(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195875
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】減少したアレルゲンのポテンシャルを有する加硫組成物
(51)【国際特許分類】
A41D 19/04 20060101AFI20170904BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20170904BHJP
C08L 11/02 20060101ALI20170904BHJP
C08K 3/06 20060101ALI20170904BHJP
C08K 5/38 20060101ALI20170904BHJP
C08K 3/22 20060101ALI20170904BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20170904BHJP
A41D 19/00 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
A41D19/04 B
C08L21/00
C08L11/02
C08K3/06
C08K5/38
C08K3/22
C08J3/20 ACEQ
A41D19/00 P
【請求項の数】7
【外国語出願】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-154746(P2015-154746)
(22)【出願日】2015年8月5日
(62)【分割の表示】特願2013-516852(P2013-516852)の分割
【原出願日】2011年6月27日
(65)【公開番号】特開2016-821(P2016-821A)
(43)【公開日】2016年1月7日
【審査請求日】2015年9月2日
(31)【優先権主張番号】61/358,721
(32)【優先日】2010年6月25日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397037834
【氏名又は名称】アレジアンス、コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ソン,フォン
(72)【発明者】
【氏名】ウォン,ウェイ,チョン
(72)【発明者】
【氏名】ロー,チー,イー
【審査官】
北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭61−118445(JP,A)
【文献】
特開2000−264992(JP,A)
【文献】
特表2010−520927(JP,A)
【文献】
特開2010−133068(JP,A)
【文献】
特開平6−48066(JP,A)
【文献】
特開平5−311005(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/134702(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリクロロプレンと、硫黄源と、ジイソプロピルキサントゲン多硫化物と、金属酸化物とを混合することにより、第1のラテックス分散液を作製するステップであって、前記第1のラテックス分散液が非一過性加硫促進剤を含まない、ステップと、
凝固剤浸漬を使用して手袋成形具を前記第1のラテックス分散液中に浸漬することにより、ベース層を形成するステップと、
ベース層をその表面に形成した前記成形具を第2のラテックス分散液中に浸漬することにより、前記ベース層の表面に第2のラテックス分散液による薄い被膜を形成するステップであって、前記第2のラテックス分散液が、前記第1のラテックス分散液とニトリルラテックスとの混合物、または前記第1のラテックス分散液と合成ポリイソプレンラテックスとの混合物を含み、かつ非一過性加硫促進剤を含まない、ステップと、
前記被膜で被覆されたベース層をその表面に形成した前記成形具をオーブンにて120℃〜155℃の温度にて加硫するステップと、
前記成形具から被覆されたベース層を取り除くことにより、被覆層が前記被覆されたベース層の内側表面に位置するようにするステップと、
前記被覆されたベース層を裏返すことにより、前記被覆層が前記被覆されたベース層の外側表面に位置するようにするステップと、
前記被覆層を塩素水溶液に曝露するステップと、
前記塩素水溶液への曝露の後に、前記被覆層を水で洗うステップと、
塩素処理された被覆層を部分的に乾燥させることにより、弾性手袋を得るステップと、
手袋を裏返すことにより、前記被覆層が内側表面に位置するようにするステップ
とを含む、アレルゲン性の減少したポリクロロプレン弾性手袋物品を作製する方法。
【請求項2】
前記被覆層を前記塩素水溶液に曝露するステップの前に、水で前洗いするステップをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記塩素水溶液が300 ppmの利用可能な塩素を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
弾性手袋をタンブリング洗浄機に移すステップと、湿った手での良好な着用のためにさらに潤滑プロセスを施すステップとをさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記潤滑プロセスが、手袋を、塩化セチルピリジウムと、シリコーン乳液と、リン酸アルキルアンモニウム塩とを含む水溶液を用いてタンブリングすることを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記潤滑プロセスが、手袋を、1.0%の塩化セチルピリジウムと、1.0%のシリコーン乳液と、1.5%のリン酸アルキルアンモニウム塩とを含む水溶液を用いてタンブリングすることを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記金属酸化物が、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛、およびこれらの組み合わせからなる群より選択される、1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、"Vulcanization Accelerator Composition Having Reduced Allergenic Potential, And Elastomeric Articles Formed Therewith"との名称で2010年6月25日に出願された、同時係属中の米国仮特許出願第61/358,721号の優先権を主張し、この仮出願の全体を、参考のために本明細書に組み込む。
【0002】
本発明は、概して、弾性物品を加硫するために用いられる促進剤組成物を含む加硫組成物に関し、ここで、加硫組成物は、従来の加硫組成物を用いて形成された弾性物品と比べて、減少したアレルゲンのポテンシャルを有する。本発明は、また、加硫組成物を用いて形成されたポリクロロプレン系の弾性物品に関する。本発明は、また、アレルゲン性の減少した加硫組成物を作製する方法、および加硫組成物を用いて弾性物品を加硫する方法に関する。いくつかの態様によると、加硫組成物は、硫黄、促進剤組成物、および活性剤組成物を含んでもよい。もう1つの態様によると、促進剤組成物は、一過性(fugitive)加硫促進剤を含んでもよく、活性剤組成物は、酸化亜鉛を含んでもよい。さらなる態様によると、弾性物品は、手袋、指サック、カテーテル、およびコンドームを含んでもよい。
【背景技術】
【0003】
医療分野において弾性物品の使用と関連するアレルギーには、(a)I型即時型過敏症、IgE媒介型アレルギー、および(b)IV型遅延型過敏症、細胞媒介型アレルギーの2種類がある。
【0004】
I型過敏症は、IgE免疫グロブリンによって媒介され、その影響は即座に現れる。通常、症状は、アレルゲンに晒されて数分以内に明らかとなり、局部じんましん、顔の腫れ、涙目、鼻炎、喘息、およびごく稀に、アナフィラキシーショックを含み得る。I型アレルギーは、天然ゴムラテックス製品に存在する残留抽出可能タンパク質と関連付けられている。
【0005】
ラテックス手袋の抽出可能タンパク質を減少させるための、水浸出、塩素化、および低タンパクまたは除タンパクラテックスの使用などの様々な技術が利用可能である。しかし、天然ゴムラテックスタンパク質にアレルギーがある医療従事者および患者は、合成手袋を使用するように勧められる。一般に用いられる合成材料は、ポリイソプレン、アクリロニトリル−ブタジエン(ニトリル)、ポリクロロプレン(ネオプレン)、ポリウレタン、およびポリ塩化ビニルを含む。
【0006】
天然ゴムタンパク質との接触に応じたI型反応の有病率の結果として、特に皮膚と接触する医療用器具の作製において、天然ゴムラテックスタンパク質を含まない合成ラテックスの使用への移行がなされている。費用と性能を考慮に入れると、手袋製造に適した合成ラテックスには、検査用手袋向けのニトリルラテックスおよびポリウレタンラテックス、ならびに手術用手袋向けのポリクロロプレンラテックスおよびポリイソプレンラテックスが挙げられる。手術用手袋向けには、ポリイソプレンラテックスは、より高価であるにもかかわらず、一般的にポリクロロプレンよりも好まれており、それは、天然ゴムに似た性質、特に引張強度、最大伸長、柔軟性および快適性を有する手袋を提供するからである。
【0007】
しかし、IV型アレルギー反応は、天然または合成の弾性物品によって引き起こされ得る。合成ラテックスは、調合ラテックスに見出され得る特定の化学物質の使用によるアレルギー反応を、なおも引き起こす場合がある。IV型遅延型過敏症は、特定の化学物質に対する細胞媒介型のアレルギー反応である。症状は、接触から約48〜96時間後にのみ、明らかとなる。IV型アレルギー反応を誘発し得る化学物質には、チウラム、メルカプトベンゾチアゾール、ジチオカルバミン酸塩、ジフェニルグアニジン、およびチオ尿素などの加硫促進剤が挙げられ、これらは、弾性物品の作製のプロセスに用いられる。米国食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)は、ゴム製品内のチオゾール、チウラム、およびカルバミン酸塩は、人体にIV型アレルギー反応を誘発し得ることを認めている。"Guidance for Industry and FDA Reviewers/Staff: Premarket Notification [510(k)] Submissions for Testing for Skin Sensitization to Chemicals in Natural Rubber Products", U.S. Department of Health and Human Services (1999)。よって、完成した弾性物品における残留促進剤がごくわずかとなるように、使用される促進剤のレベルを最小化することが重要である。
【0008】
弾性物品は、通常、ラテックス浸漬プロセスを用いて製造され、このプロセスは、型または成形具を、凝固剤溶液(通常は水溶性硝酸カルシウム)に浸漬することを伴う。溶剤を蒸発させた後、凝固剤被覆された型/成形具は、次いで、調合ラテックスに浸漬され、これにより、凝固したゴム粒子の膜が表面に堆積される。熱を用いてラテックス膜をゲル化した後、湿潤ゲル化したラテックス膜を、水中で浸出させ、次いで、熱風炉内で乾燥および加硫する。加硫の間、ゴム分子が化学的に架橋される。
【0009】
最も一般的には、架橋剤は硫黄である。しかし、硫黄のみでは、架橋を形成するには非効率的である。従来、硫黄は常に、加硫促進剤および活性剤と組み合わせて用いられている。
【0010】
加硫促進剤は、通常、硫黄架橋の速度および効率を増加させる有機化合物であり、一方で、活性剤は、促進剤の効率を増加させる化合物である。ラテックス調合で用いられる促進剤の例としては、チウラム、ジチオカルバミン酸塩、メルカプトベンゾチアゾール、ジフェニルグアニジン、およびチオ尿素が挙げられる。加硫の後、用いられる促進剤の量に応じて、促進剤のいくらかまたはほとんどがゴムマトリックスに化学結合しているが、いくらかは未反応であり、完成した弾性物品に残留物として残る場合がある。
【0011】
ラテックス調合で用いられる加硫活性剤は、通常、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、および酸化鉛などの金属酸化物である。
【0012】
硫黄および加硫促進剤の使用なしに架橋することを含む、加硫促進剤によって引き起こされるIV型アレルギー反応を最小化または除去するための様々な方法が試されている。手法は、(a)ガンマ放射を用いた架橋、(b)有機過酸化物を用いた架橋、(c)カルボキシル−亜鉛イオン結合を介した、酸化亜鉛を単独で用いた架橋、および(d)製品が製造された後に架橋を形成可能な、重合体骨格への官能基の導入を含む。一般的に言って、これら手法の全てに欠点がある。例えば、手法(a)および(b)は、硫黄加硫製品よりも不十分な物理的性質および不十分な経年劣化耐性を有する製品をもたらす。
【0013】
もう1つの手法は、より安全な促進剤を用いることである。それは、より低いアレルゲンのポテンシャルを有する促進剤である。例えば、ジベンジルジチオカルバミン酸亜鉛(ZBEC:zinc dibenzyl dithiocarbamate)、ジイソノニルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDNC:zinc diisononyl dithiocarbamate)を含む、低いアレルゲンのポテンシャルを有する高分子促進剤を用いてもよい。これら高分子量のために、これらの種類の促進剤は、天然ゴムおよび合成ポリイソプレンゴムに対してより適合性があり、よって、ゴムマトリックスに高い溶解度を有する。その結果、ごくわずかな高分子促進剤が、ゴム表面で白粉となり、使用者と接触して潜在的なアレルギー反応を引き起こす。同じ理由から、ごくわずかな高分子促進剤を、ゴムから抽出することができる。ZDNCは、ZBECよりも好まれており、それは、天然ゴムへの高い溶解度(約3%重量/重量)を有するからであり、これに対してZBECの溶解度は、約0.5%重量/重量しかない。
【0014】
さらなる手法は、一過性促進剤、すなわち、加硫の間に完全に使い切られ、製品に残留物を残さない促進剤の組み合わせを用いることである。このような一過性促進剤の例として、ジイソプロピルキサントゲン多硫化物(DIXP:diisopropyl xanthogenpolysulfide)またはジブチルキサントゲン二硫化物(DBXD:dibutyl xanthogen disulfide)などのキサントゲン酸塩が挙げられる。DIXPを単独で高温まで加熱すると、DIXPを完全に気体生成物まで揮発または分解しない。しかし、DIXPは、重合体またはゴムを含むジエンを架橋するために、硫黄または酸化硫黄と共に用いた場合、主な反応生成物としての硫黄架橋、イソプロパノールおよび二硫化炭素を形成するために完全に消費され、重合体またはゴムにほとんど残留物を残さない。それは、イソプロパノールおよび二硫化炭素は、架橋/加硫温度で揮発するためである。DIXPは、その化学構造に窒素を含まないため、チウラムおよびジチオカルバミン酸塩促進剤と関連するN−ニトロソアミンを生成することも不可能である。加えて、特定のニトロソアミンは、発がん性があると考えられており、それらの形成は避けるべきである。しかし、DIXPは、単独では、有用な製品を生成するのに十分な硫黄架橋を生成するために、十分に硫黄架橋を促進しない。結果として生じる物品は、低すぎる引張強度を有する。よって、DIXPは、常に、別の促進剤と併せて用いられている。
【0015】
従来技術では、様々な促進剤組成物が開示されており、それらのいくつかを以下に述べる。
【0016】
米国特許出願第2003/0161975号は、硫黄およびDIXPを、テトラベンジルチウラム二硫化物またはZBECと共に使用し、欠陥のないポリイソプレンコンドームを製造することを開示している。ラテックス化合物は、ジエチルジチオカルバミン酸塩亜鉛およびジブチルジチオカルバミン酸亜鉛などの、従来の促進剤を用いて形成されたラテックスと比べて、改善された安定性を有する。
【0017】
DIXPおよびZDNCの合成結合は、天然ゴムラテックスおよび合成ポリイソプレンラテックスと共に用いるための、より安全な促進剤として勧められている。国際ラテックス会議2005にてChakrabortyらによる"Novel Sustainable Accelerators for Latex Applications - Update"。
【0018】
ポリクロロプレンを加硫するために、従来の硬化パッケージは、硫黄、非一過性促進剤、および酸化亜鉛を含む。用いられる非一過性促進剤は、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛(ZDBC)と、テトラエチルチウラム二硫化物とジブチルジチオカルバミン酸ナトリウムの混合物と、ジフェニルチオ尿素(チオカルバニリド)とジフェニルグアニジンの混合物とを含む(1962年にE.I., du Pont de Nemours & Co.により出版された"Carl, Neoprene Latex, chapter 3"を参照)。しかし、製品内のこれら非一過性促進剤の残留物は、IV型アレルギー反応を誘発し得る。
【0019】
Chakrabortyらはマレーシアのクアラルンプールで開催された第2回国際ゴム手袋会議2004にて、硫黄と、2つの促進剤の2つの組み合わせ(ZDNCとDIXP、またはZDECとMBT)と、酸化亜鉛と、2つの酸化防止剤(AO2246およびMMBI)とを用いた配合物を開示している。
【0020】
Jole Vanによる国際特許出願公開第2007/017368号も、硫黄と、促進剤(DIXPならびにZDNCおよびDPGなどの様々な鎖長のアルキルジチオカルバミン酸塩)と、酸化亜鉛と、酸化防止剤(アクアノックスL(Aquanox L))とを用いた配合物を開示している。
【0021】
Lucasによる国際特許出願公開第2003/072340号は、硫黄と、促進剤(DIXP、DIX、XS、TETD、TBeTD、およびZDBeCを含む様々な組み合わせ)と、酸化亜鉛と、酸化防止剤(ウイングステイL(Wingstay L))とを用いた配合物を開示している。
【0022】
Sparksらによる米国特許第3,378,538号は、硫黄およびジアルキルキサントゲン二硫化物の存在下で重合することにより、硫黄変性ポリクロロプレンを調製するプロセスを開示している。
【0023】
Colletteらによる米国特許第3,397,173号は、クロロプレンおよび硫黄を、水性乳剤内で重合することにより、ラテックスを形成するプロセスを開示している。重合は、硫黄、ジアルキルキサントゲン二硫化物、および酸化防止剤の存在下で行われる。
【0024】
Takeshitaによる米国特許第4,605,705号は、元素硫黄と、ジイソプロピルキサントゲン二硫化物、またはジブチルキサントゲン二硫化物などの等量のジアルキルキサントゲン二硫化物とを用いて形成された、2クロロ−1,3ブタジエンおよび2,3ジクロロ−1,3ブタジエンの耐熱、硫黄変性ポリクロロプレン共重合体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0025】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/161975号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/017368号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2003/072340号明細書
【特許文献4】米国特許第3378538号明細書
【特許文献5】米国特許第3397173号明細書
【特許文献6】米国特許第4605705号明細書
【非特許文献】
【0026】
【非特許文献1】"Guidance for Industry and FDA Reviewers/Staff: Premarket Notification [510(k)] Submissions for Testing for Skin Sensitization to Chemicals in Natural Rubber Products",U.S. Department of Health and Human Services (1999)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
よって、弾性物品を加硫するために用いられる加硫組成物の必要性が、当該技術において存在し、ここで、加硫組成物は、非一過性促進剤組成物を有する加硫組成物を用いて形成された弾性物品と比べて、減少したアレルゲンのポテンシャルを有する。本発明は、また、加硫組成物を用いて形成されたポリクロロプレン系の弾性物品に関する。本発明は、また、アレルゲン性の減少した加硫組成物を作製する方法、および加硫組成物を用いて弾性物品を加硫する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明は、弾性物品を加硫するために用いられる、促進剤組成物を有する加硫組成物を提供する。加硫組成物は、非一過性促進剤組成物を有する加硫組成物と比べて、減少したアレルゲンのポテンシャルを有し、かつ、非一過性促進剤組成物を有する加硫組成物を用いて形成された弾性物品と比べて、減少したアレルゲンのポテンシャルを有する弾性物品を形成するために用いてもよい。非一過性促進剤組成物は、チアゾール、チウラム、カルバミン酸塩、グアニジン、およびチオ尿素を含んでもよい。本発明は、また、加硫組成物を用いて形成されたポリクロロプレン系の弾性物品に関する。本発明は、さらに、アレルゲン性の減少した加硫組成物を作製する方法、および加硫組成物を用いて弾性物品を加硫する方法に関する。
【0029】
本発明は、従来の技術を用いて形成された加硫組成物、ラテックス分散液、および弾性物品と比べて、減少または除去されたアレルギーのポテンシャルを示す加硫組成物、ラテックス分散液、および弾性物品を提供することにより、当該技術およびその他の満たされていないニーズを満たす。いくつかの態様によると、本発明は、I型およびIV型のアレルゲン性を減少または除去する結果をもたらす。本発明の加硫組成物、ラテックス分散液、弾性物品、および方法は、特に、ヘルスケア提供者と患者の両者が、これらの潜在的なアレルゲン源に頻繁に、および/または長時間晒される医療分野において、弾性物品に対するアレルギー反応と関連する問題を回避するために有益である。
【0030】
本発明の1つの態様によると、本発明は、硫黄と、1つの一過性キサントゲン酸塩促進剤と、金属酸化物とを含み、加硫組成物は、追加の促進剤を含まない加硫組成物に関する。本発明のもう1つの態様によると、本発明は、硫黄と、1つまたは複数の一過性キサントゲン酸塩促進剤と、金属酸化物とを含み、組成物は、非一過性促進剤を含まない加硫組成物に関する。いくつかの態様によると、非一過性促進剤を含む加硫組成物と比べて、加硫組成物は、減少したアレルゲン性を示す。
【0031】
本発明のもう1つの態様によると、加硫組成物は、硫黄と、ジイソプロピルキサントゲン多硫化物と、金属酸化物とを含み、追加の促進剤を含まない。本発明のもう1つの態様によると、加硫組成物は、硫黄と、ジイソプロピルキサントゲン多硫化物と、金属酸化物とを含み、非一過性促進剤を含まない。いくつかの態様によると、非一過性促進剤を含む加硫組成物と比べて、加硫組成物は、減少したアレルゲン性を示す。
【0032】
本発明のさらにもう1の態様によると、加硫組成物は、硫黄と、ジイソプロピルキサントゲン多硫化物を含む促進剤組成物と、金属酸化物を含む活性剤とからなる。いくつかの態様によると、促進剤組成物は、非一過性促進剤と比べて、減少したアレルゲン性を示す。
【0033】
本発明のさらにもう1つの態様は、エラストマーと、硫黄、1つの一過性キサントゲン酸塩促進剤、および金属酸化物を含む加硫組成物とを含み、組成物が追加の促進剤を含まない、ラテックス分散液を提供する。本発明のもう1つの態様は、エラストマーと、硫黄、1つまたは複数の一過性キサントゲン酸塩促進剤、および金属酸化物を含む加硫組成物とを含み、組成物は、非一過性促進剤を含まない、ラテックス分散液を提供する。いくつかの態様によると、非一過性促進剤を用いて形成された弾性物品と比べて、弾性物品は、減少したアレルゲン性を示す。さらなる態様によると、エラストマーはポリクロロプレンである。さらなる態様によると、ラテックス配合物を用いて、手袋、(特に医療用手袋、より具体的には検査および手術用手袋)ならびにコンドーム、プローブカバー、歯科用ダム、指サック、およびカテーテルを含んでもよいが、これらに限定されない弾性物品を形成してもよい。
【0034】
本発明のさらなる態様によると、アレルゲン性の減少した加硫組成物を調製する方法が提供され、この方法では、硫黄と、1つの一過性キサントゲン酸塩促進剤と、金属酸化物とが組み合わされる。方法は、追加の促進剤組成物を提供するステップを含まない。本発明のもう1つの態様によると、アレルゲン性の減少した加硫組成物を調製する方法が提供され、この方法では、硫黄と、1つまたは複数の一過性キサントゲン酸塩促進剤と、金属酸化物とが組み合わされる。方法は、非一過性促進剤を提供するステップを含まない。
【0035】
本発明のさらなる態様によると、アレルゲン性の減少した弾性物品を作製する方法が提供され、この方法では、硫黄と、1つの一過性キサントゲン酸塩促進剤と、金属酸化物とを含んだ加硫組成物を含むラテックス分散液が形成され、ラテックス分散液を用いて、弾性物品が形成される。いくつかの態様において、弾性物品は、凝固剤浸漬法によって形成してもよい。方法は、もう1つの促進剤組成物を加えて、物品を形成するステップを含まない。本発明のもう1つの態様によると、アレルゲン性の減少した弾性物品を作製する方法が提供され、この方法では、硫黄と、1つまたは複数の一過性キサントゲン酸塩促進剤と、金属酸化物とを含んだ加硫組成物を含むラテックス分散液が形成され、ラテックス分散液を用いて、弾性物品が形成される。方法は、非一過性組成物を加えて、物品を形成するステップを含まない。
【0036】
本発明の他の新規な特徴および利点は、以下の説明を考察すること、および本発明を実践により学ぶことによって、当業者に明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明は、概して、非一過性促進剤組成物を有する加硫組成物を用いて形成された弾性物品と比べて、促進剤組成物が、減少したアレルゲンのポテンシャルを有する、弾性物品を加硫するために用いられる促進剤組成物を含む加硫組成物に関する。加硫組成物は、硫黄と、酸化亜鉛と、一過性加硫促進剤とを含む。本発明は、また、加硫組成物を用いて形成された、ラテックス分散液および弾性物品に関する。本発明は、さらに、アレルゲン性の減少した加硫組成物を作製する方法、および加硫組成物を用いて弾性物品を加硫する方法に関する。
【0038】
本発明に従って用いるための一過性加硫促進剤は、キサントゲン酸塩を含む。ジイソプロピルキサントゲン多硫化物(DIXP)およびジアルキルキサントゲン二硫化物は、本発明に従って使用可能な、好適な一過性キサントゲン酸塩であり、将来開発され得る追加的な一過性キサントゲン酸塩も、本発明の促進剤組成物、ラテックス分散液、および弾性物品での使用を見出すことが考えられる。一過性キサントゲン酸塩は、本発明の加硫組成物の促進剤組成物において有用であり、それは、一過性キサントゲン酸塩が、加硫の間、ゴムマトリックスに結合することによって消費され、蒸発する副産物として気体および/または揮発性液体を形成し、これにより、弾性物品に残留物を残さないからである。ジイソプロピルキサントゲン多硫化物(DIXP)の場合、化合物は、副産物として、イソプロピルアルコールおよび二硫化炭素ガスを形成する。
【0039】
本発明は、また、ポリクロロプレンゴムで作られ、硫黄と、酸化亜鉛と、DIXPとを用いて加硫された弾性物品を提供する。いくつかの態様によると、弾性物品は、手袋(特に医療用手袋、より具体的には検査および手術用手袋)ならびにコンドーム、プローブカバー、歯科用ダム、指サック、およびカテーテルを含んでもよい。特定の態様によると、このような促進剤組成物を用いて作製されたポリクロロプレン手術および検査用手袋が提供される。
【0040】
非一過性促進剤組成物を用いて作られた弾性物品は、人間にIV型アレルギー反応を引き起こし得る残留促進剤を含み、天然ゴムを用いて作られた弾性物品は、人間内でのI型アレルギー反応と関連がある抽出可能なラテックスタンパク質を含む。本発明に係る弾性物品、促進剤組成物、ラテックス組成物、促進剤組成物を作る方法、および弾性物品を加硫する方法は、天然ゴムを包含せず、内部に含まれた残留促進剤を有さないため、I型アレルギー反応およびIV型アレルギー反応の可能性は、減少または除去される。非一過性促進剤組成物は、チアゾール、チウラム、カルバミン酸塩等を含んでもよく、これらは人間にIV型アレルギー反応を引き起こすことが知られている。グアニジンおよびチオ尿素などの他の非一過性促進剤も、ゴム手袋に用いられている。
【0041】
本発明の組成物および方法を、以下により詳細に述べる。
【0042】
(加硫組成物)
本発明の加硫組成物は、好ましくは、硫黄源と、促進剤組成物と、活性剤とを含む。促進剤組成物は、一過性促進剤を含んでもよい。加硫組成物のアレルゲン性が最小化または除去された、本発明の特定の態様によると、元素硫黄および1つのキサントゲン酸塩一過性促進剤が用いられる。もう1つの態様においては、元素硫黄と、1つまたは複数のキサントゲン酸塩一過性促進剤とが用いられ、非一過性促進剤は含まれない。促進剤は、ゴムの約0.1〜約10乾燥重量部、好ましくは、ゴムの約0.5〜約5乾燥重量部、より好ましくは、ゴムの約1〜約4乾燥重量部の範囲にある。加硫組成物は、天然ゴム、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン(ネオプレン)、ニトリルゴム、スチレンおよびブタジエンのブロック共重合体、スチレンおよびイソプレンのブロック共重合体、およびポリイソプレンを含むエラストマーを加硫するために用いてもよい。本発明の特定の好適な態様において、エラストマーはポリクロロプレンである。
【0043】
加硫組成物のアレルゲン性が最小化または完全に除去された、本発明の態様において、加硫組成物で用いられる硫黄源は、元素硫黄を含む。本発明の特定の態様によると、元素硫黄のみが用いられる。
【0044】
加硫活性剤は、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛、およびその組み合わせを含んでもよいが、これらに限定されない。酸化亜鉛は、本発明の特定の態様において、加硫活性剤として用いられる。活性剤は、ゴムの約0.1〜約15乾燥重量部、好ましくはゴムの約6〜約12乾燥重量部、より好ましくはゴムの約5〜約13乾燥重量部の範囲にある。
【0045】
加硫組成物のアレルゲン性が最小化または完全に除去された、本発明の態様において、本発明の態様に従い用いられる加硫促進剤は、一過性キサントゲン酸塩である。いくつかの態様によると、一過性キサントゲン酸塩は、2つを超える硫化物群、すなわち3つ以上の硫化物群(三硫化物)、4つ以上の硫化物群(四硫化物)、5つ以上の硫化物群(五硫化物)等、を含む多硫化物である。本発明のさらなる態様によると、一過性キサントゲン酸塩は、ジイソプロピルキサントゲン多硫化物(DIXP)、またはジブチルキサントゲン二硫化物およびジイソプロピルキサントゲン二硫化物などのジアルキルキサントゲン二硫化物である。これらの一過性キサントゲン酸塩促進剤は、硫黄供与体の役目も果たすことができることに留意すべきである。本発明の態様において、硫黄供与体は、低いアレルゲンのポテンシャルを有する。元素硫黄または硫黄供与体は、ゴムの約0.1〜約5乾燥重量部、好ましくはゴムの約0.5〜約2乾燥重量部、より好ましくはゴムの約1.2〜1.5乾燥重量部の範囲にある。
【0046】
本発明の特定の態様において、促進剤組成物では、1つの一過性キサントゲン酸塩加硫促進剤のみが用いられ、追加的な加硫促進剤はいずれも、促進剤組成物から除外される。もう1つの態様において、1つまたは複数の一過性キサントゲン酸塩促進剤を用いてもよく、非一過性促進剤は用いられない。
【0047】
本発明のさらなる態様によると、DIXPは、単独の加硫促進剤として用いられ、かつ、促進剤組成物に含まれる加硫促進剤として機能する唯一の化合物である。アレルゲン性が減少または除去された促進剤組成物が、本発明に従って調製される場合、それらは、一過性促進剤としてDIXPのみを有益に含んでもよい。加硫促進剤として機能することもできるどのような追加的な化合物も、促進剤組成物から除外される。もう1つの態様において、追加的な一過性促進剤を、促進剤組成物に含んでもよいが、追加的な非一過性促進剤は除外される。いずれの態様における除外も有益であり、それは、任意の追加的な加硫促進剤の存在または非一過性促進剤の使用は、加硫組成物により形成された弾性物品の使用者に、アレルギー反応、特にIV型アレルギー反応が起こり得る確率を増加するからである。
【0048】
(ラテックス分散液および弾性物品)
本発明の加硫組成物は、ラテックス分散液を調製するために用いてもよい。ラテックス分散液は、エラストマーを含んでもよく、エラストマーは、天然ゴム、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン(ネオプレン)、ニトリルゴム、スチレンおよびブタジエンのブロック共重合体、スチレンおよびイソプレンのブロック共重合体、およびポリイソプレンから選択してもよい。特定の態様によると、本発明のラテックス分散液で使用するための特に好適なエラストマーは、ポリクロロプレンである。これらのラテックス分散液は、エラストマーおよび加硫組成物に加えて、1つまたは複数の異なる非硬化性の成分を含んでもよい。非硬化性の成分は、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、オゾン劣化防止剤、顔料、および充填剤を含んでもよいが、これらに限定されない。本発明の態様によると、第1の弾性層(ベース手袋)を作製する際に、ラテックス分散液の合計固形成分含有量は、約20%〜約45%の範囲にある。第2、第3、第4等の弾性層を形成するのに適した被覆組成物(例えば、その全体を参考のために本明細書に組み込む、米国特許出願公開第2008/0190322A1号明細書に述べられているように)を調製するための、本発明のいくつかの態様によると、ラテックス分散液の合計固形成分含有量は、約1%〜約20%、好ましくは約2%〜約17%、より好ましくは約3%〜約15%の範囲にあるように調整される。本発明の1つの態様によると、ラテックス分散液の合計固形成分含有量は、約5%である。単一層の手袋または2つ以上の層を有する手袋の第1の弾性層を調製するための、本発明の他の態様によると、ラテックス分散液の合計固形成分含有量は、通常、約20%〜約45%、好ましくは約25%〜約40%の範囲にある。
【0049】
エラストマーおよび加硫組成物を有する本発明のラテックス分散液は、手袋、特に医療用手袋、より具体的には検査および手術用手袋などの、弾性物品を作製するための方法で用いてもよい。しかし、コンドーム、プローブカバー、歯科用ダム、指サック、カテーテル等を含むがこれらに限定されない、手袋以外の代替の弾性物品を、ここに提供されるガイダンスを用いて作製することは、当業者の能力の範囲内であると考えられる。
【0050】
上述した加硫組成物および/またはラテックス分散液を用いて形成される、本発明の弾性物品は、任意の従来の製造方法、例えば、凝固剤浸漬を用いて生成してもよい。"アノード"凝固剤浸漬プロセスでは、凝固剤被覆された成形具が、分散液に浸漬され、次いで硬化されて完成品を形成する。"ティーグ(Teague)"凝固剤浸漬プロセスでは、成形具が分散液に浸漬され、次いで、凝固剤に浸漬され、その後に硬化されて、完成品を形成する。これらの方法は、完成品が形成されるべきエラストマーを含む分散液を利用する。好適なエラストマーは、天然ゴム、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン(ネオプレン)、ニトリルゴム、スチレンおよびブタジエンのブロック共重合体、スチレンおよびイソプレンのブロック共重合体、およびポリイソプレンを含む。特定の態様によると、特に好適なエラストマーは、ポリクロロプレンである。さらなる態様によると、硫黄、酸化亜鉛、およびDIXPから成る加硫組成物を用いて加硫されたポリクロロプレン弾性物品が提供される。
【0051】
従来技術の組成物では、DIXPは、常に、非一過性促進剤を含む追加の促進剤と組み合わせて用いられている。それは、十分な数の硫黄架橋を形成して、有用な弾性物品を形成するためには、DIXP自体では十分に活性状態ではないからである。しかし、本発明は、硫黄、DIXP、および酸化亜鉛から成る加硫組成物によって、ポリクロロプレンラテックスを加硫し、ポリクロロプレン試験用手袋向けのASTM D6977−04要件(最低で14MPa)、および合成ラテックス手術用手袋向けのASTM D3577−01要件(最低で17MPa)、を満たす引張強度を有する弾性物品を得ることが可能であることを、不意に発見した。DIXPは、一過性キサントゲン酸塩であり、加硫後の手袋にDIXP残留物は残らないため、この加硫組成物を用いて作製された手袋は、低いアレルゲンのポテンシャルを示す。
【0052】
ポリクロロプレンゴムは、天然ゴムまたは合成ポリイソプレンゴムとは異なり、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、または酸化鉛などの触媒の存在下で、重合体チェーンの間に架橋を形成することができる。理論による制約は望まずに、この架橋は、その化学構造のためにポリクロロプレンに特定のビス−アルキル化機構の結果として生じると考えられている。重合体チェーンの間の架橋は、クロロプレンモノマーの1,2−重合によって形成された反応性三級アリル塩素原子がある、重合体チェーンの部位で行われると考えられている。不安定な塩素は、ポリクロロプレン重合体の合計塩素の約1.5%に達する。この種の架橋に加えて、重合体チェーンの他の部位で、硫黄架橋が起こることも可能である。"Carl, Neoprene Latex, chapter 3"を参照されたい。
【0053】
本発明の弾性物品は、弾性物品の形成に使用可能な、任意の添加物成分を含むラテックス分散液を用いて形成してもよく、この添加物成分は、以下に説明されるエラストマーと同じ、類似する、または異なる化学構造を有する硬化性成分、非硬化性成分、および追加の重合体のうちの少なくとも1つを含んでもよい。使用される添加剤の合計量は、合計の分散相固形分の重量で約0.5〜49%である。
【0054】
硫黄を用いて硬化する際、主な硬化剤は、好ましくは、アレルゲンのポテンシャルが低いか、または無い元素硫黄および/または硫黄供与体を含む。本発明の特定の態様によると、元素硫黄のみが用いられる。
【0055】
活性剤は、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、および酸化鉛を含んでもよいが、これらに限定されない。酸化亜鉛は、最も一般的に用いられる加硫活性剤である。
【0056】
本発明に従う加硫促進剤は、一過性キサントゲン酸塩である。本発明のさらなる態様によると、一過性キサントゲン酸塩は、ジイソプロピルキサントゲン多硫化物(DIXP)、またはジブチルキサントゲン二硫化物およびジイソプロピルキサントゲン二硫化物などのジアルキルキサントゲン二硫化物である。
【0057】
エラストマー分散液調合配合物において従来用いられている任意の非硬化性成分を、本発明で用いてもよい。例えば、非硬化性成分は、酸化防止剤、安定剤、可塑剤、オゾン劣化防止剤、顔料、および充填剤を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0058】
エラストマー分散液に加えてもよい適切な酸化防止剤は、ブチル化ヒドロキシトルエン(2,6−ジ−第3−ブチル−4−メチルフェノール)およびチオジエチレンビス−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオン酸塩などのヒンダードフェノール、p−クレゾールおよびジシクロペンタジエンのブチル化反応生成物などのヒンダードポリフェノール類、トリメチル−トリス(ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジム)−ベンゼンまたはオクタデシルジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオン酸塩などのヒンダードフェノール/ヒンダードポリフェノール類、6PPDとメチルスチレンおよびビス−アルファ−ジメチルベンジルジフェニルアミンとの混合物などのアミン、メルカプトタラムイミダゾール亜鉛(zinc mercaptotulumimidazole)/フェノール類などの混合物、トリアジノン−フェノール混合物などのトリアジノン誘導体、ポリ(m−アニシジン)などの芳香族アミン、無水物共重合体を有するフェノール類などのフェノール性酸化防止ヒドラジド、2,2'−メチレン−ビス−(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)などのフェノール類、2,4−ジメチル−6−(1−メチルシクロヘキシル)−p−クレゾールなどのクレゾール、およびスチレン化フェノールを含むが、これらに限定されない。1つの特に好適な酸化防止剤は、p−クレゾールおよびジシクロペンタジエン(例えばウイングステイL)のブチル化反応生成物である。
【0059】
pH調整用のアルカリ、界面活性剤およびカゼイン酸ナトリウムなどのアルカリ性カゼイン塩を含むコロイド安定剤を、水相に加えても良い。
【0060】
エラストマー分散液に加えてもよい適切な可塑剤は、脂肪塩、鉱物油およびエステル可塑剤を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0061】
いくつかの態様によると、本発明の弾性物品を作製するために用いられるエラストマー分散液に、オゾン劣化防止剤が加えられる。オゾンは、ポリイソプレンのように高度に不飽和である重合体から形成されるものなどの、いくつかの弾性物品を激しく損傷することが可能である。本発明の水溶性エラストマー分散液に含まれる場合、ワックス、EPDMおよび水添ポリジエンなどの特定の高分子重合体は、このような物品に、優れたオゾン耐性をもたらすことができる。ワックスは、オゾン攻撃から保護する物理的バリアをゴムの表面に形成する。直鎖パラフィンワックスと分岐鎖単結晶ワックスの2種類のワックスがある。最も広く用いられるオゾン劣化防止ワックスは、広範囲の暴露温度にわたる最大の保護のための、パラフィンおよび単結晶ワックスの混合物である。パラフィンワックスは、約20〜50個の炭素原子を含む直鎖炭化水素分子である。適切なパラフィンワックスは、約50〜75℃、好ましくは52〜68℃の融点を有する。単結晶ワックスは、また、非晶質ワックスとしても知られ、パラフィンワックスと同様に炭化水素であるが、炭素鎖は分岐しており、鎖毎に約40〜70個の炭素原子のより高い分子量を有する。本発明で使用してもよいオゾン劣化防止剤の他の例は、N−1,3−ジメチルブチル−N'−フェニル−p−フェニレンジアミン6PPDなどのアルキル/アリルp−フェニレンジアミン、アルキル−アリル−p−フェニレンジアミンを有するスメクタイト含有粘度などの有機粘土−オゾン劣化防止剤複合体、N,N−2置換パラ−フェニレンジアミンなどの官能性ベンゾトリアゾール、トリス(N−1,4−ジメチルペンチル−p−フェニレンジアミノ)1,3,5−トリアジンおよびトリス(N−アルキル−p−フェニレンジアミノ)1,3,5−トリアジンなどのトリアジン、およびN−イソプロピル−N'−フェニル−p−フェニレンジアミン(IPPD)などのp−フェニレンジアミンを含んでもよいが、これらに限定されない。加えて、パラフィンワックス(MW=300−500)、微結晶ワックス(MW=600−700)(パラフィンワックスを有する)および低MW PEワックス(MW=100−1100)などのワックスを含む重合体、高分子ジフェニルジアミンなどの高分子オゾン劣化防止剤、ならびにEPDMおよび臭化イソブチレン/パラ−メチルスチレン共重合体(BIMSM)などのオゾン不活性重合体を、オゾン劣化防止剤として用いてもよい。ワックスを用いることが好ましい。1つの特定の好ましいワックスは、マイケムリューブ180(Michem Lube 180)である。他の好適なワックス分散液は、アンチラックス600(Antilux 600)である。
【0062】
水溶性エラストマー分散液に加えてもよい適切な顔料は、二酸化チタンおよび酸化鉄などの広範囲の天然顔料、ならびに合成顔料を含んでもよい。
【0063】
水溶性エラストマー分散液に加えてもよい適切な充填剤は、粘土、炭酸カルシウム、タルク、およびシリカなどの無機充填剤、ならびに架橋ポリメチルメタクリレート、微粉化ウレタン樹脂粒子およびポリエチレン微小球などの有機充填剤を含んでもよいが、これらに限定されない。
【0064】
追加の重合体を、本発明のラテックス分散液および弾性物品に組み込んでもよい。これは、ラテックス分散液および弾性物品に対して追加の機能を提供する、または有益な特性を付与するために行ってもよい。このような機能/特性は、改善された湿り/濡れ状態での着用(damp/wet donning)、改善された撥水性、改善された微生物への耐性、改善された劣化への耐性等を含んでもよいが、これらに限定されない。本発明のいくつかの態様によると、追加の重合体は、天然ゴム、ポリウレタン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン(ネオプレン)、ニトリルゴム、スチレンおよびブタジエンのブロック共重合体、スチレンおよびイソプレンのブロック共重合体、およびポリイソプレンから選択される。存在する場合、追加の重合体は、主重合体の約5%〜約200%、好ましくは約25%〜約150%、より好ましくは約50%〜約125%、さらに好ましくは約75%〜約100%の量で提供されてもよい。追加の重合体を含む1つの例示的なラテックス分散液は、2.5%のポリクロロプレン、2.5%の合成ポリイソプレン、および95%の水(すなわち、追加の重合体であるポリイソプレンは、主重合体であるポリクロロプレンの量の100%の量で提供される)を含む。追加の重合体を含むもう1つの例示的なラテックス分散液は、2.5%のポリクロロプレン、2.5%のニトリル、および95%の水を含む。
【0065】
本発明のいくつかの態様によると、複数の弾性層を含む弾性物品が提供され、複数の弾性層は、同じまたは異なる組成物を有してもよい。例えば、ポリクロロプレンと混合された合成ポリイソプレンを含む被覆を、ポリクロロプレン弾性物品に塗布して、改善された湿り/濡れ状態での着用特性を、物品に提供してもよい。もう1つの例では、ポリクロロプレンと混合されたニトリルを含む被覆組成物を、ポリクロロプレン弾性物品に塗布して、改善された湿り/濡れ状態での着用特性を、物品に提供してもよい。
【0066】
本発明のさらなる態様によると、弾性物品は、粉または澱粉付き、あるいは無しのいずれで形成してもよい。粉および澱粉は、一般的に使用される着用剤(donning agent)であるが、これらは、アレルギー反応に関係することもあり、よって、本発明の他の態様は、粉無し、かつ澱粉無しの弾性物品に関する。さらなる態様は、5mg未満の粉またはスターチ、好ましくは3mg未満の粉またはスターチ、より好ましくは2mg未満の粉またはスターチ、最も好ましくは1mg未満の粉またはスターチの、ほぼ粉無し、かつ澱粉無しの弾性物品に関する。これらの物品は、上述の加硫組成物を用いて作製される。
【実施例】
【0067】
本発明のこれらおよび他の態様は、以下に説明される非限定の実施例において、さらに説明される。
【0068】
(実施例1−市販の粉無しポリクロロプレン手袋)
市販の粉無しポリクロロプレン手術用手袋(カーディナルヘルス(Cardinal Health)のデュラプレーンSMT(Duraprene SMT))は、硫黄、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、および酸化亜鉛を含む加硫組成物を用いて形成される。手袋の経時変化なしおよび経時変化ありの特性を、表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
(実施例2−粉付き手袋の作製)
酸化亜鉛のみを硬化剤として含む配合物A(比較用配合物)または硫黄、酸化亜鉛、およびDIXPの組み合わせを硬化剤として含む配合物Bのいずれかを含む配合物を用いて、ポリクロロプレンラテックスを調合した。完全な調合配合物を、表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
手袋を、標準的な凝固剤浸漬プロセスによって形成し、熱風を用いて加硫した。手袋の特性を、表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
酸化亜鉛のみで硬化された手袋は、12MPaの引張強度を示し、これは、検査または手術用手袋のいずれに対しても、ASTM要件を満たすには不十分であった。しかし、硫黄、酸化亜鉛、およびDIXPの組み合わせで硬化された、発明的な手袋は、23MPaの引張強度を示し、これは、合成ラテックスから作られるポリクロロプレン検査用手袋および手術用手袋向けのASTM要件を超えていた。
【0075】
(実施例3−粉無し手袋の作製)
標準的な凝固剤浸漬プロセスを使用し、かつ配合物Bの調合ラテックスまたは配合物Cの調合ラテックスを使用して、ベース手袋層を形成することにより、粉無しポリクロロプレン手袋を作製した。ラテックス配合物を、以下の表4に示す。
【0076】
【表4】
【0077】
濡れたベース手袋層を有する成形具を、次いで、水中で浸出させ、部分的な乾燥の後に、調合ポリクロロプレンラテックスおよびニトリルラテックスの混合物に浸漬し、ベース手袋層の上にラテックス混合物の薄い被覆を形成した。ゴムラテックス混合物は、約2.5%の調合ポリクロロプレンラテックスと、2.5%のニトリルラテックスと、約95%の水とを含んでいた。配合物BおよびCを、調合ポリクロロプレンラテックスのニトリルラテックスとの混合物のための配合物として使用した。例えば、配合物Bの調合ポリクロロプレンラテックスを、ベースのポリクロロプレン手袋を浸漬するために用いる場合、5%の合計固形成分含有量を有する被覆組成物は、2.5%の配合物Bの調合ポリクロロプレンラテックスと、2.5%の原料ニトリルラテックスとの混合物を含むであろう。同様に、配合物Cの調合ポリクロロプレンラテックスを、ベースのポリクロロプレン手袋を浸漬するために用いる場合、5%の合計固形成分含有量を有する被覆組成物、被覆組成物は、例えば、2.5%の配合物C調合ポリクロロプレンラテックスと、2.5%の原料ニトリルラテックスとの混合物を含むであろう。一般的に、ベース手袋を作製するためのポリクロロプレンラテックスに用いられたものと同じ調合配合物を、被覆組成物用に使用して、原料ニトリルラテックスと、調合ポリクロロプレンラテックスとの混合物を使用することが便利である一方、ベース手袋および被覆層用の調合配合物は、異なることも可能である。例えば、配合物Cを用いて、ベース手袋と、配合物Bとを、ベース手袋を被覆するための原料ニトリルラテックスと混合させることが可能である。
【0078】
成形具をラテックス混合物から取り出し、乾燥させ、次いで熱風炉において約120℃〜約155℃の温度で加硫させた。加硫後に、被覆面が手袋の内側になるようにして、手袋を成形具から剥ぎ取った。次いで、被覆面が手袋の外側になるようにして、手袋を裏返し、塩素処理によって後処理をした。塩素処理は、約300ppmの利用可能な塩素を含む塩素水溶液内で塩素処理する前に、手袋を水で前洗いし、水酸化ナトリウム溶液で余分な塩素を中和し、その後にさらに水で洗う(このステップは複数回繰り返された)ことから成った。手袋は、次いで、部分的に乾燥し、そして再び手で裏返し、さらに乾燥させた。
【0079】
濡れた、または湿った手での良好な着用のために、塩素処理ステップに続くさらなる潤滑プロセスのために、手袋をタンブリング洗浄機に移した。この潤滑プロセスは、手袋を、約1.0%の塩化セチルピリジウムと、1.0%のシリコーン乳液と、リン酸アルキルの1.5%のアンモニウム塩とを含んだ水溶液でタンブリングすることを含んでいた。手袋をタンブラー洗浄機から取り出し、部分的に乾燥し、手で裏返した。手袋を、次いでさらに乾燥させた。処理した手袋は、乾燥した、または湿った手で容易に着用できた。
【0080】
配合物BおよびCの被覆した粉無し手袋の特性を、表5および表6に示す。
【0081】
【表5】
【0082】
【表6】
【0083】
配合物Bの被覆粉無し手袋は、経時変化の前、および70℃で7日間の加速経時変化の後の両方で、良好な物理的特性を有していたことが分かった。1、3、または5日間熟成させたラテックスで作られた、配合物Bの経時変化なし手袋の引張強度値は、全て22MPaよりも大きく、加速経時変化後は、引張強度値は、全て24MPaよりも大きかった。これらの値は、合成ラテックスで作られるポリクロロプレン検査用手袋および手術用手袋向けのASTM要件を超えていた。
【0084】
2または3日間熟成された、ラテックスで作られた配合物Cの経時変化無しの被覆粉無し手袋の引張強度値は、実施例1の市販されている粉無し手袋とほぼ同じであった。したがって、表5および表6に示した結果は、加硫組成物を変化させて、手術用手袋および検査用手袋向けのASTM要件を満たすことができる手袋を生産することが可能なことを実証している。
【0085】
(実施例4−粉無し手袋の作製)
粉無し被覆ポリクロロプレン手袋を、被覆に用いられたラテックス混合物が、約2.5%の調合ポリクロロプレンラテックスと、約2.5%の合成ポリイソプレンラテックスと、約95%の水とを含んでいたことを除き、実施例3で上述したように作製した。
【0086】
結果としての手袋の特性は、実施例3で作製した手袋の特性と同様であった。
【0087】
(実施例5−残留DIXP)
粉付きポリクロロプレン手袋と、粉無しポリクロロプレン手袋とを、実施例2および実施例3で述べたように(ただし潤滑プロセスは無しで)、配合物Bを用いて作製した。手袋を、UV分光法を用いて、残留DIXPに関して検査した。手袋は、ヘキサンおよびアセトニトリルと共に抽出され、抽出物のUVスペクトルが得られた。両方の抽出物のUVスペクトルは、粉付きまたは粉無し手袋のいずれにおいても、残留DIXPが残らなかったことを示した。UV分光法検査方法は、1ppmの検出限界を有する。
【0088】
当然ながら、上述の説明は、単なる例として与えられており、本発明の範囲内で、詳細な変更を行なってもよいことが理解される。
【0089】
本出願を通して、様々な特許および出版物を参照した。本発明が属する技術の現状をより完全に説明するために、これら特許および出版物の開示は、その全体を、本出願に参考として組み込む。
【0090】
本発明は、形態および機能において、本開示の利益を有する関連分野の当業者が想起するように、かなりの変更、修正、および均等物が可能である。
【0091】
現在好適な実施形態とみなされているものに関して、本発明を説明したが、本発明は、そのように限定されない。対照的に、本発明は、上に提供した詳細な説明の精神および範囲内に含まれる、様々な変更および均等な配置を、カバーすることを意図している。