(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属塩は、Li、Na、K、Mg、Ca、Ni、Fe、及びAlからなる群から選択される少なくとも一種の金属の酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、又はリン酸塩である請求項3に記載の酸性ガス含有ガス処理用分離膜。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
分離膜を使用して混合ガス中のメタンガスを濃縮するためには、混合ガスに含まれる二酸化炭素を効率よく透過させることが可能な分離膜を開発する必要がある。この点、特許文献1のメタン濃縮装置は、メタンガスより分子径の小さい気体Aを分離する分離膜を使用しており、気体Aには二酸化炭素も含まれる。そして、同文献の実施例によれば、二酸化炭素とメタンとの透過係数比CO
2/CH
4として、3.3〜20の値が示されている。しかしながら、この程度の透過係数比ではメタンガスのロスが大きく、特許文献1のように分離膜を二段に構成し、さらに非透過ガスを再循環させる等の複雑な装置構成としなければ、実用レベルでメタンガスの濃縮を十分に行うことは困難であった。
【0007】
特許文献2のガス分離フィルタは、分離膜の表面に塩基性を有する窒素(N)とシリコン(Si)とを含有する官能基を導入することにより、二酸化炭素の分離性能を高めようとするものである。十分な二酸化炭素の分離性能を発揮させるためには、分離膜の表面に十分な数の官能基を導入しつつ、均一な膜を形成することが重要となる。しかしながら、特許文献2の分離膜は、原材料の分子構造(反応サイトの数)によって導入可能な官能基の数が決まるものであり、分離膜自体の改良のみで二酸化炭素の分離性能を向上させることには限界がある。また、分離膜に導入される官能基の数が多くなると、その分子構造中に立体障害が生じ易くなり、均一な膜形成に悪影響を及ぼす虞がある。
【0008】
また、特許文献1及び特許文献2において使用される分離膜は、支持体に液状(ゾル状)の分離膜形成材料を塗布し、これを熱処理して作製されるものである。ここで、支持体への分離膜の成膜性を向上させるため、支持体には予め中間層が設けられている。この場合、中間層は、分離膜の構成材料及び支持体との関係を十分に考慮し、中間層形成材料や支持体への目付量を適切に選択することが重要となる。しかしながら、特許文献1及び特許文献2においては、中間層形成材料を分離膜の構成材料を考慮して選択するという技術思想は見られず、さらに、支持体への目付量についても検討されていない。
【0009】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、支持体に設ける中間層を最適化するとともに、二酸化炭素等の酸性ガスとメタンガスとを含有する消化ガスからメタンガスを効率よく得ることが可能な酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜の特徴構成は、
無機多孔質支持体と、
前記無機多孔質支持体の表面に形成されるシリカ微粒子結合体を含む中間層と、
前記中間層の上に形成される炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を含む分離層と、
を備えたことにある。
【0011】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、中間層に含まれるシリカ微粒子結合体と、分離層に含まれる炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体とは、同じ系統の材料であって分子構造が類似しているため、シリカ微粒子結合体及び炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体は、互いに対して高い親和性を有している。従って、無機多孔質支持体の表面に中間層を形成し、その上に分離層を形成すると、中間層と分離層との間で界面剥離やひび割れ等が発生せず、両者は強固に密着し、安定な酸性ガス含有ガス処理用分離膜を構成することができる。この酸性ガス含有ガス処理用分離膜に、二酸化炭素等の酸性ガスとメタンガスとを含有する消化ガスを通過させると、消化ガス中の二酸化炭素が選択的に炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体の表面に誘引され、そのまま分離膜を透過することになる。その結果、消化ガス中のメタンガス成分が濃縮され、高濃度のメタンガスを効率的に得ることができる。
【0012】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記シリカ微粒子結合体は、コロイダルシリカの焼結反応によって得られる単一構造体であり、
前記炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体は、テトラアルコキシシラン及び炭化水素基含有トリアルコキシシランのゾル−ゲル反応によって得られる複合構造体であることが好ましい。
【0013】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、中間層を形成するシリカ微粒子結合体は、コロイダルシリカを原料としており、焼結反応により単一構造体を形成している。この単一構造体は、コロイダルシリカ由来の安定した構造を有しているため、無機多孔質支持体を安定化することができる。その結果、分離層を形成するときに無機多孔質支持体の表面に塗布する分離層形成材料(ゾル)が無機多孔質支持体の内部に過度に染み込むことを抑制することができる。また、分離層を形成する炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体は、テトラアルコキシシランと、炭化水素基含有トリアルコキシシランとを原料としており、これらをゾル−ゲル反応させて複合構造体を形成している。この複合構造体は、テトラアルコキシシラン由来の安定した構造と、炭化水素基含有トリアルコキシシラン由来の高い二酸化炭素親和性とを併せ持った特性を有している。従って、この複合構造体に消化ガスを通過させると、二酸化炭素が選択的に誘引され、消化ガス中のメタンガス成分の濃縮を効率的に行うことが可能となる。
【0014】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記テトラアルコキシシランは、テトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランであり、
前記炭化水素基含有トリアルコキシシランは、トリメトキシシラン又はトリエトキシシランのSi原子に炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものであることが好ましい。
【0015】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、テトラアルコキシシラン、及び炭化水素基含有トリアルコキシシランとして上記の有意な組み合わせを選択しているため、安定した構造と高い二酸化炭素親和性とを併せ持った複合構造体を効率よく得ることができる。この複合構造体をコロイダルシリカ由来の単一構造体と組み合わせた酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、二酸化炭素又はメタンガスの分離性能に優れ、且つ高い信頼性を備えたものとして利用され得る。
【0016】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記分離層に、酸性ガスと親和性を有する金属塩を添加してあることが好ましい。
【0017】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、分離層に、酸性ガス(二酸化炭素も含む)と親和性を有する金属塩を添加することにより、分離膜の二酸化炭素に対する親和性を相乗的に高めることができる。
【0018】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記金属塩は、Li、Na、K、Mg、Ca、Ni、Fe、及びAlからなる群から選択される少なくとも一種の金属の酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、又はリン酸塩であることが好ましい。
【0019】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、酸性ガス(二酸化炭素も含む)と親和性を有する金属塩として上記の有意な金属塩を選択しているため、この分離膜に消化ガスを通過させると、消化ガス中の二酸化炭素が確実に誘引され、二酸化炭素が選択的に分離膜を透過する。その結果、消化ガス中のメタンガス成分が濃縮され、高濃度のメタンガスを得ることができる。
【0020】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記中間層の目付量は、0.1〜3.0mg/cm
2であり、
前記分離層の目付量は、0.1〜4.0mg/cm
2であることが好ましい。
【0021】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、中間層及び分離層の目付量を上記の適切な範囲に設定してあるため、中間層による分離膜の安定化と、分離層による二酸化炭素又はメタンガスの優れた分離性能とを高い次元で両立させることができる。
【0022】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記無機多孔質支持体は、4〜200nmの微細孔を有することが好ましい。
【0023】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、無機多孔質支持体が上記の適切なサイズの微細孔を有しているため、安定した中間層を形成させ易く、分離層の分離性能が損なわれない分離膜を構成することができる。
【0024】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、
前記無機多孔質支持体の表面から深さ方向に前記テトラアルコキシシラン又は前記炭化水素基含有トリアルコキシシランが染み込む距離は、50μm以下であることが好ましい。
【0025】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜によれば、無機多孔質支持体の内部へのテトラアルコキシシラン又は炭化水素基含有トリアルコキシシランの染み込み量が抑えられているため、無機多孔質支持体の微細孔が過度に塞がれることがない。従って、この分離膜に消化ガスを通過させた場合、ガス通過量(消化ガスの処理量)を維持することができる。また、無機多孔質支持体に塗布する中間層及び分離層の形成材料(ゾル)の塗布量を低減することができるため、分離膜の製造コストの削減にも寄与し得る。
【0026】
上記課題を解決するための本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法の特徴構成は、
(a)コロイダルシリカ、及び有機溶媒を混合した第一混合液、並びにテトラアルコキシシラン、炭化水素基含有トリアルコキシシラン、酸触媒、水、及び有機溶媒を混合した第二混合液を調整する準備工程と、
(b)前記第一混合液を無機多孔質支持体の表面に塗布する第一塗布工程と、
(c)前記第一塗布工程が完了した無機多孔質支持体を熱処理し、当該無機多孔質支持体の表面にシリカ微粒子結合体を含む中間層を形成する中間層形成工程と、
(d)前記第二混合液を前記中間層の上に塗布する第二塗布工程と、
(e)前記第二塗布工程が完了した無機多孔質支持体を熱処理し、前記中間層の上に炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を含む分離層を形成する分離層形成工程と、
を包含することにある。
【0027】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法によれば、中間層に含まれるシリカ微粒子結合体と、分離層に含まれる炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体とが互いに対して高い親和性を有しているため、第一塗布工程及び中間層形成工程によって無機多孔質支持体の表面に中間層を形成し、さらに第二塗布工程及び分離層形成工程によって中間層の上に分離層を形成すると、中間層と分離層との間で界面剥離やひび割れ等が発生せず、両者は強固に密着し、安定な酸性ガス含有ガス処理用分離膜を構成することができる。この酸性ガス含有ガス処理用分離膜に、二酸化炭素等の酸性ガスとメタンガスとを含有する消化ガスを通過させると、消化ガス中の二酸化炭素が選択的に炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体の表面に誘引され、そのまま分離膜を透過することになる。その結果、消化ガス中のメタンガス成分が濃縮され、高濃度のメタンガスを効率的に得ることができる。
【0028】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法において、
前記第一塗布工程及び前記中間層形成工程を、両工程をセットとして複数回反復することが好ましい。
【0029】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法によれば、第一塗布工程及び中間層形成工程を、両工程をセットとして複数回反復することで、より強固で安定した中間層を形成することができる。
【0030】
本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法において、
前記第二塗布工程及び前記分離層形成工程を、両工程をセットとして複数回反復することが好ましい。
【0031】
本構成の酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法によれば、第二塗布工程及び分離層形成工程を、両工程をセットとして複数回反復することで、より強固で分離性能が高い分離層を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明に係る酸性ガス含有ガス処理用分離膜、及び酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法に関する実施形態について説明する。ただし、本発明は、以下に説明する構成に限定されることを意図しない。
【0034】
<酸性ガス含有ガス処理用分離膜>
本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、例えば、生ごみ等を生物学的処理することによって得られる消化ガスを処理するためのものである。消化ガスは、酸性ガス(二酸化炭素を主成分とし、その他に硫化水素等を含む)とメタンガスとを含有する混合ガスであるが、本明細書では、消化ガスを二酸化炭素とメタンガスとを含有する混合ガスとして取り扱う。従って、以後の説明では、酸性ガスとして二酸化炭素を例に挙げて説明し、酸性ガス含有ガス処理用分離膜については、便宜上、二酸化炭素を選択的に誘引する二酸化炭素分離膜として説明する。ただし、本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、メタンガスを選択的に誘引するメタンガス分離膜として構成することも可能であり、さらには、二酸化炭素とメタンガスとを同時に分離可能な二酸化炭素/メタンガス分離膜とすることも可能である。以後、酸性ガス含有ガス処理用分離膜を、単純に「分離膜」と称する場合がある。
【0035】
酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、ベースとなる無機多孔質支持体の上に中間層を形成し、さらにその上に分離層を形成することにより構成される。無機多孔質支持体の材質としては、例えば、シリカ系セラミックス、シリカ系ガラス、アルミナ系セラミックス、ステンレス、チタン、銀等が挙げられる。無機多孔質支持体の構造は、ガスが流入する流入部と、ガスが流出する流出部とが設けられたものとする。例えば、ガス流入部を無機多孔質支持体に設けられた開口部とし、ガス流出部を無機多孔質支持体の外表面とすることができるが、これとは反対に、ガス流入部を無機多孔質支持体の外表面とし、ガス流出部を無機多孔質支持体に設けられた開口部とすることも可能である。無機多孔質支持体の外表面には無数の微細孔が形成されているため、外表面全体からガスが通流し得る。無機多孔質体の構成例としては、内部にガス流路が設けられた円筒構造、円管構造、スパイラル構造、内部に複雑に入り組んだ連続通路が形成されたモノリス構造等が挙げられる。また、無機多孔質材料で構成される中実の平板体やバルク体を用意し、その一部を刳り抜いてガス流路を形成することで、無機多孔質支持体を構成しても構わない。無機多孔質支持体の微細孔のサイズは、4〜200nmとすることが好ましい。中間層は、無機多孔質支持体の表面を安定化させ、分離層を形成し易くするために設けられる。例えば、微細孔のサイズが比較的大きい無機多孔質支持体の表面に後述する分離層の形成材料を含む混合液(ゾル)を直接塗布すると、混合液が微細孔の内部に過剰に浸透して無機多孔質支持体の表面に留まらず、分離層の成膜が難しくなることがある。そこで、無機多孔質支持体の表面に中間層を設けておくことで、微細孔の入口が中間層によって狭められ、混合液の塗布が容易になる。また、中間層によって無機多孔質支持体の表面が均等化されるため、分離層の剥離やひび割れを抑制することができる。以下、本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜において、二酸化炭素又はメタンガスを分離する機能を有する中間層及び分離層について説明する。
【0036】
〔中間層〕
中間層は、シラン化合物を含むように構成される。本実施形態の中間層は、シリカ微粒子結合体を含む。シリカ微粒子結合体は、コロイダルシリカの焼結反応によって得られる。
【0037】
コロイダルシリカは、ケイ酸(SiO
2)を主成分とするシリカ微粒子(シリカゾル)を溶媒に分散させたものである。シリカ微粒子の粒子径は、通常10〜300nm程度に調整される。シリカ微粒子を分散させる溶媒は、水、メタノール、エタノール、プロパノール、エチレングリコール、ジメチルアセトアミド、酢酸エチル、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。このようなコロイダルシリカとして、例えば、日産化学工業株式会社から販売されているコロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)」シリーズを使用することができる。
【0038】
コロイダルシリカを加熱すると、シリカ微粒子の分散媒が蒸発してシリカ微粒子が表面接触し、さらに加熱を行うとシリカ微粒子どうしが表面で融着する(焼結反応)。これにより、シリカ微粒子が三次元的に連なったシリカ微粒子結合体が得られる。シリカ微粒子結合体は、シリカ微粒子どうしの表面融着による連続構造と、シリカ微粒子間の空間による多孔質構造とを備えている。従って、シリカ微粒子結合体は、ケイ酸を主成分とした不定形の無機多孔質体を形成している。以下、シリカ微粒子結合体を、後述の複合ポリシロキサン網目構造体と区別するため「単一構造体」と称する。
【0039】
〔分離層〕
分離層は、炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を含む。そして、炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体は、テトラアルコキシシラン及び炭化水素基含有トリアルコキシシランのゾル−ゲル反応によって得られる。
【0040】
テトラアルコキシシランは、下記の式(1)で表される四官能性アルコキシシランである。
【0042】
好ましいテトラアルコキシシランは、式(1)において、R
1〜R
4が同一のメチル基であるテトラメトキシシラン(TMOS)又は同一のエチル基であるテトラエトキシシラン(TEOS)である。
【0043】
炭化水素基を含有する炭化水素基含有トリアルコキシシランは、下記の式(2)で表される三官能性アルコキシシランである。
【0045】
好ましい炭化水素基含有トリアルコキシシランは、式(2)において、R
6〜R
8が同一のメチル基であるトリメトキシシラン又は同一のエチル基であるトリエトキシシランのSi原子に炭素数1〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものである。例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシランが挙げられる。
【0046】
式(1)の四官能性アルコキシシランと、式(2)の三官能性アルコキシシランとをゾル−ゲル反応させると、例えば、下記の式(3)で表される複合ポリシロキサン網目構造体が得られる。以下、複合ポリシロキサン網目構造体を「複合構造体」と称する。
【0048】
式(3)の複合構造体は、ポリシロキサンネットワーク構造中に炭化水素基R
5が存在しており、ある種の有機−無機複合体を形成している。
【0049】
ここで、式(2)の三官能性アルコキシシランは、R
5の違いにより特性が異なる。例えば、メチルトリメトキシシラン又はメチルトリエトキシシラン(炭化水素基の炭素数が1のもの)は主に二酸化炭素に対して親和性を有し、トリメトキシシラン又はトリエトキシシランのSi原子に炭素数2〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したもの(炭化水素基の炭素数が2〜6のもの)は主にメタンガスに対して親和性を有する。そして、式(1)の四官能性アルコキシシランと、式(2)の三官能性アルコキシシランとの反応から、式(3)の複合構造体を合成するにあたり、四官能性アルコキシシラン(これをAとする)と、三官能性アルコキシシラン(これをBとする)とを最適な配合比率に設定すると、二酸化炭素又はメタンガスの分離性能に優れた分離膜を形成することが可能となる。そのような適切な配合比率はA/Bがモル比で1/9〜9/1であり、好ましい配合比率はA/Bがモル比で3/7〜7/3であり、より好ましい配合比率はA/Bがモル比で4/6〜6/4である。このような配合比率とすれば、安定した構造と高い二酸化炭素親和性とを併せ持った複合構造体を効率よく得ることができる。
【0050】
二酸化炭素又はメタンガスの選択性を高めるためには、原料の一つである式(2)の三官能性アルコキシシラン(B)について、その組成を調整することも有効となる。例えば、二酸化炭素に対する選択性(親和性)を高める場合は、三官能性アルコキシシラン中に含まれるメチルトリメトキシシラン又はメチルトリエトキシシランの含有量を多くし、メタンガスに対する選択性(親和性)を高める場合は、三官能性アルコキシシラン中に含まれるトリメトキシシラン又はトリエトキシシランのSi原子に炭素数2〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したものの含有量を多くする。すなわち、四官能性アルコキシシラン(A)と三官能性アルコキシシラン(B)との配合比率(A/B)を上記の適切な範囲に設定した上で、三官能性アルコキシシラン(B)のうち、メチルトリメトキシシラン又はメチルトリエトキシシラン(これをB1とする)と、トリメトキシシラン又はトリエトキシシランのSi原子に炭素数2〜6のアルキル基又はフェニル基が結合したもの(これをB2とする)との配合比率(B1/B2)を最適化する。そのような三官能性アルコキシシラン(B)における適切な配合比率はB1/B2がモル比で1/9〜9/1であり、好ましい配合比率はB1/B2がモル比で3/7〜7/3であり、より好ましい配合比率はB1/B2がモル比で4/6〜6/4である。
【0051】
二酸化炭素又はメタンガスの分離性能をさらに高めるためには、上記式(3)の複合構造体に二酸化炭素と親和性を有する金属塩を添加(ドープ)することが好ましい。金属塩としては、Li、Na、K、Mg、Ca、Ni、Fe、及びAlからなる群から選択される少なくとも一種の金属の酢酸塩、硝酸塩、炭酸塩、ホウ酸塩、又はリン酸塩が挙げられる。これらのうち、酢酸マグネシウム又は硝酸マグネシウムが好ましい。酢酸マグネシウム等を初めとする上記金属塩は、二酸化炭素との親和性が良好であるため、二酸化炭素の分離効率向上に有効となる。また、ポリシロキサンネットワーク構造中に含まれる炭化水素基R
5(特に、R
5がメチル基の場合)との相乗効果により、高い効率で二酸化炭素を分離することが可能となる。金属塩を添加する方法は、例えば、複合構造体を、金属塩を含む水溶液に浸漬し、複合構造体の内部に金属塩を単独又は他の物質とともに含浸させる含浸法により行われる。
【0052】
<酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法>
本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、以下の工程(a)〜(e)を実施することにより製造される。以下、各工程について詳細に説明する。
【0053】
(a)準備工程
準備工程として、コロイダルシリカ、及び有機溶媒を混合した第一混合液(シリカゾル)を調製する。第一混合液は、次工程の「第一塗布工程」において使用されるものである。第一混合液は、シリカ微粒子の濃度(シリカ固形分濃度)が1〜10重量%に調製されることが好ましく、より好ましくは2〜7重量%、さらに好ましくは3〜5%に調製される。シリカ固形分濃度が1重量%未満の場合、混合液のコーティング回数(工程数)が増加して生産効率が低下する。また、混合液の粘度が小さくなるため塗布時に液垂れ等の問題が発生する。シリカ固形分濃度が10%を超える場合、混合液の粘度が大きくなるため均一な塗膜の形成が困難となり、緻密で均一な分離膜が得られ難くなる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンゼン、トルエン等が使用される。これらのうち、メタノール又はエタノールが好ましい。
【0054】
準備工程では、さらに、テトラアルコキシシラン、炭化水素基含有トリアルコキシシラン、酸触媒、水、及び有機溶媒を混合した第二混合液を調製する。第二混合液は、後述の「第二塗布工程」において使用されるものである。テトラアルコキシシラン、炭化水素基含有トリアルコキシシラン、酸触媒、水、及び有機溶媒の夫々の配合量は、テトラアルコキシシラン及び炭化水素基含有トリアルコキシシランの合計量1モルに対して、酸触媒0.005〜0.1モル、水0.5〜10モル、有機溶媒5〜60モルに調整することが好ましい。酸触媒の配合量が0.005モルより少ない場合、加水分解速度が小さくなり、分離膜の製造に要する時間が長くなる。酸触媒の配合量が0.1モルより多い場合、加水分解速度が過大となり、均一な分離膜が得られ難くなる。水の配合量が0.5モルより少ない場合、加水分解速度が小さくなり、後述のゾル−ゲル反応が十分に進行しない。水の配合量が10モルより多い場合、加水分解速度が過大となり、細孔径が肥大化するため緻密な分離膜が得られ難くなる。有機溶媒の配合量が5モルより少ない場合、第二混合液の濃度が高くなり、緻密で均一な分離膜が得られ難くなる。有機溶媒の配合量が60モルより多い場合、第二混合液の濃度が低くなり、混合液のコーティング回数(工程数)が増加して生産効率が低下する。酸触媒としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等が使用される。これらのうち、硝酸又は塩酸が好ましい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ベンゼン、トルエン等が使用される。これらのうち、メタノール又はエタノールが好ましい。第二混合液を調製する際、二酸化炭素と親和性を有する金属塩を配合することも可能である。金属塩の配合量は、上記の配合条件の場合、0.01〜0.3モルに調整される。二酸化炭素と親和性を有する金属塩としては、上述の「酸性ガス含有ガス処理用分離膜」の項目で説明したものを使用することができる。
【0055】
第二混合液中においては、先ず、テトラアルコキシシランが加水分解及び重縮合を繰り返すゾル−ゲル反応が進行する。テトラアルコキシシランは、上述の「酸性ガス含有ガス処理用分離膜」の項目で説明したものを使用することができる。例えば、テトラアルコキシシランの一例としてテトラエトキシシラン(TEOS)を使用した場合、ゾル−ゲル反応は下記のスキーム1のように進行すると考えられる。なお、このスキーム1は、ゾル−ゲル反応の進行を表す一つのモデルであり、実際の分子構造をそのまま反映しているとは限らない。
【化4】
スキーム1によれば、初めに、テトラエトキシシランの一部のエトキシ基が加水分解され、脱アルコール化することによりシラノール基が生成する。また、テトラエトキシシランの一部のエトキシ基は加水分解されず、そのまま残存し得る。次いで、一部のシラノール基が近傍のシラノール基と会合し、脱水することにより重縮合する。その結果、シラノール基又はエトキシ基が残存したシロキサン骨格が形成される。上記の加水分解反応、及び脱水・重縮合反応は混合液系内で略均等に進行するため、シラノール基又はエトキシ基はシロキサン骨格中に略均等に分散した状態で存在する。金属塩を添加する場合は、ゾル−ゲル反応時にポリシロキサンに取り込まれた金属塩もポリシロキサン結合中に略均等に分散すると考えられる。この段階では、シロキサンの分子量はそれほど大きいものではなく、ポリマーよりもむしろオリゴマーの状態にある。従って、シラノール基又はエトキシ基含有シロキサンオリゴマーは、有機溶媒を含む第二混合液に溶解した状態にある。
【0056】
次に、シロキサンオリゴマーと炭化水素基含有トリアルコキシシランとの反応が開始する。炭化水素基含有トリアルコキシシランは、上述の「酸性ガス含有ガス処理用分離膜」の項目で説明したものを使用することができる。例えば、炭化水素基含有トリアルコキシシランの一例としてメチルトリエトキシシランを使用した場合、反応は下記のスキーム2のように進行すると考えられる。なお、このスキーム2は、反応の進行を表す一つのモデルであり、実際の分子構造をそのまま反映しているとは限らない。
【化5】
スキーム2によれば、シロキサンオリゴマーのシラノール基又はエトキシ基と、メチルトリエトキシシランのエトキシ基とが反応し、脱アルコール化することによりポリシロキサン結合が生成する。ここで、シロキサンオリゴマーのシラノール基又はエトキシ基は、上述のようにシロキサン骨格中に略均等に分散しているため、シロキサンオリゴマーのシラノール基又はエトキシ基とメチルトリエトキシシランのエトキシ基との反応(脱アルコール化)も略均等に進行すると考えられる。その結果、生成したポリシロキサン結合中にはメチルトリエトキシシラン由来のシロキサン結合が略均等に生成し、従って、メチルトリエトキシシラン由来のエチル基もポリシロキサン結合中に略均等に存在する。金属塩を添加する場合は、ゾル−ゲル反応時にポリシロキサンに取り込まれた金属塩もポリシロキサン結合中に略均等に分散すると考えられる。
【0057】
第二混合液の調製においては、酸触媒を複数回に分けて混合したり、加水分解し易い炭化水素基含有トリアルコキシシランを最後に混合する等の工夫を行うことが好ましい。例えば、混合液のpHが常に0.8〜2.5の範囲に収まるように、組成を調製する。この場合、第二混合液のpHが大きく変動しないため、炭化水素基含有トリアルコキシシランの加水分解が急激に進行せず、安定した状態でゾル−ゲル反応を進行させることができる。
【0058】
(b)第一塗布工程
第一塗布工程として、準備工程で得られた第一混合液(シリカ微粒子のコロイド溶液又は懸濁液)を無機多孔質支持体に塗布する。無機多孔質支持体に第一混合液を塗布する方法は、例えば、ディッピング法(内部浸漬法)、スプレー法、スピン法等が挙げられる。これらのうち、ディッピング法は、無機多孔質支持体の表面に混合液を均等且つ容易に塗布できるため、好ましい塗布方法である。ディッピング法の具体的な手順について説明する。
先ず、管状の無機多孔質支持体を用意する。無機多孔質支持体を立直状態として上方の開口部から第一混合液を注入し、下方の開口部から排出させる。これにより、無機多孔質支持体の内部表面に第一混合液が付着する。次いで、無機多孔質支持体を乾燥させる。乾燥条件は、25〜40℃で0.5〜3時間とすることが好ましい。乾燥時間が0.5時間未満では十分な乾燥ができず、3時間を超えても乾燥状態は殆ど変化しない。乾燥が終わると、無機多孔質支持体の内部表面(一部の微細孔の内面を含む)にシリカ微粒子が付着したものが得られる。なお、無機多孔質支持体への第一混合液の注入を複数回繰り返すことにより、無機多孔質支持体へのシリカ微粒子の付着量を増加させることができる。また、一連の手順を繰り返すことで、無機多孔質支持体に第一混合液を均一に塗布することができるため、最終的に得られる酸性ガス含有ガス処理用分離膜をより安定させることができる。
【0059】
(c)中間層形成工程
中間層形成工程として、第一塗布工程が完了した無機多孔質支持体を熱処理し、当該無機多孔質支持体の表面にシリカ微粒子結合体を形成する。熱処理は、例えば、焼成器等の加熱手段が用いられる。熱処理の具体的な手順について説明する。
先ず、無機多孔質支持体を後述の熱処理温度に達するまで昇温する。昇温時間は、1〜24時間が好ましい。昇温時間が1時間より短いと急激な温度変化により均一な膜が得られ難く、24時間より長いと長時間の加熱により膜が劣化する虞がある。昇温後、一定時間で熱処理(焼成)を行う。熱処理温度は、25〜600℃が好ましく、25〜500℃がより好ましい。熱処理温度が25℃より低いと十分な熱処理を行えないため緻密な膜が得られず、600℃より高いと高温の加熱により膜が劣化する虞がある。熱処理時間は、0.5〜10時間が好ましく、5〜7時間がより好ましい。熱処理時間が0.5時間より短いと十分な熱処理を行えないため緻密な膜が得られず、10時間より長いと長時間の加熱により膜が劣化する虞がある。熱処理が終わったら、無機多孔質支持体を室温まで冷却する。冷却時間は、5〜10時間が好ましい。冷却時間が5時間より短いと急激な温度変化により膜に亀裂や剥離が発生する虞があり、10時間より長いと膜が劣化する虞がある。冷却後の無機多孔質支持体の内部表面(一部の微細孔の内面を含む)には中間層が形成される。中間層は、目付量が0.1〜3.0mg/cm
2に調整され、好ましくは0.3〜1.5mg/cm
2に調整される。なお、「中間層形成工程」の後、上述した「第一塗布工程」に戻り、第一塗布工程と中間層形成工程とをセットとして、これを複数回繰り返すと、無機多孔質支持体の表面に、より緻密で且つ均一な膜質の中間層を形成することができる。
【0060】
(d)第二塗布工程
第二塗布工程として、中間層形成工程によって中間層が形成された無機多孔質支持体に第二混合液(炭化水素基含有ポリシロキサン微粒子のコロイド溶液又は懸濁液)を塗布する。第二塗布工程で塗布される第二混合液は、中間層を介して無機多孔質支持体に塗布されるため、無機多孔質支持体への第二混合液の染み込み量(無機多孔質支持体の表面から深さ方向にテトラアルコキシシラン又は炭化水素基含有トリアルコキシシランが染み込む距離)を50μm以下に抑えることができる。従って、無機多孔質支持体の微細孔が過度に塞がれることがなく、後述の分離層形成工程により完成した酸性ガス含有ガス処理用分離膜に消化ガスを通過させた場合、ガス通過量(消化ガスの処理量)を維持することができる。また、無機多孔質支持体に塗布する中間層及び分離層の形成材料(ゾル)の塗布量を低減することができるため、酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造コストの削減にも寄与し得る。第二混合液を塗布する方法及び条件は、第一塗布工程と同様である。第二塗布工程においても、無機多孔質支持体への第二混合液の注入を複数回繰り返すことにより、無機多孔質支持体への炭化水素基含有ポリシロキサン微粒子の付着量を増加させることができる。また、一連の手順を繰り返すことで、無機多孔質支持体に第二混合液を均一に塗布することができるため、最終的に得られる酸性ガス含有ガス処理用分離膜の分離性能をより向上させることができる。
【0061】
(e)分離層形成工程
分離層形成工程として、第二塗布工程が完了した無機多孔質支持体を熱処理し、当該無機多孔質支持体の表面に炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体を形成する。熱処理の具体的な手順について説明する。
先ず、無機多孔質支持体を後述の熱処理温度に達するまで昇温する。昇温時間は、1〜24時間が好ましい。昇温時間が1時間より短いと急激な温度変化により均一な膜が得られ難く、24時間より長いと長時間の加熱により膜が劣化する虞がある。昇温後、一定時間で熱処理(焼成)を行う。熱処理温度は、25〜300℃が好ましく、25〜150℃がより好ましい。熱処理温度が25℃より低いと十分な熱処理を行えないため緻密な膜が得られず、300℃より高いと高温の加熱により膜が劣化する虞がある。熱処理時間は、0.5〜10時間が好ましく、5〜7時間がより好ましい。熱処理時間が0.5時間より短いと十分な熱処理を行えないため緻密な膜が得られず、10時間より長いと長時間の加熱により膜が劣化する虞がある。熱処理が終わったら、無機多孔質支持体を室温まで冷却する。冷却時間は、5〜10時間が好ましい。冷却時間が5時間より短いと急激な温度変化により膜に亀裂や剥離が発生する虞があり、10時間より長いと膜が劣化する虞がある。冷却後の無機多孔質支持体の表面(一部の微細孔の内面を含む)には分離層が形成される。分離層は、目付量が0.1〜4.0mg/cm
2に調整され、好ましくは0.5〜2.0mg/cm
2に調整される。なお、「分離層形成工程」の後、上述した「第二塗布工程」に戻り、第二塗布工程と分離層形成工程とをセットとして、これを複数回繰り返すと、無機多孔質支持体の表面に、より緻密で且つ均一な膜質の分離層を形成することができる。
【0062】
以上の工程(a)〜(e)を実施することにより、本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜が製造される。この分離膜は、ベースとなる無機多孔質支持体に、特定のガス(本実施形態の場合、二酸化炭素)を誘引するサイト(メチル基)を有する分離層が形成されたものである。分離層は、中間層を介して無機多孔質支持体の表面に形成されている。ここで、中間層に含まれるシリカ微粒子結合体と、分離層に含まれる炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体とは、同じ系統の材料であって分子構造が類似しているため、シリカ微粒子結合体及び炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体は、互いに対して高い親和性を有している。従って、中間層と分離層との間で界面剥離やひび割れ等が発生せず、両者は強固に密着し、安定な酸性ガス含有ガス処理用分離膜を構成することができる。この酸性ガス含有ガス処理用分離膜に、二酸化炭素等の酸性ガスとメタンガスとを含有する消化ガスを通過させると、消化ガス中の二酸化炭素が選択的に炭化水素基含有ポリシロキサン網目構造体の表面に誘引され、そのまま分離膜を透過することになる。その結果、消化ガス中のメタンガス成分が濃縮され、高濃度のメタンガスを効率的に得ることができる。濃縮されたメタンガスは、都市ガスの原料や、燃料電池に使用する水素の原料に利用することができる。なお、分離層がメタンガスを誘引するサイト(エチル基以上の炭素数を有する炭化水素基)を有する場合は、二酸化炭素とメタンガスとを含む消化ガスを通過させると、ガス誘引層にメタンガスが選択的に誘引され、メタンガスは細孔をそのまま透過する。従って、この場合は、分離膜を透過したメタンガスを回収し、これを都市ガスの原料や、燃料電池に使用する水素の原料に利用することができる。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜に関する実施例について説明する。
【0064】
<分離膜の作製>
上述の実施形態で説明した「酸性ガス含有ガス処理用分離膜の製造方法」に従って、分離膜である二酸化炭素分離膜を作製した。実施例において、中間層の形成に使用するコロイダルシリカとして日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカ「スノーテックス(登録商標)」シリーズ(詳細は、各実施例の説明を参照)を使用し、有機溶媒として2−プロパノール(和光純薬工業株式会社製 試薬特級 99.5%)を使用した。また、全ての実施例及び比較例に共通で、テトラアルコキシシランとしてテトラエトキシシラン(信越化学工業株式会社製 信越シリコーンLS−2430)を使用し、炭化水素基含有トリアルコキシシランとしてメチルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製 信越シリコーンLS−1890)を使用し、酸触媒として硝酸(和光純薬工業株式会社製 試薬特級 69.5%)を使用し、有機溶媒としてエタノール(和光純薬工業株式会社製 試薬特級 99.5%)を使用した。実施例1〜4及び比較例1及び2で使用した原材料の配合を表1に示す。
【0065】
【表1】
【0066】
〔実施例1〕
分離膜の作製に先立ち、中間層形成用シリカゾル(第一混合液)及び分離層形成用アルコキシド溶液(第二混合液)を準備した。表1の配合に従って、コロイダルシリカ、2−プロパノールの混合液を2時間攪拌することにより、中間層形成用シリカゾルを調製した。コロイダルシリカは、日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス(登録商標)OXS)を使用した。また、表1の配合に従って、水、硝酸、エタノールの混合液を30分間攪拌し、次いでテトラエトキシシランを添加して1時間攪拌し、次いでメチルトリエトキシシランを添加して2.5時間攪拌し、次いで酢酸マグネシウム六水和物を添加して2時間攪拌することにより、分離層形成用アルコキシド溶液(第二混合液)を調製した。
上記のように調製した中間層形成用シリカゾル及び分離層形成用アルコキシド溶液を無機多孔質支持体に塗布し、中間層及び分離層を備える二酸化炭素分離膜を作製した。無機多孔質支持体として、日本ガイシ株式会社製のセラミックフィルター「セフィルト(登録商標)」(φ3−37穴、分画分子量1万)を使用した。この無機多孔質支持体は、モノリス構造を有するアルミナ系セラミックス管状体である。先ず、無機多孔質支持体の内部表面に中間層形成用シリカゾルをディッピング法(内部浸漬法)によって塗布した。具体的には、無機多孔質支持体の上部にシリコーンチューブを接続し、チューブの一部をクリップで狭持した。チューブに中間層形成用シリカゾル200gを流し込んだ後、クリップを外して中間層形成用シリカゾルを無機多孔質支持体に注入し、無機多孔質支持体の内部表面に付着させた。無機多孔質支持体への中間層形成用シリカゾルの注入は2回行った。室温で1時間放置後、この一連の作業を2回繰り返し、焼成器で熱処理を行った。熱処理条件は、室温(25℃)から500℃まで5時間かけて加熱し、500℃で2時間保持し、25℃まで5時間かけて冷却した。上記の作業(内部コーティング)は1回のみ実施し、無機多孔質支持体の内部表面に中間層を形成した。中間層のコーティング量は175mgであり、目付量は0.63mg/cm
2であった。次に、中間層を形成した無機多孔質支持体の内部表面に分離層形成用アルコキシド溶液をディッピング法(内部浸漬法)によって塗布した。ディッピング法は、中間層の場合と同様に実施した。分離層の熱処理条件は、室温(25℃)から150℃まで5時間かけて加熱し、150℃で2時間保持し、25℃まで5時間かけて冷却した。上記の作業(コーティング)を4回繰り返し、中間層の上に分離層を形成した。分離層のコーティング量は383mgであり、目付量は1.37mg/cm
2であった。以上により、実施例1の分離膜を完成させた。実施例1の分離膜について、SEM−EDSによるSiの成分分析より、管状体へのアルコキシド溶液の染み込み量(無機多孔質支持体の表面から深さ方向にテトラアルコキシシラン又は炭化水素基含有トリアルコキシシランが染み込む距離)を求めたところ、10μmであった。
【0067】
〔実施例2〕
中間層形成用シリカゾル(第一混合液)及び分離層形成用アルコキシド溶液(第二混合液)を準備し、これらを無機多孔質支持体であるモノリス構造を有するアルミナ系セラミックス管状体に塗布及び熱処理し、実施例2の中間層及び分離層を備える二酸化炭素分離膜を作製した。
表1の配合に従って、実施例1と同様の手順で、実施例2で使用する中間層形成用シリカゾル及び分離層形成用アルコキシド溶液を調製した。コロイダルシリカは、日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカ(商品名:スノーテックス(登録商標)OXS)を使用した。さらに、実施例1と同様の作製手順及び作製条件により、中間層のコーティング作業を1回、分離層のコーティング作業を4回実施し、実施例2の分離膜を完成させた。実施例2の分離膜は、中間層のコーティング量が145mg、目付量が0.52mg/cm
2であり、分離層のコーティング量が371mg、目付量が1.33mg/cm
2であった。また、管状体へのアルコキシド溶液の染み込み量は13μmであった。
【0068】
〔実施例3〕
中間層形成用シリカゾル(第一混合液)及び分離層形成用アルコキシド溶液(第二混合液)を準備し、これらを無機多孔質支持体であるモノリス構造を有するアルミナ系セラミックス管状体に塗布及び熱処理し、実施例3の中間層及び分離層を備える二酸化炭素分離膜を作製した。
表1の配合に従って、実施例1と同様の手順で、実施例3で使用する中間層形成用シリカゾル及び分離層形成用アルコキシド溶液を調製した。コロイダルシリカは、日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカ(商品名:IPA−ST)を使用した。さらに、実施例1と同様の作製手順及び作製条件により、中間層のコーティング作業を2回、分離層のコーティング作業を4回実施し、実施例3の分離膜を完成させた。実施例3の分離膜は、中間層のコーティング量が149mg、目付量が0.53mg/cm
2であり、分離層のコーティング量が419mg、目付量が1.50mg/cm
2であった。また、管状体へのアルコキシド溶液の染み込み量は25μmであった。
【0069】
〔実施例4〕
中間層形成用シリカゾル(第一混合液)及び分離層形成用アルコキシド溶液(第二混合液)を準備し、これらを無機多孔質支持体であるモノリス構造を有するアルミナ系セラミックス管状体に塗布及び熱処理し、実施例4の中間層及び分離層を備える二酸化炭素分離膜を作製した。
表1の配合に従って、実施例1と同様の手順で、実施例4で使用する中間層形成用シリカゾル及び分離層形成用アルコキシド溶液を調製した。コロイダルシリカは、日産化学工業株式会社製のコロイダルシリカ(商品名:IPA−ST−UP)を使用した。さらに、実施例1と同様の作製手順及び作製条件により、中間層のコーティング作業を2回、分離層のコーティング作業を4回実施し、実施例4の分離膜を完成させた。実施例4の分離膜は、中間層のコーティング量が151mg、目付量が0.54mg/cm
2であり、分離層のコーティング量が427mg、目付量が1.53mg/cm
2であった。また、管状体へのアルコキシド溶液の染み込み量は28μmであった。
【0070】
〔比較例1〕
分離層形成用アルコキシド溶液を準備し、これを無機多孔質支持体であるモノリス構造を有するアルミナ系セラミックス管状体に塗布及び熱処理し、比較例1の二酸化炭素分離膜を作製した。比較例1は、中間層を有さない分離膜である。
表1の配合に従って、水、硝酸、エタノールの混合液を30分間攪拌し、次いでテトラエトキシシランを添加して1時間攪拌し、次いでメチルトリエトキシシランを添加して2.5時間攪拌し、次いで酢酸マグネシウム六水和物を添加して2時間攪拌することにより、分離層形成用アルコキシド溶液を調製した。
無機多孔質支持体の内部表面に分離層形成用アルコキシド溶液をディッピング法(内部浸漬法)によって塗布した。ディッピング法は、実施例1における分離層の場合と同様に実施した。分離層の熱処理条件は、室温(25℃)から150℃まで5時間かけて加熱し、150℃で2時間保持し、25℃まで5時間かけて冷却した。上記の作業(コーティング)を8回繰り返して無機多孔質支持体の内部表面に分離層を形成し、比較例1の分離膜を完成させた。比較例1の分離膜は、中間層を有しておらず、分離層のコーティング量が655mgであり、目付量が2.35mg/cm
2であった。また、管状体へのアルコキシド溶液の染み込み量は156μmであり、実施例1〜4と比べて染み込み量が大きいものであった。
【0071】
〔比較例2〕
分離層形成用アルコキシド溶液を準備し、これを無機多孔質支持体であるモノリス構造を有するアルミナ系セラミックス管状体に塗布及び熱処理し、比較例2の二酸化炭素分離膜を作製した。比較例2は、中間層を有さない分離膜である。
表1の配合に従って、比較例1と同様の手順で、比較例2で使用する分離層形成用アルコキシド溶液を調製した。さらに、比較例1と同様の作製手順及び作製条件により、比較例2の分離膜を完成させた。比較例2の分離膜は、中間層を有しておらず、分離層のコーティング量が736mgであり、目付量が2.64mg/cm
2であった。また、管状体へのアルコキシド溶液の染み込み量は123μmであり、実施例1〜4と比べて染み込み量が大きいものであった。
【0072】
<分離性能確認試験>
実施例1〜4及び比較例1及び2の分離膜について、二酸化炭素の分離性能に関する確認試験を行った。この確認試験では、分離膜に二酸化炭素を透過させたときの気体透過速度〔P(CO
2)〕、及び同じ分離膜に窒素を透過させたときの気体透過速度〔P(N
2)〕を測定した。ここで、窒素の気体分子径は3.64Åであり、二酸化炭素の気体分子径は3.3Åである。このため、窒素よりも気体分子径が小さい二酸化炭素は分離膜を透過し易い。従って、このような気体によって異なる性質を利用し、さらに膜の構成を適切に設定すれば、二酸化炭素を含有する消化ガスから二酸化炭素を分離することが可能となる。
【0073】
図1は、分離性能確認試験に使用した気体透過速度測定装置10の概略構成図である。気体透過速度測定装置10は、ガスシリンダー1、圧力ゲージ2、チャンバー3、及び質量流量計4を備える。分離膜5は、チャンバー3の内部に設置される。試験対象の分離膜5は、モノリス構造を有するアルミナ管の内部表面に中間層及び分離層を形成した管状体(実施例1〜4)、又は分離層のみを形成した管状体(比較例1及び2)である。
【0074】
測定ガスである二酸化炭素又は窒素をガスシリンダー1に予め充填しておく。ここでは、二酸化炭素をガスシリンダー1に充填したものとして説明する。ガスシリンダー1から排出された二酸化炭素は、圧力ゲージ2によって圧力が調整され、下流側のチャンバー3に供給される。本確認試験では、二酸化炭素の供給圧を室温で0.1MPaに調整した。管状体である分離膜5は、一端(先端側)5aが封止され、他端(基端側)5bから分離膜5の内部に二酸化炭素が流入可能に構成されている。分離膜5の一端5aは、エポキシ樹脂(ナガセケムテックス株式会社製の二液性エポキシ系接着剤「AV138」及び「HV998」)によって完全にシールされ、他端5bは上記エポキシ樹脂によって二酸化炭素の流入口を塞がないようにシールされている。さらに、分離膜5の一端5a及び他端5bにはOリング7が取り付けられ、分離膜5をチャンバー3の内部に固定している。チャンバー3には耐熱ガラス管6(コーニング社製のパイレックス(登録商標)管(外径8mm、内径6mm、長さ10mm))が接続され、分離膜5の内部から外部に排出されたガスは、耐熱ガラス管6を通って質量流量計4に導かれる。質量流量計4には、コフロック社製の熱式質量流量計(マスフローメーター「5410」)を使用した。測定条件は、流量レンジを500mL/分、フルスケール(FS)最大流量に対する精度は±1%(20℃)とした。質量流量計4で測定した二酸化炭素の流量〔mL/min〕から、二酸化炭素の気体透過速度〔P(CO
2)〕(m
3/(m
2×s(秒)×Pa))を算出した。窒素についても上記と同様の手順により気体透過速度〔P(N
2)〕(m
3/(m
2×s(秒)×Pa))を算出した。そして、二酸化炭素の気体透過速度〔P(CO
2)〕と窒素の気体透過速度〔P(N
2)〕との比率である透過速度比〔α(CO
2/N
2)〕から二酸化炭素の分離性能を評価した。分離性能確認試験の結果を表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
表2に示されるように、実施例1〜4の中間層及び分離層を備える分離膜は、窒素に対する二酸化炭素の透過性が優れたものとなっていた。これに対し、中間層を設けずに分離層のみを備える比較例1及び2の分離膜は、窒素に対する二酸化炭素の透過性は十分ではなかった。実施例と比較例とを比べると、二酸化炭素と窒素との透過速度比において約3〜14倍の差が確認された。
【0077】
以上より、本発明の酸性ガス含有ガス処理用分離膜は、少なくとも二酸化炭素の分離性能に優れたものであるため、生ごみ等を生物学的処理することによって得られる消化ガスから二酸化炭素を効率よく分離し、メタンガスを有用な濃度にまで濃縮し得ることが示唆された。