(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0023】
本発明の一実施の形態としての酸化物セラミックスは、主成分が、Sr、Co、及びFeを含有したフェライト化合物で形成され、Siが、前記主成分に対し、モル比xに換算して0.01〜0.2の範囲で含有されると共に、Mgが、前記Feの一部を置換した形態で含有され、かつ、前記主成分中の前記Mgの含有量は、モル比yに換算して0.03〜0.3とされている。
【0024】
具体的には、本発明の酸化物セラミックスは、六方晶Z型結晶構造を有するSr
3Co
2Fe
24O
41((SrO)
3(CoO)
2(Fe
2O
3)
12)系化合物を主成分とし、下記一般式(A)で表すことができる。
【0025】
Sr
3Co
2Fe
24-yMg
yO
41−xSiO
2…(A)
ここで、xは、Sr
3Co
2Fe
24-yMg
yO
41に対するSiO
2のモル比を示し、x及びyは、数式(1)、(2)を満足している。
【0026】
0.01≦x≦0.2…(1)
0.03≦y≦0.3…(2)
このように本酸化物セラミックスは、一般式(A)が数式(1)、(2)を満足することにより、絶縁性能や強磁性誘電特性を損なうことなく、透磁率の温度特性が良好な酸化物セラミックスを得ることが可能となる。
【0027】
六方晶Z型結晶構造は、非特許文献1に詳細が記載されているように、Rブロック、Sブロック、Tブロックの3つの異なるブロックがR−S−T−S−R
*−S
*−T
*−S
*の順序で積層された複雑な結晶構造を有している。尚、*はc軸に対し180°回転したブロックを示す。例えば、Sr
3Co
2Fe
24O
41の場合、各ブロックを化学式で定義すると、Rブロックは[SrFe
6O
11]
2-で構成され、SブロックはCo
22+Fe
4O
8で構成され、TブロックはSr
2Fe
8O
14で構成される。そして、Sr
3Co
2Fe
24O
41は、上記各ブロックがR−S−T−S・・・・・の順序で積層された積層周期を有する多層構造とされている。
【0028】
【非特許文献1】Robert C. Pullar 著“Hexagonal Ferrites : A review of the synthesis, properties and applications of hexaferrite ceramics”, Progress in Materials Science 57, 2012, pp. 1191-1334
【0029】
この六方晶Z型結晶構造を有するSr
3Co
2Fe
24O
41系化合物は、強磁性と強誘電性とが同時に得られる強磁性誘電体材料として有望視されており、電気磁気効果により、磁界の印加により電気分極を生じさせることができ、電界の印加により磁化の変化を生じさせることができる。
【0030】
そして、特許文献1記載のSr
3Co
2Fe
24O
41系化合物は、室温で高い電気分極と良好な絶縁性能を有することから、磁化と電気分極の双方を利用した可変インダクタやその他のコイル素子等、各種セラミック電子部品への応用が期待されている。
【0031】
しかしながら、〔発明が解決しようとする課題〕でも述べたように、特許文献1記載のSr
3Co
2Fe
24O
41系化合物を可変インダクタ等のセラミック電子部品に使用しようとした場合、透磁率の温度特性に劣り、雰囲気温度によって透磁率が大きく変動し、コイルのインダクタンスが大きく変動することから、十分な信頼性を得るのが困難である。
【0032】
そこで、本実施の形態では、一般式(A)が数式(1)、(2)を満足するように、酸化物セラミックス中にSi及ぶMgを含有させ、これにより絶縁性能や強磁性誘電特性を損なうことなく、透磁率の温度特性が良好な酸化物セラミックスを得るようにしている。
【0033】
このように透磁率の温度特性が向上したのは、以下の理由によるものと考えられる。
【0034】
一般にSiO
2に代表される4価のSiを含有したSi化合物を酸化物セラミックス中に添加すると、Siが結晶粒界に存在して焼結助剤としての作用を奏することが知られている。
【0035】
しかるに、本発明者らの研究結果により、Si化合物をSr
3Co
2Fe
24O
41系化合物に添加すると、比抵抗ρが低下して絶縁性能が劣化することが分かった。これは、4価のSiの大部分は結晶粒界に存在するものの、前記Siの一部は結晶粒界近傍で3価のFeを主成分とするFeサイトに固溶し、電荷バランスが崩れるためと推測される。
【0036】
そこで、本発明者らは、更に鋭意研究を重ねたところ、所定量のSiに加え、2価のMgを含有したMg化合物を所定量添加することにより、電荷バランスを補償でき、これにより電気磁気特性を損なうことなく、透磁率の温度特性を向上させることができることが分かった。すなわち、酸化物セラミックス中にSi化合物を添加すると、Siの一部がFeサイトに固溶し、電荷バランスが崩れるが、前記Mg化合物を添加することにより、2価のMgがFeの一部を置換する形態でFeサイトに固溶し、これにより電荷バランスが補償されて透磁率の温度特性が向上すると考えられる。
【0037】
次に、主成分に対するSiのモル比x、及びMgのモル比yが、数式(1)、(2)を満足するようにした理由を説明する。
【0038】
(1)Siのモル比x
上述したようにMgと共にSiを含有させることにより、これらの相乗効果によって透磁率の温度特性を向上させることができるが、そのためには主成分に対するモル比xが、酸化物換算で少なくとも0.01以上は必要である。
【0039】
しかしながら、前記モル比xが0.2を超えてSiを過剰に含有させると、Mgを含有させても比抵抗ρの低下が顕著となり、絶縁性能の劣化を招くおそれがある。
【0040】
すなわち、酸化物セラミックス中にMgを過剰に含有させると、電気磁気特性が劣化するおそれがあることから、Mgを含有させるとしても、上記(2)を満足するように所定範囲に制限する必要がある。
【0041】
しかるに、上記(2)を満足する範囲でMgを含有させた場合、前記モル比xが0.2を超えてSiを含有させると、Siの含有量が過剰となって電荷バランスを十分に補償することができず、このため比抵抗ρが低下し、絶縁性能の劣化を招くおそれがある。
【0042】
そこで、本実施の形態では、前記モル比xが酸化物換算で0.01〜0.2となるようにSiを含有させている。
【0043】
(2)Mgのモル比y
上述したようにMgをFeの一部と置換させる形態で主成分中にMgを固溶させることにより、Siを含有させても電荷バランスを補償することができ、これにより透磁率の温度特性を向上させることができる。そしてそのためにはFeの一部と置換するMgのモル比yは、少なくとも0.03以上は必要である。
【0044】
しかしながら、前記モル比yが0.3を超えると、電気分極Pが低下し、上述したように所望の電気磁気効果を得ることができなくなる。
【0045】
そこで、本実施の形態では、前記モル比yが0.03〜0.3となるようにMgを含有させている。
【0046】
すなわち、上記一般式(A)において、Siのモル比x及びMgのモル比yが上記数式(1)、(2)を満足することにより、絶縁性能や電気磁気効果を損なうことなく、透磁率の温度特性を向上させることができる。
【0047】
具体的には、比抵抗ρが100MΩ・cm以上の良好な絶縁性能と電気分極Pが10μC/m
2以上の良好な電気磁気効果を確保しつつ、+10〜+35℃の範囲内で温度変化が生じても、透磁率の変化率Δμを35%以下に抑制できる透磁率の温度特性が良好な酸化物セラミックスを得ることができる。
【0048】
また、上記実施の形態では、Rブロック、Sブロック、Tブロックの積層周期を有する六方晶Z型構造のフェライト化合物について詳述したが、積層周期の周期構造が一部崩れ、結晶の対称性が六方晶系よりも低い晶系であってもよい。
【0049】
また、結晶格子の所定原子位置に配位されたイオンが、前記所定原子位置から若干変位し、結晶の対称性が六方晶系よりも低い晶系であってもよい。例えば、六方晶Z型結晶構造では、結晶を構成するO
2-、Co
2+等のイオンは、結晶の対称性を記述する空間群がP6
3/mmcで定義される所定原子位置に配される。しかるに、本発明は、上記イオンが前記所定原子位置から移動して他の空間群で定義される原子位置に配され、結晶の対称性が六方晶系よりも低くなっているような結晶構造にも適用できる。
【0050】
すなわち、本酸化物セラミックスは、少なくともSr、Co、Feを含有したフェライト化合物に上述した所定量のSi及びMgを含有させるのが重要であり、結晶の対称性が六方晶系よりも若干低い晶系であっても、本発明の所期の目的を達成することができる。
【0051】
次に、本酸化物セラミックスの製造方法について詳述する。
【0052】
まず、セラミック素原料としてFe
2O
3等のFe化合物、SrCO
3等のSr化合物、Co
3O
4等のCo化合物、MgCO
3等のMg化合物、SiO
2等のSi化合物を用意する。
【0053】
そして、上記一般式(A)が数式(1)、(2)を満足するように、各セラミック素原料を秤量する。
【0054】
次に、これら秤量されたセラミック素原料を部分安定化ジルコニウム(以下、「PSZ」という。)ボール等の粉砕媒体、分散剤及び純水等の溶媒と共にポットミル等の粉砕機に投入し、十分に混合粉砕し、混合物を得る。
【0055】
次に、上記混合物を乾燥させ、整粒した後、1000〜1100℃の温度で大気雰囲気下、所定時間仮焼し、仮焼物を得る。
【0056】
次いで、この仮焼物を整粒した後、粉砕媒体、分散剤、及びエタノールやトルエン等の有機溶媒と共に、再度粉砕機に投入し、十分に混合粉砕を行い、その後、バインダ溶液を添加し、十分に混合し、これによりセラミックスラリーを得る。
【0057】
尚、バインダ溶液は、特に限定されるものではなく、例えばポリビニルブチラール樹脂等の有機バインダをエタノールやトルエン等の有機溶媒に溶解させ、必要に応じて可塑剤等の添加物を添加したものを使用することができる。
【0058】
次いで、このように形成されたセラミックスラリーをドクターブレード法等の成形加工法を使用してシート状に成形し、所定寸法に切断し、セラミックグリーンシートを得る。そして、このセラミックグリーンシートを所定枚数積層して圧着した後、所定寸法に切断し、セラミック成形体を得る。
【0059】
次に、このセラミック成形体を、大気雰囲気下、300〜500℃で脱バインダ処理し、その後1150〜1250℃で大気雰囲気下、焼成処理を行ない、これにより酸化物セラミックスが作製される。
【0060】
このように本酸化物セラミックスによれば、主成分が、少なくともSr、Co、及びFeを含有したフェライト化合物で形成され、Siが、前記主成分に対し、モル比xに換算して0.01〜0.2の範囲で含有されると共に、Mgが、前記Feの一部を置換した形態で含有され、かつ、前記主成分中の前記Mgの含有量は、モル比yに換算して0.03〜0.3であるので、絶縁性能や電気分極等の強磁性誘電体特性を損なうことなく、透磁率の温度特性を向上させることができる。
【0061】
次に、本酸化物セラミックスを使用したセラミック電子部品を詳述する。
【0062】
図1は、本発明に係るセラミック電子部品としての可変インダクタの一実施の形態を示す正面図であり、
図2は、その断面図である。
【0063】
この可変インダクタは、上記酸化物セラミックスで形成された部品素体1と、該部品素体1の両端部に形成された外部電極2a、2bとを有している。
【0064】
また、この可変インダクタは、高周波信号が流れた際に部品素体1内を磁束が通過するようにコイルが配されている。具体的には、この実施の形態では、Cu等の導電性材料で形成されたコイル4が、外部電極2aと外部電極2bとを懸架するように巻回されている。
【0065】
さらに、部品素体1には、内部電極3a〜3cが並列状に埋設されている。そして、これら内部電極3a〜3cのうち、内部電極3a、3cは一方の外部電極2aに電気的に接続され、内部電極3bは他方の外部電極2bに接続されている。このセラミック電子部品は、内部電極3aと内部電極3b、及び内部電極3bと内部電極3cとの間で静電容量の取得が可能とされている。
【0066】
尚、外部電極2a、2b及び内部電極3a〜3cを形成する電極材料としては、良導電性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、Pd、Pt、Ag、Ni、Cu等各種金属材料を使用することができる。
【0067】
このように構成された可変インダクタでは、部品素体1が、上述した強磁性誘電体からなる酸化物セラミックスで形成され、かつコイル4が外部電極2aと外部電極2bとを懸架するように巻回されているので、コイル4に高周波信号が入力されると、矢印A方向に生じた磁束が部品素体1内を通過し、コイルの巻き数や素子形状、及び部品素体1の透磁率に応じたインダクタンスが得られる。また、外部電極2a、2bに電界(電圧)が印加されると、電気磁気効果により磁化の変化(透磁率の変化)が生じ、コイルのインダクタンスLを変化させることが可能となる。そして、電界(電圧)を変化させることにより、インダクタンスLの変化率ΔLを制御することが可能となる。
【0068】
そして、部品素体1が、上述した本発明の酸化物セラミックスで形成されているので、雰囲気温度が変化しても透磁率の変動が抑制できることから、絶縁性能や電気磁気効果を損なうこともなく、透磁率の温度特性が良好で信頼性に優れた可変インダクタを得ることができる。
【0069】
上記可変インダクタは、以下のようにして製造することができる。
【0070】
まず、上記酸化物セラミックスの製造方法と同様の方法・手順で、セラミックグリーンシートを作製する。
【0071】
次いで、Pd等の導電性材料を主成分とする内部電極用導電性ペーストを用意する。そして、内部電極用導電性ペーストをセラミックグリーンシートに塗布し、該セラミックグリーンシートの表面に所定パターンの導電層を形成する。
【0072】
この後、導電層の形成されたセラミックグリーンシートと導電膜の形成されていないセラミックグリーンシートとを所定順序で積層し、その後、所定寸法に切断し、セラミック成形体を得る。
【0073】
次に、このセラミック成形体を、大気雰囲気下、300〜500℃で脱バインダ処理し、その後1150〜1250℃で大気雰囲気下、焼成処理を行ない、さらにその後酸素雰囲気中で熱処理を行い、部品素体1を作製する。
【0074】
次いで、この部品素体1の両端部にAg等を主成分とする外部電極用導電性ペーストを塗布し、焼付処理を行い、その後、分極処理を行い、これにより可変インダクタが作製される。
【0075】
上記分極処理は、より大きな電気磁気効果を得る観点からは、磁場中で行うのが好ましく、以下では分極処理を磁場中で行う場合について述べる。
【0076】
まず、1T以上の磁場を印加して磁場分極を行い、次いで、この磁場を印加した状態で磁界の方向と直交する方向に0.5〜2kV/mm程度の電界を印加し、さらにこの電界を印加した状態で磁場の大きさを0.1〜0.5Tまで徐々に下げ、これにより電気分極を行う。そして、このように磁場中で分極処理を行うことにより、より大きな電気磁気効果を得ることができる。
【0077】
尚、上記実施の形態では内部電極を有しているが、内部電極を有さない場合、部品素体1の両主面にPtやAg等からなる表面電極を形成し、分極処理を行う。
【0078】
このように本実施の形態では、電界を印加することにより、磁化(透磁率)を変化させることができ、これによりコイルのインダクタンスLを変化させることが可能となる。しかも印加される電界を調整することにより、インダクタンスLの変化率を制御することができ、透磁率の温度特性が良好で信頼性の優れた可変インダクタを得ることが可能となる。
【0079】
尚、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本酸化物セラミックスの一例として、一般式(A)を挙げたが、少なくともSr、Co、Fe、Si、Mgを含んでいればよく、例えばSrの一部をBaで置換してもよく、Zr等の添加物を含有していても良い。また、Sr、Co、Feのモル比についても、若干の組成ズレが生じても特性に影響を及ぼさない範囲で許容される。
【0080】
また、本発明のセラミック電子部品は、上記した可変インダクタ以外にも発電素子としても使用可能である。
【0081】
すなわち、本セラミック電子部品では、磁場印加により強誘電体化して強誘電相が出現し、磁場の非印加による磁界の消滅時には電気磁気電流の変位電流が流れる。したがって、強磁性相の出現、消滅を繰り返す交流磁場中では、本セラミック電子部品は電荷(電気磁気電流)を吐き出し続けることとなるため、電磁誘導素子と同様に発電素子として利用することが可能となる。しかも、電気分極Pが大きいほど大きなエネルギーが得られるため、本発明の組成範囲であれば、良好な発電特性を得ることが可能となる。
【0082】
また、例えば、可撓性を有するステンレス基板等の基板上に上記セラミック電子部品を貼着し、磁場中で上記基板を振動させ、セラミック電子部品に印加される磁界の大きさを変化させることにより、所望の発電作用を得られることから、圧電体を利用した発電素子と同様の使用が可能となる。
【0083】
すなわち、圧電体を利用した発電素子では、圧電体自体を振動させて歪ませているため、大きな力が負荷されると圧電体自体が破損するおそれがある。
【0084】
これに対し本セラミック電子部品では、部品素体自体を歪ませる必要がなく、耐久性に優れた発電素子の実現が可能となる。
【0085】
さらに、本セラミック電子部品は、磁場の大きさに応じて電流を出力する磁気センサ、コイルに流れた電流が形成する磁場の大きさに応じて電流を出力する電流センサにも使用可能である。
【0086】
また、上記実施の形態では、磁場中で磁場方向と直交する方向に電気分極を行なっているが、結晶粒子が多結晶体の場合は、磁場の方向と電気分極の方向は同一方向であっても大きな電気磁気効果を得ることができる。
【0087】
また、磁場分極後に、磁場を非印加状態とし、電気分極を行なっても大きな電気磁気効果を得ることができ、使用形態や環境等に応じて適宜選択することができる。
【0088】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0089】
〔試料の作製〕
セラミック素原料としてFe
2O
3、SrCO
3、Co
3O
4、MgCO
3、及びSiO
2を用意した。
【0090】
次いで、一般式[Sr
3Co
2Fe
24-yMg
yO
41−xSiO
2]において、x、yが、焼成後に表1に示すモル比となるように、セラミック素原料を秤量した。
【0091】
次に、このようにして秤量されたセラミック素原料をPSZボール、水系高分子分散剤(花王社製、カオーセラ2210)及び純水と共にポリエチレン製のポットミルに投入し、16時間混合粉砕し、混合物を得た。
【0092】
次に、上記混合物を乾燥させ、整粒した後、大気雰囲気下、1100℃の温度で4時間仮焼し、仮焼物を得た。
【0093】
一方、別途、ポリビニルブチラール系バインダ樹脂(積水化学工業社製、エスレックB「BM−2」)をエタノールとトルエンの混合溶媒に溶解させ、可塑剤を添加してバインダ溶液を作製した。
【0094】
そして、上記仮焼物を整粒した後、PSZボール、溶剤系分散剤(花王社製、カオーセラ8000)、及びエタノールとトルエンの混合溶媒をポットミルに投入し、24時間混合粉砕し、その後、上記バインダ溶液を添加し、再度12時間混合し、これによりセラミックスラリーを得た。
【0095】
次いで、このように作製されたセラミックスラリーをドクターブレード法を使用し、厚みが約50μmのシート状に成形し、金型を使用して所定寸法に切断し、セラミックグリーンシートを得た。そして、このセラミックグリーンシートを所定枚数積層し、196MPaの圧力で圧着し、厚みが0.6mm又は1.2mmの2種類のシート成形品を得た。
【0096】
そして、厚みが0.6mmのシート成形品については、長さ:12mm、幅:12mmに切断し、シート状成形体とした。
【0097】
また、厚さ1.2mmのシート成形品については、打ち抜き加工を行って外径20mm、内径10mmのリング状成形体とした。
【0098】
次に、これらシート状成形体及びリング状成形体を、大気雰囲気下、500℃で脱バインダ処理し、その後1190℃で大気雰囲気下、18時間焼成処理を行ない、さらに、酸素雰囲気下、1150℃の温度で10時間熱処理を行ない、これによりシート状焼結体及びリング状焼結体を作製した、
焼成後の焼結体寸法は、シート状焼結体が、長さ:10mm、幅:10mm、厚み:0.5mmであり、リング状焼結体が、外径:16.4mm、内径:8.1mm、厚み:1.0mmであった。
【0099】
そして、リング状焼結体について、Cu線を肉厚部に40回巻回してコイルを形成し、これにより透磁率測定用の試料番号1〜21の各試料を得た。
【0100】
また、シート状焼結体について、Ptをターゲット物質にしてDCスパッタリングを行い、厚みが約300nmの表面電極を前記シート状焼結体の両主面に作製し、電気磁気特性測定用の試料番号1〜21の各試料を得た。尚、DCスパッタリングは、5mmTに調整された真空容器中にArガスを供給し、150Wの電力を供給して行った。
【0101】
上記試料番号1〜21の各試料について、誘導結合プラズマ発光分光(ICP)法及び蛍光X線分析(XRF)法を使用して組成分析したところ、各試料は表1のような組成を有することが確認され、また、各試料について、X線回折(XRD)法で結晶構造を調べたところ、主成分が六方晶Z型結晶構造を有していることが確認された。
【0102】
次に、電気磁気特性測定用の各試料に分極処理を施した。
【0103】
図3は、分極処理装置を模式的に示した斜視図である。
【0104】
この分極処理装置は、部品素体21の両主面に表面電極22a、22bが形成された試料23に信号線24a、24bが接続され、該信号線24aと信号線24bとの間には直流電源25が介装されている。
【0105】
尚、試料23は、上述したよう内部電極を有しており、該試料23に印加される磁界の方向(矢印Bで示す。)と電気分極が行われる電界の方向(矢印Cで示す。)とが直交するように配されている。
【0106】
そして、まず、電磁石(図示せず。)を使用し、室温で1.5Tの直流磁場を1分間印加し、矢印B方向に磁場分極を行った。次いで、表面電極22a、22b間に800V/mmの電界を印加しつつ、磁場の大きさを1.5Tから0.5Tまで徐々に低下させ、0.5Tの磁場中で3分間、矢印C方向に電気分極を行った。このように磁場中で分極処理を行うことにより、より大きな電気磁気効果を得ることが可能となる。
【0107】
次に、電界及び磁界を非印加状態とし、評価試料を1時間程度放置した。このように分極処理を行った後、所定時間放置することにより、更に大きな電気磁気効果を得ることが可能となる。
【0108】
〔試料の評価〕
(電気分極P及び比抵抗ρの測定)
電気磁気特性測定用の各試料について、電気磁気電流を測定し、該電気磁気電流から電気分極Pを求めた。
【0109】
図4は、試料23の電気磁気電流測定装置を模式的に示した斜視図である。
【0110】
この特性評価装置は、
図3の直流電源25に代えてピアコンメータ(米国ケースレー・インスツルメント社製、6487)26が設けられており、評価試料は、
図3と同様、印加する磁界の方向と電気分極時の電界の方向とが直交するように配されている。
【0111】
そして、低温クライオスタット(東陽テクニカ製社製、LN−Z型)で25℃の温度に制御しながら、電磁石を使用し、0〜0.21Tの磁場範囲で、1.7T/分の速度で複数回往復掃引し、その時に試料から吐き出される電荷、すなわち電気磁気電流をピアコンメータ26で計測した。
【0112】
次いで、この電気磁気電流の電流密度Jを時間で積分し、強誘電体の指標となる電気分極Pを求めた。
【0113】
すなわち、電気磁気電流の電流密度Jは、数式(3)で表わすことができる。
【0114】
J=dP/dt …(3)
したがって、電気磁気電流の電流密度Jを時間tで積分することにより、電気分極Pを求めることができる。
【0115】
ここで、電気分極Pが強磁性誘電体特性の指標となる理由を説明する。
【0116】
強磁性誘電特性の指標として数式(4)で定義される電気磁気結合係数αが知られている。
【0117】
α=μ
0(dP/dB)…(4)
ここで、μ
0は真空の透磁率(=4π×10
-7H/m)である。
【0118】
したがって、磁場B(T)の変化に対する電気分極Pの変化は、数式(5)で表わされる。
【0119】
dP/dB=(dP/dt)/(dB/dt)=J/(dB/dt)…(5)
ここで、dB/dtは磁場の掃引速度を示している。
【0120】
そして、数式(5)に上記数式(4)を代入すると電気磁気結合係数αは数式(6)で表わすことができる。
【0121】
α=(μ
0・J)/(dB/dt)…(6)
したがって、電気磁気結合係数αは、真空の透磁率μ
0と電流密度Jとの積を磁場の掃引速度(dB/dt)で除算することにより求めることができる。
【0122】
そして、数式(6)から明らかなように、電気磁気結合係数αは、電気磁気電流の電流密度Jが大きい試料ほど大きくなり、したがって数式(3)より電気分極Pが大きいほど大きな電機磁気効果を得ることができ、所望の強磁性誘電体を得ることができる。
【0123】
図5は、試料番号16の電流密度及び電気分極の特性を示した図である。
【0124】
横軸が時間t(sec)、右縦軸が電気分極P(μC/m
2)、左縦軸が電流密度J(μA/m
2)である。
【0125】
この
図5から明らかなように、この試料番号16では、電流密度Jが3.5μA/m
2と大きく、電気分極Pは12.3μC/m
2と10μC/m
2以上の大きな値が得られており、強磁性誘電体としての特性を発現していることが分かる。
【0126】
尚、試料番号1〜15、17〜21についても、上述と同様、電気磁気電流を測定し、電気分極Pを求めたが、この電気分極Pは、セラミック組成のみならず、磁場分極、電界分極の条件によって若干異なることから、全ての試料について同一条件で分極処理を行った。
【0127】
次に、試料番号1〜21の各試料について、エレクトロメータ(ADCMT社製、8252)を使用し、2端子法で比抵抗ρを求めた。
【0128】
(透磁率の測定)
B−Hアナライザ(岩通計測社製、SY−8232、SY−301)を使用し、10℃、20℃、25℃、30℃及び35℃でのB−H曲線(磁気ヒステリシス曲線)を求めた。
【0129】
図6は、磁場の大きさを0〜4000A/mの範囲で異ならせた場合の試料番号16のB−H曲線を示している。図中、横軸が磁場H(A/m)、縦軸が磁束密度B(mT)である。
【0130】
そして、B−H曲線から各磁場おける透磁率(=B/H)を求め、数式(7)に基づき、温度25℃を基準にした+10〜+35℃おける透磁率変化率Δμを求めた。
【0131】
Δμ={(μ2−μ3)/μ1}×100 …(7)
ここで、μ1は、温度25℃のときの透磁率、μ2は、温度35℃における透磁率、μ3は、温度10℃における透磁率である。
【0132】
表1は、試料番号1〜21の各試料の成分組成、比抵抗ρ、電気分極P、及1000A/mの磁場での透磁率変化率Δμを示している。
【0133】
尚、電気分極Pが10μC/m
2以上、比抵抗ρが100MΩ・cm以上で、透磁率変化率Δμが35%以下を良品と判断し、それ以外を不良品と判断した。
【0134】
【表1】
【0135】
試料番号1は、比抵抗ρ及び電気分極Pは良好であるが、酸化物セラミックス中にSiもMgも含有されていないため、透磁率変化率Δμは56.5%と大きく、透磁率μの温度特性に劣ることが分かった。
【0136】
試料番号2は、SiO
2を含有しているものの、モル比xが0.01と少ないため、透磁率変化率Δμが55.1%と大きく、試料番号1と同様、透磁率μの温度特性に劣ることが分かった。
【0137】
また、試料番号3〜5は、SiO
2のモル比xを0.04〜0.237の範囲で異ならせているが、Mgが含有されておらず、このためSiO
2の含有量が増加するに伴い、比抵抗ρが低下し、絶縁性能に劣ることが分かった。これは結晶粒界に存在する4価のSiがFeサイトに若干固溶し、伝導電子を生成しているものと考えられる。したがって、これら試料番号3〜5では比抵抗ρが100MΩ・cm以下となり磁場分極、電界分極を行うことができなかったため、電気分極Pは測定できなかった。
【0138】
また、試料番号9、13は、SiO
2のモル比xが0.237と過剰に含有されており、しかもMgのモル比yも0.03又は0.1と少ないため、比抵抗ρが100MΩ・cm以下に低下し、このため、試料番号3〜5と同様、磁場分極、電界分極を行うことができず、電気分極Pは測定できなかった。
【0139】
また、試料番号17は、SiO
2のモル比xが0.237と過剰に含有されており、Mgのモル比yも0.3と本発明範囲内であるものの比較的多いことから、電気分極Pが3.5μC/m
2と低くなった。すなわち、SiO
2のモル比xが0.237と過剰に含有されていることから、SiO
2の結晶粒界への偏析量が増加する上に、Mgも比較的多く含有されているため、該MgもFeサイトへの固溶限界を超えて結晶粒界に偏析すると考えられる。したがって、MgとSiとの間で化合物が形成されて偏析相が生じ、このため比抵抗は大きいものの、電気分極を行う際に、印加された電界が結晶粒界の偏析相に集中して結晶粒子に印加されず、電気分極Pが低くなったものと思われる。
【0140】
試料番号18〜21は、Mgのモル比yが0.4と過剰に含有されているため、電気分極Pが低くなり、十分な電気磁気効果を得ることができなかった。
【0141】
これに対し、試料番号6〜8、10〜12、及び14〜16は、モル比xが0.01〜0.2、モル比yが0.03〜0.3といずれも本発明範囲内であるので、比抵抗ρは100MΩ・cm以上となって良好な絶縁性能を確保でき、また、電気分極Pも10μC/m
2以上となって良好な電気磁気効果を得ることができ、かつ透磁率変化率Δμも35%以下に抑制でき、したがって温度変化が生じても透磁率の変動が小さく、温度特性の良好な酸化物セラミックスが得られることが分かった。
【0142】
図7は、本発明試料である試料番号16の磁場Hと透磁率変化率Δμとの関係を示す図であり、
図8は本発明範囲外試料である試料番号1の磁場Hと透磁率変化率Δμとの関係を示す図である。
【0143】
図7及び
図8において、横軸は磁場H(A/m)、縦軸は透磁率変化率Δμである。
【0144】
図8から明らかなように、本発明範囲外の試料番号1は、磁場Hが1000A/mの場合で変動幅が最大となっている。そしてこの場合、透磁率は、25℃を基準にすると35℃の場合で30%増加し、10℃で26.5%減少し、+10℃〜+35℃の範囲で56.5%変動することが分かる。
【0145】
これに対し
図7に示すように、本発明範囲の試料番号16では、磁場Hが1000A/mの場合で、透磁率は、25℃を基準にすると35℃の場合で+15%の増加に留まり、10℃で14.1%の減少に留まり、+10℃〜+35℃の範囲で29.1%に抑制できることが分かった。また、この試料番号16では、磁場Hが約1200A/mで透磁率変化率Δμは変動幅が最大となっているが、その場合であっても、透磁率は、25℃を基準にすると35℃の場合で+14%の増加に留まり、10℃で21%の減少に留まり、+10℃〜+35℃の範囲で35%に抑制できることが分かった。
【実施例2】
【0146】
セラミック素原料としてFe
2O
3、SrCO
3、Co
3O
4、MgCO
3、SiO
2、及びBaCO
3を用意した。
【0147】
そして、焼成後の組成が、表2となるようにセラミック素原料を秤量した以外は、実施例1と同様の方法・手順で、試料番号31〜33の試料を作製した。
【0148】
尚、試料番号31〜33の各試料の組成分析は、実施例1と同様、ICP法及びXRF法を使用して行い、結晶構造はXRD法で確認した。
【0149】
次いで、これら試料番号31〜33の各試料について、実施例1と同様の方法・手順で電気分極P、比抵抗ρ、及び透磁率変化率Δμを測定した。
【0150】
表2は、各試料の組成成分とその測定結果を示している。
【0151】
【表2】
【0152】
この試料番号31〜33から明らかなように、Srの一部をBaで置換したり、SrやFeの含有モル量が理論化学量論比から若干ズレが生じても、SiO
2のモル比xが0.01≦x≦0.2、Mgのモル比yが0.03≦y≦0.3と本発明範囲内であれば、比抵抗ρが100MΩ・cm以上で、電気分極Pは10μC/m
2以上であり、かつ磁場の大きさが1000A/mで透磁率変化率Δμを35%以下に抑制できることが確認された。