【実施例1】
【0019】
[蓄電モジュールの構成]
図1は、実施例1の蓄電モジュールを示す斜視図である。
図2は、実施例1の蓄電モジュールを示す側面図である。
【0020】
実施例の蓄電モジュールは、リチウムイオンキャパシタモジュールとして構成されるが、例えばリチウムイオン電池モジュールや電気二重層キャパシタモジュール等の他の蓄電モジュールとして構成されてもよい。
【0021】
図1に示すように、実施例1の蓄電モジュール1は、一方向に沿って積層される複数の蓄電セル2と、支持部材100と、を備える。蓄電セル2は、電気を蓄える蓄電部材としての電極積層体24と、電極積層体24を収容する収容部材としての容器23と、容器23から引き出された電極端子としての正極端子21及び負極端子22と、を有する。支持部材100は、異なる蓄電セル2間で重ね合わされた正極端子21と負極端子22の溶接部に隣接して配置されており、容器23に固定されている。支持部材100は、正極端子21と負極端子22の積層方向における一方の端面に接触する金属部材101を有する。正極端子21と負極端子22の、積層方向における一方の端面と、この一方の端面に接する金属部材101の接触面101aとの間には、間隙が部分的に設けられている。
【0022】
また、実施例1の蓄電モジュール1は、複数の蓄電セル2の積層方向における両側から蓄電セル2を積層方向に押圧する一組のエンドプレート31、32及び一組のブラケット4を備える。一組のエンドプレート31、32は、蓄電セル2の積層方向における両側にそれぞれ配置されている。各ブラケット4は、蓄電セル2の積層方向に沿って配置され、一組のエンドプレート31、32に跨って取り付けられている。
【0023】
図2に示すように、支持部材100は、金属部材101を支持して金属部材101と蓄電セル2とを絶縁する絶縁部材102を有する。また、支持部材100は、絶縁部材102を支持すると共に容器23に固定されたセル固定部材103を有する。
【0024】
金属部材101は、例えば、アルミニウム、鉄又は銅を主成分とする金属単体又は合金からなる。金属部材101は、後述するレーザ溶接時に、レーザ光が金属部材101の内部に止まる、すなわち、レーザ光の到達深度が金属部材101の内部に位置するようにレーザ光の制御を行い易い厚みを有する。さらに、金属部材101は、蓄電モジュール1の重量が重くならない程度の厚みを有する。
【0025】
正極端子21及び負極端子22の積層方向に対する金属部材101の厚みは、例えば、0.3mm以上、5mm以下の範囲内が好ましく、更に好ましくは、0.3mm以上、3mm以下の範囲内である。
【0026】
なお、詳細には、レーザ光の到達深度が、金属部材101の凹部112内に位置するように制御され、金属部材101の内部に位置していなくてもよい。すなわち、レーザ光の到達深度が、正極端子21と負極端子22の積層方向に対する金属部材101の厚みの範囲内に位置するように、レーザ光は、正極端子21及び負極端子22を通過して金属部材101に照射される。
【0027】
絶縁部材102は、例えば合成樹脂によって形成されている。絶縁部材102は、蓄電セル2の容器23から引き出された正極端子21と負極端子22が対向する延長部21b、22bの間に配置されている。
【0028】
セル固定部材103は、平板状に形成されており、例えば、アルミニウム、鉄又は銅を主成分とする金属単体又は合金、もしくは、合成樹脂からなる。ここで合成樹脂は、尿素樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリプロピレン、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、フッ素樹脂などが用いられ、これらの変性種が用いられてもよい。また、これらの単種または複合したポリマーアロイが用いられてもよい。また、セル固定部材としては、用途に応じて、強度や耐熱性が高いエンジニアリングプラスチックと呼ばれる樹脂、例えば変性ポリフェニレンエーテル樹脂と、スチレン樹脂もしくはポリプロピレンとのアロイが用いられてもよい。実施例1では、一例として、金属部材101として無酸素銅を用い、絶縁部材102としてポリウレタンを用い、セル固定部材103としてアルミニウム合金A5052を用いた。
【0029】
実施例1における支持部材100は、インサート成形などによって、金属部材101及びセル固定部材103が絶縁部材102に一体成形された部材として構成される。支持部材100の構成は、インサート成形を用いる構成の他、金属部材101、絶縁部材102、セル固定部材103を個別に形成して、嵌め合わせや接着、ねじによる締結によって一体的に固定されてもよい。
【0030】
蓄電モジュール1が有する蓄電セル2は、セパレータを介して正極と負極が積層された電極積層体24を、ラミネート材からなる容器23内に収容し、容器23を気密に封止して構成されている。
【0031】
蓄電セル2は、蓄電セル2の積層方向における両面に、例えば両面接着テープが貼り付けられており、積層される蓄電セル2の間に、セル固定部材103が挟み込まれることで、蓄電セル2が互いに固定される。したがって、蓄電セル2は、セル固定部材103の両面に、セル固定部材103を介して、両面接着テープによって固定されている。実施例1における蓄電セル2とセル固定部材103は、両面接着テープを用いて固定されたが、蓄電セル2がセル固定部材103に固定されていればよく、例えば接着剤等を用いて固定されてもよい。蓄電セル2は、セル固定部材103に固定されることで、セル固定部材103に対する移動が規制される。これにより、隣接する蓄電セル2間で位置ずれが生じることを防いでいる。
【0032】
なお、実施例1の蓄電モジュールでは、12個の蓄電セル2を積層して構成されたが、積層する蓄電セル2の個数を限定するものではない。
【0033】
[蓄電セルの構成]
図3は、実施例1における蓄電セル2を示す平面図である。蓄電セル2は、リチウムイオンキャパシタセルが用いられているが、リチウムイオン電池セルや電気二重層キャパシタセル等が用いられてもよい。
図3に示すように、蓄電セル2は、電極積層体24と、電極積層体24を収容する容器23と、電極積層体24から容器23の外部に引き出された正極端子21及び負極端子22と、を有している。電極積層体24は、図示しないが、セパレータを介して正極と負極が交互に複数積層して構成され、発電要素を1単位として、複数単位の発電要素が積層されている。
【0034】
蓄電セル2の正極は、例えば、リチウムイオンを可逆的に担持可能な材料からなる正極電極が正極集電体上に形成された構造を有する。正極集電体は、正極電極を支持しながら、集電を行うための材料であり、例えば、アルミニウム等の導電性金属材料を用いて形成される。正極集電体は、平面形状が矩形状に形成されており、矩形をなす四辺のうちの一辺が、正極端子21に接続されている。
【0035】
蓄電セル2の負極は、例えば、リチウムイオンを可逆的に担持可能な材料からなる負極電極が負極集電体上に形成された構造を有する。負極集電体は、負極電極を支持しながら、集電を行うための材料であり、例えば、銅等の導電性金属材料を用いて形成される。負極集電体は、平面形状が矩形状に形成されており、矩形をなす四辺のうちの一辺が、負極端子22に接続されている。
【0036】
蓄電セル2の容器23は、例えば、アルミニウム箔を樹脂フィルムによってラミネートしてなるアルミラミネートフィルム材を用いて、矩形状に形成されたソフト容器である。また、容器23は、例えば、リチウムイオンを含む有機電解液と共に、電極積層体24を密封した構造を有する。容器23は、電極積層体24及び有機電解液を密封しているので、容器23の主面の中央部に、電極積層体24の形状が隆起した形状を有する。容器23の、隆起した面を、セル主面と称する場合がある。なお、アルミラミネートフィルム材の層構成は、容器23の内側の層から外側の層に向かって、PP(ポリプロピレン)層、PPa(ポリフタルアミド)層、AL(アルミニウム)層、ナイロン層、PET(ポリエチレンテレフタレート)層の順に積層されている。また、アルミラミネートフィルム材の層構成は、容器23の内側の層から外側の層に向かって、例えば、PPa層、AL層、ナイロン層、PET層の順に積層されてもよい。蓄電セル2において、電極積層体23が「蓄電部材」の一例であり、容器23が「収容部材」の一例である。
【0037】
上述のように、蓄電セル2は、電極積層体24が容器23内に収容された場合、矩形状の容器23の、四辺のうちの一辺から、正極端子21及び負極端子22が容器23の外部に引き出された構造になる。このような構造の蓄電セル2を、片側端子形状の蓄電セルと称する。
【0038】
正極端子21は、アルミニウムによって形成されている。負極端子22は、銅によって形成されている。本実施例において、積層方向に隣接する蓄電セル2同士は、正極端子21と負極端子22とが接合されることで、蓄電セル2が直列接続されている。正極端子21及び負極端子22は、例えば、厚みが0.3mm程度、蓄電セル2から引き出された方向に直交する幅が68mm程度に形成されている。
【0039】
[蓄電セルの溶接部の構造]
図4は、実施例1における蓄電セル2同士の正極端子21と負極端子22の溶接部を説明するための模式図である。
【0040】
図4に示すように、正極端子21及び負極端子22は、蓄電セル2のセル主面と平行に延ばされて、蓄電セル2の容器23から引き出されている。正極端子21及び負極端子22の先端部分が、互いに向き合う方向に対して、蓄電セル2の積層方向と平行な方向にほぼ直角に折り曲げられている。したがって、正極端子21及び負極端子22は、容器23から蓄電セル2のセル主面と平行に延長された延長部21b,22bを有している。
【0041】
そして、正極端子21及び負極端子22の各先端部は、正極端子21が負極端子22よりも蓄電セル2側に位置するように重ね合わされる。ここで、説明の便宜上、
図4中での上下方向に基づいて、正極端子21と負極端子22の上下方向について説明する。正極端子21と負極端子22の溶接部に対して容器23側を下方とし、容器23に対して正極端子21と負極端子22の溶接部側を上方とする。本実施例では、正極端子21と負極端子22の溶接部では、正極端子21を下側に配置し、負極端子22が上側になるように、正極端子21の上に負極端子22が重ね合わされる。また、正極端子21と負極端子22の溶接部は、金属部材101側に配置される正極端子21の下面が、金属部材101に接するように湾曲される。
【0042】
正極端子21、負極端子22及び金属部材101は、互いに接するように重ね合わされた状態が望ましい。正極端子21、負極端子22及び金属部材101は、例えば上方から上押え治具(不図示)によって押圧されることで、互いに圧着される。このとき、押圧力の値は、正極端子21と負極端子22を密着させる程度であればよく、正極端子21及び負極端子22の形状を高精度に部品加工することができれば、正極端子21と負極端子22を軽く押える程度の押圧力、例えば数百g程度の押圧力で押えればよい。なお、一般的な加工方法を用いる場合には、加工公差が生じるので、例えば1kg〜10kg程度の押圧力で正極端子21及び負極端子22を押圧することによって、正極端子21と負極端子22が適切に密着される。
【0043】
以下、正極端子21と負極端子22とを重ね合わせた溶接部において、上側の負極端子22の上面を、レーザ光を照射する照射面22aと称し、下側の正極端子21の下面を、レーザ光が通過する通過面21aと称する。正極端子21の通過面21aが、「電極端子同士の積層方向における一方の端面」の一例であり、負極端子22の照射面22aが、「電極端子同士の積層方向における他方の他面」の一例である。
【0044】
実施例1では、
図4に示すように、絶縁部材102が蓄電セル2の容器23に接触して設けられているが、この構成に限定するものではない。絶縁部材102は、金属部材101とセル固定部材103との間で絶縁するように設けられればよく、蓄電セル2の容器23や他の構成部材に接触していなくてもよい。
【0045】
図5は、実施例1に係る金属部材101を示す斜視図である。
図5に示すように、金属部材101は、負極端子22が重ねられた正極端子21の通過面21aに接触する接触面101aは、凹凸を有する平面として形成されている。矩形状の接触面101aには、短辺方向における中央に、直線状の溝状の凹部112が形成されている。この接触面101aにおいて、平坦な表面が凸部111であり、溝が凹部112であると定義する。
【0046】
正極端子21は、金属部材101の接触面101aの表面である凸部111に面接触する。また、溝状の凹部112は、正極端子21及び負極端子22を貫通したレーザ光の光軸上に位置するように形成されている。そして、正極端子21の通過面21aと、金属部材101の接触面101aの凹部112との間に、正極端子21と負極端子22との溶接部から出るガスや溶融金属を収容する間隙を形成する。
【0047】
金属部材101の溝状の凹部112の寸法は、例えば、幅が1mm程度、深さが0.2mm程度に形成されている。この溝状の凹部112の寸法は一例であり、正極端子21及び負極端子22の材質、厚み、溶接時に溶融する金属量等に応じて、適切な寸法が異なる。また、接触面101aに直交する方向に対する溝状の凹部112の断面形状は、実施例1では四角形に形成されているが、一例である。溝状の凹部112の断面形状は、例えばV溝や半円状等の他の形状に形成されてもよい。
【0048】
[レーザ光を用いた電極端子同士の溶接]
図6は、実施例1におけるレーザ光の照射状態を説明するための模式的な断面図である。
図6に示すように、金属部材101の接触面101a上に重ね合わされた正極端子21及び負極端子22の、負極端子22の照射面22aの上方からレーザ光200を照射する。実施例1では、レーザ光200としてYAGレーザを用いており、複数のレーザ光200を直線上に配列してスポット溶接を行う。例えば、金属部材101が有する1つの溝状の凹部112の長手方向に沿って25点のスポットを一例に並べた状態で、正極端子21と負極端子22のスポット溶接を行う。なお、レーザ溶接は、スポット溶接に限定するものではなく、必要に応じてレーザ光200を溝状の凹部112の長手方向に沿って一定速度で移動させて連続溶接を行ってもよい。
【0049】
負極端子22の照射面22aに照射されたレーザ光200は、負極端子22及び正極端子21を貫通し、金属部材101の凹部112内を通過して金属部材101に照射される。このとき、レーザ光200の到達深度が、正極端子21と負極端子22の積層方向における金属部材101の厚みの範囲内に位置するように、レーザ光200は制御される。実施例1では、レーザ光200が、金属部材101の内部で止まるように照射されるが、金属部材101の凹部112内で止まるように照射されてもよい。
【0050】
レーザ溶接を行っているとき、正極端子21及び負極端子22の溶接部から抜け出たガスは、また、凹部112内に収容されて、溶接部内のガスが適切に排出される。凹部112内に収容されたガスは、レーザ光200が照射されることで、急激に膨張する。このため、実施例1では、溝状の凹部112の長手方向における両端が、金属部材101の外周縁まで延ばされることで、凹部112内で膨張したガスが、凹部112の長手方向に沿って金属部材101の外部に排出される。
【0051】
また、正極端子21と負極端子22の積層方向に対する金属部材101の厚みは、正極端子21及び負極端子22の厚みに比べて十分に大きく形成される。このため、正極端子21及び負極端子22を貫通したレーザ光200が、金属部材101の内部で止まり、金属部材101を厚み方向に貫通しないようにレーザ光200を容易に制御することが可能とされる。
【0052】
金属部材101の内部に照射されたレーザ光200は、金属部材101の内部で吸収され、金属部材101を厚み方向に貫通せずに内部に止まる。レーザ光200の到達深度は、レーザ溶接後に溶接部の断面を観察することで、金属材料の溶融が生じた到達深度を実質的に評価することが可能である。溶接部の断面を観察する際には、光学顕微鏡やSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて観察することが可能である。
【0053】
図6を参照して説明したようにレーザ溶接を行うことで、正極端子21及び負極端子22を通過したレーザ光200が、金属部材101を貫通しないように照射される。これにより、溶接部から溶け落ちた、電極端子の溶融金属が、金属部材101の凹部112に受け止められ、凹部112内に収容される。このため、実施例1によれば、蓄電モジュール1の内部に、溶接部から落下する溶融金属を受ける下受け治具を挿入したり、外したりするためのスペースを設けなくてもよく、蓄電モジュール1全体が小型化される。加えて、実施例1によれば、溶融金属を受ける下受け治具を清掃する工程も省けるので、蓄電モジュール1の製造工程が簡素化される。
【0054】
また、
図6を参照して説明したレーザ溶接は、正極端子21、負極端子22及び金属部材101からなる3層構造を用いて行われる。3層構造を用いてレーザ溶接を行うことによって、比較的高出力のレーザ光を正極端子21及び負極端子22に照射した場合でも、金属部材101の厚みを適切に設定することで、レーザ光200を、金属部材101の厚みの範囲内で止まるように制御することが可能になる。したがって、比較的高出力のレーザ光200を用いてレーザ溶接することが可能であるので、正極端子21と負極端子22との間の接触面積が増え、溶接強度が高く、かつ電気抵抗が小さい溶接部を形成できる。
【0055】
さらに、実施例1では、正極端子21と負極端子22との溶接部で生じたガスが、金属部材101の凹部112を通って排出され、溶接部にブローホールが発生することが抑制される。このため、溶接部の溶接強度の低下、溶接部の電気抵抗の増加を防ぐことができる。
【0056】
[溶接部の溶接痕と、凹部の最大深さとの関係]
図7は、実施例1においてスポット溶接したときの正極端子21と負極端子22の溶接部の直径と、金属部材101の凹部112の最大深さとの関係を説明するための断面図である。
図8は、実施例1において連続溶接したときの正極端子21と負極端子22の溶接部のビード幅と、金属部材101の凹部112の最大深さとの関係を説明するための断面図である。
【0057】
正極端子21と負極端子22との溶接部は、正極端子21の通過面21aに形成された溶接痕である溶接領域を有する。ここで、負極端子22が重ねられた正極端子21の通過面21aにおける溶接領域と、溶接領域に対向する凹部112内の位置(例えば底)との間の、正極端子21及び負極端子22の積層方向に対する最大深さをDとする。そして、実施例1における金属部材101の凹部112は、スポット溶接した場合における溶接領域の直径または連続溶接した場合における溶接領域のビード幅をWとしたとき、
D≧W/10 ・・・式1
を満たす。
【0058】
なお、凹部112の最大深さDは、正極端子21の通過面21a上の溶接領域内の任意の微小点から、凹部112内に達するまで延ばされた、通過面21aに直交する垂線の長さを深さとしたときに、溶接領域の範囲内で最大となる深さを指している。
【0059】
すなわち、
図7に示すように、スポット溶接した場合、正極端子21の通過面21a上での溶接領域の直径をW
1としたとき、金属部材101の凹部112の最大深さDは、D≧W
1/10を満たす。スポット溶接した場合には、溶接領域が円形状または楕円状に形成される。溶接領域が円形状である場合には、溶接領域の直径をW
1とする。また、溶接領域が楕円状である場合には、溶接領域の短径をW
1とする。また、
図8に示すように、連続溶接した場合における溶接領域のビード幅をW
2としたとき、金属部材101の凹部112の最大深さDは、D≧W
2/10を満たす。
【0060】
そして、凹部112の最大深さDが式1を満たすことで、溶接部の引張強度を適正に確保することができる。凹部112の深さに関して、金属部材101を薄くする観点では、凹部112を小さくすることが好ましい。その一方で、凹部112は、溶接部から抜け出るシールドガスや落下する溶融金属を所定量だけ適切に収容できる程度の容積を有することで、レーザ溶接された溶接部に所望の引張強度を確保する必要がある。この点を踏まえて、レーザ溶接が適正に行われることを考慮すると、凹部112の最大深さDが式1を満たすことが好ましい。なお、溶接部から出るシールドガスや溶融金属を十分に収容する観点では、凹部112の容積を大きくすることが好ましいが、金属部材101の大型化、凹部112の加工コストの増加につながる。さらに、凹部112を有する金属部材101の機械的強度や、凹部112の加工性についても考慮して、凹部112の深さを設定することが好ましい。
【0061】
[溶接部の引張強度及び電気抵抗]
溶接部の引張強度及び電気抵抗について、実施例1と比較例1とを比較した結果を表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
実施例1では、接触面101aに、幅が1mm、深さが0.2mmの溝状の凹部112が形成された金属部材101を用いた。比較例1は、接触面に凹部が形成されていない金属部材を用いている点が、実施例1と異なっている。すなわち、比較例1は、正極端子及び負極端子と、金属部材との間に間隙が存在しない状態でレーザ溶接を行った。また、実施例1と比較例1では、厚みが0.3mm、蓄電セル2から引き出された方向に直交する幅が68mmに形成された正極端子21及び負極端子22を用いた。
【0064】
また、実施例1と比較例1は、25点のスポットを一例に並べた状態で、正極端子21と負極端子22のスポット溶接を行い、金属部材の凹部の有無を除き同一条件にした。なお、1点のスポットには、パルス幅が4msecの矩形波のYAGレーザ光を照射し、スポットの1点当たりのエネルギを、レーザ光の被照射部において21Jとした。
【0065】
引張強度について、溶接部のスポットの配列方向に直交する方向、かつ正極端子21及び負極端子22の積層方向に直交する方向(
図4中に示す矢印方向)に対して、0.4mm/secの速度で、溶接部が破断するまで引っ張ったときのピーク強度である。表1に示すように、比較例1は引張強度の平均値が104kgfであり、実施例1は引張強度の平均値が148kgfであった。したがって、比較例1の引張強度は、実施例1の引張強度の70%程度であり、実施例1は、比較例1よりも引張強度を30%程度高くすることができた。
【0066】
電気抵抗について、溶接部のスポットの配列方向に直交する方向、かつ正極端子21及び負極端子22の積層方向に直交する方向(
図4中に示す矢印方向)に対して、100Aの電流を流し、溶接抵抗による電圧の低下を測定することで、測定結果を用いて算出した。表1に示すように、比較例1は電気抵抗の平均値が0.7μΩであり、実施例1は電気抵抗の平均値が0.4μΩであった。したがって、比較例1の電気抵抗は、実施例1の電気抵抗の175%程度であり、実施例1の電気抵抗は、比較例1の電気抵抗の57%程度に小さくすることができた。
【0067】
以上の比較結果より、比較例1では、ブローホールが発生することで溶接部の引張強度が低下すると共に電気抵抗が増加している。一方、実施例1では、ブローホールの発生が抑えられており、溶接部のガスが、金属部材101の凹部112を通して適切に排出されていることが推測される。
【0068】
[溶接部の引張強度と、凹部の最大深さとの関係]
図9は、実施例1における正極端子21と負極端子22の溶接部の引張強度と、金属部材101の凹部112の最大深さDとの関係を示す測定結果のグラフである。
図9において、縦軸が引張強度〔kgf〕を示し、横軸が凹部112の最大深さD〔mm〕を示す。
【0069】
図9に示すように、実施例1における溶接部は、凹部112の最大深さDに関し、D≧0.2mmの範囲で、D=0.05mmのときよりも引張強度が増加し、ほぼ一定に保たれた。
図9に示す測定結果は、スポット溶接した場合であり、正極端子21の通過面21a上における円形状の溶接領域の直径Wが0.7mmであった。上述した式1を用いると、W=0.7mmのとき、D≧0.07mmとなる。したがって、凹部112の最大深さDが式1を満たすことで、所定の引張強度が確保されることが、測定結果からも明らかである。
【0070】
[蓄電モジュールの体積]
続いて、実施例1の蓄電モジュール1全体の体積について説明する。蓄電モジュールの体積について、実施例1、及び後述する実施例8と、比較例2とを比較した結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
比較例2は、下受け治具を用いて製造した蓄電モジュールの体積を表している。また、実施例1は、後述する実施例1に係る製造方法を用いて製造された蓄電モジュール1の体積を示している。実施例8についても同様に、実施例1に係る製造方法を用いて製造された蓄電モジュールの体積を示している。また、表2には、比較例2の体積に対して実施例1、8の体積がどのくらい変化したかを変化率として示している。また、表2において、片側端子形状は、片側端子形状の蓄電セル2を指しており、両側端子形状は、後述する実施例8で用いる両側端子形状の蓄電セル2を指している。
【0073】
表2は以下の条件を用いて計測した。実施例1、8及び比較例2ともに、厚みが10mmであり、幅が100mmであり、高さが100mmの蓄電セル2を用いた。また、比較例2は、蓄電セル2から離れる方向に延ばされた電極端子の高さが15mmであった。また、実施例1では、電極端子の高さが5mmであり、セル固定部材103の厚みが0.3mmであった。
【0074】
片側端子形状の蓄電セル2を用いた蓄電モジュールを、下受け治具を用いて製造した場合、比較例2の蓄電モジュールの体積は1185ccになった。これに対して、片側端子形状の蓄電セル2を用いた蓄電モジュール1を実施例1に係る製造方法を用いて製造した場合、蓄電モジュール1の体積は1082ccとなった。実施例1は、比較例2と比べて、体積の変化率が−8.7%となった。このように、本実施例1に係る製造方法を用いて蓄電モジュール1を製造することで、下受け治具を用いて製造する場合に比べて、体積を小さくすることができ、蓄電モジュール全体を小型化できる。
【0075】
[蓄電モジュールの製造工程]
以上のように構成された実施例1の蓄電モジュール1の製造工程について、
図10を参照して説明する。
図10は、実施例1に係る蓄電モジュールの製造工程のフローチャートである。
【0076】
まず、作業者は、インサート成形などにより、金属部材101、絶縁部材102及びセル固定部材103が一体成形された支持部材100を形成する(ステップS1)。続いて、作業者は、セル固定部材103を容器23に両面接着テープや接着剤によって固定する(ステップS2)。これにより、支持部材100が蓄電セル2に固定される。
【0077】
次に、作業者は、セル固定部材103が貼り付けられた蓄電セル2に蓄電セル2を積層する。そして、作用者は、正極端子21及び負極端子22の端部が重なり合うように折り曲げて、負極端子22が重ねられた正極端子21が金属部材101の接触面101aと接触するように配置する(ステップS3)。続いて、作業者は、積層した蓄電セル2にエンドプレート31、32及びブラケット4を取り付け、エンドプレート31、32及びブラケット4によって蓄電セル2を保持する(ステップS4)。
【0078】
次に、作業者は、上押さえ治具を用いて、絶縁部材102側とは反対方向から、負極端子22を押圧する(ステップS5)。これにより、屈曲された負極端子22及び正極端子21が、金属部材101の接触面101a上に、正極端子21と負極端子22の積層方向に対して押圧される。
【0079】
最後に、作業者は、レーザ光が金属部材101の厚みの範囲内で止まるように制御し、負極端子22の照射面22aに向けてレーザ光を照射し、負極端子22、正極端子21を溶接する(ステップS6)。
【0080】
上述したように、実施例1の蓄電モジュール1は、複数の蓄電セル2と、正極端子21と負極端子22の溶接部に隣接して配置され、負極端子22の通過面21aに、間隙を部分的にあけて接触する接触面101aが設けられた金属部材101と、を有する。そして、蓄電モジュール1では、正極端子21と負極端子22の溶接部を貫通するレーザ光を照射することで、溶接部に形成されるキーホールが貫通穴になる。このようにレーザ光を照射したときに、溶接部の内部に生じたガスが、正極端子21及び負極端子22の積層方向における通過面21aと、金属部材101の接触面101aとの間隙を通って、溶接部から抜け出る。その結果、蓄電モジュール1によれば、溶接部にブローホールが発生することが抑制され、正極端子21と負極端子22との溶接部の溶接強度の低下、溶接部の電気抵抗の増加を防ぎ、溶接部の品質を高めることができる。
【0081】
また、実施例1の蓄電モジュール1では、金属部材101が、重ね合わされた正極端子21と負極端子22を通過したレーザ光を吸収するので、蓄電セル2や他の構成部材にレーザ光が照射されることを防ぐ。また、金属部材101は、正極端子21と負極端子22との溶接部から出るガスや落下する溶融金属を受け止める。このため、実施例1によれば、正極端子21と負極端子22とをレーザ溶接するときに、正極端子21を通過したレーザ光の吸収や、溶接部から落下する溶融金属を受け止めるための下受け治具を用いなくてもよくなる。その結果、正極端子21と負極端子22との溶接部に対して下受け治具を挿脱するためのスペースを、蓄電モジュール1の内部に確保しなくてもよくなるので、蓄電モジュール1の小型化を図ることが可能になる。
【0082】
また、実施例1では、金属部材101によってレーザ光が吸収されるので、重ね合わされた正極端子21及び負極端子22を貫通するような高いエネルギのレーザ光を照射することが可能である。レーザ光のエネルギが高いほど、溶接部で溶融する金属量が増え、正極端子21と負極端子22の接触面積が増える。これによって、溶接部の溶接強度を更に高め、溶接部の電気抵抗を小さくして通電性を更に高めることが可能になる。
【0083】
さらに、下受け治具を用いてレーザ溶接する場合には、下受け治具の溝内に残留する外気を除去するために、下受け治具側からもシールドガスを供給する場合がある。一方、実施例1の蓄電モジュール1によれば、凹部112を有する金属部材101の寸法が、下受け治具の寸法に比べて1/10程度に小さいので、凹部112内に留まる外気が少なく、下受け治具を用いる場合のようにシールドガスを供給することを省くことが可能になる。このため、実施例1によれば、溶接工程の簡略化を図ることができる。
【0084】
また、実施例1の蓄電モジュール1は、金属部材101を支持して金属部材101と蓄電セル2とを絶縁する絶縁部材102を有する。蓄電モジュール1は、絶縁部材102によって、正極端子21及び負極端子22と接触する金属部材101と、蓄電セル2との間で絶縁することができるので、蓄電モジュール1の動作信頼性を向上することができる。
【0085】
なお、実施例1では、正極端子21と負極端子22が溶接され、正極端子21及び負極端子22と、金属部材101とが溶接されない構成、及びこの構成を製造する製造方法を採用したが、これに限定するものではない。正極端子21、負極端子22、金属部材101の材料、寸法を含む溶接条件に応じて、正極端子21及び負極端子22と、金属部材101とが溶接される構造であってもよい。この場合であっても、実施例1と同様の効果を奏することができる。
【0086】
また、実施例1では、主に正極端子21と負極端子22とが溶接されて直列接続する場合について説明したが、異なる蓄電セル2の正極端子21同士、または負極端子22同士を溶接し、並列に接続する構成でもよく、実施例1と同様の効果を奏することができる。
【0087】
また、実施例1では、2つの電極端子同士が溶接された構成について説明したが、重ね合わせて溶接する電極端子の個数を限定するものではない。本発明は、少なくとも2つの電極端子同士を溶接するために適用され、必要に応じて3つ以上の電極端子同士を重ね合わせて溶接された構成に適用されてもよい。この場合にも、実施例1と同様の効果を奏することができる。
【0088】
以下、他の実施例について図面を参照して説明する。他の実施形態では、実施例1と異なる構成部材や相違点のみを説明し、実施例1と同一の構成部材について説明を省略する。