特許第6196225号(P6196225)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6196225-糖尿病新規発症低減用組成物 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196225
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】糖尿病新規発症低減用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/202 20060101AFI20170904BHJP
   A61K 31/232 20060101ALI20170904BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20170904BHJP
   A61P 3/06 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   A61K31/202
   A61K31/232
   A61P3/10
   A61P3/06
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-538436(P2014-538436)
(86)(22)【出願日】2013年9月19日
(86)【国際出願番号】JP2013075287
(87)【国際公開番号】WO2014050692
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2016年6月22日
(31)【優先権主張番号】特願2012-217553(P2012-217553)
(32)【優先日】2012年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000181147
【氏名又は名称】持田製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080159
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 望稔
(74)【代理人】
【識別番号】100090217
【弁理士】
【氏名又は名称】三和 晴子
(72)【発明者】
【氏名】太田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】及川 眞一
(72)【発明者】
【氏名】横山 光宏
(72)【発明者】
【氏名】折笠 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】松▲崎▼ 益▲徳▼
(72)【発明者】
【氏名】松澤 佑次
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康
【審査官】 中尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】 SATTAR,N. et al.,"Statins and risk of incident diabetes: a collaborative meta-analysis of randomised statin trials",Lancet,2010年 2月27日,Vol.375,No.9716,P.735-742,ISSN 0140-6736
【文献】 NOBUTAKA,H. et al.,"Long-term Administration of Highly Purified Eicosapentaenoic Acid Ethyl Ester Prevents Diabetes and Abnormalities of Blood Coagulation in Male WBN/Kob Rats",Metabolism,2000年 7月,Vol.49,No.7,P.912-919,ISSN 0026-0495
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/202
A61K 31/232
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つを有効成分として含有する、HMG−CoA RI服用による糖尿病新規発症率を低減するための医薬組成物であって、空腹時血糖値110mg/dL以上126mg/dL未満のHMG−CoA RI服用患者に投与される医薬組成物。
【請求項2】
イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つを有効成分として含有する、HMG−CoA RI服用による血糖値上昇を抑制するための医薬組成物であって、空腹時血糖値110mg/dL以上126mg/dL未満のHMG−CoA RI服用患者に投与される医薬組成物。
【請求項3】
血清HDLコレステロール濃度40mg/dL未満の患者に投与される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
低HDLコレステロール血症患者に投与される、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
血清トリグリセライド濃度150mg/dL以上の患者に投与される、請求項3または4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
高トリグリセライド血症患者に投与される、請求項3または4に記載の医薬組成物。
【請求項7】
耐糖能異常または肥満を有するHMG−CoA RI服用患者に投与される、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つがイコサペント酸エチルエステルである、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項9】
イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つを有効成分として含有する、HMG−CoA RI服用による骨格筋細胞の糖取り込み減少の副作用を抑制する請求項1乃至8のいずれか1項に記載の医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスタチン服用による糖尿病新規発症率を低減するための医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脂質異常症は動脈硬化の大きな危険因子である。動脈硬化は、日本人の死因の上位に位置する狭心症、心筋梗塞等の冠動脈疾患や、脳出血、脳梗塞等の脳卒中の原因となっている。一方、脂質異常症を治療することによってこれらの心血管疾患を予防・治療できることが明らかになっている。
【0003】
脂質異常症は、動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2012年版)の診断基準に基づけば、高LDLコレステロール血症(LDLコレステロール(以下「LDL−C」ともいう。)≧140mg/dL)、境界域高LDL−C血症(LDL−C 120〜139mg/dL)、低HDLコレステロール血症(HDLコレステロール(以下「HDL−C」ともいう。)<40mg/dL)および高トリグリセライド血症(トリグリセライド(以下「TG」ともいう。)≧150mg/dL)に分類される。最近では、高LDL−C血症、低HDL−C血症および高TG血症は、独立した危険因子として捉えられている。
【0004】
脂質異常症の治療薬は、脂質異常症のタイプにより異なるが、高LDL−C血症の治療薬としては、スタチンが第一選択である。スタチンの作用機序は、ステロイド合成の出発物質であるイソペンテニル二リン酸やジメチルアリル二リン酸をアセチルCoAから生合成するメバロン酸合成経路においてヒドロキシメチルグルタリルCoA(以下「HMG−CoA」ともいう。)をメバロン酸に還元する反応を触媒する酵素であるHMG−CoA還元酵素(EC 1.1.1.34)を阻害することによって、コレステロールの生合成を低下させるものである。さらに、コレステロールの生合成が低下することで、肝臓のLDL(低比重リポタンパク質)受容体の発現亢進、血液から肝臓へのLDL−C取込み増大、血液中へのVLDL(超低比重リポタンパク質)分泌抑制、血清TGの低下およびHDL−Cの増加といった効果も得られる。スタチンはこのような機能を有することから、HMG−CoA還元酵素阻害薬(HMG−CoA Reductase Inhibitor,HMG−CoA RI)ともいわれる。
【0005】
スタチンは心血管疾患治療、心血管イベントの予防に有効であり、安全で忍容性に優れた薬剤と考えられている。ところが、近年、スタチンと糖尿病発症リスクとの関連を示唆する報告がされている。例えば、非特許文献1には、脂質降下剤スタチンをランダムに投与群と非投与群に分けた臨床試験16件の結果を集計して総合評価を行なったところ、投与群での糖尿病発症リスクが9%高かったことが記載されている。また、2012年2月にアメリカ食品医薬品局からスタチン服用による血糖値上昇および2型糖尿病発症のリスクに関する勧告がなされ、スタチン製剤の添付文書に、スタチン服用により、ヘモグロビンA1c(以下「HbA1c」ともいう。)および空腹時血糖値が上昇したことや糖尿病発症率が有意に上昇したことが追加記載されている(非特許文献2)。しかし、スタチン投与により糖尿病発症のリスクが上昇するとしても、スタチンによる心血管イベント発症リスク減少のベネフィットはそれを上回り、スタチン投与を中止する理由にはならないと考えられている。一方で、血糖値が境界領域の患者等の糖尿病発症リスクの高い患者においては血糖値や糖化ヘモグロビンをモニターしながら使用すべきとされている(非特許文献3)。
【0006】
スタチンの種類と糖尿病発症のリスクとの関係を比較検討した報告がされている。例えば、非特許文献4には、スタチンを投与された66歳以上の高齢者での新規糖尿病発症を評価した結果、プラバスタチンに比べて、アトルバスタチン、ロスバスタチンおよびシンバスタチンは糖尿病発症のリスクが有意に増加し、フルバスタチンおよびロバスタチンは有意差がなかったことが記載されている。また、非特許文献5には、スタチンの忍容性と安全性を比較したメタ解析の結果、糖尿病発症のリスクはスタチン投与により有意に増加したが、スタチンの種類による差異は認められなかったことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Naveed Sattar et al. (2010) Statins and risk of incident diabetes: a collaborative meta-analysis of randomized statin trials. Lancet 375(9716): 735-742.
【非特許文献2】FULL PRESCRIBING INFORMATION of CRESTOR, AstraZeneca, Reviced 28th Februry, 2012.
【非特許文献3】Allison B. Goldfine (2012) Statins: Is it really time to reassess benefits and risks? New Engl. J. Med. 366: 1752-1755.
【非特許文献4】Aleesa A. Carter (2013) Risk of incident diabetes among patients treated with statins: population based study BMJ 346: f2610.
【非特許文献5】Huseyin Naci (2013) Comparative Tolerability and Harms of Individual Statins: A Study-Level Network Meta-Analysis of 246955 Participants From 135 Randomized Controlled Trials. Circ. Cardiovasc. Qual. and Outocomes July 9, 2013.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
スタチンの心血管疾患治療、心血管イベントの予防への有用性は一般に認められるところであり、糖尿病発症のリスクが上昇するとしても、スタチンによる脂質管理を中止するということは困難である。したがって、スタチン服用による脂質異常症の治療を継続しながら、スタチン服用患者、特に血糖値境界領域の患者等の糖尿病発症リスクの高い患者での血糖値上昇および糖尿病新規発症を抑制することが求められている。しかし、スタチンが糖尿病新規発症リスクを上昇させる機序は明らかとはなっておらず、これまでのところ、スタチン服用患者の糖尿病新規発症率を低減することができる医薬は知られていない。そこで、本発明は、スタチン服用患者の糖尿病新規発症を抑制するための医薬組成物を提供することを目的とする。なお、本発明において、特に断りが無い場合には、「糖尿病」は2型糖尿病をいうものとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、日本人のスタチンを服用した高脂血症患者における高純度EPA製剤の長期投与による冠動脈イベントの発症抑制効果(1次予防および2次予防)を検討した大規模無作為化比較試験(JELIS:Japan EPA Intervention Study)により得られた試験データを解析したところ、高純度EPA製剤を服用した患者では、糖尿病新規発症率が有意に上昇していないことを初めて見出し、スタチン服用患者においてイコサペント酸、その製薬学上許容される塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つ(単に「EPA」という場合がある。特に断りがない場合において以下同じ。)、特にイコサペント酸エチルエステル(以下「EPA−E」という場合がある。)を投与すると、糖尿病新規発症率を低減することができることを知得した。また、本発明者らは、培養骨格筋細胞を用いたin vitroの試験によって、スタチンは骨格筋細胞の糖取込みを減少させるが、EPAはスタチンによる骨格筋細胞の糖取込みの減少を抑制することを知見し、EPAはスタチンによる血糖値上昇を抑制することができることを知得した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の医薬組成物を提供する。
(1)イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つを有効成分として含有する、スタチン(HMG−CoA RI)服用による糖尿病新規発症率を低減するための医薬組成物。
(2)血清HDLコレステロール濃度40mg/dL未満の患者に投与される、上記(1)に記載の医薬組成物。
(3)低HDLコレステロール血症患者に投与される、上記(1)に記載の医薬組成物。
(4)血清トリグリセライド濃度150mg/dL以上の患者に投与される、上記(2)または(3)に記載の医薬組成物。
(5)高トリグリセライド血症患者に投与される、上記(2)または(3)に記載の医薬組成物。
(6)空腹時血糖値126mg/dL未満のHMG−CoA RI服用患者に投与される、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の医薬組成物。
(7)空腹時血糖値110mg/dL以上126mg/dL未満のHMG−CoA RI服用患者に投与される、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
(8)空腹時血糖値100mg/dL以上110mg/dL未満のHMG−CoA RI服用患者に投与される、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の医薬組成物。
(9)耐糖能異常または肥満を有するHMG−CoA RI服用患者に投与される、上記(1)乃至(8)のいずれかに記載の医薬組成物。
(10)前記イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つがイコサペント酸エチルエステルまたはイコサペント酸(遊離酸)である、上記(1)乃至(9)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0011】
(11)イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つを有効成分として含有する、スタチン(HMG−CoA RI)服用による血糖値上昇を抑制するための医薬組成物。
(12)血清HDLコレステロール濃度40mg/dL未満の患者に投与される、上記(11)に記載の医薬組成物。
(13)低HDLコレステロール血症患者に投与される、上記(11)に記載の医薬組成物。
(14)血清トリグリセライド濃度150mg/dL以上の患者に投与される、上記(12)または(13)に記載の医薬組成物。
(15)高トリグリセライド血症患者に投与される、上記(12)または(13)に記載の医薬組成物。
(16)空腹時血糖値126mg/dL未満のHMG−CoA RI服用患者に投与される、上記(11)乃至(15)のいずれかに記載の医薬組成物。
(17)空腹時血糖値110mg/dL以上126mg/dL未満のHMG−CoA RI服用患者に投与される、上記(11)乃至(16)のいずれかに記載の医薬組成物。
(18)空腹時血糖値100mg/dL以上110mg/dL未満のHMG−CoA RI服用患者に投与される、上記(11)乃至(16)のいずれかに記載の医薬組成物。
(19)耐糖能異常または肥満を有するHMG−CoA RI服用患者に投与される、上記(11)乃至(18)のいずれかに記載の医薬組成物。
(20)前記イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つがイコサペント酸エチルエステルまたはイコサペント酸(遊離酸)である、上記(11)乃至(19)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0012】
(21)全脂肪酸およびその誘導体中のEPA含量比が96.5質量%以上である、上記(1)乃至(20)のいずれかに記載の医薬組成物。
(22)EPA0.9g/日〜2.7g/日で経口投与することを特徴とする、上記(1)乃至(21)のいずれかに記載の医薬組成物。
(23)EPAを2年以上投与する、上記(1)乃至(22)のいずれかに記載の医薬組成物。
(24)HMG−CoA RIと併用する、上記(1)乃至(23)のいずれかに記載の医薬組成物。
(25)EPAとHMG−CoA RIとを含有する、上記(1)乃至(24)のいずれかに記載の医薬組成物。
(26)食事療法と併用する、上記(1)乃至(25)のいずれかに記載の医薬組成物。
(27)さらに、スタチン(HMG−CoA RI)服用患者において、心血管イベントの発症率、特にHMG−CoA RI単独投与では予防できない心血管イベントの発症率を低減させる、あるいは血清T−Cho濃度および/または血清TG濃度を低下させることを特徴とする、上記(1)乃至(26)のいずれかに記載の医薬組成物。
【0013】
また、本発明は以下の方法を提供する。
(28)スタチン(HMG−CoA RI)服用患者にイコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つを有効成分として含有する医薬組成物を投与する工程を備える、HMG−CoA RI服用による糖尿病新規発症率を低減する方法。
(29)前記患者は血清HDLコレステロール濃度が40mg/dL未満である、上記(28)に記載の方法。
(30)前記患者は低HDLコレステロール血症を併発している、上記(28)に記載の方法。
(31)前記患者は血清トリグリセライド濃度が150mg/dL以上である、上記(29)または(30)に記載の方法。
(32)前記患者は高トリグリセライド血症を併発している、上記(29)または(30)に記載の方法。
(33)前記患者は空腹時血糖値が126mg/dL未満である、上記(28)乃至(32)のいずれかに記載の方法。
(34)前記患者は空腹時血糖値が110mg/dL以上126mg/dL未満である、上記(28)乃至(33)のいずれかに記載の方法。
(35)前記患者は空腹時血糖値が100mg/dL以上110mg/dL未満である、上記(28)乃至(33)のいずれかに記載の方法。
(36)前記患者は耐糖能異常または肥満を有する、上記(28)乃至(35)のいずれかに記載の方法。
(37)前記イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つがイコサペント酸エチルエステルまたはイコサペント酸(遊離酸)である、上記(28)乃至(36)のいずれかに記載の方法。
【0014】
(38)スタチン(HMG−CoA RI)服用患者にイコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つを有効成分として含有する医薬組成物を投与する工程を備える、HMG−CoA RI服用による血糖値上昇を抑制する方法。
(39)前記患者は血清HDLコレステロール濃度が40mg/dL未満である、上記(38)に記載の方法。
(40)前記患者は低HDLコレステロール血症を併発している、上記(38)に記載の方法。
(41)前記患者は血清トリグリセライド濃度が150mg/dL以上である、上記(39)または(40)に記載の方法。
(42)前記患者は高トリグリセライド血症を併発している、上記(39)または(40)のいずれかに記載の方法。
(43)前記患者は空腹時血糖値が126mg/dL未満である、上記(38)乃至(42)のいずれかに記載の方法。
(44)前記患者は空腹時血糖値が110mg/dL以上126mg/dL未満である、上記(38)乃至(43)のいずれかに記載の方法。
(45)前記患者は空腹時血糖値が100mg/dL以上110mg/dL未満である、上記(38)乃至(43)のいずれかに記載の方法。
(46)前記患者は耐糖能異常または肥満を有する、上記(38)乃至(45)のいずれかに記載の方法。
(47)前記イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つがイコサペント酸エチルエステルまたはイコサペント酸(遊離酸)である、上記(38)乃至(46)のいずれかに記載の方法。
【0015】
(48)耐糖能異常または肥満を有するスタチン(HMG−CoA RI)服用患者にイコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つを有効成分として含有する医薬組成物を投与する工程を備える、耐糖能異常または肥満を有するHMG−CoA RI服用患者における耐糖能異常または肥満を改善する方法。
(49)前記患者は血清HDLコレステロール濃度が40mg/dL未満である、上記(48)に記載の方法。
(50)前記患者は低HDLコレステロール血症を併発している、上記(48)に記載の方法。
(51)前記患者は血清トリグリセライド濃度が150mg/dL以上である、上記(49)または(50)に記載の方法。
(52)前記患者は高トリグリセライド血症を併発している、上記(49)または(50)に記載の方法。
(53)前記患者は空腹時血糖値が126mg/dL未満である、上記(48)乃至(52)のいずれかに記載の方法。
(54)前記患者は空腹時血糖値が110mg/dL以上126mg/dL未満である、上記(48)乃至(53)のいずれかに記載の方法。
(55)前記患者は空腹時血糖値が100mg/dL以上110mg/dL未満である、上記(48)乃至(53)のいずれかに記載の方法。
(56)前記イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つがイコサペント酸エチルエステルまたはイコサペント酸(遊離酸)である、上記(48)乃至(55)のいずれかに記載の方法。
【0016】
(57)全脂肪酸およびその誘導体中のEPA含量比が96.5質量%以上である、上記(28)乃至(56)のいずれかに記載の方法。
(58)EPA0.9g/日〜2.7g/日で経口投与することを特徴とする、上記(28)乃至(57)のいずれかに記載の方法。
(59)EPAを2年以上投与する、上記(28)乃至(58)のいずれかに記載の方法。
(60)前記医薬組成物をHMG−CoA RIと併用する、上記(28)乃至(59)のいずれかに記載の方法。
(61)前記医薬組成物がEPAとHMG−CoA RIとを含有する、上記(28)乃至(60)のいずれかに記載の方法。
(62)食事療法と併用する、上記(28)乃至(61)のいずれかに記載の方法。
(63)さらに、スタチン(HMG−CoA RI)服用患者において、心血管イベントの発症率、特にHMG−CoA RI単独投与では予防できない心血管イベントの発症率を低減させる、あるいは血清T−Cho濃度および/または血清TG濃度を低下させることを特徴とする、上記(28)乃至(62)のいずれかに記載の方法。
【0017】
(64)スタチン(HMG−CoA RI)服用患者にイコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つを有効成分として含有する医薬組成物を投与する工程を備える、
1) HMG−CoA RI服用による糖尿病新規発症率を低減する方法、
2) HMG−CoA RI服用による血糖値上昇を抑制する方法、
3) 耐糖能異常または肥満を有するHMG−CoA RI服用患者における耐糖能異常または肥満を改善する方法
のいずれかの方法に用いられる該医薬組成物を宣伝する方法。
医師や被験者に対して、本願発明の上記方法に関する情報を提供する。具体的には、該情報を、例えば、パンフレットの配布、電子媒体の頒布、インターネットを通じた情報提供などで提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明の医薬組成物は、スタチン(HMG−CoA RI)服用患者において、スタチン服用による糖尿病新規発症率を低減する手段を提供する。本発明の医薬組成物は、スタチン服用患者の中でも、糖尿病発症のリスクがより高い患者に対して特に有効である。本発明の医薬組成物は、また、スタチン(HMG−CoA RI)投与患者において、スタチン服用による血糖値上昇を抑制する手段を提供する。本発明の医薬組成物は、スタチン服用患者の中でも、血糖値が上昇しやすい患者に対して特に有効である。さらに、本発明の医薬組成物は、安全性が高く、副作用も少ない。
【0019】
また、本発明の医薬組成物は、スタチン(HMG−CoA RI)服用患者において、スタチン服用による糖尿病新規発症率および/または血糖値上昇を抑制し、かつ、心血管イベントの発症予防作用、特に、HMG−CoA RI単独投与では予防できない心血管イベントの発症予防効果、血清T−Cho濃度および血清TG低下作用、等の効果を発揮させる手段を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、培養ヒト横紋筋肉腫細胞の糖取込みへのスタチン、EPAの影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明を詳細に説明する。
1.医薬組成物
(1)有効成分
本発明の医薬組成物は、有効成分として、イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つを含有する。
上記製薬学上許容しうる塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等の無機塩、ベンジルアミン塩、ジエチルアミン塩等の有機塩基との塩、およびアルギニン塩、リジン塩等の塩基性アミノ酸との塩が挙げられる。
上記製薬学上許容しうるエステルとしては、例えば、エチルエステル等のアルキルエステル、およびモノ−、ジ−、トリグリセライド等のグリセリンエステルが挙げられる。
上記EPAとしては、イコサペント酸エチルエステル(以下「EPA−E」という場合がある。)、イコサペント酸(遊離酸)またはイコサペント酸ナトリウム(以下「EPA−Na」という場合がある。)が好ましく、EPA−Eがより好ましい。
【0022】
上記EPAの純度は、特に限定されないが、本発明の医薬組成物が含有する全脂肪酸中の含有量として、25質量%以上、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上、いっそう好ましくは85質量%以上、よりいっそう好ましくは96.5質量%以上、とりわけ好ましくはEPA以外の他の脂肪酸を実質的に含まない態様である。
【0023】
上記イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つがEPA−Eである場合、飽和脂肪酸やアラキドン酸等の心血管イベントに対して好ましくない不純物が少なく、栄養過多やビタミンA過剰摂取の問題もなく、所望の作用効果を発揮することが可能である。また、エステルであるため、主にトリグリセライド体である魚油等に比べて酸化安定性が高く、通常の酸化防止剤添加により十分安定な組成物を得ることが可能である。抗酸化剤としては、例えば、ブチレート化ヒドロキシトルエン、ブレチート化ヒドロキシアニソール、プロピルガレート、没食子酸、医薬として許容されうるキノンおよびα−トコフェロールから選択される1種類以上の抗酸化剤を有効量含有させることができる。
【0024】
上記イコサペント酸、その製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つがEPA(遊離酸)である場合、飽和脂肪酸やアラキドン酸等の心血管イベントに対して好ましくない不純物が少なく、栄養過多やビタミンA過剰摂取の問題もなく、所望の作用効果を発揮することが可能である。また、遊離酸であるため、腸管での吸収時にエステラーゼによるエステル結合切断が必要ないことから、特に空腹時投与においてEPA−Eやトリグリセライド体に比べて吸収性が高い可能性がある。抗酸化剤としては、例えば、ブチレート化ヒドロキシトルエン、ブレチート化ヒドロキシアニソール、プロピルガレート、没食子酸、医薬として許容されうるキノンおよびα−トコフェロールから選択される1種類以上の抗酸化剤を有効量含有させることができる。
【0025】
製剤の剤形としては、錠剤、カプセル剤、マイクロカプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、経口用液体製剤、乳剤、自己乳化型製剤、シロップ剤、ゼリー剤の形で、経口で患者に投与されるが、とりわけカプセルたとえば、軟質カプセルやマイクロカプセルに封入しての経口投与が好ましい。このEPA−Eは、例えば、日本において、閉塞性動脈硬化症または高トリグリセライド血症の治療薬として入手可能な高純度EPA−E(96.5質量%以上)含有軟カプセル剤(商品名エパデール、持田製薬社製)を用いることができる。また、アメリカにおいて、重度高TG血症治療剤として承認された、高純度EPA−E含有軟カプセル剤(商品名バシーパ(Vacepa)、アマリン・ファーマ(Amarin Pharma)社製あるいは全脂肪酸中EPA−Eを約46質量%およびDHA−Eを約38質量%含有する軟カプセル剤(ロバザ(Lovaza)、グラクソスミスクライン(GlaxoSmithKline)社製およびオマコール(Omacor)、プロノバ(Pronova)社製)、全脂肪酸中EPA(遊離酸)を50〜60質量%およびDHA(遊離酸)を15〜25質量%含有する軟カプセル剤(エパノバ(Epanova)、オムセラ(Omthera)社製)を用いることができる。
【0026】
本発明の医薬組成物は、経口投与する場合は、EPA−Eとして、好ましくは0.1〜10g/日、より好ましくは0.3〜6g/日、さらに好ましくは0.6〜4g/日、いっそう好ましくは0.9〜2.7g/日を1〜3回に分けて投与する。ただし、必要に応じてまたは所望により全量を1回〜数回に分けて投与してもよい。投与時間は食中または食後が好ましく、食直後(30分以内)がより好ましい。自己乳化型製剤(例えば、国際公開第2010/134614号を参照。)は、空腹時でも吸収性に優れるため、食中、食後あるいは食直後以外の時間に投与することもできる。また、本発明の医薬組成物は、食事療法(例えば、一日摂取カロリーの制限、毎食規則正しく食事を摂る、偏食をしない、バランス良く栄養素(炭水化物、蛋白質、脂質、ミネラル、ビタミン、食物繊維等)を摂る、等)と併用することもでき、その場合は上記一日投与量、一日投与回数および/または投与時間を任意に調整することもできる。本発明の医薬組成物がEPA(遊離酸)を含有する場合の、EPA(遊離酸)の1日投与量および投与時間は、上記EPA−Eを含有する医薬組成物の場合に準じることができる。
【0027】
上記投与量を経口投与する場合、投与期間はスタチンを投与する期間中とすることが好ましい。例えば、投与期間は1年以上、好ましくは2年以上、さらに好ましくは3年以上、とりわけ好ましくは5年以上であるが、スタチン服用による糖尿病新規発症率および/または血糖値上昇の危険度が高い状態が続いている間は投与を継続することが望ましい。場合により1日〜3ヵ月程度、好ましくは1週間〜1ヵ月程度の休薬期間を設けることもできる。
【0028】
また、投与期間は対象疾患および症状の程度に応じて任意に設定することができる。例えば、対象疾患が脂質異常症の場合、脂質異常症に関連する生化学的マーカーや病態の改善または治療効果あるいはメタボリックシンドロームや心・脳血管イベントや四肢末梢潰瘍や壊疽などへの進行抑制であれば特に投与期間は限定されない。例えば、血漿中の脂質マーカー(総コレステロール(以下、Choと記す)、TG、食後TG、低比重リポ蛋白Cho、高比重リポ蛋白Cho、超低比重リポ蛋白Cho、非高比重リポ蛋白Cho、中間比重リポ蛋白Cho、超高比重リポ蛋白Cho、遊離脂肪酸、リン脂質、カイロミクロン、ApoB、リポプロテイン(a)、レムナント様蛋白Cho、小型高密度低比重リポ蛋白Cho等)の濃度改善、サーモグラフィーなどで測定できる四肢末梢の皮膚温度上昇、歩行距離の延長、血清クレアチニンフォスフォキナーゼ上昇などの検査値、あるいはしびれ、冷感、疼痛、安静時疼痛、かゆみ、チアノーゼ、発赤、しもやけ、肩こり、貧血、血色不良、掻痒および蟻走感などの諸症状の改善が例示され、これらの改善または治療効果をモニタリングしながら投与してもよい。その他の脂質異常症や末梢血行障害に関連する生化学的・病理学的あるいは病態パラメータにより改善または治療効果をモニタリングして投与してもよい。血症脂質濃度など生化学的指標の異常値や病態の異常が継続している間は投与を継続することが望ましい。
【0029】
(2)EPA以外に含有されてもよい脂肪酸
他に含有されてもよい脂肪酸(遊離の脂肪酸に限定されず、製薬学上許容される塩、エステルおよびその他の誘導体を含む。本項目において、以下同じ。)としては、好ましくはω3系長鎖不飽和脂肪酸、より好ましくはドコサヘキサエン酸、ドコサペンタエン酸、およびそれらの製薬学上許容しうる塩およびエステルからなる群から選択される少なくとも1つ(単に「DHA」という場合がある。特に断りが無い場合において以下同じ。)、さらに好ましくはDHA、いっそう好ましくはドコサヘキサエン酸エチルエステル(以下「DHA−E」という場合がある。)が挙げられる。
【0030】
本発明の医薬組成物がEPA−EおよびDHA−Eを含有する場合、本発明の医薬組成物が含有する全脂肪酸中のEPA−EおよびDHA−Eの合計割合は、特に限定されないが、好ましくは40質量%以上、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、いっそう好ましくは90質量%以上、よりいっそう好ましくはω3系長鎖不飽和脂肪酸以外の脂肪酸を実質的に含まない態様である。すなわち、全脂肪酸中のω3系長鎖不飽和脂肪酸純度が高いことが好ましく、ω3系長鎖不飽和脂肪酸であるEPA+DHA純度が高いことがさらに好ましく、EPAの純度が高いことがより好ましい。例えば、本発明の医薬組成物がEPA−EおよびDHA−Eを含有する場合、本発明の医薬組成物が含有する全脂肪酸中のEPA−EのDHA−Eに対する含有量比(EPA−E/DHA−E)は、特に限定されないが、好ましくは0.8以上、より好ましくは1.0以上、さらに好ましくは1.2以上である。本発明の医薬組成物がEPA(遊離酸)およびDHA(遊離酸)を含有する場合の、本発明の医薬組成物が含有する全脂肪酸中のEPA(遊離酸)およびDHA(遊離酸)の合計割合および本発明の医薬組成物が含有する全脂肪酸中のEPA(遊離酸)のDHA(遊離酸)に対する含有量比(EPA/DHA)は、上記EPA−EおよびDHA−Eを含有する医薬組成物の場合に準じることができる。
【0031】
本発明の医薬組成物がEPA−EおよびDHA−Eを含有する場合、EPA−EおよびDHA−Eの1日投与量は、特に限定されないが、EPA−EおよびDHA−Eの合計として、好ましくは0.3〜10g/日、より好ましくは0.5〜6g/日、さらに好ましくは1〜4g/日である。ただし、必要に応じてまたは所望により全量を1回〜数回に分けて投与してもよい。投与時間は食中または食後が好ましく、食直後(30分以内)がより好ましい。自己乳化型製剤(例えば、国際公開第2010/134614号参照。)は、空腹時でも吸収性に優れるため、食中、食後あるいは食直後以外の時間に投与することもできる。また、本発明の医薬組成物は、食事療法と併用することもでき、その場合は上記一日投与量、一日投与回数および/または投与時間を任意に調整することもできる。本発明の医薬組成物がEPA(遊離酸)およびDHA(遊離酸)を含有する場合の、EPA(遊離酸)およびDHA(遊離酸)の1日投与量および投与時間は、上記EPA−EおよびDHA−Eを含有する医薬組成物の場合に準じることができる。
【0032】
上記投与量を経口投与する場合、投与期間はスタチンを投与する期間中とすることが好ましい。例えば、投与期間は1年以上、好ましくは2年以上、さらに好ましくは3年以上、とりわけ好ましくは5年以上であるが、スタチン服用による糖尿病新規発症率および/または血糖値上昇の危険度が高い状態が続いている間は投与を継続することが望ましい。場合により1日〜3ヵ月程度、好ましくは1週間〜1ヵ月程度の休薬期間を設けることもできる。
【0033】
また、投与期間は対象疾患および症状の程度に応じて任意に設定することができる。例えば、対象疾患が脂質異常症の場合、脂質異常症に関連する生化学的マーカーや病態の改善または治療効果あるいはメタボリックシンドロームや心・脳血管イベントや四肢末梢潰瘍や壊疽などへの進行抑制であれば投与期間は特に限定されない。例えば、血漿中の脂質マーカー(総コレステロール(以下、Choと記す)、TG、食後TG、低比重リポ蛋白Cho、高比重リポ蛋白Cho、超低比重リポ蛋白Cho、非高比重リポ蛋白Cho、中間比重リポ蛋白Cho、超高比重リポ蛋白Cho、遊離脂肪酸、リン脂質、カイロミクロン、ApoB、リポプロテイン(a)、レムナント様蛋白Cho、小型高密度低比重リポ蛋白Cho等)の濃度改善、サーモグラフィーなどで測定できる四肢末梢の皮膚温度上昇、歩行距離の延長、血清クレアチニンフォスフォキナーゼ上昇などの検査値、あるいはしびれ、冷感、疼痛、安静時疼痛、かゆみ、チアノーゼ、発赤、しもやけ、肩こり、貧血、血色不良、掻痒および蟻走感などの諸症状の改善が例示され、これらの改善または治療効果をモニタリングしながら投与してもよい。その他の脂質異常症や末梢血行障害に関連する生化学的・病理学的あるいは病態パラメータにより改善または治療効果をモニタリングして投与してもよい。血症脂質濃度など生化学的指標の異常値や病態の異常が継続している間は投与を継続することが望ましい。
【0034】
EPAおよびDHA以外の長鎖不飽和脂肪酸の含有量は少ないことが好ましく、中でもω6系長鎖不飽和脂肪酸、特にアラキドン酸の含有量は少ないことが望まれ、好ましくは2質量%未満、より好ましくは1質量%未満、さらに好ましくは0.5質量%未満、いっそう好ましくはω6系長鎖不飽和脂肪酸を実質的に含まない態様である。
【0035】
(3)スタチンとの併用
本発明の医薬組成物は、スタチンと併用して使用される。
スタチンと併用するとは、EPAを有効成分とする組成物とスタチンとを同時に服用する場合と、別々に服用する場合とがある。
同時に服用される場合には、本発明の医薬組成物とスタチンとを配合剤としてもよいし、2剤を組み合わせたキット製剤としてもよいし、別々の2剤としてもよい。
別々に服用される場合には、本発明の医薬組成物およびスタチンの、それぞれの服用量およびその比率は任意に設定することができる。
【0036】
また、別々に服用される場合には、EPAをHMG−CoA RIより先に投与することも後に投与することもできる。これらの時間差をおいて投与する場合は、例えば、一方の薬剤を投与し、その効果が発現し始める時期もしくは十分に発現している間に、他方の薬剤を投与して作用させる方法がある。また、一方の薬剤を徐放化して1日1回投与とし、他方の薬剤を1日複数回、例えば2ないし3回投与としてもよいし、同様に1日1回投与としてもよい。両薬ともに1日1回投与、さらには1日1回同時投与あるいは配合剤とすれば、被験者の服薬の負担を軽減し、服薬コンプライアンスが向上して予防/改善・治療効果及び副作用軽減効果も増すことが期待され、好ましい。また、例えば、両薬剤を投与し、その効果が発現し始める時期もしくは十分発現している時期に、一方の薬剤の投薬を中止する方法がある。薬剤の投薬を中止する場合には、段階的に薬剤の用量を減量してもよい。また、例えば、一方の薬剤の休薬期間に他方の薬剤を投与する方法が挙げられる。
【0037】
また、「併用」とは必ずしも被験者の体内、例えば血中において同時に存在する場合に限られないが、本発明において「併用」とは、いずれか一方の薬剤の作用・効果が被験者の体内に発現している状態で他方の薬剤を投与する使用態様をいう。
【0038】
本発明の医薬組成物が、スタチン服用患者において、スタチンによる糖尿病新規発症率を低減し、またはスタチンによる血糖値上昇を抑制する作用機序は、十分に解明されてはいないが、EPAはスタチンによる骨格筋細胞の糖取込みの減少を抑制することから、EPAはスタチンによる血糖値上昇を抑制している可能性が考えられる。血糖値上昇を抑制することによって、糖尿病発症のリスクも低減されることとなる。
【0039】
また、本発明の医薬組成物は、スタチン(HMG−CoA RI)服用の高脂血症患者において、心血管イベントの発症予防作用、特にHMG−CoA RI単独投与では予防できない心血管イベントの発症予防効果、血清T−Cho濃度および血清TG低下作用が知られている。よって、スタチン(HMG−CoA RI)服用患者において、スタチン服用による糖尿病新規発症率および/または血糖値上昇が抑制され、かつ、心血管イベントの発症、特にHMG−CoA RI単独投与では予防できない心血管イベントの発症が予防され、血清T−Cho濃度および血清TGが低下することとなる。
【0040】
2.糖尿病
(1)糖尿病の診断基準
本発明においては、空腹時血糖値126mg/dL以上が少なくとも1回観察された患者を糖尿病と認定する。
なお、臨床的な糖尿病の診断基準では、a)初回の検査(同日測定が望ましい。以下同じ。)において血糖値およびHbA1cがともに糖尿病型である場合、b)初回の検査において血糖値のみが糖尿病型である場合であって、典型的な糖尿病の症状または確実な糖尿病網膜症があるとき、c)初回の検査において血糖値のみが糖尿病型であり、かつ典型的な糖尿病の症状および確実な糖尿病網膜症のいずれもない場合であって、再検査の結果、血糖値および/またはHbA1cが糖尿病型であるとき、ならびにd)初回の検査でHbA1cが糖尿病型である場合であって、再検査の結果、血糖値およびHbA1cがともに糖尿病型であるか、または血糖値のみが糖尿病型であるとき、を糖尿病と診断する。
【0041】
(2)糖尿病の新規発症・新規発症率
本発明における糖尿病新規発症とは、過去において糖尿病と診断されていなかった患者において、好ましくは空腹時血糖値126mg/dL以上の血糖値が測定されていなかった患者において、該測定値が少なくとも1回測定されることをいう。
また、糖尿病新規発症率は、糖尿病新規発症患者数の全HMG−CoA RI服用患者数に対する百分率(パーセンテージ)をいう。
【0042】
3.本発明の医薬組成物の服用対象患者
(1)糖尿病新規発症率を低減するための医薬組成物
本発明のスタチン服用による糖尿病新規発症率を低減するための医薬組成物の服用対象患者は、スタチン(HMG−CoA RI)を服用している患者であって、糖尿病を発症していない患者であれば特に限定されないが、好ましくは糖尿病を発症していないが発症リスクが高い患者である。本発明の医薬組成物の、スタチンによる糖尿病新規発症率を低減する効果は、糖尿病発症のリスクが高い患者の方がより強く発揮され得るからである。
【0043】
上記糖尿病の発症リスクが高い患者としては、例えば、高LDL−C血症または境界域高LDL−C血症に、好ましく低HDL−C血症を、より好ましくは低HDL−C血症および高TG血症を、併発した患者が挙げられる。ここで、高LDL−C血症、境界域高LDL−C血症、低HDL−C血症および高TG血症の診断基準は、それぞれ、血清LDL−C≧140mg/dL、血清LDL−C 120〜139mg/dL、血清HDL−C<40mg/dLおよび血清TG≧150mg/dLであるが、診断基準の変更があった場合にその変更後の診断基準に従うことが好ましい。
【0044】
上記糖尿病発症のリスクが高い患者としては、また、例えば、空腹時血糖値が境界領域または正常高値である患者が好ましい。ここで、境界領域とは、空腹時血糖値が110mg/dL以上126mg/dL未満をいい、正常高値とは、空腹時血糖値が100mg/dL以上110mg/dL未満をいうが、閾値の変更があった場合には、その変更後の閾値を用いることが好ましい。
【0045】
上記糖尿病発症のリスクが高い患者としては、さらに、例えば、耐糖能異常または肥満を有する患者が挙げられる。耐糖能異常または肥満を有する患者は、耐糖能異常または肥満を有さない患者に比べて、糖尿病発症のリスクがより高いと考えられるからである。
【0046】
本発明において、耐糖能異常とは、OGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)2時間値が、正常型および糖尿病型のどちらでもないことをいう。なお、OGTT2時間値が正常型とは、OGTT2時間値<140mg/dLをいい、糖尿病型とは、OGTT2時間値≧200mg/dLをいう。
【0047】
本発明において、肥満とは、脂肪組織が過剰に蓄積した状態であり、その基準は国によって異なるものの、日本肥満学会の診断基準である肥満度指数(body-mass index;以下「BMI」ともいう。)が25以上であることをいう。
【0048】
(2)血糖値上昇を抑制するための医薬組成物
本発明のスタチン服用による血糖値上昇を抑制するための医薬組成物の服用対象患者は、スタチン(HMG−CoA RI)を服用している患者であれば特に限定されないが、好ましくは糖尿病を発症していない患者、より好ましくは糖尿病を発症していないが血糖値が上昇しやすい患者である。本発明の医薬組成物の、スタチンによる血糖値上昇を抑制する効果は、血糖値が上昇しやすい患者の方がより強く発揮され得るからである。
【0049】
上記血糖値が上昇しやすい患者としては、例えば、高LDL−C血症または境界域高LDL−C血症に、好ましく低HDL−C血症を、より好ましくは低HDL−C血症および高TG血症を、併発した患者が挙げられる。ここで、高LDL−C血症、境界域高LDL−C血症、低HDL−C血症および高TG血症の診断基準は、それぞれ、血清LDL−C≧140mg/dL、血清LDL−C 120〜139mg/dL、血清HDL−C<40mg/dLおよび血清TG≧150mg/dLであるが、診断基準の変更があった場合にその変更後の診断基準に従うことが好ましい。
【0050】
上記血糖値が上昇しやすい患者としては、また、例えば、空腹時血糖値が境界領域または正常高値である患者が好ましい。ここで、境界領域とは、空腹時血糖値が110mg/dL以上126mg/dL未満をいい、正常高値とは、空腹時血糖値が100mg/dL以上110mg/dL未満をいうが、閾値の変更があった場合には、その変更後の閾値を用いることが好ましい。
【0051】
上記血糖値が上昇しやすい患者としては、さらに、例えば、耐糖能異常または肥満を有する患者が挙げられる。耐糖能異常または肥満を有する患者は、耐糖能異常または肥満を有さない患者に比べて、糖尿病発症のリスクがより高いと考えられるからである。
【0052】
本発明において、耐糖能異常とは、OGTT(75g経口ブドウ糖負荷試験)2時間値が、正常型および糖尿病型のどちらでもないことをいう。なお、OGTT2時間値が正常型とは、OGTT2時間値<140mg/dLをいい、糖尿病型とは、OGTT2時間値≧200mg/dLをいう。
【0053】
本発明において、肥満とは、脂肪組織が過剰に蓄積した状態であり、その基準は国によって異なるものの、日本肥満学会の診断基準であるBMIが25以上であることをいう。
【0054】
(3)スタチン
上記スタチン(HMG−CoA RI)は、HMG−CoA還元酵素を阻害する薬剤であれば特に限定されないが、例えば、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、プラバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチン、ロバスタチン、それらの製薬学上許容しうる塩が挙げられる。市販品としては、例えば、アトルバスタチンカルシウム(商品名 リピトール、アステラス製薬/ファイザー)、シンバスタチン(商品名 リポバス、MSD)、セリバスタチンナトリウム、フルバスタチンナトリウム(商品名 ローコール、ノバルティスファーマ)、プラバスタチンナトリウム(商品名 メバロチン、第一三共)、ロスバスタチンカルシウム(商品名 クレストール、塩野義製薬)、ピタバスタチンカルシウム(商品名 リバロ、興和)、ロバスタチン(商品名 メバコール、MSD)等が挙げられる。本発明の医薬組成物に関するスタチンおよびHMG−CoA RIは、上記をすべて含む意味で使用される。
【0055】
スタチンの種類は特に限定されないが、心血管リスク低減効果が高いスタチンは糖尿病発症リスクも高い傾向があることから、心血管リスク低減効果の高いスタチンと組合せることが好ましい。例えば、アトルバスタチン、ロスバスタチンおよびシンバスタチンが好ましく、アトルバスタチン、ロスバスタチンがより好ましく、アトルバスタチンがさらに好ましい。
【0056】
スタチンは所定の用法および用量で使用することが好ましい。スタチンの種類、剤形、投与方法、1日当たりの投与回数、症状の程度、体重、性別、年齢等によって適宜増減することができる。経口投与する場合は0.05〜200mg/日、好ましくは0.1〜100mg/日を1回または2回に分けて投与するが、必要に応じて全量を数回に分けて投与してもよい。また、EPA−Eの投与量に応じて減量することも可能である。
【0057】
なお、好ましい一日用量は、プラバスタチンナトリウムでは5〜60mg、好ましくは10〜20mg、シンバスタチンでは2.5〜60mg、好ましくは5〜20mg、フルバスタチンナトリウムでは10〜180mg、好ましくは20〜60mg、アトルバスタチンカルシウム水和物では5〜120mg、好ましくは10〜40mg、ピタバスタチンカルシウムでは0.5〜12mg、好ましくは1〜4mg、ロスバスタチンカルシウムでは1.25〜60mg、好ましくは2.5〜20mg、ロバスタチンでは5〜160mg、好ましくは10〜80mg、セリバスタチンナトリウムでは0.075〜0.9mg、好ましくは0.15〜0.3mgがそれぞれ例示されるが、これらに限定されない。
【0058】
本発明の医薬組成物及び方法は、EPAの他に、他の薬剤と組み合わせて、併用して用いられてもよい。本発明における他の薬剤は、特に限定されないが、本発明の効果を減弱しないことが好ましく、例えば、血糖降下剤・抗糖尿病剤、高脂血症治療薬、降圧剤、抗酸化剤、抗炎症剤などが例示される。
【0059】
血糖降下剤・抗糖尿病剤としては、例えば、アカルボース、ボグリボース、ミグリトールのようなα−グルコシダーゼ阻害剤、グリクラジド、グリベンクラミド、グリメピリド、トルブタミドのようなスルホニルウレア系血糖降下薬、ナテグリニド、レパグリニド、ミチグリニドのような速効型インスリン分泌促進薬、メトホルミン塩酸塩、ブホルミン塩酸塩のようなビグアナイド系血糖降下薬、シタグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン、サクサグリプチンのようなジペプチジルホスファターゼ4阻害薬、ピオグリゾン塩酸塩、ロシグリタゾンマレイン酸塩のようなチアゾリジン系薬、エクセナチド、リラグルチドのようなグルカゴン様ペプチド1誘導体薬、インスリンやインスリン誘導体、なども挙げられる。
【0060】
また、高脂血症治療薬としては、例えば、シンフィブラート、クロフィブラート、クリノフィブラート、ベザフィブラート、フェノフィブラートのようなフィブラート系薬剤、あるいはオルリスタット、セチリスタットのような脂肪分解酵素阻害剤、コレスチラミンやコレスチミドのようなレジン、エゼチミブがあげられる。
【0061】
また、降圧剤としては、例えば、イルベサルタン、オルメサルタンメドキソミル、カンデサルタンレキセチル、テルミサルタン、バルサルタン、ロサルタンカリウムのようなアンギオテンシンII受容体拮抗剤、アラセプリル、イミダプリル塩酸塩、エナラプリルマレイン酸塩、カプトプリル、キナプリル塩酸塩、シラザプリル水和物、テモカプリル塩酸塩、デラプリル塩酸塩、トランドラプリル、ベナゼプリル塩酸塩、ペリンドプリル、リシノプリル水和物のようなアンギオテンシン変換酵素阻害薬、アゼルニジピン、アムロジピンベシル酸塩、アラニジピン、エホニジピン塩酸塩、シルニジピン、ニカルジピン塩酸塩、ニフェジピン、ニモジピン、ニトレンジピン、ニルバジピン、バルニジピン塩酸塩、フェロジピン、ベニジピン、マニジピンのようなカルシウム拮抗薬、トラゾリン、フェントラミンのようなα受容体遮断薬、アテノロール、メトプロロール、アセブトロール、プロプラノロール、ピンドロール、カルベジロール、ラベタロール塩酸塩のようなβ受容体遮断薬、クロニジン、メチルドパなどのα受容体刺激薬、エプレレノン、ヒドロクロロチアジド、フロセミドのような利尿薬なども挙げられる。
【0062】
また、抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸(ビタミンC)やトコフェロール(ビタミンE)、トコフェロールニコチン酸エステル等のビタミン類、Nアセチルシステイン、プロブコールなどが挙げられる。
【0063】
また、抗炎症剤としては、例えば、ペントキシフィリン等のサイトカイン産生抑制剤、ロイコトリエン受容体拮抗剤、ロイコトリエン生合成阻害剤、NSAIDs、COX−2選択的阻害剤、M2/M3拮抗剤、コルチコステロイド、ファルネシル酸プレドニゾロンなどのステロイド、Hi(ヒスタミン)受容体拮抗剤、サラゾスルファピリジン、メサラジンなどのアミノサリチル酸、等があげられる。また、免疫抑制剤としては、例えば、アザチオプリン、6−メルカプトプリン、タクロリムスなどがあげられる。また、C型肝炎ウイルス(HCV)用の抗ウイルス薬としては、例えば、インターフェロン、プロテアーゼ阻害剤、ヘリカーゼ阻害剤、ポリメラーゼ阻害剤などがあげられる。
【実施例】
【0064】
[EPA投与によるHMG−CoA RI服用患者の糖尿病新規発症の抑制]
日本人の高脂血症患者における高純度EPA製剤の長期投与による冠動脈イベントの発症抑制効果(1次予防および2次予防)を検討するために、1996年から実施された大規模無作為化比較試験JELIS(Japan EPA Lipid Intervention Study)で得られた試験データを検討した。
【0065】
1.JELIS試験の概要
(1)対象
総コレステロール250mg/dL以上の高脂血症患者(男性:40〜75歳、女性:閉経後〜75歳)、総数18645例(1次予防14981例、2次予防3664例)を対象とした。
(2)試験方法
高脂血症患者を対照群(9319例,EPA非投与群)およびEPA群(9326例)の2群とし、EPA群には1800mg/日の高純度EPA製剤を投与した。また、両群にスタチン(プラバスタチンナトリウム10〜20mg/日、シンバスタチン5〜10mg/日またはアトルバスタチンカルシウムをアトルバスタチンとして10〜20mg/日)を投与した。約5年間の追跡調査と評価を行った。なお、JELIS試験における高脂血症患者とは、血清総コレステロール(TC)濃度が250mg/dL以上である患者をいい、脂質管理がされなければ血清TC濃度が250mg/dL以上となる患者を含む。
【0066】
2.糖尿病新規発症解析
(1)対象
JELIS登録症例18645例から、糖尿病の確定診断がされていない15605例を抽出し(EPA群7810例、対照群7795例)、これを「第1群」とした。登録症例総数からは、糖尿病(2型糖尿病に限定されず、全ての型を含む。)の確定診断がされている3040例が除外された。
【0067】
次に、第1群から、空腹時血糖値が126mg/dL未満であるか、または未測定である15311例を抽出し(EPA群7650例、対照群7661例)、これを「第2群」とした。第1群からは、登録時の血糖値が126mg/dL以上であった294例が除外された。
【0068】
次に、第2群から、観察期間中に空腹時血糖値を1回以上測定した7875例を抽出し(EPA群3976例、対照群3899例)、これを第3群とした。第2群からは、観察期間中に空腹時血糖値を1回も測定しなかった7436例が除外された。
【0069】
さらに、第1群、第2群および第3群のそれぞれにおいて、血清HDL−C濃度が40mg/dL未満、血清TGは任意である症例を抽出し、これを「HDL−C<40、TG限定なし」サブグループとし、血清HDL−C濃度が40mg/dL未満かつ血清TGが150mg/dL以上である症例を抽出し、これを「HDL−C<40、TG≧150」サブグループとした。
【0070】
JELIS試験中に糖尿病(DM:Diabetes Mellitus)を新規に発症した患者数(DM発症数)、その割合(DM発症率,%)およびEPA服用によるDM発症抑制率(%)を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
さらに、第3群の「HDL−C<40、TG限定なし」サブグループおよび「HDL−C<40、TG≧150」サブグループから、空腹時血糖値が110mg/dL以上、126mg/dL未満であった症例を抜き出し、DM発症数、DM発症率およびDM発症抑制率を表2に記載した。
【0073】
【表2】
【0074】
なお、表1および表2において、DM発症とは、DMを新規に発症したこと、すなわち、過去において糖尿病と診断されていなかった患者において、好ましくは空腹時血糖値126mg/dL以上の血糖値が測定されていなかった患者において、該測定値が少なくとも1回測定されたことをいう。
【0075】
表1および表2に示す結果から、EPAのスタチン服用による糖尿病新規発症の抑制効果を全体としてまとめると、概略以下の抑制効果が期待できる。
(1)HDL−C<40mg/dLの患者において、約34〜36%抑制する。
(2)HDL−C<40mg/dLかつTG≧150mg/dLの患者において、約32〜34%抑制する。
(3)空腹時血糖値110mg/dL以上126mg/dL未満で、HDL−C<40mg/dLの患者において、約39%抑制する。
(4)空腹時血糖値110mg/dL以上126mg/dL未満で、HDL−C<40mg/dLかつTG≧150mg/dLの患者において、約46%抑制する。
【0076】
[スタチンによる骨格筋細胞の糖取込み減少に対するEPAによる抑制]
1.材料および方法
(1)ヒト胎児横紋筋肉腫由来細胞(RD細胞、ATCC)を、24ウェルプレートに播種後、増殖培地(10%ウシ胎児血清(FCS)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)低グルコース、1%非必須アミノ酸)でコンフルーエントまで増殖させた。
(2)その後、分化培地(2%ウマ血清(HS)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)低グルコース、1%非必須アミノ酸)で3〜5日培養し、筋細胞に分化させた。
(3)その後、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含有する分化培地(以下「分化培地(0.5%BSA)」という。)中、30μM スタチン(シンバスタチン)を添加した分化培地(0.5%BSA)中、50μM EPA(イコサペント酸ナトリウム)を添加した分化培地(0.5%BSA)中、または50μM EPA(イコサペント酸ナトリウム)+30μM スタチン(シンバスタチン)を添加した分化培地(0.5%BSA)中で、1hr、6hr、24hrまたは48hr培養した。
分化培地(0.5%BSA)にスタチンもEPAも添加しなかったものを対照群(Cont.)、30μM スタチン(シンバスタチン)のみを添加したものをスタチン群(Statin)、50μM EPA(イコサペント酸ナトリウム)のみを添加したものをEPA群(EPA)、30μM スタチン(シンバスタチン)および50μM EPAを添加したものをスタチン+EPA群(Statin+EPA)とした。
(3)培養後、培地を吸引除去し、10μM 2−3H−デオキシグルコースを含有したアップテークバッファー(140mM NaCl、5mM KCl、2.5mM MgSO、20mM HEPES、1mM CaCl、pH=7.4)中、37℃で12分間インキュベートした。
(4)インキュベート後、冷ストップ液(10mMグルコース入り、PBS(−))で4回洗浄した。
PBS(−):1L中に、NaHPO・2HO 0.2g、NaHPO・12HO 3.225g、およびNaCl 8gを含み、pH=7.2〜7.4
(5)洗浄後、0.4N水酸化ナトリウム水溶液を500μL/ウェル添加し、56℃で20分間加熱し、培養細胞を溶解した。
(6)ウェル内容物300μLを4mLのアトムライト(パーキンエルマー社製)と混合し、液体シンチレーションカウンターで、Hカウントを測定した。また、ウェル内容物中の蛋白質濃度を測定し、蛋白質1μgあたりのHカウントを算出した。
【0077】
2.結果および解説
(1)放射活性取込み量
表3には、液体シンチレーションカウンターで測定したタンパク質1μgあたりの放射能量が示される(単位:dpm/μg protein)。また、図1には、各群について、培養時間(横軸)と放射活性取込み量(縦軸)との関係を表すグラフが示される。
【0078】
【表3】
【0079】
(2)スタチンの影響
スタチン群(Statin)においては、放射活性取込み量が、培養6hrまでは対照群(Cont.)とほとんど差が無いが、培養24hrおよび48hrでは著しく低下している。培養48hrでの低下率は約73%である。すなわち、骨格筋細胞の糖取込み能力は、スタチン存在下で低下する。
この結果から、スタチンを服用している患者では、骨格筋細胞の糖取込み能力が低下し、血糖値が上昇しやすい状態になっていると考えられる。
【0080】
(3)EPAの影響
EPA群(EPA)においては、放射活性取込量が、対照群(Cont.)と同じ傾向であるが、培養24hrおよび48hrでは若干の向上が認められる。培養48hrでの向上率は約7%である。すなわち、骨格筋細胞の糖取込み能力は、EPA存在下で若干向上する。
この結果から、EPAを服用している患者では、骨格筋細胞の糖取込み能力が若干向上している可能性が示唆される。
【0081】
(4)スタチン+EPA共存の影響
スタチン+EPA群(Statin+EPA)においては、放射活性取込量が、培養6hrまでは対照群(Cont.)と大きな差はないが、培養24hrおよび48hrではかなり低下している。培養48hrでの低下率は約36%である。しかし、スタチン群(Statin)に比べれば低下は小さく、スタチンによる低下に対するEPA共存による抑制率は約50%である。すなわち、EPAの存在下ではスタチンによる骨格筋細胞の糖取込み能力の低下が抑制される。
この結果から、スタチンを服用している患者にEPAを服用させることで、スタチンによる骨格筋細胞の糖取込み能力の減少がEPAによって抑制され、血糖値上昇リスクを抑えることができると考えられる。すなわち、EPAはスタチン服用による血糖値上昇を抑制する可能性が示唆された。
図1