特許第6195851号(P6195851)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6195851吸収性セルロース系生体材料及びインプラント
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195851
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】吸収性セルロース系生体材料及びインプラント
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/20 20060101AFI20170904BHJP
   A61L 27/56 20060101ALI20170904BHJP
   C08B 15/02 20060101ALI20170904BHJP
   A61F 2/28 20060101ALI20170904BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20170904BHJP
   C08J 7/12 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   A61L27/20
   A61L27/56
   C08B15/02
   A61F2/28
   C08J7/00 305
   C08J7/12 CCEP
【請求項の数】42
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2014-558842(P2014-558842)
(86)(22)【出願日】2013年2月22日
(65)【公表番号】特表2015-510438(P2015-510438A)
(43)【公表日】2015年4月9日
(86)【国際出願番号】US2013027230
(87)【国際公開番号】WO2013126635
(87)【国際公開日】20130829
【審査請求日】2016年1月15日
(31)【優先権主張番号】61/601,653
(32)【優先日】2012年2月22日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513164565
【氏名又は名称】シンセス・ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】Synthes GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100088605
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 公延
(74)【代理人】
【識別番号】100130384
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 孝文
(72)【発明者】
【氏名】チャヤ・ボイチェフ
(72)【発明者】
【氏名】キリリョーク・ドミトロ・ディー
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/052583(WO,A2)
【文献】 国際公開第2010/071732(WO,A1)
【文献】 特表2009−518466(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00−33/18
A61F2/28
C08B15/02
C08J7/00
C08J7/12
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)照射されたセルロースと、
(b)酸化剤と、
の反応性混合物を含む、生体材料前駆反応性混合物であって、前記照射されたセルロースが電離放射線による放射を受けたものであり、その反応生成物が非発熱性の吸収性生体材料である、反応性混合物。
【請求項2】
前記照射されたセルロースが微生物由来セルロースである、請求項1に記載の反応性混合物。
【請求項3】
前記微生物由来セルロースが、グルコンアセトバクター・キシリナスに由来するものである、請求項2に記載の反応性混合物。
【請求項4】
前記反応生成物が、約20%〜約70%の範囲の酸化度を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の反応性混合物。
【請求項5】
電離放射線照射されたセルロースの酸化された本体を含む、組織の置換又は強化用のインプラントであって、前記本体が、多孔質で不均一な3次元繊維状網目構造を形成する、インプラント。
【請求項6】
前記インプラントが第1の堅い状態を有する、請求項5に記載のインプラント。
【請求項7】
前記インプラントが第2の水和した状態を有し、前記インプラントが、生体適合性の液体により水和される際に前記第1の堅い状態から前記第2の水和した状態へと移行する、請求項6に記載のインプラント。
【請求項8】
前記水和した状態の前記インプラントの表面が、解剖学的表面に適合する、請求項7に記載のインプラント。
【請求項9】
前記解剖学的表面が軟組織の表面である、請求項8に記載のインプラント。
【請求項10】
前記軟組織が硬膜組織である、請求項9に記載のインプラント。
【請求項11】
前記水和した状態の前記インプラントの表面が、二次的医療装置の表面に適合する、請求項7に記載のインプラント。
【請求項12】
前記酸化された本体が、約0%〜90%の範囲の、SBF条件下での1週間後のインビトロ分解プロファイルを有する、請求項5〜11のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項13】
前記酸化された本体が、約20%〜80%の範囲の、SBF条件下での4週間後のインビトロ分解プロファイルを有する、請求項5〜11のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項14】
前記インプラントが少なくとも7.0の保水力(WHC)を有し、前記酸化剤が少なくとも約0.3Mの濃度を有する、請求項5〜13のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項15】
前記インプラントが表面積及び保水力(WHC)を有し、前記WHCと表面積との比が少なくとも2.7:1である、請求項5〜13のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項16】
前記インプラントが、活性薬剤の足場又は担体である、請求項5〜15のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項17】
前記活性薬剤が前記酸化された本体内に含浸される、請求項16に記載のインプラント。
【請求項18】
前記活性薬剤が前記インプラントの表面上にコーティングされる、請求項16に記載のインプラント。
【請求項19】
前記活性薬剤が、骨髄、自家移植片、骨誘導性小分子、骨形成物質、幹細胞、骨形成タンパク質、抗細菌剤、リン酸カルシウムセラミック、並びにこれらの混合物及びブレンドからなる群から選択される、請求項16に記載のインプラント。
【請求項20】
前記インプラントが、前記水和した状態において実質的に透光性である、請求項7〜11のいずれか1項に記載のインプラント。
【請求項21】
酸化セルロースの本体を製造する方法であって、
(a)セルロースの本体を電離放射線で照射してセルロースの照射された本体を形成する工程と、
(b)前記セルロースの照射された本体を酸化剤と反応させて酸化セルロースの本体を形成する工程と、を含み、
前記酸化セルロースの本体が、非発熱性、多孔質、かつ吸収性である、方法。
【請求項22】
前記照射されたセルロースの本体を少なくとも部分的に脱水する工程を更に含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記酸化セルロースの本体を少なくとも部分的に脱水する工程を更に含む、請求項21又は22に記載の方法。
【請求項24】
前記照射されたセルロースの本体を脱水する工程が、前記セルロース本体を機械的にプレスすることによって行われる、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記酸化セルロースの本体を脱水する工程が、超臨界二酸化炭素を用いた臨界点乾燥によって行われる、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記酸化剤が、メタ過ヨウ素酸塩、次亜塩素酸塩、二クロム酸塩、過酸化物、過マンガン酸塩、又は二酸化窒素からなる群から選択される、請求項21〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記酸化剤がメタ過ヨウ素酸ナトリウムである、請求項21〜26のいずれか1項に記載の方法。
【請求項28】
前記セルロースとメタ過ヨウ素酸塩とが、1:1〜約1:160の、セルロースとメタ過ヨウ素酸塩とのモル比の範囲において反応する、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記セルロースとメタ過ヨウ素酸塩とが、1:1〜約1:120の、セルロースとメタ過ヨウ素酸塩とのモル比の範囲において反応する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記酸化剤が、前記反応中で約0.05M〜約0.5Mの濃度範囲を有する、請求項21〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記酸化剤が、前記反応中で約0.2M〜0.4Mの濃度範囲を有する、請求項21〜30のいずれか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記酸化剤と前記セルロースとが約0.1時間〜約24時間反応する、請求項21〜31のいずれか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記酸化剤と前記セルロースとが約0.1時間〜約6時間反応する、請求項21〜32のいずれか1項に記載の方法。
【請求項34】
前記酸化セルロースの本体が、前記酸化剤と前記照射されたセルロースとの1時間の反応後に少なくとも約25%の酸化度を有する、請求項21〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項35】
前記酸化セルロースの本体が、前記酸化剤と前記照射されたセルロースとの2時間の反応後に少なくとも約40%の酸化度を有する、請求項21〜34のいずれか1項に記載の方法。
【請求項36】
前記酸化セルロースの本体が、前記酸化剤と前記照射されたセルロースとの反応後に約20%〜約70%の酸化度を有する、請求項21〜33のいずれか1項に記載の方法。
【請求項37】
前記照射する工程が、約10kGy〜約100kGyの範囲で照射することを含む、請求項21〜36のいずれか1項に記載の方法。
【請求項38】
前記照射する工程が、約20kGy〜約40kGyの範囲で照射することを含む、請求項21〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記照射する工程が、γ線を照射することを含む、請求項21〜38のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記セルロースの本体、前記セルロースの照射された本体、又は前記酸化セルロースの本体のいずれか1つを1又は2以上の活性薬剤と接触させる工程を更に含む、請求項21〜39のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記照射する工程が、1回のみの放射線の投与を含む、請求項21〜40のいずれか1項に記載の方法。
【請求項42】
前記照射する工程が、最大で5回の放射線の投与を含む、請求項21〜40のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2012年2月22日出願の米国仮特許出願第61/601,653号に基づく優先権を主張するものであり、当該出願の開示内容を恰もその全体が本明細書に記載されたものと同様にして本明細書に参照によって援用するものである。
【0002】
(発明の分野)
本開示は、医療用インプラントとして使用するための再吸収性、多孔質で、形状適合性を有する生体材料、及びこうした生体材料を得るためのγ線照射セルロースの制御された酸化プロセスに関する。インプラントは、組織の置換又は強化に使用するための、特に軟組織に適用するための、より具体的には硬膜に使用するための、シート又はパッチとして形成することができる。
【背景技術】
【0003】
硬膜の修復(硬膜形成術)は、外傷性破壊、腫瘍性破壊、若しくは炎症性の破壊、外科的切除の後、又は先天的欠損に適用される。硬膜置換は、頭蓋手術において、天然硬膜の一次閉鎖が可能でない場合に用いられる。歴史的には、金属箔、ヒト組織、動物組織(ブタ真皮、ウシコラーゲン及びウシ心膜)、及びポリマー(PTFE、ポリグラクチン、ヒドロキシエチルメタクリレート)などの多くの材料が使用されてきた。動物組織は、現在利用可能な材料では最適のものであり、ウシ心膜及びウシコラーゲンが市場リーダーとなっている(例えば、Duragen(登録商標)、Duraform(登録商標))。しかしながら、動物材料は、狂牛病の原因となりうるプリオンによる感染の可能性を伴う。また、ウシコラーゲンは、硬膜が完全に治癒する前に2週間以内にしばしば吸収されてしまう。更に、ウシ心膜は、天然の生物毒性を有するグルタルアルデヒドによってしばしば架橋される。合成材料は扱いが困難であり、定位置に適正に縫合されない場合には脳脊髄液(CSF)の漏出につながる。
【0004】
様々な由来のセルロースが汎用性の高い生体材料であることが示されている。セルロースは、ほとんどすべての種類の植物及び限定された数の細菌によって合成され、広範な用途において使用される天然の再生可能な生体適合性かつ生分解性のポリマーである。
【0005】
しかしながら、天然セルロースは、分子間及び分子内水素結合によって安定化される高結晶性構造を分解することが可能な酵素マシナリーが存在しないために、ヒトの体内では吸収されない。しかしながら、セルロースの吸収性は、メタ過ヨウ素酸塩、次亜塩素酸塩、二クロム酸塩、又は二酸化窒素などの様々な化学物質を用いた酸化によって獲得することができる(Stilwell et al.,Oxidized cellulose:Chemistry,Processing and Medical Applications,Handbook of Biodegradable Polymers:1997,291〜306を参照)。酸化された植物セルロースは、吸収性止血材として効果的に使用されている(1949年よりジョンソン・アンド・ジョンソン社(Johnson and Johnson)のSurgicel(登録商標)、より最近では2006年よりジェリタ・メディカル社(Gelita Medical)のGelitacel(登録商標))。植物系酸化セルロースからなる製品は、止血材、創傷ドレッシング、及び癒着防止バリアとして広く使用されている(米国特許第6,800,753号、スティルウェル(Stilwell)ら、1997年を参照)。
【0006】
植物セルロースは、二酸化窒素ガスの蒸気を使用することで最も効果的に酸化される。しかしながら、二酸化窒素ガスの使用には考慮を要する毒性作用があるのに対して、メタ過ヨウ素酸ナトリウムは、高結晶性セルロースを酸化する際により高い選択性を示し、副反応性は最小であることが示されている(Nevell T.,Oxidation,Methods in Carbohydrate Chemistry,New York:Academic Press 1963;3:164〜185を参照)。その酸化作用及び使用方法については、植物セルロースで重点的に研究されている(Stilwell et al.,1997;Kim et al.,Periodate oxidation of crystalline cellulose,Biomacromolecules 2000;1:488〜492;Calvini et al.,FTIR and WAXS analysis of periodate oxycellulose:Evidence for a cluster mechanism of oxidation,Vibrational Spectroscopy 2006;40:177〜183.;Singh et al.,Biodegradation studies on periodate oxidized cellulose,Biomaterials 1982;16〜20;Devi et al.,Biosoluble surgical material from 2,3−dialdehyde cellulose,Biomaterials 1986;7:193〜196.;Laurence et al.,Development of resorbable macroporous cellulosic material used as hemostatic in an osseous environment,J Biomed Mater Res 2005;73A:422〜429;Roychowdhury and Kumar,Fabrication and evaluation of porous 2,3−dialdehyde cellulose membrane as a potential biodegradable tissue−engineering scaffold,J Biomed Mater Res 2006;76A:300〜309.を参照)。過ヨウ素酸塩を使用した酸化の機序は、グルコピラノース環のC2〜C3結合の切断、及びジアルデヒド基の生成によるものである。このようなジアルデヒドセルロースは、体内に見られる生理条件下での加水分解によって2,4−ジヒドロキシ酪酸とグリコール酸とに分解するものと考えられる(Singh et al,1982を参照)。これらの分解産物はいずれも生体適合性かつ生分解性であり、人体によって代謝されることが知られている(Devi et al.,1986;Singh et al.,1982参照)。いったん分解プロセスが開始されると、分解プロセスはセルロースの網目構造を構成するグルカン鎖に沿って継続する(Stilwell et al.,1997)。
【0007】
細菌由来のセルロースを酸化するための方法についても、米国特許第7,709,631号に述べられている。細菌由来のセルロースは、その3次元構造に基づいた固有の物理的及び機械的性質を有している。例えば米国特許第7,374,775号、及び同第7,510,725号に述べられるように、細菌由来のセルロースは、その取り扱い性、生体適合性、及び安全性のために、幾つかの医療装置にすでに使用されている。アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)(グルコンアセトバクター・キシリナス(Gluconacetobacter xylinus)として再分類されたもの)によって合成されるある種の微生物由来セルロースは、純粋なセルロースナノファイバーで構成された高結晶性3次元ネットワークによって特徴付けられる。微生物由来セルロースは、一時的な創傷被覆用、慢性創傷及び火傷の治療用、並びに組織増殖、人工血管用の足場としての潜在的用途、並びに他の多くの生体医療用途を有する生体材料として長らく認識されてきた(Fontana et al.,Acetobacter cellulose pellicle as a temporary skin substitute,Appl Biochem Biotechnol 1990;24/25:253〜264;Alvarez et al,Effectiveness of a Biocellulose Wound Dressing for the Treatment of Chronic Venous Leg Ulcers:Results of a Single Center Random,Wounds 2004;16:224〜233;Czaja et al.,The future prospects of microbial cellulose in biomedical applications,Biomacromolecules 2007;8(1):1〜12;Klemm et al.,Cellulose:Fascinating Biopolymer and Sustainable Raw Material,Angew Chem,Int Ed 2005;44:3358〜3393;Bodin et al.,Bacterial cellulose as a potential meniscus implant,J Tissue Eng and Regen Med 2007;1(5):406〜408;Svensson et al.,Bacterial cellulose as a potential scaffold for tissue engineering of cartilage,Biomaterials 2005;26(4):419〜431)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
セルロースを酸化するための方法については広く文献に述べられているが、これらの方法では、医療用途において最も望ましい性質を有する、均質に酸化された材料が得られないことがしばしばある。これは、材料が、再水和され、身体の異なる形状に容易に適合し、取り扱いが容易となるような適当な強度を有するばかりでなく、特定の解剖学的部位の治癒と一致する期間で吸収されることが求められる軟組織用途、例えば硬膜修復用途において特に当てはまる。したがって、これらの望ましい性質を実現することが可能な酸化セルロース生体材料及びその製造方法が求められている。
【0009】
理想の材料とは、脳脊髄液(CSF)漏出を防止し、高い生体適合性を有し、潜在的な感染のリスクがなく、術中の取り扱い性がよく、硬膜と同様の機械的性質を有し、組織の再増殖に有効な吸収プロファイルを有し、入手及び保存が容易なものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示は、照射セルロースと酸化剤との前駆反応性混合物から形成された、吸収性生体材料として使用するための照射酸化セルロースについて述べるものである。その反応生成物は、被発熱性の吸収性生体材料であり、多孔質でありうる。一実施形態によれば、照射セルロースは、微生物由来セルロースであり、好ましい一実施形態では、グルコンアセトバクター・キシリナス(Gluconacetobacter xylinus)に由来するものである。述べられる吸収性生体材料は、異なる範囲の酸化度を有してよく、一実施形態では、約0%〜約99%の範囲、例えば約20%〜約70%の範囲の酸化度でありうる。
【0011】
本開示は、一実施形態によれば照射セルロースを酸化剤と反応させることによって形成することができる照射酸化セルロースの多孔質本体から形成された、組織の修復、置換又は強化に使用される医療インプラントについて更に述べる。インプラントを形成する酸化セルロース本体は、インプラントが第1の堅い(脱水された)状態から、生体適合性の液体(例えば、水、生理食塩水、血液、脳脊髄液など)と接触する際の第2の水和した状態へと速やかに移行することを可能とする無秩序で不均一な3次元繊維状網目構造を有する。水和した状態のインプラントは、一実施形態によれば、解剖学的表面、好ましくは軟組織表面、より好ましくは硬膜組織表面に適合する表面を有する。別の一実施形態によれば、インプラントの表面は、第2の医療装置に適合することができる。更なる一実施形態によれば、インプラントは、活性薬剤の足場又は担体であってよい。例えば、活性薬剤は、インプラントの多孔質本体に含浸させるか、又はインプラントの表面上にコーティングするか、又はその両方とすることができる。一実施形態によれば、活性薬剤は、ほぼ移植の時点又はその近くで(すなわち、術中に)インプラントに含浸及び/又はコーティングすることができる。別の一実施形態では、活性薬剤は、移植の時点よりも前に(すなわち、術前に)インプラントに含浸及び/又はコーティングすることができる。特定の実施形態では、1種類以上の活性薬剤をインプラントに含浸及び/又はコーティングすることができ、更にこの1種類以上の活性薬剤を異なる時間にインプラントに含浸及び/又はコーティングすることができる。例えば、特定の活性薬剤は術前にインプラントと組み合わせることができるのに対して、他の活性薬剤は術中に組み合わせることができる。
【0012】
本開示は更に、多孔質及び吸収性の酸化セルロースの本体を製造する方法であって、
(a)セルロースの本体を照射してセルロースの照射本体を形成することと、
(b)前記セルロースの照射本体を酸化剤と反応させることによって酸化セルロースの本体を形成することと、を含む方法について述べる。
【0013】
形成された酸化セルロースの本体は、一実施形態によれば、多孔質、非発熱性、及び吸収性である。
【0014】
一実施形態によれば、本方法は、前記照射セルロースの本体を、好ましくはセルロース本体を機械的にプレスすることによって部分的に脱水する工程を更に含みうる。別の一実施形態によれば、本方法は、前記酸化セルロースの本体を、好ましくは超臨界二酸化炭素を用いた臨界点乾燥によって、少なくとも部分的に脱水する工程を更に含みうる。更なる一実施形態によれば、前記非発熱性本体を照射する工程は、1回又は複数回の放射線の投与又は曝露を含みうる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
以下の図面は、例として、ただし限定としてではなく、本文書で検討される異なる実施形態を一般的に示したものである。上記の概要、及び本出願の好ましい実施形態の以下の詳細な説明は、添付の図面と併せて読むことでより理解が深まるであろう。
図1】酸化セルロースの提案されるインビボ分解の描図である。
図2】水和状態にある本開示に基づく照射酸化セルロースインプラント、及びやはり水和状態にある比較用の非照射酸化セルロースインプラントを上から見た、並び合った状態の写真図である。
図3】本開示に基づく照射酸化セルロース、及び非照射酸化セルロースの両方について酸化度を示したグラフである。
図4】本開示に基づく照射酸化セルロースについて、破裂強度、セルロース含量、及び表面積を示したグラフである。
図5】非照射酸化セルロース試料について、破裂強度、セルロース含量、及び表面積を示したグラフである。
図6A】それぞれ、天然セルロース、非照射酸化セルロース、及び本開示に基づく照射酸化セルロースの試料のSEM像である。
図6B】それぞれ、天然セルロース、非照射酸化セルロース、及び本開示に基づく照射酸化セルロースの試料のSEM像である。
図6C】それぞれ、天然セルロース、非照射酸化セルロース、及び本開示に基づく照射酸化セルロースの試料のSEM像である。
図7A】それぞれ、天然セルロース、非照射酸化セルロース、及び本開示に基づく照射酸化セルロースの試料のXRD像である。
図7B】それぞれ、天然セルロース、非照射酸化セルロース、及び本開示に基づく照射酸化セルロースの試料のXRD像である。
図7C】それぞれ、天然セルロース、非照射酸化セルロース、及び本開示に基づく照射酸化セルロースの試料のXRD像である。
図8】本開示に基づく照射酸化セルロースの一連のインビトロ分解プロファイルを示すグラフである。
図9】非照射酸化セルロースと本開示に基づく照射酸化セルロースのインビトロ分解プロファイルを比較したグラフである。
図10】天然セルロース試料、本開示に基づく照射酸化セルロース試料、及びインビトロ分解試験後の本開示に基づく照射酸化セルロースの残渣試料について分子量分布を示したグラフである。
図11】異なる放射線レベルに曝露した4つの酸化セルロース試料を上から見た写真図である。
図12A】インビボ動物試験の間の異なる時点に撮影された本開示の照射酸化セルロース試料の写真図である。
図12B】インビボ動物試験の間の異なる時点に撮影された本開示の照射酸化セルロース試料の写真図である。
図12C】インビボ動物試験の間の異なる時点に撮影された本開示の照射酸化セルロース試料の写真図である。
図12D】インビボ動物試験の間の異なる時点に撮影された本開示の照射酸化セルロース試料の写真図である。
図12E】インビボ動物試験の間の異なる時点に撮影された本開示の照射酸化セルロース試料の写真図である。
図12F】インビボ動物試験の間の異なる時点に撮影された本開示の照射酸化セルロース試料の写真図である。
図13】従来技術の市販の酸化セルロース試料に対して測定したインビボ試験において使用した、本開示に基づく照射酸化セルロース試料のインビトロ分解プロファイルを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本文書において、「a」又は「an」なる語は、1つ又は1つよりも多くのものを含むために用いられ、「又は」なる後は、特に断らないかぎりは非限定的な「又は」のことを指して用いられる。更に、本明細書で用いられ、他の意味では定義されない語法又は用語法は、あくまで説明を目的としたものであって限定を目的としたものではない点は理解されるべきである。更に、本文書において参照されるすべての刊行物、特許、及び特許文献は、恰も個別に参照により援用されたのと同様にしてそれらの全容を参照により本明細書に援用するものである。本文書と参照によりそのように援用された文書との間で矛盾する使用が見られる場合には、援用文献における使用は、本文書における使用の補足とみなすべきであり、相容れない矛盾の場合には、本文書における使用が優先するものである。値の範囲が表される場合、別の実施形態は、その1つの特定の値から、及び/又は他の特定の値までを包含する。同様に、値の前に「約」を用いることで値が近似値として表される場合、その特定の値は別の実施形態をなすことが理解されるであろう。範囲はいずれも包括的であり、組み合わせることが可能である。更に、ある範囲内の値について述べるとき、その範囲内のそれぞれ、及びすべての値が含まれる。分かりやすさのために別々の実施形態との関連において本明細書に述べられる本発明の特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせとして示される場合もある点も認識されるであろう。逆に、説明を簡単にするために単一の実施形態との関連において述べられる本発明の異なる特徴が、別々に、又は任意の部分的組み合わせとして示される場合もある。
【0017】
本明細書で使用するところの「セルロースの本体」、並びにその派生語及び変化形、例えば、「セルロース本体」、「照射セルロースの本体」、「酸化セルロースの本体」、「微生物由来セルロースの本体」などは、あらゆる種類の形状又は空間的配置のセルロース塊を述べるためのものであり、本明細書に明確に述べられないかぎりは、こうしたセルロース塊をいずれかの特定の配向又は立体配置に限定することを目的とするものではない。本開示に基づくセルロースの本体の非限定的な例には、セルロースのシート、セルロース膜、セルロースのペリクル、セルロースフィルム、セルロースパッチ、及び/又はセルロース試料が含まれる。
【0018】
本明細書で使用するところの「天然セルロース」、並びにその派生語及び変化形は、純粋な状態の植物及び微生物由来の形態のセルロースを述べるためのものである。例えば、本明細書に述べられる特定の実施形態において、「天然セルロース」とは、いずれの形態の酸化にも照射にも曝露されていない任意の由来のセルロースのことを指す。
【0019】
本開示によれば、照射セルロースと酸化剤との前駆反応性混合物から形成された照射酸化セルロースの吸収性生体材料について述べられる。その反応生成物は、被発熱性の吸収性生体材料であり、多孔質でありうる。セルロースは、植物又は微生物源に由来するものでよい。一実施形態によれば、照射セルロースは微生物由来セルロースであり、好ましくはグルコンアセトバクター・キシリナス(Gluconacetobacter xylinus)に由来するものである。
【0020】
本開示に基づく照射セルロースと反応させるために、任意の適当な酸化剤を反応性混合物中で使用することができる。適当な酸化剤の特定の例としては、メタ過ヨウ素酸塩、次亜塩素酸塩、二クロム酸塩、過酸化物、過マンガン酸塩、又は二酸化窒素が挙げられる。好ましい酸化剤の1つは、メタ過ヨウ素酸ナトリウムである。酸化剤は、一実施形態によれば、約0.01M〜約10.0M、好ましくは約0.05M〜約1.0M、より好ましくは約0.1M〜約0.5Mの濃度範囲を有しうる。
【0021】
セルロース本体の照射は、セルロース本体の繊維網目構造内部に化学的、構造的、及び形態的変化をもたらすことによって、後の酸化反応における変化を引き起こすことができる。例えば、照射処理は、特にカチオン選択透過性、膜伝導性を高め、分子間水素結合の変化を引き起こしうる。グルコピラノース鎖のセルロースの化学構造を照射することにより、セルロースの結晶化度及び平均分子量が低下させ、平均表面積を増大させることができる。いずれの特定の理論にも束縛されずに言うならば、照射処理によって生じうるセルロース膜の化学的及び物理的変化は、セルロース膜をより化学処理すなわち酸化されやすくするものと考えられる。更に、酸化の前にセルロース膜を照射することにより、より短くかつより効率的に酸化されるグルコピラノース鎖を有する多孔質生体材料が得られ、こうした生体材料は、生体適合性の液体がより容易に接触することができると考えられる。これに対して、非照射酸化セルロースは、ジアルデヒド基がよりランダムに分散したより長いグルコピラノース鎖を平均で有し、また、比較的高い結晶構造を引き続き維持しているものと予想される。したがって、照射によって形成されるより短いグルコース鎖では、対応する非照射セルロース本体の酸化によって実現され得るよりも酸化セルロースの全体量が大きいセルロースの本体が得られることになる。酸化グルコース鎖の比率が高いほど、照射酸化セルロース本体のより速やかかつ均一な分解につながりうる。上記に述べ、また図1に示すように、酸化セルロースのインビボでの分解は、主として2,4−ジヒドロキシ酪酸とグリコール酸への加水分解により起こるものと仮定される。セルロース本体の分解の最大で90%がこのようにして起こりうる。この分解プロセスはいったん開始するとセルロース本体を構成するグルコース鎖に沿って継続する。ジアルデヒド基の加水分解によって大きなグルコース鎖がより小さい多糖又はオリゴ糖単位に切断される、セルロース本体の残りの10%を占めうる更なる分解も起き、こうした多糖又はオリゴ糖単位は食作用によって身体から更に除去される。
【0022】
述べられる非発熱性吸収性材料は、異なる範囲の酸化度を有してよく、一実施形態では、約0%〜約99%の範囲、例えば約20%〜約70%の範囲の酸化度でありうる。照射酸化セルロースの酸化度は、選択される酸化剤、酸化剤の濃度範囲、反応温度、及び照射セルロースと酸化剤との反応の時間によって決まりうる。一実施形態によれば、酸化度は約15%〜約80%の範囲であり、別の実施形態では約20%〜約70%の範囲である。
【0023】
本開示によれば、組織の修復、置換及び/又は強化手術、特に軟組織における用途で使用するための、より具体的には硬膜置換パッチとして使用するための十分な機械的強度、解剖学的表面への適合性を有するインプラントについて述べられる。インプラントは、照射セルロースを酸化剤と反応させることによって形成された照射酸化セルロースの多孔質本体を有する。セルロースの多孔質本体は非発熱性であり、第1の堅い(脱水された)状態から、生体適合性の液体(例えば、水、生理食塩水、血液、脳脊髄液など)と接触する際の第2の水和した状態へと移行することができるセルロースの不均一な3次元繊維状網目構造を有する。図2は、水和状態にある本開示の一実施形態に基づいたインプラント10、及び水和状態にある非照射酸化セルロースインプラント20の平面図である。第2の水和状態にあるインプラント10は、一実施形態によれば、図2に示されるように透光性であってよく、セルロースパッチの形態とすることができる。本明細書で使用するところの「透光性」とは、場が照らされるが、インプラントを通して物体をはっきりと見ることは必ずしもできないように、水和状態にあるインプラントが光を拡散するように透過することができることを指す。
【0024】
インプラントの多孔質特性は、液体の速やかな取り込み(水和)を可能とするとともに、移植時の組織の内部成長を可能とするものである。一実施形態によれば、水和状態のインプラントは、インプラントを操作して所望の解剖学的位置に移植するのに十分な耐久性及び破裂強度(下記に更に詳しく説明する)を有し、規則的及び不規則的な外形を有する解剖学的表面に対する望ましい接着性及び付着性を示す。一実施形態によれば、水和状態のインプラントの表面は、解剖学的表面、好ましくは軟組織の表面、より好ましくは硬膜組織表面に対する形状適合性を有する(下記に更に詳しく説明する)。更なる実施形態では、インプラントは、縫合又は固定装置の助けを得ることなく解剖学的表面に接着可能である(すなわち、インプラントは自己接着性/自己固定インプラントでありうる)。しかしながら、インプラントは、それが望ましい場合には縫合又は固定装置の助けによって解剖学的表面に固定することができる点は認識されるはずである。
【0025】
特定の医療処置では、修復位置において更なる支持、固定及び/又は安定性を与えるために、解剖学的位置に更なる医療装置を配置することが望ましい。このような二次的医療装置が望ましい場合、水和状態のインプラント表面は、解剖学的表面、二次的医療装置の表面、及び/又はこれらの両方の表面に適合することができる。適当な二次的医療装置の例としては、これらに限定されるものではないが、骨ねじ、骨プレート、金属及びポリマー製メッシュ、並びに、頭蓋手術で使用されるもののような金属及びポリマー製プレート並びにキャップを挙げることができる。
【0026】
インプラントを形成する照射酸化セルロースの多孔質本体は、一実施形態によれば、第1の堅い(脱水された)状態から、生体適合性の液体と接触する際の第2の水和した状態へと移行する能力を有する。第2の水和した状態にあるインプラントは、下記に更に詳しく述べるように解剖学的表面に対する形状適合性を有する。特定の実施形態では、このような移行は短時間で起こりうる。例えば一実施形態によれば、インプラントは第1の堅い状態から第2の水和した状態に約10分以内に移行することができる。更なる実施形態によれば、インプラントは、第1の堅い状態から第2の水和した状態(例えば、完全に水和した状態)に約5分以内、約30秒以内、約10秒未満内、約5秒未満内、又は約2秒未満内に移行することができる。
【0027】
インプラントを形成する照射酸化セルロースの多孔質本体は、特定の実施形態によれば更に、第2の水和した状態において第1の堅い状態におけるインプラントの乾燥質量よりも大きい量(質量又は体積で測定される)の生体適合性の液体を収容及び保持することができる。第1の堅い状態から第2の水和した状態に移行する際にインプラントが達成することができる水和量は、保水力(Water Holding Capacity:WHC)の値によって測定することができる。WHC値については下記に更に詳しく説明するが、この値は一般的には、第1の堅い状態にあるインプラントの乾燥質量に対する第2の水和した状態にあるインプラントが保持する生体適合性の液体の質量の測定値である。WHC値が高いほどインプラントが生体適合性の液体を取り込む能力は高くなる。いずれの特定の理論にも束縛されずに言うならば、インプラントがその乾燥重量サイズに対して十分に大きい量の液体を取り込む能力は、インプラントの表面が規則的及び不規則的な解剖学的表面、並びに二次的医療装置の表面の形状に適合する能力と直接的な相関を有しうるものと考えられる。一実施形態によれば、インプラントは、酸化剤が0.3M以上の濃度を有する場合に少なくとも約7.0のWHCを有する。別の実施形態によれば、インプラントの表面積(平方センチメートルで測定される)に対するWHC値の比は少なくとも約2.7:1である。
【0028】
インプラントは、インプラントを移植しようとする臨床適応例に合わせて操作できる可変の分解プロファイルの範囲を有する。例えば、インプラントが硬膜置換パッチとして使用するために選択される場合、インプラントを形成する多孔質本体は、天然硬膜の天然組織置換速度にほぼ一致する分解プロファイルを有することができる。インビボ環境を再現した条件下で行われるインビトロ分解試験を行うことによって、例えば硬膜置換材又は止血材としての所望の臨床適応例に対するインプラントの分解プロファイルを評価することができる。インビトロ試験は、必要なだけの任意の時間の長さ、例えば1日、1週間、4週間、2ヶ月、6ヶ月、1年、又は複数年にわたって行うことができる。一実施形態によれば、多孔質本体は、模擬体液(simulated body fluid:SBF)条件下で約0〜約90%の範囲の1週間インビトロ分解プロファイル(下記に更に詳しく説明する)を有する。別の実施形態によれば、多孔質本体は、酸化剤が約0.1Mの濃度を有する場合に約0〜40%の範囲の1週間インビトロ分解プロファイルを有する。更に別の実施形態によれば、多孔質本体は、酸化剤が約0.3Mの濃度を有する場合に約20〜90%の範囲の1週間インビトロ分解プロファイルを有する。更に別の実施形態によれば、多孔質本体は、多孔質本体が少なくとも1時間酸化された場合に約0〜60%の範囲の1週間インビトロ分解プロファイルを有する。更なる実施形態によれば、多孔質本体は、多孔質本体が少なくとも3時間酸化された場合に約15〜80%の範囲の1週間インビトロ分解プロファイルを有する。特定の好ましい実施形態では、多孔質本体は、4週間にわたって測定した場合に約80%〜約100%のインビトロ分解プロファイルを有する。
【0029】
本開示の更なる実施形態によれば、インプラントは、1又は2以上の活性薬剤の足場又は担体でありうる。1乃至複数の活性薬剤を、インプラントを形成するセルロースの多孔質本体に含浸するか、インプラントの表面上にコーティングするか、かつ/又はその両方を行うことができる。一実施形態によれば、1乃至複数の活性薬剤は、ほぼ移植の時点又はその近くで(すなわち、術中に)インプラントに含浸及び/又はコーティングすることができる。別の一実施形態では、1乃至複数の活性薬剤は、移植の時点よりも前に(すなわち、術前に)インプラントに含浸及び/又はコーティングすることができる。特定の実施形態では、2以上の活性薬剤をインプラントに含浸及び/又はコーティングすることができ、更にこの2以上の活性薬剤を異なる時間においてインプラントに含浸及び/又はコーティングすることができる。例えば、特定の活性薬剤は術前にインプラントと組み合わせることができるのに対して、他の活性薬剤は術中に組み合わせることができる。インプラントとともに使用することが可能な活性薬剤としては、骨髄、自家移植片、骨誘導性小分子、骨形成物質、幹細胞、骨形成タンパク質、抗細菌剤、リン酸カルシウムセラミック、並びにこれらの混合物及びブレンドなどの解剖学的位置における処置に適したあらゆる組成物が挙げられる。
【0030】
本開示は更に、多孔質及び吸収性の酸化セルロースの本体を製造する方法であって、
(a)セルロースの本体を照射してセルロースの照射本体を形成することと、
(b)該セルロースの照射本体を酸化剤と反応させることによって酸化セルロースの本体を形成することと、を含む方法について述べる。
【0031】
形成された酸化セルロースの本体は、一実施形態によれば、多孔質、非発熱性、及び吸収性である。
【0032】
一実施形態によれば、本方法は、上記照射セルロースの本体を、好ましくはセルロース本体を機械的にプレスすることによって部分的に脱水する工程を更に含みうる。別の一実施形態によれば、本方法は、上記酸化セルロースの本体を、好ましくは超臨界二酸化炭素を用いた臨界点乾燥によって、少なくとも部分的に脱水する工程を更に含みうる。更なる一実施形態によれば、本方法は、上記セルロースの非発熱性本体、上記セルロースの照射本体、及び/又は上記酸化セルロースの本体を1又は2以上の活性薬剤と接触させることを含みうる。
【0033】
任意の適当な酸化剤を、本方法に基づいた上記セルロースの照射本体との反応に使用することができる。適当な酸化剤の特定の例としては、メタ過ヨウ素酸塩、次亜塩素酸塩、二クロム酸塩、過酸化物、過マンガン酸塩、又は二酸化窒素が挙げられる。好ましい酸化剤の1つは、メタ過ヨウ素酸ナトリウムである。本方法の一実施形態によれば、セルロースとメタ過ヨウ素酸塩とは、1:1〜約1:160の、セルロースとメタ過ヨウ素酸塩とのモル比の範囲において反応し、別の実施形態では、セルロースとメタ過ヨウ素酸塩とは、1:1〜約1:120の、セルロースとメタ過ヨウ素酸塩とのモル比の範囲において反応する。好ましい一実施形態では、セルロースとメタ過ヨウ素酸塩とは、約1:120の、セルロースとメタ過ヨウ素酸塩とのモル比の範囲において反応する。酸化剤のモル濃度の範囲は必要に応じて異なりうる。本方法の一実施形態によれば、酸化剤は、反応中に約0.05M〜約1.0Mの濃度範囲を有し、別の実施形態では、酸化剤は、反応中に約0.1M〜約0.4Mの濃度範囲を有する。同様に、セルロースの照射本体と酸化剤との反応時間は必要に応じて異なりうる。本方法の一実施形態によれば、酸化剤とセルロースとは約0.1時間〜約72時間反応し、別の実施形態では、酸化剤とセルロースとは約3時間〜約12時間反応する。例えば、40℃又はそれに近い反応温度では、酸化剤はセルロースと、約0.1Mで約5時間〜約0.5Mで約12時間の濃度及び時間の範囲で反応する。好ましくは、酸化剤は約0.2M〜約0.4Mの濃度範囲で約5時間存在しうる。
【0034】
本開示の方法に基づいて、セルロースの照射本体を酸化剤と反応させて酸化セルロースの本体を形成することにより、異なる酸化度を得ることができる。本方法の一実施形態によれば、酸化セルロースの本体は、酸化剤とセルロースの1時間の反応後に少なくとも約25%の酸化度を有する。別の実施形態によれば、酸化セルロースの本体は、酸化剤とセルロースの2時間の反応後に少なくとも約40%の酸化度を有する。更なる実施形態によれば、酸化セルロースの本体は、酸化剤とセルロースの2時間の反応後に少なくとも約45%の酸化度を有する。特定の実施形態では、本明細書に述べられる方法の実施形態に基づいて形成された酸化セルロースの本体は、約20%〜約70%の範囲の酸化度を有する。
【0035】
本開示の一実施形態によれば、1乃至複数の製造方法を以下のようにして用いることができる。
【0036】
セルロース本体の調製
本開示の吸収性生体材料を調製するには、グルコンアセトバクター・キシリナス(Gluconacetobacter xylinus)(アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum))の細胞を、液体栄養培地の入ったバイオリアクター中、約30℃、初期pH約4.1〜4.5で培養(インキュベート)する。セルロース産生は、例えばスクロースを炭素源として、アンモニウム塩を窒素源として、コーンスティープリカーを栄養源として用いることで実現できる。発酵プロセスは一般的に、蒸発を低減する蓋を有する浅いバイオリアクター中で行うことができる。このようなシステムは、均一なセルロース膜を確実に形成する助けとなる酸素抑制条件を与えることが可能である。バイオリアクターの寸法は、合成されるセルロースの所望の形状、サイズ、厚さ、及び収率に応じて異なりうる。
【0037】
インキュベーション工程の後の主発酵プロセスは、一般的に定常条件下で約8〜120時間、好ましくは24〜72時間の間、行われ、その間に培地中の細菌が微生物を含むセルロースシートの薄層を合成及び堆積することによってセルロース膜が形成される。所望の厚さ及び/又はセルロース収率に応じて発酵を停止させることができ、その時点で膜をバイオリアクターから回収することができる。一実施形態によれば、比較的短時間の後に主発酵を停止することによって、均一で低セルロース含量の膜(ペリクル)が得られる。この後、ペリクルに含まれる余分な培地を圧縮又は遠心分離などの標準的な分離法によって除去することにより、部分的に脱水されたペリクルが得られる。
【0038】
セルロース本体の精製
次に、部分的に脱水されたセルロースペリクルを、セルロースを非発熱性とする精製プロセスに供することができる。一実施形態によれば、この精製方法はセルロース膜の化学的精製である。セルロースを一連の苛性(例えば濃縮水酸化ナトリウム)化学洗浄工程に供することによりセルロース膜を非発熱性材料に変換した後、中性pHが得られるまで濾過水への浸漬、かつ/又は濾過水による洗浄を行う。これらの工程に代えるか又はこれらの工程に加えて、希酢酸中への短時間の浸漬を行うことにより、残留する水酸化ナトリウムを確実に中和することもできる。異なる曝露時間、濃度、及び温度、並びにプレス加工を含む機械的方法を用いた精製プロセスを未精製のセルロース膜に用いることができる。この処理は最適化するため、約1〜約12時間の水酸化ナトリウム中でのプロセス時間を、約30℃〜約100℃の温度変化と組み合わせて調べた。好ましい、又は推奨される温度プロセスは70℃又はその近くで生じる。
【0039】
プロセス後にセルロース本体中に残留するエンドトキシンの量は、リムルス・アメボサイト・ライセート(LAL)試験によって測定することができる。本明細書に述べられる洗浄プロセスは、硬膜置換材料についてのFDAの要求条件を満たす非発熱性セルロース膜(<0.06EU/mL)を与えることができる。<セルロース膜の精製後、一実施形態によれば、所望の重量及び厚さにまでペリクルを機械的に圧縮することができる。
【0040】
セルロース本体の照射
本開示によれば、非発熱性セルロース膜は電離放射線により照射される。一実施形態では、放射線はγ線である。セルロース膜は、約10kGy〜約100kGy、より好ましくは約20kGy〜約40kGyの範囲の透過放射線を吸収することができる。特定の実施形態では、セルロース膜は約20kGy〜約26.5kGyの範囲の透過γ線を吸収することができる。本開示の一実施形態では、放射線は1回の曝露又は投与で与えられる。別の実施形態では、放射線は複数回の曝露により与えられてもよい。例えば、本開示に基づくセルロース本体は、本開示にしたがって1回、2回、又は3回照射することができる。更に、複数回の投与又は曝露がセルロース本体に照射される場合、複数回の投与のそれぞれについてセルロース本体によって透過及び吸収される放射線は異なる範囲のものであってよい。曝露の回数及び放射線の強度は必要に応じて変えることができる点は当業者によって認識されるはずである。
【0041】
照射に加え、より均一な酸化を促し、酸化の速度を高めるために、セルロース膜を電解質溶液に予め浸漬することができる。電解質は、硫酸塩又は塩化物系、好ましくはNaClからのものでよい。電解質濃度は、約0.001M〜約1.0M、好ましくは約0.05M〜約0.1M、より好ましくは約0.2M〜約0.4Mの範囲とすることができる。この予浸は、30分〜1ヶ月、好ましくは10時間〜24時間持続させることができる。
【0042】
照射セルロース本体の酸化
照射工程及び必要に応じて行われる予浸工程の後、セルロース膜を、例えばクロム酸、次亜塩素酸塩、ニクロム酸塩、二酸化窒素、四酸化二窒素、又はメタ過ヨウ素酸ナトリウムを含みうる適当な酸化剤と反応させる。一実施形態によれば、酸化剤はメタ過ヨウ素酸ナトリウムである。メタ過ヨウ素酸塩が選択される場合、反応は好ましくは暗所で行われる点に留意されたい。一実施形態によれば、酸化剤による酸化反応は、約30分〜72時間、好ましくは約2〜16時間、より好ましくは約2〜6時間の範囲の時間にわたる。酸化反応は、一般的に18℃〜60℃、好ましくは30℃〜50℃の温度範囲、より好ましくは約40℃で進行しうる。別の実施形態によれば、酸化剤による酸化反応は少なくとも約1時間の時間にわたり、更なる別の実施形態では少なくとも約3時間にわたる。容器を振盪器上に置き、20〜500rpm、好ましくは350〜450rpmで揺動させる。セルロースとメタ過ヨウ素酸塩との間のモル比は、1:1〜1:160、好ましくは1:1〜1:120の範囲、より好ましくは約1:120に維持することができる。酸化反応が終了した時点で、酸化セルロース膜を氷浴上、濾過水中で複数回洗浄して余分なメタ過ヨウ素酸塩を除去する。また、酸化セルロース膜は、エチレングリコール中で洗浄してメタ過ヨウ素酸塩を中和した後、脱イオン水中で複数回洗浄してもよい。
【0043】
上記に述べた酸化プロセスに加えるか又はこれに代えて、酸化の前にセルロース膜を粉砕してスラリーを形成した後、ホモジナイズしてセルロース繊維の微細懸濁液としてもよい。次いで、ホモジナイズした懸濁液を上記に述べたようにメタ過ヨウ素酸ナトリウムで酸化する。次いで酸化セルロース懸濁液を回収し、洗浄して余分なメタ過ヨウ素酸塩を除去する。次いで懸濁液を成形型に入れて架橋することにより、やはり安定した酸化セルロース膜が形成される。
【0044】
更なる別の代替的な実施形態では、セルロース膜は酸化する前に臨界点乾燥に供してもよい。臨界点乾燥は、セルロース膜中の水が、例えばエタノールなどの水に溶ける非水性溶媒と交換される、段階的なプロセスである。この後、エタノールを液体二酸化炭素で置換する。この乾燥プロセスは、セルロース膜中への酸化剤の浸透性を高めることができる。乾燥した膜は、上記に述べたように酸化剤と反応させて回収し、上記に述べた要領で洗浄する。
【0045】
超臨界二酸化炭素を使用したセルロース本体の乾燥
上記に述べた酸化プロセスのいずれかの後で、超臨界二酸化炭素を使用した臨界点乾燥によりセルロース膜を更に乾燥することができる。上記に説明したように、セルロース膜中の水が非水性溶媒(例えば、エタノール)と交換される。この後、溶媒を臨界点乾燥と呼ばれるプロセスにより液体二酸化炭素で置換する。臨界点乾燥では、セルロース膜をホルダー上に装填し、ステンレス鋼メッシュプレート間に挟み、次いで加圧下の超臨界二酸化炭素が入ったチャンバー内で浸漬する。ホルダーは、セルロース膜を通ってCOが循環できるように設計されており、メッシュプレートは膜を安定化させて乾燥プロセス中に膜が波打つことを防止する。有機溶媒がすべて除去された時点で(最も一般的な場合では約1〜6時間の範囲)、液体COの温度を二酸化炭素の臨界温度よりも高い温度に上げることにより、COが超臨界液/ガスを形成する。この移行の間には表面張力がいっさい存在しないことにより、得られる生成物はその形状、厚さ、及び3Dナノ構造が維持された乾燥膜となる。この乾燥製品を切断、パッケージング、及び滅菌する。
【実施例】
【0046】
本明細書において特に断らないかぎり、下記実施例で使用した照射セルロースは、約20〜26.5kGyの範囲で照射したものである。
【0047】
本明細書において特に断らないかぎり、実施例で使用した天然セルロースは、照射及び/又は酸化が行われる前に酸化セルロース(照射及び非照射の両方のもの)と同様のセルロース含量(g/cmで測定される)を有していた。
【0048】
試料の酸化率(%)
存在するアルデヒド含量を測定することによりセルロース膜中の酸化セルロースの比率(%)を求めた。例えば、酸化した試料を、撹拌ビーカー中、70℃で15〜25分間、10mLの0.05M NaOHと反応させた。次いでこの懸濁液を室温にまで冷却し、10mLの0.05M HClを加えてNaOHを中和した。過剰な酸は、フェノールフタレインを指示薬として用いて0.01M NaOHで滴定した。以下の式を用いてセルロース試料の酸化率(%)を計算した。
酸化率(%)=[(MNaOH滴定NaOH滴定(MW酸化セルロース/M酸化セルロース100]/2
【0049】
【表1】
【0050】
図3は、本開示に基づく照射酸化セルロース及び非照射酸化セルロースの両方について上記に述べた方法にしたがって計算した酸化度を示したグラフである。過ヨウ素酸ナトリウムを0.3Mの一定濃度及び40℃の一定温度で酸化剤として使用した。各試料で酸化率(%)を0〜4時間の時間にわたって測定した。
【0051】
形状適合性試験
脱水したセルロース試料をSBF(pH=7.4)溶液中で再水和し、頭蓋拍動モデル(シンセス社(Synthes, Inc.))の解剖学的に正確な表面上の不規則形状に適合する能力を試験することにより形状適合性を試験した。0.3Mの過ヨウ素酸塩により40℃で3時間酸化した乾燥した酸化インプラント試料(照射及び非照射の両方のもの)を、頭蓋拍動モデルの湿った表面上に置き、SBFですすいだ。形状適合性を有する試料とは、1)例えば30秒以内、20秒以内、10秒以内、好ましくは5秒以内の速やかな再水和(第1の堅い状態から第2の水和した状態への移行)を示し、2)モデルの表面に対して完全に付着し、3)1分以内の模擬拍動において表面に接着するもの、として定義される。
【0052】
使用した頭蓋拍動モデルについては、WD Losquadro et al.,「Polylactide−co−glycolide Fiber−Reinforced Calcium Phosphate Bone Cement,」Arch Facial Plast Surg,11(2),Mar./April 2009,pp.105〜106に示され、述べられている。拍動モデルは、(シンセス社(Synthes, Inc.))により設計、製造されるものである。このモデルは、頭蓋欠損部を再現した異なる直径の開口部を有する6つの解剖学的に正確な成人頭蓋骨で構成される。頭蓋骨は中実発泡ポリウレタンから形成され、硬膜はシリコーンで形成されたものである。各頭蓋骨は、外部環境から水封された個別の水ポンプに取り付けられており、硬膜拍動を再現するためにポンプからの水を模擬硬膜材料の内側に圧送することが可能である。
【0053】
外科的創傷環境を再現するため、循環水ヒーターを用いて37℃及び相対湿度95%〜100%に一定に保たれた閉鎖型水浴内に頭蓋骨モデルを収容した。浴中の水はモデル頭蓋骨の頭蓋底に達したが欠損領域は浸さなかった。閉鎖型水ポンプは、約1.7mm〜2.0mmの硬膜拍動変位の術中所見を再現するようにプログラムした。
【0054】
破裂強度試験
異なるサイズの酸化セルロース試料を、シンテス社(Synthes、米国)により製造される、11.4kg(25ポンド)に校正した手動式破裂試験機を使用してボール破裂強度について試験した。破裂強度を測定するために用いた試験法は、ASTM D2207−00(2010年に再承認)「ボール法による皮革の破裂強度の標準的試験方法(Standard Test Method for Bursting Strength of Leather by the Ball Method)」に述べられる手順に基づいたものとした。乾燥試料をSBF中で5分間再水和した後、直径2.54cm(1インチ)の中央開口部を有するステンレス鋼ホルダーに挟んだ。この試験法は、球状の端部を有するプランジャーを酸化セルロース膜に貫通させるために必要とされる力を測定することによって破裂強度を測定するように設計されている。すなわち、プランジャーは、力をデジタル測定しながら破断するまで試料に貫通させるために用いられる。
【0055】
セルロース含量の測定
既知の表面積を有する試料を55℃のオーブン中で一晩、空気乾燥した。乾燥した試料の重量を試料の表面積で割ることによってセルロース含量を測定し、g/cmで表した。
【0056】
照射酸化セルロース試料及び非照射酸化セルロース試料のセルロース含量、表面積、破裂強度、及び形状適合性を含む上記の実験に関するデータを、図4及び5にそれぞれグラフで示す。試料を0.3Mの一定濃度のメタ過ヨウ素酸ナトリウムにより40℃で約0〜5時間の時間範囲にわたって酸化した。試験を行い、図4に示した照射酸化試料は、形状適合性について上記に述べた基準にしたがって測定したすべての値で再水和した場合に形状適合性を示した。これに対して、試験を行い、図5に示した非照射酸化試料は、破線の縦線の左側の値の範囲内、すなわち、2時間未満の酸化時間で再水和した場合にのみ形状適合性を示した。
【0057】
SEM観察
天然セルロース、非照射酸化セルロース、及び照射酸化セルロースを含むセルロース膜の試料を超臨界COにより乾燥した後、金でコーティングした。酸化は0.3Mの過ヨウ素酸塩により40℃で3時間行った。20kVで動作する日立製電界放射型走査電子顕微鏡を使用して試料を調べた。図6A〜6Cは、それぞれ天然セルロース、非照射酸化セルロース、及び照射酸化セルロースの試料のSEM像である。これらのSEM像は、図6Aに示される天然セルロースが、繊維状の、3次元に配向した秩序だったセルロース鎖の構造を有することを示している。図6Bに示される非照射酸化セルロースは、天然セルロースと比較してよりコンパクトな構造であり、より大きな小線維の領域が互いに積層されている。図6Cに示される照射酸化試料は、上記の各セルロース試料と比較して概して無秩序であり、他のセルロース試料と比較して概してより小さい小線維を含み、不均一領域が概して高頻度で存在する、より無秩序な構造を有している。
【0058】
X線回折(XRD)試験
天然試料、非照射酸化試料、及び照射酸化試料を含む乾燥セルロース膜試料をXRD試料カップホルダーに入れ、これをXRDマガジンに入れてから装置に入れて測定を行った。酸化は0.3Mの過ヨウ素酸塩により40℃で3時間行った。PANalytical XRDシステムにより発生させたNi濾過CuKα放射線を用いてX線回折スペクトルを記録した。走査は4〜90°の2θ範囲にわたって行ったが、分析は4〜40°の2θ範囲で行った。このデータをHighScore Plus XRDソフトウェアにより分析した。図7A〜7Cは、それぞれ天然試料、非照射酸化試料、及び照射酸化試料のXRDスペクトルグラフである。XRD図に見られるように、天然試料(図7A)は高度に秩序だった結晶構造を有しており、これに非照射セルロース(図7B)が続き、照射試料(図7C)が最も無秩序な結晶構造を示している。
【0059】
下記の式を用いて結晶化度(%)を計算した。
CrI=100×[(I002−IAmorph)/I002
式中、CrIは結晶化度であり、I002は(002)格子回折(22°2θ)の最大強度であり、IAmorphは18°2θにおける回折強度である。下記表2に、測定を行ったセルロース試料の測定された結晶化度指数を示す。
【0060】
【表2】
【0061】
再水和/保水力の測定
この実験では、セルロースの照射及び非照射本体を4cm×5cmの試料に切断した。これらの試料を40℃及び以下の条件で過ヨウ素酸塩溶液に曝露して酸化を行った。
【0062】
【表3】
【0063】
照射及び非照射セルロース試料の反応は、いずれも2重に行った。各反応が終了した後、本明細書で上記に開示した方法にしたがった洗浄及びCO乾燥により試料を試験用に準備処理した。
【0064】
次に、すべての試料の初期重量及び表面積寸法を測定し、非照射試料を対応する照射試料に対して測定した。20mLのSBFで調製したペトリ皿を使用し、セルロースの非照射試料を液中に30秒間置いた後、秤量した。次いで、この水和工程を照射試料で繰り返した。30秒間の水和の後、湿潤質量を秤量することを調製したすべての試料で繰り返した。各条件について保水力(WHC)を以下の式により計算した。
【数1】
【0065】
WHCの平均を取って、非照射セルロースと照射セルロースとの間の再水和能力の差を測定した。各試料についてWHCと表面積(SA)との間の関係も測定した。下記表3に、与えられた酸化パラメータにおける照射酸化セルロース及び非照射酸化セルロースのそれぞれの試料について個別の試料の結果を示す。表4は、与えられた酸化パラメータにおける照射及び非照射酸化試料のそれぞれについて平均WHC及びWHC/SA値をまとめたものを示す。
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
インビトロ分解プロファイル
本開示にしたがって調製した、異なる酸化度を有する照射及び非照射酸化セルロースの試料をSBF中でインキュベートすることによりインビトロで試験した。分解プロファイルは、各セルロース試料が、少なくとも2〜4週間の期間にわたって機械的に安定した状態に保たれたことを示している(膜/フィルムの形態で)。この初期期間の後、試料は不規則なセルロース塊に分解しはじめ、その後1〜3ヶ月にわたって分解し、初期乾燥質量の約0.1%〜5.0%が残った。
【0069】
リアルタイム及び加速実験を行った。乾燥した照射酸化セルロースの試料(約1×1cm四方)を、20mLのSBF(pH=7.4)で満たした滅菌した50mL遠心用コニカルチューブに入れ、37℃又は55℃の定常条件下に1週間〜6ヶ月の期間にわたって維持した(リアルタイム)。リアルタイム実験では、各試料を遠心し、古いSBFを捨て、これを新しいものに置き換えることによって、各チューブ内のSBFを、最初の5日間は毎日、その後は毎週交換した。各試料を、1、2、3、4、14、28、90及び164日目に分析した。各時点でチューブを遠心して残渣ペレットを回収した。上清を捨て、脱イオン水を加えて残留SBFからペレットを洗った。チューブを短時間攪拌し、再び遠心してペレットを回収した。脱イオン水洗浄工程を2回繰り返した。この後、ペレットを60℃のオーブン内で一定重量となるまで乾燥した。分解率(%)を、乾燥ペレット重量と最初の試料重量との間の差として計算した。
【0070】
図8は、異なる過ヨウ素酸塩濃度で酸化した照射セルロースの分解プロファイル(SBF、pH=7.4、55℃、7日間)をグラフに示したものである。試験したすべての条件で、実験全体を通じて試料の乾燥質量の進行的損失が観察された。SBF中でインキュベートすると、試料は高い透光性を有する軟らかいゲル状の構造となる。使用する酸化条件に応じて、7日間のインキュベーション時間後に約10〜95%の範囲の分解率を得ることができる。これらの結果は、分解速度が、過ヨウ素酸塩濃度、反応温度、及び反応時間によって制御することが可能な酸化度に関連していることを示している。このような手法を用いることにより、所望の分解速度を有し、形状適合性を示す、機械的に安定した生体材料を調製することが可能である。図9は、異なる時間(1〜4時間)で酸化した照射及び非照射セルロース試料についてインビトロ分解(乾燥質量損失)の結果をグラフに示したものである。これらの曲線は、3時間及び4時間酸化した両方のタイプの試料で重量の損失が認められたことを示している。約3時間未満で酸化した試料の質量損失の初期速度は、照射セルロースで非照射セルロースよりも高くなっている。
【0071】
インビトロ分解で使用したタイプのセルロースの試料を、ポリマー・ソルーションズ社(Polymer Solutions Incorporated:PSI)(バージニア州、ブラックスバーグ)に提出し、光散乱検出を用いたGPCによる分子量分布の分析を行った。以下の3つのタイプの試料を提出した。すなわち、1)「天然セルロース(湿潤)」として示される天然の微生物由来セルロースの試料、2)「酸化セルロース(湿潤)」として示される照射酸化微生物由来セルロースの試料、及び3)「インプラント残留含量」として示される、上記に述べた7日間のインビトロ分解プロセスに供した照射酸化微生物由来セルロースの残渣試料、である。
【0072】
この実験で使用するところの「湿潤」なる用語は、「天然セルロース」試料及び「酸化セルロース」試料が、上記に述べた超臨界COによる臨界点乾燥の工程を行っていないことを示すために用いられている。「酸化試料」及び「インプラント残留含量」試料はいずれも0.3Mの過ヨウ素酸塩により、40℃で3時間酸化を行った。
【0073】
各セルロース試料の分子量分布は、光散乱検出を用いたゲル透過クロマトグラフィー(GPC)によって分析した。天然セルロース(湿潤)の4×5cmの小片の約半分と、酸化セルロース(湿潤)の2.2×3.0cmの小片の全体を別々の40mLガラスシンチレーションバイアルに入れた。ワットマンNo.1濾紙1枚を小型のブレード式コーヒーミルで約5分間粉砕し、約20mgの得られた「綿毛状物」を40mLシンチレーションバイアル中に秤量した。ワットマン濾紙は、溶解プロセスにおけるコントロールとして、また、DMAc中のセルロースの比屈折率増分(dn/dc)の推定に使用する目的で含めた。10mLの純水及び使い捨てスターラーバーを各バイアルに加えた。各バイアルを約5時間、50℃で撹拌した。天然セルロース(湿潤)及び酸化セルロース(湿潤)試料は分解しなかった。そこで、湿潤セルロース小片を60〜70mLの純水とともに小型のフードプロセッサーに入れ、60〜90秒間処理することにより、極めて細かい繊維状粒子のスラリーを得た。次いでこのスラリーを、47mm、0.2μmのナイロン膜で余分な水が除去されるまで真空濾過した。
【0074】
次いで湿潤セルロースの試料を、10μmポリプロピレンメッシュフィルターが入ったワットマンVecta−Spin遠心フィルターに移した。遠心分離により水を除去し、HPLCグレードのメタノールに置き換え、一晩浸漬した。翌日、メタノールを遠心分離により除去し、新鮮なメタノールにより更に3時間浸漬を行った後、20分間遠心した。次いで、この溶媒交換プロセスを、乾燥したN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)を使用し、75分間、一晩、及び30分間の浸漬時間で、各浸漬後に20分間の遠心を行う3回の交換において繰り返した。
【0075】
次いで、各DMAc湿潤試料及びワットマン濾紙のコントロールを40mLシンチレーションバイアルに移した。20mgのインプラント残留含量試料を40mLシンチレーションバイアルに同様に秤量した。これらのそれぞれに、8%塩化リチウムのDMAc溶液2mL及びスターラーバーを加えた。各試料を室温で3日間攪拌した後、4℃の冷蔵庫内に更に3日間置いた。天然セルロース及びワットマン濾紙コントロールは完全に溶解した。酸化セルロース試料は、多数のゲル状粒子を含んだ濁った溶液を形成した。インプラント残留含量試料は大部分が溶解したが、最初の試料のごくわずかな比率は溶解しなかった。
【0076】
天然セルロース溶液及び酸化セルロース溶液を14mLのDMAcで希釈した。ワットマンセルロースコントロール及びインプラント残留含量試料は30mLのDMAcで希釈した。これらの希釈溶液を約4℃で更に1日保存した後、孔径0.45μmのPTFEシリンジフィルターに通してGPCオートサンプラーバイアル中に濾過した。濾過後、下記表5に示すパラメータで、各試料溶液のGPCへの注入を2重に行い、2角度光散乱を用いて分子量を計算した。
【0077】
【表6】
−セルロースのdn/dcとは、コントロール値として用いられる綿セルロースの値を指す。
【0078】
表6に、分子量平均(Mn、Mw、Mz)及び多分散度(Mw/Mx)を各試料の2重の注入について示す。すべての試料の分子量分布のプロットを比較し、図10のグラフに示す。光散乱分子量計算に用いたDMAc中のセルロースの比屈折率増分(dn/dc)の値は、ワットマン濾紙コントロールの2重の注入のRI検出器ピーク面積から推定した。細菌由来セルロース試料は、ワットマン濾紙(綿セルロース)と同じdn/dc値を有するものと仮定した。
【0079】
【表7】
【0080】
放射線量及びインビトロ分解
4つのセルロース本体を異なる放射線量に曝露してから、0.3M過ヨウ素酸塩により、40℃で3時間酸化した。酸化を行った後、各試料のインビトロ分解速度(7日間)を測定した。
【0081】
各セルロース本体をステリジェニックス社(Sterigenics)(ノースカロライナ州シャルロット)に送付して異なる線量の放射線の照射を行った。試料に、高精度の低容積照射装置であるExCell(登録商標)システムを用いてγ線を照射した。放射線の各照射は、試料を約20kGy〜約26.5kGyの範囲で照射することを意図した。各処理の実際の線量レベルを測定したところ、約23kGyであった。この後、試料を0.3Mの過ヨウ素酸塩により、40℃で3時間酸化した。図11は、放射線曝露及びそれに続く酸化の後の4つの試料の平面図である。試料1(41)は照射を行わなかった。試料2(42)は、線量23kGyの1回の処理に曝露した。試料3(43)は、それぞれ線量23kGyの2回の別々の処理に曝露した。試料4(44)は、それぞれ線量23kGyの3回の別々の処理に曝露した。各試料を、55℃のSBF条件で1週間、上記に述べたようにインビトロ分解について測定した。表7は、SBF条件下で1週間後の各試料の測定された試料分解率(%)を、インビトロ分解試験の開始前の試料重量、表面積、及びセルロース含量とともに示したものである。
【0082】
【表8】
【0083】
高い放射線は、図11に示されるように酸化後の試料の乾燥重量及びサイズに影響しうるが、表7に見られるように、対応する変化は全体の分解率には認められない。いずれの特定の理論にも束縛されずに言うならば、放射線は、試験試料に、(1)セルロースの平均分子量を低下させる、フリーラジカルの生成によって生じる鎖切断、及び(2)フリーラジカルにより促進されるセルロース構造内の架橋、の2つのことをおそらく引き起こしたものと考えられる。したがって、おそらくは鎖切断が主要な機序であるが、形状の異なる小さな架橋分子の形成もそうであると考えられ、これにより更なる分解が起きることが防がれる。
【0084】
再びいずれの特定の理論にも束縛されずに言うならば、放射線への曝露の増大によるセルロース試料の分子量の低下は、図11に示されるような酸化セルロース試料のサイズの増大につながりうると考えられる。更に、放射線によって引き起こされるあらゆる鎖切断は、セルロース鎖の長さを低下させ、これにより酸化の際に試料が収縮することが防止される。より長い鎖長を有する非照射セルロース試料は、酸化処理の影響を受けやすい。
【0085】
インビボ試験
このインビボ試験では、それぞれが異なる酸化プロファイルを有する本開示に基づく4つの照射酸化セルロースインプラント(TD 1〜TD 4として示される)のインビボでの分解速度及び安全性/生体適合性を評価し、これらを、1)市販の架橋されたウシ腱コラーゲン(CD 1として示される)、及び2)天然の微生物由来セルロース(CD 2として示される)と比較した。本開示に基づくこれら4つのインプラントの酸化プロファイルは、以下の通りである。すなわち、TD 1は、0.4Mの過ヨウ素酸塩により、40℃で3時間酸化され、55%の酸化プロファイルを有し、TD 2は、0.4Mの過ヨウ素酸塩により、40℃で4時間酸化され、84%の酸化プロファイルを有し、TD 3は、0.3Mの過ヨウ素酸塩により、40℃で3時間酸化され、50%の酸化プロファイルを有し、TD 4は、0.3Mの過ヨウ素酸塩により、40℃で5時間酸化され、94%の酸化プロファイルを有する。インビボ試験で使用したすべてのTD試料に、本明細書に述べられるプロセスにしがって酸化の前に照射を行った。
【0086】
17匹の雄性ニュージーランドホワイト種ウサギ(試験プロトコル当たり16匹の試験動物と1匹の予備)を試験に使用した。16匹の試験動物を、各群4匹の4つの群の1つに割り振った。インプラントは、ウサギモデルにおける皮下移植によってすべて移植し、移植の2、4、12及び26週間後に評価を行った。各動物に6つの材料のそれぞれの1つを導入し、ウサギの背中の別々の皮下ポケット内に移植した(背側正中線の両側に3つずつ)。各ウサギのそれぞれの異なるインプラントの位置は、所定の移植マトリックスにしたがって無作為化した。浅在筋膜を下層組織から大まかに切離して、試験又はコントロール装置(天然の微生物由来セルロース及び吸収性コラーゲン)が入るだけの十分な深さの皮下ポケットを形成した。各試験装置又はコントロール装置を配置した後、小型の皮膚ステープル対を使用して装置の位置をマークし、切開部位に最も近い試験又はコントロール装置の2つの隅に、材料とは接触しないようにして置いた。2本の4−0プロレン縫合糸を用いてインプラントを下層の皮下組織に対して繋留することで移植後のインプラントの移動を防止した。
【0087】
4匹のウサギを安楽死させ、移植手術の2週間、4週間、12週間、又は26週間後の4つの異なる時点のそれぞれで限定的な解剖を行った。解剖は、移植部位及びインプラントの周囲組織の大まかな観察に限定し、限定的な組織採取を行った(インプラント周囲組織に囲まれたインプラントの手術部位からの採取物よりなる)。各測定期間(2週間、4週間、12週間、又は26週間)における各部位のインプラントの分解率を記録し、それぞれ下記表8〜12に示す。
【0088】
【表9】
【0089】
【表10】
【0090】
【表11】
【0091】
【表12】
平均のスコア
スコア:0=認めず;1=軽度;2=中度;3=重度
スコア:0=移植した状態の材料が存在;1=材料は存在するものの分解の兆候;2=材料が存在しない。
スコア:0=移植時と同じ;1=わずかな断片化;2=中度の断片化;3=重度の断片化;4=スコア付け不能
平方mm(mm)で計算したインプラント測定値。
【0092】
コントロールインプラントは、目立った炎症は示さなかった。2週間後には、すべての試験材料インプラントの周囲に一定の全体的炎症が認められ、TD4の周囲では最小量であった。炎症は4週間後にはすべての試験材料部位においてわずかに増大し、最も顕著な炎症はTD4の周囲に認められた。12週目では、すべての部位の炎症は2週目に認められたものと同様であり、TD4の周囲では最小量が認められた。26週目では、いずれのインプラントの周囲にも炎症は認められなかった。いずれの時点においても感染はいっさい認められなかった。1匹の動物のTD2インプラント部位が潜在的な感染を有するように見えたが、顕微鏡で調べたところ、感染の証拠も細菌コロニーの証拠も認められなかった。おそらく12週間後の天然の微生物由来セルロースインプラントの周囲を例外として、いずれのインプラントの周囲にも全体的な線維症はほとんど、あるいはまったく認められなかった。26週目では、架橋したウシ腱コラーゲン部位を除いて、すべてのインプラントの周囲にわずかな線維症が認められた(ウシ腱コラーゲンは存在していなかったため)。2週目に1匹の動物でTD2インプラント部位の周囲に小さな漿液腫が認められた。他の部位ではいずれの時点でも漿液腫は見られなかった。
【0093】
いずれも2週間後に、1匹の動物でTD2インプラント部位の近くに潜在的な消失期の血腫の証拠を認め、2匹の動物でTD4インプラントにともなって潜在的な消失期の血腫の証拠を認めた。これらは外科手術そのものによって生じたものと考えられた。4週間後には、1匹のウサギでCD1インプラント部位に、別の動物でTD2部位に、1匹の動物でTD3部位に、更に別の動物でTD4部位に小さな血腫の存在が認められた。いずれの場合も、固定縫合糸の留置の結果によるものと考えられた。12週目又は26週目には血腫はいっさい認められなかった。
【0094】
全体的脈管化(慢性炎症の兆候の1つ)も、初期の時点ではほとんど認められなかったが、12週目及び26週目の時点では増大する傾向を示し、後者の時点で最も顕著であった。2週目では、全体的脈管化はTD1インプラントの周囲で最も顕著であり、TD3インプラントの周囲では最も目立たなかった。2及び4週目では、コントロールインプラントの周囲に全体的脈管化はいっさい認められなかったが、12週間後では特に天然の微生物由来セルロースインプラントの周囲に著明に認められた。12週間後では、架橋ウシ腱コラーゲン及びすべての試験材料インプラント部位も一定の全体的脈管化を示した。全体的脈管化は、26週目で全体的脈管化がまったく存在しなかった架橋ウシ腱コラーゲン部位を除いて、すべての部位で概ね同様に存在した。
【0095】
試験材料TD1の代表的な解剖画像を図12A〜Fに示す。図12Aは、皮下ポケット内の定位置に留置された直後の第1の堅い状態にあるインプラントの一実施形態を示している。留置後、インプラントは、周囲組織から水分を吸収することによって第2の水和した状態へと速やかに移行した後、図12Bに示されるように組織表面に適合し、接着する。注意すべき点として、水和後、インプラントは透光性を示し、下層組織とほとんど区別がつかなくなる。図12Cは、インプラントが測定可能な程度に薄くなっている移植2週間後のインプラントを示している。図12Dは、1個の比較的大きな破片を残してインプラントがある程度分解している移植4週間後のインプラントを示している。図12Eは、インプラントが著しく分解しており、組織の変色が認められ、分解したインプラントの残留部分が大きく広がって薄くなっている移植12週間後のインプラントを示している。図12Fは、インプラントが著しく分解しており、インプラントの残留部分が大きく広がって薄くなっている移植26週間後のインプラントを示している。固定縫合糸が見えており、矢印が、残留したTD1インプラント材料の断片を示しうる、広がった小さな変色領域を示している。
【0096】
天然の微生物由来セルロースインプラントは、試験期間の全体にわたって分解の兆候をいっさい示さなかった。これに対して、架橋ウシ腱コラーゲンは、2週目に一定の分解を示し、4週目に顕著に分解し、12及び26週目には実質的に存在していなかった。ここで示した試験装置はいずれも、すべての時点で顕著な分解を示したが、興味深いことにこれらの試験装置は、初期には速やかに分解するように見えたものの、同様に速やかに分解し続けることはなかった。このインビボ試験は、2週目ではTD1及びTD3が最も速やかな分解を示すように見えることを示した。4週間後では、TD1、TD2及びTD3の分解が同程度であったのに対してTD4はそれよりも低い分解を示した。12週目では、TD2、TD3及びTD4の分解は同程度であったものの、TD1は、他の試験装置のどれよりも大幅に分解されているようであった。26週目では、架橋ウシ腱コラーゲンはまったく存在しておらず、いずれの試験装置もある程度の残留物が依然存在しており(組織変色の形態で)、天然の微生物由来セルロースは移植された状態のままで依然存在していた。
【0097】
加速インビトロ分解試験において、同様の挙動が上記のインビボ試験で先に試験した各試料(TD1〜TD4)で認められた。ジョンソン・アンド・ジョンソン社(Johnson & Johnson)のSurgicel(登録商標)のコントロール試料に対するTD1〜TD4のこのインビトロ試験によって、55℃のSBF(pH=7.4)中での最初の48時間のインキュベーションにおける照射酸化セルロース試料の極めて速やかな初期の分解が示された。図13は、このインビトロ試験の分解の結果をグラフに示したものである。この試験は、TD1〜TD4では、この速やかな分解は72〜96時間で横ばい状態となり、プラトーに達することを示した。
【0098】
インビボのインプラント部位から採取した組織試料を10%中性緩衝ホルマリン(NBF)中で固定し、インプラント部位のほぼ中心を通る切片を取って、パラフィンに包埋した。ヘマトキシリン及びエオジン(H & E)染色、及びシッフ染色(PAS)を行った。PAS染色を用いてアルデヒド(酸化セルロース)の存在について評価した。2名の有資格の獣医病理学者により、すべてのスライドを調べて検討した。試験及びコントロール装置の脈管形成、線維症、及び免疫反応の程度のスコア評価、並びにインプラント部位の組織の刺激の程度のスコア評価を含む、試験及びコントロール装置に対する組織応答の評価を、移植後の局所的生物学的作用の評価についてのISO 10993(2007)、第6部、付録Eのガイドラインにしたがって行った。
【0099】
顕微鏡による評価により、TD1及びTD4は、12週目までに明瞭となる材料の顕著な損失を示し、これは架橋ウシ腱コラーゲンの分解と同等であることが判明した。TD2及びTD3ではインプラントの損失は遅く、顕著な損失は26週目の時点まで生じなかった。天然の微生物由来セルロースインプラントは、試験期間の全体にわたって分解の兆候をほとんど、あるいはいっさい示さなかった。
【0100】
インプラント材料に対する炎症反応は、可変数のマクロファージ、異物巨細胞、及び少ない数〜中程度の数(スコア1〜2)の好中球によって特徴付けられる異物反応と一致していた。好酸球は少なくはなく、血漿細胞はほとんど見られなかった。線維症は、12週目にインプラントの周囲に線維質のカプセル形成の増大が認められた天然の微生物由来セルロースを例外として、狭いものからある程度太いバンドで一般的に構成されていた。全体の炎症反応(の2倍)、血管分布状態、及び線維症の病理学的スコアの合計から全刺激性スコアを計算した。この全刺激性スコアを用いて刺激性状態についての以下の重度グレードを決定した。すなわち、
−非刺激性(0.0〜2.9)
−わずかな刺激性(3.0〜8.9)
−中度の刺激性(9.0〜15.0)
−重度の刺激性(>15.0)。
【0101】
CD1又はCD2について平均の刺激性スコアをそれぞれの試験装置から引き、組織学のスコア評価のためのISO 10993、第6部、付録E(説明的)「移植後の局所的生物学的作用の評価の例(Examples of evaluation of local biological effects after implantation」に述べられるガイドラインに基づいて各時点における各試験装置の平均のランクの刺激性スコアを計算した。下記表12及び13に、コントロールCD1及びCD2のそれぞれに対する試料の平均の刺激性スコアをそれぞれ示す。
【0102】
TD4に対する炎症反応(マクロファージ及び巨細胞の数を含む)は、すべての試験材料の初期の時点において最も顕著であった。これらの所見は、極めて速やかに吸収された材料と一致している。12及び26週目では、マクロファージ及び巨細胞がすべての試験材料で再び優勢となったが、最も高いスコアは、TD2、また、よりそれよりも低いスコアがTD3の近くにおいて見られた。この所見は、これらの材料がTD4材料よりもゆっくりと吸収されたことを示すものと考えられる。
【0103】
4つの試験材料をコントロールインプラント(天然の微生物由来セルロース及び架橋ウシ腱コラーゲン)と比較したところ、2、12又は26週目で非刺激性又はわずかに刺激性であると考えられた。天然の微生物由来セルロースと比較した場合、4週目の時点においてのみ、TD1及びTD4は中度の刺激物であると考えられた。
【0104】
【表13】
【0105】
【表14】
【0106】
以上、本開示を複数の実施形態に基づいて説明したが、本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、例えば添付の特許請求の範囲に示されるような様々な変更、置換及び改変を本明細書において行いうる点は理解されるはずである。したがって、本開示の範囲は本明細書に述べられるプロセス、製造、物質の組成、方法及び工程の特定の実施形態に限定されるものではないことを認識するべきである。例えば、一実施形態による上記に述べたような様々な特徴は、特に断らないかぎりは他の実施形態に取り入れることができる。更に、当業者であれば本開示から直ちに認識されるように、本明細書に記載される対応する実施形態と実質的に同じ機能を行うか又は実質的に同じ結果を実現する既存の、又は将来的に開発されるプロセス、製造、物質の組成、方法、又は工程を本開示に基づいて利用することが可能である。
【0107】
添付の特許請求の範囲の広義の範囲を逸脱することなく、本発明の様々な改変及び変更をなしうる点は当業者によれば認識されるであろう。これらの幾つかのものは上記に述べたものであり、他のものは当業者には明らかであろう。
【0108】
〔実施の態様〕
(1) (a)照射セルロースと、
(b)酸化剤と、
の反応性混合物を含む、生体材料前駆反応性混合物であって、その反応生成物が非発熱性の吸収性生体材料である、反応性混合物。
(2) 前記照射セルロースが微生物由来セルロースである、実施態様1に記載の反応性混合物。
(3) 前記微生物由来セルロースが、グルコンアセトバクター・キシリナスに由来するものである、実施態様2に記載の反応性混合物。
(4) 前記反応生成物が、約20%〜約70%の範囲の酸化度を有する、実施態様1〜3のいずれかに記載の反応性混合物。
(5) 照射セルロースを酸化剤と反応させることによって形成される照射酸化セルロースの多孔質本体を含む、組織の置換又は強化用のインプラントであって、前記本体が不均一な3次元繊維状網目構造を形成する、インプラント。
【0109】
(6) 前記インプラントが第1の堅い状態を有する、実施態様5に記載のインプラント。
(7) 前記インプラントが第2の水和した状態を有し、前記インプラントが、生体適合性の液体により水和される際に前記第1の堅い状態から前記第2の水和した状態へと移行する、実施態様6に記載のインプラント。
(8) 前記水和した状態の前記インプラントの表面が、解剖学的表面に適合する、実施態様7に記載のインプラント。
(9) 前記解剖学的表面が軟組織の表面である、実施態様8に記載のインプラント。
(10) 前記軟組織が硬膜組織である、実施態様9に記載のインプラント。
【0110】
(11) 前記水和した状態の前記インプラントの表面が、二次的医療装置の表面に適合する、実施態様7に記載のインプラント。
(12) 前記多孔質本体が、約0%〜90%の範囲の、SBF条件下での1週間後のインビトロ分解プロファイルを有する、実施態様5〜11のいずれかに記載のインプラント。
(13) 前記多孔質本体が、約20%〜80%の範囲の、SBF条件下での4週間後のインビトロ分解プロファイルを有する、実施態様5〜11のいずれかに記載のインプラント。
(14) 前記インプラントが少なくとも7.0の保水力(WHC)を有し、前記酸化剤が少なくとも約0.3Mの濃度を有する、実施態様5〜13のいずれかに記載のインプラント。
(15) 前記インプラントが表面積及び保水力(WHC)を有し、前記WHCと表面積との比が少なくとも2.7:1である、実施態様5〜13のいずれかに記載のインプラント。
【0111】
(16) 前記インプラントが、活性薬剤の足場又は担体である、実施態様5〜15のいずれかに記載のインプラント。
(17) 前記活性薬剤が前記多孔質本体内に含浸される、実施態様16に記載のインプラント。
(18) 前記活性薬剤が前記インプラントの表面上にコーティングされる、実施態様16に記載のインプラント。
(19) 前記活性薬剤が、骨髄、自家移植片、骨誘導性小分子、骨形成物質、幹細胞、骨形成タンパク質、抗細菌剤、リン酸カルシウムセラミック、並びにこれらの混合物及びブレンドからなる群から選択される、実施態様16に記載のインプラント。
(20) 前記インプラントが、前記水和した状態において実質的に透光性である、実施態様7〜11のいずれかに記載のインプラント。
【0112】
(21) 酸化セルロースの本体を製造する方法であって、
(a)セルロースの本体を照射してセルロースの照射本体を形成する工程と、
(b)前記セルロースの照射本体を酸化剤と反応させて酸化セルロースの本体を形成する工程と、を含み、
前記酸化セルロースの本体が、非発熱性、多孔質、かつ吸収性である、方法。
(22) 前記照射セルロースの本体を少なくとも部分的に脱水する工程を更に含む、実施態様21に記載の方法。
(23) 前記酸化セルロースの本体を少なくとも部分的に脱水する工程を更に含む、実施態様21又は22に記載の方法。
(24) 前記照射セルロースの本体を脱水する工程が、前記セルロース本体を機械的にプレスすることによって行われる、実施態様22に記載の方法。
(25) 前記酸化セルロースの本体を脱水する工程が、超臨界二酸化炭素を用いた臨界点乾燥によって行われる、実施態様23に記載の方法。
【0113】
(26) 前記酸化剤が、メタ過ヨウ素酸塩、次亜塩素酸塩、二クロム酸塩、過酸化物、過マンガン酸塩、又は二酸化窒素からなる群から選択される、実施態様21〜25のいずれかに記載の方法。
(27) 前記酸化剤がメタ過ヨウ素酸ナトリウムである、実施態様21〜26のいずれかに記載の方法。
(28) 前記セルロースとメタ過ヨウ素酸塩とが、1:1〜約1:160の、セルロースとメタ過ヨウ素酸塩とのモル比の範囲において反応する、実施態様27に記載の方法。
(29) 前記セルロースとメタ過ヨウ素酸塩とが、1:1〜約1:120の、セルロースとメタ過ヨウ素酸塩とのモル比の範囲において反応する、実施態様28に記載の方法。
(30) 前記酸化剤が、前記反応中で約0.05M〜約0.5Mの濃度範囲を有する、実施態様21〜29のいずれかに記載の方法。
【0114】
(31) 前記酸化剤が、前記反応中で約0.2M〜0.4Mの濃度範囲を有する、実施態様21〜30のいずれかに記載の方法。
(32) 前記酸化剤と前記セルロースとが約0.1時間〜約24時間反応する、実施態様21〜31のいずれかに記載の方法。
(33) 前記酸化剤と前記セルロースとが約0.1時間〜約6時間反応する、実施態様21〜32のいずれかに記載の方法。
(34) 前記酸化セルロースの本体が、前記酸化剤と前記照射セルロースとの1時間の反応後に少なくとも約25%の酸化度を有する、実施態様21〜33のいずれかに記載の方法。
(35) 前記酸化セルロースの本体が、前記酸化剤と前記照射セルロースとの2時間の反応後に少なくとも約40%の酸化度を有する、実施態様21〜34のいずれかに記載の方法。
【0115】
(36) 前記酸化セルロースの本体が、前記酸化剤と前記照射セルロースとの反応後に約20%〜約70%の酸化度を有する、実施態様21〜33のいずれかに記載の方法。
(37) 前記照射する工程が、約10kGy〜約100kGyの範囲で照射することを含む、実施態様21〜36のいずれかに記載の方法。
(38) 前記照射する工程が、約20kGy〜約40kGyの範囲で照射することを含む、実施態様21〜37のいずれかに記載の方法。
(39) 前記照射する工程が、γ線を透過させることを含む、実施態様21〜38のいずれかに記載の方法。
(40) 前記セルロースの本体、前記セルロースの照射本体、又は前記酸化セルロースの本体のいずれか1つを1又は2以上の活性薬剤と接触させる工程を更に含む、実施態様21〜39のいずれかに記載の方法。
【0116】
(41) 前記照射する工程が、1回のみの放射線の投与を含む、実施態様21〜40のいずれかに記載の方法。
(42) 前記照射する工程が、最大で5回の放射線の投与を含む、実施態様21〜40のいずれかに記載の方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図12C
図12D
図12E
図12F
図13