(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態を説明する。
[1.システム構成]
図1に示す同期放送システム1は、配信装置2と複数の送信装置3、4を備える。配信装置2は、IEC60958等により標準化されているAES/EBU規格のフォーマット(以下「AES/EBUフォーマット」という)の音声フレームを、各伝送網を介して各送信装置3、4に配信する。送信装置3は伝送網Aを介して受信した音声フレームから抽出した音声信号に従って、送信装置4は伝送網Bを介して受信した音声フレームから抽出した音声信号に従って、同期放送を行う。なお、図では、送信装置3、4を備えているが、送信装置を3つ以上備えていてもよい。また、伝送網A、伝送網Bは、例えば無線伝送網やIP伝送網などで構成されるが、無線伝送網やIP伝送網に限定されるものではない。
【0013】
[2.AES/EBUフォーマット]
AES/EBUフォーマットは、音声信号をデジタルデータに変換された音声データを順次送信するためのフォーマットである。
図2に示すように、最小単位のサブフレームは、32ビットで構成され、4ビットのプリアンブル、4ビットの補助データ、20ビットの音声データ、以下各1ビットの妥当性表示フラグ(V)、ユーザデータ(U)、チャネルステータス(C)、パリティビット(P)からなる。なお、補助データは、音声データが24ビットで表される場合に使用される。但し、音声データは、フレーム中の27ビット目側がMSBとなるように格納される。
【0014】
サブフレームは、二つで一つのフレームを構成し、更に、192個のフレームで一つのブロックを構成する。
一つのフレームを構成する二つのサブフレームは、ステレオ音声の左チャネルのデータ伝送に使用するチャネル1と、ステレオ音声の右チャネルのデータ伝送に使用するチャネル2とからなる。つまり、フレームの伝送スピードは、音声データのサンプリング周波数の64倍となる。サンプリング周波数は、例えば、48kHz、44.1kHz、32kHzの中から選択される。
【0015】
サブフレームのプリアンブルは、3種類のパターン(X,Y,Z)がある。ブロックの先頭に位置するサブフレーム(つまりチャネル1)のプリアンブルにはパターン「Z」が用いられ、それ以外のチャネル1のサブフレームのプリアンブルにはパターン「X」が用いられる。また、チャネル2のサブフレームのプリアンブルにはパターン「Y」が用いられる。これらプリアンブルを抽出することで各サブフレームの先頭を抽出することができ、更にプリアンブルのパターンを識別することで、サブフレームの先頭やフレームの先頭等を識別することができる。
【0016】
[3.配信装置]
図1に戻り、配信装置2は、音声フレーム生成部21と、第1の時刻情報取得部22と、同期情報付加部23と、配信部24と、伝送装置25と、伝送装置26とを備える。配信装置2は、その全部をハードウェアによって実現してもよいし、少なくとも一部を、CPU、RAM、ROM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ(以下、非遷移的実体的記録媒体ともいう)を有する周知のマイクロコンピュータが実行する処理によって実現してもよい。この場合、マイクロコンピュータが実現する各種機能は、CPUが非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
【0017】
音声フレーム生成部21は、音声放送のために生成された音声信号を取得し、AES/EBUフォーマットの音声フレームを生成する。なお、音声信号の取得先は、例えば、音声放送の番組を作成するスタジオや、録音済み番組の音声信号を記憶するサーバ等が考えられる。
【0018】
第1の時刻情報取得部22は、予め定められた標準時刻を表す時刻情報を取得する。ここでは、周知のGPS受信機を用い、時刻情報として、1秒周期のパルス信号である1秒パルス信号(以下、1PPS)およびその1PPSの発生時刻を表すGPS時刻を取得する。
【0019】
同期情報付加部23は、音声フレーム生成部21が生成した音声フレームに、第1の時刻情報取得部22が取得した時刻情報に基づいて生成される同期情報を付加する。具体的には、ブロックの先頭が1秒パルス信号のタイミングと一致するように、音声フレームの出力タイミングを調整すると共に、1秒パルス信号のタイミングに一致したブロックの先頭を少なくとも含む連続した所定個のサブフレーム中のユーザデータ(U)の領域等を利用して、同期情報を書き込む。
【0020】
配信部24は、同期情報付加部23から供給される同期情報が付加された音声フレームを、複数に分配して、伝送装置25および伝送装置26のそれぞれに供給する。伝送装置25は、配信部24から供給される同期情報が付加された音声フレームを、伝送網Aを介して送信装置3に配信する。伝送装置26は、配信部24から供給される同期情報が付加された音声フレームを、伝送網Bを介して送信装置4に配信する。
【0021】
[4.送信装置]
送信装置3は、音声データ取得部31と、第2の時刻情報取得部32と、遅延同期部33と、変調送信部34と、送信部35と、アンテナ36とを備える。送信装置3は、配信装置2と同様に、その全部をハードウェアによって実現してもよいし、少なくとも一部を、CPU、RAM、ROM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ(以下、非遷移的実体的記録媒体ともいう)を有する周知のマイクロコンピュータが実行する処理によって実現してもよい。この場合、マイクロコンピュータが実現する各種機能は、CPUが非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。
【0022】
音声データ取得部31は、伝送網Aを介して配信装置2から配信される配信フレーム信号から同期情報が付加された音声フレームで構成される音声データを抽出して、遅延同期部33に供給する。
【0023】
第2の時刻情報取得部32は、配信装置2を構成する第1の時刻情報取得部22と同様のものであるため、説明を省略する。なお、第2の時刻情報取得部32は、取得した時刻情報を遅延同期部33および変調送信部34に供給する。
【0024】
遅延同期部33は、音声データ取得部31が取得した同期情報が付加された音声フレームで構成される音声データと、第2の時刻情報取得部32が取得した時刻情報とに基づき、同期情報が付加されたブロックの先頭が、1PPSに対して予め設定された設定遅延時間だけ遅延するように遅延調整して音声フレームで構成される音声データを出力する。この設定遅延時間は、同期放送システム1で使用する伝送網A,Bでの伝送遅延の最悪値より長い時間となるように設定される。
【0025】
変調送信部34は、音声フレームから抽出された音声データを用いて所定周波数の搬送波を変調し、送信部35を介して自装置がカバーする放送エリアに向けてアンテナ36にて同期放送の放送波を送信する。その詳細については後述する。
【0026】
送信装置4は、音声データ取得部41と、第2の時刻情報取得部42と、遅延同期部43と、変調送信部44と、送信部45と、アンテナ46とを備える。音声データ取得部41は、伝送網Bを介して配信装置2から配信される音声フレームで構成される音声データを取得して遅延同期部43に供給する。他の構成42〜46は、それぞれ、送信装置3の第2の時刻情報取得部32、遅延同期部33、変調送信部34、送信部45と、アンテナ46と同様の構成を有しているため、説明を省略する。
【0027】
[4−1.変調送信部]
変調送信部34は、
図3に示すように、セレクタ341、パイロット信号生成部342、コンポジット信号生成部343、周波数変調部344、ミキサ345、トーン信号生成部346、測定制御部347、ローカル信号生成部348を備える。
【0028】
トーン信号生成部346は、測定制御部347からの許可信号ENがアクティブレベルである間、
図9に示すように、1PPSのタイミングで試験データを生成する。試験データは、音声周波数帯に属する一定周波数の正弦波が一定期間継続するトーンバースト信号を、音声データと同じサンプリング周期でサンプリングすることで得られるデジタルデータである。ここでは、トーンバースト信号として、一定周波数として1kHzの信号を、200msの間継続し、無音信号を800msの間継続する信号を繰り返して出力する。また、トーンバースト信号の振幅には制限が必要であるが、これについては後述する。なお、一定周波数や継続時間は、ここで例示された値に限定されるものではない。
【0029】
セレクタ341は、測定制御部347からの許可信号ENに従い、許可信号ENが非アクティブレベルの時には、遅延同期部33から供給される音声データを選択し、許可信号ENがアクティブレベルの時には、トーン信号生成部346から供給される試験データを選択して、コンポジット信号生成部343に供給する。
【0030】
パイロット信号生成部342は、所定周波数(例えば、19kHz)のパイロット信号を生成してコンポジット信号生成部343に供給する。但し、このパイロット信号は、所定周波数の正弦波を音声データと同じサンプリング周波数でサンプリングしたデジタルデータである。
【0031】
コンポジット信号生成部343は、セレクタ341から供給される音声データまたは試験データに基づき、FM放送用のコンポジット信号を生成して、FM変調部344に供給する。なお、コンポジット信号は、チャネル1の音声信号とチャネル2の音声信号の和信号であるL+R、パイロット信号、チャネル1の音声信号とチャネル2の音声信号の差信号であるL−Rによってパイロット信号の2倍の周波数を有する搬送波をAM変調した信号を合成して生成される周知のものである。但し、セレクタ341から試験データが供給されている場合、L−Rの成分が存在しない、モノラル音声を表す信号となる。また、コンポジット信号生成部343で生成されるコンポジット信号は、デジタルデータで表現された信号である。つまり、コンポジット信号生成部343はデジタルデータを演算することでコンポジット信号を生成する。以下では、コンポジット信号生成部343の出力を変調データという。
【0032】
FM変調部344は、コンポジット信号生成部343から供給される変調データを中間周波数帯の搬送波を用いて周波数変調(即ち、FM変調)することにより中間周波信号IFを生成して、ミキサ345に供給する。なお、ここでは、中間周波数帯の搬送波として10.7MHzのものを使用する。中間周波信号IFは、音声データまたは試験データによる変調が加えられている場合は、
図4(a)に示すように、搬送波の周波数を中心にして周波数スペクトルの広がりを持ったものとなり、無変調の場合は
図4(b)に示すように、搬送波の周波数成分のみからなる。
【0033】
図3に戻り、ミキサ345は、FM変調部344から供給される中間周波信号IFにローカル信号生成部348から供給されるローカル信号LOを混合することで、FMラジオ放送で使用される周波数帯(例えば、76MHz〜108MHz)の放送信号RFを生成し、アンテナ35に供給する。
【0034】
ローカル信号生成部348は、中間周波信号IFを同期放送に割り当てられたチャネルの周波数に変換するためのローカル信号LOを生成する。また、ローカル信号生成部348は、測定制御部347からのオフセット指示信号OSに従ってオフセット周波数を付加したローカル信号Lを生成する。設定可能なオフセット周波数は、
図5に示すように、0Hz、±0.5kHz、±1kHz、±1.5kHzのいずれかである。これらのオフセット周波数は、これに限るものではなく、許容範囲内の中で、各オフセット周波数の間隔が、スペクトルアナライザ等の市販の計測器における周波数分解能(例えば、300Hz)より大きくなるように設定されていればよい。
【0035】
図3に戻り、測定制御部347は、放送を実施する放送期間では、許可信号ENを非アクティブレベルに設定し、オフセット指示信号OSは0Hzを付加、即ち、オフセット周波数を付加しないことを指示するように設定する。これにより、トーン信号生成部346が停止し、セレクタ341が音声データを選択し、ローカル信号生成部348がオフセット周波数の付加されていないローカル信号LOを生成する。一方、放送信号を休止する休止期間では、許可信号ENをアクティブレベルに設定し、オフセット指示OSは予め設定されたいずれか一つのオフセット周波数を付加することを指示するように設定する。これにより、トーン信号生成部346が試験データを生成し、セレクタ341が試験データを選択し、ローカル信号生成部348がオフセット周波数の付加されたローカル信号LOを生成する。但し、オフセット周波数は、放送範囲が重なり合う通信装置同士で、互いのオフセット周波数が異なるように設定される。
【0036】
なお、休止期間は、配信装置2が音声データの配信を休止する、いわゆる放送休止期間であってもよいし、音声データの配信に関係なく予め設定された一定期間であってもよい。休止期間であるか否かは、予め用意された休止期間のスケジュールと、時刻情報とに基づいて判断することが考えられる。また、測定制御部347を、図示しないコントロールセンターとの通信が可能なように構成し、その通信によって、放送期間か休止期間かを判断するようにしてもよい。この場合、コントロールセンターからの指示でオフセット周波数を決定するようにしてもよい。
【0037】
ここで、トーン信号生成部346が生成するトーンバースト信号の振幅の制限について説明する。音声データの代わりに試験データを用いて生成される試験波の周波数スペクトルは、
図6に示すように、オフセット周波数が付加された搬送波を中心に広がりを持ったものとなる。この周波数スペクトルの広がりは、トーンバースト信号の振幅を大きくするほど大きくなる。また、複数の通信装置から試験波を受信した場合、両者の周波数スペクトルが重なり合っていると両者を分離することが不能となる。従って、トーンバースト信号の振幅は、同時に受信する試験波の周波数スペクトルが互いに重なり合うことのない大きさに設定される。なお、
図6において、foは搬送波の周波数、offaは通信装置Aのオフセット周波数、offbは通信装置Bのオフセット周波数である。また、通信装置A,Bの放送範囲は重なり合っているものとする。
【0038】
[5.動作]
同期放送システム1において、放送期間中は、配信装置2が各送信装置3,4に向けて音声データを配信する。音声データの配信を受けた各送信装置3,4は、伝送網A,Bでの伝送遅延を補償した音声データにより搬送波をFM変調することで放送波を生成する。この放送波を、全ての送信装置3,4が同じタイミングで送信することで同期放送を実現する。
【0039】
一方、休止期間中は、全ての送信装置3,4は、配信装置2から配信される音声データに代えて、1PPSに同期したトーンバースト信号である試験データを用い、この試験データを用いて、オフセット周波数の付加された搬送波をFM変調することで試験波を生成する。この試験波を、全ての送信装置3,4が同じタイミングで繰り返し送信する。しかも、放送範囲が重なり合う送信装置同士では、オフセット周波数が互いに異なっている。
【0040】
[6.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(6a)同期放送システム1によれば、複数の送信装置からの放送波/試験波が受信される地域にて、スペクトルアナライザ等の計測器を用いて計測を行うと、試験波毎に搬送波の周波数が異なるため、
図7に示すように、周波数軸上では各試験波を分離して検出し、その受信レベルを個別に測定することができる。このため、試験波の一つを希望波、それ以外のものを干渉波として、その測定結果からDU比を求めることができる。
【0041】
(6b)また、時間軸上では、
図8に示すように、希望波と干渉波の周波数差に応じた周期で、両波の合成波の信号レベルが変化する様子が観測される。その波形から最大値Vmaxと最小値Vminを読み取り、(1)式から希望波の信号レベルD、(2)式から干渉波の信号レベルU、(3)式からデシベル単位で表されたDU比を求めることもできる。
【0043】
なお、
図8において、(a)は、希望波と干渉波の遅延差がない場合であり、(b)は、両者の遅延差がある場合である。但し、両者の遅延差によって生じる位相差が180°に近づくほど、最大値Vmaxと最小値Vminの差は小さくなる。
【0044】
(6c)同期放送システム1において、各送信装置3,4が用いるオフセット周波数は既知であるため、希望波の送信元となる送信装置がわかっていれば、合成波の周期から、干渉波の送信元となる送信装置を推定することもできる。
【0045】
(6d)同期放送システム1では、複数の送信装置から同時に試験波を受信した場合に、希望波および干渉波を分離することができるため、
図9に示すように、両者のトーンバースト信号の時間波形も個別に計測することができる。その結果、送信装置3,4における試験波の送信タイミングである1PPSのタイミングから、トーンバースト信号が検出されるまでの遅延時間、ひいては、希望波および干渉波の送信元となった送信装置3,4までの距離も個別に求めることができる。
【0046】
(6e)同期放送システム1では、上述のように希望波および干渉波のDU比や遅延時間を個別に求めることができるため、受信障害の解析を容易に行うことができる。具体的には、DU比が0dB付近となる要対策地域を簡単に特定することができるだけでなく、要対策地域で計測される遅延時間から、希望波および干渉波の送信元となった送信装置での放送波の位相調整量を簡単に求めることができる。
【0047】
[7.他の実施形態]
以上、本発明を実施するための形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0048】
(7a)上記実施形態では、試験波として搬送波をトーンバースト信号でFM変調した信号を送信しているが、無変調の搬送波を送信するようにしてもよい。この場合、異なる送信装置から送信される複数の試験波を同時に受信した場合に、これら複数の試験波を分離して検出することができ、その検出結果に基づいてDU比を計測することができる。
【0049】
(7b)上記実施形態では、音声データを伝送する際に使用する際にAES/EBUフォーマットを用いているが、これに限定されるものではなく、各送信装置3,4での同期に必要な情報を付加することができれば、どのようなフォーマットのものを用いてもよい。
【0050】
(7c)上記実施形態では、コンポジット信号生成部343が生成するベースバンド信号から放送信号RFを生成する際に、FM変調部344とミキサ345とを用いているが、これに限るものではない。例えば、これらの代わりに、中間周波信号IFを生成することなく、ベースバンド信号を、直接、放送信号RFに変換する、いわゆるダイレクト変調器を用いてもよい。
【0051】
(7d)上記実施形態では、時刻情報として、GPS衛星からの信号を受信することで得られる時刻情報を用いているが、これに限定されるものではない。例えば、準天頂衛星などの衛星からの信号を受信することで得られる時刻情報や、電波時計などに利用される日本標準時の時刻情報を送出する長波を用いた標準電波などを受信することで得られる時刻情報等を用いてもよい。
【0052】
(7e)上記実施形態における一つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を一つの構成要素に統合させたりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加または置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
【0053】
(7f)上述した同期放送システム、送信装置の他、当該送信装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実態的記録媒体、試験波生成方法など、種々の形態で本発明を実現することもできる。