特許第6195612号(P6195612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6195612車両の駆動部用の電気エネルギー貯蔵システムを検査する方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195612
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】車両の駆動部用の電気エネルギー貯蔵システムを検査する方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/00 20060101AFI20170904BHJP
   B60L 3/00 20060101ALI20170904BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20170904BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20170904BHJP
   G01R 31/36 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   G01R31/00
   B60L3/00 S
   H01M10/48 P
   H02J7/00 Q
   G01R31/36 A
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-513205(P2015-513205)
(86)(22)【出願日】2013年5月24日
(65)【公表番号】特表2015-525339(P2015-525339A)
(43)【公表日】2015年9月3日
(86)【国際出願番号】EP2013060725
(87)【国際公開番号】WO2013174972
(87)【国際公開日】20131128
【審査請求日】2014年12月24日
(31)【優先権主張番号】A50201/2012
(32)【優先日】2012年5月24日
(33)【優先権主張国】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】398055255
【氏名又は名称】アー・ファウ・エル・リスト・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100173521
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 淳司
(74)【代理人】
【識別番号】100153419
【弁理士】
【氏名又は名称】清田 栄章
(72)【発明者】
【氏名】ケーニヒ・オーリヴァー
(72)【発明者】
【氏名】ヤクベク・シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】プロシャート・ギュンター
(72)【発明者】
【氏名】グシュヴァイトル・クルト
【審査官】 山崎 仁之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−144355(JP,A)
【文献】 特開2011−053215(JP,A)
【文献】 特開2010−151592(JP,A)
【文献】 特開2003−217683(JP,A)
【文献】 特開平10−232273(JP,A)
【文献】 特開2007−292778(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0054816(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0184307(US,A1)
【文献】 Oliver K¨onig and Stefan Jakubek,”Model Predictive Control of a Battery Emulator for Testing of Hybrid and Electric Powertrains”,Proc. IEEE VPPC 2011,米国,IEEE,2011年 9月 6日,p.1-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/00
B60L 3/00
G01R 31/36
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の駆動部用の電気エネルギー貯蔵システムを検査する方法であって、この検査は、所定の試験サイクルにより時間的に変化する基準電流に追従する負荷電流が、バッテリテスタにより作り出されて、このエネルギー貯蔵システムに印加され、制御系としてバッテリテスタのモデルとコントローラを有する制御系を用いて、負荷電流が基準電流に出来る限り正確にかつ遅延時間無しに追従するように行なわれる方法において、
この制御系のコントローラが、モデルベースのコントローラ設計方法を用いて、このバッテリテスタのモデルに基づき作成され、このバッテリテスタのモデルには、エネルギー貯蔵システムのモデルが負荷モデルとして組み込まれており
この負荷モデルは、電気エネルギー貯蔵システムが負荷としてバッテリテスタと接続され、負荷モデルの無い仮のコントローラを用いて、バッテリテスタにより、励起シーケンスが電気エネルギー貯蔵システムに印加され、電気エネルギー貯蔵システムにおいて測定データが記録され、これらの測定データを用いて、特定方法により負荷モデルが特定されることにより算出されて、この特定された負荷モデルがバッテリテスタのモデルに組み込まれる
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
負荷モデルとしてのバッテリインピーダンスの特有のモデルに関するパラメータを少なくとも一つの短い励起シーケンスとその結果得られた電流値及び電圧値の測定により特定し、それにより負荷モデルを特定することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
負荷モデルとして、バッテリの動作点に依存するバッテリインピーダンスのモデルを使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
負荷モデルとして、バッテリの充電状態に依存するバッテリインピーダンスのモデルを使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
負荷モデルとして、バッテリの老朽化に依存するバッテリインピーダンスのモデルを使用することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
バッテリインピーダンスのモデルとして、2次以上の伝達関数が使用されることを特徴とする請求項3から5までのいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
車両の駆動部用の電気エネルギー貯蔵システムを検査する装置であって、この検査は、バッテリテスタが所定の試験サイクルにより時間的に変化する基準電流に追従する負荷電流を作り出して、このエネルギー貯蔵システムに印加し、制御系としてバッテリテスタのモデルとコントローラを有する制御系が、負荷電流基準電流に出来る限り正確にかつ遅延時間無しに追従させる装置において、
この制御系のコントローラでは、モデルベースの制御が実現されており、このコントローラは、エネルギー貯蔵システムのモデルが負荷モデルとして組み込まれた、このバッテリテスタのモデルに基づき作成され
この負荷モデルは、電気エネルギー貯蔵システムが負荷としてバッテリテスタと接続され、負荷モデルの無い仮のコントローラを用いて、バッテリテスタにより、励起シーケンスが電気エネルギー貯蔵システムに印加され、電気エネルギー貯蔵システムにおいて測定データが記録され、これらの測定データを用いて、特定方法により負荷モデルが特定されることにより算出されて、バッテリテスタのモデルに組み込まれている、
ことを特徴とする装置。
【請求項8】
コントローラ設計のために、バッテリの動作点に依存するバッテリインピーダンスのモデルが負荷モデルとしてバッテリテスタのモデルに組み込まれていることを特徴とする請求項に記載の装置。
【請求項9】
コントローラ設計のために、バッテリの充電状態に依存するバッテリインピーダンスのモデルが負荷モデルとしてバッテリテスタのモデルに組み込まれていることを特徴とする請求項に記載の装置。
【請求項10】
コントローラ設計のために、バッテリの老朽化に依存するバッテリインピーダンスのモデルが負荷モデルとしてバッテリテスタのモデルに組み込まれていることを特徴とする請求項に記載の装置。
【請求項11】
負荷モデルとしてのバッテリインピーダンスのモデルが2次以上の伝達関数として表されていることを特徴とする請求項から10までのいずれか一つに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、実際の負荷電流がバッテリテスタ内の電流制御中に出来る限り正確にかつ遅延時間無しに時間的に変化する基準電流に追従するようにする方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車両又は完全に電気で動作する車両を試験する場合、牽引用バッテリの検査が特に重要である。その場合、試験電流は、一時的に大きく変動する所定の試験サイクルに出来る限り正確にかつ遅延無しに追従すべきである。それは、モデルベースのコントローラ設計方法により設計された、それに対応する制御系によって実現することができる。
【0003】
その場合、電流制御は、検査対象物によって出来る限り影響されないようにすべきである。しかし、検査対象物の逆電圧は、印加される電流、即ち、制御量に大きく依存するので、印加される電流は制御系の動特性に決定的な影響を与える。その影響を軽減するために、複数の手法が有る。一方では、出力インピーダンスが出来る限り大きくなるように、パワーエレクトロニクス機器の設計を行なうことができる。しかし、そのためには大きなインダクタンスを必要とするので、そのことは、実現可能な制御帯域幅を低下させるとともに、材料コストを増大させ、所要スペースを大きくすることとなる。外乱量フィードフォワード方法の場合、検査対象物の測定した逆電圧は、外乱量として解釈され、その外乱を補正するために使用されている。しかし、それは、外乱量が制御量に依存しないことを出発点としている。しかし、実際には、バッテリインピーダンスが有限であるために、バッテリの端子電圧は、印加された電流に依存する。そのため、印加された電流の変化に対する反応としての外乱量の挙動は、将来を見通した形で補正することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の課題は、負荷が最早未知の外乱ではなく、制御時に明示的に考慮できるように、冒頭で述べた通りの方法及び装置を改善することである。
【0005】
従来システムの問題は、電流制御の挙動がバッテリ(UUT)のインピーダンスに依存することである。不利なインピーダンスは、試験電流の調節挙動を遅くし、オーバーシュートを大きくする。更に、このインピーダンスは、バッテリの老朽化及び充電状態に応じて変化するとともに、動作点(負荷電流)に依存する。
【0006】
従って、本発明の課題は、所望の試験サイクルを実行するために、実際の負荷電流が、バッテリテスタ内の電流制御中に出来る限り正確にかつ遅延時間無しに時間的に変化する基準電流に追従できるようにする改善された方法及び改善された装置である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この設定された課題を解決するために、本発明による方法は、モデルベースのコントローラ設計方法を用いて、制御系を作成し、この制御系のモデルに、エネルギー貯蔵システムのインピーダンスのモデルを組み込むことを特徴とする。この電流制御に関して、バッテリの逆電圧は、基本的に一つの外乱である。このバッテリインピーダンスのモデルによって、この外乱量の推移を印加された電流に対する反応としてほぼ予測することが可能である。それによって、基準電流の変化に対する実際の電流のより速くかつより確かな反応を実現することができる。
【0008】
本方法の有利な変化形態では、少なくとも一つの短い励起シーケンスとその結果得られた電流値及び電圧値の測定によって、バッテリインピーダンスの特有のモデルに関するパラメータを特定するものと規定する。
【0009】
この設定された課題を解決するために、エネルギー貯蔵システムの負荷電流が所定の試験サイクルにより時間的に変化する基準電流に出来る限り遅延時間無しに追従するようにする制御系を備えた、車両の駆動部用の電気エネルギー貯蔵システムを検査する装置は、この制御系では、モデルベースの制御が実現され、このモデルには、バッテリインピーダンスのモデルが組み込まれていることを特徴とする。
【0010】
本発明の有利な実施構成は、バッテリの動作点に依存するバッテリインピーダンスのモデルが組み込まれていることを特徴とする。
【0011】
この場合、それに代わって、バッテリの充電状態に依存するバッテリインピーダンスのモデルを組み込むこともできる。
【0012】
別の代替形態として、本発明による装置は、バッテリの老朽化に依存するバッテリインピーダンスのモデルが組み込まれていることを特徴とする。
【0013】
前記の全ての変化形態に関して有利な実施構成は、制御系では、モデルベースの予測制御が実現されていることを特徴とする。この組み込みは、基本的に如何なるモデルベースのコントローラ設計方法においても可能である。更に、このモデルベースの予測制御(MPC)によって、設定量の推移を最適化する場合に物理的な制限(例えば、バッテリシミュレータ内の半導体スイッチを保護するための設定量の限定又は電流の制限)を明示的に考慮することが可能である。
【0014】
有利には、このバッテリインピーダンスのモデルは、2次以上の伝達関数として表される。
【0015】
以下の記述において、本発明を詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】バッテリテスタの模式図
図2】負荷モデルを統合した電流コントローラの設計手順のフロー図
図3】制御系のブロック図
図4】負荷モデルを含む制御系のブロック図
図5】パワーエレクトロニクス機器の回路図
図6】負荷モデルの無い仮のコントローラによる動作時の所定の励起シーケンスとその結果得られた電流及び電圧の測定値を図示した、本発明によるシステムの励起シーケンスに対するシステム応答のグラフ図
図7】最適化されていないパラメータによりシミュレーションしたシステム応答と記録したシステム応答を比較したグラフ図
図8】最適化されたパラメータによりシミュレーションしたシステム応答と記録したシステム応答を比較したグラフ図
図9】負荷モデルの有る場合と無い場合の電流制御時における40Aから80Aへの調節量の飛躍的変化に対するシステム応答を比較したグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に例示されたシステムは、検査対象物、即ち、牽引用バッテリと、バッテリテスタとから構成される。このバッテリテスタは、更に、パワーエレクトロニクス機器と、有利には、デジタルコントローラとから構成される。ここでは、バッテリの端子電圧がvで表示され、印加された負荷電流がiで表示され、基準電流がiで表示されている。このパワーエレクトロニクス機器は、デューティサイクルdのパルス幅変調信号(PWM)を与えることによって駆動される。測定された量は、測定量ベクトルdに組み合わされる。このコントローラは、有利には、設定量制限を考慮したモデル予測コントローラ(MPC)として構成される。状態監視部は、測定データと最後に出力された設定量を処理し、それらから、コントローラが必要とする状態ベクトルを推定する。
【0018】
それにより、制御系のモデルに基づく設計を自動化できるとともに、それにより、パワーエレクトロニクス機器の(デューティサイクルは0≦d≦1の範囲内でのみ変化できる)固有の設定量制限を考慮できるので、モデル予測コントローラ設計方法を選択した。
【0019】
バッテリテスタのモデルを用いて、負荷モデルの無い仮のコントローラを設計した。そして、この仮のコントローラに検査対象物を接続して、バッテリテスタを動作させた。好適な励起シーケンス(例えば、疑似ランダムバイナリシーケンス:PRBS)を基準信号iとして使用した。この場合、実際の負荷電流iと端子電圧はvをコントローラのサンプリングレートで記録した。次に、測定データを用いて負荷モデルを特定し、最終的にバッテリテスタのモデルを負荷モデルだけ拡張した。このシステム全体の拡張されたモデルを用いて、大きく変動する試験シーケンスを検査対象物に印加するために使用できるコントローラを新たに設計した。このフローは、図2に要約して図示されている。
【0020】
前述したコントローラ設計のためには、制御系のモデルが必要である。図3には、負荷を考慮しない制御系がブロック接続図として図示されている。この場合、デューティサイクルdが設定量として機能し、負荷電流iが制御量であり、バッテリの端子電圧vが外乱量として看做されている。この外乱量の将来の推移は分からない、即ち、コントローラは、外乱量が既に変化した後に漸くそれに応答することができる。
【0021】
バッテリのモデルが存在する場合、そのモデルを制御系のモデルに統合することができる。その結果得られたブロック接続図が図4に図示されている。それによって、端子電圧は、最早外乱量としてではなく、拡張されたシステムの新しい状態量として看做される。そのため、この負荷モデルが十分に正確であるとの前提条件の下で、印加された試験電流の変化により引き起こされる、少なくとも端子電圧の将来の如何なる変化も推定することができる。測定誤差及び負荷モデルの誤差は、相変わらず外乱量として看做される。従って、負荷モデルとバッテリテスタのモデルの二つの別個のモデルが必要である。
【0022】
ここで使用したバッテリテスタは、三つのIGBT半ブリッジをずらして接続した制御式降圧変換器から構成される。関連する構成部品と共に出力段の簡略化された回路図が図5に図示されている。
【0023】
このシステムの動特性は、受動出力フィルタにより決まる。このフィルタは、三つのストレージチョークL1a,L1b及びL1c、フィルタコンデンサC並びにフィルタチョークLから構成される。全ての三つのストレージチョークが同じインダクタンスを有する場合(L1a=L1b=L1c)、出力段の動特性挙動は、一つの半ブリッジと一つのストレージチョークL=1/3L1a=1/3L1b=1/3L1cだけから成る単一相の降圧変換器のモデルにより近似することができる。
【0024】
ここで、単一相の出力フィルタに関して、状態ベクトル
【0025】
【数1】
を有する時間的に連続する状態空間モデルを作成することができる。デューティサイクルdと端子電圧vは、(設定量又は外乱量としての)モデル入力である。変量i,i及びvは、測定量としてコントローラに供給される。コンデンサ電圧vを測定しない場合、実際の状態ベクトルを連続して再構成するための状態監視部が必要である。
【0026】
この離散時間デジタルコントローラには、バッテリテスタのそれに対応する離散時間モデルが必要である。そのために、PWMは、サンプリング保持(ゼロ次保持:ZOH)部品によって近似される。その結果得られたモデルは、次の通り、遷移行列A、入力行列B、外乱入力行列E及び出力行列Cを用いて、状態空間モデルとして表される。
【0027】
ck+1=A・xck+B・d+E・v2k,i2k=C・xck (2)
ここで、指数kは、それぞれ実際の時間ステップを表す。
【0028】
この離散時間モデルへの変換は、例えば、Matlabコマンドc2d.mを用いて、標準的な工程により行なわれる。このコントローラの所要の計算時間のために、設定量の計算された新しい値は、直ちに適用されるのではなく、常に次のサンプリング時点で漸く適用される。この状況は、状態空間モデルを一つのサンプリング周期だけ更に遅らせて拡張することによって考慮される。それにより得られたバッテリテスタのモデルは、それに接続された負荷に依存せず、そのためバッテリテスタ毎に一回だけ作成しなければならず、その後は変更されない。
【0029】
バッテリは、基本的に非常に複雑な動特性挙動を有し、その挙動は、多くの要因、特に、充電状態、セル温度及び充放電電流に依存する。この挙動を再現又は予測可能とするためには、それに対応して複雑なモデルが必要である。
【0030】
バッテリの動特性挙動の原因となる電気的及び電子的効果は、異なる時定数を有する。バッテリテスタを制御するためには、時定数が短い効果が重要である。それは、特に、導線抵抗及び接点抵抗、導線及び接点のインダクタンス、並びに容量効果である。時定数が長い効果は、速いコントローラにより良好に補正できるゆっくり変化する外乱量である。
【0031】
この理由から、試験電流を制御するためには、速い効果だけを反映した大きく簡略化したモデルで十分である。更に、組み込まれた負荷モデルの次数は、制御に関して実行時間で動作させなければならない計算負荷に影響する。従って、使用可能なモデル次数は、入手可能な計算能力とサンプリングレートによって大きく制限される。
【0032】
前述したアプローチに関して、一般的な離散時間伝達関数として、次の通り、z変換された試験電流I(z)を入力とし、z変換された端子電圧V(z)を出力とする関数Z(z)を採用した次数2のモデルを選択した。
【0033】
【数2】
この伝達関数の自由パラメータは、パラメータベクトルθ=[a]及びθ=[b]に組み合わされる。
【0034】
この伝達関数は、制御の標準形式を用いて、次の等価の状態空間表現とすることができる。
【0035】
【数3】
ここで、依然として未知のパラメータは、それを特定する方法を用いて決定しなければならない。以下において、そのための可能な方法の例を説明する。
【0036】
負荷モデルの無いバッテリテスタのモデルに基づくコントローラを用いて、検査対象物に負荷電流の励起シーケンスを印加する。その間に記録した電圧値及び電流値を測定データベクトルi(入力データ)とv(出力データ)に組み合わせる。Nは、両方のベクトルの要素の数(サンプリング工程での励起シーケンスの長さ)とする。
【0037】
出力ベースとして、Matlabの特定ツールボックスのツールident.mを用いて、粗い推定のモデルパラメータを作り出す。先ずは、測定データベクトルから、それぞれ平均値を引算する。更に、高周波の外乱の影響を除去するために、これらのデータをローパスフィルタで濾波する。次に、分母と分子の次数を2とするARXモデル用のパラメータベクトルθ,θを推定するために、このツールを使用する。
【0038】
次に、推定したパラメータセットを用いて、測定した電流の推移iに対するモデルの応答
【0039】
【数4】
をシミュレーションして、測定した電圧の推移vと比較することができる。この場合、測定した電圧の推移とシミュレーションした電圧の推移の間に大きな相違が認められた場合、これらのパラメータを最適化手法を用いて改善することができる。
【0040】
この最適化手法の目的は、次の通り、モデルパラメータθ,θの関数としての二乗誤差Jの合計を最小化することである。
【0041】
minJ(θ,θ
ここで、J(θ,θ)=e(θ,θ・e(θ,θ)/N及び
【0042】
【数5】
であり、
【0043】
【数6】
は、それぞれ入力信号iに関するパラメータθ,θのシミュレーション結果である。
【0044】
それに代わって、上述した構成を有するモデルが得られる別の特定方法(例えば、出力エラー方法:OE)を使用することもできる。
【0045】
これまでに述べた両方の部分モデルは、更に制御系の一つのモデルに組み合わせなければならない。
【0046】
そのために、部分モデルxLk=[xdkLkの状態ベクトルから成る拡張された状態ベクトルを使用する。バッテリテスタモデルの出力i2k=C・xckを負荷モデルの入力i2kと結合するとともに、負荷モデルの出力v2k=C・xLk+b・i2kをバッテリテスタの外乱入力v2kと結合することによって、次の拡張された状態空間モデルが得られる。
【0047】
【数7】
この拡張されたモデルも、Matlabにおいて、コマンドconnect.mを用いて作り出すことができる。
【0048】
ここで示したモデルを別の以下で述べるアプローチのために使用した。しかし、このモデルは、b≠0の場合にのみ近似的に有効であることを考慮すべきである。この拡張された制御系の挙動のより良好な記述は、バッテリテスタの連続時間モデルで漸くbを考慮した場合に得ることができる。状態ベクトルを拡張するためには、コントローラと監視部の両方を拡張されたモデルで設計しなければならない。
【0049】
ここで述べた方法を試験設備で試験した。その試験のために、検査対象物として牽引用バッテリを使用せず、そのため、検査負荷としてバッテリシミュレータを使用した。比較的遅いコントローラを用いてバッテリシミュレータを定電圧源として動作させたことに留意されたい。その動特性挙動は、バッテリの動特性挙動と大きく異なった。それにも関わらず、少なくとも基本的な実現可能性を示すことができた。図6の上のグラフは、PRBシーケンスを図示し、真中のグラフは、調節した検査電流を図示し、下のグラフは、その結果得られた端子電圧を図示している。
【0050】
従って、例えば、Matlabコマンドident.mを用いて決定したパラメータに関してシミュレーションした出力電圧を図示した図7から分かる通り、このシステムの挙動は、不十分にしか再現されていない。しかし、ここで使用したパラメータは、パラメータを最適化するための開始値としての役割を果たす。
【0051】
それに対して、パラメータの最適化後には、図8のシミュレーションしたシステム応答が得られており、シミュレーションした出力電圧に関して、測定データとの一致を明らかに良く実現できている。ここで使用したパラメータは、負荷モデルを有するコントローラを設計するために使用した。
【0052】
最後に、図9は、負荷モデルの無いコントローラ(青)と負荷モデルの有るコントローラ(赤)を使用した場合における目標値の飛躍的変化に対して測定した検査電流の応答を図示している。負荷モデルの有るコントローラは、負荷モデルの無いコントローラよりも速く目標値に到達するとともに、オーバーシュート幅がより小さくなっている。しかし、電流の第一の上昇後、短いアンダーシュートが発生している。
【0053】
ここで述べた方法は、バッテリテスタのモデル予測式電流コントローラを負荷モデルだけ拡張し、それにより所定の検査対象物に関する電流制御の動特性を改善する手法を提示している。特有の負荷モデルを使用しているために、この用途は、バッテリに限定されず、それ以外の負荷にも適用できる。
【0054】
有利には、動作中に負荷の動特性が大きく変化し過ぎる場合、連続動作におけるモデルパラメータは、(例えば、再帰的最小二乗法:RLSにより)連続して推定される。その場合、コントローラも、変化するパラメータを用いて、実行時間に対して絶えず新たに設計される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9