特許第6196502号(P6196502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シスメックス株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6196502-検体分析方法および検体分析装置 図000002
  • 特許6196502-検体分析方法および検体分析装置 図000003
  • 特許6196502-検体分析方法および検体分析装置 図000004
  • 特許6196502-検体分析方法および検体分析装置 図000005
  • 特許6196502-検体分析方法および検体分析装置 図000006
  • 特許6196502-検体分析方法および検体分析装置 図000007
  • 特許6196502-検体分析方法および検体分析装置 図000008
  • 特許6196502-検体分析方法および検体分析装置 図000009
  • 特許6196502-検体分析方法および検体分析装置 図000010
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196502
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】検体分析方法および検体分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/21 20060101AFI20170904BHJP
   G01N 33/493 20060101ALI20170904BHJP
   G01N 21/49 20060101ALI20170904BHJP
   G01N 15/14 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   G01N21/21 Z
   G01N33/493 B
   G01N21/49 A
   G01N15/14 C
【請求項の数】13
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-178938(P2013-178938)
(22)【出願日】2013年8月30日
(65)【公開番号】特開2015-49066(P2015-49066A)
(43)【公開日】2015年3月16日
【審査請求日】2016年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111383
【弁理士】
【氏名又は名称】芝野 正雅
(72)【発明者】
【氏名】坂本 光優
(72)【発明者】
【氏名】小篠 正継
【審査官】 佐々木 龍
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−017555(JP,A)
【文献】 特開昭63−113345(JP,A)
【文献】 特表平06−505099(JP,A)
【文献】 特開平10−185803(JP,A)
【文献】 特開2011−095181(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0275064(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/61
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と試薬とを混合して調製された測定試料をフローセルに流し、
フローセルを流れる測定試料に対して直線偏光の光を照射し、
測定試料中の粒子が照射されることにより生じる散乱光を検出し、
粒子から検出された散乱光の偏光状態の変化を反映する第1パラメータを取得し、
前記第1パラメータに基づいて、測定試料に含まれる上皮細胞を少なくとも2種類の上皮細胞に分類する、
ことを特徴とする検体分析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の検体分析方法において、
前記散乱光の検出では、測定試料に照射される照射光が測定試料中の粒子によって散乱した散乱光であって、前記照射光とは異なる偏光状態の散乱光が検出される、
ことを特徴とする検体分析方法。
【請求項3】
請求項2に記載の検体分析方法において、
前記照射光の偏光方向は、前記照射光の照射位置における前記測定試料の流れ方向に平行となっており、
前記散乱光の検出は、前記流れ方向に垂直な偏光成分の光を検出することである、
ことを特徴とする検体分析方法。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の検体分析方法において、
前記散乱光の検出は、測定試料中の粒子から発せられ、測定試料に照射される照射光の偏光方向とは異なる偏光方向の光を透過する偏光フィルタを介して行われることを含む、
ことを特徴とする検体分析方法。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項に記載の検体分析方法において、
測定試料中の粒子が照射されることにより生じる散乱光から、各粒子の大きさを反映する第2パラメータをさらに取得し、
上皮細胞の分類は、前記第1および第2パラメータに基づいて行われる、
ことを特徴とする検体分析方法。
【請求項6】
請求項1ないし5の何れか一項に記載の検体分析方法において、
前記検体は尿検体であり、
上皮細胞は、少なくとも、扁平上皮細胞と尿細管上皮細胞に分類される、
ことを特徴とする検体分析方法。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れか一項に記載の検体分析方法において、
前記検体は尿検体であり、
上皮細胞は、扁平上皮細胞と、尿細管上皮細胞と、卵円形脂肪体とに分類される、
ことを特徴とする検体分析方法。
【請求項8】
検体と試薬とを混合して測定試料を調製する試料調製部と、
前記試料調製部によって調製された測定試料が流れるフローセルと、
前記フローセルを流れる測定試料に直線偏光の光を照射する照射ユニットと、
測定試料中の粒子が照射されることにより生じる散乱光であって、前記測定試料に照射される照射光とは異なる偏光状態の散乱光を検出する検出部と、
前記検出部による検出結果から、各粒子から検出された散乱光の偏光状態の変化を反映する第1パラメータを取得し、当該第1パラメータに基づいて、測定試料に含まれる上皮細胞を少なくとも2種類の上皮細胞に分類する解析部と、を備える、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項9】
請求項8に記載の検体分析装置において、
前記照射光の偏光方向は、前記照射光の照射位置における前記測定試料の流れ方向に平行となっており、
前記検出部は、前記流れ方向に垂直な偏光成分の散乱光を検出する、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載の検体分析装置において、
前記検出部は、測定試料中の粒子から発せられ、前記照射光の偏光方向とは異なる偏光方向の光を透過する偏光フィルタを介して前記散乱光を検出する、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項11】
請求項8ないし10の何れか一項に記載の検体分析装置において、
測定試料中の粒子が照射されることにより生じる散乱光を検出する他の検出部をさらに備え、
前記解析部は、前記他の検出部による検出結果から、各粒子の大きさを反映する第2パラメータをさらに取得し、前記第1パラメータおよび当該第2パラメータに基づいて、上皮細胞の分類を行う、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項12】
請求項8ないし11の何れか一項に記載の検体分析装置において、
前記検体は尿検体であり、
前記解析部は、上皮細胞を、少なくとも、扁平上皮細胞と尿細管上皮細胞に分類する、
ことを特徴とする検体分析装置。
【請求項13】
請求項8ないし12の何れか一項に記載の検体分析装置において、
前記検体は尿検体であり、
前記解析部は、上皮細胞を、扁平上皮細胞と、尿細管上皮細胞と、卵円形脂肪体とに分類する、
ことを特徴とする検体分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体から調製された測定試料に光を照射して光学情報を取得し、取得した光学情報に基づいて検体の分析を行う検体分析方法および検体分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、フローサイトメータによって尿検体に含まれる粒子を検出する技術が知られている。たとえば、特許文献1には、フローサイトメータによって試料中の粒子から前方散乱光および蛍光を検出し、いくつかのパラメータを組み合わせることで、尿中の上皮細胞を表層型扁平上皮細胞と、表層型扁平上皮細胞以外の上皮細胞の2つの集団に分類する技術が開示されている。
【0003】
上記特許文献によれば、表層型扁平上皮細胞以外の上皮細胞は、炎症や疾患などの場合にのみ出現し、健常人の尿試料中にはほとんど見られない細胞である。一方、表層型扁平上皮細胞は、健常人の尿試料中にも多数みられる細胞である。
【0004】
そこで、上記特許文献では、表層型扁平上皮細胞以外の上皮細胞が、全上皮細胞に占める割合を算出することで、その尿試料が採取された被検者の炎症や疾患などの有無を推定し得るパラメータが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−17555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
炎症や疾患が疑わしい尿試料については、排尿器官のどこに異常があるか、どのような疾患が疑われるかを診断するに際して、詳細な情報が必要になる場合がある。上皮細胞には、扁平上皮細胞、尿細管上皮細胞、卵円形脂肪体などの由来の異なるいくつかの種類があり、尿試料に含まれる上皮細胞がいずれの種類であるかを特定することができれば、炎症・疾患部位を特定するのに役立てることができる。
【0007】
上記特許文献に記載の技術は、上記のように、多数の尿試料から炎症や疾患が疑われる尿試料をスクリーニングするのに有用な情報を提供するものの、炎症や疾患が疑われる尿試料に対して、炎症・疾患部位の特定に役立つ上皮細胞の情報までをも提供するものではなかった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、検体中の上皮細胞の種類の特定に有用な情報を得ることができる検体分析方法および検体分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の態様は、検体分析方法に関する。この態様に係る検体分析方法は、検体と試薬とを混合して調製された測定試料をフローセルに流し、フローセルを流れる測定試料に対して直線偏光の光を照射し、測定試料中の粒子が照射されることにより生じる散乱光を検出し、粒子から検出された散乱光の偏光状態の変化を反映する第1パラメータを取得し、前記第1パラメータの相違に基づいて、測定試料に含まれる上皮細胞を少なくとも2種類の上皮細胞に分類する。
【0010】
一般に、複数の種類の上皮細胞は、それぞれ、種類に応じて偏光特性の異なる固有の成分を含有する。そして、上皮細胞に光が照射されると、これにより生じる光の偏光方向は、この上皮細胞に含まれる成分の旋光性に応じて、粒子に照射される前の光の偏光方向から変化する。よって、本態様に係る検体分析方法によれば、粒子が照射されることにより生じる光から、各粒子に基づく偏光状態を反映する第1パラメータを取得すると、第1パラメータの相違に基づいて、測定試料に含まれる上皮細胞の種類の特定に有用な情報を得ることができる。この情報は、炎症・疾患部位の特定にも役立つ。
【0011】
本態様に係る検体分析方法において、前記散乱光の検出では、測定試料に照射される照射光が測定試料中の粒子によって散乱した散乱光であって、前記照射光とは異なる偏光状態の散乱光が検出される。
【0012】
この場合、前記照射光の偏光方向は、前記照射光の照射位置における前記測定試料の流れ方向に平行となるよう設定され、前記散乱光の検出は、前記流れ方向に垂直な偏光成分の光を検出するようにして行われ得る。このように、照射光の偏光方向を、照射光の照射位置における測定試料の流れ方向に平行とすると、測定試料中の粒子から生じる散乱光と蛍光とを、同一方向において受光し易くすることができる。これにより、散乱光と蛍光を検出するための光学系を簡素にすることができる。なお、この場合、流れ方向に垂直な偏光成分の光を検出することにより、各粒子に基づく偏光状態を反映する第1パラメータを効率的に取得することができる。
【0013】
本態様に係る検体分析方法において、前記散乱光の検出は、測定試料中の粒子から発せられ、測定試料に照射される照射光の偏光方向とは異なる偏光方向の光を透過する偏光フィルタを介して行われることを含み得る。これにより、粒子が含有する成分の旋光性に応じて変化した偏光方向の散乱光を検出することができる。
【0014】
また、本態様に係る検体分析方法は、測定試料中の粒子が照射されることにより生じる散乱光から、各粒子の大きさを反映する第2パラメータをさらに取得し、上皮細胞の解析は、前記第1および第2パラメータに基づいて行われるよう構成され得る
【0015】
また、本態様に係る検体分析方法において、検体として好ましくは尿検体を採用することができ、上皮細胞は、少なくとも、扁平上皮細胞と尿細管上皮細胞に分類される。扁平上皮細胞は、外尿道口付近の粘膜に由来する細胞であり、また、尿細管上皮細胞は、近位尿細管からヘンレの係蹄、遠位尿細管、集合管、腎乳頭までの内腔を覆う上皮に由来する細胞である。したがって、上皮細胞を扁平上皮細胞と尿細管上皮細胞に分類することにより、炎症・疾患部位の特定に役立つ情報を提供することができる。
【0016】
また、本態様に係る検体分析方法において、検体として好ましくは尿検体を採用することができ、上皮細胞は、扁平上皮細胞と、尿細管上皮細胞と、卵円形脂肪体とに分類される。卵円形脂肪体は、尿細管上皮細胞由来の脂肪顆粒細胞であり、ネフローゼ症候群との関連性があると言われており、さらに最近の研究では、他の疾患や病変の関連性も指摘されている。したがって、上皮細胞を卵円形脂肪体に分類することにより、これら病状の把握に役立つ情報を提供することができる。
【0017】
本発明の第2の態様は、検体分析装置に関する。この態様に係る検体分析装置は、検体と試薬とを混合して測定試料を調製する試料調製部と、前記試料調製部によって調製された測定試料が流れるフローセルと、前記フローセルを流れる測定試料に直線偏光の光を照射する照射ユニットと、測定試料中の粒子が照射されることにより生じる散乱光であって、前記測定試料に照射される照射光とは異なる偏光状態の散乱光を検出する検出部と、前記検出部による検出結果から、各粒子から検出された散乱光の偏光状態の変化を反映する第1パラメータを取得し、当該第1パラメータに基づいて、測定試料に含まれる上皮細胞を少なくとも2種類の上皮細胞に分類する解析部と、を備える。
【0018】
本態様に係る検体分析装置によれば、上記第1の態様と同様の効果が奏され得る。
【0020】
本態様に係る検体分析装置において、前記照射光の偏光方向は、前記照射光の照射位置における前記測定試料の流れ方向に平行となっており、前記検出部は、前記流れ方向に垂直な偏光成分の散乱光を検出する構成とされ得る。
【0021】
本態様に係る検体分析装置において、前記検出部は、測定試料中の粒子から発せられ、前記照射光の偏光方向とは異なる偏光方向の光を透過する偏光フィルタを介して前記散乱光を検出する構成とされ得る。
【0022】
また、本態様に係る検体分析装置は、測定試料中の粒子が照射されることにより生じる散乱光を検出する他の検出部をさらに備える構成とされ得る。ここで、前記解析部は、前記他の検出部による検出結果から、各粒子の大きさを反映する第2パラメータをさらに取得し、前記第1パラメータおよび当該第2パラメータに基づいて、上皮細胞の分類を行う構成とされ得る。
【0023】
また、本態様に係る検体分析装置において、測定対象の検体は、たとえば、尿検体とされ、前記解析部は、上皮細胞を、少なくとも、扁平上皮細胞と尿細管上皮細胞に分類する構成とされ得る。
【0024】
また、本態様に係る検体分析装置において、測定対象の検体は、たとえば、尿検体とされ、前記解析部は、上皮細胞を、扁平上皮細胞と、尿細管上皮細胞と、卵円形脂肪体とに分類する構成とされ得る。
【発明の効果】
【0025】
以上のとおり、本発明によれば、検体中の上皮細胞の種類の特定に有用な情報を得ることができる検体分析方法および検体分析装置を提供することができる。
【0026】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下に示す実施の形態は、あくまでも、本発明を実施化する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施の形態により何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施の形態に係る尿検体分析装置の外観の構成を示す図である。
図2】実施の形態に係る測定装置の構成を示す図である。
図3】実施の形態に係る光学検出部の構成を示す模式図である。
図4】実施の形態に係る特徴パラメータについて説明する図である。
図5】実施の形態に係る情報処理装置の構成を示す図である。
図6】実施の形態に係る測定装置と情報処理装置の処理を示すフローチャートである。
図7】実施の形態に係る第1スキャッタグラムおよび第1スキャッタグラムに設定される領域、ならびに、第2スキャッタグラムおよび第2スキャッタグラムに設定される領域を示す図である。
図8】実際の尿検体に対して、顕微鏡を使用した目視による計数結果、ならびに、実施の形態に係る計数結果および第2スキャッタグラムにおける分画を行った結果を示す図である。
図9】変更例に係る表示部に表示される画面および第2スキャッタグラムに設定される領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本実施の形態は、血球、細菌、円柱、上皮細胞などの粒子を含む尿検体を分析する尿検体分析装置に本発明を適用したものである。測定対象となる尿検体は、排泄された尿の他に、原尿、尿管中の尿、膀胱内の尿、尿道中の尿など、生体内から採取した尿を含むものである。
【0029】
以下、本実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0030】
図1は、尿検体分析装置1の外観の構成を示す図である。
【0031】
尿検体分析装置1は、尿検体に含まれる粒子をフローサイトメータにより光学的に測定する測定装置2と、測定装置2から出力された後述の測定データを処理する情報処理装置3とを備えている。測定装置2の前方には搬送部2aが設けられており、搬送部2aによって、尿検体が収容された容器Tを複数保持するラックRが搬送される。情報処理装置3は、本体30と、分析結果等が表示される表示部31と、オペレータの指示を受け付ける入力部32を備えている。
【0032】
図2は、測定装置2の構成を示す図である。
【0033】
測定装置2は、検体分配部21と、試料調製部22と、光学検出部23と、信号処理回路24と、CPU25と、メモリ26と、通信インターフェース27とを有する。信号処理回路24は、アナログ信号処理回路241と、A/Dコンバータ242と、デジタル信号処理回路243と、メモリ244とを有する。
【0034】
検体分配部21は、搬送部2aによって搬送された容器Tから所定量の尿検体を吸引し、試料調製部22に供給する。試料調製部22は、混合容器とポンプ(図示せず)を備えている。また、試料調製部22には、容器221、222が、チューブを介して接続されている。容器221には、核酸を特異的に染色するインターカレータを含有する試薬が収容されており、容器222には、希釈液が収容されている。混合容器では、検体分配部21から供給された検体に対して、容器221、222から供給される試薬と希釈液が混合され、測定試料の調製が行われる。混合容器で調製された測定試料は、ポンプにより、シース液と共に光学検出部23のフローセル205(図3参照)に供給される。
【0035】
図3は、光学検出部23の構成を示す模式図である。
【0036】
光学検出部23は、半導体レーザ201と、コリメータレンズ202と、シリンドリカルレンズ203と、コンデンサレンズ204と、フローセル205と、集光レンズ206と、ビームストッパ207と、ピンホール208と、フォトダイオード209と、集光レンズ210と、ダイクロイックミラー211と、ハーフミラー212と、フォトマルチプライヤ213と、偏光フィルタ214と、フォトマルチプライヤ215と、分光フィルタ216と、フォトマルチプライヤ217を備えている。
【0037】
半導体レーザ201は、波長488nm程度のレーザ光をX軸正方向に出射する。半導
体レーザ201から出射されるレーザ光は、直線偏光となっている。半導体レーザ201は、直線偏光の偏光方向が、フローセル205上のレーザ光の照射位置における測定試料の流れ方向(Z軸方向)に平行となるよう、測定装置2内に設置されている。すなわち、半導体レーザ201から出射されるレーザ光の偏光方向は、Z軸方向に垂直な面を入射面としたとき、当該入射面に対して垂直となっている。
【0038】
半導体レーザ201から出射されたレーザ光は、コリメータレンズ202により平行光に変換される。コリメータレンズ202を透過したレーザ光は、シリンドリカルレンズ203によりY軸方向にのみ収束される。シリンドリカルレンズ203を透過したレーザ光は、コンデンサレンズ204により、Y軸方向とZ軸方向に集光される。これにより、半導体レーザ201から出射されるレーザ光が、フローセル205内をZ軸方向に流れる測定試料に対して、Y軸方向に細長いビーム形状で照射される。レーザ光が測定試料中の粒子に照射されると、フローセル205の前方(X軸正方向)に前方散乱光が生じ、フローセル205の側方(Y軸正方向)に側方散乱光と側方蛍光が生じる。
【0039】
前方散乱光は、フローセル205のX軸正方向側に配置された集光レンズ206により、ピンホール208の位置に集光される。半導体レーザ201から出射された光のうち、測定試料中の粒子に照射されずにフローセル205を透過したレーザ光は、集光レンズ206によって集光された後、フォトダイオード209に入射しないようビームストッパ207によって遮断される。ピンホール208を通過した前方散乱光は、フォトダイオード209により検出される。フォトダイオード209は、検出した前方散乱光に基づいて前方散乱光信号(FSC)を出力する。
【0040】
側方散乱光は、フローセル205のY軸正方向側に配置された集光レンズ210によって収束される。集光レンズ210を透過した側方散乱光は、ダイクロイックミラー211により反射される。ダイクロイックミラー211によって反射された側方散乱光は、無偏光タイプのハーフミラー212によって2分割される。ハーフミラー212を透過した側方散乱光は、フォトマルチプライヤ213により検出される。フォトマルチプライヤ213は、検出した側方散乱光に基づいて側方散乱光信号(SSC)を出力する。ハーフミラー212により反射された側方散乱光は、偏光フィルタ214に入射する。
【0041】
ここで、一般に、測定試料中の粒子に対して所定の偏光方向のレーザ光が照射されると、側方散乱光の偏光方向は、粒子が含有する成分が持つ旋光性に応じて、粒子に照射される前のレーザ光の偏光方向から変化する。本実施の形態では、測定試料に照射されるレーザ光の偏光方向は、フローセル205を流れる測定試料の流れ方向(Z軸方向)に平行となっている(以下、この偏光状態を「初期の偏光状態」という)。したがって、測定試料にレーザ光が照射されると、照射された粒子が含有する成分に応じて、成分が分布する部分のレーザ光の偏光方向が回転し、測定試料に照射される前の初期の偏光状態とは異なる偏光方向となる。このように測定試料に照射されるレーザ光の偏光方向が、部分的に変化して初期の偏光状態から崩れると、Y軸正方向に生じる側方散乱光には、種々の偏光状態の光成分が含まれるようになる。
【0042】
このとき、粒子から生じる側方散乱光のうち、測定試料に照射される前の偏光方向に垂直な偏光方向の光成分の割合(初期の偏光状態が崩される度合い)は、粒子が含有する成分に応じて決まる。本実施の形態では、後述するように、複数の種類の上皮細胞が、それぞれ、種類に応じて偏光特性の異なる固有の成分を含有することに着目し、側方散乱光の偏光状態(初期の偏光状態が崩される度合い)に基づいて、これら複数の種類の上皮細胞が分類される。
【0043】
偏光フィルタ214は、Z軸方向に平行な偏光を遮断し、X軸方向に平行な偏光を通過
させるよう構成されている。偏光フィルタ214を通過した側方散乱光を、以下、「偏光解消側方散乱光」と称する。偏光解消側方散乱光は、フォトマルチプライヤ215により検出される。フォトマルチプライヤ215は、検出した偏光解消側方散乱光に基づいて偏光解消側方散乱光信号(PSSC)を出力する。
【0044】
上記のように、側方散乱光の偏光方向は、測定試料中の粒子に含まれる成分が持つ旋光性に応じて、初期の偏光状態から変化する。したがって、フォトマルチプライヤ215に到達する偏光解消側方散乱光の光量も、レーザ光が照射される粒子の種類毎に異なることとなり、また、偏光解消側方散乱光信号(PSSC)の大きさも、レーザ光が照射される粒子の種類毎に異なることとなる。
【0045】
なお、フローセル205上から生じる前方散乱光と側方散乱光は、それぞれ、偏光フィルタを介さずに、そのまま、フォトダイオード209とフォトマルチプライヤ213によって受光される。したがって、フォトダイオード209は、フローセル205から生じた偏光方向が不揃いの前方散乱光をそのまま検出し、同様に、フォトマルチプライヤ213は、フローセル205から生じた偏光方向が不揃いの側方散乱光をそのまま検出する。なお、前方散乱光は、側方散乱光と同様、測定試料中の粒子の旋光性によって、偏光方向が初期の偏光状態から変化する。
【0046】
側方蛍光は、側方散乱光と同様、集光レンズ210によって収束される。集光レンズ210を透過した側方蛍光は、ダイクロイックミラー211を透過し、分光フィルタ216に通されて、フォトマルチプライヤ217により検出される。フォトマルチプライヤ217は、検出した側方蛍光に基づいて側方蛍光信号(SFL)を出力する。
【0047】
図2に戻り、光学検出部23は、前方散乱光信号(FSC)と、側方散乱光信号(SSC)と、偏光解消側方散乱光信号(PSSC)と、側方蛍光信号(SFL)をアナログ信号処理回路241に出力する。アナログ信号処理回路241は、CPU25の指示に従って、光学検出部23から出力された各光に基づく電気信号を、アンプにより増幅し、A/Dコンバータ242に出力する。
【0048】
A/Dコンバータ242は、アナログ信号処理回路241から出力された電気信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号処理回路243に出力する。デジタル信号処理回路243は、CPU25の指示に従って、A/Dコンバータ242から出力されたデジタル信号に対して、所定の信号処理を施す。これにより、フローセル205内を粒子が通過する度に生じる前方散乱光と、側方散乱光と、偏光解消側方散乱光と、側方蛍光に対応する信号波形が取得される。すなわち、測定試料に含まれる粒子(赤血球、白血球、上皮細胞、円柱、細菌等)ごとに、各光に対応する信号波形が取得される。取得された信号波形は、メモリ244に記憶される。
【0049】
CPU25は、メモリ244に記憶された信号波形から、前方散乱光と、側方散乱光と、偏光解消側方散乱光と、側方蛍光に対応する、複数の特徴パラメータ(ピーク値、幅、面積)を算出する。
【0050】
ピーク値(P)は、図4(a)に示すように、信号波形の最大値である。幅(W)は、図4(b)に示すように、所定の閾値よりも大きい信号波形の部分の幅である。面積(A)は、図4(c)に示すように、所定の閾値と信号波形が交わる点から下に延ばした線分と、信号波形とに囲まれる部分の面積である。なお、図4(b)、(c)で用いられる閾値は、適切な特徴パラメータが得られるよう、特徴パラメータごとに適宜設定される。こうして算出された特徴パラメータは、メモリ26に記憶される。
【0051】
CPU25は、算出した粒子ごとの特徴パラメータ(以下、「測定データ」という)を、通信インターフェース27を介して情報処理装置3に送信する。また、CPU25は、通信インターフェース27を介して情報処理装置3から制御信号を受信し、かかる制御信号に従って測定装置2の各部を駆動する。
【0052】
図5は、情報処理装置3の構成を示す図である。
【0053】
情報処理装置3は、パーソナルコンピュータからなり、本体30と、表示部31と、入力部32から構成されている。本体30は、CPU301と、ROM302と、RAM303と、ハードディスク304と、読出装置305と、画像出力インターフェース306と、入出力インターフェース307と、通信インターフェース308を有する。
【0054】
CPU301は、ROM302に記憶されているコンピュータプログラムと、RAM303にロードされたコンピュータプログラムを実行する。RAM303は、ROM302とハードディスク304に記憶されているコンピュータプログラムの読み出しに用いられる。また、RAM303は、これらのコンピュータプログラムを実行するときに、CPU301の作業領域としても利用される。
【0055】
ハードディスク304には、オペレーティングシステムと、CPU301に実行させるためのコンピュータプログラムと、コンピュータプログラムの実行に用いるデータが記憶されている。また、ハードディスク304には、図6に示す処理を実行させるためのプログラム304aが予め記憶されており、測定装置2から受信した測定データが順次記憶される。読出装置305は、CDドライブまたはDVDドライブ等によって構成されており、記録媒体305aに記録されたコンピュータプログラムとデータを読み出すことができる。なお、上記プログラム304aが記録媒体305aに記録されている場合には、読出装置305により記録媒体305aから読み出されたプログラム304aが、ハードディスク304に記憶される。
【0056】
画像出力インターフェース306は、画像データに応じた映像信号を表示部31に出力し、表示部31は、映像信号に基づいて画像を表示する。オペレータが入力部32を介して指示を入力すると、入出力インターフェース307は、入力された信号を受け付ける。通信インターフェース308は、測定装置2に接続されており、CPU301は、通信インターフェース308を介して、測定装置2との間で指示信号およびデータの送受信を行う。
【0057】
図6は、測定装置2と情報処理装置3の処理を示すフローチャートである。
【0058】
情報処理装置3のCPU301は、入力部32を介してオペレータによる測定指示を受け付けると(S101:YES)、測定開始信号を測定装置2に送信する(S102)。一方、測定装置2のCPU25は、情報処理装置3から測定開始信号を受信すると(S201:YES)、測定試料の調製を行い(S202)、調製した測定試料をフローセル205内に流す(S203)。続いて、上述したように、半導体レーザ201から出射されたレーザ光が、フローセル205内を流れる測定試料に照射され、測定試料に含まれる粒子ごとに、前方散乱光と、側方散乱光と、偏光解消側方散乱光と、側方蛍光が、それぞれ、フォトダイオード209と、フォトマルチプライヤ213、215、217により検出される(S204)。
【0059】
続いて、CPU25は、検出した各光に対応する信号波形を取得し(S205)、取得した信号波形に基づいて、上述した複数の特徴パラメータを算出する(S206)。しかる後、CPU25は、算出した粒子ごとの複数の特徴パラメータ(測定データ)を、情報
処理装置3に送信する(S207)。
【0060】
一方、情報処理装置3のCPU301は、測定データを受信すると(S103:YES)、第1スキャッタグラムにおいて領域A11、A12を設定する(S104)。具体的には、図7(a)に示すように、測定データに含まれる各粒子が、前方散乱光信号の幅(FSCW)と側方蛍光信号の幅(FLW)を2軸とする第1スキャッタグラム上にプロットされる。そして、第1スキャッタグラムにおいて固定の領域A11、A12が設定される。
【0061】
図7(a)において、領域A11は、測定試料に含まれる全上皮細胞に対応する領域であり、領域A12は、測定試料に含まれる円柱に対応する領域である。また、FSCWとFLWが共に小さく、第1スキャッタグラムの原点付近に表れる粒子は、測定試料中の小型の粒子(血球、細菌など)である。CPU301は、第1スキャッタグラム上の領域A11に含まれる粒子、すなわち、上皮細胞を抽出する(S105)。
【0062】
なお、ここでは、説明の便宜上、第1スキャッタグラムに粒子がプロットされ、第1スキャッタグラムに設定された領域A11に含まれる粒子が抽出されている。しかしながら、第1スキャッタグラムと領域A11、A12は、必ずしも図形やグラフとして作成される必要はなく、領域A11に含まれる粒子の抽出は、特定の数値範囲に属する粒子のみをフィルタリングによって抽出するデータ処理によって行われるようにしても良い。同様に、後述する第2スキャッタグラムと領域A21〜A23も、必ずしも図形やグラフとして作成される必要はなく、領域A21〜A23に含まれる粒子数の計数は、データ処理によって行われるようにしても良い。
【0063】
次に、CPU301は、第2スキャッタグラムにおいて領域A21〜A23を設定する(S106)。具体的には、図7(b)に示すように、S105で抽出した領域A11の各粒子が、前方散乱光信号の幅(FSCW)と偏光解消側方散乱光信号の面積(PSSCA)を2軸とする第2スキャッタグラム上にプロットされる。そして、第2スキャッタグラムにおいて固定の領域A21〜A23が設定される。
【0064】
図7(b)において、領域A21は、測定試料に含まれる扁平上皮細胞に対応する領域であり、領域A22は、測定試料に含まれる尿細管上皮細胞に対応する領域であり、領域A23は、測定試料に含まれる卵円形脂肪体に対応する領域である。CPU301は、第2スキャッタグラム上の領域A21〜A23に含まれる粒子、すなわち、扁平上皮細胞の数と、尿細管上皮細胞の数と、卵円形脂肪体の数を計数する(S107)。
【0065】
ここで、縦軸のPSSCAは、粒子から生じる側方散乱光のうち、測定試料に照射される前の偏光方向に垂直な偏光方向の光成分の割合(初期の偏光状態が崩される度合い)を示すものである。このため、扁平上皮細胞と尿細管上皮細胞に比べて、通常、初期の偏光状態を崩す成分を多く含むとされる卵円形脂肪体は、PSSCAの値が大きい領域に分布することになる。また、横軸のFSCWは、粒子の幅を示すものである。このため、尿細管上皮細胞と卵円形脂肪体に比べて、通常、幅が大きいとされる扁平上皮細胞は、FSCWの値が大きい領域に分布することになる。また、卵円形脂肪体に比べて、通常、初期の偏光状態を崩す成分を多く含まず、且つ、扁平上皮細胞に比べて、通常、幅が小さいとされる尿細管上皮細胞は、PSSCAとFSCWの値が小さい領域に分布することになる。よって、図7(b)に示すように第2スキャッタグラムにおいて領域A21〜A23が設定されると、領域A21〜A23は、それぞれ、扁平上皮細胞と、尿細管上皮細胞と、卵円形脂肪体に対応する領域となる。
【0066】
続いて、CPU301は、S107において取得した粒子数を、表示部31に表示する
(S108)。こうして、測定装置2と情報処理装置3の処理が終了する。
【0067】
次に、実際の尿検体に対して、顕微鏡を使用した目視による計数結果と、本実施の形態による計数結果を比較する。
【0068】
図8(a)は、所定の尿検体についての、顕微鏡を使用した目視による計数結果と、本実施の形態による計数結果を示す図である。この場合の尿検体には、目視の結果、扁平上皮細胞が14.0個/μL含まれており、尿細管上皮細胞が0.0個/μL含まれており、卵円形脂肪体が0.0個/μL含まれている。図8(b)は、この場合の尿検体について、本実施の形態の第2スキャッタグラムにおける分画を行った結果を示す図である。
【0069】
尿細管上皮細胞は、近位尿細管からヘンレ係蹄、遠位尿細管、集合管、腎乳頭までの内腔を覆う上皮に由来する細胞である。一般に、尿検体1μLに含まれる尿細管上皮細胞が1〜2個以上あれば、この尿検体を採取した患者は、腎臓(たとえば、尿細管上皮細胞が分布する上記部位)の疾患に罹患している可能性が高いとされる。また、卵円形脂肪体は、尿細管上皮細胞由来の脂肪顆粒細胞である。一般に、尿検体1μLに含まれる卵円形脂肪体が1〜2個以上あれば、この尿検体を採取した患者は、腎臓の疾患(たとえば、ネフローゼ症候群)に罹患している可能性が高いとされる。
【0070】
図8(a)の目視結果によれば、この尿検体1μLに含まれる尿細管上皮細胞と卵円形脂肪体は、何れも1個未満であった。一方、図8(a)の本実施の形態の結果によれば、目視結果の場合と同様、この尿検体1μLに含まれる尿細管上皮細胞と卵円形脂肪体は、何れも1個未満であった。なお、図8(b)を併せて参照すると、領域A22、A23に含まれる粒子の数が少ないため、この尿検体に含まれる尿細管上皮細胞と卵円形脂肪体は少ないことが分かる。
【0071】
よって、本実施の形態によれば、目視結果と同様、この尿検体を採取した患者について、尿細管上皮細胞が少ないことに基づいて、オペレータは、この患者が腎臓(たとえば、尿細管上皮細胞が分布する上記部位)の疾患に罹患している可能性が低いと判断することができる。また、本実施の形態によれば、目視結果と同様、この尿検体を採取した患者について、卵円形脂肪体が少ないことに基づいて、オペレータは、この患者が腎臓の疾患(たとえば、ネフローゼ症候群)に罹患している可能性が低いと判断することができる。
【0072】
なお、扁平上皮細胞は、外尿道口付近の粘膜に分布しており、健常人の尿検体中にも多数含まれる細胞であるため、扁平上皮細胞の数に基づいて、炎症・疾患部位を特定することは困難である。しかしながら、本実施の形態では、尿検体中の上皮細胞から扁平上皮細胞を分類することができるため、尿細管上皮細胞と卵円形脂肪体の分類精度を向上させることができる。
【0073】
図8(c)は、図8(a)、(b)の場合とは異なる他の尿検体についての、顕微鏡を使用した目視による計数結果と、本実施の形態による計数結果を示す図である。この場合の尿検体には、目視の結果、扁平上皮細胞が26.0個/μL含まれており、尿細管上皮細胞が42.0個/μL含まれており、卵円形脂肪体が0.0個/μL含まれている。図8(d)は、この場合の尿検体について、本実施の形態の第2スキャッタグラムにおける分画を行った結果を示す図である。
【0074】
図8(c)の目視結果によれば、この尿検体1μLに含まれる尿細管上皮細胞は2個以上であり、卵円形脂肪体は1個未満であった。一方、図8(c)の本実施の形態の結果によれば、目視結果の場合と同様、この尿検体1μLに含まれる尿細管上皮細胞は2個以上であり、卵円形脂肪体は1個未満であった。なお、図8(d)を併せて参照すると、領域
A22に含まれる粒子の数は多く、領域A23に含まれる粒子の数は少ないため、この尿検体に含まれる尿細管上皮細胞は多く、卵円形脂肪体は少ないことが分かる。
【0075】
よって、本実施の形態によれば、目視結果と同様、この尿検体を採取した患者について、尿細管上皮細胞が多いことに基づいて、オペレータは、この患者が腎臓(たとえば、尿細管上皮細胞が分布する上記部位)の疾患に罹患している可能性が高いと判断することができる。また、本実施の形態によれば、目視結果と同様、この尿検体を採取した患者について、卵円形脂肪体が少ないことに基づいて、オペレータは、この患者が腎臓の疾患(たとえば、ネフローゼ症候群)に罹患している可能性が低いと判断することができる。
【0076】
以上、本実施の形態によれば、偏光解消側方散乱光信号の面積(PSSCA)と前方散乱光信号の幅(FSCW)により、測定試料に含まれる上皮細胞の特定に有用な情報を得ることができる。そして、この情報は、炎症・疾患部位の特定にも役立てることができる。
【0077】
より具体的には、前方散乱光信号の幅(FSCW)と偏光解消側方散乱光信号の面積(PSSCA)を2軸とする第2スキャッタグラムにおいて、領域A21〜A23を設定することにより、扁平上皮細胞と、尿細管上皮細胞と、卵円形脂肪体を分類することができる。これにより、尿検体に含まれる上皮細胞が、扁平上皮細胞と、尿細管上皮細胞と、卵円形脂肪体の何れであるかを特定(細分類)することができ、これら上皮細胞の種類に応じた炎症・疾患部位を特定するための情報が取得され得る。
【0078】
また、本実施の形態によれば、第2スキャッタグラムの領域A21〜A23に含まれる粒子数を計数することにより、扁平上皮細胞と、尿細管上皮細胞と、卵円形脂肪体の数が取得され、取得された数が表示される。これにより、オペレータは、尿細管上皮細胞が多いことに基づいて、この患者が腎臓(たとえば、近位尿細管からヘンレ係蹄、遠位尿細管、集合管、腎乳頭までの内腔を覆う上皮)の疾患に罹患している可能性が高いと判断することができる。また、オペレータは、卵円形脂肪体が多いことに基づいて、この患者が腎臓の疾患(たとえば、ネフローゼ症候群)に罹患している可能性が高いと判断することができる。
【0079】
なお、腎臓の疾患の可能性が高いと一般に判断される場合、図6のS108において、情報処理装置3の表示部31に、図9(a)に示す画面D1が表示されるようにしても良い。画面D1には、腎臓の疾患の可能性が高いと判断された根拠(図9(a)では、尿細管上皮細胞の数)と、罹患の可能性を示唆する旨が表示される。また、図6のS108において、図8(b)、(d)に示す第2スキャッタグラムが併せて表示されても良い。
【0080】
また、本実施の形態によれば、半導体レーザ201から出射されるレーザ光の偏光方向が、フローセル205内を流れる測定試料の流れ方向(Z軸方向)に平行となっている。これにより、フローセル205内を流れる粒子に対して、X軸正方向にレーザ光が照射されると、蛍光は略Y軸方向に生じるため、側方散乱光と蛍光とを略同一の方向(Y軸正方向)で受光することができる。これにより、光学検出部23の構成を簡素にすることができる。また、上記のように光学検出部23を構成した場合、フローセル205のY軸正方向側に配置されたフォトマルチプライヤ217により側方蛍光を効率良く検出することができる。
【0081】
また、本実施の形態によれば、偏光フィルタ214により、測定試料に照射されるレーザ光と同じ偏光方向の側方散乱光が遮断されるため、フォトマルチプライヤ215は、偏光解消側方散乱光を効率的に検出することが可能となる。
【0082】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上記実施の形態に制限されるものではなく、また、本発明の実施の形態も上記以外に種々の変更が可能である。
【0083】
たとえば、上記実施の形態では、直線偏光の光を出射させる光源として、半導体レーザ201が用いられたが、これに限らず、ランプから出射された光のうち、偏光フィルタにより一方向の偏光成分の光のみが抽出されるように構成された光源ユニットが用いられるようにしても良い。
【0084】
また、上記実施の形態では、半導体レーザ201は、直線偏光の偏光方向が、フローセル205上のレーザ光の照射位置における測定試料の流れ方向(Z軸方向)に平行となるよう、測定装置2内に配置された。しかしながら、半導体レーザ201から出射されるレーザ光の偏光方向は、必ずしも測定試料の流れ方向に一致していなくても良く、測定試料の流れ方向に対してやや傾いていても良い。この場合、上記の実施の形態に比べて、粒子から生じる蛍光の進行方向はY軸方向から離れることになる。よって、フォトマルチプライヤ217により蛍光を効率良く検出するためには、上記実施の形態のように、半導体レーザ201から出射されるレーザ光の偏光方向は、測定試料の流れ方向に一致しているのが望ましい。
【0085】
また、上記実施の形態では、第2スキャッタグラムの縦軸は偏光解消側方散乱光信号の面積(PSSCA)とされたが、これに限らず、粒子から生じる側方散乱光のうち、初期の偏光方向と異なる偏光方向の光成分の割合(初期の偏光状態が崩される度合い)を反映する特徴パラメータであれば良い。たとえば、縦軸は、偏光解消側方散乱光信号のピーク値(PSSCP)であっても良い。この場合、縦軸の特徴パラメータとして、PSSCA、PSSCPの何れを用いるかは、測定試料に照射されるレーザ光のビームスポットの大きさ、フローセル205内を流れる測定試料の速度、アナログ信号処理回路241の増幅度などによって適宜設定され得る。
【0086】
また、第2スキャッタグラムの縦軸は、粒子から生じる前方散乱光のうち、初期の偏光方向と異なる偏光方向の光成分の割合を反映する特徴パラメータであっても良い。上述したように、フォトダイオード209には、フローセル205から生じた偏光方向が不揃いの前方散乱光が入射する。このため、フォトダイオード209のX軸負方向側にハーフミラーを配置し、このハーフミラーによって分割された前方散乱光を偏光フィルタに通せば、粒子から生じる前方散乱光のうち、初期の偏光方向と異なる偏光方向の光成分(偏光解消前方散乱光)を受光することができる。この場合も、受光した偏光解消前方散乱光の割合(初期の偏光状態が崩される度合い)を反映する特徴パラメータを第2スキャッタグラムの縦軸とすることで、上記実施の形態と同様、上皮細胞の特定に有用な情報を得ることができる。
【0087】
また、上記実施の形態では、上皮細胞を分類するために偏光解消側方散乱光信号の面積(PSSCA)と前方散乱光信号の幅(FSCW)の二つの特徴パラメータを組み合わせているが、これに限らず、初期の偏光状態が崩される度合いを反映する特徴パラメータだけで上皮細胞を分類する構成であっても良い。たとえば、第2スキャッタグラムに代えて、偏光解消側方散乱光信号の面積(PSSCA)と粒子の度数とからなるヒストグラムを生成し、ヒストグラムを基に上皮細胞を分類してもよい。この場合、たとえば、PSSCAの高い位置に多くの粒子が分布している場合、検体に卵円形脂肪体が含まれていると判断することができる。また、PSSCAの低い位置に多くの粒子が分類している場合であっても、たとえば、PSSCAの平均値、最頻値、ヒストグラムの面積などのパラメータを用いることで、扁平上皮細胞が多く含まれているか、あるいは尿細管上皮細胞が多く含まれているかの指標とすることもできる。
【0088】
また、上記実施の形態では、第2スキャッタグラムの横軸は前方散乱光信号の幅(FSCW)とされたが、これに限らず、粒子の大きさを反映する特徴パラメータであれば良い。たとえば、横軸は、前方散乱光信号のピーク値(FSCP)や前方散乱光信号の面積(FSCA)であっても良い。この場合、横軸の特徴パラメータとして、FSCW、FSCP、FSCAの何れを用いるかは、測定試料に照射されるレーザ光のビームスポットの大きさ、フローセル205内を流れる測定試料の速度、アナログ信号処理回路241の増幅度などによって適宜設定され得る。
【0089】
また、上記実施の形態では、粒子の大きさを反映する特徴パラメータは、光学検出部23において検出された前方散乱光信号に基づいて生成されたが、これに限らず、測定装置2内に別途設けられた電気抵抗式の検出器によって検出された信号に基づいて生成されるようにしても良い。
【0090】
また、上記実施の形態では、半導体レーザ201から出射されるレーザ光の偏光方向が、フローセル205内を流れる測定試料の流れ方向に平行となるよう、測定装置2内に半導体レーザ201が設置された。しかしながら、これに限らず、半導体レーザ201の出射側に1/2波長板を配置し、光軸を中心とする1/2波長板の回転位置を調整することにより、半導体レーザ201から出射されるレーザ光の偏光方向が、フローセル205内を流れる測定試料の流れ方向に平行となるようにしても良い。
【0091】
また、上記実施の形態では、領域A11、A12、A21〜A23は、あらかじめ決められた固定領域であったが、これに限らず、固定領域に基づいて適宜微調整された領域であっても良い。また、領域A11、A12、A21〜A23の位置、形状は、必ずしも、図7(a)、(b)に示すものに限られず、扁平上皮細胞と、尿細管上皮細胞と、卵円形脂肪体を精度よく抽出可能な位置および形状に適宜調整され得る。
【0092】
図9(a)、(b)は、第2スキャッタグラムに設定される領域A21〜A23の変更例を示す図である。上記実施の形態における3つの領域の交点をCとすると、領域A21、A23の境界線は、図9(a)では交点Cから右方向に延びた線とされ、図9(b)では交点Cから右上方向に延びた線とされる。図9(a)、(b)に示す場合も、上記実施の形態と同様、PSSCAの値が大きい領域に分布する卵円形脂肪体が領域A23に含まれ、FSCWの値が大きい領域に分布する扁平上皮細胞が領域A21に含まれ、PSSCAとFSCWの値が小さい領域に分布する尿細管上皮細胞が、領域A22に含まれるようになる。
【0093】
また、光学系の構成は、必ずしも、図3に示す構成に限られるものではなく、上皮細胞の成分に基づく旋光性の度合いに基づいて上皮細胞の種類を判定するための特徴パラメータを取得可能な構成であれば良い。たとえば、偏光フィルタ214の透過偏光方向は、必ずしもX軸方向に平行でなくとも良く、各上皮細胞の旋光性を類別可能な範囲で、X軸方向から傾いていても良い。
【0094】
また、上記実施の形態では検体として尿を用いたが、上皮細胞を含む限りにおいて、検体の種類は特に限定されない。たとえば、上皮細胞として子宮頚部細胞を含む検体を測定・分析する方法に本発明を適用してもよい。
【0095】
この他、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 … 尿検体分析装置(検体分析装置)
3 … 情報処理装置(解析部)
22 … 試料調製部
201 … 半導体レーザ(照射ユニット)
205 … フローセル
209 … フォトダイオード(他の検出部)
214 … 偏光フィルタ
215 … フォトマルチプライヤ(検出部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9