(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記各ロアレールは、底壁部と、前記底壁部両側から立ち上がる互いに対向する一対の側壁部と、前記各側壁部の上縁から互いに内方に曲げられていると共に、対向縁同士が所定間隔離間している一対の上壁部とを有する断面略C字状の左右略対称に形成され、
前記アッパーレールは、前記ロアレール内に位置する横壁部を有し、前記縦壁部が前記横壁部に対して略垂直に立ち上がり、前記ロアレールにおける一対の上壁部の対向縁間の隙間から上方に突出する断面略T字状の左右対称に形成されている請求項1記載のシートスライド装置。
前記弾性ロック部材は、前記作用板部が前記取付板部の上部から下方に曲げられてなると共に、中途部に前記各アッパーレールの前記縦壁部から離間する方向に膨出する膨出部を有し、さらに、下縁に前記縦壁部から離間する方向に突出する前記ロック爪が形成されてなり、
前記ロック解除部材は、前記作用板部の前記膨出部を前記縦壁部方向に変位させ、前記ロック爪の係合を解除する構成である請求項1又は2記載のシートスライド装置。
前記ロック解除部材は、一端部を中心として他端側を上方又は下方に変位させることにより、前記作用板部の前記膨出部を前記縦壁部方向に変位させる構成である請求項3記載のシートスライド装置。
前記一方のアッパーレールの前記縦壁部を挟んだ一対のロック解除部材の各一端部と、前記他方のアッパーレールの前記縦壁部を挟んだ一対のロック解除部材の各一端部とが、連結軸を介して連結されており、前記連結軸の一端又は両端に連結された操作部を操作することにより、4つのロック解除部材が同期して動作する構成である請求項5記載のシートスライド装置。
前記各ロアレールの各上壁部は、各対向縁から、各側壁部方向に向かって斜め下方に曲げられた下向き傾斜壁部が延在する形状であると共に、前記各アッパーレールは、前記横壁部の各外側縁部から前記縦壁部に向かってそれぞれ斜めに立ち上がる上向き傾斜壁部を有し、この上向き傾斜壁部が、前記各ロアレールの下向き傾斜壁部の外側に位置するように設けられており、
前記各ロアレールの被係合部が、前記各下向き傾斜壁部に形成された孔又は溝から形成されており、
前記ロック爪の形成位置に対応する前記各アッパーレールの各上向き傾斜壁部に、ロック時において、前記ロック爪が前記各ロアレールの被係合部を貫通した後に係合して前記ロック爪を安定して保持する孔又は溝からなる補助被係合部が形成されている請求項2記載のシートスライド装置。
前記各ロアレールの底壁部は、一部が上方に突出する段差部を有し、この段差部の断面縦長部上に、前記各アッパーレールとの間に配置される少なくとも一つのローラが支持される請求項1〜9のいずれか1に記載のシートスライド装置。
前記ロアレールは、底壁部が、幅方向両端角部に断面R形状の部位を有し、各断面R形状の部位の内側寄りが上方に突出する段差部となっており、前記ローラはこの各段差部間に相当する幅を有している請求項10記載のシートスライド装置。
前記各ロアレールの各上壁部における少なくとも各対向縁の所定幅の範囲は、前記各アッパーレールを前記各ロアレールから離脱させる方向に所定以上の力が作用した際の、前記対向縁間の隙間の拡開を抑制するため、前記各ロアレールにおいて相対的に剛性の高い高剛性部となっており、前記各ロアレールにおける底壁部と各側壁部との各境界付近から各側壁部の上部を除いた範囲が前記高剛性部よりも相対的に剛性の低い変形容易部となっている請求項2、8又は9記載のシートスライド装置。
前記各ロアレールの高剛性部は、前記各上壁部における各対向縁の所定幅の範囲に加え、断面方向でこの所定幅の範囲を超えて前記各側壁部の上部に至るまでの範囲に形成されている請求項12記載のシートスライド装置。
前記フロアとの固定部が位置する前記各ロアレールの長手方向のいずれか少なくとも一方の端部付近において、対向する一対の側壁部と上壁部のうちの少なくとも一方に、所定厚さの補強用板状部材が積層され、この補強用板状部材を積層して断面係数を高めることによって、前記各アッパーレールを前記各ロアレールから離脱させる方向に所定以上の力が作用した際の、前記対向縁間の隙間の拡開を抑制する請求項12又は13記載のシートスライド装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
乗物用シート本体に関する軽量化については上記のように種々の技術があるが、シートスライド装置の軽量化に関して、材料置換以外、これまであまり検討されていない。シートスライド装置には、シートフレームを介して種々の力が加わるため、所定の剛性を有することが必要である。そのため、従来、所定の厚さ(通常、2mm前後)の鋼材でロアレール、アッパーレール等を形成しており、それなりの重量を有していた。
【0006】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、従来よりも薄い材料で形成しても、付加される力を受けて必要な機能を発揮できる、軽量化に適したシートスライド装置を提供することを課題とする。また、本発明は、従来よりも薄い材料で形成しても、付加される力を受けて必要な機能を発揮でき、かつ、板厚低減による面圧低下に伴うガタつきの増加及びフリクションの低下を抑制し、軽量化に適し、衝撃吸収機能や振動吸収機能を発揮することができるシートスライド装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
特許文献1〜5に示された従来のシートスライド装置は、いずれも、ロック機構が、アッパーレールの片側に配置され、ロック機構が係合する被係合部が、ロアレールの片側のみに形成されている。従って、ロック時において付加される力は、ロック機構を介してロアレールの片側だけで支えなければならず、その結果、ロアレール、アッパーレール共に所定厚さで所定の剛性を有する材料で形成する必要があった。本発明者らはこの点に着目し、できるだけ偏荷重がかからない構成として軽量化を図り、また、アッパーレール及びロアレールが弾性的に機能する構成とすることで、シートスライド装置自体に、振動吸収機能、衝撃吸収機能を担わせることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のシートスライド装置は、乗物用シートを構成するシートフレームを支持し、前記乗物用シートの前後方向の位置調節を行うためのシートスライド装置であって、前記乗物のフロアに互いに幅方向に所定間隔をおいて取り付けられる一対のロアレールと、前記各ロアレールにスライド可能に設けられ、前記シートフレームが連結される一対のアッパーレールと、前記各アッパーレールを前記各ロアレールに対して適宜のスライド位置でロックするロック機構とを有して構成され、前記各ロック機構は、前記各アッパーレールに支持され、前記各ロアレールに形成された被係合部に係合するロック爪を有する弾性部材から形成された弾性ロック部材を備えてなり、前記弾性ロック部材が弾性支点となって前記各ロアレール及び前記各アッパーレールに前記弾性ロック部材の弾性が作用する構成であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明のシートスライド装置は、乗物用シートを構成するシートフレームを支持し、前記乗物用シートの前後方向の位置調節を行うためのシートスライド装置であって、前記乗物のフロアに互いに幅方向に所定間隔をおいて取り付けられる一対のロアレールと、前記各ロアレールにスライド可能に設けられ、前記シートフレームが連結される一対のアッパーレールと、前記各アッパーレールを前記各ロアレールに対して適宜のスライド位置でロックするロック機構とを有して構成され、前記各ロアレール及び前記各アッパーレールが、長手方向に直交する断面形状で中心に対して左右略対称に形成されており、前記ロック機構が、前記各アッパーレールの両側に設けられ、そのそれぞれが前記各ロアレールに係合してロック可能な構成であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のシートスライド装置は、乗物用シートを構成するシートフレームを支持し、前記乗物用シートの前後方向の位置調節を行うためのシートスライド装置であって、前記乗物のフロアに互いに幅方向に所定間隔をおいて取り付けられる一対のロアレールと、前記各ロアレールにスライド可能に設けられ、前記シートフレームが連結される一対のアッパーレールと、前記各アッパーレールを前記各ロアレールに対して適宜のスライド位置でロックするロック機構とを有して構成され、前記各ロアレール及び前記各アッパーレールが、長手方向に直交する断面形状で中心に対して左右略対称に形成されており、前記ロック機構が、前記各アッパーレールの両側に設けられ、そのそれぞれが前記各ロアレールに係合してロック可能な構成であり、かつ、前記各ロック機構が、前記各アッパーレールに支持され、前記各ロアレールに形成された被係合部に係合するロック爪を有する弾性部材から形成された弾性ロック部材を備えてなり、前記弾性ロック部材が弾性支点となって前記各ロアレール及び前記各アッパーレールに前記弾性ロック部材の弾性が作用する構成であることを特徴とする。
【0011】
前記各ロアレールは、底壁部と、前記底壁部両側から立ち上がる互いに対向する一対の側壁部と、前記各側壁部の上縁から互いに内方に曲げられていると共に、対向縁同士が所定間隔離間している一対の上壁部とを有する断面略C字状の左右略対称に形成され、前記アッパーレールは、前記ロアレール内に位置する横壁部と、前記横壁部に対して略垂直に立ち上がり、前記ロアレールにおける一対の上壁部の対向縁間の隙間から上方に突出し、前記シートフレームが連結される縦壁部とを有する断面略T字状の左右対称に形成されていることが好ましい。
【0012】
前記弾性ロック部材は、バネ鋼から形成され、前記各アッパーレールの縦壁部に取り付けられる取付板部と、前記取付板部に一体に形成され、前記縦壁部に取り付けられる取付板部から離間する方向に常時付勢される弾性力を有すると共に、前記縦壁部から離間する方向に突出し、前記各ロアレールにおける対向部位に長手方向に沿って複数形成された前記被係合部に係合する前記ロック爪を備えた作用板部とを有して構成され、前記ロック機構が、前記弾性ロック部材と、前記作用板部の弾性力に抗して前記作用板部を前記
縦壁部方向に変位させ、前記ロック爪と前記各ロアレールの被係合部との係合状態を解除するロック解除部材とを有して構成されることが好ましい。
【0013】
前記弾性ロック部材は、前記各アッパーレールの長手方向略中央部に取り付けられることが好ましい。前記弾性ロック部材は、前記作用板部が前記取付板部の上部から下方に曲げられてなると共に、中途部に前記各アッパーレールの縦壁部から離間する方向に膨出する膨出部を有し、さらに、下縁に前記縦壁部から離間する方向に突出する前記ロック爪が形成されてなり、前記ロック解除部材は、前記作用板部の前記膨出部を前記
縦壁部方向に変位させ、前記ロック爪の係合を解除する構成であることが好ましい。前記ロック解除部材は、一端部を中心として他端側を上方又は下方に変位させることにより、前記作用板部の前記膨出部を前記
縦壁部方向に変位させる構成であることが好ましい。
【0014】
前記一方のアッパーレールの前記縦壁部を挟んだ一対のロック解除部材の各一端部と、前記他方のアッパーレールの前記縦壁部を挟んだ一対のロック解除部材の各一端部とが、連結軸を介して連結されており、前記連結軸の一端又は両端に連結された操作部を操作することにより、4つのロック解除部材が同期して動作する構成であることが好ましい。
【0015】
前記弾性ロック部材及び前記ロック解除部材が、前記各アッパーレールの縦壁部を挟んだ両側に対称に設けられ、前記各ロアレールに長手方向に沿って複数形成される被係合部は、前記各ロアレールの長手方向に沿った中心線に対して両側の対称位置に形成され、ロック時において、前記各アッパーレールの縦壁部を挟んだ両側の前記ロック爪のそれぞれが、前記各ロアレールの長手方向両側の被係合部のそれぞれに係合することが好ましい。
【0016】
前記各ロアレールの各上壁部は、各対向縁から、各側壁部方向に向かって斜め下方に曲げられた下向き傾斜壁部が延在する形状であると共に、前記各アッパーレールは、前記横壁部の各外側縁部から前記縦壁部に向かってそれぞれ斜めに立ち上がる上向き傾斜壁部を有し、この上向き傾斜壁部が、前記各ロアレールの下向き傾斜壁部の外側に位置するように設けられており、前記各ロアレールの被係合部が、前記各下向き傾斜壁部に形成された孔又は溝から形成されており、前記ロック爪の形成位置に対応する前記各アッパーレールの各上向き傾斜壁部に、ロック時において、前記ロック爪が前記各ロアレールの被係合部を貫通した後に係合して前記ロック爪を安定して保持する孔又は溝からなる補助被係合部が形成されていることが好ましい。
【0017】
前記各アッパーレールは、前記縦壁部と、前記横壁部において前記縦壁部の両側に位置する部位との間に、傾斜表面を有する抜け止め部材が設けられており、前記各アッパーレールを前記各ロアレールから離脱させる方向への力が作用した際に、前記抜け止め部材の傾斜表面が前記各ロアレールの下向き傾斜壁部に当接可能であると共に、前記横壁部の変形を抑制する構成であることが好ましい。
前記各ロアレールの底壁部は、一部が上方に突出する段差部を有し、この段差部の断面縦長部上に、前記各アッパーレールとの間に配置される少なくとも一つのローラが支持される構成であることが好ましい。前記ロアレールは、底壁部が、幅方向両端角部に断面R形状の部位を有し、各断面R形状の部位の内側寄りが上方に突出する段差部となっており、前記ローラはこの各段差部間に相当する幅を有していることが好ましい。前記ロアレールの底壁部は、前記各段差部間の幅方向略中央部が上方に膨出する形状で形成されていることが好ましい。前記乗物用シート上に着座する人の体重により、前記ロアレールの底壁部の各段差部間がたわむことにより、スライド方向の摩擦抵抗が前記各段差部間がたわむ前の状態と比較して小さくなる構成であることが好ましい。
前記一対のロアレール及び前記一対のアッパーレールのうちの少なくとも一方が、厚さ1.8mm以下、好ましくは厚さ0.6〜1.6mm、より好ましくは厚さ0.6〜1.2mmの薄肉材を用いて形成されていることが望ましい。前記薄肉材は、引張強度400〜590MPaの範囲のものであることが好ましい。なお、前記ロアレールを、バネ鋼からなる薄肉材から形成することも可能であり、また、前記ロアレールを、引張強度780MPa以上の高張力鋼からなる薄肉材から形成することも可能である。
前記弾性ロック部材は、厚さ0.6〜1.2mmの範囲のバネ鋼を用いてなることが好ましく、それにより、その弾性作用と厚さを制限したことからもたらされる前記ロック爪のたわみ特性、前記ロック爪の先端面の前記ロアレールに形成された隣接する被係合部間の部位に対する摩擦抵抗の特性、前記ロアレール及びアッパーレールの有する弾性、前記ローラの転がり特性を含む諸特性の相乗作用によって、前記ロック機構の擬似ロック状態を抑制可能な構成となっていることが好ましい。
【0018】
前記各ロアレールには、前記シートフレームに連結される前記アッパーレールを前記ロアレールから離脱させる方向に所定以上の力が作用した場合の変形容易部が設定されていることが好ましい。前記各ロアレールの各上壁部における少なくとも各対向縁の所定幅の範囲は、前記各アッパーレールを前記各ロアレールから離脱させる方向に所定以上の力が作用した際の、前記対向縁間の隙間の拡開を抑制するため、前記各ロアレールにおいて相対的に剛性の高い高剛性部となっており、前記各ロアレールにおける底壁部と各側壁部との各境界付近から各側壁部の上部を除いた範囲が前記高剛性部よりも相対的に剛性の低い前記変形容易部となっていることが好ましい。
【0019】
前記各ロアレールの高剛性部は、前記各上壁部における各対向縁の所定幅の範囲に加え、断面方向でこの所定幅の範囲を超えて前記各側壁部の上部に至るまでの範囲に形成されていることが好ましい。前記各ロアレールの高剛性部は、前記各上壁部と前記各側壁部との境界部付近であって、ボールが当接する内面を除く範囲に形成されていることが好ましい。前記高剛性部は、熱処理によって形成されていることが好ましい。
【0020】
前記フロアとの固定部が位置する前記各ロアレールの長手方向のいずれか少なくとも一方の端部付近において、対向する一対の側壁部と上壁部のうちの少なくとも一方に、所定厚さの補強用板状部材が積層され、この補強用板状部材を積層して断面係数を高めることによって、前記各アッパーレールを前記各ロアレールから離脱させる方向に所定以上の力が作用した際の、前記対向縁間の隙間の拡開を抑制する構成であることが好ましい。前記補強用板状部材が、前記各ロアレールの長手方向の両端部に積層されると共に、前記補強用板状部材が積層された両端部間が、前記熱処理によって形成された高剛性部となっていることが好ましい。さらに、前記ロアレール及びアッパーレールは、衝撃力の入力に伴う変形により、縦方向の断面係数が上がり、強度が向上する構成であることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明のシートスライド装置は、ロック機構として、アッパーレールに支持され、ロアレールの被係合部に係合するロック爪を有する弾性部材から形成された弾性ロック部材を備えてなる。従って、弾性ロック部材の弾性力により振動や衝撃力を緩和できる。すなわち、高い降伏応力の弾性ロック部材が弾性支点となってロアレール及びアッパーレールにその弾性が作用するため、振動や衝撃力を緩和するための構造を簡素化でき、シートスライド装置全体の軽量化が可能となる。また、弾性ロック部材の弾性力により、アッパーレール及びロアレールにかかる偏荷重を弾性変形しながら吸収できる。また、アッパーレール及びロアレールの弾性ロック部材を弾性支点とする弾性変形によって両者間のガタつきやフリクションも低減される。さらに、ロック爪を係合させるための別途のバネ部材やロック爪を支持する回転軸等が不要であり、その点でもシートスライド装置の軽量化に資する。
【0022】
また、ロアレールの各上壁部における少なくとも各対向縁の所定幅の範囲の剛性を高めることにより、当該高剛性部における変形を防止できる構造であると共に、ロアレールの少なくとも一端部、好ましくは両端部に補強用板状部材を積層して断面係数を高めることにより、ロアレールの長手方向端部付近の変形を防止できる構造である。従って、大荷重入力時においては、高剛性部及び補強用板状部材を積層した部位における高い変形防止機能により、アッパーレールがロアレールから離脱することなく保持される。その結果、アッパーレールが離脱することなくロアレールにおける高剛性部や補強用板状部材を積層した部位以外の変形容易部が変形していく。従って、このような高剛性部や補強用板状部材を積層した部位を設けることにより、衝撃力や振動によるエネルギーの吸収機能をより高めることができる。
【0023】
また、アッパーレール及びロアレールを所定厚さ以下の薄肉材で形成し、上記した高剛性部及び補強用板状部材を積層した部位を所定の部位に設定することにより、弾性ロック部材が配置されている部位付近のアッパーレール及びロアレールの上記した弾性作用が確実に機能する構成とすることができる
【0024】
また、本発明のシートスライド装置は、ロアレール及びアッパーレールがいずれも幅方向(長手方向に直交する断面方向)中心を挟んで左右略対称に形成されていると共に、ロック機構を、アッパーレールの両側に設け、そのそれぞれがロアレールに係合してロック可能な構成とすることが好ましい。それにより、ロアレール、アッパーレール及びロック機構を組み合わせた構造体全体は、左右略対称になり、ロアレール及びアッパーレールにかかる力を左右略均等に吸収できる。従来のようにロック時において、ロアレール、アッパーレールに偏荷重がかかることを低減できるため、これらを構成する各材料の板厚を従来品より薄くしてさらなる軽量化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面に示した実施形態に基づき、本発明をさらに詳細に説明する。
図1〜
図5に示したように、乗物用シート1は、シートフレーム10を構成するクッションフレーム20及びバックフレーム30を有し、クッションフレーム20には、シートクッション部1A用のクッション部材60とさらにその表皮材64が配設され、バックフレーム30には、シートバック部1B用のクッション部材70が配置されると共に、それらが表皮材71や体幹側部支持部材72により被覆されて構成されている。このうち、シートフレーム10のクッションフレーム20が自動車等の乗物のフロアに固定される本実施形態に係るシートスライド装置40によって支持される。
【0027】
シートスライド装置40は、
図6〜
図14に示したように、乗物のフロアに互いに幅方向に所定間隔をおいて取り付けられる一対のロアレール41,41と、各ロアレール41,41にスライド可能に設けられる一対のアッパーレール42,42とを有して構成される。
【0028】
ロアレール41,41は、底壁部411と、底壁部411両側から立ち上がる互いに対向する一対の側壁部412,412と、各側壁部412,412の上縁から互いに内方に曲げられていると共に、対向縁同士が所定間隔離間している一対の上壁部413,413とを有する断面略C字状の左右略対称に形成される。
【0029】
アッパーレール42,42は、長手方向に直交する方向の断面形状で、略L字状の部材42a,42aをそれぞれ背中合わせにして一体化し、一体化した状態の断面形状で略逆T字状となるようにして、中心に対して左右略対称にしている(
図12参照)。アッパーレール42,42の前方寄り及び後方寄りにクッションフレーム20を支持するための取付孔421a,421bがそれぞれ貫通形成されている。
【0030】
具体的には、アッパーレール42,42の前方寄りの取付孔421a,421a間に軸部材151aが掛け渡され、後方寄りの取付孔421b,421b間に軸部材152aが掛け渡されている。軸部材151aの各端部には、第1リンク151,151の下端部が軸支され、軸部材152aの各端部には、第2リンク152,152の下端部が軸支されている(
図3〜
図5参照)。そして、第1リンク151,151の上端部がクッションフレーム20の前方寄りで幅方向に掛け渡されているビーム124に軸支され、第2リンク152,152の上端部がクッションフレーム20の後方寄りで幅方向に掛け渡されているビーム125に軸支されている。第2リンク152の一方は、リフタ機構部160に連結されており、該リフタ機構部160の操作部161が操作されることにより、クッションフレーム20が上下動する構造となっている。なお、クッションフレーム20はアッパーレール42,42によって支持される限り、その支持方法は限定されるものではなく、例えば、本実施形態のようにクッションフレーム20を上下動させる必要がない場合には、リンクを介さずに、クッションフレーム20の任意部位をアッパーレール42,42に連結することもできる。
【0031】
ロアレール41,41及びアッパーレール42,42は、それぞれの部材の長手方向中心線(長手方向に直交する断面形状での中心を通過する線)を挟んで左右略対称に形成される。これにより、上記した第1リンク151,151及び軸部材151aを介して伝達される力、並びに、第2リンク152,152及び軸部材152aを介して伝達される力が、いずれも、各部材に対して左右略均等に作用する。つまり、これらの力をいずれかの方向に偏って受けるのではなく、左右略均等に分散して受けることができ、衝撃力が付与された場合の変形は、左右略均等に生じようとする。この結果、ロアレール41,41及びアッパーレール42,42を構成する素材として、従来よりも薄肉のもの、例えば、板厚1.8mm以下のもの、好ましくは0.6〜1.6mmの範囲のもの、より好ましくは0.6〜1.2mmの範囲のもの、さらには0.6〜1.0mmの範囲のものを使用することができる。なお、これらを構成する素材としては、引張強度400〜590MPaの範囲のものを用いることが好ましい。これは加工に必要とするエネルギー量が少なくて済み、比較的小型のプレス機械で成形できるため、省エネルギーの要請に貢献でき、製造コストの低減に資するからである。また、入手の容易な一般的な材料であるため、世界の多くの国で材料調達が可能であり、生産国や生産拠点の拡大に寄与でき、結果的に本発明のシートスライド装置並びにこれを用いた乗物用シートの全体コストの低減に資するという利点もある。また、ロアレール41,41は、長手方向中央部を境として長手方向前後にも略対称に形成される。アッパーレール42,42も、前方寄りの取付孔421a,421aと後方寄りの取付孔421b,421bが、ともに上方に膨出したような形状とし、長手方向前後ができるだけ略対称になるように形成される。これにより、長手方向に係る荷重も長手方向全体に分散させやすくなり、薄肉材の適用に適している。
【0032】
ロアレール41,41及びアッパーレール42,42を薄肉のもので構成する場合、上記した衝撃力による変形は左右略均等の変形により近くなるようにし、かつ、アッパーレール42,42がロアレール41,41から所定の範囲の衝撃力では離脱しないような工夫が必要となる。
【0033】
そこで、本実施形態では、ロアレール41,41に対するアッパーレール42,42の相対的な位置を固定するロック機構43を、
図6及び
図7に示したように、各アッパーレール42,42の縦壁部421,421の両側に設けている。これにより、各アッパーレール42,42の縦壁部421,421を挟んで対称位置にあるロック機構43,43のロック爪433が、ロアレール41,41の上壁部413,413の被係合部にそれぞれ係合することになる。つまり、ロック時におけるロック爪433が係合している状態の姿勢及び係合力の作用方向も、左右略対称となるため、ロック時において偏荷重が生じにくくなっている。
【0034】
具体的には、
図12及び
図13に示したように、ロック機構43は、弾性ロック部材430とロック解除部材434を有して構成される。弾性ロック部材430は、バネ鋼(板バネ)から形成され、アッパーレール42,42に固定される取付板部431と、取付板部431に支持され、アッパーレール42,42の各縦壁部421,421から離間する方向に常時付勢される弾性力を有すると共に、各縦壁部421,421から離間する方向に突出し、各ロアレール41,41における対向部位に長手方向に沿って複数形成された被係合部に係合するロック爪433を備えた作用板部432を有して構成される。ロック解除部材434は、作用板部432の弾性力に抗して、この作用板部432をアッパーレール42,42の
縦壁部421,421方向に変位させ、ロック爪433と各ロアレール41,41の被係合部との係合状態を解除する。
ここで、弾性ロック部材は、厚さ0.6〜1.2mmの範囲の薄肉材を用いてなることが好ましい。より好ましくは、厚さ0.6〜1.2mm、さらに好ましくは厚さ0.6〜1.0mmの範囲である。
【0035】
弾性ロック部材430の取付板部431は、アッパーレール42,42の縦壁部421,421に沿う形状を有しており、リベットなどにより固定される。作用板部432は、
図13に示したように、取付板部431と一体であり、取付板部431の上縁から、各アッパーレール42,42の縦壁部421,421とは反対方向側にかつ下方に曲げられてなる。また、中途部に各アッパーレール42,42の縦壁部421,421から離間する方向に膨出する膨出部432aを有している。ロック爪433は、膨出部432aより下方の作用板部432の下縁付近を、縦壁部421,421から離間する方向に突出するように折り曲げられることにより櫛歯状に形成されている。なお、弾性ロック部材430を構成する取付板部431は、アッパーレール42,42の長手方向略中央部に設けることが好ましい。後述のように、弾性ロック部材430の弾性がアッパーレール42,42及びロアレール41,41に作用し、ロアレール41,41及びアッパーレール42,42を実質的に弾性変形可能として、振動や衝撃力によるエネルギーの吸収機能等を付与するが、その機能をより効率よく発揮させるためである。
【0036】
ロック解除部材434は、一端部を中心として他端側が上下に回動するように設けられ、作用板部432の外面に沿って回動しようとして膨出部432aに接すると、該膨出部432aを
縦壁部421,421方向に変位させることになる。これにより、ロック爪433は、
縦壁部421,421方向に変位するため、係合状態が解除される。各ロック解除部材434、すなわち、合計4つのロック解除部材434の各一端部は、左右のアッパーレール42,42間に掛け渡される連結軸435によって連結されている。従って、連結軸435のいずれか一端に連結した操作部435a(
図1参照)を操作することにより、4つのロック解除部材が同期して動作し、ロックが解除される。
【0037】
ここで、各ロアレール41,41の各上壁部413,413は、各対向縁から、各側壁部412,412方向に向かって斜め下方に曲げられた下向き傾斜壁部414,414が延在する形状であり、上記した各ロアレール41,41の被係合部414a,414aは、この各下向き傾斜壁部414,414に、長手方向に沿って、櫛歯状のロック爪433の隣接する爪同士の間隔に合わせて複数形成された孔又は溝から構成される(
図6、
図7、
図13、
図14参照)。
孔又は溝からなる被係合部414a,414aは、長手方向に沿って数mmから十数mmの長さで形成され、かつ、長手方向に隣接するもの同士の間隔が数mmから十数mmとなるように形成される。従って、櫛歯状のロック爪433もこれに合わせた長さ及び間隔で形成される(
図13(d)参照)。
ここで、ロック爪433が対応する被係合部414a内に侵入しきらずに、中途半端に引っかかった状態を擬似ロック(あるいはハーフロック)状態というが、本実施形態では、ロック爪433の厚さが上記のように極めて薄い。そのため、ロック爪433が隣接する被係合部414a,414a間の部位に留まろうとしても、ロック爪433の先端面の接触面積が極めて小さいため摩擦抵抗が小さく、また、ロック爪433の有する弾性によりたわみ易いことから、被係合部414a,414a間の部位で留まることはむしろ極めて不安定な状態であり、着座者の僅かな体動やフロアからの僅かな振動等によって、被係合部433aに侵入する方向に誘導されやすい。また、上記の薄肉材からなるロアレール41,41及びアッパーレール42,42の弾性、さらには、後述するロアレール41,41の各端部付近に設けられる摺動用のローラ416,416bの転がり特性を含む諸特性も作用することから、これらの相乗作用によって、本実施形態のシートスライド装置1は、擬似ロック状態を生じにくいという特徴を有している。なお、この特徴については、後述の試験例においてさらに詳述する。
【0038】
また、各アッパーレール42,42は、
図14(c)に示したように、略T字状の横壁部422,422の各外側縁部から縦壁部421に向かってそれぞれ斜めに立ち上がる上向き傾斜壁部423,423を有し、この上向き傾斜壁部423,423が、各ロアレール41,41の下向き傾斜壁部414,414の外側に位置するように設けられる。また、ロック爪433の形成位置に対応する各アッパーレール42,42の各上向き傾斜壁部423,423に、孔又は溝からなる補助被係合部423a,423aが形成されている(
図12及び
図14(e)参照)。この補助被係合部423a,423aは、ロック時において、ロック爪433が各ロアレール41,41の被係合部414a,414aを貫通した後に係合することで、ロック爪433を安定して係合状態で保持する。従って、この構成によっても、ロック時における左右略対称の安定した形態を維持する機能が果たされる。
【0039】
ロアレール41,41及びアッパーレール42,42を薄肉のもので構成するに当たって、アッパーレール42,42がロアレール41,41から所定の範囲の衝撃力では離脱しない工夫としては、本実施形態では、所定部位を他の部位よりも剛性の高い高剛性部となるようにしている。
【0040】
すなわち、各ロアレール41,41の各上壁部413,413における少なくとも各対向縁の所定幅の範囲(
図14(d)の符号Aで示した範囲(開断面部)であり、好ましくは上壁部413,413に延在する下向き傾斜壁部414,414の上部寄りの部分も含む)を高剛性部としている。これにより、各アッパーレール42,42を各ロアレール41,41から離脱させる方向に所定以上の力が作用した際の、対向縁間の隙間の拡開を長手方向の剛性で抑制できる。各上壁部413,413に高剛性部が形成される結果、各ロアレール41,41における底壁部411と各側壁部412,412との各境界付近から各側壁部412,412の上部を除いた範囲が、上壁部413,413の高剛性部よりも相対的に剛性の低い部位となる。従って、各アッパーレール42,42を各ロアレール41,41から離脱させる方向に所定以上の力が作用した際には、剛性の高い部位では力を受け、そして長手方向に力を分散し、相対的に剛性の低い部位は変形容易部となり、アッパーレール42,42がロアレール41,41から離脱せずに、該変形容易部が上下方向に伸びるように変形していく。これにより、高い衝撃力の吸収特性を発揮することができる。上記した高剛性部を形成する手段としては、熱処理によることが好ましい。シートスライド装置40の重量を増すことなく剛性を高くできる。
【0041】
また、高剛性部は、各上壁部413,413における各対向縁の所定幅の範囲(
図14(d)の符号Aで示した範囲)に加え、断面方向でこの所定幅の範囲を超えて各側壁部412,412の上部に至るまでの範囲(
図14(d)の符号B,Cで示した範囲)に形成される構成とすることが好ましい。但し、この場合、各上壁部413,413と各側壁部412,412との境界部付近(
図14(d)の符号Bで示した範囲)は、その内面側において、アッパーレール42,42との間にボールXが配設され、このボールXが該境界部内面を相対的に摺動ないしは転動する。このボールXが円滑に摺動ないしは転動するためには、境界部付近は多少の可撓性があることが望ましい。従って、各上壁部413,413と各側壁部412,412との境界部付近は熱処理を施さないようにするか、あるいは、この境界部付近(
図14(d)の符号Bで示した範囲)の厚み方向の外面側だけを熱処理し、内面側まで熱が伝わらないようにすることが好ましい。
【0042】
なお、
図14(d)の符号Bで示した範囲を除く、符号A及びCの範囲を熱処理する場合、及び、符号Bで示した範囲は外面側だけ熱処理し、符号A及びCの範囲は内面側まで熱処理する場合、熱処理治具で符号A、Cの範囲等を順次熱処理するようにすることもできるが、熱処理治具が、上壁部413,413間の対向縁を挟んだ一方側の符号A、B、Cの外面を覆うことができる形状、大きさを有する一方、符号Bの範囲に例えばくぼみが形成され、熱が伝わり難くなっている構造のものを使用することで、簡易な熱処理工程で所望の位置のみを熱処理できる。
図27(a)はそのような熱処理治具の一例を示し、コア部500が符号A、B、Cの範囲をカバーする大きさを有する一方で、符号Bに対向する部位にくぼみ501が形成されたものである。また、上壁部413,413間の対向縁を挟んだ両側の符号A、Aの範囲の外面を覆うことができる形状、大きさを有する熱処理治具を用いれば、両側の符号A、Aの範囲を一度の熱処理することができる。
図27(b)はそのような熱処理治具の一例を示し、コア部600が両側の符号A、Aの範囲をカバーできるようになっている。さらには、上壁部413,413間の対向縁を挟んだ両側の符号A、B、Cの外面を覆うことができる形状、大きさを有する一方、両側の符号Bの範囲に例えばくぼみが形成され、熱が伝わり難くなっている構造の熱処理治具を使用することで、上壁部413,413間の対向縁を挟んだ両側の熱処理部位を一度に熱処理することができ、さらに効率化を図ることができる。
【0043】
また、剛性を高めるために、アッパーレール42,42の縦壁部421,421の上縁(
図14(c)の符号Dで示した部位)、上向き傾斜壁部423,423の外側端縁(
図14(c)の符号Eで示した部位)等、適宜の端縁をヘミング加工することが好ましい。
【0044】
また、アッパーレール42,42の縦壁部421,421と、横壁部422,422における縦壁部421,421の両側に位置する部位との間に、傾斜表面を有する抜け止め部材424,424を設ける構成とすることが好ましい(
図14(e)参照)。これにより、アッパーレール42,42を各ロアレール41,41から離脱させる方向への力が作用した際に、抜け止め部材424,424の傾斜表面が各ロアレール41,41の下向き傾斜壁部414,414に当接するため、アッパーレール42,42の横壁部422,422の変形が抑制され、結果的に抜け止め抑制となる。
【0045】
ロアレール41,41の長手方向の各端部付近は、フロアにボルトなどを介して固定されるが、いずれか少なくとも一方の端部付近において、対向する一対の側壁部412,412と上壁部413,413のうちの少なくとも一方に、所定厚さの補強用板状部材415,415を積層することが好ましい(
図6〜
図9、
図12、
図14参照)。長手方向の各端部は、それよりも中央寄りの部位と比較して、上壁部413,413の対向縁間が開き易いが、補強用板状部材415,415を積層することにより断面係数が高くなって、対向縁間を開きにくくできる。また、補強用板状部材415,415は、長手方向のいずれの端部にも設けることが好ましい。これにより、ロアレール41,41は長手方向略中央部を境として、前後にも略対称となり、ロアレール41,41にかかる荷重をより効率よく分散できる。但し、いずれか一方に設ける場合には、後端部側に設けることが望ましい。シートベルトの下部取り付け部は、後端側に設けられる。従って、衝撃時に乗員が前方に飛び出す方向に大きく変位すると、シートベルトによって後端側が前方に引っ張られる力が加わる。そのため、後端側における対向縁間の拡開を特に抑制することが必要である。また、上記した熱処理による高剛性部は、両端の補強用板状部材415,415が配設されてない部位に設定することが好ましく、これにより、ロアレール41,41の上壁部413,413及び側壁部412,412の上部付近(開断面部)の長手方向全体が剛性の高い部位となり、荷重をロアレール41,41全体で受けて分散することが可能となる。また、それにより、各側壁部412,412の上部付近(開断面部)を除いた変形容易部の変形も、長手方向全体で生じ、衝撃力や振動によるエネルギーの吸収、ガタつきの吸収あるいはフリクションの低減が効率よく行われる。換言すれば、ロアレール41及びアッパーレール42は、衝撃力の入力に伴い上下方向の入力荷重を利用して縦方向の断面係数を上げ、それにより、強度及び剛性を向上させる構成である。これにより、衝撃を受けて人が再びシートに衝突したときには高い剛性で人の体重を受けること、つまり、人を高い縦方向の断面係数を有する構造部材で確実に受け止めることができ、シートによる人の保護性能が向上する。
【0046】
ロアレール41,41の各端部付近には、摺動用のローラ416,416が支持される。このローラ416,416は、ロアレール41,41の底壁部411,411上にリテーナ417,417を介して配置される。ここで、底壁部411,411が薄肉の素材から形成されているため、底壁部411,411が平坦面の場合には面圧不足により比較的早くへたりが部分的に生じるおそれがある。そこで、
図15に示したように、底壁部411,411を、断面形状において、幅方向両端角部付近が断面R形状となって、一部が上方に突出する段差部411a,411aを有する構造とすることが好ましい。これにより、
図16に示したように、この段差部411a,411a上に、ローラ416,416が支持されることになる。段差部411a,411aの断面で見た場合に斜め上下方向に傾斜している部位(断面縦長部)によって支えられることになるため、へたりが生じにくくなる。なお、このような部分的なへたりは上記のようにローラ416,416によって生じるものであるが、本実施形態では、ロック機構43が弾性ロック部材430を備えており、それによって、ロアレール41,41及びアッパーレール42,42に弾性が付与されている。従って、仮に、上記のような部分的なへたりが生じた場合でも、ロアレール41,41及びアッパーレール42,42が弾性変形によってしなるため、着座者には、この部分的なへたりによるガタつきが感じにくい。
【0047】
本実施形態によれば、シートクッション部1A及びシートバック部1Bに付与される力はクッションフレーム20、バックフレーム30を通じて、シートスライド装置40の各アッパーレール42,42及び各ロアレール41,41に伝達されるが、アッパーレール42,42及びロアレール41,41がいずれも長手方向中心線(長手方向に直交する断面形状での中心を通過する線)を挟んで左右略対称に形成されているため、各部材に対して左右略均等に作用する。従って、衝撃力が付与された場合の変形が、左右略均等に生じようとするため、ロアレール41,41及びアッパーレール42,42を構成する素材として、従来よりも薄肉のものを使用することができ、軽量化を図るのに適している。その一方、ロアレール41,41は、所定の位置に高剛性部を形成することにより、アッパーレール42,42が引き抜かれる方向に所定以上の衝撃力が作用しても、各上壁部413,413における各対向縁が開きにくい構造となっている。従って、衝撃力が作用した際には、アッパーレール42,42がロアレール41,41から離脱しないため、ロアレール41,41に相対的に剛性の低い部位として設定した変形容易部が変形していく。従来のシートスライド装置はアッパーレール及びロアレールとも厚みが厚くて剛性が高く、それ自体ができるだけ変形しないようなものが採用されているが、本実施形態によれば、ロアレール41,41がアッパーレール42,42を保持した状態で変形するため、シートスライド装置40が担う衝撃力やエネルギーの吸収能力が従来よりも高くなる。なお、ロアレール41,41及びアッパーレール42,42が長手方向前後にもできるだけ略対称に形成されることが好ましく、それにより、長手方向全体に荷重を分散できることは上記したとおりである。
【0048】
また、ロック機構43が弾性ロック部材430を備え、弾性ロック部材430の取付板部431がアッパーレール42,42に支持されている。そして、弾性ロック部材430の作用板部432に形成されたロック爪433がアッパーレール42,42の被係合部に係合している。従って、弾性ロック部材430の弾性が、アッパーレール42,42及びロアレール41,41に作用する。すなわち、高い降伏応力の弾性ロック部材430が弾性支点となってロアレール41,41及びアッパーレール42,42にその弾性が作用するため、ロアレール41,41及びアッパーレール42,42が実質的に弾性変形可能となり、振動や衝撃力の吸収、ガタつきの吸収あるいはフリクションの低減を図ることができる。特に、本実施形態では、アッパーレール42,42及びロアレール41,41を所定厚さ以下の薄肉材で形成されており、上記したように所定の部位に高剛性部を設定している。また、ロアレール41,41の両端部には補強用板状部材415,415が積層されている。従って、両端の補強用板状部材415,415や高剛性部がいわば支持部となり、その支持部に対して相対的に変形容易となっている変形容易部を含む他の部位に特に弾性ロック部材430の弾性が作用する。それにより、アッパーレール42,42及びロアレール41,41は全体が弾性部材のように機能することになり、弾性ロック部材430、アッパーレール42.42及びロアレール41,41にかかる偏荷重を弾性変形しながら吸収する効果が高い。また、振動入力に応じてこれらの部材が弾性変形するため、アッパーレール42,42及びロアレール41,41が振動吸収部材としての機能を果たすことになり、シートスライド装置40を含む乗物用シート1全体の振動吸収特性の向上に貢献できる。
【0049】
また、アッパーレール42,42及びロアレール41,41は全体が弾性部材のように機能することにより、両者の製造誤差があっても、あるいは、ロアレール41,41に上記のような部分的なへたりが生じていたとしても、弾性変形によってそれらを吸収して、ガタつきやフリクションを低減し、スムースな動きを実現できる。なお、弾性ロック部材430は、上記したアッパーレール42,42及びロアレール41,41に効率よく弾性を作用させる弾性支点となるように、アッパーレール42,42の長手方向略中央部に設けることが好ましい。すなわち、アッパーレール42,42の長手方向略中央部が弾性変形の中心となるため、偏荷重の吸収、フリクションの低減、振動吸収、衝撃力の吸収等の作用が偏りなく円滑に行われる。
【0050】
なお、上記実施形態では、操作部435aを連結軸435の一端のみに連結しているが、
図17〜
図19に示したように、連結軸435の端部435b,435bを左右両方に突出させ、両端部435b,435bに操作部435a,435aを設けた構成とすることができる。このようにすれば、シートスライド装置40を、運転席、助手席共に全く同じ構成となるので、いずれの席に使用することも可能である。また、操作部435a,435aが両側に設けられているため、運転席から助手席のロック解除を行うことも容易になる。また、このような共通化により組立工程が統一化され、生産量を増加させやすい。また、同一構造で組立工程を簡素化できるため、誤組付けや部品の組み付け忘れが低減し、検査工程も簡素化され、結果的に製造コストの低減に寄与する。また、使用時において、着座者は、左右いずれかの手で操作できるため、操作もしやすくなる。
【0051】
また、操作部435aの操作方向も限定されるものではない。これは、
図1〜
図16に示した態様、
図17〜
図19に示した態様のいずれの場合も同様であり、連結軸435への操作部435aへの取付方向により、
図20(a)に示したように、操作部435aの後方を押し下げてロック解除する構成としたり、
図20(b)に示したように、操作部435aの前方を上方向に操作してロック解除する構成としたりすることができる。シートスライド装置40を設置する乗物の種類に応じて適宜にアレンジできるし、また、使用者の好みに応じて操作方向を調整できるようにすることも可能である。
【0052】
なお、上記各実施形態において用いたロアレール41,41は、弾性ロック部材43の弾性が作用することによって弾性変形可能となっているが、ロアレール41,41自体をバネ鋼から形成することも可能である。この場合も、上記と同様の振動吸収、衝撃力の吸収作用等を機能させることができるが、ロアレール41,41自体をバネ鋼から形成することにより、弾性変形の支点となる高剛性部や補強用板状部の設定を不要とすることができ、構造がより簡易となる。この場合のバネ鋼としては、板厚1.0mm以下、好ましくは0.6〜1.0mmの範囲の薄肉材を使用することが軽量化のために好ましい。また、ロアレール41,41として、780MPa以上の高張力鋼を用いることもできる。この場合、板厚1.0mm以下、好ましくは0.6〜1.0mmの範囲の薄肉材とすることで上記した弾性ロック部材の弾性を作用させることができる。また、このような高張力鋼を用いることで、上記した開断面部等における熱処理工程を省くことも可能となる。
【0053】
また、ロアレール41,41は、上記したように、底壁部411,411を平坦面ではなく、幅方向両端角部付近に断面R形状の部位を形成し、幅方向両側に上方に突出する段差部411a,411aを有する構造とすることが、薄肉材から形成しても、ローラ416,416を介して荷重がかかった際に、段差部411a,411aの斜め上下方向に傾斜している部位(断面縦長部)によって支えられることになるため、へたりが生じにくくなるため好ましい。また、ローラ416,416は、各段差部411a,411a間隔に相当する幅(ローラ416自身の軸心に沿った方向の長さ)と略同じかそれよりも若干幅広に形成されていることが好ましい。その一方で、この段差部411a,411a及び幅方向両端角部付近の断面R形状の部位411b,411bに加え、
図21(a)に示したように、ロアレール41,41の底壁部411,411の幅方向略中央部411c,411cが上方に膨出する形状となる張力が働く形状にプレス成形することがさらに好ましい。
【0054】
これにより、乗員の体重によって下方向に負荷がかかると、
図21(b)に示したように、アッパーレール42,42及びローラ416,416を介して略中央部411c,411cの位置が下降して底壁部411,411が平坦になる方向に変形する。この変形が生じると、断面略R形状の部位411b,411b及び段差部411a,411aの剛性が相対的に高いため、ロアレール41,41の上壁部413,413が閉じる方向に側壁部412,412が変形する。アッパーレール42,42の位置が若干下がるため、ボールXは、
図21(a)の状態よりも、
図21(b)の状態では、アッパーレール42,42の上向き傾斜壁部423,423のより上部寄りの部位に接することになる。それにより、上向き傾斜壁部423,423は内側に傾斜しているため、ボールXへの押圧力が若干弱くなり、ボールXは転動しやすくなって、摩擦が小さくなり、アッパーレール42,42の摺動はより円滑になる。従って、この構成によれば、乗員が乗った状態で前後にスライドさせる際には、ロアレール41,41の断面形状の弾性変形に伴って、ボールXとの間の摩擦が転がり摩擦となるためスライド方向に動きやすくなり、さらに上下方向に力が入力されたときにはロアレール41,41の断面形状は呼吸をするように動き、一点への集中荷重が多点への分散荷重となり、面圧が分散されてへたりにくい構造となる。すなわち、通常であれば負荷質量の増加に伴ってクーロン力が増加するが、この構成によれば、荷重が入ることによって上記のように転がり摩擦となるため、負荷質量の増加でクーロン力が小さくなるという特徴を備える。なお、この構造により、ボールXに代えて、合成樹脂製の摺動子を用いても、摺動時の摩擦を小さくできるという利点がある。
【0055】
その一方、アッパーレール42,42にかかる荷重が小さくなると、ロアレール41,41の底壁部411,411は略中央部411c,411cが膨出する形状に復元しようとする。従って、ロアレール41,41の底壁部411,411にこのような張力を付与した構造とすることにより、大荷重及び繰り返し荷重の入力に対してその復元力が作用してガタつきやへたりを防止でき、薄肉材であっても高い耐久性を発揮させることができる。
【0056】
本実施形態の構成は、上記したように、乗員が乗った状態で前後にスライドさせる際には、ロアレール41,41の断面形状の弾性変形により、ロアレール41,41とアッパーレール42,42との間のクリアランスの変化が生じ、それにより、ボールXとの間の摩擦が転がり摩擦となるため動きやすくなり、スライド方向への抵抗を非常に低く抑えることができる構造となっている。
図22は、
図21に示した断面形状を有する実施形態のシートスライド装置1にクッションフレームユニットを支持した状態であって、スライダのロアレール41及びアッパーレール42の関係が
図21(a)の状態(ロアレール41の底壁部411の幅方向略中央部411cが上方に膨出している状態)となっている場合と、クッションフレームユニット上に60kgの錘を載せ、スライダのロアレール41及びアッパーレール42の関係が
図21(b)の状態(ロアレール41の底壁部411がたわんで平坦な状態)となっている場合について、前後にスライドさせ、その際のスライド力を調べた。なお、ここで使用した本実施形態のシートスライド装置1を構成するロアレール41及びアッパーレール42は、いずれも、厚さ約1.0mm、引張強度590MPaの鋼材である。また、ロック機構43の弾性ロック部材430は厚さ0.8mmのバネ鋼を用いている。
図22において、横軸のスライド位置は、ロアレール41に対するアッパーレール42のスライド可能長さの中間位置(0mm)から前後にスライドさせた離間距離を示し、スライド力は、アッパーレールをロアレールに対して一定速度でスライドさせるために付加した各測定位置における力である。60kgの錘を載せていない場合のスライド力は約16〜19Nの間であったが、60kgの錘を載せた場合にはスライド力が約6〜12Nになっておりスライド時の摩擦抵抗が大幅に低下していた。従って、上記したように、乗員が乗っている場合にはスムースにスライドする一方で、荷重が小さくなれば、幅方攻略中央部411cが膨出方向に復元するため、ガタつきやへたりを防止できることがわかる。
【0057】
スライド力の低下(スライド時の摺動抵抗の低下)をさらに
図23のように測定した。
図23(a)に示したように、アッパーレール42をバイスに固定し、ロアレール41を上側にして該ロアレール41の裏面上に錘を載せ、ロアレール41をアッパーレール42に相対移動させ、スライダ1本のときのスライド力を測定した。ロアレール41上に錘を載せていない状態(0kg)、10kgの錘を載せた状態、20kgの錘を載せた状態及び30kgの錘を載せた状態について、それぞれ所定の測定位置でのスライド力を測定した。結果を
図23(b)に示す。図において、「実施形態」は
図22の試験で用いたシートスライド装置1の片側のスライダのデータである。「比較例1」及び「比較例2」は市販車で採用されているシートスライド装置の片側のスライダのデータである。なお、比較例1のシートスライド装置は、ロアレール及びアッパーレールを、引張強度980MPa、板厚約1.4mmの高張力鋼から形成し、ロック機構のロック部材として、引張強度590MPa、板厚約2.3mmの普通鋼からなるものを使用し、比較例2のシートスライド装置は、ロアレール、アッパーレールを、引張強度590MPa、板厚約1.8mmの普通鋼から形成し、ロック機構のロック部材として、引張強度590MPa、板厚約2.3mmの普通鋼からなるものを使用している。また、比較例1,比較例2のいずれも、本実施形態のように、ロアレール41の底壁部411の両側に断面R形状の部位411bを有さず、断面略中央部411cが上方に膨出していない形状である。また、比較例1は断面W型形状で、ロアレールの側面に摺動用のボールが配設されており、比較例2は断面W型形状で、ロアレールの底面に摺動用のボールが配設された構造である。
【0058】
図23(b)に示したように、本実施形態では、10kg、20kg、30kgと、錘が重くなるほどスライド力が低下しているのに対し、比較例2は、錘が重くなるほどスライド力が上昇している。まず、比較例2の場合、ロアレール及びアッパーレールの板厚が厚いため、材料の降伏点が低く、両者間に位置するボールとのクリアランスによりスライド方向の抵抗力が変化する。また、いずれも摺動用のボールはロアレール又はアッパーレールの長手方向に形成された溝内に位置するように設けられており、ロアレール及びアッパーレールの相対移動によって、断面方向の位置が変化することのない構造である。すなわち、本実施形態では、上記したように荷重変化に伴ってボールXの断面方向の位置が変化し(
図21参照)、スライド方向の抵抗が軽減するが、比較例2ではそのようなことがない。このため、荷重の増加に伴って摩擦抵抗が増し、スライド方向の抵抗力が高くなる。一方、比較例1は、ロアレール及びアッパーレールとして高張力鋼を用いている。摺動用のボールの位置が荷重によって変化しない点では比較例2と同様であるが、高張力鋼を用いているため、荷重変動をアッパーレールの縦壁部及びロアレールの側壁部の弾性によって吸収しようとする。そのため、比較例1のスライド力は、比較例2のような荷重依存性はなく錘の重量が増してもほぼ一定である。しかし、本実施形態のようにロアレール41の断面形状が変化する(上記のように底壁部411が膨出形状から平坦な形状に変化する)構造ではないため、荷重増加に伴ってスライド方向の抵抗力が低下するという現象は生じない。従って、本実施形態は、比較例と比べて、乗員が、着座状態のまま、軽い力でスライド操作できることがわかる。
【0059】
本実施形態は、上記したように、ロアレール41が薄肉の素材から形成され、また、ロアレール41の底壁部411の両側に断面R形状の部位411bを有し、好ましくは、それらの間の断面略中央部411cが上方に膨出している形状であると共に、アッパーレール42とロアレール41との間に配設されるボールXに加えて、ロアレール41の底壁部411にローラ416を配置している。このため、上記のように、スライド力が一般のシートスライド装置と比較して大幅に低い。
【0060】
また、本実施形態では、ロック機構43が薄肉のバネ鋼からなる弾性ロック部材430を備えている。この弾性ロック部材430は、上記のように、アッパーレール42への取付板部431に作用板部432及びロック爪433が一体に形成されており、このロック爪433がロアレール41に形成された孔又は溝からなる被係合部414aに係合する。すなわち、作用板部432は取付板部431に対して離間する方向に付勢され、ロック爪433が常に被係合部414aに係合する方向に付勢されているが、ロック爪433のこの付勢力は、作用板部432に、一体に形成された取付板部431から離間する方向に弾性が作用するためである。仮に、ロック爪433を備えた作用板部432が取付板部431と一体に形成されていないとすると、作用板部432及びロック爪433を付勢するために、例えば、作用板部432の基端部に軸部材を設け、さらにこの軸部材を回転させて付勢するためのバネ部材が別途必要となる。その結果、作用板部432及びロック爪433を付勢するための機構部における抵抗によって構造減衰が生じる。しかし、取付板部432に作用板部432及びロック爪433が一体に形成された本実施形態の場合には、そのような構造減衰を生じることがないため、作用板部432の復元力によるロック爪433の係合動作がロスなく速やかに行われる。そのため、ロック爪433が、対応する被係合部414aの位置に至ると速やかに係合方向に付勢され、中途半端に引っかかった擬似ロック(あるいはハーフロック)状態となることが極めて少ない。
また、弾性ロック部材430は薄いため、作用板部432及びロック爪433はその前後方向にも弾性が作用すると共に、ロック爪433がたわみやすい。これにより、ロックの際には、ロック爪433は被係合部414aにたわみを伴いながら容易に侵入することができ、この作用も、擬似ロックの抑制に役立つ。
【0061】
また、本実施形態では、ロック解除部材434は、弾性ロック部材430の作用板部432が開こうとするため、それによって一端部を中心として上方に回動する方向に付勢されており(
図14及び
図15参照)、ロック解除時は、下方に回動させて膨出部432aを押圧するが、ロック時においては操作している手を離すと、上方向に回動して原位置に復帰する。このとき、ロック解除部材434としても薄肉のものを用いることにより、慣性モーメントが小さくなり、回動速度も速くなり、上記した擬似ロック状態の中途半端な位置で回転動作が止まってしまうことを防ぐのに役立つ。従って、ロック解除部材434を構成する部材も、板厚1.8mm以下のもの、好ましくは0.6〜1.6mmの範囲のもの、より好ましくは0.6〜1.2mmの範囲のもの、さらには0.6〜1.0mmの範囲のものを使用することが好ましい。
【0062】
上記したスライド力(スライド時の摩擦抵抗)が小さいこと、ロック機構43がバネ鋼からなる弾性ロック部材430を備え、ロック爪433の被係合部414aの係合が速やかに行われること、さらに、薄肉の作用板部432及びロック爪433によって前後方向のズレを吸収できること等から、本実施形態のシートスライド装置1(ロアレール41の断面形状が
図21と同様のもの)は、基本的に、ロック爪433が被係合部414aに侵入しきらずに、中途半端に引っかかった擬似ロック(あるいはハーフロック)状態となることが少ない構造であるとともに、仮に、そのような擬似ロック状態になっていたとしても、フロアからの振動や乗員の僅かな前後移動等により、速やかに擬似ロック状態が解消されるという特性を有する。この点を明らかにするため、ロック爪433が、ロアレール41の孔又は溝からなる被係合部414aに係合させない状態、すなわち、ロック爪433が隣接する被係合部414a,414aの間に位置している状態にしておき、その状態で加振した場合、人が着座した場合に、ロック爪433が被係合部414aに係合してロックするか否かについての試験を行った。
【0063】
試験は、
図24(a)に示したように、シートスライド装置1に自動車用のシートを支持し、加振機の定盤上にセットして行った。その結果が
図24(b)〜(e)であり、このうち
図24(b)〜(d)は、
図22及び
図23の試験で用いたものと同様の構成の3台の本実施形態のシートスライド装置1の試験結果であり、
図24(e)は
図23の比較例1の試験結果である。「上下加振」は、3〜17Hzで上下方向に振動を入力した際のデータである。「スライド角」は、ロアレール41の傾き角度(0°、3°、6°に設定)である。「G」は入力加速度(0.1、0.3、0.5に設定)を示し、加重はシートクッション上に載置した錘の重さ(20kg、40kg、60kg)である。「普通着座」はシートクッション上に人着座した際の試験結果であり、「尻下=50」は、臀部から座面までの距離50mmの位置から静かに着座した場合、「尻下=100」は、臀部から座面までの距離100mmの位置から静かに着座した場合、「尻下=150」は、臀部から座面までの距離150mmの位置から静かに着座した場合の結果を示す。また、
図25は、上下加振の試験において、擬似ロック状態が解消して正常なロック状態になった場合と、擬似ロック状態が解消せず正常なロック状態にならなかった場合についてまとめて示したものである。
【0064】
まず、「上下加振」の結果では、本実施形態の場合、
図24(b)〜(d)及び
図25に示したように、G=0.3、G=0.5では、いずれのスライド角においても、20〜60kgの加重を付加した場合、全てのケースでロック爪433が被係合部414aに正常にロックし、擬似ロックは解消していた。また、
図24(b)〜(d)に示したように、G=0.1の場合でもスライド角3°以上ではほぼ擬似ロックが解消していた。また、擬似ロック解消時の周波数は、共振周波数f0=1/(2π√(m/k)により算出したところ、全て共振点未満の値であった。
比較例1の場合、
図24(e)及び
図25に示したように、擬似ロックが解消したのは、ウェイト40kg及び60kgの場合であって、加速度G=0.3及びG=0.5で、スライド角6°の条件下の4例のみであった。
図24(e)において、G=0.1、加重40kg及び60kg、スライド角3°及び6°の条件下で記載されている周波数、G=0.3、加重40kg及び60kg、スライド角3°の条件下で記載されている周波数、G=0.5、加重40kg、スライド角3°の条件下で記載されている周波数、G=0.5、加重60kg、スライド角0°及び3°の条件下で記載されている周波数は、いずれも共振周波数以上の値であった。すなわち、
図24(e)は、これらの条件下においても所定の周波数で擬似ロックが解消されたということであるが、解消時の周波数はいずれも共振周波数以上であり、共振によって錘が大きく上下に変位したため、つまりフロアから入力される振動以外の外力が付与されたために擬似ロックが解消されたものである。そのため、
図25では、これらの条件は擬似ロックが解消されない場合として表示した。
【0065】
「普通着座」の試験では、
図24(b)〜(d)の本実施形態では、全ての条件でロック状態になったが、
図24(e)の比較例2では、臀部から座面までの距離50mm(尻下=50)、100mm(尻下=100)で、スライド角0°では、ロックしない場合があった。
【0066】
これらのことから、本実施形態では、フロアからの僅かな振動入力、あるいは、着座時等における僅かな力の変化があれば速やかにロックされ、擬似ロック状態になりにくい特性を有することがわかった。すなわち、ロック爪433が、ロアレール41の孔又は溝からなる隣接する被係合部414a,414aの間に位置している状態であっても、ロック爪433が従来と比較して極めて薄いため、両者の接触面積が小さく、両者間の摩擦抵抗が小さいと共に、バネ鋼からなる取付板部431に作用板部432及びロック爪433が一体に形成されているため、ロック爪433を被係合部414aに係合させる方向への弾性が構造減衰によるロスがなく作用して、僅かな力の変化があれば、この擬似ロック状態を速やかに解消する方向にアッパーレール42が変位し、正常なロック状態となる。
【0067】
図25は、上記した乗物用シート1のシートベルトのショルダストラップとラップストラップに、それぞれ前方に約15kNの荷重を同時にかけると共に、シート質量の約20倍の荷重をシートクッション部の重心位置に前方斜め下方となるようにかけることにより前面衝突の模擬実験を行った際のスライダの断面形状の変化を示した図である。実験前と比較して、上記のように弾性が付与されたロアレール41は、底壁部411と側壁部412の角部、及び、側壁部412と上壁部413の角部が縦方向に延びるように変形し、より平坦に近くなっている。一方、アッパーレール42は、横壁部422が横向きからやや縦向きとなる方向に変形しているが、ロアレール41から抜けることなく、とどまっている。すなわち、ロアレール41及びアッパーレール42のこのような変形により、薄板で軽量であるにも拘わらず、衝撃力によるエネルギーを吸収することができる。