(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
車両の燃費性におけるタイヤの要因として、タイヤの転がり抵抗および空気抵抗がある。このうちタイヤの転がり抵抗は、走行時におけるゴムの繰返し変形に伴うエネルギー損失が主原因であり、この転がり抵抗を減じるために、トレッドゴムにエネルギー損失の少ない(tanδが小さい)ゴムを使用することが行われている。
【0003】
しかしエネルギー損失が小さいゴムを使用した場合、転がり抵抗は減じるものの、グリップ性能(特に、ウェットグリップ性能)が低下し、また耐摩耗性も悪化するという問題がある。なお下記の特許文献1、2などに示されるように、耐摩耗性を向上させつつ転がり抵抗を減じたトレッドゴム組成物の研究が進められている。しかしゴム組成物による改善だけでは限界があり、ゴム組成物以外からの低転がり抵抗性へのアプローチが強く望まれている。
【0004】
このような状況に鑑み、本発明者が研究を行った結果、以下のことを究明し得た。タイヤ外径が同一のタイヤにおいてタイヤ断面巾を減じた場合、それに伴いトレッド巾も減少するため、トレッドゴムのゴム量も少なくなる。そのためトレッドゴムによるエネルギー損失量が減じ、かつタイヤの軽量化も図られる。又車両を前面視したとき、バンパー下端から下方に露出するタイヤの露出面積も、タイヤ断面巾とともに減じるため、タイヤの空気抵抗を減じることができる。
【0005】
又、タイヤ外径が同一のタイヤにおいて、ビード径を大きくした場合、走行時の変形が大なサイドウォール領域が狭くなる。その結果、サイドウォール部におけるエネルギー損失量の低減、及びタイヤの軽量化が図られる。
【0006】
従って、タイヤ外径が同一のタイヤにおいて、タイヤ断面巾を減じかつビード径を大きくした巾狭・大ビード径のタイヤにおいては、トレッド部及びサイドウォール部におけるエネルギー損失量の低減、タイヤ質量の低減、及び空気抵抗の低減により、燃費性が大幅に改善されることが判明した。
【0007】
他方、ベルト層が2枚のベルトプライからなるタイヤの場合、ベルトコードの角度(タイヤ赤道に対する角度)が小さいほど、トレッドプロファイルがフラットになってトレッド部の挙動が抑えられる結果、転がり抵抗に有利となると考えられていた。そのため従来においては、ベルトコードの角度は例えば30°程度と小な角度に設定されている。しかし本発明者の研究の結果、ベルトコードの角度を、従来範囲よりもある程度大きく設定した場合、トレッドプロファイルによる悪化よりも、構造による改善代の方が勝り、転がり抵抗のさらに大きな低減効果が発揮されることを究明し得た。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで発明は、巾狭・大ビード径のタイヤにおいて、ベルトコードの角度を従来範囲よりも大きい35°より大かつ55°以下に設定することを基本として、巾狭・大ビード径のタイヤにおける燃費性の改善効果をさらに高めうる空気入りタイヤを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、トレッド部からサイドウォール部をへてビード部のビードコアに至るカーカスと、
該カーカスの半径方向外側かつトレッド部の内部に配され、かつベルトコードがタイヤ赤道に対して互いに逆向きの角度θで傾斜配列された2枚のベルトプライからなるベルト層と、
該ベルト層の半径方向外側かつトレッド部の内部に配され、かつバンドコードがタイヤ周方向に螺旋状に巻回された1枚のバンドプライからなるバンド層とを具えた空気入りタイヤであって、
タイヤ断面巾をWt(単位:mm)、ビード径をDb(単位:インチ)としたとき、前記タイヤ断面巾Wtが次式(1)、(2)を充足するとともに
、
Wt≦ −0.7257×(Db)
2 + 42.763×Db − 339.67 −−−(1)
Wt≧ −0.7257×(Db)
2 + 48.568×Db − 552.33 −−−(2)
前記ベルトコードの角度θを35°〜55°の範囲とし、
しかも前記ベルトコード1本当たりの、伸び0.4%〜1.0%の範囲における引張り剛性をEa、前記第1、第2のベルトプライにおけるベルトコードと直角方向のプライ巾1mm当たりのベルトコードの打ち込み本数をNaとしたとき、前記引っ張り剛性Eaと打ち込み本数Naとの積(Ea×Na)であるベルトプライのプライ剛性は、14000〜20000N/mmであることを特徴としている。
【0011】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記ベルトコードの角度θは、45°〜55°であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、前記バンドコード1本当たりの、伸び3%〜5%の範囲における引張り剛性をEb、前記バンドプライにおけるバンドコードと直角方向のプライ巾1mm当たりのバンドコードの打ち込み本数をNbとしたとき、前記引っ張り剛性Ebと打ち込み本数Nbとの積(Eb×Nb)であるバンドプライのプライ剛性は、1600〜2500N/mmであることが好ましい。
【0014】
本発明に係る前記空気入りタイヤでは、タイヤ外径Dt(単位:mm)は、次式(4)、(5)を充足することが好ましい。
Dt≦ 59.078×Wt
0.498 −−−(4)
Dt≧ 59.078×Wt
0.467 −−−(5)
【0015】
本明細書では、特に断りがない限り、タイヤの各部の寸法は、非リム組状態において、タイヤサイズで規定されるリム巾に合わせてビード部を保持したときに特定される値とする。又本明細書では、T1以上かつT2以下の範囲の場合、T1〜T2と表記する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の空気入りタイヤは、叙上の如く、タイヤ断面巾Wtが前式(1)、(2)を充足する巾狭・大ビード径のタイヤとして形成される。そのため、トレッド部及びサイドウォール部におけるエネルギー損失量の低減、タイヤ質量の低減、及び空気抵抗の低減を達成でき、燃費性を改善させることが可能となる。
【0017】
しかも前記空気入りタイヤでは、ベルトコードの角度θを、35°〜55°の範囲に設定している。これにより「発明を実施するための形態」の欄で説明する如く、トレッド部に設けるラグ溝の溝底における亀裂損傷TGC(Tread Groove Cracking)を抑えながら、転がり抵抗をいっそう向上させることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の空気入りタイヤ1は、トレッド部2からサイドウォール部3をへてビード部4のビードコア5に至るカーカス6と、前記カーカス6の半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されベルト層7と、前記ベルト層7の半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されるバンド層9とを具える。本例では、前記空気入りタイヤ1が、乗用車用のラジアルタイヤである場合が示される。
【0021】
前記空気入りタイヤ1は、タイヤ断面巾をWt(単位:mm)、ビード径をDb(単位:インチ)としたとき、前記タイヤ断面巾Wtが、次式(1)、(2)を充足する巾狭・大ビード径のタイヤとして形成される。
Wt≦ −0.7257×(Db)
2 + 42.763×Db − 339.67 −−−(1)
Wt≧ −0.7257×(Db)
2 + 48.568×Db − 552.33 −−−(2)
【0022】
図2は、JATM表示の従来タイヤに対して実施された、タイヤ断面巾Wtとビード径Dbとの関係の調査結果をプロットしたグラフである。この調査結果から、JATM表示の従来タイヤにおけるタイヤ断面巾Wtとビード径Dbとの平均的な関係は、同図に一点鎖線Kaで示されるように、次式(A)で示すことができる。
Wt=−0.7257×(Db)
2 + 39.134×Db − 217.30 −−−(A)
【0023】
これに対して、前記式(1)、(2)を充足する領域Y1は、プロットで示される従来タイヤの範囲外で、しかも前記式(A)で示す平均的な関係Kaを、タイヤ断面巾Wtが小な方向、かつビード径Dbが大な方向に平行移動した位置に配されている。即ち、前記式(1)、(2)を充足するタイヤは、タイヤ外径が同一の従来タイヤに比して、タイヤ断面巾Wtを減じかつビード径Dbを大きくした巾狭・大ビード径のタイヤである。
【0024】
このようなタイヤは、タイヤ断面巾が狭いことにより、トレッド巾も減少し、それに伴いトレッドゴムのゴム量も減少する。そのためトレッドゴムによるエネルギー損失量が相対的に少なくなり、かつタイヤ質量も減少する。又車両を前面視したとき、バンパー下端から下方に露出するタイヤの露出面積も、タイヤ断面巾とともに減じるため、走行時のタイヤの空気抵抗を小さくすることができる。
【0025】
またタイヤ外径が同一の従来タイヤに比して、ビード径が大きいため、走行時の変形が大きいサイドウォール領域が狭くなる。その結果、サイドウォール部3におけるエネルギー損失量が少なくなり、かつタイヤ質量も減少する。
【0026】
従って、巾狭・大ビード径のタイヤでは、トレッド部2及びサイドウォール部3におけるエネルギー損失量の低減、タイヤ質量の低減、及び空気抵抗の低減により、タイヤの燃費性能を改善することができる。
【0027】
なおタイヤ断面巾Wtが、前記式(2)から外れる場合、巾狭・大ビード径化が過小となって燃費性能の改善効果が不十分となる。逆に前記式(1)から外れる場合、巾狭となりすぎるため、必要な負荷能力を確保するために使用内圧を高く設定する必要が生じる。そのため、乗り心地性能やロードノイズ性能に悪影響を与える。
【0028】
また燃費性能のさらなる向上のために、前記空気入りタイヤ1では、タイヤ外径Dt(単位:mm)が、次式(4)、(5)を充足することが好ましい。
Dt≦ 59.078×Wt
0.498 −−−(4)
Dt≧ 59.078×Wt
0.467 −−−(5)
【0029】
図3は、JATM表示の従来タイヤに対して実施された、タイヤ断面巾Wtとタイヤ外径Dtとの関係の調査結果をプロットしたグラフである。この調査結果から、JATM表示の従来タイヤにおけるタイヤ断面巾Wtとタイヤ外径Dtとの平均的な関係は、同図に一点鎖線Kbで示されるように、次式(B)で示すことができる。
Dt= 59.078×Wt
0.448 −−−(B)
【0030】
これに対して、前記式(4)、(5)を充足する領域Y2は、前記式(B)で示す平均的な関係Kbを、タイヤ外径Dtが大な方向に平行移動した位置に配される。即ち、前記式(4)、(5)をさらに充足するタイヤは、巾狭・大ビード径かつタイヤ外径Dtが大なタイヤでる。
【0031】
タイヤ外径Dtが相対的に大なタイヤT1は、
図4に概念的に示すように、タイヤ外径Dtが小なタイヤT2に比して接地部での周方向の曲げ変形が少ない。そのため、エネルギー損失量が小さく、転がり抵抗の低減に効果がある。なお前記式(5)から外れる場合、タイヤ大径化による前記転がり抵抗の低減が見込めなくなる。逆に前記式(4)から外れる場合、必要な負荷能力を確保するために使用内圧を高く設定する必要が生じ、そのため、乗り心地性能やロードノイズ性能に悪影響を与える。
【0032】
転がり抵抗の観点からは、タイヤ扁平率は55%〜70%の範囲が好ましい。もしタイヤ扁平率が55%を下回ると、トレッド巾が広くなり、それに伴いトレッドゴムなどのトレッド部材も増加するため、エネルギー損失量の増加傾向を招く。逆にタイヤ扁平率が70%を越える場合にも、サイドウォール部材の割合が増し、それによってエネルギー損失量の増加傾向を招く。
【0033】
本例の空気入りタイヤ1のロードインデックスLIは、基準タイヤのロードインデックスLI
0に対して、+3〜−10の範囲に設定される。前記基準タイヤのタイヤ巾Wt
0は、タイヤ扁平率Hを用いて次式(6)で計算される値Wに最も近い呼び幅として定義される。
W=0.0098×H
2−2.9758×H+343.69 −−−(6)
又基準タイヤのリム径Dr
0は、タイヤ扁平率H(単位:%)を用いて次式(7)で計算される値Drに最も近い整数として定義される。
Dr=0.002×H
2−0.3547×H+29.783 −−−(7)
【0034】
例えば、タイヤ扁平率Hが60%の場合、式(6)から
W=0.0098×60
2−2.9758×60+343.69 = 203
であり、従って、タイヤ巾Wt
0は、203に最も近い呼び幅である205として定義される。
又式(7)から、
Dr=0.002×60
2−0.3547×60+29.783 = 15.7
であり、従って、リム径Dr
0は、15.7に最も近い整数である16として定義される。即ち、基準タイヤのタイヤサイズは、203/60R16となる。
【0035】
前記基準タイヤのロードインデックスLI
0は、TATMAが規定するタイヤサイズに記載されたロードインデックスであって、複数のロードインデックスLI
0がある場合、そのうちの最も低い値を採用する。
【0036】
次に、
図1に示すように、空気入りタイヤ1の前記カーカス6は、カーカスコードをタイヤ赤道Coに対して例えば75゜〜90゜の角度で配列した1枚以上、本例では1枚のカーカスプライ6Aから形成される。このカーカスプライ6Aは、前記ビードコア5、5間に跨るトロイド状のプライ本体部6aの両端に、前記ビードコア5の廻りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返されるプライ折返し部6bを有する。プライ本体部6aとプライ折返し部6bとの間には、前記ビードコア5からタイヤ半径方向外側に先細状にのびるビード補強用のビードエーペックスゴム8が配置されている。
【0037】
前記ベルト層7は、
図5に示すように、ベルトコード7cをタイヤ赤道Coに対して互いに逆向きに傾斜配列した2枚のベルトプライ7A、7Bから形成される。即ち、ベルト層7は、ベルトコードがプライ間相互で交差するバイアス構造をなし、トレッド部2のほぼ全巾を強固に補強する。そして前記ベルトコード7cのタイヤ赤道Coに対する角度θは、35°〜55°と、従来よりも大きい角度に設定される。
【0038】
図6(A)には、ベルトコード7cの角度θと、ベルト層7の剪断剛性との関係が示される。又
図6(B)には、ベルトコード7cの角度θと、ベルト層7のポアソン比との関係が示される。
【0039】
トレッド部2では、ベルト層7の剪断剛性が大きいことにより、転動時の変形量が抑えられる。従って、転がり抵抗の観点からは、ベルト層7の剪断剛性がより大きいことが好ましい。又前記ポアソン比とは、ベルト層7をタイヤ周方向に引っ張った際の、タイヤ周方向の変形量とタイヤ軸方向(巾方向)の変形量との比を意味する。タイヤでは接地時、ベルト層7がタイヤ周方向に引っ張られる。このとき、ポアソン比が大きい場合、トレッド部2におけるタイヤ軸方向の挙動が大きくなり、エネルギー損失量の増加を招く。従って、転がり抵抗の観点から、ポアソン比がより小さいことが好ましい。
【0040】
前記
図6(A)から、剪断剛性は、θ=45°で最大値をなし、又35〜55°の範囲では最大値に近い高い剪断剛性を示している。これに対してポアソン比は、θ≒15°で最大値をなし、かつ最大値からはθの増加とともにポアソン比は減少している。特に20〜35°の間では傾斜は急勾配であり、35°からしだいに緩傾斜となっていく。このように35°〜55°の範囲は、剪断剛性が大、かつポアソン比が小な領域であって、転がり抵抗の低減効果を発揮することができる。
【0041】
なお前記35°〜55°の範囲うちで、35〜40°の範囲は、剪断剛性に対しては、50〜55°の範囲と同程度に大きいが、ポアソン比も相対的に大きくなる。そのためトレッド部2のタイヤ軸方向の挙動がやや大きく、転がり抵抗の低減効果は相対的に低くなる。従って、35°〜55°の範囲うちで、ポアソン比がより小さくなる40°よりも大の範囲、特に45°以上の範囲がより好ましい。なお角度θが55°を越える場合には、ポアソン比が小さいとはいえ、剪断剛性自体が過度に減少するため、転がり抵抗の低減効果は十分発揮されなくなる。しかも剪断剛性の減少により、トレッド部2の半径方向外側へのせり出しが大きくなるため、トレッド部2にラグ溝が形成されている場合、その溝底にクラックなどの亀裂損傷を発生させる傾向となる。
【0042】
前記角度θの転がり抵抗への影響を検証するため、
図1の構造を有しかつベルトコードの角度θのみを違えた乗用車用タイヤ(タイヤサイズ165/65R19)を試作した。試作タイヤは角度θが24°と45°との2種類である。そしてリム(5J×19)、内圧(310kPa)、縦荷重(4.8kN)の条件にて、タイヤを−180°〜180°回転させた時の、タイヤ赤道Coの位置におけるトレッドゴムのタイヤ軸方向の歪み、及びベルト層7のタイヤ軸方向の歪みを有限要素法により計算し、その結果を
図7(A)、(B)に示した。なお接地トレッドゴムの歪みの計算位置は、トレッドゴムの厚さ中央であり、ベルト層7の歪みの計算位置は、ベルトプライ7A、7B間の位置である。同様にタイヤを−180°〜180°回転させた時の、トレッドショルダでの位置P(
図1に示す)におけるトレッドゴムのタイヤ軸方向の歪み、及びベルト層7のタイヤ軸方向の歪みを測定し、その結果を
図8(A)、(B)に示した。
【0043】
同図に示されるように、タイヤ赤道及びトレッドショルダの何れの位置においても、θ=45°のタイヤの方が、θ=24°のタイヤに比してタイヤ軸方向の歪みの振幅が小さく、エネルギー損失量が少ないことが確認できる。
【0044】
次に、前記空気入りタイヤ1では、ベルトプライ7A、7Bにおけるプライ剛性(以下「ベルトプライ剛性」と言う場合がある。)が14000〜20000N/mmの範囲であることが好ましく、又バンドプライ9Aにおけるプライ剛性(以下「バンドプライ剛性」と言う場合がある。)が1600〜2500N/mmの範囲であるのが好ましい。
【0045】
前記ベルトプライ剛性とは、ベルトコード1本当たりの引張り剛性Eaと、ベルトコードと直角方向のベルトプライのプライ巾1mm当たりのベルトコードの打ち込み本数Naとの積(Ea×Na)で定義される。又前記引張り剛性Eaは、コードの伸び0.4%〜1.0%の範囲における引張り剛性であって、
図9に例示されるように、コードの「伸び−荷重曲線」における、伸び0.4%と1.0%との間の傾きから、伸び量1%当たりの荷重として求められる。又、前記バンドプライ剛性とは、バンドコード1本当たりの引張り剛性Ebと、バンドコードと直角方向のバンドプライのプライ巾1mm当たりのバンドコードの打ち込み本数Nbとの積(Eb×Nb)で定義される。又前記引張り剛性Ebは、コードの伸び3%〜5%の範囲における引張り剛性であって、コードの「伸び−荷重曲線」における、伸び3%と5%との間の傾きから、伸び量1%当たりの荷重として求められる。
【0046】
従来においては、ベルトプライ剛性が大きい程、トレッド部2の変形が少なく転がり抵抗が低減すると考えられていた。しかし本発明者の研究の結果、ベルトプライ剛性が従来よりも小さい範囲において、転がり抵抗の低減効果が現れることが判明した。
【0047】
その原因として下記のように推測される。タイヤ走行時に、ベルト層7が周方向に曲げられ、ベルトコードの長さ方向に力が発生し、ベルト層に剪断変形が発生する。このとき、ベルトプライ剛性が小さい場合、ベルト層7の剪断変形も小さくなり、ベルト層7上のトレッドゴムの挙動が減少するためと推測される。
【0048】
しかしベルトプライ剛性が小さい場合、タイヤのインフレートによって、トレッド部2の半径方向外側へのせり出しが大きくなり、ラグ溝溝底に亀裂損傷を発生される懸念が生じる。しかしながら本発明では、ベルトコードの角度θが35°以上に設定されているため、トレッド部2におけるタイヤ軸方向の挙動が、従来よりも減じられる。そのため、ラグ溝溝底での歪みが軽減され、亀裂損傷が抑制される。即ち、ベルトコードの角度θが35°以上に設定されることで、ベルトプライ剛性を従来よりも低くすることが可能となり、前記角度θによる転がり抵抗の低減効果と前記ベルトプライ剛性による転がり抵抗の低減効果とを発動させることができる。
【0049】
なおベルトプライ剛性が21000N/mmを越えると、転がり抵抗の低減効果が有効に発揮されなくなる。逆に15000N/mmを下回ると、転がり抵抗には好ましいものの、ラグ溝溝底での亀裂損傷を抑制することが難しくなる。
【0050】
次に、トレッド部2が接地領域に入る時、トレッド部2が周方向に曲げられることにより、バンド層9は引っ張り側へ、又ベルト層7は圧縮側へ変形する。従って、バンドプライ剛性が大きい場合、よりベルト層7に力が作用し易くなる。そのためベルト層7のトッピングゴムの変形が大きなって、エネルギー損失量が増加する。一方、バンド層9自身の変形は、バンドプライ剛性が大きくなるので抑えられ、その上に配されるトレッドゴムのエネルギー損失量は低減する。即ち、バンドプライ剛性が大きくなると、ベルト層7のトッピングのエネルギー損失量は増加するが、トレッドゴムのエネルギー損失量は逆に低減する。
【0051】
即ち、バンドプライ剛性には、トレッドゴムのエネルギー損失量とトッピングのエネルギー損失量との総和を減少させるための適正な範囲が存在することになる。そして、バンドプライ剛性が1600〜2500N/mmの範囲から外れると、エネルギー損失量の総和が大となって転がり抵抗に不利となる。しかもバンドプライ剛性が1600N/mmを下回る場合には、タガ効果が不十分となって、ラグ溝溝底での亀裂損傷に不利を招く。
【0052】
図10は、異なるバンドプライ剛性B1〜B5を有する5種類のバンド層と、異なるベルトプライ剛性A1〜A3有する3種類のベルト層とを組み合わせたタイヤにおける、トレッドゴム、及びトッピングゴム(ベルト層及びバンド層のトッピングゴム)のエネルギー損失量をシュミレーションによって求めた計算結果である。図中のバンドプライ剛性B1〜B5の値、及びベルトプライ剛性A1〜A3の値、トレッドゴムのエネルギー損失量の値、トッピングゴムのエネルギー損失量の値は、それぞれ指数で示されている。
【0053】
同図に示されるように、バンドプライ剛性Bが増加するに従い、トレッドゴムのエネルギー損失量は減少するが、トッピングゴムのエネルギー損失量は逆に増加するのが確認できる。又ベルトプライ剛性Aにおいては、ベルトプライ剛性Aの増加とともに、トレッドゴムのエネルギー損失量、及びトッピングゴムのエネルギー損失量の双方が増加するのが確認できる。
【0054】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例】
【0055】
(1)
図1に示す内部構造を有する空気入りタイヤを、表1の仕様で試作するとともに、各試供タイヤにおける、転がり抵抗性、空気抵抗、乗り心地性能をテストした。各タイヤとも、ベルトコードの角度θ=41°、ベルトプライ剛性Ea/Na=24275N/mm、バンドプライ剛性Eb/Nb=827N/mmで同一であり、タイヤ断面巾Wt、ビード径Db、タイヤ外径Dtのみ相違している。
【0056】
<転がり抵抗性>
転がり抵抗試験機を用い、下記の条件にて、タイヤの転がり抵抗(単位N)を測定し、その逆数を比較例1を100とする指数で示している。数値が大なほど転がり抵抗が少なく良好である。
温度:20℃、
荷重:4.8kN
内圧:表1に記載
リム:正規リム
速度:80km/h
【0057】
<空気抵抗>
実験室にて、バンパー下端からの露出高さを140mmとし、走行速度100km/hに相当する空気をタイヤの露出面に送風し、そのときタイヤが受ける空気力を測定した。評価は、測定値の逆数を、比較例1を100とする指数で示し、数値が大なほど空気抵抗が小さく良好である。
【0058】
<乗り心地性能>
試供タイヤの縦バネ定数を測定し、その逆数を比較例1を100とする指数で示した。数値が大なほど、乗り心地性能に優れている。
【0059】
【表1】
【0060】
(2)
実施例2(165/65R19)を標準タイヤ(実施例3A)とし、ベルトコードの角度θ、ベルトプライ剛性Ea/Na、バンドプライ剛性Eb/Nbのみを表2の仕様で変化させたタイヤを試作し、そのときの転がり抵抗と、ラブ溝溝底での亀裂損傷性(TGC)とをテストした。
【0061】
<TGC>
トレッド部に配される周方向溝とラグ溝の溝底に、厚さ0.25mm のかみそりの刃で、深さ2mm、長さ8mm のカット傷を入れ、その口開き形状を型取りして計測する。又前記タイヤをリム(5.0J×19)、内圧(310kPa)、荷重(4.8kN)にてドラム上を10000km走行させ、型取りした走行前のカット傷の寸法と、走行後のカット傷の寸法とを比較し、増加量の逆数を、標準タイヤを100とする指数で示した。数値が大なほど耐亀裂損傷性に優れている。
【0062】
【表2】
【0063】
表に示すように、実施例のタイヤは、燃費性(転がり抵抗及び空気抵抗)が改善されているのが確認できる。