(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195874
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】大型転がり軸受装置及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
F16C 33/62 20060101AFI20170904BHJP
F16C 33/64 20060101ALI20170904BHJP
F16C 33/32 20060101ALI20170904BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20170904BHJP
C22C 38/12 20060101ALI20170904BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
F16C33/62
F16C33/64
F16C33/32
C22C38/00 301Z
C22C38/12
F16C19/06
【請求項の数】7
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-137899(P2015-137899)
(22)【出願日】2015年7月9日
(62)【分割の表示】特願2012-508953(P2012-508953)の分割
【原出願日】2010年5月6日
(65)【公開番号】特開2015-232396(P2015-232396A)
(43)【公開日】2015年12月24日
【審査請求日】2015年8月10日
(31)【優先権主張番号】09006156.5
(32)【優先日】2009年5月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509015590
【氏名又は名称】アクツィエブーラゲート エスケイエフ
【氏名又は名称原語表記】Aktiebolaget SKF
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】バオジュ リアン
(72)【発明者】
【氏名】ウルリケ マイ
(72)【発明者】
【氏名】ゲアハート ヴァーグナー
(72)【発明者】
【氏名】クラウス ルンペル
【審査官】
瀬川 裕
(56)【参考文献】
【文献】
特開平06−017823(JP,A)
【文献】
特開2007−169673(JP,A)
【文献】
特開2003−130064(JP,A)
【文献】
特開2007−218322(JP,A)
【文献】
特開2008−121838(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/62
C22C 38/00
C22C 38/12
F16C 19/06
F16C 33/32
F16C 33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも250ミリメートルの外径を有し、転がり軸受エレメントを有する大型転がり軸受装置において、
前記転がり軸受エレメントに対向する転がり軸受対向エレメントと接触する少なくとも1つの接触ゾーンを有しており、
該接触ゾーンが、高周波焼入れされた表面層を有しており、
前記転がり軸受エレメントが、少なくとも0.46質量%の炭素添加物を有する鋼より成っており、
前記表面層が、使用された鋼の実現可能な最大硬度よりも低い、高周波焼入れにより生じる硬度を有しており、
鋼が、モリブデンの添加物を有しており、
前記高周波焼入れは、硬化されないゾーンが軌道上に形成されることはないようにスリップなしに実施され、
焼入れされた表面層は、転がり軸受対向エレメントとのヘルツ接触によって生ぜしめられる応力変化がカバーされる程度の厚さに構成されている、
ことを特徴とする、大型転がり軸受装置。
【請求項2】
硬化された表面層が、少なくとも58HRCの硬度を有している、請求項1記載の大型転がり軸受装置。
【請求項3】
鋼が、マンガン及び/又はクロムの添加物を有している、請求項1又は2記載の大型転がり軸受装置。
【請求項4】
モリブデンの添加物が少なくとも0.12質量%である、請求項1から3までのいずれか1項記載の大型転がり軸受装置。
【請求項5】
前記転がり軸受エレメントが軌道エレメントとして構成されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の大型転がり軸受装置。
【請求項6】
前記転がり軸受エレメントが転動体として構成されている、請求項1から5までのいずれか1項記載の大型転がり軸受装置。
【請求項7】
少なくとも250ミリメートルの外径を有し、転がり軸受エレメントを有する大型転がり軸受装置を製造する方法であって、
少なくとも0.46質量%の炭素添加物を有する鋼を選択し、
前記転がり軸受対向エレメントと接触する接触ゾーンを形成し、
前記接触ゾーンの表面層を高周波焼入れすることにより、前記表面層が、使用された鋼の実現可能な最大硬度よりも低い、高周波焼入れにより生じる硬度を有しており、
鋼が、モリブデンの添加物を有しており、
前記高周波焼入れは、硬化されないゾーンが軌道上に形成されることはないようにスリップなしに実施され、
焼入れされた表面層は、転がり軸受対向エレメントとのヘルツ接触によって生ぜしめられる応力変化がカバーされる程度の厚さに構成されている、
ことを特徴とする、大型転がり軸受装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型転がり軸受用の軌道エレメント、及び軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日公知の大型転がり軸受においては、軌道エレメントは、一般的に表面硬化又は完全硬化された鋼より製造されている。表面硬化された鋼を使用する場合、低合金鋼は、外周層が炭素雰囲気内で浸炭されるので、外周層は後から硬化される。大型転がり軸受のためには、回転する転動体によって軌道エレメントに常に負荷がかかるので、長い耐用年数を得るためには、軌道領域に高い表面硬度を与える必要がある。しかしながら、軌道エレメントの表面硬化又は完全硬化には、比較的高いエネルギ消費が必要となる。
【0003】
これに対して、自在継手においては、焼入れされた外周層が、高周波法によって生ぜしめられる。しかしながらこのような形式の軸受においては、表面硬度の要求は、転動体による異なる負荷に基づいて、大型転がり軸受におけるように高くはない。自在継手においては、大型転がり軸受とは異なる種類の鋼が使用される。従って、自在継手において公知である高周波焼入れ法は、大型転がり軸受の製造に転用することはできない。
【0004】
同様に直径の小さい小型の転がり軸受においては、外周層の高周波焼入れは、使用された鋼の種類、例えば100Cr6において用いられる。この場合も、外周層を高周波焼入れするための公知の方法は、経済的な理由により、大型転がり軸受に転用することはできない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、製造が簡単で、長い耐用年数が得られる、大型転がり軸受のための転がり軸受エレメント、及び相応の大型転がり軸受装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、本発明によれば、請求項1に記載した特徴を有する軌道エレメント、並びに請求項8に記載した特徴を有する大型転がり軸受装置によって解決された。有利な実施態様は、従属請求項に記載されている。
【0007】
請求項1によれば、大型転がり軸受のための転がり軸受エレメントが、
転がり軸受対向エレメントと接触する少なくとも1つの接触ゾーンを有しており、
該接触ゾーンが、高周波焼入れ法に従って硬化された表面層を有しており、
前記転がり軸受エレメントが、少なくとも0.46質量%の炭素添加物を有する鋼より成っている。
【0008】
表面層の外側において原則として少なくとも0.2質量%よりも少ない炭素含有量を有していて、強く負荷される転がり軸受に使用するために、高価な浸炭だけによって外周層が例えば0.8質量%の炭素含有量を有するように十分に硬化せしめられる、高価な表面硬化鋼を用いるのとは異なり、本発明によれば、少なくとも0.46%の炭素添加物を有する、いわゆる安価な調質鋼を使用することができ、この場合、転がり軸受エレメントの接触ゾーンは、高周波法によって後から硬化されるようになっている。このような硬化法は、外周層の浸炭と比較して費用が著しく安価である。本発明による転がり軸受エレメントとしては、特に大型軸受の転動体及び/又は軌道エレメントを構成することができる。本発明の構成は、特に、転がり接触によって負荷される、大型軸受のエレメントのために有利である。この場合、転がり軸受対向エレメントは、転がり軸受エレメントと転がり接触する転がり軸受エレメントであって、有利な形式で同様に本発明に従って構成されている。大型転がり軸受は、有利には少なくとも250mmの直径を有している。
【0009】
この場合、本発明は、0.46質量%よりも少ない炭素含有量では、表面層の高周波焼入れによって、軌道エレメントの十分に長い耐用年数を保証するために十分頑丈な組織構造を有する十分な表面硬度が得られない、という認識に基づいている。特に、外周層の炭素含有量が少ないと、高周波焼入れによって、転がり軸受エレメント及びひいては大型転がり軸受の早期の故障を招く、不都合な不安定な組織が形成される。しかも、特に大型転がり軸受においては熱処理の際に、材料の無視できない歪みが発生するので、転がり軸受のための軌道の高い走行精度は得られない。このような歪みは、熱処理後に再び、別の処理例えば切削加工によって取り除く必要があり、これによって、相応の軌道エレメントのための製造コストはさらに高価になる。切削加工後にも、つまり表面の材料を取り除いた後も、表面の最大硬度は、見込み負荷に応じて選択された大型軸受の設計に相当するので、必要な負荷能力が得られる。この場合、表面層の厚さは、高い負荷を受ける大型軸受においては、小型軸受におけるよりも大きくする必要がある。
【0010】
本発明の有利な実施例によれば、表面層は、使用された鋼の可能な最大硬度よりも低い最大硬度を有している。原則として、使用された鋼によって、大型軸受において使用される公知の鋼(例えば42CrMo4)よりも著しく高い硬度が得られるが、本発明によれば、大型軸受のための42CrMo4より成る公知の転がり軸受エレメントに相当する、高周波焼入れ法によって得られる硬度だけが提供される。これによって、本発明に従って使用された鋼は、硬化時に、42CrMo4の鋼を用いた場合におけるように、その材料限界まで硬化されることはない。従って、公知の大型軸受と比較し得る、表面層の最大硬度、しかも公知の大型軸受とは異なる、硬化深さが次第に大きくなる硬度変化が得られる。大型軸受のための公知の種類の鋼においては、外周層が比較的薄いので、硬度は急激に低下し、硬化されていない領域の硬度に迅速に移行するのに対して、本発明に従って用いられた鋼においては、非常になだらかな移行が得られる。従って、硬化された表面層は、次第に低くなる硬度において、公知の大型軸受におけるよりも著しく深く、転がり軸受エレメント内に達する。それによって同時に、比較的微細かつ頑丈な組織構造が形成される。これによって一方では、大型軸受の耐用年数は著しく高められる。また他方では、0.46質量%以上の炭素を含有する、より高い硬度に硬化可能な鋼を使用して、必要な硬度を得るための、著しく簡単でしかも材料にやさしいプロセスが提供されるので、鋼は、所望のなだらかな硬度変化を得るために、あまり強く加熱する必要がなく、また急速に焼入れする必要がない。
【0011】
本発明の有利な実施態様によれば、硬化された層の負荷能力、及びひいては硬化深さは、転がり軸受エレメントとのヘルツ接触によって生ぜしめられた応力変化を補償するように、考慮されている。応力は、深さが大きくなるにつれて次第に低下する。従って、硬化された層の厚さを、軸受の見込み負荷に適合させる必要があるが、これは、高い見込み負荷において、つまりより深く作用する応力変化において、低い負荷時におけるよりも厚い外周層が生ぜしめられることによって、得られる。
【0012】
本発明の有利な実施態様によれば、鋼は、マンガンとクロム及び/又はモリブデンの添加物を有している。特にこのような合金元素の添加物は、高周波法によって良好に焼入れされ、十分な硬化深さ、並びに高い負荷能力に適した組織、及び軌道エレメントの長い耐用年数を有する鋼を提供する。鋼が、少なくとも0.12質量%のモリブデン添加物を有していれば、特に有利である。有利な硬化可能性は、0.35質量%のモリブデン含有量から、大きくなることはないので、添加物は有利には0.12質量%〜0.35質量%の範囲である。
【0013】
本発明の有利な実施態様によれば、硬化された表面層は、少なくとも58HRCの最大硬度を有している。特にこの表面硬度から、軌道エレメントは、長い耐用年数を保証するために十分に頑丈な軌道を有する。
【0014】
請求項8によれば、請求項1から7までのいずれか1項記載の少なくとも1つの転がり軸受エレメントを有しており、それによって有利な特性が得られる。
【0015】
本発明のその他の利点及び実施態様を、以下に図面に基づく実施例を用いて説明する。
図1〜
図3は、本発明の実施例による構成部分を異なる方向から見た図を示す。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明による大型転がり軸受1の構成部分の概略的な断面図である。
【
図2】
図1に示した構成部分の内レースの概略的な断面図である。
【
図3】
図1に示した構成部分の外レースの概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1に、本発明の実施例による、少なくとも250mmの直径を有する大型転がり軸受1が示されている。大型転がり軸受1は2つの軌道エレメントを有しており、これらの軌道エレメントは、外レース3及び内レース5として構成されている。これらの軌道エレメント間に玉7として構成された転動体が配置されている。2つの軌道エレメントが移動すると、玉7が軌道エレメント上で転動運動を行う。このような大型転がり軸受は、典型的には、外レース3が内レース5に対して、又は内レース5が外レース3に対して絶え間なく回転運動する組み込み状態において使用される。
【0018】
図2には内レース5の断面図が示されている。内レース5は軌道21を有しており、該軌道21上で玉7が大型転がり軸受1の運転中に転動する。軌道21は、玉7と接触することによる負荷に耐え得ることができ、大型転がり軸受の長い耐用年数を保証する硬化された表面層を有している。
図3に示した外レースも、同様に表面硬化された軌道23を有している。
【0019】
軌道21及び23の表面は、転動体との転動接触によって常に負荷されている。ベアリングレースは、0.46〜1.0質量%の炭素添加物、0.12〜0.35質量%のモリブデン添加物を有する鋼より成っている。その他の添加物は、有利には、0.5〜1.0質量%のマンガン、及び/又は0.9〜1.5質量%のクロムである。相応の材料は公知であり、相応に高周波焼入れされている表面層を備えた軌道エレメントの製造のために、大型転がり軸受用の公知の軌道エレメントと比較して安価で簡単な製造法を提供する。鋼は、例えば規格50CrMo4に相当し、これに対して公知の大型転がり軸受においては主に42CrMo4が使用される。ベアリングレースの軌道は、ベアリングレースの形状付与後に、高周波焼入れされる。例えば、誘導コイルが軌道のすぐ上をガイドされ、それによって軌道が加熱される。位相変換が行われ、この際に特に硬化された材料が形成される。次いで行われるシャワー(Brause)によって、加熱された材料が焼入れされ、それによって、硬化された組織が得られる。この高周波焼入れ法は、公知の方法に従って有利にはスリップなしに実施されるので、硬化されないゾーンが軌道上に形成されることはない。それによって、軌道は、全軌道エレメントに沿って、製造技術的な公差の枠内で同じ硬さを有する。
【0020】
表面層の最大硬度は、少なくとも58HRCである。この硬度は、軸受に使用する際に公知である鋼の種類においても得られる。勿論、このような種類の鋼は、この最大硬度を得るために、材料固有の特性の限界まで硬化する必要がある。この際に使用された鋼によって、基本的に58HRCよりも明らかに高い、表面層の硬度を得ることができる。しかしながらこのような高い硬度は、大型軸受に使用する場合、大抵は必要とされない。従って、58HRCの硬度を得るために、鋼が被るダメージは、材料的な可能性に関連して、この使用目的のために公知である種類の鋼よりも著しく僅かである。従って、所望の最大硬度を得るために、大型軸受の構成部分のための公知の製造法と比較して、材料に与えるダメージが著しく僅かである硬化方法が可能である。それによって、硬化時の最大温度は僅かであり、僅かな温度勾配で焼入れを行うこともでき、しかも表面層と基本組織との間の硬度のなだらかな移行が得られる。材料に与えるダメージが少ないプロセスによって、特に結果の繰り返し可能性が改善される。
【0021】
高周波焼入れ法は、硬化された層の深さが、軸受の耐用年数に対する要求に相当するように設定されている。特に、硬化された層の深さは、転がり軸受とのヘルツ接触によって生ぜしめられた応力変化が補償されるように、選定されている。つまり、硬化された層は、転がり接触によって生ぜしめられた応力が、硬化されていないベース材料の負荷容量を越えるよりも深く、材料内に達している。従って、ベース材料の過負荷は避けられ、高められた応力及び負荷は、表面層によって吸収される。その結果、大型軸受の高い耐用年数が得られる。しかも、表面層は、軸受の高い負荷能力のために適した組織を有している。
【0022】
本発明の別の実施態様によれば、軌道エレメントと共に、転動体も本発明に従って構成されている。つまり転動体も、高周波法によって硬化され、相応の鋼より成っている。選択的に、本発明の実施例によれば、転動体だけが本発明に従って構成されていて、軌道エレメントは本発明に従って構成されていなくてもよい。従って、本発明は、転がり接触によって負荷される、転がり軸受のすべての構成部分において用いることができる。また本発明は、転動体として玉を有する転がり軸受に限定されるものではなく、原則としてすべての形式の大型転がり軸受に用いることができる。
【符号の説明】
【0023】
1 大型転がり軸受、 3 外レース、 5 内レース、 7 玉、 21,23 軌道