特許第6195857号(P6195857)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195857
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】非導電性プラスチック表面の金属化方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/14 20060101AFI20170904BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20170904BHJP
   C08J 7/06 20060101ALI20170904BHJP
   C23C 18/16 20060101ALI20170904BHJP
   C23C 18/30 20060101ALI20170904BHJP
   C23C 18/24 20060101ALI20170904BHJP
   C23C 18/28 20060101ALI20170904BHJP
   C23C 18/32 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   C08J7/14CER
   C08J7/14CFG
   H05K3/18 E
   C08J7/06 ACEY
   C23C18/16 A
   C23C18/30
   C23C18/24
   C23C18/28
   C23C18/32
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2014-561463(P2014-561463)
(86)(22)【出願日】2013年3月15日
(65)【公表番号】特表2015-512985(P2015-512985A)
(43)【公表日】2015年4月30日
(86)【国際出願番号】EP2013055358
(87)【国際公開番号】WO2013135864
(87)【国際公開日】20130919
【審査請求日】2016年1月14日
(31)【優先権主張番号】12159654.8
(32)【優先日】2012年3月15日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】300081877
【氏名又は名称】アトテツク・ドイチユラント・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Atotech Deutschland GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】ヘアマン ミッデケ
(72)【発明者】
【氏名】エンリコ クーマイザー
(72)【発明者】
【氏名】シュテーフェ シュナイダー
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−094277(JP,A)
【文献】 特開2010−121143(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/143190(WO,A1)
【文献】 特開平03−204992(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/122869(WO,A1)
【文献】 特開2008−169465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 71/04
C08J 7/00− 7/18
C23C 18/00− 20/08
C25D 5/00− 7/12
H05K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品の電気的非導電性プラスチック表面の金属化方法であって、以下の工程段階:
A)前記プラスチック表面をエッチング液でエッチングする工程、
B)前記プラスチック表面を金属コロイド溶液または金属化合物溶液で処理する工程、該金属は、元素周期表の第I族遷移金属および元素周期表の第VIII族遷移金属から選択される、および
C)前記プラスチック表面を金属化溶液で金属化する工程
を含む前記方法において、前記エッチング液が、過マンガン酸イオン源、および一塩基酸に対して0.02〜0.6mol/lの濃度の酸を含んでおり、
工程段階A)に先立って、以下のさらなる工程段階:
前処理段階:前記プラスチック表面を少なくとも1種のグリコール化合物を含む水溶液中で処理する工程が実施され、
前記少なくとも1種のグリコール化合物が、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ブチルグリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、又はこれらの混合物であることを特徴とする前記方法。
【請求項2】
工程段階A)におけるエッチング液中の過マンガン酸イオン源が、アルカリ金属過マンガン酸塩から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アルカリ金属過マンガン酸塩が、過マンガン酸カリウムおよび過マンガン酸ナトリウムを含む群から選択されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項4】
前記過マンガン酸イオン源が、工程段階A)におけるエッチング液中に、30g/l〜250g/lの濃度で存在していることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程段階A)におけるエッチング液中に含まれる前記酸が、無機酸であることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
工程段階A)におけるエッチング液中の前記無機酸が、硫酸、硝酸およびリン酸を含む群から選択されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記プラスチック表面が、少なくとも1種の電気的非導電性プラスチックから製造され、かつ該少なくとも1種の電気的非導電性プラスチックが、アクリロニトリルブタジエンスチレンコポリマー、ポリアミド、ポリカーボネート、およびアクリロニトリルブタジエンスチレンコポリマーと少なくとも1種のさらなるポリマーとの混合物を含む群から選択されることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
以下のさらなる工程段階:
Ai)前記プラスチック表面を二酸化マンガンのための還元剤を含む溶液中で処理する工程
が、工程段階A)とB)との間に実施されることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記二酸化マンガンのための還元剤が、硫酸ヒドロキシルアンモニウム、塩化ヒドロキシルアンモニウム、および過酸化水素を含む群から選択されることを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項10】
以下のさらなる工程段階:
Bi)前記プラスチック表面を酸性水溶液中で処理する工程、および
Bii)前記プラスチック表面を金属化溶液中で無電解金属化する工程
が、工程段階B)とC)との間に実施されることを特徴とする、請求項1からまでのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六価クロムを含んでいないエッチング液を使用して、物品の電気的非導電性プラスチック表面を金属化する方法に関する。前記エッチング液は、過マンガン酸塩溶液に基づいている。このエッチング液による処理後、前記物品は、公知の方法によって金属化することができる。
【0002】
電気的非導電性プラスチックから作られた物品は、無電解金属化方法によって金属化することができる。この方法では、前記物品は、まず洗浄およびエッチングされ、次に貴金属で処理されて、最終的に金属化される。前記エッチングは、一般的に、クロム硫酸により行われる。このエッチングは、前記物品の表面が後続の処理段階において個々の溶液で充分に湿潤されるように、かつ析出された金属が最終的に前記表面上で充分に強力な接着性を有するように、前記物品の表面に後続の金属化の影響を及ぼしやすくするものである。
【0003】
エッチングの場合、物品、例えば、アクリロニトリルブタジエンスチレンコポリマー(ABSコポリマー)から作られた物品の表面は、表面微小空洞(surface microcaverns)を形成させるためにクロム硫酸を使用してエッチングされており、この空洞中に金属が析出し、続いてそこに強く付着する。このエッチング後、前記プラスチックは、無電解金属化のために貴金属を含む活性剤によって活性化され、その後、無電解金属化される。続いて、比較的厚い金属層を電解により設けることもできる。
【0004】
しかし、クロム硫酸系エッチング液は有毒であり、したがって、できる限り代替されるべきである。
【0005】
文献は、クロム硫酸系エッチング液を、過マンガン酸塩を含むエッチング液に代替する試みを記載している。
【0006】
電子回路のキャリアである回路基板を金属化するための、アルカリ媒体中の過マンガン酸塩の使用が、長年にわたって確立されてきた。酸化で生じる六価状態(マンガン酸塩)は水溶性であり、アルカリ性条件下に充分な安定性を有しているため、三価クロムと似たようなマンガン酸塩は、電解酸化して、もとの酸化剤、この場合、過マンガン酸塩に戻すことができる。DE19611137A1の文献は、回路基板材料である別のプラスチックを金属化するための過マンガン酸塩の使用も記載している。ABSプラスチックを金属化する場合、アルカリ性の過マンガン酸塩溶液は、好ましくないことが判明した、それというのは、この方法では、金属層とプラスチック基材との間に確実で充分な接着強度を得ることが不可能であったからである。この接着強度は、「剥離試験」で測定される。接着強度の値は、少なくとも0.4N/mmである。
【0007】
EP1001052は、プラスチック亜鉛めっきにおける使用に好適とされる酸性の過マンガン酸塩溶液を開示している。そこに記載された溶液は、本発明とはいくつかの点で異なっている、例えば、それというのは、それらの溶液が、きわめて高い酸濃度およびきわめて低い過マンガン酸塩濃度(例えば、15M H2SO4および0.05M KMnO4)を使用するからである。EP1001052は、この前処理によって達成可能な接着強度について説明していない。内部実験は、接着強度が0.4N/mmの値を下回っていることを示している。さらに、EP1001052に記載された溶液は、不安定である。したがって、金属化の一定品質を達成することはできない。
【0008】
クロム硫酸の代替物として、WO2009/023628A2は、アルカリ金属過マンガン酸塩を含む強酸性溶液を提示している。この溶液は、リン酸40〜85質量%中にアルカリ金属過マンガン酸塩約20g/lを含んでいる。前記溶液は、除去しにくいコロイド状のマンガン(IV)種を形成する。WO2009/023628A2によれば、前記コロイドの影響は、短時間後でも適切な品質のコーティングがもはや不可能であることである。前記問題を解決するため、WO2009/023628A2は、アルカリ金属イオンまたはアルカリ土類金属イオンを含んでいないマンガン(VII)源の使用を提示している。しかし、前記マンガン(VII)源の作製は、費用がかかり、不都合である。
【0009】
その結果、有毒のクロム硫酸が、プラスチックのエッチング処理に使用され続けている。
【0010】
プラスチック表面の金属化を工業規模に適用する場合、前記物品は、通常、治具に固定される。この治具は、個々の工程段階および1つまたはそれ以上の金属層を電気めっきする最終段階の連続溶液(successive solutions)による大量の物品の同時処理を可能にする金属の搬送系である。一般に、この治具それ自体は、プラスチックでコーティングされている。したがって、前記治具は、根本的に、プラスチック表面の金属化方法のための基材を構成するものでもある。
【0011】
しかし、前記治具の追加的な金属化は望ましくない、それというのは、前記物品のコーティング後に、前記治具から金属層を再び除去しなければならないからである。これは、化学物質の追加的な消費と相まって、除去のための追加費用および不都合を意味する。さらに、この場合の金属化設備の生産性は比較的低い、それというのは、前記治具は、物品を入れ替える前に、まず脱金属化されなければならないからである。
【0012】
クロム酸を含むエッチング液を使用する場合、前記問題は大きく軽減される。このエッチングの間に、クロム酸は、前記治具のプラスチックケーシングにも含浸して、後続の複数の工程段階の間に前記治具から外へ再拡散し、このようにして、前記治具の金属化が防がれる。
【0013】
それゆえ、環境保護上安全な工程段階を有する、プラスチックのエッチング処理のために、有毒のクロム硫酸を代替することが目的である場合、前記治具の不所望の金属化を防ぐこともまた有利である。
【0014】
特許DE19510855C2は、非導電性材料の選択的または部分的な電解金属化のための方法を記載している。この場合、前記治具の同時金属化は、吸着促進溶液(adsorption−promotion solutions)、いわゆる調整剤による処理段階を省くことによって防がれる。しかし、DE19510855C2の非導電性材料の金属化方法は、直接金属化にのみ好適であることが強調される。
【0015】
したがって、本発明は、充分な工程信頼性を有する環境保護上安全な方法での、電気的非導電性プラスチックから作られた物品の金属化、および続いて設けられる金属層の接着強度を達成することが今日まで不可能であった問題に基づいている。
【0016】
したがって、本発明の課題は、毒性のない、しかし、前記プラスチック表面に設けられる金属層の充分な接着強度を提供する、物品の電気的非導電性プラスチック表面のためのエッチング液を見出すことである。
【0017】
前記課題は、本発明による以下の方法により達成される:
物品の電気的非導電性プラスチック表面の金属化方法であって、以下の工程段階:
A)前記プラスチック表面をエッチング液でエッチングする工程、
B)前記プラスチック表面を、金属コロイド溶液または金属化合物溶液で処理する工程、この金属は、元素周期表の第I族遷移金属および元素周期表の第VIII族遷移金属から選択される、および
C)前記プラスチック表面を金属化溶液で金属化する工程
を含む前記方法において、前記エッチング液が、過マンガン酸イオン源、および一塩基酸に対して0.02〜0.6mol/lの濃度の酸を含んでいることを特徴とする前記方法。
【0018】
本発明との関連における物品は、少なくとも1種の電気的非導電性プラスチックから製造された物品、または少なくとも1種の電気的非導電性プラスチックの少なくとも1つの層で被覆された物品を意味すると理解される。したがって、前記物品は、少なくとも1種の電気的非導電性プラスチックの表面を有している。プラスチック表面は、本発明との関連において、前記物品の上述の表面を意味すると理解される。
【0019】
本発明の工程段階は、前記順序で実施されるが、直接連続している必要はない。さらなる工程段階、およびさらに、いずれの場合にも、好ましくは水を使用する複数の洗浄段階が、前記段階の間に実施されることは可能である。
【0020】
過マンガン酸イオン源を含むエッチング液による前記プラスチック表面の本発明によるエッチング(工程段階A))は、すでに公知の処理方法、例えば、クロム硫酸による処理方法よりも、前記プラスチック表面に設けられる1つまたは複数の金属層の高い接着強度を達成する。本発明によるエッチングの場合、また、酸濃度が低く、過マンガン酸塩濃度が高いエッチング液が使用される。これによって、前記エッチング液の安定性が確保されるにもかかわらず、優れた接着強度が達成されるように調節される二酸化マンガン種を形成することができる。本発明によるエッチングにより達成される接着強度は、酸濃度が高く、過マンガン酸濃度が低いアルカリ性の過マンガン酸溶液またはエッチング溶液に基づいている公知のエッチング方法による接着強度よりもはるかに高い。
【0021】
前記プラスチック表面は、少なくとも1種の電気的非導電性プラスチックから製造されている。本発明の1つの実施態様では、この少なくとも1種の電気的非導電性プラスチックは、アクリロニトリルブタジエンスチレンコポリマー(ABSコポリマー)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、およびABSコポリマーと少なくとも1種のさらなるポリマーとの混合物を含む群から選択される。
【0022】
本発明の好ましい実施態様では、前記電気的非導電性プラスチックは、ABSコポリマー、またはABSコポリマーと少なくとも1種のさらなるポリマーとの混合物である。この少なくとも1種のさらなるポリマーは、ポリカーボネート(PC)であるのがより好ましく、これは、ABS/PC混合物が特に好ましいことを意味する。
【0023】
本発明の1つの実施態様では、工程段階A)に先立って、以下のさらなる工程段階:
ヨウ素酸イオン源を含む溶液により前記治具を処理する工程
が実施されてよい。
【0024】
ヨウ素酸イオン源を含む溶液による前記治具の処理は、以下において、治具の保護とも呼ばれる。この治具の保護は、本発明による方法の間、何度も行われてよい。
【0025】
この時点では、前記物品は、前記治具にまだ固定されていない。したがって、前記治具は、単独で、前記物品なしに、ヨウ素酸イオン源を含む溶液により処理される。
【0026】
本発明のさらなる実施態様では、工程段階A)に先立って、以下のさらなる工程段階:
1つまたは複数の前記物品を治具に固定する工程
が実施されてよい。
【0027】
このさらなる工程段階は、以下において固定段階と呼ばれる。前記物品の治具への固定は、個々の工程段階のための連続溶液による大量の物品の同時処理を可能にし、かつ1つまたは複数の金属層を電気析出する最終段階の間に電気的接点接続の確立を可能にするものである。本発明による方法による前記物品の処理は、個々の処理が行われる容器内の溶液に連続的に前記物品を浸漬させる、慣用の浸漬法で実施されるのが好ましい。この場合、前記物品は、治具に固定されるか、またはドラムに収容されて、前記溶液に浸漬されてよい。治具に固定されるのが好ましい。一般に、この治具それ自体は、プラスチックでコーティングされている。通常、このプラスチックは、ポリ塩化ビニル(PVC)である。
【0028】
本発明のさらなる実施態様では、前記治具の保護は、前記固定段階よりも前に実施されてよい。
【0029】
本発明の好ましい実施態様では、工程段階A)に先立って、以下のさらなる工程段階が実施される:
少なくとも1種のグリコール化合物を含む水溶液中で、前記プラスチック表面を処理する工程。
【0030】
前記さらなる工程段階は、以下において前処理段階と呼ばれる。この前処理段階は、前記プラスチックと金属層との間の接着強度を高めるものである。
【0031】
工程段階A)に先立って、追加的に前記固定段階が実施される場合、この前処理段階は、前記固定段階と工程段階A)との間に実施される。
【0032】
グリコール化合物は、以下の一般式(I):
【化1】
[式中、
nは、1から4までの整数であり、
1およびR2は、それぞれ独立して、−H、−CH3、−CH2−CH3、−CH2−CH2−CH3、−CH(CH3)−CH3、−CH2−CH2−CH2−CH3、−CH(CH3)−CH2−CH3、−CH2−CH(CH3)−CH3、−CH2−CH2−CH2−CH2−CH3、−CH(CH3)−CH2−CH2−CH3、−CH2−CH(CH3)−CH2−CH3、−CH2−CH2−CH(CH3)−CH3、−CH(CH2−CH3)−CH2−CH3、−CH2−CH(CH2−CH3)−CH3、−CO−CH3、−CO−CH2−CH3、−CO−CH2−CH2−CH3、−CO−CH(CH3)−CH3、−CO−CH(CH3)−CH2−CH3、−CO−CH2−CH(CH3)−CH3、−CO−CH2−CH2−CH2−CH3である]
の化合物を意味すると理解される。
【0033】
一般式(I)によれば、このグリコール化合物は、グリコールそれ自体およびグリコール誘導体を含んでいる。このグリコール誘導体は、グリコールエーテル、グリコールエステルおよびグリコールエーテルエステルを含んでいる。これらのグリコール化合物は、溶媒である。
【0034】
好ましいグリコール化合物は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ブチルグリコール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジアセテート、およびこれらの混合物である。ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールアセテート、エチレングリコールジアセテート、ブチルグリコールおよびこれらの混合物が、特に好ましい。
【0035】
グリコールエステルおよびグリコールエーテルエステルを使用する場合、アルコールおよびカルボン酸をもたらす加水分解をできる限り抑制するために、グリコール化合物の水溶液のpHを、好適な手段により中性の範囲内に保つことが有利である。ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートの加水分解の1つの例は、以下の通りである:
【数1】
【0036】
グリコール化合物を含む前記溶液の水濃度は、グリコールエステルおよびグリコールエーテルエステルの加水分解にも影響を及ぼす。しかし、前記溶液は、第一に、不燃性の処理溶液を得るため、および第二に、前記プラスチック表面上の腐食の強度を調節できるようにするため、という2つの理由で水を含んでいなければならない。純溶媒、つまり、グリコール化合物100%は、大部分の架橋されていないポリマーを溶解する、または許容不可能な表面を少なくとも残すことになる。したがって、グリコールエステルまたはグリコールエーテルエステルの溶液を緩衝して、このようにして中性のpH範囲内に保つこと、つまり、前記溶媒の加水分解により得られるプロトンを捕捉することがきわめて有利であることが判明した。リン酸緩衝液混合物は、この目的のために充分に好適であることが判明した。易溶性のリン酸カリウムは、40体積%までの溶媒濃度で優れた緩衝能を有して、充分に高い濃度を許容している。
【0037】
前記プラスチック表面の最適な処理時間は、使用されるプラスチック、温度、ならびにグリコール化合物の性質および濃度による。処理パラメータは、処理されたプラスチック表面と、下流工程段階で設けられる金属層との間の接着に影響を及ぼす。グリコール化合物の比較的高い温度または濃度は、前記プラスチック表面の組織にも影響を及ぼす。いずれの場合も、下流のエッチング段階A)が、前記プラスチック母材から前記溶媒を再び除去することは可能である、それというのは、前記方法における後続の段階、より好ましくは工程段階B)の活性化が、そうでなければ妨げられるからである。
【0038】
本発明による方法は、少なくとも0.8N/mmの接着強度をもたらし、この値は、要求される最小値0.4N/mmを優に上回っている。前記前処理段階における処理時間は、1〜30分、好ましくは5〜20分、より好ましくは7〜15分である。
【0039】
処理温度は、使用される溶媒または溶媒混合物の性質により、20℃〜70℃である。20℃〜50℃の処理温度が好ましく、20℃〜45℃の処理温度が特に好ましい。
【0040】
前記前処理段階における前記プラスチック表面の処理は、1種のグリコール化合物を含む水溶液中か、または2種もしくは複数の異なるグリコール化合物を含む水溶液中で実施されてよい。前記水溶液中のグリコール化合物の総濃度は、5体積%〜50体積%、好ましくは10体積%〜40体積%、より好ましくは20体積%〜40体積%である。前記溶液が、1種のグリコール化合物を含んでいる場合、総濃度は、この1種のグリコール化合物の濃度に相当する。前記溶液が、2種または複数の異なるグリコール化合物を含んでいる場合、総濃度は、存在するすべてのグリコール化合物の濃度の合計に相当する。少なくとも1種のグリコール化合物を含む前記溶液との関連において、前記1つ以上のグリコール化合物に対する濃度の数値(%)は、常に、体積%濃度を意味すると理解される。
【0041】
例えば、ABSプラスチック表面の前処理の場合、45℃の、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート15体積%とブチルグリコール10体積%との混合物の溶液が有利であることが判明した(例1参照)。ここで、第一の溶媒は、接着強度を生み出す働きをする一方、第二の、非イオン性界面活性剤である溶媒は、湿潤性を高めて、存在している不純物を前記プラスチック表面から除去するのに役立つ。
【0042】
ABS/PC混合物、例えば、Bayblend T45またはBayblend T65PGを前処理する場合、室温の、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート40体積%の水溶液がより有利であることが判明した、それというのは、この溶液が、前記プラスチックの場合に設けられる金属層の比較的高い接着強度を許容するからである(例2参照)。
【0043】
本発明のさらなる実施態様では、前記治具の保護は、前記固定段階と前記前処理段階との間に実施されてよい。
【0044】
本発明のさらなる実施態様では、前記治具の保護は、前記前処理段階と工程段階A)との間に実施されてよい。
【0045】
この時点では、前記物品は、すでに前記治具に固定されている。したがって、前記治具は、前記物品と一緒に、ヨウ素酸イオン源を含む溶液で処理される。本発明との関連における「前記治具は、ヨウ素酸イオン源を含む溶液で処理される」および「ヨウ素酸イオン源を含む溶液による前記治具の処理」という表現は、前記治具の保護が、単独で、前記物品なし(例えば、前記治具の保護が、前記固定段階より前に行われる場合)に行われてよいか、または前記治具の保護が、前記物品と一緒(例えば、前記治具の保護が、前記固定段階よりも後に行われる場合)に行われてよいことを意味する。
【0046】
前記治具の保護が、単独で行われるか、または前記物品と一緒に行われるかに関わらず、前記治具のプラスチックケーシングの金属析出に対する保護がもたらされる一方、前記固定段階の間に前記治具に固定される物品は金属化される。前記治具の保護は、この治具のプラスチックケーシングが、後の工程段階B)からC)において金属化されないことを確保する、つまり、前記治具は、金属がない状態である。この影響は、前記治具のPVCケーシング上で特に顕著である。
【0047】
本発明による工程段階A)におけるエッチング処理は、過マンガン酸イオン源を含むエッチング液中で実施される。この過マンガン酸イオン源は、アルカリ金属過マンガン酸塩から選択される。このアルカリ金属過マンガン酸塩は、過マンガン酸カリウムおよび過マンガン酸ナトリウムを含む群から選択される。前記過マンガン酸イオン源は、30g/l〜250g/l、好ましくは30g/l〜180g/l、さらに好ましくは90g/l〜180g/l、より好ましくは90g/l〜110g/l、さらにより好ましくは70g/l〜100g/lの濃度で前記エッチング液中に存在している。その溶解度のため、過マンガン酸カリウムは、70g/lまでの濃度で前記エッチング液中に存在していてよい。過マンガン酸ナトリウムは、250g/lまでの濃度で前記エッチング液中に存在していてよい。これらの2種の塩それぞれに対する濃度の下限値は、一般に30g/lである。過マンガン酸ナトリウムの含有量は、90g/l〜180g/lであるのが好ましい。
【0048】
前記エッチング液は、酸性である、つまり、酸を含んでいる。驚くべきことに、回路基板産業でエッチング液として通常使用されているアルカリ性の過マンガン酸塩溶液は、本発明には適さない、それというのは、それらが、プラスチック表面と金属層との間に充分な接着強度をもたらさないからである。
【0049】
前記エッチング液中で使用される酸は、無機酸であるのが好ましい。工程段階A)におけるエッチング液中の無機酸は、硫酸、硝酸、およびリン酸を含む群から選択される。酸濃度は高すぎてはならない、それというのは、そうでなければ前記エッチング液が不安定であるからである。酸濃度は、一塩基酸に対して0.02〜0.6mol/lである。それぞれの場合、一塩基酸に対して好ましくは0.06〜0.45mol/l、より好ましくは0.07〜0.30mol/lである。一塩基酸に対して0.07〜0.30mol/lの酸濃度に相当する、0.035〜0.15mol/lの濃度で硫酸を使用することが好ましい。
【0050】
さらなる実施態様では、前記エッチング液は、上述の過マンガン酸イオン源および上述の酸しか含んでいない。この実施態様では、前記エッチング液は、さらなる成分を含んでいない。
【0051】
前記エッチング液は、30℃〜90℃、好ましくは55℃〜75℃の温度で使用されてよい。金属層とプラスチック表面との間の充分に高い接着強度は、30℃〜55℃の低温でも達成できることが判明した。しかし、この場合、前記前処理段階におけるグリコール化合物による処理からのすべての溶媒が、前記プラスチック表面から除去されることを確保することは不可能である。これは、特に純ABSに当てはまる。したがって、本発明による方法における前処理段階が実施される場合、下流の工程段階A)における温度は、比較的高い水準、つまり、55℃〜90℃の範囲内、好ましくは55℃〜75℃の範囲内で選択されるべきである。最適な処理時間は、処理されているプラスチック表面および前記エッチング液の選択された温度による。ABSおよびABS/PCプラスチック表面の場合、プラスチック表面と続いて設けられる金属層との間の最も望ましい接着強度は、5〜30分、好ましくは10〜25分、より好ましくは10〜15分の処理時間で達成される。一般に、30分より長い処理時間は、接着強度のさらなる改善をもたらさない。
【0052】
酸性の過マンガン酸塩溶液は、高温、例えば70℃できわめてよく反応する。前記プラスチック表面との酸化反応は、ここで、多くのマンガン(IV)種を形成し、これらは沈殿する。これらのマンガン(IV)種は、主にマンガン(IV)酸化物または酸化水和物であり、以下では、単に二酸化マンガンと呼ばれる。
【0053】
前記二酸化マンガン沈殿物は、前記プラスチック表面に残る場合、後続の金属化を妨げる作用がある。工程段階B)における活性化の間に、前記プラスチック表面の領域が、金属コロイドで被覆されていないか、または後の工程段階で設けられる金属層の許容できない粗さを生じさせることが確保される。
【0054】
二酸化マンガンは、また、過マンガン酸塩と水との反応を触媒し、その結果、前記エッチング液の不安定性をもたらすことがある。したがって、前記エッチング液は、二酸化マンガンを含まない状態であるのが有利である。驚くべきことに、前記エッチング液中の選択された酸濃度が低く、選択された過マンガン酸塩濃度が高い場合に、除去しにくい二酸化マンガン種の形成が著しく減少することが判明した。
【0055】
通常、前記エッチング液の成分分析は、工程信頼性を最適化するために有利である。これには、元の酸濃度を得るための酸の滴定、および過マンガン酸塩濃度の光度定量が含まれる。後者は、簡単な光度計を使用して実施することができる。緑色発光ダイオードの光(波長λ=520nm)は、過マンガン酸塩の吸収極大とかなり正確に一致している。その場合、消費量は、分析データにしたがい置き換える必要がある。試験は、工程段階A)に推奨される動作温度で、反応時間10分以内に、二酸化マンガン約0.7g/m2〜1.2g/m2がABSプラスチックの表面に形成することを示している。前記物品による過マンガン酸塩溶液のすくい出し(drag−out)によって生じる減少と比べて、表面反応におけるこの消費量はごくわずかである。
【0056】
本発明によるエッチング液は、クロムまたはクロム化合物を含んでいない;前記エッチング液は、クロム(III)イオンも、クロム(VI)イオンも含んでいない。したがって、本発明によるエッチング液は、クロムまたはクロム化合物を含んでいない;前記エッチング液は、クロム(III)イオンおよびクロム(VI)イオンを含んでいない。
【0057】
さらなる実施態様では、前記物品は、工程段階A)における過マンガン酸塩処理の後、過剰な過マンガン酸塩溶液を洗い流して洗浄される。この洗浄は、水を用いる、1つまたは複数の、好ましくは3つの洗浄工程で行われる。
【0058】
本発明のさらなる好ましい実施態様では、以下のさらなる工程段階:
Ai)前記プラスチック表面を二酸化マンガンのための還元剤を含む溶液中で処理する工程
が、工程段階A)とB)との間に実施される。
【0059】
前記さらなる工程段階Ai)は、還元処理とも呼ばれる。この還元処理は、前記プラスチック表面に付着している二酸化マンガンを還元して、水溶性のマンガン(II)イオンにする。この還元処理は、工程段階A)における過マンガン酸塩処理の後、および任意には前記洗浄後に実施される。この目的のために、還元剤の酸性溶液が使用される。前記還元剤は、硫酸ヒドロキシルアンモニウム、塩化ヒドロキシルアンモニウム、および過酸化水素を含む群から選択される。過酸化水素の酸性溶液が好ましい、それというのは、過酸化水素は、有毒でもなく、錯体形成性もないからである。前記還元処理の溶液(還元溶液)中の過酸化水素の含有量は、30%過酸化水素溶液(質量%)25ml/l〜35ml/l、好ましくは30%過酸化水素溶液(質量%)30ml/lである。
【0060】
前記還元溶液中で使用される酸は、無機酸、好ましくは硫酸である。酸濃度は、それぞれの場合、一塩基酸に対して0.5mol/l〜5.0mol/l、好ましくは1.0mol/l〜3.0mol/l、より好ましくは1.0mol/l〜2.0mol/lである。硫酸を使用する場合、一塩基酸に対して1.0mol/l〜2.0mol/lの酸濃度に相当する、96%硫酸50g/l〜96%硫酸100g/lの濃度が特に好ましい。
【0061】
前記還元処理は、前記物品の金属化を妨げる二酸化マンガン沈殿物を除去するものである。その結果として、工程段階Ai)の還元処理は、前記物品が所望の金属層により均一かつ連続的に被覆されるのを促進し、ならびに前記物品に設けられた金属層の接着強度および平滑性を促進する。
【0062】
工程段階Ai)における還元処理は、前記治具のプラスチックケーシングの金属化にも有利な影響を及ぼす。工程段階B)の間のパラジウムによる前記プラスチックケーシングの不所望な被覆が抑制される。この影響は、前記還元溶液が、無機強酸、好ましくは硫酸を含む場合に、特に顕著である。過酸化水素は、還元溶液において硫酸ヒドロキシルアンモニウムまたは塩化物よりも好ましい、それというのは、治具の金属化をより望ましく抑制するからでもある。
【0063】
工程段階Ai)における還元処理は、30℃〜50℃、好ましくは40℃〜45℃の温度で実施される。前記還元処理は、1〜10分間、好ましくは3〜6分間実施される。活性化よりも前に、前記治具の充分な保護を達成するために、前記還元溶液における処理時間を3〜10分、好ましくは3〜6分に増やすことが有利である。
【0064】
使用される過酸化水素還元剤は、時々補充されねばならない。過酸化水素の消費量は、前記プラスチック表面に結合している二酸化マンガンの量から算出できる。実際には、工程段階Ai)の間の還元反応の過程で、気体の発生を観察して、気体の発生が減少する場合、過酸化水素の元の量、例えば、30%溶液30ml/lを計量供給する。前記還元溶液の上昇動作温度、例えば、40℃では、前記反応は迅速であり、せいぜい1分後には終了している。
【0065】
さらに、驚くべきことに、工程段階A)(エッチング)において増加する二酸化マンガンが前記プラスチック表面で析出する場合、後の活性化(工程段階B))における金属コロイドによる前記プラスチック表面の被覆率は、この析出した二酸化マンガンが、その合間、工程段階Ai)(還元処理)において前記プラスチック表面から除去される場合に、上昇する。この関係性を、図4に示す。工程段階A)(エッチング)に関する節に記載の通り、前記エッチング液中の比較的高濃度の硫酸は、増加する二酸化マンガンの前記プラスチック表面上での析出に有利である。しかしその一方で、前記エッチング液中の比較的高濃度の硫酸は、増加する二酸化マンガンが、前記エッチング液の安定性を明らかに損なうこと、かつエッチング(工程段階A))後、二酸化マンガンの析出物が、増加した分、前記プラスチック表面から再び除去しなければならないという逆効果ももたらす。したがって、前記エッチング液中の硫酸濃度の水準は、最終的に前記プラスチック表面に設けられる金属層の品質に良くも悪くも影響する相反作用をもたらす。したがって、工程段階A)(エッチング)に関する節に記載された無機酸の濃度範囲、および特に、前記エッチング液中の硫酸の濃度範囲は、前記相反する影響がきわめて大幅に抑制される濃度範囲内にある一方、有利な影響を最適な程度に受ける。
【0066】
本発明のさらなる実施態様では、前記治具の保護は、工程段階A)と工程段階B)との間に、好ましくは工程段階Ai)とAii)との間に実施されてよい。
【0067】
本発明による方法において記載された時点のうち、前記治具の保護の時点に関わりなく、前記治具のプラスチックケーシングの金属析出に対する保護がもたらされる一方、前記固定段階の間に前記治具に固定される前記物品は、金属化される。
【0068】
前記治具の保護の工程段階は、ヨウ素酸イオン源を含む溶液による前記治具の処理により実施される。前記治具の保護は、ヨウ素酸イオンを含む溶液による前記治具の処理により実施されるのが好ましい。
【0069】
ヨウ素酸イオンによる処理は、工程段階Bii)が、本発明の1つの実施態様において、金属化溶液中で前記物品を無電解金属化する工程からなる場合に、特に有利である。
【0070】
前記ヨウ素酸イオンは、水溶液中で充分な安定性を有しており、すくい出しによってのみ消費される。一般に、前記治具の保護の影響は、ヨウ素酸イオンの濃度の上昇に伴って、および動作温度の上昇に伴って大きくなる。前記治具の保護は、20℃〜70℃、より好ましくは45℃〜55℃の温度で実施される。好適なヨウ素酸イオン源は、金属ヨウ素酸塩である。金属ヨウ素酸塩は、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸カリウム、ヨウ素酸マグネシウム、ヨウ素酸カルシウム、およびこれらの水和物を含む群から選択される。前記金属ヨウ素酸塩の濃度は、5g/l〜50g/l、好ましくは15g/l〜25g/lである。ヨウ素酸イオンによる前記治具の処理時間は、1〜20分、好ましくは2〜15分、より好ましくは5〜10分である。
【0071】
前記ヨウ素酸イオン源を含む溶液は、さらに酸を含んでいてよい。無機酸が好ましい。無機酸は、硫酸およびリン酸を含む群から選択されており、硫酸が好ましい。酸濃度は、それぞれの場合、一塩基酸に対して0.02mol/l〜2.0mol/l、好ましくは0.06mol/l〜1.5mol/l、より好ましくは0.1mol/l〜1.0mol/lである。硫酸を使用する場合、一塩基酸に対して0.1mol/l〜1.0mol/lの酸濃度に相当する、96%硫酸5g/l〜96%硫酸50g/lの濃度であるのが特に好ましい。
【0072】
前記ヨウ素酸イオン源を含む溶液の前記組成、ならびに前記治具の処理温度および処理時間は、前記治具の保護が行われる本発明による方法における時点と無関係である。
【0073】
さらに、ヨウ素酸イオン源を含む溶液による前記治具の処理は、リザーバー効果(reservoir effect)を示している。前記治具の保護の影響、つまり、前記治具上の金属析出の防止は、1つまたは複数の金属化サイクル(metallization cycle)にわたって継続する。本発明との関連における金属化サイクルは、任意に前記固定段階を、任意に前処理段階および工程段階A)からC)を含んでいるが、ヨウ素酸イオン源を含む溶液による前記治具の処理は含まない金属化方法を意味すると理解される。それぞれの金属化サイクルでは、金属化されていない物品は、前記治具に固定されており、金属化された物品を製造するために使用される。ヨウ素酸イオン源を含む溶液による前記治具の処理を含む本発明による方法が実施されて、次に、1つから4つの金属化サイクルが実施される。本発明による方法の間、および前記金属化サイクルの間に、物品は金属化される。前記金属化サイクルは、ヨウ素酸イオン源を含む溶液による前記治具の処理を含んでいないが、前記治具は、本発明による方法の間にも、後続の金属化サイクルの間にも金属化されない。本発明による方法の間の、ヨウ素酸イオン源を含む溶液による前記治具の処理は、1つから4つの後続の金属化サイクルの間でも、前記治具の金属化を回避するのに充分である。
【0074】
ヨウ素酸イオン源を含む溶液による前記治具の処理は、物品の電気的非導電性プラスチック表面が金属でコーティングされる間に、前記治具の金属化を防ぐものである。このようにして、前記治具は、本発明による方法の間、金属がない状態である。本発明による方法を用いると、使用後に前記治具から金属を再び除去する必要がない、それというのは、前記治具が、ヨウ素酸イオンを用いる本発明による処理の結果として金属化されず、したがって金属がない状態であるからである。したがって、前記金属化方法の実施および金属化された物品の前記治具からの取り外し後、この治具は、さらなる処理をせずに、直ちに生産サイクルに戻すことができ、さらなる物品の金属化のために使用することができる。
【0075】
追加的な洗浄およびエッチング段階は、前記治具の脱金属化には不要である。これもまた、廃水処理費用を減少させるものである。さらに、消費される化学物質の量は、比較的少ない。金属化設備の生産性も高められる、それというのは、利用可能な一定数の治具を用いて、金属化のための比較的多数の物品を処理することができるからである。
【0076】
さらに、本発明による方法は、プラスチック表面が金属コロイド溶液または金属化合物溶液で処理される、工程段階B)を含んでいる。
【0077】
前記金属コロイドまたは金属化合物の金属は、元素周期表(PTE)の第I族遷移金属およびPTEの第VIII族遷移金属を含む群から選択される。
【0078】
PTEの第VIII族遷移金属は、パラジウム、プラチナ、イリジウム、ロジウム、およびこれらの金属の2つまたはそれ以上の混合物を含む群から選択される。PTEの第I族遷移金属は、金、銀、およびこれらの金属の混合物を含む群から選択される。
【0079】
前記金属コロイド中の好ましい金属は、パラジウムである。前記金属コロイドは、保護コロイドにより安定化している。前記保護コロイドは、金属保護コロイド、有機保護コロイド、およびその他の保護コロイドを含む群から選択される。金属保護コロイドとして、スズイオンが好ましい。前記有機保護コロイドは、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、およびゼラチンを含む群から選択されており、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0080】
本発明の好ましい実施態様では、工程段階B)における金属コロイド溶液は、パラジウム/スズコロイドを含む活性剤溶液である。このコロイド溶液は、パラジウム塩、スズ(II)塩、および無機酸から得られる。好ましいパラジウム塩は、塩化パラジウムである。好ましいスズ(II)塩は、塩化スズ(II)である。無機酸は、塩酸または硫酸であってよく、塩酸であるのが好ましい。前記コロイド溶液は、塩化スズ(II)を用いて塩化パラジウムを還元して、パラジウムを形成する。塩化パラジウムのコロイドへの変換が完了する;それゆえ、前記コロイド溶液は、塩化パラジウムをもはや含んでいない。パラジウムの濃度は、Pd2+に対して5mg/l〜100mg/l、好ましくは20mg/l〜50mg/l、より好ましくは30mg/l〜45mg/lである。塩化スズ(II)の濃度は、Sn2+に対して0.5g/l〜10g/l、好ましくは1g/l〜5g/l、より好ましくは2g/l〜4g/lである。塩酸の濃度は、100ml/l〜300ml/lである(HCl 37質量%)。その上、パラジウム/スズコロイド溶液は、さらに、スズ(II)イオンの酸化により形成するスズ(IV)イオンを含んでいる。工程段階B)の間の前記コロイド溶液の温度は、20℃〜50℃、好ましくは35℃〜45℃である。前記活性剤溶液による処理時間は、0.5分〜10分、好ましくは2分〜5分、より好ましくは3分〜5分である。
【0081】
本発明のさらなる実施態様では、工程段階B)において、前記金属化合物溶液は、前記金属コロイドの代わりに使用される。この使用される金属化合物溶液は、酸および金属塩を含む溶液である。前記金属塩の金属は、前述のPETの第I族および第VIII族遷移金属の1つまたはそれ以上の金属である。前記金属塩は、パラジウム塩、好ましくは塩化パラジウム、硫酸パラジウムまたは酢酸パラジウム、または銀塩、好ましくは酢酸銀であってよい。前記酸は、塩酸であるのが好ましい。代替的に、金属錯体、例えば、パラジウム錯体塩、例えば、パラジウム−アミノピリジン錯体塩を使用することも可能である。工程段階B)における金属化合物は、前記金属に対して40mg/l〜80mg/lの濃度で存在している。前記金属化合物溶液は、25℃〜70℃、好ましくは25℃の温度で使用されてよい。前記金属化合物溶液による処理時間は、0.5分〜10分、好ましくは2分〜6分、より好ましくは3分〜5分である。
【0082】
工程段階A)とB)との間に、以下のさらなる工程段階が、実施されてよい:
Aii)前記プラスチック表面を酸性水溶液中で処理する工程。
【0083】
工程段階Ai)とB)との間に、工程段階Aii)を実施するのが好ましい。本発明による方法において、工程段階Ai)に続いて、前記治具の保護が行われた場合、工程段階Aii)は、前記治具の保護と工程段階B)との間に実施されるのがより好ましい。
【0084】
工程段階Aii)における前記プラスチック表面の処理は、予備浸漬とも呼ばれ、前記酸性水溶液が、予備浸漬液として使用される。この予備浸漬液は、工程段階B)におけるコロイド溶液と同じ組成を有しているが、前記コロイドおよびこれらの保護コロイド中の金属は存在しない。この予備浸漬液は、工程段階B)においてパラジウム/スズコロイド溶液を使用する場合、このコロイド溶液が塩酸も含んでいる場合は塩酸だけを含んでいる。予備浸漬の場合、周囲温度で前記予備浸漬液への短時間の含浸で充分である。前記プラスチック表面を洗浄しない場合、このプラスチック表面は、前記予備浸漬液中での処理の後、工程段階B)のコロイド溶液でさらに直接処理される。
【0085】
工程段階Aii)は、工程段階B)が、金属コロイド溶液によるプラスチック表面の処理を含む場合に実施されるのが好ましい。工程段階Aii)は、工程段階B)が、金属化合物溶液によるプラスチック表面の処理を含む場合に実施されてもよい。
【0086】
前記プラスチック表面は、工程段階B)において、前記金属コロイドまたは金属化合物で処理された後、洗浄されてよい。
【0087】
本発明のさらなる実施態様では、以下のさらなる工程段階:
Bi)前記プラスチック表面を酸性水溶液中で処理する工程、および
Bii)前記プラスチック表面を金属化溶液中で無電解金属化する工程
が、工程段階B)とC)との間に実施される。
【0088】
前記実施態様を、第1表に図式的に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
前記さらなる工程段階Bi)およびBii)は、前記物品が、無電解金属化方法により金属化される場合に実施される、すなわち、第一の金属化層は、無電解法により前記プラスチック表面に設けられることになる。
【0091】
工程段階B)の活性化が、金属コロイドにより実施される場合、前記コロイド溶液、例えば保護コロイド中のコロイドの成分を、前記プラスチック表面から除去するために、前記プラスチック表面は、工程段階Bi)において促進剤溶液で処理される。工程段階B)における前記コロイド溶液中のコロイドが、パラジウム/スズコロイドである場合、使用される促進剤溶液は、酸の水溶液であるのが好ましい。この酸は、例えば、硫酸、塩酸、クエン酸、およびテトラフルオロホウ酸を含む群から選択される。パラジウム/スズコロイドの場合、前記促進剤溶液は、前記保護コロイドとして用いられるスズ化合物を除去するのに役立つ。
【0092】
代替的に、工程段階Bi)では、還元処理は、工程段階B)において、金属化合物溶液が、前記活性化のための金属コロイドの代わりに使用された場合に実施される。この目的のために使用される還元溶液は、前記金属化合物溶液が塩酸であった場合、塩化パラジウム溶液、または銀塩、塩酸、および塩化スズ(II)の酸性溶液を含んでいる。この還元溶液は、別の還元剤、例えば、NaH2PO2、またはボランもしくはホウ化水素、例えば、アルカリ金属ボランもしくはアルカリ土類金属ボランもしくはジメチルアミノボラン含んでいてもよい。前記還元溶液中でNaH2PO2を使用するのが好ましい。
【0093】
工程段階Bi)における前記還元溶液による促進または処理の後、前記プラスチック表面は、まず洗浄されてよい。
【0094】
工程段階Bi)および任意に1つまたはそれ以上の洗浄段階に続いて、前記プラスチック表面が無電解に金属化される工程段階Bii)が行われる。無電解ニッケルめっきは、例えば、とりわけ、還元剤として硫酸ニッケル、次亜リン酸、例えば、次亜リン酸ナトリウム、およびまた有機錯化剤、およびpH調整剤(例えば、緩衝剤)を含む慣用のニッケル浴を使用して行われる。使用される還元剤は、ジメチルアミノボランまたは次亜リン酸とジメチルアミノボランとの混合物であってもよい。
【0095】
代替的に、無電解銅めっきのための無電解銅浴を使用することが可能であり、この無電解銅浴は、一般に、銅塩、例えば、硫酸銅または次亜リン酸銅、およびまた還元剤、例えば、ホルムアルデヒドまたは次亜リン酸塩、例えば、アルカリ金属またはアンモニウム塩、または次亜リン酸、ならびにさらに、1種または複数の錯化剤、例えば、酒石酸、およびまたpH調整剤、例えば、水酸化ナトリウムを含んでいる。
【0096】
このようにして導電性の状態にされた前記表面は、続いて、機能的または装飾的な表面を得るために、電解によりさらに金属化することができる。
【0097】
本発明による方法の段階C)は、前記プラスチック表面の金属化溶液による金属化である。工程段階C)における金属化は、電解によりもたらされる。電解による金属化の場合、所望の金属析出浴、例えば、ニッケル、銅、銀、金、スズ、亜鉛、鉄、鉛またはこれらの合金を析出するための前記析出浴を使用することが可能である。前記析出浴は、当業者によく知られているものである。ワットニッケル浴は、一般に、光沢ニッケル浴として使用され、硫酸ニッケル、塩化ニッケルおよびホウ酸、およびまた添加剤としてサッカリンも含んでいる。光沢銅浴として使用される組成の例は、硫酸銅、硫酸、塩化ナトリウム、および有機硫黄化合物(酸化状態が低い硫黄)、例えば、有機硫化物または二硫化物を添加剤として含んでいる。
【0098】
工程段階C)における前記プラスチック表面の金属化の影響は、このプラスチック表面が、金属でコーティングされることであり、この金属は、前記析出浴のために上述の金属から選択されるものである。
【0099】
本発明のさらなる実施態様では、工程段階C)の後に、以下のさらなる工程段階:
Ci)前記金属化されたプラスチック表面を高温で保管する工程
が実施される。
【0100】
不導体が、湿式化学により、つまり金属でコーティングされるあらゆる電気めっき方法と同じく、金属とプラスチック基材との間の接着強度は、金属層が設けられた後の第一の期間に上昇する。室温では、前記方法は、約3日後に終了する。これは、高温で保管することにより大幅に促進させることができる。前記方法は、80℃で約1時間後に終了する。初期の低い接着強度は、金属と非導電性基材との境界にあり、静電力の形成を妨げている薄い水層によってもたらされると推測される。
【0101】
本発明による過マンガン酸塩溶液によるエッチング(工程段階A))は、例えば、慣用のクロム硫酸による前処理よりも広いプラスチックと金属層との接触面積を許容する、前記プラスチック表面の構造を生じさせることが判明した。これは、また、クロム硫酸による処理と比べて、比較的高い接着強度が達成される理由でもある(例2および例3参照)。しかし、比較的平滑な表面は、場合によっては、クロム硫酸を使用する場合よりもさらに低い初期接着強度を金属化の直後にもたらす。特に、ニッケル電気めっきの場合、きわめて特に、析出された金属層が、高い内部応力を有している場合、または金属およびプラスチックの熱膨張率が大きく異なり、この複合材料が、急変する温度にさらされる場合、初期接着強度は、充分とは限らない。
【0102】
この場合、金属化されたプラスチック表面の高温での処理が有利である。前記工程は、水がプラスチック母材中の金属−プラスチック界面で広がることができるように、ABSプラスチックから作られた金属化された物品を、50℃から80℃までの範囲の高温、好ましくは70℃の温度で、5分〜60分間、水浴で処理する工程を含んでいてよい。金属化されたプラスチック表面の高温での処理または保管の効果は、工程段階Ci)の後に、少なくとも0.8N/mm、または0.8N/mm超の所望の範囲内にある、前記プラスチック表面に設けられた金属層の接着強度が達成されるように、初期の、比較的低い接着強度がさらに高められることである。
【0103】
このようにして、本発明による方法は、優れた工程信頼性および続いて設けられる金属層の卓越した接着強度を有して、物品の電気的非導電性のプラスチック表面の金属化の達成を可能にする。プラスチック表面に設けられた金属層の接着強度は、0.8N/mmまたはそれ以上の値に達する。したがって、達成された接着強度は、また、クロム硫酸によるプラスチック表面のエッチング後、先行技術により得られる強度を優に上回っている(例2および例3参照)。さらに、平面のプラスチック表面が、本発明による方法による高い接着強度を有して金属化されるだけではない;それどころか、不均一な形状のプラスチック表面、例えば、シャワーヘッドも、均一で強力に付着した金属コーティングが備えられる。
【0104】
本発明による方法による前記プラスチック表面の処理は、個々の処理が行われる容器内の溶液に連続的に前記物品を浸漬させる、慣用の浸漬法で実施されるのが好ましい。この場合、前記物品は、治具に固定されるか、またはドラムに収容されて、前記溶液に浸漬されてよい。治具に固定されるのが好ましい。代替的に、前記物品は、いわゆるコンベアシステム内で、例えば、棚に平らに置かれることにより、および、前記システムを水平方向に連続的に搬送されることにより、処理することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0105】
図1】エッチング液による処理時間の接着強度に対する影響を示す図
図2】ABS/PC混合物から作られた物品のグリコール化合物による処理時間の接着強度に対する影響を示す図
図3】ABSから作られた物品のグリコール化合物による処理時間の接着強度に対する影響を示す図
図4】析出された二酸化マンガンが、工程段階Ai)の間にプラスチック表面から除去された場合の、プラスチック表面に析出した二酸化マンガンの量と、その後工程段階B)の間にプラスチック表面に後に結合したパラジウムの量の関係を示す図
【0106】
実施例
以下の実施例は、本発明を詳細に説明することを目的としている。
【0107】
例1:本発明による例
1つのABSプラスチックパネル(Ineos社Novodur P2MC)(寸法5.2cm×14.9cm×3mm)を特殊鋼線材に固定した。リン酸カリウム緩衝剤でpH7に調節して、サーモスタット内で45℃に保たれた2−(2−エトキシエトキシ)エチルアセテート15%およびブトキシエタノール10%の溶液に、前記パネルを10分間浸漬させた(前処理段階)。続いて、前記パネルを、流水下で約1分間洗浄して、次に、70℃に保たれた過マンガン酸ナトリウム100g/lおよび96%硫酸10g/lの浴に導入した(工程段階A))。10分間の処理に続いて再び、水で1分間洗浄して、この時点で暗褐色のパネルを、析出された二酸化マンガンを除去するために、96%硫酸50g/lおよび30%過酸化水素30ml/lの溶液中で洗浄した(工程段階Ai))。その後の洗浄および36%塩酸300ml/l溶液への短時間浸漬(工程段階Aii))の後、前記パネルを、パラジウムコロイドをベースとするコロイド活性剤(Atotech社Adhemax Aktivator PL、パラジウム25ppm)中で、45℃で3分間活性化した(工程段階B))。
【0108】
その後洗浄してから、パラジウム粒子の保護シェルを50℃で5分間除去した(Atotech社Adhemax ACC1 accelerator、工程段階Bi))。続いて、前記パネルを、外部電流を用いずに45℃で10分間ニッケルめっきして(Atotech社Adhemax LFS、工程段階Bii))、洗浄して、3.5A/dm2で、室温で70分間銅めっきした(Atotech社Cupracid HT、工程段階C))。洗浄後、前記パネルを、80℃で30分間保管した(工程段階Ci))。続いて、前記金属化されたプラスチックパネルから、幅約1cmのストリップをナイフで切り取り、引張試験機(Instron社)を使用して、金属層をプラスチックから引き離した(ASTM規格B 533 1985 Reapproved 2009)。接着強度は1.97N/mmであることが判明した。
【0109】
例1における工程段階の順序を、第2表にまとめる。
【0110】
【表2】
【0111】
例2:比較試験
Bayblend T45の4つのパネル(5.2×14.9×0.3cm、ABS/PC混合物)を、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアセテート40%溶液中で、室温で10分間処理した。洗浄後、2つのパネルを、例1の記載通りに、過マンガン酸ナトリウム100g/lおよび96%硫酸10g/lを含む、高温(70℃)の、酸性の過マンガン酸塩溶液(本発明によるエッチング液I、最終濃度:硫酸0.1mol/l)で処理した。残りの2つのパネルを、同一条件下に、96%硫酸100g/lを含む類似の過マンガン酸塩溶液(本発明によるエッチング液中よりも硫酸の濃度が高いエッチング液II、最終濃度:硫酸1mol/l)中で処理した。この処理後、エッチング液IIで処理された前記パネルの表面は、96%硫酸がわずか10g/lのエッチング液Iで処理されたパネルの表面よりもはるかに色が暗かった。硫酸の含有量が比較的高いエッチング液IIは、その動作温度(70℃)で比較的大量の酸素を発生した。エッチング液IIの冷却後、1リットル中に二酸化マンガンスラリー約50mlが見られた。その一方、エッチング液Iには、二酸化マンガンスラリーは見られなかった。
【0112】
4つのパネルすべてを、還元により二酸化マンガンを除去し、活性化して(パラジウム25ppm)、最終的に還元によりニッケルめっきして、電解銅めっきした。(例1の工程段階Ai)からC))。以下の接着強度が判明した:
エッチング液Iで処理されたパネル
パネル1 前面:1.09N/mm 裏面:1.27N/mm
パネル2 前面:1.30N/mm 裏面:1.32N/mm
エッチング液IIで処理されたパネル
パネル3 前面:1.19N/mm 裏面:1.10N/mm
パネル4 前面:1.07N/mm 裏面:1.25N/mm。
【0113】
前記パネルの接着強度は、それぞれわずかに異なっている。96%硫酸10g/lから96%硫酸100g/lの範囲の濃度では、高含有量の硫酸は、金属層の前記プラスチック表面上の接着強度にわずかな影響を及ぼしている。しかし、形成された二酸化マンガンの量が相当多いことから推測できる通り、エッチング液IIの比較的高い含有量の硫酸は、このエッチング液の比較的低い安定性をすでにもたらしている。
【0114】
例3:比較試験
Bayblend T45の4つのパネル(5.2×14.9×0.3cm、ABS/PC混合物)を、例2の記載通りに処理した。しかし、エッチング(工程段階A))は、例2に記載された条件とは異なる条件下に実施した。
【0115】
前記4つのパネルのうちの2つを、酸化クロム(VI)380g/lおよび濃硫酸380g/lからなるエッチング液III(先行技術からのクロム酸溶液)で処理した。このエッチング処理は、70℃で10分間実施した。
【0116】
前記残りの2つのパネルを、過マンガン酸ナトリウム30g/lおよび水酸化ナトリウム20g/lからなるエッチング液IV(先行技術からのアルカリ性の過マンガン酸塩溶液)で処理した。このエッチング処理は、70℃で10分間実施した。
【0117】
エッチング液IIIで処理されたパネルの場合、接着強度は、0.45N/mm〜0.70N/mmであることが判明し、エッチング液IVで処理されたパネルの場合、接着強度は、0N/mm(金属層とプラスチック表面との間に気泡)および0.25N/mmであった。一方、本発明によるエッチング液(エッチング液I、例2参照)で処理されたパネルの場合、1.09N/mm〜1.32N/mmのはるかに優れた接着強度であることが判明した。
【0118】
例4:本発明による例
Bayblend T45の複数のパネル(5.2×14.9×0.3cm、ABS/PC混合物)を、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアセテート40%溶液中で、室温で10分間処理した。洗浄後、例1の記載通りに、これらのパネルを、過マンガン酸ナトリウム100g/lおよび96%硫酸10g/lを含む、高温(70℃)の、酸性の過マンガン酸塩溶液で処理した。この酸性の過マンガン酸塩溶液中の処理時間を変化させた。前記パネルを、還元により二酸化マンガンを除去し、活性化して(パラジウム25ppmの活性化剤)、還元によりニッケルめっきして、電解銅めっきした(例1の工程段階Ai)からC))。続いて、前記エッチング液により異なる時間で処理された前記パネルの接着強度を測定した。
【0119】
図1は、前記エッチング液中の処理時間に応じた接着強度を示している。Bayblend T45のパネルの場合、5〜10分の処理時間(図1では滞留時間と呼ばれる)の後でさえも、1N/mmのきわめて優れた接着強度が達成される。
【0120】
例5:本発明による例
プラスチックのBayblend T45およびBayblend T65(ABS/PC混合物)の例1に記載された寸法の複数のパネルを、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアセテート20%溶液中で、45℃で5分間処理した。その後、これらのパネルを、例1の記載通りに、過マンガン酸ナトリウム100g/lおよび96%硫酸10g/lの溶液中で、50℃で10分間処理し、活性化して、次に、化学的還元によりニッケルめっきして、その後、電解銅めっきした。80℃で1時間保管した後、第3表に記載の接着強度の値が、剥離試験で判明した。
【0121】
【表3】
【0122】
例6:
Bayblend T45の複数のパネルを、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアセテートおよびブトキシエタノール10%の15%溶液中で、45℃で異なる時間で処理した。続いて、これらのパネルを、例1の記載通り、酸性の過マンガン酸塩溶液中で5分間エッチングし、活性化して、銅めっきした。80℃で1時間保管した後、接着強度を剥離試験で測定した。
【0123】
前記金属層の接着強度を、図2に示し、第4表にまとめる。グリコール化合物の溶液中での前記プラスチック表面の滞留時間(前処理段階)は、設けられた金属層の接着強度に影響を及ぼしている。グリコール化合物による処理がない場合(図2中の滞留時間0分)、接着強度は、0.25N/mmしか得られなかった。その一方、わずか5分間のグリコール化合物による処理後、0.92N/mmの優れた接着強度がすでに達成されており、接着強度は、処理時間が長くなるにつれてさらに増加する。
【0124】
【表4】
【0125】
例7:
ABSプラスチック(Novodur P2MC)の複数のパネルを、例6の記載通り、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアセテートおよびブトキシエタノール10%の15%溶液により異なる時間で処理し、さらなる金属化法に供して、設けられた金属層の接着強度を測定した。
【0126】
前記グリコール化合物の溶液による処理時間に応じた前記金属層の接着強度を、図3に示し、第5表にまとめる。ここでも、前記設けられた金属層の接着強度に対する処理時間(図3中では予備エッチング液中の滞留時間と表される)の影響が、明らかに見られる。グリコール化合物による処理がない場合(図3中の滞留時間0分)、接着強度は、0.25N/mmしか得られなかった。その一方、わずか5分間のグリコール化合物による処理後、1.35N/mmのきわめて優れた接着強度がすでに達成されており、接着強度は、処理時間が長くなるにつれてさらに増加する。
【0127】
【表5】
【0128】
例8:比較例
Bayblend T45PGの1つのパネル(10cm×5cm、ABS/PC混合物)を、リン酸カリウム衝撃剤でpH=7に調節された2−(2−エトキシエトキシ)エチルアセテートの40%溶液中で、25℃で7分間前処理した(前処理段階)。続いて、前記パネルを、流水下で約1分間洗浄した。
【0129】
エッチング処理:前処理したパネルを、まず、70℃に加熱した過マンガン酸塩を含んでいない96%H2SO4 10g/lの溶液(エッチング液V)で10分間エッチングした。その後、前記パネルを、50℃に保たれたアルカリ性の過マンガン酸溶液(NaMnO4 30g/lおよびNaOH 20g/l、エッチング液IV)で10分間エッチングした。
【0130】
続いて、前記パネルから二酸化マンガンを除去するために、このパネルを、96%硫酸25ml/lおよび30%過酸化水素30ml/lから構成される還元溶液で、45℃で処理した(工程段階Ai)。その後洗浄してから、前記パネルを、36%塩酸300ml/lの溶液に短時間予備浸漬させた(工程段階Aii))。
【0131】
続いて、前記パネルを、パラジウムコロイドをベースとするコロイド活性剤(Atotech社Adhemax Aktivator PL、パラジウム50ppm)中で、35℃で5分間活性化した(工程段階B))。その後、前記パネルを洗浄して、次にパラジウム粒子の保護シェルを50℃で5分間除去した(Atotech社Adhemax ACC1 accelerator、工程段階Bi))。
【0132】
続いて、前記パネルを、外部電流を用いずに10分間、40℃でニッケルめっきした(Atotech社Adhemax LFS、工程段階Bii))。その後、前記パネルを洗浄して、3.5A/dm2で、室温で1時間、銅めっきした(Atotech社Cupracid HT、工程段階C))。洗浄後、前記パネルを、80℃で1時間保管した(工程段階Ci))。
【0133】
析出された金属層の接着強度を、例1の記載通り測定した。測定された接着強度は、0.10N/mm;0.12N/mm;0.11N/mm;および0.11N/mmであり、平均0.11N/mmであった。
【0134】
例8における工程段階の順序を、第6表にまとめる。
【0135】
【表6】
【0136】
例9:比較例
1つのABSパネル(Novodur P2MC、2012−03−23成形、5cm×10cm)を、45℃で10分間、2−(2−エトキシエトキシ)エチルアセテート15%およびエチレングリコールモノブチルエーテル10%の水溶液中で前処理した。
【0137】
次に、前記パネルを洗浄して、その後、KMnO4 65g/l、NaOH 50g/l、およびNaOCl 10g/lの溶液中で、65℃で10分間エッチングした。前記パネルの表面は、気泡により一様ではなかった。
【0138】
次に、前記パネルを30%過酸化水素30ml/lおよび25%硫酸の溶液(45℃)中で、2分以内で還元させた。このパネルの表面は、疎水性であった。
【0139】
その後、前記パネルを、コロイド活性剤(Atotech社Adhemax Aktivator PL、パラジウム50mg/l、35℃)中で5分間活性化させ、洗浄し、5%硫酸中で50℃で促進させて、無電解ニッケルめっきした(Atotech社Adhemax Ni LFS、45℃、10分)。この段階後、前記パネルを電解銅めっきした(Atotech社Cupracid HT、3.5Adm2、周囲温度、60分)。このめっきしたパネルを、75℃で1時間そのままの状態にした。
【0140】
接着強度は、あまりにも低く読み取れなかった。
【0141】
例10:比較例
5cm×10cmの1つのABSパネル(Novodur P2MC、2012−03−23成形)を、濃硝酸(65質量%)に、周囲温度(23℃)で2分間含浸させ、脱イオン水で洗浄して、圧縮空気吹付で乾燥させた。このABSの表面は、艶がなかった。
【0142】
その後、前記パネルを、濃硫酸(96質量%)により、周囲温度で30秒間処理して、次に、脱イオン水で洗浄した。次に、前記パネルを水酸化ナトリウム1.2Nおよび過マンガン酸ナトリウム0.1Nの水溶液と、75℃で5分間接触させた。硫酸中では、硝酸と接触させた表面だけが褐色になり、その後、アルカリ性の過マンガン酸塩溶液により腐食された。
【0143】
次に、前記パネルを、例9の記載通り、還元し、コロイド活性剤中で活性化させ、洗浄し、促進させ、無電解ニッケルめっきし、電解銅めっきして、75℃でそのままの状態にした。
【0144】
無電解ニッケル析出の間、大量の安定した泡が原因不明で生じ、前記プラスチック表面は、この泡のせいで適切にニッケルコーティングされなかった。酸性銅めっきの間に発生した気泡は、付着が全くないことを示すものであった。
図1
図2
図3
図4