特許第6195246号(P6195246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6195246ブテンの脱水素に用いるフェライト系触媒の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195246
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】ブテンの脱水素に用いるフェライト系触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/745 20060101AFI20170904BHJP
   B01J 23/75 20060101ALI20170904BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20170904BHJP
   C07C 11/167 20060101ALI20170904BHJP
   C07C 5/48 20060101ALI20170904BHJP
   C07B 61/00 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   B01J23/745 Z
   B01J23/75 Z
   B01J37/08
   C07C11/167
   C07C5/48
   C07B61/00 300
【請求項の数】3
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-42824(P2014-42824)
(22)【出願日】2014年3月5日
(65)【公開番号】特開2015-167886(P2015-167886A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2016年10月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(72)【発明者】
【氏名】池永 直樹
(72)【発明者】
【氏名】清川 貴康
(72)【発明者】
【氏名】若林 隼二
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 敦司
(72)【発明者】
【氏名】木村 信啓
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第102974357(CN,A)
【文献】 特開平11−171552(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102527387(CN,A)
【文献】 特開昭50−088001(JP,A)
【文献】 米国特許第04658074(US,A)
【文献】 W. RONALD CARES et al.,Ferrite Spinels as Catalysts in the Oxidative Dehydrogenation of Butenes,Journal of Catalysis,1971年,23,193-203.
【文献】 K. S. MARTIROSYAN et al.,Carbon Combustion and Magnetic Properties of Cobalt Ferrite Nanoparticles,IEEE TRANSACTIONS ON MAGNETICS,2007年,43,3118-3120.
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J21/00−38/74
C07B31/00−63/04
C07C1/00−409/44
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の金属塩と第二の金属塩とを含む溶液を、多孔質の炭素質材料に含浸させて、前駆体を調製する調製工程と、
前記前駆体を250〜600℃で焼成する焼成工程と、
を備え、
前記第一の金属塩は、銅又はコバルトのうち少なくともいずれかを含み、
前記第二の金属塩は、鉄を含み、
前記焼成工程において、前記炭素質材料の全部を焼失させる、
ブテンの脱水素に用いるフェライト系触媒の製造方法。
【請求項2】
前記溶液が、有機酸を含む、
請求項1に記載のフェライト系触媒の製造方法。
【請求項3】
前記フェライト系触媒の質量がMcatであり、前記調製工程に用いる前記炭素質材料の質量がMcarbonであるとき、Mcarbon/Mcatを1〜30に調整する、
請求項1又は2に記載のフェライト系触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブテンの脱水素に用いるフェライト系触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,3−ブタジエンは、例えば、スチレン・ブタジエンゴム、ニトリル・ブタジエンゴム若しくはクロロプレンゴム等の合成ゴム、ABS樹脂、アジポニトリル、クロロプレン、スルホラン、1,4−ブタンジオール、又はシクロドデカトリエンの製造において、原料又は中間体として用いられる。
【0003】
1,3−ブタジエンは、ブテンの脱水素(酸化的脱水素)により生成する。例えば下記特許文献1には、亜鉛を含むフェライト系触媒を共沈法によって作製し、亜鉛を含むフェライト系触媒を用いたブテンの脱水素により、1,3−ブタジエンを製造する方法が開示されている。下記特許文献2には、マンガンを含むフェライト触媒を共沈法によって作製し、マンガンを含むフェライト触媒を用いたブテンの脱水素により、1,3−ブタジエンを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010−534553号公報
【特許文献2】特表2011−518649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ブテンの脱水素反応における1,3−ブタジエンの選択率を向上させることができる、ブテンの脱水素に用いるフェライト系触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面に係るブテンの脱水素に用いるフェライト系触媒の製造方法は、第一の金属塩と第二の金属塩とを含む溶液を、多孔質の炭素質材料に含浸させて、前駆体を調製する調製工程と、前駆体を250〜600℃で焼成する焼成工程と、を備え、第一の金属塩は、銅又はコバルトのうち少なくともいずれかを含み、第二の金属塩は、鉄を含み、焼成工程において、炭素質材料の全部を焼失させる
【0007】
本発明の一側面においては、溶液が、有機酸を含んでもよい。
【0008】
本発明の一側面においては、フェライト系触媒の質量がMcatであり、調製工程に用いる炭素質材料の質量がMcarbonであるとき、Mcarbon/Mcatを1〜30に調整してよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ブテンの脱水素反応における1,3−ブタジエンの選択率を向上させることができる、ブテンの脱水素に用いるフェライト系触媒の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本発明の実施例1の触媒のX線回折パターンである。
図2図2は、本発明の参考例4の触媒のX線回折パターンである。
図3図3は、本発明の実施例5の触媒のX線回折パターンである。
図4図4は、本発明の実施例10の触媒のX線回折パターンである。
図5図5は、発明の参考例13の触媒のX線回折パターンである。
図6図6は、比較例1の触媒のX線回折パターンである。
図7図7は、比較例2の触媒のX線回折パターンである。
図8図8は、比較例3の触媒のX線回折パターンである。
図9図9は、昇温反応法に基づく、実施例1の触媒を用いた1−ブテンの脱水素反応の分析結果を示す。
図10図10は、昇温反応法に基づく、実施例5の触媒を用いた1−ブテンの脱水素反応の分析結果を示す。
図11図11は、昇温反応法に基づく、比較例2の触媒を用いた1−ブテンの脱水素反応の分析結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
(ブテンの脱水素に用いるフェライト系触媒の製造方法)
本実施形態に係るフェライト系触媒の製造方法は、以下の第一の製法又は第二の製法である。第一の製法又は第二の製法によって得られるフェライト系触媒は、ブテンの脱水素反応(酸化的脱水素反応)において1,3−ブタジエンを選択的に生成させる活性に優れる。以下では、1,3−ブタジエンを選択的に生成させる活性を、単に「活性」と記す。
【0018】
[第一の製法]
第一の製法は、以下の調製工程と焼成工程とを備える。
【0019】
<調製工程>
調製工程では、銅又はコバルトのうち少なくともいずれかを含む第一の金属塩を用いる。第一の金属塩は、例えば、硝酸銅(II)(Cu(NO)、硝酸銅(II)の水和物(例えば、三水和物又は六水和物)、塩化銅(I)(CuCl)、塩化銅(II)(CuCl)、塩化銅(II)の水和物(例えば、三水和物又は六水和物)、酢酸銅(I)(CHCOOCu)、酢酸銅(II)((CHCOO)Cu)、酢酸銅(II)の水和物(例えば、一水和物)、硝酸コバルト(II)(Co(NO)、硝酸コバルト(II)の水和物(例えば、三水和物又は六水和物)、硝酸コバルト(III)(Co(NO)、塩化コバルト(II)(CoCl)、塩化コバルト(II)の水和物(例えば、三水和物又は六水和物)、塩化コバルト(III)(CoCl)、酢酸コバルト(II)((CHCOO)Co)、又は酢酸コバルト(II)の水和物(例えば、四水和物)であってよい。複数種の第一の金属塩を用いてよい。銅を含む第一の金属塩とコバルトを含む第一の金属塩とを併用してもよい。上記の第一の金属塩(特に、硝酸銅又は硝酸コバルト)は、焼成工程において分解し易く、焼成工程後に得られるフェライト系触媒に残存し難い傾向がある。
【0020】
調製工程では、鉄を含む第二の金属塩を用いる。第二の金属塩は、塩化鉄(II)(FeCl)、塩化鉄(II)の水和物(例えば、四水和物)、塩化鉄(III)(FeCl)、塩化鉄(III)の水和物(例えば、六水和物)、硝酸鉄(II)(Fe(NO)、硝酸鉄(II)の水和物(例えば、六水和物又は九水和物)、硝酸鉄(III)(Fe(NO)、硝酸鉄(III)の水和物(例えば、九水和物)、酢酸鉄(II)((CHCOO)Fe)、又は酢酸鉄(II)の水和物(例えば、四水和物)であってよい。複数種の第二の金属塩を用いてよい。上記の第二の金属塩(特に、硝酸鉄)は、焼成工程において分解し易く、焼成工程後に得られるフェライト系触媒に残存し難い傾向がある。
【0021】
以下では、第一の金属塩又は第一金属塩に由来する銅イオン若しくはコバルトイオンと、第二の金属塩又は第二の金属塩に由来する鉄イオンと、を総称して、「金属種」と記す。
【0022】
調製工程では多孔質の炭素質材料を用いる。多孔質の炭素質材料は、例えば、活性炭、ミクロポーラスカーボン、メソポーラスカーボン、多孔質グラファイト(黒鉛チャート)、グラフェンの積層体、カーボンナノチューブ、カーボンクライオゲル、又はカーボンエアロゲルであってよい。多孔質の炭素質材料は、炭素以外の元素(ヘテロ元素)を含んでもよい。複数種の炭素質材料を用いてよい。
【0023】
調製工程では、第一の金属塩と第二の金属塩とを含む溶液を、多孔質の炭素質材料に含浸させる。つまり、溶液中の金属種を炭素質材料に形成された多数の細孔内に侵入させる。例えば、金属種を含む溶液を攪拌した後、多孔質の炭素質材料を溶液に添加してもよい。金属種を含む溶液を、多孔質の炭素質材料に滴下してもよい。金属種を含む溶液を、多孔質の炭素質材料に噴霧してもよい。酸又は塩基を、金属種及び炭素質材料を含む溶液に添加して、溶液のpHを調整することにより、金属種を炭素質材料の表面又は細孔の内部に共沈させてもよい。
【0024】
上記のような調製工程により、前駆体が生成する。前駆体とは、金属種と、金属種が付着した多孔質の炭素質材料と、を含む混合物であってよい。金属種が炭素質材料の外表面に付着していてよい。金属種が炭素質材料に形成された多数の細孔内に付着していてよい。金属種が炭素質材料に形成された多数の細孔内に充填されていてもよい。前駆体とは、炭素質材料と、フェライト系触媒の必須成分である金属元素と、を含む物質と言い換えてよい。また前駆体とは、焼成されることによりフェライト系触媒になる物質と言い換えてよい。
【0025】
MFe(MはCu又はCoのうち少なくともいずれかである。)で表されるフェライト系触媒を製造する場合、溶液中の金属元素Mのモル数と溶液中の鉄のモル数との比が1:2となるように、第一の金属塩の量と第二の金属塩の量とを調整してよい。ただし、溶液中の金属元素Mのモル数と溶液中の鉄のモル数との比は、1:2に限定されない。
【0026】
調製工程では、減圧又は加熱等の処理によって溶媒を除去し、乾燥した前駆体を調製してもよい。前駆体が、炭素質材料と、炭素質材料の表面又は細孔の内部に共沈した金属種とを有する場合、前駆体を含む溶液を濾過して、前駆体を回収してもよい。
【0027】
第一製法によって製造するフェライト系触媒の質量がMcatであり、調製工程に用いる多孔質の炭素質材料の質量carbonであるとき、Mcarbon/Mcatは1〜30であってよい。Mcarbon/Mcatは2〜15であってもよい。Mcarbon/Mcatが1以上である場合、得られるフェライト系触媒の活性が向上し易い傾向がある。Mcarbon/Mcatが30以下である場合、得られるフェライト系触媒の失活又は劣化が抑制され易い傾向がある。調製工程に用いる多孔質の炭素質材料の質量Mcarbonは、焼成工程において炭素質材料の全部が焼失する程度の量であってよい。なお、炭素質材料の焼失とは、例えば、炭素質材料の酸化又は燃焼による炭素質材料の分解を意味してよい。
【0028】
第一の金属塩及び第二の金属塩を含む溶液を構成する溶媒は、第一の金属塩及び第二の金属塩を溶解するもの(例えば、極性溶媒)であればよい。溶媒は、例えば、水であってよく、アルコール等の非水溶媒であってもよい。
【0029】
溶液は、有機酸を含んでもよい。有機酸は、例えば、クエン酸、アスコルビン酸、マレイン酸、フマル酸、ギ酸、酢酸又はシュウ酸であってよい。溶液が有機酸を含む場合、得られるフェライト系触媒の活性が向上する傾向がある。これらの有機酸は、溶液中において、銅イオン、コバルトイオン又は鉄イオンと錯体を形成してもよい。複数種の有機酸を用いてよい。
【0030】
<焼成工程>
焼成工程では、前駆体を焼成することにより、フェライト系触媒を生成させる。焼成工程では、乾燥した前駆体を焼成してもよい。前駆体を含む溶液を加熱することにより、溶媒を除去すると共に前駆体を焼成してもよい。
【0031】
焼成工程では、前駆体に含まれる炭素質材料の全部を焼失させる。炭素質材料に由来する炭素が、完成したフェライト系触媒中に残存してもよい。フェライト系触媒中に残存する炭素の含有率は、例えば、フェライト触媒全体に対して5質量%以下であってよい。焼成温度が低く、焼成時間が短いほど、炭素質材料に由来する炭素が、完成後のフェライト系触媒中に残存し易い。焼成温度が高く、焼成時間が長いほど、前駆体に含まれる炭素質材料を焼失させ易い。
【0032】
調製工程において用いる第一の金属塩が銅を含み、フェライト系触媒として銅を含むフェライト系触媒(例えば、CuFe)を製造する場合、焼成温度(前駆体が置かれる雰囲気の温度)は、250〜600℃である。焼成温度が200℃以上である場合、CuFeからなる単一のフェライト相が生成し易く、生成するフェライト触媒の活性が向上し易い傾向がある。焼成温度が800℃以下である場合、金属種の凝集が抑制され、生成するフェライト触媒の活性が向上し易い傾向がある。焼成時間は、例えば1〜10時間であればよい。
【0033】
第一の製法によれば、従来の亜鉛又はマンガンを含むフェライト系触媒の製造方法に比べて、より低温での焼成工程によって、CuFeを含むフェライト系触媒を製造することができる。
【0034】
調製工程において用いる第一の金属塩がコバルトを含み、フェライト系触媒としてコバルトを含むフェライト系触媒(例えば、CoFe)を製造する場合、焼成温度は、250〜600℃である。焼成温度が200℃以上である場合、CoFeからなる単一のフェライト相が生成し易く、生成するフェライト触媒の活性が向上し易い傾向がある。焼成温度が800℃以下である場合、金属種の凝集が抑制され、生成するフェライト触媒の活性が向上し易い傾向がある。焼成時間は、例えば1〜10時間であればよい。
【0035】
第一製法の焼成工程では、前駆体に含まれる炭素質材料(又は有機酸)に起因する以下の現象が起こる、と推測される。
焼成工程において前駆体に含まれる炭素質材料(又は有機酸)の燃焼熱が金属種の酸化及び焼成を促進する。その結果、炭素質材料を用いない従来の製造方法よりも低い焼成温度において、結晶化度の高い単一のフェライト相が生成し易い。
調製工程において、金属種が、比表面積の大きい多孔質の炭素質材料の外表面又は細孔の内部に吸着して分散するため、炭素質材料がない場合に比べて、金属種の凝集が抑制される。また焼成工程において、フェライト相の過度の成長が、炭素質材料(又は有機酸)の介在により抑制される。これらの理由により、フェライト相の結晶子径又はフェライト系触媒の一次粒子径が小さくなり易く、フェライト系触媒の比表面積又は活性点の数が増大し易い。
ただし、炭素質材料に係るメカニズムは、上記の現象に限定されるものではない。
【0036】
[第二の製法]
第二の製法は、調製工程と焼成工程とを備える。第二の製法では、多孔質の炭素質材料ではなく、有機酸を用いる。
【0037】
第二の製法の調製工程では、第一の金属塩と第二の金属塩と有機酸とを含む溶液から、前駆体を調製する。第二の製法で用いる第一の金属塩、第二の金属塩、有機酸及び溶媒は、第一の製法の場合と同様であってよい。調製工程で得られる前駆体とは、金属種と、有機酸と、を含む混合物であってよい。前駆体とは、有機酸と、フェライト系触媒の必須成分である金属元素と、を含む物質と言い換えてよい。また前駆体とは、焼成されることによりフェライト系触媒になる物質と言い換えてよい。調製工程では、減圧又は加熱等の処理によって溶媒を除去し、乾燥した前駆体を調製してもよい。
【0038】
第二の製法の焼成工程では、第一製法と同様の条件下で、前駆体を焼成することにより、フェライト系触媒を生成させる。焼成工程では、乾燥した前駆体を焼成してもよい。前駆体を含む溶液を加熱することにより、溶媒を除去すると共に前駆体を焼成してもよい。
【0039】
(ブテンの脱水素に用いるフェライト系触媒)
本実施形態に係るフェライト系触媒は、上記第一の製法又は第二の製法によって製造される。本実施形態に係るフェライト系触媒は、MFe(MはCu又はCoのうち少なくともいずれかである。)を含む。
【0040】
フェライト系触媒における炭素の含有率は、フェライト系触媒の全質量に対して0〜5質量%である。炭素の含有率が高過ぎる場合、触媒全体に占める触媒活性成分(フェライト相)の質量の割合(及び触媒中の格子酸素の量)が減少することとなり、フェライト系触媒の活性が高くならない。炭素の含有率は0〜1.8質量%であってよい。炭素の含有率は0〜0.5質量%であってよい。炭素の含有率は0〜0.1質量%であってよい。炭素の含有率は0〜0.01質量%であってよい。炭素の含有率は、例えば、熱重量分析(Thermogravimetric Analysis,TG)によって測定されてよい。
【0041】
フェライト系触媒が炭素を含む場合、この炭素は多孔質の炭素質材料又は有機酸に由来するものであってよい。ただし、フェライト系触媒に含まれる炭素は、活性成分(MFe)の担体ではない。また、フェライト系触媒に含まれる炭素自体は、必ずしも活性を示さない。フェライト系触媒は炭素を含まなくてもよい。つまり、フェライト系触媒は、CuCo1−xFe(xは0〜1である)のみからなってよい。フェライト系触媒は、CuFeのみからなってよい。CoFeのみからなってよい。フェライト系触媒は不可避的な微量の不純物を含有してもよい。
【0042】
(1,3−ブタジエンの製造方法)
本実施形態に係る1,3−ブタジエンの製造方法は、ブテンを上記のフェライト系触媒に接触させる脱水素工程を備える。ブテンをフェライト系触媒に接触させることにより、ブテンの酸化的脱水素反応が起こり、1,3−ブタジエンが生成する。ブテンの酸化的脱水素反応では、フェライト系触媒を構成する格子酸素が消費されてよい。ブテンの脱水素反応では、副生成物として、例えば、水素、水、一酸化炭素及び二酸化炭素が生成してもよい。ブテンの酸化的脱水素反応において、ブテン、1,3−ブタジエン、及び副生成物のいずれも気体であってよい。
【0043】
1,3−ブタジエンの製造に用いるブテンは、1−ブテン又は2−ブテンであってよい。ブテンは、1−ブテン及び2−ブテンの混合物であってよい。2−ブテンは、cis−2−ブテン及びtrans−2−ブテンのうち一方又は両方であってよい。
【0044】
本実施形態では、従来のフェライト系触媒を用いる場合に比べて、ブテンの脱水素反応における1,3−ブタジエンの選択率が向上する。また本実施形態では、従来のフェライト系触媒を用いる場合に比べて、より低温(例えば、200〜300℃)で、1,3−ブタジエンを高い選択率で生成させることができる。CuFeを含むフェライト系触媒は、CoFeを含むフェライト系触媒によりも、低温での活性に優れる傾向がある。
【0045】
フェライト系触媒がCuFeを含む場合、脱水素工程における反応温度は、例えば、180〜450℃、200〜300℃、又は250〜270℃であってよい。フェライト系触媒がCoFeを含む場合、脱水素工程における反応温度は、例えば、350〜500℃、400〜480℃又は400〜450℃であってよい。脱水素工程における反応温度が上記範囲内にある場合、ブテンの過度の脱水素又は過度の酸化が抑制され易く、副生成物の生成が抑制され易く、1,3−ブタジエンが高い選択率で生成し易い傾向がある。なお、脱水素工程における反応温度は、例えば、脱水素工程におけるフェライト系触媒の温度(例えば、反応器内に設置される触媒層の温度)であってよい。
【0046】
フェライト系触媒に対するブテンの供給速度(単位時間当たりのブテンの流量)、及び脱水素反応の反応時間は、特に限定されない。ブテンの供給速度、及び反応時間は、フェライト系触媒の量、反応温度、又は目標とする1,3−ブタジエンの単位時間当たりの生産量に応じて、適宜調整すればよい。
【0047】
本実施形態に係るフェライト系触媒(CuFe)を用いたブテンの酸化的脱水素反応の進行に伴い、フェライト系触媒のX線回折パターンにおいて銅単体(金属銅)の構造に固有のピークが発現することを、本発明者らは実験により確認している。このことは、酸化的脱水素反応の進行に伴い、フェライト系触媒を構成する格子酸素が消費されることを示唆している。酸化的脱水素反応に用いた後のフェライト系触媒を再酸化すると、フェライト系触媒のX線回折パターンにおいて銅単体(金属銅)の構造に固有のピークが消失することを、本発明者らは実験により確認している。このことは、フェライト系触媒の再酸化により、フェライト系触媒中の酸素空孔に格子酸素が補充されたことを示唆している。以上の実験結果は、本実施形態に係るフェライト系触媒をブテンの酸化的脱水素反応において連続的に使用できることを示唆している。
【実施例】
【0048】
以下では実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
[触媒の製造]
<調製工程>
Co(NO・6HO(第一の金属塩)と、Fe(NO・9HO(第二の金属塩)と、を120mLの純水に溶解させて、溶液を作製した。純水に添加したCo(NO・6HOの質量は1.746gであった。純水に添加したFe(NO・9HOの質量は4.848gであった。純水におけるCoのモル数とFeのモル数の比を1:2に調整した。活性炭(多孔質の炭素質材料)を上記溶液に添加した後、溶液を一晩攪拌した。活性炭の質量は、焼成工程後に得られるべきフェライト系触媒の質量の約4倍(4.00g)に調整した。攪拌後の溶液を、ロータリーエバポレーターを用いて60〜70℃で加熱して溶液から水分を除去して、前駆体を得た。この前駆体を減圧下において70℃で一晩加熱することにより、前駆体を乾燥させた。
【0050】
<焼成工程>
焼成工程では、以下の手順で前駆体を焼成して、実施例1の触媒を得た。まず、前駆体をマッフル炉内に設置し、マッフル炉内に空気を流通させながら、マッフル炉内を3時間かけて常温から500℃まで昇温した。さらにマッフル炉内の温度を500℃に2時間維持した。焼成工程によって得られた触媒の質量は約1gであった。下記の表1では、実施例1の製造方法を「含浸法」と記す。
【0051】
<触媒の分析>
実施例1の触媒のX線回折パターンを測定した。実施例1のX線回折パターンを図1に示す。X線回折パターンにより、実施例1の触媒がCoFe(フェライト系触媒)であることが確認された。熱重量分析の結果、実施例1のフェライト系触媒における炭素の含有率が、1.2質量%であることが確認された。
【0052】
[1,3−ブタジエンの製造]
実施例1のフェライト系触媒200mgを反応器内に設置した。1−ブテン及びアルゴンの混合気体(原料ガス)を反応器内に供給し、1−ブテンをフェライト系触媒に接触させ、1−ブテンの脱水素反応を行った。脱水素反応の反応温度(フェライト系触媒の温度)は400℃に調整した。酸化的脱水素反応の反応時間は8分であった。反応器内に供給される1−ブテンの流量は5ml/分に調整した。反応器内に供給されるアルゴンの流量は25ml/分に調整した。
【0053】
脱水素反応の生成物(生成ガス)をガスクロマトグラフィーで分析した。生成ガスは1,3−ブタジエン(C)を含むことが確認された。生成ガスは、cis−2−ブテン、trans−2−ブテン、一酸化炭素、二酸化炭素、水素及び水も含むことが確認された。未反応の1−ブテンもガスクロマトグラフィーによって検出された。生成ガスが含む各成分のモル分率を、各成分に由来するクロマトグラムのピーク面積の比から求めた。生成ガスが含む各炭素化合物のモル分率を下記の表2に示す。表2に記載の「cis−C4’」はcis−2−ブテンを意味する。表2に記載の「trans−C4’」はtrans−2−ブテンを意味する。1−ブテンの転化率1を表2に示す。転化率1は、下記式で定義される。
転化率1(%) = (1−(m1/m2)×100
m1は、脱水素反応の生成ガスに含まれる1−ブテンのモル数である。m2は、原料ガスにおける1−ブテンのモル数である。m1は、生成ガスについてのガスクロマトグラフィーに基づき求められる値である。m2は、原料ガスについてのガスクロマトグラフィーに基づき求められる値である。
【0054】
1−ブテンの転化率2を表1に示す。転化率2は、下記式で定義される。
転化率2(%) = 転化率1×(1−m3)
m3は、生成ガスにおけるcis−2−ブテンのモル分率と、生成ガスにおけるtrans−2−ブテンのモル分率と、の和である。
【0055】
1,3−ブタジンエンの選択率を表1に示す。選択率は、下記式で定義される。
選択率(%) = m4/(1−m3)
m4は、生成ガスにおける1,3−ブタジンエンのモル分率である。
【0056】
1,3−ブタジンエンの収率を表1に示す。収率は、下記式で定義される。
収率(%) = 転化率1×m4
【0057】
以下の昇温反応法(Temperature Programmed Reaction:TPR)に基づく測定によって、1−ブテンの酸化的脱水素が実施例1のフェライト系触媒の格子酸素によって引き起されるか否かを調べた。
【0058】
TPRに基づく測定では、実施例1のフェライト系触媒を流通型反応器内に設置した。そして、フェライト系触媒の温度を上昇させながら、1−ブテンを反応器内に供給し続け、各温度において反応器内から排出されるガスの組成を質量分析器で分析した。TPRに基づく測定の結果を図9に示す。図9の縦軸は、反応器内から排出されるガス中の各成分のモル濃度を示す対数軸である。図10及び11の縦軸についても同様である。
【0059】
(実施例2及び3)
実施例2及び3では、実施例1のフェライト系触媒を用いて1−ブテンの脱水素反応を行った。実施例2及び3では、反応温度を表1に示す値に調整した。これらの事項以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2及び3それぞれの1−ブテンの脱水素反応を行った。実施例1と同様の方法に基づく分析の結果、実施例2及び3においても、脱水素反応の生成ガスが、1,3−ブタジエンを含むことが確認された。実施例2及び3それぞれの生成ガスが含む各炭素化合物のモル分率及び転化率1を表2に示す。実施例2及び3それぞれの転化率2、並びに1,3−ブタジンエンの選択率及び収率を表1に示す。
【0060】
参考例4)
[触媒の製造]
<調製工程>
Co(NO・6HO(第一の金属塩)と、Fe(NO・9HO(第二の金属塩)と、クエン酸(有機酸)と、を30mLの純水に溶解させて、溶液を作製した。純水に添加したCo(NO・6HOの質量は1.746gであった。純水に添加したFe(NO・9HOの質量は4.848gであった。溶液におけるCoのモル数とFeのモル数の比を1:2に調整した。純水に添加したクエン酸の質量は3.458gであり、そのモル数は、第一金属塩及び第二金属塩の総モル数と等しかった。この溶液を一晩攪拌した。攪拌後の溶液を、ロータリーエバポレーターを用いて60〜70℃で加熱して溶液から水分を除去して、前駆体を得た。この前駆体を減圧下において70℃で一晩加熱することにより、参考例4の前駆体を乾燥させた。
【0061】
<焼成工程>
焼成工程では、以下の手順で前駆体を焼成して、参考例4の触媒を得た。まず、前駆体をマッフル炉内に設置し、マッフル炉内に空気を流通させながら、マッフル炉内を3時間かけて常温から500℃まで昇温した。さらにマッフル炉内の温度を500℃に2時間維持した。以上の参考例4の製造方法において、活性炭は用いなかった。表1では、参考例4の製造方法を「クエン酸法」と記す。
【0062】
<フェライト系触媒の分析>
参考例4の触媒のX線回折パターンを測定した。参考例4のX線回折パターンを図2に示す。X線回折パターンにより、参考例4の触媒がCoFe(フェライト系触媒)であることが確認された。
【0063】
[1,3−ブタジエンの製造]
参考例4のフェライト系触媒を用いて1−ブテンの脱水素反応を行った。触媒の組成を除いて実施例1と同様の方法で、参考例4の1−ブテンの脱水素反応を行った。実施例1と同様の方法に基づく分析の結果、参考例4においても、脱水素反応の生成ガスが、1,3−ブタジエンを含むことが確認された。参考例4の生成ガスが含む各炭素化合物のモル分率及び転化率1を表2に示す。参考例4の転化率2、並びに1,3−ブタジンエンの選択率及び収率を表1に示す。
【0064】
(実施例5)
実施例5の触媒の製造では、第一の金属塩として、Co(NO・6HOの代わりに、1.45gのCu(NO・6HOを用いた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例5の触媒を作製した。表1では、実施例5の製造方法を「含浸法」と記す。
【0065】
実施例1と同様の方法で、実施例5の触媒のX線回折パターンを測定した。実施例5のX線回折パターンを図3に示す。X線回折パターンにより、実施例5の触媒がCuFe(フェライト系触媒)であることが確認された。熱重量分析の結果、実施例5のフェライト系触媒における炭素の含有率が、0.9質量%であることが確認された。
【0066】
実施例5のフェライト系触媒を用いて1−ブテンの脱水素反応を行った。実施例5では、反応温度を表1に示す値に調整した。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例5の1−ブテンの酸化的脱水素反応を行った。実施例1と同様の方法に基づく分析の結果、実施例5においても、脱水素反応の生成ガスが、1,3−ブタジエンを含むことが確認された。実施例5の生成ガスが含む各炭素化合物のモル分率及び転化率1を表2に示す。実施例5の転化率2、並びに1,3−ブタジンエンの選択率及び収率を表1に示す。
【0067】
実施例5のフェライト系触媒を用いて、実施例1と同様の方法で、TPRに基づく測定を行った。実施例5のTPRに基づく測定の結果を図10に示す。図10に示すように、実施例5のフェライト系触媒を用いた1−ブテンの脱水素反応では、200℃近傍から高温の領域にわたって、1,3−ブタジエン及び水の生成量が増加することが確認された。また200℃近傍では、水素の生成量は略一定であった。このことは、200℃程度の低温において1−ブテンの酸化的脱水素が促進されることを示唆している。また、図10に示すように、200℃近傍の低温では、二酸化炭素の生成量が少ないことが確認された。このことは、200℃近傍の低温では、1−ブテンの完全酸化が抑制されていることを示唆している。
【0068】
(実施例6〜9)
実施例6〜9では、実施例5のフェライト系触媒を用いて1−ブテンの脱水素反応を行った。実施例6〜9では、反応温度を表1に示す値に調整した。これらの事項以外は、実施例5と同様の方法で、実施例6〜9それぞれの1−ブテンの脱水素反応を行った。実施例1と同様の方法に基づく分析の結果、実施例6〜9においても、脱水素反応の生成ガスが、1,3−ブタジエンを含むことが確認された。実施例6〜9それぞれの生成ガスが含む各炭素化合物のモル分率及び転化率1を表2に示す。実施例6〜9それぞれの転化率2、並びに1,3−ブタジンエンの選択率及び収率を表1に示す。
【0069】
(実施例10)
実施例10の触媒の製造では、第一の金属塩として、Co(NO・6HOの代わりに、1.45gのCu(NO・6HOを用いた。また、実施例10では、第一の金属塩及び第二の金属塩のみならず、クエン酸を純水に添加して、溶液を作製した。純水に添加したクエン酸の質量3.458gであり、そのモル数は、第一金属塩及び第二金属塩の総モル数と等しかった。これらの事項を除いて、実施例1と同様の方法で、実施例10の触媒を作製した。表1では、実施例10の製造方法を「含浸・クエン酸法」と記す。
【0070】
実施例1と同様の方法で、実施例10の触媒のX線回折パターンを測定した。実施例5のX線回折パターンを図4に示す。X線回折パターンにより、実施例10の触媒がCuFe(フェライト系触媒)であることが確認された。熱重量分析の結果、実施例10のフェライト系触媒における炭素の含有率が、0.9質量%であることが確認された。
【0071】
実施例10のフェライト系触媒を用いて1−ブテンの脱水素反応を行った。実施例10では、反応温度を表1に示す値に調整した。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、実施例10の1−ブテンの酸化的脱水素反応を行った。実施例1と同様の方法に基づく分析の結果、実施例10においても、脱水素反応の生成ガスが、1,3−ブタジエンを含むことが確認された。実施例10の生成ガスが含む各炭素化合物のモル分率及び転化率1を表2に示す。実施例10の転化率2、並びに1,3−ブタジンエンの選択率及び収率を表1に示す。
【0072】
(実施例11及び12)
実施例11及び12では、実施例10のフェライト系触媒を用いて1−ブテンの酸化的脱水素反応を行った。実施例11及び12では、反応温度を表1に示す値に調整した。これらの事項以外は、実施例1と同様の方法で、実施例11及び12それぞれの1−ブテンの脱水素反応を行った。実施例1と同様の方法に基づく分析の結果、実施例11及び12においても、脱水素反応の生成ガスが、1,3−ブタジエンを含むことが確認された。実施例11及び12それぞれの生成ガスが含む各炭素化合物のモル分率及び転化率1を表2に示す。実施例11及び12それぞれの転化率2、並びに1,3−ブタジンエンの選択率及び収率を表1に示す。
【0073】
参考例13)
参考例13の触媒の製造では、第一の金属塩として、Co(NO・6HOの代わりに、1.45gのCu(NO・6HOを用いた。この事項を除いて参考例4と同様の方法で、参考例13の触媒を作製した。表1では、参考例13の製造方法を「クエン酸法」と記す。
【0074】
実施例1と同様の方法で、参考例13の触媒のX線回折パターンを測定した。参考例13のX線回折パターンを図5に示す。X線回折パターンにより、参考例13の触媒がCuFe(フェライト系触媒)であることが確認された。
【0075】
参考例13のフェライト系触媒を用いて1−ブテンの脱水素反応を行った。参考例13では、反応温度を表1に示す値に調整した。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、参考例13の1−ブテンの脱水素反応を行った。実施例1と同様の方法に基づく分析の結果、参考例13においても、脱水素反応の生成ガスが、1,3−ブタジエンを含むことが確認された。参考例13の生成ガスが含む各炭素化合物のモル分率及び転化率1を表2に示す。参考例13の転化率2、並びに1,3−ブタジンエンの選択率及び収率を表1に示す。
【0076】
参考例14及び15)
参考例14及び15では、参考例13のフェライト系触媒を用いて1−ブテンの酸化的脱水素反応を行った。参考例14及び15では、反応温度を表1に示す値に調整した。これらの事項以外は、実施例1と同様の方法で、参考例14及び15それぞれの1−ブテンの脱水素反応を行った。実施例1と同様の方法に基づく分析の結果、参考例14及び15においても、脱水素反応の生成ガスが、1,3−ブタジエンを含むことが確認された。参考例14及び15それぞれの生成ガスが含む各炭素化合物のモル分率及び転化率1を表2に示す。参考例14及び15それぞれの転化率2、並びに1,3−ブタジンエンの選択率及び収率を表1に示す。
【0077】
(比較例1)
比較例1の触媒の製造では、Co(NO・6HOの代わりに、1.722gのMn(NO・6HOを用いた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例1の触媒を作製した。表1では、比較例1の製造方法を「含浸法」と記す。
【0078】
実施例1と同様の方法で、比較例1の触媒のX線回折パターンを測定した。比較例1のX線回折パターンを図6に示す。X線回折パターンにより、比較例1の触媒がMnFe(フェライト系触媒)であることが確認された。熱重量分析の結果、比較例1のフェライト系触媒における炭素の含有率が、1.0質量%であることが確認された。
【0079】
比較例1のフェライト系触媒を用いて1−ブテンの脱水素反応を行った。比較例1では、反応温度を表1に示す値に調整した。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例1の1−ブテンの脱水素反応を行った。実施例1と同様の方法に基づく分析の結果、比較例1においても、脱水素反応の生成ガスが、1,3−ブタジエンを含むことが確認された。比較例1の生成ガスが含む各炭素化合物のモル分率及び転化率1を表2に示す。比較例1の転化率2、並びに1,3−ブタジンエンの選択率及び収率を表1に示す。
【0080】
(比較例2)
比較例2の触媒の製造では、Co(NO・6HOの代わりに、1.782gのZn(NO・6HOを用いた。この事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例2の触媒を作製した。表1では、比較例2の製造方法を「含浸法」と記す。
【0081】
実施例1と同様の方法で、比較例2の触媒のX線回折パターンを測定した。比較例2のX線回折パターンを図7に示す。X線回折パターンにより、比較例2の触媒がZnFe(フェライト系触媒)であることが確認された。
【0082】
比較例2のフェライト系触媒を用いて1−ブテンの脱水素反応を行った。比較例2では、反応温度を表1に示す値に調整した。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例2の1−ブテンの脱水素反応を行った。実施例1と同様の方法に基づく分析の結果、比較例2においても、脱水素反応の生成ガスが、1,3−ブタジエンを含むことが確認された。比較例2の生成ガスが含む各炭素化合物のモル分率及び転化率1を表2に示す。比較例2の転化率2、並びに1,3−ブタジンエンの選択率及び収率を表1に示す。
【0083】
比較例2のフェライト系触媒を用いて、実施例1と同様の方法で、TPRに基づく測定を行った。比較例2のTPRに基づく測定の結果を図11に示す。図11に示すように、比較例2のフェライト系触媒を用いた1−ブテンの脱水素反応では、400℃近傍から高温の領域にわたって、1,3−ブタジエンの生成量が増加すると略同時に、水素の生成量も増加することが確認された。このことは、1−ブテンの酸化的脱水素のみならず、単純脱水素が行っていることを示唆している。
【0084】
(比較例3)
Zn(NO・6HOと、Fe(NO・9HOと、を100mLの純水に溶解させて、溶液(前駆体の溶液)を作製した。純水に添加したZn(NO・6HOの質量は1.49gであった。純水に添加したFe(NO・9HOの質量は4.04gであった。純水におけるZnのモル数とFeのモル数の比を1:2に調整した。NHの水溶液を上記前駆体の溶液に徐々に滴下して、前駆体の溶液のpHを7に調整することにより、溶液中の前駆体を共沈させた。この溶液の遠心分離により、固体状の前駆体を回収した。この前駆体を純水で洗浄した。洗浄に用いた後の純水のpHが7になるまで、洗浄を繰り返した。洗浄された前駆体を100℃で一晩加熱して、乾燥した前駆体を得た。この前駆体を粉砕した。
【0085】
以下の手順で前駆体を焼成して、比較例3の触媒を得た。まず、粉砕された前駆体をマッフル炉内に設置し、マッフル炉内に空気を流通させながら、マッフル炉内を3時間かけて常温から500℃まで昇温した。さらにマッフル炉内の温度を500℃に2時間維持した。表1では、比較例3の製造方法を「共沈法」と記す。
【0086】
実施例1と同様の方法で、比較例3の触媒のX線回折パターンを測定した。比較例3のX線回折パターンを図8に示す。X線回折パターンにより、比較例3の触媒がZnFe(フェライト系触媒)であることが確認された。
【0087】
比較例3のフェライト系触媒を用いて1−ブテンの脱水素反応を行った。比較例3では、反応温度を表1に示す値に調整した。これらの事項を除いて実施例1と同様の方法で、比較例3の1−ブテンの脱水素反応を行った。実施例1と同様の方法に基づく分析の結果、比較例3においても、脱水素反応の生成ガスが、1,3−ブタジエンを含むことが確認された。比較例3の生成ガスが含む各炭素化合物のモル分率及び転化率1を表2に示す。比較例3の転化率2、並びに1,3−ブタジンエンの選択率及び収率を表1に示す。
【0088】
(比較例4)
Zn(NO・6HOの代わりにCo(NO・6HOを用いたこと以外は、比較例3と同様の方法で、比較例4の触媒の製造を試みた。しかし、フェライト系触媒(CoFe)は得られなかった。
【0089】
(比較例5)
Zn(NO・6HOの代わりにCu(NO・6HOを用いたこと以外は、比較例3と同様の方法で、比較例5の触媒の製造を試みた。しかし、フェライト系触媒(CuFe)は得られなかった。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
上記表1に記載の「Co」は、CoFeを意味する。表1に記載の「Cu」は、CuFeを意味する。表1に記載の「Mn」は、MnFeを意味する。表1に記載の「Zn」は、ZnFeを意味する。
【0093】
表1に示すように、全実施例の1,3−ブタジエンの選択率は、全比較例の1,3−ブタジエンの選択率よりも高いことが確認された。
【0094】
比較例2及び3は、活性炭を用いた含浸法によって得られたZnFeの活性は、活性炭を用いない共沈法によって得られたZnFeの活性に劣ることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明に係るフェライト系触媒は、ブテンの酸化的脱水素により1,3−ブタジエンを高い選択率で生成させるための触媒(脱水素触媒)として好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11