所定の値以上になると操舵補助指令値Ir
*は一定となるような特性である。また、車速Vsが高速になるほど、操舵補助指令値Ir
*は小さくなる。なお、操舵補助指令値(操舵補助指令値信号)Ir
*に位相のずれが生じる場合、位相補償の処理を施しても良い。
【0036】
補償電流指令値演算部120は、操舵トルクTs、モータ角速度演算部103で算出されるモータ角速度ωe及びSAT(セルフアライニングトルク)センサ(図示せず)で検出されるSAT Stに基づいて補償電流指令値Ic
*を演算する。補償電流指令値演算部120は、
図2に示される補償信号生成部34と同様に、操舵システム系の特性補償を行うために補償電流指令値Ic
*を演算し、補償電流指令値Ic
*の使用により収れん性や慣性特性等を改善する。
【0037】
補償電流指令値演算部120の構成例を
図7に示す。補償電流指令値演算部120は、モータ角加速度演算部121、ロストルク補償部122、収れん性制御部123、慣性補償部124、微分補償部125、SATフィードバック補償部126、加算部127A、127B、127C及び減算部127Dを備えている。モータ角加速度演算部121はモータ角速度ωeよりモータ角加速度αeを算出する。ロストルク補償部122は、モータ角速度ωeに基づいて、3相モータ200のロストルクの発生する方向、つまり3相モータの回転方向に対してロストルク相当のアシストを行うためにロストルク補償信号Ltを出力する。収れん性制御部123は、モータ角速度ωeに基づいて、車両のヨーの収れん性を改善するためにハンドルが振れ回る動作に対してブレーキをかけるための収れん性信号Cnを出力する。慣性補償部124は、3相モータ200の慣性により発生する力相当分をアシストするものであり、慣性感又は制御の応答性の悪化を防止するために、モータ角加速度αeに基づいて慣性信号Inを出力する。微分補償部125は、操舵トルクTsに対して、応答速度を高めるためのフィードフォワード系の特性を改善し、特性を改善された操舵トルクTaを出力する。SATフィードバック補償部126は、操舵システム系の特性補償を行うためにSAT Stをそのままフィードバックするとステアリングが重くなり過ぎ、操舵感覚を向上することができないので、車速感応ゲインと周波数特性を有するフィードバックフィルタを用いてSAT Stを信号処理し、SATフィードバック信号Scとして出力することにより、操舵感覚を向上するのに必要十分な情報のみをフィードバックする。なお、SAT Stとして、SATセンサから検出される値ではなく、例えば特許第5251898号公報に記載されているSAT推定部で実行されている方法等で推定される値を用いても良い。
【0038】
電流指令値調整部130は、予め設定されている正常時係数C1、C2及び異常時係数C1’、C2’を用いて、操舵補助指令値Ir
*及び補償電流指令値Ic
*から系統1に対する電流指令値I1
*及び系統2に対する電流指令値I2
*を算出する。2系統が正常に動作している場合は、下記数1及び数2より電流指令値I1
*及びI2
*を算出する。
【0039】
(数1)
I1
*=(Ir
*+Ic
*)×C1
【0040】
(数2)
I2
*=(Ir
*+Ic
*)×C2
系統1に異常が発生した場合は下記数3より電流指令値I2
*を算出し、系統2に異常が発生した場合は下記数4より電流指令値I1
*を算出する。
【0041】
(数3)
I2
*=Ir
*×C2’+Ic
*
【0042】
(数4)
I1
*=Ir
*×C1’+Ic
*
正常時係数C1及びC2の値は0.3〜0.7の間の値で、C1+C2=1となるように設定し、熱のばらつきによる配分や各系統のモータへの負荷配分等で値を決定する。異常時係数C1’及びC2’の値も0.3〜0.7の間で設定する。系統1及び系統2のモータ特性が同等の場合、全て0.5として良い。系統1又は/及び系統2に異常が発生したことは、異常検出部140から出力される異常検出信号ADより検知する。
【0043】
電流制限部150A及び150Bは、
図2に示される電流制限部33と同様に、電流指令値I1
*及びI2
*の最大電流をそれぞれ制限し、電流指令値I1m
*及びI2m
*を出力する。
【0044】
電流制御部160Aは、電流指令値I1m
*、モータ駆動部170Aからフィードバックされる3相のモータ電流(U相モータ電流I1um、V相モータ電流I1vm、W相モータ電流I1wm)、モータ回転角θe及びモータ角速度ωeに基づいて、モータ駆動部170Aに対する3相の電圧指令値(U相電圧指令値V1u
*、V相電圧指令値V1v
*、W相電圧指令値V1w
*)を算出する。
【0045】
電流制御部160Aの構成例を
図8に示す。電流制御部160Aは、dq軸電流指令値算出部161A、2相/3相変換部162A、PI制御部163A、164A、165A及び減算部166A、167A、168Aを備えている。dq軸電流指令値算出部161Aは、電流指令値I1m
*及びモータ角速度ωeに基づいて、dq回転座標系の電流指令値であるd軸電流指令値Id1
*及びq軸電流指令値Iq1
*を算出する。例えば特許第5282376号公報に記載されているd−q軸電流指令値算出部で実行されている方法等でd軸電流指令値Id1
*及びq軸電流指令値Iq1
*を算出する。算出に当たり、モータの機械角に対するモータ角速度が必要な場合は、電気角に対するモータ角速度ωeに基づいて算出する。2相/3相変換部162Aは、モータ回転角θeを用いて、d軸電流指令値Id1
*及びq軸電流指令値Iq1
*からなる2相の電流指令値を、空間ベクトル変調(空間ベクトル変換)により、UVW固定座標系の3相の電流指令値(U相電流指令値I1u
*、V相電流指令値I1v
*、W相電流指令値I1w
*)に変換する。3相の電流指令値は異常検出部140に出力されると共に、3相の電流指令値と3相のモータ電流の偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwが減算部166A、167A及び168Aでそれぞれ求められ、各偏差はPI制御部163A、164A及び165Aにそれぞれ入力される。PI制御部163A、164A及び165Aは、
図2に示されるPI制御部35と同様に、偏差ΔIu、ΔIv及びΔIwに基づいて、3相の電圧指令値(U相電圧指令値V1u
*、V相電圧指令値V1v
*、W相電圧指令値V1w
*)をそれぞれ求める。
【0046】
電流制御部160Bは、電流制御部160Aと同様の構成及び動作により、電流指令値I2m
*、モータ駆動部170Bからフィードバックされる3相のモータ電流(U相モータ電流I2um、V相モータ電流I2vm、W相モータ電流I2wm)、モータ回転角θe及びモータ角速度ωeに基づいて、モータ駆動部170Bに対する3相の電圧指令値(U相電圧指令値V2u
*、V相電圧指令値V2v
*、W相電圧指令値V2w
*)を算出する。電流制御部160B内で算出される3相の電流指令値(U相電流指令値I2u
*、V相電流指令値I2v
*、W相電流指令値I2w
*)も異常検出部140に出力される。
【0047】
異常検出部140には、U相電流指令値I1u
*、V相電流指令値I1v
*及びW相電流指令値I1w
*並びにU相電流指令値I2u
*、V相電流指令値I2v
*及びW相電流指令値I2w
*に加えて、モータ電流遮断回路180A及び180Bと3相モータ200の第1モータ巻線L1及び第2モータ巻線L2との間に設けられた異常検出回路181A及び181Bで検出されるモータ電流検出値I1ud、I1vd、I1wd及びI2ud、I2vd、I2wdが入力される。ここで、モータ駆動部170A及びモータ電流遮断回路180Aの構成例を
図9(A)に、モータ駆動部170B及びモータ電流遮断回路180Bの構成例を
図9(B)に示す。モータ駆動部170A及び170Bのそれぞれは、電流制御部160Aから出力される3相の電圧指令値V1u
*、V1v
*及びV1w
*と電流制御部160Bから出力される3相の電圧指令値V2u
*、V2v
*及びV2w
*とが入力されてゲート信号を形成すると共に、異常時に電流制御部を兼ねるゲート駆動回路173A及び173Bと、これらゲート駆動回路173A及び173Bから出力されるゲート信号が入力されるインバータ172A及び172Bと、電流検出回路171A及び171Bを備えている。異常検出部140は、インバータ172A及び172Bを構成するスイッチング素子としての電界効果トランジスタ(FET)Q1〜Q6のオープン故障(OFF故障)及びショート故障(ON故障)の検出を、入力されるモータ電流検出値I1ud〜I1wd及びI2ud〜I2wdと3相の電流指令値I1u
*〜I1w
*及びI2u
*〜I2w
*とをそれぞれ比較することにより行う。そして、インバータ172A及び172Bを構成するFETのオープン故障又はショート故障による異常を検出したときに、異常を検出したモータ駆動部170A又は170Bのゲート駆動回路173A又は173Bに対して異常系統遮断指令SAa又はSAbを出力し、電流指令値調整部130に対して異常検出信号ADを出力する。異常検出信号ADにより異常を検出した系統がわかるように、例えば、系統1が異常の場合はADの値を「1」に、系統2が異常の場合はADの値を「2」に、両系統が異常の場合はADの値を「3」にする。
【0048】
モータ駆動部170A及び170B内のゲート駆動回路173A及び173Bのそれぞれは、電流制御部160A及び160Bから3相の電圧指令値が入力されると、これら電圧指令値と三角波のキャリア信号とを基に6つのPWM信号(ゲート信号)を形成し、これらPWM信号をインバータ172A及び172Bに出力する。
【0049】
また、ゲート駆動回路173Aは、異常検出部140から異常系統遮断指令SAaが入力されていない正常であるときには、モータ電流遮断回路180Aに対してハイレベルの3つのゲート信号を出力すると共に、電源遮断回路174Aに対してハイレベルの2つのゲート信号を出力し、異常系統遮断指令SAaが入力された異常であるときには、モータ電流遮断回路180Aに対してローレベルの3つのゲート信号を同時に出力し、モータ電流を遮断すると共に、電源遮断回路174Aに対してローレベルの2つのゲート信号を同時に出力し、バッテリ電力を遮断する。
【0050】
同様に、ゲート駆動回路173Bは、異常検出部140から異常系統遮断指令SAbが入力されていない正常であるときには、モータ電流遮断回路180Bに対してハイレベルの3つのゲート信号を出力すると共に、電源遮断回路174Bに対してハイレベルの2つのゲート信号を出力し、異常系統遮断指令SAbが入力された異常であるときには、モータ電流遮断回路180Bに対してローレベルの3つのゲート信号を同時に出力し、モータ電流を遮断すると共に、電源遮断回路174Bに対してローレベルの2つのゲート信号を同時に出力し、バッテリ電力を遮断する。
【0051】
インバータ172A及び172Bのそれぞれには、ノイズフィルタ105及び電源遮断回路174A及び174Bを介してバッテリ104のバッテリ電流が入力され、入力側に平滑用の電解コンデンサCA及びCBが接続されている。
【0052】
インバータ172A及び172Bは、6個のスイッチング素子としてのFETQ1〜Q6を有し、2つのFETを直列に接続した3つのスイッチングアーム(インバータ172AではSAu、SAv及びSAw、インバータ172BではSBu、SBv及びSBw)を並列に接続した構成を有する。そして、各FETQ1〜Q6のゲートにゲート駆動回路173A及び173Bから出力されるPWM信号が入力されることにより、各スイッチングアームのFET間からモータ駆動電流であるU相電流I1u,I2u、V相電流I1v,I2v及びW相電流I1w,I2wがモータ電流遮断回路180A及び180Bを介して3相モータ200の第1巻線L1及び第2巻線L2に入力される。
【0053】
モータ駆動部170A及び170B内の電流検出回路171A及び171Bには、
図9には図示されていないがインバータ172A及び172Bの各スイッチングアームと接地との間に介挿されたシャント抵抗の両端電圧が入力され、3相のモータ電流I1um、I1vm、I1wm及びI2um、I2vm、I2wmが検出される。
【0054】
モータ電流遮断回路180Aは、3つの電流遮断用のFET QA1、QA2及びQA3を有し、モータ電流遮断回路180Bは、3つの電流遮断用のFET QB1、QB2及びQB3を有する。そして、モータ電流遮断回路180A及び180BのFET QA1〜QA3及びQB1〜QB3がそれぞれの寄生ダイオードのカソードをインバータ172A及び172B側として、各々が同一向きに接続されている。
【0055】
また、電源遮断回路174A及び174Bのそれぞれは、2つのFET QC1、QC2及びQD1、QD2がドレイン同士を接続して寄生ダイオードが逆向きとなる直列回路構成を有する。そして、FET QC1及びQD1のソースが互いに接続されてノイズフィルタ105の出力側に接続され、FET QC2及びQD2のソースがインバータ172A及び172Bの各FET Q1、Q2及びQ3のソースに接続されている。
【0056】
このような構成において、その動作例について説明する。
【0057】
動作が開始すると、モータ回転角検出回路102は3相モータ200のモータ回転角θeを検出し、モータ角速度演算部103、電流制御部160A及び160Bに出力する。
【0058】
モータ角速度演算部103は、モータ回転角θeからモータ角速度ωeを算出し、補償電流指令値演算部120、電流制御部160A及び160Bに出力する。
【0059】
操舵補助指令値演算部110から異常検出部140までの動作例については、
図10〜13のフローチャートを参照して説明する。
【0060】
操舵補助指令値演算部110は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクTs及び車速センサ12で検出された車速Vsを入力し、
図6に示されるような特性をもつアシストマップを用いて操舵補助指令値Ir
*を算出する(ステップS10)。
【0061】
補償電流指令値演算部120は、モータ角速度ωe、操舵トルクTs及びSAT Stを入力して、補償電流指令値Ic
*を演算する(ステップS20)。なお、操舵補助指令値演算部110及び補償電流指令値演算部120の動作は、順番が入れ替わっても、並行して実行されても良い。
【0062】
補償電流指令値Ic
*の演算では、モータ角速度ωeはロストルク補償部122、収れん性制御部123及びモータ角加速度演算部121に入力され、操舵トルクTsは微分補償部125に入力され、SAT StはSATフィードバック補償部126に入力される。モータ角加速度演算部121は、モータ角速度ωeからモータ角加速度αeを算出し(ステップS210)、慣性補償部124に出力する。ロストルク補償部122はモータ角速度ωeに基づいてロストルク補償信号Ltを求める(ステップS220)。収れん性制御部123はモータ角速度ωeに基づいて収れん性信号Cnを求める(ステップS230)。慣性補償部124はモータ角加速度αeに基づいて慣性信号Inを求める(ステップS240)。微分補償部125は、操舵トルクTsに対してフィードフォワード系の特性を改善し(ステップS250)、操舵トルクTaとして出力する。SATフィードバック補償部126は、SAT Stに対してフィードバックフィルタを用いた信号処理を施し(ステップS260)、SATフィードバック信号Scを出力する。そして、減算部127Dで操舵トルクTaからSATフィードバック信号Scを減算し、減算結果に慣性信号Inを加算部127Cで加算し、加算結果に収れん性信号Cnを加算部127Bで加算し、さらに加算部127Aでロストルク補償信号Ltを加算し、補償電流指令値Ic
*として出力する(ステップS270)。なお、ロストルク補償部122、収れん性制御部123、慣性補償部124、微分補償部125及びSATフィードバック補償部126の動作は、順番が入れ替わっても、並行して実行されても良い。
【0063】
操舵補助指令値Ir
*及び補償電流指令値Ic
*は電流指令値調整部130に入力され、電流指令値調整部130はそれらより電流指令値I1
*及びI2
*を算出する(ステップS30)。
【0064】
電流指令値調整部130は、異常検出部140から異常検出信号ADを入力していない場合(ステップS310)、予め設定されている正常時係数C1、C2、操舵補助指令値Ir
*及び補償電流指令値Ic
*を用いて、数1及び数2より電流指令値I1
*及びI2
*を算出し(ステップS320)、電流指令値I1
*は電流制限部150Aに出力し、電流指令値I2
*は電流制限部150Bに出力する。異常検出信号ADを入力した場合(ステップS310)、異常検出信号ADの値を確認し(ステップS330)、異常検出信号ADの値が「1」の場合、系統1に異常が発生したと判断し、予め設定されている異常時係数C2’、操舵補助指令値Ir
*及び補償電流指令値Ic
*を用いて、数3より電流指令値I2
*のみ算出し(ステップS340)、電流制限部150Bに出力する。異常検出信号ADの値が「2」の場合、系統2に異常が発生したと判断し、予め設定されている異常時係数C1’、操舵補助指令値Ir
*及び補償電流指令値Ic
*を用いて、数4より電流指令値I1
*のみ算出し(ステップS350)、電流制限部150Aに出力する。異常検出信号ADの値が「3」の場合、系統1及び2双方に異常が発生したと判断し、警告を発し(ステップS360)、必要に応じて対策を講じる。
【0065】
電流制限部150Aは、電流指令値I1
*を入力したら、電流指令値I1
*が所定の値を超えていた場合、所定の値を電流指令値I1m
*として出力し、超えていない場合は電流指令値I1
*を電流指令値I1m
*として出力する(ステップS40)。同様にして、電流制限部150Bは、電流指令値I2
*を入力したら、電流指令値I2m
*を求め、出力する(ステップS50)。
【0066】
電流制御部160Aは、電流指令値I1m
*、3相のモータ電流、モータ回転角θe及びモータ角速度ωeに基づいて、3相の電圧指令値を算出する(ステップS60)。
【0067】
電流指令値I1m
*及びモータ角速度ωeはdq軸電流指令値算出部161Aに入力され、モータ回転角θeは2相/3相変換部に入力され、3相のモータ電流I1um、I1vm及びI1wmはそれぞれ減算部166A、167A及び168Aに減算入力される。dq軸電流指令値算出部161Aは、電流指令値I1m
*及びモータ角速度ωeに基づいてd軸電流指令値Id1
*及びq軸電流指令値Iq1
*を算出し(ステップS610)、2相/3相変換部162Aに出力する。2相/3相変換部162Aは、モータ回転角θeを用いて、d軸電流指令値Id1
*及びq軸電流指令値Iq1
*をU相電流指令値I1u
*、V相電流指令値I1v
*及びW相電流指令値I1w
*に変換する(ステップS620)。U相電流指令値I1u
*、V相電流指令値I1v
*及びW相電流指令値I1w
*は異常検出部140に出力されると共に、減算部166A、167A及び168Aにそれぞれ加算入力される。加算部166AではU相電流指令値I1u
*とモータ電流I1umの偏差ΔIuが算出され、加算部167AではV相電流指令値I1v
*とモータ電流I1vmの偏差ΔIvが算出され、加算部168AではW相電流指令値I1w
*とモータ電流I1wmの偏差ΔIwが算出される(ステップS630)。PI制御部163Aは偏差ΔIuを入力し、PI制御演算を行ってU相電圧指令値V1u
*を算出し、PI制御部164Aは偏差ΔIvを入力し、PI制御演算を行ってV相電圧指令値V1v
*を算出し、PI制御部165Aは偏差ΔIwを入力し、PI制御演算を行ってW相電圧指令値V1w
*を算出する(ステップS640)。3相の電圧指令値V1u
*、V1v
*及びV1w
*はモータ駆動部170Aに出力される。
【0068】
電流制御部160Bも、電流制御部160Aと同様の動作により、電流指令値I2m
*、3相のモータ電流I2um、I2vm及びI2wm、モータ回転角θe並びにモータ角速度ωeに基づいて、3相の電流指令値I2u
*、I2v
*及びI2w
*並びに3相の電圧指令値V2u
*、V2v
*及びV2w
*を算出し(ステップS70)、3相の電流指令値I2u
*、I2v
*及びI2w
*は異常検出部140に、3相の電圧指令値V2u
*、V2v
*及びV2w
*はモータ駆動部170Bにそれぞれ出力される。
【0069】
3相の電流指令値I1u
*、I1v
*及びI1w
*並びにI2u
*、I2v
*及びI2w
*を入力した異常検出部140は、異常検出回路181A及び181Bで検出されたモータ電流検出値I1ud、I1vd及びI1wd並びにI2ud、I2vd及びI2wdも入力し、インバータ172A及び172Bを構成するFETのオープン故障又はショート故障を検出する。3相の電流指令値I1u
*、I1v
*及びI1w
*とモータ電流検出値I1ud、I1vd及びI1wdを比較して異常を検出したら(ステップS80)、異常系統遮断指令SAaをモータ駆動回路170Aに出力する(ステップS90)。3相の電流指令値I2u
*、I2v
*及びI2w
*とモータ電流検出値I2ud、I2vd及びI2wdを比較して異常を検出したら(ステップS100)、異常系統遮断指令SAbをモータ駆動回路170Bに出力する(ステップS110)。そして、異常系統遮断指令SAa又は/及びSAbを出力していたら(ステップS120)、即ち、インバータ172Aと172Bのいずれか又は両方での異常を検出していたら、電流指令値調整部130に対して異常検出信号ADを出力する(ステップS130)。この際、異常を検出したのがインバータ172Aのみの場合は異常検出信号ADの値を「1」に、インバータ172Bのみの場合は「2」に、両方の場合は「3」にする。この異常検出信号ADがステップS310及びS330での条件判定に使用される。
【0070】
モータ駆動部170Aでは、3相の電圧指令値V1u
*、V1v
*及びV1w
*がゲート駆動回路173Aに入力され、異常検出部140が異常系統遮断指令SAaを出力していたら、異常系統遮断指令SAaもゲート駆動回路173Aに入力される。ゲート駆動回路173Aは、3相の電圧指令値が入力されたら、3相の電圧指令値と三角波のキャリア信号とを基に6つのPWM信号を形成し、PWM信号をインバータ172Aに出力する。そして、異常系統遮断指令SAaが入力されていないときには、ゲート駆動回路173Aはモータ電流遮断回路180A及び電源遮断回路174Aに対してハイレベルのゲート信号を出力する。これにより、モータ電流遮断回路180AのFET QA1、QA2及びQA3がオン状態となり、インバータ172Aと3相モータ200の第1巻線L1との間が導通状態となり、さらに、電源遮断回路174AのFET QC1及びQC2がオン状態となり、バッテリ104からの直流電流がノイズフィルタ105を介してインバータ172Aに供給される。よって、ゲート駆動回路173Aから出力されたPWM信号がインバータ172AのFET Q1〜Q6のゲートに入力され、各スイッチングアームSAu、SAv及びSAwのFET間からU相電流I1u、V相電流I1v及びW相電流I1wが3相モータ200の第1巻線L1に入力される。異常系統遮断指令SAaが入力されているときには、ゲート駆動回路173Aはモータ電流遮断回路180A及び電源遮断回路174Aに対してローレベルのゲート信号を出力する。これにより、モータ電流遮断回路180AのFET QA1、QA2及びQA3がオフ状態となり、3相モータ200の第1巻線L1に対する通電が遮断され、さらに、電源遮断回路174AのFET QC1及びQC2がオフ状態となり、バッテリ104からのインバータ172Aへの直流電流供給が遮断される。
【0071】
モータ駆動部170Bにおいても、モータ駆動部170Aと同様の動作により、3相モータ200の第2巻線L2に入力される各相電流が制御される。
【0072】
なお、系統1での動作と系統2での動作は、順番が入れ替わっても、並行して実行されても良い。また、2相/3相変換部では3相の電流指令値を個別に算出しているが、1相の電流指令値を他の2相の電流指令値の合計値を基に算出しても良い。これにより、演算量を削減することができる。さらに、電流制御部にはPI制御部が複数(3つ)備えられているが、入出力データが異なるだけで、基本的に動作は同じであるから、1つに纏めても良い。
【0073】
本実施形態の効果を
図14に示す。
図14は、縦軸を操舵トルク[Nm(ニュートンメートル)]、横軸を時間[sec(秒)]とし、周波数が0.05Hzで大きさが10Nmの正弦波のトルクをハンドルインプットトルクとして入力した場合の操舵シミュレーション結果を示した図である。正常時係数C1及びC2は共に0.5であり、異常時係数C1’及びC2’も共に0.5である。
図14から、異常発生時に電流指令値の算出方法を変えない場合(改善前)より、本実施形態の方が振動を抑制しているのが確認できる。
【0074】
本発明に係る電動パワーステアリング装置の他の構成例(第2実施形態)について説明する。
【0075】
第2実施形態では、異常が発生した場合の電流指令値調整部での電流指令値の算出方法が第1実施形態と異なる。その他は第1実施形態と同じであるので、説明は省略する。
【0076】
第2実施形態での電流指令値調整部は、予め設定されている正常時係数C1、C2、異常時係数1 C1’、C2’及び異常時係数2 C1”、C2”を用いて、操舵補助指令値Ir
*及び補償電流指令値Ic
*から系統1に対する電流指令値I1
*及び系統2に対する電流指令値I2
*を算出する。2系統が正常に動作している場合は、第1実施形態の場合と同様に、数1及び数2より電流指令値I1
*及びI2
*を算出するが、系統1に異常が発生した場合は下記数5より電流指令値I2
*を算出し、系統2に異常が発生した場合は下記数6より電流指令値I1
*を算出する。
【0077】
(数5)
I2
*=Ir
*×C2’+Ic
*×C2”
【0078】
(数6)
I1
*=Ir
*×C1’+Ic
*×C1”
異常時係数1 C1’及びC2’の値は、第1実施形態の場合と同様に、0.3〜0.7の間で設定する。異常時係数2 C1”、C2”は、異常時のアシスト力(アシスト電流)の減少(0.3〜0.7)に伴うフィールを最適化するために範囲を持たせて設定され、値は0.7〜1.2の間で設定する。
【0079】
第2実施形態の動作では、
図12に示される第1実施形態の電流指令値調整部での電流指令値算出におけるステップS340及びS350の動作が異なる。即ち、異常検出信号ADを入力した場合(ステップS310)、異常検出信号ADの値を確認し(ステップS330)、異常検出信号ADの値が「1」の場合、系統1に異常が発生したと判断し、予め設定されている異常時係数1 C2’、異常時係数2 C2”、操舵補助指令値Ir
*及び補償電流指令値Ic
*を用いて、数5より電流指令値I2
*のみ算出し、電流制限部150Bに出力する。異常検出信号ADの値が「2」の場合、系統2に異常が発生したと判断し、予め設定されている異常時係数1 C1’、異常時係数2 C1”、操舵補助指令値Ir
*及び補償電流指令値Ic
*を用いて、数6より電流指令値I1
*のみ算出し、電流制限部150Aに出力する。
【0080】
第1及び第2実施形態では系統毎に電流制限部及び電流制御部を備えているが、電流制限部及び電流制御部をそれぞれ1つに纏めた構成としても良い。1つに纏めることにより、装置のコンパクト化が図れる。
【0081】
第1実施形態に対して、電流制限部及び電流制御部をそれぞれ1つ纏めた本発明に係る電動パワーステアリング装置の構成例(第3実施形態)のブロック図を
図15に示す。
図5に示される第1実施形態と比べると、電流制限部及び電流制御部がそれぞれ1つとなっており、第1実施形態での電流制限部150A及び150Bに対する全ての入出力データは電流制限部250に対する入出力データとなり、電流制御部160A及び160Bに対する全ての入出力データは電流制御部260に対する入出力データとなっている。電流制限部250は基本的には電流制限部150A及び150Bと同様の構成であり、電流制御部260も基本的には電流制御部160A及び160Bと同様の構成であるが、入出力データが系統1のデータか系統2のデータかを区別するために、入出力データに系統を示すデータを付加する、入出力のインタフェースを系統毎に用意する、入出力する順序を固定化する等の処置が施される。
【0082】
第3実施形態の動作は、電流制限部250及び電流制御部260の動作を除いて、第1実施形態と同じである。電流制限部250の動作は、電流制限部150Aの動作と電流制限部150Bの動作を合わせたものとなる。即ち、電流制限部250は、電流指令値調整部130が出力した電流指令値I1
*及びI2
*を入力し、
図10に示されるフローチャート中のステップS40及びS50を実行し、電流指令値I1m
*及びI2m
*を出力する。電流制御部260の動作は、電流制御部160Aの動作と電流制御部160Bの動作を合わせたものとなる。即ち、電流制御部260は、電流指令値I1m
*及びI2m
*、モータ回転角検出回路102が出力したモータ回転角θe、モータ角速度演算部103が出力したモータ角速度ωe、モータ駆動部170Aが出力した3相のモータ電流I1um、I1vm及びI1wm並びにモータ駆動部170Bが出力した3相のモータ電流I2um、I2vm及びI2wmを入力し、
図10に示されるフローチャート中のステップS60及びS70を実行し、モータ駆動部170Aに対する3相の電圧指令値V1u
*、V1v
*及びV1w
*、モータ駆動部170Bに対する3相の電圧指令値V2u
*、V2v
*及びV2w
*並びに3相の電流指令値I1u
*、I1v
*、I1w
*、I2u
*、I2v
*及びI2w
*を出力する。
【0083】
なお、上述の実施形態(第1〜第3実施形態)では、電流制御部はdq回転座標系からUVW固定座標系への2相/3相変換を電流指令値に対して行っているが、電圧指令値に対して行っても良い。この場合、モータ駆動部からフィードバックされる3相のモータ電流及び異常検出回路で検出される3相のモータ電流検出値をdq回転座標系の2相の電流に変換する3相/2相変換部が必要となり、異常検出部は2相の電流指令値と2相のモータ電流検出値とを比較することにより異常の検出を行うことになる。また、上述の実施形態では、検出する故障としてモータ駆動回路のインバータの故障を対象としているが、モータ巻線が故障した場合も本発明は適用できる。さらに、コイルの結線方法はスター結線であるが、デルタ結線でも良い。
【課題】2系統でのモータ制御においていずれかの系統に異常が発生した場合、正常系統の電流指令値を変更することにより、操舵感の劣化を抑制可能な電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】2系統モータ巻線を有するモータに対して系統単位で電流指令値を演算する電動パワーステアリング装置において、操舵補助指令値及び補償電流指令値を用いて電流指令値を演算する電流指令値調整部を備え、電流指令値調整部は、系統毎に設定される正常時に使用する正常時係数及び異常時に使用する異常時係数を有し、2系統が正常な場合、操舵補助指令値及び補償電流指令値を加算した値に正常時係数を乗算した値を電流指令値とし、いずれかの系統に異常が発生した場合、操舵補助指令値に異常時係数を乗算した値に補償電流指令値を加算した値を正常である系統の電流指令値とする。