(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態の説明を行う。
【0010】
図1は、本発明を適用できる船舶の横断面の一例を概略的に示す断面図である。
図1において、板厚を有する板材の断面を表すが、板厚については省略されている。また、
図1において、ハッチカバーに関する構成については、断面図ではない態様で概略的に示されている。尚、
図1には、船舶の中心線がラインCLで表されている。以下の説明において、上下方向は、
図1の上下方向に対応し、左右方向は
図1の左右方向に対応する。前後方向は、
図1の紙面に垂直な方向(船舶の前後方向)に対応する。
【0011】
図1に示す例では、船舶1Aは、一般的な二重底のばら積み船(バルクキャリア)である。船舶1Aは、ホールド(船倉)10Aを備える。ホールド10Aには、貨物が積載される。貨物は、任意であるが、例えば鉱石である。尚、ホールド10Aは、船舶1Aに複数個設けられる。以下では、1つのホールド10Aについて説明する。
【0012】
ホールド10Aは、
図1に示すように、底面11Aと、左右の側面12Aと、左右の傾斜面13Aと、左右の傾斜面14Aとにより空間が形成される。ホールド10Aは、上部開口部15Aにおいて上部が開口する。尚、左右の傾斜面13Aは、ホールド10Aの下部の左右両側に設けられ、略三角形の断面のバラストタンク(ホッパータンク)20Aを形成する。また、左右の傾斜面14Aは、貨物の荷崩れを防ぐためにホールド10Aの上部の左右両側に設けられ、略三角形の断面のバラストタンク(トップサイドタンク)22Aを形成する。尚、空間24Aには、パイプダクトが設けられる。
【0013】
ホールド10Aの上部開口部15Aには、ハッチコーミング43A及びハッチカバー40Aが設けられる。
【0014】
ハッチコーミング43Aは、上部開口部15Aの側壁を形成し、例えば上甲板よりも上方に突出する。
【0015】
ハッチカバー40Aは、スライド式に移動してホールド10Aを開口させるカバー部材421A及び422Aを備える。カバー部材421A及び422Aは、ハッチカバー40Aの上面を形成する。カバー部材421A及び422Aは、左右にそれぞれ設けられる。カバー部材421A及び422Aは、ハッチカバーレール44A上をスライド式に移動可能である。具体的には、ホールド10Aを開口させる際、左側のカバー部材421Aは、左側に移動し、右側のカバー部材422Aは、右側に移動する。尚、ハッチカバー40Aの移動を実現する駆動源の図示は省略されている。
【0016】
図1において、L1は、ホールド10Aの上部開口部15Aの左右方向の幅(開口幅)を表し、L2は、ホールド10Aの左右方向の最大幅を表す。以下、幅L1と最大幅L2との比(=L1/L2)を、「開口幅比」と称する。
図1に示すようなばら積み船の場合、左右の傾斜面14Aが形成されることに起因して、ホールド10Aの上部開口部15Aの左右方向の幅L1が、ホールド10Aの左右方向の最大幅L2に対して小さくなる。即ち、
図1に示すようなばら積み船の場合、開口幅比が比較的小さくなる。
【0017】
図2は、本発明を適用できる船舶の横断面の他の一例を概略的に示す断面図である。同様に、
図2において、ハッチカバーに関する線以外の線は、板厚を有する部材の断面を表すが、板厚については省略されている。
【0018】
図2に示す例では、船舶1Bは、二重底の鉱石専用船である。船舶1Bは、ホールド10Bを備える。ホールド10Bには、鉱石が積載される。尚、ホールド10Bは、船舶1Bに複数個設けられる。以下では、1つのホールド10Bについて説明する。
【0019】
ホールド10Bは、
図2に示すように、底面11Bと、左右の側面12Bと、上面14Bとにより空間が形成される。ホールド10Bは、上部開口部15Bにおいて上部が開口する。尚、左右の側面12Bは、ホールド10Bの左右両側のバラストタンク20Bを形成する。バラストタンク20Bは、ホールド10Bの左右両側のそれぞれにおいて、ホールド10Bの上端から下端まで延在する。尚、空間24Bは、底面11Bを上面となる二重底により形成される空間であり、パイプダクトを兼ねる。
【0020】
ホールド10Bの上部開口部15Bには、ハッチコーミング43B及びハッチカバー40Bが設けられる。
【0021】
ハッチコーミング43Bは、上部開口部15Bの側壁を形成し、例えば上甲板よりも上方に突出する。
【0022】
ハッチカバー40Bは、スライド式に移動してホールド10Bを開口させるカバー部材420Bを備える。カバー部材420Bは、ハッチカバー40Bの上面を形成する。カバー部材420Bは、ハッチカバーレール44B上をスライド式に移動可能である。具体的には、カバー部材420Bは、ホールド10Bを開口させる際、左側に移動する。尚、ハッチカバー40Bの移動を実現する駆動源の図示は省略されている。尚、カバー部材420Bは、ホールド10Bを開口させる際、右側に移動する構成であってもよい。
【0023】
図2においても、L1は、ホールド10Bの上部開口部15Bの左右方向の幅(開口幅)を表し、L2は、ホールド10Bの左右方向の最大幅を表す。鉱石専用船である船舶1Bは、
図1に示した船舶1Aとは異なり、ホールド10Bの左右方向の最大幅L2は小さく設計される。このため、船舶1Bは、
図1に示した船舶1Aよりも開口幅比が大きくなる。
[第1実施例]
次に、
図3を参照して、ハッチカバーの第1実施例について説明する。以下では、特に言及しない限り、
図1に示したハッチカバー40Aに関する実施例について説明する。但し、以下で説明する特徴的な構成(保持部50)は、
図2に示したハッチカバー40Bに設けることもできる。
【0024】
図3は、ハッチカバー40Aを上面視で概略的に示す図である。
図3において、前方向は船首方向に対応する。
図3においては、カバー部材421Aの図示は省略されている。カバー部材421Aの構成については、カバー部材422Aの構成と実質的に同じであり、船舶の中心線CLに関して左右対称である。
【0025】
カバー部材422Aには、可搬式クレーン70(
図5参照)を取り外し可能に保持する保持部50が設けられる。可搬式クレーン70は、例えば可搬式のダビッド(ポータブルダビッド)である。保持部50は、カバー部材422Aの移動方向を基準としたとき、カバー部材422Aにおける移動方向の後端側に設けられる。即ち、保持部50は、カバー部材422Aにおける左右方向の左側(カバー部材422Aが開口したときの状態において上部開口部15Aに近い側)に設けられる。
【0026】
図3には、可搬式クレーン70の旋回範囲がハッチングされた円形領域R1にて示されている。
図3に示す例では、保持部50は、前後方向に4つ設けられる。カバー部材422Aに設けられる保持部50の数は、カバー部材422Aの前後方向の長さ、及び可搬式クレーン70の旋回範囲R1に応じて決定されてよい。例えば、カバー部材422Aに設けられる保持部50の数は、それぞれの保持部50における可搬式クレーン70の旋回範囲R1の集合が、
図3に示すように、上部開口部15Aの前後方向の幅L3の全体をカバーするように決定される。
【0027】
図4は、保持部50の一例を示す図であり、
図3のラインA−Aに沿った断面図である。
図4においては、保持部50は、エクステンションソケット54及びフランジカバー56が分解された状態で示されている。
【0028】
保持部50は、可搬式クレーン70を取り外し可能に保持する。"取り外し可能"とは、破壊を伴わずに、取り外しできることを意味する。例えば、取り外し可能な保持は、後述のように、ボルトやピンを用いて実現できる。
【0029】
保持部50は、保持部材により形成され、具体的には、ベースソケット(第1ソケットの一例)52と、エクステンションソケット(第2ソケットの一例)54と、フランジカバー56とを含む。
【0030】
ベースソケット52は、
図4に示すように、カバー部材422Aの上面に固定される。例えば、ベースソケット52は、カバー部材422Aの上面に溶接される。ベースソケット52は、上側にフランジ521を有し、フランジ521には、締結穴522が設けられる。ベースソケット52には、水抜き穴524が形成される。
【0031】
エクステンションソケット54は、
図4に示すように、ベースソケット52の上部に設けられる。エクステンションソケット54は、下側にフランジ541を有し、フランジ541には、締結穴542が設けられる。エクステンションソケット54は、フランジ541をベースソケット52のフランジ521に合わせ、締結穴522及び542を通る締結具(例えばボルト)を用いてベースソケット52に対して固定できる。尚、ボルトを用いる場合、締結穴522及び542には雌ネジが形成されていてよく、或いは、フランジ521の下面には、締結穴522に対応してナットが溶接されていてもよい。また、締結穴522及び542を通るピンによってベースソケット52及びエクステンションソケット54が結合されてもよい。
【0032】
エクステンションソケット54の側面には、螺子穴544が形成される。螺子穴544には、雌ネジが形成され、雄ネジ(図示せず)を装着できる。雄ネジの先端が可搬式クレーン70を径方向内側に押すことで、保持部50による可搬式クレーン70の保持機能が高められる。
【0033】
フランジカバー56は、
図4にて矢印Q1で模式的に示すように、ベースソケット52の上部に設けられる。フランジカバー56は、締結穴562が設けられる。フランジカバー56は、エクステンションソケット54と同様、ベースソケット52のフランジ521に合わせ、締結穴522及び562を通る締結具(例えばボルト)を用いてベースソケット52に対して固定できる。
【0034】
ベースソケット52の上部には、フランジカバー56及びエクステンションソケット54のいずれか一方が選択的に設けられる。具体的には、エクステンションソケット54は、可搬式クレーン70を使用する際にベースソケット52の上部に設けられ、フランジカバー56は、可搬式クレーン70を使用しない間、ベースソケット52の上部に設けられる。
【0035】
このように
図4に示す保持部50によれば、可搬式クレーン70を使用しない間、ベースソケット52の上部にフランジカバー56を設けることができる。これにより、可搬式クレーン70を使用しない間の保持部50の高さを、所定の上限値以下にできる。所定の上限値は、例えばハッチカバー40Aをヘリデッキとして使用可能とするために満たされるべき要件(ヘリデッキ要件)から決まる上限値に対応する。これにより、保持部50を設ける場合でも、ハッチカバー40Aにヘリデッキを設けることができる。また、フランジカバー56を設けることで、ベースソケット52内部へのごみ等の侵入を防止できる。
【0036】
また、
図4に示す保持部50によれば、可搬式クレーン70を使用する際、ベースソケット52の上部にエクステンションソケット54を装着できる。これにより、可搬式クレーン70を使用する際の保持部50の高さを、所定の下限値以上にできる。所定の下限値は、可搬式クレーン70を保持するための必要な保持能力が確保されるように決定される。即ち、可搬式クレーン70を保持する保持能力を高めるためには、保持部50の高さ(ベースソケット52とエクステンションソケット54の長さの合計)を比較的高くする必要がある。この点、
図4に示す保持部50によれば、可搬式クレーン70を使用する際、ベースソケット52の上部にエクステンションソケット54を装着することで、必要な保持能力を確保できる。
【0037】
このようにして、
図4に示す保持部50によれば、保持部50の高さを可変とすることで、ハッチカバー40Aにヘリデッキを設けることを可能としつつ、可搬式クレーン70を保持するための必要な保持能力を確保できる。
【0038】
図5は、可搬式クレーン70の一例を概略的に示す図である。
【0039】
可搬式クレーン70は、可搬式である。"可搬式"とは、機械を用いずに人手で運ぶことができることを意味する。例えば、可搬式クレーン70は、全体として100kg程度である。この場合、可搬式クレーン70は、例えば複数の人で協動して運ぶことができる。但し、
図5に示す例では、後述のように可搬式クレーン70は、分割可能であるので、可搬性が良好である。
【0040】
可搬式クレーン70は、下部分割体(第1本体部の一例)71と、上部分割体(第2本体部の一例)74と、ウインチ76と、ワイヤロープ78と、フック79とを含む。
【0041】
下部分割体71は、棒状の形態であり、保持部50に保持される部位を形成する。可搬式クレーン70の使用時、下部分割体71の下部は、ベースソケット52及びエクステンションソケット54に挿入される。従って、下部分割体71の外径は、ベースソケット52及びエクステンションソケット54の内径よりも小さい。下部分割体71の上部には、上部分割体74の下部が取り外し可能に固定される。例えば、下部分割体71の上部及び上部分割体74の下部74aは、フランジ部72及び73をそれぞれ備え、ピンやボルト等により互いに対して固定できる。
【0042】
上部分割体74は、棒状の形態であり、下部分割体71に対して角度をなす方向に延在する部位を備える。
図5に示す例では、上部分割体74は、下部74aと、下部74aから屈曲して斜め上方に延在する腕部74bとを含む。腕部74bは、上下方向に延在する下部分割体71及び下部74aに対して、角度をなす方向(水平方向又は水平方向に対して斜め上方)に延在する。尚、腕部74bは、下部74aと一体に形成され、下部74aに対して可動でない。
【0043】
ウインチ76は、手動(例えばラチェットタイプ)であるが、電気モータにより駆動されてもよいし、圧縮空気によって駆動するエアモータにより駆動されてもよい。ウインチ76は、上部分割体74に取り外し可能に取り付けられてもよいし、上部分割体74に固定されてもよい。
【0044】
ワイヤロープ78は、ウインチ76により巻き取られ又は巻き出される。
【0045】
フック79は、ワイヤロープ78の先端に設けられる。可搬式クレーン70の使用時、フック79は、車輪付きポンプ90(ポンプ装置の一例)又はポンプ本体92単体(ポンプ装置の他の一例)を保持する。
【0046】
可搬式クレーン70は、車輪付きポンプ90又はポンプ本体92単体がフック79に保持された状態で、ウインチ76を作動させることで、ホールド10Aへの車輪付きポンプ90又はポンプ本体92単体の吊り下げ及び吊り上げを実現できる。
【0047】
図5に示す可搬式クレーン70は、ダビッド(簡易型のクレーンの一種)の形態であるので、例えばブームなどが可動なクレーンよりも重量が有意に小さく、可搬性が良好である。また、
図5に示す可搬式クレーン70は、下部分割体71と上部分割体74とを分離できるので、可搬性が更に良好である。即ち、作業者は、下部分割体71と上部分割体74とを分けて運ぶことができるので、重量の観点から可搬性が向上する。また、ウインチ76が取り外し可能である場合には、重量の観点から可搬性が更に向上する。また、
図5に示す可搬式クレーン70は、下部分割体71と上部分割体74とを分離できるので、収納し易くなる。
【0048】
図6は、車輪付きポンプ90の一例を概略的に示す図であり、(A)は、上面視を示し、(B)は、正面視を示し、(C)は、側面視を示す。
【0049】
車輪付きポンプ90は、ポンプ本体92と、2つの車輪94と、フレーム96とを含む。車輪付きポンプ90は、車輪94を備えることで走行が可能である。尚、車輪94の駆動源は、不要であり、例えば重力を利用した走行が実現される。
【0050】
ポンプ本体92は、例えば電動式の水中ポンプにより形成される。尚、
図6においては、ポンプ本体92に取り付けられるホースの図示が省略されている。ポンプ本体92には、好ましくは、制御ロープ100(後述)が取り付けられる穴部(図示せず)が設けられる。
【0051】
車輪94は、ポンプ本体92の両側にそれぞれ配置される。
【0052】
フレーム96は、ポンプ本体92を保持する。フレーム96は、複数のフレーム部材を結合することで形成されてよい。第1実施例では、一例として、ポンプ本体92は、フレーム96に対して取り外し可能に保持される。取り外し可能な保持は、ボルトやピンを用いて実現できる。また、フレーム96は、車輪94を回転可能に支持する。例えば、フレーム96は、車輪94をベアリング(図示せず)を介して回転可能に支持する。
【0053】
フレーム96の両端(車輪94よりも外側の端部)には、制御ロープ100(後述)が取り付けられる穴部98が形成される。
【0054】
尚、第1実施例では、上述のように、ポンプ本体92は、フレーム96に対して取り外し可能に保持される。即ち、ポンプ本体92は、フレーム96から取り外して単体で用いることもできる。以下では、フレーム96から取り外した状態のポンプ本体92を、「ポンプ本体92単体」とも称する。
【0055】
図7は、可搬式クレーン70の使用状態の一例を
図1に対応する断面視で概略的に示す説明図である。
【0056】
図7に示す例では、ホールド10Aには、鉱石(例えば鉄鉱石)Sが積載されており、鉱石Sから発生するビルジが溜まった個所がハッチング領域B1及びB2で示されている。以下、このようにしてビルジが溜まった個所を、"ビルジ溜まり"とも称する。尚、上述のように、鉱石Sが積まれたホールド10Aのビルジウェル(図示せず)は鉱石Sで閉塞される場合があり、航海中に鉱石Sから発生するビルジは、鉱石S上(ビルジ溜まりB2参照)若しくはホールドの隅部(ビルジ溜まりB1参照)に溜まる場合がある。
【0057】
図7に示す例では、カバー部材421A及び422Aには、それぞれ、可搬式クレーン70が保持部50(
図7では図示を省略)により保持されている。可搬式クレーン70は、
図7に示すように、
図3に示したようにカバー部材421A及び422Aに設けられる複数の保持部50のうちの任意の保持部50に挿入することで、保持部50により保持できる。基本的には、可搬式クレーン70は、カバー部材421A及び422Aに設けられる複数の保持部50のうちの、ビルジ溜まりの前後方向の位置に対応した保持部50に保持されるのが望ましい。
【0058】
カバー部材421Aに設置された可搬式クレーン70のフック79には、車輪付きポンプ90(
図6)が取り付けられる。車輪付きポンプ90は、可搬式クレーン70により吊下げられた状態で、自重及び走行によってビルジ溜まりB1内に導かれる。このとき、車輪付きポンプ90の位置の制御は、制御ロープ100(後述)により人手により実現されてよい(
図8参照)。
【0059】
カバー部材422Aに設置された可搬式クレーン70のフック79には、ポンプ本体92単体が取り付けられる。即ち、カバー部材422Aに設置された可搬式クレーン70のフック79には、車輪付きでないポンプ本体92のみが取り付けられる。ポンプ本体92単体は、可搬式クレーン70により吊下げられた状態で、自重によってビルジ溜まりB2内に導かれる。このとき、ポンプ本体92単体の位置の制御は、
図8に模式的に示すように、制御ロープ100により人手により実現されてよい。
図8に示す例では、2つの制御ロープ100が用いられ、2つの制御ロープ100を前後方向に引っ張る力を調整することで、ポンプ本体92単体の前後方向の位置を調整できる。尚、
図8に示す例では、カバー部材422Aには、安全ベルトを固定するためのグリップ60が設けられる。作業者は、グリップ60に一端を固定した安全ベルトを装着することで、制御ロープ100を用いた作業を安全に実現できる。
【0060】
このようにしてカバー部材421A及び422A、車輪付きポンプ90又はポンプ本体92単体、可搬式クレーン70及び保持部50は、ホールド10Aのビルジ(特にビルジ溜まり内のビルジ)を排出するビルジ排出装置を形成できる。具体的には、保持部50に可搬式クレーン70を保持させ、カバー部材421A及び422Aを開口し、可搬式クレーン70で車輪付きポンプ90又はポンプ本体92単体を吊下げて所望のビルジ溜まりに導き、車輪付きポンプ90又はポンプ本体92単体を作動させることで、ビルジの排出を実現できる。この場合、ビルジは、車輪付きポンプ90又はポンプ本体92単体からのホース99(
図8参照)を介して上部開口部15Aよりも上方に吸い上げられ、ホールド10A外へと排出できる。
【0061】
ここで、車輪付きポンプ90及びポンプ本体92単体のいずれを用いるかは、ビルジ溜まりの位置に応じて決定できる。例えば、車輪付きポンプ90は、
図7に示すビルジ溜まりB1のような、可搬式クレーン70の上部分割体74の先端位置(腕部74bの先端位置)の直下に対して左右方向の外側に位置するビルジ溜まりのビルジを排出するために有効に利用できる。これは、車輪付きポンプ90は、車輪94を備えるが故に、かかる位置にあるビルジ溜まりにも容易に導くことができるためである。この効果は、特に上述した開口幅比が比較的小さくなる船舶1Aのようなばら積み船において特に顕著となる。これは、開口幅比が小さいほど、左右方向の隅に形成されるビルジ溜まりへのアクセスが困難となるためである。他方、ポンプ本体92単体は、車輪94が無い分だけ、車輪付きポンプ90のポンプ本体92よりもビルジ溜まりの底部近くに吸入口を位置させることができる。従って、ポンプ本体92単体は、車輪付きポンプ90のポンプ本体92よりもビルジ溜まりから吸い上げることができるビルジの量を増大できる。従って、ポンプ本体92単体は、例えば、可搬式クレーン70の上部分割体74の先端位置の直下に位置するビルジ溜まりのビルジを排出するために有効に利用できる。
【0062】
尚、上述のビルジ排出装置の構成要素のうちの、車輪付きポンプ90又はポンプ本体92単体、可搬式クレーン70、及び保持部50の各構成要素は、ビルジ排出用部品(キット)として、既存の船舶1Aにも使用できる。このとき、保持部50の各構成要素のうちの、ベースソケット52は、上述のようにカバー部材421A及び422Aに溶接して使用できる。エクステンションソケット54は、必ずしもベースソケット52と同一の数必要ではなく、可搬式クレーン70の数(及び予備分)だけ用意されればよい。
【0063】
次に、ビルジ排出装置を用いたビルジ排出作業の例について説明する。
【0064】
図9は、ビルジ排出装置を用いたビルジ排出作業の一例を概略的に示すフローチャートである。
【0065】
ビルジ排出作業は、着岸後の荷役作業に先立って行われる。例えば、ビルジ排出作業は、着岸後に実行されてもよいが、ターミナルの荷役順の待機中(例えば、アンカリング中若しくは近海でのドリフティング中)に実行することもできる。ターミナルの荷役順の待機中に実行する場合には、着岸後に荷役作業を、より早く開始できる。尚、ビルジ排出作業を着岸前に実行する場合、車輪付きポンプ90又はポンプ本体92単体、及び可搬式クレーン70は、例えば、船舶内に常備される。
【0066】
ステップS900では、作業者は、ハッチカバー40Aを開口させて、排出対象となるビルジ溜まりを目視により特定する。
【0067】
ステップS902では、作業者は、特定した各ビルジ溜まりからビルジを排出する際のハッチカバー40Aの各開度を決定する。ハッチカバー40Aの開度は、ハッチカバー40Aのカバー部材421A及び422Aの開口側端部の直下にビルジ溜まりが位置するように決定される。この決定は、ハッチカバー40Aの開度を調整しながら実現されてもよい。
【0068】
ステップS904では、作業者は、特定した各ビルジ溜まりからビルジを排出する際の可搬式クレーン70の各設置位置を決定する。可搬式クレーン70の設置位置を決定することは、カバー部材421A及び422Aのいずれのカバー部材に設置するか、及び、複数の保持部50のうちのどの保持部50に設置するかを決定することを含む。また、可搬式クレーン70の設置位置を決定することは、更に、可搬式クレーン70の向き(旋回位置)を決定することを含んでよい。この際、作業者は、ビルジ溜まりの前後方向の位置に対応する前後方向の位置から車輪付きポンプ90又はポンプ本体92単体を降下できるような可搬式クレーン70の設置位置を決定する。
【0069】
ステップS906では、作業者は、ビルジ溜まり毎に、ステップS902の決定したハッチカバー40Aの開度を実現し、且つ、ステップS904の決定した保持部50に可搬式クレーン70を保持させる。この際、作業者は、車輪付きポンプ90又はポンプ本体92単体を装着した可搬式クレーン70を、保持部50に保持させる。尚、この作業(及び、それに伴い、ステップS908及びステップS910の各作業)は、可能な場合は、2つ以上のビルジ溜まりに対して並列的に実行されてもよい。
【0070】
ステップS908では、作業者は、ビルジ溜まり毎に、可搬式クレーン70のウインチ76を操作して車輪付きポンプ90又はポンプ本体92単体を下降させ、ビルジ溜まりに浸水させる。この際、別の作業者は、制御ロープ100を操作して、車輪付きポンプ90又はポンプ本体92単体の前後方向の位置を調整する(
図8参照)。
【0071】
ステップS910では、作業者は、ビルジ溜まり毎に、車輪付きポンプ90のポンプ本体92、又はポンプ本体92単体を作動させてビルジを吸い上げる(即ちビルジを排出する)。
【0072】
このようにして
図9に示すビルジ排出作業によれば、ハッチカバー40Aの開度及び可搬式クレーン70の設置位置(保持部50)を変化させることで、任意の個所に形成されうるビルジ溜まりに対しても、効率的なビルジ排出を実現できる。また、上述のように、必要に応じて車輪付きポンプ90を用いることで、ホールド10Aの左右方向の隅に形成されるビルジ溜まりに対してもビルジ排出を実現できる。
【0073】
ところで、上述のように、航海中は、基本的に、貨物が積まれた状態のホールド10Aへの乗組員の進入は禁止されている。従って、航海中に溜まるビルジの排出は、着岸後、荷役作業に先立って行われるのが通常となる。
【0074】
これに対して、第1実施例によれば、上述のように、貨物が積まれた状態のホールド10Aへの乗組員の進入を必要とすることなく、着岸前においてもビルジ排出を実現できる。このようにして着岸前にビルジ排出を実現する場合には、着岸後に荷役作業をより早く開始でき、着岸後における荷役効率を高めることができる。
[第2実施例]
次に、
図10を参照して、保持部を備えるハッチカバーの他の実施例(以下、「第2実施例」と称する)について説明する。以下で説明する第2実施例によるハッチカバー40Cは、上述したハッチカバー40Aに対して、保持部50の数及び保持部50の支持構造が異なる。ハッチカバー40Cにおいてハッチカバー40Aと同一である構成については、同一の参照符号を付して説明を省略する。同様に、以下で説明する特徴的な構成(保持部50及びレール30等)は、
図2に示したハッチカバー40Bに設けることもできる。
【0075】
図10は、ハッチカバー40Cを上面視で概略的に示す図である。
【0076】
ハッチカバー40Cのカバー部材422Aには、可搬式クレーン70を取り外し可能に保持する保持部50が設けられる。保持部50は、
図10にて模式的に示すように、レール30によりスライド可能に支持される。即ち、保持部50は、レール30に沿って前後方向に移動できる態様でレール30に支持される。
【0077】
レール30は、ハッチカバー40Cのカバー部材422Aの上面に固定される。レール30は、前後方向に沿って延在し、例えば
図10に示すように、前後方向でカバー部材422Aの全体にわたって設けられる。レール30は、カバー部材422Aにおける移動方向の後端側に設けられる。即ち、レール30は、カバー部材422Aにおける左右方向の左側(カバー部材422Aが開口したときの状態において上部開口部15Aに近い側)に設けられる。
【0078】
図11は、
図10のラインB−Bに沿った断面を概略的に示す断面図である。尚、
図11に示す保持部50自体の構成は、
図4に示した保持部50と同一であるので、同一の参照符号を付して説明を省略する。
【0079】
土台部34及びレール30は、直動ガイド機構を形成する。レール30は、カバー部材422Aに溶接等により固定される。保持部50のベースソケット52は、土台部34にボルトや溶接等により固定される。土台部34は、ベアリング機構としてのボール32を介して接触される。即ち、土台部34は、レール30に対して前後方向に移動できる。これにより、ベースソケット52は、レール30に沿って前後方向に移動できる態様でレール30に支持される。
【0080】
第2実施例によれば、上述した第1実施例と同様の効果が得られる。特に、第2実施例のハッチカバー40Cによれば、1つのカバー部材422Aに対して保持部50を1つ設けるだけでよくなる。即ち、保持部50をレール30に沿って任意の位置に移動できるので、可搬式クレーン70の設置位置をレール30に沿った任意の位置に設定できる。これにより、上述した第1実施例と同様、任意の個所に形成されうるビルジ溜まりに対しても、効率的なビルジ排出を実現できる。
【0081】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0082】
例えば、
図4及び
図11に示す例では、保持部50は、ベースソケット52、エクステンションソケット54、及びフランジカバー56を含むが、フランジカバー56は省略されてもよい。また、ベースソケット52の高さを高くすることで、エクステンションソケット54を省略することも可能である。
【0083】
また、
図4に示す例において、保持部50のベースソケット52は、ハッチカバー40Aに形成される凹部、又は該凹部に埋め込まれるソケットにより実現されてもよい。また、
図4に示す例では、保持部50は、ハッチカバー40Aに後付けにより固定されているが、ハッチカバー40Aと一体的に形成されてもよい。
【0084】
また、
図4に示す例では、保持部50のベースソケット52は、カバー部材422Aに溶接により固定されるが、保持部50は、カバー部材422Aにボルト等により固定されてもよい。この場合、保持部50は、エクステンションソケット54のみを含み、エクステンションソケット54がカバー部材422Aに設けられる締結穴(締結穴522に対応する締結穴)に締結されてもよい。
【0085】
また、
図4及び
図11に示す例では、保持部50は、可搬式クレーン70を旋回可能に保持するが、可搬式クレーン70自体が旋回可能に形成されてもよい。例えば、可搬式クレーン70は、上部分割体74が下部分割体71に対して旋回可能に形成されてもよい。
【0086】
また、
図4及び
図11に示す例では、保持部50は、可搬式クレーン70の下部分割体71の下部の外径よりも大きい内径を有し、保持部50に可搬式クレーン70の下部分割体71の下部が挿入される。しかしながら、保持部50と可搬式クレーン70の下部分割体71との結合(取り外し可能な結合)態様は任意である。例えば、可搬式クレーン70の下部分割体71の下部は、中空に形成され、該中空の内径が、保持部50の外径よりも大きく設定されてもよい。この場合、可搬式クレーン70の下部分割体71の下部に保持部50を挿入することで、保持部50により可搬式クレーン70を保持できる。また、可搬式クレーン70の下部分割体71は、保持部を形成する部材にボルトなどの締結具により固定されてもよい。
【0087】
また、
図6に示す例では、車輪付きポンプ90は、ポンプ本体92がフレーム96から取り外し可能な構成であるが、フレーム96から車輪94を取り外し可能な構成であってもよい。この場合、上述した説明において、「ポンプ本体92単体」は、「ポンプ本体92及びフレーム96(車輪付きポンプ90から車輪94を取り外した状態)」と読み替えればよい。また、
図6に示す例では、車輪付きポンプ90は、ポンプ本体92がフレーム96から取り外し可能な構成であるが、ポンプ本体92がフレーム96から取り外し不能であってもよい。この場合、車輪付きポンプ90とは別に、ポンプ本体92を用意し、これらを使い分けてもよい。
【0088】
また、上述した第1及び第2実施例では、車輪付きポンプ90は、車輪94を備えるが、車輪94に代えて、スキッド(そり)などが用いられもよい。この場合、スキッドは、例えば、フレームによりポンプ本体92よりも下方で支持される。これにより、スキッドの下面が鉱石等の貨物上を滑ること(重力を利用した走行)が可能なポンプ装置を実現できる。
【0089】
また、上述した第1及び第2実施例では、車輪94の駆動源を備えない車輪付きポンプ90が用いられるが、これに限られない。例えば、車輪付きポンプ90は、車輪94が駆動源(例えば電気モータ)により駆動されるポンプ装置で置換されてもよい。
【0090】
また、上述した第1及び第2実施例では、エクステンションソケット54の側面には、螺子穴544が形成されるが、螺子穴544は省略されてもよい。