(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試験対象とするエンジンの上流側に接続される吸気系と、下流側に接続される排気系とを具備し、前記吸気系の上流部は大気に開放され、前記排気系には前記吸気系からの空気を吸引する吸引装置が設けられた環境試験システムであって、
前記吸気系と前記排気系とを、前記エンジンを迂回するバイパス流路で繋ぎ、前記吸気系において前記バイパス流路が接続される部位よりも上流側に設けられた圧力制御弁の開度を調整可能とし、
前記バイパス流路の上流端は、前記吸気系に設けられた吸気バッファータンクに接続され、下流端は、前記排気系に設けられた排気バッファータンク又は該排気バッファータンクの下流側に接続され、
前記吸気系における前記圧力制御弁よりも上流側に、前記エンジンへと送る空気の温度を調整するための一次空調機を設けてあり、前記吸気バッファータンク内に、前記エンジンへと送る空気の温度を調整するための二次空調機を設けてあることを特徴とする環境試験システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、高地試験を実施するには、試験車両を高地に運び込むか、平地(低地)に建造された大規模な高地環境試験室(低圧室)を使用することになるが、いずれの場合も問題点が多い。
(1)高地に試験車両を運びこんで試験をする場合の問題点
・高地への試験機材の運搬費や人件費などの費用が相当掛かる。
・試験項目は高地で行えるものに限定される。
(2)高地環境試験室を建造する場合の問題点
・設備が大掛かりで、設置スペースの確保が難しい。
・建造には莫大な費用が掛かる。
・高地環境試験室には高強度の建屋構造が必要なため、既設建屋に増設するのは難しい。
(3)高地環境試験室を使用する場合の問題点
・予約が込み合い、長期間にわたる順番待ちを強いられる。
・追加試験の必要が生じても、通常、即時実施は出来ない。
・高地環境試験室の借用には、相当高額な使用料がかかる。
【0005】
本発明は上述の事柄に留意してなされたもので、その目的は、高地試験の実施に際して、試験対象を高地に運びこむ必要もなく、また、一般的な高地環境試験室のような大掛かりな設備を必要ともせず、低コストでの実施を可能とする環境試験システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る環境試験システムは、試験対象とするエンジンの上流側に接続される吸気系と、下流側に接続される排気系とを具備し、前記吸気系の上流部は大気に開放され、前記排気系には前記吸気系からの空気を吸引する吸引装置が設けられた環境試験システムであって、前記吸気系と前記排気系とを、前記エンジンを迂回するバイパス流路で繋ぎ、前記吸気系において前記バイパス流路が接続される部位よりも上流側に設けられた圧力制御弁の開度を調整可能とし
、前記バイパス流路の上流端は、前記吸気系に設けられた吸気バッファータンクに接続され、下流端は、前記排気系に設けられた排気バッファータンク又は該排気バッファータンクの下流側に接続され、前記吸気系における前記圧力制御弁よりも上流側に、前記エンジンへと送る空気の温度を調整するための一次空調機を設けてあり、前記吸気バッファータンク内に、前記エンジンへと送る空気の温度を調整するための二次空調機を設けてあることを特徴とする(請求項1)。
【0007】
上記環境試験システムにおいて、
前記吸気バッファータンク内に、前記エンジンへと送る空気の流量を計測するための流量計を設けてあってもよい(請求項2)。
【0008】
また、本発明に係る環境試験システム
を、試験対象とするエンジンの上流側に接続される吸気系と、下流側に接続される排気系とを具備し、前記吸気系の上流部は大気に開放され、前記排気系には前記吸気系からの空気を吸引する吸引装置が設けられた環境試験システムであって、前記吸気系と前記排気系とを、前記エンジンを迂回するバイパス流路で繋ぎ、前記吸気系において前記バイパス流路が接続される部位よりも上流側に設けられた圧力制御弁の開度を調整可能とし、前記バイパス流路の上流端は、前記吸気系に設けられた吸気バッファータンクに接続され、下流端は、前記排気系に設けられた排気バッファータンク又は該排気バッファータンクの下流側に接続され、前記吸気バッファータンク内に、前記エンジンへと送る空気の流量を計測するための流量計を設けてあるもの、としてもよい(請求項3)。
【0009】
【発明の効果】
【0010】
本願発明では、高地試験の実施に際して、試験対象を高地に運びこむ必要もなく、また、一般的な高地環境試験室のような大掛かりな設備を必要ともせず、低コストでの実施を可能とする環境試験システムが得られる。
【0011】
すなわち、本願の各請求項に係る発明の環境試験システムは、吸引装置により空気を吸気系及び排気系内に取り込んで流しつつ、圧力制御弁の開度調節を行うことにより、試験標高に応じた圧力(高地環境と同等の圧力)に調整された空気を供試エンジンに供給可能としている。
【0012】
また、本発明の環境試験システムは、バイパス流路を設けてあることにより、供試エンジンの運転状況が変化したり過渡運転を行ったりしても、系内(吸気系及び排気系内)の流量が常に一定に保たれることにより、圧力制御や温度制御を成り立たせることができ、排気系が極度に低圧になって破損等が生じる、といったことも防止される。
【0013】
請求
項1に係る発明の環境試験システムでは、吸気バッファータンク及び排気バッファータンクによって、供試エンジンの吸気側、排気側で生じる空気の脈動を緩衝することができる。
【0014】
請求
項1に係る発明の環境試験システムでは、一次空調機において温度調整した吸入空気を、供試エンジンにより近い二次空調機においても温度調整することにより、供試エンジンに到達させる吸入空気の温度変化を低減し、ひいては無くすことが可能となる。
【0015】
請求項
2,3に係る発明の環境試験システムでは、吸気バッファータンク内に供試エンジンへと送る空気の流量を計測するための流量計を設けることにより、流量計を吸気バッファータンク外に設ける場合に必要となる脈動用バッファータンクの外付けを不要としつつ、流量計に対する侵入熱影響を最小限にできる、理想的な計測環境を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら以下に説明する。
【0018】
本実施の形態に係る環境試験システム(以下、本システムと略称する)は、
図1(A)及び
図2に示すように、試験対象とするエンジン(以下、供試エンジンという)1の上流側に接続される吸気系2と、下流側に接続される排気系3とを具備する。吸気系2の上流部は大気に開放され、排気系3には吸気系2からの空気を吸引する吸引装置4が設けられている。また、吸気系2と排気系3とは、供試エンジン1を迂回するバイパス流路5で繋がれ、吸気系2においてバイパス流路5が接続される部位よりも上流側に設けられた圧力制御弁6の開度が調節可能となっている。
【0019】
そして、本システムは、吸引装置4により空気を吸気系2及び排気系3内に取り込んで流しつつ、圧力制御弁6の開度調節を行うことにより、試験標高に応じた圧力(高地環境と同等の圧力)に調整された空気を供試エンジン1に供給可能としている。すなわち、吸引装置4を定速運転しつつ、圧力制御弁6の開度を小さくすると、圧力制御弁6の下流側の圧力が低下するのであり、圧力制御弁6の開度を調節(絞り制御)することにより、供試エンジン1に供給される空気の圧力を所定値(設定値)に調整することができる。尚、圧力制御弁6の開度調節は、例えば、吸気系2に設けられた圧力計7(
図2参照)から圧力を示す信号を受ける図外の制御部によって行うようにすることができる。
【0020】
また、本システムでは、吸気系2から排気系3へと向かう空気は、供試エンジン1を経るエンジン流路8とバイパス流路5とに分岐して流れ、その流量比は、供試エンジン1の運転状態に支配される。詳述すると、供試エンジン1が停止した状態では、吸気系2から排気系3へと向かう空気の全量がバイパス流路5を流れ、供試エンジン1の始動後はエンジン回転数に応じた吸入量の空気がエンジン流路8を流れ、その分だけバイパス流路5を流れる空気の流量は低下する。従って、本システムでは、バイパス流路5を設けてあることにより、供試エンジン1の運転状況が変化したり過渡運転を行ったりしても、系内(吸気系2及び排気系3内)の流量が常に一定に保たれることにより、圧力制御や温度制御を成り立たせることができ、排気系3が極度に低圧になって破損等が生じる、といったことも防止される。
【0021】
ここで、吸引装置4は、例えば吸引ブロワであり、吸気系2及び排気系3を流れる空気の流量確保を行うためのものであって、定速運転時には、供試エンジン1の排気量に若干の余裕(例えば25%程度の余力)を見込んだ吸引量(流量)を維持し、これにより、省エネ運転が実現される。尚、吸引量の設定は例えば外部の設定器により行われる。また、吸引装置4に用いるブロワとしては、圧力変動に対し流量変動が少ない容積式のブロワ(例えばルーツブロワ)が好適である。
【0022】
以上が本システムの基本原理であり、次に、この基本原理を組み込んだ本システムの基本構成について、
図1(B)及び
図2を参照しながら説明する。
【0023】
まず、エンジン試験においては平地環境と高地環境の比較を行うため、標準大気圧での試験も要求される。そこで、本システムでは、供試エンジン1に供給する空気の圧力を、高地環境のみならず標準大気圧環境にも対応するように調整可能とするために、
図1(B)に示すように、吸気系2の上流部に昇圧ブロワ9を設けてある。これにより、吸気系2に導入された空気が標準大気圧より低い場合であっても、昇圧ブロワ9によって昇圧することにより、本システムの設置場所の海抜(標高)や試験時における低気圧の影響をキャンセルして、標準大気圧の空気を供試エンジン1に供給することが可能となる。
【0024】
また、供試エンジン1の吸気側、排気側では空気の脈動を生じることから、この脈動緩衝のために、吸気系2における圧力制御弁6よりも下流側の位置に吸気バッファータンク10を装備し、排気系3における吸引装置4よりも上流側の位置に排気バッファータンク11を装備している。尚、供試エンジン1の回転数を急激に変化させる過渡試験の場合、吸入空気の流れの慣性による瞬時的な流量変化に伴い、吸入圧力変動が生じてしまう。従って、このような試験を実施する場合は、吸気バッファータンク10及び排気バッファータンク11の容積を十分に大きくしておき緩衝効果を高めておく必要がある。
【0025】
さらに、供試エンジン1の始動後、エンジン排ガスの温度上昇に伴って吸引装置4に送られる空気の体積が膨張し、吸引装置4の処理能力の限界を超えると圧力制御が不能となる。そこで、このような状況を回避するために、本システムでは、吸引装置4の前段(排気系3におけるバイパス流路5の下流端の接続部位よりも下流側であり吸引装置4よりも上流側の位置)に、吸引装置4の吸入側の条件を整えるための排ガス冷却器(排気ガス熱交換器)12を設けてある。この排ガス冷却器12を設けることにより、高温排気ガスから吸引装置4を保護することができ、また、吸引装置4に導入される排気ガスをある程度冷却することにより吸引装置4の上流側での排気ガスの体積流量変化を緩和し、過渡運転等により供試エンジン1の運転状況が変化しても、安定した制御が可能となる。
【0026】
ここで、吸引装置4に吸引される空気の流量は、吸引装置4の入口における温度(ブロワ吸込み温度)の影響を受けるため、この流量を一定にするには、排ガス冷却器12の出口における温度を常に一定にする必要がある。しかし、実際の試験において、供試エンジン1の始動時(アイドリング時)と定格運転時とでは、排ガス冷却器12の負荷は全く異なり、試験経過に伴い(試験開始時と終了時とでは)ブロワ吸込み温度を一定にすることが出来ないことがあり、例えば試験開始時には温度が低めになる。そこで、本システムでは、ブロワ吸込み温度に応じて吸引装置4の容量補正(温度補正)を行う図外の制御系(制御部)により、若干の補正運転を行っており、これにより、あらゆる運転状況において略一定した流量を得ることが出来るようにしている。
【0027】
図1(B)に示す例では、バイパス流路5の上流端を吸気バッファータンク10に接続し、下流端を排気バッファータンク11よりも下流側に接続することにより、エンジン排ガスが吸気バッファータンク10側へと安易に逆流しないようにしている。また、この接続配置のみでは機械的な逆流防止を行えないため、吸気バッファータンク10と排気バッファータンク11間に微差圧計(差圧センサーの一例)13を取り付け、逆流監視を行い、逆流発生時にはアラームでの報知や試験の自動的な停止等を行うようにしてある。
【0028】
しかし、これに限らず、バイパス流路5の構成は種々に変更可能である。例えば、
図3(A)に示すように、バイパス流路5の下流端を排気バッファータンク11に接続し、バイパス流路5に逆止弁14を設けることによって機械的に逆流防止を図れば、微差圧計13は不要となる。但し、この場合、逆止弁14の弁抵抗が吸気側の圧力と排気側の圧力の差圧として顕在化するため、供試エンジン1に送られる空気の圧力が実際の高地環境における圧力と若干異なってしまう恐れがある。この点、
図1(B)に示す例では逆止弁14の弁抵抗が無くなるので、実際の高地環境に比較的近似した状態を得ることができ、優れているといえる。
【0029】
また、
図1(B)に示すバイパス流路5の構成を、
図3(B)、(C)に示すように変更することもできる。ここで、
図3(B)に示す例では、バイパス流路5の下流端が接続される排気バッファータンク11内にホッパー形状のガイド15を配置してある。
図3(C)に示す例では、吸気バッファータンク10と排気バッファータンク11とを一体化した一体型バッファータンク16を設け、この一体型バッファータンク16における吸気バッファータンク10と排気バッファータンク11間に微差圧計13を取り付けて逆流監視を行うようにしている。但し、排気側の輻射熱影響を抑えるという点では、
図3(C)に示す一体型バッファータンク16を採用するよりも、
図1(B)、
図3(A)、(B)に示すように、吸気バッファータンク10と排気バッファータンク11とを別体としておく方が好ましい。尚、
図3(C)に示す一体型バッファータンク16内の吸気バッファータンク10と排気バッファータンク11とを仕切る仕切り板16aやこの仕切り板16aに設ける貫通孔16bの構成は適宜に変更可能である。
【0030】
本システムでは、
図1(B)に示すように、吸気系2の上流部(圧力制御弁6よりも上流側)に吸入空気温調装置(供試エンジン1へと送る空気の温度を調整するための一次空調機の一例)17を設置してあり、温度制御のプロセスとして、外気から吸気系2内に吸入した空気(吸入空気)を、吸入空気温調装置17により、冷却・除湿及び加熱し、吸入空気の温度が目標値(要求された吸気温度)となるようにし、その上で供試エンジン1へ供給する。尚、吸入空気温調装置17は、
図2に示すように、加熱器17aと冷却器17bとを具備している。
【0031】
ここで、吸入空気温調装置17に流れる空気は全て外気導入でなければならず、特に吸入空気の温度をマイナス温度域とする低温試験を実施する場合には、吸入空気温調装置17内の冷却部で吸入空気中の水分が氷結し閉塞してしまうことを防止し、ノンフロストでの連続運転を可能とするのが好ましい。そのため、本システムでは、必要に応じ、
図4(A)に示すように、吸入空気温調装置17の前段(本例では昇圧ブロワ9の上流側)に除湿装置18を設け、吸入空気温調装置17に導入する吸入空気を除湿装置18であらかじめ除湿して低露点が得られる構成を採用している。
【0032】
図4(A)に示す例では、上述したように、本システムで吸気系2の上流部において吸入空気温調装置17によって吸入空気を除湿するが、この除湿後、吸入空気を供試エンジン1に供給するまでの間に吸入空気の湿度制御(加湿)を行う場合、湿度は気圧変動に影響されることから、圧力制御弁6の下流側で湿度制御を行うのが好ましい。この湿度制御を行うにあたっては、例えば
図4(B)に示すように、吸気バッファータンク10内に下流部が挿入接続される加湿ライン19を設け、この加湿ライン19の上流部に配した蒸気ボイラー20で発生した蒸気を、加湿ライン19の下流部に設けた加湿ノズル21から吸気バッファータンク10内に噴出させ、この噴出量は加湿ライン19の中流部(蒸気ボイラー20と加湿ノズル21の間)に設けた湿度制御弁22によって調節することが考えられる。
【0033】
吸入空気温調装置17において温度調整した吸入空気を、温度変化させることなく供試エンジン1に到達させるためには、出来る限り短い距離で接続し、また十分な断熱を施さないといけない。しかし、いくら断熱を施しても、吸気系2を構成する管(供試エンジン1に接続される管等)の壁面からの熱侵入に加え、この管や吸気バッファータンク10を構成する金属材料自体の保有熱による影響を避けることは出来ず、このような吸入空気に対する熱影響は、周囲温度と吸入空気温度の差が大きくなるにつれ顕著となってしまう。また、供試エンジン1の吸入空気流量が極少の場合(アイドリング時など)にも、上記侵入熱や保有熱の影響を受け、特に供試エンジン1の吸入口付近や吸気バッファータンク10の出口付近(供試エンジン1取合いポイント)の吸入空気は、吸入空気温調装置17による制御温度とは全く異なった温度になっている恐れがある。
【0034】
そこで、本システムでは、この解決策として、
図5(A)に示すように、侵入熱と保有熱に対応し、供試エンジン1へと送る吸入空気の温度を調整するための二次空調機23を、吸気バッファータンク10内に配置することにより、吸入空気の温度変化を低減し、ひいては無くすことを可能としている。尚、二次空調機23には吸入空気温調装置17と同等の構成のものを用いることができ、また、二次空調機23の温度制御は、例えば吸気バッファータンク10内の下流部の温度を検出する温度センサー24(
図2参照)から温度を示す信号を受ける図外の制御部によって行うようにすることができる。
【0035】
また、吸気バッファータンク10から供試エンジン1の吸気口までの距離をどうしても短く出来ない場合は、
図5(B)に示すように、エンジン流路8における吸気バッファータンク10から供試エンジン1までの間の部位から分岐して二次空調機23の上流側に繋がるリターン流路25を設けてもよい。この場合、エンジン流路8及びリターン流路25に温度調整した空気を循環させることにより、吸入空気が吸気バッファータンク10から供試エンジン1に送られるまでの温度変化を抑えることができ、この効果は、リターン流路25の上流端をエンジン流路8における供試エンジン1の吸入口に近づけるほど高まることになる。
【0036】
エンジン試験において吸入空気流量計測を行う場合、
図6(A)のように、供試エンジン1吸気口の直前に流量計26および脈動緩衝用バッファータンク27を取り付けると、流量計26および脈動緩衝用バッファータンク27には、外部からの熱侵入によって温度変化が発生し、例えば供試エンジン1の吸入空気量が少ない場合はその傾向も大きくなる。このような状況で流量の温度補正を行なっても、誤差が発生し、正しい流量計測が出来ないと考えられる。
【0037】
そこで、本システムでは、
図6(B)に示すように、吸気バッファータンク10内に供試エンジン1へと送る空気の流量を計測するための流量計26を取り付けできる構造とすることにより、脈動用バッファータンク27の外付けを不要としつつ、流量計26に対する侵入熱影響を最小限にできる、理想的な計測環境を得ることが可能である。本例では、
図7に示すように、吸気バッファータンク10内を上流部10aと下流部10bとに区画する区画壁10cを貫く筒状流路10dに流量計26を設けており、この筒状流路10dは、上流部10aと下流部10bとを直に連通させる唯一の流路となっている。また、本例では、
図7に示すように、圧力計7、微差圧計13、二次空調機23、温度センサー24を下流部10bに対して設けている。
【0038】
本システムの機器容量を、試験予定されている最大の供試エンジン1の容量と、最大負荷となる試験条件に基づいて選定された機器で構成した場合、実際に行われる試験に対して設備容量が過剰となってしまう傾向がある。特に吸引装置4においては、必要以上の設備容量で運転を行っても、吸入空気の殆どがバイパス流路5を流れるだけとなり、運転は何ら支障なく行なわれるが、エネルギー消費は常に最大値となってしまい、省エネルギー性が欠けてしまう。
【0039】
その解決策として、本システムは、
図8に示す容量制御プログラムを実行可能としている。この容量制御プログラムは、三つの試験条件を入力すると、自動に必要な容量を演算し、最適な容量での運転を行うように吸引装置4を制御するためのものである。すなわち、この容量制御プログラムは、
図8に示すように、一つ目の試験条件として供試エンジン1の軸出力が入力されると(ステップS1)、内燃機関熱勘定に基づいてエンジン発熱量を演算し(ステップS2)、燃料発熱量に基づいて燃料消費量を演算し(ステップS3)、理論空燃比より吸入空気量を演算する(ステップS4)。一方、二つ目及び三つ目の試験条件として、試験標高と試験温度が入力されると(ステップS5)、空気密度を演算する(ステップS6)。そして、ステップS4で求めた吸入空気量とステップS6で求めた空気密度とに基づいて、必要な吸引装置4の流量(ブロワ流量)を演算し(ステップS7)、吸引装置4(ブロワ)の運転負荷率を設定する(ステップS8)。従って、この容量制御プログラムを実行すれば、吸引装置4のみならず吸入空気温調装置17、排ガス冷却器12等の大幅な省エネルギー運転が可能となる。
【0040】
そして、本システムは、例えば登坂試験に応用することができる。すなわち、あらかじめ計画された
図9に示すような登坂試験パターンに基づき、試験標高と登坂時間を設定し、この設定を圧力制御弁6の制御に反映させることにより、登坂環境を模擬することが可能である。
【0041】
以上説明したように、本システムは、供試エンジン1の吸気側の圧力、温度、湿度と排気側の圧力とを制御し、試験標高に応じた圧力制御を可能とするものであり、エンジンテストにおいて、気圧変動に密接な関係のある、供試エンジン1の吸気側と排気側の管内にのみ高地環境を作りだす簡易型の高地環境テストシステムともいえる。従って、本システムを用いれば、一般的な高地環境試験室のような耐圧構造の試験室を有する大掛かりな設備を必要としないため、省スペース及び省エネルギーでの運用と、低コストでの設備導入とが可能となる。
【0042】
さらに、本システムは、
図2に示すように、吸引装置4と排気バッファータンク11と排ガス冷却器12とは一つのブロワーユニット28としてユニット化され、圧力制御弁6と吸気バッファータンク10とは一つの圧力調整ユニット29としてユニット化され、その他、吸入空気温調装置17、除湿装置18等もそれぞれユニット化された機器構成であるため、既設ベンチなど、設置場所を選ばず、たとえば将来、違うベンチに移動させたい場合でも、比較的簡単な工事で移設可能である。但し、本システムにおいてどの部位をユニット化するかは、設備規模等に応じてその都度変更可能であることはいうまでもない。
【0043】
なお、本発明は、上記の実施の形態に何ら限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々に変形して実施し得ることは勿論である。