(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
メラミンアルキッド樹脂の固形分100質量部に、前記アゾ顔料が10質量部となるように添加して分散させて塗料を作製し、10ミルのアプリケーターで展色紙に塗布したものを分光光度計で測色した時、CIE LAB(L*a*b*)表色系においてL*値が10以上である請求項3に記載の近赤外線反射・透過性アゾ顔料。
前記液体分散媒体が皮膜形成成分を含み、該皮膜形成成分が、反応性基を有していてもよい重合体、反応性基を有していてもよいオリゴマー及び反応性基を有していてもよい単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、且つ、該皮膜形成成分自体が液状であるか、或いは、溶剤及び/または水が含有されて液状となっている請求項5に記載の着色剤組成物。
前記固体分散媒体が、熱可塑性樹脂製、熱硬化性樹脂製、ワックス、脂肪酸アミド及び脂肪酸金属石鹸からなる群から選ばれる少なくとも1種の固体分散媒体を含有してなる固体状のものである請求項5に記載の着色剤組成物。
塗料用、プラスチック用、合成繊維用、印刷インキ用、文房具用又は画像記録用、画像表示用の着色用いずれかである請求項5〜7のいずれか1項に記載の着色剤組成物。
請求項8に記載の着色剤組成物を用いて透明性基材を有する物品に着色を施す着色方法であって、透明性基材の表面に、上記着色剤組成物を用いて、塗装、塗付、染色、印刷、筆記、描画、インクジェット印刷、電子写真印刷及び静電印刷からなる群から選ばれたいずれかの方法で着色するか、或いは、上記着色剤組成物を物品の形成材料中に混練又は含浸させる方法によって物品の内部の着色をすることを特徴とする物品の着色方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した事情を鑑みてなされたものであり、本発明の主たる目的は、塗料用、プラスチック用、合成繊維用、印刷インキ用、文房具用又は画像記録用、画像表示用の着色剤などに使用することができ、特に、建築物の屋根や外壁などの外装の遮熱塗料としても有用であり、汚れの目立たない暗色系の場合でも、高い近赤外線反射・透過性を示す各種の物品を提供することである。更に、本発明の目的は、特に暗色系、黒色系に発色する顔料において、前記したようなセキュリティ分野における印刷インキとしても有用な物品の提供を可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の本発明の構成によって達成される。すなわち、本発明は、500〜1500nmの波長領域における、下地が黒の分光反射率スペクトルにおいて、600〜900nmの波長域で1点の極大反射率波長を有する、近赤外線反射・透過性を示すアゾ顔料であり、且つ、下記式(1)で表される化合物のジアゾニウム化合物をジアゾ成分とし、該ジアゾ成分を、下記一般式(2)、(3)及び(4)で表される化合物からなる群から選ばれるいずれかのカップリング成分にカップリングさせてなることを特徴とする近赤外線反射・透過性アゾ顔料を提供する。
【0009】
[但し、上記一般式(2)〜(4)中にあるR
1〜R
3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、エトキシ基又はアセチルアミノ基のいずれかを表す。]
【0010】
上記近赤外線反射・透過性アゾ顔料の好ましい形態としては、メラミンアルキッド樹脂の固形分100質量部に、前記アゾ顔料を10質量部となるように添加して分散させて塗料を作製し、10ミルのアプリケーターで展色紙に塗布したものを分光光度計で測色した時、CIE LAB(L
*a
*b
*)表色系においてL
*値が10以上であることが挙げられる。ここで、メラミンアルキッド樹脂の固形分とは、塗料の形成材料に使用したメラミンアルキッド樹脂ワニスに含まれる溶剤、例えば、キシレン等の芳香族溶剤、1−ブタノール等の脂肪族溶剤、シンナー等の希釈剤を除いた樹脂分を意味する。
【0011】
本発明は、別の実施形態として、下記の近赤外線反射・透過性アゾ顔料の製造方法を提供する。すなわち、上記の近赤外線反射・透過性アゾ顔料の製造方法であって、下記式(1)の3−(4−アミノフェニルイミノ)−1−オキソ−4,5,6,7−テトラクロロイソインドリンを、沸点が120℃以上の有機溶媒中に分散させ、濃塩酸で塩酸塩にし、これを水に溶解した亜硝酸塩でジアゾ化してジアゾニウム塩とする、ジアゾ成分を調製する工程と、下記一般式(2)、(3)及び(4)で表される化合物からなる群から選ばれるいずれかをカップリング成分として用い、該カップリング成分を、沸点が120℃以上の有機溶剤中に分散させて得た有機溶剤溶液中に、上記工程で調製したジアゾニウム塩の溶液を滴下してカップリング反応を行ってアゾ顔料を合成する工程と、次いで、加熱して、合成したアゾ顔料を含む上記有機溶剤中から、沸点が120℃以下の成分を蒸留(脱液)しながら、沸点が120℃以上の有機溶剤中で120〜200℃の温度でアゾ顔料を顔料化(結晶化)する工程、とを有することを特徴とする近赤外線反射・透過性アゾ顔料の製造方法を提供する。
【0012】
[但し、上記一般式(2)〜(4)中にあるR
1〜R
3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、エトキシ基又はアセチルアミノ基のいずれかを表す。]
【0013】
上記近赤外線反射・透過性アゾ顔料の製造方法の好ましい実施形態としては、前記沸点が120℃以上の有機溶剤として、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ニトロベンゼン、o−ニトロトルエン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン及び1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンジメチルからなる群から選ばれる少なくともいずれかを使用することが挙げられる。
【0014】
また、本発明は、別の実施形態として、液体分散媒体或いは固体分散媒体中に顔料成分が含有された液状或いは固体状の着色剤組成物であり、該顔料成分が、上記の近赤外線反射・透過性アゾ顔料のいずれかであるか、上記の製造方法によって得られた近赤外線反射・透過性アゾ顔料のいずれかであることを特徴とする着色剤組成物を提供する。
【0015】
また、上記した着色剤組成物の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。すなわち、前記前記液体分散媒体が皮膜形成成分を含み、該皮膜形成成分が、反応性基を有していてもよい重合体、反応性基を有していてもよいオリゴマー及び反応性基を有していてもよい単量体からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、且つ、該皮膜形成成分自体が液状であるか、或いは、溶剤及び/または水が含有されて液状となっていること;前記固体分散媒体が、熱可塑性樹脂製、熱硬化性樹脂製、ワックス、脂肪酸アミド及び脂肪酸金属石鹸からなる群から選ばれる少なくとも1種の固体分散媒体を含有してなる固体状であること;塗料用、プラスチック用、合成繊維用、印刷インキ用、文房具用又は画像記録用、画像表示用の着色用いずれかであることが挙げられる。
【0016】
また、本発明は、別の実施形態として、前記の着色剤組成物を用いて透明性基材を有する物品に着色を施す着色方法であって、透明性基材の表面に、上記着色剤組成物を用いて、塗装、塗付、染色、印刷、筆記、描画、インクジェット印刷、電子写真印刷及び静電印刷からなる群から選ばれたいずれかの方法で着色するか、或いは、上記着色剤組成物を物品の形成材料中に混練又は含浸させる方法によって物品の内部の着色をすることを特徴とする物品の着色方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、別の実施形態として、上記物品の着色方法で着色が施されていることを特徴とする着色物品を提供する。
【発明の効果】
【0018】
以上の本発明によれば、可視領域の光を吸収し、熱に寄与する度合いの大きい近赤外領域の光反射・透過性を示す特有の化学構造を有する新規なアゾ顔料が提供される。
【0019】
より具体的には、本発明によって提供されるアゾ顔料は、塗料用、プラスチック用、合成繊維用、印刷インキ用、文房具用又は画像記録用、画像表示用などの多様な用途に適用できる着色剤などに有用であり、特に、遮熱塗料(赤外線反射性塗料)として物品の表面に塗布することで、或いは、物品の形成材料中に混練又は含浸して内部を着色されたプラスチック製の成型品などは、直射日光に曝されても高温になりにくく、優れた遮熱効果を発揮できるものとなる。
【0020】
また、本発明のアゾ顔料は、特に暗色系、黒色系に発色するものである場合に、赤外線反射性のインキや画像記録用インクとし、該インクで印刷またはプリントすることによって、赤外線リーダーなどで読み取ることができる画像形成が可能になり、肉眼では識別不能な赤外線情報を形成できる。このため、本発明のアゾ顔料をインキなどの着色剤として使用することで、隠しバーコートや隠し2次元コード、或いは、有価証券、パスポート、各種鑑定書等における偽造防止など、セキュリティが重要視されている分野における各種印刷物の提供が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に、発明を実施するため最良の形態を挙げて本発明を更に詳細に説明する。本発明の近赤外線反射・透過性アゾ顔料は、ジアゾ成分と、カップリング成分とをカップリング反応させてなる、分子中にアゾメチン基とアゾ基の複数個の発色団を有するアゾ顔料であって、そのジアゾ成分とカップリング成分がいずれも特定のものであることを特徴とする。具体的には、ジアゾ成分が、先に挙げた式(1)で表される3−(4−アミノフェニルイミノ)−1−オキソ−4,5,6,7−テトラクロロイソインドリンをジアゾ化したジアゾニウム化合物であり、更に、カップリング成分の少なくとも一つが、先に挙げた一般式(2)で表される3−オキソブタンアミド残基を持つ化合物、先に挙げた一般式(3)で表される3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸アニリド残基を持つ化合物、及び、先に挙げた一般式(4)で表される2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボアミド残基を持つ化合物、からなる群から選ばれるいずれかの化合物であることを特徴とする。
【0022】
[近赤外線反射・透過性アゾ顔料]
上記したように、本発明のアゾ顔料は、下記式(1)で表される化合物のジアゾニウム化合物を、下記一般式(2)、(3)及び(4)で表される化合物からなる群から選ばれるカップリング成分にカップリングすることを特徴とし、更に、その光学的特性として、可視領域は吸収し、500〜1500nmの波長領域における、下地が黒の分光反射率スペクトルにおいて、600〜900nmの波長域で1点の極大反射率波長を有することを特徴とする。本発明において、「アゾ顔料」とは、分子中にアゾメチン基とアゾ基の複数個の発色団を有する顔料を意味する。
【0023】
[但し、上記一般式(2)〜(4)中にあるR
1〜R
3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、エトキシ基又はアセチルアミノ基のいずれかを表す。]
【0024】
本発明者らは、可視光領域で吸収し、且つ、可視光領域から近赤外領域において反射及び透過する、という特徴的なアゾ顔料を開発すべく鋭意検討を行った。その際、分子中に複数個の発色団を有させ、更にそれらを共鳴させた顔料を検討し、この顔料は、メラミンアルキッド樹脂の固形分100質量部に、前記アゾ顔料を10質量部添加して分散させて塗料を作製し、10ミルのアプリケーターで展色紙に塗布したものを分光光度計で測色した時、CIE LAB(L
*a
*b
*)表色系においてL
*値が、10以上であるものが、より好ましいことを見出した。
【0025】
[近赤外線反射・透過性アゾ顔料の製造方法]
本発明の特定の化学構造を有するアゾ顔料の製造方法について、以下説明する。先に述べたように、本発明者らは、可視光領域から近赤外領域において反射及び透過する顔料として、分子中にアゾメチン基とアゾ基の複数個の発色団を有し、合成する際のカップリング反応に用いるジアゾ成分が、先に挙げた式(1)で表される3−(4−アミノフェニルイミノ)−1−オキソ−4,5,6,7−テトラクロロイソインドリンをジアゾ化したジアゾニウム化合物であり、且つ、カップリング成分の少なくとも一つが、3−オキソブタンアミド残基を持つ化合物、3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボアミド残基を持つ化合物、2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボアミド残基を持つ化合物からなる群から選ばれる化合物である場合に、機能性に優れるアゾ顔料となることを見出した。
【0026】
本発明の顔料を製造する際に使用するジアゾ成分は、下記式(1)で表される3−(4−アミノフェニルイミノ)−1−オキソ−4,5,6,7−テトラクロロイソインドリンのジアゾニウム化合物であるが、例えば、特公昭49−24561号公報に開示されている公知の化合物である。下記式(1)の化合物は、公知の方法に従って、3−イミノ−1−オキソイソインドリンまたは3,3’−ジクロロ−1−オキソイソインドリンとp−フェニレンジアミンとから有利に得られる。
【0028】
本発明のアゾ顔料を製造する際に使用するカップリング成分は、下記一般式(2)の3−オキソブタンアミド残基を持つ化合物、下記一般式(3)の3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸アニリド残基を持つ化合物、下記一般式(4)の2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]−カルボアミド残基を持つ化合物からなる群から選ばれる化合物のいずれかである。このような化合物は、アゾ染顔料のカップリング成分として周知である。
【0029】
[但し、上記一般式(2)〜(4)中にあるR
1〜R
3は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、メチル基、メトキシ基、エトキシ基又はアセチルアミノ基のいずれかを表す。]
【0030】
上記一般式(2)の3−オキソブタンアミド残基を持つ化合物としては、例えば、アセトアセトアニリド、2’−メチルアセトアセトアニリド、4’−メチルアセトアセトアニリド、2’−メトキシアセトアセトアニリド、4’−メトキシアセトアセトアニリド、2’−クロロアセトアセトアニリド、4−クロロ−2’,5’−ジメトキシアセトアセトアニリド、4’−アセチルアミノアセトアセトアニリド、2’,4’−ジメチルアセトアセトアニリド、2’,4’−ジメトキシアセトアセトアニリド、2’,5’−ジメトキシアセトアセトアニリド、5’−クロロ−2’−メトキシアセトアセトアニリド、4−クロロ−2’,5’−ジメトキシアセトアセトアニリドなどが挙げられる。
【0031】
上記一般式(3)の3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸アニリド残基を持つ化合物としては、例えば、N−フェニル−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸アニリド、3−ヒドロキシ−2’−メトキシ−2−ナフトエ酸アニリド、3−ヒドロキシ−4’−メトキシ−2−ナフトエ酸アニリド、2’−エトキシ−3−ヒドロキシシ−2−ナフトエ酸アニリド、5’−クロロ−3−ヒドロキシ−2’−メチル−2−ナフトアニリド、5’−クロロ−2’,4’−ジメトキシ−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸アニリド、4’−クロロ−2’,5’−ジメトキシ−3−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸アニリド、5’−クロロ−3−ヒドロキシ−2’−メトキシ−2−ナフトエ酸アニリドなどが挙げられる。
【0032】
上記一般式(4)の2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボアミド残基を持つ化合物としては、例えば、N−(2−メチル−4−メトキシフェニル)−2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボアミド、N−(4−メトキシフェニル)−2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボアミドがある。
【0033】
本発明では、ジアゾ成分として、先に述べたような方法によって製造される式(1)の化合物を、下記のような方法でジアゾ化したジアゾニウム化合物を用い、このジアゾ成分を、上記に挙げたカップリング成分にカップリングさせて特有の構造を有するアゾ顔料を得る。まず、式(1)の化合物を、沸点が120℃以上の有機溶媒中に分散(使用する溶剤の種類によっては、一部溶解する)させ、濃塩酸で塩酸塩にし、水に溶解した亜硝酸塩でジアゾ化してジアゾニウム塩を製造する。次に、上記一般式(2)、(3)及び(4)で表される化合物からなる群から選ばれるカップリング成分を、沸点が120℃以上の有機溶剤中に分散させて有機溶剤溶液を得、該有機溶剤溶液中に、先のようにして調製したジアゾニウム塩の溶液を滴下してカップリング反応を行い、アゾ顔料を製造する。続いて、加熱して、合成したアゾ顔料を含む上記有機溶剤中から、沸点が120℃以下の成分を蒸留(脱液)しながら、沸点が120℃以上の有機溶剤中で120〜200℃の温度でアゾ顔料を顔料化(結晶化)することで、本発明で規定する機能性に優れた近赤外線反射・透過性アゾ顔料を製造することができる。
【0034】
上記したように、式(1)の化合物をジアゾ化して、得られたジアゾニウム化合物と、特定のカップリング成分とを用いてのカップリング反応(この一連の工程を「ジアゾ化・カップリング反応」と呼ぶ場合がある。)は、沸点が120℃以上の有機溶媒中で実施されることが好ましい。この際に用いることができる沸点が120℃以上の有機溶剤としては、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ニトロベンゼン、o−ニトロトルエン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノンジメチルなどを挙げることができる。これらの有機溶剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
上記したように、本発明のアゾ顔料の製造方法では、ジアゾ化・カップリング反応を120℃以上の沸点を有する有機溶剤中で行うが、このように構成することで、ジアゾ化・カップリング反応後の顔料化(結晶化)を、カップリング反応に引き続き円滑に実施することができる。ここで、本発明のアゾ顔料の製造方法で、最終的に顔料化(結晶化)を実施する目的は、以下の通りである。後述するように、ジアゾ化・カップリング反応は、比較的低温(0℃〜50℃)で実施するため、一次粒子は微細で、且つ、整粒されておらず、結晶型は比較的無定形に近いのが一般的である。そのため、特に耐溶剤性の良好な顔料の製造には、有機溶剤中で加熱して粒子を成長させると同時に整粒することが有効である。この際の顔料化温度は、使用する溶剤によっても、顔料の種類によっても異なるが、本発明者らの検討によれば、120℃〜200℃の温度で行うことが好ましい。このため、本発明の製造方法では、ジアゾ化・カップリング反応を、120℃以上の沸点を有する有機溶剤中で行うこととしている。
【0036】
[着色剤組成物]
本発明のアゾ顔料は、液体分散媒体或いは固体分散媒体中に含有させることで、多様な用途に着色剤として適用可能な着色剤組成物とすることができる。本発明の着色剤組成物は、本発明のアゾ顔料を用いること以外の構成は、その着色目的、用途、使用方法などに応じて最適なものとすればよい。具体的には、本発明のアゾ顔料を含む顔料成分を、液体分散媒体中に含む液状の着色剤組成物として使用してもよいし、或いは、該顔料成分を固体分散媒体中に含む固体状の着色剤組成物として使用してもよい。このような本発明の着色剤組成物を調製する場合におけるアゾ顔料を含む顔料成分としては、本発明のアゾ顔料を単独で用いてもよいが、或いは、有彩色顔料、白色顔料、黒色顔料及び体質顔料などの他の顔料を、目的とする色彩に合わせて1種または2種以上を選択して、併用してもよい。
【0037】
[他の顔料]
上記した本発明のアゾ顔料と併用して、本発明の着色剤組成物の構成成分として使用できる他の顔料について説明する。併用する顔料としては、公知の顔料を使用することができる。例えば、アンスラキノン系顔料、キナクリドン系顔料、ジケトピロロピロール系顔料、インジゴ・チオインジゴ系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、フタロシアニン系顔料、インドリン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、キノフタロン顔料、ニッケルアゾ顔料、金属錯体顔料、不溶性アゾ系顔料、溶性アゾ系顔料、高分子量アゾ系顔料、アゾメチンアゾ系ブラック顔料、アニリンブラック系顔料などの有機顔料及び、カーボンブラック顔料及び複合酸化物系顔料、酸化鉄顔料、酸化チタン系顔料などの無機顔料から選ばれる少なくとも1種の顔料、或いは2種以上の顔料の混合物、混晶顔料を使用することができる。
【0038】
上記した有機顔料のより具体的なものとしては、例えば、下記のものが挙げられる。黄色顔料としては、C.I.ピグメントイエロー(PYと略記する)74、PY83、PY93、PY94、PY95、PY97、PY109、PY110、PY120、PY128、PY138、PY139、PY147、PY150、PY151、PY154、PY155、PY166、PY175、PY180、PY181、PY185、PY191等が挙げられる。橙色顔料としては、C.I.ピグメントオレンジ(POと略記する)61、PO64、PO71、PO73等が挙げられる。赤色顔料としては、C.I.ピグメントレッド(PRと略記する)4、PR5、PR23、PR48:2、PR48:4、PR57:1、PR112、PR122、PR144、PR146、PR147、PR150、PR166、PR170、PR177、PR184、PR185、PR202、PR207、PR214、PR220、PR221、PR242、PR254、PR255、PR264、PR272等が挙げられる。
【0039】
青色顔料としては、C.I.ピグメントブルー(PBと略記する)15:1、PB15:2、PB15:3、PB15:4、PB15:5、PB15:6、PB16、PB17:1、PB60、PB80、アルミニウムフタロシアニンブルー等が挙げられる。緑色顔料としては、C.I.ピグメントグリーン(PGと略記する)7、PG36、PG58、ポリ(13−16)ブロムフタロシアニン等が挙げられ、紫色顔料としては、C.I.ピグメントバイオレット(PVと略記する)19、PV23、PV37等が挙げられる。黒色顔料としては、アニリンブラック顔料、カーボンブラック顔料、酸化チタンブラック顔料などが挙げられる。
【0040】
(液状の着色剤組成物)
本発明のアゾ顔料を含む顔料成分が、液体分散媒体中に分散されてなる液状の着色剤組成物について説明する。液状の着色剤組成物は、主に物品の表面を塗布、含浸、描画、印字などをさせる着色剤として使用され、塗料用、プラスチック着色用、繊維着色用、印刷インキ用、文房具用、画像記録用、或いは、画像表示用など種々の用途で使用することができる。この際に用いる液体分散媒体としては、反応性基を有してもよい重合体、反応性基を有してもよいオリゴマー及び反応性基を有してもよい単量体から選ばれる少なくとも1種の皮膜形成材料を含み、且つ、それ自体が液状であるか、或いは、更に溶剤及び/または水を含有されて液状となっているものが使用できる。
【0041】
更に、上記の液状の着色剤組成物を得るに際して、予め使用する顔料を高濃度に液状の分散媒体中に微分散した高濃度顔料加工品として事前に準備しておき、この加工品を着色剤に使用すれば、各種用途の着色剤組成物の製造を容易にすることができる。この液状の高濃度顔料加工品である高濃度顔料分散液は、「ベースカラー」或いは「ベースインク」と称され、広く一般に使用されている。
【0042】
(固体状の着色剤組成物)
本発明のアゾ顔料を含む顔料成分が、固体分散媒体中に分散されてなる固体状の着色剤組成物について説明する。固体状の着色剤組成物は、主としてプラスチック用や合成繊維の内部着色用に使用される着色剤として利用される。この場合は、例えば、固体分散媒体中に、予め本発明のアゾ顔料を高濃度に微分散した高濃度顔料加工品(高濃度顔料分散物)である、マスターパウダー、マスターバッチなど、及び、全体に着色されたカラードペレットなど公知の製品形状で提供される。この際に用いる固体分散媒体としては、熱可塑性樹脂製、熱硬化性樹脂製、ワックス、脂肪酸アミド及び脂肪酸金属石鹸などから選ばれる少なくとも1種の固体分散媒体を含有するものが使用できる。
【0043】
[着色剤組成物を用いた物品の着色方法]
上記で説明したようにして得られる、本発明のアゾ顔料を用いてなる液状或いは固体状の着色剤組成物を使用して物品を着色することで、得られる製品は、可視光領域及び赤外領域の光学的な要求性能(目的)によって適切な着色がなされたものとなる。例えば、可視光領域の光を網羅して吸収させ、赤外領域の光を透過させる着色を行う場合には、物品を透明性基材で形成し、液状の着色剤組成物を用いて該透明性基材を、塗装、塗付、染色、印刷、筆記、描画、インクジェット印刷、電子写真印刷或いは静電印刷などで表面着色するか、或いは、物品の形成材料に、本発明の着色剤組成物を混練または含浸させて内部着色すればよい。
【0044】
またこれに対して、物品に可視光領域の光を吸収させ、赤外領域の光を反射させる着色を行う場合には、着色する物品自体が光反射性を有するものを使用するか、或いは、予め物品に形成させた光反射性下地を使用し、その上に、本発明の着色剤組成物を用いて塗布着色することで達成される。着色方法は公知の方法、例えば、塗装、塗付、原液着色、捺染、浸染、印刷、筆記、描画、インクジェット印刷、電子写真印刷或いは静電印刷などを利用すればよい。
【0045】
本発明のアゾ顔料を利用して、上記したような表面着色或いは内部着色の方法により物品に着色を施す場合、以下に挙げるような各種の樹脂バインダーを皮膜形成材料として使用することができる。皮膜(塗膜)形成材料としての樹脂バインダー(用途により「ベヒクル」或いは「ワニス」と称する)としては、反応基を有しない非反応性の常温乾燥型の樹脂バインダー、或いは、反応性基を有する焼付け型の樹脂バインダー及び感光性樹脂バインダーを使用することができる。常温乾燥型或いは焼付け型の樹脂バインダーとしては、例えば、捺染剤、塗料或いは印刷インク、文房具、インクジェット印刷、電子写真印刷、静電印刷などの画像記録材料用に使用する樹脂バインダーなどが挙げられる。また、感光性樹脂バインダーとしては、例えば、紫外線硬化性或いは電子線硬化の各種塗料、コーティング剤、印刷インク、インクジェットインクなどに用いられる感光性樹脂バインダーが挙げられる。
【0046】
常温乾燥型の樹脂バインダー或いは焼付け型の樹脂バインダーの具体例としては、例えば、合成ゴム樹脂、アクリル樹脂、スチレン系(共)重合体、ポリビニルブチラール系樹脂などのビニル樹脂、ポリエステル系樹脂、アミノ樹脂変性ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリルポリオールウレタン系樹脂、可溶性ポリアミド系樹脂、可溶性ポリイミド系樹脂、可溶性ポリアミドイミド系樹脂、可溶性ポリエステルイミド系樹脂、アルキッド樹脂、アミノアルキッド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ゴム樹脂、シリコン樹脂、フッ素樹脂、セルロースアセテート系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、スチレン−マレイン酸エステル系共重合体の水溶性塩、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体の水溶性塩、水溶性アミノアルキッド系樹脂、水溶性アミノポリエステル系樹脂及び水溶性ポリアミド系樹脂などが挙げられる。これらは単独或いは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0047】
反応性の樹脂バインダーが有する反応性基としては、例えば、メチロール基、アルキルメチロール基、イソシアネート基、マスクッドイソシアネート基、エポキシ基などが挙げられる。また、用途によってオリゴマーや単量体が使用され、更に、架橋剤、例えば、メチロールメラミン系やイソシアネート系、エポキシ系の架橋剤も併用される。
【0048】
紫外線硬化性樹脂系、電子線硬化性樹脂系などのエネルギー線硬化性の塗膜形成材料(感光性樹脂バインダー)の具体例としては、例えば、感光性環化ゴム系樹脂、感光性フェノール系樹脂、感光性ポリアクリレート系樹脂、感光性ポリアミド系樹脂、感光性ポリイミド系樹脂など、及び不飽和ポリエステル系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエポキシアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂などのバインダー、或いはこれらに更に反応性希釈剤としモノマーが加えられたバインダーが挙げられる。
【0049】
また、本発明の着色剤組成物をプラスチック用の着色剤として使用する場合、着色される対象とできるプラスチックとしては、以下のものが挙げられる。例えば、従来公知の熱可塑性プラスチックである、ポリエチレン、エチレンコポリマー、ポリプロピレンなどのポリオレフィン類、ポリスチレン、ABS、AS、スチレンコポリマー、塩化ビニル樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、熱可塑性ポリエステル、セルロース系プラスチック、フェニレンオキサイド樹脂、フッ素樹脂、熱可塑性エラストマー類などや、また、熱硬化性プラスチックである、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0050】
上述した本発明の着色剤組成物に含有される本発明のアゾ顔料の含有量は、用途や使用する目的によって変わり、一概に決められるものではない。たとえば、塗料、捺染剤、印刷インキ、プリンター用トナー、インクジェットインクなど物品の表面に着色するような用途においては、膜厚が薄いため、その着色剤に含有される本発明のアゾ顔料の含有量は、凡そ3%〜80%、好ましくは凡そ5%〜60%である。
【0051】
また、プラスチックの着色や紡糸の原液着色のように着色される材料全体に内部着色するような場合には、着色製品の厚さにもよるが、その含有量は、着色剤中に凡そ0.05%〜20%、好ましくは凡そ0.1%〜10%程度であることが好ましい。
【実施例】
【0052】
次に、実施例、比較例及び使用例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、文中、「g」、「部」または「%」とあるのは特に断りのない限り質量基準である。
【0053】
[実施例1−各色顔料の製造例]
それぞれ下記のようにして、本発明の実施例の、橙色、赤色、紫色及び黒色の各色顔料を調製した。
(橙色顔料1の合成例)
カップリング反応に用いるジアゾ成分を、前記した式(1)で表される、3−(4−アミノフェニルイミノ)−1−オキソ−4,5,6,7−テトラクロロイソインドリンを、下記のようにしてジアゾ化してジアゾニウム塩の溶液を調製した。具体的には、3−(4−アミノフェニルイミノ)−1−オキソ−4,5,6,7−テトラクロロイソインドリン7.5g(0.02モル)を、188gのN,N−ジメチルアセトアミド(沸点165℃、以下、DMAcと略記)中に分散し、これに濃塩酸7.4gを加えて、温度を5〜10℃に保ち、約1時間撹拌して塩酸塩とし、これに40%硝酸ナトリウム水溶液4.0gを加え、約1時間、同温度にて撹拌して黄色のジアゾニウム塩の溶液を調製した。
【0054】
一方、カップリング成分には、前記一般式(2)で表される化合物である4−クロロ−2’,5’−ジメトキシアセトアセトアニリドを用い、下記のようにしてカップリング反応を行ってアゾ顔料を調製した。まず、上記化合物5.5g(0.02モル)を、80gのDMAc中に分散し、これに30%苛性ソーダ水溶液40gを加えて撹拌し、20〜30℃の温度で撹拌しながら、先に調製したジアゾニウム塩溶液を滴下した。更に、30〜40℃の温度に5〜6時間保ってカップリング反応を行い、その後、徐々に加温し、脱液(脱水)しながら、150℃の温度で4時間加熱して顔料化を行った。次いで、濾過、メタノール洗浄、水洗、乾燥及び粉砕して本発明の実施例のアゾ顔料である橙色顔料1を得た。得られた橙色顔料1について、空気中における分解温度を測定したところ、354℃であった。なお、本発明では、分解温度の測定は、いずれの場合も、(株)リガク製の示差熱天秤サーモプラスEVO8120(商品名)で行った。
【0055】
【0056】
(赤色顔料1の合成例)
先の橙色顔料1の合成例の場合と同様にして、式(1)で表される化合物のジアゾニウム塩の溶液を調製した。一方、カップリング成分には、前記一般式(2)で表される化合物である4’−エトキシアセトアセトアニリドを用い、下記のようにしてカップリング反応を行ってアゾ顔料を調製した。まず、上記化合物4.4g(0.02モル)を、80gのDMAc中に分散し、これに30%苛性ソーダ水溶液40gを加えて撹拌し、20〜30℃の温度で撹拌しながら、先に調製したジアゾニウム塩溶液を滴下した。更に、30〜40℃の温度に5〜6時間保ってカップリング反応を行い、その後、徐々に加温し、脱液(脱水)しながら、150℃の温度で4時間加熱して顔料化を行った。次いで、濾過、メタノール洗浄、水洗、乾燥及び粉砕して本発明の実施例のアゾ顔料である赤色顔料1を得た。得られた赤色顔料1について、空気中における分解温度を測定したところ、340℃であった。
【0057】
【0058】
(紫色顔料1の合成例)
この例では、ジアゾ成分として、前記した式(1)で表される、3−(4−アミノフェニルイミノ)−1−オキソ−4,5,6,7−テトラクロロイソインドリンを、下記のようにしてジアゾ化してジアゾニウム塩の溶液を調製し、これをカップリング反応に用いた。具体的には、上記化合物7.5g(0.02モル)を、188gのo−ジクロロベンゼン(沸点180℃、以下、ODBと略記)中に分散し、これに濃塩酸7.4gを加えて、温度を5〜10℃に保ち、約1時間撹拌して塩酸塩とし、これに40%硝酸ナトリウム水溶液4.0gを加え、約1時間、同温度にて撹拌して黄色のジアゾニウム塩の溶液を調製した。
【0059】
一方、カップリング成分には、前記一般式(3)で表される化合物である2−ヒドロキシ−3−ナフトエ酸−3−クロロ−4,6−ジメトキシアニリドを用い、下記のようにしてカップリング反応を行ってアゾ顔料を調製した。まず、上記化合物5.5g(0.02モル)をODB80g中に分散し、これに1.2gの苛性ソーダをメタノール40gに溶解したものを加えて、撹拌した。20〜30℃の温度で撹拌しながら、上記ジアゾニウム塩溶液を滴下した。更に、30〜40℃の温度に5〜6時間保ってカップリング反応を行い、その後、徐々に加温し、脱液(脱水)しながら、170℃の温度で4時間加熱して顔料化を行った。次いで、濾過、メタノール洗浄、水洗、乾燥及び粉砕して本発明の実施例のアゾ顔料である紫色顔料1を得た。得られた紫色顔料1について、空気中における分解温度を測定したところ、344℃であった。
【0060】
【0061】
(黒色顔料1の合成例)
先述した紫色顔料1の合成例の場合と同様にして、前記した式(1)で表される化合物をジアゾ化してジアゾニウム塩溶液を調製した。一方、カップリング成分には、前記一般式(4)で表される化合物であるN−(2−メチル−4メトキシフェニル)−2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボアミドを用い、下記のようにしてカップリング反応を行ってアゾ顔料を調製した。まず、上記化合物5.5g(0.02モル)を80gのODB中に分散し、これに1.2gの苛性ソーダをメタノール40gに溶解したものを加えて撹拌し、20〜30℃の温度で撹拌しながら、先に調製したジアゾニウム塩溶液を滴下した。更に、30〜40℃の温度に5〜6時間保ってカップリング反応を行い、その後、徐々に加温し、脱液(脱水)しながら、170℃の温度で4時間加熱して顔料化を行った。次いで、濾過、メタノール洗浄、水洗、乾燥及び粉砕して本発明の実施例のアゾ顔料である黒色顔料1を得た。得られた黒色顔料1について、空気中における分解温度を測定したところ、347℃であった。
【0062】
【0063】
[比較例1−橙色顔料2及び黒色顔料2の製造例]
(橙色顔料2の比較合成例)
カップリング反応に用いるジアゾ成分を、下記のようにして調製した。前記した式(1)で表される、3−(4−アミノフェニルイミノ)−1−オキソ−4,5,6,7−テトラクロロイソインドリン7.5g(0.02モル)を、188gの水中に分散し、これに濃塩酸7.4gを加えて、温度を5〜10℃に保ち、約1時間撹拌して塩酸塩とし、これに40%硝酸ナトリウム水溶液4.0gを加え、約1時間、同温度にて撹拌してジアゾ化し、黄色のジアゾニウム塩の溶液を調製した。
【0064】
一方、カップリング成分には、前記一般式(2)で表される化合物である4−クロロ−2’,5’−ジメトキシアセトアセトアニリドを用い、下記のようにしてカップリング反応を行ってアゾ顔料を調製した。まず、上記化合物5.5g(0.02モル)を、80gの水中に分散し、これに30%苛性ソーダ水溶液40gを加えて撹拌し、20〜30℃の温度で撹拌しながら、先に調製したジアゾニウム塩溶液を滴下した。更に、30〜40℃の温度に5〜6時間保ってカップリング反応を行い、その後、徐々に加温しながら、95℃の温度で4時間加熱して顔料化を行った。次いで、濾過、水洗、乾燥及び粉砕して本発明の比較例のアゾ顔料である橙色顔料2を得た。得られた橙色顔料2について、空気中における分解温度を測定したところ、345℃であった。
【0065】
(黒色顔料2の比較合成例)
この例では、ジアゾ成分として、前記した式(1)で表される3−(4−アミノフェニルイミノ)−1−オキソ−4,5,6,7−テトラクロロイソインドリンを、下記のようにしてジアゾ化してジアゾニウム塩の溶液を調製し、これをカップリング反応に用いた。具体的には、上記化合物7.5g(0.02モル)を、188gのメタノール(沸点64.7℃)中に分散し、これに濃塩酸7.4gを加えて、温度を5〜10℃に保ち、約1時間撹拌して塩酸塩とし、これに40%硝酸ナトリウム水溶液4.0gを加え、約1時間、同温度にて撹拌して黄色のジアゾニウム塩の溶液を調製した。
【0066】
一方、カップリング成分には、前記一般式(4)で表される化合物であるN−(2−メチル−4メトキシフェニル)−2−ヒドロキシ−11H−ベンゾ[a]カルバゾール−3−カルボアミドを用い、下記のようにしてカップリング反応を行ってアゾ顔料を調製した。まず、上記化合物5.5g(0.02モル)を80gのメタノール中に分散し、これに1.2gの苛性ソーダをメタノール40gに溶解したものを加えて撹拌し、20〜30℃の温度で撹拌しながら、先に調製したジアゾニウム塩溶液を滴下した。更に、30〜40℃の温度に5〜6時間保ってカップリング反応を行い、その後、徐々に加温し、脱液(脱水)しながら、65℃の温度で4時間加熱して顔料化を行った。次いで、濾過、メタノール洗浄、水洗、乾燥及び粉砕して本発明の比較例のアゾ顔料である黒色顔料2を得た。得られた黒色顔料2について、空気中における分解温度を測定したところ、343℃であった。
【0067】
[実施例2−実施例1の各色顔料を用いた塗料の製造例と、その評価用試料の作成]
(橙色顔料1を含む塗料の調製と、該塗料で塗装した展色紙の調製)
実施例1で得た橙色顔料1を用いて下記の処方で橙色塗料の調製を行った。具体的には、橙色顔料1を1.5部、メラミンアルキッド樹脂ワニス15.5部、シンナー3部及びガラスビーズ25部を50容量部のポリ瓶に取り、ペイントシェーカーで90分間振とうした後、メラミンアルキッド樹脂を10部追加し、更に10分間同機にて振とうし、熱硬化アルキッド塗料を調製した。上記処方において使用した、メラミンアルキッド樹脂ワニスは、スーパーベッカミンJ−820(商品名、DIC社製)30%と、フタルキッド133−60(日立化成社製)70%よりなるものであり、調製したワニスの樹脂分は60%である。よって、メラミンアルキッド樹脂の固形分100部に対し、アゾ顔料は約10部含有されたものである。上記処方において使用したシンナーは、キシレン80%と1−ブタノール20%よりなるものである。
【0068】
上記で調製した橙色顔料1を含む橙色塗料を、黒帯展色紙に10ミルのアプリケーターで塗布し、常法に従って乾燥(焼付)した。乾燥後の膜厚は、約485nmであった。以下、これを橙色展色紙と称する。
【0069】
(赤色顔料1、紫色顔料1又は黒色顔料1をそれぞれに含む塗料の調製と、これらの塗料で塗装した各色の展色紙の作成)
先に説明した塗料の調製において使用した橙色顔料1を、実施例1で得た赤色顔料1に変えた以外は、同様にして、赤色塗料及び赤色展色紙を得た。同様に、橙色顔料1を、実施例1で得た紫色顔料1又は黒色顔料にそれぞれ変えた以外は同様にして、紫色塗料、紫色展色紙、黒色塗料及び黒色展色紙を得た。
【0070】
[比較例2−比較例1の橙色顔料2、黒色顔料2を用いた塗料の製造例と、その評価用試料の作成]
先に説明した塗料の調製において使用した橙色顔料1を、比較例1で得た橙色顔料2に変えた以外は同様にして、比較橙色塗料を調製した。また、これを用いて比較橙色展色紙を作成した。但し、得られた比較橙色塗料の粘度は、実施例2の橙色塗料に比べて少し高かった。同様に、橙色顔料1を、比較例1で得た黒色顔料2に変えた以外は同様にして、比較黒色塗料を調製した。また、これを用いて比較黒色展色紙を作成した。但し、得られた比較黒色塗料の粘度は、実施例2の黒色塗料に比べて、かなり高かった。これは、特に黒色顔料2の場合、本発明の有機溶剤による顔料化を実施していないので、顔料粒子がかなり微細であるからだと考えられる。
【0071】
(評価結果1−測色)
実施例2と比較例2で上記のようにして作成した各色の展色紙について、CM−3600d分光光度計〔商品名、コニカミノルタ社製、SCE(正反射光除去)方式、標準の光D65 10°視野〕を用いて測色した。その結果を表1にまとめて示した。
【0072】
【0073】
[実施例3−実施例2で調製した各色塗料を用いた評価用塗装板の作成と、評価結果2(反射率及び透過率の測定結果)]
先に説明した実施例2で調製した各色の塗料をそれぞれに用い、透明の石英ガラス板に、6ミルのアプリケーターで塗布し、常法に従い乾燥させた。乾燥後の膜厚は、何れも約320nmであった。こうして各色の塗料を用いて得られた透明基板からなる塗装板を、330型自記分光光度計(日立製作所製)にて可視部及び近赤外部の反射率及び透過率を測定した。その際に、下記のようにして、下地を白及び黒としてそれぞれ測定した。具体的には、下地が白の場合には、それぞれのガラス板の裏面に白色板(酸化マグネシウム板)を当てて測定し、下地が黒の場合には黒色板(カーボンブラック板)を裏面に当てて測定した。そして、下地が黒の場合の極大反射率波長と各波長における反射率の結果を表2と表3に示した。また、透過率の結果を表4に示した。
【0074】
[比較例3−比較例2で得た比較橙色塗料と比較黒色塗料を用いた評価用塗装板の作成と、評価結果2(反射率及び透過率の測定結果)]
実施例3と同様の方法で評価し、結果を表2〜4にまとめて示した。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
表3に示したように、比較例3の場合の方が反射率が小さく、また、表4に示したように、比較例3の場合の方が、実施例3と比較して透過率が大きくなったが、その理由は以下のようである。実施例3と比較例3では、実施例2と比較例2でそれぞれに調製した、各顔料のジアゾ成分とカップリング成分が同じ、橙色塗料と比較橙色塗料、黒色塗料と比較黒色塗料をそれぞれ使用しており、同色の顔料の化学構造は同じになる。ここで、化学構造が同じ顔料の場合、粒子が細かい方が、透過率が高く、反射率は低くなる。このことから、比較例3の塗装板の場合に使用した顔料は、実施例の場合と溶剤が異なり、実施例で行った沸点が120℃以上の溶剤による良好な顔料化が行われておらず、一次粒子を、良好な状態に成長(結晶化)させると同時に整粒させることができず、粒子径が小さくなり、その結果、実施例3と比べて比較例3の場合の方が、反射率が小さく、透過率が大きくなったと考えられる。比較例3の場合のように、良好な結晶化が達成されずに、顔料の粒子径が小さく、整粒されていないと、例えば、塗料等の顔料分散体にした場合、流動性が悪くなり、顔料として実用性に劣るものとなる。
【0079】
[実施例4−実施例1で調製した赤色顔料1を用いた赤色の捺染糊の作製と、これを用いた評価用の捺染布の作成と、評価結果3(熱線遮蔽性)]
実施例1で得た赤色顔料1を固形分で25部を含むプレスケーキ71部、ノニオン系顔料分散剤10部、消泡剤1部、水18部を十分予備混合した後、分散媒体としてガラスビーズを使用した横型連続媒体分散機にて顔料を分散し、赤色顔料を含有する高濃度分散液(赤色カラーベース)を調製した。このようにして得た赤色カラーベース20部、反応性アクリル酸アルキルエステルラテックス(固形分40%)25部、消泡剤0.5部、分散剤1部、水中油滴型乳化用分散安定剤3部、ミネラルターペン38部、水12.5部をホモジナイザー(強力乳化分散機)にて乳化分散させ、水中油滴型赤色エマルジョンペーストを調製した。更に、そこへ、カルボジイミド系の架橋剤(固形分40%)を2部添加し、十分混合して赤色の捺染糊を調製した。得られた赤色捺染糊を用いてポリエステル−綿混紡布上に全面プリントし、120℃で15分間のキュアーを行うことにより、赤色の無地捺染布を得た。得られた赤色の無地捺染布は、熱線を遮蔽することができるものであることを確認した。
【0080】
[実施例5−実施例1で調製した黒色顔料1を用いた黒色のグラビア印刷インキの作製と、これを用いた評価用の印刷物の作成と、評価結果4(可視光遮蔽性・赤外透過性)]
実施例1で得た黒色顔料1を11部、イソシアネート末端ポリエステルをジアミンで鎖長延長したポリウレタン樹脂の、40%メチルエチルケトン・トルエン(1:3)混合溶媒溶液30部を加え、カチオン性ポリマー分散剤2部、トリレンジイソシアネートからのポリカルボジイミド化合物の40%トルエン溶液を2.5部、メチルエチルケトン・トルエン・イソプロピルアルコール(50:30:20)混合溶媒54.5部を加えて高速撹拌機で十分混合した。そして、分散メディアとしてガラスビーズを使用した横型連続媒体分散機にて顔料を分散し、黒色グラビア印刷インキを調製した。グラビア印刷機を用いて、ポリアミドフィルム、ポリエステルフィルム及びポリプロピレンフィルムにそれぞれ印刷を行ない、それぞれの材質のフィルムを基材とする黒色フィルムを得た。いずれの黒色フィルムも、可視光を遮蔽し、赤外線を透過することができるものであることを確認した。