特許第6195328号(P6195328)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195328
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】分析装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 1/00 20060101AFI20170904BHJP
   A61B 1/045 20060101ALI20170904BHJP
   A61B 5/1455 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   A61B1/00 513
   A61B1/045 617
   A61B5/14 322
【請求項の数】12
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2017-514928(P2017-514928)
(86)(22)【出願日】2016年9月16日
(86)【国際出願番号】JP2016077465
(87)【国際公開番号】WO2017051779
(87)【国際公開日】20170330
【審査請求日】2017年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-186553(P2015-186553)
(32)【優先日】2015年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078880
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100183760
【弁理士】
【氏名又は名称】山鹿 宗貴
(72)【発明者】
【氏名】千葉 亨
【審査官】 佐藤 高之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/172156(WO,A1)
【文献】 特開2002−085342(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/192781(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源装置と、
前記光源装置が発生する光により照明された生体組織を撮像してカラー画像データを生成する撮像素子と、
前記カラー画像データに基づいて、前記生体組織の特徴量Qを示す指標Xを計算する指標計算部と、
前記指標Xに基づいて、前記特徴量Qを取得する特徴量取得部と、
を備え、
前記特徴量Qが、前記生体組織中の酸素飽和度と前記生体組織中の総ヘモグロビン量の少なくとも一方を含み、
前記カラー画像データが、RGBカラー画像データであり、
前記特徴量取得部が、
前記カラー画像データに含まれる少なくとも2色の単色画像データに基づいて、前記生体組織の分光特性への散乱の寄与の程度を数値化した寄与度Cを計算する寄与度計算部を備え、
前記指標X及び前記寄与度Cに基づいて前記特徴量Qを取得し、
前記寄与度計算部が、前記カラー画像データにおける、R単色画像データのG又はB単色画像データに対する比として前記寄与度Cを計算する、
分析装置。
【請求項2】
前記寄与度計算部が、
前記特徴量Qと、前記指標Xと、前記寄与度Cとの関係を示す情報を保持する記憶手段を備え、
前記特徴量取得部が、
前記情報、前記指標X及び前記寄与度Cに基づいて、前記特徴量Qを取得する、
請求項1に記載の分析装置。
【請求項3】
前記情報が、前記特徴量Qと、前記指標Xと、前記寄与度Cとの関係を表す数値テーブル又は関数である、
請求項に記載の分析装置。
【請求項4】
前記情報が、前記指標X、前記寄与度C及び前記特徴量Qの複数の組を表し、
前記特徴量取得部が、
前記複数の組のうち、前記指標X及び前記寄与度Cが前記カラー画像データに基づいて計算されたものに最も近い組を選択して、選択された前記組の特徴量Qを取得する、
請求項に記載の分析装置。
【請求項5】
前記情報が、前記指標X、前記寄与度C及び前記特徴量Qの複数の組を表し、
前記特徴量取得部が、
前記複数の組のうち、前記カラー画像データから得られた前記指標X及び前記寄与度Cの組に隣接する2組を選択し、
次の数式1により前記特徴量Qを計算する、
【数1】
但し、
Xは、前記カラー画像データに基づいて計算された指標であり、
Qaは、選択された前記2組の一方の特徴量であり、
Xaは、選択された前記2組の一方の指標であり、
Qbは、選択された前記2組の他方の特徴量であり、
Xbは、選択された前記2組の他方の指標である、
請求項又は請求項に記載の分析装置。
【請求項6】
前記光源装置が、
前記指標Xを計算するための特殊光と、略白色の通常光とを切り替えて発生し、
前記寄与度計算部が、
前記通常光の照明下で前記生体組織を撮像して得たカラー画像データに基づいて前記寄与度Cを計算する、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項7】
前記特殊光が、
前記生体組織に含まれる第1及び第2生体物質が吸収を有する第1波長域に分布する連続スペクトルを有する第1特殊光と、
前記第1波長域内の第2波長域に分布する連続スペクトルを有する第2特殊光と、を含み、
前記光源装置が、
前記第1特殊光と、前記第2特殊光と、前記通常光とを切り替えて発生し、
前記指標計算部が、
前記第1特殊光の照明下で前記生体組織を撮像して得た第1特殊観察画像データGと、前記第2特殊光の照明下で前記生体組織を撮像して得た第2特殊観察画像データGと、に基づいて前記指標Xを計算する、
請求項に記載の分析装置。
【請求項8】
前記第1特殊観察画像データG及び前記第2特殊観察画像データGが、それぞれG単色画像データである、
請求項に記載の分析装置。
【請求項9】
前記特徴量Qが、前記酸素飽和度を含み、
前記酸素飽和度が、前記生体組織に含まれる酸素化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンのモル濃度比である、
請求項1から請求項のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項10】
前記酸素飽和度に基づき、前記生体組織中の該酸素飽和度の分布を表す濃度比分布画像を生成する濃度比分布画像生成部を備えた、
請求項に記載の分析装置。
【請求項11】
前記特徴量Qが、前記総ヘモグロビン量を含み、
前記総ヘモグロビン量に基づき、該総ヘモグロビン量の分布を表す濃度分布画像を生成する濃度分布画像生成部を備えた、
請求項1から請求項10のいずれか一項に記載の分析装置。
【請求項12】
前記撮像素子が先端部に設けられた内視鏡を備えた、
請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体組織を撮影した画像に基づいて、生体組織中の生体物質の濃度を示す指標を取得する分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡画像の色情報から、被写体である生体組織中の生体物質(例えば、ヘモグロビン)の濃度を定量する機能を備えた内視鏡装置が知られている。このような内視鏡装置の一例が国際公開第2014/192781号(以下「特許文献1」という。)に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の内視鏡装置は、ヘモグロビンの550nm付近の吸収帯内の2種類の波長域の照明光をそれぞれ使用して撮影した2つの内視鏡画像の色情報に基づいて、総ヘモグロビン量を示す指標と、酸素飽和度SatOを示す指標を計算する内視鏡装置が記載されている。
【発明の概要】
【0004】
生体組織の画像の色は、生体組織による照明光の散乱の影響を受ける。しかし、特許文献1に記載の内視鏡装置では、各指標の計算において、散乱に起因する分光特性の変化が考慮されていない。そのため、散乱の強さによって指標の計算結果が変動する(すなわち、算出された指標値に、散乱に起因する誤差が含まれている)という問題があった。
【0005】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、散乱に起因する指標値の誤差を補償し、より精度の高い指標値を取得可能な分析装置を提供することを目的とする。
【0006】
本発明の一実施形態に係る分析装置は、光源装置と、光源装置が発生する光により照明された生体組織を撮像してカラー画像データを生成する撮像素子と、カラー画像データに基づいて、生体組織の特徴量Qを示す指標Xを計算する指標計算部と、指標Xに基づいて、特徴量Qを取得する特徴量取得部と、を備え、特徴量取得部が、カラー画像データに含まれる少なくとも2色の単色画像データに基づいて、生体組織の分光特性への散乱の寄与の程度を数値化した寄与度Cを計算する寄与度計算部を備え、指標X及び寄与度Cに基づいて特徴量Qを取得する。
【0007】
この構成によれば、散乱に起因する誤差が低減され、より精度の高い指標値の取得が可能になる。
【0008】
上記の分析装置において、カラー画像データがRGBカラー画像データであり、寄与度計算部が、カラー画像データにおける、R単色画像データのG又はB単色画像データに対する比として寄与度Cを計算する構成としてもよい。
【0009】
また、上記の分析装置において、寄与度計算部が、特徴量Qと、指標Xと、寄与度Cとの関係を示す情報を保持する記憶手段を備え、特徴量取得部が、情報、指標X及び寄与度Cに基づいて、特徴量Qを取得する構成としてもよい。
【0010】
また、上記の分析装置において、情報が、特徴量Qと、指標Xと、寄与度Cとの関係を示す数値テーブル又は関数である構成としてもよい。
【0011】
また、上記の分析装置において、情報が、指標X、寄与度C及び特徴量Qの複数の組を表し、特徴量取得部が、複数の組のうち、指標X及び寄与度Cがカラー画像データに基づいて計算されたものに最も近い組を選択して、選択された組の特徴量Qを取得する構成としてもよい。
【0012】
また、上記の分析装置において、情報が、指標X、寄与度C及び特徴量Qの複数の組を表し、特徴量取得部が、複数の組のうち、カラー画像データから得られた指標X及び寄与度Cの組に隣接する2組を選択し、次の数式1により特徴量Qを計算する、
【数1】
但し、
Xは、カラー画像データに基づいて計算された指標であり、
Qaは、選択された2組の一方の特徴量であり、
Xaは、選択された2組の一方の指標であり、
Qbは、選択された2組の他方の特徴量であり、
Xbは、選択された2組の他方の指標である構成としてもよい。
【0013】
また、上記の分析装置において、光源装置が、指標Xを計算するための特殊光と、略白色の通常光とを切り替えて発生し、寄与度計算部が、通常光の照明下で生体組織を撮像して得たカラー画像データに基づいて寄与度Cを計算する構成としてもよい。
【0014】
また、上記の分析装置において、特殊光が、生体組織に含まれる第1及び第2生体物質が吸収を有する第1波長域に分布する連続スペクトルを有する第1特殊光と、第1波長域内の第2波長域に分布する連続スペクトルを有する第2特殊光と、を含み、光源装置が、第1特殊光と、第2特殊光と、通常光とを切り替えて発生し、指標計算部が、第1特殊光の照明下で生体組織を撮像して得た第1特殊観察画像データGと、第2特殊光の照明下で生体組織を撮像して得た第2特殊観察画像データGと、に基づいて指標Xを計算する構成としてもよい。
【0015】
また、上記の分析装置において、カラー画像データがRGBカラー画像データであり、第1特殊観察画像データG及び第2特殊観察画像データGが、それぞれG単色画像データである構成としてもよい。
【0016】
また、上記の分析装置において、特徴量Qが、生体組織に含まれる第1及び第2生体物質のモル濃度比である構成としてもよい。
【0017】
また、上記の分析装置において、第1生体物質が酸素化ヘモグロビンであり、第2生体物質が還元ヘモグロビンであり、モル濃度比が酸素飽和度である構成としてもよい。
【0018】
また、上記の分析装置において、特徴量Qに基づき、生体組織中の第1及び第2生体物質のモル濃度比の分布を表す濃度比分布画像を生成する濃度比分布画像生成部を備えた構成としてもよい。
【0019】
また、上記の分析装置において、特徴量Qが、生体組織に含まれる生体物質の濃度である構成としてもよい。
【0020】
また、上記の分析装置において、特徴量Qに基づき、生体組織に含まれる生体物質の濃度の分布を表す濃度分布画像を生成する濃度分布画像生成部を備えた構成としてもよい。
【0021】
また、上記の分析装置において、特徴量Qが、生体組織中の総ヘモグロビン量である構成としてもよい。
【0022】
また、上記の分析装置において、撮像素子が先端部に設けられた内視鏡を備えた構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】へモグロビンの550nm付近の吸収スペクトルである。
図2】本発明の実施の形態に係る内視鏡装置のブロック図である。
図3】撮像素子に内蔵されるカラーフィルタの透過スペクトルである。
図4】回転フィルタの外観図である。
図5】本発明の実施形態に係る画像生成処理を表現するフローチャートである。
図6】分光特性における散乱の影響を説明する、生体組織の分光特性のシミュレーション結果である。
図7】散乱の寄与率Cと、白色光の照明下で撮像したR、G及びBデジタル画像データとの関係を示したグラフである。
図8】散乱の寄与率Cと指標Xとの関係を、真の酸素飽和度SatO毎にプロットしたグラフである。
図9】指標Xに基づいて酸素飽和度SatOを取得する処理の手順を表現するフローチャートである。
図10図8のグラフを使用して、加重平均により酸素飽和度SatOを取得する方法を説明する図である。
図11】本発明の実施の形態に係る内視鏡装置によって生成された画像情報の表示例である。(a)は酸素飽和度分布画像の2次元表示例であり、(b)は酸素飽和度分布画像の3次元表示例である。
図12】補正係数kの決定に使用される検量線の例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
以下に説明する本発明の実施形態に係る内視鏡装置は、波長域の異なる光の照明下で撮像した複数の画像に基づいて被写体の生体情報(例えば、酸素飽和度SatO)を定量的に分析して、分析結果を画像化して表示する装置である。以下に説明する酸素飽和度SatOの定量分析では、血液の分光特性(すなわち、ヘモグロビンの分光特性)が酸素飽和度SatOに応じて連続的に変化する性質が利用される。
【0025】
(ヘモグロビンの分光特性及び酸素飽和度の計算原理)
本発明の実施形態に係る内視鏡装置の詳しい構成を説明する前に、ヘモグロビンの分光特性と、本実施形態における酸素飽和度SatOの計算原理について説明する。
【0026】
図1に、550nm付近のヘモグロビンの吸収スペクトルを示す。ヘモグロビンは、550nm付近にポルフィリンに由来する強い吸収帯を有している。ヘモグロビンの吸収スペクトルは、酸素飽和度SatO(全ヘモグロビンのうち酸素化ヘモグロビンHbOが占める割合)に応じて変化する。図1における実線の波形は、酸素飽和度SatOが100%の場合の(すなわち、酸素化ヘモグロビンHbOの)吸収スペクトルであり、長破線の波形は、酸素飽和度SatOが0%の場合の(すなわち、還元ヘモグロビンHbの)吸収スペクトルである。また、短破線は、その中間の酸素飽和度SatO(10、20、30、・・・90%)におけるヘモグロビン(酸素化ヘモグロビンHbOと還元ヘモグロビンHbの混合物)の吸収スペクトルである。
【0027】
図1に示されるように、上記の550nm付近の吸収帯において、酸素化ヘモグロビンHbOと還元ヘモグロビンHb(脱酸素化ヘモグロビンともいう。)は互いに異なるピーク波長を有している。具体的には、酸素化ヘモグロビンHbOは、波長542nm付近の吸収ピークP1と、波長576nm付近の吸収ピークP3を有している。一方、還元ヘモグロビンHbは、556nm付近に吸収ピークP2を有している。図1は、各成分(酸素化ヘモグロビンHbO、還元ヘモグロビンHb)の濃度の和が一定となる2成分系の吸収スペクトルであるため、各成分の濃度(すなわち、酸素飽和度SatO)によらず吸収が一定となる等吸収点E1、E2、E3、E4が現れる。以下の説明では、等吸収点E1とE2とで挟まれた波長領域を波長域R1、等吸収点E2とE3とで挟まれた波長領域を波長域R2、等吸収点E3とE4とで挟まれた波長領域を波長域R3と呼ぶ。また、等吸収点E1とE4とで挟まれた波長領域(すなわち波長域R1、R2及びR3を合わせたもの)を波長域R0と呼ぶ。
【0028】
図1に示されるように、隣接する等吸収点間では、酸素飽和度SatOに対して吸収が単調に増加又は減少する。また、隣接する等吸収点間では、ヘモグロビンの吸収は、酸素飽和度SatOに対してほぼ線形的に変化する。
【0029】
具体的には、波長域R1、R3におけるヘモグロビンの吸収AR1、AR3は酸素化ヘモグロビンHbOの濃度(或いは酸素飽和度SatO)に対して線形的に単調増加し、波長域R2におけるヘモグロビンの吸収AR2は還元ヘモグロビンHbの濃度(1−酸素飽和度SatO)に対して線形的に単調増加する。従って、次の数式2により定義される指標Xは、酸素化ヘモグロビンHbOの濃度(或いは酸素飽和度SatO)に対して線形的に単調増加する。
【数2】
【0030】
上記の数式2は、酸素飽和度SatOに対する増減の挙動が異なる帯域間での吸収の差分によって指標Xを定義したものであるが、酸素飽和度SatOとの単調な(より好ましくは線形的な)定量的関係を有していれば、他の数式によって指標Xを定義することもできる。例えば、以下の数式3に示されるように、酸素飽和度SatOに対して単調増加する吸収AR1、AR3の和と、酸素飽和度SatOに対して単調減少する吸収AR2との比率も酸素飽和度SatOに対して線形的に単調増加するため、酸素飽和度SatOの良い指標となる。
【数3】
【0031】
従って、予め実験的に酸素飽和度SatOと指標Xとの定量的な関係を取得すれば、指標Xの値から酸素飽和度SatOを計算することができる。
【0032】
(内視鏡装置の構成)
図2は、本発明の実施形態に係る内視鏡装置1のブロック図である。本実施形態の内視鏡装置1は、電子内視鏡100、プロセッサ200及びモニタ300を備えている。電子内視鏡100及びモニタ300は、プロセッサ200に着脱可能に接続されている。また、プロセッサ200には、光源部400及び画像処理部500が内蔵されている。
【0033】
電子内視鏡100は、体腔内に挿入される挿入部110を有している。電子内視鏡100の内部には、略全長に亘って延びるライトガイド131が設けられている。ライトガイド131の一端部(先端部131a)は、挿入部110の先端部(挿入先端部111)の近傍に配置されており、ライトガイド131の他端部(基端部131b)は、プロセッサ200に接続されている。プロセッサ200に内蔵される光源部400は、光量の大きい白色光WLを生成する光源ランプ430を備えている。光源ランプ430には、例えばキセノンランプ、メタルハライドランプ、LEDランプ、ハロゲンランプ等が使用される。光源部400によって生成された照明光ILは、ライトガイド131の基端部131bに入射し、ライトガイド131を通ってその先端部131aに導かれ、先端部131aから射出される。電子内視鏡100の挿入先端部111には、ライトガイド131の先端部131aと対向して配置された配光レンズ132が設けられており、ライトガイド131の先端部131aから射出される照明光ILは、配光レンズ132を通過して、挿入先端部111の近傍の生体組織Tを照明する。
【0034】
また、挿入先端部111には対物光学系121及び撮像素子141が設けられている。生体組織Tの表面で反射・散乱された光の一部(戻り光)は、対物光学系121に入射し、集光されて、撮像素子141の受光面に結像する。本実施形態の撮像素子141は、その受光面にカラーフィルタ141aを備えたカラー画像撮像用のCCD(Charge Coupled Device)イメージセンサであるが、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の他の種類の撮像素子を使用してもよい。カラーフィルタ141aは、赤色の光を通過(透過)させるRフィルタと、緑色の光を通過させるGフィルタと、青色の光を通過させるBフィルタとが配列され、撮像素子141の各受光素子上に直接形成された、いわゆるオンチップフィルタである。カラーフィルタ141aのR、G、B各フィルタは、図3に示すような分光特性を有している。すなわち、本実施形態のRフィルタは、波長約570nmより長波長の光を通過させるフィルタであり、Gフィルタは、波長約470nm〜620nmの光を通過させるフィルタであり、Bフィルタは、波長約530nmより短波長の光を通過させるフィルタである。
【0035】
撮像素子141は、後述する信号処理回路550と同期して駆動するように制御され、受光面に結像した像に対応する撮像信号を、周期的に(例えば、1/30秒間隔で)出力する。撮像素子141から出力された撮像信号は、ケーブル142を介してプロセッサ200の画像処理部500に送られる。
【0036】
画像処理部500は、A/D変換回路510、一時記憶メモリ520、コントローラ530、ビデオメモリ540及び信号処理回路550を備えている。A/D変換回路510は、電子内視鏡100の撮像素子141から入力される撮像信号をA/D変換して、得られたデジタル画像データを出力する。A/D変換回路510から出力されるデジタル画像データは、一時記憶メモリ520に送られ記憶される。
【0037】
デジタル画像データには、Rフィルタが装着された受光素子によって撮像されたRデジタル画像データ、Gフィルタが装着された受光素子によって撮像されたGデジタル画像データ及びBフィルタが装着された受光素子によって撮像されたBデジタル画像データが含まれている。本明細書において、Rデジタル画像データ、Gデジタル画像データ及びBデジタル画像データを、単色画像データ(R単色画像データ、G単色画像データ及びB単色画像データ)ともいう。
【0038】
コントローラ530は、一時記憶メモリ520に記憶された単数又は複数のデジタル画像データを処理して一つの表示用画像データを生成し、これをビデオメモリ540に送る。例えば、コントローラ530は、単一のデジタル画像データから生成された表示用画像データ、複数のデジタル画像データの画像が並べられた表示用画像データ、或いは複数のデジタル画像データに基づいて画素(x,y)毎に生体組織Tの反射スペクトルを生成し、この反射スペクトルを用いて、健常部と病変部とを識別表示する表示用画像データや、特定の画素(x,y)に対応する生体組織Tの反射スペクトルのグラフを表示する表示用画像データ等を生成して、この表示用画像データをビデオメモリ540に記憶させる。信号処理回路550は、ビデオメモリ540に記憶されている表示用画像データに基づいて所定の形式(例えば、NTSC規格やDVI規格に準拠した形式)のビデオ信号を生成して出力する。信号処理回路550から出力されたビデオ信号は、モニタ300に入力される。そして、電子内視鏡100によって撮像された内視鏡画像等がモニタ300に表示される。
【0039】
このように、プロセッサ200は、電子内視鏡100の撮像素子141から出力される撮像信号を処理するビデオプロセッサとしての機能と、被写体である生体組織Tを照明するための照明光ILを電子内視鏡100のライトガイド131に供給する光源装置としての機能とを兼ね備えたものである。
【0040】
光源部400は、上述の光源430の他に、集光レンズ440、回転フィルタ410、フィルタ制御部420及び集光レンズ450を備えている。光源430から射出される略平行光の白色光WLは、集光レンズ440によって集光され、回転フィルタ410を通過した後、集光レンズ450によって再度集光されて、ライトガイド131の基端部131bに入射する。回転フィルタ410は、リニアガイドウェイ等の移動手段(不図示)によって、白色光WLの光路上の適用位置(実線)と光路外の退避位置(破線)との間で移動可能になっている。
【0041】
なお、光源部400の構成は、図2に示されるものに限定されない。例えば、光源430に収束光を発生するランプを採用してもよい。この場合、例えば、白色光WLを集光レンズ440の手前で集光させ、拡散光として集光レンズ440に入射させる構成を採用してもよい。また、集光レンズ440を使用せずに、光源430からの収束光を回転フィルタ410の近傍で集光させる構成を採用してもよい。
【0042】
また、集光レンズ440を使用せず、光源430が発生する略平行光を直接回転フィルタ410に入射させる構成を採用してもよい。
【0043】
また、収束光を発生するランプを使用する場合、集光レンズ440の替わりにコリメータレンズを使用して、略平行光の状態で白色光WLを回転フィルタ410に入射させる構成を採用してもよい。例えば、回転フィルタ410に誘電体多層膜フィルタ等の干渉型の光学フィルタを使用する場合、略平行光の白色光WLを回転フィルタ410に入射させることで、光学フィルタへの白色光WLの入射角を均一にすることにより、より良好なフィルタ特性を得ることができる。
【0044】
また、光源430に発散光を発生するランプを採用してもよい。この場合にも、集光レンズ440の替わりにコリメータレンズを使用して、略平行光の白色光WLを回転フィルタ410に入射させる構成を採用することができる。
【0045】
回転フィルタ410は、複数の光学フィルタを備えた円盤型の光学ユニットであり、その回転角度(又は位相)に応じて通過波長域が切り替わるように構成されている。回転フィルタ410の回転角度は、コントローラ530に接続されたフィルタ制御部420によって制御される。コントローラ530がフィルタ制御部420を介して回転フィルタ410の回転角度を制御することにより、回転フィルタ410を通過してライトガイド131に供給される照明光のスペクトルが切り替えられる。
【0046】
図4は、回転フィルタ410の外観図(正面図)である。回転フィルタ410は、略円盤状のフレーム411と、4つの円環扇形の光学フィルタ415、416、417及び418を備えている。フレーム411の中心軸の周りには4つの円環扇状の窓414a、414b、414c及び414dが等間隔で形成されており、各窓414a、414b、414c及び414dには、それぞれ光学フィルタ415、416、417及び418が嵌め込まれている。なお、本実施形態の光学フィルタは、いずれも誘電体多層膜フィルタであるが、他の方式の光学フィルタ(例えば、吸収型の光学フィルタや誘電体多層膜を反射膜として用いたエタロンフィルタ等)を用いてもよい。
【0047】
また、フレーム411の中心軸上にはボス穴412が形成されている。ボス穴412には、フィルタ制御部420の出力軸が差し込まれて固定され、回転フィルタ410はフィルタ制御部420の出力軸と共に回転する。
【0048】
図4には、白色光WLが光学フィルタ415に入射する状態が示されているが、回転フィルタ410が矢印で示される方向に回転すると、白色光WLが入射する光学フィルタは、415、416、417、418の順に切り替わり、これにより回転フィルタ410を通過する照明光ILのスペクトルが切り替えられる。
【0049】
光学フィルタ415及び416は、550nm帯の光を選択的に通過させる光バンドパスフィルタである。図1に示されるように、光学フィルタ415は、等吸収点E1からE4までの波長域(すなわち、波長域R0(「第1照明波長域」ともいう。))の光を低損失で通過させ、それ以外の波長領域の光を遮断するように構成されている。また、光学フィルタ416は、等吸収点E2からE3までの波長域(すなわち、波長域R2(「第2照明波長域」ともいう。))の光を低損失で通過させ、それ以外の波長領域の光を遮断するように構成されている。
【0050】
図1に示されるように、波長域R1には酸素化ヘモグロビンHbOに由来する吸収ピークP1のピーク波長が含まれ、波長域R2には還元ヘモグロビンHbに由来する吸収ピークP2のピーク波長が含まれ、波長域R3には酸素化ヘモグロビンHbOに由来する吸収ピークP3のピーク波長が含まれている。また、波長域R0には、吸収ピークP1、P2、P3の各ピーク波長が含まれている。
【0051】
光学フィルタ415及び416の通過波長域(図1)は、カラーフィルタ141aのGフィルタの通過波長域(図3)に含まれている。従って、光学フィルタ415又は416を通過した光によって撮像素子141の受光面に形成される像は、Gフィルタが装着された受光素子によって撮像され、Gデジタル画像データとして得られる。
【0052】
光学フィルタ417は、ヘモグロビンの吸収が低い波長域である650nm帯(630〜650nm)の光のみを選択的に通過させるように設計されている。光学フィルタ417の通過波長域は、カラーフィルタ141aのRフィルタの通過波長域(図3)に含まれている。従って、光学フィルタ417を通過した光の像は、Rフィルタが装着された受光素子によって撮像され、Rデジタル画像データとして得られる。650nm帯の照明光を使用して取得される画像データは、後述する規格化処理に使用される。
【0053】
また、光学フィルタ418は、紫外線カットフィルタであり、光学フィルタ418を通過した照明光IL(すなわち白色光)は、通常観察像の撮像に使用される。なお、光学フィルタ418を使用せず、フレーム411の窓414dを開放した構成としてもよい。また、本明細書において、光学フィルタ415、416又は417を通過した照明光を特殊光(又は特殊観察光)とも称し、光学フィルタ418を通過した白色光(又は広帯域光)を通常光(又は通常観察光)とも称する。
【0054】
窓414aには、光学フィルタ415に重ねて、減光フィルタ(NDフィルタ)419が取り付けられている。減光フィルタ419は、可視光全域に亘って波長依存性が殆ど無く、照明光ILのスペクトルを殆ど変化させずに光量のみを低減する。減光フィルタ419の使用によって、光学フィルタ415及び減光フィルタ419を通過した照明光ILの光量が、光学フィルタ416を通過した照明光ILの光量と同程度に調整される。これにより、光学フィルタ415、416のいずれを通過した照明光ILを用いた場合でも、同じ露出時間で適正露出での撮像が可能になる。
【0055】
本実施形態では、減光フィルタ419として、目の細かな金属メッシュが使用されている。金属メッシュ以外にも、反射型や吸収型等の他方式の減光フィルタを使用してもよい。また、減光フィルタを使用せずに、光学フィルタ415、416自体の通過率を調整してもよい。また、窓414c、414dにも減光フィルタを取り付けてもよい。また、窓414a〜414dの中心角(すなわち開口面積)を変えることで通過光量を調整してもよい。また、減光フィルタを使用せずに、使用する光学フィルタ毎に露出時間を調整してもよい。
【0056】
フレーム411の周縁部には、貫通孔413が形成されている。貫通孔413は、窓414aと窓414dとの境界部と同じ回転位置に形成されている。フレーム411の周囲には、貫通孔413を検出するためのフォトインタラプタ422が、フレーム411の周縁部の一部を囲むように配置されている。フォトインタラプタ422は、フィルタ制御部420に接続されている。
【0057】
本実施形態の内視鏡装置1は、通常観察モード、分光分析(酸素飽和度分布画像表示)モード、ベースライン測定モード及び検量モードの4つの動作モードを有している。各動作モードは、ユーザ操作によって切り替えられる。通常観察モードは、光学フィルタ418を通過した白色光を用いてカラー画像を撮影する動作モードである。分光分析モードは、光学フィルタ415、416及び417をそれぞれ通過した照明光を用いて撮像したデジタル画像データに基づいて分光分析を行い、生体組織中の生体分子の分布画像(例えば酸素飽和度分布画像)を表示するモードである。ベースライン測定モードは、実際の内視鏡観察を行う前に(又は行った後で)、無彩色の拡散板(磨りガラス等)や標準反射板等の色基準板を被写体として、光学フィルタ415、416及び417をそれぞれ通過した照明光を用いて撮像を行い、後述する規格化処理に使用するデータを取得するモードである。検量モードは、酸素飽和度SatO等の特性が既知の標準サンプルについて分光分析を行い、分析結果と標準サンプルの特性の基準量(或いは理論値)との差異が解消するようにパラメータ(後述する補正係数k)を調整する処理である。
【0058】
通常観察モードにおいては、コントローラ530は、移動手段を制御して、回転フィルタ410を適用位置から退避位置へ移動させる。なお、通常観察モード以外の動作モードでは、回転フィルタ410は適用位置に配置される。また、回転フィルタ410が移動手段を有しない場合は、コントローラ530は、フィルタ制御部420を制御して、白色光WLが光学フィルタ418に入射する位置で回転フィルタ410を静止させる。そして、撮像素子141によって撮像されたデジタル画像データを、必要に応じて画像処理を施した後に、ビデオ信号に変換して、モニタ300に表示させる。
【0059】
分光分析モードにおいては、コントローラ530は、フィルタ制御部420を制御して、回転フィルタ410を一定の回転数で回転駆動させながら、光学フィルタ415、416、417及び418を通過した照明光による生体組織Tの撮像を順次行う。そして、各光学フィルタ415、416及び417を用いて取得したデジタル画像データに基づいて生体組織中の生体分子の分布を示す画像を生成し、これと光学フィルタ418を用いて取得した通常観察画像とを並べた表示画面を生成して、更にビデオ信号に変換して、モニタ300に表示させる。
【0060】
分光分析モードでは、フィルタ制御部420は、フォトインタラプタ422が貫通孔413を検出するタイミングに基づいて、回転フィルタ410の回転の位相を検出し、これをコントローラ530から供給されるタイミング信号の位相と比較して、回転フィルタ410の回転の位相を調整する。コントローラ530からのタイミング信号は、撮像素子141の駆動信号と同期している。従って、回転フィルタ410は、撮像素子141の駆動と同期して、略一定の回転数で回転駆動される。具体的には、回転フィルタ410の回転は、撮像素子141による1画像分(R,G,Bの3フレーム)の撮像が行われる毎に、白色光WLが入射する光学フィルタ415〜418(窓414a〜d)が切り替わるように制御される。
【0061】
ベースライン測定モードにおいては、コントローラ530は、フィルタ制御部420を制御して回転フィルタ410を回転させながら、光学フィルタ415、416及び417を通過した照明光ILによる色基準板の撮像を順次行う。光学フィルタ415、416を通過した照明光ILを用いて撮影されたGデジタル画像データは、それぞれベースライン画像データBL415(x,y)、BL416(x,y)として、コントローラ530の内部メモリ531に記憶される。また、光学フィルタ417を通過した照明光ILを用いて撮影されたRデジタル画像データは、ベースライン画像データBL417(x,y)としてコントローラ530の内部メモリ531に記憶される。
【0062】
次に、分光分析モードにおいて、画像処理部500によって実行される画像生成処理について説明する。なお、画像処理部500は、後述のように、本発明の実施形態に係る指標Xを計算することから、「指標計算部」ともいう。また、画像処理部500は、後述のように、指標Xに基づいて生体組織の特徴量である酸素飽和度SatOや総ヘモグロビン量を取得することから、「特徴量取得部」ともいう。図5は、画像生成処理(指標計算処理及び特徴量取得処理を含む。)を表現するフローチャートである。
【0063】
分光分析モードが選択されている場合は、上述のように、フィルタ制御部420は回転フィルタ410を一定の回転数で回転駆動する。そして、光源部400からは、光学フィルタ415、416、417、418をそれぞれ通過した照明光ILが順次供給され、各照明光ILを用いた撮像が順次行われる(処理S1)。具体的には、光学フィルタ415を通過した照明光ILを用いて撮像したGデジタル画像データG415(x,y)、光学フィルタ416を通過した照明光ILを用いて撮像したGデジタル画像データG416(x,y)、光学フィルタ417を通過した照明光ILを用いて撮像したRデジタル画像データR417(x,y)並びに光学フィルタ(紫外線カットフィルタ)418を通過した照明光IL(白色光)を用いて撮像したRデジタル画像データR418(x,y)、Gデジタル画像データG418(x,y)及びBデジタル画像データB418(x,y)がコントローラ530の内部メモリ532に記憶される。
【0064】
次に、画像処理部500は、処理S1にて取得したRデジタル画像データR418(x,y)、Gデジタル画像データG418(x,y)及びBデジタル画像データB418(x,y)を用いて、以下の分析処理(処理S3−S8)の対象とする画素を選別する画素選別処理S2を行う。血液を含んでいない箇所や、組織の色がヘモグロビン以外の物質により支配的な影響を受けている箇所については、画素の色情報から酸素飽和度SatOや血流量を計算しても意味のある値は得られず、単なるノイズとなる。このようなノイズを算出して医師に提供すると、医師による診断の妨げとなるだけでなく、画像処理部500に無用な負荷を与えて処理速度を低下させるという弊害が生じる。そこで、本実施形態の画像生成処理は、分析処理に適した画素(すなわち、その色情報がヘモグロビンの分光学的特徴に適合する画素)を選別して、選別された画素に対してのみ分析処理を行うように構成されている。
【0065】
画素選別処理S2では、以下の数式4、数式5及び数式6の条件を全て充足する画素のみが分析処理の対象画素として選別される。
【数4】
【数5】
【数6】
ここで、a、a、aは正の定数である。
【0066】
上記の3つの条件式は、血液のカラー画像における、各色成分の値の大小関係(G成分<B成分<R成分)に基づいて設定されている。なお、上記の3つの条件式のうちの1つ又は2つのみを使用して(例えば、血液に特有の赤色に注目し、数式5及び数式6のみを使用して)画素選別処理S2を行っても良い。
【0067】
次に、画像処理部500は、規格化処理を行う。本実施形態の規格化処理には、内視鏡装置1自体の特性(例えば光学フィルタの透過率や撮像素子の受光感度)を補正するための第1規格化処理S3と、被写体である生体組織Tの表面状態や、生体組織Tへの照明光ILの入射角の違いによる反射率の変動を補正するための第2規格化処理S4とが含まれる。
【0068】
規格化処理においては、画像処理部500は、光学フィルタ415を通過した照明光ILを用いて取得したGデジタル画像データG415(x,y)、光学フィルタ417を通過した照明光ILを用いて取得したRデジタル画像データR417(x,y)及びベースライン画像データBL415(x,y)、BL417(x,y)から、次の数式7により、規格化反射率SR415(x,y)が計算される。なお、各デジタル画像データG415(x,y)、R417(x,y)をそれぞれ対応するベースライン画像データBL415(x,y)、BL417(x,y)で除算することにより、内視鏡装置1の特性に依存する要素(装置関数)が取り除かれる(第1規格化処理S3)。また、Gデジタル画像データG415(x,y)をRデジタル画像データR417(x,y)で除算することにより、生体組織Tの表面状態や生体組織Tへの照明光ILの入射角の違いによる反射率の変動が補正される(第2規格化処理S4)。
【数7】
【0069】
同様に、次の数式8により、規格化反射率SR416(x,y)が計算される。
【数8】
【0070】
光学フィルタ415、416を通過した照明光ILに対する生体組織Tの吸収A415(x,y)、A416(x,y)は、それぞれ次の数式9、10により計算される(処理S5)。
【数9】
【数10】
【0071】
なお、吸収A415(x,y)及びA416(x,y)は、それぞれ次の数式11、12により近似的に計算することもできる。
【数11】
【数12】
【0072】
また、上述した規格化処理(処理S3、S4)を省略して、簡易的に分光分析を行うこともできる。その場合には、吸収A415(x,y)及びA416(x,y)は、次の数式13、14により計算される。
【数13】
【数14】
【0073】
また、この場合、吸収A415(x,y)及びA416(x,y)は、それぞれ次の数式15、16により近似的に計算することもできる。
【数15】
【数16】
【0074】
また、図1に示すヘモグロビンの吸収波長域R1、R2、R3と光学フィルタ415、416の通過波長域との関係から明らかなように、波長域R1、R2、R3に対する生体組織Tの吸収AR1(x,y)、AR2(x,y)、AR3(x,y)と、光学フィルタ415、416を通過した照明光ILに対する生体組織Tの吸収A415(x,y)、A416(x,y)との間には、次の数式17、18に示す関係がある。
【数17】
【数18】
【0075】
従って、指標X(数式2)は、次の数式19によって表される。
【数19】
【0076】
また、指標X(数式3)は、次の数式20によっても表される。
【数20】
【0077】
ここで、kは、定数(補正係数)である。光学フィルタ415と416とは、通過波長域の幅が大きく異なるため、両者を通過する光量の違いも大きい。そのため、上述したように、光学フィルタが切り替わっても同じ露出時間で適正露出が得られるように、通過光量の大きい光学フィルタ415に減光フィルタ419を重ねて、光量を調整している。その結果、光学フィルタ415を使用して取得した吸収A415(x,y)と、光学フィルタ416を使用して取得した吸収A416(x,y)との間の定量的な関係が崩れている。また、光学フィルタ415、416の通過波長域内の通過率は100%ではなく、個体によって異なる通過損失を有している。また、光学フィルタ415、416の通過波長域にも誤差がある。そのため、減光フィルタ419を使用しなくても、吸収A415(x,y)と吸収A416(x,y)との定量関係には一定の誤差が含まれる。補正係数kは、吸収A415(x,y)と吸収A416(x,y)との定量関係の誤差を補正するものである。補正係数kを取得する方法については後述する。なお、この補正を行わない場合は、補正係数kを1とする。
【0078】
更に、数式9、10及び数式7、8を用いて数式19を整理すると、次の数式21が得られる。
【数21】
【0079】
従って、数式21を用いて、Gデジタル画像データG415(x,y)、G416(x,y)、Rデジタル画像データR417(x,y)及びベースライン画像データBL415(x,y)、BL416(x,y)、BL417(x,y)から指標Xの値を計算することができる(処理S6)。
【0080】
また、指標Xは、次の数式22によっても近似的に求めることができる。
【数22】
【0081】
次に、画像処理部500は、各画素(x,y)について、処理S6で取得した指標X(x,y)に基づいて、酸素飽和度SatO(x,y)を取得する処理S7(図5)を行う。処理S7では、所定の条件を満たす画素については、散乱に起因する誤差が補正された酸素飽和度SatO(x,y)を取得する処理が行われ、所定の条件を満たさない(すなわち、補正によって却って分析結果の精度が低下する可能性がある)画素については、散乱に起因する誤差を含む未補正の酸素飽和度SatO(x,y)を取得する処理が行わる。
【0082】
処理S7の具体的な手順を説明する前に、指標Xに含まれる散乱に起因する誤差について説明する。
【0083】
図6は、シミュレーション計算によって得られた生体組織の分光特性(反射スペクトル)であり、分光特性における散乱の影響を示したものである。消化管内壁等の生体組織の反射スペクトルは、生体組織を構成する成分による吸収の波長特性(具体的には、酸素化ヘモグロビンHbO及び還元ヘモグロビンHbの吸収スペクトル特性)に加えて、散乱の波長特性の影響を受ける。図6(a)は散乱が全く無い場合(散乱の寄与率Cが0%の場合)の反射スペクトルであり、図6(c)はヘモグロビンによる吸収が全くない場合(散乱の寄与率Cが100%の場合)の反射スペクトルであり、図6(b)は反射スペクトルに対する散乱の寄与とヘモグロビンの吸収の寄与の程度が同じ場合(散乱の寄与率Cが50%の場合)の反射スペクトルである。生体組織の反射スペクトルは、図6(b)に近いものとなる。ここで、散乱の寄与率Cとは、生体組織の分光特性における散乱の寄与の程度(寄与度)を表すパラメータの一種である。散乱の寄与度は、分光特性のシミュレーション計算において使用される、散乱体の濃度と相関するパラメータであり、散乱項に乗ぜられるものである。本実施形態における散乱の寄与率Cは、生体組織の分光特性における散乱に起因する成分が占める割合を表すパラメータである。
【0084】
図6に示されるように、生体組織の分光特性は、散乱の強さ(寄与率C)によって変化するため、生体組織の分光特性に基づいて計算された指標Xも、散乱の強さによって値が変わり得る。つまり、処理S6で算出された指標Xは、散乱に起因する誤差を含んだものとなっている。より精度の高い分析結果を得るためには、散乱に起因する誤差を補正する必要がある。
【0085】
図6(c)に示されるように、散乱のスペクトル特性は、波長に対して単調に増加する波形を呈する。そのため、撮像素子141のB、G、Rフィルタ(各フィルタの透過スペクトルの概略を図6(c)に破線で示す)を通過する散乱光の光量は、この順に大きくなり、それらの割合(例えば、Gフィルタを通過する散乱光の光量に対するRフィルタを通過する散乱光の光量の割合)は散乱の強さによらず略一定となる。また、図6(b)に代表される生体組織の反射スペクトルも、長い波長範囲で見ると、図6(c)の散乱光のスペクトルに似た、波長と共に緩やかに増加する波形を有している。生体組織の反射スペクトルの傾斜は、散乱が少ないほど小さくなり(図6(a)の波形の傾きに近づき)、散乱が多いほど大きくなる(図6(c)の波形の傾きに近づく)。そのため、2つの異なる色のフィルタをそれぞれ通過する光の光量の比率、例えばGフィルタの通過光量(Gデジタル画像データの値)とRフィルタの通過光量(Rデジタル画像データの値)との比率から、散乱の強さを概算することができる。
【0086】
図7は、実験値に基づくシミュレーション計算によって得られた、散乱の寄与率Cと、Rデジタル画像データR418、Gデジタル画像データG418及びBデジタル画像データB418の値との関係を示したグラフである。図7より、散乱の寄与率Cに対する感受性(図7のグラフの傾き)は、Rデジタル画像データR418が最も高く、Gデジタル画像データG418が最も低い。従って、Rデジタル画像データR418をGデジタル画像データG418で割って規格化した値が、散乱の寄与率Cの良い指標となる。そこで、本実施形態では、次の数式23により散乱の寄与率Cが計算される。
【0087】
【数23】
【0088】
なお、散乱の寄与率Cに対するBデジタル画像データB418の感受性もGデジタル画像データG418の感受性と大差無いため、Rデジタル画像データR418をBデジタル画像データB418で割った値も寄与率Cとして使用することができる。
【0089】
図8は、散乱の寄与率Cと処理S5(図5)で計算された指標Xとの関係を、真の(すなわち、散乱に起因する誤差を含まない)酸素飽和度SatO毎にプロットした図である。図8に示される定量関係は、シミュレーション計算や実験により取得することができる。図8のグラフにおいて、生体組織の画像データから得られた指標X及び散乱の寄与率Cの組をプロットした点と最も近い曲線を選択し、選択した曲線に対応する酸素飽和度SatOを取得することで、散乱に起因する誤差が補正された酸素飽和度SatOの近似値を得ることができる。
【0090】
本実施形態では、図8に示される定量関係が、シミュレーション計算や実験により予め取得され、例えば数値テーブル又は関数として、コントローラ530の不揮発性メモリ532に保持されている。
【0091】
次に、処理S7の具体的な手順について説明する。
図9は、酸素飽和度取得処理(特徴量取得処理)S7の手順を表現するフローチャートである。
【0092】
処理S7では、まず、Rデジタル画像データR418、Gデジタル画像データG418及びBデジタル画像データB418の値が、散乱に起因する誤差の補正に適しているか否かが判定される(処理S71)。具体的には、次の数式24、25に示される2つの条件式が成立するか否かが判定される。
【0093】
【数24】
【数25】
ここで、b、b、bは閾値(正の定数)である。
【0094】
数式24は、寄与率Cが小さ過ぎる場合や、逆に大き過ぎる場合は、Rデジタル画像データR418又はGデジタル画像データG418の信頼性が低いと判断されるため、寄与率Cに基づく散乱の補正の対象から除外するためのものである。
【0095】
また、数式25は、画像が暗い場合に、各画素値(Rデジタル画像データR418及びGデジタル画像データG418)の信頼性が低いと判断されるため、明るさの下限を規定するものである。なお、数式25に替えて、例えばGデジタル画像データG418のみを使用して、次の数式26により明るさの下限を設定してもよい。
【数26】
ここで、b´は閾値(正の定数)である。
【0096】
数式24及び数式25(又は数式26)の2つの条件が両方とも成立する場合には(S71:YES)、処理S72〜73へ進み、散乱の影響が補正された酸素飽和度SatOが取得される。また、いずれか一方でも成立しない場合には(S71:NO)、処理S74へ進み、散乱に起因する誤差を含む未補正の酸素飽和度SatOが取得される。
【0097】
処理S72では、各画素(x,y)について、上述した数式23により寄与率C(x,y)が計算される。
【0098】
処理S73では、図8に示される定量関係を用いて、処理S72で得られた散乱の寄与率C(x,y)と、処理S5で得られた指標X(x,y)とに基づいて、散乱に起因する誤差が補正されたヘモグロビンの酸素飽和度SatO(x,y)が取得される。具体的には、処理S72で得られた散乱の寄与率C(x,y)と、処理S5で得られた指標X(x,y)との対(C,X)を図8のグラフ上にプロットしたときに、プロットされた点(C,X)に最も近い曲線が選択され、選択された曲線に対応する酸素飽和度SatO(x,y)が、その画素(x,y)における酸素飽和度SatO(x,y)として取得される。
【0099】
なお、本実施形態の処理S73では、上述したように、図8のグラフ上にプロットした点(C,X)と最も近い曲線に対応する酸素飽和度SatOが取得されるが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、図8のグラフ上で点(C,X)に隣接する(すなわち、点(C,X)を間に挟む)一対の曲線を選択し、各曲線に対応する酸素飽和度SatOについて、点(C,X)と各曲線との距離に応じて重み付けした加重平均を計算し、この加重平均値を画素(x,y)の酸素飽和度SatOとして取得することもできる。
【0100】
図10を参照して、加重平均により酸素飽和度SatOを取得する方法の具体例を説明する。図10の例では、酸素飽和度SatOが40%の場合における寄与率Cと指標Xとの関係を表す曲線Aと、酸素飽和度SatOが50%の場合の曲線Bとの間に、分析処理で得られた点(C,X)が位置する。寄与率Cにおいて、曲線Aの指標がXaであり、曲線Bの指標がXbである場合、点(C,X)に対応する酸素飽和度SatO(散乱に起因する誤差が補正されたもの)は、次の数式27の加重平均により計算される。
【0101】
【数27】
ここで、[SatO2] aは曲線Aに対応する酸素飽和度SatO(40%)であり、[SatO2] bは曲線Bに対応する酸素飽和度SatO(50%)である。
【0102】
また、コントローラ530の不揮発性メモリ532には、予め実験的に取得された、散乱の影響が考慮されていない、ヘモグロビンの酸素飽和度SatOと指標Xの値との定量的関係を表す数値テーブル(又は関数)が記憶されている。処理S74では、コントローラ530は、この数値テーブル(又は関数)を参照して、処理S5で得られた指標Xの値に対応する酸素飽和度SatO(x,y)を取得する。
【0103】
コントローラ530の不揮発性メモリ532には、酸素飽和度SatO(x,y)と表示色(画素値)との関係を表す数値テーブル(又は関数)が記憶されている。そして、処理S8(図5)において、コントローラ530は、この数値テーブル(又は関数)を参照して、処理S7で得られた酸素飽和度SatO(x,y)に対応する表示色を表す画素値を取得する。
【0104】
また、コントローラ530は、光学フィルタ(紫外線カットフィルタ)418を通過した照明光IL(白色光)を使用して撮像したRデジタル画像データR418(x,y)、Gデジタル画像データG418(x,y)及びBデジタル画像データB418(x,y)から、通常観察画像データを生成する。
【0105】
図11にコントローラ530が生成する画像データの表示例を示す。図11(a)は、上述の処理S8により生成した酸素飽和度分布画像データ(2次元表示)の表示例である。また、図11(b)は、酸素飽和度SatOを垂直軸とする3次元グラフの形式で生成した酸素飽和度分布画像データ(3次元表示)の表示例である。なお、図11は、中指の近位指節間関節付近を輪ゴムで圧迫した状態の右手を観察したものである。右中指の圧迫部よりも遠位側において、圧迫によって血流が阻害されたことにより、酸素飽和度SatOが低くなっている様子が表されている。
【0106】
更に、コントローラ530は、生成した酸素飽和度分布画像データ及び通常観察画像データから、1画面上に通常観察画像と酸素飽和度分布画像を並べて表示する画面データを生成して、ビデオメモリ540に記憶させる。なお、コントローラ530は、ユーザ操作に応じて、酸素飽和度分布画像のみを表示する表示画面や、通常観察画像のみを表示する表示画面、酸素飽和度分布画像及び/又は通常観察画像に患者のID情報や観察条件等の付帯情報をスーパーインポーズ表示した表示画面等、種々の表示画面を生成することができる。
【0107】
次に、検量モードにおいて、補正係数kを決定する方法について説明する。本実施形態では、指標Xの理論計算値と実測値とを比較して、実測値が理論計算値に最も近い値となるように補正係数kの値を決定する。
【0108】
図12に、本発明の実施形態における補正係数kの決定に使用される検量線の例を示す。図12(a)は、一般的な検量線の一例であり、横軸に指標Xの理論値をとり、縦軸に上記の分析処理によって取得した指標Xの実測値をとったものである。黒丸は実測値のプロットであり、破線Maは最小二乗法により実測値をフィッティングした直線である。また、実線は、理論値通りの実測値が得られた場合のプロットである基準線Refを示す。
【0109】
指標Xの実測値は、酸素飽和度SatOが既知の生体組織(例えば、血液)のサンプルを使用した分析処理により取得される。また、数式19により定義される指標Xの理論値は、実際に使用する光学フィルタ415及び416の透過スペクトルと、血液の反射スペクトル(又は吸収スペクトル)とを用いて計算される。具体的には、指標Xの理論値は、例えば、光学フィルタ415(光学フィルタ416)の透過スペクトルと血液の反射スペクトルとを乗じて積分したものを吸収A415(吸収A416)とすることで、数式19から計算される。
【0110】
基準線Refと実測値Maとのずれは、基準線Refに対する破線Maとの傾きとして表現される。十分な感度が得られない現象、いわゆる破線Maの勾配が緩やかになる現象は、減光フィルタ419の使用によって、数式19における吸収A415(x,y)と吸収A416(x,y)との間の定量的な関係が崩れることに起因している。補正係数kとして適切な値を選択することにより、減光フィルタ419の使用に起因する誤差が補正され、指標Xの実測値が、理論値に対して、誤差が少なくかつ高い相関を有する状態とすることができる。
【0111】
図12(b)は、検量線の変形例である。図12(b)の検量線は、横軸にサンプルの酸素飽和度をとり、縦軸に指標Xをとったものである。黒丸は実測値のプロットであり、破線Mbは最小二乗法により実測値をフィッティングした直線である。また、実線Refは理論計算値を示す。なお、サンプルの酸素飽和度は、理想的な分光測定法により正確に測定された値である。この検量線は、図12(a)の検量線から横軸のスケールを変更したもので、実質的に等価なものであるが、酸素飽和度の値との関係を把握し易いという利点がある。
【0112】
なお、上記の検量線を使用して補正係数kを決定する方法は、酸素飽和度SatOの異なる複数のサンプルの分析結果を使用するものであるが、一つのサンプルの分析結果のみを使用して補正係数kを決定してもよい。
【0113】
また、へモグロビンの吸収波長域R1、R2、R3(すなわち、光学フィルタ415の通過波長域)に着目すると、酸素飽和度SatOの変化に応じて各波長域R1、R2、R3の吸収AR1(x,y)、AR2(x,y)、AR3(x,y)は変化するが、これらの和Y(数式28に示す)は略一定となる。また、この吸収の和Yは、生体組織中の総ヘモグロビン量(酸素化ヘモグロビンHbOと還元ヘモグロビンHbの濃度の和)に比例するため、これを総ヘモグロビン量を示す指標として用いることは妥当である。
【数28】
【0114】
なお、上述した処理S7と同様に、数値テーブルや関数を用いて、指標Yから総ヘモグロビン量の値を取得することができる。また、処理S72〜73と同様に、散乱の寄与率Cに基づいて、散乱の影響が補正された総ヘモグロビン量の値を取得することもできる。
【0115】
悪性腫瘍の組織では、血管新生により正常な組織よりも総ヘモグロビン量が多く、尚且つ、酸素の代謝が顕著であるため酸素飽和度SatOは正常な組織よりも低いことが知られている。そこで、コントローラ530は、数式28により計算した総ヘモグロビン量を示す指標Yが所定の基準値(第1基準値)よりも大きく、且つ、数式19等により計算した酸素飽和度SatOを示す指標Xが所定の基準値(第2基準値)よりも小さい画素を抽出して、例えば通常観察画像データの対応する画素に対して強調表示処理を行った病変部強調画像データを生成し、通常観察画像及び/又は酸素飽和度分布画像と共に(或いは単独で)病変部強調画像をモニタ300に表示することもできる。
【0116】
強調表示処理としては、例えば、該当する画素の画素値を増加させる処理や、色相を変化させる処理(例えば、R成分を増加させて赤味を強くする処理や、色相を所定角度だけ回転させる処理)、該当する画素を明滅させる(あるいは、周期的に色相を変化させる)処理がある。また、これらの処理の2つ以上を組み合わせた処理をしてもよい。
【0117】
また、コントローラ530が、病変部強調画像データの代わりに、例えば、指標X(x,y)の平均値からの偏差と、指標Y(x,y)の平均値からの偏差に基づいて、悪性腫瘍の疑いの度合を示す指標Z(x,y)を計算して、指標Zを画素値とする画像データ(悪性疑い度画像データ)を生成する構成としてもよい。
【0118】
(第1変形例)
次に、上述した本発明の実施形態の第1変形例について説明する。
上述した実施形態では、数式2に示されるように、各波長域R1、R2、R3の吸収AR1、AR2、AR3に重み付けをせずに(但し、各波長域の増減が揃うように符号を調整した上で)加算して、指標Xが計算された。これに対して、本変形例は、指標Xを計算する際に、各波長域の吸収AR1、AR2、AR3に重み付けをすることで、酸素飽和度SatOの変化に対する指標Xの感度を向上させるものである。
【0119】
図1に示されるように、波長域R2では、波長域R1、R3と比べて、酸素飽和度SatOの変化に対する吸光度の変動幅が大きい。そのため、波長域R2における吸収AR2に対する重みを大きく設定することによって、酸素飽和度SatOの変化に対する指標Xの感度を向上させることができる。
【0120】
具体的には、吸収AR2に対して2倍の重みを付けて、次の数式29により指標Xが計算される。
【数29】
【0121】
また、指標Xは、次の数式30によって近似的に求めることもできる。
【数30】
【0122】
なお、上述した第1変形例では、吸収AR1、AR3に対する吸収AR2の重みの割合を2倍にしているが、この割合は、好適な感度やノイズ量が得られるように、他の値(例えば、1.5倍や2.4倍等)に適宜変更することができる。また、数式29を一般化して、吸収AR1、AR3の重みをw1とし、吸収AR2の重みをw2とすると、数式31により指標Xを記述することができる。
【0123】
【数31】
【0124】
また、指標Xは、次の数式32によって近似的に求めることもできる。
【数32】
【0125】
(第2変形例)
次に、本発明の実施形態の第2変形例について説明する。
上述した実施形態では、数式2に示されるように、酸素飽和度SatOの増大と共に吸収が増大する波長域R1、R3における吸収AR1、AR3の和と、酸素飽和度SatOの増大と共に吸収が減少する波長域R2における吸収AR2との差分により指標Xが計算された。これに対して、本変形例では、吸収AR1、AR3の和と吸収AR2との比率によって指標Xが計算される。
【0126】
具体的には、次の数式33により指標Xが計算される。
【数33】
【0127】
また、指標Xは、次の数式34によって近似的に求めることもできる。
【数34】
【0128】
また、酸素飽和度SatOに対して正の相関を有する波長域R1、R3の吸収の和AR1+AR3に対して重みw1を与え、負の相関を有する波長域R2の吸収AR2に対して重みw2を与えて、次の数式35又は数式36により指標Xを計算してもよい。
【数35】
【数36】
【0129】
また、波長域R1、R3における吸収AR1、AR3は、酸素化ヘモグロビンHbOの濃度(すなわち酸素飽和度SatO)に比例し、波長域R2における吸収AR2は還元ヘモグロビンHbの濃度(すなわち1−SatO)に比例するため、数式33の第1行から次の数式37が得られる。
【数37】
ここで、DSat(x,y)は、画素(x,y)における酸素飽和度SatOである。
【0130】
従って、数式37によって計算された指標Xは、DSat(x,y)(酸素飽和度SatO)が増加して1に近づくにつれて、指数関数的に増大するため、感度の良い指標となる。
【0131】
(第3変形例)
次に、本発明の実施形態の第3変形例について説明する。
上述した実施形態では、第2規格化処理S4において、光学フィルタ417を通過した650nm帯の照明光ILを用いて撮像したRデジタル画像データR417(x,y)で除算する処理が行われるが、本発明はこの構成に限定されるものではない。例えば、第2規格化処理において、光学フィルタ418(あるいは、波長依存性を有しない減光フィルタや単なる透明な窓でもよい)を通過した照明光ILを用いて撮影されたR、G、Bの各デジタル画像データの和で除算する構成を採用することもできる。
【0132】
この場合、規格化反射率SR415(x,y)、SR416(x,y)は、それぞれ数式38、39により計算される。
【数38】
【数39】
【0133】
ここで、ベースライン画像データBLR418(x,y)、BLG418(x,y)及びBLB418(x,y)は、光学フィルタ418を通過した照明光ILによる照明下で色基準板を撮像して得たRデジタル画像データR418(x,y)、Gデジタル画像データG418(x,y)及びBデジタル画像データB418(x,y)である。
【0134】
以上が本発明の実施形態の説明であるが、本発明は、上記の構成に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内において様々な変形が可能である。
【0135】
上記の実施形態では、生体組織の分光特性に散乱が影響を与える度合(寄与度)を百分率で表した寄与率Cが計算されるが、本発明はこの構成に限定されず、散乱の寄与度を表す他の指標(例えば、5段階の水準を表す1〜5の整数値)を使用してもよい。
【0136】
また、上記の実施形態では、指標X(又は指標Y)と散乱の寄与率Cから、散乱による誤差を含まない(厳密には、誤差が低減された)酸素飽和度SatO(又は総ヘモグロビン量)が取得されるが、散乱の寄与率Cに基づいて指標X(又は指標Y)を補正することもできる。
【0137】
また、上記の実施形態では、Rデジタル画像データR418(x,y)とGデジタル画像データG418(x,y)、又はRデジタル画像データR418(x,y)とBデジタル画像データB418(x,y)の2色の単色画像データに基づいて散乱の寄与率Cが計算されるが、本発明はこの構成に限定されない。例えば、Rデジタル画像データR418(x,y)、Gデジタル画像データG418(x,y)及びBデジタル画像データB418(x,y)の3色の単色画像データに基づいて、例えば最小二乗法や加重平均計算により、寄与率Cを計算する構成としてもよい。また、例えば、Rデジタル画像データR418(x,y)のみから寄与率Cを計算してもよい。
【0138】
また、上記の実施形態では、生体組織中のヘモグロビンの濃度分布の分析に本発明を適用したものであるが、生体組織の色を変化させる別の生体物質(例えば、ホルモン等の分泌物)の濃度分布の分析にも本発明を適用することができる。
【0139】
また、上記の実施形態において、酸素飽和度SatOの指標Xや総ヘモグロビン量の指標Yの取得に使用された数式は一例であり、別の計算手順や手法によって各指標を取得する構成としてもよい。
【0140】
また、上記の実施形態では、指標Xの値に基づいて数値テーブル又は関数から酸素飽和度SatOの値を取得し、更に所定の定数を乗じて酸素飽和度分布画像の画素値を計算しているが、本発明はこの構成に限定されるものではない。指標Xは酸素飽和度SatOに対して単調に増加する数値であるため、指標Xの値をそのまま(又は所定の定数を乗じて)酸素飽和度分布画像の画素値として用いることもできる。
【0141】
また、本実施形態の撮像素子141は、その前面にR、G、Bの原色系カラーフィルタを備えたカラー画像撮像用の撮像素子であるとして説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、例えば、Y、Cy、Mg、Gの補色系カラーフィルタを備えたカラー画像撮像用の撮像素子を用いてもよい。
【0142】
また、本実施形態の撮像素子141は、オンチップのカラーフィルタ141aを備えたカラー画像撮像用の撮像素子であるとして説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、例えば、白黒画像撮像用の撮像素子を用い、いわゆる面順次方式のカラーフィルタを備えた構成としてもよい。また、カラーフィルタ141aは、オンチップの構成に限定されるものではなく、光源430から撮像素子141までの光路中への配置が可能である。
【0143】
また、上記の実施形態では、回転フィルタ410が使用されるが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、通過波長域が切換え可能な他の方式の波長可変フィルタを使用してもよい。
【0144】
また、上記の実施形態では、回転フィルタ410が光源側に設けられ、照射光ILに対してフィルタリングを行う構成が採用されているが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、回転フィルタ410を撮像素子側(例えば、対物光学系121と撮像素子131との間)に設けて、被写体からの戻り光をフィルタリングする構成としてもよい。
【0145】
また、上記の実施形態では、分光分析モードにおいて、回転フィルタ410を一定の回転数で回転させながら、所定の時間間隔で撮像を行う構成が採用されているが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、例えば、回転フィルタ410の回転位置を所定の時間間隔で段階的に変化させ、回転フィルタ410が静止した状態で撮像を行う構成としてもよい。
【0146】
また、上記の実施形態では、照明用の広帯域光を発生する光源としてキセノンランプ等の白色光源が使用されるが、使用する各光学フィルタの通過波長域全域に亘って十分な光量を有する非白色の広帯域光を発生する光源を使用してもよい。
【0147】
また、例えば、R、G、Bの各波長域の光をそれぞれ発生する原色光源を設け、各原色光源が発生する光を合波したものを白色光WLとして使用してもよい。この場合、G原色光源以外はレーザ等の狭帯域光源を使用することもできる。また、G原色光源には、少なくとも第1照明波長域(図1に示される波長域R0)の全域に亘って十分な光量を有する広帯域光を発生する光源が使用される。
【0148】
また、上記の実施形態では、光学フィルタ415の通過波長域R0が吸収ピークP1、P2及びP3の3つのピーク波長を含んでいるが、第1照明波長域が隣接する2つの吸収ピーク(具体的には吸収ピークP1及びP2又は吸収ピークP2及びP3)のみを含む構成としてもよい。
【0149】
また、上記の実施形態では、透過型の光学フィルタが使用されるが、通過波長域を反射する反射型の光学フィルタを使用してもよい。
【0150】
また、上記の実施形態は、本発明をデジタルカメラの一形態である電子内視鏡装置に適用した例であるが、他の種類のデジタルカメラ(例えば、デジタル一眼レフカメラやデジタルビデオカメラ)を使用したシステムに本発明を適用することもできる。例えば、本発明をデジタルスチルカメラに適用すると、体表組織の観察や開頭手術時の脳組織の観察(例えば、脳血流量の迅速検査)を行うことができる。
図1
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図5
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図10
図11
図12