(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
A.第1実施形態:
[センサ素子の構成]
図1は、本願発明の一実施形態としてのセンサ素子10を示す概略斜視図である。センサ素子10は、共振型センサにおける感応部として用いられる。センサ素子10は、本体基板であるSOI基板11に振動子100が形成されている。ここで、「SOI」とは、「Silicon on Insulator」の略称である。振動子100は、センサ素子10のSOI基板11の表面に沿った所定の方向に付与される外力に応じて、その共振周波数が変化する。センサ素子10は、振動子100の共振周波数を表す信号を出力する。
【0024】
図2は、センサ素子10が備える振動子100の構成を示す概略斜視図である。
図2には、センサ素子10のSOI基板11の表面に平行な、互いに直交する矢印X,Yを図示してある。矢印Xは本体振動部110におけるビーム部111の延伸方向に平行な方向を示しており、矢印Xに直交する矢印Yが示す方向はビーム部111の振動方向に一致する。以下では、矢印Xの示す方向に平行な方向を「X軸方向」と呼び、矢印Yが示す方向に平行な方向を「Y軸方向」と呼ぶ。なお、
図2では、便宜上、紙面手前側に図示された電極部150が有する外側固定電極130および内側固定電極140については図示を省略してある。
【0025】
振動子100は、本体振動部110と、2つの電極部150と、を備える。本体振動部110は、枠形状を有する音叉振動子によって構成されており、2本のビーム部111と、2つの連結部112と、2つの固定部113と、を備える。2本のビーム部111は略直線状に延びる柱状の部位であり、互いに平行に配列されている。2つの連結部112はそれぞれ各ビーム部111の端部同士を連結している。2つの固定部113は、各ビーム部111の両端側に配置されている略板状の部位であり、各連結部112の中央に連結軸113sを介して接続されている。本体振動部110は、2つの略U字状の音叉が開放端部において互いに結合されたものに相当する。
【0026】
2つの電極部150は、本体振動部110を中心として、左右対称に配置されている。各電極部150は、可動電極120と、外側固定電極130と、内側固定電極140と、を備える。可動電極120は、中央基体部121と、延伸部122と、櫛歯部123a,123bと、を有する。中央基体部121は、ビーム部111の中央部位と連結軸111sを介して連結されている。
【0027】
延伸部122は、中央基体部121を中心としてX軸方向に対称に延びている柱状部位であり、本体振動部110のビーム部111と平行に延びている。櫛歯部123a,123bは、Y軸方向に互いに並列に延びている複数(例えば数十個以上)の突起部によって構成されている。櫛歯部123a,123bの各突起部は等間隔で配列されている。櫛歯部123a,123bはそれぞれ、延伸部122の本体振動部110と対向する側の面とその反対側の面とに設けられている。
【0028】
外側固定電極130は、励振回路(後述)から電圧が印加される駆動電極であり、可動電極120の外側に配置されている。ここで、「可動電極120の外側」とは、可動電極120に対して本体振動部110が配置されている側とは反対の側を意味する。各外側固定電極130は、延伸部131と、櫛歯部132と、を有する。外側固定電極130の延伸部131は、可動電極120の延伸部122と並列に延びている。
【0029】
外側固定電極130の櫛歯部132は、延伸部131の側面に、櫛歯状の複数の並列な突起部として形成されている。外側固定電極130の櫛歯部132は、可動電極120の外側の櫛歯部123aに対して互いに噛み合うように配置されている。すなわち、外側固定電極130の櫛歯部132と、可動電極120の外側の櫛歯部123aとは、互いの各突起部が離間した状態で交互に配列されるように配置されている。
【0030】
内側固定電極140は、励振可動電極120との間の静電容量の変動に伴って変動する電荷量を励振回路に出力する検知電極であり、可動電極120の内側に配置されている。ここで、「可動電極120の内側」とは、可動電極120に対して、本体振動部110が配置されている側を意味する。各内側固定電極140は、2つに分離された延伸部141と、櫛歯部142と、を有する。内側固定電極140の2つの延伸部141はそれぞれ、本体振動部110と可動電極120との間の連結軸111sを挟んでX軸方向に互いに対称に設けられており、可動電極120の延伸部122と並列に延びている。
【0031】
内側固定電極140の櫛歯部142は、各延伸部141における可動電極120側の側面に、櫛歯状の複数の並列な突起部として形成されている。内側固定電極140の櫛歯部142は、可動電極120の内側の櫛歯部123bに対して互いに噛み合うように配置されている。すなわち、内側固定電極140の櫛歯部142と、可動電極120の内側の櫛歯部123bとは、互いの各突起部が離間した状態で交互に配列されるように配置されている。
【0032】
図3は、センサ素子10のSOI基板11における各部位ごとの断面構成を示す概略断面図である。
図3の(A)欄には、本体振動部110が形成されている部位(
図2のA−A切断に相当する部位)の概略断面図を図示してある。
図3の(B)欄には、可動電極120の櫛歯部123aを構成する突起部と、外側固定電極130の櫛歯部132を構成する突起部と、が交互に配列されている部位(
図2のB−B切断に相当する部位)の概略断面図を図示してある。
図3の(C)欄には、可動電極120の櫛歯部123bを構成する突起部と、内側固定電極140の櫛歯部142を構成する突起部と、が交互に配列されている部位(
図2のC−C切断に相当する部位)の概略断面図を図示してある。
【0033】
センサ素子10のSOI基板11は、シリコン基板11bの上に、二酸化ケイ素(SiO
2)の薄膜層である中間酸化膜層11mと、表面シリコン層11sと、が積層された積層構造を有している。振動子100は、SOI基板11の表面シリコン層11sと中間酸化膜層11mとがエッチングされることによって形成されている(後述)。なお、センサ素子10では、表面シリコン層11sの上にガラス板が配置されるが(後述)、ここでは便宜上、その図示を省略してある。
【0034】
本体振動部110の固定部113は中間酸化膜層11mを挟んでシリコン基板11b上に配置されることによって位置が固定されている(
図3の(A)欄)。これに対して、本体振動部110の固定部113以外の部位(ビーム部111、連結部112、連結軸111s,113s)は、直下の中間酸化膜層11mが除去されていることによって、シリコン基板11bから離間して浮いた状態で固定部113に保持されている。
【0035】
電極部150の外側固定電極130および内側固定電極140は中間酸化膜層11mを挟んでシリコン基板11b上に配置されることによってその位置が固定されている(
図3の(B)欄および(C)欄)。これに対して、電極部150の可動電極120の全体は、直下の中間酸化膜層11mが除去されていることによってシリコン基板11bから離間して浮いた状態となっており、連結軸111sを介して本体振動部110のビーム部111に保持されている。
【0036】
[センサ素子の駆動]
図4は電極部150における振動の発生を説明するための模式図である。
図4には電極部150における一部(可動電極120の櫛歯部123aと外側固定電極130の櫛歯部132とが互いに噛み合っている部位)を斜視図によって模式的に図示してある。センサ素子10の駆動時には、可動電極120と外側固定電極130との間には電圧が印加され、互いに対向している櫛歯部123a,132の間に静電気力が生じる。
【0037】
上述したとおり、可動電極120の全体は、シリコン基板11b(
図3)から離間して浮いた状態で保持されているため、前記の静電気力の周期的な変動に応じて、外側固定電極130との間の距離が変動して振動する。可動電極120の振動によって、可動電極120と内側固定電極140との間の距離が変動して両電極120、140間の静電容量が変化するため、内側固定電極140における電荷量が変動する。
【0038】
図5は、センサ素子10を駆動するための励振回路30の構成を示す概略図である。センサ素子10は、励振回路30とともに正帰還型の発振回路を構成し、固有の共振周波数で自励発振する。励振回路30は、チャージアンプ部31と、フィルター部32と、コンパレーター部33と、を備える。
【0039】
チャージアンプ部31は、オペアンプ31aと、帰還抵抗器31rと、帰還コンデンサー31cと、を備えた反転増幅回路として構成されている。オペアンプ31aのマイナス側入力端子は、検知端子16aを介してセンサ素子10に接続されている。チャージアンプ部31は、振動子100の内側固定電極140における電荷量の変化を電圧信号に変換し、フィルター部32に出力する。
【0040】
フィルター部32は、カップリングコンデンサー32cと、入力抵抗器32raと、オペアンプ32aと、帰還抵抗31rbと、を備えた反転増幅回路として構成されている。カップリングコンデンサー32cは、チャージアンプ部31とのカップリングを行う。フィルター部32は、カップリングコンデンサー32cを通過した所定の周波数以上の信号を増幅するフィルターとして機能する。
【0041】
コンパレーター部33は、オペアンプ33aを備え、2つの入力端子の電圧を比較する非反転増幅回路として構成されており、フィルター部32の出力を整形する。コンパレーター部33のオペアンプ33aは2つのコンプリメンタリーな出力を有する。オペアンプ33aのプラス側出力は帰還抵抗33rを介してコンデンサー33cが接続されたマイナス側の入力端子に接続されている。また、オペアンプ33aのマイナス側出力は出力端子33oに接続され、外部の信号検出部(図示は省略)に対して、センサ素子10を含んだ回路の共振周波数を示す信号を出力する。
【0042】
励振回路30は遅れのある正帰還回路として働くため、センサ素子10は振動子100の固有振動数に応じた共振状態で振動することになる。なお、センサ素子10を駆動するための励振回路としては
図5に示された励振回路30に限られず、正帰還となる励振回路であれば、種々のタイプの励振回路を用いることができる。
【0043】
図6は、振動子100の共振状態を説明するための模式図である。
図6の(A)欄には静止状態のときの振動子100の概略正面図を図示してあり、(B)欄には共振状態のときの振動子100の概略正面図を図示してある。なお、
図6では、外側固定電極130および内側固定電極140の図示は省略してある。また、
図6には、振動子100の仮想中心軸CLを一点鎖線で図示してある。センサ素子10では、その駆動時に、振動子100が共振状態となる。
【0044】
ここで、振動子100の「共振状態」とは、本体振動部110の2本のビーム部111が仮想中心軸CLを中心として左右対称に撓み振動している状態である。本実施形態のセンサ素子10では、共振状態のときには、本体振動部110の2本のビーム部111が可動電極120の変位によって、互いに反対方向に同じ周期および振幅で撓み振動する。
【0045】
また、本実施形態のセンサ素子10では、2つの可動電極120が、本体振動部110の2本のビーム部111とともに撓み振動する。可動電極120は、可動電極120の長さや太さ、密度、剛性を、本体振動部110の形状に応じて調整することによって、共振状態のときに撓み振動させることができる。本実施形態の振動子100では、可動電極120の撓み振動によって振動子100の振動特性が改善されているが、その詳細については後述する。
【0046】
図7は、外力によるセンサ素子10の共振周波数の変化を説明するための模式図である。
図7には振動子100における本体振動部110の音叉部分を抜き出して模式的に図示してある。
図7の紙面上段には静止状態のときの本体振動部110の音叉部分の概略斜視図を図示してあり、紙面下段には共振状態のときの本体振動部110の音叉部分の概略正面図を図示してある。上述したように、本体振動部110の音叉部分は、2本の並列なビーム部111と、各ビーム部111の両端部を連結する連結部112と、で構成されている。
【0047】
本体振動部110の音叉部分は、2本のビーム部111のそれぞれに対して、外部から、Y軸方向の励振力Fを同じタイミングで付与されると共振状態になる。2本のビーム部111に対して励振力Fと直交する方向(X軸方向)に外力Pが付与されると、その外力Pによって2本のビーム部111には応力が生じる。これによって、各ビーム部111の撓みやすさが変化し、本体振動部110の音叉部分の共振周波数が変化する。なお、本実施形態のセンサ素子10では、励振力Fは可動電極120から付与され、外力Pは、シリコン基板11b(
図3)に固定されている本体振動部110の固定部113を介して付与される。
【0048】
図8は、本実施形態のセンサ素子10の周波数特性を説明するための説明図である。
図8には、横軸を周波数とし、縦軸を振幅とするセンサ素子10の周波数特性を示すグラフを図示してある。
図8では、外力が付与されていない状態のときのセンサ素子10の周波数特性を示すグラフの一例を実線で示し、外力が付与されたときのセンサ素子10の周波数特性を示すグラフの一例を破線で示してある。
【0049】
この周波数特性を示すグラフは、外部からセンサ素子10の外側固定電極130に付与した交流電圧の周波数を変化させたときに内側固定電極140に接続されているチャージアンプから出力される信号の振幅の変化を示している。以下では、
図8のグラフのような周波数特性を示すグラフを「周波数特性グラフ」と呼ぶ。なお、本明細書において説明に用いられる周波数特性グラフはいずれも同様な方法によって取得されるものである。
【0050】
周波数特性グラフ中の共振峰におけるセンサ素子10の共振周波数frはセンサ素子10に付与された外力に応じて横軸方向にシフトする。従って、初期状態の振動子100の共振周波数frからの共振周波数の変化量Δfrを検出することによって、センサ素子10に付与されている外力を検出することができる。
【0051】
本実施形態のセンサ素子10では、前記したように、振動子100が共振状態のときに可動電極120が撓み振動をするように構成されており(
図6)、これによって、センサ素子10の周波数特性が改善され、その線形性を高められている。以下では、比較例を用いて、その理由を説明する。
【0052】
[振動特性の改善]
図9は、本発明の比較例としてのセンサ素子を構成する振動子100aを示す概略図である。
図9の(A)欄には静止状態のときの比較例の振動子100aの概略正面図を図示してあり、(B)欄には、共振状態のときの振動子100aの概略正面図を図示してある。なお、
図9では、本実施形態の振動子100の構成部と同様な構成部については、本実施形態の振動子100と同じ符号を付してある。また、
図9では、外側固定電極130および内側固定電極140の図示を省略してある。比較例のセンサ素子は、振動子100aを備えている点以外は、本実施形態のセンサ素子10とほぼ同じ構成を有している。比較例の振動子100aは、共振状態のときに、可動電極120が往復移動を繰り返すのみで、ほとんど撓み振動をしない構成を有している。
【0053】
図10は、比較例のセンサ素子の周波数特性を説明するための説明図である。
図10には、比較例のセンサ素子の周波数特性グラフの一例を図示してある。なお、
図10では、共振型のセンサ素子に求められる理想の周波数特性グラフを破線で示してある。また、センサ素子に対する印加電圧が小さいときの周波数特性グラフを実線で示し、印加電圧が大きいときの周波数特性グラフを一点鎖線で示してある。
【0054】
比較例のセンサ素子では、印加電圧が小さく出力信号の振幅が低い状態であれば、振動子100aの安定的な振動が確保される(実線グラフ)。しかし、印加電圧を大きくして出力信号の振幅を大きくしていくと、振動子100aの振動は不安定になり、周波数特性グラフにおける共振峰を中心とする対称性は崩れてしまう(一点鎖線のグラフ)。これは、以下に説明する振動子100aにおけるハードスプリング効果の影響による。
【0055】
図11は、比較例の振動子100aにおけるハードスプリング効果を説明するための模式図である。
図11には、比較例の振動子100aにおいてビーム部111に生じるハードスプリング効果を概念的に図示してある。比較例の振動子100aでは、ビーム部111は両端部が連結部112に固定された状態で撓み振動する。ビーム部111の撓み方向への振幅がある程度大きくなると、ビーム部111の延伸方向における剛性が、ビーム部111の延伸方向への延びを抑制する方向に働く。そのため、ビーム部111の延伸方向におけるバネ定数が増大し、ビーム部111の撓み振動を抑制してしまう方向に働く。一般に、このような撓み方向における振幅の増大に伴うビーム部111のバネ定数の増大は「ハードスプリング効果」と呼ばれる。このハードスプリング効果によって、比較例の振動子100aの振幅を大きくしたときの安定的な振動が阻害される。
【0056】
図12は、本実施形態の振動子100が共振状態にあるときに可動電極120の撓み振動を概念的に示す模式図である。可動電極120の根元は中央基体部121に固定されているため(
図6)、可動電極120の撓み振動は、
図12に示すような根元が固定された片持ち梁の振動モデルとして捉えることができる。
【0057】
本実施形態の振動子100では、振幅を大きくしたときに、可動電極120はハードスプリング効果の影響が現れることなく撓み振動することができる。従って、振動子100の共振状態のときには、ビーム部110の振幅が大きいほど、可動電極120における撓み振動の振動成分の影響が大きくなる。そのため、振動子100全体で見たときに、振幅が大きいときのハードスプリング効果の影響は緩和され、振動子100の線形的な周波数特性が改善される。このように、振動子100の共振状態のときには、可動電極120における撓み振動の振動成分が振動子100全体の振動特性に影響する。
【0058】
また、以下に説明するように、本実施形態の振動子100の固有振動数fdは、可動電極120の撓み振動の振動成分によって、比較例の振動子100aの固有振動数fsよりも小さくなる。ここで、比較例の振動子100a(
図9)と本実施形態の振動子100(
図2)におけるビーム部111のバネ定数をkとし、可動電極120の質量をmとする。このとき、共振状態のときの比較例の振動子100aは、バネ定数kの弦巻バネの両端に質量mのマスが取り付けられたモデルとして表わされる。従って、比較例の振動子100aの固有振動数fsは下記の式(1)として表される。
fs=(k/m)
0.5/2π …(1)
【0059】
これに対して、共振状態のときの本実施形態の振動子100は、可動電極120の撓み振動を考慮すると、本体振動部110に相当するバネ定数kの弦巻バネの両端に、質量mでバネ定数k
mの弦巻バネが取り付けられたモデルとして表わされる。このモデルの固有振動数fdにおけるバネ定数k
impは、振動子100のビーム部111のバネ定数kに可動電極120に相当する弦巻バネのバネ定数k
mを直列的に合成した値に相当する(下記の式(2))。
k
imp=k・k
m/(k+k
m) …(2)
【0060】
上記の式(2)から、共振状態のときの本実施形態の振動子100では、振動子100全体のバネ定数k
impは本体振動部110におけるバネ定数kよりも小さくなることがわかる(k>k
imp)。なお、このバネ定数k,k
impの関係から、比較例の振動子100aの固有振動数fsと、本実施形態の振動子100の固有振動数fdと、の間には以下の不等式(3)の関係が成立する。
fd<fs …(3)
【0061】
以上のように、本実施形態の振動子100であれば、可動電極120の撓み振動によって、振動特性に対するハードスプリング効果の影響が比較例の振動子100aよりも緩和され、線形的な振動特性が改善される。従って、本実施形態の振動子100であれば、比較例の振動子100aよりも、センサ素子10の検出精度を向上させることができる。
【0062】
[実施例1]
図13〜
図15はそれぞれ、3つの振動子モデルMD1〜MD3の構成を示す模式図である。
図13〜
図15にはそれぞれ(A)欄と(B)欄とに、各振動子モデルMD1〜MD3の静止状態と共振状態とを模式的に図示してある。なお、
図13〜
図15では可動電極120の両側の外側固定電極130および内側固定電極140の図示は省略してある。実施例1では、共振状態における振幅を大きくしたときに振動子100の振動の安定性が確保される本体振動部110と可動電極120との振幅の比を説明する。
【0063】
各振動子モデルMD1〜MD3は、
図2で説明した振動子100と同様に、本体振動部110と、2つの電極部150と、を備えている。各振動子モデルMD1〜MD3は、本体振動部110のビーム部111の長さと、電極部150における可動電極120の長さの比を変えることによって、本体振動部110における振幅と、可動電極120における振幅の比を変えてある。
【0064】
ここで、本明細書では、共振状態における可動電極120の最大振幅as(先端部の振幅)に対する本体振動部110のビーム部111の最大振幅am(ビーム部111の中央部位の振幅)の比の値(am/as)を「振幅比」と呼ぶ。各振動子モデルMD1〜MD3はそれぞれ、振幅比が1,0.5,0.3である。
【0065】
第1の振動子モデルMD1(
図13)は、共振状態における可動電極120の最大振幅asと、ビーム部111の最大振幅amと、が等しいモデルである(am=as;振幅比1.0)。第1の振動子モデルMD1では、可動電極120がほとんど撓み振動せず、可動電極120の先端部は本体振動部110のビーム部111の中央部位とほとんど同じ振幅で振動する。
【0066】
第2の振動子モデルMD2(
図14)は、共振状態における可動電極120の最大振幅asは、ビーム部111の最大振幅amに対してほぼ2倍である(as=2・am;振幅比0.5)。第2の振動子モデルMD2では、共振状態のときに可動電極120が撓み振動することによって、可動電極120の先端部の振幅が本体振動部110のビーム部111の中央部位の倍になっている。
【0067】
第3の振動子モデルMD3(
図15)は、共振状態における可動電極120の最大振幅asは、ビーム部111の最大振幅amに対してほぼ3倍である(as=3・am;振幅比約0.3)。第3の振動子モデルMD3では、共振状態における可動電極120の撓み振動の度合いが第2の振動子モデルMD2よりも大きく、可動電極120の先端部の振幅が本体振動部110のビーム部111の中央部位の3倍になっている。
【0068】
図16は、上記の各振動子モデルMD1〜MD3の振幅比に応じたセンサ素子10の出力特性の改善を説明するための説明図である。
図16には、横軸を振幅比とし、縦軸を非線形指数とするグラフを図示してある。ここで、「非線形指数」とは、共振型センサの周波数特性の非対称性を示す指標であり、以下のように取得される値である。
【0069】
図17は、非線形指数の取得方法を説明するための説明図である。
図17には、共振型センサのセンサ素子の周波数特性グラフの一例を図示してある。非線形指数は、センサ素子の周波数特性グラフから以下のように取得される。
[1]センサ素子の周波数特性グラフにおいて、共振峰の最大値αと、共振峰の最大値αのときの周波数f
αと、を取得する。
[2]振幅が、α/√2以上になる周波数の範囲f
1〜f
2(f
1<f
2)を求める。
[3]この周波数の範囲f
1〜f
2を、その中心を0、f
1を−1、f
2を1として目盛りを付し、その目盛り上において、周波数f
αに対応する値nlを取得する。この値nlが、センサ素子の非線形指数である。
【0070】
上記の手順[1]〜[3]によって取得された非線形指数は、共振型センサの周波数特性グラフにおいて共振峰のピークが中心から外れている度合いを示しており、共振型センサの周波数特性グラフにおける対称性の崩れの度合いを示している。非線形指数は、その絶対値が小さいほど、共振型センサの出力特性グラフが対称性を有しており、共振型センサの振動子がより安定的に振動していることを示す。
【0071】
図16のグラフにおける非線形指数は、各振動子モデルMD1〜MD3を備えるセンサ素子について、各振動子モデルMD1〜MD3において同じだけ静電容量を変化させたときに得られた値である。このグラフに示されているように、各振動子モデルMD1〜MD3を用いたセンサ素子では、非線形指数は、各振動子モデルMD1〜MD3の振幅比に対してほぼ線形的に小さくなった。具体的に、振幅比が0.5である振動子モデルMD2において非線形指数は0.40より小さくなり、振幅比が0.3である振動子モデルMD3において非線形指数は0.20よりも小さくなった。
【0072】
この結果から、振動子100が共振状態のときに、本体振動部110の可動電極120の最大振幅asは、ビーム部111の最大振幅amに対して2倍以上であることが好ましく、3倍以上であることがより好ましいことがわかる。このように、振動子100において、共振状態のときの本体振動部110の振幅に対して共振状態のときの可動電極120の振幅を大きくすれば、安定した振動が確保され、センサ素子10の線形的な周波数特性が改善される。
【0073】
[実施例2]
図18は4つのセンサ素子10のサンプルS1〜S4が備える振動子100の構成をまとめた表を示す説明図である。
図18の表には、センサ素子10のサンプルS1〜S4が備える振動子100の概略構成図と、共振周波数に関するパラメータと、をまとめてある。なお、表中の振動子100の概略構成図では、電極部150については、可動電極120以外の図示は省略してある。実施例2では、センサ素子10の駆動安定性と感度とを確保できる振動子100の共振周波数の規定を説明する。
【0074】
各サンプルS1〜S4が備える振動子100は、
図2で説明した、本体振動部110と、電極部150と、を備えている。各サンプルS1〜S4の振動子100は、以下の点以外はほぼ同じ構成である。各サンプルS1〜S4の振動子100では、本体振動部110におけるビーム部111の長さと、電極部150における可動電極120の長さの関係がそれぞれ以下のように異なっている。
【0075】
サンプルS1〜S3の振動子100におけるビーム部111の長さLa1〜La3は、サンプルS1〜S3の順で小さくなっている(La1>La2>La3)。また、サンプルS1〜S3では、振動子100における可動電極120の長さがそれぞれ等しい(Lb1=Lb2=Lb3)。サンプルS4では、ビーム部111の長さLa4は、サンプルS1〜S3のビーム部111の長さLa1〜La3より小さい(La4<La1,La2,La3)。また、サンプルS4では、可動電極120の長さLb4は、サンプルS1〜S3の可動電極120の長さLb1〜Lb3より短い(Lb4<Lb1=Lb2=Lb3)。
【0076】
上記のような構成の相違によって、各サンプルS1〜S4では、振動子100全体の共振周波数(全体共振周波数fw)に対する可動電極120のみの共振周波数(電極部共振周波数fe)の比の値(電極共振比Rf;Rf=fe/fw)が異なっている。ここで、「全体共振周波数fw」は、外力が付与されていないときのセンサ素子10の共振周波数に相当する。また、「電極部共振周波数fe」は、振動子100から可動電極120のみを抜き出して撓み振動させたときの可動電極120単体の共振周波数に相当する。
【0077】
「電極共振比Rf」は、振動子100全体の共振周波数を基準として可動電極120の共振周波数の大きさが表された値である。電極共振比Rfが1に近いほど、可動電極120の撓み振動が振動子100の全体の振動に与える影響が大きくなり、共振状態における振動子100の振動がより安定化する。すなわち、電極共振比Rfは、振動子100の振動の安定化に対する可動電極120の撓み振動の寄与度を示す値であると解釈できる。
【0078】
各サンプルS1〜S4の電極共振比Rfは以下の通りである。サンプルS1の電極共振比Rfは4.7であった。サンプルS2の電極共振比Rfは2.7であった。サンプルS3の電極共振比Rfは1.5であった。サンプルS4の電極共振比Rfは1.3であった。このように、各サンプルS1〜S4の電極共振比Rfは、サンプルS4,S3,S2,S1の順で1に近かった。
【0079】
図19は、各サンプルS1〜S4の駆動安定性についての評価結果を示す説明図である。
図19の紙面上段には各サンプルS1〜S4における静電容量の変化幅ΔCと非線形指数との関係を示すグラフを図示してあり、紙面下段にはそのグラフから求められた各サンプルS1〜S4ごとのN指数をまとめた表を図示してある。
【0080】
ここで、「静電容量の変化幅ΔC」は、センサ素子10に外部から交流電圧を印加し、その駆動周波数を挿引したときの電極部150の各電極120,130,140間における静電容量が変化した幅である。静電容量の変化幅ΔCは振動子100の振幅に相当し、センサ素子10の駆動電圧に応じて変化する。
【0081】
「非線形指数」は、
図16,
図17において説明したパラメータであり、その絶対値が小さいほど、共振型センサの振動子がより安定的に振動していることを示す。
図19のグラフでは、電極共振比Rfが1に近いサンプルほど、静電容量の変化幅ΔCに対する非線形指数の変化の勾配が緩やかになる関係が得られた。このように、電極共振比Rfが1に近いほど、共振状態における振動子100の振動の安定性が高くなった。
【0082】
表中の「N指数」は、本発明の発明者が、センサ素子10の出力信号におけるノイズの小ささ(低ノイズ性)を示す指標として、
図19の紙面上段のグラフに基づいて規定した値である。具体的に、N指数は以下のように求めた。非線形指数0.3をセンサ素子10が安定的に駆動できる限界値として規定し(この理由については後述する)、この限界値のときの各サンプルS1〜S4の静電容量の変化幅ΔCを
図19のグラフから求めた。そして、各サンプルS1〜S4について得られた静電容量の変化幅ΔCの値(20,30,55,85)を、最も小さい値(20)で除した逆数を「N指数」とした。
【0083】
N指数は、その値が小さいほど、センサ素子10が安定的に駆動できる限界における静電容量の変化幅ΔCが大きいことを示している。すなわち、N指数が小さいセンサ素子10ほど、安定的に駆動できる限界における振動子100の振動の安定性が高く、出力信号におけるノイズが小さい。各サンプルS1〜S4のN指数は、1(基準),0.67,0.36,0.24であった。このように、サンプルS4,S3,S2,S1の順で低ノイズ性が高い評価結果となった。
【0084】
図20は、センサ素子10が安定的に駆動できる非線形指数の限界値を0.3に規定した理由を説明するための説明図である。
図20の(A)欄〜(D)欄にはそれぞれ、非線形指数が0.40,0.36,0.26,0.17のときのセンサ素子10の周波数特性グラフの一例を図示してある。
【0085】
センサ素子10の駆動状態は、非線形指数が0.40のときにはほとんど安定せず((A)欄)、非線形指数が0.36のときにわずかに安定した((B)欄)。また、非線形指数が0.26のときには許容できる程度の安定性が確保され((C)欄)、非線形指数が0.17のときには十分に高い安定性が確保された((D)欄)。本発明の発明者は、この実験的な知見に基づいて、センサ素子10において駆動安定性が得られる非線形指数の限界値を0.3に規定した。
【0086】
図21は、各サンプルS1〜S4の感度についての評価結果を示す説明図である。
図21の紙面上段には各サンプルS1〜S4の感度の測定値を示す棒グラフを図示してあり、
図21の紙面下段には各サンプルS1〜S4の感度の測定値に対して得られたS指数をまとめた表を図示してある。ここで、感度の測定値は、各サンプルS1〜S4に1μεの歪みを印加したときの周波数の変化量として取得した値である。
【0087】
各サンプルS1〜S4について、非線形指数が上記の限界値0.3のときの駆動状態で感度を計測したところ、それぞれ、25.0ppm/με,19.0ppm/με,4.2ppm/με,1.8ppm/μεであった。このように、電極共振比Rfが1から離れた値であるサンプルほど感度が高くなった。これは、可動電極120の撓み振動がセンサ素子10に付与される外力にほとんど影響されないため、センサ素子10の共振における可動電極120の撓み振動の影響が大きい場合には、外力に対する共振周波数の変化が緩やかになるためであると推察される。
【0088】
ここで、各サンプルS1〜S4について得られた感度の測定値25.0,19.0,4.2,1.8を、最も大きい測定値25で除した値を「S指数」とした。S指数は、その値が大きいセンサ素子10ほど安定的に駆動できる限界においても高い感度が確保されることを示している。各サンプルS1〜S4のS指数は、1(基準),0.75,0.17,0.07であった。このように、サンプルS1〜S4は、この順で、安定的に駆動できる限界における感度が確保されていることが示された。
【0089】
図22は、各サンプルS1〜S4における低ノイズ性と感度との両立性の評価結果を示す説明図である。
図22の紙面上段には、
図19で求めたN指数と、
図21で求めたS指数と、それらに基づいて求めたS/N指数と、をまとめた表を図示してある。また、紙面下段には各サンプルS1〜S4ごとのS/N指数の棒グラフを図示してある。
【0090】
これまで説明してきたように、センサ素子10では、振動子100の共振における可動電極120の撓み振動の影響が大きいほど、出力信号におけるノイズを低減できる一方で、外力に対する感度が低下してしまう。センサ素子10では、出力信号における低ノイズ性と、外力に対する感度と、が高いレベルで両立されることがより望ましい。
【0091】
S/N指数は、センサ素子10の感度に関するS指数を、センサ素子10の低ノイズ性に関するN指数で除することによって得られる値である。すなわち、S/N指数は、センサ素子10の低ノイズ性と感度とのバランスの高さを示す指標であり、その値が大きいほど良好なバランスが得られていることを示している。各サンプルS1〜S4のS/N指数は、1(基準),1.13,0.47,0.29であった。このように、サンプルS2,S1,S3,S4の順で、低ノイズ性と感度とが高いレベルで両立されていた。
【0092】
図23は、サンプルS1〜S4において得られた電極共振比RfとS/N指数指数との関係を示す説明図である。
図23には、横軸を電極共振比Rfとし、縦軸をS/N指数とするグラフを図示してある。
【0093】
電極共振比Rfが1.5以上であれば、0.4以上のS/N指数が確保され、電極共振比Rfが2.0以上であれば、0.7以上のS/N指数が確保された。従って、電極共振比Rfは1.5以上であることが好ましく、2.0以上であることがより好ましい。電極共振比Rfが2.5以上であれば1.0以上のS/N指数が確保された。従って、電極共振比Rfが2.5以上であることがさらに好ましい。
【0094】
一方、電極共振比Rfが2.7より大きくなるとS/N指数は緩やかな低下傾向を示した。電極共振比Rfは、0.8以上のS/N指数を確保するためには少なくとも6.0以下であることが好ましく、4.0以下であることがより好ましい。電極共振比Rfは3.0以下であることがさらに好ましい。
【0095】
以上のように、振動子100における電極共振比Rfが上記のような適切な範囲で規定されていることによって、センサ素子10の低ノイズ性と感度とが高いレベルで両立されるため、より望ましい。
【0096】
[センサ素子の製造工程]
図24,
図25は、センサ素子10の製造工程を説明するための模式図である。
図24の(A)欄〜(D)欄と、
図25の(E)欄〜(H)欄にはそれぞれ、センサ素子10の製造工程の内容を示す模式図を工程順に図示してある。第1工程では、表面シリコン層11sと、中間酸化膜層11mと、シリコン基板11bと、が積層されたSOI基板11が準備される(
図24の(A)欄)。
【0097】
第2工程では、表面シリコン層11sの表層に二酸化ケイ素の薄膜が形成され、その薄膜に対して、反応性イオンエッチング(RIE;Reactive Ion Ethching)が行われる(
図24の(B)欄)。これによって、表面シリコン層11sの表層に振動子100や電極パッドなどを象ったエッチングマスク18が形成される。第3工程では、表面シリコン層11sが深堀りRIE(DEEP−RIE)によってエッチングされ、表面シリコン層11sに振動子100や電極パッドの外周形状が成形される(
図24の(C)欄)。
【0098】
第4工程では、中間酸化膜層11mがバッファードフッ酸(BHF)によってエッチングされる(
図24の(D)欄)。これによって、振動子100のビーム部111および可動電極120の下に空間が形成され、ビーム部111や振動櫛歯電極120が浮いた状態にされる。なお、この工程では、表面シリコン層11sの表層のエッチングマスク18が除去される。
【0099】
第5工程では、ガラス板15が準備される(
図25の(E)欄)。第6工程では、ガラス板15の一方の面に振動子100の収容空間を形成するためのキャビティ15cがウェットエッチングによって形成される(
図25の(F)欄)。第7工程では、サンドブラスト加工によって、ガラス板15に貫通孔15hが形成され、貫通孔15hに電極材料が埋設され、端子部16(検知端子16aおよび駆動端子16b)が形成される(
図25の(G)欄)。
【0100】
第8工程では、振動子100が形成されたSOI基板11に、ガラス板15が積層されて、SOI基板11とガラス板15とが陽極接合によって接合される(
図25の(H)欄)。ガラス板15の振動子100と対向する側の面には、振動子100の収容空間を形成するためのキャビティ15cが凹部として形成されている。第8工程が真空環境下で行われることによって、キャビティ15cによって形成される振動子100の収容空間内の気圧が大気圧より低くなる。これら一連の工程によって、センサ素子10が完成する。
【0101】
このように、本実施形態のセンサ素子10ではSOI基板11における表面シリコン層11sのシリコンによって振動子100が形成されている。従って、振動子100の機械的Q値が向上されており、振動子100の振動の安定性が向上されている。また、振動子100の共振周波数のばらつきが低減され、センサ素子10を備える共振型センサの検出精度が向上されている。
【0102】
また、本実施形態のセンサ素子10では、SOI基板11の表層がガラス板15によって被覆され、振動子100がガラス板15のキャビティ15cによって形成される密封空間内に収容されている。従って、振動子100の各櫛歯部123a,123b,132,142の間に微小粉塵などの異物が混入してしまうことが抑制され、振動子100の保護性が向上されている。
【0103】
加えて、本実施形態のセンサ素子10では、ガラス板15のキャビティ15cによって形成される密封空間内が大気圧よりも低い減圧状態にされている。従って、振動子100の振動が空気によって阻害されることが抑制されるため、振動子100の振動効率や振動の安定性が向上されている。
【0104】
以上のように、本実施形態のセンサ素子10であれば、可動電極120の撓み振動によって、共振状態における振動子100の振動の安定性が向上されるため、その周波数特性が改善される。また、本体振動部110の共振周波数と可動電極120の共振周波数との関係を適切に規定することによって、振動子100における振動の安定性と、センサ素子10の感度とを両立させることができる。
【0105】
B.第2実施形態:
図26は本発明の第2実施形態としての圧力センサ300の構成を示す概略図である。
図26では、圧力センサ300の中心軸を一点鎖線によって図示してある。
図26には、振動子100の配置方向を示す矢印X,Yを
図2と対応するように図示してある。圧力センサ300は、先端に計測対象である圧力を受ける受圧部を備える円筒型のセンサであり、例えば、内燃機関の燃焼室における筒内圧(燃焼圧)の計測を行う。
【0106】
圧力センサ300は、第1実施形態で説明したセンサ素子10と、励振回路30と、を備えている。加えて、圧力センサ300は、受圧軸310と、キャップ部材321と、軸受部322と、内部ケーシング323と、外部ケーシング331と、開口端部部材332と、信号検出部40と、を備えている。
【0107】
受圧軸310は、軸状部材によって構成されており、計測対象である圧力に応じた外力を端面に受けたときに、その外力に応じて軸方向に沿って収縮変形する。受圧軸310の側面には、センサ素子10が配置されている。センサ素子10は、振動子100のビーム部111の延伸方向(X軸方向)が受圧軸210の軸方向と一致するように配置されている。これによって、センサ素子10は、受圧軸310からその軸方向の収縮変形に応じた外力を受ける。なお、受圧軸310は、熱膨張係数が5.0ppm/℃以下の部材によって形成されることが望ましい。これによって、環境温度の変化に起因する受圧軸310の変形が抑制され、圧力センサ300の検出誤差が低減される。
【0108】
キャップ部材321は、一方の端部が開口している有底円筒状の部材である。キャップ部材321は受圧軸310の先端側の部位を収容し、その底面の中心に受圧軸310の先端側の端面が面接触している。軸受部322は、受圧軸310を保持する円柱状の部材であり、その底面の中心に受圧軸310の後端側の端面が接合されている。
【0109】
内部ケーシング323は、センサ素子10と、受圧軸310と、キャップ部材321と、軸受部322とを収容する円筒状部材である。内部ケーシング323の先端側の開口端部には、キャップ部材321が摺動可能に嵌め込まれており、内部ケーシング323の後端側の開口端部には、軸受部322が固定的に嵌め込まれている。これによって、受圧軸310は内部ケーシング323の中心軸上に配置される。
【0110】
外部ケーシング331は、両端部が開口している円筒状の部材である。外部ケーシング331は、受圧軸310がその中心軸上に配置されるように、内部ケーシング323を収容して保持する。開口端部部材332は先端側が傘状に拡大されている円筒部材である。開口端部部材332は、その開口部が外部ケーシング331の開口部内に入れ子に収容されるように、外部ケーシング331の先端側の開口端部に取り付けられている。なお、開口端部部材332の開口部にはキャップ部材321が摺動可能に嵌め込まれている。
【0111】
ここで、
図5で説明したように、センサ素子10は励振回路30に接続されていることによって、振動子100が共振状態になる。励振回路30は、振動子100の共振に応じて変動する電圧を出力信号として信号検出部40に出力する。信号検出部40は、クロック生成部41を備える。以下に説明するように、信号検出部40はクロック生成部41が生成するクロック信号を用いて、センサ素子10の共振周波数の変化量を検出する。
【0112】
図27は、信号検出部40による共振周波数の変化量の検出方法を説明するための概略図である。
図27には、外力が付与される前の初期状態におけるセンサ素子10の出力信号Ssと、外力が付与された後のセンサ素子10の出力信号Sdと、信号検出部40のクロック生成部41が生成するクロック信号Scと、を互いに対応するように並列に図示してある。信号検出部40は、センサ素子10に外力が付与される前の出力信号Ssと、センサ素子10に外力が付与された後の出力信号Sdとの位相差を、クロック生成部41が生成するクロック信号Scの周期を基準として取得する。そして、取得した位相差に基づいて、センサ素子10の共振周波数の変化量を検出する。
【0113】
図28は、信号検出部40による共振周波数の変化量の検出方法の他の例を説明するための概略図である。
図28は、センサ素子10の出力信号Ss,Sdと、クロック信号Scとの間に、分周信号DSs,Dsdが追加されている点以外は、
図27とほぼ同じである。この例では、センサ素子10の出力信号Ss,Sdは、信号検出部40が備える分周器(図示は省略)によって所定の分周比で分周される。信号検出部40は、その分周された分周信号DSs,Dsdの位相差を、クロック信号Scの周期を基準として取得する。このように、本実施形態の信号検出部40では、クロック信号Scの周期に応じた分解能でセンサ素子10の共振周波数の変化量を検出することができ、圧力センサ300による圧力の検出精度を向上させることができる。
【0114】
以上のように、第2実施形態の圧力センサ300であれば、SOI基板11によってマイクロマシン(いわゆるMEMS)として構成されているセンサ素子10を用いているため、その小型化・軽量化が可能であり、搭載性が向上されている。また、第2実施形態の圧力センサ300では、センサ素子10に圧力を伝達する受圧部である受圧軸310が軸状部材であるため、圧力センサ300を細径化することが可能である。
【0115】
加えて、センサ素子10の振動子100は構成部材自体の耐熱性が高く、その振動も静電気力を利用するものであるため、高温環境下においても安定的に振動することができる。従って、第2実施形態の圧力センサ300であれば、高温環境下における検出精度の低下が抑制されており、耐熱性が低い磁性材料を備え、磁力を利用して圧力を検出するタイプの圧力センサよりも高い耐熱性を得ることができる。第2実施形態の圧力センサ300であれば、車両の内燃機関の燃焼室など、例えば100℃以上の高温になる狭い空間内における圧力の計測を高い精度で行うことができる。
【0116】
C.第3実施形態:
図29は、本発明の第3実施形態としての圧力センサ300Aの構成を示す概略図である。第3実施形態の圧力センサ300Aは、2つのセンサ素子10を備えている点以外は、
図28で説明した第2実施形態の圧力センサ300の構成とほぼ同じである。なお、
図29では、
図28で説明したのと同じ構成部には同じ符号を付してある。また、第3実施形態の圧力センサ300Aでは、2つのセンサ素子10のそれぞれに、第2実施形態の圧力センサ300で説明したのと同じ機能を有する励振回路30および信号検出部40が接続されているが、その図示および説明は省略する。
【0117】
第3実施形態の圧力センサ300Aでは、2つのセンサ素子10が受圧軸310を挟んで互いに反対側の位置に配置されており、受圧軸310の歪みを2箇所で検出することができる。従って、より高い精度で受圧軸310の歪みを検出することができ、圧力センサ300の検出精度が向上されている。なお、第3実施形態の圧力センサ300Aでは、受圧軸310の他の部位に、1個以上のセンサ素子10がさらに追加されても良い。
【0118】
D.第4実施形態:
図30は、本発明の第4実施形態としての圧力センサ400の構成を示す概略図である。
図30には、圧力センサ400の中心軸を一点鎖線で図示してあり、センサ素子10の備える振動子100の配置方向を示す矢印X,Yを
図2と対応するように図示してある。この圧力センサ400は、第2実施形態の圧力センサ300と同様に、第1実施形態で説明したセンサ素子10を備えており、例えば、内燃機関の燃焼室における筒内圧の計測を行う。
【0119】
圧力センサ400は、円筒型のセンサであり、ケーシング410と、開口端部部材411と、受圧板420と、圧力伝達ロッド421と、ダイアフラム430と、セラミック基板440と、を備える。なお、第3実施形態の圧力センサ400は、第2実施形態の圧力センサ300と同様に、センサ素子10に接続される励振回路30および信号検出部40を備えているが、その図示および説明は省略する。
【0120】
ケーシング410は両端が開口している円筒状の部材であり、圧力伝達ロッド421と、ダイアフラム430と、セラミック基板440とを収容する。開口端部部材411は、ケーシング410とほぼ同じ外径および内径を有する円環状の部材であり、ケーシング410の先端側の開口端部に取り付けられる。なお、開口端部部材411は、自身の後端側の端面と、ケーシング410の先端側の端面との間において受圧板420の外周縁部を狭持する。
【0121】
受圧板420は円盤状の部材であり、ケーシング410の先端側の開口部を密閉するように配置される。受圧板420は圧力の計測対象となる気体に曝され、その圧力に応じて厚み方向に湾曲する。圧力伝達ロッド421は円柱状の部材であり、圧力センサ400の中心軸上に配置され、受圧板420とダイアフラム430とを連結する。圧力伝達ロッド421は、受圧板420の湾曲変形によって中心軸方向に生じる力をダイアフラム430に伝達する。
【0122】
ダイアフラム430は、平膜部431と、連結軸部432と、を有する。平膜部431は、厚み方向に弾性的に湾曲する略円形の薄膜状の部位を有する。平膜部431は、その膜面が圧力センサ400の中心軸と直交するように配置されており、その外周縁部が全周にわたってケーシング410の内壁面に固定されている。連結軸部432は、平膜部431の膜面の中央部と圧力伝達ロッド421とを連結し、圧力伝達ロッド421から伝達される力に応じて平膜部431の膜面を湾曲させる。
【0123】
ここで、センサ素子10は、連結軸部432とは反対側の平膜部431の膜面の中央に配置されている。センサ素子10は、平膜部431の膜面の歪みに応じた外力を受け、その外力に応じた周波数の信号を出力する。セラミック基板440はダイアフラム430の後端側に配置されている。図示は省略されているが、セラミック基板440はセンサ素子10と電気的に接続されている。セラミック基板440には、センサ素子10と、ケーシング410の外部に配置されている回路と、を電気的に接続するための導電パターンが形成されている。
【0124】
第4実施形態の圧力センサ400では、受圧板420が受ける圧力に応じた力が圧力伝達ロッド421を介してダイアフラム430に伝達され、ダイアフラム430の平膜部431が湾曲する。センサ素子10は平膜部431の湾曲に応じた外力を受けて、その外力に応じた周波数の信号を出力する。このように、第4実施形態の圧力センサ400であれば、ダイアフラム430を用いることによって、受圧板420が受ける圧力に応じた大きな外力をセンサ素子10に対して付与することができる。従って、圧力センサ400の検出精度を向上させることができる。
【0125】
E.第5実施形態:
図31は、本発明の第5実施形態としての圧力センサ400Aの構成を示す概略図である。第5実施形態の圧力センサ400Aは、ケーシング410に換えてケーシング410Aを備え、ダイアフラム430に換えてダイアフラム430Aを備えている点以外は、第4実施形態の圧力センサ400の構成(
図30)とほぼ同じである。
【0126】
第5実施形態のケーシング410Aは、先端側のケーシング部412と、後端側のケーシング部413とに分離されている。第5実施形態のダイアフラム430Aは、平膜部431がケーシング410Aの外径と同じ直径を有している。ダイアフラム430Aは、平膜部431の外周縁部が、それら2つのケーシング部412,413の端面同士に狭持されることによって、ケーシング410A内に固定されている。
【0127】
このように、第5実施形態の圧力センサ400Aであれば、ダイアフラム430Aの膜面の面積を拡大させることができ、圧力に応じたダイアフラム430Aの膜面の変形量を増大させることができる。従って、センサ素子10が平膜部431の膜面から受ける外力をより大きくすることができるため、圧力センサ400Aの検出精度を向上させることができる。
【0128】
F.変形例:
F1.変形例1:
上記各実施形態の電極部150では、外側固定電極130および内側固定電極130の間に可動電極120の両側が配置されていた。これに対して、電極部150では、外側固定電極130と内側固定電極130のうちのいずれか一方が省略されても良い。また、上記各実施形態の電極部150では、各電極120,130,140は、互いに対向する面に、突起部が等間隔に交互に配列された櫛歯部123a,123b,132,142が設けられていた。これに対して、各電極120,130,140の櫛歯部123a,123b,132,142は他の構成を有しても良い。各電極120,130,140の櫛歯部123a,123b,132,142では、突起部の配列間隔が全て等しくなくても良く、一部あるいは全ての突起部が異なる間隔で配列されていても良い。また、各電極120,130,140では櫛歯部123a,123b,132,142自体が省略されていても良い。電極部150では、電極間の静電気力によって可動電極120が振動可能なように構成されていれば良い。
【0129】
F2.変形例2:
上記各実施形態のセンサ素子10では、共振状態のときに、本体振動部110の2本のビーム部111が互いに反対方向に撓み振動していた。しかし、センサ素子10の共振状態では、本体振動部110の2本のビーム部111が仮想中心軸CLを中心として左右対称に撓み振動していれば良い。すなわち、本体振動部110の2本のビーム部111が互いに同じ周期で同じ方向に同じ振幅で撓み振動していても良い。
【0130】
F3.変形例3:
上記実施形態では、振動子100はガラス板15のキャビティ15cによって形成される密封空間に収容されていた。これに対して、振動子100はガラス板15のキャビティ15cによって形成される密封空間に収容されていなくても良い。振動子100は、ガラス板15以外の部材によって形成された密封空間に収容されていても良いし、密封空間に収容されることなく、外気に曝されて配置されていても良い。
【0131】
F4.変形例4:
上記第2〜第5実施形態では、センサ素子10を用いて圧力センサが構成されていた。これに対して、センサ素子10は圧力センサ以外のセンサに用いられても良い。例えば、センサ素子10は歪みゲージに用いられても良い。センサ素子10はグロープラグが備える軸状のヒータ部に取り付けられ、グロープラグと一体化されて用いられても良い。
【0132】
F5.変形例5:
上記各実施形態では、振動子100がSOI基板11に形成されている。これに対して、振動子100はSOI基板11に形成されていなくても良く、シリコン以外の部材によって、エッチング以外の方法によって形成されても良い。
【0133】
本発明は、上述の実施形態や実施例、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施例、変形例中の技術的特徴は、上述の課題や、共振型センサの小型化、使い勝手の向上、製造の容易化、製造コストの低減、省資源化等の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。