(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195599
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】冷却装置
(51)【国際特許分類】
C21D 1/18 20060101AFI20170904BHJP
C21D 1/667 20060101ALI20170904BHJP
C21D 9/40 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
C21D1/18 F
C21D1/18 R
C21D1/667
C21D9/40 B
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-207860(P2015-207860)
(22)【出願日】2015年10月22日
(65)【公開番号】特開2017-78217(P2017-78217A)
(43)【公開日】2017年4月27日
【審査請求日】2015年10月22日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211123
【氏名又は名称】中外炉工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087572
【弁理士】
【氏名又は名称】松川 克明
(72)【発明者】
【氏名】田村 長之
(72)【発明者】
【氏名】竹中 啓太
(72)【発明者】
【氏名】志村 英輝
【審査官】
田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第4769092(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0248023(US,A1)
【文献】
特開平09−176727(JP,A)
【文献】
特開2013−019023(JP,A)
【文献】
特開2001−098319(JP,A)
【文献】
特表2001−509547(JP,A)
【文献】
特公昭40−005488(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/18、 1/667
C21D 9/00− 9/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物の外周側に設けた外周側冷却ノズルから冷却液を被処理物の外周部に吹き付けて、被処理物を冷却させる冷却装置において、前記の被処理物として、中央部が開口されて環状になった被処理物を用い、この被処理物の内周部に冷却液を吹き付ける内周側冷却ノズルを設け、前記の外周側冷却ノズルを被処理物の外周部に沿って周方向に移動させながら冷却液を被処理物の外周部に吹き付けるにあたり、被処理物に吹き付ける冷却液の吹付け速度に強弱をつける手段を設けると共に、前記の内周側冷却ノズルを前記の被処理物の内周部に沿って周方向に移動させながら冷却液を被処理物の内周部に吹き付けるようにし、前記の外周側冷却ノズルに冷却液を導く外側冷却液供給管の内周側に、内周側冷却ノズルに冷却液を導く内側冷却液供給管を設け、前記の外側冷却液供給管の下端における分岐基部から外周側冷却ノズルに対応するようにして複数の案内管を放射方向に突出させ、各案内管と各外周側冷却ノズルとをそれぞれ連結管によって連結させると共に、前記の分岐基部の下に設けられた保持部材から外周側冷却ノズルに対応する複数の保持部を放射方向に突出させ、各外周側冷却ノズルをそれぞれ対応する保持部に取付部材を介して取り付けると共に、前記の内側冷却液供給管を、前記の保持部材を挿通させて保持部材の下方に延出させ、この内側冷却液供給管の下端における分岐基部から前記の各内周側冷却ノズルを放射方向に突出させたことを特徴とする冷却装置。
【請求項2】
請求項1に記載の冷却装置において、前記の各案内管と各外周側冷却ノズルとを連結させる可撓性の連結管を用いると共に、前記の各外周側冷却ノズルをそれぞれ対応する保持部に取付部材を介して放射方向に移動可能に取り付け、各外周側冷却ノズルの位置を放射方向に移動可能にしたことを特徴とする冷却装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の冷却装置において、前記の内周側冷却ノズルから被処理物の内周部に吹き付ける冷却液の吹付け速度に強弱をつける手段を設けたことを特徴とする冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物の外周側に設けた外周側冷却ノズルから冷却液を被処理物の外周部に吹き付けて、被処理物を冷却させるようにした冷却装置に関するものである。特に、外周側冷却ノズルから冷却液を被処理物の外周部に吹き付けるにあたり、冷却させる被処理物に温度むらが生じるのを抑制して、冷却時に被処理物に歪が生じるのを防止すると共に、被処理物に冷却液が適切に吹き付けられて、被処理物が十分に冷却されるようにした点に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、被処理物に対して焼入れ等の熱処理を行うにあたっては、加熱された被処理物を冷却させることが行われている。
【0003】
そして、このように加熱された被処理物を冷却させるにあたり、特許文献1においては、スリーブからなる被処理物を焼入れ液中に浸漬させると共に、この被処理物を周方向に回転させながら、この被処理物の外周部と内周部とに第1及び第2ジャケットから焼入れ液を噴射させるようにしたものが示されている。
【0004】
しかし、このように被処理物を焼入れ液中に浸漬させた状態で、被処理物を周方向に回転させる場合、被処理物を回転させる抵抗が大きくなって、大きな動力が必要になると共に装置も大型化し、また焼入れ液の交換等の各種のコストが高く付き、さらに被処理物を周方向に回転させる際に、被処理物が偏心して回転し、冷却される被処理物に温度むら等が生じて、冷却された被処理物に歪みが発生する等の問題があった。
【0005】
また、特許文献2においては、ピンからなる被処理物を回転機構により周方向に回転させながら、この被処理物の周囲に一定間隔を介して配置された複数の冷却用ノズルから冷却水等の冷却媒体を被処理物の外周部に噴射させるようにしたものが示されている。
【0006】
また、特許文献3においては、リングからなる被処理物を下型と上型とに保持させた状態で回転させると共に、被処理物の外周側及び内周側における各ノズルから冷却水と空気の混合物を被処理物の外周部と内周部とにスプレーさせるようにしたものが示されている。
【0007】
しかし、特許文献2,3に示されるものにおいても、被処理物を周方向に回転させながら、冷却媒体をこの被処理物の外周部や内周部に噴射させて被処理物を冷却させるため、特許文献1のものと同様に、被処理物を周方向に回転させる際に、被処理物が偏心して回転し、冷却される被処理物に温度むら等が生じて、冷却された被処理物に歪みが発生する等の問題があった。さらに、特許文献2,3に示されるものにおいては、被処理物を周方向に回転させるため、回転する被処理物の周囲に気流が発生し、この気流により被処理物に吹き付けられる冷却媒体が飛散されるようになり、特にギアのように周面に凹凸が形成された被処理物の場合には、被処理物の周面において飛散される冷却媒体の量が多くなって、ギアの歯の谷部のような周面における凹部に冷却媒体が当たりにくくなり、凹凸被処理物を十分に冷却させることが困難になるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−224327号公報
【特許文献2】特開平11−50137号公報
【特許文献3】特表2001−509547号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、加熱された被処理物を冷却させる場合における前記のような問題を解決することを課題とするものである。
【0010】
特に、被処理物の外周側に設けた外周側冷却ノズルから被処理物の外周部に冷却液を吹き付けて、被処理物を冷却させるにあたり、冷却される被処理物に温度むら等が生じるのを抑制して、冷却された被処理物に歪が生じるのを防止すると共に、被処理物の外周部に冷却液が適切に吹き付けられて、被処理物を十分に冷却させることができるようにすることを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る冷却装置においては、前記のような課題を解決するため、被処理物の外周側に設けた外周側冷却ノズルから冷却液を被処理物の外周部に吹き付けて、被処理物を冷却させる冷却装置において、
前記の被処理物として、中央部が開口されて環状になった被処理物を用い、この被処理物の内周部に冷却液を吹き付ける内周側冷却ノズルを設け、前記の外周側冷却ノズルを被処理物の外周部に沿って周方向に移動させながら冷却液を被処理物の外周部に吹き付けるにあたり、被処理物に吹き付ける冷却液の吹付け速度に強弱をつける手段を設け
ると共に、前記の内周側冷却ノズルを前記の被処理物の内周部に沿って周方向に移動させながら冷却液を被処理物の内周部に吹き付けるようにし、前記の外周側冷却ノズルに冷却液を導く外側冷却液供給管の内周側に、内周側冷却ノズルに冷却液を導く内側冷却液供給管を設け、前記の外側冷却液供給管の下端における分岐基部から外周側冷却ノズルに対応するようにして複数の案内管を放射方向に突出させ、各案内管と各外周側冷却ノズルとをそれぞれ連結管によって連結させると共に、前記の分岐基部の下に設けられた保持部材から外周側冷却ノズルに対応する複数の保持部を放射方向に突出させ、各外周側冷却ノズルをそれぞれ対応する保持部に取付部材を介して取り付けると共に、前記の内側冷却液供給管を、前記の保持部材を挿通させて保持部材の下方に延出させ、この内側冷却液供給管の下端における分岐基部から前記の各内周側冷却ノズルを放射方向に突出させるようにした。
【0012】
また、前記の冷却装置において、
前記の各案内管と各外周側冷却ノズルとを連結させる可撓性の連結管を用いると共に、前記の各外周側冷却ノズルをそれぞれ対応する保持部に取付部材を介して放射方向に移動可能に取り付け、各外周側冷却ノズルの位置を放射方向に移動可能にすることができる。
【0013】
また、前記のように
内周側冷却ノズルから被処理物
の内周部に冷却液を吹き付けるにあたっては、被処理物
の内周部に吹き付ける冷却液の吹付け速度に強弱をつける
ように変化させる手段を設けることもできる。
【0014】
なお、本発明に係る冷却装置において、前記の外周側冷却ノズルや内周側冷却ノズルの本数は特に限定されず、
複数本設けるようにすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明における冷却装置においては、外周側冷却ノズルを被処理物の外周部に沿って周方向に移動させながら冷却液を被処理物の外周部に吹き付けるようにしたため、被処理物を周方向に回転させながら、冷却液を被処理物の外周部や内周部に吹き付ける場合のように、被処理物が偏心して回転して、冷却される被処理物に温度むら等が生じて、冷却された被処理物に歪みが発生するのが防止されると共に、回転する被処理物の周囲に発生する気流によって被処理物に吹き付けられた冷却液が飛散されるということもなく、被処理物を十分に冷却させることができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態に係る冷却装置において、リング状の被処理物の外周側に設けた外周側冷却ノズルと、内周側に設けた内周側冷却ノズルとを被処理物の周方向に移動させながら、これらの冷却ノズルから冷却液を被処理物の外周部と内周部とに吹き付ける状態を示した概略底面図である。
【
図2】前記の実施形態に係る冷却装置を示した概略正面図である。
【
図3】前記の実施形態に係る冷却装置を示した概略平面図である。
【
図4】前記の実施形態に係る冷却装置を示した概略部分断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態に係る冷却装置を添付図面に基づいて具体的に説明する。なお、本発明に係る冷却装置は下記の実施形態に示したものに限定されず、発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更して実施できるものである。
【0018】
この実施形態に係る冷却装置10においては、
図1に示すように、リング状になった被処理物1を冷却させるにあたり、この被処理物1の外周部1aに冷却液2を吹き付ける外周側冷却ノズル11を、被処理物1の外周側においてその周方向に所要間隔を介するようにして複数(図に示す例では4つ)設けると共に、被処理物1の内周部1bに冷却液2を吹き付ける内周側冷却ノズル12を、被処理物1の内周側においてその周方向に所要間隔を介するようにして複数(図に示す例では4つ)設けている。なお、被処理物1の外周側に設ける外周側冷却ノズル11や、被処理物1の内周側に設ける内周側冷却ノズル12の数は、特に図に示す4つに限定されず、さらに多くしたり、少なくしたりすることができる。
【0019】
そして、この実施形態に係る冷却装置10においては、前記の各外周側冷却ノズル11と各内周側冷却ノズル12とを、被処理物1の周方向に沿って所定の速度で回転移動させながら、前記の各外周側冷却ノズル11から冷却液2を被処理物1の外周部1aに吹き付けると共に、前記の各内周側冷却ノズル12から冷却液2を被処理物1の内周部1bに吹き付けて、被処理物1をその外周側と内周側との両側から冷却させるようにしている。なお、前記のように外周側冷却ノズル11と内周側冷却ノズル12とを、被処理物1の周方向に沿って回転移動させるにあたっては、常に一定の速度で回転移動させる場合に限られず、冷却を行う途中で速度を変更させたり、周期的に速度を変更させたりすることもできる。
【0020】
そして、前記の各外周側冷却ノズル11と各内周側冷却ノズル12とを、被処理物1の周方向に沿って所定の速度で回転移動させながら、前記の各外周側冷却ノズル11から冷却液2を被処理物1の外周部1aに吹き付けると共に、前記の各内周側冷却ノズル12から冷却液2を被処理物1の内周部1bに吹き付けるようにした場合、被処理物1を周方向に回転させる場合のように、被処理物1が偏心して回転し、冷却される被処理物1に温度むら等が生じるのが防止されると共に、回転する被処理物1の周囲に発生する気流によって被処理物1に吹き付けられる冷却液2が飛散されるということもなく、被処理物1を十分に冷却させることができるようになる。
【0021】
次に、前記の実施形態に係る冷却装置10において、前記の各外周側冷却ノズル11と各内周側冷却ノズル12とに冷却液2を供給させると共に、各外周側冷却ノズル11と各内周側冷却ノズル12とを被処理物1の周方向に沿って回転移動させる場合について説明する。
【0022】
ここで、この実施形態における冷却装置10においては、
図2〜
図4に示すように、前記の外周側冷却ノズル11に冷却液2を導く外側冷却液供給管13の内周側に、内周側冷却ノズル12に冷却液2を導く内側冷却液供給管14を設けている。
【0023】
そして、前記の外側冷却液供給管13の下端における分岐基部13aから周方向に所要間隔を介するようにして、外周側冷却ノズル11に対応する複数(図に示す例では4つ)の案内管15を放射方向に突出させ、各案内管15と前記の各外周側冷却ノズル11とを、それぞれゴムチューブや金属性フレキシブルチューブ等の可撓性の連結管16によって連結させると共に、前記の分岐基部13aの下に設けられた保持部材17から外周側冷却ノズル11に対応する複数(図に示す例では4つ)の保持部17aを放射方向に突出させ、前記の各外周側冷却ノズル11をそれぞれ対応する保持部17aに取付部材18を介して放射方向に移動可能に取り付けている。
【0024】
ここで、前記の取付部材18は、保持部17aに対して前後に移動させて固定位置を変更できるようになっており、被処理物1のサイズに応じて固定位置を変更させるようにしている。
【0025】
また、外側冷却液供給管13の内周側に設けた前記の内側冷却液供給管14を、前記の保持部材17を挿通させて保持部材17の下方に延出させ、この内側冷却液供給管14の下端における分岐基部14aから前記の各内周側冷却ノズル12を放射方向に突出させるようにしている。
【0026】
そして、この実施形態における冷却装置10においては、前記の外側冷却液供給管13と内側冷却液供給管14とを回転装置(図示せず)により回転させて、前記の外周側冷却ノズル11と内周側冷却ノズル12とを被処理物1の周方向に沿って回転移動させると共に、前記の外側冷却液供給管13と内側冷却液供給管14とを通して冷却液2を前記の各外周側冷却ノズル11と各内周側冷却ノズル12とに供給し、前記のように外周側冷却ノズル11と内周側冷却ノズル12とを被処理物1の周方向に沿って所定の速度で回転移動させながら、各外周側冷却ノズル11と各内周側冷却ノズル12とから冷却液2を被処理物1の外周部1aと内周部1bとに吹き付けて、被処理物1をその外周側と内周側との両側から冷却させるようにしている。
【0027】
ここで、前記のように外周側冷却ノズル11と内周側冷却ノズル12とを被処理物1の周方向に沿って回転移動させるにあたり、外周側冷却ノズル11と内周側冷却ノズル12とを被処理物1の周方向に沿って回転移動させる速度や回転移動させる方向は特に限定されず、外周側冷却ノズル11と内周側冷却ノズル12とを被処理物1の周方向に沿って回転移動させる速度を同じにしても異ならせてもよく、さらに外周側冷却ノズル11と内周側冷却ノズル12とを被処理物1の周方向に沿って回転移動させる方向を同じにしても異ならせてもよい。
【0028】
また、前記のように各外周側冷却ノズル11と各内周側冷却ノズル12とから冷却液2を被処理物1の外周部1aと内周部1bとに吹き付けるにあたっては、各外周側冷却ノズル11と各内周側冷却ノズル12とから吹き付ける冷却液2の吹付け速度を常に一定にする他、各外周側冷却ノズル11と各内周側冷却ノズル12とから吹き付ける冷却液2の吹付け速度を適当なタイミングで強弱を持たせるように変化させ、被処理物1の外周部1aや内周部1bにおいて冷却液2が膜沸騰する位置と核沸騰する位置とをほぼ定位置に定めたり、ランダムに変更させたりすることにより、被処理物1の外周部1aや内周部1bを冷却させる状態を制御することもできる。
【符号の説明】
【0030】
1 :被処理物
1a :外周部
1b :内周部
2 :冷却液
10 :冷却装置
11 :外周側冷却ノズル
12 :内周側冷却ノズル
13 :外側冷却液供給管
13a :分岐基部
14 :内側冷却液供給管
14a :分岐基部
15 :案内管
16 :連結管
17 :保持部材
17a :保持部
18 :取付部材