【実施例】
【0038】
以下、
図1、
図2を参照して本発明にかかわるスイッチ装置の実施例を説明する。
【0039】
図1は本発明の実施例におけるスイッチ装置の構成を示す回路図である。まず、構成要素を列挙する。
図1において、Aはスイッチ装置、T1p,T1nはスイッチ装置Aにおける直流電源の第1と第2の入力端子、T2p,T2nはスイッチ装置Aにおける直流電圧の第1と第2の出力端子、Q51は接続/遮断用のスイッチング素子、51は時定数回路、52は駆動制御回路、53は負荷回路、E51はバッテリなどの直流電源である。時定数回路51の構成要素として、C51は積分用の容量素子、R51は抵抗素子、R54は急速放電用の抵抗素子、D51は一方向性通電素子である。一方向性通電素子D51として、ここでは整流ダイオードが用いられている。駆動制御回路52の構成要素として、Q52は駆動用のスイッチング素子、R52はバイアス用であるとともに容量素子C51を充電する電流制限用の抵抗素子である。負荷回路53は、容量性負荷C53と抵抗性負荷R53を含んでいるものとする。接続/遮断用のスイッチング素子Q51として、ここではPチャネル型のMOS‐FETが用いられ、駆動用のスイッチング素子Q52として、ここではNPN型のトランジスタが用いられている。
【0040】
一対の入力端子T1p,T1nは、これに直流電源E51を接続して直流電流を入力するものであり、一対の出力端子T2p,T2nは、これに接続される負荷回路53に対して直流電力を供給するものである。高電位側の入力端子T1pと高電位側の出力端子T2pとが電源供給ラインL51を介して接続されるが、その途中に接続/遮断用のスイッチング素子Q51が挿入されている。低電位側の入力端子T1nと低電位側の出力端子T2nとが接地ラインL52を介して接続されている。
【0041】
駆動制御回路52において、駆動用のスイッチング素子Q52のコレクタに抵抗素子R52の一方端子が接続され、その他方端子が接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御端子であるゲートに接続され、駆動用のスイッチング素子Q52のエミッタは接地ラインL52に接続されている。駆動用のスイッチング素子Q52のベースにはスイッチ制御信号Scが入力されるようになっている。このスイッチ制御信号Scは単純な“H”/“L”切り替え式の信号である。
【0042】
時定数回路51は、積分用の容量素子C51と抵抗素子R51に加えて、さらに急速放電用の抵抗素子R54と一方向性通電素子D51とを有している。すなわち、接続/遮断用のスイッチング素子Q51のゲート‐ソース間に積分用の容量素子C51が接続され、さらに積分用の容量素子C51に抵抗素子R51が並列接続されている。加えて、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の出力側において、そのドレイン‐ゲート間に急速放電用の抵抗素子R54と一方向性通電素子D51の直列回路が接続されている。すなわち、急速放電用の抵抗素子R54の一方端子が接続/遮断用のスイッチング素子Q51のドレインと高電位側の出力端子T2pとに接続され、その他方端子が一方向性通電素子D51のアノードに接続されている。一方向性通電素子D51のカソードは接続/遮断用のスイッチング素子Q51のゲートおよび積分用の容量素子C51の負極端子に接続されている。
【0043】
以上のように、本発明実施例のスイッチ装置Aは、
図3の第1の従来例のスイッチ装置Bに対して、急速放電用の抵抗素子R54と一方向性通電素子D51を接続/遮断用のスイッチング素子Q51の出力側に追加したものに相当している。追加の回路要素は2部品となっている。
【0044】
次に、上記のように構成されたスイッチ装置Aの動作を
図2のタイミングチャート(動作波形図)を参照しながら説明する。
図2(a)は本発明実施例のスイッチ装置Aの立ち上がり特性を示す波形図であり、
図2(b)は立ち下がり特性を示す波形図である。
【0045】
〔1〕<スイッチ制御信号Scの“L”レベル状態>
いま、接続/遮断用のスイッチング素子Q51が非導通状態にあって電源供給ラインL51が遮断されており、負荷回路53に対して直流電源E51からの電力供給が行われていない負荷停止状態にあるとする。このとき、駆動制御回路52においてスイッチ制御信号Scは“L”レベルとなっていて、駆動用のスイッチング素子Q52は非導通状態となっている。
【0046】
本発明実施例で時定数回路51に追加された急速放電用の抵抗素子R54は一方向性通電素子D51のアノードに接続され、そのカソードが抵抗素子R51に接続されているから、抵抗素子R51からは急速放電用の抵抗素子R54に向けては電流は流れない。一方向性通電素子D51が電流の流れを阻止するからである。また、積分用の容量素子C51にも充電は行われていない。すなわち、積分用の容量素子C51の両端電圧はゼロであり、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧(ゲート‐ソース間電圧)もゼロとなっている。
【0047】
〔2〕<スイッチ制御信号Scの“H”レベルへの立ち上げ>
次に、負荷回路53に直流電源E51からの電力を供給して負荷動作状態にしようとするときは、
図2(a)に示すように、スイッチ制御信号Scを“L”レベルから“H”レベルに立ち上げる。すると、駆動用のスイッチング素子Q52がターンオンし、高電位側の入力端子T1pに印加されている直流電源E51により、時定数回路51における抵抗素子R51および積分用の容量素子C51から抵抗素子R52、駆動用のスイッチング素子Q52の経路で電流が流れる。抵抗素子R51の抵抗値と積分用の容量素子C51の容量値とで決まる時定数のもとで積分用の容量素子C51に対する充電が開始される。
図2(a)に示すように、スイッチ制御信号Scの立ち上がりタイミングから一定時間約13[ms]が経過した時点で接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧がしきい値電圧を超え、それ以降、接続/遮断用のスイッチング素子Q51からの出力電圧および出力電流が緩やかに増加する。増加が緩やかであるため、負荷回路53の容量性負荷C53への突入電流は抑制される。
【0048】
〔3〕<接続/遮断用のスイッチング素子Q51のターンオン>
さらに所定の時間(約5[ms])の経過後に接続/遮断用のスイッチング素子Q51が完全にターンオンし、出力電圧が高電位側の入力端子T1pへの印加電圧のレベル(ここでは約24[V])で安定するとともに、出力電流は突入電流(5.44[A])の後、安定化する。この時点では突入電流の影響は緩和され、負荷回路53における容量性負荷C53と抵抗性負荷R54に対しては正常レベルの電流が安定的に供給される。
【0049】
なお、電流の一部は急速放電用の抵抗素子R54→一方向性通電素子D51→抵抗素子R52→駆動用のスイッチング素子Q52の経路を通って低電位側の入力端子T1nにリターンする。
【0050】
上記の〔2〕および〔3〕の動作説明のように、本発明実施例で追加した急速放電用の抵抗素子R54の存在は、スイッチ装置Aの接続状態への立ち上がり初期における動作には影響を与えることがない。つまり、スイッチ装置Aのターンオン時の応答遅れ時間(約17[ms])は
図3に示す第1の従来例のターンオン時の応答遅れ時間(約18[ms])とほぼ同じとなる(その差はいわゆる許容誤差の範囲内である)。また、突入電流に対する抑制効果についても遜色がなく、良好である。
【0051】
〔4〕<スイッチ制御信号Scの“L”レベルへの立ち下げ>
次に、負荷回路53の動作を停止させようとするときは、
図2(b)に示すように、スイッチ制御信号Scを“H”レベルから“L”レベルに立ち下げる。すると、駆動用のスイッチング素子Q52がターンオフする。しかし、接続/遮断用のスイッチング素子Q51はすぐにはターンオフしない。それは、積分用の容量素子C51に対して行われた充電によって接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧がしきい値電圧を超える状態を暫時継続するためである。駆動用のスイッチング素子Q52のターンオフによって負極端子が接地ラインL52から切り離された積分用の容量素子C51の充電電荷は、正極端子から負極端子へ向けて放電される。このとき、接続/遮断用のスイッチング素子Q51がいまだ導通状態にあるため、放電電流は導通状態にある接続/遮断用のスイッチング素子Q51→急速放電用の抵抗素子R54→一方向性通電素子D51の経路で流れる。一部の電流は抵抗素子R51を通しても放電されるが、急速放電用の抵抗素子R54があるため、抵抗素子R51のみの放電より速く積分用の容量素子C51の蓄積電荷を放出できる。そしてこれに伴って、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧が急速に降下する。しかし、接続/遮断用のスイッチング素子Q51が導通状態を保つ限りにおいて出力電圧、出力電流はともに“H”レベルに維持される(経過時間45[ms]まで)。この実施例では、抵抗素子R51の抵抗値が6.8[kΩ]であり、急速放電用の抵抗素子R54は10[kΩ]となっている。急速放電用の抵抗素子R54はその抵抗値がスイッチング素子Q51の導通時に消費電力が大きくなり過ぎない程度に設定される。
【0052】
〔5〕<接続/遮断用のスイッチング素子Q51のターンオフ>
制御電圧がしきい値電圧以下となると、接続/遮断用のスイッチング素子Q51がターンオフする。これにより、直流電源E51から高電位側の入力端子T1pを介して流入していた電流が遮断され、負荷回路53への電源供給が停止される。やがて、積分用の容量素子C51の放電が完了する。なお、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の非導通状態は、次にスイッチ制御信号Scが“H”レベルに立ち上がった後、所定のターンオン時の応答遅れ時間が経過するまで保持される。
【0053】
本発明実施例のスイッチ装置Aでは、
図3に示す第1の従来例に比べてターンオフ時の応答遅れ時間を相当に短縮することが可能となっている。ちなみに、スイッチ装置Aにおいては、
図2(b)に示すようにターンオフ時の応答遅れ時間は約45[ms]であり、これは
図4(b)に示す第1の従来例(
図3)のターンオフ時の応答遅れ時間約93[ms]に比べて大幅に短縮されている(約48.4%への短縮)。
【0054】
上記の〔4〕の動作状態において、積分用の容量素子C51の充電電荷の急速放電用の抵抗素子R54を介しての放電自体については、一方向性通電素子D51がなくても可能である。しかし、もし一方向性通電素子D51がなければ、接続/遮断用のスイッチング素子Q51が非導通状態となっている〔1〕の動作状態において、高電位側の入力端子T1pから抵抗素子R51→急速放電用の抵抗素子R54の経路で負荷回路53へ流れ込んでしまう。これでは、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の非導通状態に矛盾する。この理由により、一方向性通電素子D51は必要である。
【0055】
急速放電用の抵抗素子R54を接続/遮断用のスイッチング素子Q51の出力側すなわちドレインと高電位側の出力端子T2pとの間の部位において電源供給ラインL51に接続することができるのは、スイッチ制御信号Scを“H”レベルから“L”レベルへ切り替えたときに、接続/遮断用のスイッチング素子Q51は直ちにはターンオフせず、暫時導通状態を継続しているという特性をうまく利用したからである。
【0056】
本発明実施例での対策は、
図6に示す複雑な回路構成の時定数回路15をもつ第3の従来例に比べてより簡易な回路構成となっている。また、急速放電用の抵抗素子R54および一方向性通電素子D51を接続/遮断用のスイッチング素子Q51に対して直接的に付加していることから、次のメリットがある。すなわち、
図6の接続/遮断用のスイッチング素子TR11から離れた状態で駆動用のスイッチング素子TR12のベース側に時定数回路15を付加するものに比べると、突入電流やターンオフ時の応答遅れ時間のばらつきを抑制するために行う、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧の調整がより容易に行える。
【0057】
また、
図3に示す第1の従来例のターンオフ時の応答遅れ時間が長いという問題点を解消することを意図して考えられた
図7に示す第4の従来例の場合は、ターンオフ時の応答遅れ時間が約0.8[ms]と大幅に短縮化されている。しかし、そのための追加構成として、急速放電用の抵抗素子R55と急速放電用のスイッチング素子Q53と一方向性通電素子D52の3部品が必要であり、追加部品点数が多いために回路構成の複雑化を招くという問題がある。これに対して本発明実施例の場合の追加構成は、接続/遮断用のスイッチング素子Q51のドレイン‐ゲート間に接続した急速放電用の抵抗素子R54と一方向性通電素子D51の2部品で済んでいて、回路構成の簡易化を図ることができる。
【0058】
ターンオフ時の応答遅れ時間の短縮の効果については、
図7に示す第4の従来例の方が優れている(
図8(b)参照)。一例を挙げると、回路定数や定格値を上記と同じにして、
図3に示す第1の従来例の場合のターンオフ時の応答遅れ時間は
図4(b)のように約93[ms](ミリ秒)であるのに対して、
図7に示す第4の従来例の場合は
図8(b)のように約0.8[ms]であり、本発明実施例の場合は
図2(b)のように約45[ms]の計測データがある。第4の従来例(
図7、
図8)によればターンオフ時の応答遅れ時間の大幅な短縮が図られるが、現実的な技術要請はそれほど極端なものでなく、約半分にでも短縮できれば問題のない仕様のスイッチ装置Aにあっては、本発明実施例で充分満足いく結果が得られる。
【0059】
以上をまとめると、本発明実施例によれば、ターンオン時の応答遅れ時間および突入電流抑制作用については
図3、
図4に示す第1の従来例と遜色がなく、ターンオフ時の応答遅れ時間については
図3、
図4に示す第1の従来例に比べて相当な短縮を実現し、それでいて部品点数、回路構成の点では
図7に示す第4の従来例に比べて簡易化が実現されている。
【0060】
ところで、
図6に示す第3の従来例においては、ターンオフ時の応答遅れ時間短縮のために時定数回路15において積分用の容量素子C13の充電電荷を急速放電するための急速放電用の抵抗素子R16と一方向性通電素子D12が設けられている。しかし、この積分用の容量素子の急速放電のために急速放電用の抵抗素子と一方向性通電素子からなる直列回路の追加対策は、
図3に示す第1の従来例の接続/遮断用のスイッチング素子Q51のゲート‐ソース間の積分用の容量素子C51に対しては単純に適用することはできない。以下、この点を
図9を用いて説明する。
【0061】
図9に示す比較例のスイッチ装置Fにおいては、接続/遮断用のスイッチング素子Q51の入力側すなわちソースと高電位側の入力端子T1pとの間の部位において電源供給ラインL51に急速放電用の抵抗素子R56と一方向性通電素子D52の直列回路を積分用の容量素子C51に対して並列に接続している。これは
図7に示す第4の従来例の考え方を応用したものとなっている。急速放電用の抵抗素子R56と一方向性通電素子D52の直列回路が積分用の容量素子C51に直接に並列接続されていることから、駆動用のスイッチング素子Q52がターンオンすると直ちに急速放電用の抵抗素子R56と一方向性通電素子D52の直列回路に電流が流れる。抵抗素子R51と急速放電用の抵抗素子R56の並列合成抵抗値は抵抗素子R51単独の抵抗値より小さい。したがって、駆動用のスイッチング素子Q52のターンオフ時の急速放電の作用があり、ターンオフ時の応答遅れ時間の短縮は可能である。しかし、一方で、抵抗素子R51と急速放電用の抵抗素子R56の合成抵抗での電圧降下は小さく、積分用の容量素子C51の両端電圧の立ち上がりひいては接続/遮断用のスイッチング素子Q51の制御電圧の増加が非常に遅いものとなってしまう。その結果として、ターンオン時の応答遅れ時間が大幅に長いものになってしまう。
【0062】
これに対して、本発明実施例では、急速放電用の抵抗素子R54を接続/遮断用のスイッチング素子Q51の出力側(ドレイン側)に接続してあるので、スイッチ装置Aの接続状態への立ち上がり初期において未だ接続/遮断用のスイッチング素子Q51が非導通状態を保持している期間では、急速放電用の抵抗素子R54に電流が流れることはなく、したがって、急速放電用の抵抗素子R54の存在がターンオン時の応答遅れ時間に影響を与えることがない。つまり、本発明実施例のスイッチ装置Aのターンオン時の応答遅れ時間は
図3に示す第1の従来例のターンオン時の応答遅れ時間と変わらない。また、突入電流に対する抑制効果についても遜色がない。