【発明が解決しようとする課題】
【0005】
透明樹脂成形品の射出成形時における課題として、
A.気泡の混入
B.複数のゲート(射出孔)から成形型内に射出された樹脂同士が型内で隣接する際におけるウェルドライン(湯ざかい)の発生
C.樹脂材料の硬化時に体積が縮小することによるヒケ(凹み)の発生
が挙げられる。
【0006】
特許文献1,2における透明樹脂成形品の製造方法は、いずれも成形品の厚さが1mm以下〜8mm程度と比較的薄く、大きさも小さいものを成形する方法であるため、上記A〜Cの課題は発生しにくいので大きな問題となりにくい。しかし、航空機のキャノピーのように、厚さが20mm程度ある厚肉で大型の透明樹脂成形品の場合は上記課題A〜Cが顕著になる。
【0007】
即ち、
図16に示すように、ゲート101から成形型102内に樹脂材料Rが射出される際に、ゲート101の直径寸法Xに対して成形型102の厚み寸法Yが大きいために、射出された樹脂材料Rが成形型の内部に線状に押し出され、そのまま落下して積み上がってしまい、これによって多量の気泡が混入してしまう。
【0008】
また、航空機のキャノピーを樹脂成形する場合、従来では
図17に示すように、成形型102を横倒しの姿勢に保ち、その最上部にゲート101を形成するか、あるいは
図18に示すように、成形型102の前後両端にゲート101を形成して樹脂材料Rを射出する。ところが、このような位置から成形型102の内部に樹脂材料Rを射出すると、成形型102の内部空間が広いために、ゲート101から射出された樹脂材料Rが成形型102の内壁に付着せずに落下し、
図16の場合と同様に線状に押し出されて積み上がり、多量の気泡が混入してしまう。
【0009】
さらに、全長が3m以上にも及ぶキャノピーの成形型102には、単一のゲートのみから樹脂材料Rを射出するのは容量的に困難なので、
図19に示すように複数のゲート101(多点ゲート)を設けて樹脂材料Rを射出することになる。しかし、このような多点ゲート101から樹脂材料Rを射出すると、成形型102の内部で各ゲート101から射出された樹脂材料Rが互いに接する境界面(湯ざかい)が可視的に残存する、所謂ウェルドラインWが発生してしまう。このウェルドラインWは光学歪みを伴うため、航空機のキャノピーにおいては重大な欠陥となる。
【0010】
また、一般に、樹脂材料は、硬化する際に体積が減少するため、樹脂成形品の表面が凹む、所謂ヒケと呼ばれる欠陥が発生しやすい。これは厚肉な成形品において顕著になる。ヒケは透明な成形品においては光学歪みの原因になるため、航空機のキャノピーの場合には成形品の表裏を研磨してヒケを消去する必要が生じ、この研磨作業が成形品の製造コストを上昇させる原因となっている。
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、気泡、ウェルドライン、ヒケ等の欠陥の発生を防止し、透明樹脂成型品の歩留りを向上させて製造コストダウンを図ることのできる透明樹脂成形品
の射出成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
【0013】
即ち、本発明の第1の参考例に係る透明樹脂成形品の射出成形装置は、透明樹脂成形品を射出成形するための成形型と、前記成形型の周縁部に設けられ、前記成形型の内部に樹脂材料を射出する入口となるゲートと、を具備したものであって、前記成形型の厚み寸法が15〜25mmの範囲のものにおいて、前記ゲートの直径寸法と前記成形型の厚み寸法との比率が1:6〜1:3の範囲内に設定されたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明の第1の参考例に係る透明樹脂成形品の射出成形方法は、透明樹脂成形品を射出成形するための成形型と、前記成形型の周縁部に設けられ、前記成形型の内部に樹脂材料を射出する入口となるゲートと、を使用する射出成形方法であって、前記成形型の厚み寸法が15〜25mmの範囲のものにおいて、前記ゲートの直径寸法と前記成形型の厚み寸法との比率を1:6〜1:3の範囲内に設定して射出成型することを特徴とする。
【0015】
上記の射出成形装置および射出成形方法によれば、ゲートの直径寸法と成形型の厚み寸法との比率が適正化されるため、ゲートから成形型の内部に射出された樹脂材料が成形型の内部に線状に押し出されて積み上がってしまうことがなく、射出された樹脂材料は成形型の内部をファウンテンフロー状に流れる。このため、樹脂材料に気泡が混入しなくなり、気泡の混入による欠陥の発生を防止して成形品の歩留りを向上させ、製造コストダウンを図ることができる。
【0016】
また、本発明の第2の参考例に係る透明樹脂成形品の射出成形装置は、凹形状の透明樹脂成形品を射出成形するための成形型と、前記成形型の内部に樹脂材料を射出する入口となるゲートと、を具備したものであって、前記ゲートは前記成形型の周縁部に設けられ、前記成形型は、その凹形状の開放面の角度が、前記ゲートが前記成形型の下部に位置するように保たれ、前記ゲートによって前記成形型の内部の下部から上方に向かって樹脂材料が射出されることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の第2の参考例に係る透明樹脂成形品の射出成形方法は、凹形状の透明樹脂成形品を射出成形するための成形型と、前記成形型の内部に樹脂材料を射出する入口となるゲートと、を使用する射出成形方法であって、前記成形型を、その凹形状の開放面が略鉛直となる姿勢に保ち、前記開放面の周縁部の下部に前記ゲートを設け、このゲートによって前記成形型の内部の下部から上方に向かって樹脂材料を射出することを特徴とする。
【0018】
上記の射出成形装置および射出成形方法によれば、成形型の下部に位置するゲートから樹脂材料が成形型の内部に射出され、樹脂材料が成形型の内部を上方に向かって充填されてゆく。このため、ゲートから成形型の内部に射出される樹脂材料が、線状に押し出されて成形型の底部に落下して積み上がってしまうようなことがなく、成形品に気泡が混入する欠陥の発生を防止することができる。
【0019】
上記構成の射出成形装置において、前記成形型の前記開放面の少なくとも下側の縁部に沿って、前記成形型の厚み寸法よりも大きな内幅を持つ樹脂材料プールを並設し、この樹脂材料プールと、前記成形型の下側の縁部との間を長手方向に沿って連続的に連通させ、前記樹脂材料プールの長手方向に沿って前記ゲートを複数箇所に設けてもよい。
【0020】
同じく、上記構成の射出成形方法において、前記成形型の前記開放面の少なくとも下側の縁部に沿って、前記成形型の厚み寸法よりも大きな内幅を持つ樹脂材料プールを並設し、この樹脂材料プールと、前記成形型の下側の縁部との間を長手方向に沿って連続的に連通させるとともに、前記樹脂材料プールの長手方向に沿って前記ゲートを複数箇所に設け、前記複数のゲートから前記樹脂材料プールの内部に射出した前記樹脂材料を、前記樹脂材料プールの内部で流動および混合させてから前記成形型の内部に充填するようにしてもよい。
【0021】
上記の射出成形装置および射出成形方法によれば、成形型の下部に、成形型の厚み寸法よりも大きな内幅を持つ樹脂材料プールが形成され、この樹脂材料プールに複数個所設けられたゲートから樹脂材料が射出される。複数のゲートから樹脂材料プールの内部に射出された樹脂材料は、まず樹脂材料プールの内部で流通することにより、互いに混ざり合う。そして、混ざり合った樹脂材料が樹脂材料プールから成形型の下側の縁部に沿って幅広く射出される。このため、複数のゲート(多点ゲート)から射出された樹脂材料が、成形型の内部で境界面(ウェルドライン)を形成するといった欠陥の発生を防止することができる。
【0022】
さらに、上記の射出成形装置および射出成形方法において、前記成形型の前記開放面の下側の縁部と前記樹脂材料プールの内部とを接続する接続通路の通路幅を、前記成形型の凹形状の断面アーチ長さが長くなるにつれて大きくするのが好ましい。
【0023】
上記の射出成形装置および射出成形方法によれば、樹脂材料プールから成形型に樹脂が射出される際に、成形型の凹形状の断面アーチ長さが長い位置では多くの樹脂材料が射出され、断面アーチ長さが短い位置では少ない樹脂材料が射出される。これにより、凹形状の一端から他端まで樹脂材料が充填される速度が成形型の全域に亘って均等になる。このため、成形型の内部で樹脂材料の到着速度に差が発生することに起因する境界面(ウェルドライン)の生成といった欠陥の発生を防止することができる。
【0024】
また、本発明の第
3の
参考例に係る透明樹脂成形品の射出成形装置は、凹形状の透明樹脂成形品を射出成形するための成形型を備えたものであって、前記成形型は、第1の外型と第1の内型との間で前記透明樹脂成形品の板厚方向中間部から外表面までの外側部分を射出成形する外側部分成形型と、第2の外型と第2の内型との間で前記透明樹脂成形品の板厚方向中間部から内表面までの内側部分を射出成形する内側部分成形型と、を備え、前記第1の外型と前記第2の内型とは型合わせ可能であり、前記外側部分成形型の射出成形後に前記第1の内型を取り外された前記第1の外型と、前記内側部分成形型の射出成形後に前記第2の外型を取り外された前記第2の内型とが型合わせされた状態で、前記外側部分と前記内側部分との間に樹脂材料を射出可能な射出空間が形成されることを特徴とする。
【0025】
また、本発明の第1の態様に係る透明樹脂成形品の射出成形方法は、凹形状の透明樹脂成形品を射出成形するための方法であって、前記透明樹脂成形品の板厚方向中間部から外表面までの外側部分を、第1の外型と第1の内型との間に射出成形する一次射出工程と、前記外側部分の射出成形後に前記第1の外型を残して前記第1の内型を取り外し、前記外側部分
の内周面にヒケを誘発させる一次硬化工程と、前記透明樹脂成形品の板厚方向中間部から内表面までの内側部分を、第2の外型と第2の内型との間に射出成形する二次射出工程と、前記内側部分の射出成形後に前記第2の内型を残して前記第2の外型を取り外し、前記内側部分
の外周面にヒケを誘発させる二次硬化工程と、前記一次硬化工程後の前記第1の外型と前記二次硬化工程後の前記第2の内型とを型合わせして前記外側部分と前記内側部分との間に形成される射出空間に樹脂材料を射出する三次射出工程と、を備えてなることを特徴とする。
【0026】
上記
の射出成形方法によれば、外側部分成形型の第1の外型と第1の内型とによって凹形状の透明樹脂成形品の板厚方向中間部から外表面までの外側部分が射出成形される(一次射出工程)。また、内側部分成形型の第2の外型と第2の内型とによって凹形状の透明樹脂成形品の板厚方向中間部から内表面までの内側部分が射出成形される(二次射出工程)。
【0027】
そして、外側部分の成形後に第1の内型を取り外すことにより、外側部分の内周面にヒケを誘発させ(一次硬化工程)、内側部分の成形後に第2の外型を取り外すことにより、内側部分の外周面にヒケを誘発させる(二次硬化工程)。その後、外側部分を成形した第1の外型と、内側部分を成形した第2の内型とを型合わせし、外側部分と内側部分との間(射出空間)に樹脂材料を射出する(三次射出工程)。
【0028】
このように、外側部分の内周面と、内側部分の外周面とにヒケを誘発させてから、これら両面の間に樹脂材料を射出することにより、凹形状の透明樹脂成形品の表裏面にヒケが発生する欠陥を確実に防止することができる。