(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6195903
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】シリカ含有ゴム配合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 3/20 20060101AFI20170904BHJP
C08G 77/04 20060101ALI20170904BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20170904BHJP
C08L 83/04 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
C08J3/20 BCEQ
C08G77/04
C08L101/00
C08L83/04
【請求項の数】8
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2015-506344(P2015-506344)
(86)(22)【出願日】2013年4月18日
(65)【公表番号】特表2015-514843(P2015-514843A)
(43)【公表日】2015年5月21日
(86)【国際出願番号】IB2013053081
(87)【国際公開番号】WO2013156962
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2016年4月5日
(31)【優先権主張番号】TO2012A000347
(32)【優先日】2012年4月18日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100136858
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100179903
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】フランチェスコ ボッティ
(72)【発明者】
【氏名】アレサンドラ バルトローニ
(72)【発明者】
【氏名】ジャンカルロ コッス
【審査官】
増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−057842(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/101228(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/20
C08G 77/04
C08L 83/04
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子基材中にシリカを分散させる工程と、次いで前工程で形成した混合物を硬化剤と混ぜあわせる工程とを含むシリカ含有ゴム配合物の製造方法において、高分子基材中にシリカを分散させる前記工程が,以下の一連の操作,すなわち:
・前記高分子基材を液体シリカ前駆体に浸漬させ、膨潤ポリマーを形成すること;
・前記膨潤ポリマーを有機溶媒に加え、その膨潤ポリマー溶液を絶えずかき回すこと;
・水とシリカ合成触媒を膨潤ポリマー溶液に加えること;
・沈殿剤を加え、ポリマーゲルマトリックスを沈殿させること;
・沈殿したポリマーゲルマトリックスを分離し洗浄すること;
を含むことを特徴とするシリカ含有ゴム配合物の製造方法。
【請求項2】
前記膨潤ポリマー溶液が、5〜35重量パーセントの高分子基材と、0.5〜30重量パーセントの前記シリカ前駆体とを含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水と触媒を加えることで形成されたシリカ粒子の直径が、5〜100ナノメートルであることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記シリカ前駆体が、テトラアルコキシシラン類、ポリスルフィドシラン類、遊離メルカプトシラン類、及びブロック化メルカプトシラン類からなる群に含まれることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記シリカ前駆体が、テトラエトキシシランであることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記シリカ合成触媒が、塩基触媒であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
高分子基材中にシリカを分散させる前記工程が、シリカを合成した後にシラン結合剤を加えることを含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
高分子基材が、SBR、BR、または天然ゴムからなる群より選択され、単独にまたは互いに混合されて使用されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリカ含有ゴム配合物の製造方法に関する。
【0002】
以下、‘膨潤ポリマー’という用語は、そのポリマーが浸漬される液体物質をそのポリマー中に拡散させることによって体積が増加した高分子基材を意味する。
【背景技術】
【0003】
シリカは長期に亘り、タイヤ、特にトレッド用ゴム配合物の補強充填剤として使用されている。
【0004】
シリカは、転がり抵抗とウェット性能においてそれがもたらす有益性のため、カーボンブラックの部分的または完全代用として使用されている。
【0005】
周知のように、シリカは高分子基材中への拡散が困難であることが起因する様々な問題を引き起こす。
【0006】
これはシリカ表面上にあるシラノール基の存在が原因であり、それが水素結合の形成を促進し、その結果シリカ粒子クラスターが形成され、ゴムの疎水性と相いれないシリカの親水性が付与される。
【0007】
当然、配合物中へのシリカの分散の悪さは、配合物の物理的および機械的特性の変動や均一性の欠如、そして特に耐摩耗性の低下をもたらす。この分散性の問題を解決するために、シラノール基と結合し、且つ同時にシリカを高分子基材と化学的に結合させることで水素結合の形成を防ぐシラン結合剤が長期に亘り使われている。
【0008】
高分子基材中、ひいては配合物中にシリカを均一に分散させるには効果的な混合を必要とする。通常、第一混練段階で高分子基材をシリカおよびシラン結合剤と混ぜ合わせ、次いで何も加えずにもっぱらシリカの適切な分散を確実にするための付加的混練段階へと続く。付加的混練段階の後、最終段階として硬化剤を加え前段階の混合物と混練する。
【0009】
シリカの分散を改善するが、付加的混練段階は当業者にはその影響が明らかな高分子基材に圧力をかけるという難点がある。つまり、高分子基材そのものの特性を損なうこともなく高分子基材中のシリカの分散を改善するには混練のみでは十分ではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、高分子基材を長時間混練にさらすことなくシリカの効果的な分散を確実にできるような機械的特性を持つゴム配合物の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、高分子基材中にシリカを分散させる工程と、次いで前工程で形成した混合物を硬化剤と混ぜあわせる工程とを含むシリカ含有ゴム配合物の製造方法において、高分子基材中にシリカを分散させる前記工程が,以下の一連の操作,すなわち:
・前記高分子基材を液体シリカ前駆体に浸漬させ、膨潤ポリマーを形成すること;
・前記膨潤ポリマーを有機溶媒に加え、その膨潤ポリマー溶液を絶えずかき回すこと;
・水とシリカ合成触媒を膨潤ポリマー溶液に加えること;
・沈殿剤を加えポリマーゲルマトリックスを沈殿させること;
・沈殿したポリマーゲルマトリックスを分離し洗浄すること;
を含むことを特徴とするシリカ含有ゴム配合物の製造方法が提供される。
【0012】
好ましくは、前記膨潤ポリマー溶液は5〜35重量パーセントの高分子基材と、0.5〜30重量パーセントの前記シリカ前駆体を含む。
【0013】
好ましくは、水と触媒を加えることで形成されたシリカ粒子の直径は5〜100ナノメートルである。
【0014】
好ましくは、前記シリカ前駆体はテトラアルコキシシラン類、ポリスルフィドシラン類、遊離メルカプトシラン類、及びブロック化メルカプトシラン類からなる群に含まれる。
【0015】
好ましくは、前記シリカ前駆体はテトラエトキシシランである。
【0016】
好ましくは、前記シリカ合成触媒は塩基触媒である。
【0017】
好ましくは、高分子基材中にシリカを分散させる前記工程がシリカを合成した後にシラン結合剤を加えることを含む。
【0018】
好ましくは、高分子基材がSBR、BR、または天然ゴムからなる群より選択され、単独にまたは互いに混合されて使用される。
【0019】
本発明によれば、本発明の方法を用いて製造されたゴム配合物も提供される。
【0020】
本発明によれば、少なくともその一部が本発明の方法を用いて製造された配合物でできているタイヤも提供される。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下は、本発明の理解を明確にするための非限定的な実施例である。
【実施例】
【0022】
配合物(配合物A)を本発明に従って製造し、また二種の対照配合物(配合物BおよびC)を配合物Aと同じ配合割合だが従来の混練方法で製造した。とりわけ、配合物Bは下記手順で製造した:
【0023】
(第一混練工程)
混練作業を始める前に、230〜270リットル接線式ロータミキサーに、充填率が66〜72%となるまで架橋性高分子基材、シリカ、シラン結合剤、そしてオイルを投入した。
【0024】
ミキサーを毎分40〜60回転の速度で操作し、140〜160℃の温度に達したら得られた混合物を取り出した。
【0025】
(第二混練工程)
前工程で得られた混合物に、充填率が63〜67%となるまで硬化系を投入した。
【0026】
ミキサーを毎分20〜40回転の速度で操作し、100〜110℃の温度に達した時点で得られた混合物を取り出した。
【0027】
配合物Cは配合物Bと同じ手順を用いて製造されたが、中間混練という工程が追加され、その工程では第一混練工程で得られた混合物を毎分40〜60回転の速度で操作されるミキサーでさらに混練し、130〜150℃の温度に達した時点で混合物を取り出した。
【0028】
表1は、配合物BとCの処方と従来のバンバリーミキサーを用いて行った混練工程を示している。
【0029】
【表1】
【0030】
S-SBRポリマーのphr値は乾燥ポリマーを意味する。
【0031】
使用したシリカは "Ultrasil" の商品名でEvonik社から市販されており、その表面積は130m
2/gである。
【0032】
配合物A
配合物Aを製造するため、シリカ含有ポリマー組成物を以下のゾルゲル法を用いて製造した:
・250gのテトラエトキシシランを100gのS-SBR上に沈着させ、6時間かけて膨潤させた;
・膨潤ポリマーを1.5リットルのTHFに溶解し、得られた溶液をゆっくりと24時間かき混ぜた;
・5gのn-ヘキシルアミンと58gの水を膨潤ポリマー溶液に加え、周囲温度で30時間かき混ぜた;膨潤ポリマーを有機溶媒に溶解した後にだけシリカ合成触媒を加えることが特に重要である;
・次に7gのSI75シラン結合剤を加え、溶液を50℃で72時間かき混ぜた;シラン結合剤は、下記で述べるようにポリマーゲルマトリックスを分離した後に加えてもいいが、シリカがその前駆体から形成された後にだけ加えることが重要である;FIB-SEM装置を用いて、得られたシリカ粒子の平均直径が80 nmであり、非常に浅い直径分布曲線であることがわかった;
・アセトンを加えポリマーゲルマトリックスを沈殿させる;
・沈殿したポリマーゲルマトリックスを分離し乾燥させる。
【0033】
このようにしてシリカ含有ポリマー組成物が得られた。
【0034】
ポリマー組成物は、その後、上述した配合物BおよびCと同じ成分を用いて同様に第二混練工程にさらされた。
【0035】
したがって、配合物Aは配合物BおよびCと同じ組成を持つが、製造方法が異なる。そのためこれら三種の配合物の特性の違いは、それぞれの製造方法のみに起因する。
【0036】
配合物A〜Cを試験し、転がり抵抗、耐摩耗性、ウェット路面保持性能、そして粘度を測定した。すなわち、耐摩耗性はDIN規格53516により測定し;粘度はASTM規格D1646により測定し;転がり抵抗とウェット路面保持性能は、ASTM規格D5992により測定されたtan δ から推定した。
【0037】
表2は配合物Bの値に対して指数化された上記試験の値を示している。
【0038】
【表2】
【0039】
表2に示す結果から明らかなように、付加的混練工程で達成可能な分散性と比較しても、本発明の方法はシリカの分散を大きく改善させる。実際、表2の結果に示されているように、付加的混練工程により転がり抵抗、耐摩耗性、そして粘度は向上されたが(配合物CおよびBとの対比)、本発明によるポリマーゲルマトリックスを用いると転がり抵抗と耐摩耗性がさらに向上された(配合物AおよびCとの対比)。当業者には明らかであるように、これらの向上は高分子基材中のシリカの分散が改善されたということを明確に示している。
【0040】
本発明の方法は、また、単一量のポリマーゲルマトリックスの製造を可能にし、硬化剤を加える一回の混練工程でそのポリマーゲルマトリックスから多くのシリカ含有ゴム配合物を製造できるので、生産高においても利点をもたらす。