特許第6195068号(P6195068)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6195068刃先強度を向上させたダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195068
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】刃先強度を向上させたダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20170904BHJP
   B23B 27/20 20060101ALI20170904BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20170904BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   B23B27/14 A
   B23B27/20
   B23B51/00 J
   B23C5/16
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-28737(P2014-28737)
(22)【出願日】2014年2月18日
(65)【公開番号】特開2014-184551(P2014-184551A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2016年9月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-34568(P2013-34568)
(32)【優先日】2013年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100119921
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 正之
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【弁理士】
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100076679
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和夫
(72)【発明者】
【氏名】高岡 秀充
(72)【発明者】
【氏名】高島 英彰
(72)【発明者】
【氏名】大島 秀夫
【審査官】 久保田 信也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−80413(JP,A)
【文献】 特開2011−167776(JP,A)
【文献】 特開平10−130092(JP,A)
【文献】 特許第2539922(JP,B2)
【文献】 特開平3−115571(JP,A)
【文献】 特許第3504675(JP,B2)
【文献】 特開2007−92090(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 27/20
B23B 51/00
B23C 5/16
C23C 14/00 − 14/58
C23C 16/00 − 16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステンとコバルトを主成分とし、少なくとも3〜15質量%のコバルトおよび0.2〜3質量%のクロムを含有する炭化タングステン基超硬合金基体にダイヤモンド膜を被覆形成したダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具において、
前記ダイヤモンド膜は、平均膜厚3〜30μmの層厚を有し、
前記炭化タングステン基超硬合金基体とダイヤモンド膜の界面から基体内部方向へ大きくとも8μmの深さにおける金属結合相の一部が化学処理によって除去された金属結合相一部除去領域を有し、
当該工具の刃先近傍の逃げ面の直角断面における観察で前記金属結合相一部除去領域内の炭化タングステン同士および炭化タングステンと他の炭化物との接合粒界を除く炭化タングステン粒界に10〜300nmの厚みの金属結合相が前記炭化タングステン粒界長の50%以上の割合で存在し、
前記炭化タングステン粒界に存在する金属結合相におけるクロムのコバルトに対する質量割合が0.21以上0.40以下であることを特徴とするダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、CFRP等の難削材の高速切削加工において、すぐれた靭性および強度を備えることによって、刃先がすぐれた耐欠損性を発揮するダイヤモンド被覆炭化タングステン基超硬合金製切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化タングステン基(WC基)超硬合金(以下、単に「超硬合金」という)からなる基体に、ダイヤモンド膜を被覆したダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具が知られているが、従来のダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具においては、超硬合金基体とダイヤモンド膜の密着性が十分でないため、これを改善するために超硬合金基体上にダイヤモンドを成膜する際に、ダイヤモンドの形成を阻害するコバルトを除去させた基体上に成膜するなどの種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1に示すように、ダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具において、該超硬合金の表面から100μmまでの間の結合相を該超硬合金内部の結合相に比較して減少させ、一方、超硬合金表面から5〜100μmの間に存在する結合相富化層の結合相量を合金内部の結合相量に対して1.2〜5倍に富化することが提案されており、これによって、ダイヤモンド膜と超硬合金基体の密着性が改善されるとされている。
【0004】
また、特許文献2に示すように、ダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具において、熱処理により、超硬合金の表面からその内部に向って少なくとも1μm(好ましくは3〜100μm、特に好ましくは10〜50μm)の表面層における平均結合相量を、該合金内部における平均結合相量よりも減少させ、該表面層における結合相量を、該合金の表面で最小とするとともに、該合金の内部に向って漸増させて、内部の平均結合相量に達するようにすることによって、ダイヤモンド膜と超硬合金の密着性改善を図ることが提案されている。
【0005】
さらに、例えば、特許文献3に示すように、WC基超硬合金製工具基体をダイヤモンドで被覆するにあたり、その表面を、ムラカミ(Murakami)試薬中でエッチングし、次いで、硫酸と過酸化水素の溶液中でエッチングすることにより、工具基体とダイヤモンド膜の密着性を改善することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第2539922号明細書
【特許文献2】特開平3−115571号公報
【特許文献3】特許第3504675号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年の切削加工の技術分野における省力化および省エネ化、さらに低コスト化に対する要求は強く、これに伴い、切削加工は益々高速化の傾向にあるが、前記従来ダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具(以下、単に「ダイヤモンド被覆工具」という)を、例えば、CFRP材等の難削材のドリル加工の様な鋭利な刃先が要求される切削加工に供した場合には、超硬合金製工具基体の靭性が十分でないためチッピングを発生しやすく、早期に寿命に至る場合があった。また、CFRP材等の難削材を高速切削する場合には、特に高い刃先強度が要求されるが、従来ダイヤモンド被覆工具は、刃先強度が十分でなく、また、ダイヤモンド膜の剥離が生じやすいため、長期の使用に亘って、満足できる耐チッピング性および耐摩耗性を発揮することはできず、その結果、比較的短時間で使用寿命に至ることが多かった。
【0008】
前述のようなダイヤモンド被覆工具の課題について本発明者らが鋭意研究を行ったところ、ダイヤモンド被覆工具においては、前述のようにダイヤモンド膜と工具基体との密着性を上げるために工具基体の最表面に存在する金属結合相中のコバルトを除去する処理を行っているが、その結果、刃先における靭性の低下を招き、刃先強度低下の原因となっていることを突き止めた。
【0009】
そこで、本発明が解決しようとする技術的課題、すなわち本発明の目的は、ダイヤモンド被覆工具において、ダイヤモンド膜と工具基体との密着性を向上させるとともに刃先の靭性を向上させることにより、刃先強度を向上させ、耐チッピング性および耐摩耗性を向上させたダイヤモンド被覆工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らは、例えば、CFRPの高速穴あけ加工や高速切削のように、切れ刃に高負荷が作用する切削条件に用いた場合でも、刃先近傍(刃先の先端より大きくとも100μmを超えない領域)がすぐれた靭性を備えるとともに、長期の使用に亘って、すぐれた耐摩耗性を発揮するダイヤモンド被覆工具を提供すべく鋭意検討を重ねたところ、次のような知見を得た。
【0011】
本発明では、(1)超硬合金基体の表面近傍の金属結合相(主としてCoおよびCo合金)を化学的なエッチング(硫酸+過酸化水素)によって除去する。(2)工具基体表面近傍(基体表面から、内部に大きくとも8μm)におけるWC粒界(但し、WC同士およびWCと他の炭化物との接合粒界は除く)で金属結合相中のCr濃度を濃化させる焼結(所定の冷却速度、例えば、1〜5℃/minで焼結後にヒータに流す電流を制御して冷却を行う、いわゆる通電冷却を行う)を行うと、徐冷時にWCが粒成長し、同時にWCの成長界面でCr濃度が濃化する。(3)前述の工程で得られた焼結体は、工具基体表面近傍域のWC粒界近傍の金属結合相がエッチングされにくくなり、刃先近傍の金属結合相が除去された領域(以下、「金属結合相一部除去領域」という)における超硬合金を構成するWC粒界(但し、WC同士およびWCと他の炭化物との接合粒界は除く)が、Cr濃度の高い金属結合相である、Co−W−Cr合金により強化される。(4)工具最表面のCoが除去されているため、この基体上にダイヤモンドを成膜することが阻害されることがないとともに、金属結合相の除去によって低下する工具刃先の靭性と強度がエッチングされずにWC粒界近傍に残留したCo−W−Cr合金により強化されたダイヤモンド被覆工具を得ることが出来るという知見を得た。
【0012】
本発明は、前記知見に基づいてなされたものであって、
「 炭化タングステンとコバルトを主成分とし、少なくとも3〜15質量%のコバルトおよび0.2〜3質量%のクロムを含有する炭化タングステン基超硬合金基体にダイヤモンド膜を被覆形成したダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具において、
前記ダイヤモンド膜は、平均膜厚3〜30μmの層厚を有し、
前記炭化タングステン基超硬合金基体とダイヤモンド膜の界面から基体内部方向へ大きくとも8μmの深さにおける金属結合相の一部が化学処理によって除去された金属結合相一部除去領域を有し、
当該工具の刃先近傍の逃げ面の直角断面における観察で前記金属結合相一部除去領域内の炭化タングステン同士および炭化タングステンと他の炭化物との接合粒界を除く炭化タングステン粒界に10〜300nmの厚みの金属結合相が前記炭化タングステン粒界長の50%以上の割合で存在し、
前記炭化タングステン粒界に存在する金属結合相におけるクロムのコバルトに対する質量割合が0.21以上0.40以下であることを特徴とするダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具。」
を特徴とするものである。
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0014】
金属結合相一部除去領域の深さ:
基体表面の金属結合相(主としてコバルト/コバルト合金)を除去する目的は、基体にダイヤモンド膜を成膜するためであるが、その深さについては、特に限定しないが、1μm未満であると残留しているコバルト/コバルト合金の影響が依然として大きく、耐剥離性が十分でないため好ましくない。一方、8μmを超えると、基体表面から多量の結合金属が除去されることによって超硬合金の靭性の低下が大きくなり、その結果、耐チッピング性が低下する。そのため、金属結合相一部除去領域の深さは、基体内部方向へ大きくとも8μmと定めた。
【0015】
化学処理によって除去される金属結合相の一部:
本発明において、「化学処理によって除去される金属結合相の一部」は、主としてコバルトおよび/またはコバルト合金を意味しているが、超硬合金によっては、耐熱性を増すために金属結合相に炭化チタン(TiC)や炭化タンタルニオブ((TaNb)C)を混ぜたり、耐蝕性を増すためにコバルトの一部をニッケル(Ni)に置き換えたりすることがあり、このような場合、「化学処理によって除去される金属結合相の一部」には、コバルトおよび/またはコバルト合金のみならず、炭化チタン(TiC)や炭化タンタルニオブ((TaNb)C)、Niなども包含される。
【0016】
工具基体の組成:
本発明のダイヤモンド被覆工具の工具基体は、硬質相成分としての炭化タングステン(WCで示す)と金属結合相成分としてのCoを少なくとも含有し、かつ、Co含有量は3〜15質量%とする。
【0017】
Co成分には、金属結合相を形成して基体の強度および靭性を向上させる作用があるが、WC基超硬合金中のCo含有量が3質量%未満では、特に靭性の向上が望めず、一方、Co含有量が15質量%を越えると、塑性変形が起り易くなって、偏摩耗の進行が促進されるようになることから、WC基超硬合金中のCo含有量は3〜15質量%と定めた。
【0018】
ダイヤモンド膜の平均膜厚:
工具基体表面に被覆するダイヤモンド膜は、その厚さが3μm未満では、長期の使用に亘って十分な耐摩耗性を発揮することができず、一方、ダイヤモンド膜厚が30μmを超えると、チッピング、欠損、剥離が発生しやすくなることから、ダイヤモンド膜の平均膜厚は、3〜30μmと定めた。
【0019】
本発明のダイヤモンド被覆工具の工具基体は、WC粒子近傍で金属結合相中のCr濃度を濃化させる焼結(所定の冷却速度、例えば、1〜5℃/minで焼結後に通電冷却を行う)を行うことで得たWC粒子近傍にCr富含有結合相を生成させた焼結体を使用する。次に、基体表面近傍(最表面から内部に大きくとも8μm)の金属結合相、主としてCoおよびCo合金を化学的なエッチング(硫酸+過酸化水素)によって除去する。前記焼結体は、WC粒子近傍域のCr富含有結合相の効果により刃先近傍(刃先の先端より大きくとも100μmを超えない領域)の金属結合相一部除去領域(Co除去層)におけるWC粒界が、Co−W−Cr合金により強化される。
したがって、工具基体表面近傍のCoが除去されているため、この工具基体上へのダイヤモンドを成膜が阻害されないとともに、前述のように刃先近傍の金属結合相一部除去領域(主としてCoおよびCo合金除去相)におけるWC粒界が、Co−W−Cr合金により強化されていることにより、刃先強度の高いダイヤモンド被覆工具を得ることが出来る。
【0020】
すなわち、基体工具とダイヤモンド膜の接合強度(密着性)を上げるために基体工具表面の金属結合相(主としてCoおよびCo合金)を除去すると、刃先強度が低下するというという、いわば、トレードオフの関係にあるダイヤモンド被覆工具の膜の密着性と刃先強度の問題を金属結合相一部除去領域に存在するWC粒界に所定の厚みのクロムおよびコバルトを含む金属結合相を設けるという新規な技術的思想により解決を図ったものである。
【0021】
WC粒界の界面に残留させる金属結合相(残留金属結合相)の厚みおよびWC粒界長に対する存在割合:
前述の製造方法で成膜した場合、前記残留金属結合相の厚みはほぼ10〜300nmの範囲となる。ここで、10nm未満は、後述するような測定方法で測定しようとした場合、測定することが難しく、しかも、それほど薄い残留金属結合相では、前述したような強度確保に十分でない。一方、300nmを超える残留金属結合相は、もともとの母材の金属結合相との区別がつきにくく、このような残留金属結合相が存在している場合には、工具基体上に設けるダイヤモンド膜との密着性が低下するため好ましくない。
また、WC粒界長に対する金属結合相の割合が50%未満の場合、WC粒界の接合強度が低下し、刃先の強度が低下する。
【0022】
残留金属結合相におけるクロムのコバルトに対する質量比:
前記金属結合相において、クロムのコバルトに対する質量比が、0.21未満では酸に対する耐食性が不足するため、WC粒界の界面に残留したとしても、その量が不十分であるために高速切削に耐えるだけの刃先強度が得られない。一方、0.40を超えると、金属結合相自体の強度低下によって脆化し、刃先がチッピングを起こしやすくなるため好ましくない。そのため、残留金属結合相におけるクロムのコバルトに対する質量比は、0.21〜0.40と定めた。
【発明の効果】
【0023】
本発明のダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具は、炭化タングステンとコバルトを主成分とし、少なくとも3〜15質量%のコバルトおよび0.2〜3質量%のクロムを含有する炭化タングステン基超硬合金基体にダイヤモンド膜を被覆形成したダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具であって、ダイヤモンド膜が平均膜厚3〜30μmの層厚を有し、炭化タングステン基超硬合金基体とダイヤモンド膜の界面から基体内部方向へ大きくとも8μmの深さにおける金属結合相の一部が化学処理によって除去された金属結合相一部除去領域を有し、工具の刃先近傍の逃げ面の直角断面における観察で金属結合相一部除去領域内の炭化タングステン同士および炭化タングステンと他の炭化物との接合粒界を除く炭化タングステン粒界に10〜300nmの厚みの金属結合相が炭化タングステン粒界長の50%以上の割合で存在し、炭化タングステン粒界に存在する金属結合相におけるクロムのコバルトに対する質量割合が0.21以上0.40以下であることを特徴としていることによって、工具基体とダイヤモンド膜との密着性を向上させるとともに刃先強度を向上させたものであって、CFRPなどの切削加工において、すぐれた耐チッピング性、刃先強度、耐摩耗性を発揮するものであって、その効果は絶大である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明のダイヤモンド被腹膜の断面を模式的に表した膜構成模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
つぎに、本発明のダイヤモンド被覆工具について、実施例により具体的に説明する。
なお、ここでは、ダイヤモンド被覆工具の具体例としてダイヤモンド被覆超硬合金製ドリルについて述べるが、本発明はこれに限られるものではなく、ダイヤモンド被覆超硬合金製インサート、ダイヤモンド被覆超硬合金製エンドミル等、各種のダイヤモンド被覆工具に適用できるものである。
【実施例】
【0026】
(a)原料粉末として、いずれも0.5〜3μmの範囲内の所定の平均粒径を有するWC粉末、Co粉末、Cr粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、TiC粉末およびZrC粉末を、表1に示される割合に配合し、さらにバインダーと溶剤を加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、いずれも100MPaの圧力でプレス成形して、直径が10mmの丸棒圧粉体とし、これらの丸棒圧粉体を、1Paの真空雰囲気中、1380〜1500℃の温度で1〜2時間保持後、1〜5℃/hの冷却速度で1200℃以下まで徐冷することで焼結体を得た後、該焼結体を研磨加工することにより、WC基超硬合金焼結体1〜6を製造した。
ついで、前記WC基超硬合金焼結体1〜6を、溝形成部の外径寸法が8mmとなるように研削加工することにより、WC基超硬合金製ドリル基体(以下、単に「ドリル基体」という)1〜6を製造した。ここで、ドリル基体6は、後述する比較例ドリルにのみ使用した。
【0027】
(b)ついで、前記ドリル基体1〜5を、硫酸と過酸化水素と水を2:1:100(容積比)で混合したエッチング液に3〜10秒浸漬して、ドリル基体1〜6の表面近傍のCoを主成分とする金属結合相の一部を数ミクロンの深さまでエッチングで除去する。
【0028】
(c)さらに、このドリル基体1〜5を、熱フィラメントCVD装置に装入し、フィラメント温度を2200℃、水素ガスとメタンガスを100:1の流量比で流しながら、基体温度を900℃に維持して3〜30μmの膜厚のダイヤモンド膜を成膜する。
前記製造工程により、表2に示す本発明のダイヤモンド被覆WC基超硬合金製ドリル(以下、単に、「本発明ドリル」という)1〜5を製造した。
【0029】
前記製造工程によれば、(a)の工程の徐冷の際に生じた超硬基体内部のクロム濃度の組成変動が、前記ダイヤモンド成膜時の拡散によりほぼ消失するとともに、(b)の工程で生じた基体表面近傍の金属結合相が除去された領域(金属結合相一部除去領域)に存在するWC粒子同士およびWC粒子と他の炭化物粒子との粒界を除くWC粒界に該粒界長の50%以上の割合で、10〜300nmの厚みのクロム富含有相として残留する。
【0030】
比較のため、本発明ドリル1〜5の前記製造工程における工程(a)における徐冷工程を行わず自然冷却することにより、ドリル基体1〜6を製造し、表3に示す比較例のダイヤモンド被覆WC基超硬合金製ドリル(以下、単に、「比較例ドリル」という)1〜6を製造した。
【0031】
ついで、前述のようにして製造した本発明ドリル1〜5および比較例ドリル1〜6について、ダイヤモンド膜とドリル基体界面近傍をクロスセクションポリッシャーによって表面に対して直角に断面研磨を行い、ダイヤモンド膜とドリル基体界面近傍において、金属結合相の一部が化学処理によって除去された領域、すなわち、金属結合相一部除去領域の平均厚みをX(μm)とした場合、0.5X(μm)×0.5X(μm)のエリアを前記金属結合相一部除去領域内で3箇所を無作為に選定し、オージェ電子分光による元素マッピングおよび定量分析により、クロムとコバルトの質量比、残留金属結合相の厚みおよびWC界面長に対する前記残留金属結合相の占有率を測定した。なお、測定値は3箇所の平均とした。また、金属結合相一部除去領域の平均厚みXについては、上記の工具直角断面で基体表面の10ミクロン以上が略直線とみなされる部位において、結合相の一部が除去された領域の幅を3点測定し、これを平均厚みXとした。
本発明ドリル1〜5および比較例ドリル1〜6のダイヤモンド膜の膜厚を、走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)を用いて測定し、観察視野内の5点の層厚を測って平均して平均膜厚を測った。
表2、3にこれらの値を示す。
【0032】
【表1】
【0033】
【表2】

【0034】
【表3】
【0035】
つぎに、前記本発明ドリル1〜5および比較例ドリル1〜6を用いて、以下の条件で、CFRPの高速ドリル穴開け試験を行った。
切削速度:260m/min,
送り:0.12mm/rev,
穴深さ:10mm,
前記切削試験において、正常摩耗の場合は被削材の穴の入り口側もしくは出口側に発生するバリが0.5mmを超えた時点で使用寿命とし、それまでの穴あけ加工数を測定した。
また、ドリル折損等が原因で使用寿命に至った場合には、それまでの穴あけ加工数を測定した。
表4にこれらの測定結果を示す。
【0036】
【表4】
【0037】
表2〜4の結果からも明らかなように、本発明ドリル1〜5は、ダイヤモンド膜が平均膜厚3〜30μmの層厚を有し、炭化タングステン基超硬合金基体とダイヤモンド膜の界面から基体内部方向へ大きくとも8μmの深さにおける金属結合相の一部が化学処理によって除去された金属結合相一部除去領域を有し、工具の刃先近傍(刃先の先端より大きくとも100μmを超えない領域)の逃げ面の直角断面における観察で金属結合相一部除去領域内の炭化タングステン同士および炭化タングステンと他の炭化物との接合粒界を除く炭化タングステン粒界に10〜300nmの厚みの金属結合相が炭化タングステン粒界長の50%以上の割合で存在し、炭化タングステン粒界に存在する金属結合相におけるクロムのコバルトに対する質量割合が0.21以上0.40以下であることから、CFRP等の難削材の高速ドリル穴開け切削加工において、すぐれた刃先強度を示すとともに、長期の使用に亘ってぐれた耐摩耗性を発揮している。
【0038】
これに対して、本発明ドリルのような金属結合相一部除去領域内に所定の残留金属結合相を有していない比較ドリル1〜6は、刃先強度が劣り、短期に寿命に至ることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のダイヤモンド被覆超硬合金製切削工具は、ダイヤモンド被覆超硬合金製ドリルばかりでなく、ダイヤモンド被覆超硬合金製インサート、ダイヤモンド被覆超硬合金製エンドミル等、各種のダイヤモンド被覆工具に適用できるものであり、すぐれた刃先強度と耐摩耗性を発揮することから、切削加工の省エネ化、低コスト化に十分満足に対応できるものである。
図1