特許第6195243号(P6195243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6195243-空気入りタイヤ 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195243
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 1/00 20060101AFI20170904BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20170904BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20170904BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170904BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   B60C1/00 B
   B60C1/00 C
   C08L7/00
   C08L9/00
   C08K3/04
   C08K3/06
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-228126(P2013-228126)
(22)【出願日】2013年11月1日
(65)【公開番号】特開2015-85890(P2015-85890A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098464
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 洌
(74)【代理人】
【識別番号】100149630
【弁理士】
【氏名又は名称】藤森 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100111279
【弁理士】
【氏名又は名称】三嶋 眞弘
(72)【発明者】
【氏名】永瀬 隆行
【審査官】 鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−10923(JP,A)
【文献】 特開平2−70509(JP,A)
【文献】 特開2013−60184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00,13/00
C08K 3/04, 3/06
C08L 7/00, 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイドウォール(A)、ブレーカー(B)およびケース(C)を有する高性能空気入りタイヤであって、
サイドウォール(A)が、
天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムを75〜100質量%含むゴム成分100質量部に対し、3.0〜7.0質量部の硫黄を含有するサイドウォール用ゴム組成物からなり、
ブレーカー(B)が、
ブレーカーコードおよびブレーカーコード被覆用ゴム組成物からなり、
ケース(C)が、
ケースコードおよびケースコード被覆用ゴム組成物からなり、
サイドウォール用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量(硫黄A)、ブレーカーコード被覆用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量(硫黄B)、およびケースコード被覆用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量(硫黄C)が、下記の式(1)および式(2)を満たす高性能空気入りタイヤ。
式(1):−0.5 < 硫黄A − 硫黄B < 0.5
式(2):−0.5 < 硫黄A − 硫黄C < 0.5
【請求項2】
前記サイドウォール用ゴム組成物が、
ゴム成分100質量部に対し、40〜70質量部のカーボンブラック(I)を含有する請求項1記載の高性能空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記カーボンブラック(I)の窒素吸着比表面積(N2SA)が50〜120m2/gである請求項2記載の高性能空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記のブレーカーコード被覆用ゴム組成物および/またはケースコード被覆用ゴム組成物が、
各ゴム成分100質量部に対し、50〜90質量部のカーボンブラック(II)を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の高性能空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記カーボンブラック(II)の窒素吸着比表面積(N2SA)が40〜100m2/gである請求項4記載の高性能空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤは、路面と接するトレッド以外にもサイドウォール、ケース等様々な部材により構成されている。従来、各部材に使用されるゴム組成物の配合設計においては、それぞれの部材のゴム組成物ごとにラボ試験を行い、それぞれの部材ごとに最も良好なゴム組成物を設計していた(例えば、特許文献1〜3)。そして、このラボ試験の評価結果に基づいて、それぞれの最も良好なゴム組成物で構成された各部材を組み合わせて空気入りタイヤを作製していた。しかし、作製した空気入りタイヤの耐久性が、ゴム組成物単独のラボ加硫・ラボ試験の結果から期待される耐久性よりも低くなる場合が多いという問題がある。
【0003】
スポーツカーやレースカーなどに使用する高性能空気入りタイヤには、高速度域での連続走行時における耐久性に優れることが強く要求されるが、前記と同様にラボ試験の結果に基づき作製した高性能空気入りタイヤの耐久性が、ラボ試験の結果から期待される耐久性よりも低くなる場合が多いという問題がある。
【0004】
高性能空気入りタイヤの高速度域での連続走行時におけるタイヤ損傷の一つの形態として、高速度域での連続走行によりブレーカーエッジ付近のゴム組成物が破壊され、ブレーカーと隣接するタイヤ部材とが剥離してしまうことが挙げられる。そして、このタイヤの損傷形態により、ラボ試験の結果から期待される耐久性よりも低くなる場合が多いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−24913号公報
【特許文献2】特許第4246245号公報
【特許文献3】特許第4308289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記の問題を解決し、高速度域における連続走行時の耐久性に非常に優れ、さらに操縦安定性にも優れる高性能空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記問題について鋭意検討した結果、タイヤの使用中にブレーカーエッジ付近のゴム組成物に含まれる硫黄が部材間で移動し、各部材のゴム組成物の物性に変化が生じ、結果として、作製した高性能空気入りタイヤの耐久性が、ラボ試験の結果から期待される耐久性よりも低くなるとの仮説に想到した。
【0008】
そして、ブレーカーエッジ付近における硫黄の移動に着目し、ブレーカーに使用するゴム組成物、ならびにブレーカーに隣接するサイドウォールおよびケースに使用する各ゴム組成物における硫黄の含有量が、所定の関係式を満たす高性能空気入りタイヤとすることにより、高速度域における連続走行時の耐久性に非常に優れ、さらに操縦安定性にも優れることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち本発明は、サイドウォール(A)、ブレーカー(B)およびケース(C)を有する高性能空気入りタイヤであって、
サイドウォール(A)が、
天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムを75〜100質量%含むゴム成分100質量部に対し、3.0〜7.0質量部の硫黄を含有するサイドウォール用ゴム組成物からなり、
ブレーカー(B)が、
ブレーカーコードおよびブレーカーコード被覆用ゴム組成物からなり、
ケース(C)が、
ケースコードおよびケースコード被覆用ゴム組成物からなり、
サイドウォール用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量(硫黄A)、ブレーカーコード被覆用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量(硫黄B)、およびケースコード被覆用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量(硫黄C)が、下記の式(1)および式(2)を満たす高性能空気入りタイヤに関する。
式(1):−0.5 < 硫黄A − 硫黄B < 0.5
式(2):−0.5 < 硫黄A − 硫黄C < 0.5
【0010】
サイドウォール用ゴム組成物が、ゴム成分100質量部に対し、40〜70質量部のカーボンブラック(I)を含有することが好ましい。
【0011】
カーボンブラック(I)の窒素吸着比表面積(N2SA)が50〜120m2/gであることが好ましい。
【0012】
ブレーカーコード被覆用ゴム組成物および/またはケースコード被覆用ゴム組成物が、各ゴム成分100質量部に対し、50〜90質量部のカーボンブラック(II)を含有することが好ましい。
【0013】
カーボンブラック(II)の窒素吸着比表面積(N2SA)が40〜100m2/gであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サイドウォール(A)、ブレーカー(B)およびケース(C)を有し、サイドウォール(A)が、所定のゴム成分100質量部に対し、3.0〜7.0質量部の硫黄を含有するサイドウォール用ゴム組成物からなり、サイドウォール用ゴム組成物の硫黄の含有量が、ブレーカーコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量およびケースコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量と、所定の関係式を満たす高性能空気入りタイヤとすることで、高速度域における連続走行時の耐久性に非常に優れ、さらに操縦安定性にも優れる高性能空気入りタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る高性能空気入りタイヤの一態様を示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の高性能空気入りタイヤは、サイドウォール(A)、ブレーカー(B)およびケース(C)を有し、サイドウォール(A)が、天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムを75〜100質量%含むゴム成分100質量部に対し、3.0〜7.0質量部の硫黄を含有するサイドウォール用ゴム組成物からなり、ブレーカー(B)が、ブレーカーコードおよびブレーカーコード被覆用ゴム組成物からなり、ケース(C)が、ケースコードおよびケースコード被覆用ゴム組成物からなり、サイドウォール用ゴム組成物の硫黄の含有量(硫黄A)、ブレーカーコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量(硫黄B)、およびケースコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量(硫黄C)が、下記の式(1)および式(2)を満たす。
式(1):−0.5 < 硫黄A − 硫黄B < 0.5
式(2):−0.5 < 硫黄A − 硫黄C < 0.5
【0017】
なお、本明細書において、各ゴム組成物に含まれる薬品の含有量は、全て加硫前のゴム組成物における含有量を意味する。すなわち、各ゴム組成物に含まれる薬品の理論含有量を意味する。ここで、理論含有量とは、未加硫ゴム組成物を調製する際に、投入した薬品の量を意味する。
【0018】
本発明の高性能空気入りタイヤは、サイドウォール(A)、ブレーカー(B)およびケース(C)を有する。サイドウォールとは、ケースの外側に配された部材であり、添付の図1ではAで示す。ブレーカーとは、ブレーカーコードとブレーカーコード被覆用ゴム組成物からなる部材であり、添付の図1ではBで示す。また、ケースとは、ケースコードとケースコード被覆用ゴム組成物からなる部材であり、カーカスともいう、添付の図1ではCで示す。
【0019】
サイドウォール(A)
本発明の高性能空気入りタイヤを構成するサイドウォール(A)はサイドウォール用ゴム組成物からなる。
【0020】
サイドウォール用ゴム組成物は、所定のゴム成分および硫黄を含有する。
【0021】
サイドウォール用ゴム組成物のゴム成分は、天然ゴム(NR)および/またはイソプレンゴム(IR)を含有する。NRとしては特に限定されず、例えばSIR20、RSS3、TSR20などが挙げられる。また、IRとしては特に限定されず、例えば日本ゼオン(株)製のIR2200などが挙げられる。強度に優れるという点からNRを含有することが好ましい。
【0022】
ゴム成分中のNRおよび/またはIRの含有量は、75質量%以上であり、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%がさらに好ましい。含有量が75質量%未満の場合は、強度が不十分となる傾向がある。
【0023】
サイドウォール用ゴム組成物において、NRおよびIR以外に使用できるゴム成分としては、特に限定されず、例えば液状イソプレンゴム(LIR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などのジエン系ゴムが挙げられる。これらのジエン系ゴムは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。なかでも、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸び、耐亀裂成長性を確保しつつ、良好な耐久性が得られるという理由から、BRおよびSBRが好ましく、BRがより好ましい。
【0024】
前記SBRとしては、乳化重合により得られる乳化重合SBR(E−SBR)、溶液重合により得られる溶液重合SBR(S−SBR)、およびこれらのSBRを変性した変性SBR(変性E−SBR、変性S−SBR)などの各種SBRを用いることができる。
【0025】
前記BRとしては、ハイシス1,4−ポリブタジエンゴム(ハイシスBR)、1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含むブタジエンゴム(SPB含有BR)、変性ブタジエンゴム(変性BR)などの各種BRを用いることができる。なかでも、ハイシスBRが好ましい。ハイシスBRとは、シス1,4結合含有率が90質量%以上のブタジエンゴムである。このようなハイシスBRとして、例えば、日本ゼオン(株)製のBR1220、宇部興産(株)製のBR130B、BR150Bなどが挙げられる。
【0026】
ゴム成分中に前記BRを含有する場合の含有量は、耐屈曲性に優れるという理由から、0質量%以上が好ましい。また、前記各種BRの含有量は、破断強度の保持性に優れるという理由から、30質量%以下が好ましい。
【0027】
サイドウォール用ゴム組成物は硫黄を加硫剤として含有する。硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが挙げられる。なかでも、ブルームを防ぐという理由から不溶性硫黄が好ましい。
【0028】
サイドウォール用ゴム組成物における硫黄のゴム成分100質量部に対する含有量は、3.0質量部以上であり、3.5質量部以上が好ましく、4.0質量部以上がより好ましく、4.5質量部以上がさらに好ましい。3.0質量部未満の場合は高性能空気入りタイヤに求められる充分なサイドウォールの剛性が得られなくなる恐れがある。また、硫黄の含有量は、7.0質量部以下であり、6.5質量部以下が好ましい。7.0質量部を超える場合は、架橋密度が高くなり過ぎることにより、サイドウォールの耐亀裂成長性および破断時伸びが大幅に悪化する恐れがある。
【0029】
サイドウォール用ゴム組成物は、軟化剤を含有することが好ましい。軟化剤としては、例えばC5系石油樹脂、C9系石油樹脂、プロセスオイル、植物油、クマロンインデン樹脂などが挙げられる。なかでも、粘着性、破断時伸び、耐オゾン劣化性に優れ、安価であるという理由から、C5系石油樹脂が好ましく、C9系石油樹脂およびプロセスオイルがより好ましい。
【0030】
サイドウォール用ゴム組成物において、軟化剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましい。また、軟化剤の含有量は10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましく、2質量部以下がより好ましい。10質量部を超える場合は、耐屈曲性が低下する恐れがある。
【0031】
サイドウォール用ゴム組成物は、フィラー成分としてカーボンブラック(I)を含有することが好ましい。カーボンブラックを含有することにより、ゴム組成物の補強性を高めることができ、タイヤの耐亀裂成長性、耐久性、操縦安定性、耐紫外線劣化性をより向上させることができる。なお、本明細書においてはサイドウォール用ゴム組成物が含有するカーボンブラックを「カーボンブラック(I)」と記載し、後述のブレーカーコード被覆用ゴム組成物およびケースコード被覆用ゴム組成物が含有するカーボンブラックを「カーボンブラック(II)」と記載するが、カーボンブラック(I)および(II)として同じカーボンブラックの使用や、ブレーカーコード被覆用ゴム組成物およびケースコード被覆用ゴム組成物において異なるカーボンブラックの使用を排除するものではない。
【0032】
カーボンブラック(I)のチッ素吸着比表面積(N2SA)は、50m2/g以上が好ましく、60m2/g以上がより好ましい。50m2/g未満の場合は、タイヤの耐亀裂成長性、耐久性、操縦安定性が不充分となる傾向がある。また、カーボンブラック(I)のN2SAは、120m2/g以下が好ましく、100m2/g以下がより好ましい。120m2/gを超える場合は、加工性が悪化する傾向がある。なお、カーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217−2「ゴム用カーボンブラック−基本特性−第2部:比表面積の求め方−窒素吸着法−単点法」に準じて測定することができる。
【0033】
サイドウォール用ゴム組成物において、カーボンブラック(I)を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、40質量部以上が好ましく、45質量部以上がより好ましい。40質量部未満の場合は、充分な補強性が得られず、タイヤの耐亀裂成長性、耐久性、操縦安定性が悪化する恐れがある。また、カーボンブラック(I)の含有量は、70質量部以下が好ましく、65質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましい。70質量部を超える場合はサイドウォールの発熱が高くなり、タイヤの耐久性が悪化する恐れがある。
【0034】
サイドウォール用ゴム組成物は、前記の成分以外にも、従来からゴム工業で使用される配合剤や添加剤、例えば、カーボンブラック以外の各種補強用充填剤、カップリング剤、ワックス、酸化防止剤、老化防止剤、加硫促進助剤(ステアリン酸、酸化亜鉛など)、ハイブリッド架橋剤(フレキシス社製のHTS、PK900など)、加硫促進剤などを、必要に応じて適宜含有することができる。
【0035】
前記加硫促進剤としては、グアニジン系、アルデヒド−アミン系、アルデヒド−アンモニア系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオ尿素系、チウラム系、ジチオカルバメート系、ザンデート系の化合物などが挙げられる。これらの加硫促進剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なかでも、ゴム中への分散性、加硫物性の安定性の点から、スルフェンアミド系加硫促進剤〔N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)、N,N−ジイソプロピル−2−ベンゾチアゾールスルフェンアミドなど〕、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンイミド(TBSI)、ジ−2−ベンゾチアゾリルジスルフィド(DM)が好ましく、TBBS、CBS、TBSI、DMがより好ましい。
【0036】
サイドウォール用ゴム組成物において、加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.3質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。また、加硫促進剤の含有量は2.0質量部以下が好ましく、1.5質量部以下がより好ましい。加硫促進剤の含有量が前記範囲内であると、サイドウォール用ゴム組成物としての好適な架橋密度、耐亀裂成長性が得られ、本発明の効果がより好適に得られる。
【0037】
サイドウォール用ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練する方法等により製造できる。
【0038】
ブレーカー(B)
本発明の高性能空気入りタイヤを構成するブレーカー(B)は、ブレーカーコードおよびブレーカーコード被覆用ゴム組成物からなる部材であり、ブレーカーコードがブレーカーコード被覆用ゴム組成物により被覆されてなる。
【0039】
前記ブレーカーコードとしては、テキスタイルコードおよびスチールコードが挙げられる。本発明においては、グリップ性能に優れるという理由から、テキスタイルコードが好ましい。また、耐久性に優れるという理由からは、スチールコードが好ましい。
【0040】
テキスタイルコードは、有機繊維材料からなる複数のフィラメントを撚り合わせたコードのことであり、有機繊維材料としては、ナイロン6、ナイロン66、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン−2,6−ナフタレート(PEN)、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPTA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ケブラー(R)(ケブラー(R)はデュポン社の登録商標)(KEV)などが挙げられ、これらのなかから単独でまたは複数選択して、有機繊維材料として使用することができる。なかでもブレーカー用のテキスタイルコードとしては、モジュラスが比較的高く、操縦安定性が良好であるという理由からケブラー(R)が好ましい。
【0041】
スチールコードとしては、例えば1×n構成の単撚りスチールコード、k+m構成の層撚りスチールコード等があげられる。ここで、1×n構成の単撚りスチールコードとは、n本のフィラメントを撚りあわせて得られる1層の撚りスチールコードのことである。また、k+m構成の層撚りスチールコードとは、撚り方向、撚りピッチの異なる2層構造を持ち、内層にk本のフィラメント、外層にm本のフィラメントを有するスチールコードのことである。nは1〜27の整数、kは1〜10の整数、mは1〜3の整数である。スチールコードの表面は、ゴム組成物に対する接着性を向上させるため、黄銅(真鍮)、Zn等でメッキすることが好ましい。
【0042】
前記ブレーカーコード被覆用ゴム組成物が含有するゴム成分としては、特に限定されないが、サイドウォール用ゴム組成物と同様のジエン系ゴムを使用できる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、良好な操縦安定性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られるという理由から、NRが好ましい。
【0043】
NRとしては特に限定されず、サイドウォール用ゴム組成物と同様のものを使用できる。ゴム成分中のNRの含有量は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、100質量%がさらに好ましい。NR含有量が前記範囲内であると、良好な操縦安定性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られる。
【0044】
ブレーカーコード被覆用ゴム組成物は加硫剤として硫黄を含有する。硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが挙げられる。なかでも、ブルームを防ぐという点から不溶性硫黄が好ましい。
【0045】
ブレーカーコード被覆用ゴム組成物における硫黄のゴム成分100質量部に対する含有量は、3.0質量部以上が好ましく、3.5質量部以上がより好ましく、4.0質量部以上がさらに好ましく、4.5質量部以上が最も好ましい。3.0質量部未満の場合はブレーカーコードと接着不良が生じる恐れがある。また、硫黄の含有量は7.0質量部以下が好ましく、6.5質量部以下がより好ましい。7.0質量部を超える場合は、架橋密度が高くなり過ぎることにより、耐亀裂成長性および破断時伸びが低下し、耐久性が悪化する恐れがある。硫黄の含有量が前記範囲内であると、良好な操縦安定性を確保しつつ、良好な破断時伸び、耐亀裂成長性、ブレーカーコードとの接着性が得られ、結果的に良好な耐久性が得られる。
【0046】
ブレーカーコード被覆用ゴム組成物は、軟化剤を含有することが好ましい。軟化剤としては、サイドウォール用ゴム組成物と同様のものを使用できる。
【0047】
ブレーカーコード被覆用ゴム組成物において、軟化剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。2質量部未満の場合は、隣接するゴム組成物からの加硫時におけるオイルの移動が生じ、隣接するゴム組成物との接着力が低下する恐れがある。また、軟化剤の含有量は10質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましい。10質量部を超える場合は、高温時に隣接するゴム組成物との接着力の低下が生じる恐れがある。
【0048】
ブレーカーコード被覆用ゴム組成物は、カーボンブラック(II)を含有してもよい。カーボンブラックを含有することにより、ゴム組成物の補強性を高めることができ、タイヤの耐亀裂成長性、耐久性、操縦安定性をより向上させることができる。
【0049】
カーボンブラック(II)のチッ素吸着比表面積(N2SA)は、40m2/g以上が好ましく、60m2/g以上がより好ましい。40m2/g未満の場合は、タイヤの操縦安定性および耐久性が不充分となる傾向がある。また、カーボンブラック(II)のN2SAは、150m2/g以下が好ましく、100m2/g以下がより好ましい。150m2/gを超える場合は、分散性が悪く、充分な破壊強度、破断時伸びが得られない恐れがある。
【0050】
ブレーカーコード被覆用ゴム組成物において、カーボンブラック(II)を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、30質量部以上が好ましく、45質量部以上がより好ましい。30質量部未満の場合は、充分な補強性が得られず、タイヤの耐久性、操縦安定性が悪化する恐れがある。また、カーボンブラック(II)の含有量は、100質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましい。100質量部を超える場合は発熱性が高くなり、タイヤの耐久性が悪化する恐れがある。
【0051】
ブレーカーコードとしてスチールコードを使用する場合のブレーカーコード被覆用ゴム組成物は、スチールコードとの接着性を向上させる目的で、有機酸コバルトを含有することが好ましい。有機酸コバルトは、ゴム組成物とスチールコードとを架橋する役目を果たすため、有機酸コバルトを含有することにより、スチールコードとゴム組成物との接着性を向上させることができる。
【0052】
有機酸コバルトとしては、例えば、ステアリン酸コバルト、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ホウ素3ネオデカン酸コバルト、アビチエン酸コバルトなどが挙げられる。なかでも、加工性(粘度)に優れ、加硫反応が進行しやすいという点から、ステアリン酸コバルトが好ましい。
【0053】
有機酸コバルトを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、コバルトに換算して0.05質量部以上が好ましく、0.07質量部以上がより好ましい。0.05質量部未満の場合は、スチールコードとゴム組成物との接着性が充分ではない恐れがある。また、該含有量は、コバルトに換算して0.35質量部以下が好ましく、0.30質量部以下がより好ましい。0.35質量部を超えると、耐酸化劣化性、耐亀裂成長性、耐久性が悪化する恐れがある。
【0054】
ブレーカーコード被覆用ゴム組成物は、前記の成分以外にも、従来からゴム工業で使用される配合剤や添加剤、例えば、カーボンブラック以外の各種補強用充填剤、カップリング剤、ワックス、酸化防止剤、老化防止剤、加硫促進助剤(ステアリン酸、酸化亜鉛など)、ハイブリッド架橋剤(フレキシス社製のHTS、PK900など)、加硫促進剤などを、必要に応じて適宜含有することができる。
【0055】
ブレーカーコードとしてテキスタイルコードを使用する場合であって、酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、2〜20質量部が好ましく、4〜12質量部がより好ましい。酸化亜鉛の含有量が前記範囲内であると、良好な操縦安定性および低燃費性を確保しつつ、良好な破断時伸び、耐亀裂成長性およびテキスタイルコードとの接着性が得られ、結果的に良好な耐久性が得られる。
【0056】
ブレーカーコードとしてスチールコードを使用する場合であって、酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、3〜20質量部が好ましく、6〜12質量部がより好ましい。酸化亜鉛の含有量が前記範囲内であると、良好な操縦安定性および低燃費性を確保しつつ、良好な破断時伸び、耐亀裂成長性およびスチールコードとの接着性が得られ、結果的に良好な耐久性が得られる。
【0057】
加硫促進剤としては、サイドウォール用ゴム組成物と同様のものを使用できるが、コードとの接着性に優れるという理由から、DCBS、TBSIがより好ましい。
【0058】
ブレーカーコードとしてテキスタイルコードを使用する場合であって、加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.3質量部以上が好ましく、0.6質量部以上がより好ましい。また、該含有量は2.0質量部以下が好ましく、1.2質量部以下がより好ましい。加硫促進剤の配合量が前記範囲内であると、ブレーカーコード(テキスタイルコード)被覆用ゴムとしての好適な架橋密度が得られ、硫黄の移動量を適度な量に調整でき、本発明の効果がより好適に得られる。
【0059】
ブレーカーコードとしてスチールコードを使用する場合であって、加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.3質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましい。また、該含有量は2.0質量部以下が好ましく、1.5質量部以下がより好ましい。加硫促進剤の配合量が前記範囲内であると、ブレーカーコード(スチールコード)被覆用ゴムとしての好適な架橋密度が得られ、硫黄の移動量を適度な量に調整でき、本発明の効果がより好適に得られる。
【0060】
ブレーカーコード被覆用ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記サイドウォール用ゴム組成物と同様の方法を用いることができる。
【0061】
ケース(C)
本発明の高性能空気入りタイヤを構成するケース(C)は、ケースコードおよびケースコード被覆用ゴム組成物からなる部材であり、ケースコードがケースコード被覆用ゴム組成物により被覆されてなる。
【0062】
本発明の高性能空気入りタイヤに使用するケースコードは、耐久性とグリップ性能とのバランスに優れるという理由からテキスタイルコードである。テキスタイルコードとしては、ブレーカーコードとして記載したものを使用することができる。なかでも、耐久性および操縦安定性が良好であるという理由からナイロン66が好ましい。
【0063】
前記ケースコード被覆用ゴム組成物が含有するゴム成分としては、特に限定されないが、サイドウォール用ゴム組成物と同様のジエン系ゴムを使用できる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、良好な操縦安定性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られるという理由から、NRが好ましい。
【0064】
NRとしては特に限定されず、サイドウォール用ゴム組成物と同様のものを使用できる。ゴム成分中のNRの含有量は、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、100質量%がさらに好ましい。NR含有量が前記範囲内であると、良好な操縦安定性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐久性が得られる。
【0065】
ケースコード被覆用ゴム組成物は加硫剤として硫黄を含有する。硫黄としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが挙げられる。なかでも、ブルームを防ぐという点から不溶性硫黄が好ましい。
【0066】
ケースコード被覆用ゴム組成物における硫黄のゴム成分100質量部に対する含有量は、3.0質量部以上が好ましく、3.5質量部以上がより好ましく、4.0質量部以上がさらに好ましく、4.5質量部以上が最も好ましい。3.0質量部未満の場合はケースコードと接着不良が生じる恐れがある。また、硫黄の含有量は7.0質量部以下が好ましく、6.5質量部以下がより好ましい。7.0質量部を超える場合は、架橋密度が高くなり過ぎることにより、耐亀裂成長性および破断時伸びが低下し、耐久性が悪化する恐れがある。硫黄の含有量が前記範囲内であると、良好な操縦安定性を確保しつつ、良好な破断時伸び、耐亀裂成長性、ケースコードとの接着性が得られ、結果的に良好な耐久性が得られる。
【0067】
ケースコード被覆用ゴム組成物は、軟化剤を含有することが好ましい。軟化剤としては、サイドウォール用ゴム組成物と同様のものを使用できる。
【0068】
ケースコード被覆用ゴム組成物において、軟化剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。2質量部未満の場合は、隣接するゴム組成物からの加硫時におけるオイルの移動が生じ、隣接するゴム組成物との接着力が低下する恐れがある。また、軟化剤の含有量は10質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましい。10質量部を超える場合は、高温時に隣接するゴム組成物との接着力の低下が生じる恐れがある。
【0069】
ケースコード被覆用ゴム組成物は、カーボンブラック(II)を含有することが好ましい。カーボンブラックを含有することにより、ゴム組成物の補強性を高めることができ、タイヤの耐亀裂成長性、耐久性、操縦安定性をより向上させることができる。
【0070】
カーボンブラック(II)のチッ素吸着比表面積(N2SA)は、40m2/g以上が好ましく、60m2/g以上がより好ましい。40m2/g未満の場合は、タイヤの操縦安定性および耐久性が不充分となる傾向がある。また、カーボンブラック(II)のN2SAは、150m2/g以下が好ましく、100m2/g以下がより好ましい。150m2/gを超える場合は、分散性が悪く、充分な破壊強度、破断時伸びが得られない恐れがある。
【0071】
ケースコード被覆用ゴム組成物において、カーボンブラック(II)を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、30質量部以上が好ましく、45質量部以上がより好ましい。30質量部未満の場合は、充分な補強性が得られず、タイヤの耐久性、操縦安定性が悪化する恐れがある。また、カーボンブラック(II)の含有量は、100質量部以下が好ましく、90質量部以下がより好ましい。100質量部を超える場合は発熱性が高くなり、タイヤの耐久性が悪化する恐れがある。
【0072】
ケースコード被覆用ゴム組成物は、前記の成分以外にも、従来からゴム工業で使用される配合剤や添加剤、例えば、カーボンブラック以外の各種補強用充填剤、カップリング剤、ワックス、酸化防止剤、老化防止剤、加硫促進助剤(ステアリン酸、酸化亜鉛など)、ハイブリッド架橋剤(フレキシス社製のHTS、PK900など)、加硫促進剤などを、必要に応じて適宜含有することができる。
【0073】
ケースコード被覆用ゴム組成物において、酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、2〜20質量部が好ましく、4〜12質量部がより好ましい。酸化亜鉛の含有量が前記範囲内であると、良好な操縦安定性および低燃費性を確保しつつ、良好な破断時伸び、耐亀裂成長性およびテキスタイルコードとの接着性が得られ、結果的に良好な耐久性が得られる。
【0074】
加硫促進剤としては、サイドウォール用ゴム組成物と同様のものを使用できるが、コードとの接着性に優れるという理由から、DCBS、TBSIがより好ましい。
【0075】
ケースコード被覆用ゴム組成物において、加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.3質量部以上が好ましく、0.6質量部以上がより好ましい。また、該含有量は2.0質量部以下が好ましく、1.2質量部以下がより好ましい。加硫促進剤の配合量が前記範囲内であると、ケースコード被覆用ゴムとしての好適な架橋密度が得られ、硫黄の移動量を適度な量に調整でき、本発明の効果がより好適に得られる。
【0076】
ケースコード被覆用ゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記サイドウォール用ゴム組成物と同様の方法を用いることができる。
【0077】
硫黄の含有量
本発明の高性能空気入りタイヤは、サイドウォール用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量を「硫黄A」とし、ブレーカーコード被覆用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量を「硫黄B」とした場合、「硫黄A」と「硫黄B」との関係が下記式(1)を満たすことにより、高速度域における連続走行時の耐久性を向上させることができる。
式(1):−0.5 < 硫黄A − 硫黄B < 0.5
【0078】
「硫黄A」から「硫黄B」を減じた値が−0.5以下の場合は、高速度域での走行中にブレーカーコード被覆用ゴム組成物に含まれる硫黄がサイドウォールに移動してしまい、ブレーカーコード被覆用ゴム組成物とサイドウォール用ゴム組成物との接着強度低下が生じ、タイヤの耐久性が低下する傾向がある。また、同値が0.5以上の場合は、サイドウォール用ゴム組成物に含まれる硫黄がブレーカーコード被覆用ゴム組成物に移動してしまい、ブレーカーコード被覆用ゴム組成物とサイドウォール用ゴム組成物との接着強度低下が生じ、タイヤの耐久性が低下する傾向がある。
【0079】
前記式(1)の下限値は、ブレーカーコード被覆用ゴム組成物とサイドウォール用ゴム組成物との接着強度低下がより起こり難く、タイヤの耐久性に優れるという理由から−0.4が好ましく、−0.2がより好ましい。また、式(1)の上限値は、ブレーカーコード被覆用ゴム組成物とサイドウォール用ゴム組成物との接着強度低下がより起こり難く、タイヤの耐久性に優れるという理由から0.4が好ましく、0.2がより好ましい。
【0080】
さらに、本発明の高性能空気入りタイヤは、サイドウォール用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量を「硫黄A」とし、ケースコード被覆用ゴム組成物のゴム成分100質量部に対する硫黄の含有量を「硫黄C」とした場合、「硫黄A」と「硫黄C」との関係が下記式(2)を満たすことにより、高速度域における連続走行時の耐久性を向上させることができる。
式(2):−0.5 < 硫黄A − 硫黄C < 0.5
【0081】
「硫黄A」から「硫黄C」を減じた値が−0.5以下の場合は、高速度域での走行中にケースコード被覆用ゴム組成物に含まれる硫黄がサイドウォールに移動してしまい、ケースコード被覆用ゴム組成物とサイドウォール用ゴム組成物との接着強度低下が生じ、タイヤの耐久性が低下する傾向がある。また、同値が0.5以上の場合は、サイドウォール用ゴム組成物に含まれる硫黄がケースコード被覆用ゴム組成物に移動してしまい、ケースコード被覆用ゴム組成物とサイドウォール用ゴム組成物との接着強度低下が生じ、タイヤの耐久性が低下する傾向がある。
【0082】
前記式(2)の下限値は、ケースコード被覆用ゴム組成物とサイドウォール用ゴム組成物との接着強度低下がより起こり難く、タイヤの耐久性に優れるという理由から−0.4が好ましく、−0.2がより好ましい。また、式(2)の上限値は、ケースコード被覆用ゴム組成物とサイドウォール用ゴム組成物との接着強度低下がより起こり難く、タイヤの耐久性に優れるという理由から0.4が好ましく、0.2がより好ましい。
【0083】
ゴム成分
本発明の空気入りタイヤにおけるサイドウォール用ゴム組成物、ブレーカーコード被覆用ゴム組成物およびケースコード被覆用ゴム組成物には、前述のジエン系ゴム成分をそれぞれ使用することができ、それぞれ異なるゴム成分を使用した場合も、前述の硫黄の含有量の関係を満たすことで、耐久性および操縦安定性に優れた高性能空気入りタイヤが得られる。さらには、前記3つのゴム組成物に使用するゴム成分を統一し、各ゴム組成物間の親和性を向上させることで、各部材の剥離強度が向上し、耐久性により優れた高性能空気入りタイヤが得られる。統一して使用するゴム成分としてはNR、BR、SBRが好ましい。
【0084】
空気入りタイヤ
本発明の高性能空気入りタイヤは、前記の各ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造される。すなわち、必要に応じて各種添加剤を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でタイヤの各部材の形状(サイドウォールの場合はサイドウォール用ゴム組成物をサイドウォールの形状、ブレーカーの場合は未加硫のシート状のブレーカーコード被覆用ゴム組成物をブレーカーコードに上下から圧着被覆してブレーカーの形状、ケースの場合は未加硫のシート状のケースコード被覆用ゴム組成物をケースコードに上下から圧着被覆してケースの形状)に合わせて押し出し加工し、タイヤ成型機上にて通常の方法にて成型し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成した後、加硫機(好ましくはドーム型加硫機)中で加熱加圧して加硫することにより製造することができる。
【0085】
タイヤの加硫を行う際の加硫金型温度または加硫機のスチーム充填温度は、130〜170℃が好ましく、140〜165℃がより好ましい。加硫温度が高いほど、ゲージの薄いサイドウォールでは、過度に加硫され、リバージョンが起こりやすくなり、ケースおよびブレーカーからサイドウォールへの硫黄の移行が促進されやすくなり、耐久性が低下する。ここで、リバージョンとは、一旦形成された硫黄架橋が切断され、硫黄が一方のポリマー鎖にペンダント状にぶら下がる現象、または、ポリマー自体の分子鎖が切断される現象をいう。
【0086】
本発明の空気入りタイヤは高性能タイヤとして用いられ、特に競技用高性能タイヤとして好適に用いられる。なお、本明細書における競技用高性能タイヤとは、高速耐久性と操縦安定性に特に優れたタイヤであり、例えば全長1kmを超える舗装路面のサーキットで、最高速度が時速200kmを超えるような状況での使用を想定した、競技用高性能タイヤである。
【実施例】
【0087】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0088】
以下に実施例および比較例において用いた各種薬品およびコードをまとめて示す。
NR:RSS3
BR:宇部興産(株)製のBR150B(シス含有量:97質量%)
SBR:日本ゼオン(株)製のSBR1502(E−SBR)
カーボンブラック:三菱化学(株)製のダイアブラックH(N330、N2SA:78m2/g)
プロセスオイル:谷口石油精製(株)製のプロセスオイルNM
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
ステアリン酸コバルト:大日本インキ化学工業(株)製のcost−F(コバルト含有量:9.5質量%)
老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲン6C
耐熱老化防止剤:住友化学(株)製のアンチゲンRD
縮合体:田岡化学工業(株)製のスミカノール620
変性エーテル化メチロメラミン樹脂:田岡化学工業(株)製のスミカノール507AP
硫黄:日本乾溜工業(株)製のセイミOT(10%オイル含有不溶性硫黄)
加硫促進剤1:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(TBBS)
加硫促進剤2:大内新興化学工業(株)製のノクセラーDZ(DCBS)
コード1:ブレーカーに使用したテキスタイルコード、材質:アラミド繊維(デュポン社製のケブラー(R))、構造:800dtex、撚り数:60回/10cm、コード径:0.60mm
コード2:ブレーカー使用したスチールコード、材質:スチール、構造:1×3×0.16、撚り数:30回/10cm、コード径:0.16mm
コード3:ケースに使用したテキスタイルコード、材質:ナイロン繊維(旭化成(株)製のナイロン66)、構造:1400dtex、撚り数:41回/10cm、コード径:0.61mm
【0089】
実施例1および2ならびに比較例1〜16
表1および2に示す配合内容に従い、バンバリーミキサーを用いて、加硫剤(硫黄)および加硫促進剤以外の材料を160℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて、105℃の条件下で3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を160℃で35分間、2mm厚の金型でプレス加硫し、試験用加硫ゴム組成物を得た。
【0090】
さらに、得られた未加硫ゴム組成物を用いて各タイヤ部材の形状に成形した。ここで、サイドウォール用ゴム組成物はサイドウォールの形状(タイヤのタイヤ軸方向の最大幅部のサイドウォールゴムの厚みを5mmとした)に、ブレーカーコード被覆用ゴム組成物およびケースコード被覆用ゴム組成物は、前記の各コード1〜3に上下から圧着被覆し、0.8mmのシート状に成形した。そして、各タイヤ部材を表2に示す組み合わせに従い、他のタイヤ部材と貼り合わせ、ドーム型加硫機で165℃35分間プレス加硫することにより、試験用空気入りタイヤ(255/40R20)を作製した。
【0091】
得られた試験用加硫ゴム組成物および試験用空気入りタイヤを用いて以下に示す方法により評価を行った。評価結果を表3および4に示す。
【0092】
<複素弾性率(E*)>
岩本製作所(株)製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、80℃、初期歪10%、動歪み2%、周波数10Hzの条件下で、各試験用加硫ゴム組成物の複素弾性率(E*)を測定した。E*が大きいほど、操縦安定性に優れることを示す。
【0093】
<引張試験>
各試験用加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型試験片を用いて、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、80℃雰囲気下にて引張試験を実施し、破断時強度(TB)(MPa)、破断時伸び(EB)(%)を測定した。EBが大きいほど、破断時伸びに優れることを示し、TBが大きいほど、破断時強度に優れることを示す。また、これらの値を用いて、破壊エネルギーを以下の式から求めた。破壊エネルギーが大きいほど、破壊特性および耐久性に優れることを示す。
破壊エネルギー=(TB×EB)/2
【0094】
<ドラム耐久性(高速度耐久ドラム試験)>
試験用空気入りタイヤに、6kNの荷重条件下で、前記タイヤを速度230km/hで60分間ドラム走行させて、耐久性能を評価した。60分間完走したものを合格とし、60分間の走行中に破損した場合は、その時間を記録しそこで試験を終了した。
【0095】
<硫黄の移行率>
製造直後の試験用空気入りタイヤおよびドラム耐久試験後のタイヤについて、図1にXで示すブレーカーエッジ付近(ブレーカーエッジから約1cm)のゴムサンプを切り出し、酸化分解・紫外蛍光法(JIS−K2541に基づく)にて硫黄の定量を行なった。この結果から、以下の式で硫黄の移行率をもとめ、この値が大きいほど硫黄の移行が抑制されていると判断した。
硫黄の移行率=(ドラム耐久試験後の硫黄分)/(製造直後の硫黄分)×100
【0096】
<操縦安定性>
試験用空気入りタイヤ(255/40R20)を用いて、ドライアスファルト路面のテストコースにてタイヤを排気量5000ccの国産FR車に装着し10周の実車走行を行なった。その際における、ベストラップと最終ラップの操舵時のコントロールの安定性をテストドライバーが比較評価し、比較例1を100として指数表示をした。数値が大きいほどドライ路面における操縦安定性に優れることを示す。
【0097】
【表1】
【0098】
【表2】
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
表2の結果より、サイドウォールが、所定のゴム成分100質量部に対し、3.0〜7.0質量部の硫黄を含有するサイドウォール用ゴム組成物からなり、サイドウォール用ゴム組成物の硫黄の含有量が、ブレーカーコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量およびケースコード被覆用ゴム組成物の硫黄の含有量と、所定の関係式を満たす高性能空気入りタイヤとすることで、ドラム耐久性に優れるだけでなく、さらに操縦安定性にも優れる高性能空気入りタイヤが得られることがわかる。
【符号の説明】
【0102】
A サイドウォール
B ブレーカー
C ケース
図1