(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195888
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】ツールビロン機構
(51)【国際特許分類】
G04B 17/28 20060101AFI20170904BHJP
G04B 15/14 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
G04B17/28
G04B15/14 Z
【請求項の数】13
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-230605(P2015-230605)
(22)【出願日】2015年11月26日
(65)【公開番号】特開2016-109683(P2016-109683A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2015年11月26日
(31)【優先権主張番号】14196157.3
(32)【優先日】2014年12月3日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599040492
【氏名又は名称】ニヴァロックス−ファー ソシエテ アノニム
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】マルク・ストランツル
【審査官】
藤田 憲二
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/006617(WO,A1)
【文献】
特開2014−182151(JP,A)
【文献】
特表2013−524173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 15/14,17/06,17/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器ムーブメント用のツールビロン機構であって、
バランス機構(2)と、エスケープ機構(3)と、及びツールビロン軸(Z0)のまわりを回転する前記計時器ムーブメントの構造にマウントされるキャリッジ(12)とを有し、
前記バランス機構は、ばね(14)と、及び前記ツールビロン軸のまわりを回転するために前記キャリッジにおいてマウントされているバランス車(16)とを有し、
前記エスケープ機構は、歯(9)を備えたエスケープ車(5)と、及びこの歯と係合するように構成するパレット石(17、17a、17b)を有するパレットレバー(7)とを有し、
前記パレットレバーは、前記キャリッジにおいてマウントされ、回転デバイス(11)によって前記キャリッジに回転可能に連結しており、
前記エスケープ車は、前記ツールビロン軸を包囲し、前記計時器ムーブメントの前記構造に取り付けられ又はこれと一体化されており、
前記回転デバイスは、弾性変形し前記パレットレバーを支持するように構成し、
前記回転デバイスは、前記キャリッジに取り付けられ又はこれと一体化されているアンカー領域(12a)に前記パレットレバーを接続する一又は複数の弾性アーム(21)のみを含む
ことを特徴とするツールビロン機構。
【請求項2】
前記回転デバイスは、前記弾性アームを1対有する
ことを特徴とする請求項1に記載のツールビロン機構。
【請求項3】
前記1対の弾性アームは、前記アンカー領域とともに、実質的に三角形状を形成する
ことを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のツールビロン機構。
【請求項4】
前記パレットレバーは、前記弾性アームの中性ファイバーの交差位置にある仮想回転軸(Za)のまわりを回転する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のツールビロン機構。
【請求項5】
前記エスケープ車の歯は、そのエスケープ車から外側を向いており、
前記パレット石は、前記エスケープ車の外部において半径方向に配置されており前記エスケープ車の内側を向いている
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のツールビロン機構。
【請求項6】
前記キャリッジは、前記キャリッジに回転トルクを与えるエネルギー源に接続されており、
このエネルギー源は、前記キャリッジに取り付けられているか又はこれと一体化されているピニオン(32)と噛み合う駆動列(24)によって前記キャリッジに連結している
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のツールビロン機構。
【請求項7】
前記回転デバイス又は前記回転デバイスと一体化されている要素群は、堆積又はエッチングの方法によって形成される
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のツールビロン機構。
【請求項8】
前記回転デバイスと一体化されている要素群は、前記パレットレバーの一部又は前記パレットレバーの全体と、前記キャリッジの一部又は前記キャリッジの全体と、及び前記バランス機構のばねとからなる群によって選択される要素を一又は複数有する
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のツールビロン機構。
【請求項9】
前記回転デバイス又は前記回転デバイスと一体化されている要素群は、単一部品の構造を形成する
ことを特徴とする請求項7又は8に記載のツールビロン機構。
【請求項10】
前記堆積の方法は、LIGA電鋳法を伴う
ことを特徴とする請求項7〜9のいずれかに記載のツールビロン機構。
【請求項11】
前記回転デバイス又は前記回転デバイスと一体化されている要素群は、ケイ素ベースの材料、Ni、NiP及びアモルファス金属からなる群から選択される材料の一又は複数によって作られている
ことを特徴とする請求項9又は10に記載のツールビロン機構。
【請求項12】
前記回転デバイスは、双安定機構(26)を有する
ことを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載のツールビロン機構。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載のツールビロン機構を有する
ことを特徴とする腕時計ムーブメント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器ムーブメント用のツールビロン機構に関する。
【背景技術】
【0002】
一部の計時器ムーブメントはツールビロン機構を備えている。腕時計の速さは観察される垂直方向の位置によって変わってしまうことが知られている。これは、本質的に、バランス車及びバランスばねの不均衡ないしアンバランスによってもたらされる。このような速さの差をなくすために、ばね仕掛けバランスシステムの重心が、バランス車及びバランスばねの要素の回転中心にあって振動時にそこに維持される必要がある。ツールビロン機構の目的は、このような違いをなくすことではなく、補償することである。これを達成するために、エスケープバランスアセンブリーは、一般的には毎分1回転、回転して、すべての位置に置かれる。これらの条件の下で、様々な垂直方向の位置をとることができ、究極的には平均の速さをもたらす。ツールビロン調整機構は、一般的には、2つの回転軸の点の間で懸架された回転するキャリッジにおいてマウントされたばね仕掛けバランスアセンブリーを有するエスケープによって形成される。既知のツールビロン機構の課題の1つは、大きさが大きいことであり、特に、ばね仕掛けバランス及び従来のエスケープ機構におけるキャリッジの回転軸に沿った厚みが大きいことである。これは、重ね合せに起因するものである。
【0003】
審美的な理由などのために、腕時計ムーブメントの部品の厚みを減らすことがしばしば試みられてきた。また、計時器ムーブメントの効率を向上させ、ムーブメントのコンポーネント部品の摩耗を減らすような必要性が常にある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、計時器ムーブメントのためのコンパクトなツールビロン機構を提供することを目的とする。特に、小さな厚みのものを提供することを目的とする。
【0005】
本発明は、慣性が小さいツールビロン機構を提供することを別の目的とする。
【0006】
また、本発明は、計時器ムーブメントのために非常に効率的なツールビロン機構を提供することを別の目的とする。
【0007】
本発明は、経済的で製造が容易な計時器ムーブメント用のツールビロン機構を提供することを別の目的とする。
【0008】
本発明は、エネルギー消費が非常に小さい計時器ムーブメント用のツールビロン機構を提供することを更なる別の目的とする。
【0009】
さらに、本発明は、堅牢性が高い計時器ムーブメント用のツールビロン機構を提供することを別の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の目的は、請求項1に記載の計時器ムーブメント用のツールビロン機構によって達成される。本発明の好ましい態様が、従属請求項において記載されている。
【0011】
本発明に関連して、バランス機構と、エスケープ機構と、及びツールビロン軸のまわりを回転する計時器ムーブメントの構造においてマウントされるキャリッジとを有する計時器ムーブメント用のツールビロン機構について説明する。バランス機構は、ばね及びバランス車を有し、これは、ツールビロン軸のまわりを回転するようにキャリッジの内側においてマウントされる。エスケープ機構は、歯を備えたエスケープ車と、及びその歯と係合するように構成するパレット石を有するパレットレバーとを有する。このパレットレバーは、キャリッジの内側においてマウントされ、回転デバイスによってキャリッジに回転可能につながれている。エスケープ車は、ツールビロン軸を包囲し、計時器ムーブメントの構造に取り付けられ又は一体化されている。回転デバイスは、弾性回転し、パレットレバーを支持するように構成する。
【0012】
一実施形態において、回転デバイスは、キャリッジか積分にその上につながれたアンカー領域にパレットレバーを接続する一又は複数の弾性アームを有する。
【0013】
一実施形態において、回転デバイスは、1対の弾性アームを有する。
【0014】
一実施形態において、この1対の弾性アームは、アンカー領域とともに実質的に三角形を定めることができる。一実施形態において、弾性アームどうしは、同じ長さ及び同じ幾何学的構成を有することができる。
【0015】
一実施形態において、パレットレバーは、弾性アームの中性ファイバーの交差位置にある仮想回転軸のまわりを回転する。
【0016】
一実施形態において、エスケープ車の歯は、そのエスケープ車から外側を向いており、また、パレット石は、エスケープ車の外側において半径方向に配置され、エスケープ車の内側を向いている。
【0017】
キャリッジを、キャリッジ上の回転トルクを与えるエネルギー源に接続することができ、このエネルギー源は、キャリッジに取り付けられ又はこれと一体化されているピニオンと噛み合う駆動列によってキャリッジにつながれている。
【0018】
一実施形態において、回転デバイスと一体化されている要素群は、以下の要素の一又は複数を有することができる。すなわち、パレットレバーの一部又は全パレットレバー、キャリッジの一部又は全キャリッジ、バランス機構のばねである。回転デバイス又は回転デバイスと一体化されている要素群は、単一部品の構造を形成することができる。
【0019】
一実施形態において、回転デバイスは、双安定機構を有する。
【0020】
一実施形態において、回転デバイス又は回転デバイスと一体化されている要素群は、堆積又はエッチングの方法によって形成することができる。
【0021】
いくつかの実施形態において、回転デバイス又は一体的な要素群を、特に、LIGA法によって形成することができる。
【0022】
いくつかの実施形態において、回転デバイス又は一体的な要素群を、特に、ケイ素ベースの材料で作ることができる。
【0023】
いくつかの実施形態において、回転デバイス又は一体的な要素群を、特に、シリコンオンインシュレーター(SOI)法によって形成することができる。この変種において、絶縁体層上のケイ素層のスタックによって構造が形成される。この絶縁体は、例えば、二酸化ケイ素(SiO
2)であることができる。
【0024】
いくつかの実施形態において、回転デバイス又は一体的な要素群を、特に、Ni、NiP又はアモルファス金属で作ることができる。
【0025】
回転デバイス又は一体的な要素群は、さらに、アセンブリーを支援するために犠牲構造を有することができる。
【0026】
請求の範囲、下記の実施形態の詳細な説明、添付図面を読むことで、本発明の他の有利な目的及び態様を理解することができるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明の一実施形態による計時器機構用のツールビロン機構を側方から見た概略断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態による計時器ムーブメント用のツールビロン機構のエスケープの一部についての上面図である。
【
図3】本発明の別の実施形態による計時器ムーブメント用のツールビロン機構のエスケープの一部についての上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図面を参照すると、計時器ムーブメント用のツールビロン機構は、キャリッジ12にマウントされているバランス機構2及びエスケープ機構3を有する。
【0029】
バランス機構2は、ばね14とバランス車16を有し、これらは、キャリッジ12の内側で回転するようにマウントされているアーバー18に固定されている。アーバーの反対側の両端20は、キャリッジ12の反対側の両壁28a、28bに配置されているベアリング26に収容されている。ばね14は、図示した実施形態においてはらせん状であり、これは、第1の端がアーバー18(又は直接バランス車に)に固定され、他方の端がキャリッジ12に固定されている。これによって、バランス車16とキャリッジ12の間に相対的な弾性回転力を与える。
【0030】
エスケープ機構は、歯9を備えるエスケープ車5と、パレットレバー7と、及びバランス2に連結するローラーデバイス4とを有する。
【0031】
パレットレバー7は、フォーク13と、パレット石17a、17bと、及びこれらのパレット石17a、17bをフォーク13に接続するレバー15とを有する。このレバー15は、下で詳細に説明する弾性回転デバイス11によってキャリッジ12に回転可能につながれている。レバー15及びパレット石17は、仮想回転軸Z
aのまわりを回転する。これは、図示した例において、弾性細長片の中性ファイバーの交差位置の近傍であってパレット石17a、17bの間に位置する。
【0032】
パレット石17a、17bは、エスケープ車の歯9と連係する。一方のパレット石がエントリーパレット17aを形成し、他方のパレット石がイグジットパレット17bを形成する。パレットレバー7は、さらに、フォーク13に固定されたガードピン27を有する。この固定は、例えば、フォークの基礎にある固定用の穴の内部に圧入又は接着されるピンによる。ローラーデバイス4は、フォーク13のホーンと係合するインパルスピン10を備えたテープルローラー6と、及びガードピン27を通すための通し空欠部16が設けられた小ローラー8とを有する。図示した機構は、スイス式レバーエスケープの原理に従って動作する。この原理自体が有名であるので、伝統的な要素及びその動作を詳細には説明しない。
【0033】
エスケープ車の歯9は、このエスケープ車から外側を向いており、パレット石17a、17bは、エスケープ車の外側で半径方向に配置されており、内側を向いている。すなわち、ツールビロンキャリッジの回転軸の方を向いている。このことによって、好ましいことに、コンパクトなエスケープ機構を提供しつつ、回転デバイス11の弾性アーム21の長さを大きくすることが可能になる。キャリッジ12は、計時器ムーブメントのフレーム22又は固定構造の内側で回転するように、ベアリング30a、30bによってマウントされている。キャリッジ12は、キャリッジ12に回転トルクを与えるエネルギー源に接続されている。このエネルギー源を、キャリッジ12の本体に取り付けられ又はこれと一体化されているピニオン32と噛み合う駆動列24によって、キャリッジ12につなぐことができる。秒アーバー34を、キャリッジ12に取り付け又はこれと一体化することができ、これは、例えば、ベアリング30bを通るようにピニオン32の中心から延在し、キャリッジ12の回転軸Z
0と同心である。秒アーバー34の自由端には、秒表示針(図示せず)を固定することができる。しかし、他の構成も可能である。例えば、秒表示を、歯車列デバイス(図示せず)によって、ピニオン32、又はキャリッジ12と一体化され又はこれに固定されている別の車に連結することができる。
【0034】
エスケープ機構3のパレットレバー7とともにバランス機構2のコンポーネント部品は、キャリッジ12によって支えられており、したがって、計時器ムーブメントのフレーム22又は固定構造に対してキャリッジ12とともに回転する。エスケープ車5は、計時器ムーブメントのフレーム22又は固定構造に取り付けられ又はこれと一体化されている。
【0035】
バランス車がその振動の弧を描き、パレット石17a、17bの一方がエスケープ車5の歯9の1つと係合しているときにも、キャリッジ12は、エスケープ機構3及び駆動列24と一緒な状態を維持する。キャリッジピニオン32に作用する駆動力がキャリッジ12に与えられるが、回転することはできない。なぜなら、キャリッジ12の本体に固定されているパレットレバー7が、フレームと固定された関係にあるエスケープ車5の歯で止められるからである。
【0036】
パレット石17a、17bがエスケープ車の歯から解放されるとすぐに、キャリッジ12は、小さな角度を通るように回転する。例えば、秒針の変位と等しい角度を回転する。そして、キャリッジ12は、エスケープ機能が終わり、パレット石17a、17bの一方が再びエスケープ車5の歯9に対して止まると、直ちに不動になる。この変位の後に、キャリッジ12によって支えられているアセンブリーは、新しいロック位置を占める。
【0037】
キャリッジ12の回転中に、ピニオン32の回転運動が駆動される。これは、駆動列24の歯にピニオン32が噛み合うことによってもたらされる。
【0038】
バランス機構2は、キャリッジ12の内側に位置し、キャリッジ12の回転軸のまわりに位置し、そのピボット軸は、キャリッジ12と一体化されたベアリング内で回転する。エスケープ車5以外のエスケープの他の部分については、キャリッジ12とともに回転する。したがって、比較的短期間に、例えば、1分間に、一連の飛びを伴って、全キャリッジ12は、それが支える全メンバーを駆動しつつ、1回転を完成する。腕時計の速さが、観察される垂直方向の位置によって異なることが知られている。これは、本質的に、バランス車及びばねの不均衡ないしアンバランスによってもたらされる。例えば、毎分1回転で、すべての回転位置にバランスデバイスを置くことによって、様々な垂直方向の位置が得られる。このことは、このような違いを補償する平均の速さをもたらす。
【0039】
図1〜3に示すようないくつかの実施形態では、回転デバイス11は、アンカー領域12aと、及びパレットレバー7をアンカー領域12aに連結する一又は複数の弾性アーム21とを有する。
【0040】
このアンカー領域12aを、キャリッジ12の本体28に直接、又はキャリッジ12に静的に固定されているメンバーに固定することができる。変種の1つでは、アンカー領域12aは、キャリッジ12の本体28と一体的に形成することができる。パレットレバー7は、好ましいことに、一又は複数の弾性アーム21と一体的に形成することができる。
【0041】
好ましい実施形態の1つにおいて、回転デバイスは、パレットのレバー15の両側に接続している少なくとも2つの弾性アーム21を有する。図示した変種において、前記少なくとも2つの弾性アーム21は、アンカー領域12aと実質的に三角形を形成する。好ましいことに、これらの弾性アーム21を、パレットレバーの仮想回転軸Z
aと実質的に直交する平面内に配置することができる。弾性アーム21を、特に、薄い細長片の形に作ることができる。しかし、本発明の範囲内で弾性アームの他の形及び構成が可能である。ただし、それらが支持体とばねの2つの機能を満たして、これによって、パレットレバーを支持し、同時に、エスケープ機能のためにパレットレバーが回転することを可能にすることを前提とする。図示した実施形態において、回転デバイス11は、このようにして、別のピボット軸又はパレットレバー用の支持体を必要とせずに、回転軸Z
aのまわりを回転するパレットレバー7のためのばね及び支持体としてはたらく。好ましいことに、このことによって、ベアリングにおける摩擦に起因する損失を減らすこと、パレットレバー及びその支持体を有するアセンブリーの大きさを小さくすることなどが可能になる。また、回転を潤滑する必要がない。
【0042】
また、本発明の範囲内において、キャリッジと一体化され又はキャリッジに取り付けられたベアリングに支持される回転アーバーを有するパレットレバーを備えることができる。この回転アーバーは、
図1〜3に示すパレットレバーの仮想回転軸Z
aと同心の位置に配置することができる。この変種(図示せず)において、パレットレバー回転デバイスは、既知のパレットレバー回転と同様な構成を有することができる。
【0043】
図1の変種の場合には、可撓性回転は、ロック位置に戻る傾向がある。したがって、パレット上の引き(draw)の角度は、引きを確実にするように大きくしなければならない。要するに、スイス式レバーが正確に動作するためには、引きが必要である。引きは、パレットのロック面を傾けることによって達成される。
図3を参照すると、一実施形態において、回転デバイス11は、双安定機構26を有する。双安定機構によって、双安定が引き機能を置き換え、パレットはエスケープ車を再び巻き進ませないロック面を有することができる。この変種において、双安定機構は1対の弾性引き要素36を有し、そのそれぞれは、パレットレバー7の一端と連結しており、そのそれぞれは、他方の端において、(ウルフ歯を備えた)ラチェット40の歯と係合するフック38を有する。この種の可撓性回転において双安定を達成するためには、可撓性ガイドメンバーのビームに座屈(buckling)を発生させる負荷を与えることが必要である。フックシステム38は、システムを双安定にする前負荷をみつけるために、可撓性ガイドメンバーを座屈させる前負荷を調整することができる。なお、本発明の範囲内で、他の構造の双安定の形態を使用することもできる。
【0044】
このような双安定の回転機構を備えた変種では、パレット石上の引きの角度を減らしたりゼロにしたりすることができる。なぜなら、この機能は、回転機構の双安定によって達成されるからである。これによって、エスケープシステムの効率を向上させることが可能になる。
【0045】
好ましいことに、一実施形態によると、回転デバイス11又は回転デバイス11と一体的な要素群(例、パレットレバー7又は全パレットレバーの部品15、13、及び/又はキャリッジ12の一部又は全キャリッジ、及び/又はバランス機構のばね14)は、堆積又はエッチングの方法で形成することができる。
【0046】
いくつかの実施形態において、回転デバイス又は一体的な要素群は、特に、貴金属又は非貴金属で形成することができ、典型的には、ドイツ語の用語「RoentgenLithographie, Galvanoformung & Abformung」からの省略形LIGAで知られている電鋳技法によって形成することができ、これにおいては、例えば、Ni又はNiP電気めっきによって、型を一又は複数のレベルまで金属で充填する。もちろん、上記の回転デバイスのアセンブリー又は部分を形成することができる任意の種類の電型法を思い描くことができる。
【0047】
いくつかの実施形態において、回転デバイス又は一体的な要素群は、好ましいことに、単一部品の構造を形成することができる。
【0048】
いくつかの実施形態において、回転デバイス又は一体的な要素群は、特に、ケイ素に基づいた材料で作ることができる。
【0049】
いくつかの実施形態において、回転デバイス又は一体的な要素群は、特に、シリコンオンインシュレーター(SOI)法によって形成することができる。この変種において、絶縁体層の上のケイ素層のスタックによって構造が形成されている。この絶縁体は、例えば、二酸化ケイ素(SiO
2)であることができる。SOIウエーハは、適切な形のマスクを使用するいくつかの連続的なエッチングを経る。これらのエッチングは、ウェットエッチングであってもドライエッチングであってもよい。通常、深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)を用いる。
【0050】
いくつかの実施形態において、回転デバイス又は一体的な要素群をアモルファス金属で作ることができる。
【0051】
回転デバイス又は一体的な要素群は、さらに、アセンブリーを支援するために、犠牲構造を有することができる。好ましいことに、本発明によって、ツールビロン機構のキャリッジから車セットをなくすことによって、従来の手法と比較して、ツールビロン機構の動作を改善することができる。したがって、車セットの数が1つ少ないので、結果として得られるツールビロン機構をはるかに平坦にすることができ、また、慣性が小さいので、効率を改善することができる。実際に、本発明の実施形態に係るツールビロン機構は、部品の数が少ないので、慣性を小さくすることができる。このことによって、可撓性ガイドメンバーの双安定を用いる変種の1つでは、パレット石上の引きを小さくし、反動を減らすかなくし、これによって、効率が向上する。
【符号の説明】
【0052】
22 フレーム
30 ベアリング
24 駆動列
1 ツールビロン機構
2 バランス機構
14 ばね
16 バランス車
18 アーバー
20 端
3 エスケープ機構
5 エスケープ車
9 歯
7 パレットレバー
11 回転デバイス
21 弾性アーム
12a 支持要素
26 双安定機構
36 弾性引き要素
38 フック
40 ラチェット歯
12a アンカー領域
13 フォーク
27 ガードピン
15 レバー
17 パレット石
17a エントリーパレット
17b イグジットパレット
4 ローラーデバイス
6 ローラー
10 インパルスピン
8 安全ローラー
12 キャリッジ
28 本体
28a、28b 壁
26 ベアリング
32 エスケープピニオン
34 第4の車
Z
0 ツールビロンデバイスの回転軸
Z
a パレットレバーの仮想回転軸