【実施例】
【0064】
特許請求の範囲に記載される本発明の実施態様の理解を助けるために、いくつかの実施例を以下に記載する。しかし、これらの実施例は、本発明を限定するものと考えられるべきではない。
【0065】
インビボ放出カイネティクスを改善するための生分解性ポリマーの精製の概論
Atrigel(登録商標)システムからのペプチド類およびタンパク質類など多くの生物活性剤の放出は、移植後最初の24時間中、ある種の条件下において最適速度より高速で起こり得る。本発明のポリマーをAtrigel(登録商標)システムと組み合わせると、低バースト放出速度の実質的な改善をもたらす独特な組合せが生じる。
【0066】
Atrigel(登録商標)システムで使用するポリマーは、溶媒への溶解および非溶媒による沈殿により精製し、次いで乾燥する。溶媒と非溶媒は混和性とすることができる。具体的には、ポリマーをジクロロメタンに溶解し、メタノールで沈殿させることができる。以下に記載するように、精製した材料を含有する製剤を、本発明の方法で精製しなかったポリマーを含有する同じ製剤と比較した。精製した材料を含有する製剤は、最初の24時間以降の時点で、より低い薬物放出を示した。したがって、Atrigel(登録商標)システム中で本発明のコポリマーを使用すると、インビボ薬物放出カイネティクス、特に投与した後最初の24時間中の薬物放出を改善することが示されている。
【0067】
(実施例1)
酸を末端とする85/15ポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)(85/15 PLGH)の精製
精製コポリマーを用いてまた用いずに、試験物品を調製し、24時間放出試験で出発コポリマー(溶解および沈殿のステップを実施する前のコポリマー)と比較した。この実施例における出発コポリマーは、ポリ(DL−ラクチド−コ−グリコリド)の酸を末端とする形であった。これは、コポリマー材料を構成する分子鎖の一端がカルボン酸基を有することを意味する。
【0068】
48グラムの85/15 PLGH(インヘレント粘度0.25dL/g)を100mLのジクロロメタンに溶解した。ポリマー溶液を、500mLのメタノールが入った2Lのビーカーに激しく撹拌しながら注ぎ込んだ。沈殿したポリマーは軟質の塊を形成した。ジクロロメタン−メタノール溶液をデカンテーションし、200mLのメタノールを5〜15分間添加して、さらにジクロロメタンを抽出した。メタノールを容器からデカンテーションし、100mLのメタノールでさらに5〜15分間置換して、さらにジクロロメタンを抽出した。
【0069】
ポリマー塊を容器から取り出し、テフロン(登録商標)ライニングしたガラス皿に置き、40℃で48時間真空乾燥した。乾燥したポリマーを真空オーブンから取り出し、粉末に粉砕し、40℃でさらに24時間乾燥した。
【0070】
Atrigel(登録商標)製剤の調製
精製コポリマーと非精製コポリマーのN−メチルピロリドン(NMP)溶液(45%(w/w))を調製した。既知量の各コポリマーを個々の20mLのシンチレーションバイアルに計量することによって、保存溶液を調製した。適量のNMPを各ポリマーに添加し、混合物をジャーミルに入れる。バイアルを少なくとも終夜混合し、目視で透明なポリマー溶液を得た。ポリマー溶液にガンマ線を照射した。溶液の精製ポリマーおよび非精製ポリマーのキャラクタリゼーションデータを表1に示す。
【0071】
【表1】
4gのオクトレオチド酢酸塩および0.7550gのクエン酸(1:1(モル:モル))を30mLのHPLCグレードの水に溶解することによって、オクトレオチド酢酸塩−クエン酸混合物を調製した。溶液を、固体のすべてが溶液になるまで撹拌した。溶液を別々のバイアル5本に分け、−86℃で1時間冷凍した。次いで、バイアルを2日間凍結乾燥した。
【0072】
1.35gの薬物を4.65gのHPLCグレードの水に溶解することによって、薬物の保存溶液を調製し、22.5%(w/w)の保存溶液を得た。500mgのオクトレオチド保存溶液をピペットで1.25mLのBD注射器に計り入れることによって、薬物含有注射器(「B」または雄型注射器)を調製し、続いて24時間凍結乾燥した。637.5mgのポリマー溶液を1mLの雌型注射器に計り入れることによって、ポリマー溶液含有注射器(「A」または雌型注射器)を調製した。
【0073】
ラットにおいて投与する前に、2本の注射器を合わせ、注射器の内容物をチャンバ間に所定の回数押し込むことによって、内容物を混合した。2本の注射器の内容物を混合すると、19ゲージの薄壁針を雌型注射器に取り付け、約100mgのAtrigel(登録商標)製剤をラットに皮下注射した。
【0074】
所定の時間に、5匹のラット/群を二酸化炭素で安楽死させ、Atrigel(登録商標)インプラントを回収した。インプラントを、HPLCでインプラントに残留している薬物の量について分析し、薬物放出(%)を算出した。
【0075】
精製ポリマー試験物品からの薬物放出を、精製をしていない同じポリマーの試験物品と比較した。データ、平均、および標準偏差を表2および
図1に示す。
【0076】
【表2】
(実施例2)
実施例2では、生物活性剤としてオクトレオチドを含む試験デポーを、2つの異なる方法で精製したポリマーから調製し、ラットにおいて、28日放出制御試験で非精製の形の同じポリマーから調製した試験物品と比較した。
【0077】
(実施例2a)
ポリマーのNMP/水/エタノール中での精製(対照方法)
ポリマーをN−メチルピロリドン(NMP)に溶解し、ポリマー溶液を水/エタノール溶液で沈殿させることを含む精製技法を開発した。NMP、水、およびエタノールは、ジクロロメタン(塩化メチレン)およびメタノールに比べて、医薬調製品で使用すると有利な特性を有することができる。
【0078】
送達システムで使用するためのポリマーをNMPに溶解した。2Lのナルゲン瓶中の400gのNMPに、100グラム(100g)の85/15PLGHを添加した。瓶を振盪して、ポリマーを分散し、ロールミルに終夜置いて、ポリマーを溶解した。
【0079】
9.5Lの容器に、中心からずらせてセットしたオーバーヘッドスターラを装備し、4Lの水を充填した。オーバーヘッドスターラを約1250rpm(設定3)にして、容器に、漏斗を用いてゆっくりと、ポリマー溶液を5分間かけて添加した。得られたポリマー懸濁液を1250rpmで30分間撹拌した。次いで、撹拌を約500rpmに減速する一方、3Lの水および1Lのエタノールを容器に添加した。ポリマー懸濁液は凝集し、撹拌速度を約800rpm(設定2.5)に上げ、凝集物を手動で分解することによって再び分散させた。
【0080】
30分後、撹拌を止め、懸濁液を20分間沈降分離させた。少量の固体が表面に上昇したが、材料の大部分は容器の底に沈降した。4リットル(4L)の溶媒を容器からデカンテーションし、撹拌を約800rpmで再開する一方、3Lの水および1Lのエタノールを添加した。撹拌を30分間継続し、次いで懸濁液を30分間沈降分離させた。次いで、4リットル(4L)の溶媒を容器からデカンテーションした。
【0081】
撹拌を800rpmの設定で再開し、3Lの水および1Lのエタノールを再び添加し、撹拌を2時間継続した。混合物を15分間沈降させた。4リットル(4L)の水を容器に添加し、さらに1〜2時間撹拌した。懸濁液を濾過し、濾過ケーキをテフロン(登録商標)ライニングしたパイレックス(登録商標)皿に広げ、真空オーブン中、室温で約70時間乾燥した。重量を記録し、真空オーブンに戻し、30〜40℃でさらに19時間真空乾燥した。乾燥した粉末をガラスジャーに移した。
【0082】
(実施例2b)
ポリマーのジクロロメタン/メタノール中での精製(試験方法)
1Lのナルゲン瓶中の393gのジクロロメタン(DCM)に、100グラム(100g)の85/15 PLGHを添加した。瓶を振盪して、ポリマーを分散し、ロールミルに終夜置いて、ポリマーを溶解した。
【0083】
9.5Lの容器に4Lのメタノールを充填した。撹拌せずに、メタノールに、漏斗を用いてゆっくりと、細い糸状のポリマー溶液を添加した。ポリマーは、容器の底で軟質の塊を形成した。この材料を撹拌棒で操作して、新しい表面積を曝露させて、DCMがメタノール中に拡散するのを助けた。
【0084】
15分後、溶液をデカンテーションし、2Lの新しいメタノールを添加した。材料を、新しい表面積が生じるように再び操作して、DCMをポリマーからメタノールに拡散させることができた。軟質の塊を定期的に捏和して、溶媒を絞り出し、DCMをメタノールに押し込んだ。
【0085】
約5時間後、過剰の溶媒を軟質ポリマー塊から絞り出し、その塊をテフロン(登録商標)ライニングしたパイレックス(登録商標)皿に置き、真空オーブンに入れ、溶媒を室温で真空により除去した。約24時間後、脆い材料を粉末に粉砕し、真空オーブンに戻して、さらに乾燥した。48時間後、ポリマーを計量し、30〜40℃の真空オーブンに入れる。19時間後、ポリマーを再び計量したが、重量は大幅には変化していなかった。ポリマーをナルゲン瓶に入れた。最終の収量は、61gであった。
【0086】
(実施例2c)
バルクAtrigel(登録商標)製剤の調製
20mLのガラスバイアルに両成分を計り入れることによって、NMP中50パーセント(50%)のポリマー溶液を調製した。バイアルをロールミルに置いて、ポリマーをNMPに溶解した。次のコポリマー試料を調製した。
ポリマー2A:5gの(NMP/水/エタノール中で精製した85/15 PLGH)を5gのNMPに溶解した。
ポリマー2B:5gの(DCM/メタノール中で精製した85/15 PLGH)を5gのNMPに溶解した。
ポリマー2C:5gの(非精製85/15 PLGH)を5gのNMPに溶解した。
【0087】
バルク溶液に照射し、注射器に充填した。照射後に、バルク製剤をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで特徴付けて、溶液中のポリマーの分子量を測定した。分子量データを表3に示す。
【0088】
【表3】
(実施例2d)
薬物充填注射器の調製
OTCA(オクトレオチド酢酸塩(2.33g)およびクエン酸(0.43g))を21.24gの水に溶解した。適量の溶液を5本のCC注射器に計り入れ、−80℃で冷凍し、凍結乾燥した。
【0089】
(実施例2e)
試験デポーの調製
ラットにおいて投与する前に、Atrigel(登録商標)製剤を含有する注射器を凍結乾燥した薬物を含有する注射器と合わせ、注射器の内容物をチャンバ間に所定の回数押し込むことによって、内容物を混合した。2本の注射器の内容物を混合すると、19ゲージの薄壁針を雌型注射器に取り付け、約100mgの試験物品をラットに皮下注射した。
【0090】
112.5mgの薬物を637.5mgのATRIGEL(登録商標)ビヒクル中で混合することによって、750mgの構成した生成物を調製した。次いで、均質な混合物を1.5mlの注射器に計り入れ、19ゲージの薄壁針を取り付けた。各ラットに、約100mgの構成した生成物を皮下注射で投与する。
【0091】
所定の時間に、5匹のラット/群を二酸化炭素で安楽死させ、Atrigel(登録商標)インプラントを回収した。インプラントを、HPLCでインプラントに残留している薬物の量について分析し、放出した薬物の累積百分率(%)を算出した。1日、14日、および28日時点のデータを表4および
図2に示す。
【0092】
【表4】
精製ポリマーの両方の形で調製した試験物品は、非精製ポリマーを使用した試験物品より初期バーストが低く、1日におけるNMPコポリマー調製物とDCMコポリマー調製物からのオクトレオチドの放出(%)は実験誤差内で同じであったが、非精製ポリマーより有意に低かった。しかし、14日および28日において、DCM方法で精製したポリマーを含有する試験デポーは、NMP精製ポリマーまたは非精製ポリマーから生成したデポーより有意に低いオクトレオチドの放出を示した。
【0093】
表1および3の分子量データは、ガンマ照射製剤中のポリマーの重量平均分子量が、精製によって有意には変化しないことを示す。しかし、精製は、対照と比較したとき、分子量分布または多分散指数を狭めた。
【0094】
この現象をさらに理解するために、上述したものと同様の方法を用いて、外部ベンダーから購入した85/15 PLGHポリマー(非精製ポリマー2Dと呼ぶ)をDCMおよびメタノール中で精製した。このロットの精製ポリマーをポリマー2Eと名付けた。ポリマーをGPCおよびNMRによって特徴付けた。さらに、DCM/メタノール溶媒中に残留する不純物を回収し、GPCおよびNMRによって特徴付けた。データを表5に示す。
【0095】
【表5】
NMRデータによって、精製は残留モノマーを除去したことが示された。ラクチドの重量パーセントは、1.7重量%から0.5重量%に低下し、残留グリコリドモノマーは0.1重量%から0重量%に低下した。GPCデータからもやはり、重量平均分子量は有意に変化しなかったが、ポリマー分散指数(PDI)は1.73から1.66に低下し、ポリマーの低分子分画が除去されたことを示唆することが明らかである。溶媒混合物に残留したこの低分子量分画は、平均分子量がわずか4kDaであった。
【0096】
(実施例2f)
回収したインプラント中の残留オクトレオチドの分析方法
I.インプラント調製
A.前臨床部門から、20mlの標識シンチレーションバイアルでインプラントを受け取る
B.インプラントを−86℃で少なくとも1時間冷凍する。
C.次いで、インプラントを4時間以上または乾燥するまで凍結乾燥する。
D.次いで、乾燥したインプラントをハサミで細かく切る。
【0097】
II.インプラント抽出
A.700mlのDMSOおよび300mlのMeOHをメスシリンダーで計量することによって、70:30のDMSO:MeOH+1%のPEIからなる抽出溶媒溶液を調製する。溶媒を100mlの瓶に添加する。瓶を振盪して、溶媒を混合する。10gのPEIを250mlのビーカーに計り入れる。少量の混合溶液をPEIのビーカーに添加し、かき混ぜ、次いで溶液を溶媒瓶に戻すことによって、PEIを溶液に移す。このプロセスを、PEIがビーカーに残留しなくなるまで継続する。
B.マイクロピペッタを使用して、5.0mlの抽出溶媒を、細かく切ったインプラントに添加する。
C.インプラント溶液を37℃、200RPMの水平振盪機セットに置く。試料を終夜振盪する。
【0098】
III.抽出溶液の濾過および希釈
A.3mlの注射器および0.2umのナイロンシリンジフィルタを使用して、2mlのインプラント抽出物を10mlの試験管に濾過する。1mlのマイクロピペッタを使用して、1mlの濾液を第2の試験管に分注する。
【0099】
B.500mlのアセトニトリル(ACN)をメスシリンダーで計量し、溶媒を1000mlの瓶に添加することによって、50:50のアセトニトリル:水からなる希釈溶媒を調製する。500mlの水を瓶に添加し、瓶を振盪して、溶媒を混合する。
【0100】
C.分注したインプラント抽出物に、4.0mlの希釈溶媒を添加する。溶液を、相分離が観察されなくなるまでボルテックス混合する。
【0101】
D.第2の3mlの注射器およびナイロンシリンジフィルタを使用して、希釈した抽出物を濾過する。抽出物を2mlのHPLCバイアルに濾過し、HPLC分析のため蓋をする。
【0102】
IV.HPLC分析
A.検量線の作成
インプラントが回収される試験用の試験物品で使用されるオクトレオチド薬物粉末(OTCAまたはODP)を使用して、検量線を作成する。10.00mgのオクトレオチド薬物粉末を10mlのメスフラスコに計量する。オクトレオチド移動相(IVB、移動相調製のセクションを参照のこと)を用いて、フラスコを容積までメスアップする。すべての粉末が溶液になるまで、フラスコをボルテックス混合する。調製した保存溶液をさらに、1000mlおよび100mlのマイクロピペッタを使用して移動相で希釈して、検量線を作成する。希釈物を2mlのHPLCバイアルに作製する。下記に、希釈体積を概説する。
【0103】
B.移動相調製
14.047gのNa
2HPO
4*7H
2Oを計量ボートに計り入れることによって、2Lの65:35のPO4:ACN緩衝液(オクトレオチド移動相)を調製する。粉末を2Lのメスシリンダーに添加する。0.7839gのNaH
2PO
4を計量ボートに計り入れ、シリンダーに添加する。HPLCグレードのH
2Oを、シリンダーに1300mlの印まで添加する。撹拌棒を加え、溶液を、すべての固体が溶解するまで撹拌する。オルトリン酸を使用して、緩衝液のpHをpH7.4に調整する。アセトニトリルを、フラスコに2000mlの印まで添加する。移動相をよく撹拌し、ソニケーター浴を使用して10分間脱気する。
【0104】
C.HPLCパラメータ:
使用する分析カラムは、Merck LiChroSphere 125×4mm RP select B 5 umである。各測定の後に、2つの清浄ステップを行う。第1のステップは、70:30のH
2O:ACNを30分間流し、第2のステップは、30:70のH
2O:ACNを30分間流す。
【0105】
【表6】
本発明を、当業者がそれを作製および使用するのに十分詳細に記載および例示するが、特許請求の範囲の精神および範囲から逸脱することなく、様々な代替、修正、および改善が当業者に自明であろう。