特許第6195111号(P6195111)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195111
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】中空押出材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B21C 23/08 20060101AFI20170904BHJP
   B21C 23/00 20060101ALI20170904BHJP
   B21C 29/04 20060101ALI20170904BHJP
   C22C 21/02 20060101ALI20170904BHJP
   B21C 23/32 20060101ALI20170904BHJP
   C22C 1/05 20060101ALN20170904BHJP
   B22F 3/20 20060101ALN20170904BHJP
【FI】
   B21C23/08 A
   B21C23/00 A
   B21C29/04
   C22C21/02
   B21C23/32
   !C22C1/05 C
   !B22F3/20 A
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-250525(P2013-250525)
(22)【出願日】2013年12月3日
(65)【公開番号】特開2015-107496(P2015-107496A)
(43)【公開日】2015年6月11日
【審査請求日】2016年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】593016411
【氏名又は名称】住友電工焼結合金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(72)【発明者】
【氏名】重住 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】鍛冶 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 理恵
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−082169(JP,A)
【文献】 特開2000−096108(JP,A)
【文献】 特開昭54−026269(JP,A)
【文献】 特開昭62−107815(JP,A)
【文献】 特開昭62−184096(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21C 23/00−35/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のダイスと、棒状のマンドレルとを用いて、アルミニウム合金素材を前記ダイスの内周と前記マンドレルの外周との間から熱間押出して中空押出材とする中空押出材の製造方法であって、
液体にグラファイトを分散させたグラファイト潤滑剤と、液体に酸化物ガラスを溶解させたガラス潤滑剤とを準備する準備工程と、
前記マンドレルが前記アルミニウム合金素材と接触する領域の全表面に前記グラファイト潤滑剤と前記ガラス潤滑剤とを塗布した状態で前記熱間押出を行う押出工程とを備える中空押出材の製造方法。
【請求項2】
前記マンドレルに塗布された前記グラファイトと前記酸化物ガラスとの比率は、質量比で2:8〜8:2である請求項1に記載の中空押出材の製造方法。
【請求項3】
前記マンドレルは、300℃以上540℃以下の温度である請求項1または請求項2に記載の中空押出材の製造方法。
【請求項4】
前記アルミニウム合金素材は、
Siを15.5質量%以上18.5質量%以下、
Feを4.3質量%以上5.7質量%以下、
Mnを0.3質量%以上0.7質量%以下、
Mgを0.8質量%以上1.3質量%以下、
Cuを3.1質量%以上3.8質量%以下、
Al2O3を2.5質量%以上3.5質量%以下含有し、
残部がAl及び不可避的不純物の組成を備える請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の中空押出材の製造方法。
【請求項5】
前記酸化物ガラスは、リン酸系ガラスである請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の中空押出材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金を主成分とするアルミニウム合金素材を熱間押出により中空押出材とする中空押出材の製造方法、及び中空押出材に関する。特に、高強度なアルミニウム合金素材の熱間押出に好適な中空押出材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムやその合金からなる筒や管などの中空体は、自動車用部品あるいは自動二輪車用部品のシリンダブロックやシリンダスリーブとして広く利用されている。特許文献1には、薄肉・高速押出が可能であり、高強度で耐摩耗性に優れるシリンダスリーブ用合金が開示されている。このシリンダスリーブ用合金は、Cuの含有量を実質的にゼロとすることで薄肉・高速押出を可能とし、Feを比較的多く含有することで強度を向上させたアルミニウム合金である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−72474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱間押出により製造する中空押出材に上記アルミニウム合金を利用することで、高強度な中空押出材を得ることができる。しかし、上記アルミニウム合金のような高強度なアルミニウム合金を熱間押出する場合、合金自体の変形(押出)抵抗が高いため、塑性変形させるために必要な押出圧力が高い傾向にある。例えば、押出圧力の大きい押出機を用いれば、高強度なアルミニウム合金からなる被加工材でも押出し易くなるが、設備が大がかりになり易い。一方、押出圧力の小さい押出機を用いれば、上記被加工材は一様な厚さの成形体を成形できない場合がある。よって、高強度なアルミニウム合金の熱間押出について更なる改善の余地がある。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、本発明の目的の一つは、高強度なアルミニウム合金素材の熱間押出に好適な中空押出材の製造方法を提供することにある。また、本発明の別の目的は、焼付が実質的に生じていない内面を有する中空押出材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の中空押出材の製造方法は、環状のダイスと、棒状のマンドレルとを用いて、アルミニウム合金素材を前記ダイスの内周と前記マンドレルの外周との間から熱間押出して中空押出材とする製造方法であって、準備工程と押出工程とを備える。準備工程は、液体にグラファイトを分散させたグラファイト潤滑剤と、液体に酸化物ガラスを溶解させたガラス潤滑剤とを準備する。押出工程は、前記マンドレルが前記アルミニウム合金素材と接触する領域の全表面に前記グラファイト潤滑剤と前記ガラス潤滑剤とを塗布した状態で前記熱間押出を行う。
【発明の効果】
【0007】
本発明の中空押出材の製造方法によれば、高強度なアルミニウム合金素材であっても容易に押出できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態で使用した間接押出機を用いたアルミニウム合金素材の押出過程の概略説明図である。
図2】実施形態に係る中空押出材の製造方法によって製造された試料No.1の中空押出材の長さ方向の外径を示すグラフである。
図3】実施形態に係る中空押出材の製造方法によって製造された試料No.100の中空押出材の長さ方向の外径を示すグラフである。
図4】試料No.1の中空押出材の内周面の走査型電子顕微鏡写真(100倍)である。
図5】試料No.1の中空押出材の内周面の走査型電子顕微鏡写真(400倍)である。
図6】試料No.100の中空押出材の内周面の走査型電子顕微鏡写真(100倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本発明の実施形態の説明]
本発明者らは、高強度なアルミニウム合金の熱間押出を行うにあたり、マンドレルの表面に潤滑剤を塗布することを検討した。摺動部材の潤滑剤として一般的に用いられているグラファイトをマンドレルに塗布したところ、無潤滑時よりも小さな押出圧力で押出すことができた。しかしまだ、必要な押出圧力が高い傾向にあり、むしれなどの表面欠陥が発生し易いことがわかった。マンドレルは、後の試験例で詳述するように、押出加工によってマンドレルの長さ方向に沿って300℃〜540℃程度の温度分布が生じており、上記むしれは、特にマンドレルが高温となる領域で発生していることが判明した。そこで、マンドレルの押出時の温度にかかわらず、高強度なアルミニウム合金を容易に押出可能であり、むしれが少ない中空押出材が得られる製造方法を検討し、本発明を完成するに至った。以下、本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
【0010】
(1)実施形態の中空押出材の製造方法は、環状のダイスと、棒状のマンドレルとを用いて、アルミニウム合金素材を前記ダイスの内周と前記マンドレルの外周との間から熱間押出して中空押出材とする製造方法であって、準備工程と押出工程とを備える。準備工程は、液体にグラファイトを分散させたグラファイト潤滑剤と、液体に酸化物ガラスを溶解させたガラス潤滑剤とを準備する。押出工程は、前記マンドレルが前記アルミニウム合金素材と接触する領域の全表面に前記グラファイト潤滑剤と前記ガラス潤滑剤とを塗布した状態で前記熱間押出を行う。
【0011】
上記方法によれば、マンドレルがアルミニウム合金素材と接触する領域の全表面(以下、マンドレルの全表面と呼ぶことがある)にグラファイト潤滑剤とガラス潤滑剤とを塗布することで、マンドレルの押出時の温度にかかわらず、高強度なアルミニウム合金素材を容易に熱間押出できる。潤滑剤として用いるグラファイトは、約400℃以下の低温域において動摩擦係数が小さく潤滑性能を発揮し易いが、約400℃超の高温域においては潤滑性能を発揮し難い。一方、潤滑剤として用いる酸化物ガラスは、約400℃超の高温域において動摩擦係数が小さく潤滑性能を発揮し易いが、約400℃以下の低温域においては潤滑性能を発揮し難い。本実施形態では、約400℃以下の低温域ではグラファイト潤滑剤が潤滑性能を発揮し、約400℃超の高温域ではガラス潤滑剤が潤滑性能を発揮するため、押出時のマンドレルの温度に対応した潤滑性能を発揮することができる。よって、全長に亘ってむしれが少ない、好ましくはむしれが実質的に発生していない中空押出材を容易に製造することができる。むしれが発生しないことで、内径・外径のばらつきが小さい中空押出材を容易に製造できる。また、むしれの除去を行う必要がないため、薄肉の中空押出材を製造することが可能である。
【0012】
(2)実施形態の中空押出材の製造方法としては、前記マンドレルに塗布された前記グラファイトと前記酸化物ガラスとの配合比率は、質量比で2:8〜8:2であることが挙げられる。
【0013】
マンドレルに塗布されたグラファイトと酸化物ガラスとの配合比率として、酸化物ガラスが20質量%以上であることで、高温域において潤滑性能を十分に確保することができる。一方、酸化物ガラスが80質量%以下であることで、グラファイトをバランスよく配合することができ、低温域においても十分に潤滑性能を確保することができる。
【0014】
(3)実施形態の中空押出材の製造方法としては、前記マンドレルは、300℃以上540℃以下の温度であることが挙げられる。
【0015】
マンドレルの温度が上記範囲であることで、本実施形態の中空押出材の製造方法がより効果的に発揮される。
【0016】
(4)実施形態の中空押出材の製造方法としては、前記アルミニウム合金素材は、Siを15.5質量%以上18.5質量%以下、Feを4.3質量%以上5.7質量%以下、Mnを0.3質量%以上0.7質量%以下、Alを2.5質量%以上3.5質量%以下含有し、残部がAl及び不可避的不純物の組成を備えることが挙げられる。
【0017】
上記組成を備えるアルミニウム合金素材を用いることで、高強度な中空押出材を得ることができる。このような高強度なアルミニウム合金であっても、本実施形態の中空押出材の製造方法によれば、容易に熱間押出でき、むしれが少ない、好ましくはむしれが実質的に発生していない中空押出材を製造することができる。
【0018】
(5)実施形態の中空押出材の製造方法としては、前記酸化物ガラスは、リン酸系ガラスであることが挙げられる。
【0019】
リン酸系ガラスは、P,Al,NaO,KOを含み、水に時間オーダーである程度溶解する。酸化物ガラスが液体に溶解することで、ガラス潤滑剤をマンドレルの表面に塗布し、加熱によって液体をとばすことで、マンドレル上に酸化物ガラスを均一的に付着できる。
【0020】
(6)実施形態の中空押出材として、上記(1)〜(5)のいずれか1つの実施形態の中空押出材の製造方法によって製造されたものを提案する。
【0021】
実施形態の中空押出材は、押出時のマンドレルの温度に対応した潤滑性能を有する潤滑剤が表面に塗布されたマンドレルを用いて熱間押出して形成されるため、マンドレルとアルミニウム合金素材との間の潤滑性能が確保され、マンドレルと摺接することによる焼付が実質的に生じていない内面を有する。かつ、実施形態の中空押出材は、実施形態の中空押出材の製造方法によって容易に押出して得られることから、生産性に優れる。
【0022】
[本発明の実施形態の詳細]
本発明の実施形態の詳細を、以下に説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0023】
〔中空押出材の製造方法〕
実施形態の中空押出材の製造方法は、ダイスとマンドレルとを備える間接押出機を用いて、アルミニウム合金素材を押出して中空押出材を成形する方法である。本実施形態の中空押出材の製造方法の主たる特徴は、マンドレルの表面に後述する潤滑剤を塗布した状態で熱間押出を行う点にある。まず、図1を参照して、熱間押出に使用する間接押出機の一例を説明し、続いて間接押出機を用いてアルミニウム合金素材を押出して中空押出材とする製造方法を説明する。
【0024】
《間接押出機》
間接押出機100は、コンテナ110と、ダイス121及びステム122を有するダイステム120と、ラム130と、ダミーブロック140と、マンドレル150とを備える。
【0025】
コンテナ110は、後述する被加工材を内部に収納して被加工材を加圧するための部材であり、両端が開口する筒状に構成されている。このコンテナにはヒータといった加熱手段(図示せず)が設けられており、その発熱により被加工材を加熱できる。コンテナ110の一端側(図1左側)には、コンテナ110の内周面に接する環状のダイステム120が配置されている。ダイステム120は、押出により成形される成形品の外径を規定する環状のダイス121と、ダイス121を支持するステム122とを有する。一方、コンテナ110の他端側には、コンテナ110の端面に当接される中空状のラム130が設けられている。ラム130におけるダイス121との対向面には、コンテナ110の内周面に接する環状のダミーブロック140を当接させている。ラム130及びダミーブロック140の中心には、棒状(円柱状)のマンドレル150を挿通させて一体に固定している。それにより、マンドレル150はコンテナ110に対して位置決めされている。
【0026】
間接押出機100は、ダイステム120が図示しない本体装置に固定され、コンテナ110がラム130によりダイステム120側へと移動する。このとき、ラム130及びコンテナ110の移動に伴い、ダミーブロック140及びマンドレル150もダイステム120側へコンテナ110と一体に移動する。マンドレル150は、移動方向先端(図1左側)をプラー(図示せず)で牽引しながら、コンテナ110と一体に移動する。コンテナ110のダイステム120側への移動に伴い、コンテナ110内の被加工材に圧力を付加して被加工材をダイス121の内周とマンドレル150の外周との間から押出す。つまり、コンテナ110のダイステム120側への移動に伴い、被加工材であるアルミニウム合金素材1も一緒にダイステム120側へ移動する。なお、コンテナ110(他に、ラム130,ダミーブロック140,マンドレル150)を固定し、ダイステム120をコンテナ110側へ移動させてもよい。
【0027】
(マンドレル)
マンドレル150は、被加工材に挿入され、コンテナ110のダイステム120側への移動により被加工材をダイス121から押出して成形される成形品の内径を規定する棒状体である。マンドレル150の径は、ダイス121の内径よりも小さく、成形品の所望の内径となるように適宜選択すればよい。
【0028】
〔製造方法〕
上記間接押出機100を用いて本実施形態の中空押出材の製造方法を説明する。具体的には、筒状のアルミニウム合金素材を準備する素材準備工程と、アルミニウム合金素材を間接押出機100に装填する装填工程と、マンドレルの表面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布工程と、アルミニウム合金素材を押出して中空押出材を成形する押出工程とを備える。
【0029】
《素材準備工程》
素材準備工程で準備するアルミニウム合金素材1は、アルミニウム合金を主成分とする。アルミニウム合金を主成分とするとは、添加元素を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金の場合と、上記アルミニウム合金にさらに硬質粒子を含有する場合とを含む。添加元素としては、例えば、Si,Fe,Mn,Mg及びCuの少なくとも一種が挙げられる。硬質粒子としては、例えば、Alが挙げられる。その他、固体潤滑剤として、グラファイト、MoS及びボロンナイトライドなどを含むこともできる。この固体潤滑剤は、後述するグラファイト潤滑剤及びガラス潤滑剤の使用目的とは異なり、成形品(中空押出材:例えばシリンダスリーブ)の使用時に、相手材(例えばピストン)との間の潤滑性を確保するためのものである。アルミニウム合金は、Siを15.5質量%以上18.5質量%以下、好ましくは16.5質量%以上17.5質量%以下含有することが挙げられる。また、Feを4.3質量%以上5.7質量%以下、好ましくは4.7質量%以上5.3質量%以下含有することが挙げられる。Mnは0.3質量%以上0.7質量%以下、好ましくは0.4質量%以上0.6質量%以下含有することが挙げられる。Mgは0.8質量%以上1.3質量%以下、好ましくは0.9質量%以上1.1質量%以下含有することが挙げられる。Cuは3.1質量%以上3.8質量%以下、好ましくは3.5質量%以上3.7質量%以下含有することが挙げられる。Alは2.5質量%以上3.5質量%以下、好ましくは2.8質量%以上3.2質量%以下含有することが挙げられる。アルミニウム合金は、490℃での引張強度が14MPa以上18MPa以下であり、室温での引張強度が400MPa以上440MPa以下である。
【0030】
アルミニウム合金素材1の成形は、例えば、CIP(冷間静水圧プレス)を利用することが挙げられる。この成形によりアルミニウム合金素材1の形状を最終成形品形状(円筒状)とする。
【0031】
《装填工程》
装填工程では、コンテナ110内にアルミニウム合金素材1を装填する。具体的には、コンテナ110内でアルミニウム合金素材1にマンドレル150を挿入した状態にする。そして、アルミニウム合金素材1の一端面には、ダミーブロック140を当接させ、他端面には、ダイス121に当接させた状態とする(図1の上図)。
【0032】
《マンドレルの潤滑剤塗布工程》
マンドレル150の表面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布工程では、用いる潤滑剤を準備する準備工程と、加熱した状態のマンドレル150に潤滑剤を塗布する塗布工程とを備える。ここでは、図1に示すように、マンドレル150がアルミニウム合金素材1と接触する領域Aのうち、マンドレル150の長さ方向両端部を端部領域E1,E2(押出方向の前方の端部をE1、後方の端部をE2)、各端部領域E1,E2の間に位置する箇所を中間領域Mとする。後述する押出加工によって、マンドレル150は、その長さ方向に沿って300℃〜540℃の範囲で温度分布が生じる。具体的には、後の試験例で詳述するが、端部領域E1,E2は、約400℃以下の低温域であり、中間領域Mは、約400℃超の高温域となる。
【0033】
(潤滑剤準備工程)
潤滑剤として、グラファイト潤滑剤とガラス潤滑剤とを準備する。グラファイト潤滑剤は、グラファイトを液体に分散させた潤滑剤である。グラファイトは、約400℃以下の低温域において動摩擦係数が小さく(0.2未満)、潤滑性能を発揮し易い。液体(溶媒または分散媒)として水を用いることができる。グラファイト潤滑剤は、さらにバインダーを含有することもできる。バインダーを含有することで、グラファイト潤滑剤をマンドレルに塗布した際に、グラファイトをマンドレルに付着させ易い。ガラス潤滑剤は、液体に酸化物ガラスを溶解させた潤滑剤である。ガラス潤滑剤は、約400℃超の高温域において動摩擦係数が小さく、潤滑性能を発揮し易い。ガラス潤滑剤として、リン酸系ガラスや、水ガラスなどが挙げられる。ガラス潤滑剤は、被塗布材(ここではマンドレル)への付着性に優れる。グラファイト潤滑剤にガラス潤滑剤を混合することで、グラファイトのマンドレルへの付着性も向上できる。
【0034】
グラファイト潤滑剤とガラス潤滑剤とは、マンドレルの全表面上に塗布されたときに、グラファイトと酸化物ガラスとの比率が2:8〜8:2となるように調整する。この範囲で両者が存在することで、マンドレルの温度にかかわらず、低温域でも高温域でも潤滑性能を発揮できる。マンドレルの全表面上に塗布されたグラファイトと酸化物ガラスの好ましい比率は、質量比で3:7〜7:3であり、より好ましい比率は、質量比で4:6〜6:4である。
【0035】
グラファイト潤滑剤とガラス潤滑剤の各液体を同一とする場合、その液体にグラファイト及び酸化物ガラスを混合することが挙げられる。そうすることで、液体にグラファイトが分散し、酸化物ガラスが溶解した一つの混合潤滑剤を得ることができる。この場合、混合するグラファイトと酸化物ガラスとの比率は、質量比で2:8〜8:2とすればよい。また、グラファイトと酸化物ガラスとの混合物と液体との比率は、質量比で1:10〜1:2.5であり、好ましくは1:6.7〜1:2.9、より好ましくは1:5〜1:3.3である。
【0036】
他に、グラファイト潤滑剤とガラス潤滑剤とを個別に準備しておいて、マンドレルの全表面に各潤滑剤をそれぞれ塗布することもできる。個別に塗布した場合でも、各潤滑剤をマンドレルの全表面に塗布することで、両潤滑剤が同全表面に共存する状態となる。液体とグラファイトとの比率は、質量比で20:1〜5:1とし、液体と酸化物ガラスとの比率は、質量比で20:1〜5:1とすることが挙げられる。
【0037】
潤滑剤の塗布領域は、マンドレル150においてアルミニウム合金素材1と接触する全領域である。マンドレル150が、その長さ方向に亘って上記接触長よりも長い場合、マンドレル150の上記接触領域以上に塗布してもよい。グラファイト潤滑剤とガラス潤滑剤とは、個別に塗布してもよいし、上記混合潤滑剤を用いて塗布してもよい。混合潤滑剤を用いると、マンドレル150への潤滑剤の塗布が行い易い。マンドレル150の全表面にグラファイト潤滑剤とガラス潤滑剤とを塗布することで、低温域(端部領域E1,E2(図1))ではグラファイト潤滑剤が潤滑性能を発揮し、高温域(中間領域M(図1))ではガラス潤滑剤が潤滑性能を発揮する。
【0038】
(塗布工程)
まず、マンドレル150を加熱する。マンドレル150の加熱は、上記装填工程において、コンテナ110内でアルミニウム合金素材1にマンドレル150を挿入した状態で、コンテナ110をヒータといった加熱手段(図示せず)で加熱する。コンテナ110に設けられたヒータの加熱温度は、480℃以上550℃以下とする。コンテナ110を加熱すると、アルミニウム合金素材1を介してマンドレル150が加熱される。そのときのマンドレル150の温度は、300℃以上400℃程度となる。マンドレル150が上記温度に加熱されたら、マンドレル150を一旦コンテナ110から引き抜く。
【0039】
次に、加熱状態のマンドレル150に潤滑剤を塗布する。潤滑剤は、例えば、潤滑剤を貯留するタンク(図示せず)からノズル(図示せず)を介してマンドレル150の表面に噴射塗布することが挙げられる。このとき、マンドレル150を図示しない回転機構によって回転させながらマンドレルの長さ方向に塗布する。そうすることで、マンドレル150の全領域を均一に塗布できる。潤滑剤の塗布中は、上記ノズルの外周をドラムで覆い、潤滑剤が周辺に飛散しないようにすることが挙げられる。また、噴射塗布したがマンドレル150の付着しなかった潤滑剤を回収することで、潤滑剤を再利用することが挙げられる。
【0040】
潤滑剤をマンドレル150に塗布することで、マンドレル150とアルミニウム合金素材1との摺接領域の全域に亘って潤滑性能を確保できる。潤滑剤をアルミニウム合金素材1側に塗布した場合、アルミニウム合金素材1は円筒状であるため、内周面に均一に塗布することは困難である。また、アルミニウム合金素材1がCIP体などの微細な空孔を有する材料である場合、潤滑剤がその空孔に埋没することがあり、上記摺接領域の全域に亘って均一に潤滑性を確保し難い。本実施形態のように、潤滑剤をマンドレル150側に塗布することで、マンドレル150の全表面に均一に潤滑剤を塗布することができる。
【0041】
マンドレル150に潤滑剤を塗布し終えたら、再びコンテナ110内でアルミニウム合金素材1にマンドレル150を挿入する。
【0042】
《押出工程》
押出工程では、図1の下図に示すように、コンテナ110をダイステム120側へ移動させてアルミニウム合金素材1をダイス121の内周とマンドレル150の外周との間から押出してアルミニウム合金の中空押出材10を成形する。この押出工程におけるアルミニウム合金素材1の押出圧力は、310MPa以下、好ましくは240MPa以下とすることが挙げられる。マンドレル150の表面には、上記潤滑剤が塗布されていることで、押出圧力が240MPa以下と小さくても、高強度なアルミニウム合金素材1を容易に押出できる。
【0043】
押出速度は1mm/s〜5mm/sとすることが挙げられ、押出温度は300℃以上580℃以下、押出開始時の押出比は16以上27以下とすることが好ましい。この押出速度範囲であれば、割れや表面欠陥の発生を低減しつつ、生産性を向上できる。ここで言う押出速度は押出機のコンテナ110の速度のことであり、成形品の押出速度は、コンテナ110の速度と押出比との積で表わされる。具体的な成形品の押出速度は、16mm/s以上135mm/s以下とすることが好ましい。
【0044】
《その他の工程》
得られた中空押出材10には、マンドレル150に塗布した潤滑剤が付着する。この潤滑剤を除去する除去工程が挙げられる。その他、中空押出材10に対して、適宜、切断加工、機械加工、仕上げ加工などを施すことが挙げられる。それにより、所望の寸法精度の中空押出材10を得ることができる。
【0045】
ここでは、間接押出機100を用いてアルミニウム合金素材を押出して中空押出材10とした。他に、直接押出機(図示せず)を用いてアルミニウム合金素材を押出して中空押出材とすることもできる。間接押出機では、図1に示すように、コンテナ110のダイステム120側への移動に伴い、被加工材であるアルミニウム合金素材1も一緒にダイステム120側へ移動する。一方、直接押出機では、コンテナは固定されており、被加工材であるアルミニウム合金素材のみが押圧されてダイステム側へ移動する。このとき、コンテナとアルミニウム合金素材との間に摩擦が生じるため、間接押出よりも大きな押圧力を要する。以上より、間接押出機を用いた方が、直接押出機を用いたときよりも小さな押出圧力で押出ができるため、特に高強度なアルミニウム合金素材を押出すのに好適である。また、間接押出機を用いた場合、アルミニウム合金素材はコンテナと一緒に移動するため、両者間に摩擦が生じることがなく、製造される中空押出材の寸法精度が良好となる。
【0046】
〔試験例〕
図1を参照して説明した間接押出機100を用いて、アルミニウム合金素材1を熱間押出して中空押出材10を作製した。そして、中空押出材10の外径を測定し、内径面の組織を調べた。
【0047】
まず、エアアトマイズ法によって、Siを17質量%、Feを5質量%、Mnを0.5質量%、Mgを1質量%、Cuを3.5質量%、Alを3質量%含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金粉末を作製した。次に、CIP(冷間静水圧プレス)によりアルミニウム合金粉末を円筒状に成形してアルミニウム合金素材1を用意した。
【0048】
次に、アルミニウム合金素材1を間接押出機100のコンテナ110内に装填する。コンテナ110内の円筒状のアルミニウム合金素材1の中心孔にマンドレル150を挿入した状態で、コンテナ110をヒータといった加熱手段で480℃に一定加熱する。加熱されたコンテナ110からの熱によって、アルミニウム合金素材1及びマンドレル150が加熱される。このときのアルミニウム合金素材1の温度は約480℃、マンドレル150の温度は約300℃であった。
【0049】
マンドレル150が加熱された状態で、マンドレル150を一旦コンテナ110から引き抜き、マンドレル150の表面に潤滑剤を塗布する。試料No.1では、潤滑剤として、グラファイト潤滑剤とガラス潤滑剤とを用いた。具体的には、デルタフォージF878(ヘンケル社製)のグラファイト(平均粒径が1.3μm)と、C490P(化学的組成(質量%):55.5%P,9.5%Al,20.0%NaO,15.0%KO、千代田化学株式会社製)の酸化物ガラスとを水に混合した混合潤滑剤を用いた。水とグラファイトと酸化物ガラスとの比率は、質量比で8:1:1とした。混合潤滑剤は、グラファイトが水に分散された状態であり、酸化物ガラスが水に溶解した状態の潤滑剤である。また、試料No.100では、上記グラファイトを水に分散させたグラファイト潤滑剤のみを用いた。このとき、水とグラファイトとの比率は、質量比で4:1とした。試料No.1及び試料No.100のそれぞれの潤滑剤は、マンドレル150を回転機構(図示せず)によって回転させながら、マンドレル150においてアルミニウム合金素材1と接触する全表面に亘って均一に塗布した。
【0050】
マンドレル150に潤滑剤を塗布した後、再びマンドレル150をコンテナ110内の円筒状のアルミニウム合金素材1の中心孔に挿入する。そして、ラム130の端面を押圧し、かつマンドレル150の移動方向先端を10kgf/cm(≒0.98MPa)のプラー圧で牽引して、コンテナ110をダイステム120側へ移動させ、アルミニウム合金素材1をダイス121の内周とマンドレル150の外周との間から押出す。その際、ダイス121の押出圧力を220MPa、押出速度1mm/s、押出開始時の押出比を22として押出した。その結果、厚さ6mm(外径:72mm、内径60mm)、長さ6000mmのアルミニウム合金製の中空押出材10が成形された。
【0051】
(中空押出材の外径)
中空押出材の長さ方向において、押出先端の位置を1、押出終端の位置を9として、その間の領域で等間隔に7つの位置を決め、合計9か所での中空押出材の外径を測定した。そして、押出先端の位置1の外径を基準とし、この基準に対するばらつき度合を算出した。図2のグラフは、グラファイト潤滑剤及びガラス潤滑剤の双方をマンドレル全表面に塗布して押出した試料No.1の中空押出材の長さ方向の外径のばらつき度合を示す。この中空押出材の外径の測定は、同じ潤滑剤を用いて上記製造方法によって3個の中空押出材を作製して、各中空押出材について測定を行った。図2に示すように、どの中空押出材も、中空押出材の長さ方向全長に亘ってばらつきが小さいことがわかる。このばらつきの最大値は、中空押出材の9の位置で、0.18であった。図3のグラフは、グラファイト潤滑剤のみを塗布して押出した試料No.100の中空押出材の長さ方向の外径のばらつき度合を示す。図3に示すように、どの中空押出材も長さ方向中央部分においてばらつきが大きいことがわかる。このばらつきの最大値は、中空押出材の4の位置で、0.27であった。
【0052】
押出直前のマンドレルの温度は、コンテナからの熱によって約300℃であるが、押出加工によって、ダイスの内周とマンドレルの外周との間からアルミニウム合金素材が押し出される箇所で、300℃〜540℃の範囲で昇温すると考えられる。つまり、押出が進むにつれ、マンドレルの温度は上昇していく。しかし、アルミニウム合金素材がある程度押出されると、マンドレルの温度は下降する傾向にある。それは、マンドレルは、コンテナの熱源からアルミニウム合金素材を介して加熱されているため、そのアルミニウム合金素材の量が押し出されて減少するにつれ、コンテナからの熱を介する介在物が少なくなるためであると考えられる。よって、マンドレルの温度分布は、マンドレルとアルミニウム合金素材が摺接する領域のうち、両端部が最も低温であり、その両端部から中央部分に向かって高温になるような分布であると考えられる。
【0053】
以上より、試料No.1の中空押出材の長さ方向全長に亘ってばらつきが小さいのは、低温域であるマンドレルの両端部領域においては、グラファイト潤滑剤が潤滑性能を発揮し、高温域であるマンドレルの中間領域においては、ガラス潤滑剤が潤滑性能を発揮することで、むしれが発生したとしても小さかったからであると考えられる。一方、試料No.100の中空押出材の中央部分においてばらつきが大きいのは、マンドレルの両端部領域が低温域であるため、グラファイト潤滑剤が潤滑性能を発揮しているが、マンドレルの中間領域は高温域であるため、グラファイト潤滑剤が潤滑性能を発揮できなかったためであると考えられる。よって、中間領域では無潤滑状態となり、押出方向に沿って大きなむしれが発生したと考えられる。
【0054】
(中空押出材の内径面の組織)
各試料No.1,100の中空押出材の内径面の組織を走査型電子顕微鏡写真(100倍)で調べた。図4が試料No.1であり、図6が試料No.100である。試料No.1ではほとんどむしれが発生していないが、試料No.100ではむしれが発生していることがわかる。試料No.1の上記組織をさらに拡大した走査型電子顕微鏡写真(400倍)を図5に示す。図5からも、試料No.1ではほとんどむしれが発生していないことがわかる。これは、上述したように、グラファイト潤滑剤とガラス潤滑剤の双方を塗布していることで、マンドレルの温度にかかわらず、マンドレルとアルミニウム合金素材が摺接する全領域において潤滑性能を発揮できているからであると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の中空押出材の製造方法は、高強度なアルミニウム合金素材の中空押出材の成形に好適に利用できる。本発明の中空押出材の製造方法により成形された中空押出材は、自動車あるいは自動二輪車などの内燃機関用部品に好適に利用できる。
【符号の説明】
【0056】
100 間接押出機
110 コンテナ
120 ダイステム 121 ダイス 122 ステム
130 ラム
140 ダミーブロック
150 マンドレル
1 アルミニウム合金素材
10 中空押出材
図1
図2
図3
図4
図5
図6