(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195883
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】医療用、特には歯科用又は外科用器具用のコーティング
(51)【国際特許分類】
A61C 1/08 20060101AFI20170904BHJP
【FI】
A61C1/08 Z
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-203754(P2015-203754)
(22)【出願日】2015年10月15日
(62)【分割の表示】特願2013-17835(P2013-17835)の分割
【原出願日】2013年1月31日
(65)【公開番号】特開2016-28738(P2016-28738A)
(43)【公開日】2016年3月3日
【審査請求日】2015年10月16日
(31)【優先権主張番号】12154820.0
(32)【優先日】2012年2月10日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】509235534
【氏名又は名称】ヴェー ウント ハー デンタルヴェルク ビュールモース ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】ビート ワグナー
【審査官】
胡谷 佳津志
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−524118(JP,A)
【文献】
特表2007−504082(JP,A)
【文献】
特開2011−241092(JP,A)
【文献】
特表2003−506295(JP,A)
【文献】
特開2001−019574(JP,A)
【文献】
特開2002−154841(JP,A)
【文献】
二宮 正幸,低膨張結晶化ガラスの新用途への展開,NEW GLASS,2005年,Vol. 20, No. 3,p. 22-28
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗い表面構造(4)を持つ基材(3)を有する表面(1A、1B)を備えた医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法であって、
該器具又は器具部品(2)の少なくとも一つの部品(8A; 10; 11、11A; 12、12A)上に、CVD法によって塗布又は析出されたガラスセラミック層(5)を形成し、該基材(3)の該粗い表面構造(4)の少なくとも一部が、塗布又は析出されたガラスセラミック層(5)内に進展する、又は、該基材(3)の該粗い表面構造(4)の粗さを維持又は増大させ、該ガラスセラミック層(5)は、非結晶性ガラス又は非結晶性のガラスに類似したマトリックスと、その内部に含まれている重合された成分とからなる混合物又は複合材料であり、
前記基材(3)に塗布又は析出されたガラスセラミック層(5)の粗さが、概ねRa=0.5〜1.8μm、及び/又は、Rz=3〜14μmであることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記基材(3)に塗布又は析出された前記ガラスセラミック層(5)が、ケイ素、及び/又は、少なくとも一種の重合されたケイ素化合物を有していることを特徴とする請求項1に記載の医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法。
【請求項3】
前記基材(3)に塗布又は析出された前記ガラスセラミック層(5)が透明である、及び/又は、疎水性の表面特性を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法。
【請求項4】
前記基材(3)に塗布又は析出された前記ガラスセラミック層(5)が、プラズマ発生下におけるCVD法によって基材(3)上に析出されることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法。
【請求項5】
コーティング行程中の酸素濃度を調整又は制御することにより前記ガラスセラミック層(5)の表面を変性し、過剰な結晶の形成を防止することを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法。
【請求項6】
前記ガラスセラミック層(5)の硬さ又は機械的強度が、600〜800HVであることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法。
【請求項7】
CVD法によって前記基材(3)に塗布又は析出されたガラスセラミック層(5)の層厚が、1〜8μmであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法。
【請求項8】
粗い表面構造(4)を持つ基材(3)を有する表面(1A、1B)を備えた医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法であって、
有機ケイ素化合物又はシランガスを含有するガスを供給し、
前記ガスに由来する少なくとも1つの重合されたケイ素化合物を、器具又は器具部品(2)の少なくとも一つの部品(8A; 10; 11、11A; 12、12A)上に、CVD法によって塗布又は析出させてガラスセラミック層(5)を形成し、
該ガラスセラミック層(5)は、非結晶性ガラス又は非結晶性のガラスに類似したマトリックスと、その内部に含まれている重合されたケイ素化合物とからなる混合物又は複合材料であり、
該基材(3)の該粗い表面構造(4)の少なくとも一部が、塗布又は析出されたガラスセラミック層(5)内に進展する、又は、該基材(3)の該粗い表面構造(4)の粗さを維持又は増大させることを特徴とする医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法。
【請求項9】
前記基材(3)に塗布又は析出された前記ガラスセラミック層(5)が透明である、及び/又は、疎水性の表面特性を有していることを特徴とする請求項8に記載の医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法。
【請求項10】
前記基材(3)に塗布又は析出された前記ガラスセラミック層(5)が、プラズマ発生下におけるCVD法によって基材(3)上に析出されることを特徴とする請求項8又は9に記載の医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法。
【請求項11】
コーティング行程中の酸素濃度を調整又は制御することにより前記ガラスセラミック層(5)の表面を変性し、過剰な結晶の形成を防止することを特徴とする請求項8〜10の何れか一項に記載の医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法。
【請求項12】
前記ガラスセラミック層(5)の硬さ又は機械的強度が、600〜800HVであることを特徴とする請求項8〜11の何れか一項に記載の医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法。
【請求項13】
CVD法によって前記基材(3)に塗布又は析出されたガラスセラミック層(5)の層厚が、1〜8μmであることを特徴とする、請求項8〜12のいずれか一項に記載の医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法。
【請求項14】
コーティング行程中の酸素濃度を調整又は制御することにより前記ガラスセラミック層(5)の表面を変性し、過剰な結晶の形成を防止する際に、量論量以下の酸素濃度を供給する、請求項5又は11に記載の医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法。
【請求項15】
器具又は器具部品(2)の少なくとも一つの部品(8A;10;11、11A;12、12A)上に、CVD法によって塗布又は析出させてガラスセラミック層(5)を形成する前または後に、数字又は文字等の構造、マーク、エッジ、丸み、文字、数字、ブランド、ロゴ、または使用上の注意・警告を、前記部品(8A;10;11、11A;12、12A)上に形成することを特徴とする請求項1〜14の何れか一項に記載の医療用、歯科用又は外科用の器具又は器具部品(2)の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗布又は析出された層を有する医療用、特には歯科用又は外科用器具の表面、上記の如き層を有する医療用、特には歯科用又は外科用器具、並びに、上記の如き層を有する医療用、特には歯科用又は外科用器具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、汚れを避けるために表面に合成樹脂、特に、テフロン(登録商標)がコーティングされた医療用器具が開示されている。該合成樹脂層は、該医療用器具の使用者がそれをしっかり保持できるように、表面の粗さを維持している。該テフロン・コーティングによれば、二つの望まれる、互いに相反する場合が多い医療用器具の表面の特性、即ち、表面からの汚れの排除と、使用者による器具の確実な保持とを両立できる。
【0003】
表面に合成樹脂層、特にテフロン層が設けられている医療用器具の短所は、該合成樹脂層又はテフロン層が、物理的(機械的)影響に対して弱いことである。これは、実用において、医療用器具の該合成樹脂層やテフロン層は、例えば、摩耗や他の器具との接触により短時間の使用で破損し、その効果は、無くなっている、又は、低減していることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0091750号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
よって本発明が解決しようとする課題は、前述の望ましい特性(表面からの汚れの排除、及び、使用者による器具の確実で滑らない保持)の双方を維持したまま、機械的影響に対する弱さが改善された、医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品用の表面、或いは、医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品用の表面のコーティングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題は、本発明においては、請求項1の特徴を有する医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品用の表面によって解決される。医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品用の表面は、粗い表面構造を有する基材、並びに、該基材の粗い表面構造を完全に滑らかにすることなく、又は、その粗さが増すように該基材に塗布又は析出された層を含み、該基材に塗布又は析出された層は、ガラスセラミック層として形成されている。
【0007】
ガラスセラミック層又はガラスセラミック基材としては、非結晶性ガラス又は非結晶性のガラスに類似したマトリックスと、その内部に含まれている重合された、好ましくは、有機性の成分とからなる混合物、或いは、複合材料であることが好ましい。ガラスセラミック層又はガラスセラミック基材は、非結晶性の層構造を有していることが好ましい。一実施例によれば、基材に塗布又は析出されたガラスセラミック層は、ケイ素、特に、酸化ケイ素、及び/又は、少なくとも1つの(プラズマ)重合したケイ素化合物、好ましくは、少なくとも一部が有機性であるケイ素化合物を包含している。他の実施例によれば、ガラスセラミック層又はガラスセラミック基材は、酸化ケイ素及び/又は非結晶性の石英状の層と、それに内包された有機性のプラズマ重合された成分との混合構造を包含している。
【0008】
ガラスセラミック基材又は層による医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品用の表面のコーティングには、以下のような利点がある。
【0009】
ガラスセラミック層は、基材の粗さを少なくとも完全に滑らかにすることなく、好ましくは、その粗さを本質的に維持又は多少増すように、基材に薄く塗布又は析出される。好ましくは、ガラスセラミック層は、窪み部分を滑らかにしたり、実質的又は完全に埋め尽したりすることなく、基材の表面構造に追従又は相当している。基材に塗布又は析出されたガラスセラミック層の厚みは、器具の外部部品上、例えばアウタースリーブ上で、1〜8μm、好ましくは、3〜8μmであり、器具の内部部品上、例えば器具保持手段又はシャフト上で、1〜5μmであることが好ましい。基材の本質的に維持される粗さ、及び/又は、基材に塗布又は析出された層により得られ、又は向上した粗さは、使用者が器具又は器具部品を確実かつ可能な限り滑りにくく保持することを可能にする。
【0010】
ガラスセラミック層を塗布又は析出した基材の粗さは、概ねRa=0.5〜1.5μm、及び/又は、Rz=3〜12μmであることが好ましい。基材の上に塗布又は析出されたガラスセラミック層の粗さは、概ねRa=0.5〜1.8μm、及び/又は、Rz=3〜14μmであることが好ましい。
【0011】
ガラスセラミック層は、本質的には、封止され、又は細孔ができないように、基材上に塗布又は析出されており、これにより、防汚特性と、特にガスや水蒸気に対して、高いバリア特性を示す。ガラスセラミック層、特に、ガラスセラミック層の表面は、疎水性の表面特性を得るように、変性されていることが好ましい。この変性は、例えば、コーティング行程中の酸素濃度の調整又は制御によって実施される(後述参照)。このような疎水性の表面特性は、ガラスセラミック層の防汚特性を更に高める。所望により、ガラスセラミック層、特にはその表面を、親水性の表面特性が得られるように変性することも可能である。
【0012】
このようなガラスセラミック層は、いずれにせよ、従来の技術において既知のテフロン・コーティングと比較して、機械的に著しく強固であり、摩耗や、例えば、他の医療用器具の鋭利なエッジや刃に対しても、著しく高い耐性を示す。ガラスセラミック層の硬さや機械的強度は、例えば、600〜800HV、好ましくは、約700HVである。
【0013】
更なるガラスセラミック層の長所は、本質的に化学的に不活性なことである。よって、ガラスセラミック層は、特に腐食性の強い洗剤や水蒸気に対しても、本質的には耐腐食性を示す。
【0014】
更に、ガラスセラミック層は、約100℃〜200℃の温度変化にも耐え、このような温度変化を伴う既知の洗浄方法や滅菌方法を、特に好ましくは少なくとも数百回、問題なく施すことができるように構成されていることが好ましい。特に、このようなガラスセラミック層は、様々な温度域において、非常に小さな熱膨張計数しか示さないため、温度ショックによる割れを回避できる。熱膨張計数は、例えば、少なくとも、0.55・10
−6・K
−1である。
【0015】
ある実施例によれば、基材上に塗布又は析出されたガラスセラミック層は透明である。これにより、好ましいことに、形状、及び/又は、数字・文字等の構造、マーク等、例えば、エッジ、丸み、文字、数字、ブランド、ロゴ、使用上の注意・警告などを、器具や器具部品上に形成することができ、これらは、ガラスセラミック層が、透明であることから、使用者に認識又は視覚可能である。
【0016】
ガラスセラミック層は、任意選択的に、金属製の基材、特に、スチール製又は真鍮製の基材、或いは、合成樹脂製の基材に塗布又は析出させることが可能である。ある実施例によれば、ガラスセラミック層と基材、器具の表面又は器具部品の表面との間に、中間層又は接着促進層、例えば、合金層、好ましくは、ニッケル・クロム層を設けることが好ましい。ある代替的実施例によれば、ガラスセラミック層は、直接(すなわち、接着促進層又は中間層を設けることなく)基材、器具の表面又は器具部品の表面上に塗布又は析出される。
【0017】
ガラスセラミック層は、プラズマ発生下におけるCVD(化学真空蒸着)法によって、基材又は表面上に析出又は塗布されることが好ましい。それ自体は公知のプラズマ・サポートによるCVD法では、気体及び/又は気体中の析出される成分が、高周波電圧によってプラズマ状態にされる。プラズマ状態にある気体又は析出される成分は、高いエネルギーを有しており、基材又は表面上に析出される。この方法のプロセス・パラメーター、例えば、プラズマを形成するためのエネルギー供給の強さや継続時間、ガスの圧力、プラズマガス中の酸素濃度などを適切に選択することにより、ガラスセラミック層を析出させることが可能になる。
【0018】
ガスは、有機ケイ素化合物又はシランガスを含有し、且つ、ガラスセラミック層、特に好ましくは、有機物のプラズマ重合された成分を含む非結晶性な石英に似通った構造が形成されるように、有機ケイ素化合物又はシランガスを(完全に)酸化ケイ素、二酸化炭素及び水と反応させるには酸素が十分ではないように、プラズマガス中の酸素濃度を選択することが特に好ましい。よって、プラズマ・サポートによる、特に好ましくは、(微量の又は理論量以下の)酸素濃度におけるCVD法によって、少なくとも大量の結晶の形成、特には、酸化ケイ素の形成が阻止されるため、特に好ましくは、隙間の無い又は連続したガラスセラミック層の形成又は析出が可能である。
【0019】
ガラスセラミック層を設けた器具又は器具部品は、例えば、ハンド・エレメント、ハンド・グリップ、ハンド・ピース、エルボー・ピース、アダプター、駆動ユニット、カップリング手段、エア・モーター、電気モーター又はこれらの部品とすることができる。当然のことながら、これらの器具又は器具部品は、様々な、例えば、直線状、湾曲状、屈曲状、ピストル状などの形状を有することができ、一又は複数の部品で構成することができ、更には、機械的及び/又は電気的エネルギー、及び/又は少なくとも1種の流体を放出、受入及び/又は中継することができる。好ましい実施形態において、ガラスセラミック層が設けられた医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品は、処置箇所の方向に向かって媒体を放出する、特に、流体及び/又は電磁エネルギーを放出する媒体放出手段、及び/又は、(電気又は流体駆動の)駆動手段によって可動な、処置箇所に作用する工具用の工具ホルダーを包含している。更なる好ましい実施例によれば、ガラスセラミック層が設けられた器具又は器具部品は、能動的な医療用の器具又は器具部品として構成されている、即ち、その駆動に、少なくとも部分的に、電気的エネルギー源に、股は、人体から直接的に発生されるエネルギー及び重力によって得られるエネルギーではないエネルギー源、例えば、流体、特に好ましくは、圧縮空気を提供するエネルギー源など、他のエネルギー源に依存する医療用の器具又は器具部品として構成されている。
【0020】
本発明において、表面又はガラスセラミック層が設けられた基材は、医療用の器具又は器具部品の外部、外カバー又は外周面にある表面又は基材に限定されるものではなく、当然のこととして、このような器具や器具部品の内部の表面や内側基材、更には、医療用の器具又は器具部品のカップリング面、分離・接触面などもこれに包含される。医療用の器具又は器具部品の内部に配置されているガラスセラミック層が設けられた部品としては、例えば、特に、防汚性又は耐蝕性であるべき、シャフト、工具保持手段、軸受、媒体ライン又は流体ラインの少なくとも一部が挙げられる。
【0021】
本発明に従う、医療用の、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品、好ましくは能動的な医療用の、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品の製造方法は、粗い表面構造を有する基材を包含する器具又は器具部品の少なくとも一つの部品上に、ガラスセラミック層が塗布又は析出されており、該基材の粗い表面構造が、該ガラスセラミック層によっては、少なくとも完全には滑らかにされず、該基材の粗い表面構造の少なくとも一部が、塗布又は析出されたガラスセラミック層内に進展する、又は、該粗い表面構造が増加するものとして定義される。
【0022】
上記のごとく定義された製造方法によって基材に塗布又は析出されたガラスセラミック層は、ケイ素、特に、酸化ケイ素、及び/又は、少なくとも(プラズマ)重合された、好ましくは少なくとも一部が有機性であるケイ素化合物を包含していることが好ましい。
【0023】
上記のごとく定義された製造方法によって基材に塗布又は析出されたガラスセラミック層は、透明である、及び/又は、疎水性の表面特性を有していることが好ましい。特に、透明なガラスセラミック層が塗布又は析出される前、又は、された後に、数字・文字等の構造、マーク等、例えば、文字、数字、ブランド、ロゴ、使用上の注意・警告などを、器具上、器具部品上又は基材上に形成することが好ましい。
【0024】
基材上に塗布又は析出されたガラスセラミック層は、プラズマを発生させるCVD(化学真空蒸着)法によって、表面又は基材上に析出されることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】少なくとも一面にガラスセラミック層が設けられた、医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品の実施例を示している。
【
図2】少なくとも一面にガラスセラミック層が設けられた、医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品の実施例を示している。
【
図3】少なくとも一面にガラスセラミック層が設けられた、医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品の実施例を示している。
【
図4】少なくとも一面にガラスセラミック層が設けられた、医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品の実施例を示している。
【
図5】医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品のガラスセラミック層の第一実施例を示している。
【
図6】医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品のガラスセラミック層の第二実施例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を、好ましい実施形態と添付の図面に基づいて詳しく説明する。
【0027】
図1は、ハンドグリップ・エレメント、特に好ましくは、湾曲又は屈曲したハンド・ピース又はエルボー・ピース13の形態の医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品2の第一実施例を示している。
図2は、ハンドグリップ・エレメント、特に好ましくは、直線的な、好ましくは、歯石を取り除くための、ハンド・ピース17の形態の医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品2の第二実施例を示している。数多くの同一又は類似する部品があるため、以下では、これら2つのハンドグリップ・エレメント13、17をまとめて説明する。
【0028】
器具2は、ヘッド部14A、18A、好ましくは、ヘッド部に連結されるネック部14B、及び、ネック部と接続されているメイン部14C、18Cを有する。エルボー・ピース13のメイン部14Cは、ネック部14Bに対して、角度をつけて配置されているが、ハンド・ピース17の2つの部品18A、18Cは、直線的に、すなわち、本質的に共通の中心軸線に沿って配置されている。部品14A〜14Cと18A、18Cは、一部品からなる、又は、複数部品からなるアウタースリーブ10を有している。
【0029】
ヘッド部14A、18A内又はそれらの上に、処置用工具9を取り付ける、又は、保持するための、好ましくは、脱着自在な工具ホルダー8A、8Bが設けられる。工具ホルダー8A、8Bおよび処置用工具9は、作用運動状態とすることが可能、即ち、例えば、回転運動、ピストン運動、振動運動状態とすることが可能であることが好ましい。工具ホルダー8A、8Bは、例えば、摩擦接続手段、形状接続手段又はネジ式接続手段として形成されている。
【0030】
器具2のヘッド部14A、18A上に、特に、工具ホルダー8A、8Bに隣接し、又は、工具ホルダー8A、8Bの周りに、及び/又は、アウタースリーブ10の工具差込開口部15の周りに、代替的に、ネック部14B上に、少なくとも一種の媒体、特に好ましくは、空気、及び/又は、水を放出するための第一の媒体放出手段7が設けられていることが好ましい。第一媒体放出手段7は、例えば、媒体を処置箇所及び/又は工具へ向かって放出する一本又は複数本の配管、開口部及び/又はノズル、又は、工具9内の流体穿孔に接続される開口部などを有する。
【0031】
ヘッド部14A、18A上に、特に、工具ホルダー8A、8Bの周りに、及び/又は、アウタースリーブ10の工具差込開口部15の周りに、代替的に、ネック部14B上に、処置箇所の方向に光を放つための光照射手段6としての媒体放出手段、例えば、光伝達手段/光ファイバー等、及び/又は、光源、好ましくは、発光ダイオードが、設けられていることが好ましい。
【0032】
器具2、特に、エルボー・ピース13は、更に、工具ホルダー8Aから工具を取り外すための工具取外し手段を備えることが好ましい。工具取外し手段は、例えば、使用者が外部から操作できる操作エレメント16によって、特に、押しボタンやキーによって、操作可能である。操作エレメント16は、ヘッド部14Aに設けられることが好ましく、特に好ましくは、工具差込開口部15の実質的に反対側に設けられる。
【0033】
工具ホルダー8A、8B及び処置工具9は、器具2内に設けられる駆動手段によって、又は、器具2から脱着自在な独立した駆動ユニットによって、動いている状態とすることが可能である。器具2内に設けられた駆動手段は、例えば、流体、特に、圧搾空気によって駆動自在な回転部品、特に、ヘッド部14A内に、回転自在に配置されたホイール、インペラー若しくは回転スリーブ、又は、例えば電気モーターである電動駆動装置、圧電素子若しくは磁歪駆動手段を有する。器具2から脱着自在な独立した駆動ユニットは、例えば、モーター・ユニット、例えば、電気モーター又はマルチディスク・モーター、エア・モーターを有する(
図3参照)。
【0034】
脱着自在な独立した駆動ユニット及び/又は制御ユニット若しくはコントロール・ユニットと器具2との該脱着自在な接続又は連結のために、メイン部14C、18Cに、連結手段又はカップリング手段11が設けられている。連結手段11は、器具2が、駆動ユニット及び/又は制御ユニット若しくはコントロール・ユニットと接続されている場合には、脱着自在な独立した駆動ユニットの相手側接触面と接触し、器具2と駆動ユニット及び/又は制御ユニット若しくはコントロール・ユニットが接続されていない場合にはフリーである、接触面11Aを有する。連結手段11は、例えば、差込式接続、ねじ込み式接続、バヨネット式接続又は回転式連結として実施できる。連結手段11は、少なくとも一種の媒体及び/又はデータ、例えば、流体、特に好ましくは、水若しくは空気、電磁波、電気的エネルギー及び/又は電気シグナルを伝達できるように構成されていることが好ましい。そのために、一種又は複数種の配管類、流体用配管、電気用端子、光学的通路/光ファイバー等及び/又は電気的、光学的若しくは流体的接続エレメントが、連結手段11に、また、当然のことながら、脱着自在な独立した駆動ユニット及び/又は制御ユニット若しくはコントロール・ユニットに、設けられる。
【0035】
ネック部14B及び/又はメイン部14C、18C内には、駆動運動を伝達する手段並びに/或いは媒体、データ及び/又は電気シグナルを伝達する手段、例えば、一本又は複数本の回転自在なシャフト、振動軸、変速手段/トランスミッション等、一本又は複数本の流体用配管、光ファイバー、電気的エネルギー、電気信号又はデータ用の電気配線等が、設けられていることが好ましい。
【0036】
図3は、駆動運動を発生させるための駆動ユニット19としての医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品2を示している。駆動ユニット19は、好ましくは、モーター・ユニットとして、特に、電気モーター、マルチディスク・モーター又はエア・モーターの形態であることが好ましい。
図4は、アダプター又はカップリング23としての医療用、特には歯科用又は外科用の器具又は器具部品2を示している。数多くの同一又は類似の部品があるため、以下では、2つの器具2、即ち、駆動ユニット19とカップリング23をまとめて説明する。
【0037】
2つの器具2は、一部品又は複数部品からなるアウタースリーブ10を有する。器具2又はアウタースリーブ10は、メイン部20C、24C、メイン部20C、24Cと接続され、好ましくは、カップリング手段12として実施されている連結部20A、24Aを有している。連結部20A、24Aにより器具2は、工具と接続自在であり、駆動ユニット19から発生された駆動運動を、及び/又は、少なくとも一種の媒体、特に、流体及び/又は電磁波を工具へと伝達できる。連結部20A、24Aは、例えば、差込式接続、ねじ込み式接続、バヨネット式接続又は回転式連結として実施できる。
【0038】
カップリング手段12は、例えば、カップリング・パイプ又はカップリング・ジャーナル21及び接触面又はカップリング面12Aを有する。カップリング面12Aは、駆動ユニット19の、又は、カップリング/アダプター23の、脱着自在に接続可能な器具への相手側接触面として、例えば、駆動ユニット19又はカップリング/アダプター23が器具と接続されている場合には、ハンド・ピース13の相手側接触面11Aと接触するように、構成されている。尚、カップリング面12Aは、器具が駆動ユニット19又はカップリング/アダプター23から取り外されている場合には、フリーの状態になる。
【0039】
駆動ユニット19のメイン部20C内には、モーター又は少なくともモーター・コンポーネントの大部分、例えば、回転子、固定子、モーター用の制御エレメント若しくはコントロール・エレメント、及び/又は、駆動用の電気供給配線や流体供給配管若しくはモーター冷却用の流体用配管、モーターの作動を監視するための一つ又は複数のセンサー、回転子用シャフトなどが配置されている。一方、カップリング/アダプター23のメイン部24C内には、好ましい実施例によれば、カップリング/アダプター23内部において、及び/又は、これに電気的に接続可能な器具、例えば、ハンド・ピース13に対して電気的エネルギーを供給するための電気力学的変換手段(発電手段)が配置されていてもよい。
【0040】
ある実施例によればカップリング・ジャーナル21内、特に、駆動ユニット19のカップリング・ジャーナル21内には、一本のシャフト、例えば、回転子シャフトの一部や該回転子シャフトと接続されているシャフト、及び/又は、駆動運動を、特に、駆動ユニット19が発生させた駆動運動を受ける、又は、伝えるためのキャッチ等が、配置されている。
【0041】
器具2のカップリング手段12の反対側の末端、又は、メイン部20C、24Cのフリーな末端には、好ましくは脱着自在に、器具2と供給ユニット及び/又は制御ユニット若しくはコントロール・ユニットとを接続するための接続手段22が設けられている。供給ユニット及び/又は制御ユニット若しくはコントロール・ユニットは、駆動ユニット19に、特に、そのモーターに、又は、カップリング/アダプター23に、特に、その発電手段に、例えば、駆動及び/又は冷却媒体、及び/又は、電気シグナルを供給する、及び/又は、駆動ユニット19から、若しくは、カップリング/アダプター23から、少なくとも電気シグナル又はデータを受けることができることが好ましい。接続手段22は、一つ又は複数のメディア伝達用エレメント、例えば、エネルギー供給用及び/又はデータ交換用の電気配線、流体用配管25、光ファイバー、電気用端子及び/又は電気用、光学用若しくは流体用の接続エレメントを包含していることが好ましい。
【0042】
駆動ユニット19とカップリング/アダプター23は、少なくとも一種の媒体、例えば、流体、特に、水又は圧搾空気、電気的エネルギー、電気シグナル、電磁波、特に、光を、駆動ユニット19又はカップリング/アダプター23と接続されている、又は、接続自在な工具若しくは器具、例えば、ハンド・ピース13へ、又は、駆動ユニット19若しくはカップリング/アダプター23と接続されている、又は、接続自在な工具若しくは器具、例えば、ハンド・ピース13から、伝達できるように構成されていることが好ましい。連結部20A、24A、特に、カップリング面12A及び/又はカップリング・ジャーナル21には、例えば、電気配線、流体用配管、光ファイバー、電気用端子及び/又は電気用、光学用又は流体用の接続エレメントなど、一つ又は複数のメディア伝達用エレメントが設けられていることが好ましい。連結部20A、24Aのメディア伝達用エレメントへの供給を実施するため、これらは、接続手段22のメディア伝達用エレメントと、駆動ユニット19又はカップリング/アダプター23に至る電気配線、光ファイバー及び/又は流体用配管を介して接続されている。
【0043】
図1〜4の上述された器具2、13、17、19、23の少なくとも一つの部品又は一つの部品の表面1A、1B、例えば、アウタースリーブ10及び/又は連結手段11の少なくとも一部、特に、それの、及び/又は、カップリング手段12の、接触面11A、更には、それの、及び/又は、操作エレメント16の、及び/又は、工具ホルダー8A、8Bの接触面12Aには、ガラスセラミック層5が設けられている。
図5と
図6は、
図1から4の上述した器具2、13、17、19、23の少なくとも一つの部品の表面1A、1Bに選択的に塗布又は析出されたこのようなガラスセラミック層5の二通りの実施例を示している。
【0044】
図5に係る表面1Aは、例えば、金属や合成樹脂である基材を有する。この基材は、例えば、アウタースリーブ10又はその最外層より形成されている。当然ながら、基材は、器具2の任意な他の部品を包含していてもよい。基材3は、粗い表面又は表面構造4を有しているが、これは、
図5においては、基材3のジグザグの山や谷のような表面として表されている。基材3上では、中間層又は接着(粘着)仲介層26が、設けられている。中間層26は、ある実施例においては、金属層、例えば、合金層、特に好ましくは、ニッケル・クロム層を包含している。尚、該中間層26の厚さは、2μm〜5μmであることが好ましい。
【0045】
中間層26上には、ガラスセラミック層5が配置される。
図5からも明らかなように、ガラスセラミック層5は、中間層26と同様、本質的に基材3の粗い表面又は表面構造4を有している。即ち、基材3の粗い表面構造4は、ガラスセラミック層5によって、少なくとも完全には滑らかにされず、使用者に、可能な限り滑らない器具又は器具部品2の保持を可能にしている。
図5からは、ガラスセラミック層5が、本質的に均質又は均等に基材3や中間層26に塗布又は析出されており、密で均質、細孔を有さない、よって防汚性の表面コーティングが得られていることも分かる。ガラスセラミック層5は、例えば、厚さが約1μm〜8μm、好ましくは、厚さが約3.5μm〜8μm、特に好ましくは、厚さが約4μmである。先に詳しく説明した如く、ガラスセラミック層5は、非結晶性のガラス又は非結晶性のガラスに類似したマトリックス、及び、それに含まれる(プラズマ)重合された、好ましくは、有機性の成分を包含している。特に好ましくは、該ガラスセラミック層5は、ケイ素、好ましくは、酸化ケイ素/酸化ケイ素、及び/又は、少なくとも一種の(プラズマ)重合された、好ましくは、少なくとも部分的に有機性のケイ素化合物を有している。
【0046】
図6に示されている表面1Bは、構造的及び特性的には、
図5の表面1Aと本質的に同様であるため、繰り返しを避けるため、これらに関しては、上記説明を参照されたい。しかしながら、表面1Bは、表面1Aとは異なり、中間層26を有していない。即ち、ガラスセラミック層5は、基材3に、例えば、器具2のアウタースリーブ10に、直接、設けられている。このようなガラスセラミック層5の中間層を用いない直接的な塗布又は析出は、金属製の基材でも、合成樹脂製の基材でも可能である。
【0047】
本発明は、記述された実施例に限定されるものではなく、本発明の原理、概念的な機能原理を応用又は包含するすべての実施形態を包含している。更に、記載されている全ての特徴および記述された全ての実施形態は、互いに組み合わせて使用可能である。