特許第6195792号(P6195792)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6195792共沸気化及び低い水対エチルベンゼン総比率を用いた、エチルベンゼンからのスチレンの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195792
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】共沸気化及び低い水対エチルベンゼン総比率を用いた、エチルベンゼンからのスチレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 5/333 20060101AFI20170904BHJP
   C07C 7/04 20060101ALI20170904BHJP
   C07C 7/06 20060101ALI20170904BHJP
   C07C 15/46 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   C07C5/333
   C07C7/04
   C07C7/06
   C07C15/46
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-544494(P2013-544494)
(86)(22)【出願日】2011年11月16日
(65)【公表番号】特表2014-505674(P2014-505674A)
(43)【公表日】2014年3月6日
(86)【国際出願番号】US2011060974
(87)【国際公開番号】WO2012082292
(87)【国際公開日】20120621
【審査請求日】2013年8月8日
【審判番号】不服2016-5023(P2016-5023/J1)
【審判請求日】2016年4月5日
(31)【優先権主張番号】12/966,258
(32)【優先日】2010年12月13日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509307439
【氏名又は名称】ルムス テクノロジー インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ガミ エージェイクマール チャンドラバンダン
(72)【発明者】
【氏名】ラム サンジェーヴ
【合議体】
【審判長】 佐藤 健史
【審判官】 瀬良 聡機
【審判官】 冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】 特開平6−92878(JP,A)
【文献】 特開平6−192141(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0240940(US,A1)
【文献】 特開昭62−148434(JP,A)
【文献】 特開平8−301799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07B31/00-63/04
C07C1/00-409/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチルベンゼンの脱水素方法であって、
エチルベンゼンと水蒸気とを含有しているとともに第1の水蒸気対エチルベンゼン重量比を有する反応物蒸気流を、脱水素条件下において、1つ以上の反応器を有する反応ゾーンにおいて脱水素触媒と接触させ、スチレン、水蒸気及び未反応エチルベンゼンを含有する気相流出物を形成する工程と、
少なくとも一部の前記流出物をスプリッターへ供給し、前記未反応エチルベンゼンから前記スチレンを分離する工程と、
前記スプリッターから前記未反応エチルベンゼンを塔頂留分として回収する工程と、
前記塔頂留分は、第1の部分と第2の部分に分けられるように構成されており、
前記スプリッターから前記スチレンを塔底留分として回収する工程と、
エチルベンゼン及び水を含む混合物との間接熱交換によって前記塔頂留分の前記第1の部分から熱を回収することにより、前記部分を少なくとも部分的に凝縮するとともに、エチルベンゼンと水蒸気とを含有し第2の水蒸気対エチルベンゼン重量比を有する共沸気化生成物を形成する工程と、
前記共沸気化生成物を追加的なエチルベンゼン及び追加的な水蒸気と混ぜ合わせることにより、第3の水蒸気対エチルベンゼン重量比を有する混合物を形成する工程と、
前記第3の水蒸気対エチルベンゼン重量比を有する混合物を追加的な水蒸気と混ぜ合わせることにより、前記反応物蒸気流を形成する工程を含み、
前記塔頂留分の前記第2の部分は、前記混合物との間接熱交換に用いられず、
前記第1の水蒸気対エチルベンゼン重量比は、0.7〜1.5の範囲であり、
前記第2の水蒸気対エチルベンゼン重量比は、0.4〜0.6の範囲であり、
前記第3の水蒸気対エチルベンゼン重量比は、0.1〜0.5の範囲である方法。
【請求項2】
さらに、間接熱交換によって前記塔頂留分の前記第2の部分から熱を回収することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記流出物が、さらに前記スチレンよりも重い反応副生成物を含有しており、
前記方法はさらに、
前記塔底留分をスチレン回収カラムへ供給し、前記反応副生成物から前記スチレンを分離する工程と、
前記スチレン回収カラムの塔底留分と前記塔頂留分の前記第2の部分と間接熱交換させて、再沸蒸気を前記スチレン回収カラムへ供給する工程と、
を含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2の水蒸気対エチルベンゼン重量比は、0.45〜0.55の範囲である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の水蒸気対エチルベンゼン重量比は、0.8〜1.2の範囲である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の水蒸気対エチルベンゼン重量比は、0.9〜1.0の範囲である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第3の水蒸気対エチルベンゼン重量比は、0.25〜0.35の範囲である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示されている実施形態は、水蒸気存在下でのエチルベンゼンの脱水素化によるスチレンの製造方法に関する。より詳しくは、本明細書に開示されている実施形態は、脱水素化反応器への液状エチルベンゼン及び水の供給物の共沸気化を用いて、スチレンからのエチルベンゼンのような様々な脱水素生成物の凝縮熱を回収する場合の、より低い水対エチルベンゼン総重量比(より低い水(水蒸気)対オイル総重量比)での、エチルベンゼンの脱水素化に関する。
【背景技術】
【0002】
米国特許第4,628,136号明細書には、エチルベンゼンと水との共沸混合物を沸騰させるために、エチルベンゼン/スチレンモノマー(EB/SM)スプリッターの塔頂流を使用することによってこの塔頂流に含まれる熱を回収する方法であって、一旦気化した共沸混合物を、その後エチルベンゼンからスチレンへの脱水素化が起こる反応系へ移す方法が教示されている。米国特許第4,628,136号明細書に記載されているように、EB供給物は、EB/SM分離カラムの塔頂流内の水と共に気化する。これは、EBと水とが低沸点共沸混合物を形成する故に可能なことである。
【0003】
図1を参照すると、米国特許第4,628,136号明細書に記載されているものと同様な、共沸熱回収のための簡略化された工程系統図が図示されている。脱水素反応器(又は上流での分離)からの粗製スチレンは、フローライン10を介してEB/SMスプリッター12へ送られる。スチレン生成物は塔底留分14として回収され、エチルベンゼン(ベンゼン、トルエン、キシレンなどの他の不純物(BTX)も一緒の場合もある)は、塔頂留分16として回収される。塔頂留分16は、フローライン18を介して送られるエチルベンゼン(再利用及び/又は未使用)及び水(脱水素生成物から回収した復水など)との、共沸気化器20内での間接熱交換によって凝縮される。凝縮された塔頂留分は、フローライン22を介して共沸気化器20から回収され、一部はカラム還流のために使用されてもよく、一部はBTX成分がEB/SMスプリッターの上流で分離されていない場合ときにBTXを回収するなどの下流工程(図示せず)に送られてもよい。気化したEBと水との共沸混合物は、フローライン24を介して共沸気化器20から回収され、脱水素反応ゾーン(図示せず)に送られる。
【0004】
流れ24中のEBと水蒸気の重量比は、一般的に、脱水素反応領域の1次水蒸気対オイル重量比と呼ばれている(PS/オイル重量比)。米国特許第4,628,136号明細書に記載されているようなこの構成では、この混合物はEB/SM分離カラム塔頂蒸気に逆らって気化する(そうでない場合は、塔頂蒸気は冷却水を用いて凝縮される)ので、EBと水の沸騰に関連するエネルギーを節約することができる。
【0005】
図2を参照すると、脱水素反応領域の一般的な構成の簡略化された工程系統図が図示されている。SMは、吸熱反応であるEB供給物の脱水素化によって製造される。EBと水との気化した共沸混合物は、フローライン24を介して反応ゾーンへ送られる。反応ゾーンは、2〜4個の脱水素反応器26、28を有していてもよい。各反応器26からの流出物は、次の反応器26又は最終反応器28に入る前に水蒸気を用いて再加熱されてもよい。反応流出物を再加熱するために用いられる水蒸気は、一般的に主水蒸気(MS)と呼ばれ、これは、水蒸気過熱器30からフローライン32を介して供給され、最終的にPS/オイル(気化したEB/水)混合物と共に第1の反応器26の入り口34へ入る。PS/オイル混合物は、交換器36中で最終反応器28からの流出物によって予熱されてもよい。
【0006】
米国特許第4,628,136号明細書の背景技術に記載されているように、本業界における注目事項は、数ある問題の中でも、エネルギー効率と触媒の開発との間で周期的に動いているようである。しかし、これら異なる領域の改良は、工程全体に影響を与える場合がある。例えば、新規な触媒、開発中の新規な触媒であってもよい、を利用することができ、それらは、より低い水蒸気対オイル総重量比((MS+PS)/オイル)で脱水素反応器の運転を行うことが可能である。例えば、開発中の新しい触媒によって、水蒸気対オイル総重量比が0.9〜1.0、あるいは更に低い値で運転を行うことができる可能性もある。
【0007】
EB/SMスプリッターからの塔頂流との相互交換に適した条件でのエチルベンゼン−水混合物の共沸気化は、気化した共沸混合物のPS/オイル重量比の制御に関して可変性が限られている。そのため、より低い水蒸気対オイル総重量比での運転は、主水蒸気(MS)の量を低減することが必要とされる。しかし、主水蒸気の量の低減は、各反応段階間の反応器流出物の再加熱に影響を与える。したがって、同じ反応熱を与えることが必要とされるので(同じSM製造速度で)、少量のMSでより高い炉温及び移送ライン温度が必要とされる。しかし、S/O総重量比が1.0以下では、必要とされる熱を与えるのに要する温度は、加熱コイル38及び関連する移送ラインの現在の冶金学的限度を超える場合がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
共沸気化器へ熱を与えるためにEB/SMスプリッター塔頂流の一部のみを使用することによって、EB/SMスプリッター塔頂流からの熱回収の十分な利益を得られるだけでなく、水蒸気対オイル総重量比が1.0未満を含む幅広い水蒸気対オイル総重量比で、脱水素反応ゾーンを運転するための十分な工程適応性が得られることが見出された。本明細書に開示されている実施形態の利益は、主水蒸気対オイル重量比を減らすことなしに実現することができ、その結果、必要とされる反応器流出物再加熱能力が与えられることである。
【0009】
1つの態様では、本明細書に開示の実施形態は、アルキル芳香族炭化水素の脱水素方法であって、アルキル芳香族炭化水素と水蒸気とを含有しているとともに第1の水蒸気対アルキル芳香族炭化水素重量比を有する反応物蒸気流を、脱水素条件下で1つ以上の反応器を有する反応ゾーンで脱水素触媒と接触させ、生成物炭化水素、水蒸気及び未反応アルキル芳香族炭化水素を含有する気相流出物を形成すること、少なくとも一部の前記流出物をスプリッターへ供給して未反応アルキル芳香族炭化水素から生成物炭化水素を分離すること、スプリッターから未反応アルキル芳香族炭化水素を塔頂留分として回収すること、スプリッターから生成物炭化水素を塔底留分として回収すること、アルキル芳香族炭化水素と水とを含む混合物との間接熱交換によって第1の部分の前記塔頂留分から熱を回収することで、第1の部分を少なくとも部分的に凝縮してアルキル芳香族蒸気及び水蒸気を含有しており第2の水蒸気対アルキル芳香族炭化水素重量比を有する共沸気化生成物を形成すること、共沸気化生成物を追加的なアルキル芳香族炭化水素及び追加的な蒸気と一緒に又は別々に混ぜ合わせて反応物蒸気流を形成すること、を含む製造方法に関する。
【0010】
他の態様及び利点は、以下の説明及び添付の特許請求の範囲の記載から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1は、共沸気化器を用いたエチルベンゼン/スチレンモノマー(EB/SM)スプリッターの塔頂流からの熱回収方法についての、先行技術の簡略化した工程系統図である。
【0012】
図2は、エチルベンゼン(EB)からスチレンモノマー(SM)を製造するための一般的な脱水素反応システムについての、簡略化した工程系統図である。
【0013】
図3は、本明細書に開示されている実施形態にかかるスチレンモノマー(SM)製造方法の一部についての、簡略化した工程系統図である。
【0014】
図4は、本明細書に開示されている実施形態にかかるスチレンモノマー(SM)製造方法の一部についての、簡略化した工程系統図である。
【0015】
図5は、本明細書に開示されている実施形態にかかるスチレンモノマー(SM)製造方法の一部についての、簡略化した工程系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書に開示されている実施形態は、水蒸気の存在下におけるエチルベンゼンの脱水素化によるスチレンの製造方法に関する。より詳しくは、本明細書に開示されている実施形態は、脱水素反応器への液状エチルベンゼン及び水の供給物の共沸気化を用いて、スチレンからエチルベンゼンのような様々な脱水素生成物の凝縮熱の回収を行いながら、より低い水蒸気対エチルベンゼン総重量比(より低い水蒸気対オイル総重量比)でエチルベンゼンの脱水素化を行うことに関する。
【0017】
図3を参照すると、本明細書に開示されている実施形態にかかる共沸気化器を用いた、エチルベンゼン/スチレンモノマー(EB/SM)スプリッターの塔頂流からの熱回収に関する簡略化された工程系統図が図示されている。脱水素反応ゾーン及び中間分離ゾーン(図示せず)からフローライン310を介して回収された粗製スチレンは、スチレンと、未反応エチルベンゼン由来の重い副生成物と、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの付加的な軽量成分とを分離するために、EB/SMスプリッター312へ送られてよい。スチレン生成物及び重い成分は、塔底留分314としてスプリッター312から回収することができ、エチルベンゼン及び軽質炭化水素は塔頂留分316としてスプリッター312から回収することができる。塔頂留分316の一部316Aは、その後、共沸気化器320の中で、フローライン318を介して供給されたエチルベンゼン(再利用及び/又は未使用)及び水(脱水素生成物から回収した復水など)と間接熱交換することによって凝縮される。凝縮された塔頂留分は、フローライン322を介して共沸気化器320から回収され、その一部はカラムの還流324に利用されてもよく、また一部はエチルベンゼン回収流326として回収されてよい。回収流326は、EB/SMスプリッターの上流でBTX成分が分離されない場合におけるBTXの回収などのために下流工程(図示せず)に送られてもよい。気化したEBと水との共沸混合物は、フローライン327を介して共沸気化器320から回収され、脱水素反応ゾーン(図示せず)に送られる。塔頂留分316の残部316Bは、共沸気化器320に熱を与えるためには用いられない。
【0018】
共沸気化器に熱を与えるためにスプリッター塔頂留分の一部だけを使用すると、脱水素反応ゾーンに送られるエチルベンゼン及び1次水蒸気の供給物全体を気化するために十分な熱とはならない。その後、所望の全体のエチルベンゼン供給速度に到達するために必要とされる追加的なエチルベンゼンを供給するために、追加のエチルベンゼン供給物を気化器から回収した共沸混合物と混合してもよい。共沸気化器の中での気化速度が遅いほど1次水蒸気が減少し、主水蒸気と混合されたときに脱水素反応ゾーンに入る水蒸気対オイル総重量比を低くすることができる。
【0019】
前述したように、主水蒸気の量が大幅に減少することは、反応段階間における反応器流出物の再加熱に影響を与え、また炉温と移送ライン温度が高くなりすぎる場合があるため望ましくない。共沸気化器に熱を与えるためにスプリッター塔頂留分の一部のみを用いることによって、水蒸気過熱器からの再加熱水蒸気を減少させることなく、水蒸気対オイル総重量比を調整することができる。水蒸気過熱器からの水蒸気の流速が減少した場合でも、共沸気化器に熱を与えるためにスプリッター塔頂留分の一部のみを用いることで、それぞれの冶金学的限度内で、低い炉温及び低い移送ライン温度で運転することができる。
【0020】
図4を参照すると、本明細書に開示されている実施形態にかかるスチレンモノマー(SM)の製造方法に関する簡略化された工程系統図が図示されており、ここでは類似の数字は類似の部品を表している。エチルベンゼンは図2において説明したのと同様の脱水素反応ゾーンで処理することができ、分離ゾーン350内で分離されて粗製スチレン生成物となりうる反応器流出物345を生成する。粗製スチレン310は、その後、図3において説明したように処理され、共沸気化器320内で必要とされるエチルベンゼン蒸気供給物の一部のみを生成し、フローライン327を介して回収される。
【0021】
分離ゾーン350は、例えば、凝縮による炭化水素蒸気から水蒸気の分離、エチルベンゼン及びスチレンから軽質炭化水素(BTX)の分離、又は当業者に公知の他の分離処理を含んでいてもよい。あるいは、BTXの分離は、スプリッター312の下流で行われてもよい。分離ゾーン350で回収された凝縮物は、エチルベンゼンと混ぜ合わされることで、フローライン318を介して共沸気化器320へ送られるエチルベンゼン−水混合物を形成してもよい。
【0022】
フローライン327中のエチルベンゼンと水蒸気との共沸混合物は、第1の水蒸気対オイル重量比(例えば水蒸気対エチルベンゼン重量比、又は、適切な場合は水蒸気対エチルベンゼンプラス他の炭化水素の重量比)を有する。得られる共沸混合物の具体的な水蒸気対エチルベンゼン重量比は、気化系統の温度及び圧力に依存してもよい。水蒸気対エチルベンゼン重量比は、ある実施態様では、下限0.40,0.42,0.44,0.45,0.46,0.47,0.48又は0.49から、上限0.50,0.51,0.52,0.53,0.54,0.55,0.56,0.58又は0.60までなどの、約0.4〜約0.6の範囲とすることができ、いずれの下限値といずれの上限値とを組み合わせてもよい。
【0023】
フローライン327中のエチルベンゼンと水蒸気との共沸混合物が、その後追加的なエチルベンゼン及び追加的な水蒸気(主水蒸気など)と混ぜ合わされ、入口34から水素化反応器トレインに入る供給物の水蒸気対オイル重量比が所望の値にされてもよい。エチルベンゼンの液体及び/又は蒸気は、フローライン340A,340B,340C及び340Dのうちの1つ以上を介して、又は、当業者に想定され得るような他の位置から、システムに添加されてもよい。エチルベンゼンの液体がシステムに送られる場合、例えば、主水蒸気との混合によって、又は、低圧水蒸気との若しくは流出物交換器36の中で等の間接熱交換によって、反応器26に送られる前に気化される必要がある。脱水素反応器に入る供給物として用いられる水蒸気対オイル総重量比は、脱水素触媒の種類、触媒寿命、又は他の様々な要因に依存してもよく、例えば、重量基準で約0.7〜約1.5の範囲であってもよい。他の実施形態では、水蒸気対オイル総重量比は、約0.8〜約1.2の範囲であってもよく、他の実施形態では約0.9〜約1.0であってもよい。また、他の実施形態では、下限0.70,0.75,0.80,0.85,0.90,0.95,1.0,1.05又は1.10から、上限0.90,0.95,1.0,1.05,1.10,1.15,1.20,1.25,1.3,1.35,1.4,1.45又は1.50までであってもよく、いずれの下限値もそれより高いいずれの上限値と組み合わせてもよい。
【0024】
ある実施形態では、ライン24中の共沸気化生成物は、フローライン340Aを介して供給されるエチルベンゼン蒸気と混合される。追加的なエチルベンゼンをエチルベンゼンと水蒸気の共沸混合物と混合した後、得られたエチルベンゼン−水蒸気混合物は、約0.25〜約0.35などの約0.1〜約0.5の範囲の水蒸気対オイル重量比を有していてもよい。他の実施形態では、得られたエチルベンゼン−水蒸気混合物における水蒸気対オイル重量比は、下限0.10,0.15,0.20,0.25,0.30又は0.35から、上限0.20,0.25,0.30,0.35,0.40,0.45又は0.50までであってもよく、いずれの下限値もそれより高いいずれの上限値と組み合わせてもよい。
【0025】
再び図3を参照すると、ある実施形態では、部分316Bは、共沸気化器320を迂回してもよく、冷却水又は利用可能な他の冷却媒体を用いて凝縮されてもよい。例えば、部分316Bは凝縮器328へ送られてもよく、それは、還流として又は下流工程への供給物として使用するために凝縮されて回収される。この実施形態では、部分316Bの過剰な熱は冷却水によって失われてもよく、共沸気化器での一部の熱の回収を実現しつつ、より低い水蒸気対オイル総重量比で運転を行うための望ましい工程柔軟性を得ることができる。
【0026】
他の実施形態では、部分316Bから熱が、間接熱交換ゾーン330内の1つ以上の適切なプロセス流との間接熱交換によって回収されてもよい。例えば、類似の数字は類似の部品を表している図5に図示されているように、スプリッター312からの塔底留分314は、オリゴマー、ポリマー、タールなどの重質反応副生成物からスチレンを分離するためにスチレン回収カラム510に送られてもよい。スチレンは塔頂留分としてフローライン512を介してカラム510から回収することができ、重質副生成物は塔底留分514として回収することができる。再沸蒸気は、熱交換器516内において部分316Bとの間接熱交換によってスチレン回収カラムへ供給されてもよい。必要であれば、通常の運転時又はカラムの運転開始時に追加的な熱を供給するために、補助的な又は運転開始時用のリボイラー518を使用することもできる。この方法では、1次水蒸気対オイル重量比を抑えながらEB/SMスプリッター312からの塔頂熱を効果的に利用することができるので、水蒸気過熱器の冶金学的限界に直面することなく低い水蒸気対オイル総重量比で脱水素反応ゾーンを運転することができる。更に、水蒸気対オイル総重量比を、従来技術の方法の1.15以上と比較して0.9〜1.0へと減らすことができるので、エチルベンゼンからスチレンを製造するために必要とされる全体のエネルギーを低減することができる。
【0027】
上述したように、本明細書に開示されている実施形態は、脱水素反応器へ供給される液状エチルベンゼン及び水の供給物のうちの一部を共沸気化することによるプロセス流からの熱の回収を行いながら、より低い水蒸気対エチルベンゼン総重量比(より低い水蒸気対オイル総重量比)でのエチルベンゼンの脱水素化を行うことを可能にすることができる。利点として、本明細書に開示されている実施形態は、いくつかある利点の中でも特に、約0.9〜1.0の範囲の重量比のような、低い水蒸気対オイル総重量比での運転と、EB/SMスプリッター塔頂留分からの熱の回収と、EB/SMスプリッター塔頂留分の一部を用いたSM回収カラムの再沸と、水蒸気過熱器の設計限度内でより低い値である水蒸気対オイル総重量比での運転と、スチレン製造に必要な全体のエネルギーの低減と、のうちの1つ以上を提供することができる。
【0028】
上記ではエチルベンゼンとスチレンについて説明しているが、当業者であれば、本明細書に開示の方法は、他のアルキル芳香族炭化水素の脱水素化方法にも適用できることを容易に理解することができる。更に、バルブ、配管、計器、制御装置、及び、ポンプなどの任意的な装置等は、説明を容易にするために図面から省略されており、また、このような装置を適切な場所に配置することは当業者の範囲内であると判断されることが理解される。
【0029】
本開示には限定的な数の実施形態しか含まれていないが、本開示の利益を享受する当業者であれば、本開示の範囲から逸脱することなしに他の実施形態を考え出せることを認識するであろう。したがって、範囲は添付の特許請求の範囲のみによって限定されるべきである。以下、補正を行う前の特許請求の範囲を記す。
(項目1)アルキル芳香族炭化水素の脱水素方法であって、
アルキル芳香族炭化水素と水蒸気とを含有しているとともに第1の水蒸気対アルキル芳香族炭化水素重量比を有する反応物蒸気流を、脱水素条件下において、1つ以上の反応器を有する反応ゾーンにおいて脱水素触媒と接触させ、生成物炭化水素、水蒸気及び未反応アルキル芳香族炭化水素を含有する気相流出物を形成する工程と、
少なくとも一部の前記流出物をスプリッターへ供給し、前記未反応アルキル芳香族炭化水素から前記生成物炭化水素を分離する工程と、
前記スプリッターから前記未反応アルキル芳香族炭化水素を塔頂留分として回収する工程と、
前記スプリッターから前記生成物炭化水素を塔底留分として回収する工程と、
アルキル芳香族炭化水素及び水を含む混合物との間接熱交換によって前記塔頂留分の第1の部分から熱を回収することにより、前記部分を少なくとも部分的に凝縮するとともに、アルキル芳香族蒸気と水蒸気とを含有し第2の水蒸気対アルキル芳香族炭化水素重量比を有する共沸気化生成物を形成する工程と、
前記共沸気化生成物を追加的なアルキル芳香族炭化水素及び追加的な水蒸気と一緒に又は別々に混ぜ合わせることにより、前記反応物蒸気流を形成する工程と、
を含む方法。
(項目2)さらに、間接熱交換によって前記塔頂留分の第2の部分から熱を回収することを含む請求項1に記載の方法。
(項目3)前記流出物が、さらに前記生成物炭化水素よりも重い反応副生成物を含有しており、
前記方法はさらに、
前記塔底留分を前記生成物炭化水素回収カラムへ供給し、前記反応副生成物から前記生成物炭化水素を分離する工程と、
再沸蒸気を前記塔頂留分の第2の部分と間接熱交換して、前記生成物炭化水素回収カラムへ供給する工程と、
を含む請求項1に記載の方法。
(項目4)前記アルキル芳香族炭化水素がエチルベンゼンであり、前記生成物炭化水素がスチレンである請求項1に記載の方法。
(項目5)前記共沸気化生成物を追加的なアルキル芳香族炭化水素及び追加的な水蒸気と混ぜ合わせる工程は、
前記共沸気化生成物を追加的なアルキル芳香族炭化水素と混ぜ合わせ、第3の水蒸気対アルキル芳香族炭化水素重量比を有する混合物を形成する工程と、
第3の水蒸気対アルキル芳香族炭化水素重量比を有する前記混合物を、追加的な水蒸気と混ぜ合わせて前記反応物蒸気流を形成する工程と、
を含む請求項1に記載の方法。
(項目6)前記第2の水蒸気対アルキル芳香族炭化水素重量比は、約0.1〜約0.5の範囲である、請求項1に記載の方法。
(項目7)前記第2の水蒸気対アルキル芳香族炭化水素重量比は、約0.25〜約0.35の範囲である、請求項1に記載の方法。
(項目8)前記第1の水蒸気対アルキル芳香族炭化水素重量比は、約0.7〜約1.5の範囲である、請求項1に記載の方法。
(項目9)前記第1の水蒸気対アルキル芳香族炭化水素重量比は、約0.8〜約1.2の範囲である、請求項1に記載の方法。
(項目10)前記第1の水蒸気対アルキル芳香族炭化水素重量比は、約0.9〜約1.0の範囲である、請求項1に記載の方法。
(項目11)前記第3の水蒸気対アルキル芳香族炭化水素重量比は、約0.4〜約0.6の範囲である、請求項5に記載の方法。
(項目12)前記第3の水蒸気対アルキル芳香族炭化水素重量比は、約0.45〜約0.55の範囲である、請求項5に記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5