特許第6196504号(P6196504)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6196504
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】スイッチ装置
(51)【国際特許分類】
   H03K 17/04 20060101AFI20170904BHJP
   H03K 17/16 20060101ALI20170904BHJP
   H03K 17/687 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   H03K17/04 E
   H03K17/16 F
   H03K17/687 A
【請求項の数】4
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-188662(P2013-188662)
(22)【出願日】2013年9月11日
(65)【公開番号】特開2015-56751(P2015-56751A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004606
【氏名又は名称】ニチコン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086737
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恭成
【審査官】 小林 正明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−019640(JP,A)
【文献】 特開平11−312968(JP,A)
【文献】 特開平07−030394(JP,A)
【文献】 特開2006−238655(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0180870(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K 17/04
H03K 17/16
H03K 17/687
H02J 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源が接続される高電位側の入力端子と負荷回路が接続される高電位側の出力端子とを繋ぐ電源供給ラインと、
前記直流電源が接続される低電位側の入力端子と前記負荷回路が接続される低電位側の出力端子とを繋ぐ接地ラインと、
前記電源供給ラインの途中に挿入された接続/遮断用のスイッチング素子と、
前記接続/遮断用のスイッチング素子の電流路における入力側端子と制御端子との間に並列に接続された、前記接続/遮断用のスイッチング素子のターンオン時の突入電流を抑制するための積分用の容量素子および抵抗素子と、
前記接続/遮断用のスイッチング素子の制御端子と前記積分用の容量素子および抵抗素子との接続点と前記接地ラインとの間に接続された駆動用のスイッチング素子とを備えたスイッチ装置において、さらに、
前記接続/遮断用のスイッチング素子の電流路における出力側端子と制御端子との間に接続された、前記積分用の容量素子の充電電荷を急速放電するための急速放電用の抵抗素子および一方向性通電素子の直列回路を備えたスイッチ装置。
【請求項2】
前記一方向性通電素子は整流ダイオードで構成されている請求項1に記載のスイッチ装置。
【請求項3】
前記接続/遮断用のスイッチング素子はPチャネル型のMOS‐FETで構成されている請求項1または請求項2に記載のスイッチ装置。
【請求項4】
前記駆動用のスイッチング素子はバイポーラトランジスタで構成されている請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のスイッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電源が接続される高電位側の入力端子と負荷回路が接続される高電位側の出力端子とを繋ぐ電源供給ラインにスイッチング素子を挿入し、そのスイッチング素子を導通状態と非導通状態とに切り替えることで負荷回路に対する直流電源の供給/遮断を行うスイッチ装置にかかわり、詳しくは、非導通状態から導通状態に切り替えたときの負荷回路への突入電流を抑制するように構成されたスイッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のスイッチ装置は直流電源を接続した際の負荷回路(特に容量性負荷)に対する突入電流を抑制するために電源供給ラインの途中に挿入するもので、駆動用のスイッチング素子の状態変化に応じて導通状態と非導通状態とに切り替えられる接続/遮断用のスイッチング素子と、この接続/遮断用のスイッチング素子の駆動電圧の立ち上がりを緩やかにするための積分用の容量素子および抵抗素子を有している。
【0003】
<第1の従来例>
図3は第1の従来例のスイッチ装置Bの構成を示す回路図である。負荷回路53に対する駆動停止状態においてスイッチ制御信号Scは“L”レベルとされ、駆動用のスイッチング素子(NPN型トランジスタ)Q52は非導通状態にある。このとき、接続/遮断用のスイッチング素子(Pチャネル型のMOS‐FET)Q51はその制御端子(ゲート)に印加される制御電圧(ゲート‐ソース間電圧)が小さいことから、接続/遮断用のスイッチング素子Q51は非導通状態となっており、負荷回路53には給電が行われていない。この状態では、積分用の容量素子(コンデンサ)C51に対する充電は行われていない。
【0004】
スイッチ制御信号Scが“H”レベルに切り替えられると、駆動用のスイッチング素子Q52が導通する。すると、高電位側の入力端子T1p→時定数回路51a(充放電用の抵抗素子R51aと積分用の容量素子C51)→抵抗素子R52→駆動用のスイッチング素子Q52→低電位側の入力端子T1nの経路で電流が流れる。接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧は駆動用のスイッチング素子Q52のターンオン後、一定時間の経過後から緩やかに増加し始め、制御電圧がしきい値電圧を超え、それ以降、接続/遮断用のスイッチング素子Q51からの出力電圧および出力電流が緩やかに増加する。このターンオン時の出力電圧と出力電流の波形が図4(a)に示されている。
【0005】
図4(a)に示すように、出力電圧はスイッチ制御信号Scの立ち上がり時点から約13[ms](ミリ秒)の経過後に立ち上がりを開始し、約5[ms]かけて入力電圧と同レベルまで緩やかに立ち上がり(ターンオン時の応答遅れ時間は約18[ms]である)、負荷回路53に対して直流電力が供給される。これに応じて入力電流も緩やかに増加し、負荷回路53における容量性負荷C53への突入電流は抑制される。突入電流は約5.4[A]に抑えられている。
【0006】
なお、上記の約13[ms]、約18[ms]の計測データは、回路定数として、抵抗素子R51aの抵抗値を6.8[kΩ]、抵抗素子R52の抵抗値を15[kΩ]、積分用の容量素子C51の容量値を10[μF]、容量性負荷C53の容量値を300[μF]、直流電源E51による入力電圧を24[V]、負荷回路53への出力電流を3.5[A]とした場合の値である。なお、ここで例示した回路定数や定格値は、後述する複数の例でも共通である。
【0007】
次に、図3に示す第1の従来例において、スイッチ制御信号Scが“L”レベルに切り替えられると、駆動用のスイッチング素子Q52がターンオフする。すると、積分用の容量素子C51の充電電荷の放出が始まる。放電電流は充放電用の抵抗素子R51aで消費され、積分用の容量素子C51の両端電圧すなわち接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧が徐々に減少する。この制御電圧がしきい値電圧以下になると、接続/遮断用のスイッチング素子Q51がターンオフし、負荷回路53に対する直流電力の供給が停止される。このターンオフ時の出力電圧と出力電流の波形が図4(b)に示されている。
【0008】
<第2の従来例>
図5は特許文献1(特開平7−30394号公報)に開示された第2の従来例のスイッチ装置Cを示す。これは駆動用のスイッチング素子(NPN型トランジスタ)6をオン/オフ制御するスイッチ制御信号Sc′の生成のために、ワンショットパルス回路1、発振回路2、アンドゲート3、排他的論理和ゲート4などを設けたものである。これらの回路要素を用いて駆動用のスイッチング素子6のベースに印加するスイッチ制御信号Sc′として、初期の一定期間高速に“H”,“L”を繰り返すパルス波形と、そのパルス波形の終了時点から“H”レベルを継続する波形との組み合わせ波形の信号を生成する。このスイッチ制御信号Sc′により駆動用のスイッチング素子6を、ひいては接続/遮断用のスイッチング素子(Pチャネル型のMOS‐FET)7を一定期間スイッチングし、その後に導通状態とすることができる。結果として、接続/遮断用のスイッチング素子7を非導通状態から緩やかに導通状態に遷移させ、突入電流を抑制する。8は積分用の容量素子(コンデンサC)である。
【0009】
この第2の従来例においては、ワンショットパルス回路1、発振回路2、アンドゲート3、排他的論理和ゲート4などを用いて特殊な波形(初期はパルス波形、その後は“H”レベル)のスイッチ制御信号Sc′を生成するので、ターンオン時の出力電圧の立ち上がりが速くなる。
【0010】
<第3の従来例>
図6は特許文献2(特開平10−55729号公報)に開示された第3の従来例のスイッチ装置Dを示す。スイッチ制御信号Scの入力段の駆動用のスイッチング素子(NPN型トランジスタ)TR12のベース側に時定数回路15を追加している。この時定数回路15は積分用の容量素子(コンデンサ)C13、積分用の抵抗素子R15,急速放電用の抵抗素子R16および一方向性通電素子(整流ダイオード)D12で構成されている。“H”レベルのスイッチ制御信号Scが時定数回路15の入力端子に印加されると、駆動用のスイッチング素子TR12のベースに対して時定数回路15から僅かずつ増加するベース電流が流入される。これにより、駆動用のスイッチング素子TR12のコレクタ電流が緩やかに増加し、接続/遮断用のスイッチング素子(Pチャネル型のMOS‐FET)TR11の制御電圧を緩やかに増加させる。結果、接続/遮断用のスイッチング素子TR11のドレイン電流が緩やかに増加し、コンデンサC2に対する出力電圧が緩やかに上昇する。出力電圧の上昇が緩やかであるので、ターンオン時の突入電流を抑制することができる。ターンオフ時にはスイッチ制御信号Scが“L”レベルとされ、積分用の容量素子C13から一方向性通電素子D12を介して急速放電用の抵抗素子R16に放電されるので、ターンオフ時の応答遅れ時間を短縮化できる。D11は電圧制限用のツェナーダイオードである。
【0011】
<第4の従来例>
図7に示す第4の従来例のスイッチ装置Eは、図3に示す第1の従来例のスイッチ装置Bにおいて、ターンオフ時の応答遅れ時間を短縮するために急速放電用の抵抗素子R55と急速放電用のスイッチング素子(NPN型トランジスタ)Q53と一方向性通電素子(整流ダイオード)D52とを追加したものである。すなわち、接続/遮断用のスイッチング素子Q51のゲート‐ソース間の積分用の容量素子C51に対して急速放電用の抵抗素子R55とスイッチング素子Q53の直列回路を並列接続するとともに、積分用の容量素子C51と急速放電用のスイッチング素子Q53の接続点と抵抗素子R51との間に一方向性通電素子D52を挿入したものである。
【0012】
“L”レベルのスイッチ制御信号Scが入力されると、駆動用のスイッチング素子Q52はターンオフし、急速放電用のスイッチング素子Q53はそのベース電圧が上昇してターンオンする。結果、急速放電用の抵抗素子R55がターンオンした急速放電用のスイッチング素子Q53を介して積分用の容量素子C51に並列に接続されることになる。すると、積分用の容量素子C51に蓄積されていた電荷が急速放電用の抵抗素子R55を通じて急速に放出される。接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧は極短時間後にしきい値電圧以下になり、接続/遮断用のスイッチング素子Q51が直ちにターンオフし、負荷回路53への出力が遮断される。
【0013】
接続/遮断用のスイッチング素子Q51の導通状態では急速放電用のスイッチング素子Q53は非導通状態にあるから、抵抗素子R55の抵抗値はこれを充分に小さくすることが可能である。なぜなら、もしも接続/遮断用のスイッチング素子Q51の導通状態で急速放電用のスイッチング素子Q53も導通するのなら、導通状態維持のために接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧を一定以上に保つには、抵抗素子R55の抵抗値をある程度大きく設定しなければならない。しかし、そうではなく、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の導通状態では急速放電用のスイッチング素子Q53が非導通状態となるため、抵抗素子R55の抵抗値を充分に小さくすることが許容される。
【0014】
急速放電用の抵抗素子R55の抵抗値が充分に小さいと、スイッチ制御信号Scの“L”レベル切り替えに伴う駆動用のスイッチング素子Q52のターンオフ時に、積分用の容量素子C51からの放電を急速に行うことができ、ターンオフ時の応答遅れ時間を大幅に短縮することが可能となる。ちなみに、ターンオフ時の応答遅れ時間は図8(b)に示すように約0.8[ms]と、大幅に短縮化されている。
【0015】
もし、急速放電用のスイッチング素子Q53がない(素子Q53のドレイン‐ソース間をショート)とすると、駆動用のスイッチング素子Q52のターンオン時に直流電源E51から高電位側の入力端子T1pに流入した電流の大部分が急速放電用の抵抗素子R55を流れて積分用の容量素子C51への充電速度が大きく低下し、ターンオン時の応答遅れ時間が過剰に長いものになってしまう。よって、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の入力側(ソース側)で急速放電用の抵抗素子R55を積分用の容量素子C51に並列接続するときには急速放電用のスイッチング素子Q53は欠かせないものとなっている。なお、一方向性通電素子D52はスイッチング素子Q52をオンさせたとき、容量素子C51からの充電電流を流している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平7−30394号公報
【特許文献2】特開平10−55729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記で説明した図3の第1の従来例の場合、接続/遮断用のスイッチング素子Q51がターンオフしたときの出力電圧と出力電流の波形が図4(b)に示されている。出力電圧が急峻な立ち下がりをし、出力電流も急激に減少するが、ターンオフ時の応答遅れ時間は約93[ms]とかなり長く、遮断特性は良くない。すなわち、容量性負荷C53への突入電流を回避する手段として、接続/遮断用のスイッチング素子Q51のゲート‐ソース間に積分用の容量素子C51を介装してあるが、これが原因でターンオフ時の出力電圧の遮断確立に長い時間を要するという問題があった。
【0018】
また、図5の第2の従来例の場合、スイッチ制御信号Sc′の波形を特殊化しており(初期はパルス波形、その後は“H”レベル)、そのためにワンショットパルス回路1、発振回路2、アンドゲート3、排他的論理和ゲート4などを必要とし、回路構成が相当に複雑化している。しかも、並列接続された積分用の容量素子8と充放電用の抵抗素子5が原因でターンオフ時の応答遅れ時間について充分な短縮化は期待できない。積分用の容量素子の容量値を小さくしたり充放電用の抵抗素子の抵抗値を小さくすればターンオフ時の応答遅れ時間を短縮できるが、ターンオン時の突入電流の過大化やターンオン時の応答遅れ時間の伸長を招く。
【0019】
また、図6の第3の従来例の場合、接続/遮断用のスイッチング素子TR11のゲート‐ソース間には積分用の容量素子を接続していないが、スイッチ制御信号Scの入力段の時定数回路15における積分用の容量素子C13の電荷を放出するために、急速放電用の抵抗素子R16と一方向性通電素子D12を用いている。つまり、時定数回路15は、積分用の容量素子C13と積分用の抵抗素子R15からなる積分回路と、積分用の抵抗素子R15の両端間をバイパスする一方向性通電素子D12と急速放電用の抵抗素子R16とからなり、部品点数が多く、回路構成が複雑化している。
【0020】
接続/遮断用のスイッチング素子TR11の制御電圧の変化を緩やかに制御するのに、このスイッチング素子TR11に対して直接に時定数回路を付加するのではなく、離れて設けられた駆動用のスイッチング素子TR12のベースに対して時定数回路15を付加している。接続/遮断用のスイッチング素子TR11の制御電圧の微調整を達成するのに、実際上は離れて位置する駆動用のスイッチング素子TR12のベース電流の微調整を行うようになっている。しかし、時定数回路15は構成部品点数が多く、個々の構成部品にばらつきがあるため、時定数回路15での微調整が接続/遮断用のスイッチング素子TR11の制御電圧の微調整に正しく反映させることが非常にむずかしいという問題がある。すなわち、時定数回路15の構成部品のばらつきのために突入電流が増大したり、出力電圧のターンオン時の応答遅れ時間やターンオフ時の応答遅れ時間についてばらつきが増大してしまうという問題がある。
【0021】
図7の第4の従来例の場合、その基本構成をもつ図3の第1の従来例との比較において、そのターンオフ時の応答遅れ時間の大幅な短縮化が実現される。しかし、そのための追加構成として、急速放電用の抵抗素子R55とスイッチング素子Q53と一方向性通電素子D52の3部品を必要とし、追加部品点数が多いため回路構成の複雑化を招くという問題がある。それでいてターンオフ時の応答遅れ時間の短縮化についての技術要請は、現実的にはそれほど極端に短い時間(約0.8[ms])にする必要はなく、およそ半分程度にでも短縮できれば問題がないとされているのが実情である。換言すれば、急速放電用の抵抗素子R55とスイッチング素子Q53と一方向性通電素子D52の3部品の追加は過剰な対応となっているということである。
【0022】
図3に示す第1の従来例の場合にターンオフ時の応答遅れ時間を短縮するには積分用の容量素子の容量値を小さくすればよい。しかし、そうするとターンオン時の突入電流が過剰に大きくなってしまう。また、積分用の容量素子に並列接続された充放電用の抵抗素子の抵抗値を小さくして放電を早めることによりターンオフ時の応答遅れ時間を短縮することは可能である。しかし、そうするとターンオン時の出力電圧の応答遅れ時間が過剰に長くなってしまう。
【0023】
本発明はこのような事情に鑑みて創作したものであり、スイッチ装置に関して簡易な構成により突入電流の抑制およびターンオン時の応答遅れ時間を悪化させることなく、ターンオフ時の応答遅れ時間の短縮化を進めることができるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明は、次の手段を講じることにより上記の課題を解決する。
【0025】
本発明によるスイッチ装置は、
直流電源が接続される高電位側の入力端子と負荷回路が接続される高電位側の出力端子とを繋ぐ電源供給ラインと、
前記直流電源が接続される低電位側の入力端子と前記負荷回路が接続される低電位側の出力端子とを繋ぐ接地ラインと、
前記電源供給ラインの途中に挿入された接続/遮断用のスイッチング素子と、
前記接続/遮断用のスイッチング素子の電流路における入力側端子と制御端子との間に並列に接続された、前記接続/遮断用のスイッチング素子のターンオン時の突入電流を抑制するための積分用の容量素子および抵抗素子と、
前記接続/遮断用のスイッチング素子の制御端子と前記積分用の容量素子および抵抗素子との接続点と前記接地ラインとの間に接続された駆動用のスイッチング素子とを備えたスイッチ装置において、さらに、
前記接続/遮断用のスイッチング素子の電流路における出力側端子と制御端子との間に接続された、前記積分用の容量素子の充電電荷を急速放電するための急速放電用の抵抗素子および一方向性通電素子の直列回路を備えている。
【0026】
上記のように構成された本発明のスイッチ装置において、駆動用のスイッチング素子が非導通状態にあるとき、接続/遮断用のスイッチング素子も非導通状態である。このとき、一方向性通電素子の整流作用(通電阻止作用)があるために、高電位側の入力端子に印加された直流電圧によって、接続/遮断用のスイッチング素子の制御端子に接続された抵抗素子から急速放電用の抵抗素子に向けて電流が流れ込むことはない。すなわち、接続/遮断用のスイッチング素子の出力側に急速放電用の抵抗素子を追加接続しているけれども、そのことは、一方向性通電素子の整流作用(通電阻止作用)があることから、接続/遮断用のスイッチング素子の非導通状態での電源供給ライン遮断機能に影響を与えるものとはならない。
【0027】
駆動用のスイッチング素子が導通状態に切り替えられると、抵抗素子から駆動用のスイッチング素子に電流が流れるとともに、積分用の容量素子に充電が行われ、その両端電圧(接続/遮断用のスイッチング素子の制御電圧)が緩やかに増加する。すなわち、接続/遮断用のスイッチング素子が徐々に高抵抗状態から低抵抗状態へ遷移する。やがて接続/遮断用のスイッチング素子は非導通状態から反転して導通することになるが、その抵抗変化が上記のとおり緩やかであるため、負荷回路の容量性負荷に対する突入電流は抑制される。
【0028】
次に駆動用のスイッチング素子が導通状態から反転して非導通状態に切り替えられると、積分用の容量素子からの放電が開始されるが、接続/遮断用のスイッチング素子は直ちには非導通状態に切り替えられるのではなく、暫時(しばらくの間)導通状態を保持するため、積分用の容量素子の充電電荷はまだ導通状態にある接続/遮断用のスイッチング素子と急速放電用の抵抗素子と一方向性通電素子を通って放電される。すなわち、積分用の容量素子からその充電電荷を急速に放電させるための急速放電用の抵抗素子は接続/遮断用のスイッチング素子の出力側に存在するにもかかわらず、上記の接続/遮断用のスイッチング素子の暫時導通状態保持作用により急速放電に寄与することになり、急速放電が実現する。この急速放電の後、接続/遮断用のスイッチング素子は導通状態から反転して非導通状態に切り替えられる。
【0029】
もし、急速放電用の抵抗素子と一方向性通電素子の直列回路を接続/遮断用のスイッチング素子の入力側に設けてあると、駆動用のスイッチング素子の反転導通時において積分用の容量素子への充電が遅く、ターンオン時の応答遅れ時間が長く伸びてしまうが、本発明の場合は急速放電用の抵抗素子と一方向性通電素子の直列回路を接続/遮断用のスイッチング素子の出力側に設けてあるので、ターンオン時の応答遅れ時間を悪化させることはない。
すなわち、駆動用のスイッチング素子の切り替え時に接続/遮断用のスイッチング素子は直ちにはターンオフせずに暫時導通状態を継続している、という性質をうまく利用しており、急速放電用の抵抗素子を接続/遮断用のスイッチング素子の出力側に接続するという構成が成立している。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、容量性負荷を含む負荷回路と直流電源との間を接続/遮断するためのスイッチ装置につき、急速放電用の抵抗素子および一方向性通電素子の直列回路を、接続/遮断用のスイッチング素子の出力側に配置したことにより、突入電流抑制効果と良好な立ち上がり特性の維持とターンオフ時の応答遅れ時間の短縮の効果を簡易な構成により実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】本発明の実施例のスイッチ装置の構成を示す回路図
図2】本発明の実施例のスイッチ装置におけるターンオン時の動作波形を示すタイミングチャート(a)とターンオフ時の動作波形を示すタイミングチャート(b)
図3】第1の従来例のスイッチ装置の構成を示す回路図
図4】第1の従来例のスイッチ装置におけるターンオン時の動作波形を示すタイミングチャート(a)とターンオフ時の動作波形を示すタイミングチャート(b)
図5】第2の従来例(特許文献1開示)のスイッチ装置の構成を示す回路図
図6】第3の従来例(特許文献2開示)のスイッチ装置の構成を示す回路図
図7】第4の従来例のスイッチ装置の構成を示す回路図
図8】第4の従来例のスイッチ装置におけるターンオン時の動作波形を示すタイミングチャート(a)とターンオフ時の動作波形を示すタイミングチャート(b)
図9】比較例のスイッチ装置の構成を示す回路図
【発明を実施するための形態】
【0032】
上記構成の本発明のスイッチ装置には、次のようないくつかの好ましい態様がある。
【0033】
電源供給ラインの途中に挿入される接続/遮断用のスイッチング素子としては、Pチャネル型のMOS‐FET(金属酸化物半導体による電界効果トランジスタ)とするのが好ましい。バイポーラトランジスタの場合は導通状態保持のための電力が必要となるのに対して、MOS‐FETの場合は導通状態保持のための電力が不要である。ただし、本発明では接続/遮断用のスイッチング素子としてMOS‐FETに限定するものではなく、バイポーラトランジスタ(NPN型またはPNP型)を用いるのでもよい。MOS‐FETの場合にはNチャンネル型とPチャンネル型のいずれでもよい。制御端子については、MOS‐FETの場合はゲート端子となり、バイポーラトランジスタの場合はベース端子となる。
【0034】
接続/遮断用のスイッチング素子をオン/オフ制御する駆動用のスイッチング素子としては上記実施例のバイポーラトランジスタとするほかMOS‐FETを用いてもよい。バイポーラトランジスタの場合にはNPN型のトランジスタとPNP型のトランジスタのいずれでもよい。MOS‐FETの場合にはNチャンネル型とPチャンネル型のいずれでもよい。
【0035】
一方向性通電素子としては整流ダイオードのほかサイリスタであってもよいし、ダイオード接続されたトランジスタであってもよい。バイポーラトランジスタの場合は、コレクタとベースを短絡したものが一方向性通電素子となり、MOS‐FETの場合は、ドレインとゲートを短絡したものが一方向性通電素子となる。
【0036】
直流電源としては、電池(リチウムイオン電池、ニッケル水素電池など)、バッテリ(蓄電池)、太陽電池、燃料電池、DC−DCコンバータ、AC−DCコンバータ、スーパーキャパシタなどどのようなものであってもよい。
【0037】
負荷回路としては、容量性負荷と抵抗性負荷を備えたものが一般的であるが、もっぱら容量性負荷が主体のものであってもよい。
【実施例】
【0038】
以下、図1図2を参照して本発明にかかわるスイッチ装置の実施例を説明する。
【0039】
図1は本発明の実施例におけるスイッチ装置の構成を示す回路図である。まず、構成要素を列挙する。図1において、Aはスイッチ装置、T1p,T1nはスイッチ装置Aにおける直流電源の第1と第2の入力端子、T2p,T2nはスイッチ装置Aにおける直流電圧の第1と第2の出力端子、Q51は接続/遮断用のスイッチング素子、51は時定数回路、52は駆動制御回路、53は負荷回路、E51はバッテリなどの直流電源である。時定数回路51の構成要素として、C51は積分用の容量素子、R51は抵抗素子、R54は急速放電用の抵抗素子、D51は一方向性通電素子である。一方向性通電素子D51として、ここでは整流ダイオードが用いられている。駆動制御回路52の構成要素として、Q52は駆動用のスイッチング素子、R52はバイアス用であるとともに容量素子C51を充電する電流制限用の抵抗素子である。負荷回路53は、容量性負荷C53と抵抗性負荷R53を含んでいるものとする。接続/遮断用のスイッチング素子Q51として、ここではPチャネル型のMOS‐FETが用いられ、駆動用のスイッチング素子Q52として、ここではNPN型のトランジスタが用いられている。
【0040】
一対の入力端子T1p,T1nは、これに直流電源E51を接続して直流電流を入力するものであり、一対の出力端子T2p,T2nは、これに接続される負荷回路53に対して直流電力を供給するものである。高電位側の入力端子T1pと高電位側の出力端子T2pとが電源供給ラインL51を介して接続されるが、その途中に接続/遮断用のスイッチング素子Q51が挿入されている。低電位側の入力端子T1nと低電位側の出力端子T2nとが接地ラインL52を介して接続されている。
【0041】
駆動制御回路52において、駆動用のスイッチング素子Q52のコレクタに抵抗素子R52の一方端子が接続され、その他方端子が接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御端子であるゲートに接続され、駆動用のスイッチング素子Q52のエミッタは接地ラインL52に接続されている。駆動用のスイッチング素子Q52のベースにはスイッチ制御信号Scが入力されるようになっている。このスイッチ制御信号Scは単純な“H”/“L”切り替え式の信号である。
【0042】
時定数回路51は、積分用の容量素子C51と抵抗素子R51に加えて、さらに急速放電用の抵抗素子R54と一方向性通電素子D51とを有している。すなわち、接続/遮断用のスイッチング素子Q51のゲート‐ソース間に積分用の容量素子C51が接続され、さらに積分用の容量素子C51に抵抗素子R51が並列接続されている。加えて、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の出力側において、そのドレイン‐ゲート間に急速放電用の抵抗素子R54と一方向性通電素子D51の直列回路が接続されている。すなわち、急速放電用の抵抗素子R54の一方端子が接続/遮断用のスイッチング素子Q51のドレインと高電位側の出力端子T2pとに接続され、その他方端子が一方向性通電素子D51のアノードに接続されている。一方向性通電素子D51のカソードは接続/遮断用のスイッチング素子Q51のゲートおよび積分用の容量素子C51の負極端子に接続されている。
【0043】
以上のように、本発明実施例のスイッチ装置Aは、図3の第1の従来例のスイッチ装置Bに対して、急速放電用の抵抗素子R54と一方向性通電素子D51を接続/遮断用のスイッチング素子Q51の出力側に追加したものに相当している。追加の回路要素は2部品となっている。
【0044】
次に、上記のように構成されたスイッチ装置Aの動作を図2のタイミングチャート(動作波形図)を参照しながら説明する。図2(a)は本発明実施例のスイッチ装置Aの立ち上がり特性を示す波形図であり、図2(b)は立ち下がり特性を示す波形図である。
【0045】
〔1〕<スイッチ制御信号Scの“L”レベル状態>
いま、接続/遮断用のスイッチング素子Q51が非導通状態にあって電源供給ラインL51が遮断されており、負荷回路53に対して直流電源E51からの電力供給が行われていない負荷停止状態にあるとする。このとき、駆動制御回路52においてスイッチ制御信号Scは“L”レベルとなっていて、駆動用のスイッチング素子Q52は非導通状態となっている。
【0046】
本発明実施例で時定数回路51に追加された急速放電用の抵抗素子R54は一方向性通電素子D51のアノードに接続され、そのカソードが抵抗素子R51に接続されているから、抵抗素子R51からは急速放電用の抵抗素子R54に向けては電流は流れない。一方向性通電素子D51が電流の流れを阻止するからである。また、積分用の容量素子C51にも充電は行われていない。すなわち、積分用の容量素子C51の両端電圧はゼロであり、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧(ゲート‐ソース間電圧)もゼロとなっている。
【0047】
〔2〕<スイッチ制御信号Scの“H”レベルへの立ち上げ>
次に、負荷回路53に直流電源E51からの電力を供給して負荷動作状態にしようとするときは、図2(a)に示すように、スイッチ制御信号Scを“L”レベルから“H”レベルに立ち上げる。すると、駆動用のスイッチング素子Q52がターンオンし、高電位側の入力端子T1pに印加されている直流電源E51により、時定数回路51における抵抗素子R51および積分用の容量素子C51から抵抗素子R52、駆動用のスイッチング素子Q52の経路で電流が流れる。抵抗素子R51の抵抗値と積分用の容量素子C51の容量値とで決まる時定数のもとで積分用の容量素子C51に対する充電が開始される。図2(a)に示すように、スイッチ制御信号Scの立ち上がりタイミングから一定時間約13[ms]が経過した時点で接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧がしきい値電圧を超え、それ以降、接続/遮断用のスイッチング素子Q51からの出力電圧および出力電流が緩やかに増加する。増加が緩やかであるため、負荷回路53の容量性負荷C53への突入電流は抑制される。
【0048】
〔3〕<接続/遮断用のスイッチング素子Q51のターンオン>
さらに所定の時間(約5[ms])の経過後に接続/遮断用のスイッチング素子Q51が完全にターンオンし、出力電圧が高電位側の入力端子T1pへの印加電圧のレベル(ここでは約24[V])で安定するとともに、出力電流は突入電流(5.44[A])の後、安定化する。この時点では突入電流の影響は緩和され、負荷回路53における容量性負荷C53と抵抗性負荷R54に対しては正常レベルの電流が安定的に供給される。
【0049】
なお、電流の一部は急速放電用の抵抗素子R54→一方向性通電素子D51→抵抗素子R52→駆動用のスイッチング素子Q52の経路を通って低電位側の入力端子T1nにリターンする。
【0050】
上記の〔2〕および〔3〕の動作説明のように、本発明実施例で追加した急速放電用の抵抗素子R54の存在は、スイッチ装置Aの接続状態への立ち上がり初期における動作には影響を与えることがない。つまり、スイッチ装置Aのターンオン時の応答遅れ時間(約17[ms])は図3に示す第1の従来例のターンオン時の応答遅れ時間(約18[ms])とほぼ同じとなる(その差はいわゆる許容誤差の範囲内である)。また、突入電流に対する抑制効果についても遜色がなく、良好である。
【0051】
〔4〕<スイッチ制御信号Scの“L”レベルへの立ち下げ>
次に、負荷回路53の動作を停止させようとするときは、図2(b)に示すように、スイッチ制御信号Scを“H”レベルから“L”レベルに立ち下げる。すると、駆動用のスイッチング素子Q52がターンオフする。しかし、接続/遮断用のスイッチング素子Q51はすぐにはターンオフしない。それは、積分用の容量素子C51に対して行われた充電によって接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧がしきい値電圧を超える状態を暫時継続するためである。駆動用のスイッチング素子Q52のターンオフによって負極端子が接地ラインL52から切り離された積分用の容量素子C51の充電電荷は、正極端子から負極端子へ向けて放電される。このとき、接続/遮断用のスイッチング素子Q51がいまだ導通状態にあるため、放電電流は導通状態にある接続/遮断用のスイッチング素子Q51→急速放電用の抵抗素子R54→一方向性通電素子D51の経路で流れる。一部の電流は抵抗素子R51を通しても放電されるが、急速放電用の抵抗素子R54があるため、抵抗素子R51のみの放電より速く積分用の容量素子C51の蓄積電荷を放出できる。そしてこれに伴って、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧が急速に降下する。しかし、接続/遮断用のスイッチング素子Q51が導通状態を保つ限りにおいて出力電圧、出力電流はともに“H”レベルに維持される(経過時間45[ms]まで)。この実施例では、抵抗素子R51の抵抗値が6.8[kΩ]であり、急速放電用の抵抗素子R54は10[kΩ]となっている。急速放電用の抵抗素子R54はその抵抗値がスイッチング素子Q51の導通時に消費電力が大きくなり過ぎない程度に設定される。
【0052】
〔5〕<接続/遮断用のスイッチング素子Q51のターンオフ>
制御電圧がしきい値電圧以下となると、接続/遮断用のスイッチング素子Q51がターンオフする。これにより、直流電源E51から高電位側の入力端子T1pを介して流入していた電流が遮断され、負荷回路53への電源供給が停止される。やがて、積分用の容量素子C51の放電が完了する。なお、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の非導通状態は、次にスイッチ制御信号Scが“H”レベルに立ち上がった後、所定のターンオン時の応答遅れ時間が経過するまで保持される。
【0053】
本発明実施例のスイッチ装置Aでは、図3に示す第1の従来例に比べてターンオフ時の応答遅れ時間を相当に短縮することが可能となっている。ちなみに、スイッチ装置Aにおいては、図2(b)に示すようにターンオフ時の応答遅れ時間は約45[ms]であり、これは図4(b)に示す第1の従来例(図3)のターンオフ時の応答遅れ時間約93[ms]に比べて大幅に短縮されている(約48.4%への短縮)。
【0054】
上記の〔4〕の動作状態において、積分用の容量素子C51の充電電荷の急速放電用の抵抗素子R54を介しての放電自体については、一方向性通電素子D51がなくても可能である。しかし、もし一方向性通電素子D51がなければ、接続/遮断用のスイッチング素子Q51が非導通状態となっている〔1〕の動作状態において、高電位側の入力端子T1pから抵抗素子R51→急速放電用の抵抗素子R54の経路で負荷回路53へ流れ込んでしまう。これでは、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の非導通状態に矛盾する。この理由により、一方向性通電素子D51は必要である。
【0055】
急速放電用の抵抗素子R54を接続/遮断用のスイッチング素子Q51の出力側すなわちドレインと高電位側の出力端子T2pとの間の部位において電源供給ラインL51に接続することができるのは、スイッチ制御信号Scを“H”レベルから“L”レベルへ切り替えたときに、接続/遮断用のスイッチング素子Q51は直ちにはターンオフせず、暫時導通状態を継続しているという特性をうまく利用したからである。
【0056】
本発明実施例での対策は、図6に示す複雑な回路構成の時定数回路15をもつ第3の従来例に比べてより簡易な回路構成となっている。また、急速放電用の抵抗素子R54および一方向性通電素子D51を接続/遮断用のスイッチング素子Q51に対して直接的に付加していることから、次のメリットがある。すなわち、図6の接続/遮断用のスイッチング素子TR11から離れた状態で駆動用のスイッチング素子TR12のベース側に時定数回路15を付加するものに比べると、突入電流やターンオフ時の応答遅れ時間のばらつきを抑制するために行う、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧の調整がより容易に行える。
【0057】
また、図3に示す第1の従来例のターンオフ時の応答遅れ時間が長いという問題点を解消することを意図して考えられた図7に示す第4の従来例の場合は、ターンオフ時の応答遅れ時間が約0.8[ms]と大幅に短縮化されている。しかし、そのための追加構成として、急速放電用の抵抗素子R55と急速放電用のスイッチング素子Q53と一方向性通電素子D52の3部品が必要であり、追加部品点数が多いために回路構成の複雑化を招くという問題がある。これに対して本発明実施例の場合の追加構成は、接続/遮断用のスイッチング素子Q51のドレイン‐ゲート間に接続した急速放電用の抵抗素子R54と一方向性通電素子D51の2部品で済んでいて、回路構成の簡易化を図ることができる。
【0058】
ターンオフ時の応答遅れ時間の短縮の効果については、図7に示す第4の従来例の方が優れている(図8(b)参照)。一例を挙げると、回路定数や定格値を上記と同じにして、図3に示す第1の従来例の場合のターンオフ時の応答遅れ時間は図4(b)のように約93[ms](ミリ秒)であるのに対して、図7に示す第4の従来例の場合は図8(b)のように約0.8[ms]であり、本発明実施例の場合は図2(b)のように約45[ms]の計測データがある。第4の従来例(図7図8)によればターンオフ時の応答遅れ時間の大幅な短縮が図られるが、現実的な技術要請はそれほど極端なものでなく、約半分にでも短縮できれば問題のない仕様のスイッチ装置Aにあっては、本発明実施例で充分満足いく結果が得られる。
【0059】
以上をまとめると、本発明実施例によれば、ターンオン時の応答遅れ時間および突入電流抑制作用については図3図4に示す第1の従来例と遜色がなく、ターンオフ時の応答遅れ時間については図3図4に示す第1の従来例に比べて相当な短縮を実現し、それでいて部品点数、回路構成の点では図7に示す第4の従来例に比べて簡易化が実現されている。
【0060】
ところで、図6に示す第3の従来例においては、ターンオフ時の応答遅れ時間短縮のために時定数回路15において積分用の容量素子C13の充電電荷を急速放電するための急速放電用の抵抗素子R16と一方向性通電素子D12が設けられている。しかし、この積分用の容量素子の急速放電のために急速放電用の抵抗素子と一方向性通電素子からなる直列回路の追加対策は、図3に示す第1の従来例の接続/遮断用のスイッチング素子Q51のゲート‐ソース間の積分用の容量素子C51に対しては単純に適用することはできない。以下、この点を図9を用いて説明する。
【0061】
図9に示す比較例のスイッチ装置Fにおいては、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の入力側すなわちソースと高電位側の入力端子T1pとの間の部位において電源供給ラインL51に急速放電用の抵抗素子R56と一方向性通電素子D52の直列回路を積分用の容量素子C51に対して並列に接続している。これは図7に示す第4の従来例の考え方を応用したものとなっている。急速放電用の抵抗素子R56と一方向性通電素子D52の直列回路が積分用の容量素子C51に直接に並列接続されていることから、駆動用のスイッチング素子Q52がターンオンすると直ちに急速放電用の抵抗素子R56と一方向性通電素子D52の直列回路に電流が流れる。抵抗素子R51と急速放電用の抵抗素子R56の並列合成抵抗値は抵抗素子R51単独の抵抗値より小さい。したがって、駆動用のスイッチング素子Q52のターンオフ時の急速放電の作用があり、ターンオフ時の応答遅れ時間の短縮は可能である。しかし、一方で、抵抗素子R51と急速放電用の抵抗素子R56の合成抵抗での電圧降下は小さく、積分用の容量素子C51の両端電圧の立ち上がりひいては接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧の増加が非常に遅いものとなってしまう。その結果として、ターンオン時の応答遅れ時間が大幅に長いものになってしまう。
【0062】
これに対して、本発明実施例では、急速放電用の抵抗素子R54を接続/遮断用のスイッチング素子Q51の出力側(ドレイン側)に接続してあるので、スイッチ装置Aの接続状態への立ち上がり初期において未だ接続/遮断用のスイッチング素子Q51が非導通状態を保持している期間では、急速放電用の抵抗素子R54に電流が流れることはなく、したがって、急速放電用の抵抗素子R54の存在がターンオン時の応答遅れ時間に影響を与えることがない。つまり、本発明実施例のスイッチ装置Aのターンオン時の応答遅れ時間は図3に示す第1の従来例のターンオン時の応答遅れ時間と変わらない。また、突入電流に対する抑制効果についても遜色がない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、直流電源と容量性負荷を含む負荷回路を接続/遮断するためのスイッチ装置において、急速放電用の抵抗素子および一方向性通電素子の直列回路を、接続/遮断用のスイッチング素子の出力側に配置したことにより、突入電流抑制効果と良好な立ち上がり特性の維持とターンオフ時の応答遅れ時間の短縮の効果とを簡易な構成により実現する技術として有用である。
【符号の説明】
【0064】
51 時定数回路
52 駆動制御回路
53 負荷回路
C51 積分用の容量素子
C53 容量性負荷
D51 一方向性通電素子(整流ダイオード)
E51 直流電源
L51 電源供給ライン
L52 接地ライン
Q51 接続/遮断用のスイッチング素子(Pチャネル型のMOS‐FET)
Q52 駆動用のスイッチング素子(NPN型トランジスタ)
R51 抵抗素子
R52 抵抗素子
R53 抵抗性負荷
R54 急速放電用の抵抗素子
Sc スイッチ制御信号
T1p 高電位側の入力端子
T1n 低電位側の入力端子
T2p 高電位側の出力端子
T2n 低電位側の出力端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9