(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0006】
今日、ハンマリングや鍛造,パンチプレス等の衝撃を有する機械加工は,金属等の被加工材料を大量に安価で短時間に生産することができることから,加工の分野において非常に重要な位置を占めている.ハンマーや金型の動作を繰り返し定常に動作させることが仕上がり精度や歩留り,コストに大きく影響することから,定常な衝撃加工を実現する加振条件の導出により,より安価な機械加工を実現する可能性がある.
【0007】
鍛造やパンチプレス等の衝撃機械のハンマーは,弾性的な特性を持つ部材によって支えられていることから,振動が発生する.これらの加工機械が受ける振動は,衝突によって発生する強い非線形性を持つため,概周期振動やカオス振動を引き起し,安定な加工やその制御を妨げる.そのため,パンチプレスの衝撃力には,ばらつきが発生し,製品における不良の発生原因となる.
【0008】
一方,加振ハンマーは,例えば削岩機やコンクリートブレーカー,はつり機,釘打機,ハンマードリル,リベット打機,杭打機,砂落し機,地ならし機,コンパクター,ランマ,タンパー,転圧機,整地機械,マッサージ器等において,衝撃力を与える方法として使用されている.
【0009】
これらの機械においても,ハンマーは弾性的な特性を持つ部材によって支えられていることから,振動が発生し,衝撃による非線形性から,振動に乱れが生じる.乱れた振動は,衝撃による製品や機器の破損につながり,また作業者に過度な反力を与えることから,健康障害の原因となる.そのため,定常で,適切な衝撃力を制御することは,より快適な製品を作るうえで不可欠である(特許文献1−2).
【0010】
他方,インパクトハンマーは,構造物の実験振動モード解析や故障診断などの加振方法として多用されるが,衝突による非線形振動の発生により,ダブルヒッティングが発生しやすく,加振力を正確に制御することが難しかった.また非線形振動であるため,解析結果が振幅の強度に依存していた.定常なインパクトを与えるためには,オペレーターのスキルが要求され,検査を自動化にすることが難しかった(非特許文献1−2).そのため,一定周期で,一定強度の衝撃を与えるインパクトハンマーの設計が必要とされてきた.
【0011】
定常な衝突力を得るためには,振動の定常状態や安定性に関する議論が重要となる.しかし,衝突振動は非線形現象であるため,微分方程式による厳密な解析は困難であり,従来の研究では実験や数値計算による解析ばかりである.数学の分野の議論においても,周期的な外力下での衝突振動においては,釣合位置での一自由度衝突振動を含む単純な条件下での数例を除いて,厳密な定常解は得られていない(非特許文献3−7).
【0012】
そのため,1次元衝突振動においてすら,任意の衝突位置における具体的な軌道が示されておらず,現在までのところ,一定の条件下での定常解の存在の証明や反復計算によって得られるパラメーターによって表現された定常解が得られているにすぎない.
【0013】
そのため,ダンパーによる減衰を大きく利かせた装置において得られる定常振動から,各条件での衝撃力を測定し,経験的によって得られるパラメーターを変化させることにより,衝撃力を調整することが,生産現場で主としておこなわれており,任意の衝撃力を得るために必要な加振力や強制変位を通して解析的に制御することはできなかった.
【0014】
他方,近年の軽量化のニーズにより高張力鋼板などの新素材を用いた製品が必要とされ,また製品の小型化により複雑な形状の部品が要求されている.これらの難加工材における鍛造やプレス等の加工は,塑性加工条件によって割れやしわ等が発生し,不良品や加工精度低下の原因となることから,プロセス時に条件を変化させる衝撃力可変加工が利用されている.
【0015】
一般に,安価な機械プレスや鍛造機では,加工時に塑性加工力を変化させることはできず,サーボモーターを用いたフィードバック制御によるサーボプレスを用いることにより,これらの加工が可能となっている.これは衝撃機械においても同様である.ところがサーボプレスは高価であることから,製造コストの上昇につながり,安価な製品の製造には用いることができないでいた.
【0016】
機械において,フィードバックを用いないオープンループな制御において,安定な衝撃力を得るためには,ハンマーを結合した機構に与える加振力や強制変位の関数を解析的に知る必要があるが,従来はこれができないでいた.
【0017】
他方,加振ハンマーを用いた衝撃機械は,機械による衝撃力を生かして,削岩機やコンクリートブレーカー,はつり機,釘打機,ハンマードリル,リベット打機,杭打機,砂落し機,地ならし機,コンパクター,ランマ,タンパー,転圧機,整地機械,マッサージ器等において,使用されてきた.従来のこれらの機械振動は,モーター等による調和関数を基礎とした周期的な外部加振により強制力が与えられ,継続した運動に変換されてきた.これはインパクトハンマーも同様である.
【0018】
ところが,衝撃時により発生する非線形振動により,振動は概周期運動やカオス振動となり,時として振幅は適切な範囲を超えて強く振れる.そのため機械を支える作業者に強い衝撃を与え,健康障害の原因となる.また製品や機械に損傷を与える原因ともなるなど,従来の技術では,適切な強度で安定した衝突振動を実現することは難しかった(特許文献1−2).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明では,任意の位置,任意の反発係数下で任意の衝撃力を与えることのできる定常衝突振動を実現する強制変位や加振力を,後述する強制変位関数A,および加振力関数B,および強制変位関数C,および加振関数Dにより定める.
【0022】
また本発明では,前記強制変位関数A,加振力関数B,強制変位関数Cおよび加振関数Dにより定められた周期的な強制変位や加振力を,後述する一体衝突振動系である機構A,二体連成衝突振動系である機構B,準二体連成衝突振動系である機構Cおよび三体連成衝突振動系である機構Dにそれぞれ適用することにより,任意の反発係数をもつ被衝突材に対し,任意の位置で,一定の衝撃力を与えることのできる、定常衝突を可能にする鍛造機やパンチプレス機,加振ハンマー,インパクトハンマー等の衝撃機械を実現する.
【0023】
その一つは,鍛造機やパンチプレス機,加振ハンマー,インパクトハンマー等の衝撃機械のハンマーである質量m
1のおもりAにバネ定数k
1のバネAを取付けた振動子Aの他の一端に,前記関数Aで与えられる周期的な強制変位を与えることにより実現する前記機構Aである.
【0024】
その二つめは,ハンマーであるおもりAを取り付けた振動子AのバネAの他の一方に質量MのおもりBを取り付け,さらにバネ定数KのバネBを介してこのおもりBを壁等の固定点に結合した振動子Bからなり,この質量Bに,前記関数Bで与えられる周期的な加振力を与えることにより実現する前記機構Bである.
【0025】
その3つめは,機構BのおもりBに,さらにバネ定数k
2のバネCを取り付け,このバネCの他の一方に,前記関数Cで与えられる周期的な強制変位を与えることにより実現する前記機構Cである.
【0026】
最後の一つは,機構CのバネCの強制変位を入れる側に質量m
2のおもりCを取り付け,このおもりCからなる振動子Cに,前記関数Dで与えられる周期的な加振力を与えることにより実現する前記機構Dである.
【0027】
また本発明は,前記関数A,関数B,関数Cおよび関数Dに含まれる加振量パラメーターΔν
2を変化させることにより,前記機構A,機構B,機構Cおよび機構Dにおける衝撃力を任意に変化させることができる.さらに本発明は,前記関数A,関数B,関数Cおよび関数Dに含まれる衝突位置パラメーターx
1を変化させることにより,前記機構A,機構B,機構Cおよび機構Dにおける衝突位置を任意に変化させることができる.これにより,衝突時に衝撃力を変化させる多段階からなる定常衝突が可能となる.
【0028】
従来,任意の衝突振動系において,定常振動を繰り返すような外部からの加振法は明らかではなかった.そのため,定常な衝突を実現するには,衝撃機械に与える加振力や強制変位を実験によって経験的に求めることによってしかできず,調整に時間がかかり,不具合に対しても経験と勘が必要とされた.また条件の変化により不規則な振動が発生することから,衝撃力がばらつき,不良品を生む原因となっていた.
本発明は,任意の位置,任意の反発係数をもつ壁に対して定常衝突振動を実現する加振力もしくは強制変位の関数を明らかにすることで,任意の反発係数をもつ被衝突材に対し,任意の位置で,一定の衝撃力を与えることのできる定常衝突を実現することを課題とする.
【0029】
またフィードバック制御を用いない従来の機械加工機においては,加工の途中で精密に加工量を変化させることができなかった.プロセス中に加工量を変化させる衝撃力可変加工をおこなうには,フィードバック制御機構を持つサーボプレス等の高価な機械が必要であった.
そこで本発明では,機械加工機において,加振力もしくは強制変位を表わす関数の加振量パラメーターや衝突位置パラメーターを変化させることで,定常衝突を続けながら,任意に衝撃力や衝突位置を変化させることができる衝撃加工法を提案することを課題とする.
【0030】
またフィードバック制御を用いない従来の衝撃機械においては,振動が安定しないために作業者や非衝突物に必要以上の大きな衝撃を与え,健康障害や製品の不具合の原因となっていた.プロセス中に衝撃力を変化させるためには,高価なフィードバック制御機構を構築するが必要であった.
そこで本発明では,衝撃機械において,加振力もしくは強制変位を表わす関数の加振量パラメーターや衝突位置パラメーターを変化させることで,定常衝突を続けながら,適切な衝撃力や衝突位置を調整することができる衝撃法を提案することを課題とする.
【0031】
さらに従来のインパクトハンマーは,構造物の実験振動モード解析や故障診断に用いられてきたが,ハンマーの振動が安定しないためにダブルヒッティングが発生しやすく,非線形振動であるため,解析結果が振幅の強度に依存していた.そのため加振力を正確に制御することが難しく,自動化が困難であった.
そこで本発明では,インパクトハンマーにおいて,加振力もしくは強制変位を表わす関数の加振量パラメーターや衝突位置パラメーターを変化させることで,定常衝突を続けながら,適切な衝撃力や衝突位置を調整することができる自動化を可能にする衝撃法を提案することを課題とする.
【課題を解決するための手段】
【0032】
以下では,本発明における課題を解決する手段について,定常衝突の設計方法と定常衝突の制御方法の2つに分けて述べる.
【0033】
最初に,一定の衝撃力を与えることのできる定常衝突を実現する課題を解決する手段として,4つの異なる衝突振動モデルである機構A〜Dと,それぞれについて定常な衝突を実現する加振力もしくは強制変位を与える関数A〜Dを導出する.
【0034】
最初に対象とする機構Dは,
図1に示した三体連成衝突振動系であり,質量MのおもりBとバネ定数KのバネBを持つ一つの振動子Bに対し,質量m
1のおもりAとバネ定数k
1のバネAを持つ振動子Aと質量m
2のおもりCとバネ定数k
2のバネCを持つ振動子Cを並列に結合させる.
【0035】
変位は各振動子の釣合位置からとり,振動子Bの変位をX,振動子Aの変位をx
1,振動子Cの変位をx
2とする.ハンマーである振動子Aは,ある時間周期Δtで被衝突物と衝突するように系は設計される.つまりΔtはハンマーの衝突周期である.代表時間をT
r=√(m
1/k
1),代表長さを単位長さ,代表質量をm
1とすることにより,無次元化した各振動子の運動方程式は以下の数1に与えられる.
【数1】
【0036】
また本機構Dにおいては振動子Aと振動子Cは同じ固有振動数を持つものとし,バネ定数比および質量比の間にk
2=γk
1,
m
2=γm
1の関係が成り立つように設定する.これらの二振動子A,Cを同じ固有振動数にすることが本モデルにおける必要条件である.無次元化後の振動子Bのバネ定数と質量は,K
*=K/k
1,
M
*=M/m
1である.さらに無次元化した運動方程式に対し,[x
1*,√(γx
2*)]→[x
1*,x
2*]とする座標変換を施す.この系における無減衰下での自由振動の固有角振動数ω
t, ω
±は,以下の数2と数3に示される数式で表される.なおこれらの振動数は,無次元化されたものであることを注意されたい.
【数2】
【数3】
【0037】
区分求積法を用いた本手法では,非特許文献8に示される演算子Us,Utを状態ベクトル|φ>=
t[|x>,|ν>]=
t[X
*, x
1*,x
2*,V
*,ν
1*,ν
2*]にそれぞれ作用させることで,系の時間発展と衝突を表現する.
【0038】
【非特許文献8】高田宗一朗, 小竹茂夫, 鈴木泰之, “一振動子に結合された二体衝突振動系の内部共振によるエネルギ移動に起因した周期的なGraze現象”,日本機械学会論文集C編,Vol. 77, No. 777 (2011), pp. 1911-1925.
【0039】
数4に与えられる条件式により,振動子Bが振動子A,Cから離散力学的に切り離される.さらに数5に与えられる条件式により,各振動子の速度と位置は分離され,独立した方程式によって表現される.この条件を各固有振動数の比が満たす場合,演算子UsUtは振動子A,C間のみの小行列にブロック化され,二体問題に還元される.この演算子UsUtによって,任意の衝突回数後の各振動子の位置,速度を与える漸化式(非特許文献8)が求まる.
【数4】
,
【数5】
【0040】
ハンマーであるおもりAの質量に対するおもりBやおもりCの質量,さらにバネAに対するバネBやバネCのバネ定数は,数2,数3,数4,数5に示される条件によって定まる.
【0041】
これにより,振動子A,C間での運動エネルギの移動量が定式化でき,
図2に示すように1サイクルの衝突振動による状態の変化が回転として表現される.この運動エネルギの移動後に,元の状態に戻るような加振、減衰の操作を加える.おもりAの衝突時の反発係数をa とし,a ≦1とすることで減衰が表現される.加振はおもりCに時間周期Δt
*ごとに瞬間的に速度Δν
2を加算するものとし,これを加振関数Dとする.
【0042】
加振関数Dは衝撃力であることから,数6に示される速度の式として表わす.ν
2(t
*+0)はt
*直後のおもりCの速度であり,ν
2(t
*-0)はt
*直前のおもりCの速度を,δ(t
*)はデルタ関数を意味する.またnは整数である.数3で表わされる加振関数Dは,2πの周期関数となる.
【0043】
特に,瞬間的に加算する速度Δν
2を加振量パラメーター,おもりAであるハンマーの位置x
1を衝突位置パラメーターと呼ぶ.これより,
図3に示すような一定の衝突速度を繰り返す定常衝突振動が表現される.
【0044】
【数6】
【0045】
この機構Dが定常衝突振動となる条件式を以下の数7,数8に示す.なお,被衝突物の位置が固定された場合,本系における衝突周期はΔt
*=2πに限定される.
【0046】
【数7】
【数8】
【0047】
n回目の衝突時におけるおもりA,Cの位置を以下の数式である数9を満たすように定めることにより,おもりAは常に同じ一点の位置において衝突を繰り返す.
【数9】
【0048】
衝突時の位置や速度は,数7,8,9の条件式を満たすことで,以下の数10に表される一定衝突周期、一定衝突位置,一定衝突速度の定常衝突振動の軌道の解析解X
1sが得られる.おもりBの初期位置X
*(0)と初期速度V
*(0)がそれぞれ0である場合,ハンマーであるおもりAの軌道は単一軌道となる.他方,おもりBの初期位置X
*(0)と初期速度V
*(0)のいずれかの初期値が0でない場合,おもりAであるハンマーは二つの軌道を繰り返す.
【0049】
【数10】
【数11】
【0050】
次に,これまでに説明した三体連成衝突振動系である機構Dにおける定常衝突振動解から振動子Aを抜き出すことにより,
図4に示す一体衝突振動系である機構Aに応用する.これにより機構Aにおいて,数7,8,9の条件式を満たすことで,任意の位置,任意の速度でのハンマーであるおもりAの定常衝突を実現するバネAの根元側の強制変位関数Aの導出が可能となる.
【0051】
図4に示す一体衝突振動系である機構Aにおいて,ハンマーであるおもりAの任意の位置,任意の速度での定常衝突を実現するバネAの根元側の位置X
edを表現する強制変位関数Aを解析的に導出する.
【0052】
先に述べた機構Dの定常衝突振動解において,各振動子の位置や速度が解析的に求まることから,おもりBの位置から−2π≦t
*≦2πの範囲で定義され,数12,13で表現される強制変位関数Aが得られる.時間境界での強制変位関数Aの時間変化は不連続である.
【0053】
【数12】
【数13】
【0054】
この強制変位関数Aは,機構Dにおける定常衝突振動解と同様に,パラメーターであるX
*(0)とV
*(0)をそれぞれ0とすることにより,数14で表現される2π周期の定常衝突振動解となる.一方,パラメーターX
*(0),V
*(0)のいずれかの初期値が0でない場合は,4π周期の定常衝突振動解が繰り返される.
【数14】
【0055】
次に,三体連成衝突振動系である機構Dにおける定常衝突振動解からおもりBと振動子Aを抜き出すことにより,
図5に示す二体連成衝突振動系に応用する.
図5の二体連成衝突振動系である機構Bにおいては,ハンマーであるおもりAの任意の位置,任意の速度での定常衝突を実現するおもりBの加振力関数が得られる.
【0056】
ここでは,
図5に示す機構Bにおいて,ハンマーであるおもりAの任意の位置,任意の速度で定常衝突を実現するおもりBへの加振力関数F
iを解析的に導出する.前述同様,機構Dの定常衝突振動状態において各振動子の位置や速度が解析的に求まることから,任意の時間において振動子CがおもりBへ与える正味の力F
iを算出することで, −2π≦t
*≦2πの範囲で定義され,数15,16で表わされる加振力関数Bが得られる.境界時間での加振力関数Bの時間変化は不連続となる.
【0057】
【数15】
【数16】
【0058】
この加振力関数B は,おもりBの初期位置X
*(0)と初期速度V
*(0)がそれぞれ0である場合は数17で表現される2π周期の定常衝突振動解となる.一方,いずれかの初期値が0でない場合は4π周期で繰り返される.
【数17】
【0059】
次に,三体連成衝突振動系である機構Dにおける定常衝突振動解からおもりBと振動子AとバネCを抜き出すことにより,
図6に示す準二体連成衝突振動系に応用する.
図6に示す準二体連成衝突振動系である機構Cにおいては,ハンマーであるおもりAの任意の位置,任意の速度での定常衝突を実現する強制変位関数Cの導出が可能となる.強制変位関数Cは,おもりBとは反対側のバネC端に対する変位を表わす.
【0060】
ここでは,
図6に示す機構Cにおいて,ハンマーであるおもりAの任意の位置,任意の速度での定常衝突振動を実現するおもりCに相当する位置x
edから,強制変位関数Cを解析的に導出する.前述同様,機構Dの定常状態において各振動子の位置や速度が解析的に求まることから,おもりCの位置から, −2π≦t
*≦2πの範囲で定義され,数18,19で表わされる強制変位関数Cが得られる.時間境界で強制変位関数Cの時間変化は不連続となる.
【0061】
【数18】
【数19】
【0062】
この強制変位関数Cは,おもりBの初期位置X
*(0)と初期速度V
*(0)がそれぞれ0である場合は数20で表現される2π周期の定常衝突振動解となる.一方,いずれかの初期値が0でない場合は4π周期で繰り返される.
【数20】
【0063】
次に,フィードバック制御を用いない従来の衝撃機械において,難しい条件に合わせて,プロセス途中で精密に衝撃力を多段階に変化させる必要がある.以下では,定常衝突を続けながら,任意に衝撃力を変化させる手段として,加振力もしくは強制変位の関数の加振パラメーターΔν
2を徐々に変化させる制御法について述べる.また定常衝突を続けながら,任意に衝突位置を変化させる手段として,加振力もしくは強制変位の関数の衝突位置パラメーターx
1を徐々に変化させる制御法について述べる.
【0064】
反発係数a や加振量Δν
2*を変化させた際の各振動子の速度の変化を示す状態遷移図を
図7に示す.
【0065】
本発明における機構Dの定常衝突は,
図7に示すように,その近傍おいて,定常状態に収束するリミットサイクルを取ることから,衝突条件からの少しのずれに対しては,安定状態に遷移する能力があることが分かる.
【0066】
一方,衝突位置が定常状態からずれた際,系が再び定常状態に戻るまでの収束時間変化について,反発係数と初期衝突速度による違いを
図8に示す.
【0067】
図8に示すように,定常状態までの遷移時間は,各パラメーターのずれの大きさによっても影響され,ある程度以上,ずれが大きい場合においては,定常状態に収束しないことが分かる.
【0068】
プロセスの途中で精密に衝撃力を多段階に変化させたい場合,衝撃力に対応する加振量パラメーターΔν
2を大きく変化させる必要がある.しかしながら,現在の状態から,次の定常状態までの加振量パラメーターの変化が大きい場合,
図8に示すように,振動が定常状態に収束できない場合も生じる.
【0069】
そこで,本発明では,加振量パラメーターΔν
2の現在の状態から,目標とする状態へと徐々に変化させることにより,リミットサイクルにより安定状態への収束を生かしながら,状態を徐々に変化させる.
【0070】
そのために現在の状態の加振量パラメーターと目標とする状態の加振量パラメーターの間をn等分に内分し,一回の振動サイクルごとにΔν
2を徐々に変化させる.
【0071】
一方,これにより系は収束するが,加振量の変化の度合が小さすぎると収束時間が余計に掛る.そのため,nの数については,実験により,適切な量を見積もる必要がある.
【0072】
他方,プロセスの途中で試料が移動したり塑性変形することにより,ハンマーが試料に衝突する衝突位置は,徐々に変化する.そのためハンマーの軌道は不安定にならざるを得ない.自動的に衝突位置を変化させたい場合,衝突位置に対応する衝突位置パラメーターx
1を変化させる必要がある.しかしながら,現在の状態から,次の定常状態までの衝突位置パラメーターのずれが大きい場合,
図8に示すように,振動が定常状態に収束できない場合も生じる.
【0073】
そこで,本発明では,衝突位置パラメーターx
1の現在の状態から,徐々に変化させることにより,リミットサイクルにより安定状態への収束を生かしながら,状態を徐々に変化させる.
【0074】
そのために現在の状態の衝突位置パラメーターと実際に変化した衝突位置との間をn等分に内分し,一回の振動サイクルごとにx
0を徐々に変化させる.
【発明の効果】
【0075】
本発明により,前記関数A,関数B,関数Cおよび関数Dにより定められた周期的な強制変位や加振力を,後述する一体衝突振動系である機構A,二体連成衝突振動系である機構B,準二体連成衝突振動系である機構Cおよび三体連成衝突振動系である機構Dにそれぞれ適用することにより,任意の反発係数をもつ被衝突材に対し,任意の位置で,一定の衝撃力を与えることのできる、定常衝突を可能にする鍛造機やパンチプレス機,加振ハンマー,インパクトハンマー等の衝撃機械が実現する.
【0076】
これにより,フィードバック制御を用いたサーボプレス等の高価な機械を使用することなく,カム機構等を用いた安価な汎用機械を用いて,一定の衝撃力を繰り返す衝撃機械が実現する.
【0077】
その結果,鍛造やパンチプレス等の衝撃加工のコストは大幅に減少し,製品を安価に提供することができる.また衝撃力のばらつきが減少し,品質のそろった製品を生み出すことができる.
【0078】
一方,本発明により,衝撃機械において,任意の位置で,任意の衝撃力を得るために必要な加振力や強制変位の関数が明らかとなったことから,オープン制御により,衝撃力を任意に変化させることができる.
【0079】
これにより,フィードバック制御を用いたサーボプレス等の高価な機械を使用することなく,低速なPCにより安価な制御により,プロセス中に衝撃力を変化させることができる衝撃力可変加工が可能となる.
【0080】
これにより,近年の軽量化によりニーズの高い高張力鋼板などの加工条件が難しい材料の加工や小型化により複雑な形状が要求される部品の加工が,1台のオープン制御による安価な加工機で可能となる.その結果,製品の製造コストの低下が期待できる.
【0081】
さらに,本発明による衝撃機械は,機構Dにおいては,機構本来が持つ受動的な制御により,安定な状態を保つことから,試料の位置や反発係数等の外的パラメーターが変化した場合においても,ロバストであり,フィードバックを用いる場合にも高速な制御を必要としないなどの利点がある.
【0082】
さらに,本発明により,加振力や強制変位の関数の衝突位置パラメーターを変化させることにより,試料の塑性変形に対応したハンマーの衝突位置を微細に調整することができることから,従来の衝撃機械にあったZステージやその制御が不要となる.
【0083】
一方,衝撃機械における衝撃力を任意に制御できることから,衝撃力を必要最小限に抑えることができる.これにより,製品の形を決める金型の寿命が大幅に向上し,金型の破損によるラインの停止も防げることから,コストや能率の向上が望める.さらに鍛造等,衝撃機械のある工場にはつきものであった騒音を低下させることができ,働く環境を向上させることができる.
【0084】
さらに従来の衝撃機械では,系の運動を安定化させるために必須であった大きなダンパーを機械に設置する必要がないことから,機械の駆動に必要なエネルギーを少なく抑えることができる.これにより,工場における電力の使用量が低下し,CO
2の消費量を抑えることができる.
【0085】
さらに,本発明により,作業者に過度な衝撃力を与えない衝撃機械が実現する.衝撃力も可変であることから,適切な衝撃力を作業中に選択することもでき,作業効率が向上する.
【0086】
さらに,本発明により,一定周期で一定加振力を与えるインパクトハンマーが実現でき,構造物の実験振動モード解析や故障診断などの検査の加振方法を自動化することができる.
【発明を実施するための最良の形態】
【0087】
以下では,上述の課題を解決するための手段を実現するための最良の形態について,前記A,B,C,Dの各機構における衝撃機械の設計例を示すことで,説明を加える.またこれらの機械を動かした例についてシミュレーションを行い,ハンマーが一定の定常状態を繰り返すことを確かめる.さらに本手法と従来の手法を比べるために,従来多用されてきた調和関数による加振力や強制変位を加えた際の系の振動状態との比較を行う.
【0088】
最初に一体衝突振動系である機構Aを用いた衝撃機械の設計例を示す.機械の設計には,決められた一定の衝撃力を繰り返すことを目的とした汎用機械と,プロセス時に任意に衝撃力を変化させることを目的とした衝撃力可変機械を区別する必要があるが,これは機構Aにおいて,関数Aで与えられる周期的な強制変位をどのように与えるかに依っている.
【0089】
図9に,機構Aを用いた,決められた一定の衝撃力を繰り返すことを目的とした機械式の衝撃機械A1の設計例を示す.
【0090】
ハンマーはバネAに固定されており,これが動くことにより,フレーム下に置かれた試料は,ハンマーで繰り返し衝撃力が加わる.バネAの上端は,板1を介してロッドに固定されている.またこのロッドはその上端を板2を介して1軸ガイドにつながっており,上下方向に運動が限定されている.またピン付き板2は圧縮バネにより常にピンがカムに接している.カムは回転軸がフレームに固定されており,軸はベルトでモーターに接続されている.
【0091】
カムの外形は,数12,13で表わされる強制変位関数Aによって決定される.点接触するカム場合,カムの外形は,2次元極座標系において,回転方向の座標をθ=tラジアン,半径方向の座方をr= X
edとして定める.強制変位関数Aは,t=0において傾きが不連続となることから,このカムも,対応する1点において滑らかではなくなる.
図10に,基本半径を0.05,反発係数a =0.5,質量比γ=0.7,加振量Δv
2=0.3とした場合のカムの形状の例を示す.黒点は回転の中心を表わす.
【0092】
モーターによりカムが回転することにより,これと接したピン付き板2が上下方向にX
edだけ動く.またピン付き板2と板1がロッドによって連動して動くことから,バネAの上端は,強制変位関数Aに従って動くことになる.これにより,機構Aの衝撃機械A1が得られる.
【0093】
カムは,形状を自由に変えられないことから,本機械は,与えられた条件が変化しない,決められた一定の衝撃力を繰り返すことを目的とした場合に有効であると考えられる.全体が制御を必要としない単純な構造となっていることから,機械のコストは安く,耐久性も高いものと考えられる.
【0094】
次に
図11に,機構Aを用いた,衝撃力を任意に変化させることのできるオープン制御による衝撃機械A2の設計例を示す.
【0095】
衝撃機械A2は,先ほどの衝撃機械A1の場合と同様,ハンマーはバネAに固定されており,これが動くことにより,フレーム下に置かれた試料は,ハンマーで繰り返し衝撃力が加わる.バネAの上端は,板1を介してロッドに固定されている.またこのロッドはその上端を板2を介して1軸ガイドにつながっており,上下方向に運動が限定されている.また板2は直動案内機に固定されており,直動案内機のベースはフレームに固定され,直動部はモーターで任意の位置に駆動される.
【0096】
直動案内機の直動部の位置は,数12,13もしくは数14で表わされる強制変位関数Aによって決定される.これにより板2が上下方向にX
edだけ動く.また板2と板1がロッドによって連動して動くことから,バネAの上端は,強制変位関数Aに従って動くことになる.これにより,機構Aの衝撃機械が得られる.
【0097】
直動案内機器の直動部の位置は,電源に接続されたPCによりオープン制御されており,強制変位関数Aにおける加振パラメーターを変化させることにより,任意の衝撃力が得られる.また衝突位置パラメーターx
1を変化させた変位関数Aを用いることで,衝突位置の変化にも対応できる.さらに変位関数Aの反発係数パラメーターa を変化させることにより,試料の反発係数の変化にも対応した定常衝撃を続けることができる.
【0098】
衝撃機械A2は,オープン制御された機械ではあるが,試料の位置の変化や反発係数の変化など,プロセスにおいて徐々に変化していく環境には対処する必要がある,そのため位置センサーを用いて,ハンマー位置の変化を常時モニターすることが望ましい.しかし,機械自身が,パッシブに定常衝突振動を続けるように設計されていることから,外乱による影響には強く,高速な制御を必要としないなどの利点がある.
【0099】
以下では,衝撃機械Aが定常衝突をおこなうかを確かめるため,数値解析をおこなった.機構Aを用いた衝撃機械において,強制変位関数Aを強制変位として用いたおもりAの時間変化の数値計算結果を
図12に示す.ここでは固有振動数ω
+=1.5,ω
−=0.5,質量比γ=0.1として系を設計し,初期条件をX(0)=0, x
1(0)=−1.0,V(0)=0,Δv
2=1.0とした.いずれの反発係数においても,得られた軌道は単一となり,定常衝突振動が確認できた.またこれらの軌道は,数7,8の解析解に一致した.本強制変位関数を用いた場合,反発係数などの条件によらず,任意の位置,任意の速度での定常衝突振動が実現できることが分かる.
【0100】
一方,同じ条件において,機構Aを調和関数0.6cos(t)による強制変位を行った場合におけるおもりAの時間変化の数値計算結果を
図13に示す.数値計算に用いた調和関数の振幅は,本条件における強制変位関数の振幅と近い値を用いた.反発係数がa ≠1.0であるa =0.5では,本関数を用いた場合と同様,単一軌道の定常衝突振動となり,反発係数a =1.0では非定常な衝突振動となった.一般に一体衝突振動系の議論では,振動子に調和的な外力を与えることが多く,その場合は分数調波振動や概周期振動,カオス振動が発生することが知られている.一方,今回の調和関数による強制変位において反発係数による減衰が大きい場合,系は数7,8の解析解とは別な軌道へと収束し,リミットサイクルが出現した.このリミットサイクルにおける軌道の解析解は不明である.
【0101】
次に二体連成衝突振動系である機構Bを用いた衝撃機械の設計例を示す.機構Bでは力を与えることから,一般に制御は容易であり,プロセス時に任意に衝撃力を変化させることを目的とした衝撃力可変機械の一種類についてのみ説明をおこなう.
【0102】
図14に,機構Bを用いた,任意に衝撃力を変化させることを目的とした衝撃機械Bの設計例を示す.
【0103】
ハンマーはバネAに固定されており,これが動くことにより,フレーム下に置かれた試料は,ハンマーで繰り返し衝撃力が加わる.バネAの上端には,おもりBと接続されており,このおもりBはバネBと接続され,バネBの上端はフレームに固定されている.おもりBには磁石が取り付けられており,その周りに一定の磁場勾配を持ったソレノイドコイルが設置されて,フレームに固定されている.
【0104】
ソレノイドコイルは,バイポーラー電源と接続されており,バイポーラー電源の電流量はPCにより制御されている.ソレノイドコイルの電流量を変化させることで,磁石が取り付けられたおもりBに,加振力関数Bに相当する力を加えることができる.これにより,機構Bの衝撃機械が得られる.
【0105】
ソレノイドコイルの電流量は,PCによりオープン制御されており,数15,16もしくは数17で表わされる加振力関数Bにおける加振パラメーターを変化させることにより,任意の衝撃力が得られる.また衝突位置パラメーターx
1を変化させた加振力関数Bを用いることで,衝突位置の変化にも対応できる.さらに変位関数Aの反発係数パラメーターa を変化させることにより,試料の反発係数の変化にも対応した定常衝撃を続けることができる.
【0106】
衝撃機械Bは,オープン制御された機械ではあるが,試料の位置の変化や反発係数の変化など,プロセスにおいて徐々に変化していく環境には対処する必要がある,そのため位置センサーを用いて,ハンマー位置の変化を常時モニターすることが望ましい.
【0107】
以下では,衝撃機械Bが定常衝突をおこなうかを確かめるため,数値解析をおこなった.加振力関数Bを加振力として用いた系の時間変化の数値計算結果を
図15に示す.ここでは固有振動数ω
+=1.5,ω
−=0.5,質量比γ=0.1として系を設計し,初期条件をX(0)=0,x
1(0)=−1.0,
V(0)=0,Δv
2=1.0とした.いずれの反発係数においても,得られた軌道は単一となり,定常衝突振動が確認できる.またこれらの軌道は,数10,11の解析解に一致した.
【0108】
一方,同条件において調和外力cos(t)による加振を行った場合における系の時間変化の数値計算結果を
図16に示す.今回,調和関数の振幅は,本条件における加振力関数の振幅と近い値を用いた.反発係数がa ≠1.0であるa =0.5では,系は概周期振動を示し,反発係数a =1.0では非定常な衝突振動となった.一般に衝突振動は非線形であることから,調和外力下での軌道は概周期的もしくはカオス的になり,定常な軌道が得られないことが分かる.これらの結果より,本加振力関数を用いることで,反発係数などの条件によらず,任意の位置,任意の速度での定常衝突振動が実現できることが分かる.
【0109】
次に準二体連成衝突振動系である機構Cを用いた衝撃機械の設計例を示す.機械の設計には,決められた一定の衝撃力を繰り返すことを目的とした汎用機械と,プロセス時に任意に衝撃力を変化させることを目的とした衝撃力可変機械を区別する必要があるが,これは機構Cにおいて,関数Cで与えられる周期的な強制変位をどのように与えるかに依っている.
【0110】
図17に,機構Cを用いた,決められた一定の衝撃力を繰り返すことを目的とした機械式の衝撃機械C1の設計例を示す.
【0111】
ハンマーはバネAに固定されており,これが動くことにより,フレーム下に置かれた試料は,ハンマーで繰り返し衝撃力が加わる.バネAの上端には,おもりBと接続されており,このおもりBはバネBと接続され,バネBの上端はフレームに固定されている.さらにおもりBにはバネCが固定され,バネCの上端は板2を介して1軸ガイドにつながることで上下方向に運動が限定されている.またピン付き板2は圧縮バネにより常にピンがカムに接している.カムは回転軸がフレームに固定されており,軸はベルトでモーターに接続されている.
【0112】
カムの外形は数18,19もしくは数20で表わされる強制変位関数Cによって決定される.点接触するカム場合のカムの外形の計算方法は,機構Aの衝撃機械A1と同様である.
図18に,基本半径を0.01,反発係数a =0.5,質量比γ=0.7,加振量Δv
2=0.3,衝突位置x
1を−1.0とした場合のカムの形状の例を示す.黒点は回転の中心を表わす.
【0113】
モーターによりカムが回転することにより,これと接したピン付き板2が上下方向にx
edだけ動く.これにより,バネCの上端は,強制変位関数Cに従って動くことになる.これにより,機構Cの衝撃機械C1が得られる.
【0114】
カムは,形状を自由に変えられないことから,本機械は,与えられた条件が変化しない,決められた一定の衝撃力を繰り返すことを目的とした場合に有効であると考えられる.
【0115】
次に
図19に,機構Cを用いた,衝撃力を任意に変化させることのできるオープン制御による衝撃機械C2の設計例を示す.
【0116】
衝撃機械C2は,先ほどの衝撃機械C1の場合と同様,ハンマーはバネAに固定されており,これが動くことにより,フレーム下に置かれた試料は,ハンマーで繰り返し衝撃力が加わる.バネAの上端には,おもりBと接続されており,このおもりBはバネBと接続され,バネBの上端はフレームに固定されている.さらにおもりBにはバネCが固定され,バネCの上端は板2を介して1軸ガイドにつながることで上下方向に運動が限定されている.また板2は直動案内機器に固定されており,直動案内機器のベースはフレームに固定され,直動部はモーターで任意の位置に駆動される.
【0117】
直動案内機器の直動部の位置は,数18,数19もしくは数20で表わされる強制変位関数Cによって決定される.これにより板2が上下方向にx
edだけ動く.これにより,バネCの上端は,強制変位関数Cに従って動くことになる.これにより,機構Cの衝撃機械C2が得られる.
【0118】
直動案内機器の直動部の位置は,電源に接続されたPCによりオープン制御されており,強制変位関数Cにおける加振パラメーターを変化させることにより,任意の衝撃力が得られる.また衝突位置パラメーターx
1を変化させた変位関数Cを用いることで,衝突位置の変化にも対応できる.さらに強制変位関数Cの反発係数パラメーターa を変化させることにより,試料の反発係数の変化にも対応した定常衝撃を続けることができる.
【0119】
衝撃機械C2は,オープン制御された機械ではあるが,試料の位置の変化や反発係数の変化など,プロセスにおいて徐々に変化していく環境には対処する必要がある,そのため位置センサーを用いて,ハンマー位置の変化を常時モニターすることが望ましい.しかし,機械自身が,パッシブに定常衝突振動を続けるように設計されていることから,外乱による影響には強く,高速な制御を必要としないなどの利点がある.
【0120】
以下では,衝撃機械Cが定常衝突をおこなうかを確かめるため,数値解析をおこなった.数16,17を強制変位として用いた系の時間変化の数値計算結果を
図20に示す.ここでは固有振動数ω
+=1.5,ω
−=0.5,質量比γ=0.1として系を設計し,初期条件をX(0)=0, x
1(0)=−1.0, V(0)=0,Δv
2=1.0とした.いずれの反発係数においても,得られた軌道は単一となり,定常衝突振動が確認できた.またこれらの軌道は,数10,11の解析解に一致した.本強制変位関数を用いた場合,反発係数などの条件によらず,任意の位置,任意の速度での定常衝突振動が実現できることが分かる.
【0121】
一方,同じ条件において,系を調和関数10cos(t)による強制変位を行った場合における系の時間変化の数値計算結果を
図21に示す.数値計算に用いた調和関数の振幅は,本条件における加振力関数の振幅と近い値を用いた.反発係数がa ≠1.0であるa =0.5では概周期振動となり,反発係数a =1.0では非定常な衝突振動となった.一般に衝突振動は非線形であることから,調和関数での軌道は概周期的もしくはカオス的になり,一定の軌道が得られないことが分かる.
【0122】
最後に三体連成衝突振動系である機構Dを用いた衝撃機械の設計例を示す.
図22に,機構Dを用いた任意に衝撃力を変化させることを目的とした衝撃機械Dの設計例を示す.
【0123】
ハンマーはバネAに固定されており,これが動くことにより,フレーム下に置かれた試料は,ハンマーで繰り返し衝撃力が加わる.バネAの上端には,おもりBと接続されており,このおもりBはバネBと接続され,バネBの上端はフレームに固定されている.さらにおもりBにはバネCが固定され,バネCの上端にはおもりCが接続されている.おもりCには磁石が取り付けられており,その周りに一定の磁場勾配を持ったソレノイドコイルが設置されて,フレームに固定されている.
【0124】
ソレノイドコイルは,バイポーラー電源と接続されており,バイポーラー電源の電流量はPCにより制御されている.ソレノイドコイルの電流量を変化させることで,磁石が取り付けられたおもりCに,数6に示される加振パラメーターに相当する1周期ごとの瞬間的な加振力を加えることができる.これにより,機構Dの衝撃機械が得られる.
【0125】
ソレノイドコイルの電流量は,PCによりオープン制御されており,加振パラメーターを変化させることにより,任意の衝撃力が得られる.
【0126】
衝撃機械Dは,オープン制御された機械ではあるが,試料の位置の変化や反発係数の変化など,プロセスにおいて徐々に変化していく環境には対処する必要がある,そのため位置センサーを用いて,ハンマー位置の変化を常時モニターすることが望ましい.
【0127】
以下では,衝撃機械Dが定常衝突をおこなうかを確かめるため,数値解析をおこなった.数7,8,9を条件とした三体連成衝突振動系の時間変化の数値計算結果を
図23に示す.ここでは固有振動数ω
+=1.5,ω
−=0.5,質量比γ=0.1として系を設計し,初期条件をX(0)=0,
x
1(0)=−1.0, V(0)=0,Δv
2=1.0とした.いずれの反発係数においても,得られた軌道は単一となり,数10,11の解析解と一致した定常衝突振動が確認できた.以上の結果から,機構A,B,C,Dを実現する機械がそれぞれ設計され,定常衝突振動が保たれることが分かる.
【0128】
次に衝撃機械における衝撃力および衝突位置を制御する方法について,これを実現する最良の形態について述べる.
【0129】
ここでは,三体連成衝突振動系である機構Dを用いた衝撃機械に限定して,衝撃力および衝突位置を制御する.
【0130】
本発明は,加振関数Dに含まれる加振量パラメーターΔv
2を徐々に変化させることにより,機構Dは,衝撃力を安定なまま任意に変化させることができる.さらに本発明は,加振関数Dに含まれる衝突位置パラメーターx
1を徐々に変化させることにより,衝突位置を安定なまま任意に変化させることができる.これにより,衝撃力を変化させる多段階での定常衝突が可能となる.
【0131】
そこで以下では,加振量パラメーターΔv
2の現在の状態から,目標とする状態へと徐々に変化させることにより,リミットサイクルにより安定状態への収束を生かしながら,状態を徐々に変化させた際の系の収束時間について,数値積分によるシミュレーションと状態遷移行列による近似値を用いて考察する.これを実現するために,現在の状態の加振量パラメーターと目標とする状態の加振量パラメーターの間をn等分に内分し,一回の振動サイクルごとにΔv
2を徐々に変化させる.
【0132】
初期加振量をΔv
2*=1.0,最終加振量をΔv
2*=0.1とし,初期加振量と最終加振量の間を直線でn 分割し,加振周期t
*=2πごとに順に加振量を変化させた際の系の挙動について,数値計算結果と,状態遷移行列を用いた近似値の変化を
図24に示す.ここでは固有振動数ω
+=1.5,ω
−=0.5,質量比γ=0.1として系を設計し,初期条件をX
*(0)=0,X
1*=−1.0,V
*(0)=0とした.さらにx
2*(0)は数9を,v
2*(0)数8を,Δv
1*(0)は数8を,v
1*(0)は数7を満たす値にとり,数値計算を行った.
【0133】
一方,1回あたりの加振量の変化が小さい場合,衝突周期のずれが小さいことからΔt
*≒2πとし,非特許文献9に示す状態遷移行列を用いて系の挙動を近似的に求めた.
図24の黒色の点に数値計算結果を,赤色の点に状態遷移行列を用いた近似値を示す.n>7〜9の範囲においては,数値計算の結果と近似値は良く一致していた.反発係数a =0.8の場合,シミュレーションではn=1〜6の範囲においては,t
*=20000を過ぎても系は収束せず,非定常な振動状態が続いた.
【0134】
【非特許文献9】八木一憲, 小竹茂夫, 鈴木泰之, “一体,二体,三体衝突振動系における定常衝突振動を実現する加振力および強制変位(仮題)”, 日本機械学会論文集C編, Vol. 78 (2013).
【0135】
一方,反発係数a =0.6ではn=7,a =0.8ではn=9において収束時間が最短となり,n がそれ以上の範囲では,加振量の操作完了後から収束までの時間がほぼ一定となっていた.これらの結果より,各条件における目標加振量までの最適分割数が分かる.加振量の最適な分割により,より速く系を目的の衝突速度へと操作することができることから,衝撃機械における操作において,より円滑な作業の実現が期待できる.
【0136】
同様に,加振関数Dに含まれる衝突位置パラメーターx
1を徐々に変化させることにより,衝突位置を安定なまま任意に変化させることができる.
【0137】
以上の結果から,系は収束するが,加振量の変化の度合が小さすぎると収束時間が余計に掛ることが分かる.そのため,nの数については,実験により,適切な量を見積もる必要がある.