(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、電動サーボモータで駆動されるプレス装置が知られている(例えば特許文献1参照)。特許文献1に記載のプレス装置は、ベッドと、ベッドに対して上下動可能なスライドとを備えている。ベッドには下金型が取り付けられ、スライドには上金型が取り付けられる。このプレス装置は、上金型と下金型との間に被加工物を挟み、電動サーボモータでスライドをベッドに対して下降させることにより被加工物を押圧してプレス加工を行う。
【0003】
このようなプレス装置は、スライドの下死点近傍において、操作ミスや金型の寸法の不適合により、上金型と下金型とが係合したり、上金型と下金型との間に被加工物が噛み込んだ状態となったりすることによりスライドを昇降させることができなくなるスティック状態に陥る場合がある。特許文献1に記載のプレス装置では、プレス加工時におけるスライドの下降時には、電動サーボモータの負荷トルクを第1の制限値以下に制限する。そして、スティック状態となった場合には、上述の第1の制限値よりも大きな第2のトルク制限値によるトルク制限をかけた状態で電動サーボモータを逆回転させることにより、プレス装置はスティック状態からの離脱を行う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のプレス装置では、スティック状態からの離脱時において、電動サーボモータに第2のトルク制限値によるトルク制限をかけ、このトルク制限の範囲で電動サーボモータを連続的に駆動する。このため、電動サーボモータをその最大許容出力近くのトルクで駆動することは難しい。したがって、トルクが不十分となって、プレス装置がスティック状態から離脱できない場合があった。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、スティック状態から好適に離脱することのできるプレス装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るプレス装置は、昇降可能に設けられたスライドと、回転運動によりスライドを昇降させる偏心軸と、偏心軸を回転駆動するサーボモータと、サーボモータの動作を制御する制御部と、を備え、制御部は、スティック状態が発生した場合に、サーボモータの定格トルクを超えるインパルス状のトルクをサーボモータに出力させる。
【0008】
本発明に係るプレス装置によれば、スティック状態が発生した場合に、サーボモータの定格トルクを超えるインパルス状のトルクをサーボモータに出力させる。これにより、急峻な立ち上がり特性を有する力がスライドに加えられ、スライドの昇降不能な状態が解消される。したがって、スティック状態から好適に離脱することが可能となる。
【0009】
制御部は、サーボモータにインパルス状のトルクを出力させる前及び後において、サーボモータのトルクをゼロとするように制御してもよい。この場合、サーボモータが常時トルクを出力することがなくなるため、サーボモータの発熱が緩和される。
【0010】
制御部は、サーボモータにインパルス状のトルクを出力させる前及び後において、バックラッシュ補償が可能なトルクを出力させるようにサーボモータのトルクを制御してもよい。この場合、インパルス状のトルクを出力させる前及び後において、サーボモータはトルクを発生し、バックラッシュ補償を行う。したがって、サーボモータやサーボモータと連結された減速機に設けられたギアの歯同士の衝突(衝撃)によるギアの疲労を抑制することができる。
【0011】
制御部は、インパルス状のトルクを断続的に複数回出力させるようにサーボモータのトルクを制御してもよい。この場合、インパルス状のトルクを1回出力させただけではスティック状態からの離脱ができない場合であっても、インパルス状のトルクを複数回出力させることにより、より好適にスティック状態からの離脱を行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、スティック状態から好適に離脱することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照しながら本発明によるプレス装置の一実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0015】
図1は、本発明の実施形態に係るプレス装置の正面視断面図である。
図2は、
図1のII‐II線矢視図である。なお、以下の説明において、水平面内の一の方向をX軸方向、水平面内においてX軸に垂直な方向をY軸方向、鉛直方向をZ軸方向とする。
【0016】
図1及び
図2に示すように、プレス装置1は、フレーム2と、ベッド3と、を備える。フレーム2及びベッド3は、鉛直方向に延びる4本のタイロッド4により結合されている。
【0017】
フレーム2には、偏心軸としてのエキセン軸5が取り付けられている。なお、偏心軸としてクランク軸を用いてもよい。エキセン軸5は、水平方向(X軸方向)に延在する。エキセン軸5の軸方向中心部には、偏心部5aが設けられている。エキセン軸5において、偏心部5aの両端には、一対の同軸部5b,5bが設けられている。一対の同軸部5b,5bは、フレーム2に回転自在に支持されている。偏心部5a及び同軸部5bは、ともに、円柱形状を有する。偏心部5aの径は、同軸部5bの径よりも大きくされている。エキセン軸5の軸線方向から見た場合に、偏心部5aの中心軸は、同軸部5bの中心軸に対して、ずれている。エキセン軸5には、減速機等を介してサーボモータ等の駆動機構(不図示)が連結されている。エキセン軸5は、この駆動機構により、回転駆動される。
【0018】
エキセン軸5の偏心部5aには、スライド7が取り付けられている。スライド7は、ベッド3に対向して配置されている。スライド7には、摺動室7hが設けられている。摺動室7hは、エキセン軸5の軸方向(X軸方向)と直交する水平方向(Y軸方向)に、スライド7を貫通する。スライド7は、スライドガイドにより、上下方向(Z軸方向)への移動が案内される。
【0019】
スライド7の摺動室7hには、ヨーク6が嵌められている。ヨーク6は、摺動室7hにおいて、Y軸方向に摺動自在とされている。ヨーク6には、エキセン軸5の偏心部5aが嵌められ、エキセン軸5の軸方向回りに回転自在とされている。なお、以下の説明において、エキセン軸5、エキセン軸5に連結されたサーボモータ等の駆動機構、エキセン軸5と駆動機構との間に設けられた減速機、及びヨーク6を含めた部分をスライド駆動部と称する。
【0020】
このような構成により、駆動機構を作動させると、エキセン軸5が回転する。エキセン軸5の回転に伴って、ヨーク6がY軸方向の動きとZ軸方向の動きとを組み合わせた動作を行う。このヨーク6の動作に伴い、スライド7が、スライドガイドに案内されて上下方向に移動する。このようにして、スライド7は、ベッド3に対して可動とされ、昇降可能に設けられている。
【0021】
スライド7の下部には、ダイクッション8と、ダイクッション8を制御する油圧シリンダ9が設けられている。油圧シリンダ9は、枠体10と、ピストン12とを備える。枠体10の内部には、油室11が設けられる。ピストン12は、油室11の内側に、上下方向に移動可能な状態で収容されている。油室11は、ピストン12により、上側油室11aと下側油室11bとに区切られている。
【0022】
プレス装置1は、さらに、サーボバルブ13a,13bを備える。サーボバルブ13aは、配管14aを介して上側油室11aに連結されている。サーボバルブ13aは、上側油室11a内の油の量を調整する。サーボバルブ13bは、配管14bを介して下側油室11bに連結され、下側油室11b内の油の量を調整する。
【0023】
ピストン12には、鉛直方向下向きに延びるシリンダロッド15が取り付けられている。シリンダロッド15の、ピストン12と反対側の端部には、上金型16(第2の金型)が取り付けられている。すなわち、上金型16は、ピストン12の動作により、スライド7に対して鉛直方向に可動な状態で、スライド7に設けられている。
【0024】
ベッド3の上部には、下金型17が設けられている。プレス装置1は、スライド7をベッド3に対して降下させて、上金型16と下金型17でワークW(被成形品)を挟み込み、さらに上金型16に対しピストン12で鉛直方向の荷重を調整することで、ワークWにかかる荷重を調整して、ワークWに対して所望の成形加工を行う。
【0025】
次に、
図3を参照して、プレス装置1の制御に係る機能ブロックについて説明する。プレス装置1は、上述したように昇降可能に設けられたスライド7と、回転運動によりスライド7を昇降させるエキセン軸5と、エキセン軸5を回転駆動するサーボモータ21と、サーボモータ21の動作を制御する制御部22と、スライド7がスティック状態となっているか否かを検出するスティック状態検出部23と、を備えている。
【0026】
ここで、スティック状態とは、スライド7が下死点近傍にある場合において、サーボモータ21が通常のトルクを出力してもスライド7を昇降させることができなくなる状態をいう。このようなスティック状態は、例えば操作者による操作ミスや金型の寸法の不適合により、上金型16と下金型17とが係合したり、上金型16と下金型17との間にワークが噛み込んだ状態となったりすることにより発生し得る。
【0027】
制御部22は、サーボモータ21に対して、位置、速度、又はトルク等の指令を出力する。サーボモータ21は、制御部からの位置、速度、又はトルク等の指令に基づいた位置、速度、又はトルク等で回転する。通常の運転時においては、制御部22は、サーボモータ21の出力トルクが定格トルクの範囲内となるように、サーボモータ21の回転動作を制御する。
【0028】
スティック状態検出部23は、例えば、スライド7の変位とサーボモータ21のトルクとを検出し、サーボモータ21が一定以上のトルクを出力していながらもスライド7の変位が変化しない場合等に、スティック状態が発生したと判定する。なお、プレス装置1にスティック状態検出部23を設ける代わりに、プレス装置1の操作者が、スティック状態が発生したことを例えば目視で発見するようにしてもよい。
【0029】
スライド7がスティック状態となった場合に、制御部22は、サーボモータ21にインパルス状のトルクを発生させる。このインパルス状のトルクは、そのピーク値がサーボモータ21の定格トルクを超えるものである。サーボモータ21の定格トルクは、具体的には、サーボモータ21の連続運転時における連続定格トルクである。
【0030】
インパルス状のトルクの時間変化の一例を
図4に示す。
図4の横軸は時間を示す。
図4の縦軸はサーボモータのトルクを示す。まず、時刻t1から時刻t2までの間に、サーボモータ21のトルクは、0からピーク値Niまで増加する。このピーク値Niは、連続定格トルクNcを超える値である。時刻t1から時刻t2までの立ち上がり時間trは、サーボモータ21及び制御部22の電気回路特性にも依存するが、例えば100マイクロ秒〜1ミリ秒程度であることが好ましい。
【0031】
次に、時刻t1から時刻t2までの間、サーボモータ21のトルクは、ピーク値Niのまま一定値で推移する。時刻t2から時刻t3までのインパルス幅thは、例えば0〜1秒程度である。
【0032】
最後に、時刻t3から時刻t4までの間に、サーボモータ21のトルクは、ピーク値Niから0まで減少する。以上のように、サーボモータ21のトルクが極めて短時間で急峻に立ち上がり、その後継続的にトルクが維持されることなく、短時間でトルクが戻るようなトルクを、本実施形態では「インパルス状のトルク」に該当する。このようなサーボモータ21にインパルス状のトルクを出力させるように制御することにより、一瞬ではあるものの、サーボモータ21をその最大許容出力近くのトルクで駆動させることが可能となる。例えば、ピーク値Niとして、連続定格トルクNcの300%を超える出力を得ることもできる。
【0033】
なお、インパルス状のトルクにおいては、特に時刻t1からt2までの間にトルクが急峻に立ち上がることが、スティック状態からの離脱のためには特に効果的である。したがって、例えば、時刻t2以後に、
図4の一点鎖線の曲線で示すように、トルクがピーク値Niから指数関数的に減少するように変化してもよい。
【0034】
制御部22は、上述したようなインパルス状のトルクを1回だけサーボモータ21に出力させてもよいし、断続的に複数回出力させてもよい。
図5は、サーボモータ21にインパルス状のトルクを複数回出力させる場合の、サーボモータ21のトルクの時間変化の一例を示す図である。
【0035】
図5(A)は、一定の間隔でサーボモータ21にインパルス状のトルクを出力させた場合の、サーボモータ21のトルクの時間変化を示す。
図5(B)は、インパルス状のトルクを1回発生させた後、スティック状態検出部23が、まだスティック状態が継続していることを検出した場合に、再度インパルス状のトルクを発生させることとした場合の、サーボモータ21のトルクの時間変化を示す。
図5(B)では、3回のインパルス状のトルクを発生させた場合を示している。
【0036】
図5(A)及び
図5(B)のいずれの場合にも、制御部22は、サーボモータ21にインパルス状のトルクを出力させる前及び後において、サーボモータ21のトルクをゼロとするように制御している。また、インパルス状のトルクのピーク値Niは、連続定格トルクNcを上回っている。
【0037】
図6は、サーボモータ21にインパルス状のトルクを複数回出力させた場合の、サーボモータ21のトルクの時間変化の別の一例を示す図である。
図6(A)は、
図5(A)と略同様の波形であるが、サーボモータ21にインパルス状のトルクを出力させる前及び後において、0でないトルクNbを出力させる点で異なっている。トルクNbは、バックラッシュ補償可能なトルクである。すなわち、サーボモータにトルクNbを出力させておくことにより、サーボモータや不図示の減速機に設けられたギアを、当該ギアと組み合わされるギアの歯に押し当てておき、ギアの歯同士の衝突(衝撃)によるギアの疲労を抑制する。なお、
図6(A)では、トルクNbがインパルス状のトルクと同方向の場合を示しているが、トルクNbは、インパルス状のトルクと逆の方向であってもよい。
【0038】
図6(B)は、
図5(B)と略同様の波形であるが、サーボモータ21にインパルス状のトルクを出力させる前及び後において、バックラッシュ補償可能なトルクNbを出力させる点で異なっている。なお、トルクを出力する回転方向は特に限定されず、正方向の回転に係るトルクを出力してもよく、負方向の回転に係るトルクを出力してもよい。
【0039】
図6(C)は、
図5(A)において、インパルス状のトルクを出力するタイミングで、インパルス状のトルクの代わりにインパルス状のトルクと逆の方向でピーク値が−Naのトルクを出力させた例を示している。
【0040】
以上説明したように、本発明に係るプレス装置1によれば、スティック状態が発生した場合に、サーボモータ21の定格トルクを超えるインパルス状のトルクをサーボモータ21に出力させる。これにより、急峻な立ち上がり特性を有する力がスライド駆動部に加えられ、スライドの昇降不能な状態が解消される。したがって、例えば金型を破壊したりする等の方法によらずとも、スティック状態から好適に離脱することが可能となる。
【0041】
また、制御部22がサーボモータ21にインパルス状のトルクを出力させる前及び後において、サーボモータ21のトルクをゼロとするように制御した場合には、サーボモータ21が常時トルクを出力することがなくなるため、サーボモータ21の発熱が緩和される。
【0042】
さらに、制御部がサーボモータ21にインパルス状のトルクを出力させる前及び後において、バックラッシュ補償が可能なトルクを出力させるようにサーボモータ21のトルクを制御した場合には、インパルス状のトルクを出力させる前及び後において、サーボモータ21はトルクを発生し、バックラッシュ補償を行う。したがって、サーボモータ21やサーボモータ21と連結された減速機に設けられたギアの歯同士の衝突(衝撃)によるギアの疲労を抑制することができる。
【0043】
また、制御部22が、インパルス状のトルクを断続的に複数回出力させるようにサーボモータ21のトルクを制御した場合には、インパルス状のトルクを1回出力させただけではスティック状態からの離脱ができない場合であっても、インパルス状のトルクを複数回出力させることにより、より好適にスティック状態からの離脱を行うことができる。