特許第6196480号(P6196480)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196480
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】飛翔体の動翼装置
(51)【国際特許分類】
   F42B 10/64 20060101AFI20170904BHJP
   F42B 15/38 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   F42B10/64
   F42B15/38
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-130422(P2013-130422)
(22)【出願日】2013年6月21日
(65)【公開番号】特開2015-4484(P2015-4484A)
(43)【公開日】2015年1月8日
【審査請求日】2016年6月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】野口 裕一
【審査官】 諸星 圭祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−103900(JP,A)
【文献】 特開平07−294200(JP,A)
【文献】 特開昭62−280600(JP,A)
【文献】 特開昭63−163799(JP,A)
【文献】 特開昭62−102099(JP,A)
【文献】 特開平05−079798(JP,A)
【文献】 米国特許第03139033(US,A)
【文献】 米国特許第04413566(US,A)
【文献】 特開昭59−038198(JP,A)
【文献】 特開2012−180470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F42B 10/60−10/64
F42B 15/36−15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸を介して飛翔体に設けられた動翼と、
前記回転軸を回転駆動する回転駆動手段と、
前記飛翔体の速度により前記動翼の空力中心が前記回転軸の軸線より後縁側に移動するのに伴って、当該動翼の翼弦を短縮するよう変形する変形後縁部と、
を備え
前記変形後縁部は、前記動翼の空力中心が前記回転軸の軸線より後縁側に移動する前の状態において該動翼の後縁部分に位置して該動翼のテーパ状の後縁をなし、
前記動翼の後縁部分には、該動翼の空力中心が前記回転軸の軸線より後縁側に移動する前の状態において前記変形後縁部に覆われる後縁部が配置され、
前記動翼の後縁部分に配置された前記後縁部は、該動翼の空力中心が前記回転軸の軸線より後縁側に移動した状態において該動翼のテーパ状の後縁をなすことを特徴とする飛翔体の動翼装置。
【請求項2】
前記変形後縁部は、前記動翼の後縁部分から分離手段の作動により離し、前記動翼の空力中心の移動に伴って当該分離手段により前記後縁部分から分離することで、前記動翼の翼弦を短縮させることを特徴とする請求項1記載の飛翔体の動翼装置。
【請求項3】
前記分離手段は、火工品であることを特徴とする請求項2記載の飛翔体の動翼装置。
【請求項4】
前記変形後縁部は、空力加熱による温度上昇に応じて溶融することで、前記動翼の翼弦を短縮させることを特徴とする請求項1記載の飛翔体の動翼装置。
【請求項5】
前記変形後縁部は、段階的に前記動翼の翼弦を短縮させるよう変形することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の飛翔体の動翼装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飛翔体の動翼装置に係り、詳しくは超音速飛行による空力中心の移動に応じて翼形状を変更可能な動翼装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、飛翔体には、姿勢を制御するための動翼(操舵翼)が設けられている。例えば、ミサイルのような飛翔体の場合、円筒状の胴体側面に静翼(固定翼)や動翼が設けられている。静翼は飛翔体に固定された翼であり主に飛翔体の姿勢を安定させるものである。動翼は、回転駆動等して、迎角を変えることで飛翔体の姿勢を変更するものである。
【0003】
例えば、動翼を備えた飛翔体としては、胴体内に翼を完全に収納でき、かつ翼の突出量を制御できる可変翼式飛翔体が開発されている(特許文献1参照)。当該特許文献1に記載の技術によれば、動翼の突出量を制御することで、飛翔体の飛行の変化に応じて必要な揚力を発生させることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−87497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
飛翔体の中には超音速で飛行するものがあり、遷音速領域から超音速領域では翼の空力中心が後退していき、空力荷重も非常に大きなものとなるという特性がある。空力中心が変化すれば動翼による姿勢制御にも影響が生じる。
例えば、ミサイルの動翼であって、動翼の迎角を可変するため胴体側面から垂直に回転軸が延びているような構成では、回転軸の軸線と動翼の空力中心との距離(モーメントアーム)が、空力中心の後退により長くなれば、その分回転軸を駆動するモータ等の駆動装置(アクチュエータ)の負荷も大きくなる。
【0006】
駆動装置の大型化を防ぐためにも、回転軸の軸線と動翼の空力中心とは極力近いことが好ましく、一般的に超音速飛行可能な飛翔体では、駆動装置の負荷が大きく変化しないように、動翼の回転軸を遷音速領域から超音速領域の空力中心の移動範囲において中間的な位置に配置している。しかし、これでは動翼及び回転軸の位置が限定され、レイアウトの自由度が制限されるという問題がある。
【0007】
たとえ上記特許文献1のように動翼の突出量を制御できたとしても、空力中心が後退することに対しての対応は困難であり、却って制御が複雑になるおそれがある。また、超音速領域での空力荷重も非常に大きくなるのに対して、特許文献1のような複雑な動翼の支持構成では強度を維持するのは困難であるという問題もある。
【0008】
本発明はこのような問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、超音速飛行可能な飛翔体において、動翼及び回転軸のレイアウトを制限することなく、空力中心の移動に対応して駆動装置にかかる負荷を最小限に抑えることができ、動翼及び回転軸のレイアウトの自由度の向上及び駆動装置の小型化を図ることのできる飛翔体の動翼装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するために、本発明の飛翔体の動翼装置では、回転軸を介して飛翔体に設けられた動翼と、前記回転軸を回転駆動する回転駆動手段と、前記飛翔体の速度により前記動翼の空力中心が前記回転軸の軸線より後縁側に移動するのに伴って、当該動翼の翼弦を短縮するよう変形する変形後縁部と、を備え、前記変形後縁部は、前記動翼の空力中心が前記回転軸の軸線より後縁側に移動する前の状態において該動翼の後縁部分に位置して該動翼のテーパ状の後縁をなし、前記動翼の後縁部分には、該動翼の空力中心が前記回転軸の軸線より後縁側に移動する前の状態において前記変形後縁部に覆われる後縁部が配置され、前記動翼の後縁部分に配置された前記後縁部は、該動翼の空力中心が前記回転軸の軸線より後縁側に移動した状態において該動翼のテーパ状の後縁をなすことを特徴としている。
【0010】
また、本発明の飛翔体の動翼装置において、前記変形後縁部は、前記動翼の後縁部分から分離手段の作動により離し、前記動翼の空力中心の移動に伴って当該分離手段により前記後縁部分から分離することで、前記動翼の翼弦を短縮させるのが好ましい。
特に前記分離手段は、火工品であることが好ましい。
【0011】
また、前記変形後縁部は、空力加熱による温度上昇に応じて溶融することで、前記動翼の翼弦を短縮させてもよい。
さらに、前記変形後縁部は、段階的に前記動翼の翼弦を短縮させるよう変形するのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
上記手段を用いる本発明によれば、飛翔体が遷音速領域から超音速領域内を飛行(超音速飛行)することで動翼の空力中心が回転軸より後退するのに対し、変形後縁部が動翼の翼弦を短縮するよう変形することで、後退する空力中心を動翼の前縁側に移動させる。
これにより、飛翔体が超音速飛行する場合に動翼の空力中心が回転軸の軸線から大きく離れることを防ぎ、動翼の回転駆動にかかる負荷の増加を抑制することができ、安定した姿勢制御を行うことができる。
【0013】
このことから、飛翔体において空力中心の移動に応じた動翼及び回転軸のレイアウト上の制限を軽減することができ、これらのレイアウトの自由度を向上させることができる。また、空力中心の移動による回転駆動手段(駆動装置)にかかる負荷(制御トルク)の変化が少なくなることから、駆動装置の小型化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態に係る動翼装置を備えた飛翔体の全体図である。
図2】(a)第一実施形態に係る飛翔体の動翼装置の概略平面図、及び(b)(a)のA−A線に沿う概略断面図である。
図3】(a)空力中心移動後の動翼の概略平面図、及び(b)(a)のB−B線に沿う概略断面図である。
図4】(a)第二実施形態に係る飛翔体の動翼装置の概略平面図、及び(b)(a)のC−C線に沿う概略断面図である。
図5】(a)超音速飛行前半時の動翼の状態を示す概略平面図、(b)超音速飛行中盤時の動翼の状態を示す概略平面図、及び(c)超音速飛行後半時の動翼の状態を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1には本発明の実施形態に係る動翼装置を備えた飛翔体の全体図が、図2には(a)第一実施形態に係る飛翔体の動翼装置の概略平面図、及び(b)(a)のA−A線に沿う概略断面図がそれぞれ示されており、以下これらの図に基づき説明する。
【0016】
図1に示す飛翔体1は、後翼操舵のミサイルであり、円筒状の胴体2の尾部外周に4つの動翼4が設けられている。当該飛翔体1は、図示しない発射装置から発射されることで、静止状態から加速し、超音速領域まで達した後、減速するものである。
【0017】
各動翼4は、図2(a)に示すように、翼平面形状が台形状のいわゆるテーパ翼であり、且つ図2(b)に示すように、翼断面において前縁及び後縁がそれぞれテーパ状をなし、表面及び裏面の形状が同一の対称翼である。
当該動翼4は、駆動機構6を介して飛翔体1に設けられている。駆動機構6は、飛翔体1の胴体2から垂直に動翼4内に延びて動翼4を支持している回転軸8、及び当該回転軸8を介して動翼4を回転駆動するモータ10(回転駆動手段)から構成されている。なお、図2(a)において回転軸8の軸線AXが一点鎖線で示されている。
【0018】
また、本実施形態の動翼4の後縁部分には、初期状態において動翼4の後縁をなす第1後縁部12(変形後縁部)と、当該第1後縁部12に覆われている第2後縁部14とを備えている。第2後縁部14は第1後縁部12に覆われていることで、動翼4内において第1後縁部12より前縁側に配置されている。
【0019】
第1後縁部12と第2後縁部14とは例えば同じ金属で成形されており、第1後縁部12は複数の火工品16(分離手段)を介して第2後縁部14に連結されている。当該火工品16は、例えば分離ナット、ワイヤカッタ等であり、飛翔体1が備える図示しない制御部からの信号に応じて起爆して第1後縁部12を動翼4から分離可能である。このように動翼4は、第1後縁部12を後縁とした翼形状から、当該第1後縁部12を分離して、第2後縁部14を後縁とした翼形状に変形可能である。
【0020】
図2(a)(b)に示すように、翼形状の変形前の初期状態においては、動翼4の空力中心AC1は翼弦上において前縁からおよそ25%の位置に位置している。また、当該空力中心AC1は回転軸8の軸線AX上に位置しており、動翼制御におけるモータ10の負荷は最小限に抑えられている。第2後縁部14を後縁とした翼形状に変形した場合には、動翼4の翼弦が第1後縁部12を後縁とした変形前の翼形状の場合よりも短縮され、図2(a)(b)において破線で示すように変形後の空力中心AC2は短縮された翼弦上において前縁からおよそ25%の位置となり、変形前の空力中心AC1より前縁側に位置することとなる。
【0021】
このように構成された動翼4は、飛翔体1の速度により空力中心が回転軸8の軸線AXより後縁側に移動するのに伴って、第1後縁部12を分離することで、動翼4の翼弦を短縮して、空力中心と回転軸8の軸線AXとを近づけることが可能である。
ここで、図3を参照すると(a)空力中心移動後の動翼の概略平面図、及び(b)(a)のB−B線に沿う概略断面図がそれぞれ示されており、当該図3と上記図2とに基づき本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0022】
飛翔体1の発射直後から遷音速領域に至るまでの亜音速領域では、動翼4は第1後縁部12を後縁とする図2(a)(b)で示した初期状態にあり、空力中心AC1は回転軸8の軸線AX上に位置している。
飛翔体1の速度が遷音速領域に入ると、加速するに従って動翼4の空力中心AC1は、図3(a)(b)に白抜矢印で示すように、翼弦上において後縁側に移動し、回転軸8の軸心AXから離れる。そして、空力中心AC1が例えば動翼4の翼弦上において前縁から40%の位置にまで移動する所定速度に達したとき、制御部から動翼4内の各火工品16へと信号が送られて当該火工品16が起爆し、第1後縁部12が動翼4から分離する。
【0023】
第1後縁部12が分離した動翼4は、図3(a)(b)に示すように、第2後縁部14を後縁とする翼形状に変形することで翼弦が短縮される。当該動翼4は翼弦が短縮されたことで空力中心が変形後の空力中心AC2に移動する。変形後の空力中心AC2も超音速飛行により後退しているが、変形前の空力中心AC1より前側に位置していることで回転軸8の軸線AXに近づき、図3(a)のように当該軸線AX上に再び位置させることができる。
【0024】
このように、飛翔体1が遷音速領域から超音速領域内を飛行する場合にも、動翼4の空力中心の移動に伴って、翼弦を短縮するように動翼4の後縁を変形させることで、動翼4の空力中心が回転軸8の軸線AXから大きく離れることを防ぐことができる。空力中心が軸線AX上又は軸線AXに近接していれば、動翼4を回転駆動する際にかかるモータ10の負荷を最小限に抑えることができ、安定した姿勢制御を行うことができる。
【0025】
そして、このことから飛翔体1において空力中心の移動に応じた動翼4及び回転軸8のレイアウト上の制限を軽減することができ、これらのレイアウトの自由度を向上させることができる。また、空力中心の移動によるモータ10にかかる負荷の変化が少なくなることで、モータ10を小型化することができる。
【0026】
次に本発明の第二実施形態について説明する。
図4には(a)第二実施形態に係る飛翔体の動翼装置の概略平面図、及び(b)(a)のC−C線に沿う概略断面図がそれぞれ示されており、以下これらの図に基づき説明する。なお、第一実施形態と同じ構成については同様の符号を付し説明を省略する。
【0027】
第二実施形態の動翼20は、第一実施形態と同様に飛翔体1の尾部外周にて駆動機構6を介して設けられている。そして、第二実施形態の動翼20の後縁部分は、初期状態において、動翼20の後縁をなす第1後縁部22(変形後縁部)と、当該第1後縁部22に覆われている第2後縁部24(変形後縁部)、当該第2後縁部24に覆われている第3後縁部26(変形後縁部)、当該第3後縁部26に覆われている第4後縁部28を備えている。つまり、第1後縁部22から第4後縁部28は、各々の後縁部が層状に配設されており、動翼20内において第1後縁部22から第4後縁部28へと順番に前縁側に位置している。
【0028】
第1後縁部22から第3後縁部26は、アルミニウム等の低融点金属や合成樹脂等の動翼20の本体の素材よりも比較的低い温度で溶融する素材で成形されており、各後縁部間は接着されている。第1後縁部22から第3後縁部26の素材は空力加熱との関係に基づいて決定され、第1後縁部22から第3後縁部26へと順に融点が高くなるよう構成される。従って、動翼20は、飛翔体1の速度が遷音速領域から超音速領域にて加速して、空力加熱により動翼20の温度が高くなるのに応じて、第1後縁部から第3後縁部26へと順次溶融することとなり、第1後縁部22から第4後縁部28を後縁とした翼形状に段階的に変形可能である。
【0029】
図4(a)(b)に示すように、変形前の初期状態においては、動翼20の空力中心AC1は翼弦上において前縁からおよそ25%の位置に位置している。また、当該空力中心AC1は回転軸8の軸線AX上に位置しており、動翼制御におけるモータ10の負荷は最小限に抑えられている。各後縁部が溶融して消失する毎に動翼20の翼弦は短縮され、図4(a)(b)において破線で示すように空力中心の位置は、初期状態の空力中心AC1から、第2後縁部24に対応する空力中心AC2、第3後縁部26に対応する空力中心AC3、第4後縁部28に対応する空力中心AC4へと順に前縁側に位置することとなる。
【0030】
このように構成された動翼20は、飛翔体1の速度により空力中心が回転軸8の軸線AXより後縁側に移動するとともに、空力加熱による温度上昇に応じて第1後縁部22から第3後縁部26が溶融することで、動翼4の翼弦を短縮して、空力中心と回転軸8の軸線AXとを近づけることが可能である。
【0031】
ここで、図5を参照すると(a)超音速飛行前半時、(b)超音速飛行中盤時、(c)超音速飛行後半時それぞれの動翼20の状態を示す概略平面図が示されており、当該図5と上記図4とに基づき第二実施形態の作用及び効果について説明する。
飛翔体1の発射直後から遷音速領域に至るまでの亜音速領域では、動翼20は第1後縁部22を後縁とする図4(a)(b)で示した初期状態にあり、空力中心AC1は回転軸8の軸線AX上に位置している。
【0032】
飛翔体1の速度が遷音速領域に入ると、加速するに従って動翼20の空力中心AC1は、図5(a)〜(c)に白抜矢印で示すように、翼弦上において後縁側に移動し、回転軸8の軸心AXから離れる。
また、飛翔体1が遷音速領域から超音速領域で加速すると、空力加熱により動翼20の温度が上昇する。第二実施形態では、例えば空力中心がおよそ5%後退する毎に、第1後縁部22から第3後縁部26へと順に融点に到達するよう各後縁部の素材が選択されているとする。
【0033】
従って、空力中心が動翼20の翼弦上において前縁から30%の位置にまで移動する所定速度に達したとき、第1後縁部22の融点に達することとなり、第1後縁部22が溶融する。そして、図5(a)に示すように、第1後縁部22が消失することで動翼20は、第2後縁部24を後縁とする翼形状に変形し、翼弦が短縮される。当該動翼20は、翼弦が短縮されたことで空力中心が第2後縁部24に対応する空力中心AC2に移動する。変形後の空力中心AC2も超音速飛行により後退しているが、変形前の空力中心AC1より前側に位置していることで回転軸8の軸線AXに近づき、図5(a)のように当該軸線AX上に再び位置させることができる。
【0034】
飛翔体1が加速を続けると、空力中心はさらに後縁側に移動し、同時に空力加熱により動翼20の温度もさらに上昇する。そして、空力中心が動翼20の翼弦上において前縁から35%の位置にまで移動する所定速度に達したとき、第2後縁部24の融点に達することとなり、第2後縁部24が溶融する。そして、図5(b)に示すように、第2後縁部24が消失することで動翼20は、第3後縁部26を後縁とする翼形状に変形し、翼弦が短縮される。当該動翼20は、翼弦が短縮されたことで空力中心が第3後縁部26に対応する空力中心AC3に移動する。変形後の空力中心AC3も超音速飛行により後退しているが、変形前の空力中心AC2より前側に位置していることで、回転軸8の軸線AXに近づき、図5(b)のように当該軸線AX上に再び位置させることができる。
【0035】
さらに飛翔体1が加速を続けると、空力中心はさらに後縁側に移動して、動翼20の翼弦上において前縁から40%の位置にまで移動する所定速度に達したときには、第3後縁部26の融点に達することとなり、第3後縁部26が溶融する。そして、図5(c)に示すように、第3後縁部26が消失することで動翼20は、第4後縁部28を後縁とする翼形状に変形し、翼弦が短縮される。当該動翼20は、翼弦が短縮されたことで空力中心が第4後縁部28に対応する空力中心AC4に移動する。変形後の空力中心AC4も超音速飛行により後退しているが、変形前の空力中心AC3より前側に位置していることで、回転軸8の軸線AXに近づき、図5(c)のように当該軸線AX上に再び位置させることができる。
【0036】
このように、飛翔体1が遷音速領域から超音速領域内を飛行する場合にも、動翼20の空力中心の移動に伴って、翼弦を短縮するように動翼20の後縁を段階的に変形させることで、動翼20の空力中心が回転軸8の軸線AXから大きく離れることを防ぐことができる。これにより、第二実施形態においても第一実施形態と同様の効果を奏することができる。特に第二実施形態における動翼20は、融点の異なる各後縁部が層状に設けられていることで、空力中心の移動に応じて段階的に動翼を変形させることができ、より長い期間空力中心を軸線AX上又は近傍に保持することができる。
【0037】
以上で本発明に係る飛翔体の動翼装置の実施形態についての説明を終えるが、実施形態は上記実施形態に限られるものではない。
まず、上記第一実施形態では、第1後縁部12を分離する分離手段として火工品16を用いているが、分離手段は火工品に限られるものではない。例えば、電動アクチュエータ等を用いて、後縁の一部を動翼から分離する機構を設けてもよい。
【0038】
また、上記第一実施形態の動翼4のように後縁の一部を分離することで動翼4を変形させる方式においても、上記第二実施形態のように変形後縁部を複数設け、段階的に分離させる構成としてもよい。
また、上記実施形態では飛翔体1を後翼操舵のミサイルとしているが、本発明の動翼を前翼に適用した前翼操舵のミサイルとしても構わない。さらに、飛翔体はミサイルに限られず、ロケットや航空機にも本発明を適用可能である。
【0039】
また、上記実施形態の動翼4、20は、テーパ翼であるが翼形状はこれに限られるものではなく、他の翼形状であってもよい。
また、上記実施形態では、動翼4、20の空力中心を最も回転負荷のかからない回転軸8の軸線AX上に保つこととしているが、必ずしも空力中心が当該軸線AX上にある必要はなく、少なくとも動翼の空力中心の移動に応じて、当該空力中心と回転軸の軸線との距離が離れないよう動翼を変形させるものであればよい。
【符号の説明】
【0040】
1 飛翔体
2 胴体
4 動翼
6 駆動機構
8 回転軸
10 モータ(回転駆動手段)
12 第1後縁部(変形後縁部)
14 第2後縁部
16 火工品(分離手段)
20 動翼
22 第1後縁部(変形後縁部)
24 第2後縁部(変形後縁部)
26 第3後縁部(変形後縁部)
28 第4後縁部
図1
図2
図3
図4
図5